特許第6635400号(P6635400)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6635400-半導体装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6635400
(24)【登録日】2019年12月27日
(45)【発行日】2020年1月22日
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/338 20060101AFI20200109BHJP
   H01L 29/778 20060101ALI20200109BHJP
   H01L 29/812 20060101ALI20200109BHJP
   H01L 21/337 20060101ALI20200109BHJP
   H01L 29/808 20060101ALI20200109BHJP
【FI】
   H01L29/80 H
   H01L29/80 C
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-132216(P2015-132216)
(22)【出願日】2015年6月30日
(65)【公開番号】特開2017-17173(P2017-17173A)
(43)【公開日】2017年1月19日
【審査請求日】2018年2月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000106276
【氏名又は名称】サンケン電気株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大野陽平
(72)【発明者】
【氏名】金子修一
【審査官】 杉山 芳弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−056457(JP,A)
【文献】 特開2013−012735(JP,A)
【文献】 特開2011−204717(JP,A)
【文献】 A. Demolliens, Ch. Muller, D. Deleruyelle, S. Spiga, E. Cianci, M. Fanciulli, F. Nardi, C. Cagli, and D. Ielmini ,Reliability of NiO-based resistive switching memory(ReRAM) elements with pillar W bottom electrode,Proc. IMW2009,米国,IEEE,2009年 5月10日,1-3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/338
H01L 29/778
H01L 29/812
H01L 21/336
H01L 29/78
H01L 29/47
H01L 29/872
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の窒化物半導体の電子走行層および第2の窒化物半導体の電子供給層を備える半導体基板と、
前記半導体基板上に形成されたNiO膜と、
前記NiO膜上に直接に接するタングステン、モリブデン、又はこれらのいずれかの化合物の中から少なくとも1つ選択された金属膜のゲート電極と、を含むゲート構造と、
を備える半導体装置。
【請求項2】
窒化物半導体の半導体基板と、
該半導体基板の表面に形成された絶縁膜およびゲート電極と、を備える高電子移動度トランジスタにおいて、
前記ゲート電極は、前記絶縁膜に形成された開口内に配置された第1の部分と、前記開口の外側に形成された前記絶縁膜表面を被覆する第2の部分を有し、前記ゲート電極と前記半導体基板の間に配置されるNiO膜とを備え、
前記ゲート電極の第2の部分は、前記NiO膜よりも前記半導体基板の外周側に延伸しており、
前記ゲート電極は、タングステン、モリブデン、又はこれらのいずれかの化合物からなることを特徴とする半導体装置。
【請求項3】
前記ゲート電極は、タングステン、モリブデン、又はこれらのいずれかの化合物からなる膜の上にTiN膜を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記NiO膜の酸素の組成比は、完全な絶縁膜(酸化膜)を構成する場合の酸素組成比X=1よりも多い状態であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の半導体
装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体を用いた半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体を用いた半導体装置において、キャリア走行層1とキャリア走行層1上に形成されたキャリア供給層2を有し、キャリア供給層2とキャリア走行層1との界面近傍に二次元キャリアガス層が生じている化合物半導体層と、化合物半導体層上に互いに離間して配置され、二次元キャリアガス層とオーミック接続する第1の主電極及び第2の主電極と、第1の主電極と第2の主電極間で、化合物半導体層上に配置されたNiOx膜5Aと、NiOx膜5A上に接するチタン膜又はチタンを含む化合物膜6Aとを含むゲートを備える例が下記特許文献1で開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−204717
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のゲートとして、NiOx膜5A上に直接接する膜としてチタン膜又はチタンを含む化合物膜6Aが開示されている。しかし、チタン膜又はチタンを含む化合物膜6Aは線膨張率が大きく、半導体装置の環境温度が変化した際にNiOx膜8Aとチタン膜又はチタンを含む化合物膜5Aとの間で剥離が生じることがある。また、NiOx膜8A又はチタン膜又はチタンを含む化合物膜5Aに亀裂が生じることがある。その結果、半導体装置の信頼性を低下させる問題がある。また、高温環境下において半導体装置の動作を想定する必要があり、実動作の温度変化に対する半導体装置の信頼性を確保する必要がある。特に、デバイス特性にとって重要なゲート構造において、NiOx膜8A上にTiN膜5Aを直接形成した場合、上記に示すような剥離や亀裂によって大きな信頼性の問題が生じることがあった。
【0005】
そこで、本発明は実動作における温度変化による信頼性が低下することを抑制した半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
本発明の半導体装置は、第1の窒化物半導体の電子走行層および第2の窒化物半導体の電子供給層を備える半導体基板と、半導体基板上に酸素を含む金属膜と、酸素を含む金属膜上に直接に接するタングステン、モリブデン、又はこれらのいずれかの化合物の中から少なくとも1つ選択された金属膜と、を含むゲート構造と、を備える。
また、本発明の別の半導体装置は、窒化物半導体の半導体基板と、半導体基板の表面に形成された絶縁膜およびゲート電極と、を備える高電子移動度トランジスタにおいて、 ゲート電極は、絶縁膜に形成された開口内に配置された第1の部分と、絶縁膜の表面に配置された第2の部分とを有し、絶縁膜の開口側の表面は、酸素を含む金属膜を介してタングステン、モリブデン、又はこれらのいずれかの化合物からなるゲート電極により被覆されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、酸素を含む金属膜上に線膨張係数の小さいタングステン、モリブデン、又はこれらのいずれかの化合物からなるゲート電極を設けることによって、半導体装置の環境温度が変化した際における酸素を含む金属膜やゲート電極に与えるストレスが小さくなる。それにより酸素を含む金属膜とその上のタングステン、モリブデン、又はこれらのいずれかの化合物との乖離や亀裂などを防ぐことができ、半導体装置の信頼性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態のHEMTのゲート電極部分の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態となる構造について説明する。
【実施例1】
【0010】
図1は本発明の一実施の形態に係る高電子移動度トランジスタ(HEMT)のゲート電極部分の断面図である。本発明はゲート電極部分に特徴があるため、その他の部分の説明は省略する。
本実施形態の半導体装置(半導体素子)では、第1の窒化物半導体材料(例えばGaN)からなる電子走行層1上に、第1の窒化物半導体材料とは異なる格子定数を有する第2の窒化物半導体材料(例えばAlGaN)からなる電子供給層2と、第2の窒化物半導体材料とは格子定数の異なる第3の窒化物半導体材料(例えばGaN)からなるキャップ層3が順次積層されている。本願明細書では、便宜上、この電子走行層1と電子供給層2とキャップ層3とを合わせて半導体基板と総称する。
【0011】
半導体基板の表面には、絶縁膜としての酸化膜4と、酸素を含む金属膜5と、タングステンからなる金属膜とTiNからなる金属膜とを順次積層してなるゲート電極6とが形成されている。また、図1では図示を省略しているが、図面に向かって右側の半導体基板の表面上にはドレイン電極が配置されており、図面に向かって左側の半導体基板の表面上にはソース電極が配置されている。
【0012】
酸化膜4はシリコン酸化物からなり、その一部には図示のように開口(ゲート開口)が設けられている。このゲート開口からは、窒化物半導体の半導体基板の表面が露出している。本実施形態の半導体装置(半導体素子)では、平面視において、ゲート開口の内側の半導体基板表面に凹部(リセス部)が形成されている。凹部(リセス部)はキャップ層3よりも深く形成されているため、本実施形態の半導体装置では、ゲート開口を通じての電子供給層2の表面が露出している。
【0013】
酸素を含む金属膜5は、ゲート開口の内側に形成された第1の部分と、ゲート開口の外側に形成され酸化膜4の表面を被覆する第2の部分とを有する。
酸素を含む金属膜5の第1の部分は、その厚みが150〜300nmであり、図示のように、その中央側はリセス部の底面と側面に形成されており、その外周側はゲート開口を構成する酸化膜4の側面を被覆している。
すなわち、酸素を含む金属膜5の第1の部分は、リセス部の底面に露出した電子供給層2の表面と、リセス部の側面に露出した電子供給層2の表面とキャップ層3の表面、リセス部の外側に露出した半導体基板の表面、およびゲート開口の側面(酸化膜4の側面)を被覆している。
【0014】
酸素を含む金属膜5の第2の部分は、第1の部分に連続して形成され、半導体基板の外周側に向かって延伸してゲート開口の外側の酸化膜4の表面を被覆する。ここで、図1では1つのゲート電極6しか記載されていないが、本発明を半導体基板に複数のゲート電極6を備える複数のセルに適応する場合、便宜上、半導体基板の外周は各セルの外周の意味であることは言うまでも無い。
【0015】
ゲート電極6は、ゲート開口の内側に形成された第1の部分と、ゲート開口の外側に形成された第2の部分とを有する。
ゲート電極6の第1の部分は、タングステンからなる金属膜が酸素を含む金属膜5に直接接触している。タングステンからなる金属膜は酸素を含む金属膜5よりも薄く形成されており、その厚みは50−150nmである。タングステンからなる金属膜上には、タングステンからなる金属膜よりも厚く形成されたTiNからなる金属膜が形成されている。ゲート電極6は、タングステンからなる金属膜とTiNからなる金属膜の積層体で構成される。
図示のように、ゲート電極6の中央側はリセス部の底面と側面に形成されており、その外周側はゲート開口を構成する酸化膜4の側面を被覆している。すなわち、ゲート電極6の第1の部分は、リセス部の底面に露出した電子供給層2の表面と、リセス部の側面に露出した電子供給層2の表面とキャップ層3の表面、リセス部の外側に露出した半導体基板の表面、およびゲート開口の側面(酸化膜4の側面)に酸素を含む金属膜5を介して被覆している。
【0016】
ゲート電極6の第2の部分は、タングステンからなる金属膜とTiNからなる金属膜とを順次積層してなり、第1の部分に連続して形成され、半導体基板の外周側に向かって延伸してゲート開口の外側の酸化膜4の表面を被覆する。ここで、ゲート電極6の第2の部分のうちドレイン電極に向かって延伸する部分は、酸素を含む金属膜5の第2の部分よりもドレイン電極側、すなわち半導体基板の外周側まで延伸している。つまり、ゲート電極6の第2の部分のうちドレイン電極に向かって延伸する部分の端部は、酸素を含む金属膜5の第2の部分のうちドレイン電極に向かって延伸する部分の端部よりも、ドレイン電極側、すなわち半導体基板の外周側まで延伸している。
【0017】
ゲート電極6の第2の部分のうちドレイン電極に向かって延伸する部分は、リセス部側では酸素を含む金属膜5の第2の部分の表面を被覆しており、半導体基板の外周側では酸化膜4の表面を被覆している。つまり、リセス部側の酸化膜4上では、酸化膜4とゲート電極6との間に酸素を含む金属膜5が介在しているが、半導体基板の外周側の酸化膜4上では、酸化膜4とゲート電極6とが直接接触している。このように、酸化膜4の表面が、半導体基板の外周側ではゲート電極6に接触し、リセス部側では、金属膜よりも導電率が低いが酸化膜4よりも導電率が高い酸素を含む金属膜に接触していることで、段階的に緩やかな電界緩和効果が得られ、コラプス現象の抑制効果が良好に発揮される。さらに、本出願人が確認したところによれば、酸素を含む金属膜5をNiO膜とした場合、特に良好にゲートリークの低減、コラプス現象の抑制されることがわかっている。なお、この場合でも、NiOの導電率はゲート電極6の導電率よりも低く、酸化膜4の導電率よりも高くする。すなわち、NiO膜の酸素の組成比は、完全な絶縁膜(酸化膜)を構成する場合の酸素組成比X=1よりも多い状態、すなわち酸素過剰の状態とすべきである。また、酸素を含む金属膜5は、p型導電型の性質を備える金属酸化物膜とするのが良い。
【0018】
なお、酸素を含む金属膜5については、その第1の部分を酸素プアの金属膜、すなわち実質的に絶縁膜としても良い。
【0019】
酸素を含む金属膜5としてNiO膜を用いた場合、NiO膜の線膨張係数は約32×10-6[m/m・K]であり、窒化物半導体であるGaNの線膨張係数4.4×10-6[m/m・K]より大きい。NiO膜の上にTiN膜を直接形成した場合、TiN膜の線膨張係数は7.75×10-6[m/m・K]と比較的大きいので、酸素を含む金属膜8又はTiN膜に亀裂が生じ、信頼性を低下させる問題がある。そこで、NiO膜上に直接タングステン等の高い線膨張係数を備える膜を設けることにより、NiO膜の膨張や体積変化を抑制し、酸素を含む金属膜5又はその上のタングステン膜に亀裂が生じることを抑制し、信頼性の高い半導体装置を提供することができる。
特に、タングステンの線膨張係数は4.2×10-6[m/m・K]はGaNの線膨張係数と近い。窒化物系化合物半導体と比較的線膨張係数の近いタングステン膜との間に酸素を含む金属膜5を直接挟むことによって、酸素を含む金属膜5に亀裂が生じることを抑制し、信頼性の高い半導体装置を提供することができる。
また、窒化物半導体を用いたHEMTは、電子供給層2を構成する窒化物半導体と電子走行層1を構成する窒化物半導体のピエゾ分極と、電子走行層1及び電子供給層2を構成する窒化物半導体の自発分極とによって、電子供給層2と電子走行層1との界面近傍に2次元電子ガスを生じさせる。ゲート電極としてタングステンの金属膜を設けることによって、ゲート下及びその近傍における電子供給層2へ働く力を抑制することができる。その結果、環境温度が変化した際に、ゲート下及びその近傍における2次元電子ガスの変化を抑制することができる。
【0020】
また、ゲート電極6の第2の部分において酸素を含む金属膜5の第2の部分と接触する部分にタングステンを設けることによって、酸素を含む金属膜5の第2の部分に亀裂が生じることを抑制し、信頼性の高い半導体装置を提供することができる。更に、酸化膜4の線膨張係数は0.51×10-6[m/m・K]と小さい。酸化膜4と、比較的線膨張係数の小さいタングステン膜との間に酸素を含む金属膜5を直接挟むことによって、酸素を含む金属膜5に亀裂が生じることを抑制し、信頼性の高い半導体装置を提供することができる。
【0021】
本実施例において酸素を含む金属膜5上に直接接触する金属膜として、タングステンを例に記載したが、タングステンの代わりに窒化タングステン等のタングステン化合物、線膨張係数が5.2×10-6[m/m・K]のモリブデンなどの線膨張係数の小さい高融点材料を用いても良い。また、タングステンの上にモリブデンを積層するなど、上記金属又は化合物の積層体としても良い。
【0022】
なお、ゲート電極6のうち第2の部分はいわゆるゲートフィールドプレートとして機能する部分であるが、本発明では、ドレイン電極とソース電極間の電流を制御するゲート部として機能する第1の部分と合わせてゲート電極と総称する。 更に、本出願人が確認したところ、ゲート開口の端部から酸素を含む金属膜5の端部までの距離をa、酸素を含む金属膜5の端部からゲート電極6の端部までの距離をbとした場合、HEMTのゲートリーク低減とコラプス現象の抑制の為には、0μm<a<2.0μm、0μm<b<2.0μmであることが望ましく、b/aを1から120の範囲で設定することが望ましいことが分かった。
【0023】
また、ゲート電極6の第2の部分の下側において、酸化膜4の厚みを変化させることで段階的に緩やかに電界緩和効果を得ることができる。特に、酸化膜4の厚みを半導体基板の外周側に向けて薄くなるように、その厚みを段階的にあるいは連続的に反化させると、本願発明の作用効果と相まって、更に緩やかな電界緩和効果を得ることができる。
【0024】
図1の本発明の一実施の形態のHEMTにおいて、GaNキャップ層3を設けない構造としても良い。また、半導体基板に凹部(リセス部)を設けていない構造としても良い。また、本発明は、ノーマリオン型、ノーマリオフ型のいずれのHEMTにも適用できる。また、酸素を含む金属膜の表面をタングステンによって被覆すると、金属膜中の酸素が製造工程の過程、あるいは経年的なデバイスの使用によって変化することが良好に防止され、高い信頼性が得られる。
【符号の説明】
【0025】
1、電子走行層
2、電子供給層
3、GaNキャップ層
4、酸化膜
5、酸素を含む金属膜
6、ゲート電極
図1