特許第6635551号(P6635551)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6635551
(24)【登録日】2019年12月27日
(45)【発行日】2020年1月29日
(54)【発明の名称】ショベル系建設機械
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/08 20060101AFI20200120BHJP
   B62D 25/20 20060101ALI20200120BHJP
【FI】
   E02F9/08 Z
   B62D25/20 A
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-100214(P2016-100214)
(22)【出願日】2016年5月19日
(65)【公開番号】特開2017-206880(P2017-206880A)
(43)【公開日】2017年11月24日
【審査請求日】2019年3月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】505236469
【氏名又は名称】キャタピラー エス エー アール エル
(74)【代理人】
【識別番号】100085394
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】恒吉 剛
(72)【発明者】
【氏名】岩本 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】中村 剛之
(72)【発明者】
【氏名】中井 暁人
(72)【発明者】
【氏名】中山 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】ダルメシュ クマル
(72)【発明者】
【氏名】安達 晃一
【審査官】 苗村 康造
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−162911(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/026233(WO,A1)
【文献】 特開2011−74661(JP,A)
【文献】 特開2010−196408(JP,A)
【文献】 特許第3441936(JP,B2)
【文献】 特許第5798097(JP,B2)
【文献】 特開2008−184820(JP,A)
【文献】 米国特許第5984036(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/00〜 9/28
B62D 17/00〜 29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部走行体に旋回ベアリングを介して上部旋回体を旋回自在に支持せしめるともに、上部旋回体の旋回フレームを構成する底面板に、前記旋回ベアリングと、該旋回ベアリングの旋回中心に配されて上部旋回体と下部走行体との間の作動油給排を行うセンタジョイントと、該センタジョイントの後側に配されて旋回ベアリングを駆動せしめる旋回モータ装置とを取付けてなるショベル系建設機械において、前記底面板は、旋回モータ装置取付部が設けられる中央分割底面板と、該中央分割底面板の前側に位置し、センタジョイント取付部が設けられる前側分割底面板と、中央分割底面板の後側に位置する後側分割底面板とに分割され、これら分割された前側、中央、後側の分割底面板同士を一体的に溶着することで形成されるとともに、旋回モータ装置取付部が設けられる中央分割底面板の板厚を、前側分割底面板および後側分割底面板の板厚よりも厚く設定したことを特徴とするショベル系建設機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル等のショベル系建設機械の技術分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、油圧ショベル等のショベル系建設機械は、下部走行体の上方に旋回ベアリングを介して上部旋回体が旋回自在に支持されているが、該上部旋回体のベースとなる旋回フレームは、旋回ベアリングが取付けられる底面板や、該底面板から立設され、上部旋回体に装着される作業装置を支持する左右一対の縦フレーム(縦板)等を備えて構成されている。
前記旋回フレームの底面板には、旋回ベアリングが取付けられとともに、上部旋回体と下部走行体との間で作動油の給排を行うセンタジョイントや、旋回ベアリングを駆動せしめるための旋回モータ装置が取付けられるが、該底面板の旋回モータ装置取付部は、旋回時に大きな応力が集中する箇所であり、このため、従前から、底面板の上面に補強板を重ねて溶接したダブリング構造にして補強している。この場合、補強板に旋回モータ装置取付用の座面が形成される、つまり補強板が旋回モータ装置取付用の座板となるが、従来、補強板(旋回モータ装置取付用の座板)を左右方向に延設し、該延設した補強板の左右端部を、底面板に立設される左右一対の縦板の内側面に溶着するようにした技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
また、旋回モータ装置がセンタジョイントよりも前側に設けられている建設機械において、底面板の旋回モータ装置取付部をセンタジョイント取付部よりも板厚が厚い厚肉部にし、該厚肉部の左右両端部を左右の縦板に溶着するようにした技術も知られている(例えば、特許文献2参照。)。このものでは、旋回モータ装置取付部の板厚を有した鋼板材を、旋回モータ装置取付部以外の部分をフライス加工等により肉削ぎして薄肉にすることにより、旋回モータ装置取付部を厚肉部にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3441936号公報
【特許文献2】特許第5798097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、旋回フレームの底面板の旋回モータ装置取付部を、前述したように底面板の上面に補強板を重ねて溶接するダブリング構造にした場合、補強板の周囲は溶着されていても、補強板と底面板との当接面は溶着されていないため、溶接歪等で補強板と底面板との間に隙間ができてしまうことがある。特に、特許文献1のように、補強板の左右端部を左右の縦板の内側面に溶着するようにした場合には、左右の縦板の溶接歪も相乗して、補強板と底面板との間に隙間ができやすくなるが、補強板と底面板との間に隙間があると、旋回時に補強板、底面板にかかる荷重が隙間を広げるように作用し、これにより補強板の周囲の溶接部に亀裂が発生してモータ装置取付部の強度が損なわれてしまうという問題がある。
尚、補強板には旋回モータ装置取付用のボルトが補強板の上側から締結され、また、底面板には旋回ベアリング取付用のボルトが底面板の下側から締結されるが、これらのボルトは、補強板と底面板とに亘るように設けられると折れたり緩んだりする惧れがあるため、旋回モータ装置取付用ボルトは補強板のみに締結され、また、旋回ベアリング取付用ボルトは底面板のみに締結されるようになっており、これらボルトによる補強板と底面板との固定強化は難しいという実情がある。
一方、特許文献2のように、旋回モータ装置取付部の板厚を厚くすることで補強するようにした場合には、前述した特許文献1のような問題は生じないが、このものは、旋回モータ装置取付部の板厚を厚くするために、旋回モータ装置取付部以外の部分をフライス加工等により肉削ぎして薄肉にしているため、加工に手間がかかるうえ、材料の歩留まりが悪く、コストアップの要因になるという問題があり、これらに本発明の解決すべき課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、請求項1の発明は、下部走行体に旋回ベアリングを介して上部旋回体を旋回自在に支持せしめるともに、上部旋回体の旋回フレームを構成する底面板に、前記旋回ベアリングと、該旋回ベアリングの旋回中心に配されて上部旋回体と下部走行体との間の作動油給排を行うセンタジョイントと、該センタジョイントの後側に配されて旋回ベアリングを駆動せしめる旋回モータ装置とを取付けてなるショベル系建設機械において、前記底面板は、旋回モータ装置取付部が設けられる中央分割底面板と、該中央分割底面板の前側に位置し、センタジョイント取付部が設けられる前側分割底面板と、中央分割底面板の後側に位置する後側分割底面板とに分割され、これら分割された前側、中央、後側の分割底面板同士を一体的に溶着することで形成されるとともに、旋回モータ装置取付部が設けられる中央分割底面板の板厚を、前側分割底面板および後側分割底面板の板厚よりも厚く設定したことを特徴とするショベル系建設機械である
【発明の効果】
【0006】
請求項1の発明とすることにより、底面板の旋回モータ取付部の強度を高めることができるとともに、底面板全体の重量増加を抑えることができ、しかも、底面板の材料の歩留まりが悪化してしまうことなく、コストの抑制に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】油圧ショベルの側面図である。
図2】旋回フレームの平面図である。
図3】(A)は底面板の平面図、(B)は(A)のA−A断面図、(C)は(A)のB−B断面図である。
図4】旋回ベアリング、センタジョイント、旋回モータ装置を取付けた状態の図2のA−A断面図である。
図5】(A)は第二の実施の形態を示す底面板の平面図、(B)は(A)のA−A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。図において、1はショベル系建設機械の一例である油圧ショベルであって、該油圧ショベル1は、クローラ式の下部走行体2の上方に旋回ベアリング3を介して上部旋回体4が旋回自在に支持されているとともに、上部旋回体4の前部には掘削等の各種作業を行う作業装置5が装着され、また、上部旋回体4の後部には作業時における機体バランスをとるためのカウンタウエイト6が装着されている。
【0009】
7は前記上部旋回体4のベースとなる旋回フレームであって、該旋回フレーム7は、左右方向中央部を形成するセンターフレーム7Sと、該センターフレーム7Sの左右外側に設けられる左右のサイドフレーム7L、7Rとから構成されており、さらにセンターフレーム7Sは、前記旋回ベアリング3が取付けられる底面板8と、該底面板8に立設される左右一対の縦フレーム9L、9Rとを備えて構成されている。該左右の一対の縦フレーム9L、9Rは、前後方向に延び、その前部には作業装置5の基端部を支持するための作業装置支持部9La、9Raが形成されている。
【0010】
ここで、前記旋回ベアリング3は、前述した旋回フレーム7の底面板8の下面にボルト10を用いて取付けられるアウターレース3aと、下部走行体2にボルト(図示せず)を用いて取付けられるインナーレース3bと、これらアウターレース3a、インナーレース3b間に介装される複数のボール3cとから構成されているとともに、インナーレース3bの内周には、後述する旋回モータ装置11のピニオン11aが歯合する内歯ギア3dが形成されている。
【0011】
一方、12は旋回ベアリング3の旋回中心位置に配されるセンタジョイントであって、該センタジョイント12は、その下半側が底面板8に開設のセンタジョイント用貫通孔8aから下方に突出する状態で、底面板8に設けられたセンタジョイント取付部8bにボルト13を用いて取付けられている。そして、このセンタジョイント12を経由して、上部旋回体4と下部走行体2との間で作動油の給排が行われるようになっている。
【0012】
さらに、前記旋回モータ装置11は、旋回ベアリング3を駆動せしめるための減速機付きモータであって、該旋回モータ装置11は、前記センタジョイント12の後側に位置する状態で、底面板8に設けられた旋回モータ装置取付部8cにボルト14を用いて取付けられている。そして、該旋回モータ装置11の出力軸に連結されたピニオン11aは、旋回モータ装置取付部8cに開設の旋回モータ装置用貫通孔8dを貫通して、前述した旋回ベアリング3の内歯ギア3dに歯合しており、これにより、旋回モータ装置11の正逆駆動に基づいて上部旋回体4を下部走行体2に対して旋回せしめることができるようになっている。尚、本実施の形態では、旋回モータ装置として、左右二台の旋回モータ装置11が左右に隣接する状態で設けられている。
【0013】
ここで、前記底面板8は、旋回モータ装置取付部8cが設けられる中央分割底面板8Xと、該中央分割底面板8Xの前側に位置し、センタジョイント取付部8bが設けられる前側分割底面板8Yと、中央分割底面板8Xの後側に位置する後側分割底面板8Zとの三つに前後方向に分割されており、これら分割底面板8X、8Y、8Z同士を溶着して一体化することにより形成されている。この場合に、中央分割底面板8Xの板厚(D1)は、旋回時に旋回モータ装置取付部8cに作用する応力に対応できる強度を有するように、前側および後側分割底面板8Y、8Zの板厚(D2、D3)よりも厚く(D1>D2、D1>D3)設定されており、これにより、旋回モータ装置取付部8cの強度を確保できる一方で、底面板8全体の重量増加を抑制できるようになっている。
尚、前記分割底面板8X、8Y、8Z同士は、下面が面一状となる状態で溶着されるとともに、これら分割底面板8X、8Y、8Z同士を溶着することにより形成された底面板8の下面が旋回ベアリング3(アウターインナー3a)の取付座面となるが、該旋回ベアリング3の取付座面は、溶接後に機械加工等により平面度が確保されるようになっている。また、前側および後側分割底面板8Y、8Zの板厚(D2、D3)は、それぞれが必要な強度を確保できる板厚に設定され、本実施の形態では、前側分割底面板8Yの板厚(D2)の方が後側分割底面板8Zの板厚(D3)よりも少し厚く設定されているが、等しい板厚にすることもできる。さらに、本実施の形態において、中央分割底面板8Xの前縁部の形状は、旋回モータ装置取付部8cの取付座面の前縁部形状に沿う曲線となるように形成されており、これに対応して前側分割底面部8Yの後縁部の形状も曲線に形成されている。また、図中、15は左右の縦フレーム9L、9R間を連結して補強する連結板であって、該連結板15は、中央分割底面板8Xに立設されている。
【0014】
叙述の如く構成された本形態において、上部旋回体4の旋回フレーム7を構成する底面板8には、旋回ベアリング3と、該旋回ベアリング3の旋回中心に配されて上部旋回体4と下部走行体2との間の作動油給排を行うセンタジョイント12と、該センタジョイント12の後側に配されて旋回ベアリング3を駆動せしめる旋回モータ装置11とが取付けられているが、該底面板8は、旋回モータ装置取付部8cが設けられる中央分割底面板8Xと、該中央分割底面板8Xの前側に位置し、センタジョイント取付部8bが設けられる前側分割底面板8Yと、中央分割底面板8Xの後側に位置する後側分割底面板8Zとに分割され、これら分割された中央、前側、後側の分割底面板8X、8Y、8Z同士を一体的に溶着することで形成されるとともに、旋回モータ装置取付部8cが設けられる中央分割底面板8Xの板厚は、前側分割底面板8Yおよび後側分割底面板8Zの板厚よりも厚く設定されている。
【0015】
このように本発明が実施されたものにおいては、旋回モータ装置取付部8cが設けられる中央分割底面板8Xの板厚を厚くすることで、旋回モータ装置取付用の補強板を設けなくても、旋回時に大きな応力が集中する旋回モータ装置取付部8cの強度を高めることができる一方で、中央分割底面板8Xの前後に位置する前側および後側分割底面板8Y、8Zの板厚を中央分割底面板8Xよりも薄くすることで、底面板8全体の重量増加を抑えることができることになるが、このものでは、旋回モータ装置取付部8cの板厚を厚くするにあたり、底面板8を前側、中央、後側の三つの分割底面板8Y、8X、8Zに分割し、これら分割底面板8Y、8X、8Z同士を溶着により一体化して底面板8を形成するとともに、旋回モータ装置取付部8cが設けられる中央分割底面板8Xの板厚を、中央分割底面板8Xよりも前側に位置し、センタジョイン取付部8bが設けられる前側分割底面板8Yの板厚、および中央分割底面板8Xの後側に位置する後側分割底面板8Zの板厚よりも厚くしている。よって、底面板の材料となる鋼板材をフライス加工等により肉削ぎして薄肉部と厚肉部とを形成することで旋回モータ装置取付部の板厚を厚くする場合のように、加工に手間がかかったり材料の歩留まりが悪化してしまうことなく、旋回モータ装置取付部8cの板厚を厚くすることができて、コストの抑制に貢献できる。
【0016】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されないことは勿論であって、上記実施の形態では、中央分割底面板8Xの前縁部の形状は、旋回モータ装置取付部8cの取付座面の前縁部形状に沿う曲線になっているが、図5に示す第二の実施の形態の底面板の如く、中央分割底面板8Xの前縁部を直線状に形成しても良い。また、上記実施の形態では、左右二台の旋回モータ装置が設けられているが、旋回モータ装置が一台だけ設けられている場合にも本発明を実施できることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明は、油圧ショベル等のショベル系建設機械において、旋回フレームを構成する底面板に旋回モータ装置取付部を設ける場合に利用することができる。
【符号の説明】
【0018】
1 油圧ショベル
2 下部走行体
3 旋回ベアリング
4 上部旋回体
7 旋回フレーム
8 底面板
8X 中央分割底面板
8Y 前側分割底面板
8Z 後側分割底面板
8b センタジョイント取付部
8c 旋回モータ装置取付部
11 旋回モータ装置
12 センタジョイント
図1
図2
図3
図4
図5