(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
電力供給事業者から送られる電力需要抑制指令に基づき、複数の需要家に設けられた需要家電力管理システムに対して、電力需要抑制指令量を配分し、当該需要家電力管理システムに、前記電力需要抑制指令量に応じて前記各需要家に設けられた電気機器の電力管理を実行させる、アグリゲータシステムであって、
それぞれの前記需要家電力管理システムから、順次所定の時間間隔で、前記電気機器の電力需要に関連する状態パラメータを取得するデータベースと、
前記状態パラメータと、所定のモデル式に基づいて、前記需要家電力管理システムに対する第1電力需要抑制可能量を算出する第1電力需要抑制可能量推定部と、
前記第1電力需要抑制可能量に基づいて求められた前記電力需要抑制指令量を前記需要家電力管理システムが受信した受信時点における前記状態パラメータである指令時状態パラメータとの乖離の有無を判定するための比較対象として、前記第1電力需要抑制可能量の算出に用いられた前記状態パラメータである算出基準状態パラメータを、前記電力需要抑制指令量とともに、前記需要家電力管理システムに送信する送信部と、
を備える、アグリゲータシステム。
電力供給事業者から送られる電力需要抑制指令に基づいてアグリゲータシステムにより配分される電力需要抑制指令量に応じて、電気機器の電力管理を行う、需要家電力管理システムであって、
前記需要家電力管理システムから所定の時間間隔で取得された前記電気機器の電力需要に関連する状態パラメータと、所定のモデル式とに基づいて算出された、前記需要家電力管理システムに対する第1電力需要抑制可能量に基づいて求められた前記電力需要抑制指令量と、前記第1電力需要抑制可能量の算出に用いられた前記状態パラメータである算出基準状態パラメータを、前記アグリゲータシステムから受信する受信部と、
前記算出基準状態パラメータと、前記電力需要抑制指令量の受信時点における前記状態パラメータである指令時状態パラメータとを比較して乖離の有無を判定する比較部と、
を備える、需要家電力管理システム。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<全体構成>
図1に、本実施形態に係る電力需要抑制システムを含む、電力系統図を例示する。本実施形態に係る電力需要抑制システムは、アグリゲータシステム10及び需要家電力管理システム12を備える。なお、
図1では図示を簡略化するために、需要家電力管理システム12A,12Bの2者のみ示しているが、この形態に限らない。例えばアグリゲータシステム10は、数十件から数百件程度の需要家電力管理システム12を配下(配分先)に持つ。
【0023】
アグリゲータシステム10は、電力会社等の電力供給事業者14と複数の需要家の間に入り、電力需要抑制指令量(DR指令量)を調整する。アグリゲータシステム10は、需要家を集約(aggregate)し、各需要家の電力需要抑制可能量(余力、DR可能量)の総和をもとに、電力供給事業者14からの電力需要抑制指令に応じる。例えば後述するように、電力供給事業者14からの電力需要抑制指令量(DR指令量)を、各需要家のDR可能量を超えない範囲で、各需要家(需要家電力管理システム12)に配分する。
【0024】
後述するように、アグリゲータシステム10は、DR指令量の配分の際に、DR指令量(電力需要抑制指令量)と併せて、DR可能量の算出基準となった状態ベクトル(状態パラメータ)と、モデル行列(モデル式)とを各需要家電力管理システムに送信する。
【0025】
アグリゲータシステム10は、例えばエネルギー利用情報管理運営者に設けられる。すなわち、例えばビル等の建築設備の監視制御システムであるBEMS(Building and Energy Management System)を、複数の建築設備に亘って集中的に管理するエネルギー支援サービスを提供する企業等に、アグリゲータシステム10が設けられる。
【0026】
需要家電力管理システム12は、ビル等の各需要家に設けられ、アグリゲータシステム10から配分されたDR指令量に応じて、当該需要家電力管理システム12が設けられた需要家(ビル)における、電気機器56の電力管理を行う。需要家電力管理システム12は、例えば上述したBEMSから構成される。
【0027】
後述するように、需要家電力管理システム12は、アグリゲータシステム10から受信した状態ベクトル(状態ベクトル(DB)、算出基準状態パラメータ)と、その受信時に需要家電力管理システム12が配下のセンサ58等から取得した状態ベクトル(状態ベクトル(BEMS)、指令時状態パラメータ)とを比較し、両者に乖離があるか否かを判定する。乖離がある場合、需要家電力管理システム12は、乖離のあったパラメータやその差分等をアグリゲータシステム10に報告する。アグリゲータシステム10は、この乖離に基づいてモデル行列や状態ベクトルの推定(学習アルゴリズム等)を調整する。その結果、DR可能量の推定精度が向上する。
【0028】
<アグリゲータシステムの詳細>
アグリゲータシステム10は、電力供給事業者14や各需要家電力管理システム12との間でデマンドレスポンスに関する情報通信を可能とする。例えばアグリゲータシステム10は、デマンドレスポンスのプロトコルであるOpenADRに準拠し、インターネット等のネットワークを介して、電力供給事業者14や各需要家電力管理システム12と通信可能となっている。
【0029】
アグリゲータシステム10は、例えば計算機システム(コンピュータ)から構成される。
図1のハード構成図に例示されるように、アグリゲータシステム10は、CPU16(Central Processing Unit)、メモリ18、ハードディスクドライブ20(HDD)、入力部22、出力部24、及び入出力インターフェース26を備え、これらの機器がシステムバスを介してそれぞれ接続される。
【0030】
入力部22はマウスやキーボード等の入力手段から構成される。また出力部24はディスプレイ等の表示装置やプリンタ等の印刷装置を含んで構成される。ハードディスクドライブ20は、後述するDR指令量配分フローを実行するためのプログラムが記憶された記憶媒体である。当該プログラムがCPU16によって実行されることで、アグリゲータシステム10を構成するコンピュータは、
図2に例示する各機能部として機能する。なお、DR指令量配分フローを実行するためのプログラムを記憶させたCDやDVD等の記憶媒体をCPU16に読み込ませて、アグリゲータシステム10を構成するコンピュータを、
図2に例示する各機能部として機能させてもよい。
【0031】
アグリゲータシステム10の機能部は、DR指令受信部28、指令配分部30、指令送信部32、データ送受信部34、実績データベース36、DR可能量モデル学習部38、状態ベクトルデータベース40、モデル行列データベース42、外部情報収集部44、及びDR可能量推定部46(第1電力需要抑制可能量推定部)を含んで構成される。これらの機能部は、仮想的にあるいは説明を容易にするために便宜的にそれぞれ独立して図示されている。例えばCPU16やメモリ18、ハードディスクドライブ20のリソースを適宜割り当ててそれぞれの機能部が構成される。
【0032】
データ送受信部34は、需要家電力管理システム12から各種情報を受信する。具体的には、需要家電力管理システム12の配下にあるセンサやスケジューラ等から取得した消費電力や施設の利用状況等、需要家電力管理システム12の配下にある電気機器の電力需要に関連する状態ベクトル(状態パラメータ)を受信する。
【0033】
なお、以降、状態ベクトルデータベース40や実績データベース36に格納された状態ベクトル(状態パラメータ)と、需要家電力管理システム12が、その配下にあるセンサやスケジューラ等から取得した状態ベクトル(状態パラメータ)を、適宜以下のように区別して表記する。すなわち、需要家電力管理システム12が、その配下にあるセンサやスケジューラ等から取得した状態ベクトルを状態ベクトル(BEMS)で示す。また、そこから一旦実績データベース36や状態ベクトルデータベース40に格納された状態ベクトルを状態ベクトル(DB)で示す。
【0034】
また、データ送受信部34は、需要家電力管理システム12から、DR再配分要請量と、状態ベクトル(DB)と状態ベクトル(BEMS)の差分値を受信する。この差分値は、アグリゲータシステム10が各需要家のDR可能量を算出するに当たって基準となった状態ベクトル(算出基準状態パラメータ)と、当該DR可能量に基づいてDR指令量が配分された、配分時点(DR指令量の受信時点)における状態ベクトル(指令時状態ベクトル)との差分であり、後述するように、アグリゲータシステム10における、DR可能量の推定精度を示す指標となる。
【0035】
また上述したように、アグリゲータシステム10の配下には複数の需要家電力管理システム12A,12B・・・があり、これらから同時に状態ベクトル(BEMS)を受信しようとすると通信回線の容量負荷が過大となる。そこでデータ送受信部34は、所定の時間間隔を置いて、各需要家電力管理システム12A,12B・・・から順次状態ベクトル(BEMS)を受信する。上記所定の時間間隔、つまり、所定の需要家電力管理システム12が一度アグリゲータシステム10に状態ベクトル(BEMS)を送信してから次に送信するまでの待ち時間は、例えば1時間以上10時間以内に定められ、例えば4時間に定められる。
【0036】
実績データベース36には、需要家電力管理システム12から取得した、状態ベクトル(BEMS)、及び、状態ベクトル(DB)と状態ベクトル(BEMS)の差分が格納される。実績データベース36には、例えば直近5年程度の、各需要家の状態ベクトル(BEMS)及び状態ベクトルの差分が格納される。
【0037】
外部情報収集部44は、例えば外部の予報業務の許可事業者等から、各需要家における電力需要に関連のある状態ベクトルの一部として、気温、天候、湿度等の予報値や現在値を取得する。さらにこれらのデータをDR可能量モデル学習部38及びDR可能量推定部46に送信する。
【0038】
DR可能量モデル学習部38は、各需要家のDR可能量を求めるためのモデル行列(モデル式)を学習及び算出する。DR可能量モデル学習部38は、実績データベース36から状態ベクトル(DB)、及び、状態ベクトル(BEMS)と状態ベクトル(DB)との差分を取得するとともに、外部情報収集部44から天候等の状態パラメータを取得する。DR可能量モデル学習部38は、これら取得した各パラメータを所定の学習アルゴリズムに基づいて演算し、モデル行列(モデル式)を算出する。学習アルゴリズムとしては、例えば繰り返し計算を行う重回帰モデリングや多層のニューラルネットワークなどが非リアルタイム処理で繰り返し実行される。
【0039】
DR可能量(電力需要抑制可能量)、モデル行列(モデル式)、及び状態ベクトル(状態パラメータ)は、下記数式(1)のように表すことができる。また、数式(1)の具体例として、下記数式(2)が示される。
【0041】
DR可能量モデル学習部38により算出されたモデル行列は、モデル行列データベース42に格納される。また当該モデル行列を算出した際のベースとなった状態ベクトル(DB)(算出基準状態パラメータ)は、状態ベクトルデータベース40に格納される。
【0042】
DR可能量推定部46(第1電力需要抑制可能量推定部)は、DR指令受信部28からDR可能量の算出指令を受けると、モデル行列データベース42から、直近のモデル行列を取得する。さらにDR可能量推定部46は、取得したモデル行列を算出したときのベースとなった、算出基準状態ベクトルである状態ベクトル(DB)を状態ベクトルデータベース40から取得する。DR可能量推定部46は、取得したモデル行列と状態ベクトル(DB)に基づいて、DR可能量(第1電力需要抑制可能量)を算出する。
【0043】
DR可能量推定部46は、算出されたDR可能量を指令配分部30に送る。また、DR可能量に併せて、各需要家電力管理システム12にDR指令量を配分するための指標となる、評価関数を指令配分部30に送るようにしてもよい。また、DR可能量推定部46は、DR可能量を算出するベースとなった状態ベクトル(DB)及びモデル式をデータ送受信部34に送信する。
【0044】
指令配分部30では、DR指令受信部28から取得したDR指令量(アグリゲータ単位の大口のDR指令量)を各需要家電力管理システム12向けの小口のDR指令量に配分する。指令配分部30は、DR可能量推定部46から取得したDR可能量と評価関数に基づいて、各需要家電力管理システム12向けの小口のDR指令量を配分する。例えば、線形計画法、二次計画法、一般化逆行列による資源配分等の手法を用いて、評価関数の値を最小にする最適制御問題を解くことで、小口のDR指令量が配分される。例えば評価関数は、DR指令量がDR可能量未満となると値が小さくなるような項や、需要家電力管理システム12のそれぞれの負担が均等になるほど値が小さくなるような項を含み、これらの項に適宜重み付けが加えられる。
【0045】
また、評価関数には、DR制御の実行履歴を反映させたパラメータを含んでいてもよい。例えば1ヶ月間に亘るDR指令量の配分先が均等となるように、既にDR指令量が配分された需要家電力管理システム12は、まだDR指令量が配分されていない需要家電力管理システム12よりも優先度が低くなるように、適宜重み付けされる。
【0046】
DR指令量の配分に当たり、DR可能量の総和が電力供給事業者14から受信した大口のDR指令量に満たない場合は、アグリゲータシステム10は、電力供給事業者14に対してDR指令量の軽減を求めるようにしてもよい。
【0047】
なお、指令配分部30により求められたDR指令量は、需要家電力管理システム12にて最終的にデマンドレスポンスの実行時に用いられるDR指令量とは異なる場合がある。両者を区別するために、指令配分部30により求められるDR指令量を、以下適宜初期DR指令量と呼ぶ。
【0048】
指令配分部30は、求めた初期DR指令量を指令送信部32を介してデータ送受信部34に送る。データ送受信部34は、DR可能量推定部46から送られたモデル行列及び状態ベクトル(BEMS)と、指令送信部32から送られた初期DR指令量とを、各需要家電力管理システム12に送信する。また、初期DR指令量に併せて、デマンドレスポンスの開始時刻等を送信してもよい。
【0049】
<需要家電力管理システムの詳細>
図3に、需要家電力管理システム12のハード構成図を例示する。需要家電力管理システム12は、ビル等の建築設備の監視制御システムであるBEMS(Building and Energy Management System)であり、ビルシステム用通信規約であるBACnet(Building Automation and Control Networks)に準拠している。
【0050】
需要家電力管理システム12は、中央装置48、サブコントローラ50、デジタルコントローラ52、リモートステーション54、及びセンサ58を備え、各種電気機器56を制御する。電気機器56はビル内に設置される種々の設備機器であり、例えば空調機器、照明機器、衛生機器、防災機器、防犯機器、及び動力機器等が含まれる。センサ58は上記の状態ベクトルを構成するパラメータの少なくとも一部を測定する。例えばセンサ58は、電力計、温度センサ、照度センサ、流量センサ等が含まれる。
【0051】
中央装置48は、例えばいわゆるB−OWS(BACnet Operator Workstation)から構成されており、監視スタッフ等により操作監視されるクライアントPCとしての機能と、データ保存やアプリケーション処理等を行うサーバーとしての機能を備えている。中央装置48では、例えば画面表示や設定操作が行われる。
【0052】
サブコントローラ50は主に制御機能を担う。サブコントローラ50は、デジタルコントローラ52やリモートステーション54等の端末伝送機器と通信し、ポイントデータやスケジュール制御等を管理する。例えばサブコントローラ50は、空調設備系統、照明設備系統、衛生設備系統、防犯設備系統等、各機能別系統(サブシステム)ごとに一つずつ設けられる。
【0053】
中央装置48及びサブコントローラ50は需要家電力管理システム12の上位システムを構成する。この上位システムでは、複数の設備機器を統括制御する。例えば空調スケジュールに基づく発停制御等の機能を備える。
【0054】
デジタルコントローラ52はいわゆるDDC(Direct Digital Controller)であってよく、BEMSにおける分散制御を実現するための調節器としての機能を備える。例えばデジタルコントローラ52はサブコントローラ50から送られたタイマ設定に基づくプログラム制御や、同じくサブコントローラ50から送られた目標値に基づくフィードバック制御等により、接続先の電気機器56を制御する。また、デジタルコントローラ52はセンサ58の計測値や電気機器56の警告等を上記システムや他のデジタルコントローラ52に送信する。
【0055】
リモートステーション54はアウトステーション、ローカルステーションとも呼ばれ、接続先のセンサ58や電気機器56の監視や制御を行う。機能的にはデジタルコントローラ52と重複するため、デジタルコントローラ52及びリモートステーション54は接続先の電気機器56やセンサ58に応じて適宜どちらか一方が選択される。
【0056】
中央装置48、サブコントローラ50、デジタルコントローラ52、及びリモートステーション54はコンピュータから構成される。例えばそのいずれにも、CPU60、メモリ62、ハードディスクドライブ64、入力部66、出力部68、及び入出力インターフェース70が設けられる。
【0057】
例えば需要家電力管理システム12はいわゆる垂直分散制御方式を採っている。例えば、中央装置48にて作成された空調スケジュールがサブコントローラ50を介してデジタルコントローラ52やリモートステーション54のハードディスクドライブ64に記憶される。このようにすることで、上位システム(中央装置48及びサブコントローラ50)がダウンしても、下位システム(デジタルコントローラ52、リモートステーション54、及びセンサ58)によって各電気機器の制御が可能となる。
【0058】
図4には、中央装置48の機能ブロックが例示されている。中央装置48は、データ送受信部72A,72B、実績データベース74、推定条件検証部76(比較部)、DR可能量推定部78(第2電力需要抑制可能量推定部)、DR量調整部80(判定部)、及びDR指令通知部82を含んで構成される。これらの機能部は、仮想的にあるいは理解を容易にするために便宜的に、それぞれ独立して図示されている。例えばハードディスクドライブ64等の記憶媒体に記憶された、DR指令量配分フロープログラムをCPU60が実行することで、中央装置48を構成するコンピュータのCPU60やメモリ62、ハードディスクドライブ64のリソースが適宜割り当てられ、それぞれの機能部が構成される。なお、DR指令量配分フロープログラムを記憶させたCDやDVD等の記憶媒体をCPU60に読み込ませることで、中央装置48を構成するコンピュータを、各機能部として機能させるようにしてもよい。
【0059】
データ送受信部72Aは、アグリゲータシステム10から、初期DR指令量、ならびに、その算出のベースとなったモデル行列及び状態ベクトル(DB)を受信する。また、アグリゲータシステム10に対して、状態ベクトル(BEMS)、状態ベクトル(BEMS)と状態ベクトル(DB)の差分、及び、DR再配分要請を出力する。
【0060】
データ送受信部72Bは、サブコントローラ50から、各電気機器の状態やセンサ58の測定値等を含む状態ベクトル(BEMS)を受信する。また中央装置48において確定したDR量(確定DR指令量)をサブコントローラ50に送信する。
【0061】
実績データベース74は、サブコントローラ50から送られた状態ベクトル(BEMS)を格納する。サブコントローラ50から中央装置48には、例えば常時状態ベクトル(BEMS)が送信され、常時実績データベース74に格納される。実績データベース74は例えばアグリゲータシステム10の実績データベース36よりも小規模であり、例えば直近1ヶ月程度の状態ベクトル(BEMS)が記憶される。
【0062】
推定条件検証部76(比較部)は、アグリゲータシステム10によるDR可能量の推定精度を検証する。推定条件検証部76は、データ送受信部72Aから、初期DR指令量、及び初期DR指令量を算出したベースとなった状態ベクトル(DB)(算出基準状態パラメータ)を受信する。さらに、実績データベース74から、初期DR指令量を受信した時点における状態ベクトル(BEMS)(指令時状態パラメータ)を受信する。
【0063】
さらに推定条件検証部76は、状態ベクトル(BEMS)と状態ベクトル(DB)を比較し、両者の値に乖離があるか否かを判定する。ここで、乖離の有無判定は、例えば両者の差分値が0であるか否かを判定することであってよく、また両者の差分値が所定の閾値を超過しているか否かを判定することであってもよい。求められた差分値はデータ送受信部72Aを介してアグリゲータシステム10に送られる。
【0064】
このように本実施形態では、需要家電力管理システム12において、状態ベクトル(BEMS)と状態ベクトル(DB)との乖離判定を行い、当該判定を通じて、アグリゲータシステム10におけるDR可能量の妥当性を判定している。
【0065】
仮に、DR可能量の妥当性判定に当たり、モデル行列の妥当性を判定するとなると、その学習過程の検討など、高度な演算処理が求められる。これに対して本実施形態のように、状態ベクトル(BEMS)と状態ベクトル(DB)の乖離を判定するという、相対的に簡便な操作によってDR可能量の妥当性判定を行うことで、需要家電力管理システム12が当該妥当性判定に拠出されるリソース(演算負荷)は相対的に軽減されたものとなる。
【0066】
状態ベクトル(BEMS)と状態ベクトル(DB)の間に乖離がない場合は、状態ベクトル(DB)とモデル行列に基づいて求められたDR可能量は、これを受信した時点におけるDR可能量(実際のDR可能量)が精度良く推定されていると考えられる。そこで推定条件検証部76は、状態ベクトル(BEMS)と状態ベクトル(DB)の間に乖離がない場合に、初期DR指令量を確定DR指令量としてDR指令通知部82に送信する。
【0067】
一方、状態ベクトル(BEMS)と状態ベクトル(DB)との間に乖離が認められる場合は、推定条件検証部76は、状態ベクトル(BEMS)をDR可能量推定部78(第2電力需要抑制可能量推定部)に送信する。またDR可能量推定部78には、データ送受信部72Aからモデル行列が送られる。DR可能量推定部78は、モデル行列と、初期DR指令量を受信した時点における状態ベクトル(BEMS)とに基づいて、初期DR指令量を受信した時点におけるDR可能量(修正DR可能量、第2電力需要抑制可能量)を求める。
【0068】
修正DR可能量(第2電力需要抑制可能量)は、DR量調整部80(判定部)に送られる。DR量調整部80には、データ送受信部72Aから初期DR指令量が送られる。DR量調整部80は、初期DR指令量が修正DR可能量を超過しているか否かを判定する。初期DR指令量が修正DR可能量以下に収まる場合には、需要家電力管理システム12の配下にある電気機器56の電力需要を抑制することで初期DR指令量を消化できる。そこでDR量調整部80は、初期DR指令量を確定DR指令量としてDR指令通知部82に送信する。
【0069】
一方、初期DR指令量が修正DR可能量を超過する場合は、需要家電力管理システム12の配下にある電気機器56の電力需要を抑制しても初期DR指令量の全量を消化できない。そこでDR量調整部80は、修正DR可能量を確定DR指令量としてDR指令通知部82に送信する。更に初期DR指令量から修正DR可能量を差し引いた差分値をDR再配分要請量として、データ送受信部72Aを介してアグリゲータシステム10に送信する。
【0070】
<DR指令量配分フロー>
図5、
図6に、アグリゲータシステム10によるDR指令量配分フローを例示する。アグリゲータシステム10は、所定の時間間隔を置いて、複数の需要家電力管理システム12、12・・・から順次状態ベクトル(BEMS)を受信する。さらに受信した状態ベクトル(BEMS)を実績データベース36に格納する(S10)。次に、外部情報収集部44が、外部の予報業務の許可事業者等から気温、湿度、天候等の外部情報を取得する(S12)。
【0071】
DR可能量モデル学習部38は、実績データベース36から状態ベクトル(DB)を呼び出すとともに、外部情報収集部44から外部情報を取得し、これらのパラメータに基づいてモデル行列を算出する(S14)。さらにDR可能量モデル学習部38は、モデル行列をモデル行列データベース42に、モデル行列の算出に用いた状態ベクトル(DB)を状態ベクトルデータベース40に、それぞれ格納する(S16)。
【0072】
さらにアグリゲータシステム10は、電力供給事業者14からDR指令量を受信したか否かを判定する(S18)。DR指令量を受信していない場合、さらにアグリゲータシステム10は所定の待機時間が経過したか否かを判定する(S20)。待機時間が経過していない場合、ステップS18まで戻り、待機時間が経過するか、DR指令量を受信するまで、ステップS18とステップS20を繰り返す。
【0073】
ステップS20にて所定の待機時間が経過すると、ステップS10に戻り、モデル行列及び状態ベクトル(DB)の更新が行われる。
【0074】
ステップS18にて、電力供給事業者14からDR指令量を受信すると、DR可能量推定部46は、モデル行列データベース42から直近のモデル行列を呼び出す。また状態ベクトルデータベース40から直近の状態ベクトル(DB)を呼び出し、DR可能量を算出する(S22)。
【0075】
なお、DR可能量の算出は、DR指令量の受信をトリガーにする代わりに、ステップS14におけるモデル行列の更新時に併せて行ってもよい。
【0076】
指令配分部30はDR可能量、(大口の)DR指令量、及び評価関数に基づき、各需要家電力管理システム12向けの(小口の)DR指令量(初期DR指令量)を配分する(S24)。さらにデータ送受信部34から、初期DR指令量、DR可能量の算出基準となった状態ベクトル(DB)及びモデル行列が各需要家電力管理システム12に送信される(S26)。
【0077】
初期DR指令量の配分後、アグリゲータシステム10は、需要家電力管理システム12からDR再配分要請量を受信したか否かを判定する(S28)。DR再配分要請量を受信した場合は、DR再配分要請量の送信がなかった需要家電力管理システム12の中から再配分先を選択する(S30)。例えばDR可能量と初期DR指令量の差分が最大の需要家電力管理システム12を再配分先に指定する。再配分先が決定されると、その再配分先の需要家電力管理システム12にDR再配分量が送信される(S32)。
【0078】
DR再配分量の送信後、及び、ステップS28でいずれの需要家電力管理システム12からもDR再配分要請量を受信しなかった場合、アグリゲータシステム10は、DR開始時刻に到達したか否かを判定する(S34)。DR開始時刻に到達していない場合、ステップS28まで戻り、DR再配分のフローを再度実行する。
【0079】
ステップS34にてDR開始時刻に到達した場合、DR制御が実行される(S36)。DR制御については既知であることから、ここでは簡単に説明する。DR制御が実行されると、アグリゲータシステム10は、各需要家電力管理システム12におけるDR実績量を監視する。DR実績量が確定DR指令量に未達の場合、アグリゲータシステム10はその未達分を他の需要家電力管理システム12に配分する。
【0080】
DR終了時刻に至ると、アグリゲータシステム10は、各需要家電力管理システム12から、状態ベクトル(BEMS)と状態ベクトル(DB)の乖離情報を受信する(S38)。乖離情報は単純に状態ベクトル(BEMS)と状態ベクトル(DB)の差分値(0を含む)であってよい。DR可能量モデル学習部38は、状態ベクトル(BEMS)と状態ベクトル(DB)の乖離情報を、モデル行列の学習演算に反映させる(S40)。乖離情報がモデル行列の学習演算に反映されることで、モデル行列の精度及びこれに伴うDR可能量の推定精度が向上する。したがって、DR再配分要請の発生頻度が低くなり、需要家電力管理システム12との通信頻度が軽減される。
【0081】
なお本実施形態では、状態ベクトル(BEMS)と状態ベクトル(DB)の乖離情報の送受信を、DR制御の終了後に行っている。アグリゲータシステム10と需要家電力管理システム12との通信頻度が高くなるDR制御中に乖離情報を送る場合と比較して、通信負荷が軽減される。
【0082】
また、状態ベクトル(BEMS)と状態ベクトル(DB)の乖離情報を、モデル行列の学習演算に反映させるのに加えて、当該乖離情報を評価関数に反映させてもよい。例えばDR制御の実施履歴を参照し、状態ベクトル(BEMS)と状態ベクトル(DB)との乖離頻度の高い需要家電力管理システム12については、DR可能量の予測が相対的に(乖離頻度の低い需要家電力管理システム12と比較して)困難と考えられる。このことから、DR可能量推定部46は、状態ベクトル(BEMS)と状態ベクトル(DB)との乖離頻度の高い需要家電力管理システム12について、DR指令量の配分先としての優先度を低くするように、評価関数の重み付けを調整する。
【0083】
図7、
図8には、需要家電力管理システム12(より詳細には中央装置48)における、DR指令量配分フローが例示されている。需要家電力管理システム12(中央装置48)は、アグリゲータシステム10から初期DR指令量と、その算出基準となったモデル行列及び状態ベクトル(DB)を受信する。さらにこれを受けて、実績データベース74から直近の状態ベクトル(BEMS)を呼び出し、状態ベクトル(DB)と状態ベクトル(BEMS)とが等しいか否かを判定する(S50)。
【0084】
状態ベクトル(DB)と状態ベクトル(BEMS)が等しい場合、例えば数式(2)に例示された状態ベクトル中の全てのパラメータ(状態パラメータ)が、状態ベクトル(BEMS)と状態ベクトル(DB)とで等しい場合、推定条件検証部76は初期DR指令量を確定DR指令量に設定する(S52)。
【0085】
一方、状態ベクトル(DB)と状態ベクトル(BEMS)が乖離する(異なる)場合、言い換えると両者の差分値が閾値=0を超過する場合、DR可能量推定部78はモデル行列と状態ベクトル(BEMS)に基づいて、修正DR可能量を算出する(S54)。なお、状態ベクトル(DB)と状態ベクトル(BEMS)が乖離する(異なる)場合とは、例えば数式(2)に例示された状態ベクトル中のパラメータ(状態パラメータ)のうち少なくとも一つが、状態ベクトル(BEMS)と状態ベクトル(DB)とで異なる場合が含まれる。
【0086】
次に、DR量調整部80は、初期DR指令量が修正DR可能量以下であるか否かを判定する(S56)。初期DR指令量が修正DR可能量以下に収まる場合、DR量調整部80は、確定DR指令量を初期DR指令量に設定する(S52)。
【0087】
初期DR指令量が修正DR可能量を超過する場合、DR量調整部80は、確定DR指令量を修正DR可能量に設定する(S58)。さらに初期DR指令量から修正DR可能量を差し引いた不足分をDR再配分要請量としてアグリゲータシステム10に送信する(S60)。
【0088】
さらに需要家電力管理システム12(中央装置48)は、アグリゲータシステム10からDR再配分要請量を受信したか否かを判定する(S62)。DR再配分要請量を受信した場合、DR可能量推定部78は、修正DR可能量を算出する(S64)。さらにDR量調整部80は、ステップS52またはステップS58にて設定された確定DR指令量にDR再配分量を加えた値が、修正DR可能量以下に収まるか否かを判定する(S66)。
【0089】
確定DR指令量にDR再配分量を加えた値が、修正DR可能量以下に収まる場合、DR量調整部80は、確定DR指令量にDR再配分量を加えた値を、新たな確定DR指令量に設定する(S68)。一方、確定DR指令量にDR再配分量を加えた値が、修正DR可能量未満である場合、DR量調整部80は、修正DR可能量を確定DR指令量に設定し(S70)、不足分をDR再配分要請量としてアグリゲータシステム10に送信する(S72)。
【0090】
ステップS72にてDR再配分要請量の送信後、ステップS68にて確定DR指令量の設定後、及び、ステップS62にてアグリゲータシステム10からDR再配分要請量の受信がない場合、需要家電力管理システム12(中央装置48)はDR開始時刻に到達したか否かを判定する(S74)。DR開始時刻に到達していない場合、ステップS62まで戻る。
【0091】
DR開始時刻に到達した場合、需要家電力管理システム12(中央装置48)は、確定DR指令量に基づいた電気機器56の電力制御を行う(S76)。DR終了時刻に至ると、需要家電力管理システム12(中央装置48)は、状態ベクトル(BEMS)と状態ベクトル(DB)の乖離をアグリゲータシステム10に報告(送信)する(S78)。
【0092】
<実施例>
図9〜
図11に、本実施形態に掛かるDR指令配分フローを実行した際のシーケンスが例示されている。なお、
図9〜
図11のステップは、
図5〜
図8のステップに対応する。
【0093】
アグリゲータシステム10は、所定の時間間隔を置いて、需要家電力管理システム12A、12B、12Cから状態パラメータを受信する(S10)。更に外部情報収集部44は気象実績や気象予報等の外部情報を取得する(S12)。DR可能量モデル学習部38は、状態ベクトル(DB)に基づいてモデル行列のパラメータを学習演算する(S14)。更に算出されたモデル行列がモデル行列データベース42に格納され、モデル行列の算出に用いられた状態ベクトルは状態ベクトルデータベース40に格納される(S16)。
【0094】
電力供給事業者14からDR指令を受信すると(S18)、DR可能量推定部46はモデル行列データベース42から直近のモデル行列を呼び出し、また状態ベクトルデータベース40から直近の状態ベクトル(DB)を呼び出してDR可能量を算出する(S22)。さらにDR可能量に基づいて初期DR指令量を配分する(S24)。
図10に進み、配分された初期DR指令量は、その算出基準となったモデル式及び状態ベクトル(DB)とともに、需要家電力管理システム12A、12B、12Cに送信される(S26)。
【0095】
需要家電力管理システム12Aでは、状態ベクトル(DB)と状態ベクトル(BEMS)との比較が行われ(S50)、乖離有りとの判定を得る。さらにこれを受けて需要家電力管理システム12Aは、モデル行列と状態ベクトル(BEMS)に基づいて、修正DR可能量を算出する(S54)。さらに初期DR指令量と修正DR可能量とを比較して(S56)、初期DR指令量が修正DR可能量を超過すると判定される。
【0096】
これを受けて需要家電力管理システム12Aは、修正DR可能量を確定DR指令量に設定する(S58)とともに、初期DR指令量から修正DR可能量を差し引いた不足分ΔAをアグリゲータシステム10に送信する(S60)。その後DR開始時刻まで待機する。
【0097】
需要家電力管理システム12Bでは、状態ベクトル(DB)と状態ベクトル(BEMS)との比較が行われ(S50)、乖離有りとの判定を得る。さらにこれを受けて需要家電力管理システム12Bは、モデル行列と状態ベクトル(BEMS)に基づいて、修正DR可能量を算出する(S54)。さらに初期DR指令量と修正DR可能量とを比較して(S56)、初期DR指令量が修正DR可能量以下に収まっていると判定される。
【0098】
これを受けて需要家電力管理システム12Bは、初期DR指令量を確定DR指令量に設定する(S52)。その後DR開始時刻まで待機する。
【0099】
需要家電力管理システム12Cでは、状態ベクトル(DB)と状態ベクトル(BEMS)との比較が行われ(S50)、乖離なしとの判定を得る。さらにこれを受けて需要家電力管理システム12Cは、初期DR指令量を確定DR指令量に設定する(S52)。その後DR開始時刻まで待機する。
【0100】
アグリゲータシステム10は、DR再配分要請量ΔAの再配分先の選択(S30)に当たり、
図11に進んで、需要家電力管理システム12Bを再配分先に設定する(S32)。需要家電力管理システム12Bでは、直近の確定DR指令量にDR再配分要請量ΔAを加えた値が、修正DR可能量以下に収まるか否かを判定し(S66)、修正DR可能量以下(不足分なし)との判定を得る。これに伴い、需要家電力管理システム12Bは、直近の確定DR指令量にDR再配分要請量ΔAを加えた値を、新たな確定DR指令量として更新する(S68)。
【0101】
その後DR開始時刻に到達すると、需要家電力管理システム12Aでは、修正DR可能量に基づいてDR制御が実行される(S76)。需要家電力管理システム12Bでは、直近の確定DR指令量にDR再配分要請量ΔAを加えた値に基づいて、DR制御が実行される(S76)。需要家電力管理システム12Cでは、初期DR指令量に基づいて、DR制御が実行される(S76)。
【0102】
DR終了時刻に到達すると、需要家電力管理システム12A、12B、12Cは、それぞれ、状態ベクトル(BEMS)と状態ベクトル(DB)の乖離情報を、順次アグリゲータシステム10に送信する(S78)。