【実施例1】
【0019】
例えば圧電膜として用いられる窒化アルミウムは潮解性があるため、圧電膜に水分が吸着しないように、圧電薄膜共振器は気密封止される。気密封止用パッケージは大型かつ高価である。そこで、圧電薄膜共振器の耐湿性を高め、小型で安価なパッケージを用いることで、小型化かつコストダウンが可能となる。しかしながら、圧電薄膜共振器は複雑な構造を有しており、圧電膜の上面および側面を保護膜で覆っただけでは耐湿性は十分ではない。本発明者らは、圧電膜を貫通する貫通孔の側面に着目した。
【0020】
図1(a)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図1(b)および
図1(c)は、
図1(a)のA−A断面図およびB−B断面図である。なお、理解しやすいように
図1(c)の寸法等は
図1(a)と必ずしも一致していない。
【0021】
図1(a)から
図1(c)に示すように、シリコン(Si)基板である基板10上に、下部電極12が設けられている。基板10の平坦主面と下部電極12との間にドーム状の膨らみを有する空隙30が形成されている。ドーム状の膨らみとは、例えば空隙30の周辺では空隙30の高さが小さく、空隙30の内部ほど空隙30の高さが大きくなるような形状の膨らみである。
【0022】
下部電極12は例えばCr(クロム)膜とCr膜上のRu(ルテニウム)膜とを含む。下部電極12上に、(002)方向を主軸とする窒化アルミニウム(AlN)を主成分とする圧電膜14が設けられている。圧電膜14を挟み下部電極12と対向する領域(共振領域50)を有するように圧電膜14上に上部電極16が設けられている。共振領域50は、楕円形状を有し、厚み縦振動モードの弾性波が共振する領域である。共振領域50は、平面視において空隙30と同じまたは空隙30より小さくかつ空隙30と重なるように設けられている。上部電極16は例えばRu膜とRu膜上に設けられたCr膜とを含む。
【0023】
下部電極12、圧電膜14および上部電極16を囲むように保護膜20が設けられている。保護膜20は、圧電膜14の上面、側面および下面を全て覆っている。保護膜20は、例えば窒化シリコン膜、酸化アルミニム膜またはダイヤモンドライクカーボン膜であり、圧電膜14より耐湿性の優れた膜である。
【0024】
図1(a)および
図1(c)のように、圧電膜14および下部電極12には犠牲層をエッチングするための貫通孔35が形成されている。犠牲層は空隙30を形成するための層である。貫通孔35は、圧電膜14を貫通し空隙30に通じている。
図1(c)のように貫通孔35の側面に保護膜20が設けられている。
【0025】
2.0GHzの共振周波数を有する圧電薄膜共振器の場合、下部電極12を膜厚が10nmのCr膜と膜厚が200nmのRu膜とする。圧電膜14を膜厚が1260nmのAlN膜とする。上部電極16を膜厚が230nmのRu膜と膜厚が50nmのCr膜とする。また、保護膜20を例えば膜厚が50nmの窒化シリコン膜とする。貫通孔35の直径を10μmとする。
【0026】
基板10としては、Si基板以外に、サファイア基板、スピネル基板、アルミナ基板、石英基板、ガラス基板、セラミック基板またはGaAs基板等を用いることができる。下部電極12および上部電極16としては、RuおよびCr以外にもAl(アルミニウム)、Ti(チタン)、Cu(銅)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Ta(タンタル)、Pt(白金)、Rh(ロジウム)またはIr(イリジウム)等の単層膜またはこれらの積層膜を用いることができる。例えば、上部電極16をRu膜とMo膜とにしてもよい。
【0027】
圧電膜14は、窒化アルミニウム以外にも、ZnO(酸化亜鉛)、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)、PbTiO
3(チタン酸鉛)等を用いることができる。また、例えば、圧電膜14は、窒化アルミニウムを主成分とし、共振特性の向上または圧電性の向上のため他の元素を含んでもよい。例えば、添加元素として、Sc(スカンジウム)、2族元素と4族元素との2つの元素、または2族元素と5族元素との2つの元素を用いることにより、圧電膜14の圧電性が向上する。このため、圧電薄膜共振器の実効的電気機械結合係数を向上できる。2族元素は、例えばCa(カルシウム)、Mg(マグネシウム)、Sr(ストロンチウム)またはZn(亜鉛)である。4族元素は、例えばTi、Zr(ジルコニウム)またはHf(ハフニウム)である。5族元素は、例えばTa、Nb(ニオブ)またはV(バナジウム)である。さらに、圧電膜14は、窒化アルミニウムを主成分とし、B(ボロン)を含んでもよい。
【0028】
[実施例1の製造方法]
図2(a)から
図4(c)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図である。
図1(a)のB−B断面に相当する。
図2(a)に示すように、平坦主面を有する基板10上に空隙を形成するための犠牲層38を形成する。犠牲層38の膜厚は、例えば10〜100nmであり、MgO(酸化マグネシウム)、ZnO、Ge(ゲルマニウム)またはSiO
2(酸化シリコン)等のエッチング液またはエッチングガスに容易に溶解できる材料から選択される。その後、犠牲層38を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。犠牲層38の形状は、空隙30の平面形状に相当する形状であり、例えば共振領域50となる領域を含む。犠牲層38は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用い成膜される。
【0029】
図2(b)に示すように、基板10および犠牲層38上に保護膜20aを形成する。保護膜20aは例えばCVD法またはスパッタリング法を用い成膜される。
【0030】
図2(c)に示すように、保護膜20a上に下部電極12を形成する。下部電極12は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜される。下部電極12を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用いパターニングする。下部電極12はリフトオフ法を用い形成してもよい。
【0031】
図3(a)に示すように、下部電極12および保護膜20a上に圧電膜14を、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜する。
【0032】
図3(b)に示すように、圧電膜14上に上部電極16をスパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜する。上部電極16をフォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。上部電極16はリフトオフ法を用い形成してもよい。
【0033】
図3(c)に示すように、圧電膜14を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。このとき、貫通孔35が形成される。貫通孔35に下部電極12の上面が露出する。
【0034】
図4(a)に示すように、圧電膜14および上部電極16上並びに貫通孔35の側面に保護膜20bを形成する。保護膜20bはCVD法またはスパッタリング法を用い成膜される。圧電膜14の膜厚は1μm程度であり、貫通孔35の径は10μm程度である。このように貫通孔35のアスペクト比が小さいため、貫通孔35の側面に保護膜20bを形成できる。
【0035】
図4(b)に示すように、貫通孔35下の保護膜20b、下部電極12および保護膜20aを除去する。保護膜20aおよび20bが窒化シリコン膜、下部電極12がCr膜とRu膜の場合、これらの膜の除去には例えばドライエッチング法、化学反応を伴わない物理的なエッチング法、またはイオンビームミリング法を用いる。これにより貫通孔35が犠牲層38に接触する。
【0036】
図4(c)に示すように、貫通孔35を介し、犠牲層38のエッチング液を犠牲層38に導入する。これにより、犠牲層38が除去される。犠牲層38をエッチングする媒体としては、犠牲層38以外の共振器を構成する材料をエッチングしない媒体であることが好ましい。特に、エッチング媒体は、エッチング媒体が接触する下部電極12がエッチングされない媒体であることが好ましい。下部電極12、圧電膜14および上部電極16の応力を圧縮応力となるように設定しておく。これにより、犠牲層38が除去されると、下部電極12から上部電極16が基板10の反対側に基板10から離れるように膨れる。下部電極12と基板10との間にドーム状の膨らみを有する空隙30が形成される。以上により、
図1(a)から
図1(c)に示した圧電薄膜共振器が作製される。
【0037】
[実施例1の別の製造方法]
図5(a)から
図5(c)は、実施例1の圧電薄膜共振器の別の製造方法を示す断面図である。
図5(a)に示すように、
図3(b)の後に、圧電膜14、下部電極12および保護膜20aを貫通する貫通孔35を形成する。貫通孔35は犠牲層38に接している。
【0038】
図5(b)に示すように、貫通孔35を介しエッチング液を導入し、犠牲層38を除去する。これにより、空隙30が形成される。
【0039】
図5(c)に示すように、圧電膜14および上部電極16上並びに貫通孔35の側面に保護膜20bを形成する。保護膜20bはCVD法またはスパッタリング法を用い成膜される。以上により、
図1(a)から
図1(c)に示した圧電薄膜共振器が作製される。
【0040】
[保護膜の検討]
保護膜20の耐湿性を評価した。シリコン基板上にスパッタリング法を用い
SiO2膜を成膜した。D
2O(重水)を用い温度が85℃湿度が100%の環境に評価する絶縁膜を放置した。D
2Oを用いるのは絶縁膜内に元々残存しているH
2O(軽水)と分離するためである。
【0041】
その後、D−SIMS(Dynamic mode Secondary Ion Mass Spectrometry)を用い、深さ方向のD原子濃度を評価した。
図6は、SiO
2膜の表面からの深さに対するD(重水素)原子濃度を示す図である。各時間は、85℃、100%の環境に放置した時間である。27hエッジおよび27hセンターはそれぞれウエハのエッジおよびセンターのサンプルを27時間放置したサンプルに対応する。
図6に示すように、高温多湿環境に放置した時間が長くなると、D原子がSiO
2膜の深くまで拡散している。太い破線は、27hエッジおよび27hセンターについてフィックの法則を用いフィッティングした線である。このフィッティング線から拡散係数を求めると、2×10
−18m
2/sである。拡散係数が小さい方が水分が拡散しにくく、耐湿性に優れている。
【0042】
同様に、窒化シリコン(SiN
x)膜および窒化酸化シリコン(SiON)膜についてDの拡散係数を求めた。絶縁膜の成膜はスパッタリング法を用いた。
図7(a)および
図7(b)は、各膜における屈折率に対するD原子の拡散係数を示す図である。
図7(b)は
図7(a)を拡大した図である。屈折率は波長が632.8nmの光の屈折率である。屈折率が最も大きい膜はSiN膜であり、最も小さい膜はSiO
2膜である。その間の膜はSiON膜であり、屈折率が高いほどOに対するNの組成比が大きくなる。
【0043】
図7(a)に示すように、SiO
2膜は拡散係数が大きく耐湿性がない。SiN膜は拡散係数が最も小さく耐湿性に優れている。SiON膜も拡散係数はSiN膜と同程度であり耐湿性に優れている。特に屈折率が1.7以上のSiON膜はSiN膜と同程度の耐湿性を有すると考えられる。屈折率が1.9以上の場合、拡散係数は7×10
−22m
2/sである。拡散係数が7×10
−22m
2/sの保護膜20の膜厚を20nmとすると、1000h以上の耐湿性を確保できる。
【0044】
次に、酸化アルミニウム(Al
2O
3)膜について、密度と拡散係数との関係を調べた。酸化アルミニウム膜の成膜は、ALD(Atomic Layer Deposition)法、ECR(Electron Cyclotron Resonance)スパッタ法、RF(Radio Frequency)スパッタ法を用いた。ALD法については成膜温度の異なる膜を成膜した。
【0045】
図8は、密度に対する各酸化アルミニウム膜内のD
2O含有量を示す図である。
図8に示すように、密度が3g/cm
3以上の酸化アルミニウム膜はD
2Oの含有量が小さく、耐湿性がよいと考えられる。密度が3g/cm
3以上の酸化アルミニウム膜の拡散係数を算出したところ6×10
−23m
2/sであった。拡散係数が6×10
−23m
2/sの保護膜20の膜厚を20nmとすると、10000h以上の耐湿性を確保できる。
【0046】
以上のように、耐湿性がよく保護膜20に用いる膜として、窒化シリコン膜、窒化酸化シリコン膜および酸化アルミニウム膜が考えられる。また、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜のように、緻密な膜を用いてもよい。DLC膜は、例えばC
2H
2とTMS(テトラメチルシラン)を成膜ガスとしたCVD法により成膜できる。また、これらの膜は、50nm以下と非常に薄い膜厚で耐湿性を確保できる。このため圧電薄膜共振器の特性への影響を小さくできる。
【0047】
実施例1によれば、圧電膜14を貫通する貫通孔35が設けられている。保護膜20は圧電膜14の上面、圧電膜14の側面および貫通孔35の内面を覆う。これにより、貫通孔35の内面から圧電膜14に水分が侵入することを抑制できる。よって、圧電薄膜共振器の耐湿性を高めることができる。
【0048】
また、共振領域50と重なるように基板10と下部電極12との間に空隙30が設けられている。貫通孔35は、空隙30を形成するときの犠牲層38を除去するための孔であり、
図4(c)のように空隙30と直接接続されている。または、貫通孔35は、
図5(c)のように空隙30と保護膜20を介してのみ接続されている。すなわち、空隙30と貫通孔35との間には下部電極12は設けられていない。このように、空隙30を形成するための貫通孔35の内面に保護膜20を形成することで、貫通孔35から圧電膜14への水分の侵入を抑制できる。
【0049】
保護膜20は、圧電膜14の下面を覆う。これにより、より耐湿性を向上できる。
【0050】
圧電膜14が窒化アルミニウム膜の場合潮解性が大きい。そこで、保護膜20として窒化シリコン膜、酸化アルミニウム膜およびダイヤモンドライクカーボン膜の少なくとも1つの膜を用いる。これにより、薄い膜で耐湿性を確保できるため、特性への影響を小さくできる。
【0051】
[実施例1の変形例1]
図9(a)は、実施例1の変形例1に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図9(b)および
図9(c)は、
図9(a)のA−A断面図およびB−B断面図である。
図9(a)から
図9(c)に示すように、圧電膜14と基板10との間に保護膜20が設けられていない。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0052】
圧電膜14の下面が基板10および下部電極12等で覆われていれば、圧電膜14の下面が直接空気に触れることはない。よって、圧電膜14と基板10との間に保護膜20を設けなくてもよい。水分が基板10と圧電膜14の界面および/または下部電極12を透過することも考えられる。よって、実施例1のように、圧電膜14の下面に保護膜20を設けることが好ましい。