特許第6635908号(P6635908)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6635908圧電薄膜共振器、フィルタおよびマルチプレクサ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6635908
(24)【登録日】2019年12月27日
(45)【発行日】2020年1月29日
(54)【発明の名称】圧電薄膜共振器、フィルタおよびマルチプレクサ
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/17 20060101AFI20200120BHJP
   H03H 9/54 20060101ALI20200120BHJP
   H03H 9/70 20060101ALI20200120BHJP
【FI】
   H03H9/17 F
   H03H9/54 Z
   H03H9/70
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-228266(P2016-228266)
(22)【出願日】2016年11月24日
(65)【公開番号】特開2018-85651(P2018-85651A)
(43)【公開日】2018年5月31日
【審査請求日】2018年3月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】堤 潤
(72)【発明者】
【氏名】坂下 武
【審査官】 ▲高▼橋 徳浩
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/125371(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/031725(WO,A1)
【文献】 特開2005−006304(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/060091(WO,A1)
【文献】 特開2010−154233(JP,A)
【文献】 特開平09−289209(JP,A)
【文献】 特開2012−004063(JP,A)
【文献】 特開2006−210474(JP,A)
【文献】 特開2013−211410(JP,A)
【文献】 特開2005−173106(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/072336(WO,A1)
【文献】 特開2004−222244(JP,A)
【文献】 特開2008−160322(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H3/007−H03H3/10
H03H9/00−H03H9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に空隙を介し設けられ、前記空隙と通じる孔である貫通孔を有し、窒化アルミニウムを主成分とする圧電膜と、
前記圧電膜の少なくとも一部を挟んで対向した下部電極および上部電極と、
前記圧電膜の上面、前記圧電膜の前記貫通孔以外の側面および前記貫通孔の内面を覆い、波長が632.8nmの光の屈折率が1.7以上の窒化酸化シリコン膜、密度が3g/cm以上の酸化アルミニウム膜、またはダイヤモンドライクカーボン膜である保護膜と、
を具備し、
前記圧電膜は直接空気に触れない圧電薄膜共振器。
【請求項2】
前記保護膜は、前記圧電膜の下面を覆う請求項記載の圧電薄膜共振器。
【請求項3】
前記上部電極上の前記保護膜に開口が設けられ、前記開口の内面および前記開口から露出する前記上部電極を覆うようにパッドが設けられている請求項1または2記載の圧電薄膜共振器。
【請求項4】
前記圧電膜の少なくとも一部を挟み前記上部電極と前記下部電極とが対向する共振領域内の上部電極上に設けられた保護膜は、前記圧電膜の上面のうち前記共振領域以外の領域を覆う保護膜より薄い請求項1からのいずれか一項記載の圧電薄膜共振器。
【請求項5】
請求項1からのいずれか一項記載の圧電薄膜共振器を含むフィルタ。
【請求項6】
請求項記載のフィルタを含むマルチプレクサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電薄膜共振器、フィルタおよびマルチプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電薄膜共振器を用いた弾性波デバイスは、例えば携帯電話等の無線機器のフィルタおよびマルチプレクサとして用いられている。圧電薄膜共振器は、圧電膜を挟み下部電極と上部電極が対向する構造を有している。支持体上に下部電極、圧電膜および上部電極を形成し、上部電極および圧電膜を上から保護する保護膜を全面に形成することが知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−130199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
圧電薄膜共振器の耐湿性が悪いため、圧電薄膜共振器は気密封止して用いられる。気密封止用パッケージは大型でコストが高い。そこで、圧電薄膜共振器の耐湿性を向上させるため、保護膜で覆うことが考えられる。しかしながら、圧電薄膜共振器は複雑な形状を有しており、耐湿性を高めることは容易ではない。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、圧電薄膜共振器の耐湿性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、基板と、前記基板上に空隙を介し設けられ、前記空隙と通じる孔である貫通孔を有し、窒化アルミニウムを主成分とする圧電膜と、前記圧電膜の少なくとも一部を挟んで対向した下部電極および上部電極と、前記圧電膜の上面、前記圧電膜の前記貫通孔以外の側面および前記貫通孔の内面を覆い、波長が632.8nmの光の屈折率が1.7以上の窒化酸化シリコン膜、密度が3g/cm以上の酸化アルミニウム膜、またはダイヤモンドライクカーボン膜である保護膜と、を具備し、前記圧電膜は直接空気に触れない圧電薄膜共振器である。
【0010】
上記構成において、前記保護膜は、前記圧電膜の下面を覆う構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記上部電極上の前記保護膜に開口が設けられ、前記開口の内面および前記開口から露出する前記上部電極を覆うようにパッドが設けられている構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記圧電膜の少なくとも一部を挟み前記上部電極と前記下部電極とが対向する共振領域内の上部電極上に設けられた保護膜は、前記圧電膜の上面のうち前記共振領域以外の領域を覆う保護膜より薄い構成とすることができる。
【0014】
本発明は、上記圧電薄膜共振器を含むフィルタである。
【0015】
本発明は、上記フィルタを含むマルチプレクサである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、下圧電薄膜共振器の耐湿性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1(a)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の平面図、図1(b)および図1(c)は、図1(a)のA−A断面図およびB−B断面図である。
図2図2(a)から図2(c)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図(その1)である。
図3図3(a)から図3(c)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図(その2)である。
図4図4(a)から図4(c)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図(その3)である。
図5図5(a)から図5(c)は、実施例1の圧電薄膜共振器の別の製造方法を示す断面図である。
図6図6は、SiO膜における深さに対するD原子濃度を示す図である。
図7図7(a)および図7(b)は、各膜における屈折率に対するD原子の拡散係数を示す図である。
図8図8は、密度に対する各酸化アルミニウム膜内のDO含有量を示す図である。
図9図9(a)は、実施例1の変形例1に係る圧電薄膜共振器の平面図、図9(b)および図9(c)は、図9(a)のA−A断面図およびB−B断面図である。
図10図10(a)および図10(b)は、実施例2およびその変形例1の断面図である。
図11図11(a)および図11(b)は、実施例3およびその変形例1の断面図である。
図12図12(a)および図12(b)は、実施例4およびその変形例1の断面図である。
図13図13(a)および図13(b)は、実施例5およびその変形例1の圧電薄膜共振器の断面図である。
図14図14(a)は、実施例6に係るフィルタの平面図、図14(b)は、図14(a)のA−A断面図である。
図15図15は、実施例7に係るモジュールの断面図である。
図16図16は、実施例8に係るクワッドプレクサの回路図である。
図17図17(a)および図17(b)は、実施例8に係るクワッドプレクサの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下図面を参照し、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0019】
例えば圧電膜として用いられる窒化アルミウムは潮解性があるため、圧電膜に水分が吸着しないように、圧電薄膜共振器は気密封止される。気密封止用パッケージは大型かつ高価である。そこで、圧電薄膜共振器の耐湿性を高め、小型で安価なパッケージを用いることで、小型化かつコストダウンが可能となる。しかしながら、圧電薄膜共振器は複雑な構造を有しており、圧電膜の上面および側面を保護膜で覆っただけでは耐湿性は十分ではない。本発明者らは、圧電膜を貫通する貫通孔の側面に着目した。
【0020】
図1(a)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の平面図、図1(b)および図1(c)は、図1(a)のA−A断面図およびB−B断面図である。なお、理解しやすいように図1(c)の寸法等は図1(a)と必ずしも一致していない。
【0021】
図1(a)から図1(c)に示すように、シリコン(Si)基板である基板10上に、下部電極12が設けられている。基板10の平坦主面と下部電極12との間にドーム状の膨らみを有する空隙30が形成されている。ドーム状の膨らみとは、例えば空隙30の周辺では空隙30の高さが小さく、空隙30の内部ほど空隙30の高さが大きくなるような形状の膨らみである。
【0022】
下部電極12は例えばCr(クロム)膜とCr膜上のRu(ルテニウム)膜とを含む。下部電極12上に、(002)方向を主軸とする窒化アルミニウム(AlN)を主成分とする圧電膜14が設けられている。圧電膜14を挟み下部電極12と対向する領域(共振領域50)を有するように圧電膜14上に上部電極16が設けられている。共振領域50は、楕円形状を有し、厚み縦振動モードの弾性波が共振する領域である。共振領域50は、平面視において空隙30と同じまたは空隙30より小さくかつ空隙30と重なるように設けられている。上部電極16は例えばRu膜とRu膜上に設けられたCr膜とを含む。
【0023】
下部電極12、圧電膜14および上部電極16を囲むように保護膜20が設けられている。保護膜20は、圧電膜14の上面、側面および下面を全て覆っている。保護膜20は、例えば窒化シリコン膜、酸化アルミニム膜またはダイヤモンドライクカーボン膜であり、圧電膜14より耐湿性の優れた膜である。
【0024】
図1(a)および図1(c)のように、圧電膜14および下部電極12には犠牲層をエッチングするための貫通孔35が形成されている。犠牲層は空隙30を形成するための層である。貫通孔35は、圧電膜14を貫通し空隙30に通じている。図1(c)のように貫通孔35の側面に保護膜20が設けられている。
【0025】
2.0GHzの共振周波数を有する圧電薄膜共振器の場合、下部電極12を膜厚が10nmのCr膜と膜厚が200nmのRu膜とする。圧電膜14を膜厚が1260nmのAlN膜とする。上部電極16を膜厚が230nmのRu膜と膜厚が50nmのCr膜とする。また、保護膜20を例えば膜厚が50nmの窒化シリコン膜とする。貫通孔35の直径を10μmとする。
【0026】
基板10としては、Si基板以外に、サファイア基板、スピネル基板、アルミナ基板、石英基板、ガラス基板、セラミック基板またはGaAs基板等を用いることができる。下部電極12および上部電極16としては、RuおよびCr以外にもAl(アルミニウム)、Ti(チタン)、Cu(銅)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Ta(タンタル)、Pt(白金)、Rh(ロジウム)またはIr(イリジウム)等の単層膜またはこれらの積層膜を用いることができる。例えば、上部電極16をRu膜とMo膜とにしてもよい。
【0027】
圧電膜14は、窒化アルミニウム以外にも、ZnO(酸化亜鉛)、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)、PbTiO3(チタン酸鉛)等を用いることができる。また、例えば、圧電膜14は、窒化アルミニウムを主成分とし、共振特性の向上または圧電性の向上のため他の元素を含んでもよい。例えば、添加元素として、Sc(スカンジウム)、2族元素と4族元素との2つの元素、または2族元素と5族元素との2つの元素を用いることにより、圧電膜14の圧電性が向上する。このため、圧電薄膜共振器の実効的電気機械結合係数を向上できる。2族元素は、例えばCa(カルシウム)、Mg(マグネシウム)、Sr(ストロンチウム)またはZn(亜鉛)である。4族元素は、例えばTi、Zr(ジルコニウム)またはHf(ハフニウム)である。5族元素は、例えばTa、Nb(ニオブ)またはV(バナジウム)である。さらに、圧電膜14は、窒化アルミニウムを主成分とし、B(ボロン)を含んでもよい。
【0028】
[実施例1の製造方法]
図2(a)から図4(c)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図である。図1(a)のB−B断面に相当する。図2(a)に示すように、平坦主面を有する基板10上に空隙を形成するための犠牲層38を形成する。犠牲層38の膜厚は、例えば10〜100nmであり、MgO(酸化マグネシウム)、ZnO、Ge(ゲルマニウム)またはSiO(酸化シリコン)等のエッチング液またはエッチングガスに容易に溶解できる材料から選択される。その後、犠牲層38を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。犠牲層38の形状は、空隙30の平面形状に相当する形状であり、例えば共振領域50となる領域を含む。犠牲層38は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用い成膜される。
【0029】
図2(b)に示すように、基板10および犠牲層38上に保護膜20aを形成する。保護膜20aは例えばCVD法またはスパッタリング法を用い成膜される。
【0030】
図2(c)に示すように、保護膜20a上に下部電極12を形成する。下部電極12は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜される。下部電極12を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用いパターニングする。下部電極12はリフトオフ法を用い形成してもよい。
【0031】
図3(a)に示すように、下部電極12および保護膜20a上に圧電膜14を、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜する。
【0032】
図3(b)に示すように、圧電膜14上に上部電極16をスパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜する。上部電極16をフォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。上部電極16はリフトオフ法を用い形成してもよい。
【0033】
図3(c)に示すように、圧電膜14を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。このとき、貫通孔35が形成される。貫通孔35に下部電極12の上面が露出する。
【0034】
図4(a)に示すように、圧電膜14および上部電極16上並びに貫通孔35の側面に保護膜20bを形成する。保護膜20bはCVD法またはスパッタリング法を用い成膜される。圧電膜14の膜厚は1μm程度であり、貫通孔35の径は10μm程度である。このように貫通孔35のアスペクト比が小さいため、貫通孔35の側面に保護膜20bを形成できる。
【0035】
図4(b)に示すように、貫通孔35下の保護膜20b、下部電極12および保護膜20aを除去する。保護膜20aおよび20bが窒化シリコン膜、下部電極12がCr膜とRu膜の場合、これらの膜の除去には例えばドライエッチング法、化学反応を伴わない物理的なエッチング法、またはイオンビームミリング法を用いる。これにより貫通孔35が犠牲層38に接触する。
【0036】
図4(c)に示すように、貫通孔35を介し、犠牲層38のエッチング液を犠牲層38に導入する。これにより、犠牲層38が除去される。犠牲層38をエッチングする媒体としては、犠牲層38以外の共振器を構成する材料をエッチングしない媒体であることが好ましい。特に、エッチング媒体は、エッチング媒体が接触する下部電極12がエッチングされない媒体であることが好ましい。下部電極12、圧電膜14および上部電極16の応力を圧縮応力となるように設定しておく。これにより、犠牲層38が除去されると、下部電極12から上部電極16が基板10の反対側に基板10から離れるように膨れる。下部電極12と基板10との間にドーム状の膨らみを有する空隙30が形成される。以上により、図1(a)から図1(c)に示した圧電薄膜共振器が作製される。
【0037】
[実施例1の別の製造方法]
図5(a)から図5(c)は、実施例1の圧電薄膜共振器の別の製造方法を示す断面図である。図5(a)に示すように、図3(b)の後に、圧電膜14、下部電極12および保護膜20aを貫通する貫通孔35を形成する。貫通孔35は犠牲層38に接している。
【0038】
図5(b)に示すように、貫通孔35を介しエッチング液を導入し、犠牲層38を除去する。これにより、空隙30が形成される。
【0039】
図5(c)に示すように、圧電膜14および上部電極16上並びに貫通孔35の側面に保護膜20bを形成する。保護膜20bはCVD法またはスパッタリング法を用い成膜される。以上により、図1(a)から図1(c)に示した圧電薄膜共振器が作製される。
【0040】
[保護膜の検討]
保護膜20の耐湿性を評価した。シリコン基板上にスパッタリング法を用いSiOを成膜した。DO(重水)を用い温度が85℃湿度が100%の環境に評価する絶縁膜を放置した。DOを用いるのは絶縁膜内に元々残存しているHO(軽水)と分離するためである。
【0041】
その後、D−SIMS(Dynamic mode Secondary Ion Mass Spectrometry)を用い、深さ方向のD原子濃度を評価した。図6は、SiO膜の表面からの深さに対するD(重水素)原子濃度を示す図である。各時間は、85℃、100%の環境に放置した時間である。27hエッジおよび27hセンターはそれぞれウエハのエッジおよびセンターのサンプルを27時間放置したサンプルに対応する。図6に示すように、高温多湿環境に放置した時間が長くなると、D原子がSiO膜の深くまで拡散している。太い破線は、27hエッジおよび27hセンターについてフィックの法則を用いフィッティングした線である。このフィッティング線から拡散係数を求めると、2×10−18/sである。拡散係数が小さい方が水分が拡散しにくく、耐湿性に優れている。
【0042】
同様に、窒化シリコン(SiN)膜および窒化酸化シリコン(SiON)膜についてDの拡散係数を求めた。絶縁膜の成膜はスパッタリング法を用いた。図7(a)および図7(b)は、各膜における屈折率に対するD原子の拡散係数を示す図である。図7(b)は図7(a)を拡大した図である。屈折率は波長が632.8nmの光の屈折率である。屈折率が最も大きい膜はSiN膜であり、最も小さい膜はSiO膜である。その間の膜はSiON膜であり、屈折率が高いほどOに対するNの組成比が大きくなる。
【0043】
図7(a)に示すように、SiO膜は拡散係数が大きく耐湿性がない。SiN膜は拡散係数が最も小さく耐湿性に優れている。SiON膜も拡散係数はSiN膜と同程度であり耐湿性に優れている。特に屈折率が1.7以上のSiON膜はSiN膜と同程度の耐湿性を有すると考えられる。屈折率が1.9以上の場合、拡散係数は7×10−22/sである。拡散係数が7×10−22/sの保護膜20の膜厚を20nmとすると、1000h以上の耐湿性を確保できる。
【0044】
次に、酸化アルミニウム(Al)膜について、密度と拡散係数との関係を調べた。酸化アルミニウム膜の成膜は、ALD(Atomic Layer Deposition)法、ECR(Electron Cyclotron Resonance)スパッタ法、RF(Radio Frequency)スパッタ法を用いた。ALD法については成膜温度の異なる膜を成膜した。
【0045】
図8は、密度に対する各酸化アルミニウム膜内のDO含有量を示す図である。図8に示すように、密度が3g/cm以上の酸化アルミニウム膜はDOの含有量が小さく、耐湿性がよいと考えられる。密度が3g/cm以上の酸化アルミニウム膜の拡散係数を算出したところ6×10−23/sであった。拡散係数が6×10−23/sの保護膜20の膜厚を20nmとすると、10000h以上の耐湿性を確保できる。
【0046】
以上のように、耐湿性がよく保護膜20に用いる膜として、窒化シリコン膜、窒化酸化シリコン膜および酸化アルミニウム膜が考えられる。また、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜のように、緻密な膜を用いてもよい。DLC膜は、例えばCとTMS(テトラメチルシラン)を成膜ガスとしたCVD法により成膜できる。また、これらの膜は、50nm以下と非常に薄い膜厚で耐湿性を確保できる。このため圧電薄膜共振器の特性への影響を小さくできる。
【0047】
実施例1によれば、圧電膜14を貫通する貫通孔35が設けられている。保護膜20は圧電膜14の上面、圧電膜14の側面および貫通孔35の内面を覆う。これにより、貫通孔35の内面から圧電膜14に水分が侵入することを抑制できる。よって、圧電薄膜共振器の耐湿性を高めることができる。
【0048】
また、共振領域50と重なるように基板10と下部電極12との間に空隙30が設けられている。貫通孔35は、空隙30を形成するときの犠牲層38を除去するための孔であり、図4(c)のように空隙30と直接接続されている。または、貫通孔35は、図5(c)のように空隙30と保護膜20を介してのみ接続されている。すなわち、空隙30と貫通孔35との間には下部電極12は設けられていない。このように、空隙30を形成するための貫通孔35の内面に保護膜20を形成することで、貫通孔35から圧電膜14への水分の侵入を抑制できる。
【0049】
保護膜20は、圧電膜14の下面を覆う。これにより、より耐湿性を向上できる。
【0050】
圧電膜14が窒化アルミニウム膜の場合潮解性が大きい。そこで、保護膜20として窒化シリコン膜、酸化アルミニウム膜およびダイヤモンドライクカーボン膜の少なくとも1つの膜を用いる。これにより、薄い膜で耐湿性を確保できるため、特性への影響を小さくできる。
【0051】
[実施例1の変形例1]
図9(a)は、実施例1の変形例1に係る圧電薄膜共振器の平面図、図9(b)および図9(c)は、図9(a)のA−A断面図およびB−B断面図である。図9(a)から図9(c)に示すように、圧電膜14と基板10との間に保護膜20が設けられていない。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0052】
圧電膜14の下面が基板10および下部電極12等で覆われていれば、圧電膜14の下面が直接空気に触れることはない。よって、圧電膜14と基板10との間に保護膜20を設けなくてもよい。水分が基板10と圧電膜14の界面および/または下部電極12を透過することも考えられる。よって、実施例1のように、圧電膜14の下面に保護膜20を設けることが好ましい。
【実施例2】
【0053】
図10(a)および図10(b)は、実施例2およびその変形例1の断面図である。図10(a)および図10(b)に示すように、圧電膜14に挿入膜28が挿入されている。挿入膜28は、共振領域の外周領域に設けられ中央領域に設けられていない。挿入膜28の音響インピーダンスは圧電膜14の音響インピーダンスより小さい。これにより、弾性波が共振領域50内から横方向に漏れることを抑制できる。よって、Q値を向上できる。挿入膜28は、下部電極12と圧電膜14との間、または圧電膜14と上部電極16との間に挿入されていてもよい。その他の構成は実施例1の図4(c)および図5(c)と同じであり説明を省略する。
【実施例3】
【0054】
図11(a)および図11(b)は、実施例3およびその変形例1の断面図である。図11(a)および図11(b)に示すように、共振領域50に設けられている保護膜20bの膜厚t1は、共振領域50以外の領域に設けられている保護膜20bの膜厚t2より小さい。保護膜20は、耐湿性を考慮して膜厚を定める。例えばt2=50nmとする。共振領域50において圧電膜14上に上部電極16が設けられている。このため、共振領域50の保護膜20bの膜厚t1は膜厚t2より薄くても耐湿性を確保できる。保護膜20bの膜厚で共振周波数を調整できる。そこで、共振領域50の保護膜20bを薄くエッチングし、共振周波数を調整する。エッチングにはドライエッチング法またはウェットエッチング法を用いる。このとき、共振領域50以外の領域の保護膜20bをエッチングしないため、共振領域50以外の領域の耐湿性に影響しない。その他の構成は実施例1の図4(c)および図5(c)と同じであり説明を省略する。
【0055】
実施例3およびその変形例によれば、共振領域50内の上部電極16上に設けられた保護膜20bは、圧電膜14の上面のうち共振領域50以外の領域を覆う保護膜20bより薄い。これにより、共振領域50以外の領域では、耐湿性を確保するための保護膜20の膜厚を確保し、共振領域50では保護膜20bの膜厚で周波数調整を行うことができる。
【実施例4】
【0056】
図12(a)および図12(b)は、実施例4およびその変形例1の断面図である。図12(a)に示すように、圧電膜14に下部電極12まで貫通する貫通孔37が形成されている。貫通孔37の内面に保護膜20bが設けられている。貫通孔37内および保護膜20b上にパッド22aが設けられている。パッド22aは貫通孔37を介し下部電極12に電気的に接続されている。上部電極16上の保護膜20bには開口39が形成されている。開口39内および保護膜20b上にパッド22bが設けられている。パッド22bは開口39を介し上部電極16に電気的に接続されている。パッド22aおよび22bは、例えば膜厚が100nmのTi膜および膜厚が500nmのAu膜である。基板10を貫通するように空隙30が設けられている。その他の構成は、実施例1と同じであり説明を省略する。
【0057】
図12(b)に示すように、実施例4の変形例1では、実施例2およびその変形例1と同様に、共振領域の外周領域の圧電膜14に挿入膜28が挿入されている。その他の構成は実施例4と同じであり説明を省略する。
【0058】
実施例4およびその変形例1では、パッド22aは下部電極12を外部に電気的に接続するためのパッドであり、例えばバンプが形成される。このため、下部電極12上の保護膜20bと圧電膜14に貫通孔37が設けられる。パッド22aは貫通孔37内に設けられ下部電極12と接続する。パッド22aと保護膜20bまたは圧電膜14との界面は水分が侵入しやすい。そこで、貫通孔37に露出した圧電膜14の側面に保護膜20bを設ける。これにより、圧電膜14への水分の侵入を抑制できる。さらに、パッド22aは、圧電膜14内の貫通孔35の内面を覆う。これにより、圧電膜14への水分の侵入をより抑制できる。
【0059】
パッド22bは上部電極16を外部に電気的に接続するためのパッドであり、例えばバンプが形成される。このため、上部電極16上の保護膜20bに開口39が設けられている。開口39により水分が圧電膜14に侵入しやすくなる。そこで、パッド22bを保護膜20bの開口39の内面および開口39から露出する上部電極16を覆うように設ける。これにより、圧電膜14への水分の侵入を抑制できる。
【実施例5】
【0060】
実施例5は、空隙30の構造を変える例である。図13(a)および図13(b)は、実施例5およびその変形例1の圧電薄膜共振器の断面図である。図13(a)に示すように、基板10の上面に窪みが形成されている。下部電極12は、基板10上に平坦に形成されている。これにより、空隙30が、基板10の窪みに形成されている。空隙30は共振領域50を含むように形成されている。その他の構成は、実施例1と同じであり説明を省略する。なお、下部電極12の下面に絶縁膜が接して形成されていてもよい。すなわち、空隙30は、基板10と下部電極12に接する絶縁膜との間に形成されていてもよい。絶縁膜としては、例えば窒化アルミニウム膜を用いることができる。
【0061】
図13(b)に示すように、共振領域50の下部電極12下に音響反射膜31が形成されている。音響反射膜31は、音響インピーダンスの低い膜31aと音響インピーダンスの高い膜31bとが交互に設けられている。膜31aおよび31bの膜厚は例えばそれぞれλ/4(λは弾性波の波長)である。膜31aと膜31bの積層数は任意に設定できる。例えば、音響反射膜31は、基板10中に音響インピーダンスの異なる膜が一層設けられている構成でもよい。その他の構成は、実施例1と同じであり説明を省略する。
【0062】
実施例1から4およびその変形例において、実施例5と同様に空隙30を形成してもよく、実施例5の変形例1と同様に空隙30の代わりに音響反射膜31を形成してもよい。
【0063】
実施例1から実施例5のように、圧電薄膜共振器は、共振領域50において空隙30が基板10と下部電極12との間に形成されているFBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)でもよい。また、実施例5の変形例1のように、圧電薄膜共振器は、共振領域50において下部電極12下に圧電膜14を伝搬する弾性波を反射する音響反射膜31を備えるSMR(Solidly Mounted Resonator)でもよい。
【0064】
実施例1から実施例5およびその変形例において、共振領域50が楕円形状の例を説明したが、他の形状でもよい。例えば、共振領域50は、四角形または五角形等の多角形でもよい。
【実施例6】
【0065】
図14(a)は、実施例6に係るフィルタの平面図、図14(b)は、図14(a)のA−A断面図である。図14(a)および図14(b)に示すように、フィルタ60において、同一基板10上に複数の圧電薄膜共振器Rおよびパッド22aおよび22bが設けられている。パッド22aおよび22bは入力パッドIn、出力パッドOut、グランドパッドGndとして機能する。複数の圧電薄膜共振器Rは直列共振器S1からS4および並列共振器P1からP3を含む。入力パッドInと出力パッドOutとの間に1または複数の直列共振器S1からS4が直列に接続され、1または複数の並列共振器P1からP3が並列に接続されている。並列共振器P1からP3の一端はグランドパッドGndに接続されている。
【0066】
圧電薄膜共振器R間は下部電極12または上部電極16により接続されている。パッド22bは実施例4のように保護膜20に形成された開口39を介し上部電極16に接続されている。パッド22aは実施例4のように保護膜20および圧電膜14を貫通する貫通孔37を介し下部電極12に接続されている。貫通孔35は実施例1のように空隙30に接続されている。複数の圧電薄膜共振器Rは一体の圧電膜14を共有している。圧電膜14の上面、側面、下面、および貫通孔35および37の内面は保護膜20により覆われている。このように、保護膜20が圧電膜14を覆うことで、水分の圧電膜14への侵入を抑制し、圧電膜14が劣化することを抑制できる。
【0067】
実施例6のように、実施例1から5およびその変形例をフィルタに適用することで、フィルタ60の耐湿性を向上できる。フィルタとしてラダー型フィルタの例を説明したが縦結合型フィルタでもよい。また、ラダー型フィルタにおける直列共振器および並列共振器の個数は任意に設定できる。
【実施例7】
【0068】
実施例7は、実施例6に係るフィルタを基板に実装する例である。図15は、実施例7に係るモジュールの断面図である。図15に示すように、基板40上に実施例6のフィルタ60がフリップチップ実装されている。基板40の上面および下面に端子42および46が設けられている。基板40を貫通する内部配線44が設けられている。内部配線44は、端子42と46とを電気的に接続する。端子42とパッド22bとがバンプ48により接合されている。基板40は、例えばHTCC(High Temperature Co-fired Ceramic)またはLTCC(Low Temperature Co-fired Ceramic)等のセラミックス多層基板、プリント基板、サファイア基板、ガラス基板、ハイラセム(登録商標)基板または樹脂基板である。端子42、46および内部配線44は、銅層または金層等の金属層である。バンプ48は、金バンプ、銅バンプまたは半田バンプ等の金属バンプである。
【0069】
フィルタ60は耐湿性が高いため、フィルタ60が形成されたチップを基板40に搭載するだけでよい。保護膜20は空隙45(例えば空気または大気)に露出している。このように、気密封止の構造がなくてもよい。よって、モジュールを小型化および/または低価格化できる。
【実施例8】
【0070】
実施例8は、実施例6に係るフィルタをマルチプレクサに用いる例である。図16は、実施例8に係るクワッドプレクサの回路図である。図16に示すように、フィルタ61から64がそれぞれ共通端子Antと端子T1からT4との間に接続されている。フィルタ61から64のうち2つは送信フィルタであり2つは受信フィルタである。フィルタ61から64の全てが送信フィルタでもよく、全てが受信フィルタでもよい。送信フィルタは、端子T1からT4に入力した高周波信号のうち送信帯域の信号を共通端子Antに出力し他の周波数の信号を抑圧する。受信フィルタは共通端子Antに入力した高周波信号のうち受信フィルタの信号を端子T1からT4に出力し他の周波数の信号を抑圧する。
【0071】
図17(a)および図17(b)は、実施例8に係るクワッドプレクサの断面図である。図17(a)に示すように、基板40に複数のフィルタ61から64が搭載されている。基板40は積層基板であり、積層された複数の絶縁層40aおよび40bを備えている。絶縁層40aと40bとの間に配線44bが設けられている。絶縁層40aおよび40bを貫通するビア配線44aおよび44cが設けられている。ビア配線44aおよび44c並びに配線44bは内部配線44を構成する。内部配線44は、端子42と46とを電気的に接続する。フィルタ61から64は、実施例6に係るフィルタであり、実施例7と同様にチップ状態でバンプ48を介し端子42に接合されている。フィルタ61から64の上面にリッド47が設けられている。フィルタ61から64が形成されたチップは空隙45に露出している。
【0072】
図17(b)に示すように、フィルタ61aおよび63aは弾性表面波共振器を用いたフィルタである。その他の構成は図17(a)と同じであり説明を省略する。
【0073】
実施例8のように、実施例6のフィルタをチップ状態で基板40に搭載することで、マルチプレクサを小型化および/または低価格化できる。
【0074】
マルチプレクサとしてクワッドプレクサを例に説明したがデュプレクサまたはトリプレクサでもよい。また、複数のフィルタのうち少なくとも1つのフィルタが実施例1から5およびその変形例の圧電薄膜共振器を含めばよい。
【0075】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0076】
10 基板
12 下部電極
14 圧電膜
16 上部電極
20、20a、20b 保護膜
30 空隙
35、37 貫通孔
39 開口
40 基板
50 共振領域
60−64 フィルタ
図1
図2
図3
図4
図5
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図10
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