特許第6636013号(P6636013)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6636013
(24)【登録日】2019年12月27日
(45)【発行日】2020年1月29日
(54)【発明の名称】埋め込み可能な電極
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/05 20060101AFI20200120BHJP
   A61L 27/10 20060101ALI20200120BHJP
【FI】
   A61N1/05
   A61L27/10
【請求項の数】11
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-513413(P2017-513413)
(86)(22)【出願日】2015年9月10日
(65)【公表番号】特表2017-529921(P2017-529921A)
(43)【公表日】2017年10月12日
(86)【国際出願番号】EP2015070759
(87)【国際公開番号】WO2016038161
(87)【国際公開日】20160317
【審査請求日】2018年8月15日
(31)【優先権主張番号】LU92540
(32)【優先日】2014年9月10日
(33)【優先権主張国】LU
(73)【特許権者】
【識別番号】515189922
【氏名又は名称】ルクセンブルク インスティチュート オブ サイエンス アンド テクノロジー(エルアイエスティー)
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ルノーブル、ダミエン
(72)【発明者】
【氏名】トーマン、ジャン=セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】パリソ、ヴァレリー
【審査官】 石田 智樹
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−509140(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0008210(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/05
A61L 27/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気信号を伝達するための少なくとも1つの電極(10、20、30、40、50、60、110)を含む埋め込み可能なデバイス(100)であって、
前記電極は、生物学的細胞または組織と直接接触する少なくとも1つの部分(12、22、32、42、52、62)を含み、
前記少なくとも1つの部分(12、22、32、42、52、62)は、窒化インジウム(InN)から形成され、前記少なくとも1つの部分への細胞の接着が阻害されるように前記少なくとも1つの部分は導電性または半導電性であることを特徴とするデバイス。
【請求項2】
請求項1に記載のデバイスであって、
前記電極は、その全体が窒化インジウム(InN)から形成されることを特徴とするデバイス。
【請求項3】
請求項1に記載のデバイスであって、
前記少なくとも1つの部分(42)が、前記電極のコーティングを含むことを特徴とするデバイス。
【請求項4】
請求項3に記載のデバイスであって、
前記コーティングが、前記電極を一体的にカバーすることを特徴とするデバイス。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のデバイスであって、
前記電極の部分は、前記電極を生物学的細胞または組織に電気的に接続するための接続手段を含むことを特徴とするデバイス。
【請求項6】
請求項5に記載のデバイスであって、
前記接続手段は、前記電極の、前記窒化インジウムの表面部分(32)に覆われた少なくとも1つの電極端部を含むことを特徴とするデバイス。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載のデバイスであって、
前記電極は、前記窒化インジウム(InN)からなる前記少なくとも1つの部分(12、22、32、42、52、62)とは異なる少なくとも1つの部分(14、24、34、44、54、64)を含み、
前記少なくとも1つの部分(12、22、32、42、52、62)は、導電体または半導体材料からなることを特徴とするデバイス。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載のデバイスであって、
前記電極は、最上層を含む層状構造を有し、
前記最上層は、生物学的細胞または組織に直接接触する少なくとも1つの部分(12、22、32、42、52、62)を含むことを特徴とするデバイス。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載のデバイスであって、
前記電極(110)に動作可能に接続され、前記電極によって伝達される信号を処理するように構成された信号処理手段(102)を更に含むことを特徴とするデバイス。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載のデバイスであって、
前記窒化インジウム(InN)の部分は、インジウムトリオキシド(In)または水素を含む薄層を更に含むことを特徴とするデバイス。
【請求項11】
インプラント電極材料としての窒化インジウム(InN)の使用であって、
前記電極上の細胞接着を阻害するため、および生物学的細胞または組織に接触し、電気信号を伝達するための窒化インジウム(InN)の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内等に埋め込み可能な材料およびデバイスの分野に関する。本発明は、特に、電極が直接接触する生物学的細胞または組織へ、および/または生物学的細胞または組織から電気信号を伝達するための電極に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な生物学的組織および細胞の活性を模倣し、プロービングし、および/または回復させるために、いくつかの材料およびデバイスが研究され提案されてきている。細胞刺激または細胞モニタリングのための生体適合性電極は、依然として脳の機械的インタフェースとして機能するデバイスのための構成要素として必要とされている。一例として、1990年代初頭に実施された最初の成功した神経機能代替−蝸牛(人工内耳)インプラントは、電極アレイを使用して電気インパルスで蝸牛の聴神経を刺激する神経インタフェースデバイスである。末梢神経の電気刺激は、痛みの治療、運動機能の回復、てんかんの治療のために臨床医から多くの関心を集めてきている。更に、ニューロエンジニアリング研究コミュニティは、中枢神経系(CNS)のための様々な神経インタフェースデバイスを研究してきた。そのようなデバイスは、脳の深部刺激を伴う適切な電荷送達を介して、気分障害、てんかんまたはパーキンソン病で生じる症状を調節するように設計されている。脳信号の記録は、脳−コンピュータインタフェース、BCIを制御するために使用されている(非特許文献1参照)。
【0003】
埋め込み可能なデバイスおよび神経インタフェースには、いくつかの具体的な課題がある。すなわち、
−インプラント周囲の炎症反応やグリオーシス(神経膠症)を軽減すること(これら炎症反応やグリオーシス(神経膠症)は、デバイスへ/デバイスから伝達される信号の信号対雑音比を低下させるか、慢性的な記録障害につながるため)(非特許文献2参照)、
−神経細胞密度の高い脳の部分への信号の収集およびそこからの信号の収集を可能にする神経インタフェースの空間分解能を改善すること、および
−正確な領域を選択的に刺激して、CNSからの特定の応答を誘発すること、
である。
【0004】
以下の説明および本明細書全体を通して、生体適合性という用語は、体内において望ましくない局所的または全身的な影響を引き起こすことなく、移植されたすなわち埋め込まれた環境において所望の機能を果たし、有益な細胞応答および組織応答を維持するという埋め込まれたデバイスおよびその構成要素の能力を指すために使用される。
【0005】
更に、埋め込まれたデバイスまたは材料のバイオファウリングとは、デバイスまたは材料上での組織の制御されない成長を指す。
【0006】
いくつかの材料が生体内バイオインプラント用途のために試験されているが、ポリマーはその可塑性および生体適合性から現時点での選択材料である。脳−機械インタフェース(BMI)において、ポリマーは、主に半導体材料のカプセル化マトリックスとして使用される。ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、PEDOT、ポリアニリンまたはポリチオフェン等のいくつかのポリマーは導電性を有することが知られている。導電性ポリマーの使用により、埋め込まれた材料の生体適合性を高め、周囲の細胞との相互作用を可能にすることができる。しかしながら、導電性ポリマーは、バイオファウリングまたは脳の常在免疫細胞における物質の取り込みによって引き起こされるインピーダンスの変化に対して過敏なままである(非特許文献3参照)。
【0007】
Estephanらは、非特許文献4において窒化インジウムの生体適合特性について論じている。
【0008】
特許文献1(国際公開第2009/065171号)は、蝸牛インプラントのための電極アレイを開示している。ここでは、インプラントへの細胞または組織の接着を防止するためのシリコンを使用することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2009/065171号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Santhanam G, Ryu SI, Yu BM, Afshar A, Shenoy KV, Nature 442:195-98 (2006)
【非特許文献2】Turner JN, Shain W, Szarowski DH, Andersen M, Martins S, et al., Exp. Neurol. 156:33-49 (1999)
【非特許文献3】Bellamkonda, R. V.; Pai, S. B.; Renaud, P. MRS Bulletin 2012, 37 (06), 557-561
【非特許文献4】Estephan et al., "Phages recognizing the Indium Nitride semiconductor surface via their peptides", J. Pept. Sci. 2011; 17: 143-147
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明の目的は、従来技術の欠点の少なくともいくつかを克服する、埋め込まれたデバイスから生物学的細胞へ電気信号を伝達、または生物学的細胞から埋め込まれたデバイスへ電気信号を伝達するための埋め込み可能な電極を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様によれば、電気信号を伝達するための埋め込み可能な電極が提供される。前記電極は、生物学的細胞または組織と直接接触するための少なくとも1つの部分を含む。前記電極は、前記部分が導電性または半導電性であり、前記部分上のセルの接着が阻害されるように、前記部分が窒化インジウム(InN)からなることを特徴とする。
【0013】
第1の部分の表面は、例えばインジウムトリオキシド(In)または微量の水素のような不純物を有する薄層を含み得る。
【0014】
好ましくは、前記電極は、その全体が、窒化インジウム(InN)から形成され得る。
【0015】
前記電極の部分は、前記電極のコーティングを含み得る。前記コーティングは、好ましくは前記電極を一体的にカバーし得る。
【0016】
前記電極の部分は、前記電極を生物学的細胞または組織に電気的に接続するための接続手段を含み得る。前記接続手段は、好ましくは前記電極の少なくとも1つの電極端部を含み得る。特に、前記電極はワイヤ形状であり得る。
【0017】
好ましくは、前記電極は、InNからなる前記部分とは異なる少なくとも1つの部分(第2の部分)を含み、その第2の部分は、導電体または半導体材料からなる。
【0018】
前記電極は、生物学的細胞または組織に直接接触するInNからなる前記部分を含む最上層を含む層状構造を有し得る。
【0019】
本発明の更なる態様によれば、埋め込み可能なデバイスが提供される。前記埋め込み可能なデバイスは、本発明による電極に適合する電気信号を伝達するための少なくとも1つの電極を含む。好ましくは、前記デバイスは電子デバイスである。
【0020】
前記デバイスは、前記電極に動作可能に接続され、前記電極によって伝達される信号を処理するように構成された信号処理手段を更に含み得る。
【0021】
本発明の更に別の態様によれば、インプラント電極材料としての窒化インジウム(InN)の使用であって、前記電極上の細胞接着を阻害するため、および生物学的細胞または組織に接触し、電気信号を伝達するための窒化インジウム(InN)の使用が提供される。
【0022】
本発明による埋め込み可能な電極は、埋め込まれた電極が直接接触している生物学的細胞または組織のいずれかに電気信号を伝達し、またはそこから電気信号を伝達するために使用され得る。前記電極が埋め込まれた生体組織に直接接触する電極の少なくとも1つの部分は、窒化インジウム(InN)からなる。InNは、1つの材料で埋め込み可能な電極のためのいくつかの所望の特性を再編成する(まとめて与える)ことが観察されている。すなわち、導電性(または半導電性)であり、細胞接着を阻害するため、長期間にわたって細胞に直接接触しても表面上での細胞増殖を阻害する。更に、それは埋め込まれた生物学的環境に対する毒性を示さない。
【0023】
InN上での細胞接着および細胞増殖の阻害は、これらの現象がInNが接触する細胞に応じて防止されるかまたは著しくその進行が遅れらさることを意味する。InN上で細胞の増殖が阻害されると、上記のバイオファウリングの現象は、既知の埋め込み可能な電極材料と比較して減らされる。バイオファウリングまたは生物学的接着の減少の効果は、電極によって伝達される電気信号に対して測定可能な信号対雑音比の改善が観察されることである。実際、埋め込み中に電極と細胞/組織との間の適切な接触が確立されると、接触の質はバイオファウリングによって損なわれない。したがって、インプラントの寿命が延び、電極のメンテナンスの必要性および/または埋め込まれた人のための手術の反復の必要が少なくなる。
【0024】
ポリマーコーティングは、既知の埋め込み可能な導電性電極の生体適合性を改善することが示唆されているが、電極材料自体が電極と直接接触する細胞/組織と生体適合性を示すため、InN電極の使用により特別なコーティングの必要性は排除される。したがって、本発明による埋め込み可能な電極は、他の材料で作成された既知の埋め込み可能な電極としての製造および維持が一層容易である。
【0025】
InN電極の使用によりポリマーコーティングの必要性が排除されるので、ポリマーの毒性に関連する問題は軽減される。InNの毒性レベルは非常に低いことが判明している。
【0026】
本発明のいくつかの実施形態を、下記の図面を参照して説明するが、これは本発明の範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1aおよび図1bよりなり、それぞれGaNおよびInN上部層を有するサンプルの構造を概略的に示す図である。
図2図2aおよび図2bよりなり、それぞれ細胞株MCF10AおよびHS−5について図1のサンプルを用いて得られた細胞生存率の結果を示す図である。
図3図3aおよび図3bよりなり、図1のサンプルを用いて得られた細胞接着結果を示す図であり、図3aおよび図3bは、それぞれGaNおよびInNサンプル上の異なる細胞株の接着を示す。
図4】本発明による埋め込み可能な電極の好ましい実施形態を概略的に示す図である。
図5】本発明による埋め込み可能な電極の好ましい実施形態を概略的に示す図である。
図6】本発明による埋め込み可能な電極の好ましい実施形態を概略的に示す図である。
図7】本発明による埋め込み可能な電極の好ましい実施形態を概略的に示す図である。
図8】本発明による埋め込み可能な電極の好ましい実施形態の断面を概略的に示す図である。
図9】本発明による埋め込み可能な電極の好ましい実施形態の断面を概略的に示す図である。
図10】本発明による埋め込み可能なデバイスの好ましい実施形態を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、好ましい実施形態および図面に基づいて本発明を更に詳細に説明する。特に断らない限り、特定の実施形態に提示される技術的特徴は、他の実施形態の特徴と組み合わせることが可能であることを理解されたい。初めに、提示された結果を得るために使用される材料および方法について説明する。
【0029】
材料および方法
窒化インジウム(InN)材料を含む最上層、すなわち細胞接触層を含むデバイスの存在下での細胞の挙動をシミュレートするために、化学気相成長法(CVD)を用いてサファイアまたはシリコン基板上に異なる構造を合成した。図1aおよび図1bに示す構造はサファイアの底部絶縁層を含み、この底部絶縁層は電極を形成するいくつかの層の基板として機能する。最上層は、試験中に生物学的細胞と直接接触する唯一の層である。図1aはGaNからなる細胞接触最上層を示し、図1bはInNからなる細胞接触最上層を示す。最上層は約200nmの厚さを有する。図示された中間層は、それぞれGaNのInN最上層との間の電気信号の伝達を最適化するべく選択されたものである。
【0030】
それらの存在は、上層の生体接着および毒性に関する結果に影響しない。窒化ガリウム上の細胞接着および増殖は従来より公知である。それぞれの最上層の存在下での細胞の生体接着および毒性を評価するために、Sigma−Aldrich XTT(商標)試験および生体接着試験が行われてきた。
【0031】
報告された結果を得るために使用された実験手順を、以下に記載する。
【0032】
接着顕微鏡法を実施するために、要素を、1ウェル当たり25mm要素で24ウェルプレートに入れた。ダルベッコ変法イーグル培地中のそれぞれ5'000および10'000の細胞と、DMEM−1%ウマ血清中とともに、神経成長因子100ng/mlを含有する500μlのGFP(緑色蛍光タンパク質)−PC12懸濁液を加えて、72時間インキュベートした。
【0033】
Westburg Evos(商標)顕微鏡で画像化する前に、上清を吸引し、フェノールレッドを含まない新鮮なDMEM培地と交換した。要素の画像化は、フェノールレッドを含まない新鮮なDMEM培地中のZeiss LSM 510(商標)を用いる共焦点顕微鏡法実験か、またはリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)中のZeiss(商標)顕微鏡を使用する反射モードの光学顕微鏡法によって行った。
【0034】
Pfizer Adriblastina(商標)を、すぐに使用できる注射用溶液ドキソルビシン(dox)として使用した。Invitrogen(商標)NGF2.5S神経成長因子をPBS/0.1%ウシ血清アルブミンで希釈し、−20℃で保存した。
【0035】
3種の接着細胞株を試験に使用した。第1の細胞株として、ヒト乳房非腫瘍形成性上皮細胞株MCF10Aを、5%ウマ血清、表皮成長因子EGF(Sigma−Aldrich(商標)20ng/ml)、ヒドロコルチゾン(Sigma−Aldrich(商標)0.5mg/ml)、コレラ毒素(Gentaur(商標)100ng/ml)、インスリン(Sigma−Aldrich(商標)10mg/ml)、100U/mlのペニシリンおよびストレプトマイシンを補充したDMEM/F12培地で増殖させた。
【0036】
第2の細胞株として、HS−5ストロマ細胞株を、DMEM、10%ウシ胎仔血清、100U/mlのペニシリンおよびストレプトマイシン中で培養した。
【0037】
第3の細胞株として、埋め込み可能なラット副腎髄質の神経内分泌腫瘍由来のPC−12細胞株を、10%ウマ血清、5%ウシ胎仔血清、100U/mlのペニシリンおよびストレプトマイシンで増殖させた。このモデルの神経細胞表現型は、72時間、DMEM−1%ウマ血清中の100ng/mlの神経成長因子を用いて誘導される。神経成長因子で処理した場合、PC12細胞は分裂を停止し、最終的に分化する。このことで、PC12細胞が神経細胞分化のためのモデル系として有用になる。
【0038】
全ての細胞株は、5%のCOおよび95%の湿度を有する周囲環境において37℃の温度に維持した。
【0039】
細胞生存率は、製造者の説明書にしたがって比色分析法Sigma−Aldrich XTT(商標)アッセイを用いて測定した。1ウェルあたり3'000の細胞を、異なるエレメントを含むかまたは含まない48ウェルプレート上に46〜96時間プレートした。暴露終了4時間前にXTTを追加した。暴露終了時に、上清の光学密度を490nmで読み取った。毒性の陽性対照は、ドキソルビシン処置で得られた。
【0040】
記載された方法および実験装置を用いて記載されたサンプルについて得られた結果を図2および図3に示す。
【0041】
図2aおよび図2bは、サファイア、GaNおよびInNのそれぞれの細胞接触層上におけるMCF10乳腺上皮細胞(図2a)およびHS5間質細胞(図2b)の生存率を示す。対照およびdoxサンプルを含む異なるサンプルの存在下で、細胞を48時間、72時間または96時間インキュベートした。後者は細胞死を誘導する陽性対照である。結果はパーセンテージ(光学濃度(OD)、対照サンプルについて計算した所与のサンプル/ODについて計算)で表し、統計誤差は結果ごとに示す。観察できるように、MCF10細胞生存率のHS5は、InNおよびサファイアの存在下では影響を受けない。Dox陽性対照は、試験した細胞が過剰耐性でないことを証明している。
【0042】
図3aおよび図3bは、図3aのGaNおよび図3bのInNの異なる細胞接触層について、上記のように得られた細胞の生体接着の結果を示す。HS5およびMCF10細胞の他に、PC12細胞を神経細胞のモデルとして試験した。InNの場合、実質的に細胞は基板上に付着することができない。ペトリ皿において、細胞は対照サンプルと同様にプラスチック部分の上で増殖し、誘導毒性の兆候は見られなかった。これにより、図2aおよび図2bに示す生存率の結果が確認される。
【0043】
本明細書に記載の全ての実施形態において、窒化インジウム(InN)層の表面は、例えばインジウムトリオキシド(In)、または微量の水素などの不純物を有する薄層を含むことができる。
【0044】
利用
窒化インジウム電極に対するバイオファウリング阻害の驚くべき効果に基づいて、さまざまな用途が実現可能であり、そのうちいくつかは実施例として記載されているが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
本発明の好ましい実施形態では、埋め込み可能デバイスは、埋め込み可能電極を備える。電極は、生物学的細胞または組織と直接接触するための少なくとも1つの部分を含む。この部分はInNからなり、生物学的細胞または生体組織へのまたは生物細胞または組織からの電気信号の伝達を可能にする。特に、電極は、細胞活性をプロービング/検知するため、または細胞または組織に電気インパルスを伝達するために使用することができる。電極はまた、2つの細胞または組織領域の間の電気的接続を提供するために使用されてもよく、この場合、各領域には電極の特定のInN部分が直接接触する。
【0046】
以下の実施形態において、類似の概念には、類似の参照符合が付されている。例えば、符合10、20、30、・・・は、別個の実施形態にわたる本発明による埋め込み可能デバイスの電極を特定するために使用される。
【0047】
図4は、本発明による埋め込み可能デバイスの電極10の実施形態を示す。明確化のために、電極10のみが示されている。一例として、生体細胞または組織に接触するために使用されるInNからなる部分12を含む平面電極が示されている。別の実施形態では、電極は任意の形状とされ、InNからなる複数の部分12を含むことができる。図示されているように、電極10は、InNからなるものではなく、別の導電性または半導電性の材料(導体材料または半導体材料)からなる更なる部分14を少なくとも1つ備えていてもよい。部分14は、生物学的細胞または組織に直接接触するために使用されないので、部分14の毒性およびバイオファウリング要件は、部分12の毒性およびバイオファウリング要件より厳格ではない。部分14の材料は、InN部分12が使用される特定の用途に応じて決めることができる。当業者は、例えば、部分12への、および部分12からの電気信号の伝達を最適化するために、部分14に適切な材料を選択することができるであろう。
【0048】
図5に示す実施形態では、電極20はInNからなる表面部分22を含むワイヤ形状の電極であり、その上でのバイオファウリングを阻害し、接触した細胞に対する毒性が低いことから、生物学的細胞または組織に直接的かつ永続的に接触するのに適している。
【0049】
図6に示す実施形態では、電極30は、電極端部を覆うInN製の表面部分32を含むワイヤ形状の電極である。したがって、電極端部は、バイオファウリングを阻害し、接触した細胞に対して低い毒性を示すので、生物学的細胞または組織に直接および永続的に接触させるのに適したものに作成される。
【0050】
図7に示す本発明の別の実施形態によれば、InN部分42は、好ましくは電極全体を覆う埋め込み可能な電極40のコーティングである。生体適合性の表面を提供するためにも使用される既知のポリマーコーティングと比較して、InNコーティング42は、周囲の細胞または組織に対する毒性が低いという更なる利点を有する。
【0051】
図8の実施形態に示すように、部分52は電極50全体を含むことができる。図示の例では、バルクのInN電極50は基板51上に支持され、基板51は、電極50が使用される用途に応じて、導電性または絶縁性基板であり得る。
【0052】
図9は、基板61によって支持された、本発明による埋め込み可能なデバイスの別の電極60を示す。生物学的細胞または組織に直接的かつ永続的に接触するのに適し、そこから、および/またはそこへ電気信号を伝達するための上層62とは別に、電極60は、生物学的細胞または組織に直接接触するのに適していない1つ以上の下層64を更に含む。
【0053】
上記の結果および説明から、本発明による電極は、埋め込まれたデバイスとデバイスが埋め込まれた組織との間で、そのようなデバイス間で、またはそのような組織間で永続性のある電気的接続を確立することを可能にする、埋め込み可能な電極であることは明白であろう。PC12細胞株との良好な適合性の結果として、本発明による電極は、脳の正確な領域の選択的な刺激/プロービングが必要な脳−コンピュータインタフェースでの用途で特に使用される。上記のInNを含む電極部分は、CVDなどの既知の方法によって製造することができ、そのような既知の方法は、それを説明すると本明細書の記載内容以外にも及ぶが、当業者の知識の範囲内である。InN部分、層またはコーティングは、厚い層または薄い層として、好ましくはマイクロまたはナノスケールの寸法のものとして製造することができる。電極は特に、基板上のプリント回路の一部として提供されてもよい。
【0054】
本発明の更なる実施形態によれば、生物学的細胞または組織101に直接接触するためのInN製の少なくとも1つの部分112を含む少なくとも1つの電極110を含む、埋め込み可能な電子デバイス100が提供される。埋め込み可能なデバイスは、当業者には公知であり、本明細書では詳細に説明しない信号処理手段102を備える。信号処理手段は、受信信号を増幅またはフィルタリングするための手段を含むことができる。信号処理手段は、生体組織に直接接触する電極に動作可能に接続される。
【0055】
したがって、電極110は、細胞または組織から発せられた信号を信号処理手段102に送信するために、または処理された信号を細胞または組織に送信するために使用され得る。後者の場合、埋め込み可能なデバイスは、図示されていない信号発生手段、例えば可変電圧源または可変電流源、および信号処理経路への入力部としての適切な制御/処理手段を更に含むことができる。このような手段は当業者には公知である。
【0056】
埋め込み可能なデバイスは、埋め込まれたデバイスへの信号、またはそれから受信した信号を処理または送信するために、MOSFETなどの機能化された構成要素または半導体を更に含むことができる。前記構成要素は、好ましくは、埋め込み可能なデバイスの共通基板上に設けられる。
【0057】
本発明の範囲内の様々な変更および修正は当業者には明らかであることから、特定の好ましい実施形態の詳細な説明は、例示のためだけに与えられていることを理解されたい。別段の指定がない限り、本発明の記載された実施形態の特徴は、他の実施形態の文脈で説明された特徴と組み合わせることができる。実施形態にわたる特徴の分離は、本質的に、それぞれの説明の明瞭化のためになされている。本発明の範囲は、特許請求の範囲の請求項の記載によって特定される。
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