特許第6636037号(P6636037)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6636037成形ガラス物品および該成形ガラス物品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6636037
(24)【登録日】2019年12月27日
(45)【発行日】2020年1月29日
(54)【発明の名称】成形ガラス物品および該成形ガラス物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 23/023 20060101AFI20200120BHJP
   C03C 21/00 20060101ALI20200120BHJP
   C03B 27/044 20060101ALI20200120BHJP
【FI】
   C03B23/023
   C03C21/00 101
   C03B27/044
【請求項の数】27
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2017-549382(P2017-549382)
(86)(22)【出願日】2015年3月20日
(65)【公表番号】特表2018-512363(P2018-512363A)
(43)【公表日】2018年5月17日
(86)【国際出願番号】CN2015074682
(87)【国際公開番号】WO2016149861
(87)【国際公開日】20160929
【審査請求日】2017年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】512139847
【氏名又は名称】ショット グラス テクノロジーズ (スゾウ) カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SCHOTT GLASS TECHNOLOGIES (SUZHOU) CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100156812
【弁理士】
【氏名又は名称】篠 良一
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】フオン ホー
(72)【発明者】
【氏名】ニン ダー
(72)【発明者】
【氏名】プオンシアン チエン
【審査官】 吉川 潤
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−013774(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/196500(WO,A1)
【文献】 特開2015−034123(JP,A)
【文献】 特表2013−528561(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/139147(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 23/02 − 23/027
C03C 21/00
C03B 27/00 − 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの表面と、前記2つの表面を連結する1つ以上の端面とを有し、前記2つの表面の間に一定の厚さを有する、成形された超薄板ガラス物品であって、該成形された超薄板ガラス物品は、外力が加えられなくても、最小曲率半径Rを有するゼロにならない表面曲率を有する少なくとも1つの湾曲領域を備えており、前記少なくとも1つの湾曲領域の曲率は、本質的に一次元であり、前記成形された超薄板ガラス物品は、アルカリ含有ガラス組成物を含み、
前記ガラス物品は、湾曲領域において、曲げても破損を生じることなく、Rとは異なる、目標最小曲率半径R’に形状を変化させることができることにより、湾曲領域においてゼロにならない静表面引張応力が生じ、生ずる静表面引張応力は、
【数1】
を越えることはなく、前記式中、
− Lrefは、応力負荷された辺長であり、かつ
− Arefは、超薄板ガラス試片の側面の応力負荷された表面積であり、
− σ ̄aは、超薄板ガラス試片の側面内で応力負荷された表面領域内に生ずる該試片の破断時の引張応力の中央値であり、かつ
− σ ̄eは、超薄板ガラス試片の端面から応力負荷された辺長内に広がる該試片の破断時の引張応力の中央値であり、
− ΔeおよびΔaは、それぞれ、該試片の端面での、または側面内での該試片の破断時の引張応力の標準偏差(すなわち、中央値σ ̄e、σ ̄aの標準偏差)であり、
− Aappは、超薄板ガラスの1つの側面の表面積であり、かつ
− Lappは、超薄板ガラスの長辺の合計辺長であり、かつ
− Φは、少なくとも半年の時間間隔内で規定される最大破損率である、成形された超薄板ガラス物品。
【請求項2】
前記超薄板ガラス物品の厚さは、0.4mm以下であり、さらに好ましくは0.2mm以下であり、さらに好ましくは0.1mm以下であり、さらに好ましくは0.05mm以下であり、さらに好ましくは0.01mm以下である、請求項1に記載の成形された超薄板ガラス物品。
【請求項3】
前記少なくとも1つの湾曲領域が、前記超薄板ガラス物品全体にわたって広がっていることを特徴とする、請求項1または2に記載の成形された超薄板ガラス物品。
【請求項4】
複数の湾曲領域を有し、前記複数の湾曲領域が、好ましくは交互に変化する曲率を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の成形された超薄板ガラス物品。
【請求項5】
前記少なくとも1つの湾曲領域における最小曲率半径Rは、5000mm以下であり、好ましくは1000mm以下であり、さらに好ましくは500mm以下であり、かつ好ましくは1mm以上であり、さらに好ましくは3mm以上であり、さらに好ましくは10mm以上であり、さらに好ましくは30mm以上であり、さらに好ましくは50mm以上であることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の成形された超薄板ガラス物品。
【請求項6】
前記少なくとも1つの湾曲領域は、熱曲げ、熱的スランピング、熱的モールド成形および/または不均衡表面圧縮応力負荷のような非精密形成法の結果であることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の成形された超薄板ガラス物品。
【請求項7】
前記少なくとも1つの湾曲領域が、前記不均衡表面圧縮応力負荷の結果であり、前記2つの表面の一方における少なくとも1つの湾曲領域における表面圧縮応力および/または層の深さが、もう一方の表面での表面圧縮応力および/または層の深さよりも大きいことにより、両方の表面の表面圧縮応力および/または層の深さは、超薄板ガラス物品の内部引張応力に対して不均衡であることを特徴とする、請求項6に記載の成形された超薄板ガラス物品。
【請求項8】
大きい方の表面圧縮応力は、10MPaから1200MPaまでの範囲にあり、かつ小さい方の表面圧縮応力は、好ましくは大きい方の表面圧縮応力の90%以下、さらに好ましくは50%以下、さらに好ましくは30%以下であり、好ましくは小さい方の表面圧縮応力がゼロになることを特徴とする、請求項7に記載の成形された超薄板ガラス物品。
【請求項9】
前記少なくとも1つの湾曲領域における不均衡表面圧縮応力および/または層の深さは、超薄板ガラス物品の表面の不均衡アニールおよび/または超薄板ガラス物品の表面上での一様でないイオン交換表面層の結果であることを特徴とする、請求項7または8に記載の成形された超薄板ガラス物品。
【請求項10】
不均衡表面圧縮応力および/または層の深さは、一様でないイオン交換表面層の結果であり、該イオン交換表面層が、大きい方の表面圧縮応力を有する表面において、1μmから50μmまでの範囲の、好ましくは1μmから30μmまでの範囲の、さらに好ましくは1μmから10μmまでの範囲の層の深さDoLを有することを特徴とする、請求項9に記載の成形された超薄板ガラス物品。
【請求項11】
前記最大破損率Φは、0.1を下回る、好ましくは0.05を下回る、請求項1〜10のいずれかに記載の成形された超薄板ガラス物品。
【請求項12】
前記曲率半径Rから前記目標曲率半径R’への偏差は、50%以下、好ましくは25%以下、さらに好ましくは20%以下、さらに好ましくは10%以下であることを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載の成形された超薄板ガラス物品。
【請求項13】
前記湾曲領域において生ずる静表面引張応力と、超薄板ガラス物品の平均破断応力との比率は、20%以下であり、好ましくは10%以下であり、さらに好ましくは5%以下であり、さらに好ましくは1%以下であることを特徴とする、請求項1〜12のいずれかに記載の成形された超薄板ガラス物品。
【請求項14】
前記少なくとも1つの湾曲領域において生ずる静表面引張応力は、75MPa未満、好ましくは20MPa以下であり、さらに好ましくは10MPa以下であり、さらに好ましくは3MPa以下であり、さらに好ましくは1MPa以下である、請求項1〜13のいずれかに記載の成形された超薄板ガラス物品。
【請求項15】
前記成形された超薄板ガラス物品が、湾曲領域において、目標表面上に積層されている、特にRとは異なる目標曲率半径R’を有する目標表面上に、形状を変えて積層されていることを特徴とする、請求項1から14までのいずれか1項に記載の成形された超薄板ガラス物品。
【請求項16】
前記少なくとも1つの湾曲領域の曲率は本質的に一次元であり、1つの表面方向において本質的に一定の曲率を有する、請求項1から15までのいずれか1項に記載の成形された超薄板ガラス物品。
【請求項17】
最小積層曲率半径R’を有する湾曲領域を有する積層表面を備えたデバイスであって、請求項1から16までのいずれか1項に記載の成形された超薄板ガラス物品が該積層表面に積層されており、好ましくはR’がRと等しくないデバイス。
【請求項18】
求項1から16までのいずれか1項に記載の超薄板ガラス物品の製造方法であって、
− 2つの表面と、前記2つの表面を連結する1つ以上の端面とを有し、前記2つの表面の間に一定の厚さを有する超薄板ガラスを準備するステップ、
− 成形された超薄板ガラス物品に対して外力を適用しなくても、最小曲率半径Rを有する、ゼロにならない表面曲率を有する少なくとも1つの湾曲領域を形成することによって、前記超薄板ガラスを、成形された超薄板ガラス物品へと成形するステップ
を含み、
記少なくとも1つの湾曲領域の形成は、本質的に一次元の曲率の形成を含み、
前記湾曲領域においてRとは異なる積層曲率半径R’を有する積層表面上に、特にデバイスの積層表面上に、前記成形された超薄板ガラス物品を、形状を変えて積層することによって、前記成形された超薄板ガラス物品を再成形することを含み、こうして生ずる静引張応力は、
【数3】
を越えることはなく、前記式中、
− Lrefは、応力負荷された辺長であり、かつ
− Arefは、超薄板ガラス試片の側面の応力負荷された表面積であり、
− σ ̄aは、超薄板ガラス試片の側面内で応力負荷された表面領域内に生ずる該試片の破断時の引張応力の中央値であり、かつ
− σ ̄eは、超薄板ガラス試片の端面から応力負荷された辺長内に広がる該試片の破断時の引張応力の中央値であり、
− ΔeおよびΔaは、それぞれ、該試片の端面でのまたは側面内での該試片の破断時の引張応力の標準偏差(すなわち、中央値σ ̄e、σ ̄aの標準偏差)であり、
− Aappは、超薄板ガラスの1つの側面の表面積であり、かつ
− Lappは、超薄板ガラスの長辺の合計辺長であり、かつ
− Φは、少なくとも半年の時間間隔内で規定される最大破損率である、製造方法。
【請求項19】
超薄板ガラスを成形する前記ステップは、前記超薄板ガラスの湾曲されるべき少なくとも1つの領域に、熱曲げ、熱的スランピング、熱的モールド成形および/または不均衡表面応力負荷を含む非精密形成法を適用することを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記不均衡表面応力負荷は、超薄板ガラスの表面の不均衡アニールおよび/または超薄板ガラスの表面上での一様でないイオン交換を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記一様でないイオン交換は、超薄板ガラスに、アルカリ金属塩、好ましくはNaNO3、Na2CO3、NaOH、Na2SO4、NaF、Na3PO4、Na2SiO3、Na2Cr27、NaCl、NaBF4、Na2HPO4、K2CO3、KOH、KNO3、K2SO4、KF、K3PO4、K2SiO3、K2Cr27、KCl、KBF4、K2HPO4、CsNO3、CsSO4、CsClのアルカリ金属塩の1つ以上を適用することを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記一様でないイオン交換は、アルカリ金属塩浴中に超薄板ガラスを完全に、または部分的に、15分〜48時間にわたって、好ましくは350℃から700℃の間の温度で浸漬することを含む、請求項20または21に記載の方法。
【請求項23】
前記一様でないイオン交換は、前記アルカリ金属塩を含むペーストを、前記表面の一方または両方に適用して、前記超薄板ガラスをアニールすることを含み、好ましくは前記ペーストは、アニール前に100℃〜300℃の温度で2時間〜10時間にわたって乾燥される、請求項20〜22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
前記不均衡表面応力負荷は、湾曲されるべき少なくとも1つの領域における少なくとも1つの表面をマスキングすること、好ましくは表面応力負荷を完全に、または部分的に防ぐカバーまたはコーティングを適用することによってマスキングすることを含む、請求項20〜23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
前記最大破損率は、0.1を下回る、好ましくは0.05を下回る、請求項18〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
前記少なくとも1つの湾曲領域の形成は、1つの表面方向で本質的に一定の曲率を有する本質的に一次元の曲率の形成を含む、請求項18〜25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
請求項1から16までのいずれか1項に記載の成形された超薄板ガラス物品または請求項18〜26のいずれかに記載の方法によって製造された、成形された超薄板ガラス物品の、ディスプレイとしての、ディスプレイカバーとしての、特にOLEDディスプレイ、OLED照明、センサ、特にタッチセンサまたは指紋センサ、薄膜電池、PCB/CCL、コンデンサ、電子ペーパーまたはMEMS/MOEMSのための使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの表面と、該2つの表面を連結する1つ以上の端面とを有する成形ガラス物品であって、該2つの表面の間に一定の厚さを有し、かつ少なくとも1つの湾曲領域を有する成形ガラス物品に関する。さらに本発明は、前記成形ガラス物品の製造方法および前記成形ガラス物品の使用に関する。さらに本発明は、前記成形ガラス物品が積層されたデバイスに関する。
【0002】
発明の背景
大衆消費電化製品の市場では、湾曲した表面を特徴とする電子デバイス、例えばディスプレイのためのガラス物品がますます必要とされている。これらの例には、視聴体験を向上するか、または取り扱いを容易にするための、パノラマTVスクリーンまたは湾曲した携帯電話ディスプレイが含まれる。そのようなガラス物品の用途には、成形の間に高い精度が要求される。それというのも、ガラスを所定の形状から曲げる必要がある場合に、その疲労寿命が大幅に低下するからである。製造の間の加工から生ずる端面または表面にある、避けることができない固有の欠陥は、一定時間後にガラスの破断をもたらすこととなる。ガラスに外力が加わると、例えばガラスが曲げられると、その端面および表面に引張応力が引き起こされ、この引張応力は既に存在する欠陥中で伝播して成長し、最終的にはガラスの破断が引き起こされる。ガラスの所定の形状からの小さな撓みでさえも、積層の間に、または短い耐用年数の後に静疲労による破断につながる。従って、成形ガラス物品または相応の成形法について許容範囲は非常に狭い。すなわち、その所定の形状における応力の無い適用のためには、高精度の成形が必要とされる。従って、例えばガラス瓶、トレイまたはボウルを得るために広く用いられる熱的成形といった従来の方法は、そのような大衆消費電化製品におけるガラス用途のためには適していない。
【0003】
必要とされる精度を有する成形ガラスは、例えば高精度の熱曲げまたは熱的スランピングによって得ることができる。熱曲げは、平坦なガラスを加熱し、それを高精度表面を有する2つの成形型の間で所望の形状に加圧することを含む。熱的スランピングでは、加熱されたガラスを重力の作用下に変形させて、下にある成形型に適合される。熱曲げは、例えば圧力または真空を印加することによって補助することができる。いずれの場合も加熱温度は比較的低くてよく、一般的にガラスの転移温度Tgを約20℃〜30℃上回るのみである。加熱は通常、赤外線(IR)加熱によって達成される。1つ以上の成形型は、通常は機械研磨された炭化タングステンでできており、成形ガラスについて必要とされる表面品質および精度を保証するために追加のコーティングがなされている。このような成形型は高価であり、限られた耐用寿命を有しているにすぎない結果、そのような成形法は大量生産のために適していない。
【0004】
簡単に成形することが可能なプラスチック材料がガラスの代わりに使用されている。しかしガラスは、例えばより良好な透光性、より良好な硬度および水蒸気耐性を有し、一般的により良好な劣化防止性能を有するあらゆる公知のプラスチック材料よりも、多くの点で優れており、従って一般的には好ましい。
【0005】
また大衆消費電化製品は、最終製品の体積と重さを最小限に保つために薄板ガラス物品を必要とする。さらに、特にウエアラブルデバイス、例えばスマートフォンまたはタブレットに関して、日常的な使用における機械的応力および機械的衝撃に耐えることができる十分に高い耐久性を有する、軽量かつ省スペースのガラス物品を得ることが常に求められている。体積および重さの削減が望まれることを考慮して、例えばその下にある構成部品を十分に保護するために必要とされる強度を有する薄板ガラス物品が求められている。厚さが薄くなるにつれ、より厚いガラスと比較して、ガラスはより脆くなり、取り扱いおよび加工の間に破損しやすくなる。従って、例えば米国特許出願公開第2014/050911号明細書(US2014/050911)および米国特許出願公開第2010/119846号明細書(US2010/119846)に記載されるように、薄板ガラスを化学強化することは慣用の手段である。化学強化または靱化は、ガラス表面中にある比較的小さいイオンと、例えば塩浴からの比較的大きいイオンとを交換することによってガラスの強度を高めることである。ガラスネットワーク中に存在する、交換された、大きい方のイオンは、イオン交換された表面層に表面圧縮応力をもたらす。イオン交換されたガラスを説明するための典型的なパラメータは、層の深さ(DoL)および生じた表面圧縮応力(CS)である。
【0006】
本発明の課題は、先行技術の欠点を克服する成形ガラス物品およびそのような成形ガラス物品の製造方法を提供することである。特に、本発明の課題は、簡単かつコスト効率良く製造することができる成形ガラス物品およびそのような成形ガラス物品の製造方法を提供することである。本発明のもう一つの課題は、広い範囲の用途を有する、特に電子デバイスで使用するための成形ガラス物品およびそのような成形ガラス物品の製造方法を提供することである。本発明の更なる課題は、現実的な疲労寿命を有し、形状を変えて積層することができる成形ガラス物品およびそのような成形ガラス物品の製造方法を提供することである。さらに、本発明の一つの課題は、そのような成形ガラス物品を有するデバイスを提供することである。
【0007】
発明の詳細な説明
本明細書では、以下の用語および略語を採用する。
【0008】
− 用語「ガラス物品」は、ガラスおよび/またはガラスセラミック製のあらゆる物体を含むその最も広い意味で使用される。本明細書で使用される場合に、超薄板ガラスとは、特に記載がない限り、0.4mm以下の厚さを有するガラスおよびガラス物品を指す。ガラス組成は、例えばSCHOTT(登録商標)によってPCT/CN2013/072695に記載されるように、超薄板成形および超薄板ガラスを要する用途のために最適化される。
【0009】
− 圧縮応力(CS):ガラスネットワーク中で、例えばイオン交換された、または熱的にアニールされた表面層に生ずる応力。CSは、光学的原理を基礎とする市販の応力測定装置FSM6000によって測定することができる。
【0010】
− 層の深さ(DoL):イオン交換が行われて圧縮応力が生じたガラス表面層の厚さ。DoLは、光学的原理を基礎とする市販の応力測定装置FSM6000によって測定することができる。同様に、層の深さは、例えば熱的アニールのようなその他の方法によって引き起こされた表面圧縮応力層の場合にも定義することができる。
【0011】
− 内部引張応力(CT):イオン交換されたガラス表面層中に生ずる圧縮応力を打ち消し合うガラスの層間に発生する引張応力。CTは、測定されたCSおよびDoLから計算することができる。
【0012】
平均破断強度(σbreak):本明細書における平均破断強度とは、試片の破断に際しての超薄板ガラスの試片の平均引張応力を指す。σbreakは、2点曲げ試験によって測定することができる。
【0013】
本発明の課題は、独立形式請求項に記載の成形ガラス物品および成形ガラス物品の製造方法によって解決される。さらに、本発明の課題は、該成形ガラス物品の使用によって解決される。
【0014】
本発明による成形ガラス物品は超薄型であり、2つの表面と該2つの表面を連結する1つ以上の端面とを有し、かつ該2つの表面の間に一定の厚さを有する。成形された超薄板ガラス物品は、外力が加えられない限り、最小曲率半径Rを有する、ゼロにならない表面曲率を有する少なくとも1つの湾曲領域を備えている。この湾曲領域は好ましくは、低精度の形成過程の結果であり、すなわち曲率半径Rは、目標半径R’から本質的に、特に最大50%まで相違していてよく、その際、R≠R’であり、かつ目標半径R’は、該成形ガラス物品が、相応して湾曲した対象物に施与される予定のまたは施与される箇所での、例えば積層表面に積層される、目標とする、または積層される箇所での半径である。好ましい一実施形態においては、曲率半径Rは、目標半径R’から少なくとも1%相違している。
【0015】
本発明による成形された超薄板ガラス物品は、外部応力または外力を加えることなくその形状を維持する。湾曲領域は一般的に幾つかの方向で、例えば平坦なガラス物品における凹みまたは窪みのように湾曲されてよいが、少なくとも1つの湾曲領域の曲率は、好ましくは本質的に一次元であり、1つの表面方向で好ましくは本質的に一定の曲率を有している。それに関して、本質的に一次元の曲率とは、例えば円柱、双曲柱、放物柱または任意形状の柱状物の表面区間での場合のように、1つの表面方向における曲率を指しており、本質的に曲率の表面方向に対して垂直方向での曲率を指すものではない。
【0016】
驚くべきことに、低い精度の要件で成形された超薄板ガラスを、精度の高い適合が必要とされる用途で広く利用できることが判明した。本発明は、所定の形状から、所定の形状とは異なった、特定の目標形状へとガラスを曲げる力が、ガラスの厚さの三乗に比例することにより、より薄いガラスを正確に成形する必要はなく、そして静疲労による寿命の大きな損失なく、またはガラスを曲げる間に破損の危険を冒すことなく所定の最終形状に近い形状から目標形状へと曲げることができるという知見に基づくものである。このことは、比較的厚いガラスでは不可能である。それというのも、例えば0.5mm厚の平坦なガラスシートの場合、50mmの曲げ半径は、例えば約375MPaの静応力をもたらすが、これは典型的なガラスの約100MPaという破断強度よりもかなり高いからである(以下の図1を参照)。積層の間に即座に破断するうえに、375MPa(または375N/mm2)より高い引張強さに耐えうる接着剤、例えば光学透明接着剤(OCA)が必要となり、これは多くのガラス用接着剤について問題となる。それに対して、0.05mm厚の平坦なガラスシートを50mmの曲率半径の表面に積層すると、約37.5MPaの静応力が生じるのみであり、これは、殆どの0.05mm厚のガラスの破断応力を下回っている。しかしながら、37.5MPaの静応力も依然として殆どのOCAについては問題であり、ガラスの静疲労により依然として寿命が制限されることがある。
【0017】
目標曲率半径がR’であり、かつ成形された超薄板ガラス物品の少なくとも1つの湾曲領域における曲率がRであり、厚さがtであり、かつヤング率がEであると仮定する。静応力σstatは、成形された超薄板ガラス物品が曲率Rから目標曲率R’に曲げられる場合に、
【数1】
と近似させることができる。
【0018】
平坦な超薄板ガラスの場合には、曲げ半径Rは、無限の大きさを有するものとみなすことができるため、静応力は、σstat=tE/2R’によって近似させることができる。平坦な超薄板ガラスと比較すると、既に精度の低い湾曲領域を有する、すなわち曲率Rを有する湾曲領域を有する、最終形に近い形状に成形された超薄板ガラス物品を得ることによって、静応力は大幅に低減される。これにより2つの主要な利益がもたらされる。静応力がガラスの破断応力より低いこと、そして静応力が低いことにより疲労寿命がより長いことから、より小さい曲率半径が可能となる。
【0019】
例えば、目標曲率が半径50mmの場合に、本発明により50±5mmの精度の低い曲率を有する、厚さ0.05mmの成形された超薄板ガラス物品は、(より厚いガラスの場合の、例えば±0.1mmの高精度公差要求に対して)著しく低いコストで製造することができる。静応力は、平坦なガラスを目標曲率に曲げる場合と比べてかなり低減され、わずか約10%である、すなわち静応力は37.5MPaから3.75MPaにまで減少する。従って、成形された超薄板ガラス物品を対象物の形状にするための外力は、例えばガラス物品を目標曲率を有する湾曲表面に積層するために使用されるOCAによって提供される程度に小さいものとなる。さらに、静応力は、ガラスの破断応力をはるかに下回り、特に積層されたガラスの現実的な寿命を保証するために十分な程度の低さとなる。
【0020】
前記知見に基づいて、超薄板ガラス物品、すなわち0.4mm以下の厚さを有するガラスまたはガラスシートについて、低精度の、最終形に近い形状を有するガラス物品を得て、その後に該ガラス物品を、外力によって目標とする高精度の形状へと曲げることで十分である。本発明は、0.4mm以下の厚さを有する超薄板ガラス物品のために有利であるが、超薄板ガラス物品は、好ましくは0.2mm以下の、さらに好ましくは0.1mm以下の、さらに好ましくは0.05mm以下の、さらに好ましくは0.01mm以下の厚さを有する。選択される好ましい厚さは、5μm、10μm、15μm、25μm、30μm、35μm、50μm、55μm、70μm、80μm、100μm、130μm、145μm、160μm、190μm、210μmまたは280μmである。
【0021】
好ましい一実施形態では、少なくとも1つの湾曲領域は、超薄板ガラス物品全体にわたって広がっている。言い換えると、成形ガラス物品全体は、一定であってよい、すなわち最小曲率半径Rを有する曲率を有するか、または不均一であってよい曲率、例えば最小曲率半径Rを有する放物曲率もしくは双曲曲率を有する。従って、本発明による、低精度で成形された超薄板ガラス物品は、本質的に、高精度の用途において、例えば軽量放物面鏡において利用することもできる。その他の実施形態においては、成形された超薄板ガラス物品は、幾つかの湾曲領域を有してよく、好ましくは交互に変化する曲率を有する領域を有してよい。幾つかの湾曲領域における曲率は、異なっていても、または同じであってもよく、こうしてそれぞれ不規則なまたは規則的な波形形状がもたらされる。
【0022】
好ましくは、少なくとも1つの湾曲領域における最小曲率半径Rは、5000mm以下であり、好ましくは1000mm以下であり、さらに好ましくは500mm以下である。同時に、最小曲率半径Rは、好ましくは1mm以上、さらに好ましくは3mm以上、さらに好ましくは10mm以上、さらに好ましくは30mm以上、さらに好ましくは50mm以上である。しかしながら、本発明による、成形された超薄板ガラス物品は、有利には破断されず、かつ十分な疲労寿命が可能な、本質的に任意の最小曲率半径で適用することもできるものと理解されるべきである。
【0023】
成形ガラス物品のガラスは、好ましくはアルカリ含有ガラス組成物を含む。好ましいガラスは、例えばリチウムアルミノケイ酸塩ガラス、ソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸塩ガラス、アルカリ金属アルミノケイ酸塩ガラスおよび低アルカリ含量を有するアルミノケイ酸塩ガラスである。そのようなガラスは、ドロー法、例えばダウンドロー法、オーバーフローフュージョン法またはフロート法によって製造することができる。これらのガラスは、イオン交換処理をガラスに適用する場合には特に適している。好ましい一実施形態においては、超薄板ガラス物品は、以下の組成(質量%):
【表1】
を有するリチウムアルミノケイ酸塩ガラスである。
【0024】
好ましくは、リチウムアルミノケイ酸塩ガラスは、以下のガラス組成(質量%):
【表2】
を有する。
【0025】
さらに好ましくは、リチウムアルミノケイ酸塩ガラスは、以下のガラス組成(質量%):
【表3】
を有する。
【0026】
もう一つの好ましい実施形態においては、超薄板ガラス物品は、以下の組成(質量%):
【表4】
を有するソーダ石灰ガラスである。
【0027】
好ましくは、ソーダ石灰ガラスは、以下のガラス組成(質量%):
【表5】
を有する。
【0028】
さらに好ましくは、ソーダ石灰ガラスは、以下のガラス組成(質量%):
【表6】
を有する。
【0029】
もう一つの好ましい実施形態においては、超薄板ガラス物品は、以下の組成(質量%):
【表7】
を有するホウケイ酸塩ガラスである。
【0030】
好ましくは、ホウケイ酸塩ガラスは、以下の組成(質量%):
【表8】
を有する。
【0031】
さらに好ましくは、ホウケイ酸塩ガラスは、以下の組成(質量%):
【表9】
を有する。
【0032】
もう一つの好ましい実施形態においては、超薄板ガラス物品は、以下の組成(質量%):
【表10】
を有するアルカリ金属アルミノケイ酸塩ガラスである。
【0033】
好ましくは、アルカリ金属アルミノケイ酸塩ガラスは、以下の組成(質量%):
【表11】
を有する。
【0034】
さらに好ましくは、アルカリ金属アルミノケイ酸塩ガラスは、以下の組成(質量%):
【表12】
を有する。
【0035】
もう一つの好ましい実施形態においては、超薄板ガラス物品は、以下の組成(質量%):
【表13】
を有する低アルカリ含量を有するアルミノケイ酸塩ガラスである。
【0036】
好ましくは、低アルカリ含量を有するアルミノケイ酸塩ガラスは、以下の組成(質量%):
【表14】
を有する。
【0037】
さらに好ましくは、低アルカリ含量を有するアルミノケイ酸塩ガラスは、以下の組成(質量%):
【表15】
を有する。
【0038】
本発明で使用されるガラス、特に上述のガラスは、変性されていてもよい。例えば、ガラスの色は、遷移金属イオン、希土類イオン、例えばNd23、Fe23、CoO、NiO、V25、MnO2、TiO2、CuO、CeO2、Cr23を添加することによって変更することができる。そのような変色剤を含めることで、例えば、大衆消費電化製品のデザイン、例えば背面を隠すための必要色を豊かにすることができ、または超薄板ガラス物品のために追加の機能を、例えばカラーフィルタとしての機能を与えることができる。さらに、光学的機能を与えるために、発光性イオン、例えば遷移金属イオンおよび希土類イオンを、例えば光増幅体、LED、チップ型レーザー等のために添加することができる。特に、0質量%〜5質量%の希土類酸化物を、磁気的機能、光子機能または光学的機能を導入するために添加することができる。さらに、清澄剤、例えばAs23、Sb23、SnO2、SO3、Cl、Fおよび/またはCeO2を、ガラス組成物中に0質量%〜2質量%の量で添加することができる。
【0039】
Ag+含有塩浴またはCu2+含有塩浴中でガラス物品のイオン交換を適用することによって、ガラス物品に抗微生物機能を与えることもできる。イオン交換後に、Ag+またはCu2+の濃度は、1ppmより高く、好ましくは100ppmより高く、より好ましくは1000ppmより高い。抗微生物機能を有する超薄板ガラスは、病院で使用されるコンピュータまたはスクリーンのような医療機器および抗微生物機能を有する消費者向け電子機器のために利用できる可能性も考えられる。
【0040】
ガラス組成物の成分の合計は、100質量%となるものと理解されるべきである。そのようなガラスの更なる好ましい別形は、PCT/CN2013/072695に記載されており、この記載を参照することにより本明細書に援用する。
【0041】
少なくとも1つの湾曲領域は、好ましくは、熱曲げ、熱的スランピングおよび/または熱的モールド成形のような非精密形成法により得られたものである。先に述べたように、高精度成形法は一般的に高価であり、従って大量生産に適していない。それに対して、本発明による低精度成形された超薄板ガラス物品は廉価であり、実現が容易な低精度形成法によって形成することができる。熱的スランピングまたは熱曲げのための成形型は、例えばグラファイト製であってよいが、通常は高価な炭化タングステン製であり、これは、製造の間に劣化して、再び研磨の必要が生じる追加のコーティングを必要とする高精度成形型の要求とは異なり、その表面は特殊なコーティングを有しておらず、機械的に研磨されていてよい。
【0042】
その他の形成法に加えて、または単独で適用することが有利な別の低精度形成法は、不均衡表面圧縮応力負荷である。この方法によれば、少なくとも1つの湾曲領域は、不均衡表面圧縮応力負荷により生じたものであり、ここで、超薄板ガラス物品の2つの表面の一方における少なくとも1つの湾曲領域の表面圧縮応力および/または層の深さは、もう一方の表面における表面圧縮応力および/または層の深さよりも大きく、従って、得られる両方の表面の表面圧縮応力および/または層の深さは、超薄板ガラス物品の内部引張応力に対して不均衡である。これに関して表面圧縮応力とは、ガラス物品に固有の一体型の表面圧縮応力を指す。表面圧縮応力および/または層の深さが、内部引張応力に対して不均衡であるため、平坦な超薄板ガラス物品は、内部曲げ力を生ずる。超薄型の厚さのため、この曲げ力の大きさは、その超薄板ガラス物品を緩く湾曲した形状へと撓ませるのに十分である。不均衡な表面圧縮応力は、例えば、成形された超薄板ガラス物品を平坦な形状にするときに測定することができる。
【0043】
表面圧縮応力の大きい方の最大値は、好ましくは10MPaから1200MPaまでの範囲にあり、その際、小さい方の表面圧縮応力は、好ましくはその大きい方側の表面圧縮応力のせいぜい90%、さらに好ましくはせいぜい50%、さらに好ましくはせいぜい30%であり、ここで、好ましくは小さい方の表面圧縮応力はゼロになる。表面圧縮応力および/または層の深さの相違の具体的な選択は、所定の要件項目、例えばガラス物品の厚さ、および必要とされる曲率半径に依存する。不均衡表面圧縮応力負荷および不均衡圧縮表面応力を有する成形された超薄板ガラス物品自体は、本発明の態様を構成し、従って、本明細書に記載される更なる特徴とは無関係に、1つの発明とみなされる。この点で、表面圧縮応力負荷は、不均衡表面圧縮応力および/またはその表面圧縮応力が確立された層の深さとすることを含む。
【0044】
不均衡表面応力および/または層の深さは、低いコストで簡単に実現することができる。好ましくは、少なくとも1つの湾曲領域における不均衡表面圧縮応力および/または層の深さは、超薄板ガラス物品の表面の不均衡アニールおよび/または超薄板ガラス物品の表面での表面層の一様でないイオン交換により得られたものであり、こうして、超薄板ガラス物品は、不均衡アニール表面および/または一様でないイオン交換表面層を有する。
【0045】
湾曲領域における2つの表面の不均衡アニールは、異なる表面応力および/または層の深さをもたらす。不均衡アニールは、直列式プロセスとして、例えば超薄板ガラスの製造の間に、例えばダウンドロー法における表面の不均衡冷却によって達成することができる。あるいは、不均衡アニールは、非連結式に後続過程として、後に本発明による、成形された超薄板ガラス物品へと成形される半完成品の超薄板ガラスシートの製造後に適用することができる。
【0046】
不均衡表面応力および/または層の深さを実現するためのもう一つの好ましい方法は、超薄板ガラス物品の湾曲領域における、両方の表面での不均一または一様でないイオン交換である。ガラスシートの表面における均一なイオン交換は、ガラス物品の強化に関して良く知られている。それに対して、平坦なガラス物品を成形するための不均衡イオン交換は、超薄板ガラス物品の成形のためには新規の方法であり、従って本発明の独立した態様を構成する。同様に、両方の表面に一様でないイオン交換表面層を有する成形された超薄板ガラス物品は、独立した発明を構成する。不均衡イオン交換によって、ガラス物品の両方の表面に一様でないイオン交換表面層が得られ、それに伴って一様でない表面圧縮応力および/または一様でない層の深さが得られる。イオン交換パラメータ、例えば層の深さDoLおよび/または表面圧縮応力CSを調整することによって、湾曲領域における曲率を制御することができる。DoLおよびCSは、表面座標xの関数であり得るので、可変的なプロフィール、ひいては可変的な曲率を実現することができる。従って、該方法は、有利には、超薄板ガラス物品を低精度で成形して、廉価で製造が容易な、成形された超薄板ガラス物品を得るための簡単かつコスト効率の良い方法を提供する。しかしながら、この方法は、有利には、特定の用途で必要であれば、高精度成形法として適用することもできるものと理解されるべきである。
【0047】
好ましくは、大きい方の表面圧縮応力を有する表面のイオン交換表面層は、1μmから50μmまでの範囲の、好ましくは1μmから30μmまでの範囲の、さらに好ましくは1μmから10μmまでの範囲の、さらに好ましくは1μmから3μmまでの範囲の層の深さ(DoL)を有する。特に好ましいパラメータは、一般的に、超薄板ガラス物品の必要なパラメータに依存する。
【0048】
好ましい実施形態においては、湾曲領域における表面圧縮応力の差ΔCSと、大きい方の圧縮応力を有する表面のイオン交換表面層の層の深さの差ΔDoLとの積は、2MPa・μmから30000MPa・μmまでの範囲、好ましくは5MPa・μmから10000MPa・μmまでの範囲、さらに好ましくは50MPa・μmから2500MPa・μmまでの範囲にある。
【0049】
以下の第1表は、超薄板ガラス物品の幾つかの例示的な厚さについての、大きい方の表面圧縮応力を有する表面のDoLおよびCSの範囲の幾つかの好ましい組合せおよびΔCS・ΔDoLを示している。
【0050】
【表16】
第1表:幾つかの例示的な厚さについてのDoL(x)およびCS(x)の範囲
【0051】
第1表の値は、等式
【数2】
から導かれ、式中、Δσは、不均衡イオン交換された超薄板ガラスの曲がった形状に緩和した後の内部引張応力または圧縮応力である。DoLが両側で同じであれば、
【数3】
である。最小のΔCS・ΔDoLは、異なる厚さで、1000mmの半径に基づいて計算され、最大値は、(DoLmax・CSmax)/2に基づいて計算される。第1表中の値は例示的なものであり、それぞれの表面に対する定数CS(x)およびDoL(x)の簡単な想定に基づくものであることが留意されるべきである。
【0052】
好ましい一実施形態では、成形された超薄板ガラス物品は、破断することなく、湾曲領域においてRとは異なる目標最小曲率半径R’に形状を変えて曲げることができ、こうして湾曲領域においてゼロとはならない静表面引張応力が得られる。ここで、好ましくは得られる静表面引張応力は、
【数4】
よりも大きくなく、前記式中、
− Lrefは、応力負荷された辺長であり、かつ
− Arefは、超薄板ガラス試片の側面の応力負荷された表面積であり、
− σ ̄aは、超薄板ガラス試片の側面内で応力負荷された表面領域内に生ずる該試片の破断時の引張応力の中央値であり、かつ
− σ ̄eは、超薄板ガラス試片の端面から応力負荷された辺長内に広がる該試片の破断時の引張応力の中央値であり、
− ΔeおよびΔaは、それぞれ、該試片の端面でのまたは側面内での該試片の破断時の引張応力の標準偏差(すなわち、中央値σ ̄e、σ ̄aの標準偏差)であり、
− Aappは、超薄板ガラス物品の1つの側面の表面積であり、かつ
− Lappは、超薄板ガラス物品の長辺の合計辺長であり、かつ
− Φは、少なくとも半年の時間間隔内で規定される最大破損率である。
【0053】
半年より長い寿命が必要とされることが多い。より長期にわたって、例えば10年にわたって低い破断率を保証するために、生ずる静引張応力が、
【数5】
を超えないことが好ましい。
【0054】
好ましくは、最大破損率Φは、0.1を下回り、さらに好ましくは0.05を下回る。
【0055】
0.05mmのガラス厚さ、74.8GPaのヤング率および77mmの最小曲率半径Rを有する、事前に曲げられた超薄板ガラス物品を、その一例とみなすことができる。目標曲率半径R’は、75mmと定められる。最大破損率Φは、0.1と定められる。
【0056】
この試片に関して、表面積ARef=121mm2を有する試片で破断試験を実施した。この例で使用される2点曲げ試験に関連する辺長は、LRef=2mmである。その破断試験により、表面強度に関するパラメーターとしてσ ̄a=421MPa(中央値)およびΔa=35MPa(標準偏差)が得られ、端面強度に関するパラメーターとしてσ ̄e=171MPa(中央値)およびΔe=16.9MPa(標準偏差)が得られた。Aapp=0.06m×0.1m=6×10-32およびLapp=2×0.1m=2×10-1mを関係(4)において使用することで、
【数6】
が得られる。
【0057】
生ずる静応力σstatは、前記の等式(1)および(2)に従って計算することができる。つまり、先の段落に示される例の場合には、生ずる静応力σstatは、約0.65MPaである(等式(2)を用いる)。従って、生ずる静応力は、等式(5)および(6)による最大許容応力よりも断然低い。
【0058】
この例から明らかなように、積層された成形超薄板ガラス物品について生ずる静引張応力は、平坦ガラス物品を目標形状に曲げた場合よりも断然低い。さらに、生ずる静引張応力は、そのガラス試片の長期信頼性を定める値である7MPaよりも低い。
【0059】
好ましい一実施形態では、成形された超薄板ガラス物品は、目標表面上に積層され、特に湾曲領域においてRとは異なる目標曲率半径R’を有する目標表面上に形状を変えて積層される。
【0060】
また本発明は、最小積層曲率半径R’を有する湾曲領域を有する積層表面を有するデバイスであって、本明細書に記載される成形された超薄板ガラス物品が該積層表面に積層されているデバイスに関する。好ましくは、対象物の積層曲率半径R’は、成形された超薄板ガラス物品の少なくとも1つの湾曲領域の最小曲率半径Rと等しくない。従って積層は、例えば当該技術分野で通常使用されるような光学透明接着剤(OCA)によって実現することができ、かつ前記デバイスは、例えば携帯電話もしくはタブレットコンピュータまたは本発明による成形された超薄板ガラス物品を適用することが有利な任意のその他の用途であってよい。
【0061】
好ましい一実施形態では、目標曲率半径R’の最小曲率半径Rとの相違は、50%以下、好ましくは25%以下、さらに好ましくは20%以下、さらに好ましくは10%以下であってよい。一般的に、その相違は、超薄板ガラス物品の製造のために使用される低精度製造法の公差に応じて1%以上である。本発明による成形ガラス物品は、もちろんその相違が1%より小さいか、さもなくばさらに0.1%より小さい場合にも適用できるものと理解されるべきである。しかしながら、本発明の利点は、ガラス物品を所望の高精度曲率で適用するために、該ガラス物品がそのような高精度の形状を有する必要がないことにある。好ましくは、少なくとも1つの湾曲領域において生ずる静表面引張応力と超薄板ガラス物品の平均破断応力との比率は、20%以下であり、好ましくは10%以下であり、さらに好ましくは5%以下であり、さらに好ましくは1%以下である。生ずる静引張応力がこれらの値を超えなければ、超薄板ガラス物品の非常に長期的な信頼性を、さらには耐用期間にわたる信頼性を見込むことができる。言い換えると、デバイスの意図された使用期間中に、ガラスの破損による故障は生じないこととなる。
【0062】
従って好ましくは、少なくとも1つの湾曲領域において生ずる静表面引張応力は75MPa未満、好ましくは20MPa以下、さらに好ましくは10MPa以下、さらに好ましくは3MPa以下、さらに好ましくは1MPa以下である。しかしながら、これらの値は、使用されるガラスの平均破断強度に大きく依存している。例えば以下の第2表に記載の0.1mmの厚さを有するガラスCのような幾つかのガラスは、化学強化後に717MPaの非常に高い平均破断強度を有し、従ってそのままでも、曲げられて形状が変わる場合に生ずる表面引張応力は、疲労寿命の顕著な低下を生じることなく比較的高い。例えば第2表に記載のガラスBまたはCのようなその他のガラスは、強化を行わなくても、150MPaから200MPaの間の平均破断強度を有する。
【0063】
さらに本発明は、成形されたガラス物品、特に本明細書に記載される本発明による、成形された超薄板ガラス物品の製造方法に関する。該方法は、
− 2つの表面と該2つの表面を連結する1つ以上の端面とを有し、該2つの表面の間に一定の厚さを有する超薄板ガラスを準備するステップ、
− 該超薄板ガラスを、成形された超薄板ガラス物品へと成形するにあたり、成形された超薄板ガラス物品に外力が加えられなくても最小曲率半径Rを有するゼロにならない表面曲率を有する少なくとも1つの湾曲領域を形成するステップ、
を含み、その際、
− 好ましくは、該少なくとも1つの湾曲領域の形成には、1つの表面方向で好ましくは本質的に一定の曲率を有する本質的に一次元の曲率の形成が含まれる。
【0064】
好ましい一実施形態においては、超薄板ガラスの成形は、制限されるものではないが、熱曲げ、熱的スランピング、熱的モールド成形および/または不均衡表面応力負荷を含む非精密形成法を、該超薄板ガラスの湾曲されるべき少なくとも1つの領域に適用することを含む。それに関して、不均衡表面応力負荷とは、両方の表面においてガラスの層間に関して不均衡な表面圧縮応力が負荷されて、超薄板ガラス物品の打ち消し合う内部引張応力が生じた層をもたらす方法を指す。好ましくは、不均衡表面応力負荷は、超薄板ガラスの表面の不均衡アニールおよび/または超薄板ガラスの表面上での一様でないイオン交換を含む。
【0065】
一様でないイオン交換は、好ましくは、超薄板ガラスにアルカリ金属塩、好ましくは以下:NaNO3、Na2CO3、NaOH、Na2SO4、NaF、Na3PO4、Na2SiO3、Na2Cr27、NaCl、NaBF4、Na2HPO4、K2CO3、KOH、KNO3、K2SO4、KF、K3PO4、K2SiO3、K2Cr27、KCl、KBF4、K2HPO4、CsNO3、CsSO4、CsClのアルカリ金属塩の1つ以上を適用することを含む。一様でないイオン交換は、好ましくはアルカリ金属塩浴中に超薄板ガラスを完全にまたは部分的に、15分〜48時間にわたって、好ましくは350℃から700℃の間の温度で浸漬することを含む。一様でないイオン交換は、有利には、アルカリ金属塩を含むペーストを、一方の表面または両方の表面の湾曲領域に適用し、そして超薄板ガラスシートをアニールすることを含んでよく、その際、好ましくは前記ペーストは、アニール前に100℃および300℃の温度で2時間〜10時間にわたって乾燥される。そのイオン交換は、その際に超薄板ガラスを200℃から765℃までの範囲の温度に15分から48時間までの時間にわたって加熱することによって惹起することができる。
【0066】
好ましい一実施形態においては、一様でないイオン交換には、遅いイオン交換速度を制御して、50μm以下、好ましくは30μm以下、さらに好ましくは10μm以下、さらに好ましくは3μm以下の層の深さ、および好ましくは10MPaから1200MPaまでの範囲の最大表面圧縮応力を有するイオン交換表面層を得ることが含まれる。不均衡イオン交換に、イオン交換を一方の表面で行わないことが含まれる場合に、この表面でのDoLおよびCSはゼロになることがある。
【0067】
不均衡イオン交換は、有利には、イオン交換の間に遅いイオン交換速度を制御することで、上述のイオン交換層の深さDoL、上述の表面圧縮応力CSおよび120MPa以下の内部引張応力CT(σCT)を得ることによって達成され、ここで、強化された超薄板ガラス物品の厚さt、DoL、CSおよびCTは、関係
【数7】
を満たしている。
【0068】
該方法の好ましい一実施形態においては、不均衡表面応力負荷は、湾曲されるべき少なくとも1つの領域における少なくとも1つの表面をマスキングすること、好ましくは表面応力負荷を完全にまたは部分的に防ぐカバーまたはコーティングを適用することを含む。該マスキングは、好ましくは、表面応力負荷後に除去される。該マスキングは、少なくとも1つのマスキングされた領域において表面応力負荷を完全に防ぐか、または部分的に抑制するように設計されてよい。イオン交換の場合に、イオン交換を防ぐために適した方法は、酸化インジウムスズ被膜(ITO被膜)を超薄板ガラスにコーティングすることによってマスキングしている。SiO2コーティングは、イオン交換速度を遅くすることができる。好ましい一実施形態においては、超薄板ガラスの1つの全表面がマスキングされるが、もう一方の表面はマスキングされず、こうして超薄板ガラス物品全体にわたって広がる1つの湾曲領域が得られる。
【0069】
好ましい一実施形態においては、該方法には、湾曲領域においてRとは異なる目標最小曲率半径R’を有する積層表面上に、特にデバイスの積層表面上に、成形された超薄板ガラス物品の形状を変えて積層することによって、成形された超薄板ガラス物品を再成形することが含まれるため、生ずる静引張応力は、
【数8】
を越えることはなく、好ましくは
【数9】
を越えることはなく、前記式中、
− Lrefは、応力負荷された辺長であり、かつ
− Arefは、超薄板ガラス試片の側面の応力負荷された表面積であり、
− σ ̄aは、超薄板ガラス試片の側面内で応力負荷された表面領域内に生ずる該試片の破断時の引張応力の中央値であり、かつ
− σ ̄eは、超薄板ガラス試片の端面から応力負荷された辺長内に広がる該試片の破断時の引張応力の中央値であり、
− ΔeおよびΔaは、それぞれ、該試片の端面でのまたは側面内での該試片の破断時の引張応力の標準偏差(すなわち、中央値σ ̄e、σ ̄aの標準偏差)であり、
− Aappは、超薄板ガラスの1つの側面の表面積であり、かつ
− Lappは、超薄板ガラスの長辺の合計辺長であり、かつ
− Φは、少なくとも半年の時間間隔内で規定される最大破損率である。好ましくは、最大破損率Φは、0.1を下回る、さらに好ましくは0.05を下回る。
【0070】
さらに本発明は、本発明による成形された超薄板ガラス物品または本発明による方法によって製造される、成形された超薄板ガラス物品の、ディスプレイとしての、ディスプレイカバーとしての、特にOLEDディスプレイ、OLED照明、センサ、特にタッチセンサまたは指紋センサ、薄膜電池、PCB/CCL、コンデンサ、電子ペーパーまたはMEMS/MOEMSのための使用に関する。更なる好ましい使用には、半導体パッケージング、成形された窓または湾曲した窓のための保護部材ならびに成形された装飾要素が含まれる。また本発明は、50%以下の、好ましくは25%以下の曲率半径公差を有する低精度成形された超薄板ガラス物品の、1%未満、好ましくは0.1%未満の曲率半径公差を有する高精度用途における使用に関する。
【0071】
本発明の説明をするために使用される例示的な図面は、以下の内容を図解している。
【図面の簡単な説明】
【0072】
図1】様々な厚さおよび様々な応力負荷状態での、ソーダ石灰ガラスならびに第2表によるガラスAおよびガラスCについてのワイブルグラフ。
図2】0.07mmの厚さを有するガラスAのガラス試片についての静応力および破断応力の比率に対する、疲労寿命の対数線形プロット。
図3】本発明による成形された超薄板ガラスシート。
図4a】不均衡イオン交換表面層を有する、平坦な構成における超薄板ガラス物品の幾つかの異なる実施形態。
図4b】不均衡イオン交換表面層を有する、平坦な構成における超薄板ガラス物品の幾つかの異なる実施形態。
図4c】不均衡イオン交換表面層を有する、平坦な構成における超薄板ガラス物品の幾つかの異なる実施形態。
図4d】不均衡イオン交換表面層を有する、平坦な構成における超薄板ガラス物品の幾つかの異なる実施形態。
図5a】両方の表面に縞模様のイオン交換表面層を有する超薄板ガラス物品。
図5b図5aによるイオン交換表面層から得られる本発明による成形された超薄板ガラス物品。
図6】一定の曲率半径を有する、成形された超薄板ガラス物品の様々な曲率半径を有するデバイスの目標表面への積層。
図7】成形された超薄板ガラス物品を成形するための熱的スランピングおよび熱曲げの試験構成。
【0073】
図面における寸法およびアスペクト比は原寸ではなく、所々でより良い可視化のために誇張されている。図面における相応の構成要素は、一般的に、同じ参照番号によって示される。
【0074】
図面の詳細な説明
図1は、様々な厚さおよび応力負荷状態での様々なガラス型の破断強度の累積確率(%)についての二重対数プロットを示している(ワイブルグラフ)。0.5mmのソーダ石灰ガラスの破断強度は、同様の厚さの典型的な無機ガラスである比較試片の破断強度を示している。イオン交換していない0.05mmのガラスA(以下の第2表を参照)についてのプロットは、0.1mmより薄い無機ガラスの典型的な強度を表す。イオン交換された0.05mmの強化ガラスA(第2表)についてのプロットは、Kイオン塩浴中でのガラスAの不均衡イオン交換によって達成できる強度を示している。0.07mmのガラスC(第2表)についてのプロットは、Kイオン塩浴中でのアルミノケイ酸塩ガラスのイオン交換後に達成可能な強度を示している。
【0075】
図2は、厚さ0.07mmのガラスA(第2表)でできた超薄板ガラス試片の疲労寿命の対数線形プロットを示している。一方で、該プロットは、疲労寿命(秒)の対数が、ガラスの静応力および破断強度の間の比率と線形であることを示している。該プロットは、疲労寿命の外挿のために使用することができる。静応力の当初の応力の1/10への減少は、ガラスシートの疲労寿命を約1000倍高めることができる。他方で、ガラス試片を一定の撓みに変形するのに必要とされる力は、ガラス厚さの三乗に比例する。従って、超薄板ガラスは、より厚いガラスと比較してかなり小さい力で、すなわちより低い静応力で、例えば目標表面に積層された場合に曲がり、相応の用途の通常の寿命をさらに上回る疲労寿命を有することができる。
【0076】
図3は、長さL、幅Wおよび厚さtを有する矩形の平坦ガラスシートから得ることができる、本発明による成形された超薄板ガラス物品(1)(以下、「ガラス物品(1)」と呼ぶ)を示している。ガラス物品(1)は、例えば円形状のようなその他の形状または所望の用途によって必要とされる任意のその他の形状を有してもよい。
【0077】
ガラス物品(1)は、第一の表面(2)と反対側の第二の表面(3)とを有し、それらは、4つの端面(4)に隣接している。ガラス物品(1)は、軸線Aに垂直方向に本質的に一定の半径Rを有し、軸線Aに沿っては曲率を有さない一次元曲率を有する。従って、ガラス物品(1)の形状は、円筒軸線Aを有する事実上正円の円筒の外周表面の一区間に相当し、従って本明細書に使用される用語においては、ガラス物品(1)全体にわたって広がる1つの湾曲領域を有する。本発明によれば、ガラス物品(1)の曲率は、非精密形成法、例えば熱曲げ、熱的スランピング、熱的成形および/または不均衡表面圧縮応力負荷によって実現できその不均衡表面圧縮応力負荷には、2つの表面の不均衡アニールおよび/または不均衡イオン交換が含まれる。
【0078】
図4a〜図4dは、イオン交換された表面層を有する平坦化された状態のガラス物品(1)の例示的な実施形態の部分的な区分図を示している。それらの図は、様々な実施形態についての層の深さDoLを例示的に示している。表面(2)と表面(3)の上方および/または下方のグラフは、表面座標xに沿った関連の表面圧縮応力CSの定性的プロフィールを示している。CSおよびDoLの相応のプロフィールは、アニール処理からも得ることができ、かつ基本原理は、イオン交換された表面層に限定されないものと理解されるべきである。さらに、当該表面層は、表面方向xでのみ変動し、その一方で、表面層は、垂直な表面方向では一定であるものと理解されるべきである(一次元の別形)。
【0079】
図4aは、表面(2)に一定のDoLを有するイオン交換表面層(5)を有するガラス物品(1)の一実施形態を示している。この構成は、表面(2)に一定の表面圧縮応力CS2をもたらし、表面(3)に0と等しい表面圧縮応力CS3をもたらす。ガラス物品(1)は、不均衡表面圧縮応力CS2およびCS3のため、図3に示される、表面(2)が凸表面である成形ガラス物品(1)をもたらす。
【0080】
図4bは、表面(2)に一定のDoL2を有する表面層(5)を有し、かつ表面(3)に一定のDoL3を有する表面層(6)を有するが、ここでDoL2>DoL3≠0であるガラス物品(1)の一実施形態を示している。結果として、表面圧縮応力CS2およびCS3はまた異なっており、ゼロにはならない。差異ΔCS=|CS2−CS3|に応じて、ガラス物品(1)は、湾曲した形状を取り、この場合に、表面(3)は凸表面となる。
【0081】
図4cは、可変の深さを有する、すなわちDoL=DoL(x)である表面(2)上の表面層(5)を有するが、表面(3)はイオン交換された表面層を有していないガラス物品(1)の一実施形態を示している。DoL(x)は、ガラス物品(1)の中央の位置xmaxで最大DoLmaxを有する。結果として、表面圧縮応力CS2はまた、xmaxで極大を有する座標xの関数である。この場合のガラス物品(1)は、xmaxで最小曲率半径Rminを有しており、xmaxからの距離が大きくなるに伴い曲率半径R(x)が増加する可変の曲率R=R(x)を取る。DoL(x)またはCS(x)の関数に応じて、得られるガラス物品の形状は、例えば、放物柱または双曲柱であってよい。
【0082】
図4dは、ガラス物品(1)のもう一つの実施形態を示しており、これは可変的な深さを有する、すなわちDoL2=DoL2(x)である表面(2)上の表面層(5)を有する一方で、表面(3)がDoL3(x)について相応する深さを有しているが、x方向に反転したプロフィールを有する表面層(6)を有する。DoL2(x)は、最も小さいxで最小値を有し、最も大きいxで最大値を有する。この場合に、曲率半径R=R(x)は、ガラス物品(1)の端面で最も大きく、xeqで曲率を有さず、DoL2(xeq)=DoL3(xeq)である。従って図4dによるガラス物品(1)は、xeqで分けられて、交互の曲率を有する2つの湾曲領域を有する。
【0083】
図5aは、表面(2)に縞模様の表面層(5)、および表面(3)に縞模様の表面層(6)を有するガラス物品(1)のもう一つの実施形態を示している。DoL2(x)およびDoL3(x)は、周期的矩形関数によって記載される。DoL2は、x方向に半周期長だけDoL3に対してシフトしており、こうしてDoLmaxを有する各々の領域は、DoL=0によるその他の表面に対峙している。従って、交互に変化する表面応力CS2およびCS3は、ガラス物品(1)の表面に平行な中心面に関して不均衡である。そのような配置は、図5bに示されるような、曲率が交互に変化する4つの湾曲領域を有する波形のまたは波打った形状のガラス物品(1)を提供する。
【0084】
図6は、一定の曲率半径Rを有するガラス物品(1)の、一定の目標曲率半径R’を有するデバイス(8)の目標積層表面(7)への積層を示している。この実施形態における目標曲率半径R’は、ガラス物品(1)の曲率半径Rよりも大きい。積層の間に、ガラス物品(1)に、積層力Fによって、形状を変えてより大きな目標半径R’に適合するように力が加わる。力Fは、ガラス物品(1)の表面に表面引張応力TSを引き起こす。更なる引張応力は、ガラス物品(1)の端面でも引き起こされる。これらの静応力は、ガラス物品(1)を形状を変えて保つために積層された配置(1’)で維持される必要がある。積層力は、目標表面(7)およびガラス物品(1)の相応の表面の間で、例えば光学的透明接着剤(OCA)によって与えられ得る。
【0085】
本発明によれば、成形された超薄板ガラス物品(1)は、非常に限定的な積層力をもって形状を変えて積層することができ、こうして非常に限定的な静応力がもたらされる。従って、成形された超薄板ガラス物品(1)は、比較的低い精度で製造することができる。それというのも、成形された超薄板ガラス物品(1)は、積層の間または静的疲労のために破損する危険を冒すことなく、積層された配置(1’)の最終的な高精度形状に適合させることができるからである。
【0086】
図7は、超薄板ガラス物品(1)の成形、例えば熱的スランピングのための配置/方法を示している。成形表面(11)を有するグラファイト成形型(10)を、ガラス物品(1)のモールド成形のために使用する。該成形型(10)は、低精度で、従って低コストで製造することができる。該成形型(10)は、成形ガラス物品(1)に形成されるべき超薄板ガラスシート(12)の下側に配置される。成形型(10)および超薄板ガラスシート(12)は、例えば赤外線照射IRによって、ガラス転移温度Tgより約20℃〜30℃高い温度に加熱される。必要とされる成形時間は、超薄板ガラスの場合は約2分〜5分である。重力Gの影響下で、必要に応じて成形型表面(11)に掛けられる真空Vの補助により、ガラスシート(12)は変形し、成形表面(11)に適合する。この方法は、低精度で行うことができ、こうして完成した成形ガラス物品(1)の曲率Rは、成形表面(11)の曲率と相違してよい。
【0087】
超薄板ガラス物品(1)(図7で点線によって示される)の代替的な成形方法、すなわち熱曲げでは、超薄板ガラスシート(12)は、超薄板ガラスシート(12)を所望の形状に曲げるために力Sによって互いに対向的に力が加えられる成形型(10)および逆形状の第二の成形型部分(14)の成形表面(11および13)の間に挟み込まれる。成形型の部分(10および14)は、前記の熱的スランピングと同様に加熱される。
【0088】
例示的実施形態
以下の第2表に列挙されるガラス組成物A、BおよびCは、以下に記載される例示的実施形態1〜6のために使用される。
【0089】
【表17】
第2表:幾つかの例示的なガラス組成物
【0090】
ガラスA〜Cは、以下の選択された特性を有する:
【表18】
第3表:第2表によるガラスA〜Cのパラメータ
【0091】
第3表中のCTEとは、熱膨張係数を指し、Tgとは、ガラス転移温度を指す。
【0092】
実施例1
100mm×60mmのシートを、0.05mmの厚さを有するガラスA(第2表を参照)から切り出した。そのガラスシートに、KNO3粉末と混合されたインキを、スクリーン印刷法によって塗布し、その一方の表面を完全に覆った。引き続き、該シートを1時間にわたって180℃で乾燥させて、インキを除去した。乾燥後に、該シートを、330℃で2時間にわたってアニールして、イオン交換を行った。結果として、該超薄板ガラスシートでは、52mmの曲率半径を有する、広く柱状に湾曲した形状へと曲げが生じた。
【0093】
実施例2
100mm×60mmのシートを、0.05mmの厚さを有するガラスA(第2表)から切り出した。該シートの一方の表面にイオン交換を防ぐために酸化インジウムスズ(ITO)被膜をコーティングし、それに引き続きKNO3塩浴中に浸漬させた。その超薄板ガラスシートを、400℃の温度で1時間にわたって強化した。CSは約270MPaであり、かつDoLは約7μmである。結果として、該超薄板ガラスシートでは、48mmの曲率半径を有する広く柱状に湾曲した形状へと曲げが生じた。
【0094】
実施例3
100mm×60mmのシートを、0.1mmの厚さを有するガラスA(第2表)から切り出した。該シートを、規則的な縞模様に従ってマスキングした。次いでそのシートをITO被膜でコーティングすることで、コーティングされた領域にイオン交換を防ぐためのコーティング領域が得られた。マスキングを除去した後に、その超薄板ガラスシートをKNO3塩浴中に浸漬し、400℃の温度で1時間にわたって強化させた。これにより、コーティングされていない領域でイオン交換が生じ、ITOコーティング領域ではイオン交換は生じなかった。CSは約270MPaであり、かつDoLは約7μmである。結果として、該超薄板ガラスシートでは、幾つかの湾曲領域を伴う波形状の交互の曲げが生じた。
【0095】
実施例4
ガラスAの試片を、ガラス溶融炉から直接引き出し、不均衡冷却によりガラス表面の不均衡アニールを行った。生ずる不均衡表面圧縮応力のため、超薄板ガラスは、湾曲した形状に曲がる。従って、より大きい圧縮応力を有する表面は凸側を形成し、その一方で、より小さい表面圧縮応力を有する表面は、凹側を形成する。50μm厚の超薄板ガラスにおける60MPaの過剰な表面圧縮応力および8μmのアニールされた層の深さは、190mmの曲率半径をもたらす。不均衡アニールによって成形されたガラスは、イオン交換されたガラスとは異なるCSおよび層の深さのプロフィールを有することが留意されるべきである。アニールされた層の深さは、一般的に、ガラスの厚さの約1/6である。曲げられたガラスを150mmの曲率半径を有する湾曲した表面に適合させる場合に、静応力は、2.6MPaであると計算される。この方法によって製造された成形された超薄板ガラス物品の99%超は破損を生じることなく積層された。
【0096】
比較において、同じ不均衡アニールは、厚さ0.5mmのガラスの場合に、90MPaの過剰な表面圧縮応力および83μmの層の深さを生じ、それにより1220mmの曲げ半径が生じる。150mmの目標曲率半径へと積層を試みると、全ての試片が破損した。
【0097】
実施例5
0.1mmの厚さおよび100mm×100mmの表面積を有するガラスB(第2表)の試片を、赤外線炉において780℃で15分間にわたって、52mmの曲率半径を有するグラファイト製の成形型上で熱曲げを行った。曲げの後に、試片の曲率半径は52mmであった。これらの成形された超薄板ガラスは、殆ど全て(99%)が好結果で、曲率半径50mmを有する湾曲した目標表面に破断なく積層できた。静応力は計算によれば2.9MPaであり、それは1年を越える外挿疲労寿命をもたらす。更なる一例において、低精度の炭化タングステン成形型を同じ熱処理条件で使用することで、目標半径からさらに1%相違する50.5mmの曲率半径が得られる。50mmの対象物に積層する場合に、生ずる静応力は0.7MPaであり、予想される寿命は5年を超える。積層の間の歩留まりは、100%であり、すなわち全ての試片は、好結果で目標表面へと積層することができた。
【0098】
比較において、厚さ0.7mmのガラスB(第2表)の試片では、同じ形成条件下で58mmの曲率半径が得られた。50mmの曲率半径表面への積層により、70MPaの静応力がもたされる。積層は、高い剥離力のため実現できなかった。
【0099】
更なる比較において、平坦な、すなわち曲率半径がゼロの、厚さ0.1mmの超薄板ガラス試片を75mmの目標曲率半径へと積層することで、幾つかの試片が破断するため、約90%の歩留まりがもたらされる。静応力は計算によれば、約50MPaである。さらに、これらの試片の80%超は1日後に破断するが、それは、恐らく約30.2%の平均破断強度という高い静応力によるものと考えられる。
【0100】
実施例6
0.1mmの厚さおよび100mm×30mmの表面積を有するガラスC(第2表)の試片を、一方の表面上でSiO2コーティングでコーティングし、次いで溶融KNO3塩浴中で390℃で30分間にわたって浸漬させた。得られたガラス物品は、不均衡イオン交換により36mmの曲率半径を有する。それというのも、SiO2コーティングはイオン交換速度を遅くするからである。コーティングされていない表面は凸側となり、730MPaの表面圧縮応力(CS)および11μmのイオン交換された層の深さ(DoL)を有するが、コーティングされた表面は、500MPaのより低いCSおよび6μmのDoLを有する。この成形された超薄板ガラス物品は、イオン交換された表面層のため高い曲げ強度を有する。35mmの目標曲率を有する湾曲したディスプレイに積層する場合に、歩留まりは100%である。計算された疲労寿命は、図1に示されるように、3.6MPaの低い静応力および1131MPaの極めて高い破断極度のため10年より長い。静応力は、破断強度のたった0.3%である。
【0101】
以下の第4表は、実施例4〜6による実施形態および3つの比較例の幾つかのパラメータをまとめたものである。
【0102】
【表19】
第4表:パラメータのまとめ
【符号の説明】
【0103】
1 ガラス物品、 2 第一の表面、 3 第二の表面、 4 端面、 5、6、7 表面層、 8 デバイス、 10、14 成形型、 11、13 成形表面、 12 ガラスシート
図1
図2
図3
図4a
図4b
図4c
図4d
図5a
図5b
図6
図7