(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本明細書において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、組成物中に存在する該複数の物質の合計量を意味する。
本明細書において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0010】
《不織布》
本開示の不織布は、繊維を含む不織布であって、該繊維の伸長歪み速度2.5×10
2(1/秒)及び160℃の条件で測定した一軸伸長粘度が、430Pa・s〜1200Pa・sであり、かつ、
せん断歪み速度2.5×10
2(1/秒)及び160℃の条件で測定したせん断粘度(Pa・s)に対する、前記一軸伸長粘度(Pa・s)の割合(一軸伸長粘度/せん断粘度)が35〜65である。
本開示の不織布は、繊維を含み、該繊維が、せん断歪み速度2.5×10
2(1/秒)及び160℃の条件で測定したせん断粘度(Pa・s)に対する、伸長歪み速度2.5×10
2(1/秒)及び160℃の条件で測定した一軸伸長粘度(Pa・s)の比(一軸伸長粘度/せん断粘度)が35〜65であるため、5倍繊維が少なく、かつ、平均繊維径が小さい。そのため、かかる不織布は、5倍繊維が少なく、かつ、平均繊維径が小さくなり、捕集効率に優れる。
発明者らは、一軸伸長粘度及びせん断粘度に対する一軸伸長粘度の比が所定範囲であると、繊維の5倍繊維が少なく、かつ、平均繊維径が小さい理由を、以下のように推測している。
繊維の紡糸時において樹脂又は樹脂組成物は、細いノズルから吐出され、高速気流により延伸される。繊維の一軸伸長粘度及びせん断粘度に対する一軸伸長粘度の比が所定範囲であると、細繊維化に必要な高い延伸倍率条件としたときであっても、延伸中に繊維径が一時的に太くなったり、細くなったりする繊維径の変化(以下、「繊維径の太化及び細化」ともいう。)を周期的に繰り返す現象が抑制されるため、得られる繊維の平均繊維径が細く、繊維径分布が均一になりやすいものと考えられる。
なお、繊維が樹脂組成物から形成された繊維である場合、繊維の一軸伸長粘度及びせん断粘度は、繊維を形成する前の樹脂組成物の一軸伸長粘度及びせん断粘度と同じである。
【0011】
本開示に係る不織布に含まれる繊維は、伸長歪み速度2.5×10
2(1/秒)及び160℃の条件で測定した一軸伸長粘度が、430Pa・s〜1200Pa・sである。
繊維の伸長歪み速度2.5×10
2(1/秒)及び160℃の条件で測定される一軸伸長粘度が430Pa・s以上であると、延伸中に繊維径の太化及び細化を周期的に繰り返す現象が抑制されるため、得られる不織布における5倍繊維の割合を少なくでき、捕集効率を向上させることができる。また、繊維の一軸伸長粘度が1200Pa・s以下であると、高速気流によって延伸倍率を高くすることができるため、平均繊維径を小さくすることができ、また、捕集効率も向上させることができる。
本開示において「伸長歪み速度」とは、溶融した繊維が一軸方向の変形したときの速度を表す。
上記観点から一軸伸長粘度としては、好ましくは450Pa・s〜1200Pa・sであり、より好ましくは550Pa・s〜1000Pa・sである。
【0012】
せん断歪み速度2.5×10
2(1/秒)及び160℃の条件で測定されるせん断粘度としては、平均繊維径をより小さくする観点から、10Pa・s〜100Pa・sであることが好ましく、10Pa・s〜20Pa・sであることがより好ましい。
せん断歪み速度が上記範囲内であると、ノズルからの射出が安定し、平均繊維径をより小さくできる傾向にある。
本開示において「せん断歪み速度」とは、溶融した繊維が三次元変形したときの平均速度を表す。
せん断歪み速度2.5×10
2(1/秒)及び160℃の条件で測定されるせん断粘度としては、平均繊維径をより小さくする観点から、10Pa・s〜100Pa・sであることが好ましく、10Pa・s〜20Pa・sであることがより好ましい。
せん断歪み速度が上記範囲内であると、高速気流によって延伸倍率を高くすることができるため、平均繊維径をより小さくできる傾向にある。
本開示において「せん断歪み速度」とは、溶融した樹脂が三次元で定義したひずみの時間変化する割合、すなわち、ひずみの時間微分を表す。
【0013】
一軸伸長粘度(ηe)及びせん断粘度(η)は、キャピラリーレオメーター(製品名;キャピログラフ1D PMD−C、(株)東洋精機製作所製)を用いて、繊維又は後述の樹脂組成物を下記条件で測定及び計算して求められる。
【0014】
[測定条件]
測定機器:キャピログラフ1D PMD−C ((株)東洋精機製作所製)
キャピラリー内径:Φ=0.2[mm]
測定温度:160℃
キャピラリー長さ/キャピラリー内径(L/D):0.25及び10
ピストン速度:2.5×10
2(1/秒)
【0015】
せん断粘度(η)(Pa・s)は、上記L/Dが10のときの見かけのせん断応力及びせん断歪み速度の各値から、下記式で算出される。
【0017】
式中、τ(Pa)は見かけのせん断応力を表し、γドット(Pa)(γの上部にドット(・)が記された記号;以下、単に「γ」ともいう。)は、せん断歪み速度を表す。
見かけのせん断応力τ(Pa)は、ピストン荷重p(Pa)とキャピラリー内径D(mm)、キャピラリー長さL(mm)からτ=pD/π4Lで表され、せん断応力γ(Pa)は、体積流量Q(mm
3/s)を用いてγ=32Q/πD
3で表される。
【0018】
一軸伸長粘度(ηe)は、上記L/Dが10のときの見かけのせん断応力及びせん断歪み速度の各値および上記L/Dが0.2のときの各値から、Cogswell法により下記式を用いて算出される。
Cogswell法は、例えば、「Cogswell, F. N. "Stretching flow instabilities at the exits of extrusion dies." Journal of Non-Newtonian Fluid Mechanics 2.1 (1977): 37-47 」の記載を参照することができる。
【0020】
式中、nは、パワーロー指数を表し、γドット(γの上部にドット(・)が記された記号;以下、単に「γ」ともいう。)は、せん断歪み速度を表し、ηは、L/Dが10のときのせん断粘度(η)を表し、ΔP
02はキャピラリー長が0のときにダイで生じる圧力損失の2乗を表し、Baglay補正により求めることができる。
Bagleyのキャピラリー長の補正については、例えば、「Bagley, E. B. "The separation of elastic and viscous effects in polymer flow." Transactions of the Society of Rheology 5.1 (1961): 355-368.」を参照することができる。
【0021】
せん断粘度(Pa・s)に対する一軸伸長粘度(Pa・s)の割合(一軸伸長粘度/せん断粘度)は35〜65である。
一軸伸長粘度/せん断粘度が35〜65であると、平均繊維径が小さく、かつ、5倍繊維の割合が少なく、かかる不織布は、捕集効率に優れる。
上記観点から、一軸伸長粘度/せん断粘度としては、35〜60であることが好ましく、35〜50であることがより好ましい。
【0022】
<樹脂組成物>
本開示に係る不織布における繊維としては、所定の条件における一軸伸長粘度及び一軸伸長粘度/せん断粘度が既述範囲を満たせば、特に制限されず、樹脂から形成された繊維であってもよく、樹脂組成物から形成された繊維であってもよい。
所定の条件における一軸伸長粘度及び一軸伸長粘度/せん断粘度が既述範囲に調整しやすくする観点から、本開示の不織布における繊維としては、樹脂組成物から形成された繊維であることが好ましい。
本開示に係る不織布に含まれる繊維が、樹脂組成物から形成された繊維である場合、樹脂組成物は、平均繊維径を小さくして捕集効率を向上させる観点から、直鎖ポリプロピレンを含むことが好ましい。
直鎖ポリプロピレンとは、長鎖分岐構造を有さないポリプロピレンを意味する。長鎖分岐構造については、後述の長鎖分岐ポリプロピレンにおいて詳述する。
直鎖ポリプロピレンとしては、特に制限はなく、直鎖プロピレンの単独重合体であってもよく、直鎖プロピレンとα−オレフィンとの共重合体であってもよい。
【0023】
共重合するα−オレフィンは、炭素数が2以上のα−オレフィンであることが好ましく、炭素数が2又は4〜8のα−オレフィンであることがより好ましい。
共重合するα−オレフィンとして、具体的には、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン等が挙げられる。
【0024】
直鎖ポリプロピレンとしては、重量平均分子量が2万以上である直鎖ポリプロピレン(以下、「高分子量直鎖ポリプロピレン」ともいう。)を含んでいてもよく、重量平均分子量が2万未満である直鎖ポリプロピレン(以下、「低分子量直鎖ポリプロピレン」ともいう。)を含んでいてもよく、高分子量直鎖ポリプロピレン及び低分子量直鎖ポリプロピレンの両方を含んでいてもよい。
直鎖ポリプロピレンとして高分子量直鎖ポリプロピレンを含む不織布は、紡糸が安定化され、5倍繊維が少ない傾向にあり好ましい。
直鎖ポリプロピレンとして低分子量直鎖ポリプロピレンを含む不織布は、紡糸時の粘度を低下でき高速気流によって延伸倍率を高くすることができるため、細線維化できる傾向にあり、好ましい。
直鎖ポリプロピレンとして高分子量直鎖ポリプロピレン及び低分子量直鎖ポリプロピレンの両方を含む不織布は、紡糸が安定化される範囲で紡糸時の粘度を低下できる傾向にあるため、平均繊維径が細く、かつ、5倍繊維が少なくなる傾向にあり、より好ましい。
【0025】
高分子量直鎖ポリプロピレンの重量平均分子量(Mw)は、2万以上であることが好ましく、3万以上であることがより好ましく、4万以上であることが更に好ましい。
また、高分子量直鎖ポリプロピレンの重量平均分子量(Mw)としては、8万以下であることが好ましく、7万以下であることがより好ましく、6.5万以下であることが更に好ましい。
高分子量直鎖ポリプロピレンの重量平均分子量(Mw)が上記範囲内であると、平均繊維径が小さくなる傾向にあるため好ましい。
上記観点から、高分子量直鎖ポリプロピレンの重量平均分子量(Mw)は、2万〜8万であることが好ましく、3万〜7万であることがより好ましく、4万〜6.5万であることが更に好ましい。
【0026】
低分子量直鎖ポリプロピレンの重量平均分子量(Mw)は、2万未満であることが好ましく、1.5万以下であることがより好ましく、1.3万以下であることが更に好ましい。低分子量直鎖ポリプロピレンの重量平均分子量(Mw)が2万未満である場合、低分子量直鎖ポリプロピレンは、分子量が比較的低いため、ワックス状の重合体であってもよい。
また、低分子量直鎖ポリプロピレンの重量平均分子量(Mw)としては、400以上であることが好ましく、1,000以上であることがより好ましく、2,000以上であることが更に好ましく、6,000以上であることが特に好ましい。
低分子量直鎖ポリプロピレンの重量平均分子量(Mw)が上記範囲内であると、平均繊維径が小さくなる傾向にあるため好ましい。
上記観点から、低分子量直鎖ポリプロピレンの重量平均分子量(Mw)は、400以上2万未満であることが好ましく、400〜1.5万であることがより好ましく、1,000〜1.4万であることが更に好ましく、6,000〜1.3万であることが特に好ましい。
【0027】
直鎖ポリプロピレンの重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により、下記の装置及び条件で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量をいう。
【0028】
[GPC測定装置]
カラム :TOSO GMHHR−H(S)HT(東ソー(株)製)
検出器 :液体クロマトグラム用RI検出器 WATERS 150C(ウォーターズ社製)
【0029】
[測定条件]
溶媒 :1,2,4−トリクロロベンゼン
測定温度 :145℃
流速 :1.0ml/分
試料濃度 :2.2mg/ml
注入量 :160μl
検量線 :Universal Calibration
解析プログラム:HT−GPC(Ver.1.0)
【0030】
高分子量直鎖ポリプロピレンの密度は特に限定されるものではなく、例えば、0.870g/cm
3〜0.980g/cm
3であってもよく、好ましくは0.900g/cm
3〜0.980g/cm
3であり、より好ましくは0.920g/cm
3〜0.975g/cm
3であり、更に好ましくは0.940g/cm
3〜0.970g/cm
3である。
低分子量直鎖ポリプロピレンの密度は特に限定されるものではなく、例えば、0.890g/cm
3〜0.980g/cm
3であってもよく、好ましくは0.910g/cm
3〜0.980g/cm
3であり、より好ましくは0.920g/cm
3〜0.980g/cm
3であり、更に好ましくは0.940g/cm
3〜0.980g/cm
3である。
なお、本明細書において、ポリプロピレンの密度とは、25℃、1atm(1013.25hPa)で測定したときの値である。
【0031】
高分子量直鎖ポリプロピレンの密度が0.870g/cm
3以上であると、得られる不織布の、耐久性、耐熱性、強度、及び経時での安定性がより向上する傾向がある。他方、高分子量直鎖ポリプロピレンの密度が0.980g/cm
3以下であると、得られる不織布の、ヒートシール性及び柔軟性がより向上する傾向がある。
低分子量直鎖ポリプロピレンの密度が上記範囲内であると、高分子量直鎖ポリプロピレンとの混練性に優れ、かつ、紡糸性及び経時での安定性に優れる傾向にある。
【0032】
なお、本開示において、直鎖ポリプロピレンの密度(g/cm
3)は、190℃における2.16kg荷重でのメルトフローレート(MFR)測定時に得られるストランドを、120℃で1時間熱処理し、1時間かけて室温(25℃)まで徐冷した後、JIS K7112:1999に準拠し密度勾配管で測定して得た値をいう。
【0033】
直鎖ポリプロピレンのメルトフローレート(MFR)は、後述の長鎖分岐ポリプロピレンと併用して不織布を製造し得る限り特に限定されない。
直鎖ポリプロピレンのメルトフローレート(MFR)は、平均繊維径の細さ、紡糸性等の観点から、好ましくは1000g/10分〜2500g/10分であり、より好ましくは1200g/10分〜2000g/10分であり、更に好ましくは1300g/10分〜1800g/10分である。
【0034】
本開示において、直鎖ポリプロピレンのメルトフローレート(MFR)は、ASTM D1238に準拠し、荷重2.16kg、190℃の条件で測定して得た値をいう。
【0035】
本開示に係る不織布に含まれる繊維が樹脂組成物から形成された繊維である場合、直鎖ポリプロピレンの含有率は、平均繊維径を小さくして捕集効率を向上させる観点、及び、紡糸をより安定にする観点から、樹脂組成物の全質量に対して、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、95質量%〜99.3質量%であることが更に好ましい。
また、直鎖ポリプロピレンは、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0036】
本開示に係る不織布に含まれる繊維が樹脂組成物から形成された繊維である場合、高分子量直鎖ポリプロピレンの含有率は、平均繊維径を小さくして捕集効率を向上させる観点、及び、紡糸をより安定にする観点から、直鎖ポリプロピレンの全質量に対して50質量%〜100質量%が好ましく、70質量%〜100質量%がより好ましく、70質量%〜99質量%が更に好ましく、80質量%〜95質量%が特に好ましい。
【0037】
本開示に係る不織布に含まれる繊維が樹脂組成物から形成された繊維である場合、低分子量直鎖ポリプロピレンの含有率は、平均繊維径を小さくして捕集効率を向上させる観点、及び、紡糸をより安定にする観点から、直鎖ポリプロピレンの全質量に対して0質量%を超えて50質量%以下が好ましく、0質量%を超えて30質量%以下がより好ましく、1質量%〜30質量%が更に好ましく、5質量%〜20質量%が特に好ましい。
【0038】
本開示に係る不織布が直鎖ポリプロピレンとして高分子量直鎖ポリプロピレン及び低分子量直鎖ポリプロピレンの両方を含む場合、平均繊維径を小さくして捕集効率を向上させる観点、及び、紡糸をより安定にする観点から、高分子量直鎖ポリプロピレンの含有率が、直鎖ポリプロピレンの全質量に対して50質量%以上(より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは70質量%〜99質量であり、特に好ましくは80質量%〜95質量%である。)であり、かつ、低分子量直鎖ポリプロピレンの含有率が直鎖ポリプロピレンの全質量に対して50質量%以下(より好ましくは30質量%以下であり、更に好ましくは1質量%〜30質量%であり、特に好ましくは5質量%〜20質量%である。)であることが好ましい。
【0039】
プロピレン系重合体における直鎖ポリプロピレンの含有率としては、プロピレン系重合体の全質量に対して、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、95質量%〜99.3質量%であることが更に好ましい。
直鎖ポリプロピレンの含有率が上記範囲の場合は、平均繊維径がより小さくなる傾向がある。また、紡糸性、繊維強度、微粒子の捕集効率、及び濾過流量のバランスにより優れる傾向にある。
なお、本明細書において、プロピレン系重合体とは、重合体の全構成単位に対するプロピレンの含有率が50質量%以上である重合体を意味する。
【0040】
<長鎖分岐ポリプロピレン>
本開示に係る不織布に含まれる繊維が樹脂組成物から形成された繊維である場合、樹脂組成物は、捕集効率をより向上させる観点から、長鎖分岐ポリプロピレンを更に含むことが好ましく、細繊化の観点から、直鎖ポリプロピレン及び長鎖分岐ポリプロピレンの両方を含むことがより好ましい。
本明細書において、長鎖分岐ポリプロピレンとは、分子内に長鎖分岐構造を有するポリプロピレンを意味する。「長鎖分岐構造」とは、ポリプロピレンの側鎖の長さが炭素数で10以上である側鎖の構造を意味する。側鎖が分岐構造を更に有している場合は、最も長い部分の炭素数が10以上であればよい。
本明細書においてポリプロピレンの主鎖とは、重合性不飽和基同士の反応により伸長した部分を意味する。また、側鎖とは、ポリマーの主鎖に結合する鎖を意味する。
【0041】
長鎖分岐ポリプロピレンの市販品としては、例えば、商品名:ウェイマックス(日本ポリプロ(株)社)等を挙げることができる。
【0042】
プロピレン系重合体における側鎖の長さは、樹脂のレオロジー特性によるひずみ硬化を測定する方法によって確認することができる。
上記測定方法としては、例えば、Sugimoto, Masataka, et al. "Melt rheology of long-chain-branched polypropylenes." Rheologica acta 46.1 (2006): 33-44.に記載された方法が挙げられる。
【0043】
長鎖分岐ポリプロピレンの重量平均分子量(Mw)としては、5倍繊維を減らして捕集効率を向上させる観点から、3万〜50万であることが好ましく、8万〜30万であることがより好ましい。
長鎖分岐ポリプロピレンの重量平均分子量(Mw)は、既述の直鎖ポリプロピレンの重量平均分子量(Mw)と同様の方法により求めることができる。
【0044】
長鎖分岐ポリプロピレンのメルトフローレート(MFR)は、製膜性の観点から、1g/10分〜20g/10分であることが好ましく、1g/10分〜10g/10分であることがより好ましい。
長鎖分岐ポリプロピレンのメルトフローレート(MFR)は既述の直鎖ポリプロピレンのメルトフローレート(MFR)と同様の方法により求めることができる。
【0045】
長鎖分岐ポリプロピレンの製造方法としては、特に制限はなく、例えば、直接重合法、電子線照射法、過酸化物法等の公知公用の方法により製造することができる。
【0046】
本開示に係る不織布に含まれる繊維が樹脂組成物から形成された繊維であり、かつ、長鎖分岐ポリプロピレンを含む場合、長鎖分岐ポリプロピレンの含有率としては、より小さい平均繊維径が得られる観点から、樹脂組成物の全質量に対して0.7質量%〜5質量%であることが好ましい。
上記観点から、長鎖分岐ポリプロピレンの含有率としては、樹脂組成物の全質量に対して、0.7質量%〜4質量%であることがより好ましく、1質量%〜2.5質量%であることが更に好ましい。
長鎖分岐ポリプロピレンは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0047】
プロピレン系重合体の全質量に対する長鎖分岐ポリプロピレンの含有率は、0.7質量%〜5質量%であることが好ましく、0.7質量%〜4質量%であることがより好ましく、1質量%〜2.5質量%であることが更に好ましい。
長鎖分岐ポリプロピレンの含有率が上記範囲の場合は、平均繊維径が小さくかつ比表面積が大きくなる傾向がある。また、紡糸性、繊維強度、微粒子の捕集効率、及び濾過流量のバランスに優れる傾向にある。
【0048】
本開示に係る不織布に含まれる繊維が樹脂組成物から形成された繊維である場合、上述の高分子量ポリプロピレン、低分子量ポリプロピレンおよび長鎖分岐ポリプロピレンの合計の含有量は、繊維の総質量に対して95質量%以上であることが好ましく、99質量%以上であることがより好ましく、99.9質量%以上であることがさらに好ましい。上記範囲であると、より小さい平均繊維径が得られ、かつ、5倍繊維が少ない傾向にあり、好ましい。
【0049】
本開示に係る不織布に含まれる繊維が樹脂組成物から形成された繊維である場合、樹脂組成物は、ポリエチレン(PE)、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミド(PA)、ポリエーテルケトン(PEEK)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリプロピレン(PP)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、ポリサルフォン(PSF)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、超高分子量ポリエチレン等のポリプロピレン以外の熱可塑性樹脂を1種以上含んでいてもよい。
【0050】
本開示に係る不織布に含まれる繊維が樹脂組成物から形成された繊維である場合、樹脂組成物は、直鎖ポリプロピレン、長鎖分岐ポリプロピレン及びその他の熱可塑性樹脂の他に、酸化防止剤、耐候安定剤、耐光安定剤、ブロッキング防止剤、滑剤、顔料、柔軟剤、親水剤、助剤、撥水剤、フィラー、抗菌剤等の公知の添加剤を含んでいてもよい。
【0051】
本開示の不織布に含まれる繊維の平均繊維径(Da)は、捕集効率を向上させる観点から、2.7μm以下であることが好ましく、2.2μm以下であることがより好ましく、1.7μm以下であることが更に好ましい。
また、フィルタとしたときの強度を保持する観点から、平均繊維径(Da)としては、0.3μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましく、0.8μm以上であることが更に好ましい。
【0052】
上記平均繊維径(Da)は、電子顕微鏡(型番;S−3500N、(株)日立製作所製)を用いて、不織布の表面を、倍率1000倍の写真を撮影し、撮影された写真から、任意に繊維100本(n=100)を選び、選択した繊維の直径(幅)を測定し、その算術平均値を平均繊維径として求めることができる。
また、平均繊維径の標準偏差(Dd)は、上記平均繊維径(Da)を用いて求めることができる。
【0053】
捕集効率を向上させる観点から、不織布に含まれる繊維において、繊維径が平均繊維径(Da)の5倍以上である繊維(以下、「5倍繊維」ともいう。)の割合は、20%以下であることが好ましく、17%以下であることがより好ましく、14%以下が更に好ましい。
【0054】
5倍繊維は、不織布を電子顕微鏡(型番;S−3500N、(株)日立製作所製)を用いて観察し、繊維の直径を測定することで、確認することができる。
また、5倍繊維の割合は、電子顕微鏡を用いて、不織布の表面を、倍率1000倍で撮影し、撮影された写真から任意に繊維100本(n=100)を選び、選択した繊維の直径を測定し、下記の式より求めた値を示す。
5倍繊維の割合(%)=繊維径が平均繊維径の5倍以上である繊維の本数/測定した繊維の全本数(n=100)×100
【0055】
捕集効率を向上させる観点から、不織布に含まれる繊維において、上記平均繊維径(Da)に対する、平均繊維径の標準偏差(Dd)の割合(Dd/Da)は、110以下であることが好ましく、100以下であることがより好ましく、90以下であることが更に好ましい。同様の観点から、Dd/Daは、70以上であることが好ましい。
また、同様の観点から、Dd/Daとしては、70〜110であることが好ましく、70〜100であることがより好ましく、70〜90であることが更に好ましい。
【0056】
本開示の不織布は、本開示の不織布を積層した積層不織布として用いてもよく、他の不織布と積層した積層不織布として用いてもよい。他の不織布としては、特に制限はなく、例えば、スパンボンド不織布、メルトブローン不織布、湿式不織布、スパンレース不織布、乾式不織布、乾式パルプ不織布、エアレイド不織布、ウォータージェット不織布、フラッシュ紡糸不織布、開繊不織布、ニードルパンチ不織布等、種々公知の短繊維不織布及び長繊維不織布(例えば長繊維セルロース不織布)が挙げられる。
【0057】
本開示の不織布が後述するメルトブローン法で製造された不織布(以下、「メルトブローン不織布」ともいう。)である場合、不織布は溶媒成分を含まないことが好ましい。溶媒成分とは、本開示に係る不織布に含まれる繊維が樹脂組成物から形成された繊維である場合、繊維を構成する樹脂組成物を溶解可能な有機溶媒成分を意味する。溶媒成分としては、ジメチルホルムアミド(DMF)などが挙げられる。
溶媒成分を含まないとは、ヘッドスペースガスクロマトグラフ法によって検出限界以下であることを意味する。
【0058】
本開示の不織布の繊維は、繊維同士が自己融着した交絡点を有することが好ましい。自己融着した交絡点とは、本開示に係る不織布に含まれる繊維が樹脂組成物から形成された繊維である場合、繊維を構成する樹脂組成物が融着することで繊維同士が結合した枝分かれ部位を意味し、繊維同士がバインダ樹脂を介して接着してできた交絡点とは区別される。
自己融着した交絡点は、例えば、メルトブローン法による繊維状プロピレン系重合体の細化の過程で形成される。
なお、繊維同士が自己融着した交絡点を有するか否かは、電子顕微鏡写真により確認することができる。
【0059】
本開示の不織布の繊維同士が自己融着による交絡点を有する場合、繊維同士を接着させるための接着成分を用いなくともよい。例えば、繊維同士が自己融着による交絡点を有するメルトブローン不織布の場合には、本開示に係る不織布に含まれる繊維が樹脂組成物から形成された繊維である場合、繊維を構成する樹脂組成物以外の樹脂成分を含有しなくてもよい。
【0060】
不織布の比表面積は、捕集効率をより向上させる観点から、2.0m
2/g〜20.0m
2/gであることが好ましく、3.0m
2/g〜15.0m
2/gであることがより好ましく、3.5m
2/g〜10.0m
2/gであることが更に好ましい。
不織布の比表面積は、JIS Z8830:2013に準拠して求めた値である。
不織布の平均繊維径と比表面積とを上記範囲内にすることで、フィルタとして用いると捕集効率により優れる。
【0061】
本開示の不織布の平均孔径は10.0μm以下であることが好ましく、3.0μm以下であることがより好ましく、2.5μm以下であることが更に好ましい。
また、不織布の平均孔径は0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。平均孔径が0.01μm以上であると、不織布をフィルタに用いた場合に、圧損が抑えられ、流量を維持できる傾向にある。
【0062】
本開示の不織布の最大孔径は、20.0μm以下であることが好ましく、6.0μm以下であることがより好ましく、5.0μm以下であることが更に好ましい。
また、不織布の最小孔径は、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。
【0063】
本開示の不織布の孔径(平均孔径、最大孔径及び最小孔径)は、バブルポイント法により測定することができる。具体的には、JIS Z8703:1983(試験場所の標準状態)に準拠し、温度20±2℃、湿度65±2%の恒温室内で、不織布の試験片にフッ素系不活性液体(例えば、3M社製、商品名:フロリナート)を含浸させ、キャピラリー・フロー・ポロメーター(例えば、Porous materials,Inc社製、製品名:CFP−1200AE)で孔径を測定する。
【0064】
本開示の不織布の目付は、用途により適宜設定することができ、通常、1g/m
2〜200g/m
2であり、2g/m
2〜150g/m
2の範囲にあることが好ましい。
本開示の不織布の空隙率は、通常40%以上であり、40%〜98%の範囲にあることが好ましく、60%〜95%の範囲にあることがより好ましい。
本開示の不織布がエンボス加工されている場合には、不織布の空隙率は、エンボス点を除く箇所における空隙率を意味する。
【0065】
また、本開示の不織布のうち、40%以上の空隙率を有する部位の占める体積が90%以上であることが好ましく、ほぼ全ての部位で40%以上の空隙率を有することがより好ましい。本開示の不織布をフィルタに用いる場合には、エンボス加工されていないか、又はほとんど全ての領域でエンボス加工されていないことが好ましい。
エンボス加工されていない場合には、フィルタに流体を通過させたときの圧力損失が抑えられ、かつ、フィルタ流路長が長くなるためフィルタリング性能が向上する傾向にある。
なお、本開示の不織布が他の不織布に積層されている場合に、他の不織布はエンボス加工されていてもよい。
【0066】
不織布の通気度は、好ましくは3cm
3/cm
2/s〜30cm
3/cm
2/sであり、より好ましくは5cm
3/cm
2/s〜20cm
3/cm
2/sであり、更に好ましくは8cm
3/cm
2/s〜12cm
3/cm
2/sである。
【0067】
<不織布の製造方法>
本開示の不織布の製造方法は特に制限されず、エアスルー法、スパンボンド法、ニードルパンチ法、メルトブローン法、カード法、熱融着法、水流交絡法、溶剤接着法等の公知の方法を適用することができる。
これらの中でも、軽量性、均一性、強度、柔軟性及びバリア性の総合的な性能に優れる不織布が得られる観点から、不織布の製造方法としては、メルトブローン法又はスパンボンド法であることが好ましく、メルトブローン法であることがより好ましい。
【0068】
スパンボンド不織布を製造する際の一般的な方法としては、例えば、樹脂組成物を、押出機を用い溶融し、溶融した組成物を、複数の紡糸口金を有するスパンボンド不織布成形機を用いて溶融紡糸し、紡糸により形成された長繊維を必要に応じて冷却し延伸させた後、スパンボンド不織布成形機の捕集面上に堆積させ、エンボスロールで加熱加圧処理する方法が挙げられる。
冷却と延伸の方法は、例えば、特公昭48−28386号公報に開示された溶融紡糸された長繊維が大気中で冷却されながら延伸されることで製造される開放式スパンボンド法と、例えば、特許第3442896号公報に開示された密閉式スパンボンド法が広く知られている。
【0069】
メルトブローン不織布は、例えば、以下の工程を有する製造方法を挙げることができる。
1)メルトブローン法により、溶融した樹脂組成物(例えば、直鎖ポリプロピレンと長鎖分岐ポリプロピレンとの混合物である)を紡糸口金から加熱ガスと共に吐出して、繊維状に形成する工程
2)繊維状の樹脂組成物を、ウェブ状に捕集する工程
【0070】
メルトブローン法とは、メルトブローン不織布の製造におけるフリース形成法の一つである。溶融した樹脂組成物を、紡糸口金から繊維状に吐出させるときに、溶融状態の吐出物に両側面から加熱圧縮ガスをあてるとともに、加熱圧縮ガスを随伴させることで吐出物の径を小さくすることができる。
【0071】
メルトブローン法は、具体的には、例えば、原料となる樹脂組成物を、押出機などを用いて溶融する。溶融した樹脂組成物は、押出機の先端に接続された紡糸口金に導入され、紡糸口金の紡糸ノズルから、繊維状に吐出される。吐出された繊維状の溶融した樹脂組成物を高温ガス(例えば、空気)で牽引することにより、繊維状の溶融した樹脂組成物が細化される。
【0072】
吐出された繊維状の溶融した樹脂組成物は、高温ガスに牽引されることで、通常1.4μm以下、好ましくは1.0μm以下の直径にまで細化される。好ましくは、高温ガスによる限界まで繊維状の溶融した樹脂組成物を細化する。
【0073】
細化した繊維状の溶融した樹脂組成物に、高電圧を印加して、更に細化してもよい。高電圧を印加すると、電場の引力により繊維状の溶融した樹脂組成物が捕集側に引っ張られて細化する。印加する電圧は特に制限されず、1kV〜300kVであってもよい。
【0074】
また、繊維状の溶融した樹脂組成物に、熱線を照射して、更に細化してもよい。熱線を照射することで細化し、流動性の低下した繊維状の樹脂組成物を再溶融することができる。また、熱線を照射することで、繊維状の樹脂組成物の溶融粘度をより下げることもできる。そのため、分子量の大きいプロピレン系重合体を紡糸原料としても、十分に細化された繊維を得ることができ、高強度のメルトブローン不織布が得られうる。
【0075】
熱線とは、波長0.7μm〜1000μmの電磁波を意味し、特に波長0.7μm〜2.5μmである近赤外線を意味する。熱線の強度や照射量は特に制限されず、繊維状溶融プロピレン系重合体が再溶融されればよい。例えば、1V〜200V、好ましくは1V〜20Vの近赤外線ランプ又は近赤外線ヒータを用いることができる。
【0076】
繊維状の溶融した樹脂組成物は、ウェブ状に捕集される。一般には、捕集器(コレクター)に捕集されて堆積される。これにより、メルトブローン不織布が製造される。コレクターの例には、多孔ベルト、多孔ドラムなどが含まれる。また、コレクターは空気捕集部を有していてもよく、これにより繊維の捕集を促進してもよい。
【0077】
コレクター上に予め設けた所望の基材上に、繊維をウェブ状に捕集してもよい。予め設けておく基材の例には、メルトブローン不織布、スパンボンド不織布、ニードルパンチング及びスパンレース不織布などの他の不織布、並びに織物、編物、紙などが含まれる。これにより、高性能フィルタ、ワイパーなどで使用するメルトブローン不織布積層体を得ることもできる。
【0078】
<メルトブローン不織布の製造装置>
本開示のメルトブローン不織布を製造するための製造装置は、本開示のメルトブローン不織布を製造することができれば特に限定されない。
メルトブローン不織布の製造装置としては、例えば、
1)樹脂組成物を溶融して搬送する押出機と、
2)押出機から搬送された溶融した樹脂組成物を、繊維状に吐出する紡糸口金と、
3)紡糸口金の下部に、高温ガスを噴射するガスノズルと、
4)紡糸口金から吐出された繊維状の溶融した樹脂組成物をウェブ状に捕集する捕集器と、
を具備する製造装置を挙げることができる。
【0079】
押出機は、特に限定されず、一軸押出機であっても多軸押出機であってもよい。ホッパーから投入された固体の樹脂組成物が、圧縮部で溶融される。
【0080】
紡糸口金は、押出機の先端に配置されている。紡糸口金は、通常複数の紡糸ノズルを具備しており、例えば、複数の紡糸ノズルが列状に配列している。紡糸ノズルの直径は、0.05mm〜0.38mmであることが好ましい。溶融した樹脂組成物が、押出機によって紡糸口金にまで搬送され、紡糸ノズルに導入される。紡糸ノズルの開口部から繊維状の溶融した樹脂組成物が吐出される。溶融した樹脂組成物の吐出圧力は、通常0.01kg/cm
2〜200kg/cm
2の範囲であり、10kg/cm
2〜30kg/cm
2の範囲であることが好ましい。これより吐出量を高めて、大量生産を実現する。
【0081】
ガスノズルは、紡糸口金の下部、より具体的には紡糸ノズルの開口部付近に、高温ガスを噴射する。噴射ガスは、空気でありうる。ガスノズルを紡糸ノズルの開口部の近傍に設けて、ノズル開口からの吐出直後の樹脂組成物に、高温ガスを噴射することが好ましい。
【0082】
噴射するガスの速度(吐出風量)は特に限定されず、4Nmm
3/分/m〜30Nmm
3/分/mであってもよい。噴射するガスの温度は、通常5℃〜400℃以下であり、好ましくは250℃〜350℃の範囲である。噴射するガスの種類は特に限定されず、圧縮空気を用いてもよい。
【0083】
メルトブローン不織布の製造装置は、紡糸口金から吐出された繊維状の溶融した樹脂組成物に電圧を印加する電圧付与手段を、更に具備してもよい。
また、紡糸口金から吐出された繊維状の溶融した樹脂組成物に熱線を照射する熱線照射手段を、更に具備してもよい。
【0084】
ウェブ状に捕集する捕集器(コレクター)は特に限定されず、例えば、多孔ベルトに繊維を捕集すればよい。多孔ベルトのメッシュ幅は5メッシュ〜200メッシュであることが好ましい。さらに、多孔ベルトの繊維捕集面の裏側に空気捕集部を設けて、捕集を容易にしてもよい。捕集器の捕集面から、紡糸ノズルのノズル開口部までの距離は、3cm〜55cmであることが好ましい。
【0085】
<用途>
本開示の不織布は、例えば、ガスフィルタ(エアフィルタ)、液体フィルタ等のフィルタとして用いてもよい。
本開示の不織布をフィルタとして用いると、5倍繊維の割合が少なく、かつ、平均繊維径が小さいため、捕集効率に優れる。
本開示の不織布がメルトブローン不織布である場合、メルトブローン不織布が、1)溶媒成分を含まず、2)繊維同士を接着させるための接着剤成分を含まず、3)エンボス加工が施されていない、これら1)〜3)の少なくとも一つを満たす場合には、不純物の含有量が低減される。そのため、このような不織布は、清浄性とフィルタリング性能が高く、高性能フィルタとして好適に用いられる。
【0086】
液体用フィルタは、不織布の単層からなってもよく、又は不織布の2層以上の積層体からなってもよい。液体用フィルタとして、2層以上の不織布の積層体を用いる場合は、2層以上の不織布を単に重ねてもよい。
また、液体用フィルタは、目的及び適用する液体に応じて、不織布に、他の不織布を組み合わせてもよい。また、液体用フィルタの強度を強めるために、スパンボンド不織布を用いてもよく、スパンボンド不織布と網状物などとを積層してもよい。
【0087】
液体フィルタは、例えば、孔径を小さく制御するためにフラットロール間にクリアランスを設けた一対のフラットロールを用いてカレンダー処理を行ってもよい。フラットロール間のクリアランスは、不織布の厚さに応じて、適宜変更して、不織布の繊維間にある空隙がなくならようにすることが必要である。
【0088】
カレンダー処理の際に、加熱処理を行う場合、ロール表面温度が樹脂組成物から形成された繊維の融点より15℃から50℃低い温度の範囲で熱圧接することが望ましい。ロール表面温度が樹脂組成物から形成された樹脂の融点より15℃以上低い場合は、メルトブローン不織布の表面のフィルム化が抑えられ、フィルタ性能の低下が抑制される傾向にある。
【実施例】
【0089】
以下、実施例に基づいて本開示を更に具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0090】
(実施例1)
直鎖ポリプロピレン1(高分子量直鎖ポリプロピレン)としてAchieve 6936G2(製品名)(ExxonMobil社製、重量平均分子量:5.5万のプロピレン系重合体、MFR;1550g/10分)99.0質量部と、長鎖分岐ポリプロピレン(LCBPP)として、ウェイマックスMFX3(製品名)(日本ポリプロ(株)製、MFR;9、炭素数10以上の分岐構造を有する長鎖分岐ポリプロピレン)1.0質量部とを溶融及び混合し、樹脂組成物を得た。
得られた樹脂組成物のせん断粘度、一軸伸長粘度、及び、せん断粘度に対する一軸伸長粘度の比(一軸伸長粘度/せん断粘度)を表1に示す。なお、一軸伸長粘度及びせん断粘度は既述の方法で測定した。
【0091】
上記で得られた樹脂組成物をダイに供給し、設定温度230℃、ノズルの直径が0.12mmであるダイスから、ノズル単孔あたり12.5mg/分で、ノズルの両側から吹き出す加熱エアー(280℃、300m
3/秒)と供に上記樹脂組成物を吐き出しメルトブローン不織布を得た。得られたメルトブローン不織布のせん断粘度及び一軸伸張粘度は、紡糸前と変わらず、せん断粘度は16(Pa・S)であり、一軸伸張粘度は623(Pa・S)であった。
得られたメルトブローン不織布における、繊維径が平均繊維径の5倍以上である繊維の割合(5倍繊維径割合)、及び、繊維径の標準偏差(Dd)の平均繊維径(Da)に対する割合(Dd/Da)を表1に示す。
なお、平均繊維径(Da)、及び5倍繊維径割合は既述の方法で測定し、算出した。
【0092】
(実施例2〜実施例4並びに比較例1〜比較例3、比較例5及び比較例6)
実施例1において、表1に示す樹脂組成物の組成の割合に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行って、メルトブローン不織布を得た。得られた樹脂組成物及びメルトブローン不織布の物性値をそれぞれ表1に示す。
なお、一軸伸長粘度、せん断粘度及び平均繊維径は既述の方法で測定し、算出した。
【0093】
(比較例4)
実施例1において、長鎖分岐ポリプロピレン(LCBPP)1質量部の代わりに、直鎖ポリプロピレン2(製品名;J105G、MFR;9g/10分、(株)プライムポリマー製)を1質量部用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、メルトブローン不織布を得た。得られた樹脂組成物及びメルトブローン不織布の物性値をそれぞれ表1に示す。
なお、一軸伸長粘度、せん断粘度及び平均繊維径は既述の方法で測定した。
【0094】
【表1】
【0095】
表1中、直鎖ポリプロピレン3の詳細は以下のとおりである。
・直鎖ポリプロピレン3(低分子量直鎖ポリプロピレン);重量平均分子量:7700、三井化学(株)製、商品名:NP055)
表1中、紡糸不可とは、紡糸できないことを意味する。
【0096】
表1から明らかなように、実施例のメルトブローン不織布では、比較例のメルトブローン不織布に比べて、5倍繊維径の割合が少なく、かつ、平均繊維径が小さい。また、繊維径分布、すなわち、平均繊維径/平均繊維径の標準偏差が小さい。
このため、実施例のメルトブローン不織布をフィルタとして用いた際に微粒子の捕集効率に優れることが分かる。
【0097】
2018年3月29日に出願された日本国特許出願2018−066081号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書に参照により取り込まれる。