(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6636263
(24)【登録日】2019年12月27日
(45)【発行日】2020年1月29日
(54)【発明の名称】シート
(51)【国際特許分類】
B60N 2/60 20060101AFI20200120BHJP
A47C 31/02 20060101ALI20200120BHJP
A47C 31/11 20060101ALI20200120BHJP
B68G 7/052 20060101ALI20200120BHJP
【FI】
B60N2/60
A47C31/02 B
A47C31/11 Z
B68G7/052 A
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-88629(P2015-88629)
(22)【出願日】2015年4月23日
(65)【公開番号】特開2016-203825(P2016-203825A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2018年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000133098
【氏名又は名称】株式会社タチエス
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】藤掛 勤
(72)【発明者】
【氏名】二川目 友世
(72)【発明者】
【氏名】上村 知行
(72)【発明者】
【氏名】長澤 拓
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 忍
【審査官】
渡邉 洋
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−209067(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0215601(US,A1)
【文献】
実開平02−125673(JP,U)
【文献】
実開平02−141256(JP,U)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0101109(US,A1)
【文献】
国際公開第2011/058415(WO,A1)
【文献】
特開2011−010727(JP,A)
【文献】
特開2011−069417(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/00− 2/90
A47C31/02
A47C31/11
A44B19/00−19/64
B68G 7/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クッション材を含むシート部材と、該シート部材の所定箇所に取り付けられるトリムカバーを着脱可能とするファスニング部材と、を有するシートにおいて、
前記ファスニング部材は、一のファスナー半部および他のファスナー半部からなるファスナー部と、該ファスナー部に沿ってスライドし前記一のファスナー半部および他のファスナー半部を開閉するスライダー部と、を備えるスライドファスナーによって構成され、
前記一のファスナー半部に設けられた板状のベース部の少なくとも一部が前記クッション材に埋設され、
前記他のファスナー半部の一部が前記トリムカバーに固定されており、
前記一のファスナー半部は、吊り込み溝に格納され、
前記ベース部の両面に前記溝深さ方向に沿って延びる複数の突起が形成されていることを特徴とするシート。
【請求項2】
前記ベース部に前記溝深さ方向と垂直な方向に延びる突起が形成されていることを特徴とする、請求項1に記載のシート。
【請求項3】
前記突起が針状であることを特徴とする、請求項1または2に記載のシート。
【請求項4】
前記ベース部は、少なくともその一部が、前記一のファスナー半部の厚み方向において当該厚みよりも広い幅を有していることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載のシート。
【請求項5】
前記ベース部の側部にスリットが設けられていることを特徴とする、請求項4に記載のシート。
【請求項6】
前記ベース部の端部は、前記ファスニング部材の端部よりも当該ファスニング部材の長手方向に突出していることを特徴とする請求項4または5に記載のシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリムカバーが着脱自在なシートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、座席形状にモールド加工した発泡体クッション材に対してトリムカバー(表面カバー)を着脱自在としたシートが提案され、車両等において利用されている。また、クッション材に吊り込み部を形成して、そこにトリムカバーを面ファスナーで吊り込み締結するようにしたシートも提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−254268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このように面ファスナーを利用したシートでは、位置が多少ずれた状態でも締結(ファスニング)できてしまうためトリムカバーを吊り込む際に前後左右上下の各方向においてずれのない所定位置に確実に位置決めすることが難しい。また、狭い吊り込み部の奥で面ファスナーを全面的かつ確実に締結するには工具が必要となることがあり、位置決めしながら締結する作業をすばやく簡単に行うことは一般には難しい。さらに、トリムカバーの着脱を頻繁に繰り返すにつれて面ファスナーのファスニング機能が損なわれる場合がある。
【0005】
本発明は、シート部材上の所定の位置にトリムカバーを確実に取り付けること、工具などを用いることなくトリムカバーの着脱をすばやく簡単に行うことが可能であり、尚かつ、トリムカバーの着脱を頻繁に行ってもファスニング機能を損なうことがないシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するべく、本発明は、クッション材を含むシート部材と、該シート部材の所定箇所に取り付けられるトリムカバーを着脱可能とするファスニング部材と、を有するシートにおいて、
前記ファスニング部材は、一のファスナー半部および他のファスナー半部からなるファスナー部と、該ファスナー部に沿ってスライドし前記一のファスナー半部および他のファスナー半部を開閉するスライダー部と、を備えるスライドファスナーによって構成され、
前記一のファスナー半部に設けられたベース部の少なくとも一部が前記クッション材に埋設され、
前記他のファスナー半部の一部が前記トリムカバーに固定されていることを特徴とする。
【0007】
このシートにおいては、ファスニング部材として、一のファスナー半部がベース部を介してクッション材に取り付けられ、他のファスナー半部がトリムカバーに固定されたスライドファスナーを用いているため、トリムカバーをシート部材の所定の位置に確実に取り付けることができる。このように、トリムカバーを取り付ける際に位置決めすることでできるのでシートの安定した品質を保ちやすい。
【0008】
また、このシートにおいては、スライドファスナーで構成されたファスニング部材を有しているので、工具などを使うことなくトリムカバーをすばやく簡単に着脱することができる。
【0009】
さらに、このシートにおいては、スライドファスナーで構成されたファスニング部材を有しているので、トリムカバーを頻繁に着脱したとしても、面ファスナーのようにファスニング機能を損なうことがない。
【0010】
前記一のファスナー半部は、吊り込み溝に格納されるものであってもよい。トリムカバーを吊り込み溝に吊り込み締結する際、このシートによればスライドファスナーを利用して簡単かつ確実に締結することができる。また、クッション材に固定される一のファスナー半部は、この吊り込み溝に格納された状態となる。
【0011】
前記ベース部は、少なくともその一部が、前記一のファスナー半部の厚み方向において当該厚みよりも広い幅を有していることが好ましい。このようなベース部は、少なくともその一部がクッション材に埋設された状態で、ファスニング部材の保持力を高める。
【0012】
前記ベース部は、板状に形成されていてもよい。
【0013】
前記ベース部の側部にスリットが設けられていてもよい。吊り込み溝のカーブ形状に合わせてファスニング部材が湾曲する場合に、スリットによってファスニングが湾曲しやすくなる。
【0014】
また、前記ベース部に突起が形成されていることが好ましい。突起によりウレタン等の樹脂との接触面積を増すことにより、ベース部による保持力をさらに高めることができる。
【0015】
また、前記ベース部の端部は、前記ファスニング部材の端部よりも当該ファスニング部材の長手方向に突出していることが好適である。これによれば、クッション材からベース部が剥離しにくくなり、保持力がさらに高まる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、シート部材上の所定の位置にトリムカバーを確実に取り付けること、工具などを用いることなくトリムカバーの着脱をすばやく簡単に行うことが可能となり、尚かつ、トリムカバーの着脱を頻繁に行ってもファスニング機能を損なうことがない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係るシートの一実施形態を示す斜視図である。
【
図2】
図1のII-II線における背もたれ(シート部材)の構造を示す断面図である。
【
図3】ファスニング部材等の構成例を拡大して示す斜視図である。
【
図4】側方へ湾曲した状態のベース部等を示す平面図(凹部の深さ方向Dに沿って見た図)である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ本発明に係るシートの好適な実施形態について詳細に説明する(
図1〜
図4参照)。
【0019】
シート1は、車両のフロアパネル上で前後に移動可能な座2と、座2に対してリクライニング可能な、ヘッドレスト3A付きの背もたれ3とを備える。座2および背もたれ3は、それぞれ、シート1を構成するシート部材であり、発泡体からなるクッション材4を備えている。また、座2および背もたれ3には、ファスニング部材5を利用してトリムカバー7の着脱が可能となっている。さらに、座2と背もたれ3には、ライン状の吊り込み溝10が複数設けられている。
【0020】
ここで、背もたれ3を例に挙げて説明する。背もたれ3を構成するクッション材4は、乗員の背中を後方から支持するためのメインクッション部41と、乗員の背中を横から保持するためのサイドクッション部42とを有している(
図2参照)。
【0021】
トリムカバー7は、クッション材4のメインクッション部41上に載置される主面部71と、サイドクッション部42上に載置されるサイド面部72と、によって形成されている。トリムカバー7の主面部71とサイド面部72は、互いの表面どうしを接触させた状態で縫合部74によって接合されており、表面が着座者の側、裏面がクッション材4側を向いてクッション材4に被せられたとき、縫合部74およびトリムカバー7の該縫合部74から先の部分が表面側に露出しない(
図2参照)。なお、
図2に示すトリムカバー7のサイド面部72は、別々の表皮が第2縫合部76で縫合されて一体化されたものであるが、もちろん、縫合されていない1枚の表皮で構成されていても構わない。
【0022】
次に、吊り込み溝10について説明する。吊り込み溝10は、メインクッション部41とサイドクッション部42との境界部分に沿って所定の深さに形成された凹部12からなるもので、シート1の外観を形成するとともに、トリムカバー7の吊り込みに用いられるファスニング部材5のうちベース側テープ部511を格納する。なお、通常時、凹部12は、クッション材4の弾力によってメインクッション部41とサイドクッション部42との間で圧迫され塞がった状態となるが、便宜上、
図2においては理解しやすいように拡がった状態の凹部12を示している。吊り込み溝10に対してファスニング部材5のカバー側テープ部512を凹部12の深さ方向Dに差し入れ、ベース側テープ部511と噛合させてファスニング部材5を締結させることで、シート1にトリムカバー7を吊り込み固定することができる。
【0023】
ファスニング部材5は、クッション材4の表面に対してトリムカバー7を着脱可能とする部材である。本実施形態のファスニング部材5は、ファスナー部51とスライダー部52とを含むスライドファスナー50によって構成されている(
図2、
図3参照)。
【0024】
スライドファスナー50のファスナー部51は、ベース側テープ部511およびカバー側テープ部512からなる。ベース側テープ部511およびカバー側テープ部512は、互いに噛合するエレメント(務歯)511B,512Bと、蝶棒(
図2ではカバー側テープ部512の蝶棒512Cのみ図示)とを備えている(
図3参照)。
【0025】
スライドファスナー50のスライダー部52は、エレメント511B,512Bが並ぶ方向(以下、スライド方向と呼び符号Sで表す)に沿ってファスナー部51上をスライドし、ベース側テープ部511のエレメント511Bとカバー側テープ部512のエレメント512Bとを噛合してファスニング部材5を締結状態とし、あるいは、噛合を解除してファスニング部材5の締結を解く。
【0026】
カバー側テープ部512は、縫合部74においてトリムカバー7の主面部71およびサイド面部72とともに縫合され、トリムカバー7に固着されている(
図2、
図3参照)。なお、ここでは縫合される場合を例示しているが、代わりに溶着等により固着されていても構わない。
【0027】
ベース側テープ部511の縁部(ベース側テープ部511が幅広である場合にはその途中)にはベース部6が設けられている(
図2、
図3参照)。ベース部6は、ベース側テープ部511の厚みtよりも広い幅bを有する例えば樹脂製の板状部材によって構成されている(
図4参照)。ベース部6は、クッション材4に例えばウレタン樹脂の一体発泡成形により少なくともその一部、好ましくは全部が埋設されており(
図2参照)、深さ方向Dと垂直な方向に広がりを有し、ファスニング部材5の保持力を高めている。なお、深さ方向Dと垂直な方向に広がりを有するという観点からすれば、ベース部6は、少なくともその一部が、ベース側テープ部511の厚みtよりも広い幅bを有する形状であればよく、上述した板状の以外の形状であってもよいし、断面円形や矩形等、深さ方向Dに厚みを有する形状であってもよい。
【0028】
ベース部6を構成する板状部材は、フェルトやファブリック等の素材で形成されていてもよい。また、これらの素材からなる板状部材で構成されたベース部6は、ファスニング部材5のベース側テープ部511に縫製されて取り付けられていてもよい。ベース部6を構成する板状部材が樹脂製の素材で無い場合、クッション材4のウレタン等の樹脂がその素材(フェルトやファブリック等の素材)に更に含浸しうる。
【0029】
また、例えば樹脂製であるベース部6の表面には突起61が形成されている(
図3参照)。クッション材4のウレタン等の樹脂に向けて突出した突起61は、クッション材4との接触面積を増大させてベース部6による保持力をさらに高める。本実施形態では、凹部12の深さ方向Dにおけるベース部6の両面(上面および下面)に突起61を形成しているが、片面のみに形成されていてもよい。また、特に図示していないが、深さ方向Dと垂直な方向に延びる突起61が形成されていてもよい。なお、クッション材4との接触面積を増大させて抵抗を増すという観点からすれば、突起61の代わりに、凹凸や複数の窪みがベース部6の表面に形成されていてもよい。
【0030】
また、ベース部6の側部にはスリット62が設けられている(
図3参照)。吊り込み溝10が途中で湾曲している場合に、スリット62は、当該カーブ形状に合わせてベース部6を側方へ湾曲しやすくする(
図4参照)。
【0031】
さらに、ベース部6のスライド方向Sにおける端部63,64は、ファスニング部材5を構成するスライドファスナー50の端部よりもスライド方向Sに突出しており、本実施形態のベース部6はスライドファスナー50よりも長くなっている(
図3参照)。このベース部6は、クッション材4から剥離しにくく、保持力をさらに高める。
【0032】
なお、背もたれ3の他の吊り込み溝、および座2における吊り込み溝は、上述した吊り込み溝10と同様の構成になっているため、これらについての説明は省略する。
【0033】
ここまで説明した本実施形態のこのシート1においては、ファスニング部材5として、ベース側テープ部511がクッション材4に取り付けられ、カバー側テープ部512がトリムカバー7に縫合して固定されたスライドファスナー50を用いているため、トリムカバー7を背もたれ3あるいは座2の所定の位置に確実に取り付けることができる。また、このシート1においては、工具は使わずにトリムカバー7を簡単かつ素早く着脱することができるので、トリムカバー7を季節によって交換したり、クリーニングのため着脱したりする作業がしやすい。さらに、このシート1においては、ファスニング部材5としてスライドファスナー50を用いているため、トリムカバー7を頻繁に着脱したとしても、面ファスナーのようにファスニング機能を損なうことがない。
【0034】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、本発明に係るシート1は、自動車用シートのほか、航空機用シート、旅客船用シートなどに利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、クッション材を含むシート部材と、該シート部材の所定箇所に取り付けられるトリムカバーを着脱可能とするファスニング部材と、を有するシートに適用して好適である。
【符号の説明】
【0036】
1…シート
2…座(シート部材)
3…背もたれ(シート部材)
4…クッション材
5…ファスニング部材
6…ベース部
7…トリムカバー
10…吊り込み溝
50…スライドファスナー
51…ファスナー部
52…スライダー部
61…突起
62…スリット
63,64…ベース部の端部
511…ベース側テープ部(一のファスナー半部)
512…カバー側テープ部(他のファスナー半部)
b…ベース部の幅
t…ベース側テープ部の厚み(一のファスナー半部の厚み)
S…スライド方向(ファスニング部材の長手方向)