【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年6月10日、電子情報通信学会 研究会発表申込システム講演論文 詳細ウエブサイト、http://www.ieice.org/ken/paper/20150828rb1c/に掲載
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成23年度、独立行政法人情報通信研究機構「高度通信・放送研究開発委託研究/革新的光通信インフラの研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
各々、複数のコアと前記複数のコアを覆うクラッドとを有する第1及び第2のマルチコア光ファイバを、それらの軸が一致するように接続端面同士を対向させ、前記第1のマルチコア光ファイバの側方から試験光を入射して前記クラッドを伝搬させると共に、前記第2のマルチコア光ファイバから検出される試験光に基づいて、前記第1及び第2のマルチコア光ファイバの前記複数のコアの軸回転ずれを縮小させるように、前記第1及び第2のマルチコア光ファイバの軸回転調整を行うマルチコア光ファイバの接続方法であって、
前記第1のマルチコア光ファイバは、前記第1のマルチコア光ファイバを被覆する光透過性の被覆層を有し、
前記第1のマルチコア光ファイバへの側方からの試験光の入射を、前記被覆層を介して行うマルチコア光ファイバの接続方法。
【背景技術】
【0002】
汎用のシングルモード光ファイバのデータ伝送容量の限界を打破すべく、1本の光ファイバに複数のコアを設けたマルチコア光ファイバの実用化が検討されている。このマルチコア光ファイバでは、通常、横断面における中心にコアが1個設けられていると共に、それを囲うように複数のコアが配設されている。そのため、マルチコア光ファイバ同士を接続する場合、或いは、マルチコア光ファイバと光部品とを接続する場合、中心のコアの軸ずれを縮小させるように軸合わせをした上、更に、外周のコアの軸回転ずれを縮小させるための軸回転調整を行う必要がある。
【0003】
特許文献1には、軸が一致するように一対のマルチコア光ファイバの接続端面同士を対向させ、一方のマルチコア光ファイバの端から全てのコアに試験光を入射すると共に、他方のマルチコア光ファイバの曲げを与えた部分から漏洩するコアを伝搬した試験光を検出し、その光強度が最大になるように軸回転調整を行うことが開示されている。
【0004】
特許文献2には、マルチコア光ファイバを光部品の光ファイバ接続部に対面させると共に、マルチコア光ファイバを軸回転させ、モニタ用コアが光ファイバ接続部における反射部からの反射光を検出し、その光強度が最大となるように軸回転調整を行うことが開示されている。
【0005】
非特許文献1には、入射側の第1のマルチコア光ファイバの曲げを与えた部分の側方から試験光を入射してコアに結合させて伝搬させると共に、出射側の第2のマルチコア光ファイバの曲げを与えた部分の側方から漏洩するコアを伝搬した試験光を検出し、その光強度が最大になるように軸回転調整を行うことが開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態について図面に基づいて詳細に説明する。
【0014】
実施形態に係るマルチコア光ファイバ接続方法では、
図1に示すようなマルチコア光ファイバ心線10を一対用いる。これらの一対のマルチコア光ファイバ心線10は同一構成であることが好ましい。
【0015】
マルチコア光ファイバ心線10は、マルチコア光ファイバ11とそれを被覆する被覆層12とを有する。マルチコア光ファイバ心線10の外径は例えば200〜700μmである。
【0016】
マルチコア光ファイバ11は、複数のコア11a(
図1では7個)とそれらを覆うクラッド11bとを有する。マルチコア光ファイバ11は、
図2Aに示すように、各コア11a内の屈折率分布が一様であるステップインデックス(SI)型 の屈折率分布を有してもよい。また、マルチコア光ファイバ11は、
図2Bに示すように、クラッド11bに、各コア11aを囲う低屈折率層が設けられたトレンチ型の屈折率分布を有していてもよい。マルチコア光ファイバ11の外径は例えば100〜500μmである。
【0017】
図1に例示するマルチコア光ファイバ11の7個のコア11aは、横断面における中心に設けられた1個のコア11aと、それを囲うように配設された6個のコア11aとを含む。外周の6個のコア11aは、横断面において、中心のコア11aを基準として、それを中心とする正六角形を形成するように、周方向に等間隔に配設されており、隣接するコア11a間の中心間距離及びそれぞれの中心のコア11aとの間の中心間距離が等しい。従って、7個のコア11aは、横断面において全体として正三角形格子を構成するように配設されている。なお、コア11aの数は7個に限定されず、例えば2〜50個であり、19個や37個であってもよい。また、コア11aの配設形態は、正三角格子に限定されず、正方格子であってもよく、また、回転対称或いは線対称であってもよい。
【0018】
複数のコア11aは、クラッド11bとの関係で相対的に屈折率が高く、例えば石英で形成されている。コア11aを形成する石英は、純粋石英であってもよく、また、石英の屈折率を高めるゲルマニウム等のドーパントがドープされていてもよい。複数のコア11aの直径は、全てが等しいことが好ましく、例えば8〜11μmである。隣接するコア間の中心間距離は例えば20〜80μmである。コア11aは、信号光の波長に対してシングルモード動作するものであることが好ましいが、モード多重伝送用としてマルチモード動作するものであってもよい。また、シングルモード動作の場合、波長1550nmの光に対するモードフィールド径は例えば9〜15μmである。
【0019】
クラッド11bは、コア11aとの関係で相対的に屈折率が低く、例えば石英やアクリル樹脂等で形成されている。クラッド11bを形成する石英は、純粋石英であってもよく、また、石英の屈折率を低めるフッ素等のドーパントがドープされていてもよい。
【0020】
被覆層12は、例えば紫外線硬化型のウレタンアクリル系樹脂で形成されており、後述の試験光の入射及び/又は出射を被覆層12を介して行う観点から、光透過性を有することが好ましい。この「光透過性」とは、試験光の波長において、被覆層12の厚さを透過させた後の透過率((出射光の光強度/入射光の光強度)×100)が1%以上であることをいう。従って、被覆層12は、この透過率が1%以上あれば、仮に着色されていても光透過性を有する。被覆層12の厚さは例えば30〜200μmである。
【0021】
以上のマルチコア光ファイバ心線10は、公知の方法で製造することができる。
【0022】
実施形態に係るマルチコア光ファイバ接続方法では、一対のマルチコア光ファイバ心線10について、それぞれの接続端部の被覆層12を所定長剥離してマルチコア光ファイバ11を露出させる。
【0023】
露出させたマルチコア光ファイバ11の露出長さは例えば2〜20mmである。露出させたマルチコア光ファイバ11の接続端面は、軸に対して垂直であることが好ましい。
【0024】
実施形態に係るマルチコア光ファイバ接続方法では、接続端部の被覆層12を剥離した一対のマルチコア光ファイバ心線10を
図3に示す融着接続装置20にセットする。
【0025】
この融着接続装置20は、クランプ21、ガイド部材22、及び放電電極23を、それぞれ一対ずつ有する。
【0026】
一対のクランプ21は、間隔をおいて配設されており、それぞれマルチコア光ファイバ心線10を、被覆層12が剥がされてマルチコア光ファイバ11が露出した部分を内側に突出させて保持するように構成されている。各クランプ21は、保持したマルチコア光ファイバ心線10をクランプ21の配設方向(以下、「長さ方向」という。)に移動させることができるように構成されている。また、各クランプ21は、保持したマルチコア光ファイバ心線10を軸回転させることができるようにも構成されている。
【0027】
一対のガイド部材22は、一対のクランプ21の内側に間隔をおいて配設されており、それぞれの上面に長さ方向に延びるV溝24が形成されている。各ガイド部材22は、対応するクランプ21から突出した被覆層12が剥がされて露出したマルチコア光ファイバ11を、ガイド部材22から更に内側に突出させてV溝24で支持するように構成されている。
【0028】
一対の放電電極23は、一対のガイド部材22間の中央における左右両側に間隔をおいて配設されている。
【0029】
なお、融着接続装置20における一対のクランプ21間には、マルチコア光ファイバ11の位置を確認するための図示しないCCDカメラが設けられている。
【0030】
実施形態に係るマルチコア光ファイバ接続方法では、一対のクランプ21の一方で、一対のマルチコア光ファイバ心線10の一方を保持し、また、クランプ21から内側に突出した部分における被覆層12が剥がされて露出した第1のマルチコア光ファイバ11を対応するガイド部材22のV溝24で支持する。同様に、一対のクランプ21の他方で、一対のマルチコア光ファイバ心線10の他方を保持し、また、クランプ21から内側に突出した部分における被覆層12が剥がされて露出した第2のマルチコア光ファイバ11を対応するガイド部材22のV溝24で支持する。そして、クランプ21によって第1及び第2の一対のマルチコア光ファイバ11を長さ方向に移動させることによりガイド部材22から突出させ、それらの接続端面同士を対向させる。このとき、第1及び第2の一対のマルチコア光ファイバ11は、それぞれがガイド部材22のV溝24で支持されるため、軸が一致した状態で接続端面同士が対向することとなる。これらの対向位置は、一対の放電電極23間とすることが好ましい。対向した第1及び第2の一対のマルチコア光ファイバ11の接続端面間の間隔は例えば5〜50μmである。
【0031】
実施形態に係るマルチコア光ファイバ接続方法では、第1のマルチコア光ファイバ11を入射側とし、その側方から試験光を入射してクラッド11bを伝搬させる。
【0032】
第1のマルチコア光ファイバ11への試験光の入射は、強度を有することから操作が容易であるという観点から、
図4に示すように、被覆層12を介して行うことが好ましい。この場合、試験光を効率的にマルチコア光ファイバ11に入射させる観点からは、試験光源31を被覆層12に接触させて行うことが好ましい。また、被覆層12による試験光の吸収を抑制する観点からは、被覆層12の端から試験光源31の試験光の出射中心までの距離Lが100mm以内であることが好ましい。
【0033】
第1のマルチコア光ファイバ11への試験光の入射は、直線状に設けた第1のマルチコア光ファイバ11の側方から行ってもよく、また、第1のマルチコア光ファイバ11に曲げを与え、その部分の側方から行ってもよい。マルチコア光ファイバ11の曲げを与えた部分における軸位置での曲率半径は、例えば5〜50mmである。
【0034】
試験光としては、特に限定されるものではなく、例えば白色光を用いてもよいが、後述のように出射側の第2のマルチコア光ファイバ11を曲げて試験光を漏洩させるような場合、曲げ損失が高く、漏洩させやすいという観点から、近赤外光(波長800〜2500nm)を用いることが好ましい。
【0035】
実施形態に係るマルチコア光ファイバ接続方法では、出射側の第2のマルチコア光ファイバ11から検出される試験光に基づいて、第1及び第2のマルチコア光ファイバ11の複数のコア11aの軸回転ずれを縮小させるように、第1及び第2のマルチコア光ファイバ11の軸回転調整を行う。
【0036】
出射側の第2のマルチコア光ファイバ11における試験光の検出は、他方のマルチコア光ファイバ心線10の端において行ってもよく、また、出射側の第2のマルチコア光ファイバ11の曲げを与えた部分の側方から漏洩させて行ってもよい。後者の場合、第1のマルチコア光ファイバ11への試験光の入射及び第2のマルチコア光ファイバ11からの試験光の検出を、融着接続装置20を設けた位置で行えるので、それらの接続作業性が良好となる。マルチコア光ファイバ11の曲げを与えた部分における軸位置での曲率半径は、例えば2.5〜20mmである。また、この場合、被覆層12で被覆されたマルチコア光ファイバ心線10を曲げることが好ましい。
【0037】
出射側の第2のマルチコア光ファイバ11から検出する試験光は、コア11aをシングルモードで伝搬した試験光であってもよく、クラッド11bをマルチモードで伝搬した試験光であってもよく、更には、それらの両方であってもよい。
【0038】
第1及び第2のマルチコア光ファイバ11の軸回転調整は、コア11aを伝搬した試験光を検出する場合には、第1及び第2のマルチコア光ファイバ11のコア11aとクラッド11bの重複が小さくなって光強度が小さくなるように、好ましくは重複が最小となって光強度が最小になるように行う。また、クラッド11bを伝搬した試験光を検出する場合には、第1及び第2のマルチコア光ファイバ11のクラッド11bの重複が大きくなって光強度が大きくなるように、好ましくは重複が最大となって光強度が最大となるように行う。
【0039】
第1及び第2のマルチコア光ファイバ11の軸回転はクランプ21によって行うが、軸回転調整では、第1及び第2のマルチコア光ファイバ11の一方を固定して他方を軸回転させてもよく、また、両方を軸回転させてもよい。
【0040】
実施形態に係るマルチコア光ファイバ接続方法では、第1及び第2のマルチコア光ファイバ11の軸回転調整の後、クランプ21によって第1及び/又は第2の一対のマルチコア光ファイバ11を長さ方向に移動させることにより、それらの接続端面同士を突き合わせ、放電電極23から放電をさせることによりそれらを融着接続する。
【0041】
ところで、非特許文献1に開示されているように第1のマルチコア光ファイバの側方から試験光を入射してコアを伝搬させる場合、例えば試験光源等の光学系の僅かなずれにより試験光のコアとの結合効率が低下しまうこととなる。これに対し、上記実施形態に係るマルチコア光ファイバ接続方法によれば、第1のマルチコア光ファイバ11の側方から試験光を入射してクラッド11bを伝搬させるので、試験光源31等の光学系のずれにより試験光のクラッド11bとの結合効率に生じる差は比較的小さく、そのため軸回転調整を容易に行うことができる。
【0042】
また、非特許文献1に開示されているように第1のマルチコア光ファイバの側方から試験光を入射してコアを伝搬させる場合、第1及び第2のマルチコア光ファイバの軸ずれにより、コア相互間で伝搬する試験光の光強度に差が生じ、また、それが変化することにより軸回転ずれに対する光強度の変化に差が生じることとなる。これに対し、上記実施形態に係るマルチコア光ファイバ接続方法によれば、第1のマルチコア光ファイバ11の側方から試験光を入射してクラッド11bを伝搬させるので、そのような光強度の差は生じない。
【0043】
更に、非特許文献1に開示されているように第1のマルチコア光ファイバの側方から試験光を入射してコアを伝搬させる場合、第1のマルチコア光ファイバの曲げを与えた部分の側方から試験光を入射する必要がある。これに対し、上記実施形態に係るマルチコア光ファイバ接続方法によれば、第1のマルチコア光ファイバ11の側方から試験光を入射してクラッド11bを伝搬させるので、必ずしもそのような曲げを与える必要はない。
【実施例】
【0044】
(試験方法)
図5は実施例での試験方法を示す。なお、上記実施形態と同一名称の部分は、上記実施形態と同一符号で示す。
【0045】
接続側の第1のマルチコア光ファイバ心線10と、被接続側の第1のマルチコア光ファイバ心線10(長さ3m)とについて、上記実施形態と同様の操作により、第1及び第2のマルチコア光ファイバ心線10にそれぞれ含まれる第1及び第2のマルチコア光ファイバ11の軸回転調整を行った。
【0046】
<実施例1>
第1及び第2のマルチコア光ファイバ心線10として、
図1に示すのと同様の構成であって、外径が310μm、マルチコア光ファイバ11の外径が180μm、コア11aの直径が9.3μm、隣接するコア11a間の中心間距離が45μm、及び波長1550nmの光に対するモードフィールド径が10.4μmであり、且つ第1及び第2のマルチコア光ファイバ11が
図2Aに示すようなステップインデックス(SI)型 の屈折率分布を有するものを用いた。試験光源31として白色光を発するLEDを用い、それを、直線状に設けた第1のマルチコア光ファイバ心線10における被覆層12の端から試験光の出射中心までの距離Lが10mmとなるように試験光源31を被覆層12の外周面に接触させて取り付けた。第1のマルチコア光ファイバ11の側方から被覆層12を介して試験光を入射してクラッド11bを伝搬させ、第2のマルチコア光ファイバ11からの試験光の検出を、第2のマルチコア光ファイバ心線10の端に設けたパワーメータ32で、コア11aを伝搬した試験光の光強度を光電力として測定することにより行った。
【0047】
<比較例1>
第1のマルチコア光ファイバ心線10に曲げを与え、その部分の側方から被覆層12を介して第1のマルチコア光ファイバ11に試験光源31のLEDからの試験光を入射してコア11aを伝搬させ、第2のマルチコア光ファイバ11からの試験光の検出を、第2のマルチコア光ファイバ心線10の端に設けたパワーメータ32で、コア11aを伝搬した試験光の光強度を光電力として測定することにより行った。
【0048】
<実施例2>
第1及び第2のマルチコア光ファイバ心線10として、外径が310μm、マルチコア光ファイバ11の外径が180μm、コア11aの直径が8.2μm、隣接するコア11a間の中心間距離が45μm、及び波長1550nmの光に対するモードフィールド径が10.3μmであり、且つ第1及び第2のマルチコア光ファイバ11が
図2Bに示すようなトレンチ型 の屈折率分布を有するものを用いたことを除いて実施例1と同一の操作を行った。
【0049】
<比較例2>
実施例2で用いたトレンチ型 の屈折率分布を有する第1及び第2のマルチコア光ファイバ11を用いたことを除いて比較例2と同一の操作を行った。
【0050】
(試験結果)
図6は、実施例1について、軸回転ずれと検出した試験光の光電力の最大値を基準とした変化量との関係を示す。これによれば、光電力の最小値との差が3dB以下となる軸回転ずれ角度幅(±X°)は±1.3°であった。比較例1について、光電力の最大値との差が3dB以下となる軸回転ずれ角度幅は±6.0°であった。
【0051】
実施例2について、光電力の最小値との差が3dB以下となる軸回転ずれ角度幅は±2.4°であった。比較例2について、光電力の最大値との差が3dB以下となる軸回転ずれ角度幅は±5.9°であった。
【0052】
以上の結果を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
この表1によれば、第1のマルチコア光ファイバ11の側方から試験光を入射してクラッド11bを伝搬させた実施例1及び2は、それぞれ比較例1及び2と比較すると、軸回転ずれ角度幅が狭いことが分かる。従って、実施例1及び2では、比較例1及び2に比べて、軸回転ずれが小さくなったときにおける光電力の変化量が大きくなるため、第1及び第2のマルチコア光ファイバ11の軸回転調整をより容易に行うことができる。