【実施例】
【0021】
金属Aとしてカルシウムを、金属Bとしてジルコニウムを、金属Mとしてマンガンを使用して原料を調製し、ペレット形状に成形した成形体を酸化雰囲気で焼成し、焼結体を得た。モル比A:B:M=1:0.95:0.05(すなわち、x=0.05)とした試料R1、及び、モル比A:B:M=1:0.90:0.10(すなわち、x=0.10)をとした試料S1について、X線回折による結晶相の同定を行った。測定されたX線回折パターンを、それぞれ
図1(a)及び
図1(b)に示す。
【0022】
ここで、X線回折は、粉末X線回折装置(リガク製、RINT2000)を使用し、電圧40kV、電流100mA、スキャン速度2θについて1.2度/minの条件で測定した。
【0023】
図1(a)に示すように、試料R1のX線回折パターンには、CaZrO
3のピークと一致するピークのみが認められ、ジルコニウムの一部がマンガンに置換したCaZr
1−bMn
bO
3−αの単相であると考えられた。一方、
図1(b)に示すように、試料S1のX線回折パターンには、CaZrO
3のピークと一致するピークに加えて、カルシウムとマンガンの複酸化物であるCaMnO
3のピークが認められた。
【0024】
試料S1のX線回折パターンをリートベルト解析した結果、CaZrO
3(CaZr
1−bMn
bO
3−α)の含有率は95.4±0.5質量%であり、CaMnO
3の含有率は4.6±0.3質量%であった。
【0025】
このことから、試料S1では、主な結晶相であるCaZr
1−bMn
bO
3−αのマトリックス中に、CaZrO
3の相が含有されていると考えられた。すなわち、試料S1の原料には、ジルコニウムに置換してマンガンが固溶できる固溶可能量と、焼成中にマンガン失われる消失量との和を超える過剰量のマンガンが含有されていたと考えられた。
【0026】
試料R1及び試料S1について、それぞれ上記と同一組成の原料を使用し、上記と同一条件にて複数の焼結体を製造した。製造された焼結体をそれぞれセンサ素子とした水素センサを用い、測定ガスの水素濃度(水素分圧)を変化させて、起電力の測定を行った。測定温度は600℃とした。その結果を、それぞれ
図2(a)及び
図2(b)に示す。ここでは、試料R1及び試料S1について、それぞれ3個の試料の測定結果を示している。
【0027】
図2(a)に示すように、試料R1の場合、個々の試料についてみれば、水素分圧と起電力との間に一定の関係を有しており、水素センサのセンサ素子として使用可能である。ところが、試料間で対比すると、同一の水素分圧のときに生じる起電力が相違している。つまり、同一組成の原料から同一条件で製造しているにも関わらず、プロトン伝導性が異なっている。これは、焼成中にマンガンが失われる量が試料ごとに異なっており、その結果、得られたプロトン伝導性セラミックスCaZr
1−bMn
bO
3−αにおいて、ジルコニウムに置換しているマンガンの量、換言すれば、プロトン濃度が、試料ごとに異なっているためと考えられた。
【0028】
これに対し、固溶可能量と消失量との和を超える過剰量のマンガンが含有されている原料を使用した試料S1では、水素分圧と起電力との関係は、複数の試料間でほぼ一致している。つまり、同一組成の原料から同一条件で製造した試料は、プロトン伝導性が等しい。このことから、過剰量のマンガンが含有された原料から製造され、カルシウムとマンガンの複酸化物であるCaMnO
3の相を含有している試料S1のプロトン伝導性セラミックスでは、固溶できる上限量に近い量でマンガンがジルコニウムに置換しており、各試料におけるプロトン濃度がほぼ等しいと考えられた。
【0029】
ここで、原料中にどの程度のマンガンを含有させれば、固溶可能量と消失量との和を超える過剰量であるかは、金属Aや金属Bの種類、成形体のサイズや形状等、種々の条件によって異なる。次に、上記の試料R1及び試料S1と、金属Aの種類が異なる場合を例示する。
【0030】
金属Aとしてストロンチウムを使用した他は、試料R1及び試料S1と同様に、金属Bとしてジルコニウムを、金属Mとしてマンガンを使用して原料を調製し、同一サイズのペレット形状に成形した成形体を、酸化雰囲気の同一の焼成炉にて同一条件で焼成し、焼結体を得た。モル比A:B:M=1:0.88:0.12(すなわち、x=0.12)とした試料R2、及び、モル比をA:B:M=1:0.85:0.15(すなわち、x=0.15)とした試料S2について、上記と同様にX線回折による結晶相の同定を行った。測定されたX線回折パターンを、それぞれ
図3(a)及び
図3(b)に示す。
【0031】
試料R2の原料は、上記の試料S1(x=0.10)より大きなモル比でマンガンを含有しているが、
図3(a)に示すように、X線回折パターンにはSrZrO
3のピークと一致するピークのみが認められ、ジルコニウムの一部がマンガンに置換したSrZr
1−bMn
bO
3−αの単相であると考えられた。そして、原料におけるマンガンのモル比が更に大きい試料S2のX線回折パターンには、
図3(b)に示すように、ストロンチウムとマンガンの複酸化物であるSr
7Mn
4O
15の相が析出している。このように、金属Aの種類が異なれば、過剰とさせるために必要なマンガンの量が相違する。
【0032】
なお、試料S2のX線回折パターンをリートベルト解析した結果、SrZrO
3(SrZr
1−bMn
bO
3−α)の含有率は98.5±0.6質量%であり、Sr
7Mn
4O
15の含有率は1.5±0.3質量%であった。
【0033】
また、原料中にどの程度のマンガンを含有させれば、固溶可能量と消失量との和を超える過剰量であるかは、成形体のサイズや形状によっても異なる。次に示す試料S3は、試料S2と同一組成の原料から成形した成形体を、同一条件で焼成しているが、成形体のサイズ及び形状が試料S2と異なっている例である。試料S2の成形体がペレット形状であったのに対し、試料S3の成形体は有底筒状である。試料S3について、上記と同様に測定したX線回折パターンを
図4に示す。
【0034】
図4に示すように、試料S3では、CaZrO
3のピークと一致するCaZr
1−bMn
bO
3−αのピークに加えて、カルシウムとマンガンの複酸化物であるCaMnO
3のピークと、同じくカルシウムとマンガンの複酸化物であるCaMnO
2.95のピークが認められた。試料S3のX線回折パターンをリートベルト解析した結果、CaZrO
3(CaZr
1−bMn
bO
3−α)の含有率は94.8±0.5質量%であり、CaMnO
3の含有率は1.5±0.2質量%質量%であり、CaMnO
2.95の含有率は3.7±0.2であった。CaMnO
3とCaMnO
2.95の和の含有率は、試料S2におけるCaMnO
3の含有率より大きい。
【0035】
このことから、試料S3の原料は、試料S2の原料と同一のモル比でマンガンを含有しているものの、試料S3の方が試料S2に比べてマンガンがより過剰であったことが分かる。これは、試料S3の成形体が有底筒状であり、筒状部分の周壁で囲まれた内部側からはマンガンが蒸散しにくいため、焼成中におけるマンガンの消失量が全体として試料S2に比べて小さいためと考えられた。
【0036】
以上のように、本実施形態の製造方法によれば、原料に固溶可能量と消失量との和を超える過剰量のマンガンを含有させ、AB
1−bM
bO
3−αのマトリックス中に金属Aとマンガンとの複酸化物の相を析出させることにより、マンガンが上限値に近い量で金属Bと置換しており、プロトン伝導性のばらつきが低減されているプロトン伝導性セラミックスを製造することができる。なお、金属Aとマンガンとの複酸化物の相は、上記の試料S3のように、複数相の場合がある。
【0037】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0038】
例えば、上記では、プロトン伝導性のばらつきを評価するために、実施例のプロトン伝導性セラミックスを水素センサのセンサ素子として使用した場合を例示したが、本発明のプロトン伝導性セラミックスの用途は水素センサに限定されず、燃料電池や水素濃淡電池等に使用することができる。