特許第6636319号(P6636319)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6636319プロトン伝導性セラミックス及びプロトン伝導性セラミックスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6636319
(24)【登録日】2019年12月27日
(45)【発行日】2020年1月29日
(54)【発明の名称】プロトン伝導性セラミックス及びプロトン伝導性セラミックスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/01 20060101AFI20200120BHJP
   C01G 45/00 20060101ALI20200120BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20200120BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20200120BHJP
   G01N 27/406 20060101ALI20200120BHJP
【FI】
   C04B35/01
   C01G45/00
   H01B1/06 A
   H01B13/00 Z
   G01N27/406
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-253447(P2015-253447)
(22)【出願日】2015年12月25日
(65)【公開番号】特開2017-114738(P2017-114738A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2018年12月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220767
【氏名又は名称】東京窯業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098224
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 勘次
(74)【代理人】
【識別番号】100140671
【弁理士】
【氏名又は名称】大矢 正代
(72)【発明者】
【氏名】常吉 孝治
(72)【発明者】
【氏名】木股 幸司
(72)【発明者】
【氏名】高橋 総子
(72)【発明者】
【氏名】奥山 勇治
【審査官】 谷本 怜美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−097021(JP,A)
【文献】 特開2001−307546(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84
C01G 45/00
G01N 27/406
H01B 1/06
H01B 13/00
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式AB1−b3−αで表されるペロブスカイト型の結晶構造を有する金属複酸化物であり、金属Mとしてマンガンを含むマトリックスが、
金属Aとマンガンとの複酸化物の相を含有している
ことを特徴とするプロトン伝導性セラミックス。
【請求項2】
金属A、金属B、及び、マンガンを含む金属Mを含有する原料を成形した成形体を、酸化雰囲気で焼成することにより、化学式AB1−b3−αで表されるペロブスカイト型の結晶構造を有する金属複酸化物の焼結体を得るものであり、
前記原料に、AB1−b3−αにおいて金属Bに置換してマンガンが固溶できる固溶可能量と、焼成中にマンガンが失われる消失量との和を超える過剰量のマンガンを含有させ、前記焼結体においてAB1−b3−αのマトリックス中に金属Aとマンガンとの複酸化物の相を析出させる
ことを特徴とするプロトン伝導性セラミックスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペロブスカイト構造を有するプロトン伝導性セラミックス、及び、該プロトン伝導性セラミックスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
化学式ABOで表されるペロブスカイト型の金属複酸化物において、金属Bの一部を、それより低い原子価の金属Mで置換することにより、プロトン伝導性を発現するプロトン伝導性セラミックスAB1−b3−αが知られており、これを使用した水素センサ等が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、本発明者らは、金属Bの一部を置換する金属Mとしてマンガン(Mn)を使用した場合、同一組成の原料から製造したとしても、得られるプロトン伝導性セラミックスのプロトン伝導性に、ばらつきが大きいことに気付いた。そのため、例えば、プロトン伝導性セラミックスを水素センサのセンサ素子として使用した場合、同一組成の原料から製造した複数のセンサ素子は、個々については水素分圧と起電力との間で一定の関係を示すことによりセンサ素子として使用することが可能であるものの、同一の水素分圧に対する起電力がセンサ素子ごとに異なることがある、という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3029473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、上記の実情に鑑み、化学式AB1−b3−αで表されるペロブスカイト型のプロトン伝導性セラミックスであって、金属Bの一部を置換している金属Mとしてマンガンを含み、プロトン伝導性のばらつきが低減されているプロトン伝導性セラミックス、及び、該プロトン伝導性セラミックスの製造方法の提供を、課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明にかかるプロトン伝導性セラミックスは、
「化学式AB1−b3−αで表されるペロブスカイト型の結晶構造を有する金属複酸化物であり、金属Mとしてマンガンを含むマトリックスが、
金属Aとマンガンとの複酸化物の相を含有している」ものである。
【0007】
本構成のプロトン伝導性セラミックスは、化学式AB1−b3−αで表されるペロブスカイト型の結晶構造を有する金属複酸化物をマトリックスとする。ここで、金属Aとしては、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、バリウム(Ba)など、アルカリ土類金属を例示することができる。金属Bは、ジルコニウム(Zr)、セリウム(Ce)など、+4価の金属とすることができる。金属Mは、金属Bより低い価数を取り得る金属であり、マンガンの他、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)などの遷移金属を例示することができる。金属A、金属B及び金属Mの何れも、単一の元素からなるものであっても、複数の元素からなるものであってもよいが、金属Mが単一の元素からなる場合はマンガンである。なお、αは酸素欠陥であり、A,B,Mそれぞれの原子種、b値、環境の温度と酸素分圧等に応じて変化する値である。
【0008】
本発明者らは、金属Mとしてマンガンを使用した場合、得られるプロトン伝導性セラミックスのプロトン伝導性にばらつきが生じる理由は、焼成中にマンガンが蒸散(飛散)することにあると考察した。原料に含まれていたマンガンの一部が失われると、原料が同一組成であっても、得られるプロトン伝導性セラミックスにおいて、金属Bに置換して固溶しているマンガンの量にばらつきが生じ、その結果としてプロトン濃度にばらつきが生じる。
【0009】
そこで、原料の中に、金属Bに置換して固溶できるマンガンの固溶可能量と、焼成中に失われるマンガンの消失量との和を超える過剰量のマンガンを含有させておけば、金属Bに置換して固溶できる上限量でマンガンを含むプロトン伝導性セラミックスが得られるのではないかと、本発明者らは想到した。異なる製造単位で製造されたプロトン伝導性セラミックスの何れにおいても、金属Bのサイトにほぼ上限値でマンガンが固溶していれば、個々のプロトン伝導性セラミックスが示すプロトン伝導性は、ほぼ等しいものとなるはずである。
【0010】
ところが、焼成中のマンガンの消失量は一定ではないため、見積もることが困難である。また、マンガンの固溶可能量も、金属Bの種類、金属Mとしてマンガンに加えて他の金属を使用する場合のその種類、等によって変動する。そのため、マンガンについて固溶可能量と消失量との和を超える過剰量を、計算によって設定することは難しい。
【0011】
そこで、本願発明では、プロトン伝導性セラミックスに、化学式AB1−b3−αで表される金属複酸化物の主結晶相(マトリックス)に加えて、金属Aとマンガンとの複酸化物を含有させるという構成を採用した。固溶可能量と消失量との和を超える過剰量のマンガンが原料に含有されていれば、最終的に得られるプロトン伝導性セラミックスには、金属Bのサイトに固溶しきれず残った過剰分のマンガンが、金属Aと結びついて生成した複酸化物が存在するはずである。換言すれば、プロトン伝導性セラミックスのマトリックス中に金属Aとマンガンとの複酸化物が存在していれば、そのプロトン伝導性セラミックスは、金属Bに置換して固溶できる上限量で、マンガンを含んでいると判断することができる。
【0012】
従って、本構成によれば、焼成中に失われ易いマンガンを金属Mとして含んでいても、プロトン伝導性のばらつきが従来に比べて大幅に低減されているプロトン伝導性セラミックス(化学式AB1−b3−α)を、提供することができる。
【0013】
次に、本発明にかかるプロトン伝導性セラミックスの製造方法(以下、単に「製造方法」と称することがある)は、
「金属A、金属B、及び、マンガンを含む金属Mを含有する原料を成形した成形体を、酸化雰囲気で焼成することにより、化学式AB1−b3−αで表されるペロブスカイト型の結晶構造を有する金属複酸化物の焼結体を得るものであり、
前記原料に、AB1−b3−αにおいて金属Bに置換してマンガンが固溶できる固溶可能量と、焼成中にマンガンが失われる消失量との和を超える過剰量のマンガンを含有させ、前記焼結体においてAB1−b3−αのマトリックス中に金属Aとマンガンとの複酸化物の相を析出させる」ものである。
【0014】
本構成の製造方法では、AB1−b3−αのマトリックス中に金属Aとマンガンとの複酸化物の相を析出させることによって、固溶可能量と消失量との和を超える過剰量のマンガンが原料に含有されていたことを確認することができる。この製造方法により、上記のように、金属Bに置換して固溶できる上限量に近い量でマンガンを含んでおり、プロトン伝導性のばらつきが従来に比べて大幅に低減されているプロトン伝導性セラミックスを、製造することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明の効果として、化学式AB1−b3−αで表されるペロブスカイト型のプロトン伝導性セラミックスであって、金属Bの一部を置換している金属Mとしてマンガンを含み、プロトン伝導性のばらつきが低減されているプロトン伝導性セラミックス、及び、該プロトン伝導性セラミックスの製造方法を、提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】(a),(b)はそれぞれ試料R1及び試料S1のX線回折パターンである。
図2】(a),(b)はそれぞれ試料R1及び試料S1におけるプロトン伝導性のばらつきを示すグラフである。
図3】(a),(b)はそれぞれ試料R2及び試料S2のX線回折パターンである。
図4】試料S3のX線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態であるプロトン伝導性セラミックス、及び、その製造方法について説明する。本実施形態のプロトン伝導性セラミックスは、化学式AB1−b3−αで表されるペロブスカイト型の結晶構造を有する金属複酸化物であり金属Mとしてマンガンを含むマトリックスが、金属Aとマンガンとの複酸化物の相を含有しているものである。このプロトン伝導性セラミックスは、金属Bに置換して固溶できる量を超えるマンガンを含んでおり、固溶しきれなかった過剰分のマンガンが、金属Aと結びつくことにより複酸化物が生成しているものである。
【0018】
このような構成のプロトン伝導性セラミックスは、金属Bに置換して固溶できる固溶可能量のマンガンと焼成中に失われるマンガンの消失量との和を超える過剰量のマンガンを含有する原料を、酸化雰囲気で焼成する製造方法により製造することができる。ここで、原料に含有させるマンガンについて、固溶可能量と消失量との和を超える過剰量を計算により設定することは難しいが、焼成により得られる化学式AB1−b3−αで表される金属複酸化物のマトリックス中に、金属Aとマンガンとの複酸化物の相を析出させることができれば、原料中に固溶可能量と消失量との和を超える過剰量のマンガンが含有されていたこととなる。
【0019】
すなわち、本実施形態の製造方法は、金属A、金属B、及び金属Mをモル比A:B:Mが1:1−x:xとなるように含有し、且つ、金属Mとしてマンガンを含む原料を、酸化雰囲気で焼成することにより、化学式AB1−b3−α(b<x)で表される金属複酸化物のマトリックス中に、金属Aとマンガンとの複酸化物の相を析出させるものである。
【0020】
具体的には、金属A、金属B、及びマンガンを含む金属Mの化合物を、モル比A:B:M=1:1−x:xとなるように混合し、調製した原料を、成形した後、酸化雰囲気で焼成する。成形の前に原料をか焼し、か焼後の粉末を粉砕した後、成形してもよい。
【実施例】
【0021】
金属Aとしてカルシウムを、金属Bとしてジルコニウムを、金属Mとしてマンガンを使用して原料を調製し、ペレット形状に成形した成形体を酸化雰囲気で焼成し、焼結体を得た。モル比A:B:M=1:0.95:0.05(すなわち、x=0.05)とした試料R1、及び、モル比A:B:M=1:0.90:0.10(すなわち、x=0.10)をとした試料S1について、X線回折による結晶相の同定を行った。測定されたX線回折パターンを、それぞれ図1(a)及び図1(b)に示す。
【0022】
ここで、X線回折は、粉末X線回折装置(リガク製、RINT2000)を使用し、電圧40kV、電流100mA、スキャン速度2θについて1.2度/minの条件で測定した。
【0023】
図1(a)に示すように、試料R1のX線回折パターンには、CaZrOのピークと一致するピークのみが認められ、ジルコニウムの一部がマンガンに置換したCaZr1−bMn3−αの単相であると考えられた。一方、図1(b)に示すように、試料S1のX線回折パターンには、CaZrOのピークと一致するピークに加えて、カルシウムとマンガンの複酸化物であるCaMnOのピークが認められた。
【0024】
試料S1のX線回折パターンをリートベルト解析した結果、CaZrO(CaZr1−bMn3−α)の含有率は95.4±0.5質量%であり、CaMnOの含有率は4.6±0.3質量%であった。
【0025】
このことから、試料S1では、主な結晶相であるCaZr1−bMn3−αのマトリックス中に、CaZrOの相が含有されていると考えられた。すなわち、試料S1の原料には、ジルコニウムに置換してマンガンが固溶できる固溶可能量と、焼成中にマンガン失われる消失量との和を超える過剰量のマンガンが含有されていたと考えられた。
【0026】
試料R1及び試料S1について、それぞれ上記と同一組成の原料を使用し、上記と同一条件にて複数の焼結体を製造した。製造された焼結体をそれぞれセンサ素子とした水素センサを用い、測定ガスの水素濃度(水素分圧)を変化させて、起電力の測定を行った。測定温度は600℃とした。その結果を、それぞれ図2(a)及び図2(b)に示す。ここでは、試料R1及び試料S1について、それぞれ3個の試料の測定結果を示している。
【0027】
図2(a)に示すように、試料R1の場合、個々の試料についてみれば、水素分圧と起電力との間に一定の関係を有しており、水素センサのセンサ素子として使用可能である。ところが、試料間で対比すると、同一の水素分圧のときに生じる起電力が相違している。つまり、同一組成の原料から同一条件で製造しているにも関わらず、プロトン伝導性が異なっている。これは、焼成中にマンガンが失われる量が試料ごとに異なっており、その結果、得られたプロトン伝導性セラミックスCaZr1−bMn3−αにおいて、ジルコニウムに置換しているマンガンの量、換言すれば、プロトン濃度が、試料ごとに異なっているためと考えられた。
【0028】
これに対し、固溶可能量と消失量との和を超える過剰量のマンガンが含有されている原料を使用した試料S1では、水素分圧と起電力との関係は、複数の試料間でほぼ一致している。つまり、同一組成の原料から同一条件で製造した試料は、プロトン伝導性が等しい。このことから、過剰量のマンガンが含有された原料から製造され、カルシウムとマンガンの複酸化物であるCaMnOの相を含有している試料S1のプロトン伝導性セラミックスでは、固溶できる上限量に近い量でマンガンがジルコニウムに置換しており、各試料におけるプロトン濃度がほぼ等しいと考えられた。
【0029】
ここで、原料中にどの程度のマンガンを含有させれば、固溶可能量と消失量との和を超える過剰量であるかは、金属Aや金属Bの種類、成形体のサイズや形状等、種々の条件によって異なる。次に、上記の試料R1及び試料S1と、金属Aの種類が異なる場合を例示する。
【0030】
金属Aとしてストロンチウムを使用した他は、試料R1及び試料S1と同様に、金属Bとしてジルコニウムを、金属Mとしてマンガンを使用して原料を調製し、同一サイズのペレット形状に成形した成形体を、酸化雰囲気の同一の焼成炉にて同一条件で焼成し、焼結体を得た。モル比A:B:M=1:0.88:0.12(すなわち、x=0.12)とした試料R2、及び、モル比をA:B:M=1:0.85:0.15(すなわち、x=0.15)とした試料S2について、上記と同様にX線回折による結晶相の同定を行った。測定されたX線回折パターンを、それぞれ図3(a)及び図3(b)に示す。
【0031】
試料R2の原料は、上記の試料S1(x=0.10)より大きなモル比でマンガンを含有しているが、図3(a)に示すように、X線回折パターンにはSrZrOのピークと一致するピークのみが認められ、ジルコニウムの一部がマンガンに置換したSrZr1−bMn3−αの単相であると考えられた。そして、原料におけるマンガンのモル比が更に大きい試料S2のX線回折パターンには、図3(b)に示すように、ストロンチウムとマンガンの複酸化物であるSrMn15の相が析出している。このように、金属Aの種類が異なれば、過剰とさせるために必要なマンガンの量が相違する。
【0032】
なお、試料S2のX線回折パターンをリートベルト解析した結果、SrZrO(SrZr1−bMn3−α)の含有率は98.5±0.6質量%であり、SrMn15の含有率は1.5±0.3質量%であった。
【0033】
また、原料中にどの程度のマンガンを含有させれば、固溶可能量と消失量との和を超える過剰量であるかは、成形体のサイズや形状によっても異なる。次に示す試料S3は、試料S2と同一組成の原料から成形した成形体を、同一条件で焼成しているが、成形体のサイズ及び形状が試料S2と異なっている例である。試料S2の成形体がペレット形状であったのに対し、試料S3の成形体は有底筒状である。試料S3について、上記と同様に測定したX線回折パターンを図4に示す。
【0034】
図4に示すように、試料S3では、CaZrOのピークと一致するCaZr1−bMn3−αのピークに加えて、カルシウムとマンガンの複酸化物であるCaMnOのピークと、同じくカルシウムとマンガンの複酸化物であるCaMnO2.95のピークが認められた。試料S3のX線回折パターンをリートベルト解析した結果、CaZrO(CaZr1−bMn3−α)の含有率は94.8±0.5質量%であり、CaMnOの含有率は1.5±0.2質量%質量%であり、CaMnO2.95の含有率は3.7±0.2であった。CaMnOとCaMnO2.95の和の含有率は、試料S2におけるCaMnOの含有率より大きい。
【0035】
このことから、試料S3の原料は、試料S2の原料と同一のモル比でマンガンを含有しているものの、試料S3の方が試料S2に比べてマンガンがより過剰であったことが分かる。これは、試料S3の成形体が有底筒状であり、筒状部分の周壁で囲まれた内部側からはマンガンが蒸散しにくいため、焼成中におけるマンガンの消失量が全体として試料S2に比べて小さいためと考えられた。
【0036】
以上のように、本実施形態の製造方法によれば、原料に固溶可能量と消失量との和を超える過剰量のマンガンを含有させ、AB1−b3−αのマトリックス中に金属Aとマンガンとの複酸化物の相を析出させることにより、マンガンが上限値に近い量で金属Bと置換しており、プロトン伝導性のばらつきが低減されているプロトン伝導性セラミックスを製造することができる。なお、金属Aとマンガンとの複酸化物の相は、上記の試料S3のように、複数相の場合がある。
【0037】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0038】
例えば、上記では、プロトン伝導性のばらつきを評価するために、実施例のプロトン伝導性セラミックスを水素センサのセンサ素子として使用した場合を例示したが、本発明のプロトン伝導性セラミックスの用途は水素センサに限定されず、燃料電池や水素濃淡電池等に使用することができる。
図1
図2
図3
図4