(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記組成物は、TREM−2(Triggering receptor expressed on myeloid cells 2)発現を増加させることを特徴とする、請求項1に記載の薬学的組成物。
【背景技術】
【0002】
肝臓は、体外から入ってきた物質及び体内の物質の代謝において中枢的な役割を果たし、継続して酵素反応及びエネルギー代謝が行われる生体器官である。現在、韓国の慢性的疾病のうち肝炎、肝硬変及び肝癌の占める割合は循環器系疾患と共に最も高く、疾病による死亡原因の大きな比重を占めている。特に、先進国に比べて飲酒人口が相対的に多く、暴飲による肝臓損傷の発生確率が高いだけに、それに対する関心も非常に高い。ウイルス感染や飲酒による持続的な肝組織の損傷は、肝硬変や肝癌に進展する疾患の特徴である。肝組織の生理的特性及び重要性を考慮すると肝疾患の治療及び予防は非常に重要であり、肝組織の損傷を減らして究極的に治療に応用できる治療及び予防用医薬組成物の開発が求められている。
【0003】
特に、肝線維化とは、肝炎などの慢性肝疾患に伴う生体適応反応の一部であり、損傷した肝組織が正常な肝細胞に回復するのではなく、コラーゲンなどの線維組織に変形する状態を意味する。肝線維化は組織損傷の回復過程において発生する生体適応反応であるが、生体内物質の代謝や胆汁分泌などの肝臓固有の機能が全く行えない線維組織に肝臓が置き換えられるので、肝機能の低下が必然的に現れる。肝線維化現象が持続的に繰り返されると肝硬変に進展して死亡にまで至るので、この点において適切な治療剤の開発が医薬品開発の重要な課題として扱われてきた。しかし、いまだ肝線維化の機序自体が明らかにされていないので、適切な治療薬物が開発されていないのが現状である。
【0004】
近年、肝組織内のマクロファージ、クッパー細胞及び星状細胞から遊離するサイトカインであるTransforming growth factor−beta(TGF−beta)が肝線維化の重要媒体であることが明らかにされている。また、TGF−beta抗体、antisense RNA、細胞TGF−beta受容体変形によりTGF−betaの作用を遮断すると肝線維化過程が顕著に抑制されることが報告されている。しかし、これらの研究は実験的な意味合いで行われたものにすぎず、いまだ実際に臨床的に活用されている薬物は存在しないのが現状である。
【0005】
前述したように、肝線維化又は肝硬変に効果的な治療剤を開発することが主な課題となっており、それに関する研究が行われているが(特許文献1)、いまだ十分ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来技術の問題を解決するためになされたものであり、金(gold)製剤を有効成分として含む、肝線維化又は肝硬変の予防又は治療用薬学的組成物を提供することを目的とする。
【0008】
しかし、本発明が解決しようとする技術的課題は前述した課題に限定されるものではなく、当業者であれば言及されていない他の課題を次の記載から明確に理解できるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、金(gold)製剤を有効成分として含む、肝線維化又は肝硬変の予防又は治療用薬学的組成物を提供する。
本開示は、以下の[1]から[4]を含む。
[1]金(gold)製剤を個体に投与するステップを含む、肝線維化又は肝硬変の治療方法。
[2]上記金製剤は、オーラノフィン(auranofin)、金チオリンゴ酸ナトリウム(sodium aurothiomalate)、金チオグルコース(aurothioglucose)、金チオ硫酸ナトリウム(sodium aurothiosulfate)及び金チオリンゴ酸二ナトリウム(disodium aurothiomalate)からなる群から選択される少なくともいずれか一つであることを特徴とする、上記[1]に記載の治療方法。
[3]上記組成物は、M2型マクロファージへの形質転換を促進することを特徴とする、上記[1]に記載の治療方法。
[4]上記組成物は、TREM−2(Triggering receptor expressed on myeloid cells 2)発現を増加させることを特徴とする、上記[1]に記載の治療方法。
【0010】
本発明の一実施例として、前記金製剤は、オーラノフィン(auranofin)、金チオリンゴ酸ナトリウム(sodium aurothiomalate)、金チオグルコース(aurothioglucose)、金チオ硫酸ナトリウム(sodium aurothiosulfate)及び金チオリンゴ酸二ナトリウム(disodium aurothiomalate)からなる群から選択される少なくともいずれか一つであってもよい。
【0011】
本発明の他の実施例として、前記組成物は、M2型マクロファージへの形質転換を促進することができる。
【0012】
本発明のさらに他の実施例として、前記組成物は、TREM−2(Triggering receptor expressed on myeloid cells 2)発現を増加させることができる。
【0013】
また、本発明は、金(gold)製剤を有効成分として含む、肝線維化又は肝硬変の予防又は改善用健康機能性食品組成物を提供する。
【0014】
本発明の一実施例として、前記金製剤は、オーラノフィン(auranofin)、金チオリンゴ酸ナトリウム(sodium aurothiomalate)、金チオグルコース(aurothioglucose)、金チオ硫酸ナトリウム(sodium aurothiosulfate)及び金チオリンゴ酸二ナトリウム(disodium aurothiomalate)からなる群から選択される少なくともいずれか一つであってもよい。
【0015】
さらに、本発明は、金(gold)製剤を個体に投与するステップを含む、肝線維化又は肝硬変の治療方法を提供する。
【0016】
さらに、本発明は、肝線維化又は肝硬変を予防又は治療するための薬剤を生産するための金(gold)製剤の用途を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の薬学的組成物は、金(gold)製剤を有効成分として含むことにより、マクロファージのM2への形質転換を促進するだけでなく、TREM−2発現を増加させることにより、星状細胞の活性化を抑制することができるので、肝線維化又は肝硬変を予防、治療又は改善する薬学的組成物、食品組成物などとして有用であろうと期待される。
【0018】
また、金(gold)製剤、特にオーラノフィン(auranofin)とそれに類似する金チオリンゴ酸ナトリウム(sodium aurothiomalate)又は金チオグルコース(aurothioglucose)は他の用途(関節リウマチ)で既に相当期間用いられてきたので、薬物による副作用の可能性が低いという利点もあり、さらに線維化が問題となる他の疾患、例えば腎線維化にも効果があるであろうと期待される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
肝線維化の過程において多くの研究者が注目したのは、肝細胞の破壊とコラーゲンなどの膠原質の生成によりそれを回復させる星状細胞の作用であった。しかし、本発明においては、肝組織内でマクロファージとして機能するクッパー細胞と血流に乗って侵入する骨髄由来マクロファージの作用に注目した。
【0021】
マクロファージは、分化過程によって形質が大きく2つに分類される。M1型マクロファージは主にバクテリア由来の内毒素であるlipopolysaccharide(LPS)とinterferon−gamma(IFN−gamma)刺激により形成され、これはtumor necrosis factor−alpha(TNF−alpha)、interleukin−6(IL−6)、inducible nitric oxide synthase(iNOS)誘導によりマクロファージの固有機能である貪食及びそれに伴う炎症反応の増幅に関与し、M2型マクロファージはinterleukin−4(IL−4)やTGF−betaなどの分泌により形成され、IL−10などのanti−cytokineとarginase誘導を引き起こすことが知られており、これは組織回復などの反応に関与することが知られている(
図1参照)。
【0022】
近年の研究によれば、M1/M2形質転換は線維化シグナルに影響を及ぼすことが明らかにされている。M1マクロファージの炎症進行、悪化は線維化を悪化させることが報告されており、M2マクロファージはアルギナーゼ-1発現によりTh2炎症反応と腎線維化を抑制することが報告されている。よって、M1/M2形質転換を適切に調節する薬物を肝線維化及び肝硬変の予防及び治療の目的で用いることができる。
【0023】
よって、本発明者らは、M1/M2形質転換を適切に調節する薬物の開発のために鋭意努力した結果、他の用途に用いられていた金(gold)製剤がマクロファージのM2への形質転換とTREM−2(Triggering receptor expressed on myeloid cells 2)という受容体発現の増加をもたらし、肝線維化を抑制することを最初に確認し、それに基づいて本発明を完成するに至った。
【0024】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0025】
本発明は、金(gold)製剤を有効成分として含む、肝線維化又は肝硬変の予防又は治療用薬学的組成物を提供する。
【0026】
本発明における「予防」とは、本発明による薬学的組成物の投与により肝線維化又は肝硬変を抑制したり、発病を遅延させるあらゆる行為を意味する。
【0027】
本発明における「治療」とは、本発明による薬学的組成物の投与により肝線維化又は肝硬変による症状を好転又は良好に変化させるあらゆる行為を意味する。
【0028】
本発明の薬学的組成物に有効成分として含まれる「金製剤」とは、金(gold)と他の元素(成分)が一定の割合で構成された化合物、すなわち金の化合物(gold compound)を意味し、これには金(I)化合物及び金(III)化合物が全て含まれる。本発明に用いられる前記金製剤の例としては、これらに限定されるものではないが、オーラノフィン(auranofin)(2, 3, 4, 6-tetra-O-acetyl-1-thio-β-D-glucopyranosato-S-[triethylphosphine] gold)、金チオリンゴ酸ナトリウム(sodium aurothiomalate)、金チオグルコース(aurothioglucose)、金チオ硫酸ナトリウム(sodium aurothiosulfate)、金チオリンゴ酸二ナトリウム(disodium aurothiomalate)などが挙げられ(
図2参照)、オーラノフィン(auranofin)、金チオリンゴ酸ナトリウム(sodium aurothiomalate)又は金チオグルコース(aurothioglucose)を用いることが好ましく、オーラノフィン(auranofin)を用いることが最も好ましい。
【0029】
本発明の薬学的組成物は、金製剤を有効成分として含むことにより、マクロファージのM2への形質転換を促進するだけでなく、TREM−2発現を増加させることにより、星状細胞の活性化を抑制することができるので、肝線維化又は肝硬変を予防、治療又は改善することができる。
【0030】
本発明の一実施例においては、金(gold)製剤がM2型マクロファージへの形質転換を起こしているか否かを確認した結果、金(gold)製剤処理すると、α−SMA及びiNOS発現が抑制され、TREM−2発現及びアルギナーゼ-1(arginase-1)発現が増加し、結果としてM1型マクロファージへの形質転換が抑制されると共に、M2型マクロファージへの形質転換が促進されることが確認された(実施例3、4及び6参照)。
【0031】
本発明の他の実施例においては、金(gold)製剤の投与による肝線維化の抑制を確認した結果、金(gold)製剤処理すると、星状細胞の活性化の指標であるα−SMA及びCollagen−1a1発現が大幅に低下し、実際の肝線維化の数値も10mg/kgから有意に低下することが確認された(実施例5参照)。
【0032】
一方、本発明の薬学的組成物は、前記金(gold)製剤と共に、肝線維化又は肝硬変の治療効果を有する公知の有効成分を1種以上さらに含有してもよい。
【0033】
本発明の組成物は、薬学的組成物の製造に通常用いられる適切な担体、賦形剤及び希釈剤をさらに含んでもよい。また、通常の方法により散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン剤、シロップ剤、エアゾール剤などの経口剤形、外用剤、坐剤及び滅菌注射溶液の形態に剤形化して用いられ、経口投与に適した単位投与型の製剤に剤形化して用いられることが好ましい。
【0034】
前記組成物に含まれる担体、賦形剤及び希釈剤としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリトリトール、マルチトール、デンプン、アカシアゴム、アルギン酸塩、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、ヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、及び鉱物油などが挙げられる。前記組成物を製剤化する場合は、通常用いる充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などの希釈剤又は賦形剤を用いて調製される。
【0035】
経口投与のための固形製剤には、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などが含まれ、これらの固形製剤は、前記組成物に少なくとも1つの賦形剤、例えばデンプン、炭酸カルシウム(calcium carbonate)、スクロース、ラクトース、ゼラチンなどを混合して調製される。また、通常の賦形剤以外に、ステアリン酸マグネシウム、タルクなどの滑沢剤も用いられる。経口用液体製剤としては、懸濁剤、内用液剤、乳剤、シロップ剤などが挙げられ、通常用いられる通常の希釈剤である水、流動パラフィン以外にも種々の賦形剤、例えば湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などが用いられる。非経口用製剤としては、滅菌水溶液剤、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥剤、坐剤が挙げられる。また、非水性溶剤、懸濁剤としては、プロピレングリコール(propylene glycol)、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの植物性油、オレイン酸エチルなどの注射可能なエステルなどが用いられる。坐剤の基剤としては、ウィテップゾール(witepsol)、マクロゴール、ツイーン(tween)61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロゼラチンなどが用いられる。
【0036】
本発明による薬学的組成物は、薬学的に有効な量で投与する。本発明における「薬学的に有効な量」とは、医学的治療に適用できる合理的な利益/リスク比で疾患を治療するのに十分な量を意味し、有効用量レベルは、患者の疾患の種類、重症度、薬物の活性、薬物に対する感受性、投与時間、投与経路及び排出率、治療期間、同時に用いられる薬物が含まれる要素、並びにその他医学分野で公知の要素により決定される。本発明による薬学的組成物は、単独で又は他の治療剤と併用して投与してもよく、従来の治療剤と順次又は同時に投与してもよく、単一又は多重投与してもよい。上記要素を全て考慮して副作用なく最小限の量で最大限の効果が得られる量を投与することが重要であり、これは当業者により容易に決定される。
【0037】
具体的には、本発明による薬学的組成物の有効量は、患者の年齢、性別、状態、体重、体内での活性成分の吸収度、不活性化率及び排泄速度、疾病の種類、併用される薬物により異なり、一般には0.01mg/kg/日〜約100mg/kg/日、好ましくは0.1mg/kg/日〜30mg/kg/日の量で投与することができ、1日1回又は数回に分けて投与することができる。
【0038】
本発明の薬学的組成物は、個体に様々な経路で投与することができる。投与におけるあらゆる方法が可能であるが、例えば経口、直腸、又は静脈、筋肉、皮下、子宮内、硬膜もしくは脳室内注射により投与することができる。本発明の薬学的組成物は、治療する疾患、投与経路、患者の年齢、性別及び体重、疾患の重症度などの様々な関連因子と共に、活性成分である薬物の種類により決定される。
【0039】
本発明の他の態様は、前記薬学的組成物を個体に投与するステップを含む、肝線維化又は肝硬変の治療方法を提供する。本発明における「個体」とは、疾病の治療を必要とする対象を意味し、より具体的には、ヒト、又はヒト以外の霊長類、マウス(mouse)、ラット(rat)、イヌ、ネコ、ウマ、ウシなどの哺乳類を意味する。
【0040】
さらに、本発明のさらに他の態様は、金(gold)製剤を有効成分として含む、肝線維化又は肝硬変の予防又は改善用健康機能性食品組成物を提供する。
【0041】
本発明における「改善」とは、治療される状態に関するパラメータ、例えば症状の程度を少なくとも減少させるあらゆる行為を意味する。ここで、前記健康機能性食品組成物は、肝線維化又は肝硬変の予防又は改善のために、当該疾患の発病前又は発病後に、治療のための薬剤と同時に又は別個に用いられる。
【0042】
前記食品の種類には特に制限がない。前記有効成分を添加できる食品の例としては、ドリンク剤、肉類、ソーセージ、パン、ビスケット、モチ、チョコレート、キャンディー類、スナック類、菓子類、ピザ、ラーメン、その他の麺類、ガム類、アイスクリーム類をはじめとする酪農製品、各種スープ、清涼飲料水、アルコール飲料、ビタミン複合剤、乳製品、及び乳加工製品などが挙げられ、通常の意味での健康機能性食品が全て含まれる。
【0043】
本発明の健康機能性食品組成物において、有効成分を食品にそのまま添加するか、他の食品又は食品成分と共に用いることができ、通常の方法で適切に用いることができる。有効成分の混合量は、その使用目的(予防又は改善用)に応じて適宜決定することができる。一般に、食品又は飲料の製造時に、本発明の組成物は原料に対して15重量%以下、好ましくは10重量%以下の量で添加される。しかし、健康及び衛生を目的としたり、または健康調節を目的とする長期間の摂取においては、上記量は上記範囲以下であってもよい。
【0044】
本発明の健康機能性食品組成物は、所定の割合で必須成分として前記有効成分を含有する以外に、他の成分には特に制限がなく、通常の飲料のように、様々な香味剤や天然炭水化物などを追加成分として含有してもよい。前述した天然炭水化物の例としては、ブドウ糖、果糖などの単糖類;マルトース、スクロースなどの二糖類;デキストリン、シクロデキストリンなどの多糖類が含まれる通常の糖;及びキシリトール、ソルビトール、エリトリトールなどの糖アルコールが挙げられる。前述したもの以外の香味剤としては、天然香味剤(ソーマチン、ステビア抽出物(例えば、レバウディオサイドA、グリチルリチンなど))及び合成香味剤(サッカリン、アスパルテームなど)を用いることが有利である。前記天然炭水化物の割合は、当業者の選択により適宜決定される。
【0045】
前記以外に、本発明の健康機能性食品組成物は、様々な栄養剤、ビタミン、ミネラル(電解質)、合成風味剤や天然風味剤などの風味剤、着色剤及び増進剤(チーズ、チョコレートなど)、ペクチン酸及びその塩、アルギン酸及びその塩、有機酸、保護コロイド、増粘剤、pH調整剤、安定化剤、防腐剤、グリセリン、アルコール、炭酸飲料に用いられる炭酸化剤などを含有してもよい。これらの成分は独立して又は組み合わせて用いることができる。これらの添加剤の割合も、当業者により適宜選択される。
[実施例]
【0046】
以下、本発明の理解を容易にするために好ましい実施例を提示する。しかし、これらの実施例は本発明の理解を容易にするために提供するものにすぎず、本発明がこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0047】
実験準備及び方法
1−1.実験準備
ア.ヒト肝線維化患者の肝組織の準備
ヒトの正常及び肝線維化組織は、朝鮮大学校医科大学病理学教室で臨床試験承認(CHOSUN 2013-04-005)を経て36症例の肝癌組織から分離した試料を用いた。
【0048】
イ.四塩化炭素誘導肝線維化マウスモデルの準備
四塩化炭素誘導マウス肝線維化モデルは、C57BL/6Jマウスに0.5ml/kgの四塩化炭素を週2回、3週間反復腹腔内投与して作製した。
【0049】
1−2.実験方法
ア.ウェスタンブロット(Western blot)
レムリの方法に従い、ゲル電気泳動装置(Mighty Small SE 250, Hoefer Scientific Instruments, San Francisco)を用いてSDS−PAGE(sodium dodecyl sulfate-polyacrylamide gel electrophoresis)を行った。細胞の溶解分画を試料希釈緩衝液[63mM Tris(pH.6.8),10%グリセリン,2%SDS,0.0013%ブロモフェノールブルー,5%β-メルカプトエタノール]に希釈し、その後8%、10%ゲルを用いて電極緩衝液(溶液1リットル中に、Tris 15g、グリセリン72g、SDS 5gを含有する)内で電気泳動を行った。電気泳動が終了したゲルは転写用電気泳動装置を用いて転写緩衝液[25mM Tris,192mMグリセリン,20%v/vメタノール(pH.8.3)]内において40mA mpsで3時間ニトロセルロース膜にタンパク質を転写した。抗TREM−2、抗アルギナーゼ-1、抗iNOS、抗α−SMA、抗collagen−1a1のそれぞれを1次抗体として前記ニトロセルロース膜と反応させ、その後それに2次抗体として西洋ワサビペルオキシダーゼ結合ヤギ抗ウサギIgG(horseradish peroxidase-conjugated goat anti-rabbit IgG)と西洋ワサビペルオキシダーゼ結合ヤギ抗マウス(anti-mouse)IgGを1時間反応させ、ECL検出システム(ECL chemiluminecence system, Amersham, Gaithesberg, MA)を用いて発色させた。試料中のタンパク質含有量の同等性は、抗β−アクチン(anti-β-actin)抗体、抗LaminA/Cを用いて確認した。タンパク質発現量の変化はブロットの発色強度を濃度計測器(densitometry)で計測することにより導出し、濃度計測器のスキャンにはイメージスキャン&分析システム(Image Scan & Analysis System, Alpha-Innotech Co.)を用いた。各レーンはAlphaEase
TMソフトウェアバージョン5.5で背景の強度を測定して計算した。
【0050】
肝組織の場合、乳鉢に所定量の肝組織を液体窒素及び細胞溶解バッファと共に均質化し、その後組織液を新しいチューブに移してボルテックスした。14,000rpm、4℃で20分間遠心分離し、その後中間層を取り出してブラッドフォード法によりタンパク質を定量した。30μgのタンパク質をSDSポリアクリルアミドゲルに電気泳動し、その後α−SMAタンパク質の発現変化をウェスタンブロット(Western blot)を用いて測定した。
【0051】
イ.線維化の数値評価
線維化の数値は病理学専門医が二重盲検で各組織試料の少なくとも10部程度を検鏡して行った。その基準は次の通りである。
Stage 0: none; Stage 1: Enlarged, fibrotic portal areas; Stage 2: Periportal or portal-portal septa but intact architecture; Stage 3: Fibrosis with architectural distortion but no obvious cirrhosis; Stage 4: Probable or definite cirrhosis.
【実施例2】
【0052】
マクロファージM2標識因子であるTREM−2の肝線維化抑制の確認
2−1.肝線維化組織におけるTREM−2発現の増減の確認
実施例1−1によりヒト肝線維化患者及び四塩化炭素誘導肝線維化マウスから分離した肝組織において、マクロファージM2標識因子であるTREM−2発現の増減をウェスタンブロットで確認した。その結果を
図3aに示す。
【0053】
図3aに示すように、ヒト肝線維化患者及び四塩化炭素誘導肝線維化マウスから分離した肝組織において、M2標識因子であるTREM−2発現が大幅に増加することが確認された。
【0054】
2−2.TREM−2の肝線維化抑制の確認
肝線維化の原因物質であるコラーゲンや線維化の中核因子であるtransforming growth factor−β(TGF−β)などの遊離は、肝臓の星状細胞(stellate cell)の活性化に起因する。
【0055】
よって、TREM−2を過剰発現させたマクロファージから得た培地を活性星状細胞様性質のマウス胚線維芽細胞(mouse embryonic fibroblast, MEF)に処理し、星状細胞活性化の指標として広く用いられる指標タンパク質であるalpha−smooth muscle actin(α−SMA,fibroblast型に分化した星状細胞特異タンパク質)及び代表的な線維膠原質であるcollagen−1a1発現の増減をウェスタンブロットで確認した。その結果を
図3bに示す。
【0056】
図3bに示すように、TREM−2を過剰発現させたマクロファージから得た培地を処理する際、α−SMA及びcollagen−1a1発現が抑制されることが確認された。上記結果から、M2標識因子であるTREM−2受容体が肝線維化を効果的に抑制することが分かった。
【実施例3】
【0057】
金(Gold)製剤処理におけるマクロファージM2抗線維化因子であるTREM−2発現の増加の確認
金(gold)製剤がM2型マクロファージへの形質転換を起こしているか否かを確認するために、マウスマクロファージ株であるRAW264.7細胞にlipopolysaccharide(LPS)/interferon−gamma(IFN−γ)を処置することによりM1型マクロファージに分化させる条件において、オーラノフィン(auranofin)を処理してiNOS及びTREM−2発現の増減をウェスタンブロットで確認した。その結果を
図4に示す。
【0058】
図4に示すように、オーラノフィン(auranofin)処理時、iNOS発現が抑制され、TREM−2発現が増加することが確認された。上記結果から、金(gold)製剤、特にオーラノフィン(auranofin)は、M1型マクロファージへの形質転換を抑制すると共に、M2型マクロファージへの形質転換を促進することが分かった。
【実施例4】
【0059】
金(Gold)製剤前処理マクロファージ培地における星状細胞露出による星状細胞活性化抑制の確認
マウスマクロファージ株であるRAW264.7細胞にオーラノフィン(auranofin)を処理し、その後培地を活性星状細胞様性質のMEF細胞に処理し、星状細胞活性化の指標であるα−SMA発現の増減をウェスタンブロットで確認した。その結果を
図5に示す。
【0060】
図5に示すように、オーラノフィン(auranofin)処理時、α−SMA発現が抑制されることが確認された。上記結果から、金(gold)製剤、特にオーラノフィン(auranofin)は、マクロファージのM2への形質転換を促進すると共に、TREM−2発現を増加させることにより、星状細胞の活性化を抑制することが分かった。
【実施例5】
【0061】
金(gold)製剤投与による肝線維化抑制の確認
実施例1−1により準備した四塩化炭素誘導マウス肝線維化モデルに、オーラノフィン(auranofin)を従来関節炎に効果があることが知られている用量に基づいて1、3、10mg/kgに設定して週5回、3週間経口投薬した。投薬終了後に肝組織をH&E染色により線維化の数値を評価し、一部の組織は粉砕して星状細胞活性化の指標であるα−SMAとコラーゲン蓄積の指標であるcollagen−1a1を定量した。その結果を
図6に示す。
【0062】
図6に示すように、オーラノフィン(auranofin)処理時、星状細胞活性化の指標であるα−SMAとcollagen−1a1の発現を大幅に低下し、実際の肝線維化の数値も10mg/kgにおて有意に低下することが確認された。
【実施例6】
【0063】
金(gold)製剤処理によるマクロファージのM1形質転換の抑制及びM2形質転換の促進効果の確認
オーラノフィン(auranofin)以外の他の金製剤の処理によるマクロファージのM1形質転換の抑制及びM2形質転換の促進効果をさらに確認した。
【0064】
まず、マウスマクロファージ株であるRAW264.7細胞をlipopolysaccharide(LPS)/interferon−gamma(IFN−gamma)を処置することによりM1型マクロファージに分化させる条件において、オーラノフィン(auranofin)に類似する金チオリンゴ酸ナトリウム(sodium aurothiomalate)及び金チオグルコース(aurothioglucose)をそれぞれ処理してiNOS発現の増減をウェスタンブロットで確認した。
【0065】
その結果、
図7aに示すように、金チオリンゴ酸ナトリウム(sodium aurothiomalate)及び金チオグルコース(aurothioglucose)処理時、iNOS発現が抑制されることが確認された。
【0066】
また、マウスマクロファージ株であるRAW264.7細胞にIL−4処置することによりM2型マクロファージに分化させる条件において、オーラノフィン(auranofin)に類似する金チオリンゴ酸ナトリウム(sodium aurothiomalate)及び金チオグルコース(aurothioglucose)をそれぞれ処理してアルギナーゼ-1発現の増減をウェスタンブロットで確認した。
【0067】
その結果、
図7bに示すように、金チオリンゴ酸ナトリウム(sodium aurothiomalate)及び金チオグルコース(aurothioglucose)処理時、アルギナーゼ-1発現が増加することが確認された。
【0068】
上記結果から、金(gold)製剤は、M1型マクロファージへの形質転換を抑制すると共に、M2型マクロファージへの形質転換を促進することが分かった。
【0069】
前述した本発明の説明は例示のためのものであり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者であれば本発明の技術的思想や必須の特定を変更することなく、他の具体的な形態に容易に変形できることを理解するであろう。なお、上記実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。