(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0023】
[脈拍測定装置の概要]
初めに、
図1を参照して、本発明に係る脈拍測定装置の概要について説明する。
図1は、脈拍測定装置による脈拍の測定方法を説明するための図である。
図1に示すように、本発明では、血管(動脈)が表面に近い人体部位(例えば、手首、首、足首等)における微小な体温変化を検出し、この微小な体温変化の間隔から脈拍を測定する。
【0024】
従来、人体の体温は、運動、時間(早朝や昼間等)、気温、食事、睡眠、女性の性周期、感情等で変化することが知られている。このような変化では、体温は、緩やかに上下するものであり、急激な変化はないものと思われていた。この点、本発明者らが、感度の高い温度センサを用いて人体温の変化を観測したところ、体温は、日常生活における緩やかな温度変化だけでなく、脈拍と相関性を持って瞬間的に上下している現象が確認できた。この現象は、心臓で温められた血液が測定部位に到達することで、当該測定部位において瞬間的な温度上昇が引き起こされ、また、その後の脈動までに放熱されることを繰り返すことで発生するものと推測される。
【0025】
本発明では、脈動に伴う瞬間的かつ微小な温度上昇を検出することで、脈拍を測定する。このとき、検出すべき温度変化は、微小(例えば、0.01℃〜0.05℃程度)であるためノイズの影響を受けやすい。そこで、本発明では、後述のノイズ除去を行うことで、微小な温度変化を検出可能にしている。
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0026】
[脈拍測定装置1の構成]
図2は、本発明に係る脈拍測定装置1の構成を示す図である。なお、
図2(a)は、本発明に係る脈拍測定装置1の機能構成を示す図であり、
図2(b)は、当該機能を発揮するための具体的なハードウェア構成の一例を示す図である。
図2に示すように、脈拍測定装置1は、センサ部2と信号処理部3と出力部4とを含んで構成され、
図2(a)に示すように、信号処理部3は、本発明に係る抽出部31(変換部33及びノイズ除去部34)及び測定部32として機能する。この信号処理部3の機能は、例えば、
図2(b)に示すように、アンプ3aとA/Dコンバータ3bとFIFOメモリ3cと演算部3dというハードウェア構成により発揮される。もちろん、信号処理部3の機能は、
図2(b)に一例として示すハードウェア構成に限らず、任意の構成(例えば、FIFOメモリ3cに代えてローパスフィルタ等の任意のノイズ除去手段を設ける)により実現することができる。以下では、まず、
図2(b)を参照して、脈拍測定装置1のハードウェア構成の一例について説明する。
【0027】
センサ部2は、人体に接触し、接触面の温度を測定する接触式の温度センサである。ここで、心臓から送り出される血液は、心臓等で温められたのち全身をめぐるうちに温度が低下する。そのため、脈動(血液)に伴う温度上昇を測定する場合、血液の循環路の上流側(大動脈)で測定することが好ましく、センサ部2は、例えば、手首の内側(手の平側)の大動脈の近傍に配置される。
【0028】
なお、センサ部2の種類は任意であるが、本実施形態では、省電力及び低コストの観点から、サーミスタ等の抵抗温度センサを用いることとしている。抵抗温度センサは、温度に応じて変化するセンサの抵抗を測定することで、温度を測定するものであり、抵抗測定のための電流はわずか(ミリ〜マイクロアンペア程度)であるため、消費電力の大きい発光素子を用いる光電脈波法と比較して極めて低い電力で脈拍を測定することができる。
もちろん、白金薄膜温度センサ等の高精度なセンサを用いることとしてもよい。
【0029】
また、本発明では、上述のように体温の微小な上昇を検出することで脈拍を測定する。センサ部2としてサーミスタを用いる場合、このような微小な温度変化に反応できるように熱容量の小さい温度センサを用いることが好ましい。また、センサ部2に体温以外の他(例えば、信号処理部3)の熱が伝わらないよう、センサ部2と信号処理部3との間に熱の移動を抑制する断熱部を設けることが好ましい。
なお、脈拍測定装置1は、必要に応じて不図示の放熱部を更に備えることとしてもよい。この放熱部は、脈動に伴い上昇したセンサ部2の熱を吸収し、脈動の前後でセンサ部2の温度を略一定に保つ。
【0030】
信号処理部3は、センサ部2から入力された温度(抵抗値)を処理して、脈動に伴い温度が上昇したタイミングの間隔から脈拍を測定する。
図2(b)に示すように、信号処理部3は、アンプ3aとA/Dコンバータ3bとFIFOメモリ3cと演算部3dとを含んで構成される。
【0031】
アンプ3aは、センサ部2から入力されたアナログの生体信号(温度データ)を増幅し、出力する。なお、信号を増幅する必要がない場合には、アンプ3aは不要である。アンプ3aの増幅率は適宜任意に設定されるものであるが、センサ部2としてサーミスタを用いる場合には、センサ部2が測定した生体信号に商用電源ノイズが重畳する可能性があるため、増幅後の生体信号がノイズでA/Dコンバータ3bの入力レンジからはみ出さない程度の増幅率(例えば、100倍程度に留める)にすることが好ましい。
【0032】
A/Dコンバータ3bは、アンプ3aから出力されたアナログ生体信号を所定のサンプリング周波数でデジタルデータ(デジタル生体信号)に変換する。通常、人体の脈拍は数Hzであり、脈拍を検出するための測定としては数十Hz程度の帯域があれば十分であるため、サンプリング周波数は低速で足りる。また、標本化理論によりサンプリング周波数の半分が帯域であるため、低速なサンプリング周波数はローパスフィルタ(LPF)としても作動し、デジタルデータへの変換時に不要な高域周波数ノイズを除去することもでき好適である。
【0033】
なお、センサ部2は省電力を目的として微小なセンシング電流を使用するため、センサ等の回路がアンテナとしても機能し、電気配線や高圧送電線からの漏れ電流ノイズ(商用電源ノイズ)の影響を受けてしまう場合がある。商用電源ノイズは周期性ノイズであるため、一周期を加算平均すると正負足しあわされてゼロ又は一定の値になるため、一周期分の移動平均をとることで簡単に除去することができる。
そのため、デジタル生体信号の所定サンプル周期に対して1周期分の商用電源ノイズが重畳するように、サンプリング周波数を商用電源ノイズの周期に応じて設定(例えば、商用電源ノイズの一周期の整数倍)することで、商用電源ノイズを簡単に除去することができる。
【0034】
また、標本化理論から、サンプリング周波数の1/2の帯域幅の外側の周波数成分は、折り返し雑音としてあらわれる。この折り返し雑音は、移動平均によるカットオフ周波数に基づいて除去することができる。このとき、商用電源ノイズの周波数と折り返し雑音が生じる帯域とが大きくかけ離れていれば、相互に影響することがない。
そこで、サンプリング周波数を、例えば、商用電源周波数(50Hz)の16倍の800Hzとすることで、折り返し雑音が生じる帯域(400Hz)を商用電源ノイズの周波数(50Hz)に対して大きく異ならせることができ、商用電源ノイズ及び折り返し雑音を除去することができる。なお、サンプリング周波数を800Hzとした場合、50Hzの商用電源ノイズは、デジタル生体信号の16サンプル周期に対して1周期分が重畳することになる。
【0035】
FIFOメモリ3cは、A/Dコンバータ3bでデジタルデータに変換されたデジタル生体信号を格納する。FIFOメモリ3cは、商用電源ノイズ周波数の整数倍のクロック信号毎に、当該整数倍の数に分割された1周期分のデジタル生体信号を順に格納して更新される。本実施形態においては、商用電源ノイズの周波数が50Hz、サンプリング周波数が800Hzであるので、アナログ生体信号をサンプリングして生成されたデジタル生体信号が順に、1秒間に800回、FIFOメモリ3cに格納される。
【0036】
ここで、FIFOメモリ3cは、所定個数分のデータを一定時間幅分だけ蓄積を行い、最初に到着したデータを一定時間経過後に取り出していくメモリであって、新しいデータが格納されると古いデータは削除される。
図3にFIFOメモリ3cの仕組みと格納されるデータのイメージを示す。
図3は、商用電源ノイズが重畳したアナログ生体信号、及びアナログ生体信号をA/Dコンバータ3bでサンプリングして得られたデジタル生体信号(d1、d2・・・)を示している。
【0037】
図3(a)は、アナログ生体信号とデジタル生体信号との関係性を示す。A/Dコンバータ3bは、アナログ生体信号を所定のサンプリング周波数でデジタル生体信号に変換する。なお、
図3(a)に示す例では、商用電源ノイズの1/8周期ごとにアナログ生体信号をサンプリングすることにより、デジタル生体信号が得られているものとする。また、
図3(a)においては、アナログ生体信号に比べて商用電源ノイズのレベルが高い場合の例を示している。
【0038】
図3(b)に示すように、FIFOメモリ3cには、商用電源ノイズの1周期分の16個のデジタル生体信号データが順に格納される。
図3(b)に示すように、FIFOメモリ3cに、商用電源ノイズが重畳したデジタル生体信号d1〜d16が格納されている状態で、商用電源ノイズが重畳したデジタル生体信号d17をA/Dコンバータ3bが出力した場合、FIFOメモリ3cは、最も古い商用電源ノイズが重畳したデジタル生体信号d1を削除し、商用電源ノイズが重畳したデジタル生体信号d17を新たに格納する。
【0039】
図2(b)に戻り、演算部3dは、FIFOメモリ3cに格納されている1周期分のデジタル生体信号を移動平均することで、商用電源ノイズ等のノイズを除去する。
【0040】
ここで、移動平均の算出方法について説明する。FIFOメモリ3cに格納されるデジタル生体信号をdnで表し、nは0以上の整数であってFIFOメモリ3cに入力された順を示すとする。FIFOメモリ3cに1周期分のデジタル生体信号が格納されると、演算部3dは、FIFOメモリ3cに格納されているデジタル生体信号d0〜d15を加算した加算結果sum0を算出し保存する。
【0041】
そして、FIFOメモリ3cに新たなデジタル生体信号d16が入力されると、FIFOメモリ3cは、デジタル生体信号d0を出力して、デジタル生体信号d16を格納する。FIFOメモリ3cが更新されると、演算部3dは、更新されたFIFOメモリ3cに格納されているデジタル生体信号d1〜d16を加算した加算結果sum1を算出し保存する。このように、新たなデジタル生体信号がFIFOメモリ3cに入力されて、更新される度に、演算部3dは、加算結果sumx(x=0,1,…)を算出し保存する。
【0042】
しかしながら、FIFOメモリ3cが更新される度に、FIFOメモリ3cに格納されているデジタル生体信号を加算すると、演算負荷が大きくなってしまう。そこで、FIFOメモリ3cの更新前及び更新後の差分と、前回のFIFOメモリ3cの加算結果とから、更新後の加算結果を算出するのが望ましい。
【0043】
図4を用いて具体的な処理について説明する。なお、
図4では、FIFOメモリ3cには、既に、デジタル生体信号d0〜d15が格納されているとする。FIFOメモリ3cにデジタル生体信号d0〜d15が格納されているときには、加算結果sum130にはd0〜d15を累積加算した値sum0が入っている。A/Dコンバータ3bから新たなデジタル生体信号d16が入力されると、まず、演算器141で、前回の加算結果sum0と入力されたデジタル生体信号d16とを加算する。次に、FIFOメモリ3cにd16が入力されると、FIFOメモリ3cはデジタル生体信号d0を出力し、デジタル生体信号d16を新たに格納する。そして、演算器142で、演算器141から出力されたsum0+d16からFIFOメモリ3cから出力されたデジタル生体信号d0を減算して、更新後の加算結果sum1を算出する。
【0044】
演算部3dでは、こうして得られた加算結果を、FIFOメモリ3cに格納されているデジタル生体信号の数で除算することで、移動平均を算出し、デジタル生体信号に含まれるノイズを除去する。ここで、移動平均は、直近のn個のデータを平均し、その平均値を代表値として用いるフィルタであり、一種のローパスフィルタである。本実施形態では、サンプリング周波数800Hzにおける16点の移動平均を用いており、カットオフ周波数は約22Hz(=0.443×800Hz/16)となる。
【0045】
上述のように、正弦波である商用電源ノイズは、一周期分の移動平均により除去することができる。また、サンプリング周波数が800Hzである場合、折り返し雑音は400Hz以上の帯域にあらわれるため、移動平均に伴うカットオフ周波数により除去することができる。この場合において、折り返し雑音の400Hz以上の帯域と商用電源ノイズの周波数(50Hz)とは大きくかけ離れているため、相互に影響することがなく、両ノイズを除去することができる。
【0046】
なお、本実施形態において、A/Dコンバータ3bは、ΣΔ変調方式を用いたΣΔ型であることが望ましい。他の変調方式を用いた型、例えば、フラッシュ型や逐次比較型である場合には、量子化誤差を持つためにノイズ除去を行ってもノイズが残留することがあるためである。逐次比較型のA/Dコンバータを用いた場合、量子化ノイズはn個の加算で1/√nになるのでノイズが残留してしまう。これに対して、ΣΔ型のA/Dコンバータでは、常に変換累積誤差(積分の結果)が1未満になるような性質があるので、同じ演算を行っても、量子化ノイズを1/nにすることができるので、良好な測定波形が得られる。
【0047】
演算部3dでは、ノイズを除去したデジタル生体信号(温度データ)に対して、ピーク検出処理を行い、瞬間的かつ微小な温度上昇が起きたタイミングを脈動のタイミングとして検出する。また、演算部3dは、脈動に伴う温度上昇が起きたタイミングの間隔(いわゆるR−R間隔)から脈拍数を算出する。
【0048】
出力部4は、信号処理部3が測定した脈拍数を出力する。出力部4の出力態様は任意であり、出力部4は、例えば、測定した脈拍数を表示、印刷、外部機器に送信等する。
【0049】
続いて、
図2(a)を参照して、脈拍測定装置1の機能的な構成について説明する。
図2(b)を参照して説明した信号処理部3を構成するアンプ3a、A/Dコンバータ3b、FIFOメモリ3c及び演算部3dは、
図2(a)に示すように、本発明に係る抽出部31及び測定部32として機能する。
【0050】
抽出部31は、センサ部2が測定した温度(アナログデータ)から脈動に伴う温度変化を抽出するため、変換部33及びノイズ除去部34を含んで構成される。
【0051】
変換部33は、主として上述のアンプ3a及びA/Dコンバータ3bが対応し、センサ部2のアナログの測定結果(アナログ生体信号)を、除去対象のノイズ周波数の整数倍のサンプリング周波数でデジタル変換する。例えば、関東地方である場合、変換部33は、除去対象である商用電源ノイズ(50Hz)の16倍のサンプリング周波数(800Hz)で、アナログ生体信号をデジタル生体信号に変換する。なお、関西地方である場合には、変換部33は、商用電源ノイズ(60Hz)の13倍のサンプリング周波数(780Hz)で、アナログ生体信号をデジタル生体信号に変換する。もちろん、関西地方であってもサンプリング周波数を800Hz(商用電源ノイズの13.333・・・倍)としてもよく、この場合には、13個の移動平均をとることでノイズを除去する。この場合、商用電源ノイズによる影響は本手法により完全には除去できないものの、脈動に伴う温度変化は十分に検出することができる。
除去対象となる商用電源周波数の切り替え(関東・関西の切り替え)は、手動で行うこととしてもよく、センサ部2を切り離してノイズレベルだけを比較することで商用電源周波数を判断し切り替えることとしてもよく、また、GPS等の測位情報を利用して行うこととしてもよい。
【0052】
ノイズ除去部34は、主として上述のFIFOメモリ3c及び演算部3dが対応し、変換部33が変換したデジタルの測定結果(デジタル生体信号)を、ノイズ周波数とサンプリング周波数との倍率に応じた数で移動平均することで、センサ部2の測定結果に対してノイズ除去を行う。具体的には、ノイズ除去部34は、正弦波である商用電源ノイズを、移動平均をとり正負足しあわせることで除去するとともに、折り返し雑音を、移動平均に伴うカットオフ周波数により除去する。
【0053】
上述したように、サンプリング周波数800Hzで16点の移動平均を用いた場合には、カットオフ周波数は約22Hzとなる。この点、ノイズ状況に応じて移動平均の点数を整数倍することとしてもよく、例えば、サンプリング周波数800Hzにおける32点の移動平均を用いることで、約11Hz(=0.443×800Hz/32)のカットオフ周波数を得ることができる。この場合であっても、脈拍の測定に必要な周波数帯は通過させることができ、脈拍を正確に測定することができる。
【0054】
ところで、脈拍の測定のために検知するのは人体の温度であるため、人体温が取り得る温度範囲から外れる温度は、温度ノイズとして除去することができる。そこで、ノイズ除去部34は、
図5(a)に示すように、センサ部2が測定した温度のうち、人体温が取り得る温度範囲(例えば、34℃〜40℃)から外れる温度をノイズとして扱い、処理対象から除去することとしてもよい。
【0055】
また、脈動に伴う温度変化は微小であるため、
図5(b)に示すように、センサ部2が測定した現在の体温から所定の温度範囲(例えば、±0.5℃程度)を処理対象として、当該範囲から外れる温度をノイズとして扱うこととしてもよい。これにより、更なる低雑音化を実現することができる。なお、脈動の際に体温は上昇することから、現在の体温から、所定の温度範囲の上限までの幅と下限までの幅とを異ならせる(より詳細には、上限までの幅の方を大きくする)こととしてもよい。
また、脈動に伴う体温の上昇は、概ね一定であるため、前回の脈動時に上昇した体温の上昇度合いに基づいて、所定の温度範囲を設定(例えば、前回脈動時に上昇した温度±α)することとしてもよい。
【0056】
図2(a)に戻り、抽出部31は、変換部33がデジタル変換し、ノイズ除去部34がノイズを除去した測定結果から、脈動に伴う温度変化を抽出する。具体的には、抽出部31は、測定結果に対してピーク検出処理を実行し、体温が最大になったタイミングを抽出する。
【0057】
なお、一度脈拍が測定できた後は、脈拍の間隔から体温が最大になるタイミングを予測することができる。そこで、抽出部31は、省電力のため、測定した脈拍の間隔に応じて温度変化の抽出を休止、即ち、温度変化の抽出を間欠的に行うこととしてもよい。この場合において、温度変化の抽出を行う期間は、除去対象のノイズの1周期分の期間を少なくとも含むこととする。
【0058】
測定部32は、主として上述の演算部3dが対応し、抽出部31が抽出した温度変化の間隔から脈拍を算出する。具体的には、測定部32は、体温が最大になったタイミングの時間間隔をR−R間隔として捉え、このR−R間隔から脈拍数を算出する。
【0059】
[脈拍測定装置1の処理]
以上、脈拍測定装置1の構成について説明した。続いて、脈拍測定装置1の処理について説明する。
図6は、脈拍測定装置1の処理の流れを示すフローチャートである。
【0060】
まず、ステップS1において、センサ部2は、人体との接触面における温度(体温)を測定し、アンプ3aに出力する。なお、アンプ3aを備えない場合には、センサ部2は、測定した温度をA/Dコンバータ3bに直接出力する。
【0061】
続いて、ステップS2において、アンプ3aがセンサ部2から取得した温度(アナログ生体信号)を増幅すると、A/Dコンバータ3bは、増幅されたアナログ生体電気信号を、除去対象のノイズ周波数に応じたサンプリング周波数でデジタル変換する。変換されたデジタル生体信号は、FIFOメモリ3cに格納される(ステップS3)。
【0062】
続いて、ステップS4において、演算部3dは、センサ部2が測定した温度に対してノイズ除去を行う。具体的には、演算部3dは、FIFOメモリ3cに格納されているデジタル生体信号の移動平均を算出することで商用電源ノイズを除去し、同時に移動平均に伴うLPFにより折り返し雑音を除去する。
【0063】
続いて、ステップS5において、演算部3dは、ノイズを除去したデジタル生体信号に対してピーク検出処理を行い、脈動に伴う温度が上昇したタイミングを抽出する。その後、ステップS6において、演算部3dは、温度のピークの間隔から脈拍数を算出し、処理を終了する。
【0064】
[実験例]
以上、本発明の脈拍測定装置1の一実施形態について説明した。続いて、
図7に、本発明者らが行った実験の結果を示す。本発明者らは、人体の体温をサーミスタで測定し、脈拍と体温との関係性について検証した。
図7は、人体の体温と脈拍との関係を示すグラフである。
図7において、縦軸は、サーミスタが出力した電圧の相対値を示し、横軸は、時間を示す。なお、縦軸の電圧が低いほど温度が高いことを示している。
【0065】
図7に示すように、人体の体温は日常生活における緩やかな温度変化だけでなく、脈動に伴い微小ながら瞬間的に上昇することがわかった。また、この微小な温度上昇は、実験結果に示すように検出することができるため、温度上昇のタイミングの間隔から被検者の脈拍を測定することができる。
【0066】
[脈拍測定装置1の効果]
以上のように脈拍測定装置1では、センサ部2が接触している測定部位の温度変化の間隔から人体の脈拍を測定する。このような温度変化は、動脈の近傍であれば検出することができるため、脈拍測定装置1では、例えば、手首や足首等にセンサ部2を接触させていれば足り、人体の行動を一切抑制することがなく、また、拘束感や圧迫感を与えることもない。また、温度測定に要する電力は極めてわずかであるため、従来のような光電脈波法と比較して極めて低い電力で脈拍を測定することができる。
【0067】
また、センサ部2の測定結果を商用電源ノイズの整数倍のサンプリング周波数でデジタル変換するとともに、当該整数倍に応じた数で移動平均することで、商用電源ノイズや折り返し雑音を除去することができる。
また、センサ部2の測定結果のうち、人体温が取り得る温度範囲から外れる温度を処理対象外とすることで、ノイズを除去することができる。このとき、人体温が取り得る温度範囲をセンサ部2が測定した被検者の体温に基づいて設定することで、更なる低雑音化を実現することができる。
【0068】
また、測定した脈拍の間隔に応じて、温度変化の抽出を間欠的に行うことで、更なる低消費電力化が期待できる。即ち、測定結果から温度変化を抽出する処理には一定の電力を消費してしまう。この処理は、脈動のタイミングに合わせて行えば足りるため、一度測定した脈拍の間隔に基づいて、当該処理を間欠的に行うことで、不要な期間における処理を省略することができ、更なる低消費電力化が期待できる。なお、センサ部2による温度測定に要する電力は極めてわずかであるため、センサ部2による温度測定は、常時行うこととしてもよく、また、間欠的に行うこととしてもよい。
【0069】
[第2実施形態]
続いて、本発明の第2実施形態について説明する。本発明の第2実施形態は、上述した脈拍測定装置1を備えるウェアラブル端末である。上述した脈拍測定装置1は、手首等の動脈が人体表面に使い部位において好適に利用される。そこで、第2実施形態では、ウェアラブル端末の一例として、
図8に示すように、バンド型のウェアラブル端末100について説明する。
【0070】
図8(a)に示すように、ウェアラブル端末100は、手首に装着される腕時計型の端末であり、表示画面及びタッチパネルが重畳された表示部101と、ウェアラブル端末100を手首に固定するためのベルト102とを含む。
【0071】
図8(b)に示すように、ベルト102の内側には、センサ部2が設けられている。ウェアラブル端末100において、センサ部2は、装着しているユーザの手首(動脈近傍)に接触し、ユーザの体温を測定する。ウェアラブル端末100では、センサ部2が測定した体温を監視し、脈動に伴う微小な温度変化を検出することで、ユーザの脈拍を測定する。
なお、センサ部2は、ユーザの体温のみに反応することが好ましく、ウェアラブル端末100では、例えば表示部101などの他の機器からセンサ部2の熱の移動を防止する断熱部(不図示)を設けることが好ましい。同様に、脈動の前後においてセンサ部2の温度を略一定に保つために、脈動に伴い蓄積したセンサ部2の熱を放出する放熱部(不図示)を設けることが好ましい。例えば、腕時計型のウェアラブル端末100において、表示部101(時計)の近傍にセンサ部2を配置する場合、表示部101と、センサ部2(必要に応じて放熱部)との間に、断熱部を設けることとしてもよい。
【0072】
ウェアラブル端末100では、測定した脈拍数を表示部101に表示することで、装着中のユーザに対して自身の脈拍数を報せることができる。なお、センサ部2では、ユーザの体温も測定していることから、表示部101では、脈拍数だけでなく体温等のバイタルデータを表示することもできる。この点、
図8(c)に示す例では、表示部101には、ユーザの脈拍数、脈拍波形、現体温が表示されている。
【0073】
[ウェアラブル端末100による効果]
以上説明したウェアラブル端末100では、ユーザがバンドを装着しているだけで、脈拍等のバイタルデータを容易に取得することができるため、ユーザの行動を一切抑制することがない。また、温度測定に要する電力は極めてわずかであるため、低消費電力で脈拍を測定することができる。
【0074】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。特に、装置の分散・統合の具体的な実施形態は以上に図示するものに限られず、その全部又は一部について、種々の付加等に応じて、又は、機能負荷に応じて、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。
【0075】
例えば、上述の実施形態では、ウェアラブル端末100の一例として、腕時計型の端末を例示しているが、これに限られるものではない。ウェアラブル端末100は、ユーザの動脈近傍に接触可能であればよく、例えば、首、肘、膝、足首等を保護するサポーター等であってもよく、また、眼鏡型の端末であってもよい。なお、眼鏡型の端末である場合、例えば、ユーザの耳周辺に接触する眼鏡フレームのモダン部分やユーザのこめかみ周辺に接触する眼鏡フレームのテンプル部分等に、センサ部2を設けることで、ユーザの体温を測定することができる。
【0076】
また、上述の実施形態では、ノイズ除去部34の実現方法の一例として、FIFOメモリ3cを示している。この点、ノイズ除去部34は、商用電源ノイズ及び折り返し雑音などのノイズを除去できればよく、FIFOメモリ3cとは別の任意のノイズ除去手段を設けることでノイズ除去を行うこととしてもよい。
【0077】
また、除去するノイズも商用電源ノイズ及び折り返し雑音だけでなく、熱雑音(ジョンソンノイズ)などの各種のノイズも合わせて除去することが好ましい。例えば、ランダムノイズである熱雑音を除去する場合、熱雑音自体には相関性がないため、ノイズ除去部34は、センサ部2の測定結果を時間軸に沿って比較し、その比較結果に基づいて熱雑音を抽出して、除去する。具体的には、ノイズ除去部34は、センサ部2の測定結果を複数の期間に分割し、それぞれの測定結果と比較する。その結果、例えば、ある期間の測定結果にのみ所定の周波数範囲内の信号があらわれる場合に、当該信号を除去することで、熱雑音を除去することができる。なお、所定の周波数範囲とは、脈拍の検出に必要な周波数以上の周波数範囲である。
【0078】
また、ノイズ除去部34は、比較の結果、2以上の期間の測定結果に共通して所定の周波数範囲内の信号があらわれる場合に、当該信号を除去することで、熱雑音を除去することができる。なお、所定の周波数範囲とは、脈拍の検出に必要な周波数以上の周波数範囲である。