特許第6636738号(P6636738)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6636738
(24)【登録日】2019年12月27日
(45)【発行日】2020年1月29日
(54)【発明の名称】インク吐出量制限方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/21 20060101AFI20200120BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20200120BHJP
【FI】
   B41J2/21
   B41J2/01 129
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-141170(P2015-141170)
(22)【出願日】2015年7月15日
(65)【公開番号】特開2017-19254(P2017-19254A)
(43)【公開日】2017年1月26日
【審査請求日】2018年6月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100104695
【弁理士】
【氏名又は名称】島田 明宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121348
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 健児
(74)【代理人】
【識別番号】100114247
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 邦廣
(74)【代理人】
【識別番号】100148459
【弁理士】
【氏名又は名称】河本 悟
(72)【発明者】
【氏名】有薗 重徳
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 涼子
(72)【発明者】
【氏名】上田 晃平
(72)【発明者】
【氏名】松尾 浩次
【審査官】 中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−197801(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/061981(WO,A1)
【文献】 特開2009−102455(JP,A)
【文献】 特開2008−265263(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0085423(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01−2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CMYKの4色のインクを用いて印刷を行う光硬化型インクジェット印刷装置においてインクの吐出量を制限する方法であって、
インク色ごとに入力階調値をインク量に換算する換算ステップと、
前記換算ステップで得られたインク量に関し、K色成分を含まない2次色,K色成分を含まない3次色,およびK色成分を含む色のそれぞれについてインクの吐出量の制限値を設定する制限値設定ステップと
入力階調値としての4色の色値に基づいて出力階調値としての4色の色値が前記光硬化型インクジェット印刷装置に与えられるよう、インクの吐出量が前記制限値設定ステップで設定された制限値を超えることがないように、入力階調値としての4色の色値に対応する出力階調値としての4色の色値を決定する色値決定ステップと
を含み、
前記制限値設定ステップでは、K色成分を含まない2次色についての制限値よりもK色成分を含まない3次色についての制限値の方が小さい値に設定され、かつ、K色成分を含まない2次色についての制限値よりもK色成分を含む色についての制限値の方が小さい値に設定され
前記色値決定ステップでは、K色成分を含む色であって前記制限値設定ステップで設定された制限値を超える色については、K色成分以外の成分が優先的に小さくなるように出力階調値としての4色の色値が決定されることを特徴とする、インク吐出量制限方法。
【請求項2】
前記制限値設定ステップでは、K色成分を含まない3次色についての制限値よりもK色成分を含む色についての制限値の方が小さい値に設定されることを特徴とする、請求項1に記載のインク吐出量制限方法。
【請求項3】
前記換算ステップでは、予め前記光硬化型インクジェット印刷装置で印刷が行われた際のインクの実際の消費量に基づいて、入力階調値からインク量への換算が行われることを特徴とする、請求項1または2に記載のインク吐出量制限方法。
【請求項4】
前記制限値設定ステップでは、色毎に、C色成分,M色成分,Y色成分,およびK色成分の大きさに応じて、インクの吐出量の制限値が設定されることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載のインク吐出量制限方法。
【請求項5】
前記制限値設定ステップは、色毎の制限値を求めるためのステップとして、
K色成分の値に応じた追加制限値LimitExKを次式(1)によって求めるステップと、
C色成分の値,M色成分の値,およびY色成分の値に応じた追加制限値LimitExCMYを次式(2)によって求めるステップと、
次式(3)によって合計追加制限値LimitExを求めるステップと、
次式(4)によって制限値MaxInkOutを求めるステップと
を含むことを特徴とする、請求項4に記載のインク吐出量制限方法:
LimitExK = (Ki/F) * (MaxInk - MaxWithK) ・・・(1)
LimitExCMY = ((Ci/F) * (Mi/F) * (Yi/F))^(1.0/3.0) * (MaxInk - MaxCMY) ・・・(2)
LimitEx = LimitExK + LimitExCMY ・・・(3)
MaxInkOut = MaxInk - LimitEx ・・・(4)
ここで、KiはK色成分の値であり、Fは所定の係数であり、MaxInkは前記4色のインク全体での制限値であり、MaxWithKはK色成分を含む色についての制限値であり、CiはC色成分の値であり、MiはM色成分の値であり、YiはY色成分の値であり、MaxCMYはK色成分を含まない3次色についての制限値である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化型インクジェット印刷装置で印刷を行う際のインクの吐出量を制限する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、インクを基材(印刷用紙など)に吐出することにより印刷を行うインクジェット印刷装置が知られている。インクジェット印刷装置では、一般的には水性インクが用いられている。しかしながら、近年、UVインク(紫外線硬化インク)を用いた光硬化型(紫外線硬化型)インクジェット印刷装置の開発が進展している。光硬化型インクジェット印刷装置では、基材に吐出したUVインクにUV光(紫外線)を照射することによって、印刷が行われる。
【0003】
カラー印刷を行うインクジェット印刷装置では、一般的には、C(シアン),M(マゼンタ),Y(イエロー),およびK(ブラック)の4色のインクを用いて印刷が行われる。なお、以下においては、上記4色の各々のことをそれら4色の組み合わせで表現される色と区別するために「インク色」という。ところで、光硬化型インクジェット印刷装置において適正量のインクが使用されている場合には、印刷物の仕上がりがグロス調(高光沢)となる。ところが、光硬化型インクジェット印刷装置において一度に多量のインクが使用された場合、インクの特性や基材の吸湿性などに起因してインクの硬化不良が生じることがある。このようにインクの硬化不良が生じると、印刷物の表面が不均一となり、その仕上がりがマット調(低光沢)となる。
【0004】
そこで、インクの硬化不良を生ずることなくグロス調の印刷物が得られるよう、ICCプロファイルのTAC値による最大インク量(1画素に対して重ね合わせられるCMYKの4色のインクの合計量)の制限が行われている。なお、ICCプロファイルとは、色空間の変換を行うためにInternational Color Consortium(国際色コンソーシアム)によって定められた書式のファイルであって、デバイスの色空間の特性を定義したファイルのことである。ICCプロファイルを用いて色のデータの変換を行うことによって、異なるデバイス間でできるだけ忠実に色を再現することが可能となっている。
【0005】
上述したTAC値は、各インク色の最大値を100%として、例えば「320%」というように設定される。この場合、RGBデータからCMYKデータに変換されたときに本来的には(C値,M値,Y値,K値)=(95,85,95,90)で表現される色であっても、4つのインク色の合計値が320%を超えないように色のデータの変換が行われる。このようにして1画素当たりの4色のインクの合計量に制限を設けることによって、インクの硬化不良の防止が図られている。
【0006】
なお、本件発明に関連して、特開2010−198403号公報には、所望の光沢感を得るために本硬化光源とは別に仮硬化光源を設けた構成のインクジェット記録装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−198403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、TAC値は、インク色毎のインクの特性が考慮されることなく、4色のインクの合計量の値(すなわち、4色のインクの配分が考慮されていない値)で設定されている。このため、4色のインクの配分によっては、インクの硬化不良が生じる。すなわち、インクの硬化不良を引き起こす色が存在する。インクの硬化不良を引き起こす色が印刷対象の画像中に含まれている場合、グロス調の部分とマット調の部分とが混在することとなり、全体に均一感のある印刷物が得られない。
【0009】
また、特開2010−198403号公報に開示されたインクジェット記録装置においては、ノズル群に対応した照射部ごとに照射光量が設定され、その設定された照射光量に基づいて照射部ごとに仮硬化光源が制御される。このような構成のため、印刷対象の画像の内容に応じた制御を行うことができない。また、本硬化光源とは別に仮硬化光源が必要となるので、高コストとなる。
【0010】
そこで本発明は、インクの硬化不良を生ずることなく、全体がグロス調である均一感のある印刷物が得られるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の発明は、CMYKの4色のインクを用いて印刷を行う光硬化型インクジェット印刷装置においてインクの吐出量を制限する方法であって、
インク色ごとに入力階調値をインク量に換算する換算ステップと、
前記換算ステップで得られたインク量に関し、K色成分を含まない2次色,K色成分を含まない3次色,およびK色成分を含む色のそれぞれについてインクの吐出量の制限値を設定する制限値設定ステップと
入力階調値としての4色の色値に基づいて出力階調値としての4色の色値が前記光硬化型インクジェット印刷装置に与えられるよう、インクの吐出量が前記制限値設定ステップで設定された制限値を超えることがないように、入力階調値としての4色の色値に対応する出力階調値としての4色の色値を決定する色値決定ステップと
を含み、
前記制限値設定ステップでは、K色成分を含まない2次色についての制限値よりもK色成分を含まない3次色についての制限値の方が小さい値に設定され、かつ、K色成分を含まない2次色についての制限値よりもK色成分を含む色についての制限値の方が小さい値に設定され
前記色値決定ステップでは、K色成分を含む色であって前記制限値設定ステップで設定された制限値を超える色については、K色成分以外の成分が優先的に小さくなるように出力階調値としての4色の色値が決定されることを特徴とする。
【0012】
第2の発明は、第1の発明において、
前記制限値設定ステップでは、K色成分を含まない3次色についての制限値よりもK色成分を含む色についての制限値の方が小さい値に設定されることを特徴とする。
【0013】
第3の発明は、第1または第2の発明において、
前記換算ステップでは、予め前記光硬化型インクジェット印刷装置で印刷が行われた際のインクの実際の消費量に基づいて、入力階調値からインク量への換算が行われることを特徴とする。
【0014】
第4の発明は、第1から第4までのいずれかの発明において、
前記制限値設定ステップでは、色毎に、C色成分,M色成分,Y色成分,およびK色成分の大きさに応じて、インクの吐出量の制限値が設定されることを特徴とする。
【0015】
第5の発明は、第4の発明において、
前記制限値設定ステップは、色毎の制限値を求めるためのステップとして、
K色成分の値に応じた追加制限値LimitExKを次式(1)によって求めるステップと、
C色成分の値,M色成分の値,およびY色成分の値に応じた追加制限値LimitExCMYを次式(2)によって求めるステップと、
次式(3)によって合計追加制限値LimitExを求めるステップと、
次式(4)によって制限値MaxInkOutを求めるステップと
を含むことを特徴とする。
LimitExK = (Ki/F) * (MaxInk - MaxWithK) ・・・(1)
LimitExCMY = ((Ci/F) * (Mi/F) * (Yi/F))^(1.0/3.0) * (MaxInk - MaxCMY) ・・・(2)
LimitEx = LimitExK + LimitExCMY ・・・(3)
MaxInkOut = MaxInk - LimitEx ・・・(4)
ここで、KiはK色成分の値であり、Fは所定の係数であり、MaxInkは前記4色のインク全体での制限値であり、MaxWithKはK色成分を含む色についての制限値であり、CiはC色成分の値であり、MiはM色成分の値であり、YiはY色成分の値であり、MaxCMYはK色成分を含まない3次色についての制限値である。
【発明の効果】
【0017】
上記第1の発明によれば、光硬化型インクジェット印刷装置での印刷に関し、K色成分を含まない2次色,K色成分を含まない3次色,およびK色成分を含む色のそれぞれについてインクの吐出量の制限値が設定される。その際、K色成分を含む色やグレー成分を生ずる色についての制限値が比較的低い値に設定されるので、従来インクの硬化不良を引き起こしやすかった色についても硬化不良を抑止することが可能となる。これにより、様々な色を含む画像の印刷が行われても、印刷物のいずれの部分についても仕上がりがマット調となることが抑止される。以上より、光硬化型インクジェット印刷装置を用いて印刷が行われたときに、インクの硬化不良を生ずることなく全体がグロス調である均一感のある印刷物が得られる。
また、K色成分を含み制限値設定ステップで設定された制限値を超える色については、K色成分以外の成分が優先的に小さくなるように、出力階調値としての4色の色値が決定される。これにより、インク量の制限に伴って色の見た目が大きく変化すること(例えばコントラストの低下)が抑制される。すなわち、印刷品質の維持が可能となる。
【0018】
上記第2の発明によれば、K色成分を含む色の印刷が行われる際に、インクの吐出量が効果的に制限される。このため、光硬化型インクジェット印刷装置で印刷が行われる際に、より効果的にインクの硬化不良が抑止される。
【0019】
上記第3の発明によれば、インクの硬化不良の抑止に関する精度を高めることが可能となる。
【0020】
上記第4の発明によれば、印刷が行われた際にトーンジャンプ(階調の連続性が失われる現象)の発生が抑制される。
【0021】
上記第5の発明によれば、上記第4の発明と同様の効果が確実に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態に係る印刷システムの全体構成図である。
図2】上記実施形態におけるインクジェット印刷装置の一構成例を示す模式図である。
図3】上記実施形態における画像処理装置のハードウェア構成図である。
図4】上記実施形態に係る印刷システムにおいて色のデータがどのように変換されるのかについて説明するための図である。
図5】上記実施形態におけるインク吐出量制限方法の手順を示すフローチャートである。
図6】入力階調値とインク消費量との関係を示す図である。
図7】上記実施形態における制限値の設定の一例を示す図である。
図8】上記実施形態において、色毎の制限値の設定について説明するための図である。
図9】上記実施形態において、色毎の制限値の設定について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照しつつ本発明の一実施形態について説明する。
【0025】
<1.印刷システムの全体構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る印刷システムの全体構成図である。この印刷システムは、印刷物を構成する文字,ロゴ,絵柄,イラスト等の複数種類の部品を編集しレイアウトするためのクライアントコンピュータ100と、印刷色を管理するためのICCプロファイルや後述する色変換テーブルを生成する処理,入稿データをラスタデータ化するRIP処理,ICCプロファイルおよび色変換テーブルを用いて色のデータを変換する色変換処理などの各種処理を行う画像処理装置200と、画像処理装置200に接続された測色機220と、カラー印刷を実行するインクジェット印刷装置300とによって構成されている。インクジェット印刷装置300は、印刷機本体302とその制御装置である印刷制御装置304とによって構成されている。クライアントコンピュータ100と画像処理装置200とインクジェット印刷装置300とは、LAN400によって互いに通信可能に接続されている。なお、本実施形態におけるインクジェット印刷装置300は、光硬化型(紫外線硬化型)インクジェット印刷装置である。
【0026】
この印刷システムによる印刷は、概略的には次のようにして行われる。まず、クライアントコンピュータ100において、上述したような各種部品の編集およびレイアウトが行われることにより、例えば印刷対象をページ記述言語で記述したページデータが生成される。クライアントコンピュータ100で生成されたページデータは、画像処理装置200に入稿データとして与えられる。画像処理装置200は、入稿データに対してRIP処理および色変換処理を施すことによってビットマップ形式の印刷データを生成する。なお、RIP処理は、色変換処理前または色変換処理後のいずれかに行われる。画像処理装置200で生成された印刷データはインクジェット印刷装置300へと送られる。そして、インクジェット印刷装置300は、印刷データに基づいて印刷を実行する。
【0027】
なお、画像処理装置200では、入稿データに基づく印刷データの生成が可能となるよう、予めICCプロファイルの作成および色変換テーブルの作成が行われる。ICCプロファイルは該当の印刷装置で印刷されたカラーチャートの測色結果に基づいて作成されるところ、そのカラーチャートの測色が測色機220によって行われる。ICCプロファイルの作成については公知の手法を採用することができる。色変換テーブルの作成については後述する。
【0028】
<2.インクジェット印刷装置の構成>
図2は、本実施形態におけるインクジェット印刷装置300の一構成例を示す模式図である。上述したように、このインクジェット印刷装置300は、印刷機本体302とその制御装置である印刷制御装置304とによって構成されている。印刷機本体302は、基材である印刷用紙32を供給する用紙送出部31と、印刷用紙32を印刷機構内部へと搬送するための第1の駆動ローラ33と、印刷機構内部で印刷用紙32を搬送するための複数個の支持ローラ34と、印刷用紙32にインクを吐出して印刷を行う印字部35と、印刷後の印刷用紙32上のインクを硬化させるUV照射部36と、印刷用紙32への印刷の状態を検査する検査部37と、印刷用紙32を印刷機構内部から出力するための第2の駆動ローラ38と、印刷後の印刷用紙32を巻き取る用紙巻取部39とを備えている。印字部35には、C(シアン),M(マゼンタ),Y(イエロー),およびK(ブラック)のインクをそれぞれ吐出するC用インクジェットヘッド35c,M用インクジェットヘッド35m,Y用インクジェットヘッド35y,およびK用インクジェットヘッド35kが含まれている。なお、印刷機構内部には、各インクジェットヘッド35c,35m,35y,および35kに供給するためのインクを溜めておくインクタンク(不図示)も設けられている。
【0029】
印刷制御装置304は、以上のような構成の印刷機本体302の動作を制御する。印刷制御装置304に印刷出力の指示コマンドが与えられると、印刷制御装置304は、印刷用紙32が用紙送出部31から用紙巻取部39へと搬送されるよう、印刷機本体302の動作を制御する。そして、印刷用紙32の搬送過程において、まず印字部35内の各インクジェットヘッド35c,35m,35y,および35kからのインクの吐出による印字が行われ、次にUV照射部36によってインクの硬化が行われ、最後に検査部37によって印刷状態の検査が行われる。
【0030】
<3.画像処理装置の構成>
図3は、本実施形態における画像処理装置200のハードウェア構成図である。この画像処理装置200は、パソコンによって実現されており、CPU21と、ROM22と、RAM23と、補助記憶装置24と、キーボード等の入力操作部25と、表示部26と、光学ディスクドライブ27と、ネットワークインタフェース部28と、周辺機器インタフェース部29とを有している。周辺機器インタフェース部29には測色機220が接続されている。クライアントコンピュータ100からLAN400経由で送られてくる入稿データは、ネットワークインタフェース部28を介して画像処理装置200の内部へと入力される。画像処理装置200で生成された印刷データは、ネットワークインタフェース部28を介してLAN400経由でインクジェット印刷装置300へと送られる。
【0031】
この画像処理装置200は、補助記憶装置24にインストールされた所定のプログラムをCPU21がRAM23にロードして実行することにより、RIP処理を行うRIP装置として機能する。また、この画像処理装置200は、補助記憶装置24にインストールされたプロファイル作成プログラムをCPU21がRAM23にロードして実行することにより、この印刷システムにおいて印刷色を管理するために使用されるICCプロファイルを作成するプロファイル作成装置としても機能する。さらに、この画像処理装置200は、補助記憶装置24にインストールされた色変換テーブル作成プログラムをCPU21がRAM23にロードして実行することにより、インクの吐出量を制限するために使用される色変換テーブルを作成する色変換テーブル作成装置としても機能する。なお、上記各種プログラムは、CD−ROMやDVD−ROM等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納されて提供される。すなわちユーザは、プログラムが格納された光学ディスク(CD−ROM、DVD−ROM等)210を購入して光学ディスクドライブ27に装着し、光学ディスク210から当該プログラムを読み出して補助記憶装置24にインストールする。また、これに代えて、LAN400等を介して送られるプログラムをネットワークインタフェース部28で受信して、それを補助記憶装置24にインストールするようにしてもよい。
【0032】
なお、クライアントコンピュータ100についても、画像処理装置200と同様、パソコンによって実現されている。従って、クライアントコンピュータ100の構成についての説明は省略する。
【0033】
<4.色のデータの流れ>
次に、図4を参照しつつ、この印刷システムで入稿データに基づいて印刷データが生成される過程において色のデータがどのように変換されるのかについて説明する。なお、ここでは入稿データがRGBデータである場合を例に挙げて説明する。また、プロファイル接続空間(PCS)としてCIELab色空間が用いられるものと仮定する。
【0034】
画像処理装置200には、入力デバイスに対応する入力ICCプロファイル61と、出力デバイス(ここではインクジェット印刷装置300)に対応する出力ICCプロファイル62と、インクの硬化不良が抑止されるよう色のデータを変換するために使用されるテーブルであって後述するインク吐出量制限方法を用いて作成される色変換テーブル63とが設けられる。
【0035】
上記のような画像処理装置200に入稿データとしてRGBデータ51が与えられると、まず、入力ICCプロファイル61を用いてRGBデータ51がLabデータ52に変換される。すなわち、各色のデータに関し、RGB値からLab値への変換が行われる。次に、出力ICCプロファイル62を用いてLabデータ52がCMYKデータ53に変換される。すなわち、各色のデータに関し、Lab値からCMYK値への変換が行われる。なお、本実施形態においては、TAC値が400%に設定された出力ICCプロファイル62が用いられる。従って、CMYKデータ53におけるCMYK値は、インク量の制限が全く考慮されていない値である。
【0036】
その後、色変換テーブル63を用いてCMYKデータ53がCMYKデータ54に変換される。このCMYKデータ54におけるCMYK値は、インク量の制限が考慮された値となる。すなわち、各色のデータに関し、インクの硬化不良を引き起こすことのないよう、インクジェット印刷装置300に与えるCMYK値が定められる。以上のようにして生成されたCMYKデータ54が印刷データとしてインクジェット印刷装置300に送られ、当該インクジェット印刷装置300において印刷物56の印刷出力が行われる。
【0037】
上記の説明では出力ICCプロファイル62を用いた変換処理と色変換テーブル63を用いた変換処理とが別々に行われているが、出力ICCプロファイル62と色変換テーブル63とをまとめた変換用テーブルを用意して、当該変換用テーブルを用いてLabデータ52からCMYKデータ54への変換処理が行われるようにしても良い。
【0038】
<5.インク吐出量制限方法>
次に、本実施形態におけるインク吐出量制限方法について説明する。このインク吐出量制限方法は、インクジェット印刷装置300で印刷が行われる際にインクの硬化不良が生ずることのないよう4色のインクの吐出量を制限する方法であり、このインク吐出量制限方法を用いて上述の色変換テーブル63が作成される。色変換テーブル63を作成する処理は画像処理装置200で行われるが、その際、インクジェット印刷装置300側での各種設定情報が画像処理装置200に与えられる。
【0039】
図5は、本実施形態におけるインク吐出量制限方法の手順を示すフローチャートである。まず、CMYK値で表される各色について、インク色ごとに入力階調値(図4のCMYKデータ53におけるCMYK値に相当する値)をインク量に換算する処理が行われる(ステップS10)。より詳しくは、(C値,M値,Y値,K値)=(Zc,Zm,Zy,Zk)で表現される任意の色について、ZcがC色のインクのインク量に換算され、ZmがM色のインクのインク量に換算され、ZyがY色のインクのインク量に換算され、ZkがK色のインクのインク量に換算される。なお、Zc,Zm,Zy,およびZkは、通常、0以上100以下の値である。換算後のインク量は、使用される最大のインク量を100として正規化した値によって表される。すなわち、換算後のインク量も0以上100以下の値である。
【0040】
ところで、図6に示すように、入力階調値とインクの実際の消費量(インク消費量)との関係は線形の比例関係にあるわけではない。通常、入力階調値とインク消費量との関係は、図6に示すように下に凸のカーブで表される。従って、ステップS10における換算は、予めインクジェット印刷装置300で印刷が行われた際の各インク色についてのインクの実際の消費量に基づいて行われることが好ましい。そこで、インクの実際の消費量の求め方の一例を以下に説明する。
【0041】
まず、各インク色用のインクタンク(不図示)の重量を予め測定しておく。そして、所定の画像(網点%の構成を適宜な構成にした画像)をインクジェット印刷装置300で印刷する。その後、再度、各インク色用のインクタンクの重量を測定する。そして、印刷開始前の重量と印刷終了後の重量との差(重量差)を求める。これにより、インク色毎の全体でのインクの消費量が求められる。ところで、任意の網点%に対する、1画素当たりのドットサイズ(例えば、S,M,Lなど)構成と平均液滴量は、インクジェット印刷装置300毎に既知である。従って、印刷した画像についての網点%の構成が既知であれば、各網点%に対するドットサイズ構成や平均液適量に関する情報と重量差の情報とに基づいて、各色についてのインク色毎のインクの実際の消費量を求めることができる。
【0042】
入力階調値をインク量に換算する処理(図5のステップS10)が行われた後、CMYKの4色のインクについてのインク量の制限値の設定が行われる(ステップS20)。ところで、インクの硬化不良は、例えば波長を300〜400nmとするUV光の吸収が行われて充分な量の光がインクに照射されない場合に生じる。このような現象は、K色のインクが使用されるときやCMYの3色のインクが混ざることによってグレー成分が生じるときに起こりやすい。そこで、これらのことを考慮して、以下のようにインク量の制限値が設定される。
【0043】
本実施形態においては、K色成分を含まない2次色,K色成分を含まない3次色,およびK色成分を含む色のそれぞれについて制限値が設定される。すなわち、3種類の制限値が設定される。K色成分を含まない2次色とは、具体的には、C色成分とM色成分とからなる色,M色成分とY色成分とからなる色,およびY色成分とC色成分とからなる色である。K色成分を含まない3次色とは、具体的には、C色成分とM色成分とY色成分とからなる色である。K色成分を含む色とは、具体的には、C色成分とK色成分とからなる色,M色成分とK色成分とからなる色,Y色成分とK色成分とからなる色,C色成分とM色成分とK色成分とからなる色,M色成分とY色成分とK色成分とからなる色,Y色成分とC色成分とK色成分とからなる色,およびC色成分とM色成分とY色成分とK色成分とからなる色である。
【0044】
K色成分を含まない2次色についての制限値をZ1で表し、K色成分を含まない3次色についての制限値をZ2で表し、K色成分を含む色についての制限値をZ3で表すと、本実施形態においては「Z1>Z2」かつ「Z1>Z3」が成立するように設定が行われる。さらに、好ましくは、「Z2>Z3」が成立するように設定が行われる。
【0045】
図7は、本実施形態における制限値の設定の一例を示す図である。図7に示す例では、K色成分を含まない2次色についての制限値Z1は200%に設定され、K色成分を含まない3次色についての制限値Z2は160%に設定され、K色成分を含む色についての制限値Z3は120%に設定されている。このように、図7に示す例では、「Z1>Z2」,「Z1>Z3」,および「Z2>Z3」が成立するように、インク量の制限値の設定が行われている。
【0046】
なお、K色成分のみからなる色については仮に100%のインク量で印刷が行われてもインクの硬化不良が生じないように、通常、インクジェット印刷装置300側で調整(例えば、光量の調整)が行われている。
【0047】
ところで、上述のようにして設定された制限値を超える色についてのみ色値(CMYK値)の補正が行われると、階調の連続性が失われることがある。より詳しくは、制限値を超える色についてのみ色値の補正が行われると、模式的には図8に示すように、制限値を超えないように出力階調値(インクジェット印刷装置300に与える色値)が決定される。その結果、図8から把握されるように、高階調部分での階調表現が損なわれてしまう。そこで、模式的には図9に示すような階調の連続性が得られるよう、色(インク色ではなく、CMYKの色値の組み合わせという意味での色)毎の制限値を設けるようにしても良い。以下、(C値,M値,Y値,K値)=(Ci,Mi,Yi,Ki)で表現される色についての制限値の求め方の一例を説明する。
【0048】
まず、K色成分の大きさ(K値)に応じた追加制限値LimitExKを次式(1)によって求める。
LimitExK = (Ki/100) * (MaxInk - MaxWithK) ・・・(1)
ここで、MaxInkは4つのインク色全体での制限値であり、MaxWithKはK色成分を含む色についての制限値Z3である。なお、K色成分を含まない2次色についての制限値Z1を、4つのインク色全体での制限値MaxInkとして用いることができる。
【0049】
次に、C色成分の大きさ(C値),M色成分の大きさ(M値),およびY色成分の大きさ(Y値)に応じた追加制限値LimitExCMYを次式(2)によって求める。
LimitExCMY = ((Ci/100) * (Mi/100) * (Yi/100))^(1.0/3.0) * (MaxInk - MaxCMY)
・・・(2)
ここで、MaxCMYはK色成分を含まない3次色についての制限値Z2である。
【0050】
さらに、次式(3)によって合計追加制限値LimitExを求め、最後に、次式(4)によって該当色についての最終の制限値MaxInkOutを求める。
LimitEx = LimitExK + LimitExCMY ・・・(3)
MaxInkOut = MaxInk - LimitEx ・・・(4)
【0051】
これにより、制限値MaxInkOutを超える色については、出力階調値(図4のCMYKデータ54におけるCMYK値に相当する値)としての4色の色値の合計が制限値MaxInkOutを超えないように、色値の変換が行われる。その結果、印刷が行われた際にトーンジャンプ(上述したように階調の連続性が失われる現象)の発生が抑制される。
【0052】
以上のようにしてインクジェット印刷装置300で印刷が行われる際のインク量の制限値が設定されるが、その設定された制限値に従ってインクの吐出が行われるよう、入稿データに基づき印刷データを生成する際に使用する色変換テーブル63が作成される。その色変換テーブル63の作成の際には、インクの吐出量が上記ステップS20で設定された制限値を超えることがないように、入力階調値としての4色の色値(CMYK値)に対応する出力階調値としての4色の色値(CMYK値)が決定される。
【0053】
色変換テーブル63の作成の際、K色成分を含み上記ステップS20で設定された制限値を超える色についてはK色成分以外の成分(すなわち、C値,M値,Y値)を優先的に小さくすることが好ましい。これにより、インク量の制限に伴って色の見た目が大きく変化すること(例えばコントラストの低下)が抑制される。すなわち、印刷品質の維持が可能となる。
【0054】
なお、上記ステップS10によって換算ステップが実現され、上記ステップS20によって制限値設定ステップが実現されている。また、色変換テーブル63の作成の際に出力階調値としての4色の色値(CMYK値)を決定する処理によって色値決定ステップが実現されている。
【0055】
<6.効果>
本実施形態によれば、光硬化型のインクジェット印刷装置300での印刷に関し、K色成分を含まない2次色,K色成分を含まない3次色,およびK色成分を含む色のそれぞれについてインクの吐出量の制限値が設定される。その際、K色成分を含む色やグレー成分を生ずる色についての制限値が比較的低い値に設定されるので、従来インクの硬化不良を引き起こしやすかった色についても硬化不良を抑止することが可能となる。これにより、様々な色を含む画像の印刷が行われても、印刷物のいずれの部分についても仕上がりがマット調となることが抑止される。以上より、光硬化型のインクジェット印刷装置300を用いて印刷が行われたときに、インクの硬化不良を生ずることなく全体がグロス調である均一感のある印刷物が得られる。
【0056】
また、K色成分を含まない3次色についての制限値Z2よりもK色成分を含む色についての制限値Z3の方が小さくなるように設定を行うことによって、K色成分を含む色の印刷が行われる際にインクの吐出量が効果的に制限されるので、より効果的にインクの硬化不良が抑止される。
【0057】
さらに、入力階調値からインク量への換算(図4のステップS10)をインクの実際の消費量に基づいて行うことによって、インクの硬化不良の抑止に関する精度を高めることが可能となる。
【符号の説明】
【0058】
35…印字部
35c,35m,35y,35k…C用インクジェットヘッド,M用インクジェットヘッド,Y用インクジェットヘッド,K用インクジェットヘッド
61…入力ICCプロファイル
62…出力ICCプロファイル
63…色変換テーブル
100…クライアントコンピュータ
200…画像処理装置
300…インクジェット印刷装置
302…印刷機本体
304…印刷制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9