(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6636945
(24)【登録日】2019年12月27日
(45)【発行日】2020年1月29日
(54)【発明の名称】過渡状態のシステムにおける流量制御の補正方法
(51)【国際特許分類】
G05D 7/06 20060101AFI20200120BHJP
G05D 16/20 20060101ALI20200120BHJP
【FI】
G05D7/06 B
G05D16/20 Z
【請求項の数】11
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-561280(P2016-561280)
(86)(22)【出願日】2015年4月28日
(65)【公表番号】特表2017-516203(P2017-516203A)
(43)【公表日】2017年6月15日
(86)【国際出願番号】US2015027919
(87)【国際公開番号】WO2015168074
(87)【国際公開日】20151105
【審査請求日】2018年4月12日
(31)【優先権主張番号】61/987,255
(32)【優先日】2014年5月1日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】308025451
【氏名又は名称】グラコ ミネソタ インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】ドフォルト, ピーター, エヌ.
(72)【発明者】
【氏名】アンダーソン, トッド, エー.
【審査官】
山村 秀政
(56)【参考文献】
【文献】
特表2007−503982(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0089234(US,A1)
【文献】
特開平03−127655(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 7/06
G05D 16/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流量と作動圧力とにより規定される作動条件を選定する工程と、
前記作動流量を流量閾値と比較する工程と、
前記作動流量が前記流量閾値以上の場合に、適応補正処理を実行する工程とを備え、
前記適応補正処理は、
前記作動圧力を計測する工程と、
第1調量器を通過する第1流量を計測する工程と、
前記作動圧力及び前記第1流量を保管する工程と、
前記作動圧力及び前記第1流量に基づき、圧力・流量テーブルを修正する工程と、
前記第1調量器を前記第1流量で作動させる工程とを備える
ことを特徴とする流量制御方法。
【請求項2】
前記作動流量が前記流量閾値未満の場合に、外挿処理を実行する工程を更に備え、
前記外挿処理は、
前記作動圧力を計測する工程と、
前記作動圧力に基づき前記圧力・流量テーブルを用いて前記第1流量を求める工程と、
前記第1調量器を前記第1流量で作動させる工程とを備える
ことを特徴とする請求項1に記載の流量制御方法。
【請求項3】
前記適応補正処理は、
第2調量器を通過する第2流量を計測する工程と、
前記第2流量を保管する工程と、
前記作動圧力、前記第1流量及び前記第2流量に基づき、圧力・流量テーブルを修正する工程とを更に備え、
前記第1流量と前記第2流量との和が総流量に等しい
ことを特徴とする請求項2に記載の流量制御方法。
【請求項4】
前記外挿処理は、
前記作動圧力に基づき前記圧力・流量テーブルを用いて前記第2流量を求める工程と、
前記第2調量器を前記第2流量で作動させる工程とを更に備える
ことを特徴とする請求項3に記載の流量制御方法。
【請求項5】
前記作動流量を流量閾値と比較する前記工程は、
閾期間に対応する流量閾値を選定する工程と、
前記作動流量を前記流量閾値と比較する工程とを備える
ことを特徴とする請求項1に記載の流量制御方法。
【請求項6】
前記流量閾値は、複数の作動条件における最大流量と最小流量との間にあることを特徴とする請求項5に記載の流量制御方法。
【請求項7】
前記流量閾値は、前記最大流量と前記最小流量との平均値であることを特徴とする請求項6に記載の流量制御方法。
【請求項8】
前記閾期間は、4秒間であることを特徴とする請求項5に記載の流量制御方法。
【請求項9】
前記圧力・流量テーブルを用い、線形に外挿することにより前記第1流量を求めることを特徴とする請求項2に記載の流量制御方法。
【請求項10】
前記作動圧力は、圧力レギュレータの下流で計測されることを特徴とする請求項1に記載の流量制御方法。
【請求項11】
前記作動圧力及び前記第1流量はコントローラに保管され、
前記コントローラは、保管された前記作動圧力及び前記第1流量を用いて前記圧力・流量テーブルを修正する
ことを特徴とする請求項1に記載の流量制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1以上のシステムパラメータの制御に関するものであり、具体的には、過渡状態のシステムにおける流量の補正に関するものである。
【背景技術】
【0002】
様々なシステムパラメータ(例えば、圧力、流量、温度など)を制御する産業システムは、様々な外乱に遭遇することが多い。設定されたパラメータ範囲内にシステムを維持するため、システムを制御する仕組みが、環境の変化や、システム内に含まれる流体や材料の多様な特性に応じて構築される。このような制御システムでは、多くの場合、システムの性能に欠かすことのできないパラメータを監視することにより、システムにおける漸次の変化を検知し、これを打ち消す。
【0003】
産業システムとして、特定の圧力及び流量で、材料(例えば、塗料、接着剤、エポキシ樹脂など)の供給を行うスプレーヤを用いるものがある。一定の圧力及び流量で、継続的に、即ち比較的長期間にわたり作動するシステムの場合、圧力及び流量は、比較的安定した定常状態に達する。従って、材料及びシステム動作の少なくとも一方におけるわずかな変化を注意深く監視し、一般的な制御の仕組みによって、これを打ち消すことが可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、そういったシステムが複数の圧力や流量の組み合わせのもとで作動し、いくつかの状態が比較的短期間しか生じない場合、圧力及び流量が定常状態に達することはない。スプレーヤの出口とシステム内での計測位置とでは状態が異なるなるため、このような短い期間におけるシステム内での圧力及び流量の変化や変動は、制御システムにとって問題を生じ得るものとなる。このような過渡状態を考慮することができないと、材料の過剰供給や供給不足を招く可能性がある。
【0005】
従来の制御の仕組みとして、システムの作動状態を区分し、それぞれの動作を実行する前に補正処理を実行することにより、過渡期間の制御を行うものがある。しかしながら、補正処理の間は生産が中断するので、補正処理によって製造コストが増大すると共に、製造工程の流れが混乱することになる。別の従来の制御の仕組みでは、システムが定常状態となるまで、材料を過剰供給することにより、過渡期間の制御を行うようにしている。システムが定常状態となってしまえば、従来の制御の仕組みであっても、わずかな変動に対応することが可能となる。但し、材料の過剰供給によって、材料コストが増大することになる。
【0006】
従って、システムにおける圧力及び流量の制御について、複数の作動条件、環境変化、及び過渡状態に、優れた費用対効果をもって適応可能なものが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
流量制御方法は、作動流量と作動圧力とにより規定される作動条件を選定する工程と、前記作動流量を流量閾値と比較する工程と、前記作動流量が前記流量閾値以上の場合に、適応補正処理を実行する工程とを備える。この適応補正処理は、前記作動圧力を計測する工程と、第1調量器を通過する第1流量を計測する工程と、前記作動圧力及び前記第1流量に基づき、圧力・流量テーブルを修正する工程とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】
図1の産業用スプレーヤシステムの流量を制御する方法を示すフローチャートである。
【
図3】
図1の産業用スプレーヤシステムの流量及び圧力を制御する方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、混合材料12をスプレーガン14から供給する、受動型プロポーショナシステムのような産業システム10の概要図である。産業システム10は、後述する他の構成部品に加え、成分材料20を収容している材料供給システム16と、成分材料22を収容している材料供給システム18とを備える。材料供給システム16は、供給経路26を介して調量器24に連通し、材料供給システム18は、供給経路30を介して調量器28に連通する。材料供給システム16は、成分材料20に作用して、成分材料20の圧力を初期圧力P0から供給圧力P1に上昇させる。同様に、材料供給システム18は、成分材料22に作用して、成分材料22の圧力を初期圧力P0から供給圧力P2に上昇させる。材料供給システム16は、成分材料20を収容した加圧タンクであってもよいし、材料供給システム18は、成分材料22を収容した加圧タンクであってもよい。これに代えて、材料供給システム16及び材料供給システム18はフィードポンプを備えていてもよいし、材料供給システム16が、成分材料20に作用する別の形式の循環機構を備え、材料供給システム18が、成分材料22に作用する別の形式の循環機構を備えていてもよい。このようにして、初期圧力P0は、大気圧(ゲージ圧で0kPa)から成分材料20及び成分材料22の供給に適した圧力、一般的にはゲージ圧で約2068kPa(300psi)の圧力まで変動させることができる。また、材料供給システム16の初期圧力P0は、必ずしも材料供給システム18の初期圧力P0と等しくなくてもよい。調量器24は供給経路26に介装され、調量器28は供給経路30に介装されている。供給経路26と供給経路30とが交流する合流点38において、供給経路26は材料供給システム16を、また供給経路30は材料供給システム18を、それぞれ混合材料供給経路32に流体的に接続する。混合材料供給経路32は、合流点38において、供給経路26及び供給経路30をスプレーガン14と流体的に接続する。調量器24と調量器28とは並設されており、協働して成分材料20及び成分材料22を混合材料供給経路32に供給することにより、成分材料20及び成分材料22が混合され、この混合材料供給経路32において、混合圧力Pmixを有した混合材料12が形成される。調量器24及び調量器28は、流量Rでスプレーガン14に混合材料12を供給し、この混合材料12が選択的にスプレーガン14から吐出される。混合材料供給経路32には圧力レギュレータ40が介装されており、スプレーガン14から混合材料12を吐出する前に、混合圧力Pmixをシステム圧力Psに減圧する。システム圧力Psの調整は、制御バルブ42を用いてパイロット圧Ppを変化させることにより行われる。制御バルブ42は、制御圧力導管44に介装されており、この制御圧力導管44は、制御流体46を収容し、制御流体供給源47から圧力レギュレータ40まで延設されている。制御流体46は、圧力レギュレータ40のダイヤフラム48に作用し、産業システム10が閉じた状態にあるときに、システム圧力Psを調整する。パイロット圧Ppが上昇すると、ダイヤフラム48によって混合材料12に力が加わることにより、システム圧力Psが上昇する。パイロット圧Ppが低下すると、ダイヤフラム48によって混合材料12に加わる力が減少することにより、システム圧力Psが低下する。ダイヤフラム48が混合材料12に加える力を減少させると、この力の減少が制御流体46に作用する。制御流体46の一部を制御流体供給源47に戻すことができるようにすることにより、制御流体46のパイロット圧Ppが維持される。一実施形態において、圧力レギュレータ40は、パイロット圧とシステム圧力との比が1:1の空気駆動式低圧レギュレータとなっている。
【0010】
システム圧力Ps及び流量Rは、コントローラ50によって制御される。圧力レギュレータ40の下流側に介装された圧力トランスデューサ52が、当該圧力トランスデューサ52の電圧または電流による信号S1を生成する。圧力トランスデューサ52は、信号線54によって制御バルブ42と電気的に接続され、制御バルブ42は、信号線56によってコントローラ50と電気的に接続されており、それぞれの信号線が信号S1をコントローラ50に伝送する。信号線57は、流量センサ60をコントローラ50と電気的に接続し、信号線58は、流量センサ62をコントローラ50と電気的に接続する。流量センサ60は、調量器24を通過する流量R1を検出し、流量センサ62は、調量器28を通過する流量R2を検出する。検出された流量R1は、信号S1と同じ様に、流量センサ60の電圧または電流による信号S2によって、また検出された流量R2は、信号S1と同じ様に、流量センサ62の電圧または電流による信号S3によって、それぞれコントローラ50に伝送される。コントローラ50は、信号S1、信号S2、及び信号S3の値に基づいて制御を実行し、調量器24を通過する流量R1及び調量器28を通過する流量R2をそれぞれ調整し、制御バルブ42にパイロット圧Ppを変更するよう指令することによって、システム圧力Psを調整する。流量R1で流動する成分材料20と、流量R2で流動する成分材料22とが、混合材料供給経路32内で合流することにより、流量Rで流動する混合材料12が生成される。コントローラ50は、制御線64を介して制御バルブ42に制御信号C1を送信することによりパイロット圧Ppを調整し、制御線66を介して調量器24に制御信号C2を送信することにより流量R2を調整すると共に、制御線68を介して調量器28に制御信号C3を送信することにより流量R3を調整する。
【0011】
スプレーガン14の操作は、空気駆動式ソレノイドバルブ(図示せず)またはスプレーガン14の引き金(図示せず)を用いるのが一般的であるが、スプレーガン14を操作して産業システム10を閉状態とするとき、産業システム10内は過渡状態となる。各流量は、スプレーガン14ではなく、調量器24及び調量器28において計測されるため、システム圧力Ps及び流量Rは、パイロット圧Pp、並びに流量R1及び流量R2よりも遅れて変化する。産業システム10を閉状態とするとき、コントローラ50が、圧力レギュレータ40にシステム圧力Psを一定に維持させるようにすると、産業システム10内の流動に起因した圧力損失がなくなることにより、スプレーガン14における圧力が上昇することになる。その後、産業システムが開状態とされると(即ち、ソレノイドバルブを開弁するか、スプレーガン14の引き金を引くと)、その前に行われた圧力上昇で生じる噴き出しにより、混合材料12の塗布が不均一となる。産業システム10が閉状態にある間に、コントローラ50が、圧力レギュレータ40にシステム圧力Psを上昇させるようにすると、噴き出しによる悪影響が助長されることになる。産業システム10が閉状態である間に、コントローラ50が、圧力レギュレータ40にシステム圧力Psを低下させるようにすると、ヒステリシス現象によって、目標圧力と実際のシステム圧力Psとの間の誤差が増大することになる。結果として得られるシステム圧力Psは、所望の流量Rでスプレーガン14から混合材料12を吐出させるものとはならないことになる。
【0012】
更に、材料特性及び外部環境の変化の少なくとも一方は、作動中のシステム圧力Ps及び流量Rに影響を及ぼす。例えば、成分材料20及び成分材料22は、それぞれ繰り返し補充される。新たに補充される成分材料20及び成分材料22は、互いに温度が相違していたり、以前に補充されたものとは温度が相違していたりする可能性があるため、粘性などの特性が、スプレーガン14に供給される際の流量Rに影響を及ぼすおそれがある。更に、混合材料12は、混合材料供給経路32内において、一部が固化する可能性があり、時間の経過と共に混合材料供給経路32を塞ぐおそれがある。このため、混合材料供給経路32は、定期的に溶剤で洗浄される。また、周囲温度や周囲湿度の変化といった外部環境変化も、成分材料20及び成分材料22の特性に影響を及ぼす。一方、産業システム10は、ある範囲のシステム圧力Ps及びある範囲の流量Rにわたって作動するように設計されており、それぞれの作動条件には継続期間がある。
【0013】
スプレー作業には、いくつかの別個の作動条件を伴う場合がある。例えば、次のような3つの作動条件が順番に適用されることがある。
1)100cc/秒、68.9kPa(約10psi)で、10秒間吐出し、
2)200cc/秒、137.9kPa(約20psi)で、15秒間吐出し、
3)50cc/秒、34.5kPa(約5psi)で、2秒間吐出する。
【0014】
後述する方法70を用いない場合には、補正処理を繰り返し行うこと、及び産業システム10内に定常状態が得られるまで、各作業の合間に混合材料12を吐出することの少なくとも一方により、産業システム10の過度状態の影響を防止する。このようなやり方では、製造コストの上乗せ、及び混合材料12の浪費の少なくとも一方を招くことになる。しかしながら、後述する方法70は、様々なシステム圧力Psにおける流量Rを近似演算するような単調な数学的関係によって流量Rを特定する。これにより、より少ない数の測定データの収集により、全体的に補正を行うことが可能となる。更に、ある流量における作動が定常状態に達した場合(即ち、閾期間よりも長く作動した場合)、補正のために別途行う処理工程を必要とすることなく、定常状態の圧力及び流量のデータを、補正処理の修正に用いることができる。
図2は、過渡状態に特定した、産業システム10や同様のシステムにおける補正の方法70を示すフローチャートである。この方法70は、ステップ72、ステップ74、ステップ76、ステップ78、ステップ80、ステップ82、ステップ84、ステップ86、及びステップ88を有しており、産業システム10が、単一の用途のために複数の条件において作動する場合に、作業中における圧力・流量テーブルの修正を可能とするものである。この圧力・流量テーブルは、混合材料12に関し、従属変数であるシステム圧力Psを、独立変数である流量Rと関連付けるものである。
【0015】
ステップ72では、圧力設定値及び流量設定値を選定して、コントローラ50に送出する。具体的な圧力設定値及び流量設定値は、例えば、上述した例のように、混合材料12の要件に基づくものである。
【0016】
流量設定値を定めた後、ステップ74において、流量誤差を求める。産業システム10における実際の流量Rは、調量器24を通過する流量R1と、調量器28を通過する流量R2との和に等しい。産業システム10の別の実施形態として、混合材料12を形成するために用いる成分材料の数に応じ、単一の調量器(例えば、調量器24)を用いるようにしてもよいし、更なる調量器(図示せず)を用いるようにしてもよい。いずれの場合においても、スプレーガン14から吐出する流量Rは、産業システム10に設けられた1または複数の調量器のそれぞれを通過する各成分材料の流量の合計に等しくなる。流量誤差を求めるために、コントローラ50は、流量設定値を産業システム10の総流量である流量Rと比較する。流量誤差は、流量設定値と流量Rとの差である。流量誤差を用い、コントローラ50は、ステップ76において、圧力・流量テーブルを更新し、新たな流量設定値を定める。この圧力・流量テーブルは、コントローラ50に保管されている。
【0017】
ステップ78では、更新した圧力・流量テーブルを使用可能であるか否かを判定する(即ち、前回実行したステップ80及びステップ86の後)。
【0018】
ステップ80では、適応補正処理を実行するか否かを、コントローラ50が判定する。一般的には、実行しようとする作業が低流量で短期間の作動条件の場合(例えば、上述した例における作動条件3の場合)に、適応補正処理が行われることになる。具体的な流量及び期間は、システム固有のものである。一般に、低流量で短期間の作動条件は、産業システム10またはこれに類似するシステムの過度状態によって、システムの制御に適合するデータの獲得ができないときに生じる。適応補正処理を行わない場合は、ステップ82において、圧力設定値及び流量設定値を圧力・流量テーブルに保存する。ステップ82の後、コントローラ50は、ステップ74を実行してから、後述するような各ステップの処理を行う。適応補正処理を行う場合は、ステップ84及びステップ86、またはステップ84及びステップ88を実行する。
【0019】
ステップ84では、ステップ86で圧力・流量テーブルを修正するための規定状態であるか否かを判定する。一実施形態において、ステップ84では、流量設定値を流量閾値と比較する。流量設定値が流量閾値以上である場合は、ステップ86において、そのときの実際の流量R及びシステム圧力Psを圧力・流量テーブルに保存する。一方、流量設定値が流量閾値未満である場合は、ステップ88に進み、そのときの実際の流量R及びシステム圧力Psを用いた圧力・流量テーブルの修正は行わない。この場合、以前にステップ86で修正した圧力・流量テーブルを、圧力及び流量の演算に用いる。これは、流量閾値を上回る圧力・流量データを用いて流量閾値を下回る圧力・流量データを外挿することにより行われる。一般的に、この外挿処理では、線形の関係が適用される。但し、別の数学的関係を適用することも可能である。ステップ86またはステップ88の後、コントローラ50は、ステップ74及びその後のステップを上述のように実行する。
【0020】
流量R1及び流量R2は調量器24及び調量器28において既に計測されているので、流量閾値の適用により、簡素化された方法70が得られる。また、産業システム10のようなシステムでは、システム圧力Psが流量Rに比例するので、通常は高いシステム圧力ほど大きな流量が得られる。システム圧力Ps及び流量Rが増大するに従い、定常状態での作動を得るために必要な期間が短縮していく。このことから、低圧での短期間の作動は産業システム10内に長い過渡期間を生じるため、長期間の作動を短期間の作動と区別するべく流量閾値を選定することになる。
図3は、産業システム10のシステム圧力Ps及び流量Rを制御する方法90を示すフローチャートである。方法90には、ステップ72を除く方法70の各ステップが組み込まれており、このステップ72と同様のものが方法92のステップ94となっている。方法92は、産業システム10が閉じた状態にあるときに、システム圧力Psを制御する方法である。
【0021】
ステップ94では、圧力設定値及び流量設定値を選定して、コントローラ50に送出する。例えば、上述した例のように、混合材料12の要件に基づいて、特定の圧力設定値及び流量設定値が定められる。
【0022】
ステップ96では、コントローラ50が、産業システム10の状態(例えば、閉状態及び開状態のいずれか)を判定する。コントローラ50は、スプレーガン14の引き金またはソレノイドバルブの位置を示す信号を受け取ることにより、このような判定を行うようにしてもよい。産業システム10が閉状態にある場合にはステップ98aが実行される。ステップ98aでは、スプレーガン14における目標圧力として、圧力設定値に圧力補正値を加算した圧力に等しい目標圧力を設定する。この圧力補正値は、前述したように、これまでに選定されていた圧力設定値に対する新たな目標圧力の上昇または低下の影響を打ち消すように選定される。必要に応じて、この圧力補正値により、スプレーガン14が開状態となったときの、産業システム10内の初期圧力損失を相殺するようにしてもよい。一方、産業システム10が開状態にある場合には、ステップ98bが実行される。産業システム10が開状態のときには、スプレーガン14が混合材料12を吐出しているので、目標圧力の補正は不要である。従って、ステップ98bでは、圧力設定値に等しい目標圧力が設定される。
【0023】
目標圧力を設定すると、ステップ100において、圧力信号誤差を算出する。この圧力信号誤差は、圧力トランスデューサ52からの信号S1をコントローラ50で受信し、この信号S1を目標圧力と比較することによって求められる。信号S1と目標圧力との差が圧力信号誤差であって、この圧力信号誤差は、時間の経過と共に次々とコントローラ50に保管されていく。
【0024】
ステップ102では、圧力信号誤差がPID制御ループの更新に用いられる。比例積分微分制御ループ、即ちPID制御ループは公知である。PID制御ループの更新には、それまでに収集した圧力信号誤差のデータセットへの最新圧力信号誤差の追加が含まれる。次に、コントローラ50の初期設定の際にコントローラ50に入力されたパラメータと共に蓄積された圧力信号誤差の値は、新たな制御信号C1の生成に用いられる。生成された制御信号C1は、ステップ104において、制御バルブ42に送出される。
【0025】
ステップ104では、制御信号C1によって制御バルブ42がパイロット圧Ppを上昇または低下させることにより、圧力レギュレータ40を用いてシステム圧力Psが調整される。例えば、そのときの実際のシステム圧力Psより目標圧力の方が低いことを圧力信号誤差が示している場合、コントローラ50は、制御バルブ42に対し、パイロット圧Ppを上昇させるように指令する制御信号C1を送信する。一方、そのときの実際のシステム圧力Psより目標圧力の方が高いことを圧力信号誤差が示している場合、コントローラ50は、制御バルブ42に対し、パイロット圧Ppを低下させるように指令する制御信号C1を送信する。
【0026】
ステップ104の後のステップ106では、コントローラ50が、産業システム10の状態について2度目の判定を行う。コントローラ50が産業システム10の状態を判定する方法は、ステップ96の場合と実質的に同じである。産業システム10が閉状態にある場合は、ステップ98a、ステップ100、ステップ102、及びステップ104が繰り返される。一方、産業システム10が開状態にある場合、コントローラ50は、前述した方法70の各ステップを実行するが、ステップ106において産業システム10が開状態と判定するまでは、前述した方法70の各ステップを繰り返す代わりに、方法92の各ステップを実行する。
【0027】
好ましい実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明の主旨及び範囲を逸脱することなく、形態を詳細にわたって変更可能であることは、当業者が理解しうるものである。