特許第6636972号(P6636972)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ユタカ技研の特許一覧

<>
  • 特許6636972-トルクコンバータ 図000002
  • 特許6636972-トルクコンバータ 図000003
  • 特許6636972-トルクコンバータ 図000004
  • 特許6636972-トルクコンバータ 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6636972
(24)【登録日】2019年12月27日
(45)【発行日】2020年1月29日
(54)【発明の名称】トルクコンバータ
(51)【国際特許分類】
   F16H 45/02 20060101AFI20200120BHJP
   F16F 15/134 20060101ALI20200120BHJP
   F16F 15/30 20060101ALI20200120BHJP
【FI】
   F16H45/02 Y
   F16F15/134 A
   F16F15/134 B
   F16F15/134 D
   F16F15/30 Z
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-35156(P2017-35156)
(22)【出願日】2017年2月27日
(65)【公開番号】特開2018-141499(P2018-141499A)
(43)【公開日】2018年9月13日
【審査請求日】2019年2月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000138521
【氏名又は名称】株式会社ユタカ技研
(74)【代理人】
【識別番号】110002192
【氏名又は名称】特許業務法人落合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】柴▲崎▼ 彩子
(72)【発明者】
【氏名】小森 淳
【審査官】 小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−217471(JP,A)
【文献】 特開2015−206452(JP,A)
【文献】 特開2014−152838(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 45/02
F16F 15/134
F16F 15/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロックアップクラッチ(40)の接続状態でポンプインペラ(11)とともに回転するようにして前記ロックアップクラッチ(40)の一部を構成するクラッチ構成部材(43)および出力シャフト(27)間でトルクを伝達するトルク伝達経路(46)に、少なくとも1つのダンパ(47,48)が介設されるとともにダイナミックダンパ(49)が付設されるトルクコンバータにおいて、前記ダイナミックダンパ(49)が、前記出力シャフト(27)と同軸のリング板状の慣性プレート(61)を少なくとも有する慣性回転体(41)と、前記トルク伝達経路(46)の一部を構成するとともに前記出力シャフト(27)の軸線方向に間隔をあけて配置されて前記慣性プレート(61)を相互間に挟む一対の保持プレート(50,51)と、それらの保持プレート(50,51)間に保持されつつ前記慣性プレート(61)および一対の前記保持プレート(50,51)間に介設される弾性部材(58)と、周方向に間隔をあけた複数箇所で一対の前記保持プレート(50,51)間を相対回転不能に連結する連結手段(59)とを備え、前記慣性プレート(61)の内周部に、前記慣性プレート(61)および一対の前記保持プレート(50,51)の相対回転を許容しつつ前記連結手段(59)を収容する複数の連結手段収容凹部(67)が、前記慣性プレート(61)の内周に開放して形成されることを特徴とするトルクコンバータ。
【請求項2】
前記慣性プレート(61)の内周部に、当該慣性プレート(61)の周方向に間隔をあけて配置される複数の前記弾性部材(58)をそれぞれ収容する複数の弾性部材収容凹部(64)が、前記慣性プレート(61)の内周に開放して形成されることを特徴とする請求項1に記載のトルクコンバータ。
【請求項3】
前記連結手段収容凹部(67)および前記弾性部材収容凹部(64)が、前記出力シャフト(27)の軸線を中心とする同一の仮想円(C)に外周縁を沿わせるようにして円弧状に形成されることを特徴とする請求項1または2に記載のトルクコンバータ。
【請求項4】
前記慣性プレート(61)の周方向に沿う前記連結手段収容凹部(67)の両端部に、前記連結手段(59)に当接して前記慣性プレート(61)および前記保持プレート(50,51)の相対回転限を規制するストッパ部(67a)が形成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のトルクコンバータ。
【請求項5】
前記連結手段収容凹部(67)の外周縁および前記連結手段(59)が、一対の前記保持プレート(50,51)に対する前記慣性プレート(61)の半径方向に沿う位置決めを協働して果たすべく、前記慣性プレート(61)の半径方向で相互に近接もしくは当接するように配置されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のトルクコンバータ。
【請求項6】
前記クラッチ構成部材(43)および一対の前記保持プレート(50,51)間に、前記クラッチ構成部材(43)に保持される第1のダンパスプリング(55)を有する第1のダンパ(47)が介設され、前記出力シャフト(27)とともに回転するドリブンプレート(52)および一対の前記保持プレート(50,51)間に介設される第2のダンパ(48)の一部を構成する第2のダンパスプリング(70)が、一対の前記保持プレート(50,51)間に保持されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のトルクコンバータ。
【請求項7】
一対の前記保持プレート(50,51)の一方に、第1のダンパスプリング(55)に係合する爪部(68)が設けられ、前記慣性プレート(61)に、前記爪部(68)を挿通させて当該慣性プレート(61)の周方向に長く延びる長孔(69)が形成されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のトルクコンバータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロックアップクラッチの接続状態でポンプインペラとともに回転するようにして前記ロックアップクラッチの一部を構成するクラッチ構成部材および出力シャフト間でトルクを伝達するトルク伝達経路に、少なくとも1つのダンパが介設されるとともにダイナミックダンパが付設されるトルクコンバータに関する。
【背景技術】
【0002】
ロックアップクラッチのクラッチピストンおよび出力シャフト間のトルク伝達経路に1つのダンパが介設されるとともにダイナミックダンパが付設されるようにしたトルクコンバータが、特許文献1で知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−293671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1で開示されたトルクコンバータでは、ダイナミックダンパの慣性プレートが一対の保持プレート間に挟まれ、それらの保持プレートを連結する連結手段を挿通させる長孔が、前記慣性プレートの半径方向に沿う中間部に形成されており、慣性プレートの長孔よりも半径方向内方の部分を配置するスペースを確保する必要があり、トルクコンバータの半径方向に沿う小型化が困難となっている。
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、半径方向での小型化を可能としたトルクコンバータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、ロックアップクラッチの接続状態でポンプインペラとともに回転するようにして前記ロックアップクラッチの一部を構成するクラッチ構成部材および出力シャフト間でトルクを伝達するトルク伝達経路に、少なくとも1つのダンパが介設されるとともにダイナミックダンパが付設されるトルクコンバータにおいて、前記ダイナミックダンパが、前記出力シャフトと同軸のリング板状の慣性プレートを少なくとも有する慣性回転体と、前記トルク伝達経路の一部を構成するとともに前記出力シャフトの軸線方向に間隔をあけて配置されて前記慣性プレートを相互間に挟む一対の保持プレートと、それらの保持プレート間に保持されつつ前記慣性プレートおよび一対の前記保持プレート間に介設される弾性部材と、周方向に間隔をあけた複数箇所で一対の前記保持プレート間を相対回転不能に連結する連結手段とを備え、前記慣性プレートの内周部に、前記慣性プレートおよび一対の前記保持プレートの相対回転を許容しつつ前記連結手段を収容する複数の連結手段収容凹部が、前記慣性プレートの内周に開放して形成されることを第1の特徴とする。
【0007】
また本発明は、第1の特徴の構成に加えて、前記慣性プレートの内周部に、当該慣性プレートの周方向に間隔をあけて配置される複数の前記弾性部材をそれぞれ収容する複数の弾性部材収容凹部が、前記慣性プレートの内周に開放して形成されることを第2の特徴とする。
【0008】
本発明は、第1または第2の特徴の構成に加えて、前記連結手段収容凹部および前記弾性部材収容凹部が、前記出力シャフトの軸線を中心とする同一の仮想円に外周縁を沿わせるようにして円弧状に形成されることを第3の特徴とする。
【0009】
本発明は、第1〜第3の特徴の構成のいずれかに加えて、前記慣性プレートの周方向に沿う前記連結手段収容凹部の両端部に、前記連結手段に当接して前記慣性プレートおよび前記保持プレートの相対回転限を規制するストッパ部が形成されることを第4の特徴とする。
【0010】
本発明は、第1〜第4の特徴の構成のいずれかに加えて、前記連結手段収容凹部の外周縁および前記連結手段が、一対の前記保持プレートに対する前記慣性プレートの半径方向に沿う位置決めを協働して果たすべく、前記慣性プレートの半径方向で相互に近接もしくは当接するように配置されることを第5の特徴とする。
【0011】
本発明は、第1〜第5の特徴の構成のいずれかに加えて、前記クラッチ構成部材および一対の前記保持プレート間に、前記クラッチ構成部材に保持される第1のダンパスプリングを有する第1のダンパが介設され、前記出力シャフトとともに回転するドリブンプレートおよび一対の前記保持プレート間に介設される第2のダンパの一部を構成する第2のダンパスプリングが、一対の前記保持プレート間に保持されることを第6の特徴とする。
【0012】
さらに本発明は、第1〜第6の特徴の構成のいずれかに加えて、前記一対の前記保持プレートの一方に、第1のダンパスプリングに係合する爪部が設けられ、前記慣性プレートに前記爪部を挿通させて当該慣性プレートの周方向に長く延びる長孔が形成されることを第7の特徴とする。
【0013】
なお実施の形態のクラッチピストン43が本発明のクラッチ構成部材に対応し、実施の形態のダイナミックダンパスプリング58が本発明の弾性部材に対応する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の第1の特徴によれば、慣性プレートの内周部に形成される連結手段収容凹部が、一対の保持プレートを連結する連結手段を収容するようにして慣性プレートの内周に開放しているので、連結手段を収容しつつ慣性プレートの内径を小さく設定することができ、トルクコンバータの半径方向での小型化が可能となる。
【0015】
また本発明の第2の特徴によれば、慣性プレートの内周部に形成される弾性部材収容凹部が、弾性部材を収容するようにして慣性プレートの内周に開放しているので、弾性部材を収容しつつ慣性プレートの内径を小さく設定することができ、トルクコンバータの半径方向でのさらなる小型化が可能となる。
【0016】
本発明の第3の特徴によれば、連結手段収容凹部および弾性部材収容凹部が同一の仮想円に外周縁を沿わせて円弧状に形成されるので、連結手段および弾性部材をともに収容しつつ慣性プレートの内径をより小さく設定することができ、トルクコンバータを半径方向でより小型化することができる。
【0017】
本発明の第4の特徴によれば、連結手段収容凹部のストッパ部に連結手段を当接させることで慣性プレートおよび保持プレートの相対回転限が規制されるので、弾性部材に過大な負荷が作用することを防止して、弾性部材の寿命向上を図ることができる。
【0018】
本発明の第5の特徴によれば、連結手段収容凹部の外周縁および連結手段で、保持プレートに対する慣性プレートの半径方向に沿う位置決めが果たされるので、部品点数を増やすことなく、保持プレートおよび慣性プレートの半径方向に沿う相対位置を定めることができる。
【0019】
本発明の第6の特徴によれば、クラッチ構成部材および保持プレート間に第1のダンパが介設され、出力シャフトとともに回転するドリブンプレートおよび一対の保持プレート間に第2のダンパが介設されるので、トルクコンバータの大型化を回避しつつ2つのダンパで減衰性能の向上を図ることができる。また第2のダンパのダンパスプリングと、ダイナミックダンパの弾性部材とが一対の保持プレート間に保持されるので、慣性回転体側に弾性部材を配置する必要がなく、慣性回転体の形状を簡略化することができるとともに、慣性回転体の慣性マスを充分に確保することができ、ダイナミックダンパの減衰性能を充分に高くすることができる。
【0020】
さらに本発明の第7の特徴によれば、一方の保持プレートに設けられた爪部が、慣性プレートに形成された長孔に挿通され、第1のダンパスプリングに係合するので、クラッチ構成部材および保持プレート間を軸方向に短縮化することができ、トルクコンバータの軸方向での小型化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】トルクコンバータの縦断面図であって図2の1−1線に沿う断面図である。
図2図1の2−2線に沿う断面図である。
図3図2の3−3線に沿う断面図である。
図4】慣性プレートの長孔に挿通された爪部を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を、添付の図1図4を参照しながら説明すると、先ず図1において、このトルクコンバータは、ポンプインペラ11と、このポンプインペラ11に対向して配置されるタービンランナ12と、前記ポンプインペラ11および前記タービンランナ12の内周部間に配置されるステータ13とを備え、前記ポンプインペラ11、前記タービンランナ12および前記ステータ13間には、矢印14で示すように作動オイルを循環させる循環回路15が形成される。
【0023】
前記ポンプインペラ11は、椀状のポンプシェル16と、該ポンプシェル16の内面に設けられる複数のポンプブレード17と、それらのポンプブレード17を連結するポンプコアリング18と、前記ポンプシェル16の内周部にたとえば溶接によって固定されるポンプハブ19とを有し、前記ポンプハブ19には、トルクコンバータに作動オイルを供給するオイルポンプ(図示せず)が連動、連結される。
【0024】
また前記ポンプシェル16の外周部には、前記タービンランナ12を外側から覆う椀状の伝動カバー20が溶接によって結合されており、この伝動カバー20の外周部にリングギヤ21が溶接によって固着され、前記リングギヤ21には駆動板22が締結される。また駆動板22には、車両用エンジンEのクランクシャフト23が同軸に締結されており、前記ポンプインペラ11には、車両用エンジンEから回転動力が入力される。
【0025】
前記タービンランナ12は、椀状のタービンシェル24と、該タービンシェル24の内面に設けられる複数のタービンブレード25と、それらのタービンブレード25を連結するタービンコアリング26とを有する。
【0026】
前記車両用エンジンEからの回転動力を図示しないミッションに伝達する出力シャフト27の端部は、前記伝動カバー20がその中心部に一体に有する有底円筒状の支持筒部20aに、軸受ブッシュ28を介して支持される。前記出力シャフト27は、前記ポンプハブ19との間に軸方向の間隔をあけた位置に配置される出力ハブ29にスプライン結合されており、前記出力ハブ29および前記伝動カバー20間にはニードルスラストベアリング30が介装される。
【0027】
前記ステータ13は、前記ポンプハブ19および前記出力ハブ29間に配置されるステータハブ31と、このステータハブ31の外周に設けられる複数のステータブレード32と、それらのステータブレード32の外周を連結するステータコアリング33とを有し、前記ポンプハブ19および前記ステータハブ31間にはスラストベアリング34が介装され、前記出力ハブ29および前記ステータハブ31間にはスラストベアリング35が介装される。
【0028】
前記ステータハブ31と、前記出力ハブ29とともに回転する前記出力シャフト27を相対回転自在に囲繞するステータシャフト36との間には、一方向クラッチ37が介設され、前記ステータシャフト36は、ミッションケース(図示せず)に回転不能に支持される。
【0029】
前記伝動カバー20および前記タービンシェル24間には、前記循環回路15に連通するクラッチ室38が形成され、このクラッチ室38内に、ロックアップクラッチ40と、慣性回転体41と、当該慣性回転体41に対して制限された範囲での相対回転を可能として前記慣性回転体41の内周部を両側から挟むスプリングホルダ42とが収容される。
【0030】
前記ロックアップクラッチ40は、前記伝動カバー20に摩擦接続可能なクラッチピストン43を有するとともに該クラッチピストン43を前記伝動カバー20に摩擦接続させた接続状態ならびに摩擦接続を解除した非接続状態を切替えることが可能であり、円板状に形成される前記クラッチピストン43の内周部は、前記出力ハブ29に軸方向移動を可能として摺動可能に支持される。
【0031】
前記クラッチ室38内は、前記クラッチピストン43によって、前記タービンランナ12側の内側室38aと、前記伝動カバー20側の外側室38bとに区画されており、前記ニードルスラストベアリング30に隣接して前記出力ハブ29に形成される油溝44が前記外側室38bに連通され、前記油溝44は円筒状の前記出力シャフト27内に連通する。また前記ポンプハブ19および前記ステータシャフト36間には、前記循環回路15の内周部に通じる油路45が形成される。前記油溝44および前記油路45には、前記オイルポンプおよびオイル溜め(図示せず)が交互に接続される。
【0032】
車両用エンジンEのアイドリング時や、極低速運転域では、前記油溝44から前記外側室38bに作動油が供給され、前記油路45から作動油が導出されており、この状態では外側室38bの方が内側室38aよりも高圧となり、前記クラッチピストン43は前記伝動カバー20の内面から離反する側に押されており、ロックアップクラッチ40は非接続状態となっている。この状態では、ポンプインペラ11およびタービンランナ12の相対回転は許容されており、車両用エンジンEによってポンプインペラ11が回転駆動されることで、前記循環回路15内の作動油が、矢印14で示すように、ポンプインペラ11、タービンランナ12、ステータ13の順に循環回路15内を循環し、前記ポンプインペラ11の回転トルクが前記タービンランナ12、前記スプリングホルダ42および前記出力ハブ29を介して前記出力シャフト27に伝達される。
【0033】
前記ポンプインペラ11および前記タービンランナ12間でトルクの増幅作用が生じている状態では、それに伴う反力がステータ13で負担され、ステータ13は、前記一方向クラッチ37のロック作用によって固定される。またトルク増幅作用を終えたときに、前記ステータ13は、該ステータ13が受けるトルク方向の反転によって一方向クラッチ37を空転させながらポンプインペラ11およびタービンランナ12とともに同一方向に回転する。
【0034】
このようなトルクコンバータがカップリング状態となったとき、もしくはカップリング状態に近づいたときには、前記油路45から前記内側室38aに作動油が供給され、前記油溝44から作動油が導出されるように、前記油溝44および前記油路45と、前記オイルポンプおよびオイル溜めとの接続状態が切替えられる。その結果、クラッチ室38内では内側室38aの方が外側室38bよりも高圧となり、その圧力差によってクラッチピストン43が前記伝動カバー20側に押圧され、前記クラッチピストン43の外周部が前記伝動カバー20の内面に圧接して伝動カバー20に摩擦接続され、ロックアップクラッチ40が接続状態となる。
【0035】
前記ロックアップクラッチ40が接続状態となったときに、前記車両用エンジンEから前記伝動カバー20に伝わるトルクは、前記ロックアップクラッチ40の一部を構成しつつ前記ポンプインペラ11とともに回転するクラッチ構成部材としての前記クラッチピストン43、前記スプリングホルダ42および前記出力ハブ29を含むトルク伝達経路46を経て、前記出力シャフト27に機械的に伝達されるものであり、このトルク伝達経路46には、少なくとも1つのダンパ、この実施の形態では第1および第2のダンパ47,48が介設されるとともに、ダイナミックダンパ49が付設される。
【0036】
前記スプリングホルダ42は、前記出力シャフト27の軸線方向に間隔をあけて配置されて前記出力ハブ29と同軸に配置される一対の保持プレート50,51が相互に相対回転不能に連結されて成るものであり、一対の前記保持プレート50,51間に挟まれるとともにそれらの保持プレート50,51から半径方向内方に一部が張り出すように形成されて前記トルク伝達経路46の一部を構成するリング板状のドリブンプレート52の内周部と、前記タービンランナ12における前記タービンシェル24の内周部とが、前記出力ハブ29とともに回転するようにして当該出力ハブ29に複数の第1のリベット53で固定される。
【0037】
前記第1のダンパ47は、前記クラッチピストン43に保持されて周方向に等間隔をあけて配置される複数個のコイル状である第1のダンパスプリング55が、前記クラッチピストン43および前記スプリングホルダ42間に介設されて成る。
【0038】
前記クラッチピストン43の外周部の前記伝動カバー20とは反対側の面には、環状の収容凹部56が形成されており、その収容凹部56内に周方向に等間隔をあけて収容される第1のダンパスプリング55を、前記クラッチピストン43との間に保持するスプリング保持部材54が前記クラッチピストン43に固定される。
【0039】
前記スプリング保持部材54は、前記収容凹部56の内周にほぼ対応した外周を有して前記クラッチピストン43と同軸に配置されるリング板部54aと、前記クラッチピストン43の半径方向に沿う前記第1のダンパスプリング55の内方側を覆うように横断面円弧状に形成されて前記リング板部54aの外周の周方向に等間隔をあけた4箇所に連設されるとともに前記クラッチピストン43の周方向に沿って長く形成されるスプリングカバー部54bと、それらのスプリングカバー部54b相互間に配置されるとともに前記スプリングカバー部54bよりも半径方向外方に突出するようにして前記リング板部54aの外周に連設されるばね当接部54cとを一体に有するように形成され、前記リング板部54aが複数の第2のリベット57で前記クラッチピストン43に固定される。
【0040】
前記ばね当接部54cは、複数の前記第1のダンパスプリング55相互間に配置されており、前記ロックアップクラッチ40が非接続状態にあるときに、前記ばね当接部54cは、その両側の前記第1のダンパスプリング55の端部に当接する。
【0041】
図2および図3を併せて参照して、前記ダイナミックダンパ49は、スプリングホルダ42と、慣性回転体41と、前記スプリングホルダ42および前記慣性回転体41間に介設される複数個たとえば6個の弾性部材としてのコイル状のダイナミックダンパスプリング58と、前記スプリングホルダ42を構成する一対の前記保持プレート50,51を相対回転不能に連結する複数個たとえば6個の連結手段59とを備える。
【0042】
前記慣性回転体41は、一対の前記保持プレート50,51の外周部間に挟まれるリング板状の慣性プレート61と、その慣性プレート61に複数の第3のリベット63で固定されるリング状の重量部材62とから成る。前記慣性プレート61は、その外周部が一対の前記保持プレート50,51よりも半径方向外方に突出するように形成されており、前記重量部材62が前記慣性プレート61の外周部に固定される。また前記ダイナミックダンパスプリング58は、一対の前記保持プレート50,51で保持されており、前記慣性回転体41の一部を構成する前記慣性プレート61と、一対の前記保持プレート50,51との間に介設される。
【0043】
一対の前記保持プレート50,51の周方向に等間隔をあけた複数箇所たとえば6箇所には、前記ダイナミックダンパスプリング58を保持するためのばね保持部50a,51aが、前記ダイナミックダンパスプリング58の一部を外部に臨ませるようにして形成される。一方、前記慣性プレート61の前記ばね保持部50a,51aに対応する内周部には、前記ダイナミックダンパスプリング58を収容する弾性部材収容凹部64が前記慣性プレート61の内周部に開放するように形成され、前記ロックアップクラッチ40の非接続状態では、前記慣性プレート61の周方向に沿う前記弾性部材収容凹部64の両端部が前記ダイナミックダンパスプリング58の両端部に当接する。
【0044】
一対の前記保持プレート50,51を相対回転不能に連結する連結手段59は、前記保持プレート50,51間に介装される円筒状の第1のスペーサ65と、一対の前記保持プレート50,51間を相対回転不能に連結するようにして前記第1のスペーサ65をそれぞれ貫通する第4のリベット66とから成り、前記慣性プレート61の内周部には、前記慣性プレート61および一対の前記保持プレート50,51の相対回転を許容しつつ前記連結手段59を収容する複数の連結手段収容凹部67が、前記慣性プレート61の周方向で前記弾性部材収容凹部64相互間に配置されて前記慣性プレート61の内周に開放するように形成される。
【0045】
しかも前記連結手段収容凹部67および前記弾性部材収容凹部64は、前記出力シャフト27の軸線を中心とした同一の仮想円C(図2参照)に外周縁を沿わせるようにして円弧状に形成される。
【0046】
また前記慣性プレート61の周方向に沿う前記連結手段収容凹部67の両端部には、前記連結手段59の前記スペーサ65に当接して前記慣性プレート61および一対の前記保持プレート50,51の相対回転限を規制するストッパ部67aが形成される。
【0047】
さらに前記連結手段収容凹部67の外周縁および前記連結手段59が、一対の前記保持プレート50,51に対する前記慣性プレート61の半径方向に沿う位置決めを果たすべく、前記慣性プレート61の半径方向で相互に近接もしくは当接するように配置されている。
【0048】
ところで前記第1のダンパ47の第1のダンパスプリング55は、前記クラッチピストン43に固定される前記スプリング保持部材54の前記ばね当接部54cと、前記スプリングホルダ42を構成する一対の前記保持プレート50,51の一方、この実施の形態では前記ロックアップクラッチ40のクラッチピストン43とは反対側の保持プレート50との間に介設されるものであり、前記保持プレート50には、前記第1のダンパスプリング55を前記スプリング保持部材54の前記ばね当接部54cとの間に挟むようにして複数の第1のダンパスプリング55にそれぞれ係合する複数の爪部68が一体に設けられる。
【0049】
図4を併せて参照して、前記慣性プレート61には、二股状に分岐した形状に形成される前記爪部68を挿通させて当該慣性プレート61の周方向に長く延びる長孔69が形成される。この実施の形態では、前記保持プレート50の外周部は、前記第1のダンパスプリング55とは反対側に膨らむように屈曲して形成されており、前記第1のダンパスプリング55の個数と同数である爪部68が、前記保持プレート50の外周屈曲部から前記出力シャフト27の軸線に沿う方向に延びるようにして前記保持プレート50に一体に設けられる。
【0050】
前記第2のダンパ48は、一対の前記保持プレート50,51と、前記出力シャフト27とともに回転する前記ドリブンプレート52との間に介設されるものでり、第2のダンパ48の一部を構成する複数個たとえば6個の第2のダンパスプリング70が一対の前記保持プレート50,51間に保持される。
【0051】
一対の前記保持プレート50,51の周方向に等間隔をあけた複数箇所たとえば6箇所には、前記第2のダンパスプリング70を保持するためのばね保持部50b,51bが、前記第2のダンパスプリング70の一部を外部に臨ませるようにして形成される。一方、前記ドリブンプレート52の前記ばね保持部50b,51bに対応する内周部には、前記第2のダンパスプリング70を収容するスプリング収容孔71が形成される。
【0052】
一対の前記保持プレート50,51の半径方向に沿って前記スプリング収容孔71の内方側で、一対の前記保持プレート50,51間には、前記ドリブンプレート52の周方向に等間隔をあけた複数箇所たとえば6箇所に設けられて周方向長く延びる長孔72にそれぞれ挿通される円筒状の第2スペーサ73が介装され、一対の前記保持プレート50,51は、前記第2のスペーサ73をそれぞれ貫通する複数の第5のリベット74で連結される。すなわち前記ドリブンプレート52は、前記長孔72内を前記第2のスペーサ73が移動するだけの制限された範囲で、前記スプリングホルダ42に対して相対回転することが可能である。
【0053】
次にこの実施の形態の作用について説明すると、ロックアップクラッチ40の一部を構成するクラッチピストン43および出力シャフト27間のトルク伝達経路46に付設されるダイナミックダンパ49が、出力シャフト27と同軸のリング板状の慣性プレート61を少なくとも有する慣性回転体41と、前記トルク伝達経路46の一部を構成するとともに前記出力シャフト27の軸線方向に間隔をあけて配置されて前記慣性プレート61を相互間に挟む一対の保持プレート50,51と、それらの保持プレート50,51間に保持されつつ前記慣性プレート61および一対の前記保持プレート50,51間に介設されるダイナミックダンパスプリング58と、周方向に間隔をあけた複数箇所で一対の前記保持プレート50,51間を相対回転不能に連結する連結手段59とを備え、前記慣性プレート61の内周部に、前記慣性プレート61および一対の前記保持プレート50,51の相対回転を許容しつつ前記連結手段59を収容する複数の連結手段収容凹部67が、前記慣性プレート61の内周に開放して形成されるので、前記連結手段59を収容しつつ慣性プレート61の内径を小さく設定することができ、トルクコンバータの半径方向での小型化が可能となる。
【0054】
また前記慣性プレート61の内周部に、当該慣性プレート61の周方向に間隔をあけて配置される複数の前記ダイナミックダンパスプリング58をそれぞれ収容する複数の弾性部材収容凹部64が、前記慣性プレート61の内周に開放して形成されるので、ダイナミックダンパスプリング58を収容しつつ慣性プレート61の内径を小さく設定することができ、トルクコンバータの半径方向でのさらなる小型化が可能となる。
【0055】
また前記連結手段収容凹部67および前記弾性部材収容凹部64が、前記出力シャフト27の軸線を中心とする同一の仮想円Cに外周縁を沿わせるようにして円弧状に形成されるので、前記連結手段59および前記ダイナミックダンパスプリング58をともに収容しつつ慣性プレート61の内径をより小さく設定することができ、トルクコンバータを半径方向でより小型化することができる。
【0056】
また前記慣性プレート61の周方向に沿う前記連結手段収容凹部67の両端部に、前記連結手段59に当接して前記慣性プレート61および一対の前記保持プレート50,51の相対回転限を規制するストッパ部67aが形成されるので、連結手段収容凹部67のストッパ部67aに連結手段59を当接させることで慣性プレート61および一対の前記保持プレート50,51の相対回転限が規制されるので、ダイナミックダンパスプリング58に過大な負荷が作用することを防止して、ダイナミックダンパスプリング58の寿命向上を図ることができる。
【0057】
また前記連結手段収容凹部67の外周縁および前記連結手段59が、一対の前記保持プレート50,51に対する前記慣性プレート61の半径方向に沿う位置決めを協働して果たすべく、前記慣性プレート61の半径方向で相互に近接もしくは当接するように配置されるので、部品点数を増やすことなく、一対の前記保持プレート50,51および慣性プレート61の半径方向に沿う相対位置を定めることができる。
【0058】
また前記クラッチピストン43および一対の前記保持プレート50,51間に、前記クラッチピストン43に保持される第1のダンパスプリング55を有する第1のダンパ47が介設され、前記出力シャフト27とともに回転するドリブンプレート52および一対の前記保持プレート50,51間に第2のダンパ48が介設されるので、トルクコンバータの大型化を回避しつつ2つのダンパ47,48で減衰性能の向上を図ることができる。しかも第2のダンパ48の一部を構成する第2のダンパスプリング70が、一対の前記保持プレート50,51間に保持されるので、第2のダンパのダンパスプリング70と、ダイナミックダンパ49のダイナミックダンパスプリング58とが一対の前記保持プレート50,51間に保持されることになり、慣性回転体41側にダイナミックダンパスプリング58を配置する必要がなく、慣性回転体41の形状を簡略化することができるとともに、慣性回転体41の慣性マスを充分に確保することができ、ダイナミックダンパ49の減衰性能を充分に高くすることができる。
【0059】
さらに一対の前記保持プレート50,51の一方の保持プレート50に、第1のダンパスプリング55に係合する爪部68が設けられ、前記慣性プレート61に、前記爪部68を挿通させて当該慣性プレート61の周方向に長く延びる長孔72が形成されるので、クラッチピストン43および一対の前記保持プレート50,51間を軸方向に短縮化することができ、トルクコンバータの軸方向での小型化が可能となる。
【0060】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0061】
11・・・ポンプインペラ
27・・・出力シャフト
40・・・ロックアップクラッチ
41・・・慣性回転体
43・・・クラッチ構成部材であるクラッチピストン
46・・・トルク伝達経路
47,48・・・ダンパ
49・・・ダイナミックダンパ
50,51・・・保持プレート
52・・・ドリブンプレート
55・・・第1のダンパスプリング
58・・・弾性部材であるダイナミックダンパスプリング
59・・・連結手段
61・・・慣性プレート
64・・・弾性部材収容凹部
67・・・連結手段収容凹部
67a・・・ストッパ部
68・・・爪部
69・・・長孔
70・・・第2のダンパスプリング
C・・・仮想円
図1
図2
図3
図4