(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
硫黄含有弾性体を含む弾性部を有する基材と、前記基材の前記弾性部の上に設けられた無電解めっき層とを備え、前記弾性部は前記無電解めっき層とともに弾性変形可能な部分を有し、前記無電解めっき層のめっき面のシート抵抗が0.23Ω/□以上1Ω/□未満であることを特徴とする部材。
硫黄含有弾性体を含む弾性部を有する基材と、前記基材の前記弾性部の上に設けられた無電解めっき層とを備え、前記弾性部は前記無電解めっき層とともに弾性変形可能な部分を有する部材の製造方法であって、
前記基材の前記弾性部の面近傍の酸素濃度を高める酸化処理を行う酸化工程;および
前記酸化工程により前記酸化処理が施された前記弾性部の面に無電解めっき処理を行うめっき工程
を備え、
前記酸化処理では、前記弾性部に含まれる前記硫黄含有弾性体の硫黄の酸化が行われ、
前記酸化工程後の前記基材における前記弾性部の面をX線光電子分光法により測定して得られるスペクトルはS2pに基づくピークを複数有し、前記複数のピークの1つであってSに帰属されるピークの面積と前記複数のピークの他の1つであってSO2に帰属されるピークの面積との総和に対する、前記SO2に帰属されるピークの面積の割合は0.45以上であることを特徴とする部材の製造方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態に係る基材の構造を概念的に示す断面図である。本発明の一実施形態に係る部材1は、硫黄含有弾性体を含む弾性部10Eを有する基材10と、基材10の弾性部10Eの上に設けられた無電解めっき層20とを備える。
図1に示される基材10は、全体が弾性部10Eからなり、弾性部10Eの一方の面10EAの上に無電解めっき層20が位置する。
【0024】
基材10の弾性部10Eは、硫黄を含有し弾性を有する限り材質は限定されない。具体的な例として、架橋剤が硫黄を含むゴム系材料(加硫ゴム)が例示される。弾性を与える主成分となるゴム材の例として、ジエン系ゴム(具体例としてイソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ポリイソブチレン等が挙げられる。)などの主鎖に不飽和結合をもつゴム;アクリル系ゴム、フッ素系ゴム、塩素化ポリエチレンなどのポリメチレンタイプの飽和主鎖をもつゴム;シリコーン系ゴムなどが挙げられる。ゴムではなくエラストマーであるが、スチレン系ブロック共重合体などのブロック共重合体のような弾性材料が追加的に弾性部10Eに含まれていてもよい。
【0025】
基材10は、弾性部10E以外の部分(非弾性部)を有していてもよい。非弾性部は、絶縁性の材料から構成されていてもよいし、導電性の材料から構成されていてもよい。非弾性部が複数の部材から構成されていてもよい。
【0026】
無電解めっき層20は、少なくとも一部が無電解めっきにより形成されていればよく、積層構造を有していてもよい。積層構造の具体例として、無電解めっきにより作製された銅めっき層と、その層の上に電気めっきにより形成されたニッケル/金めっき層との積層構造が挙げられる。
【0027】
無電解めっき層20は、Au,AgおよびCuからなる群から選ばれる1種または2種以上の元素を含むことが好ましい場合がある。無電解めっき層20がこのような元素を含む場合には、無電解めっき層20の導電性が高まりやすく、部材1を導電部材として機能させることが容易となる。
【0028】
無電解めっき層20の厚さは限定されない。限定されない例示を行えば、無電解めっき層20の厚さは、0.01μmから10μmの範囲にある。無電解めっき層20の厚さが過度に少ない場合には、無電解めっき層20によって部材1に対して導電性を安定的に付与することが困難となる場合がある。無電解めっき層20の厚さが過度に多い場合には、無電解めっき層20を形成するために要する時間やコストが過大となる可能性が高くなったり、無電解めっき層20によって部材1全体の弾性が低下する可能性が高くなったりする場合がある。無電解めっき層20に基づく部材1の導電性を適切に実現するとともに部材1全体が適切に弾性変形することを実現する観点から、無電解めっき層20の厚さは、0.1μm以上6μm以下であることが好ましい場合があり、0.2μm以上3μm以下であることがより好ましい場合があり、0.3μm以上1.5μm以下であることが特に好ましい場合がある。無電解めっき層20の厚さが約1μm以上であれば、部材1に他の部材が加圧接触する動作が繰り返し行われても、無電解めっき層20の導電性に変化が生じにくくなる場合がある。
【0029】
なお、基材10の弾性部10Eにおける無電解めっき層20が形成される面10EAは、その全てが無電解めっき処理による析出物(本明細書において「めっき析出物」)によって覆われていなくてもよい。例えば、面10EA上に、一群のめっき析出物がいわゆるアイランド状に位置して、全体で無電解めっき層20を構成していてもよい。
【0030】
本発明の一実施形態に係る部材1は、弾性部10Eが無電解めっき層20とともに弾性変形可能な部分を有し、部材1の無電解めっき層20側の面に対して押圧する圧縮作業が行われた場合であっても、部材1の無電解めっき層20側の面の導電性の変化が少ない。具体的には、本発明の一実施形態に係る部材1は、上記の圧縮作業における部材1の圧縮率[単位:%、{(圧縮作業を行う前の部材1の厚さ)−(圧縮作業における圧縮量が最大であるときの部材1の厚さ)}/(圧縮作業を行う前の部材1の厚さ)×100]が30%であって、この圧縮作業を20回行った場合(本明細書において「20回30%圧縮作業」といい、圧縮回数が異なる場合にはその回数に応じて回数の数値を変更し、圧縮作業における圧縮率が異なる場合にはその圧縮率に応じて百分率を変更して、同様に表現する。)における抵抗値増加率[単位:%、{(11回30%圧縮作業の際の最大圧縮時の部材1の無電解めっき層20の抵抗値)−(20回30%圧縮作業の際の最大圧縮時の部材1の無電解めっき層20の抵抗値)}/(11回30%圧縮作業の際の最大圧縮時の部材1の無電解めっき層20の抵抗値)×100]が、30%以下であってもよい。上記の抵抗値増加率は、20%以下であることが好ましい場合があり、15%以下であることがより好ましい場合があり、10%以下であることが更に好ましい場合があり、5%以下であることが特に好ましい場合がある。
【0031】
本発明の一実施形態に係る部材1は、繰り返し40%圧縮作業における抵抗値増加率が、10%以下であってもよく、8%以下であることが好ましい場合がある。本発明の一実施形態に係る部材1は、繰り返し50%圧縮作業における抵抗増加率が18%以下であってもよく、15%以下であることが好ましい場合がある。
【0032】
このように、圧縮作業を繰り返した後の抵抗値増加率が少ないことは、圧縮作業が繰り返し行われても、無電解めっき層20が基材10の弾性部10Eの面の上に適切に付着していることを示している。圧縮作業により無電解めっき層20に割れやかけが生じると、抵抗増加率は増加する傾向がある。
【0033】
本発明の一実施形態に係る電気・電子部品は、上記の本発明の一実施形態に係る部材を備える。
【0034】
図2は、本発明の一実施形態に係る電気・電子部品の一例であるコンタクトスイッチの構造を概念的に示す断面図である。
図2(a)に示されるように、本発明の一実施形態に係るコンタクトスイッチ100は、本発明の一実施形態に係る部材1Aと基板110とを備える。部材1Aは、全体が弾性部10Eからなる基材10と、弾性部10Eの一方の面の上に設けられた無電解めっき層20とを備える。
【0035】
弾性部10Eは、一方の面側において凸起し他方の面側において凹陥する可変部10Dを備え、無電解めっき層20は、可変部10Dの凹陥する側の面の上に設けられている。このため、弾性部10Eの可変部10Dにおいて、部材1Aは、無電解めっき層20が他の部分よりも窪んだ凹設部分1ARを有する。
【0036】
基板110は、部材1Aの無電解めっき層20側の面に接するように位置する。
基板110における部材1Aの凹設部分1ARに対向する位置には、電極120が設けられている。したがって、
図2(a)に示される状態では、無電解めっき層20と電極120とは電気的に接触していない。
【0037】
ここで、
図2(a)の矢印に示されるように、可変部10Dの凸起する面に対して、部材1Aと基板110とを近接させる向きの力Fが加えられると、可変部10Dにおいて弾性部10Eは弾性変形する。その結果、
図2(b)に示されるように、部材1Aの凹設部分1ARの窪みの程度は小さくなって、無電解めっき層20と電極120とが接触し、これらの間で電気的接続が開始される。
【0038】
矢印の向きの力Fを解除すると、弾性回復によって可変部10Dは
図2(a)に示される状態に戻り、無電解めっき層20と電極120との間での電気的接続も終了する。
【0039】
こうして、コンタクトスイッチ100は、矢印の向きの力Fが加えられている間は無電解めっき層20と電極120との間での電気的接続が維持され、この力Fが解除されると上記の電気的接続が終了する、モーメンタリ式のスイッチ動作を行うことができる。
【0040】
図3および
図4は、本発明の一実施形態に係る電気・電子部品の他の例であるコネクタの構造を概念的に示す断面図である。
図3に示されるように、本発明の一実施形態に係るコネクタ200は、両端が開口する中空部10Hを有する円筒形の弾性部10Eからなる基材10と、中空部10Hを画成する弾性部10Eの内側面10Sの一部の上に設けられた無電解めっき層20とを備える部材1Bからなる。
【0041】
コネクタ200の中空部10Hの一方の開口10Aから中空部10H内部に向けて(
図3中では矢印D1の向き)、導電性材料からなるピン210を挿入させる。その結果、
図4に示されるように、コネクタ200の内部に位置するピン210の側面と無電解めっき層20の面とが摺動し、ピン210と無電解めっき層20との電気的接触が生じる。この際、ピン210の挿入部の外径と弾性部10Eの中空部10Hの口径とを適切に設定することにより、ピン210が挿入されたことによって弾性部10Eが弾性変形して、弾性部10Eの中空部10Hの口径が若干大きくなるようにすることが好ましい。この場合には、弾性部10Eの内側面10Sからピン210の側面に向けて弾性回復力が作用し、この弾性回復力によってコネクタ200はピン210を嵌持し、ピン210と無電解めっき層20との電気的接触を安定化させることができる。
【0042】
こうして、コネクタ200とピン210とからなる組立体により、コネクタ200とピン210との電気的接続を維持することが実現される。
【0043】
このように、本発明の一実施形態に係る電気・電子部品は、本発明の一実施形態に係る部材を備え、この部材の基材における弾性部は使用時に変形可能な部分を有する。したがって、本発明の一実施形態に係る電気・電子部品は弾性変形可能な導電性部分を有する。それゆえ、本発明の一実施形態に係る電気・電子部品は、電気的な接触状態と非接触状態との切替を簡便な構造で実現したり、他の導電性部材との電気的接触を安定的に実現したりすることができる。本発明の一実施形態に係る電気・電子部品の具体的な一例として、電気・電子部品が電気接点部を備え、この電気接点部の少なくとも一部は本発明の一実施形態に係る部材が備える無電解めっき層からなる場合が挙げられる。本発明の一実施形態に係る電気・電子部品の具体的な他の一例として、電気・電子部品が可動部および摺動部の少なくとも一方を備え、使用時に、本発明の一実施形態に係る部材が備える弾性部の変形が生じる場合が挙げられる。
【0044】
本発明の一実施形態に係る電気・電子機器は、本発明の一実施形態に係る電気・電子部品を備える。本発明の一実施形態に係る電気・電子部品は、上記のように、弾性部10Eとこの弾性部10Eの上に設けられた無電解めっき層20を備える部材を備える。この弾性部10Eは使用時に変形可能である。それゆえ、本発明の一実施形態に係る電気・電子機器は、その内部において電気的接触の制御を簡便におよび/または安定的に行うことが可能である。本発明の一実施形態に係る電気・電子機器の具体例として、スマートフォン、タブレット端末、ノートパソコン、スマートウォッチなどの携帯型電子機器;自動車、航空機、船舶などの輸送機器;テレビ、冷蔵庫、洗濯機、掃除機などの家電機器;および加工装置、発電機、変電装置などの産業用機器が挙げられる。
【0045】
本発明の一実施形態に係る部材の製造方法は限定されない。次に説明する方法により製造すれば、本発明の一実施形態に係る部材を効率的に得ることが可能である。
【0046】
本発明の一実施形態に係る部材の製造方法は、酸化工程およびめっき工程を備える。
【0047】
酸化工程では、基材10の弾性部10Eの面近傍の酸素濃度を高める酸化処理を行う。このような酸化処理を行うことにより、弾性部10Eの面に無電解めっき処理において使用される触媒が付着しやすくなったり、めっき析出物と弾性部10Eとの密着性が向上したりするため、弾性部10Eの面の上に無電解めっき層20を適切に形成することが可能となる。
【0048】
酸化処理の詳細は限定されない。次に詳しく説明するUV照射処理を弾性部10Eの面に対して行ってもよいし、酸素を含むプラズマに弾性部10Eの面を曝してもよいし、過酸化水素などの酸化剤を含む組成物に弾性部10Eの面を接触させてもよい。
【0049】
UV照射処理では、弾性部10Eの面に紫外光を含む電離放射線を照射する。紫外光以外の電離放射線として、X線、γ線、電子線、中性子線などが例示される。可視光またはそれ以下の周波数の電磁波が電離放射線に含まれていてもよい。UV照射処理を行うための線源(光源)は限定されない。いわゆるUVランプ、エキシマUVランプ、エキシマレーザ、放射線管、電子銃などが例示される。これらの中でも、取扱い性の高さと処理効率の高さとの観点から、エキシマUVランプが好ましい場合がある。エキシマUVランプを照射する前処理の場合には、弾性部10Eの面に位置する物質が光照射に基づいて除去される量はほぼ無視しうることがある。
【0050】
酸化処理では、弾性部10Eに含まれる様々な物質の酸化が行われるところ、硫黄含有弾性体の硫黄の酸化が行われることが好ましい。硫黄含有弾性体の硫黄の酸化が生じたか否かは、酸化処理後の弾性部10Eの表面やその近傍(表面直下の領域)の分析を行うことによって確認することができる。そのための表面分析方法は限定されないが、硫黄の化学状態を確認することが可能なX線光電子分光法が好ましい方法として例示される。X線光電子分光法により得られるスペクトル(以下、「XPSスペクトル」という。)により、測定した面の組成分析(存在する元素の種類の特定および元素の存在濃度の測定)、各元素についての化学状態の定性・定量測定、および測定する領域のスパッタリングと組み合わせることによる深さ方向への組成変化の測定(以下、この分析により得られるグラフを「深さプロファイル」という場合もある。)を求めることが可能である。
【0051】
以下、エキシマUVランプ(ウシオ電機社製「H0522」、中心波長:172nm、照度:6mW/cm
2)を用いて、基材10におけるニトリルゴムからなる弾性部10Eの面に対して酸化処理を行った場合の結果について示す。エキシマUVランプからの光の弾性部10Eの面(以下、「測定面」という。)に到達するまでの透過距離は3mmであり、光照射は大気中で行われた。
【0052】
図5は、光照射を行う前の測定面のXPSスペクトル(結合エネルギー範囲:154eVから176eV)である。
図5に示されるように、XPSスペクトルには、162eV程度に最大値を有するピーク(第1ピーク)と、168eV程度に最大値を有するピーク(第2ピーク)とが認められた。第1ピークは、S2pのピークであって、ケミカルシフトからSに由来するピークであると帰属された。第2ピークは、S2pのピークであって、ケミカルシフトからSO
2に由来するピークであると帰属された。第1ピークおよび第2ピークについてピークおよびベースラインのフィッティングを行った。
図5において、実線は測定結果であり、点線は第1ピークのフィッティングラインであり、破線は第2ピークのフィッティングラインであり、一点鎖線はこれらのフィッティングラインのベースラインである。
図6から
図8についても同様である。各フィッティングラインとベースラインとからそれぞれのピークの面積を求め、第1ピークの面積と第2ピークの面積との総和に対する第1ピークの面積の割合RS
1および第1ピークの面積と第2ピークの面積との総和に対する第2ピークの面積の割合RS
2を求めた。その結果を表1に示した。RS
1は0.74であり、RS
2は0.26であった。すなわち、測定面に存在する硫黄のうち、SO
2の状態にある硫黄のSの状態にある硫黄に対する存在比率は1/3程度であった。
【0053】
【表1】
【0054】
図6は、光照射を3分間行った後の測定面のXPSスペクトル(結合エネルギー範囲:154eVから176eV)である。
図6および表1に示されるように、光照射前の測定面と同様に、XPSスペクトルには第1ピークおよび第2ピークが認められた。しかしながら、光照射前に比べて第2ピークの強度が高くなり、RS
1は0.60であり、RS
2は0.40であった。すなわち、測定面に存在する硫黄のうち、SO
2の状態にある硫黄のSの状態にある硫黄に対する存在比率は2/3程度であった。
【0055】
図7は、光照射を9分間行った後の測定面のXPSスペクトル(結合エネルギー範囲:154eVから176eV)である。
図7および表1に示されるように、光照射前の測定面と同様に、XPSスペクトルには第1ピークおよび第2ピークが認められた。しかしながら、光照射時間が3分間であった場合に比べて第2ピークの強度が高くなり、RS
1は0.49であり、RS
2は0.51であった。すなわち、測定面に存在する硫黄のうち、SO
2の状態にある硫黄のSの状態にある硫黄に対する存在比率は1程度(同程度)であった。
【0056】
図8は、光照射を12分間行った後の測定面のXPSスペクトル(結合エネルギー範囲:154eVから176eV)である。
図8および表1に示されるように、光照射前の測定面と同様に、XPSスペクトルには第1ピークおよび第2ピークが認められた。RS
1は
0.35であり、RS
2は
0.65であった。すなわち、SO
2の状態にある硫黄は、SO
2の状態にある硫黄のSの状態にある硫黄に対する存在比率は2程度(2倍程度)であった。
【0057】
図9は、第1ピークの面積の割合および第2ピークの面積の割合と光照射時間との関係を示すグラフである。
図9に示されるように、照射時間の増加に伴って、SO
2に由来する第2ピークの面積の割合RS
2が増大することが確認された。具体的には、光照射が行われない場合には、弾性部10Eの面(測定面)には、化学結合の影響が少ない状態にあるS(フリーS)が、酸化物の状態にあるS(酸化S)よりも多く存在するが、光照射が行われることにより、フリーSは酸化して酸化Sとなり、光照射が9分間行われた場合には、弾性部10Eの面(測定面)におけるフリーSと酸化Sとの存在比率はほぼ等しくなり、光照射が12分間行われた場合には、フリーSよりも酸化Sの方が多く存在する状態に至ることが確認された。
【0058】
図10は、光照射が行われる前の測定面の深さプロファイルである。深さプロファイルを得るために行われた測定面のスパッタリングは、SiO
2換算で5nm/分であった。
図10に示されるように、光照射が行われない場合には、弾性部10Eの面(測定面)の表面近傍領域(SiO
2換算で深さ25nmまでの領域)におけるOの存在割合は、最表面領域(SiO
2換算で深さ2.5nmまでの領域)以外では、10原子%未満であった。
【0059】
図11は、光照射を3分間行った後の測定面の深さプロファイルである。
図11に示されるように、光照射を3分間行った場合には、弾性部10Eの面(測定面)の表面近傍領域における酸素濃度は、最表面領域(深さ2.5nmまでの領域)を含め、10原子%以上20原子%未満であった。
【0060】
図12は、光照射を6分間行った後の測定面の深さプロファイルである。
図12に示されるように、光照射を6分間行った場合には、弾性部10Eの面(測定面)の表面近傍領域における酸素濃度は、最表面領域(深さ2.5nmまでの領域)を含め、20原子%以上30原子%未満であった。
【0061】
図13は、光照射を15分間行った後の測定面の深さプロファイルである。
図13に示されるように、光照射を15分間行った場合には、弾性部10Eの面(測定面)の表面近傍領域における酸素濃度は、最表面から深さ10nmまでの領域では10原子%強から30原子%弱まで増加し、その後、おおむね30原子%であった。
【0062】
図11から
図13に示されるように、深さプロファイルにより、弾性部10Eの面(測定面)に光照射することによって、測定面の表面近傍の酸素濃度が高まることが確認された。
【0063】
めっき工程では、酸化工程により酸化処理が施された弾性部10Eの面に、無電解めっき処理を行う。無電解処理めっきの種類は限定されない。無電解めっき処理において析出させる金属種は限定されない。Fe,Co,Ni,Pt,Pd,Rh,Au,AgおよびCuからなる群から選ばれる1種または2種以上の元素を含んでいてもよい。Au,AgおよびCuからなる群から選ばれる1種または2種以上の元素を含んでいることが好ましい場合がある。無電解めっき層が適切な導電性を維持できる限り、無電解めっき層には、P,Bなどの析出の際に用いた還元剤に由来する非金属元素が含まれていてもよい。
【0064】
めっき工程において、無電解めっき処理の前には、通常、洗浄処理、脱脂処理、中和処理、活性化処理、触媒付与処理などの前処理が施される。前処理の具体的な構成や、前処理を構成する各処理の具体的な条件は、弾性部10Eの面を構成する材料の組成、無電解めっき処理の種類などに応じて、適宜設定される。例えば、弾性部10Eの面を構成する材料がシリコーン系のゴムを含有する場合には、脱脂処理および中和処理後にテトラエトキシシラン等による処理を行うことが好ましい場合がある。
【0065】
以下、酸化工程における酸化処理がエキシマUVランプの照射であって、めっき工程における無電解めっき処理により析出させる金属元素が銅である場合を具体例として、本発明の一実施形態に係る製造方法により製造された部材における無電解めっき処理が行われた面(本明細書において「めっき面」ともいう。)の導電性について確認した結果および部材の
めっき面側の観察結果を記す。
【0066】
酸化処理におけるエキシマUVランプの照射時間を変化させ、他は共通(無電解銅めっき処理を行い、めっき処理時間は20分間であった。)として、本発明の一実施形態に係る製造方法を実施して、基材と無電解めっき層とを備える部材を得た。
【0067】
得られた部材のめっき面のシート抵抗(単位:Ω/□)を測定した。測定結果を表2および
図14に示した。
【0068】
【表2】
【0069】
表2および
図14に示されるように、弾性部10Eの面にエキシマUVランプを照射しない場合には、めっき面のシート抵抗は1Ω/□以上であったが、弾性部10Eの面にエキシマUVランプを照射することにより、めっき面のシート抵抗は1Ω/□未満となる。また、照射時間が6分間またはそれ以上の場合には、弾性部10Eの面にエキシマUVランプを照射しない場合に比べて、めっき面のシート抵抗は1/10程度まで低下する。
【0070】
表1および表2に示される結果に基づき、めっき面のシート抵抗と上記の割合
RS2との関係を示したグラフが
図15である。
図15に示されるように、上記の割合
RS2が0.3以上の場合には上記のシート抵抗は1Ω/□未満となり、上記の割合
RS2が0.45以上の場合には、上記のシート抵抗が十分に低下した状態に至る。すなわち、上記の割合
RS2が0.45以上となるように酸化処理を行うことによって、十分な導電性を有する無電解めっき層を備える部材を得ることができる。
【0071】
上記の部材のめっき面を観察した。
図16は、光照射が行われなかった場合におけるめっき面の外観を示す画像(全体および拡大)である。
図17は、光照射を3分間行った場合におけるめっき面の外観を示す画像(全体および拡大)である。
図18は、光照射を6分間行った場合におけるめっき面の外観を示す画像(全体および拡大)である。
図19は、光照射を9分間行った場合におけるめっき面の外観を示す画像(全体および拡大)である。
図20は、光照射を12分間行った場合におけるめっき面の外観を示す画像(全体および拡大)である。
【0072】
図16に示されるように、光照射を行わなかった場合には、全体の観察においても、色ムラが認められ、拡大観察では、めっきが析出していない部分が確認された。
図17に示されるように、光照射を3分間行った場合には、全体の観察における色ムラはほぼ認められなくなり、拡大観察においても、めっきが析出していないと認められる部分はなかった。光照射時間を増やすことによりめっき析出の不均一さは低下し、
図19および
図20に示されるように、光照射時間が9分間以降では、外観観察において特段の差異は認められなかった。
【0073】
続いて、部材のめっき面側について、集束イオンビーム(FIB)法を用いて断面観察を行った。FIB法により切断、観察を行うに際し、部材のめっき面上にカーボンを堆積させた。
図21は、光照射を行わなかった場合における部材のめっき面側の断面の観察画像である。
図22は、光照射が3分間である場合における部材のめっき面側の断面の観察画像である。
図23は、光照射が6分間である場合における部材のめっき面側の断面の観察画像である。
図24は、光照射が9分間である場合における部材のめっき面側の断面の観察画像である。
図25は、光照射が12分間である場合における部材のめっき面側の断面の観察画像である。いずれの場合も、断面における明色部分が無電解めっき処理による析出物(めっき析出物)であり、この析出物からなる無電解めっき層の厚さを観察画像から測定した結果が図中に示されている。無電解めっき層よりも表面側に位置する層はFIB法を実施するにあたり堆積させたカーボンからなるカーボン層である。
【0074】
図21に示されるように、光照射を行わなかった場合における部材のめっき面側の断面には、弾性部10Eの面の全てがめっき析出物によって覆われた状態には至っていない。
図22に示されるように、光照射が3分間であった場合には弾性部10Eの面のほぼ全てがめっき析出物によって覆われた状態となり、
図23に示されるように、光照射が6分間であった場合には弾性部10Eの面の全てがめっき析出物によって覆われた状態となった。
図24および
図25に示されるように、光照射が9分間および12分間であった場合には、光照射が6分間であった場合と同様に、弾性部10Eの面の全てがめっき析出物によって覆われた状態となった。
【0075】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【実施例】
【0076】
以下に実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0077】
(実施例1)厚さの変化、ゴム弾性硬度の測定
シリコーン系のゴム(ゴム硬度70度、後述するゴム硬度計により測定、以下同じ。)からなる試験片(5mm角、厚さ3mm)を、弾性部からなる基材として10枚用意した。奥野製薬工業株式会社製「エースクリーン820、エースクリーン810」を用いて、試験片の表面汚れを除去する前洗浄を行った。前洗浄後の試験片の一方の面に対して、エキシマUVランプ(ウシオ電機社製「H0522」、中心波長:172nm、照度:6mW/cm
2)を用いて、光照射を1分間行うUV光照射からなる酸化処理を行った。UV光の照射前後の試験片の厚さの測定結果を表3に示した。
【0078】
【表3】
【0079】
表3に示されるように、酸化処理による試験片の厚さの変化は、平均値に基づく計算で0.2%以下であり、無視できる程度であった。
【0080】
酸化処理後の試験片に対して、前洗浄と同じ処理を脱脂処理として行った。脱脂処理後の試験片を2%塩酸水溶液中に浸漬して中和し、中和後の試験片に対して、無電解銅めっき処理(ビルドアップ用、上村工業株式会社製スルカップシリーズ)を行った。
【0081】
めっき処理の時間を20分、30分、40分と変化させて異なる厚さの無電解めっき層を備える部材を得た。
【0082】
基材(中和後の試験片)および無電解めっき層を備える部材の無電解めっき層側の面(基材については一方の面)について、ゴム硬度計(西東京精密社製「WR−104A」、準拠規格:JIS K6253、ISO7619、ASTM D2240)を用いてゴム硬度(単位:度)を測定した。測定結果を表4に示した。表4における最終行は、10枚の試験片の結果の平均値に基づく、ゴム硬度の変化率である。
【0083】
【表4】
【0084】
表4に示されるように、無電解めっき層を備える部材のめっき面のゴム硬度は、めっき時間を増やすことにより高くなることが確認された。しかしながら、その増加の程度は数%であった。
【0085】
(実施例2)圧縮作業が行われた場合における反発力の測定
シリコーン系のゴム(ゴム硬度70度)からなる試験片(直径5mm、厚さ3mm)を、弾性部からなる基材として用意した。この試験片の主面に対して、反発力測定器(イマダ社製「デジタル・フォース・ゲージ ZP−500N」)を用いて、圧縮率30%(押し込み深さ0.9mm)で押圧して反発力(単位:N)を測定した。この測定を4回繰り返して、都合5回測定を行った。
【0086】
試験片に対して、実施例1に記載される部材の製造方法と同様の製造方法を実施して、厚さ1.2μm(5カ所の測定結果の平均値)の無電解銅めっき層を備える部材を得た。得られた部材に対して、上記の圧縮率30%での反発力測定(無電解めっき層側の面を押圧した。)を繰り返し行って、都合5回測定を行った。
【0087】
以上の測定を3枚の試験片に対して行い、各試験片における結果の平均値を求めた。こうして求めた反発力および反発力から換算された反発応力(単位:N/mm
2)を表5および
図26に示した。
【0088】
【表5】
【0089】
表5および
図26に示されるように、1回目の反発力の測定では、無電解めっき層を備える部材の方が、無電解めっき層を備えない基材よりも反発力が高いが、繰り返し試験回数が増加するにつれて、両者の差は小さくなるとともに、繰り返し回数の増加に伴う反発力変化も少なくなり、3回目以降の試験では、無電解めっき層を備えない基材および無電解めっき層を備える部材のいずれも、反発応力がおおむね3N/mm
2となった。このように、無電解めっき層を備えているか否かの相違が反発力に与える影響は、実質的に無視することが可能であることが確認された。
【0090】
(実施例3)圧縮作業が行われた場合における抵抗値の測定
シリコーン系のゴム(ゴム硬度70度)からなる試験片(直径5mm、厚さ3mm)を、弾性部からなる基材として3枚用意した。これらの試験片のそれぞれに対して、実施例1に記載される部材の製造方法と同様の製造方法を実施して、ぞれぞれ、厚さが、0.34μm、0.68μm、0.97μm(いずれも5カ所の測定結果の平均値)の無電解銅めっき層を備える部材を得た。得られた部材のめっき面を圧縮率30%(押し込み深さ0.9mm程度)、圧縮率40%(押し込み深さ1.2mm程度)または圧縮率50%(押し込み深さ1.5mm程度)で押圧し、それぞれ、最大圧縮状態で無電解銅めっき層の抵抗値を測定した。測定はミリオームメーター(Agilent社製「4338B」)を用いた。この30%圧縮時の抵抗値の測定を19回繰り返し、都合20回測定を行った。表6および
図27には、めっき厚さ(Cu厚)が0.34μmの場合における11回目の押圧時の測定結果から20回目の押圧時の測定結果を示した。表6には、第11回目の最大圧縮時の抵抗値を基準とする第20回目の最大圧縮時の抵抗値の増加率(単位:%)を示した。
【0091】
【表6】
【0092】
表6および
図27に示されるように、圧縮作業を繰り返すことにより、無電解銅めっき層の抵抗値は若干上昇する傾向がみられた。その傾向は圧縮率が高いが薄いほど顕著であった。
【0093】
上記の試験を、無電解銅めっき層の厚さ(Cu厚)が0.68μmであった場合および0.97μmであった場合についても測定した。その結果を表7および
図28(Cu厚:0.68μm)および表8および
図29(Cu厚:0.97μm)に示した。なお、無電解銅めっきの厚さ(Cu厚)が0.68μmであった場合については、圧縮率50%での測定は行わなかった。表6から表8に示される結果から明らかなように、無電解銅めっき層の厚さが厚くなるほど、押圧回数の増加に伴う抵抗値の変化は生じにくくなり、圧縮率の変化に基づく抵抗値の変化も生じにくくなる。
【0094】
【表7】
【0095】
【表8】
【0096】
表6および
図27に示される抵抗値増加率の結果に基づき、各圧縮率での抵抗値Rと押し潰し回数Nとの線形近似を行った。その結果、押し潰し回数1回あたりの抵抗率の変化RR(単位:Ω/回)は次のとおりであった。
圧縮率30%:0.0026Ω/回
圧縮率40%:0.0019Ω/回
圧縮率50%:0.0009Ω/回
【0097】
これらの結果から、上記の変化RRと圧縮率との関係をプロットしたグラフが
図30である。
図30に示されるように、グラフ内の3点を直線近似して得られる近似直線は、X切片が20%程度となった。したがって、無電解銅めっき層の厚さが0.34μm程度の場合には、圧縮率が20%以下であれば、抵抗値の増加率は実質的に生じないと考えられることが示された。無電解銅めっき層の厚さが0.97μmの場合も、同様に、圧縮率が20%以下であれば、抵抗値の増加率は実質的に生じないと考えられる。