特許第6637260号(P6637260)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6637260
(24)【登録日】2019年12月27日
(45)【発行日】2020年1月29日
(54)【発明の名称】人工衛星の分離装置
(51)【国際特許分類】
   B64G 1/64 20060101AFI20200120BHJP
【FI】
   B64G1/64 B
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-125465(P2015-125465)
(22)【出願日】2015年6月23日
(65)【公開番号】特開2017-7529(P2017-7529A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2018年5月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】500302552
【氏名又は名称】株式会社IHIエアロスペース
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(72)【発明者】
【氏名】兼近 達也
【審査官】 志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−164899(JP,A)
【文献】 特開2010−269768(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2001/0017337(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0131521(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64G 1/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロケットのフェアリング内に搭載した上段の第1衛星及び下段の第2衛星を上段から順次分離する装置であって、
下段分離機構により第2衛星を分離可能に搭載した衛星基台と、
衛星基台において第2衛星の周囲に配置され且つ第1衛星を支持する複数の支持体とを備え、
各支持体は、その下端部が、衛星基台に対してロケット内外方向に回動自在に連結してあると共に、その上端部に第1衛星を分離可能に結合する上段分離機構と、上段分離機構の分離動作に伴って当該支持体をロケット外側に回動させる展開用スプリングとを備えると共に、展開用スプリングの反発力に抗した状態で、上段分離機構により拘束されて第1衛星を支持することを特徴とする人工衛星の分離装置。
【請求項2】
上段分離機構が、各支持体と第1衛星とを結合する結合手段と、第1衛星に頭部を当接させた分離用ロッドと、結合手段の解除に伴って分離用ロッドを介して第1衛星に分離力を付与する分離用スプリングとを備えており、
衛星基台に、分離用スプリングを圧縮した状態において分離用ロッドにより上方向の移動が規制された支持体拘束用のストッパと、ストッパに上方向の力を付与する移動用スプリングとを備えると共に、
支持体に、ストッパと係合し且つストッパの上限位置で係合を解除するストッパ受け部を備えたことを特徴とする請求項1に記載の人工衛星の分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロケットのフェアリング内に搭載した上段の第1衛星及び下段の第2衛星を上段から順次分離するのに用いられる人工衛星の分離装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の人工衛星の分離装置としては、例えば、複数人工衛星搭載機構の名称で特許文献1に記載されているものがある。特許文献1に記載の分離装置は、ロケットのフェアリング内に上段の第1衛星と下段の第2衛星とを搭載したものである。フェアリングは、第1衛星を収容する上部フェアリングと、第2衛星を収容する下部フェアリングとに分割されており、その中間には、第1衛星と第2衛星との間を仕切るアダプタが設けてある。アダプタは、下部フェアリングの上部にヒンジを介して結合してあり、第1衛星の搭載用台座として用いられる。
【0003】
また、上記の分離装置は、第1衛星とアダプタとの間に、第1衛星の第1分離機構を備えると共に、第2衛星とロケット最上段との間に、第2衛星の第2分離機構を備え、さらに、上部及び下部のフェアリングの間にフェアリング分離機構を備えると共に、下部フェアリングに、アダプタをロケット外側に回動させるアダプタ駆動機構を備えている。この分離装置は、フェアリング分離機構により上部フェアリングを分離した後、第1分離機構により第1衛星を分離し、その後、アダプタ駆動機構によりアダプタをロケット外側に回動させ、最終的に、第2分離機構により第2衛星を分離する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−164899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記したような従来の人工衛星の分離装置は、下部フェアリングにアダプタを結合することで、軌道上の障害になり得るデブリ(宇宙ごみ)の発生を防ぐものであるが、第1及び第2の分離機構、並びにフェアリング分離機構及びアダプタ駆動機構を備えた構成であったため、構造及び制御が複雑であると共に、重量軽減が難しいという問題点があり、このような問題点を解決することが課題であった。
【0006】
本発明は、上記従来の課題に着目して成されたものであって、構造及び制御の簡略化や軽量化を実現することができると共に、デブリの発生も防ぐことができる人工衛星の分離装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係わる人工衛星の分離装置は、ロケットのフェアリング内に搭載した上段の第1衛星及び下段の第2衛星を上段から順次分離する装置であって、下段分離機構により第2衛星を分離可能に搭載した衛星基台と、衛星基台において第2衛星の周囲に配置され且つ第1衛星を支持する複数の支持体とを備えている。そして、分離装置において、各支持体は、その下端部が、衛星基台に対してロケット内外方向に回動自在に連結してあると共に、その上端部に第1衛星を分離可能に結合する上段分離機構と、上段分離機構の分離動作に伴って当該支持体をロケット外側に回動させる展開用スプリングとを備えると共に、展開用スプリングの反発力に抗した状態で、上段分離機構により拘束されて第1衛星を支持する構成としており、上記構成をもって従来の課題を解決するための手段としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係わる人工衛星の分離装置は、フェアリングを開放すると、各支持体により支持された第1衛星が宇宙空間に曝露状態になる。そして、分離装置は、各支持体に備えた上段分離機構により第1衛星を分離すると、その分離動作に伴って、展開用スプリングの作用により各支持体がロケット外側へ自動的に回動し、第2衛星を宇宙空間に曝露状態にする。その後、分離装置は、下段分離機構により第2衛星の分離を行うこととなる。
【0009】
このように、本発明に係わる人工衛星の分離装置は、各支持体が、第1衛星の支持機能及び分離機能を兼ね備えたものとなっており、第1衛星の分離後には、展開用スプリングだけの簡易な構造により各支持体が自動的に回動するので、構造及び制御の簡略化や軽量化を実現することができ、しかも、各支持体が衛星基台から分離することがないので、デブリの発生も防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係わる人工衛星の分離装置の一実施形態を説明する拡大図付きのロケットの側面図である。
図2】分離装置の分離前の状態を示す断面説明図である。
図3】片側を省略して第1衛星の分離を示す断面説明図(A)、第1衛星の分離後の状態を示す断面説明図(B)、及び第2衛星の分離を示す断面説明図(C)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面に基づいて、本発明に係わる人工衛星の分離装置の一実施形態を説明する。
図1に示すロケットRは、頭部にフェアリングFを備えており、フェアリングF内に、人工衛星の分離装置とともに上段の第1衛星S1及び下段の第2衛星S2が搭載してある。分離装置は、上段の第1衛星S1及び下段の第2衛星S2を上段から順次分離する装置である。フェアリングFは、例えば開頭式に開放可能である。
【0012】
人工衛星の分離装置は、概略として、下段分離機構J2により第2衛星S2を分離可能に搭載した衛星基台1と、衛星基台1において第2衛星S2の周囲に配置され且つ第1衛星S1を支持する複数の支持体2とを備えている。
【0013】
下段分離機構J2は、図示を省略したが、例えば、衛星基台1と第2衛星S2とを分離可能に連結するセパレーションナットや、第2衛星S2に分離力を付与する分離用スプリングなどで構成してある。衛星基台1は、ロケットRの最上段に固定してある。
【0014】
この実施形態の支持体2は、上端部を頂点とするトラス構造を有するもので、機軸回りに等間隔で配置してあり、図示例の場合は、90度間隔で4カ所に配置してある。各支持体2は、図2に示すように、その下端部が、ヒンジ3により、衛星基台1に対してロケット内外方向に回動自在に連結してある。なお、図2では、手前中央の支持体の図示を省略している。
【0015】
また、各支持体2は、その上端部に第1衛星S1を分離可能に結合する上段分離機構J1と、上段分離機構J1の分離動作に伴って当該支持体2をロケット外側に回動させる展開用スプリング4とを備えている。展開用スプリング4は、ヒンジ3に取り付けたねじりコイルばねであり、支持体2に対してロケット外側方向への反発力を付与する。
【0016】
さらに、上段分離機構J1は、各支持体2と第1衛星S1とを結合する結合手段5と、第1衛星S1に頭部6Aを当接させた分離用ロッド6と、結合手段5の結合解除に伴って分離用ロッド6を介して第1衛星S1に分離力を付与する分離用スプリング7とを備えている。
【0017】
より具体的には、各支持体2は、上端部からロケット内側に延出するガイド片8と、ガイド片8よりも下位側の位置でロケット内側に延出する支持片9と、上端部からロケット外側に突出する結合用フランジ10とを有している。これに対して、第1衛星S1の下端部には、支持体2における結合用フランジ10の上面に当接する結合用フランジ11を有している。
【0018】
上記支持体2に対して、結合手段5は、周知の分離バンドであって、金属製のバンド5Aの片面に、上下に当接させた結合用フランジ10,11に係合する適数のコマ5Bを設けたものである。この結合手段5は、各支持体2の上端部を通る円周の約半分の長さを有するものを2本備えていて、それらの端部同士をボルトやセパレーションナット等の連結具で連結して全周を緊締し、各支持体2と第1衛星S1を分離可能に結合する。なお、連結具としてボルトを用いた場合には、ボルトカッタが装着される。
【0019】
分離用ロッド6は、支持体2のガイド片8及び支持片9を上下動自在に貫通し、上端側となる頭部6Aを第1衛星S1の下部に当接させている。分離用スプリング7は、圧縮コイルばねであって、分離用ロッド6の外側に装着してあり、ガイド片8を上下に貫通した状態で、分離用ロッド6の頭部6Aと支持片9との間に介装されている。なお、分離用ロッド6は、上限位置を規制する部分を設けることで、支持体2から離脱しない構成にしても良く、これにより分離用スプリング7の離脱も防止できる。
【0020】
さらに、分離装置は、衛星基台1に、分離用スプリング7を圧縮した状態において分離用ロッド6により上方向の移動が規制された支持体拘束用のストッパ12と、ストッパ12に上方向の力を付与する移動用スプリング13とを備えると共に、支持体2に、ストッパ12と係合し且つストッパ12の上限位置で係合を解除するストッパ受け部14を備えている。
【0021】
ストッパ12は、逆L字形の部材であり、先述した分離用ロッド6の下側において、上部の水平辺12Aをロケット外側に向けた状態にして、衛星基台1に上下動自在に取り付けてある。ストッパ12は、水平辺12Aの先端に、横方向(図2の紙面垂直方向)に突出した係合部12Bを有している。そして、ストッパ12は、分離用ロッド6に対して、垂直辺12Cが同軸線上となるように配置してあると共に、垂直辺12Cの外側に、移動用スプリング13が装着してある。また、移動用スプリング13は、圧縮コイルばねであって、ストッパ12の水平辺12Aと衛星基台1側に設けたばね座15との間に介装されている。なお、ストッパ12は、分離用ロッド6と同様に、上限位置を規制する部分を設けることで、衛星基台1から離脱しない構成にしても良く、これにより移動用スプリング13の離脱も防止できる。
【0022】
他方、ストッパ受け部14は、支持体2の下端部近傍に形成した逆L字形のスリット若しくは溝であって、ストッパ12の係合部12Bが摺動自在に係合する幅寸法を有し、上部の水平辺14Aがロケット内側に開放されている。これにより、ストッパ受け部14は、垂直辺14Bにおいて、ストッパ12の係合部12Bと係合すると共に、ロケット内側に開放された水平辺14Aにおいて、ストッパ12の上限位置で係合部12Bとの係合を解除するものとなっている。
【0023】
上記構成を備えた人工衛星の分離装置は、図2に示すように、第1衛星S1及び第2衛星S2を搭載した状態では、分離用ロッド6が下降限に位置して、頭部6Aと支持片9との間で分離用スプリング7を圧縮している。また、分離用ロッド6の下端部にストッパ12の上端部が当接し、これにより、ストッパ12が下降限に規制されて、水平辺12Aとばね座15との間で移動用スプリング13を圧縮している。さらに、分離装置は、ストッパ12の係合部12Bとストッパ受け部14の垂直辺14Bとが係合している。
【0024】
この際、各支持体2は、展開用スプリング4の反発力に抗した状態で起立し、上段分離機構J1の結合手段5、及びストッパ12とストッパ受け部14との係合により拘束されて、第1衛星S1を充分な強度で支持している。
【0025】
上記の分離装置は、フェアリングFを開放すると、各支持体2により支持された第1衛星S1が宇宙空間に曝露状態になり、この状態で上段分離機構J1を作動させて第1衛星S1を分離する。この際、上段分離機構J1は、図3(A)に示すように、連結具を解除して結合手段(分離バンド)5を分離することで、第1衛星S1と各支持体2との結合を解除し、それまで圧縮されていた分離用スプリング7の作用により、分離用ロッド6を介して第1衛星S1を分離させる。
【0026】
続いて、分離装置は、図3(B)に示すように、第1衛星S1の分離動作に伴って、展開用スプリング4の作用により各支持体2がロケット外側へ自動的に回動し、第2衛星S2を宇宙空間に曝露状態にする。
【0027】
すなわち、分離装置は、分離用スプリング7により分離用ロッド6が上昇すると、それまで圧縮されていた移動用スプリング13の作用により、分離用ロッド6に連動してストッパ12が上昇する。この間、ストッパ12は、係合部12Bがストッパ受け部14の垂直辺14Bを上昇し、係合部12Bが上限位置である水平辺14Aに達すると、ストッパ受け部14との係合が解除される。
【0028】
つまり、ストッパ受け部14は、水平辺14Aがロケット内側に開放されているので、この水平辺14Aにおいて、ストッパ12の係合部12Bがロケット内側へ離脱可能となる。また、各支持体2は、展開用スプリング4の反発力が付与されているので、ストッパ12とストッパ受け部14との係合解除に伴って、ロケット外側に自動的に回動する。
【0029】
これにより、分離装置は、第1衛星S1の分離後に、全ての支持体2がロケット外側に自動的に展開することとなり、第2衛星S2を宇宙空間に曝露状態にする。このように、分離装置は、各支持体2をロケット外側に回動させることで、第2衛星S2の周囲を空間のみにし、確実な分離を実施できる環境にする。その後、分離装置は、図3(C)に示すように、下段分離機構J2を作動させて第2衛星S2を分離する。なお、図3(C)には、下段分離機構J2の一構成としての分離用スプリング16及び分離用ロッド17を示している。
【0030】
なお、第1及び第2の衛星S1,S2の分離過程では、衛星基台1を含むロケット最上段の姿勢制御が行われることがあり、分離後には、軌道上の障害にならないようにロケット最上段の処理(軌道変更など)が行われる。
【0031】
上記実施形態の人工衛星の分離装置は、各支持体が、第1衛星の支持機能と分離機能とを兼ね備えたものとなっており、上下の人工衛星の間にアダプタを備えた従来の分離装置に比べて、アダプタやその駆動機構が不要であるから、部品点数を大幅に削減することができる。しかも、分離装置は、第1衛星S1の分離後には、展開用スプリング4だけの簡易な構造により各支持体2が自動的に回動し、各支持体2が衛星基台1から分離することもない。これにより、分離装置は、構造及び制御の簡略化や軽量化を実現することができると共に、軌道上の障害になるデブリの発生も防ぐことができる。
【0032】
また、上記の分離装置は、結合手段5、分離用ロッド6、及び分離用スプリング7を備えた上段分離機構J1を採用し、衛星基台1に、移動用スプリング13により分離用ロッド6に連動する支持体拘束用のストッパ12を備えると共に、支持体2に、ストッパ12と係合し且つその上限位置で係合を解除するストッパ受け部14を備えたことから、第1衛星S1を完全に分離した後に支持体2が回動することとなり、第1衛星S1の分離と支持体2の回動とをより確実に行うことができる。
【0033】
なお、本発明に係わる人工衛星の分離装置は、ストッパ12及びストッパ受け部14を用いない構成であっても、第1衛星S1の分離と支持体2の回動を行うことが充分に可能であり、一例として、第1衛星S1又は支持体2に分離用の案内手段を設けることも可能である。ただし、分離装置は、上記のストッパ12及びストッパ受け部14を採用すれば、極めて簡単な構造としたうえで、第1衛星S1の分離と、これに続く支持体2の回動を確実に且つ円滑に行うことができる。
【0034】
本発明に係わる人工衛星の分離装置は、その構成が上記実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成を変更することが可能である。例えば、上段及び下段の分離機構や、上段分離機構の結合手段には、火工品を含む各種の結合分離装置を採用することができ、また、支持体にあっても、形状や数を変更することが当然可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 衛星基台
2 支持体
4 展開用スプリング
5 結合手段(上段分離機構)
6 分離用ロッド(上段分離機構)
7 分離用スプリング(上段分離機構)
12 ストッパ
13 移動用スプリング
14 ストッパ受け部
F フェアリング
J1 上段分離機構
J2 下段分離機構
R ロケット
S1 第1衛星
S2 第2衛星
図1
図2
図3