特許第6637306号(P6637306)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電子株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6637306-分析方法および分光装置 図000003
  • 特許6637306-分析方法および分光装置 図000004
  • 特許6637306-分析方法および分光装置 図000005
  • 特許6637306-分析方法および分光装置 図000006
  • 特許6637306-分析方法および分光装置 図000007
  • 特許6637306-分析方法および分光装置 図000008
  • 特許6637306-分析方法および分光装置 図000009
  • 特許6637306-分析方法および分光装置 図000010
  • 特許6637306-分析方法および分光装置 図000011
  • 特許6637306-分析方法および分光装置 図000012
  • 特許6637306-分析方法および分光装置 図000013
  • 特許6637306-分析方法および分光装置 図000014
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6637306
(24)【登録日】2019年12月27日
(45)【発行日】2020年1月29日
(54)【発明の名称】分析方法および分光装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/2276 20180101AFI20200120BHJP
【FI】
   G01N23/2276
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-246071(P2015-246071)
(22)【出願日】2015年12月17日
(65)【公開番号】特開2017-111022(P2017-111022A)
(43)【公開日】2017年6月22日
【審査請求日】2018年7月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(72)【発明者】
【氏名】内田 達也
【審査官】 佐藤 仁美
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第08658973(US,B1)
【文献】 特開昭57−045481(JP,A)
【文献】 特開2007−003532(JP,A)
【文献】 特開2014−173864(JP,A)
【文献】 特開2008−020386(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00−23/2276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オージェスペクトルを分析するための分析方法であって、
分析対象となる第1のオージェスペクトルを取得する第1スペクトル取得工程と、
標準試料を測定して得られた第2のオージェスペクトルを取得する第2スペクトル取得工程と、
前記第1のオージェスペクトルの分解能と前記第2のオージェスペクトルの分解能との差が大きい場合に、前記第1のオージェスペクトルおよび前記第2のオージェスペクトルの少なくとも一方に対して分解能を変換する計算を行うことにより、前記第1のオージェスペクトルの分解能と前記第2のオージェスペクトルの分解能との差を小さくする分解能変換工程と、
前記分解能変換工程において分解能の差を小さくした前記第1のオージェスペクトルおよび前記第2のオージェスペクトルに基づいて、定性分析および定量分析の少なくとも一方を行う分析工程と、
を含み、
前記分解能変換工程では、
前記第1スペクトル取得工程で取得された前記第1のオージェスペクトルおよび前記第2スペクトル取得工程で取得された前記第2のオージェスペクトルのうちの一方の分解能が一定であり、他方の分解能がエネルギーとともに変化する場合に、
前記第1のオージェスペクトルおよび前記第2のオージェスペクトルの両方の分解能が一定になるように、またはエネルギーとともに変化するように前記計算を行う、分析方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記計算は、分解能関数の畳み込み演算により行われる、分析方法。
【請求項3】
オージェスペクトルを取得するための分光装置であって、
分析対象となる第1のオージェスペクトルを取得する第1スペクトル取得部と、
標準試料を測定して得られた第2のオージェスペクトルを取得する第2スペクトル取得部と、
前記第1のオージェスペクトルの分解能と前記第2のオージェスペクトルの分解能との差が大きい場合に、前記第1のオージェスペクトルおよび前記第2のオージェスペクトルの少なくとも一方に対して分解能を変換する計算を行うことにより、前記第1のオージェスペクトルの分解能と前記第2のオージェスペクトルの分解能との差を小さくする分解能変換部と、
前記分解能変換部において分解能の差を小さくした前記第1のオージェスペクトルおよび前記第2のオージェスペクトルに基づいて、定性分析および定量分析の少なくとも一方を行う分析部と、
を含み、
前記分解能変換部は、
前記第1スペクトル取得部で取得された前記第1のオージェスペクトルおよび前記第2スペクトル取得部で取得された前記第2のオージェスペクトルのうちの一方の分解能が一定であり、他方の分解能がエネルギーとともに変化する場合に、
前記第1のオージェスペクトルおよび前記第2のオージェスペクトルの両方の分解能が一定になるように、またはエネルギーとともに変化するように前記計算を行う、分光装置。
【請求項4】
請求項において、
前記計算は、分解能関数の畳み込み演算により行われる、分光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析方法および分光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
オージェ電子分光装置(Auger Electron Microscope、AES)で測定したオージェスペクトルを用いて、定性分析・定量分析を行うことができる。例えば、測定したオージェスペクトルと標準試料のオージェスペクトルとを比較することにより、定性分析・定量分析を行うことができる(例えば特許文献1参照)。
【0003】
測定したオージェスペクトルと標準試料のオージェスペクトルとを比較して、精度良く定性分析・定量分析を行うためには、測定したオージェスペクトルの分解能と標準試料のオージェスペクトルの分解能とは一致していることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−020386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、オージェスペクトルの分解能と感度にはトレードオフの関係がある。また、オージェ電子分光装置で使用される分光器は、エネルギー分解能が可変であることから、測定毎にエネルギー分解能を変更する場合が多い。そのため、分析対象の試料のオージェスペクトルの分解能と標準試料のオージェスペクトルの分解能との差が大きい場合がある。
【0006】
このような場合には、分析対象の試料のオージェスペクトルの分解能と標準試料のオージェスペクトルの分解能との差が小さくなるように(またはエネルギー分解能の差が同じになるように)、分析対象の試料および標準試料の少なくとも一方の測定を、再度行わなければならなかった。試料によっては再測定が困難な場合もあり、また、再測定には時間がかかってしまうという問題もある。
【0007】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様に係る目的の1つは、分析対象のオージェスペクトルの分解能と標準試料のオージェスペクトルの分解能との差が大きい場合であっても、容易にオージェスペクトルの分析を行うことができる分析方法および分光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係る分析方法は、
オージェスペクトルを分析するための分析方法であって、
分析対象となる第1のオージェスペクトルを取得する第1スペクトル取得工程と、
標準試料を測定して得られた第2のオージェスペクトルを取得する第2スペクトル取得工程と、
前記第1のオージェスペクトルの分解能と前記第2のオージェスペクトルの分解能との差が大きい場合に、前記第1のオージェスペクトルおよび前記第2のオージェスペクトルの少なくとも一方に対して分解能を変換する計算を行うことにより、前記第1のオージェスペクトルの分解能と前記第2のオージェスペクトルの分解能との差を小さくする分解能変換工程と、
前記分解能変換工程において分解能の差を小さくした前記第1のオージェスペクトルおよび前記第2のオージェスペクトルに基づいて、定性分析および定量分析の少なくとも一方を行う分析工程と、
を含み、
前記分解能変換工程では、
前記第1スペクトル取得工程で取得された前記第1のオージェスペクトルおよび前記第2スペクトル取得工程で取得された前記第2のオージェスペクトルのうちの一方の分解能が一定であり、他方の分解能がエネルギーとともに変化する場合に、
前記第1のオージェスペクトルおよび前記第2のオージェスペクトルの両方の分解能が一定になるように、またはエネルギーとともに変化するように前記計算を行う
【0009】
このような分析方法では、分析対象のオージェスペクトルの分解能と標準試料のオージェスペクトルの分解能との差が大きい場合であっても、分析対象のオージェスペクトルの分解能と標準試料のオージェスペクトルの分解能との差を小さくするための再測定の必要がなく、容易にオージェスペクトルの分析を行うことができる。また、このような分析方法では、第1のオージェスペクトルの分析モードと第2のオージェスペクトルの分析モードが異なる場合であっても、第1のオージェスペクトルおよび第2のオージェスペクトルに基づいて、分析を行うことができる。
【0010】
(2)本発明に係る分析方法において、
前記計算は、分解能関数の畳み込み演算により行われてもよい。
【0013】
)本発明に係る分光装置は、
オージェスペクトルを取得するための分光装置であって、
分析対象となる第1のオージェスペクトルを取得する第1スペクトル取得部と、
標準試料を測定して得られた第2のオージェスペクトルを取得する第2スペクトル取得部と、
前記第1のオージェスペクトルの分解能と前記第2のオージェスペクトルの分解能との差が大きい場合に、前記第1のオージェスペクトルおよび前記第2のオージェスペクトルの少なくとも一方に対して分解能を変換する計算を行うことにより、前記第1のオージェスペクトルの分解能と前記第2のオージェスペクトルの分解能との差を小さくする分解能変換部と、
前記分解能変換部において分解能の差を小さくした前記第1のオージェスペクトルおよび前記第2のオージェスペクトルに基づいて、定性分析および定量分析の少なくとも一方を行う分析部と、
を含み、
前記分解能変換部は、
前記第1スペクトル取得部で取得された前記第1のオージェスペクトルおよび前記第2スペクトル取得部で取得された前記第2のオージェスペクトルのうちの一方の分解能が一定であり、他方の分解能がエネルギーとともに変化する場合に、
前記第1のオージェスペクトルおよび前記第2のオージェスペクトルの両方の分解能が一定になるように、またはエネルギーとともに変化するように前記計算を行う
【0014】
このような分光装置では、分析対象のオージェスペクトルの分解能と標準試料のオージェスペクトルの分解能との差が大きい場合であっても、分析対象のオージェスペクトルの
分解能と標準試料のオージェスペクトルの分解能との差を小さくするための再測定の必要がなく、容易にオージェスペクトルの分析を行うことができる。また、このような分光装置では、第1のオージェスペクトルの分析モードと第2のオージェスペクトルの分析モードが異なる場合であっても、第1のオージェスペクトルおよび第2のオージェスペクトルに基づいて、分析を行うことができる。
【0015】
)本発明に係る分光装置において、
前記計算は、分解能関数の畳み込み演算により行われてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態に係る分光装置を模式的に示す図。
図2】本実施形態に係る分析方法の一例を示すフローチャート。
図3】第1のオージェスペクトルおよび第2のオージェスペクトルを示す図。
図4】第1のオージェスペクトルの微分スペクトルおよび第2のオージェスペクトルの微分スペクトルを示す図。
図5】第1のオージェスペクトルの微分スペクトルおよび第2のオージェスペクトルの微分スペクトルの低エネルギー側を拡大して示す図。
図6】第1のオージェスペクトルの微分スペクトルおよび第2のオージェスペクトルの微分スペクトルの高エネルギー側を拡大して示す図。
図7】第1のオージェスペクトルおよび分解能変換された第2のオージェスペクトルを示す図。
図8】第1のオージェスペクトルの微分スペクトルおよび分解能変換された第2のオージェスペクトルの微分スペクトルを示す図。
図9】第1のオージェスペクトルの微分スペクトルおよび分解能変換された第2のオージェスペクトルの微分スペクトルの低エネルギー側を拡大して示す図。
図10】第1のオージェスペクトルの微分スペクトルおよび分解能変換された第2のオージェスペクトルの微分スペクトルの高エネルギー側を拡大して示す図。
図11】第1のオージェスペクトルのエネルギー分解能を示すグラフ。
図12】第2のオージェスペクトルのエネルギー分解能を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0020】
1. 分光装置
まず、本実施形態に係る分光装置について図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係る分光装置100を模式的に示す図である。
【0021】
分光装置100は、オージェ電子分光装置である。オージェ電子分光装置は、オージェ電子分光法(Auger electron spectroscopy、AES)により試料の分析を行う。オージェ電子分光法は、電子線等により励起されて試料から放出されるオージェ電子のエネルギーを測定することによって試料表面に局在する元素の分析を行う手法である。
【0022】
分光装置100は、図1に示すように、電子線源10と、集束レンズ20と、対物レンズ30と、偏向部40と、試料ステージ50と、分光部60と、処理部70と、操作部80と、表示部82と、記憶部84と、を含んで構成されている。
【0023】
電子線源10は、電子線EBを発生させる。電子線源10は、例えば、公知の電子銃であり、陰極から放出された電子を陽極で加速して電子線EBを放出する。
【0024】
集束レンズ20は、電子線源10の後段(電子線EBの下流側)に配置されている。対物レンズ30は、集束レンズ20の後段に配置されている。集束レンズ20および対物レンズ30は、電子線EBを集束させるためのレンズである。
【0025】
偏向部40は、集束レンズ20と対物レンズ30との間に配置されている。偏向部40は、集束レンズ20および対物レンズ30によって集束された電子線EBを偏向させる。偏向部40を用いて、電子線EBを試料S上の所望の位置に照射することができる。
【0026】
試料ステージ50は、試料Sを保持している。試料ステージ50は、試料Sを移動させることができる。
【0027】
分光部60は、試料Sから放出されたオージェ電子を分光し、検出する。分光部60は、オージェ電子分光器を含んで構成されている。分光部60を構成しているオージェ電子分光器は、例えば、静電半球型アナライザーである。静電半球型アナライザーは、内半球電極と、外半球電極と、を有している。内半球電極と外半球電極との間には、所定の設定電圧が印加され、当該設定電圧により電子のパスエネルギーが決まる。分光部60は、さらに、静電半球型アナライザーに入射する電子を減速させる減速レンズを含んで構成されている。
【0028】
ここで、分光装置100は、分析モードとして、CAE(Constant Analyzer Energy)モードと、CRR(Constant Retarding Ratio)モードと、を有している。
【0029】
CAEモードは、試料Sから放出された電子の運動エネルギーに関わらず、電子がオージェ電子分光器を通過するときのエネルギーが常に一定(すなわちパスエネルギーが一定)になるようにするモードである。CAEモードでは、内半球電極と外半球電極の間に印加する電位差を一定の値に保ち、減速レンズの印加電圧を掃引する。CAEモードでは、エネルギー分解能ΔEはすべてのエネルギー範囲で同じである。すなわち、CAEモードでは、ΔE=一定である。
【0030】
CRRモードは、測定する電子の運動エネルギーに応じて一定の比率で電子を減速するモードである。CRRモードでは、内半球電極と外半球電極の間に印加する電位差を減速レンズの印加電圧とともに掃引し、電子を一定の減速比で分光する。CRRモードでは、エネルギー分解能ΔEはエネルギーE(電子の運動エネルギー)によって変化する。CRRモードでは、ΔE/E=一定である。
【0031】
信号処理部62は、例えば、増幅器と、A/D変換器と、を含んで構成されている。信号処理部62は、分光部60の出力信号を増幅した後、アナログデジタル変換して、スペクトル信号として処理部70に送る。スペクトル信号は、電子の運動エネルギーをパラメーターとした計数値の情報を含む。
【0032】
操作部80は、ユーザーによる操作に応じた操作信号を取得し、処理部70に送る処理を行う。操作部80は、例えば、ボタン、キー、タッチパネル型ディスプレイ、マイクなどである。
【0033】
表示部82は、処理部70によって生成された画像を表示するものであり、その機能は
、LCD、CRTなどにより実現できる。表示部82は、例えば、分析対象となるオージェスペクトル(第1のオージェスペクトル)、および標準試料を測定して得られたオージェスペクトル(第2のオージェスペクトル)を表示する。また、表示部82は、例えば、処理部70でのスペクトルの分析結果を表示する。
【0034】
記憶部84は、処理部70が各種の計算処理や制御処理を行うためのプログラムやデータ等を記憶している。また、記憶部84は、処理部70の作業領域として用いられ、処理部70が各種プログラムに従って実行した算出結果等を一時的に記憶するためにも使用される。記憶部84の機能は、ハードディスク、RAMなどにより実現できる。
【0035】
処理部70は、分光装置100の光学系等の制御や、信号処理部62から出力されたスペクトル信号に基づきスペクトルを生成する処理、スペクトルを分析する処理等の処理を行う。処理部70の機能は、各種プロセッサ(CPU、DSP等)などのハードウェアや、プログラムにより実現できる。処理部70は、第1スペクトル取得部72と、第2スペクトル取得部74と、分解能変換部76と、分析部78と、制御部79と、を含む。
【0036】
第1スペクトル取得部72は、分析対象となるオージェスペクトル(第1のオージェスペクトル)を取得する。第1のオージェスペクトルは、例えば、分光装置100で分析対象となる試料Sを測定して得られたオージェスペクトルである。
【0037】
第2スペクトル取得部74は、標準試料を測定して得られたオージェスペクトル(第2のオージェスペクトル)を取得する。第2のオージェスペクトルは、例えば、分光装置100で標準試料を測定して得られたオージェスペクトルである。
【0038】
なお、第2スペクトル取得部74は、あらかじめ記憶部84に記憶されている第2のオージェスペクトルを読み出して、第2のオージェスペクトルを取得してもよい。このとき、記憶部84に記憶されている第2のオージェスペクトルは、分光装置100で測定されたものであってもよいし、他の分光装置で測定されたものであってもよい。
【0039】
ここで、第1のオージェスペクトルの分解能と第2のオージェスペクトルの分解能との差が大きい場合、第1のオージェスペクトルのオージェ電子ピークと、第2のオージェスペクトルのオージェ電子ピークとは、ピーク値および形状が異なる。そのため、第1のオージェスペクトルと第2のオージェスペクトルとを比較して、定性分析および定量分析を行うことができない。
【0040】
そのため、分解能変換部76は、第1のオージェスペクトルの分解能と第2のオージェスペクトルの分解能との差が大きい場合に、第1のオージェスペクトルおよび第2のオージェスペクトルの少なくとも一方に対して分解能を変換する計算を行うことにより、第1のオージェスペクトルの分解能と第2のオージェスペクトルの分解能との差を小さくする処理を行う。
【0041】
分解能変換部76は、第1のオージェスペクトルおよび第2のオージェスペクトルの少なくとも一方に対して分解能関数の畳み込み演算を行うことにより、第1のオージェスペクトルの分解能と第2のオージェスペクトルの分解能との差を小さくする。
【0042】
分解能関数の畳み込み演算は、例えば、下記式(1)で表される。
【0043】
【数1】
【0044】
ただし、I(x)は、分解能変換されたオージェスペクトルである。また、f(x)は、分解能変換される前のオージェスペクトルである。また、g(x)は、分解能関数である。
【0045】
分解能変換部76は、第1のオージェスペクトル(f(x))に対して分解能関数(g(x))の畳み込みを行うことにより、第1のオージェスペクトルの分解能を変換して、第1のオージェスペクトルの分解能と第2のオージェスペクトルの分解能との差を小さくする。
【0046】
すなわち、分解能変換部76は、分解能変換された第1のオージェスペクトル(I(x))の分解能と第2のオージェスペクトルの分解能との差が、分解能変換される前の第1のオージェスペクトル(f(x))の分解能と第2のオージェスペクトルの分解能との差よりも小さくなるように、第1のオージェスペクトルに対して分解能の変換を行う。
【0047】
なお、分解能変換部76は、第2のオージェスペクトルに対して分解能関数の畳み込みを行って、第1のオージェスペクトルの分解能と第2のオージェスペクトルの分解能との差を小さくしてもよい。また、分解能変換部76は、第1のオージェスペクトルおよび第2のオージェスペクトルの両方に対して分解能関数の畳み込みを行って、第1のオージェスペクトルの分解能と第2のオージェスペクトルの分解能との差を小さくしてもよい。
【0048】
分解能変換部76は、例えば、第1のオージェスペクトルおよび第2のオージェスペクトルのうち分解能が高いスペクトルに対して、分解能の変換を行う。分解能関数の畳み込み演算による分解能の変換では、スペクトルの分解能を低下させる計算は、スペクトルの分解能を向上させる計算に比べて、計算が容易であるためである。
【0049】
分解能関数は、例えば、ガウス分布である。なお、分解能関数はガウス分布に限定されず、ガウス分布以外の関数であってもよい。
【0050】
なお、分解能変換部76は、分解能関数の畳み込み演算以外の手法により、第1のオージェスペクトルの分解能と第2のオージェスペクトルの分解能との差を小さくしてもよい。例えば、分解能変換部76は、第1のオージェスペクトルおよび第2のオージェスペクトルのうちの分解能が高い方を平滑化(スムージング)することにより分解能を低下させて、第1のオージェスペクトルの分解能と第2のオージェスペクトルの分解能との差を小さくしてもよい。
【0051】
分析部78は、分解能変換部76において分解能の差を小さくした第1のオージェスペクトルおよび第2のオージェスペクトルに基づいて、定性分析および定量分析の少なくとも一方を行う。
【0052】
なお、上述した第1スペクトル取得部72、第2スペクトル取得部74、分解能変換部76、および分析部78の処理の詳細については、後述する「2. 分析方法」で説明する。
【0053】
制御部79は、電子線源10、集束レンズ20、対物レンズ30、偏向部40、および試料ステージ50を制御する。制御部79は、電子線源10、集束レンズ20、対物レン
ズ30、偏向部40、試料ステージ50を制御するための制御信号を生成し出力する。制御信号は、電源制御装置90に入力される。電源制御装置90は、当該制御信号を受けて、電子線源10、集束レンズ20、対物レンズ30、偏向部40、および試料ステージ50に電源を供給し、これらを動作させる。
【0054】
本実施形態に係る分光装置100は、例えば、以下の特徴を有する。
【0055】
分光装置100では、分解能変換部76が、第1のオージェスペクトルの分解能と第2のオージェスペクトルの分解能との差が大きい場合に、第1のオージェスペクトルおよび第2のオージェスペクトルの少なくとも一方に対して分解能を変換する計算を行うことにより、第1のオージェスペクトルの分解能と第2のオージェスペクトルの分解能との差を小さくする。そのため、分光装置100によれば、分析対象のオージェスペクトルの分解能と標準試料のオージェスペクトルの分解能との差が大きい場合であっても、分析対象のオージェスペクトルの分解能と標準試料のオージェスペクトルの分解能との差を小さくするための再測定の必要がなく、容易にオージェスペクトルの分析を行うことができる。
【0056】
2. 分析方法
次に、本実施形態に係る分析方法について、図面を参照しながら説明する。以下では、分光装置100によるオージェスペクトルの分析方法について説明する。
【0057】
図2は、本実施形態に係る分析方法の一例を示すフローチャートである。
【0058】
(1)第1スペクトル取得工程(ステップS100)
まず、第1スペクトル取得部72が分析対象となる試料Sのオージェスペクトル(第1のオージェスペクトル)を取得する。以下、試料Sがシリコン(Si)である例について説明する。
【0059】
第1のオージェスペクトルは、分析対象となる試料Sを分光装置100で測定することで得ることができる。
【0060】
具体的には、まず、ユーザーが操作部80で電子線EBの照射条件(電子線の加速電圧、各レンズ電流、電子線の照射個所等)を指定する。制御部79は操作部80で指定された照射条件に基づいて、電源制御装置90に指令を送る。
【0061】
これにより、電子線源10から放出され所定の加速電圧で加速された電子線EBが、集束レンズ20と対物レンズ30により細く絞られて試料S上に集束され、偏向部40により偏向されて、試料S上の所定個所に照射される。
【0062】
電子線EBの照射により試料Sから発生したオージェ電子は、分光部60により分光・検出される。分光部60の出力信号は、信号処理部62を介して、スペクトル信号として処理部70に送られ、記憶部84に記憶される。第1スペクトル取得部72は、記憶部84に記憶されたスペクトル信号を読み出して、第1のオージェスペクトルを取得する。
【0063】
(2)第2スペクトル取得工程(ステップS102)
次に、第2スペクトル取得部74が標準試料を測定して得られたオージェスペクトル(第2のオージェスペクトル)を取得する。
【0064】
第2スペクトル取得部74は、あらかじめ記憶部84に記憶されていたSiの標準試料を測定して得られた第2のオージェスペクトルを読み出して、第2のオージェスペクトルを取得する。また、第2スペクトル取得部74は、上述したステップS100と同様に、
分光装置100でSiの標準試料を測定することによって第2のオージェスペクトルを取得してもよい。
【0065】
図3は、第1のオージェスペクトルおよび第2のオージェスペクトルを示す図である。
【0066】
第1のオージェスペクトルは、CRRモードで測定されている。第1のオージェスペクトルは、試料S(Si)の電子のエネルギーEに対してエネルギー分解能ΔEを、ΔE/E=0.40%として測定し、得られたものである。
【0067】
第2のオージェスペクトルは、CRRモードで測定されている。第2のオージェスペクトルは、標準試料(Si)の電子のエネルギーEに対してエネルギー分解能ΔEを、ΔE/E=0.05%として測定し、得られたものである。
【0068】
このように第1のオージェスペクトルと第2のオージェスペクトルとは、ともにCRRモードで測定されているが、ΔE/Eが異なっている。
【0069】
図4は、第1のオージェスペクトルの微分スペクトルおよび第2のオージェスペクトルの微分スペクトルを示す図である。図5は、第1のオージェスペクトルの微分スペクトルおよび第2のオージェスペクトルの微分スペクトルの低エネルギー側を拡大して示す図である。図6は、第1のオージェスペクトルの微分スペクトルおよび第2のオージェスペクトルの微分スペクトルの高エネルギー側を拡大して示す図である。
【0070】
オージェスペクトルはバックグラウンドが大きいため、図3に示す第1のオージェスペクトルおよび第2のオージェスペクトルをそれぞれ微分して、図4に示す第1のオージェスペクトルの微分スペクトルおよび第2のオージェスペクトルの微分スペクトルとしている。
【0071】
分析対象となる試料SはSiであるため、第1のオージェスペクトルと、Siの標準試料を測定して得られた第2のオージェスペクトルとはピーク値および形状が一致するはずである。しかしながら、図4および図6に示すように、第1のオージェスペクトルと第2のオージェスペクトルとは、ピーク値および形状が異なっている。すなわち、第1のオージェスペクトルおよび第2のオージェスペクトルに対して最小二乗法により残差を算出したときに、当該残差が大きくなる。
【0072】
(3)判定工程(ステップS103)
上記のように、第1のオージェスペクトルの分解能と第2のオージェスペクトルの分解能との差が大きい場合、定性分析および定量分析を行うためには、第1のオージェスペクトルの分解能と第2のオージェスペクトルの分解能との差を小さくしなければならない。
【0073】
そのため、分解能変換部76は、第1のオージェスペクトルの分解能と第2のオージェスペクトルの分解能との差が所定値よりも大きいか否かの判定を行う(ステップS103)。
【0074】
(4)分解能変換工程(ステップS104)
第1のオージェスペクトルの分解能と第2のオージェスペクトルの分解能との差が所定値よりも大きいと判定された場合(ステップS103でYesの場合)、分解能変換部76は、第1のオージェスペクトルおよび第2のオージェスペクトルの少なくとも一方に対して分解能を変換する計算を行う。
【0075】
分解能変換部76は、第1のオージェスペクトルの分解能と第2のオージェスペクトル
の分解能を比べて、分解能が高いスペクトルに対して、分解能を変換する計算を行う。ここでは、第2のオージェスペクトルの分解能が第1のオージェスペクトルの分解能よりも高いため、分解能変換部76は第2のオージェスペクトルに対して分解能を変換する計算を行う。
【0076】
分解能変換部76は、分解能関数としてガウス分布を使用する。ガウス分布を使用した場合の分解能の関係は以下の通りである。
【0077】
畳み込み後のスペクトルの分解能=((畳み込み前のスペクトルの分解能)+(分解能関数の分解能)0.5
【0078】
ここでは、分解能変換部76は、第2のオージェスペクトルの各エネルギーでの分解能がΔE/E=0.05%からΔE/E=0.40%となるように分解能関数の畳み込み演算を行う。そのため、上記式において、畳み込み後のスペクトルの分解能はΔE/E=0.40%であり、畳み込み前のスペクトルの分解能はΔE/E=0.05%である。したがって、上記式から、分解能関数の分解能を算出することができる。
【0079】
このようにして、分解能変換部76は、第2のオージェスペクトルの各エネルギーでの分解能が、ΔE/E=0.40%となるように第2のオージェスペクトルに対して分解能関数の畳み込み演算を行う。
【0080】
図7は、第1のオージェスペクトルおよび分解能変換された第2のオージェスペクトルを示す図である。図8は、第1のオージェスペクトルの微分スペクトルおよび分解能変換された第2のオージェスペクトルの微分スペクトルを示す図である。図9は、第1のオージェスペクトルの微分スペクトルおよび分解能変換された第2のオージェスペクトルの微分スペクトルの低エネルギー側を拡大して示す図である。図10は、第1のオージェスペクトルの微分スペクトルおよび分解能変換された第2のオージェスペクトルの微分スペクトルの高エネルギー側を拡大して示す図である。
【0081】
図7図10に示すように、第1のオージェスペクトルと分解能変換された第2のオージェスペクトルとは、図3図6に示す第1のオージェスペクトルと第2のオージェスペクトルと比べて、ピーク値が近く、かつ形状が似通っている。第1のオージェスペクトルおよび分解能変換された第2のオージェスペクトルに対して最小二乗法により残差を算出したときに、当該残渣は、第2のオージェスペクトルを分解能変換する前と比べて、小さくなる。
【0082】
(5)分析工程(ステップS106)
次に、分析部78は、分解能変換部76において分解能の差を小さくした第1のオージェスペクトルおよび第2のオージェスペクトルに基づいて、定性分析および定量分析を行う。ここでは、分析部78は、第1のオージェスペクトルおよび分解能変換された第2のオージェスペクトルに基づいて、定性分析および定量分析を行う。
【0083】
第1のオージェスペクトルは、分析対象となる試料としてSiを測定して得られたものであり、第2のオージェスペクトルは、標準試料としてSiを測定して得られたものであるから、分析部78は、第1のオージェスペクトルおよび第2のオージェスペクトルを比較して、定性分析を行うことができる。また、第1のオージェスペクトルと第2のオージェスペクトルに対して最小二乗法によるフィッティングを行い、このときの第2のオージェスペクトルに掛かる係数を定量値とすることにより、定量分析を行うことができる。
【0084】
一方、第1のオージェスペクトルの分解能と第2のオージェスペクトルの分解能との差が所定値以下であると判定された場合(ステップS103でNoの場合)、第1のオージェスペクトルおよび第2のオージェスペクトルに対する分解能の変換は行われない。分析部78は、分解能の変換が行われていない第1のオージェスペクトルおよび第2のオージェスペクトルに基づいて、定性分析および定量分析を行う。
【0085】
このようにして、分析部78は、定性分析および定量分析を行う。
【0086】
以上の処理により、オージェスペクトルを分析することができる。
【0087】
本実施形態に係る分析方法は、例えば、以下の特徴を有する。
【0088】
本実施形態に係る分析方法は、第1のオージェスペクトルの分解能と第2のオージェスペクトルの分解能との差が大きい場合に、第1のオージェスペクトルおよび第2のオージェスペクトルの少なくとも一方に対して分解能を変換する計算を行うことにより、第1のオージェスペクトルの分解能と第2のオージェスペクトルの分解能との差を小さくする分解能変換工程と、分解能変換工程において分解能の差を小さくした第1のオージェスペクトルおよび第2のオージェスペクトルに基づいて、定性分析および定量分析の少なくとも一方を行う分析工程と、を含む。
【0089】
このように、本実施形態に係る分析方法では、第1のオージェスペクトルの分解能および第2のオージェスペクトルの分解能の少なくとも一方に対して分解能を変換する計算を行うことにより、第1のオージェスペクトルの分解能と第2のオージェスペクトルの分解能との差を小さくする工程を含む。そのため、分析対象のオージェスペクトルの分解能と標準試料のオージェスペクトルの分解能との差が大きい場合であっても、分析対象のオージェスペクトルの分解能と標準試料のオージェスペクトルの分解能との差を小さくするための再測定の必要がなく、容易にオージェスペクトルの分析を行うことができる。
【0090】
また、本実施形態に係る分析方法では、上述したように、分解能を変換する計算により第1のオージェスペクトルの分解能と第2のオージェスペクトルの分解能との差を小さくできるため、エネルギー分解能ごとに標準試料のオージェスペクトルを準備しなくてもよい。そのため、本実施形態に係る分析方法によれば、標準試料のオージェスペクトルのデータベースを作成する際に、様々なエネルギー分解能で測定する必要がなく、所定のエネルギー分解能で測定すればよい。また、所定のエネルギー分解能で測定されたデータベースをあらかじめ記憶部84に記憶させておくことにより、容易にオージェスペクトルの分析を行うことができる。
【0091】
なお、データベースを作成するための標準試料の測定は、高分解能で行うことが望ましい。上述したように、分解能関数の畳み込み演算による分解能の変換では、スペクトルの分解能を低下させる計算は、スペクトルの分解能を向上させる計算に比べて、計算が容易であるためである。
【0092】
3. 変形例
本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0093】
3.1. 第1変形例
上述した実施形態では、第1のオージェスペクトルおよび第2のオージェスペクトルがCRRモードで測定されている場合について説明したが、第1のオージェスペクトルおよび第2のオージェスペクトルは、CAEモードで測定されていてもよい。すなわち、第1
のオージェスペクトルおよび第2のオージェスペクトルでは、スペクトルの各エネルギーでの分解能が一定(ΔE=一定)である。
【0094】
例えば、第1のオージェスペクトルの分解能がΔE=5eVであり、第2のオージェスペクトルの分解能がΔE=2eVである場合、分解能変換部76は、第2のオージェスペクトルの各エネルギーでの分解能が、ΔE=5eVとなるように、第2のオージェスペクトルに対して分解能関数の畳み込み演算を行う。
【0095】
第1変形例によれば、第1のオージェスペクトルおよび第2のオージェスペクトルがCAEモードで測定されている場合であっても、上述した実施形態と同様に、容易にオージェスペクトルの分析を行うことができる。
【0096】
3.2. 第2変形例
上述した実施形態では、第1のオージェスペクトルおよび第2のオージェスペクトルがCRRモードで測定されている場合について説明したが、第1のオージェスペクトルの分析モードと、第2のオージェスペクトルの分析モードとが異なっていてもよい。
【0097】
この場合、図2に示す分解能変換工程(ステップS104)では、分解能変換部76は、第1のオージェスペクトルの分解能と第2のオージェスペクトルの分解能との差を小さくするとともに、第1のオージェスペクトルおよび第2のオージェスペクトルの両方の分解能が一定になるように(ΔE=一定)、またはエネルギーとともに変化するように(ΔE/E=一定)、分解能関数の畳み込み演算を行う。
【0098】
例えば、第1のオージェスペクトルが、CAEモードで測定されたものであり、ΔE=5eVであるとする。また、第2のオージェスペクトルが、CRRモードで測定されたものであり、ΔE/E=0.05%であるとする。
【0099】
図11は、第1のオージェスペクトルのエネルギー分解能を示すグラフである。図12は、第2のオージェスペクトルのエネルギー分解能を示すグラフである。図12では、畳み込み演算前の第2のオージェスペクトルの分解能を実線で示し、畳み込み演算後の第2のオージェスペクトルの分解能を破線で示している。
【0100】
図12に示すように、分解能変換部76は、第2のオージェスペクトルの各エネルギーにおいて、第1のオージェスペクトルの対応する各エネルギーにおける分解能(ΔE=5eV)と一致するように分解能関数の畳み込み演算を行う。これにより、第2のオージェスペクトルをΔE=5eVとすることができる。
【0101】
本変形例では、分解能変換部76は、第1スペクトル取得工程で取得された第1のオージェスペクトルおよび第2スペクトル取得工程で取得された第2のオージェスペクトルのうちの一方の分解能が一定であり(ΔE=一定)、他方の分解能がエネルギーとともに変化する(ΔE/E=一定)場合に、第1のオージェスペクトルおよび第2のオージェスペクトルの両方の分解能が一定になるように、またはエネルギーとともに変化するように、分解能関数の畳み込み演算を行う。
【0102】
そのため、第1のオージェスペクトルの分析モードと第2のオージェスペクトルの分析モードが異なる場合であっても、第1のオージェスペクトルおよび第2のオージェスペクトルに基づいて、定性分析および定量分析を行うことができる。したがって、本実施形態に係る分析方法では、分析モードごとに標準試料のオージェスペクトルを準備しなくてもよい。そのため、本実施形態に係る分析方法によれば、標準試料のオージェスペクトルのデータベースを作成する際には、CAEモードおよびCRRモードの両方で測定する必要
がなく、いずれか1つの分析モードで測定すればよい。
【0103】
3.3. 第3変形例
上述した実施形態では、第1のオージェスペクトルの分解能および第2のオージェスペクトルの分解能が既知の場合について説明したが、第1のオージェスペクトルの分解能および第2のオージェスペクトルの分解能は未知であってもよい。
【0104】
例えば、第2のオージェスペクトルの分解能を変換する場合について説明する。ここで、第1のオージェスペクトルと第2のオージェスペクトルは、同一の試料を測定して得られたものである。
【0105】
上述した式(1)において分解能関数g(x)の分解能を変化させながら、分解能変換された第2のオージェスペクトルI(x)を第1のオージェスペクトルにフィッティングし、分解能変換された第2のオージェスペクトルI(x)を、第1のオージェスペクトルに一致させる(または略一致させる)。これにより、第1のオージェスペクトルの分解能と第2のオージェスペクトルの分解能との差を小さくする分解能関数g(x)が求められる。このようにして求められた分解能関数g(x)を用いることで、任意の試料を測定したオージェスペクトルの分解能も変換することができる。
【0106】
3.4. 第4変形例
上述した実施形態では、分光装置がオージェ電子分光装置である例について説明したが、本発明に係る分光装置は、X線光電子分光装置(X−ray photoelectron Spectroscope、XPS)であってもよい。X線光電子分光装置は、X線光電子分光法により試料の分析を行う。X線光電子分光法は、試料に一定のエネルギーのX線を照射し、光電効果によって外に飛び出した電子(光電子)のエネルギーを測定し、固体の電子状態を調べる手法である。ここで、試料にX線を照射すると、試料からは光電子とともにオージェ電子が放出される。そのため、X線光電子分光装置では、光電子スペクトルとともにオージェスペクトルも得られる。このX線光電子分光装置で得られたオージェスペクトルに対しても、本発明に係る分析方法は、上述した実施形態と同様に、適用できる。
【0107】
なお、上述した実施形態及び変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば各実施形態及び各変形例は、適宜組み合わせることが可能である。
【0108】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0109】
10…電子線源、20…集束レンズ、30…対物レンズ、40…偏向部、50…試料ステージ、60…分光部、62…信号処理部、70…処理部、72…第1スペクトル取得部、74…第2スペクトル取得部、76…分解能変換部、78…分析部、79…制御部、80…操作部、82…表示部、84…記憶部、90…電源制御装置、100…分光装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12