【文献】
WITHERS et al.,Light-emitting diodes by band-structure engineering in van der Waals heterostructures,nature materials,2015年 2月 2日,VOL.14,p.301-p.306
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0006】
<背景>
グラフェンは、炭素の二次元同素体であり、その中に、sp
2混成炭素原子の平面シートが、敷き詰められた六角形(tessellated hexagon)のハニカムパターンに配置されている。グラフェンは、本質的に、グラファイトの単層である。グラフェンは、室温電荷キャリア移動度が大きい半金属である。それは環境条件において安定であり、その電子特性は、従来のシリコントランジスタのような電界の印加によって制御されることができる(K.S. Novoselov, A.K. Geim, S.V. Morozov, D. Jiang, Y. Zhang, S.V. Dubonos, I.V. Grigorieva and A.A. Firsov, “Electic Field Effect in Atomically Thin Carbon Films”Science, Vol. 316, No.5696, pp.666-669, 2004)。
【0007】
グラフェンの出現とその後の多くの優れた特性の発見は、グラフェンの化学修飾及び他の層状化合物の剥離(exfoliation)の両方によって、他の多くの二次元結晶の同定につながった。単離された他の二次元材料には、NbSe
2、ビスマスストロンチウムカルシウム銅酸化物(BSCCO)及びMoS
2が含まれる。これらはまた安定であり、絶縁体、半導体又は超伝導体などのグラフェンに相補的な電子特性を呈することができる。
【0008】
グラフェンの特性は、一般的には、多くの基材又は基板に対するその近接性によって妨げられる。グラフェンを懸濁する(suspend)ことはできるが、これらデバイスの脆弱性のために技術的に好ましくない。しかしながら、窒化ホウ素(BN)(良好な絶縁体である二次元の層状材料)は、良好な基材を提供するもので、これは、以前に報告された材料よりもグラフェンの特性に対する影響がはるかに小さい。これは、電子移動度の増加及びグラフェンの電荷不均一性の減少においてはっきりと認められる。これはまた、薄い結晶フレークを互いの表面に対して非常に清浄かつ正確に転写することが可能になり、2つの電気的に絶縁されたグラフェン層を含むデバイスを作製することができる。
【0009】
結晶の品質を維持しながら結晶を正確に転写(transfer)させるというこの新しい領域の研究及び進歩により、二次元結晶をベースにしたヘテロ構造という新たな種類の材料が生まれた。より具体的には、異なる特性を有する二次元結晶の組合せを積み重ねることによってハイブリッド材料を作成する可能性がある。これらの構造は、基礎及び応用の両観点から興味深い。例えば、グラフェン/窒化ホウ素/グラフェンの3層スタックは、トンネリングトランジスタとして使用可能であることが示されている。これは、電子が2つの別個のグラフェン層間を流れるときのバリア(BN)の大きさが、ゲート電極によって変えられることを意味する。これらのトンネリングデバイスは、本質的に高速であり、高周波用途に適している。オン/オフ比は、窒化ホウ素層を、MoS
2などのバンドギャップが小さい材料のものに置き換えることによって高められた。
【0010】
グラフェンと窒化ホウ素又は二硫化モリブデンのシートのこの層により、トンネルトランジスタの動作が可能だけでなく、クーロンドラッグなどの現象の観察も可能になった。クーロンドラッグでは、グラフェン/BN/グラフェンヘテロ構造の1つのグラフェン層内の電子の流れが、他の層内の電子に沿って「ドラッグする(drag)」ことが観察された。これらの効果はこれまでにGaAlAsヘテロ構造では見られたが、グラフェンベースのヘテロ構造の場合、重要な特徴は、分離を非常に小さくする能力であり、電子が電子自体の層の内部よりも他の層の対応物(counterparts)に近くなるようにすることである。また、従来の半導体では不可能であった電子と正孔とを同調させることができる可能性もある。
【0011】
グラフェンは今ではロールツーロール処理により基板上に転写されることでき、タッチスクリーンなどのデバイスの工業生産が可能になった(S Bae, H. Kim, X. Xu, J.-S. Park, Y. Zheng, J. Balakrishnan, T. Lei, H.R. Kim, Y.I. Song, Y.-J. Kim, K.S. Kim, B.Ozyilmaz, J.-H. Ahn, S. Iijima, Roli-to-roll production of 30-inch graphene films for transparent electrodes; Nature Nanotechnoiogy, 5, 574-578, 2010)。
【0012】
グラフェンはまた、本質的に強度が非常に高い。これまでに測定された最も強度の高い材料の1つであることが知られている。これは、グラフェンが本質的に大きな変形力に耐えることができることを意味する。弾性伸びを最大20%拡大できるグラフェンの能力と組み合わせると、可撓性が必要な電子応用機器に適している。これは、ディスプレイ技術の分野で特に重要であり、グラフェンをベースにしたフレキシブルディスプレイへの道が開かれる。そのような材料は、フレキシブルディスプレイが必要とされる多くの手持ち式小型携帯デバイスにおいて有用である。
【0013】
遷移金属ジカルコゲニド(TMDC)は、機械的方法と化学的方法の両方によって単層に剥離することが分かっている層状物質の一種である。これら様々な材料(幾つか例を挙げると、MoS
2、WS
2、TaS
2)は、構造的には類似しているが、電子特性の配列は、それらの正確な組成及び厚さによって、半導体から金属に亘る。タングステンジスルフィド(WS
2)は、固体潤滑や産業用表面保護を含む様々な用途を有する。
【発明の概要】
【0014】
本発明の特定の実施形態の目的は、量子井戸を含むヘテロ構造を提供することである。更なる目的は、垂直ヘテロ構造を提供することである。幾つかの実施形態では、従来の量子井戸(QW)構造に比べて製造が容易であり、及び/又は、特性が改善された多重量子井戸(MQW)デバイスを製造することを目的とする。本発明の別の目的は、新規な単一量子井戸(SQW)ヘテロ構造を提供することである。また、現在入手可能な材料と比較して高いエレクトロルミネセンス量子効率を有するヘテロ構造を提供することが、特定の実施形態の目的でもある。本発明の特定の実施形態の更なる目的は、LEDなどの電子デバイスに組み込むことができる垂直ヘテロ構造を提供することである。他の目的は、有望なLEDデバイスを製造するのに十分な量子効率を有するデバイスを提供することである。本発明の更なる目的は、より高い量子効率を有するLEDを製造すること、及び/又は、現在のLEDと比較してより広い範囲の可視放射を発することができるLEDを製造することである。
【0015】
本発明の実施形態のさらなる目的は、入力エネルギーを従来よりも高い割合で、可視又は近赤外放射に変換するデバイスを提供することである。換言すれば、従来よりもエネルギー変換効率の高いセル又はデバイスを提供することを目的とする。さらに別の目的は、従来よりも、堅牢であり、及び/又は可撓性が大きく、及び/又は長寿命を有するヘテロ構造又は該ヘテロ構造を組み込んだ電子デバイスを提供することである。
【0016】
本発明は、一般に、グラフェンの新規な用途に関する。具体的には、本発明は、新規なグラフェンヘテロ構造、グラフェンヘテロ構造の応用、及びグラフェンヘテロ構造の作製方法に関する。
【0017】
本発明の目的は、グラフェンヘテロ構造の製造方法において、既存の方法よりもエネルギー効率の良い方法を提供することである。本発明の方法は、既存の方法よりも迅速に製造することができる。また、既存の方法よりも無駄を少なくすることができる。
【0018】
本発明の目的は、既存の方法ではできなかった、グラフェンへテロ構造へアクセスすることができる方法を提供することである。
【0019】
本発明の目的は、既存の方法よりも大規模で効率的にグラフェンヘテロ構造を製造することができる方法を提供することである。
【0020】
本発明のさらなる目的は、新規なグラフェンヘテロ構造を提供することである。これらのヘテロ構造は、既存のグラフェンヘテロ構造と同様の特性を有するかもしれないが、製造は既存のものより容易である。新規なグラフェンヘテロ構造は、公知のグラフェンヘテロ構造に比べて改善された特性を有し、また、公知の非グラフェンベースの材料と比べて改善された特性を有し得る。グラフェンヘテロ構造は、これまでのグラフェンヘテロ構造で観察されなかった新しい特性を有する。特に、新規なヘテロ構造は、その材料がグラフェンベースであるか否かに拘わらず、単一材料でこれまで観察されなかった特性の新しい組合せを有する。
【0021】
本発明の別の目的は、LEDなどの新しいフォトニクスデバイスに使用するためのヘテロ構造を提供することである。本発明のさらなる利点及び目的は、以下の説明から明らかになるであろう。
【0022】
以下の発明の実施形態は、上記目的の少なくとも1つを達成することができる。
【0023】
<開示の簡単な説明>
本発明の第1の態様は、少なくとも2つのグラフェン層と、少なくとも
2つの絶縁層と、少なくとも
1つの半導体層と、を含むグラフェンベースの垂直ヘテロ構造を提供する。
【0024】
それぞれの場合における半導体層は、MX又はMX
2の形態の化合物であってよく、Mが遷移金属、
又はIn又はGaであり、Xはカルコゲンである。
【0025】
通常、グラフェン層の少なくとも1つは、少なくとも1つの絶縁層により、半導体層から常に分離されている。一実施形態では、全て(例えば、両方)のグラフェン層は、少なくとも1つ(通常は1つ)の絶縁層によって全ての半導体層から分離されている。半導体の層は、通常、絶縁層によって互いに分離されている。複数の半導体層を有する構造において、介在する絶縁層は同じであってもよいし異なるものでもよい。同様に、介在する絶縁層は、同じ厚さであってもよく、異なる厚さを有するものでもよい。介在する絶縁層の厚さは同じであることが好ましい。
【0026】
本発明のこの第1の態様の実施形態では、ヘテロ構造は、大きなヘテロ構造の構成要素の一部を形成することができる。それゆえ、第1のグラフェン層の上に1又は2以上の追加の層が存在してもよい。どの場合にも、追加の層は、hBN、SiO
2及びSiから独立して選択されることができる。
【0027】
ヘテロ構造は、プラスチック又は金属などの基板又は別の構造に取り付けられることができる。
【0028】
本発明のヘテロ構造体は、積層体(laminates)の形態で存在し、構成要素材料の二次元配列が互いに積み重ねられたサンドイッチ型構造である。本発明のヘテロ構造は、多くの場合、可撓性である。「可撓性(flexible)」とは、ヘテロ構造の形状を作る(例えば、曲げ、圧延又は成型によって)ことが、構造に損傷を与えず、効率及び光出力を有意に妨げないことを意味する。これは、本発明の企図された用途では顕著な利点である。従来の技術では、ヘテロ構造は平面内に固定されるものに限定されることがよくあるからである。
【0029】
全体としてのヘテロ構造(異なる材料のシートが上下に積み重ねられた積層構造)という場合での「層(layer)」という用語は、本発明の第1の態様及び第2の態様の両方において、同じ組成の材料からなる個々のシートを言うものとする。このような材料のシートは、ヘテロ構造内で別の層を表すと考えられる異なる組成の材料からなる別のシートに隣接している。すなわち、ヘテロ構造内で隣接するそのような2つの層と層の間にヘテロ接合が形成される。ヘテロ構造の本体内に含まれる層の場合、ヘテロ接合は、層のいずれかの側に形成され、どちらの側も異なる材料である。
【0030】
ヘテロ構造の個々の構成要素、すなわち本発明の第1及び第2の態様における積層体内で単一シートの構成要素を言う場合には、「層」という用語は、その材料内の原子層の数を表すために使用されることができる。グラフェン又は修飾されたグラフェンなどの場合には、「層」という用語は、グラフェンが単層(すなわち1原子の厚さ)であるか又は数層の厚さ(例えば、2〜15原子層の厚さ)であるという事実を意味するものとして用いられることができる。同様な考察は、構造がグラフェン又は修飾されたグラフェンに類似しているhBNにも当てはまる。しかしながら、TMDCなどの半導体材料の場合、材料の化学量論的な理由から、材料の単結晶は必然的に3原子層の厚さ又はその倍数である。TMDCの単結晶中に存在する3つの原子層の組は、各々が単一分子層と称されることができる。
【0031】
本発明の幾つかの実施形態では、ヘテロ構造の1又は2以上の構成要素層、すなわち、ヘテロ構造を形成する材料の1又は2以上のシートは、単結晶から形成されることができる。幾つかの他の実施形態では、ヘテロ構造の構成要素の1又は2以上の原子層又は分子層、すなわち材料のシートは、層の平面に沿って互いに隣接するか又は互いに僅かに重なる材料の複数のフレーク(flakes)を含むことができる。従って、このような層はフレークの複合体である。それゆえ、例えば、この実施形態では、グラフェンのフレークは、ヘテロ構造内にグラフェン層(シートのバルクという意味で)を生成するために用いられると考えられる。これは、ヘテロ構造内にグラフェンの印刷層を形成するという可能性を広げるもので、製造の容易性及び/又は製造コストの点で有利となる。また、絶縁体及び/又は半導体材料のフレークは、ヘテロ構造内で1又は2以上の夫々のバルク層(シート)を作製するのに用いられると考えられる。
【0032】
本発明のヘテロ構造内に幾つかの異なる2D結晶を組み合わせることにより、電子が居住する潜在的なランドスケープを設計することができる。バンド構造を原子精度でレンダーリング(rendering)することにより、2D材料の幅広い選択に基づいて、トンネルバリア、QW及び他の構造が可能になる。
【0033】
透明導電層としてグラフェン、トンネルバリアとして六方晶窒化ホウ素(hBN)、QWの材料として異なる遷移金属ジカルコゲナイド(TMDC)を使用することにより、効率的なLEDを作製することができる。本発明のデバイスでは、電子と正孔が2つのグラフェン電極からTMDCの層に注入される。QW内の準粒子が長寿命(隣接するhBNバリアの高さと厚さによって決定される)である結果として、電子と正孔が再結合して光子を放出する。発光波長は、TMDCの適切な選択によって微調整されることができ、複数のQW(MQW)を使用することによって量子効率(QE)を高めることができる。
【0034】
これまで、TMDCデバイスにおけるエレクトロルミネセンス(EL)の報告は、横型単層デバイスに対するのみであり、ショットキーバリアを横切る衝突電離及びp−n接合の形成から生じる熱支援プロセスに起因すると考えられていた。垂直ヘテロ構造の使用により、多くの点でLEDの性能を改善させることができる。これらの改善として、接触抵抗の低減、より明るいLEDを可能にする高電流密度、デバイス領域全体からの発光(luminescene)、及びそのようなヘテロ構造を設計する際のTMDC及びそれらの組合せのより広い選択肢の利用可能性を挙げることができる。
【0035】
それゆえ、特定の一実施形態において、ヘテロ構造は、少なくとも以下の層、すなわち、
グラフェン又は修飾グラフェンを含む第1のグラフェン層と、
第1の絶縁層(好ましくはhBN)と、
第1のTMDC層(好ましくはMoS
2又はWS
2又はWSe
2)と、
第2の絶縁層(好ましくはhBN)と、
第2のTMDC層(好ましくはMoS
2又はWS
2又はWSe
2)と。
第3の絶縁層(好ましくはhBN)と、
グラフェン又は修飾グラフェンを含む第2のグラフェン層と、を含み、
これらの層は、記載された順序で積み重ねられ、積層構造を形成する。
【0036】
それゆえ、別の特定の実施形態において、ヘテロ構造は、少なくとも以下の層、すなわち、
グラフェン又は修飾グラフェンを含む第1のグラフェン層と、
第1の絶縁層(好ましくはhBN)と、
第1のTMDC層(好ましくはMoS
2又はWS
2又はWSe
2)と、
第2の絶縁層(好ましくはhBN)と、
第2のTMDC層(好ましくはMoS
2又はWS
2又はWSe
2)と、
第3の絶縁層(好ましくはhBN)と、
第3のTMDC層(好ましくはMoS
2又はWS
2又はWSe
2)と、
第4の絶縁層(好ましくはhBN)と、
グラフェン又は修飾グラフェンを含む第2のグラフェン層と、を含み、
これらの層は、記載された順序で積み重ねられ、積層構造を形成する。
【0037】
それゆえ、別の特定の実施形態において、ヘテロ構造は、少なくとも以下の層、すなわち、
グラフェン又は修飾グラフェンを含む第1のグラフェン層と、
第1の絶縁層(好ましくはhBN)と、
第1のTMDC層(好ましくはMoS
2又はWS
2又はWSe
2)と、
第2の絶縁層(好ましくはhBN)と、
第2のTMDC層(好ましくはMoS
2又はWS
2又はWSe
2)と、
第3の絶縁層(好ましくはhBN)と、
第3のTMDC層(好ましくはMoS
2又はWS
2又はWSe
2)と、
第4の絶縁層(好ましくはhBN)と、
第4のTMDC層(好ましくはMoS
2又はWS
2又はWSe
2)と、
第5の絶縁層(好ましくはhBN)と、
グラフェン又は修飾グラフェンを含む第2のグラフェン層と、を含み、
これらの層は、記載された順序で積み重ねられ、積層構造を形成する。
【0038】
それゆえ、別の特定の実施形態において、ヘテロ構造は、少なくとも以下の層、すなわち、
グラフェン又は修飾グラフェンを含む第1のグラフェン層と、
第1の絶縁層(好ましくはhBN)と、
第1のTMDC層(好ましくはMoS
2又はWS
2又はWSe
2)と、
第2の絶縁層(好ましくはhBN)と、
第2のTMDC層(好ましくはMoS
2又はWS
2又はWSe
2)と、
第3の絶縁層(好ましくはhBN)と、
第3のTMDC層(好ましくはMoS
2又はWS
2又はWSe
2)と、
第4の絶縁層(好ましくはhBN)と、
第4のTMDC層(好ましくはMoS
2又はWS
2又はWSe
2)と、
第5の絶縁層(好ましくはhBN)と、
第5のTMDC層(好ましくはMoS
2又はWS
2又はWSe
2)と、
第6の絶縁層(好ましくはhBN)と、
グラフェン又は修飾グラフェンを含む第2のグラフェン層と、を含み、
これらの層は、記載された順序で積み重ねられ、積層構造を形成する。
【0039】
一実施形態では、それらヘテロ構造の各々について、上記した層の配列は、それらの層自体が、絶縁層(各場合とも好ましくはhBN)の2つの層の間に挟まれるので、絶縁材料の1つの層は、第1のグラフェン層と第2のグラフェン層の上面に夫々配置される。
【0040】
本発明の別の態様では、上記したヘテロ構造を作製する方法が提供される。
【0041】
本発明の任意の態様において使用されるグラフェンは、プリスティングラフェン(pristine graphene)でよいし、化学的に又は物理的に修飾されたグラフェンであってもよい。グラフェンを化学的及び/又は物理的に修飾する幾つかの方法は当該技術分野で知られている。グラフェンは、ヘテロ構造において伝導性かつ透過性媒体として機能する。グラフェン又は修飾グラフェンはその金属伝導特性を保持することが重要である。また、グラフェン又は修飾グラフェンが透過性であることも重要である。「透過性(transparent)」という用語は、電磁放射が構造体を通過することを可能にする能力、最も具体的には、電磁スペクトルの可視又は近可視領域での放射を可能にする能力のことを言う。他の金属材料は、それらが機械的制約及び/又はそれらが透過性でないという事実のために、本発明のヘテロ構造には不適当である。
【0042】
本発明の任意の態様において使用される半導体は、直接バンド半導体であってよい。そのような化合物は、金属カルコゲナイドである。これらは、式MX又はMX2の化合物として表されることができ、Mは遷移金属、
又はIn又はGaであり、Xはカルコゲンである。好ましい材料は、遷移金属ジカルコゲニド(TMDC)、すなわち形態MX
2の化合物であり、Mは遷移金属である。適当な材料として、MoS
2、WS
2及びWSe
2が挙げられる。半導体として用いられることができる他の材料として、MoSe
2、MoTe
2、WTe
2、InSe及びGaSeが含まれる。これらの材料は、遷移金属ジカルコゲナイドとして一般的に知られている材料の分類に属するが、厳密に言えば、InSe及びGaSeはTMDCではない。しかしながら、本発明の目的のために、それらは、本発明の範囲内に含まれる別の種類の好ましい化合物を表すものとする。従って、本発明の特定の実施形態又は特徴において、以下の記載で、TMDCに言及する場合、特定されたTMDCに代えてInS又はGaSeを使用することもできる。
【0043】
遷移金属ジカルコゲナイド(TMDC)層は各々が光活性層であり、量子井戸の基礎を形成する。TMDCは、それ自体が、材料の各分子層が3つの原子平面から構成される構造である。前記3つの原子平面は、遷移金属原子(例えば、Mo、Ta、W ...)の1原子厚さの層が、カルコゲン原子(例えば、S、Se又はTe)の1原子厚さの2つの層の間に挟まれたものである。それゆえ、一実施形態では、TMDCは、Mo、Ta及びWの1又は2種以上と、S、Se及びTeの1又は2種以上との化合物である。遷移金属カルコゲナイドの各層内の原子と原子との間には強い共有結合があり、隣接する層と層の間に、主として弱いファンデルワールス結合がある。
【0044】
本発明の任意の態様において使用される絶縁材料は注意深く選択されなければならず、絶縁材料は全てが適当であるというわけではない。絶縁材料は、好ましくはhBNであるが、雲母を絶縁体としても使用されることもできる。SiO
2は絶縁体として適当な電気的特性を有するが、機械的には、本発明で想定され得る最終用途の中には不適当なものがある。機械的性質があまり重要でない場合には、SiO
2は絶縁体として使用されることができる。
【0045】
それゆえ、一実施形態において、ヘテロ構造は、グラフェンの第1の層と、グラフェンの層とヘテロ接合を形成するhBNの層と、hBNの層に隣接してhBNとヘテロ結合を形成する遷移金属ジカルコゲナイド(TMDC)の層と、TMDCの層に隣接して、TMDCとヘテロ接合を形成するグラフェンの第2の層と、を含む。この構造では、TMDCは半導体として機能する。hBNは絶縁体として作用し、グラフェン層は金属層のように作用する。
【0046】
グラフェンの個々の層、絶縁材料及び半導体層は、それぞれが原子の薄さである。
【0047】
ある場合において、これらの異なる種類の層は夫々が、互いに完全に独立しており、必要に応じて単一の原子層又は分子層、すなわち単層又は単一分子層を含むことができるし、又は各々が独立して2以上の原子層若しくは分子層、例えば、必要に応じて2〜15原子層又は分子層を含むことができる。グラフェンの場合、材料の単一層は単原子層であり、hBNの場合、材料の単一層は単分子層である。TMDCの場合、分子単層は実際には3原子層の厚さである。
【0048】
換言すれば、グラフェン層は単層であってよく、絶縁層は独立して単層であるか又は同様に2〜15原子層であってよく、又はその逆であってもよい。同様に、絶縁体層は独立して単層であってよく、また、2〜15分子層(hBNの場合は2〜15原子層)を有してもよい。同様に、半導体層は、独立して単層であってよく、2〜15分子層を有してもよい。同様に、各TMDC層は、独立して単層であるか、又は存在する他の層とは独立した2〜15分子層であってもよい。
【0049】
理想的には、グラフェン層は単原子層である。より多くのグラフェン層が追加されると、吸収量は増加する。しかしながら、数層のグラフェンを有することも可能であり、それゆえ、本発明では、2層、3層、4層及び5層をも意図する。結果として、(ヘテロ構造の積層の1つを表すという大体の意味において)グラフェンの各層の厚さは、約0.3nm〜2nmである。グラフェン層が厚すぎると、吸収が大きくなり、透過性が失われる。これは、他の理由でそれが望ましい場合は、ヘテロ構造の一方の側に、より厚いグラフェン層を有することが可能である。そのような状況では、このグラフェン層の厚さは、例えば、最大50nm又は100nmであり得る。
【0050】
絶縁体(ヘテロ構造の積層の1つを表すという大体の意味において)の各層の厚さは、通常、約3層又は4層である。hBNの場合、単一層の厚さは約0.3nm〜0.5nmであり、その結果、各絶縁体層の厚さは独立して約0.3nm〜2nmであり得る。
【0051】
一実施形態では、TMDCの各層(例えば、MoS
2、WS
2、又はWSe
2などの層)の厚さは、1分子層から6分子層である。好ましくは、各TMDC層は、閉じ込め(confinement)を良好にするために、単一の分子層である。従って、各TMDCは、独立して約0.5nm〜3nmの厚さであってよい。
【0052】
同じ種類の材料が2層以上、すなわち絶縁層が2層以上及び/又は半導体層が2層以上存在するそれらのヘテロ構造では、同じ種類の材料の異なる層(互いに離間して積層構造に配置される)は、異なる材料から形成されることができる。それゆえ、ヘテロ構造は、同じヘテロ構造内の半導体層としてMoS
2及びWSe
2の両方を有することができる。同様に、ヘテロ構造は、2種以上の絶縁層、例えば、hBNとSiO
2の両方の層を有することができる。同じ種類の材料の異なる層がヘテロ構造に存在する場合であっても、それらの異なる層は異なる原子厚さ及び/又は異なる配向(異なる結晶方位が可能な材料の場合)を有することが可能である。
【0053】
別の実施形態では、2つのグラフェン層は、hBNの層と、MoS
2等のTMDCの層とが交互に繰り返されることによって分離され、グラフェン層は常にhBNの層と接触する。
【0054】
本発明の幾つかの実施形態では、ヘテロ構造の片側又は両側の外側層は、グラフェン又は修飾グラフェンである。他の実施形態では、ヘテロ構造の片側又は両側の外側層は、hBN又はSi又はSiO
2などの材料であってよい。一実施形態では、ヘテロ構造の各側の外層はhBNである。
【0055】
本発明のヘテロ構造は、電磁スペクトルの可視領域及び近可視領域近傍における効率的かつフレキシブルな発光体であるという利点を有する。これにより、本発明のヘテロ構造体は、LED、フレキシブルな透過型ディスプレイ、短距離通信デバイス、及び谷間偏光発光源などのデバイスでの使用に特に適している。
【0056】
一実施形態では、ヘテロ構造内に絶縁体と半導体の層とが順次積み重ねられて、第1のグラフェン層と第2のグラフェン層との間に積層構造が形成される。2以上の量子井戸すなわちMQW構造を含むヘテロ構造の場合、各遷移金属ジカルコゲナイド層、すなわち半導体層は、絶縁層と電気的に接触して、これら2つの種類の材料の(同じ種類の各層の構成材料が異なる場合であっても)構造が交互に形成され、交互に形成された積層体は、次にグラフェン又は修飾グラフェンの2つの層の間に挟まれる。上述したように、グラフェン層又は修飾グラフェン層は、絶縁層と常に接触しているが、半導体層とは接触していない。しかしながら、最も単純な単一の量子井戸構造の場合、単一の半導体層は第2のグラフェン層と接触している。
【0057】
各グラフェン層は、独立して、修飾グラフェン(例えば、ドープされたグラフェン)を含むことができる。グラフェンは優れた導体であり、光放射(actinic radiation)、例えば可視光及び近可視光に対して実質的に透過性である。グラフェンはまた、極めてフレキシブルである。その誘導体(例えば、ドープされたグラフェン)の多くは、これらの特性を保持している。グラフェンはまた、可変の仕事関数(work function)を有し、これは、静電ゲーティングを用いて簡単に変えられることができる。
【0058】
従って、一実施形態では、第1のグラフェン層は、グラフェンの1又は2以上の二次元結晶から形成される。或いはまた、第1のグラフェン層は、修飾されたグラフェン(例えば、ドープされたグラフェン)の1又は2以上の二次元結晶から形成される。
【0059】
一実施形態において、第2のグラフェン層は、グラフェン又は修飾グラフェン(例えば、ドープされたグラフェン)を含む。さらなる実施形態では、第2のグラフェン層はグラフェンを含む。代替の実施形態では、第2のグラフェン層は、修飾グラフェン(例えば、ドープされたグラフェン)を含む。
【0060】
一実施形態では、第1のグラフェン層と第2のグラフェン層は異なる材料で形成される。ここでの「異なる材料」という用語は、特異的にドープされたグラフェン(一方の層がグラフェンから形成され、他方がドープされたグラフェンから形成される場合を含む)を含むものとする。
【0061】
本発明のヘテロ構造は良好な量子効率を示す。量子井戸の数が増えると、構造全体の量子効率が増加し、結果として予想される光出力が増加する。同時に、光出力は構造を通る電流に依存し、量子井戸の数が増加するにつれて、電流は減少するが、光出力は、量子効率の向上により、一般的には、ある程度まで同じである。
【0062】
ヘテロ構造におけるトンネル伝導度は、ヘテロ構造における直列の全ての量子井戸の抵抗の合計として好都合に考えることができる。望ましくは、絶縁層(通常はhBN)が、個々の場合及び一緒の場合でも、井戸からグラフェンへの電荷キャリア(正孔又は電子)の漏れを防ぐのに十分な厚さを有する。一般的に言えば、現在入手可能な品質の材料では、ヘテロ構造は、理想的には、量子井戸を形成する対応する数の半導体層によって遮られるhBN等の絶縁層を、最大20層、15層又は10層含むことが想定される。しかし、材料が入手可能になると、50層、100層、又は200層をも有する構造を作成することができることは、本発明が意図する範囲内である。
【0063】
一実施形態では、TMDCはWS
2又はMoS
2である。MoS
2とWS
2は両方とも、スペクトルの可視部分で光を生成する能力を有し、これは500〜850nmに亘ってほぼ一定である。さらなる実施形態では、TMDCはWS
2である。バルクWS
2は、約2.0eVの好都合な直接バンドギャップを有する。WS
2の二次元結晶は、フレキシブルであることが1つの利点である。これは、ディスプレイ等の製造において有用であることを意味する。
【0064】
WS
2の使用により、フレキシブル構造を容易に作製することができるため、ヘテロ構造において特に利点がある。WS
2のさらなる利点は、その化学的安定性及びその光安定性であり、シリコンと同じように光腐食を受けないことを意味する。この安定性と、その結果として生じる長寿命は、WS
2に固有であり、ディスプレイ用途に使用されることが意図されるこの種のヘテロ構造に有用な材料となる。一方、そのような用途に使用される既存の材料では、その寿命を延ばすために追加の処理工程を必要とする。MoS
2もまた安定である。
【0065】
最も単純なレベルでは、本発明のヘテロ構造は、所望の効果を達成するために注意深い順序で配置された3つの異なる種類の材料を含む。これらは、金属層(グラフェン)と、絶縁層(hBN)と、半導体層(WS
2及びMoS
2など)である。
【0066】
量子井戸はトンネルバリアの厚さを増加させるので、直列に積み重ねられた複数の量子井戸を用いることによって量子効率(QE)が向上する。同時に、全体の電流が減少して個々の量子井戸からの光出力を低下させるので、量子効率の増加と減少電流とのバランスを取ることが必要である。換言すれば、量子井戸の数を増加させることによって、効率の上昇が期待される。
【0067】
本発明による最も単純な構造は発光を可能にすることであるが、この構造は、例えばGr−hBN−TMDC−Grであり、ここで、Grはグラフェン又は修飾グラフェンを表す。興味深いことは、1つのhBN層を省略することが可能なことであり、ヘテロ構造の一方の側で、グラフェンはTMDCと直接接触する。
【0068】
それゆえ、本発明の第2の態様では、ヘテロ構造は、
グラフェン又は修飾グラフェンを含む第1のグラフェン層と、
第1の絶縁層(好ましくはhBN)と、
第1のTMDC層(好ましくはMoS
2又はWS
2又はWSe
2)と、
グラフェン又は修飾グラフェンを含む第2のグラフェン層と、からのみ構成され、
これらの層は上記の順序で積み重ねられて、積層構造が形成され、選択的に、hBNの外層が、第1及び第2のグラフェン層の一方又は両方に積み重ねられて、ヘテロ構造はカプセル化(encapsulate)されることができる。
【0069】
本発明のこの態様では、ヘテロ構造は、絶縁材料の層と半導体の層とによって分離されたグラフェンの2つの層を含む。これは単一の量子井戸デバイスである。
【0070】
本発明の第1の態様に関して上述した実施形態は、物理的に可能な場合には、本発明の第2の態様にも適用されることができる。
【0071】
本発明のこの第2の態様の実施形態では、ヘテロ構造は、より大きなヘテロ構造の構成要素部分を形成することができる。それゆえ、第1のグラフェン層の上に1又は2以上の追加層を存在させることもできる。また、1又は2以上の追加の層は、第2のグラフェン層の上に独立して存在することもできる。各場合とも、追加の層は、hBN、SiO
2及びSiから独立して選択されることができる。
【0072】
ヘテロ構造は、プラスチック又は金属などの基板、又は他の構造体に取り付けられることができる。
【0073】
ある場合には、本発明に例示されたヘテロ構造は対称であるが、非対称のものもある。非対称が生じるのは、TMDC層の上下に異なる厚さのhBN層を有することによる。非対称にすると、異なる電荷状態からエレクトロルミネセンス(EL)にアクセスすることが可能になる。従って、場合によっては、デバイスを非対称にすることが望ましいことがある。
【0074】
本発明のヘテロ構造は、ヘテロ構造内に2以上の異なる種類の半導体層を有することができる。理想的には、最小バンドギャップの半導体を構造の底部に配置し、光が、より大きなギャップの半導体を通って妨げられることなく上方に通過できるようにすることである。本発明のヘテロ構造によって達成される効率は、最大限度まで最適化されていなくても、既に、有機発光ダイオード(OLEDS)に匹敵する。既存の市販のLEDの効率は約40%の効率を有するが、材料の品質が向上するにつれて前記効率に一致するか又はそれを超えることができる。
【0075】
本発明の第3の態様では、第1又は第2の態様によるヘテロ構造を含む電気デバイスが提供される。このデバイスは、例えば、LEDであるが、本明細書に記載された他のあらゆる形態の電気デバイスであってよい。
【図面の簡単な説明】
【0076】
本発明の実施形態について、添付の図面を参照して以下でさらに説明する。
【0077】
【
図1】
図1は、典型的なデバイス(
図1e)の光学画像に沿った単一の量子井戸(SQW)とMQW構造のアーキテクチャを概略的に示す。
図1aは、SQWへテロ構造(hBN/GrB/2hBN/WS
2/2hBN/GrT/hBN)の概略図を表す。
図1bは、aに示されたタイプのヘテロ構造の断面明視野STEM画像であり、スケールバーは5nmである。
図1c及び
図1dは、MQWへテロ構造(hBN/GrB/2hBN/MoS
2/2hBN/MoS
2/2hBN/MoS2/2hBN/MoS
2/2hBN/GrT/hBN)の概略及びSTEM画像を示す。
図1dにおけるMoS
2QW間のhBN層の数は変化する。スケールバーは5nmである。
図1eは、作動デバイス(hBN/GrB/3hBN/MoS
2/3hBN/GrT/hBN)の光学画像を示す。破線の曲線はヘテロ構造領域の輪郭を示す。スケールバーは10μmである。
図1fは、同じデバイスからのELの光学像を示す。Vb=2.5V、T=300Kである。2hBNは2層のhBN、3hBNは3層のhBNを表す。
図1gは、Si/SiO
2/hBN/GrB/3hBN/MoS
2/3hBN/GrT/hBNからなる本発明に係る別のヘテロ構造の概略図を示す。
図1h〜
図1jは、
図1gに示されたヘテロ構造について、ゼロバイアス印加(h)、中間バイアス印加(i)及び高バイアス(j)の場合のバンド図である。
【0078】
【
図2】
図2は、SQWデバイスのT=7Kでの光学的特性と輸送特性を示す。
図2aは、MoS
2ベースのSQWについてVbの関数としてのPLスペクトルのカラーマップを示す。白色曲線はデバイスのdI/dVbである。励起エネルギーは、EL=2.33eV。
図2bは、
図2aと同じデバイスについてVbの関数としてのELスペクトルを示す。白色曲線は、そのj−Vb特性(jは電流密度)である。
図2cは、同じデバイスについて、PLスペクトルとELスペクトルとの比較を示す。PLとELは同じスペクトル範囲で発生するので、それらは別々に測定した。
図2d〜
図2gは、
図2b及び
図2cと同じであるが、二層(
図2d及び2e)と単層(
図2f及び2g)のWS
2QWに対するものである。PL曲線は、Vb=2.4V(
図2c)、2.5V(
図2e)及び2V(
図2g)で得られたものである。EL曲線は、Vb=2.5V(
図2c)、2.5V(
図2e)及び2.3V(
図2g)で得られたものである。
【0079】
【
図3】
図3は、MQWデバイスのT=7Kでの光学的特性と輸送特性を示す。
図3aは、MoS
2に基づく三層QW構造を通る電流密度のモジュラス(modulus)を示す。
図3bはその概略構造を示す。
図3c及び
図3dは、このデバイスのPLスペクトルとELスペクトルのマップを示す。EL=2.33eV。
図3eは、対数スケールにプロットされた個々のELスペクトルを示しており、1.8nAμm−2(青色曲線)でELの開始を示す。オリーブ色はj=18nAμm−2、赤色はj=130nAμ−2。
図3fは、ELスペクトル(Vb=8.3V)とPLスペクトル(Vb=4.5V)との比較である。
【0080】
【
図4】
図4は、フレキシブル基板上で異なるQW材料を組み合わせたデバイスとフレキシブル基板上のデバイスを示す。
図4a〜
図4cは、インセットのdに概略的に示されたMoS
2及びWSe
2から作られた2つのQWを有するデバイスについて、(a)は負のバイアス電圧、(c)は正のバイアス電圧におけるELを示す。そのPLバイアス依存性は、レーザ励起EL=2.33eV、T=7Kに対するものが、
図4bに示されている。白色曲線は、デバイスの|j|−Vb特性である。
図4dは、MoS
2及びWSe
2から作られた2つのQWを有するデバイスのEQEの温度依存性を示す。インセット(inset)は、異なる材料から製造された2つのQWを有するデバイスの概略図である。
図4eは、PET上のSQW(MoS
2)デバイスの反射モードで撮影された光学顕微鏡写真を示す。
図4fは、透過モードで撮影された
図4eと同じデバイスの光学顕微鏡写真を示す。
図4e及び
図4fでは、スタックの領域は赤色の四角形でマークされている。スケールバーは10μm。
図4gは、
図4e及び
図4fのデバイスについて、歪みゼロ(青色ドット)及び歪み1%(赤色ドット)のときのELスペクトルである。室温Tで、Vb=−2.3V、I=−40μA。
【0081】
【
図5】
図5は、WSe
2量子井戸構造を示す。(A)は、WSe
2単一量子井戸の概略図である。(B)は、(A)に示されたQW LEDのバンド整列図である。(C)は、QW LEDの断面走査型透過電子顕微鏡(STEM)の高角度環状暗視野(HAADF)画像である。(D)は、窒素とセレンの電子エネルギー損失分光法(EELS)によりデバイス構造を確認する化学マップである。スケールバーは5nm。
【0082】
【
図6】(A)は、負のバイアスに対して電流密度がプロットされたエレクトロルミネセンスの輪郭マップである(右軸)。(B)は、異なるバイアス電圧に対して電流密度のモジュラスがプロットされたフォトルミネセンススペクトルの輪郭マップである(右軸)(P=10μW、E=2.33eV)。(C)は、正のバイアス電圧に対して電流密度がプロットされたエレクトロルミネセンスの輪郭マップである(右軸)。
【0083】
【
図7】(A)は、T=6KからT=300Kまでを積分したエレクトロルミネセンス強度のj=(D)比の電流密度を示す。
【0084】
【
図8】(A)は、T=6KからT=300Kまで測定した6つの別個のWSe
2単一量子井戸について量子効率の温度依存性を示す。(B)は、Vb=1.3Vから2.3Vまで測定したエレクトロルミネセンススペクトルの室温バイアス依存性を示す。(C)は、(左/下軸)が、量子効率のバイアス電圧依存性を示し、(右/上軸)が、量子効率の電流密度依存性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0085】
<詳細な説明>
「垂直ヘテロ構造」という用語は、スタック(stack)状に配置された複数の二次元結晶のことを言う。ヘテロ構造は、少なくとも2種類の異なる材料を含む。二次元結晶は、ヘテロ構造が実質的に平行で、向かい合うように配置されて、積層体を形成する。このようなヘテロ構造は、二次元ヘテロ構造と称されることもある。
【0086】
本発明の目的のために、ヘテロ構造は、全体が二次元結晶から形成される。これは、ヘテロ構造が基板に搭載されること、及び/又は、保護コーティングを有することを排除するものではない。二次元ヘテロ構造と称されるのは、二次元結晶から構成されることによる。なお、それ自体が三次元構造になることは勿論である。
【0087】
本発明のヘテロ構造に含まれることができる二次元結晶の例として、グラフェン、修正グラフェン(例えば、ドープされたグラフェン、グラファン、フルオログラフェン、塩素化グラフェン)、BN、MoS
2、NbSe
2、Bi
2Te
3、MgB
2、WS
2、MoSe
2、TaSe
2、 NiTe
2が挙げられる。
【0088】
ヘテロ構造は、二次元結晶を、溶液から機械的に、エピタキシャルに、交互に配置することにより、及び/又は、当業者に自明な他の任意の手段を用いて形成されることができる。
【0089】
グラフェンヘテロ構造は、少なくとも、グラフェン又は修飾グラフェンの二次元結晶の層を含む。
【0090】
「二次元結晶(two dimensional crystal)」という用語は、非常に薄くて、バルク状態では、同じ材料とは異なる特性を示す結晶のことを言う。二次元結晶とバルク材料とでは、材料の特性の全てが異なるわけではないが、1つ以上の特性が異なる可能性がある。より都合良く定義すると、「二次元結晶」という用語は、10以下の分子層の厚さである結晶、例えば1つの分子層の厚さの結晶と言うことができるが、これは材料に依存する。10分子層(すなわち、10原子層)より多い分子層を有するグラフェンの結晶は、一般的には、グラフェンよりもグラファイトに似た特性を示す。分子層は、その材料に対して化学的に可能な最小の厚さである。グラフェンの場合、1分子層は単一原子の厚さである。窒化ホウ素についても同様である。遷移金属ジカルコゲニド(例えば、MoS
2及びWS
2)の場合、分子層は3原子(1つの遷移金属原子と2つのカルコゲン原子)の厚さである。それゆえ、二次元結晶は、材料に応じて一般的に50nm未満の厚さであり、好ましくは20nm未満の厚さである。グラフェン二次元結晶は、一般的には3.5nm未満の厚さであり、2nm未満の厚さであり得る。
【0091】
「二次元結晶」という用語は、後述するように、ドープされた結晶を含む。
【0092】
「修飾グラフェン(modified graphene)」という用語は、何らかの形で改質されたグラフェン様構造を言うものとする。それゆえ、修飾グラフェンは、ドープされたグラフェンであってよい。これは、グラフェンの伝導性を有意に低下させることなく、グラフェンの仕事関数を変える目的を有する。グラフェンをドープするために使用されることができる化合物の例として、pドープされるグラフェンを作るためのアクセプタとして作用するNO
2、H
2O及びI
2、又は、nドープされたグラフェンを作るためのドナーとして作用するNH
3、CO及びC
1−C
3アルコール(例えばエタノール)が挙げられる。少量のドーピングにより、ドープされたグラフェンはグラフェンに対する透過度を増加させることはできるが、ドーパント自体は光を吸収するか又は反射する。グラフェンをドーピングする従来の方法は、化学放射線に対するその透過性を含むグラフェンの機能を改善するために使用されることができる。これらのドーピング方法は文献に記載されているため、この明細書では記載しない。ドーピングの別の方法は、グラフェンの表面に金属(例えば、金)ナノ構造を配置することである。これは、グラフェンをドープして局所電場を増加させる。好ましいドーパントは、グラフェンに化学的に結合されず、電荷をグラフェンに移動させることができるもので、効果的にグラフェンの仕事関数を変えられるものである。
【0093】
グラフェンが遷移金属ジカルコゲナイド層と接触されると、ドーパント効果により、グラフェンの仕事関数が変化する。
【0094】
本明細書において、材料の「層」は、その材料の平面を言うものとする。各「層」は、同じ化学組成の任意の数の分子層を含むことができる。従って、グラフェンの層は単層の場合もあるが、必ずしもグラフェンの単層を意味するとは限らない。同様に、WS
2の層は単層の場合もあるが、必ずしもWS
2単層を意味するとは限らない。本発明の多くの実施形態において、任意材料の「層」は、その材料の二次元結晶を意味する。
【0095】
図1は、典型的なデバイスの光学像(
図1e)と共に、単一量子井戸(SQW)構造及びMQW構造の概略を示す。発明者らは、ピール/リフト(peel/lift)ファンデルワールス技術を使用して、本発明のデバイスを製造した。MoS
2、WS
2及びWSe
2の異なる材料からTMDCフレークの単層及び複数層を含むそのようなQW構造について、合計で1ダースを超える数の構造を測定した。収率は100%で、全てのデバイスが強力なELを示し、定期的測定を数か月行っても変化はなく、関連する技術と材料の堅牢性(robustness)が実証された。
【0096】
本発明のSQW及びMQWデバイスの断面明視野透過型電子顕微鏡(STEM)画像は、ヘテロ構造が原子的にフラットで、層間汚染がないことを示している(
図1b、d)。TMDCの原子番号が大きいため、半導体結晶は、強力な電子線散乱(
図1b、dで観察される暗コントラスト)によって明確に識別されることができる。他の層は、エネルギー分散型X線分光法によって同定された。大きな強度変化は、隣接する層間の格子コントラストを部分的に不明瞭にするが、これにもかかわらず、
図1b、dでは、hBN格子縞を明確に見ることができる。
図1dのMQWにおける4つのMoS
2単層の異なるコントラストは、異なる結晶方位(試料をヘテロ構造の垂直方向に回転させると、異なる層の相対的強度が変化することにより確認される)に起因すると考えられる。
【0097】
簡潔にするために、本明細書では、MoS
2をベースにした対称デバイスからの電流−電圧(I−V)特性、フォトルミネセンス(PL)及びELスペクトルに焦点を当てる(
図2a−c)。WS
2をベースにしたデバイス及び非対称バリアを有するデバイスについても調査した。
【0098】
Vbが低いとき、
図2aのPLは、1.93eVでの中性A励起、X0、ピークによって支配される。発明者らは、1.87eVでの弱いピークと1.79eVでの広いピークの2つのピークは束縛励起(bound excitation)に起因すると考える。特定のVbでは、PLスペクトルは、1.90eVで出現する別のピークで突然変化する。この変化は、微分伝導率の増加と相関関係がある(
図2a)。この変化の理由は、この電圧では、下部グラフェン電極(GrB)のフェルミ準位がMoS
2の伝導帯よりも高くなり、電子がQWに注入されることによると考えられる(
図1i)。これにより、グラフェンのディラック点とMoS
2の伝導帯の底部との間のバンド配列を決定することができ、バイアス電圧のオフセット分の半分で、MoS
2の伝導帯におけるトンネル通過状態が最初に観測される。
図2aは、hBNバリアの厚さとグラフェンの小さな固有ドーピングに起こりうる変動の影響を考慮するために、正と負のバイアス電圧に対して、MoS
2を通るトンネリングのオンセットを平均したもので、生じたオフセットは約0.5eVであり、これは理論的予測と一致する。
【0099】
MoS
2の伝導帯への電子の注入は、トンネル伝導度の増加につながるだけでなく、MoS
2における電子の蓄積をもたらし、負に荷電した励起子(excitations)X−を形成する。X−のピークは、X−の結合エネルギーEBにより、X0ピークよりも低いエネルギーに位置する。MoS
2の場合、EBは、X−のオンセットの近くで約36meVと推定される。バイアスが増加すると、X−ピークのエネルギーはより低い値にシフトするが、これはシュタルク効果又はMoS
2におけるフェルミエネルギーの増加のいずれかに起因すると考えられる。
【0100】
PLとは対照的に、ELは特定の閾値を超えるVbでのみ開始する(
図2b)。このような挙動は、上部グラフェン(GrT)のフェルミ準位が価電子帯のエッジより下になることと関連があり、
図1jに示されるように、正孔は、(GrBから既に注入された電子に加えて)GrTからMoS
2に注入されることができる。これは、QW内部の励起子形成及びそれらの放射再結合のための条件を作る。発明者らは、EL周波数がVb約2.4VでのPLの周波数に近いとき(
図2a−c)、ELがX−の放射性再結合に寄与することを見出した。WS
2QWについては、定性的に同様な挙動が観察される(
図2d〜g)。
【0101】
任意の発光デバイスに対する重要なパラメータは、η=N2e/I(eは電子電荷、Nは放出された光子の数、Iは電流)として定義されるQEである。SQWの場合、約1%の量子効率が得られる。この値は、従来の平面p−nダイオードの10倍であり、ショットキーバリアデバイスのELの100倍である。発明者らの概算では、PLの外部QE(EQE)はELのそれよりも低いことを示している。PLにおける比較的低いEQEは、結晶品質自体の改善を必要とし、ELにおけるさらに高いEQEが達成されることを示している。
【0102】
QEをさらに高めるために、発明者らは、直列に積み重ねられた複数のQWを使用した。これは、トンネルバリアの全体の厚さが増加して、注入されたキャリアが放射活性のある再結合の可能性を高める。
図3は、3つのMoS
2QW(層の順序は、Si/SiO
2/hBN/GrB/3hBN/MoS
2/3hBN/MoS
2/3hBN/MoS
2/3hBN/GrT/hBN)を有するそのようなMQW構造の1つの結果を示す。また、4つの非対称MoS
2QW(
図1c、d)を有する別のMQWについても調べた。電流はVbと共に階段状に増加し、これは個々のMoS
2QWを通るトンネル電流の逐次的スイッチングに起因する。MQWデバイスのPLは、SQWデバイスのPLと定性的には類似するが、X0ピークはVb=0.4VでのX−ピーク(
図3c)と置き換えられる。
【0103】
X0ピークは、Vb>1.2Vで再び現れる。これは、異なるQW間の電荷再分配によって説明されることができる。ELが最初に観察可能になるのは、Vb>3.9V及び1.8nAμm−2のjのときである(
図3d、e)。これは、同様なSQWのELを調べるのに必要な閾値電流よりも約2桁も小さい電流密度である。重要なことに、放射性再結合の可能性の増加は、QEの向上に反映され、約8.4%の値(4倍QWを有するデバイスの場合は、3倍で6%)に達することである。この高いQEは、現在でベストの有機LED(参照29)の効率に匹敵する。
【0104】
設計者が記載したMQWの作製技術では、1つのデバイス内で様々な半導体QW(Si/SiO
2/hBN/GrB/3hBN/WSe
2/3hBN/MoS
2/3hBN/GrT/hBN)を組み合わせる可能性を提供する。
図4a〜
図4cは、WSe
2及びMoS
2QWから作製されたLEDを記載している。ELとPLは、スペクトルの低E部分で生じ、WSe
2における励起子及び荷電励起子に関連づけられることができる。しかしながら、SQWデバイスと比較すると、
図4の複合デバイス(combinational device)は、PL及びELの両方よりも、1桁以上の大きさの強度を示し、約5%のQEを生じる。発明者らは、これをMoS
2層とWSe
2層との間の電荷移動と関連づけることで、両方の層に生成される電子−正孔対が、より小さなバンドギャップを有する材料に移動して、再結合するようにする。このようなプロセスは、バンド整列に強く依存すると思われるが、バイアス電圧及びゲート電圧によって制御される。これは、
図4のPLとELの複雑で非対称なVb依存性を説明するものである。
【0105】
一般的に、トンネリングバリアを精密に制御することにより、量子井戸から脱出する電子と正孔の数が減少し、EQEが向上する。EQEは一般的に、材料に応じて、約50〜150KのTでピークを示す。発明者らは、具体的な構造に応じて、室温TにおけるMoS
2及びWS
2ベースのデバイスのEQEの典型的な値は、低いTでの値に近いか、又は2〜3倍低いことを見出した(
図4d)。
【0106】
最後に、本発明のスタックは、一般的に、10〜40原子程度の厚さであるので、それらはフレキシブルかつ屈曲可能であるので、フレキシブル及び半透過性のデバイスを作製するために用いられることができることは留意されるべきである。この概念を実験的に証明するために、薄いPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム上にMoS
2SQWを作製した(
図4e、f)。デバイスは、
図2a〜
図2cに示されるものと非常に類似したPL及びELを示す。発明者らはまた、最大1%の単軸歪み(曲げ加工を使用)下でデバイスの性能を試験し、ELスペクトルに変化がないことを見出した(
図4g)。
【0107】
要約すると、発明者らは、幾つかのTMDC、hBN及びグラフェンを含む様々な2D結晶からQWヘテロ構造を作製することにより、1原子層精度でバンド構造を製作できることを実証した。単一のQWに基づいた本発明のLEDは、利用可能なTMDC層の品質が比較的低くても、1%を超えるQEと、18meVまでの線幅を既に達成している。このEQEは、複数のQWを使用することによって有意に向上させることができる。3〜4のQWからなるこれらデバイスでは、EQEが最大8.4%を示す。異なる2D半導体材料を組み合わせることにより、放出スペクトルの微調整が可能になり、また、ELは量子効率が5%向上する。QEのこれらの値は、現在の有機LED照明に匹敵し、この概念は、フレキシブルで透過性のエレクトロニクスの一般的な考え方に適合する。化学蒸着成長の技術の急速な進歩は、そのようなヘテロ構造の生産の規模拡大を可能にする。
【0109】
試料の作製。
グラフェン、hBN及びTMDCのフレークは、バルク結晶をマイクロメカニカル剥離することによって調製される。単層又は数層のフレークは、光学コントラスト及びラマン分光法によって同定される。ヘテロ構造は、乾式ピール/リフト法を用いて組み立てられる。上部及び下部のグラフェン電極への電気的接触は、電子ビームリソグラフィー法を用いてパターン化され、続いて5nmCr/60nmAuが蒸発される。
【0110】
電気的及び光学的測定。
試料は、T=6Kを基準温度とする液体ヘリウムフロークライオスタット内に装填される。電気的注入は、ケースレー社の2400ソースメーターを用いて行われる。PLを測定するために、試料は、連続波532nmレーザーで励起され、スペクトル線形状を修飾するのに必要な電力よりも小さな電力で、50倍の対物レンズ(NA=0.55)を通じて約1μmのスポットサイズに集束させた。信号を集めて、単一分光計及び窒素冷却型CCD(電荷結合素子)を用いて分析した。
【0111】
走査型電子顕微鏡法。
STEM画像作成は、200kVで動作し、高効率ChemiSTEMエネルギー分散型X線検出器を備えたTitanG2プローブ側収差補正STEMを用いて行った。収束角は19mradであり、三次球面収差はゼロ(±5μm)に設定された。複層構造は、シリコン基板の菊地バンドを利用してhklOの結晶学的方向に沿って配向された。
【0112】
本発明の別の実施形態では、発明者らはまた、WSe
2単層をベースにした高効率量子井戸LEDを調べた。発明者らは、上記の知見に加えて、WSe
2単一量子井戸がエレクトロルミネセンス量子効率において異常な温度依存性を示すことを別途示した。驚くべきことに、発明者らは、温度がT=6KからT=300Kに上昇するとき、幾つかの試料において、EL量子効率が2桁増加することを見出した。室温量子効率は約20%に近づいており、これは現在のLED照明に匹敵する。従来のLEDデバイスとは異なり、発明者らのWSe
2LEDは最大1000A/cm
2の発光効率で低下を示さなかった。これも予期せぬ発展であり、そのようなデバイスが、超明るいフレキシブル照明、2Dレーザー、及び将来の近赤外線近距離通信デバイスへの道を開くことを意味する。
【0113】
上記のヘテロ構造と同様に、本発明のこの実施形態のデバイスは、個々に剥離されたグラフェンのフレーク、数層の六方晶窒化ホウ素(hBN)及びWSe
2単層を、量子井戸構造に機械的に転写することによって注意深く製造される。
【0114】
より具体的には、発明者らは、単一層のWSe
2からなるQWは、MoS
2、WS
2及びMoSe
2などの他の研究されたTMDCよりも2〜3桁も明るいエレクトロルミネセンス(EL)を示したこと、及び、ELプロセスの量子効率は、T=6KからT=300Kに温度を上昇させると、250倍の約20%まで増加することを見出した。この量子効率は現在の市販のLED照明に匹敵するもので、そのような発光効率の温度依存性は他のどんなシステムでも報告されていない。さらに、より薄いhBNトンネルバリアを有するデバイスの中には、光出力と注入電流との関係において、最大出力電流密度が1000A/cm
2までドループ(droop)のないものがあることも観察された。
【0115】
図5Aは、デバイス構造を示す。発明者らは、グラフェンを、その低い固有のドーピングレベルにより電子又は正孔のどちらかを注入することができる透過性で伝導性の窓として利用し、hBNを、原子的にフラットで欠陥のないトンネルバリアとして利用し、WSe
2の単一層を量子井戸の半導体素子として利用する。発光プロセスは、電子と正孔の両方が、
図5Bの薄いhBNトンネルバリアを介して、WSe
2層の伝導帯及び価電子帯に同時に注入されるときに起こる。これが起こるのは、グラフェン電極間に有意な閾値バイアスが印加された場合のみである。
【0116】
プロセスの汚染は、ファンデルワールスヘテロ構造デバイスの性能を制限することがわかった。それゆえ、発明者らのデバイスの形状を確認し、発明者らのデバイス内の汚染レベルにアクセスするために、ヘテロ構造スタックの横断面スライスを採取し、走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いて原子分解像を作製した。
図5Cは、発明者らのデバイスの1つの明視野断面像を示しており、hBNと、hBNによってカプセル化された中央WSe
2単層とについて、個々の原子層を示している。
図5Dは、電子エネルギー損失分光法(EELS)によるマッピングを示しており、窒素(hBNの領域に対応する)及びセレン(WSe
2の領域に対応する)の存在を確認すると共に、原子的に平坦で清浄な界面の形成と、数層のhBNトンネルバリア間におけるカプセル化と、を確認する(断面イメージングの詳細については、方法及び補足を参照)。
【0117】
発明者らは、T=6Kを基準温度とする可変温度フロークライオスタットを利用して、これらのQW LEDのPL及びEL特性を調べた(測定方法の詳細を参照)。まず最初に、デバイス構造Grb−2LhBN−1LWSe
2−2LhBN−Grtを有する典型的なWSe
2量子井戸について、低温(T=6K)のフォトルミネセンスとエレクトロルミネセンスの特性を記載する。
図6(B)は、フォトルミネセンスのバイアス電圧依存性を示す。発明者らのデバイスは、E=1.70eVのエネルギーでPLに顕著なピークを示したが、これは中性励起によるものと考えられる。また、線幅は、分解能の悪い荷電励起状態では約16meVであり、1.68eVのより低いエネルギーでは、線幅は約40meVである。この線幅はこれまで報告されているどの線幅よりも広く、不均一な広がりが原因の可能性はあるが、材料の供給源にもよる。しかしながら、異なる供給源からのより清浄なWSe
2からも同様の現象は観察される(補足情報を参照)。
【0118】
PL線の形状は、印加されたバイアス電圧には感度は変化しないが、大きなバイアス電圧に対してのみ、強度変化のあることを示す。バイアス電圧がVb=2.0Vまで増加すると、PLはエレクトロルミネセンスの出現によって急速に増加する。これは、励起レーザーがオフに切り替えられたときに明確に見られ、ELのみが収集される(
図A、C)。エレクトロルミネセンスが起こるのは、グラフェン電極の一つのフェルミ準位がTMDCの伝導帯のエネルギーと一致するか又はそれを超える時であり、他のグラフェン電極のフェルミ準位が価電子帯と一致するか又はそれより下である時は、電子と正孔の同時注入が可能であり、励起子を形成し、放出光子を崩壊する(decay)。
【0119】
従来の発光デバイスの1つの主な制限に、量子効率の温度依存性がある。多くのこのようなデバイスでは、量子効率は、低温から室温では10倍低下する。これは、一般的に、結晶成長欠陥及び他の欠陥による不純物の高温イオン化によって引き起こされる。残された荷電不純物は、散乱中心として作用し、非放射性再結合の増加、ひいては効率の低下をもたらす。
【0120】
WSe
2QWに固有のものとして、温度がT=6KからT=300Kに上昇すると、量子効率は250倍上昇することのあることを観察する。
【0121】
ここで、タングステンベースのTMDCに関連する特に興味深い結果について説明する。
【0122】
多くの従来のファンデルワールスLEDによって実証された外部量子効率(EQE)は、1%のオーダであり、平面型デバイスではさらに小さい。発明者らは、タングステンベースのTMDC(WSe
2やWS
2など)を、発明者らの垂直LEDの発光層として使用すると、EQEは、温度と共に増加し、室温で容易に20%に達することを見出した。これにより、このようなデバイスは、実際の生活用途に対して潜在的に興味深いものになる。発明者らは、このような挙動はタングステン基TMDCの特異なバンド構造の結果であり、本発明のヘテロ構造の1つに組み込まれたときに基底状態として長寿命の暗励起子を有すると考える。それゆえ、本発明の別の実施形態は、ファンデルワールス構造を提供すること、すなわち、外部量子効率が10%より大きく、より好ましくは20%より大きい上述のようなヘテロ構造を提供することである。
【0123】
W基のTMDCにおける強力なスピン−軌道相互作用は、伝導帯における最も低いエネルギー状態と、価電子帯における最も高いエネルギー状態とを反対のスピン方向に導く。WSe
2又はWS
2LEDのエレクトロルミネセンス(EL)において観察される興味深い効果は、電子と正孔が別々に注入され、それによって電子−正孔の不均衡が生じ、励起子再結合の新しいチャンネルが生じるためである。
【0124】
発明者らは、WSe
2とWS
2を発光QWとして用いた垂直LEDファンデルワールスヘテロ構造を作製した。この構造は、薄い(2−3単層)hBNバリアによってグラフェン電極から分離されたW基のTMDCの単層からなる。これは、
図5C及び
図5Fに示されている(hBNスペーサは、QW内部の電荷キャリアの寿命を制御して効率的な放射再結合を可能にするために必要である)。スタックは、隣接する結晶間のファンデルワールス相互作用を利用して、複数の「ピール/リフト」法により作製した。試料の高品質は、断面TEM測定によって確認され、
図5Dを参照すると、層と層との間に汚染が無いことを示している。
【0125】
2つのグラフェン電極間にバイアス電圧Vbを印加することにより、TMDC QWの伝導帯(価電子帯)への電子(正孔)注入が起こるように、フェルミ準位を設定することが可能である(
図5E参照)。QWにおける準粒子の滞留時間が十分に長い(hBNの厚さによって制御される)場合、
図5Fに示されるように、それらは励起子を形成し、発光と共に再結合することができる。
【0126】
図6Aは、発明者らのWSe
2ベースの試料の1つにおけるPLとELを示す。
図6Aは、略ゼロVbに対する3つのピークは、中性励起子X−が約1.72eV、荷電励起子X−が約1.70eV、局在励起子が約1.67eVを示している。ピークの大きさは複雑な方法ではVbに依存するが、一般的な傾向としては、PL強度は印加されたバイアスと共に低下する。
【0127】
|Vb|>2Vでは、ルミネセンスはEL信号によって支配される。典型的には、SH2試料の大部分では、十分に高いVbのEL信号が、X
−ピークによって支配され、バイアスと共により低いエネルギーにシフトする。しかしながら、最も興味深いのは、ELの温度挙動である。
【0128】
発明者らは、
図7A及び
図7Cに示されるように、EL(SH3)の成長が、ヘリウムから室温まで300倍あることを見出した。温度については、3つのピークはすべて通常1つになり、X
−がおそらく支配する。発明者らは、WS
2QWに基づくLEDにも同様の挙動が観察されることを見出した。室温でのELの大きな増加は、室温外部量子効率の大きな増加をもたらし、幾つかの試料では、20%以上に達する。これにより、W含有TMDCは、将来、薄膜、透過性及びフレキシブルLEDの非常に有望な材料となる。
【0129】
このような挙動は、WS
2をベースにした発明者らのLEDにおいても観察される。同時に、Mo含有TMDCをベースにしたLED(
図7B、7C、及び7Dを参照)は、温度と共にELの温度が著しく低下することを示している。それゆえ、W基のLEDにおけるELの独特のT依存性のメカニズムはおそらく、W含有TMDCの特定のバンド構造にあると考えられる。
【0130】
発明者らは、Mo及びW含有TMDCをベースにしたLEDのELの活性化温度を測定し、その結果を
図7E及び
図7Fに示す。その結果は著しく異なり、ELの強度は、W基LEDではTと共に指数関数的に増加するが、Mo含有LEDでは低下している。W基LEDの抽出された活性化温度は、30meVのオーダである。
【0131】
温度によるELの指数関数的増加は、WベースのTMDCがLED用途に使用されるための非常に興味深い機会をもたらす。そのような用途にとって最も重要なパラメータはEQEである。
図8Aは、3つの典型的なデバイスに対するEQEの典型的な挙動を示す。WSe
2LEDの量子効率QE=2N/jの温度依存性は、単一QW LEDが公称値で10〜20%に達すると、常に特性が上昇することを示しており、MoX
2ベースのTMDCと比べて、100倍の向上を示している。
【0132】
別の興味深い特性は、約107Vcm
−1の高電界及び1000A/cm
2の電流密度での高量子効率が持続されることである。商業用及び家庭用のLED照明の共通の欠点は、非放射散乱機構の増加による高注入電流でのドループ効果と、量子効率を制限する加熱効果である。しかしながら、発明者らのデバイスは、高温でも明るく、非常に高い電流密度でも高い効率が維持される。TMDCの結晶品質の改善及びグラフェンの鉛抵抗の低減は、量子効率をさらに高めることが期待される。
【0133】
これらのヘテロ構造は次のとおり作製された。まず最初に、バルク六方晶窒化ホウ素hBNが、新たに清浄にされたSi/SiO
2基板上に、機械的に劈開及び剥離される。この後、グラフェンフレークがPMMA膜からhBN結晶上に引き剥がされ、その後が、薄いhBNトンネルバリアである。次いで、PMMA上のhBNトンネルバリアを用いてWSe
2又はMoSe
2の単層を第2の基板からリフトする。次いで、これらの結晶の両方は一緒にPMMAからhBN/Gr/hBNスタック上に剥がされて、hBN/Gr/hBN/WX2/hBNを形成する。最後に、上部グラフェン電極がスタック上に剥がされて、LED構造が完成する。スタックが完了した後、発明者らは、標準のマイクロ加工法により上部と下部のグラフェン電極に電気接点を追加するか、又はスタック全体を高反射分布ブラッグ反射器基板上に転写する。ここで、Si/SiO
2基板から放出される光がほんの2%であるのに対し、LEDからの光は最大30%を集めることができた。
【0134】
従って、本発明のヘテロ構造は、エレクトロルミネセンス効率及び/又は量子効率に関して有意な利点をもたらすことができる。これは、電子デバイスを製造するために潜在的に価値のある材料であることを表す。