(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施例である、エレベーターの乗かご内異常検出装置の診断システムの構成を、
図1〜
図2Bを参照して説明する。
【0013】
本実施例で用いられるエレベーター100は、
図1に示すように、乗かご1と、釣合錘2と、巻上機3と、エレベーター制御装置4と、テールコード等のローカル回線5と、乗かご内異常検出装置7(71,72)と、主ロープ9と、荷重センサ11を備えている。
【0014】
巻上機3は、主ロープ9を駆動することで、主ロープ9で連結された乗かご1と釣合錘2を昇降路10内でつるべ式に昇降させることができるものであり、エレベーター制御装置4からの制御信号に基づき回転数を制御して、乗かご1を昇降及び停止させる。また、エレベーター制御装置4からローカル回線5を通じて乗かご1に送られてくる制御信号によって、乗かご1の扉の開閉、照明の点灯、行き先の指定、乗かご内表示、乗かご内音声等が制御される。
【0015】
次に、
図2Aを用いて、本実施例の乗かご内異常検出装置7の診断システムの機能を説明する。
【0016】
乗かご内異常検出装置7は、
図2Aに示すように、カメラ等で構成される映像記録装置71と、マイコン等で構成される挙動検知装置72を備える。映像記録装置71では、乗かご内の様子を映像記録部71aを用いて撮影し、撮影画像データを映像送信部71bを介して挙動検知装置72へ送信する。挙動検知装置72では、映像記録装置71から受信した撮影画像データを元に暴れ検知部72aと滞留検知部72bで画像解析を行い、その解析により得られた挙動検知結果を検知結果送信部72cからエレベーター制御装置4へ送信する。
【0017】
また、エレベーター制御装置4は、
図2Aに示すように、巻上機3等を制御するエレベーター制御部41と、自走式ロボット6の挙動等を管理する挙動管理部42を備えており、ローカル回線5を介して、巻上機3、荷重センサ11、乗かご内異常検出装置7が接続されている。そして、挙動管理部42は、ロボット乗込確認部42aと、挙動検知結果受信部42bと、挙動検知結果送信部42cと、ロボット位置把握部42dと、ロボット動作指令部42eと、診断時刻通信部42fと、ロボット動作情報受信部42gを備えている。
【0018】
エレベーター制御装置4は、乗かご内異常検出装置7から乗かご内の異常を示す挙動検知結果を受信した場合は、エレベーター制御部41からの指令により、乗かご1等に異常時発生時用の対応をさせる。例えば、乗かご内音声で乗客に注意喚起を行ったり、ブザーを鳴らして異常が検知された旨を報知したり、最寄階へ乗かご1を緊急停止させてドアを開いたり、等である。
【0019】
一方、自走式ロボット6は、
図2Aに示すように、ロボット制御部61と、自走装置62を備えている。そして、ロボット制御部61には、位置情報検出部61aと、位置情報通信部61bと、挙動検出用動作部61cと、動作指令受信部61dと、診断時刻受信部61eと、動作指令可否応答部61fを少なくとも備えている。
【0020】
自走式ロボット6は、位置情報検出部61aが検出した位置情報や、動作指令可否応答部61fが生成した動作指令可否情報を、公衆回線102、遠隔管理センタ101を経由して、エレベーター制御装置4へ送信する。エレベーター制御装置4は、同様の経路を用いて、自走式ロボット6への制御信号を送信する。
【0021】
次に、
図2Aの機能ブロック図を、ハードウェアブロック図で表現したものを、
図2Bに示す。ここに示すように、エレベーター制御装置4、自走式ロボット6、乗かご内異常検出装置7の内部には、CPU(4a、6a、7a)、主記憶装置(4b、6b、7b)、補助記憶装置(4c、6c、7c)、通信装置(4d、6d、7d)などのハードウェアが設けられており、各装置の内部でそれらが相互に接続されている。各主記憶装置には、エレベーター制御部41、挙動管理部42、ロボット制御部61、暴れ検知部72a等に相当するプログラムが記録されており、各装置内のCPUがそれらのプログラムを実行することで、
図2Aに図示した各機能が実現される。また、各通信装置は、ローカル回線5や公衆回線102に接続されており、これらの回線を介して、相互に通信を行うことができ、他装置から受信したデータなどは、各装置内の補助記憶装置に蓄積される。
【0022】
以上で構成の概要を説明した、乗かご内異常検出装置7を診断する診断システムの処理手順の一例を、
図3から
図6のフローチャートに従い説明する。
【0023】
最初に、エレベーター制御装置4は、乗かご内異常検出装置7の診断開始の条件が満たされているかを確認する(S1)。診断開始条件の一例としては、エレベーター100の利用客が少ないことが実績上判明している特定時間帯(例えば、深夜)に、実際にエレベーター100の利用がなかった場合などである。この例の場合、診断時刻通信部42fは、現在の日時を確認し、乗かご内異常検出装置7の診断可能日時として登録された日時であると判断したなら(S1でYes)、エレベーター制御装置4のロボット動作指令部42eは、自走式ロボット6を乗車階のホール8へ移動させる指令を生成し、公衆回線102を介して遠隔管理センタ101に送信する(S2)。
【0024】
遠隔管理センタ101を中継した指令を、動作指令受信部61dで受信した自走式ロボット6は、動作指令可否応答部61fで指令の実行が可能かを判断し、その判断結果を、エレベーター制御装置4のロボット動作情報受信部42gへ回答する(S3)。
【0025】
判断結果が、自走式ロボット6の移動不可能を示すものであった場合は(S3でNo)、登録された日時での、乗かご内異常検出装置7の診断は実施せずに、
図3のフローを終了する。
【0026】
一方、判断結果が、自走式ロボット6の移動可能を示すものであった場合は(S3でYes)、自走式ロボット6が乗車階のホール8へと移動するとともに、エレベーター制御部41が巻上機3を制御し、乗かご1を自走式ロボット6の乗車階へと移動させる(S4)。
【0027】
乗かご1が自走式ロボット6の乗車階に到着すると、エレベーター制御部41は、エレベーター100に指令を出しドアを開放した後(S5)、ロボット動作指令部42eは自走式ロボット6に対する乗車指令を生成し、その指令を遠隔管理センタ101を介して自走式ロボット6に送信する(S6)。そして、その指令を、動作指令受信部61dで受信した自走式ロボット6は、指令に従い、乗かご1に乗車する。
【0028】
ここで、エレベーター制御装置4の挙動管理部42は、自走式ロボット6が乗かご1へ正常に乗車できたかの確認を行う(S7)。このS7での確認方法の詳細を
図4のフローチャートを用いて説明する。
【0029】
まず、映像記録装置71が撮影した乗かご内の撮影画像データを、ロボット乗込確認部42aで解析し(S71)、乗かご内の撮影画像データに自走式ロボット6が確認された場合(S71でYes)は、自走式ロボット6が正常に乗車したと判断し、「乗車確認フラグ」を生成する(S72)。
【0030】
一方、自走式ロボット6が確認されなかった場合(S71でNo)は、荷重センサ11の重量情報からロボット乗込確認部42aが判断を行う(S73)。
【0031】
荷重センサ11に自走式ロボット6の重量に相当する反応があった場合(S73でYes)は、自走式ロボット6が乗車しているのにも関わらず、映像記録装置71が正常に動作していないと判断できるため、映像記録装置71に異常があることを示す「カメラ異常フラグ」を生成する(S74)。
【0032】
乗かご内の撮影画像データに自走式ロボット6が確認されず、さらに、荷重センサ11にも反応がなかった場合(S73でNo)は、映像記録装置71が撮影した乗かご内の撮影画像データは正常であるが、自走式ロボット6に異常があって乗車できていないと判断できるため、自走式ロボット6に異常があることを示す「ロボット異常フラグ」を生成する(S75)。
【0033】
すなわち、自走式ロボット6の乗車確認処理(S7)では、状況に応じて、「乗車確認フラグ」、「カメラ異常フラグ」、「ロボット異常フラグ」の何れかのフラグが生成される。
【0034】
再び、
図3の説明に戻ると、乗車確認処理(S7)で生成されたフラグは、ロボット乗込確認部42aで処理され、映像記録装置71の異常(S74)や、自走式ロボット6の異常(S75)があり、自走式ロボット6の乗車が確認できなかった場合(S8でNo)には、遠隔管理センタ101に当該の異常フラグが報告され、
図3の処理を終了する(S14)。ここまでの作業は、エレベーター制御装置4が登録日時に自動的に実行するものであるため、点検作業者は翌朝などの事後に、異常フラグを確認し、その異常内容に応じたメンテナンスを実行することができる。
【0035】
一方、「乗車確認フラグ」が生成され、正常に乗車できたことが確認された場合(S8でYes,S72)は、エレベーター制御部41からの指令によって、乗かご1のドアが閉じられる(S9)。
【0036】
その後、乗かご内異常検出装置7の診断が行われる(S10)。ここで実行される乗かご内異常検知には、暴れ検知と、滞留検知の2種類があり、各々に対し、異なる処理手順が用意されている。以下では、暴れ検知(S10A)の詳細を
図5のフローチャートを用いて説明し、滞留検知(S10B)の詳細を
図6のフローチャートを用いて説明する。
【0037】
先ず、
図5を用いて、暴れ検知(S10A)の処理手順を説明する。ドアの閉鎖を確認(S10A1)した後、ロボット位置把握部42dは、映像記録装置71が撮影した乗かご内の撮影画像データにて、自走式ロボット6が指定位置にいるかを確認する(S10A2)。
【0038】
指定位置にいることが確認された場合には、ロボット動作指令部42eで自走式ロボット6に暴れを模倣させる指令が生成され、遠隔管理センタ101を介して、自走式ロボット6の動作指令受信部61dに送信される。この指令を受信した自走式ロボット6は、挙動検出用動作部61cの制御によって暴れ模倣動作を開始する(S10A3)。なお、暴れ模倣動作は、自走式ロボット6が前後に反復移動するような動作であっても良いし、頭や腕を備えた自走式ロボット6の場合は、頭や腕を振り回すような動作であっても良い。
【0039】
挙動検知装置72内の暴れ検知部72aは、乗かご内の撮影画像データを解析し、自走式ロボット6の暴れ模倣動作が検知できたかを確認する(S10A4)。ここで用いられる解析手法としては、映像の1コマ1コマの差分をとり特徴量を抽出し、一定時間の特徴量が画像面積比で所定の閾値よりも大きい場合、暴れ行動と判断する手法などがある。なお、暴れ検出の解析手法は、従来より種々のものが提案されており、ここでは、他の解析手法を用いても良い。
【0040】
暴れ行動が検知された場合(S10A4でYes)には、暴れ検知部72aが正常であることを示す「暴れ検知成功フラグ」を生成し、検知結果送信部72cから挙動検知結果受信部42bへ「暴れ検知成功フラグ」を送信する(S10A5)。その後、ロボット動作指令部42eでは暴れ模倣動作の停止指令を生成し、その指令を遠隔管理センタ101に送信する。遠隔管理センタ101を経由した停止指令を、動作指令受信部61dで受信した自走式ロボット6は暴れ模倣動作を停止する(S10A7)。
【0041】
一方、暴れ行動が検知されなかった場合(S10A4でNo)には、暴れ検知部72aが異常(故障)であることを示す「暴れ検知失敗フラグ」を生成し、検知結果送信部72cから挙動検知結果受信部42bへ「暴れ検知失敗フラグ」を送信し(S10A6)、その後、上述したS10A7の処理が実行される。
【0042】
次に、これらの診断を乗かご1内の全ての指定位置で実行されたかを確認する(S10A8)。未だ診断していない場所がある場合は(S10A8でNo)、自走式ロボット6をそこへ移動させ(S10A9)、S10A2〜S10A7の処理を実行する。一方、全ての位置での診断が終了した際には(S10A8でYes)、暴れ検知機能の診断を終了とする。
【0043】
次に、
図6を用いて、滞留検知(S10B)の処理手順を説明する。ドアの閉鎖を確認(S10B1)した後、ロボット位置把握部42dは、映像記録装置71が撮影した乗かご内の撮影画像データにて、自走式ロボット6が指定位置にいるかを確認する(S10B2)。
【0044】
指定位置にいることが確認された場合、挙動検知装置72内の滞留検知部72bは、乗かご内の撮影画像データを解析し、自走式ロボット6の滞留、すなわち、動きがないことを検知できたか確認する(S10B3)。ここで用いられる解析手法としては、映像の1コマ1コマの差分をとり特徴量抽出し、一定時間の特徴量が画面面積比で所定の閾値より小さい場合、滞留していると判断する手法などがある。なお、滞留検知の解析手法は、従来より種々のものが提案されており、ここでは、他の解析手法を用いても良い。
【0045】
滞留が検知された場合(S10B3でYes)には、タイマーをカウントアップするとともに(S10B4)、所定時間(例えば3分)以上経過したかを判断する(S10B5)。所定時間経過した場合、すなわち、長時間に亘り滞留が連続検知された場合には(S10B5でYes)、滞留検知部72bが正常であることを示す「滞留検知成功フラグ」を生成し、検知結果送信部72cから挙動検知結果受信部42bへ「滞留検知成功フラグ」を送信する(S10B6)。
【0046】
一方、所定時間内に一度でも滞留が検知されなかった場合(S10B3でNo)には、滞留検知部72bが異常(故障)であることを示す「滞留検知失敗フラグ」を生成し、検知結果送信部72cから挙動検知結果受信部42bへ「滞留検知失敗フラグ」を送信する(S10B7)。
【0047】
次に、これらの診断を乗かご1内の全ての指定位置で実行されたかを確認する(S10B8)。未だ診断していない場所がある場合は(S10B8でNo)、自走式ロボット6をそこへ移動させ(S10B9)、S10B2〜S10B7の処理を実行する。一方、全ての位置での診断が終了した際には(S10B8でYes)、滞留検知機能の診断を終了とする。
【0048】
図3に戻って説明を続ける。乗かご内異常検出装置7の診断(S10)が終了すると、エレベーター制御部41はエレベーター100に指令を出し、ドアを開放した後(S11)、ロボット動作指令部42eは、遠隔管理センタ101に向けて自走式ロボット6の降車指令を送信し、遠隔管理センタ101を経由した降車指令を受信した自走式ロボット6は、乗かご1から降車する(S12)。
【0049】
その後、暴れ検知(S10A)及び滞留検知(S10B)において、乗かご内異常検出装置7が正常と診断されたかの確認を行う(S13)。暴れ検知及び滞留検知が正常に動作した場合(S13でYes)には、挙動管理部42内の挙動検知結果送信部42cは、「暴れ検知成功フラグ」、「滞留検知成功フラグ」を遠隔管理センタ101に送信して、乗かご内異常検出装置7の診断を終了する。作業者は遠隔管理センタ101でこれらのフラグを確認することで、現場に赴かずとも、乗かご内異常検出装置7が正常であることを知ることができる。なお、正常と判断される場合には、それを示すフラグを遠隔管理センタ101に送信しないこととしても良い。
【0050】
一方、暴れ検知(S10A)もしくは滞留検知(S10B)のどちらか一方でも異常と判断された場合(S13でNo)には、挙動検知結果送信部42cは、「暴れ検知失敗フラグ」、「滞留検知失敗フラグ」、および、それらの発生位置を遠隔管理センタ101に報告する(S14)。これにより、作業者は遠隔管理センタ101でこれらのフラグを確認することで、現場に赴かずとも、乗かご内異常検出装置7の暴れ検知または滞留検知に異常があること、および、異常が発生した乗かご1内の位置を特定することができ、それらを踏まえた適切な修理を行うことができる。
【0051】
以上で説明したように、本実施例の診断システムを用いることで、作業者が現場に赴かずとも、エレベーターの乗かご内異常検出装置の異常の有無を診断することができるため、作業者の負担を大幅に低減できることに加え、診断の頻度を高めることもできる。また、診断の品質が作業者の熟練度に左右されないため、例え、初心者がかかわる場合であっても、乗かご内異常検出装置の異常の有無を正しく判断することができる。
【0052】
なお、以上の実施例では、エレベーター制御装置4とは別に挙動検知装置72を設ける構成を例に説明を行ったが、エレベーター制御装置4の挙動管理部42に、挙動検知装置72の機能を取り込んだ構成としても良い。
【0053】
また、以上で説明した診断中に、利用者による乗かご呼びが発生する場合も考えられるが、その場合は、利用者の要求を優先することとしても良いし、診断を優先することとしても良い。