特許第6638504号(P6638504)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6638504
(24)【登録日】2020年1月7日
(45)【発行日】2020年1月29日
(54)【発明の名称】インバータ駆動装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20200120BHJP
【FI】
   H02M7/48 M
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-57490(P2016-57490)
(22)【出願日】2016年3月22日
(65)【公開番号】特開2017-175737(P2017-175737A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2018年9月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000100768
【氏名又は名称】アイシン・エィ・ダブリュ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼倉 裕司
【審査官】 佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−165623(JP,A)
【文献】 特開2015−186303(JP,A)
【文献】 特開2013−179828(JP,A)
【文献】 特開2010−279195(JP,A)
【文献】 特開2003−299367(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0252997(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02P 21/00,27/08
B60L 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1直流電源及び交流の電気機器に接続されて直流と交流との間で電力を変換するインバータ回路を構成する複数のスイッチング素子を駆動するインバータ駆動装置であって、
前記スイッチング素子の負極側の端子の電位に対して正の電位であって、前記スイッチング素子をオン状態に制御する電位を第1電位とし、
前記スイッチング素子の負極側の端子の電位に対して負の電位であって、前記スイッチング素子をオフ状態に制御する電位を第2電位として、
前記第1電位及び前記第2電位を、前記第1直流電源よりも定格電圧が低い第2直流電源から生成する第1駆動電圧生成回路と、
前記インバータ回路を制御するインバータ制御装置から出力されるスイッチング制御信号の論理レベルに応じて、前記第1電位の駆動信号、又は、前記第2電位の前記駆動信号を生成して、前記スイッチング素子の制御端子に伝達する第1駆動回路と、
前記第2直流電源又は前記第2直流電源を電力源として動作する低圧系回路の動作状態を監視する電圧監視回路と、
前記電圧監視回路による監視結果に基づいて、前記スイッチング素子の負極側の端子の電位に対して負の電位であって、前記スイッチング素子をオフ状態に制御する電位である第3電位を、前記第1直流電源又は前記インバータ回路の直流側に接続された平滑コンデンサに充電された電力から生成する第2駆動電圧生成回路と、
前記第2駆動電圧生成回路により前記第3電位が生成された場合に、当該第3電位の前記駆動信号を生成して前記スイッチング素子の制御端子に伝達する第2駆動回路と、を備えるインバータ駆動装置。
【請求項2】
前記インバータ回路は、上段側スイッチング素子と下段側スイッチング素子との直列回路により構成された交流1相分のアームを少なくとも1本備え、前記第2駆動回路は、全ての前記アームの前記上段側スイッチング素子に対してのみ、又は、全ての前記アームの前記下段側スイッング素子に対してのみ前記第3電位の前記駆動信号を伝達する請求項1に記載のインバータ駆動装置。
【請求項3】
前記第2駆動回路は、全ての前記アームの前記下段側スイッチング素子に対してのみ前記第3電位の前記駆動信号を伝達する請求項2に記載のインバータ駆動装置。
【請求項4】
前記第3電位は、前記第2電位以下の電位である請求項1から3の何れか一項に記載のインバータ駆動装置。
【請求項5】
前記第1駆動回路は、前記スイッチング素子の制御端子に対して直列接続された制限抵抗を介して前記第1電位又は前記第2電位の前記駆動信号を当該制御端子に伝達し、
前記第2駆動回路は、当該制限抵抗を介すること無く、前記第3電位の前記駆動信号を当該制御端子に伝達する請求項1から4の何れか一項に記載のインバータ駆動装置。
【請求項6】
前記第2駆動回路は、前記第2駆動電圧生成回路により前記第3電位が生成された場合にのみオン状態に遷移するスイッチを備え、
当該スイッチは、オン状態において、前記第3電位を生成する前記第2駆動電圧生成回路の出力端に電気的に接続された前記第2駆動回路の端子と、前記駆動信号を出力する前記第2駆動回路の出力端子とを導通させる請求項1から5の何れか一項に記載のインバータ駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流と交流との間で電力を変換するインバータ回路を構成する複数のスイッチング素子を駆動するインバータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2003−299367号公報(特許文献1)には、直流と交流との間で電力を変換するインバータ回路のスイッチング素子を駆動する駆動回路(ドライブ回路)に関する技術が開示されている([0014]−[0016]、図1等。)。通常、nチャネル型のIGBTやFETは、エミッタ(ソース)端子を基準としてゲート端子に所定の正電圧を印加することによってオン状態となり、エミッタ(ソース)端子を基準としたゲート端子の電圧をゼロとすることによってオフ状態となる。しかし、スイッチング素子の特性や、インバータ回路及び駆動回路の環境等によっては、エミッタ(ソース)端子を基準としてゲート端子の電圧をゼロとするだけでは、スイッチング素子をオフ状態に維持する際の信頼性が保てない場合がある。特許文献1では、そのような観点から、エミッタ(ソース)端子を基準として、ゲート端子に負の電圧を印加することによって安定してスイッチング素子をオフ状態に制御している。
【0003】
特許文献1では、このような負の駆動信号をスイッチング素子に与えるために、負の電圧を出力する電源回路(ローサイド側スイッチング素子OFF電源回路(7))を備えている。この電源回路(7)は、別の電源回路(中位電源回路(3))から供給される中間電圧から負の電圧を生成している。中位電源回路(3)は、インバータ回路の直流側に接続された直流源(1)から出力される電圧を中間電圧に変換している。但し、このように、段階的に電圧を変換していくと、変換の都度、損失を生じることになる。特許文献1では、中間電圧が10[V]と例示されているが、出力の大きい機器を駆動するようなインバータ回路の場合には、直流源(1)の電圧が200〜400[V]程度の場合もある。このような場合には、電圧変換における損失も大きくなる。
【0004】
このため、スイッチング制御信号を生成する制御回路などに電力を供給するために、インバータ回路に接続される直流源とは別に当該直流源よりも定電圧の低圧直流源が備えられる場合がある。低圧直流源を有する場合には、駆動回路の動作電圧も、低圧直流源から生成されることが多い。ここで、低圧直流源や、低圧直流源から駆動回路の動作電圧を生成する電源回路から適切な電圧が出力されないような事象が生じた場合、スイッチング素子を安定してオフ状態に制御できなくなるおそれがある。例えば、オフ状態とすることができていても、ノイズ等によってスイッチング素子が動作してコレクターエミッタ間(ドレイン−ソース間)に電流が流れる場合がある。その状態で、直流源からインバータ回路に電力が供給されているなど、インバータ回路の直流側に高い電圧が印加されていると、スイッチング素子には非常に大きな電流が流れることになり、好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−299367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記背景に鑑みて、インバータ回路を構成するスイッチング素子に駆動信号を伝達する駆動回路への電力供給が滞った場合においても、適切にスイッチング素子をオフ状態に制御することができる技術の提供が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
1つの態様として、上記に鑑みた、第1直流電源及び交流の電気機器に接続されて直流と交流との間で電力を変換するインバータ回路を構成する複数のスイッチング素子を駆動するインバータ駆動装置は、
前記スイッチング素子の負極側の端子の電位に対して正の電位であって、前記スイッチング素子をオン状態に制御する電位を第1電位とし、
前記スイッチング素子の負極側の端子の電位に対して負の電位であって、前記スイッチング素子をオフ状態に制御する電位を第2電位として、
前記第1電位及び前記第2電位を、前記第1直流電源よりも定格電圧が低い第2直流電源から生成する第1駆動電圧生成回路と、
前記インバータ回路を制御するインバータ制御装置から出力されるスイッチング制御信号の論理レベルに応じて、前記第1電位の駆動信号、又は、前記第2電位の前記駆動信号を生成して、前記スイッチング素子の制御端子に伝達する第1駆動回路と、
前記第2直流電源又は前記第2直流電源を電力源として動作する低圧系回路の動作状態を監視する電圧監視回路と、
前記電圧監視回路による監視結果に基づいて、前記スイッチング素子の負極側の端子の電位に対して負の電位であって、前記スイッチング素子をオフ状態に制御する電位である第3電位を、前記第1直流電源又は前記インバータ回路の直流側に接続された平滑コンデンサに充電された電力から生成する第2駆動電圧生成回路と、
前記第2駆動電圧生成回路により前記第3電位が生成された場合に、当該第3電位の前記駆動信号を生成して前記スイッチング素子の制御端子に伝達する第2駆動回路と、を備える。
【0008】
この構成によれば、第2直流電源を電力源として第1電位及び第2電位を生成する第1駆動電圧生成回路が正常に機能しない場合に、第2駆動電圧生成回路により、スイッチング素子をオフ状態に制御することのできる第3電位が生成される。さらに、この第3電位が生成された場合には、第2駆動回路により当該第3電位の駆動信号が生成されてスイッチング素子の制御端子に伝達される。第1駆動電圧生成回路が正常に機能しない場合、スイッチング素子の制御ができなくなるおそれがあるが、そのような場合でも、スイッチング素子を少なくともオフ状態に制御することができる。即ち、本構成によれば、インバータ回路を構成するスイッチング素子に駆動信号を伝達する駆動回路への電力供給が滞った場合においても、適切にスイッチング素子をオフ状態に制御することができる。
【0009】
インバータ駆動装置のさらなる特徴と利点は、図面を参照して説明する実施形態についての以下の記載から明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】回転電機制御装置のシステム構成例を示す回路ブロック図
図2】駆動装置の構成例を示す模式的回路図
図3】第2駆動電圧生成回路の構成例を示す模式的回路ブロック図
図4】第2駆動生成回路の構成例を示す模式的回路ブロック図
図5】複数相の駆動装置の構成例を示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、回転電機を駆動制御する回転電機制御装置に適用される形態を例として、インバータ駆動装置の実施形態を図面に基づいて説明する。図1の回路ブロック図は、回転電機制御装置1のシステム構成を模式的に示している。図1に示すように、回転電機制御装置1は、直流電力と複数相の交流電力との間で電力を変換するインバータ回路10を備えている。本実施形態では、交流の回転電機80及び高圧バッテリ11(第1直流電源)に接続されて、複数相の交流と直流との間で電力を変換するインバータ回路10を例示する。インバータ回路10は、高圧バッテリ11にコンタクタ9を介して接続されると共に、交流の回転電機80に接続されて直流と複数相の交流(ここでは3相交流)との間で電力を変換する。インバータ回路10は、上段側スイッチング素子3Hと下段側スイッチング素子3Lとの直列回路により構成された交流1相分のアーム3Aを複数本(ここでは3本)備えている。
【0012】
尚、本実施形態では、交流の電気機器として交流の回転電機80を例示しているが、コンプレッサやポンプなど、回転電機以外の電気機器であってもよい。また、本実施形態では、複数本のアーム3Aを有し、複数相の交流電力と直流電力との間で電力を変換するインバータ回路10を例示しているが、インバータ回路10は、アーム3Aを1本のみ有して単相の交流電力と直流電力との間で電力を変換するものであってもよい。
【0013】
回転電機80は、例えばハイブリッド自動車や電気自動車等の車両の駆動力源とすることができる。また、回転電機80は、電動機としても発電機としても機能することができる。回転電機80は、インバータ回路10を介して高圧バッテリ11から供給される電力を、車両の車輪を駆動する動力に変換する(力行)。或いは、回転電機80は、不図示の内燃機関や車輪から伝達される回転駆動力を電力に変換し、インバータ回路10を介して高圧バッテリ11を充電する(回生)。高圧バッテリ11は、例えば、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池などの二次電池(バッテリ)や、電気二重層キャパシタなどにより構成されている。回転電機80が、車両の駆動力源の場合、高圧バッテリ11は、大電圧大容量の直流電源であり、定格の電源電圧は、例えば200〜400[V]である。
【0014】
以下、インバータ回路10の直流側の正極電源ラインPと負極電源ラインNとの間の電圧を、直流リンク電圧Vdcと称する。インバータ回路10の直流側には、直流リンク電圧Vdcを平滑化する平滑コンデンサ(直流リンクコンデンサ4)が備えられている。直流リンクコンデンサ4は、回転電機80の消費電力の変動に応じて変動する直流電圧(直流リンク電圧Vdc)を安定化させる。
【0015】
図1に示すように、高圧バッテリ11とインバータ回路10との間には、コンタクタ9が備えられている。具体的には、コンタクタ9は、直流リンクコンデンサ4と高圧バッテリ11との間に配置されている。コンタクタ9は、回転電機制御装置1の電気回路系統(直流リンクコンデンサ4、インバータ回路10)と、高圧バッテリ11との電気的な接続を切り離すことが可能である。即ち、インバータ回路10は、回転電機80に接続されていると共に、高圧バッテリ11との間にコンタクタ9を介して接続されている。コンタクタ9が接続状態(閉状態)において高圧バッテリ11とインバータ回路10(及び回転電機80)とが電気的に接続され、コンタクタ9が開放状態(開状態)において高圧バッテリ11とインバータ回路10(及び回転電機80)との電気的接続が遮断される。
【0016】
本実施形態において、このコンタクタ9は、車両内の上位の制御装置の1つである車両ECU(Electronic Control Unit)90からの指令に基づいて開閉するメカニカルリレーであり、例えばシステムメインリレー(SMR:System Main Relay)と称される。コンタクタ9は、車両のイグニッションキー(IGキー)がオン状態(有効状態)の際にリレーの接点が閉じて導通状態(接続状態)となり、IGキーがオフ状態(非有効状態)の際にリレーの接点が開いて非導通状態(開放状態)となる。
【0017】
上述したように、インバータ回路10は、直流リンク電圧Vdcを有する直流電力を複数相(nを自然数としてn相、ここでは3相)の交流電力に変換して回転電機80に供給すると共に、回転電機80が発電した交流電力を直流電力に変換して直流電源に供給する。インバータ回路10は、複数のスイッチング素子3を有して構成される。スイッチング素子3には、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やパワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)やSiC−MOSFET(Silicon Carbide - Metal Oxide Semiconductor FET)やSiC−SIT(SiC - Static Induction Transistor)、GaN−MOSFET(Gallium Nitride - MOSFET)などの高周波での動作が可能なパワー半導体素子を適用すると好適である。図1及び図2に示すように、本実施形態では、スイッチング素子3としてMOSFET(好適には、SiC−MOSFET)が用いられる。図2に示すように、本実施形態では、スイッチング素子3は、nチャネル型のMOSFET3F、ゲート−ソース間に接続されたゲートバイアス抵抗3R、後述するフリーホイールダイオード3Dを有して構成されている。
【0018】
例えば直流と複数相の交流との間で電力変換するインバータ回路10は、よく知られているように複数相のそれぞれに対応する数のアーム3Aを有するブリッジ回路により構成される。本実施形態では、回転電機80のU相、V相、W相に対応するステータコイル8のそれぞれに一組の直列回路(アーム3A)が対応したブリッジ回路が構成される。アーム3Aの中間点、つまり、正極電源ラインPの側のスイッチング素子3(上段側スイッチング素子3H)と負極電源ラインN側のスイッチング素子3(下段側スイッチング素子3L)との接続点は、回転電機80の3相のステータコイル8にそれぞれ接続される。尚、各スイッチング素子3には、負極(N)から正極(P)へ向かう方向(下段側から上段側へ向かう方向)を順方向として、並列にフリーホイールダイオード3Dが備えられている(図2参照)。
【0019】
図1に示すように、インバータ回路10は、インバータ制御装置20により制御される。インバータ制御装置20は、マイクロコンピュータ等の論理回路を中核部材として構築されている。例えば、インバータ制御装置20は、車両ECU90等の他の制御装置等から要求信号として提供される回転電機80の目標トルクに基づいて、ベクトル制御法を用いた電流フィードバック制御を行って、インバータ回路10を介して回転電機80を制御する。回転電機80の各相のステータコイル8を流れる実電流は電流センサ12により検出され、インバータ制御装置20はその検出結果を取得する。また、回転電機80のロータの各時点での磁極位置は、例えばレゾルバなどの回転センサ13により検出され、インバータ制御装置20はその検出結果を取得する。インバータ制御装置20は、電流センサ12及び回転センサ13の検出結果を用いて、電流フィードバック制御を実行する。インバータ制御装置20は、電流フィードバック制御のために種々の機能部を有して構成されており、各機能部は、マイクロコンピュータ等のハードウエアとソフトウエア(プログラム)との協働により実現される。電流フィードバック制御については、公知であるのでここでは詳細な説明は省略する。
【0020】
ところで、インバータ回路10を構成する各スイッチング素子3の制御端子(例えばMOSFETのゲート端子)は、駆動装置2(インバータ駆動装置)を介してインバータ制御装置20に接続されており、それぞれ個別にスイッチング制御される。車両ECU90や、スイッチング制御信号SWを生成するインバータ制御装置20は、マイクロコンピュータなどを中核として、図2に示すような低圧系回路LVとして構成される。低圧系回路LVは、インバータ回路10などの回転電機80を駆動するための高圧系回路HVとは、動作電圧(回路の電源電圧)が大きく異なる。多くの場合、車両には、高圧バッテリ11の他に、高圧バッテリ11よりも低電圧(例えば12〜24[V])の電源である低圧バッテリ15(第2直流電源)も搭載されている。車両ECU90やインバータ制御装置20の動作電圧は、例えば5[V]や3.3[V]であり、低圧バッテリ15の電力に基づいてこれらの電圧を生成する電圧レギュレータなどの電源回路から電力を供給されて動作する。
【0021】
このため、回転電機制御装置1には、各スイッチング素子3に対するスイッチング制御信号SW(MOSFETの場合、ゲート駆動信号)の駆動能力(例えば電圧振幅や出力電流など、後段の回路を動作させる能力)をそれぞれ高めて中継する駆動装置2が備えられている。低圧系回路LVのインバータ制御装置20により生成されたスイッチング制御信号SWは、駆動装置2を介して高圧系回路HVの駆動信号DSとしてインバータ回路10に供給される。駆動装置2には、それぞれのスイッチング素子3に対応する第1駆動回路21が備えられている。本実施形態では、インバータ回路10に6つのスイッチング素子3が備えられており、駆動装置2にも6つの第1駆動回路21が備えられている(例えば図5参照)。低圧系回路LVと高圧系回路HVとは、多くの場合、互いに絶縁されている。本実施形態でも、フォトカプラ(6,31)やトランス(52)などの絶縁素子により、低圧系回路LVと高圧系回路HVとが絶縁されている。
【0022】
ところで、駆動装置2には、スイッチング素子3の制御に必要な出力を得るために負電源が必要なものがある。例えばスイッチング素子3がIGBTの場合には、そのような負電源が必要とされることは少ないが、スイッチング素子3がSiC−MOSFETの場合には、しばしばそのような負電源が必要とされる。
【0023】
スイッチング素子3がIGBTの場合には、スイッチング素子3の負極側の端子の電位を基準として駆動信号DSの信号レベルが例えば15〜20[V]の時に当該スイッチング素子3がオン状態に制御され、信号レベルが0[V]の時に当該スイッチング素子3がオフ状態に制御される。この場合には、駆動装置2には、負電源は不要である。近年実用化が進んでいる素子の1つであるSiC−MOSFETは、IGBTに比べてスイッチング速度が速く、スイッチング損失も小さい。また、SiC−MOSFETは、小型化も可能であるから、IGBTに代えてインバータ回路10のスイッチング素子3として採用される例も増加している。但し、SiC―MOSFETは、IGBTに比べて、スイッチング素子3の負極側の端子の電位を基準とした場合に、オン状態とオフ状態とが切り換わるしきい値電圧が低い。例えば、IGBTのしきい値電圧は5〜7[V]程度であり、SiC−MOSFETのしきい値電圧は1〜3[V]程度である。
【0024】
このため、スイッチング素子3がSiC―MOSFETの場合には、スイッチング素子3の負極側の端子の電位を基準とした駆動信号DSの信号レベルが例えば15〜20[V]の時には、当該スイッチング素子3が安定してオン状態に制御されるが、信号レベルが0[V]の時には、ノイズ等に影響によって当該スイッチング素子3がオフ状態に制御されない場合がある。スイッチング素子3を適切にオフ状態に制御するためには、駆動信号DSの信号レベルを、スイッチング素子3の負極側の端子の電位よりも低い電位にする必要がある。例えば、スイッチング素子3の負極側の端子の電位を基準として“−5[V]”程度の信号レベルの駆動信号DSが必要となる。
【0025】
本実施形態では、インバータ回路10を構成するスイッチング素子3として、このSiC−MOSFETを例示している。従って、駆動装置2は、信号レベルが負の駆動信号DSを出力する必要があり、駆動装置2には、負電源が必要である。ここで、スイッチング素子3をオン状態に制御する電位(上述した約15〜20[V]程度の電位に相当する)を第1電位“+V1”と称する。第1電位“+V1”は、スイッチング素子3の負極側の端子の電位に対して正の電位である。また、スイッチング素子3をオフ状態に制御する電位を第2電位“−V2”と称する。第2電位“−V2”は、スイッチング素子3の負極側の端子の電位に対して負の電位である。第1駆動電圧生成回路5は、第1電位“+V1”及び第2電位“−V2”を、高圧バッテリ11(第1直流電源)よりも定格電圧が低い低圧バッテリ15(第2直流電源)から生成する。
【0026】
第1駆動電圧生成回路5は、一次側コイル及び二次側コイルを備えたトランス(第1駆動電圧生成用トランス52)と、制御回路51とを有している。一次側コイルは低圧系回路LVに接続され、二次側コイルは高圧系回路HVに接続されている。制御回路51は、スイッチング素子を備えて構成されており、一次側コイルへの通電を制御する。このようなトランスを利用した電源回路は、公知であるから詳細な説明は省略する。第1駆動電圧生成回路5は、それぞれのスイッチング素子3に駆動信号DSを伝達する第1駆動回路21に独立して駆動電圧を供給する。本実施形態では、インバータ回路10が6つのスイッチング素子3を備え、これに対応して6つの第1駆動回路21が設けられているので、6つの第1駆動電圧生成回路5が設けられる。但し、下段側スイッチング素子3Lに関しては、スイッチング素子3の負極側の端子の電位が“N”であって共通しているので、全相に共通する第1駆動電圧生成回路5が設けられていてもよい(図5にはこの形態を例示)。この場合には、4つの第1駆動電圧生成回路5が設けられる。
【0027】
スイッチング制御信号伝送用フォトカプラ6も、それぞれのスイッチング素子3に対して独立して設けられており、本実施形態では6つ設けられている。フォトカプラは、互いに絶縁された発光ダイオードとフォトトランジスタ(又はフォトダイオード)とを備えており、光信号によって信号を伝送する。スイッチング制御信号伝送用フォトカプラ6の信号入力側の発光ダイオードは低圧系回路LVに接続され、信号出力側のフォトトランジスタ(又はフォトダイオード)は高圧系回路HVに接続されている。信号出力側のフォトトランジスタ(又はフォトダイオード)には、例えば、第1駆動電圧生成回路5から電力が供給される。
【0028】
第1駆動回路21は、インバータ回路10を制御するインバータ制御装置20から出力されるスイッチング制御信号SWの論理レベルに応じて、第1電位“+V1”の駆動信号DS、又は、第2電位“−V2”の駆動信号DSを生成して、スイッチング素子3の制御端子に伝達する。ここで、インバータ制御装置20から出力されるスイッチング制御信号SWとは、上述したようにスイッチング制御信号伝送用フォトカプラ6を介して伝達された信号である。
【0029】
図2に示すように、第1駆動回路21は、例えば、相補的にスイッチングする2つのスイッチング素子(ここではトランジスタ(21n,21p))を有するバッファ回路(エミッタフォロワ回路)として構成されている。具体的には、第1駆動回路21は、NPN型の上段側トランジスタ21n、PNP型の下段側トランジスタ21p、ベース抵抗R23、制限抵抗R24を有して構成されている。上段側トランジスタ21nのコレクタ端子は、第1抵抗R21を介して第1電位“+V1”に接続され、下段側トランジスタ21pのコレクタ端子は、第2抵抗R22を介して第2電位“−V2”に接続されている。上段側トランジスタ21nのエミッタ端子と下段側トランジスタ21pのエミッタ端子と制限抵抗R24の一端とが接続されており、第1駆動回路21からの駆動信号DSは、制限抵抗R24を介して出力される。上段側トランジスタ21nのベース端子と下段側トランジスタ21pのベース端子とは接続されており、ベース抵抗R23を介して共にスイッチング制御信号SWが入力される。
【0030】
NPN型の上段側トランジスタ21nとPNP型の下段側トランジスタ21pとは、スイッチング制御信号SWの論理レベルに応じて、相補的にオン状態となる。第1駆動回路21は、スイッチング制御信号SWの論理レベルがハイ状態のとき、第1電位“+V1”の駆動信号DSを出力し、スイッチング制御信号SWの論理レベルがロー状態のとき、第2電位“−V2”の駆動信号DSを出力する。
【0031】
上述したように、第1駆動電圧生成回路5は、低圧バッテリ15から第1電位“+V1”及び第2電位“−V2”を生成する。従って、低圧バッテリ15からの電力の供給が遮断された場合などには、第1電位“+V1”及び第2電位“−V2”を生成することができなくなる。スイッチング素子3が、SiC−MOSFETの場合、駆動信号DSの電位が、第2電位“−V2”でなければ、安定的にスイッチング素子3をオフ状態に制御することができない。例えば駆動信号DSの電位が、スイッチング素子3の負極側の電位に対して0[V]程度の場合には、ノイズ等によってスイッチング素子3がオン状態となってソース−ドレイン間に電流が流れる可能性がある。高圧バッテリ11とインバータ回路10との接続が維持されている場合(コンタクタ9が閉じている場合)や、当該接続が遮断されていても(コンタクタ9が開放されていても)直流リンクコンデンサ4に多くの電荷が蓄積されている場合に、アーム3Aの両方のスイッチング素子3がオン状態となると、短絡によって大きな電流がアーム3Aに流れるおそれがある。
【0032】
従って、低圧バッテリ15からの電力の供給が遮断された場合などで、第1駆動電圧生成回路5が第2電位“−V2”を生成することができなくなっても、スイッチング素子3を適切にオフ状態とすることができる駆動信号DSをスイッチング素子3に提供することが望まれる。このため、駆動装置2には、上述した第1駆動回路21に加えて、第2駆動回路22が備えられている。第2駆動回路22は、第3電位“−V3”の駆動信号DSを生成してスイッチング素子3の制御端子に伝達する。第3電位“−V3”は、スイッチング素子3の負極側の端子の電位に対して負の電位であって、スイッチング素子3をオフ状態に制御する電位である。好ましくは、第3電位“−V3”は、第2電位“−V2”以下の電位に設定されており、第3電位“−V3”の駆動信号DSによってスイッチング素子3を適切にオフ状態に制御することができる。
【0033】
尚、第2駆動回路22は、低圧バッテリ15からの電力の供給が遮断された場合などで、第1駆動電圧生成回路5が第2電位“−V2”を生成することができなくなった場合に第3電位“−V3”の駆動信号DSを生成する。このため、駆動装置2は低圧バッテリ15(第2直流電源)又は低圧バッテリ15を電力源として動作する低圧系回路LVの動作状態を監視する電圧監視回路30を有している。電圧監視回路30による監視結果は、監視情報伝送用フォトカプラ31などの絶縁回路を介して、高圧系回路HV側の回路(後述する第2駆動電圧生成回路7など)に伝達される。
【0034】
尚、低圧バッテリ15を電力源として動作する低圧系回路LVは、例えば、低圧バッテリ15の正極(+B)と低圧バッテリ15の負極(グラウンド)との間に接続されたフォトカプラの発光ダイオードや、低圧系回路LVに備えられた電圧レギュレータの出力と低圧バッテリ15の負極(グラウンド)との間に接続されたフォトカプラの発光ダイオードであってもよい。当該フォトカプラの二次側のフォトトランジスタ(又はフォトダイオード)を高圧系回路HVに配置すれば、当該フォトカプラによって電圧監視回路30を構成することもできる。
【0035】
高圧系回路HVには、スイッチング素子3をオフ状態に制御する電位である第3電位“−V3”を、高圧バッテリ11(第1直流電源)又は直流リンクコンデンサ4(平滑コンデンサ)に充電された電力から生成する第2駆動電圧生成回路7が備えられている。コンタクタ9が閉じており、高圧系回路HVに高圧バッテリ11から電力が供給されない場合においても、直流リンクコンデンサ4に電荷が溜まっている状態であれば、直流リンクコンデンサ4に充電された電力に基づいて第2駆動電圧生成回路7は、第3電位“−V3”を生成することができる。尚、コンタクタ9が開放されており、第3電位“−V3”を生成することができない程度まで直流リンクコンデンサ4の電荷が放電されている場合には、アーム3Aが短絡状態となってもほとんど電流は流れなくなっているため、問題はない。
【0036】
図3は、トランス(第2駆動電圧生成用トランスT1)を中核として構成される第2駆動電圧生成回路7を例示している。第2駆動電圧生成回路7は、一次側コイルL1、一次側抵抗R1、一次側ダイオードD1、一次側コンデンサC1、及び電源制御用スイッチング素子S1を備えた一次側回路と、二次側コイルL2、二次側ダイオードD2、及び二次側コンデンサC2を備えた二次側回路と、一次側回路の電源制御用スイッチング素子S1をスイッチング制御する制御回路71とを備えて構成されている。
【0037】
制御回路71は、電圧監視回路30から、第1駆動電圧生成回路5が第2電位“−V2”を生成することができない状態となっていることを示す監視結果を受け取った場合に、電源制御用スイッチング素子S1をスイッチング制御して、二次側回路に第3電位“−V3”を発生させる。尚、当該監視結果とは、例えば、低圧バッテリ15の端子間電圧を含み、低圧系回路LVの中で予め規定された部位の電圧の監視結果に相当する。
【0038】
一例として、監視対象の電圧が予め規定されたしきい値電圧以下となった場合に、電圧監視回路30から第2駆動電圧生成回路7に監視結果が通知されると好適である。上述したように、フォトカプラを用いて電圧監視回路30を構成する場合には、発光ダイオードが点灯しており、受信側のフォトトランジスタ(フォトダイオード)がオン状態の場合には電圧低下がないと判定し、発光ダイオードが消灯或いは減光して受信側のフォトトランジスタ(フォトダイオード)がオフ状態となった場合に、電圧低下が生じたと判定すると好適である。
【0039】
図3に示すように、一次側回路は、直流リンク電圧Vdc(正極“P”と負極“N”)を電力源としている。また、二次側回路の基準電位は、スイッチング素子3の負極側の電位である。例えば、下段側スイッチング素子3Lに対する第2駆動回路22のために第3電位“−V3”を生成する場合には、当該基準電位は、高圧バッテリ11(又はインバータ回路10)における負極“N”である。上段側スイッチング素子3Hに対する第2駆動回路22のために第3電位“−V3”を生成する場合には、当該基準電位は、U,V,W相それぞれの上段側スイッチング素子3Hの負極側の電位(Nu,Nv,Nw)である。
【0040】
第2駆動回路22は、第2駆動電圧生成回路7により第3電位“−V3”が生成された場合に、当該第3電位“−V3”の駆動信号DSを生成してスイッチング素子3の制御端子に伝達する。図2に示すように、第2駆動回路22は、保護ダイオード22Dと、FET22S(スイッチ)と、バイアス抵抗22Rとを有して構成されている。保護ダイオード22Dは、第1駆動回路21から出力される駆動信号DSが、通常動作の際に第2駆動回路22の影響を受けないように保護するダイオードである。FET22Sのゲート端子は、上述した第2駆動電圧生成回路7の基準電位に接続されている。また、FET22Sのゲート端子は、バイアス抵抗22Rを介して、第2駆動電圧生成回路7の出力、つまり第3電位“−V3”に接続されている。
【0041】
第2駆動電圧生成回路7が第3電位“−V3”を生成していない場合には、例えば図3における二次側コンデンサC2の両端は同電位であり、第2駆動電圧生成回路7の基準電位(N,Nu,Nv,Nw)である。従って、第2駆動電圧生成回路7の出力は、第3電位“−V3”ではなく、第2駆動電圧生成回路7の基準電位(N,Nu,Nv,Nw)である。このため、第2駆動回路22のバイアス抵抗22Rの両端も同電位であり、FET22Sはオフ状態である。
【0042】
第2駆動電圧生成回路7により、第3電位“−V3”が生成されると第2駆動回路22のバイアス抵抗22Rの両端に電位差が生じる。第3電位“−V3”は、第2駆動電圧生成回路7の基準電位(N,Nu,Nv,Nw)よりも低い電位であるから、FET22Sのゲート端子の電位は、ソース端子よりも高い電位となり、nチャネル型のFET22Sはオン状態となる。これにより、FET22Sのソース−ドレイン間が導通し、FET22Sのドレイン端子の電位は、概ね第3電位“−V3”となる。保護ダイオード22Dのアノード端子の電位は、高い状態であっても、概ねスイッチング素子3の負極側の電位(N,Nu,Nv,Nw)であり、第3電位“−V3”よりも高い電位である。従って、保護ダイオード22Dも導通し、保護ダイオード22Dのアノード端子の電位は、順方向電圧降下を無視すれば、概ね第3電位“−V3”となる。つまり、駆動信号DSが概ね第3電位“−V3”となる。保護ダイオード22Dの順方向電圧降下を補償する場合は、第2駆動電圧生成回路7において、第3電位“−V3”を第2電位“−V2”よりも低い電位として生成しておくと好適である。
【0043】
このように、第2駆動回路22は、第2駆動電圧生成回路7により第3電位“−V3”が生成された場合に、当該第3電位“−V3”の駆動信号DSを生成してスイッチング素子3の制御端子に伝達する。第3電位“−V3”が生成されていないとき、即ち、インバータ回路10を含むシステムに好ましくない事象(例えば、第1駆動回路21への電源供給の喪失など)が生じていないときには、第3電位“−V3”が、第1電位“+V1”及び第2電位“−V2”の駆動信号DSに影響を与えないことが好ましい。FET22S(スイッチ)を備えることによって、通常動作時における第3電位“−V3”の影響を抑制することができる。
【0044】
上述したように、第1駆動回路21は、スイッチング素子3の制御端子に対して直列接続された制限抵抗R24を介して第1電位“+V1”又は第2電位“−V2”の駆動信号DSを当該制御端子に伝達する。第1駆動回路21は、通常動作においてスイッチング素子3に駆動信号DSを伝達する。このため、第1駆動回路21は、駆動信号DSの変化点(波形の立ち上がりや立ち下がり)におけるノイズの発生の抑制や、スイッチング素子3に流れる電流の急激な変化の抑制のために、制限抵抗R24を介して駆動信号DSを伝達する。
【0045】
一方、第2駆動回路22は、当該制限抵抗R24を介すること無く、第3電位“−V3”の駆動信号DSを当該制御端子に伝達する。制限抵抗R24を介して駆動信号DSを接続すると、当然ながら駆動信号DSの伝搬遅延時間は増加するから、スイッチング素子3がオン状態とオフ状態との間で状態遷移する時間も長くなる。第3電位“−V3”の駆動信号DSは、迅速にスイッチング素子3をオフ状態に制御するために第2駆動回路22からスイッチング素子3に伝達される。従って、第1駆動回路21とは異なり、第2駆動回路22から出力される第3電位“−V3”の駆動信号DSは、伝搬遅延時間や、スイッチング素子3の状態遷移時間が短くなるように、制限抵抗R24を介すること無く、スイッチング素子3に伝達される。つまり、制限抵抗R24とスイッチング素子3の制御端子との間に、第2駆動回路22からの第3電位“−V3”の駆動信号DSの出力端子が接続されている。
【0046】
ところで、第2駆動電圧生成回路7は、図3に例示したようなトランスを用いた回路(7A)に限定されず、図4に例示するようにチョッパ回路(7B)によって構成されてもよい。第2駆動電圧生成回路7は、負電源を生成する回路であるから、正の入力電圧(負極“N”を基準とした正極“P”)から負の出力電圧(負極“N”を基準として負の電位“−V3”)を発生させる反転型のチョッパ型DC−DCコンバータにより構成されると好適である。図4に示すように、この第2駆動電圧生成回路7は、正極“P”に接続された電源制御用スイッチング素子S3と、エネルギーを蓄積するコイルL3及びコンデンサC3と、整流用のダイオードD3とを有して構成される。この構成の第2駆動電圧生成回路7は、入力側と出力側とが絶縁されてはいない。従って、上段側スイッチング素子3Hに対する第2駆動回路22に第3電位“−V3”を提供する場合には、基準電圧(Nu,Nv,Nw)が不安定となる場合がある。従って、この構成の第2駆動電圧生成回路7は、下段側スイッチング素子3Lに対する第2駆動回路22に第3電位“−V3”を提供する場合に適用することが好ましい。
【0047】
ところで、第2駆動回路22は、全てのアーム3Aの上段側スイッチング素子3Hに対してのみ、又は、全てのアーム3Aの下段側スイッチング素子3Lに対してのみ第3電位“−V3”の駆動信号DSを伝達するものであってよい。アーム3Aは、上段側スイッチング素子3Hと下段側スイッチング素子3Lとの直列回路により構成されているから、上段側スイッチング素子3H及び下段側スイッチング素子3Lの何れか一方をオフ状態に制御することができれば、アーム3Aが短絡状態となることを抑制することができる。上段側スイッチング素子3H及び下段側スイッチング素子3Lの双方に対して第2駆動回路22を設ける場合に比べて、上段側スイッチング素子3H及び下段側スイッチング素子3Lの何れか一方に対して第2駆動回路22を設ける方が、駆動装置2の構成を小規模にすることができて好適である。
【0048】
さらに、上段側スイッチング素子3H及び下段側スイッチング素子3Lの何れか一方に対して第2駆動回路22を設ける場合、第2駆動回路22は、全てのアーム3Aの下段側スイッチング素子3Lに対してのみ第3電位“−V3”の駆動信号DSを伝達するように設けられていると好適である。上述したように、第2駆動電圧生成回路7は、スイッチング素子3の負極側の端子の電位に対して負の電位である第3電位“−V3”を生成する。下段側スイッチング素子3Lの負極側の端子の電位は、インバータ回路10の動作状態に拘わらず、インバータ回路10の負極“N”である。従って、第2駆動電圧生成回路7は安定して第3電位“−V3”を生成することができ、駆動信号DSも安定する。
【0049】
また、本実施形態のように、インバータ回路10が直流と複数相の交流との間で電力を変換する場合には、アーム3Aも交流の相数に応じて複数構成されている。上述したように、アーム3Aが複数存在する場合でも、下段側スイッチング素子3Lの負極側の端子の電位は“N”で一定であり、複数のアーム3Aにおいて共通である。従って、図5に示すように、複数本のアーム3Aに共通する1つの第2駆動電圧生成回路7が下段側スイッチング素子3Lの負極側の端子の電位に対して負の電位である第3電位“−V3”を生成することができる。
【0050】
一方、上段側スイッチング素子3Hの負極側の端子の電位は、インバータ回路10の動作状態に応じて変動する。従って、インバータ回路10が複数本のアーム3Aを有する場合には、図5に仮想線で示すように、アーム3Aの本数に応じた数の第2駆動電圧生成回路7が必要である。図5を参照すれば明らかなように、インバータ回路10が複数本のアーム3Aを備える場合には、下段側スイッチング素子3Lに対してのみ第2駆動回路22が設けられる構成(実線)の方が、上段側スイッチング素子3Hに対してのみ第2駆動回路22が設けられる構成(仮想線)に比べて小さい回路規模で駆動装置2を構成することができる。
【0051】
上述したように、本実施形態では、複数本のアーム3Aを有し、複数相の交流電力と直流電力との間で電力を変換するインバータ回路10を例示しているが、インバータ回路10は、アーム3Aを1本のみ有して単相の交流電力と直流電力との間で電力を変換するものであってもよい。そして、第2駆動回路22は、アーム3Aの上段側スイッチング素子3Hに対してのみ、又は、アーム3Aの下段側スイッチング素子3Lに対してのみ第3電位“−V3”の駆動信号DSを伝達するものであってよい。
【0052】
尚、上記において開示された構成は、矛盾が生じない限り、組み合わせて適用することも可能である。その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で単なる例示に過ぎない。従って、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で、適宜、種々の改変を行うことが可能である。
【0053】
〔実施形態の概要〕
以下、上記において説明したインバータ駆動装置(2)の概要について簡単に説明する。
【0054】
1つの態様として、第1直流電源(11)及び交流の電気機器(80)に接続されて直流と交流との間で電力を変換するインバータ回路(10)を構成する複数のスイッチング素子(3)を駆動するインバータ駆動装置(2)は、
前記スイッチング素子(3)の負極側の端子の電位に対して正の電位であって、前記スイッチング素子(3)をオン状態に制御する電位を第1電位(+V1)とし、
前記スイッチング素子(3)の負極側の端子の電位に対して負の電位であって、前記スイッチング素子(3)をオフ状態に制御する電位を第2電位(−V2)として、
前記第1電位(+V1)及び前記第2電位(−V2)を、前記第1直流電源(11)よりも定格電圧が低い第2直流電源(15)から生成する第1駆動電圧生成回路(5)と、
前記インバータ回路(10)を制御するインバータ制御装置(20)から出力されるスイッチング制御信号(SW)の論理レベルに応じて、前記第1電位(+V1)の駆動信号(DS)、又は、前記第2電位(−V2)の前記駆動信号(DS)を生成して、前記スイッチング素子(3)の制御端子に伝達する第1駆動回路(21)と、
前記第2直流電源(15)又は前記第2直流電源(15)を電力源として動作する低圧系回路(LV)の動作状態を監視する電圧監視回路(30)と、
前記電圧監視回路(30)による監視結果に基づいて、前記スイッチング素子(3)の負極側の端子の電位に対して負の電位であって、前記スイッチング素子(3)をオフ状態に制御する電位である第3電位(−V3)を、前記第1直流電源(11)又は前記インバータ回路(10)の直流側に接続された平滑コンデンサ(4)に充電された電力から生成する第2駆動電圧生成回路(7)と、
前記第2駆動電圧生成回路(7)により前記第3電位(−V3)が生成された場合に、当該第3電位(−V3)の前記駆動信号(DS)を生成して前記スイッチング素子(3)の制御端子に伝達する第2駆動回路(22)と、を備える。
【0055】
この構成によれば、第2直流電源(15)を電力源として第1電位(+V1)及び第2電位(−V2)を生成する第1駆動電圧生成回路(5)が正常に機能しない場合に、第2駆動電圧生成回路(7)により、スイッチング素子(3)をオフ状態に制御することのできる第3電位(−V3)が生成される。さらに、この第3電位(−V3)が生成された場合には、第2駆動回路(22)により当該第3電位(−V3)の駆動信号(DS)が生成されてスイッチング素子(3)の制御端子に伝達される。第1駆動電圧生成回路(5)が正常に機能しない場合、スイッチング素子(3)の制御ができなくなるおそれがあるが、そのような場合でも、スイッチング素子(3)を少なくともオフ状態に制御することができる。即ち、本構成によれば、インバータ回路(10)を構成するスイッチング素子(3)に駆動信号を伝達する駆動回路(2(21))への電力供給が滞った場合においても、適切にスイッチング素子(3)をオフ状態に制御することができる。
【0056】
ここで、前記インバータ回路(10)が、上段側スイッチング素子(3H)と下段側スイッチング素子(3L)との直列回路により構成された交流1相分のアーム(3A)を少なくとも1本備え、前記第2駆動回路(22)が、全ての前記アーム(3A)の前記上段側スイッチング素子(3H)に対してのみ、又は、全ての前記アーム(3A)の前記下段側スイッング素子(3L)に対してのみ前記第3電位(−V3)の前記駆動信号(DS)を伝達すると好適である。
【0057】
インバータ回路(10)において最も避けたい事象の1つは、上段側スイッチング素子(3H)と下段側スイッチング素子(3L)とが共にオン状態(非飽和領域での部分的なオン状態も含む)となり、アーム(3A)が短絡状態となることである。上述したように、アーム(3A)は、上段側スイッチング素子(3H)と下段側スイッチング素子(3L)との直列回路により構成されているから、上段側スイッチング素子(3H)及び下段側スイッチング素子(3L)の何れか一方をオフ状態に制御することができれば、そのような短絡状態が生じることを抑制することができる。上段側スイッチング素子(3H)及び下段側スイッチング素子(3L)の双方に対して第2駆動回路(22)を設ける場合に比べて、上段側スイッチング素子(3H)及び下段側スイッチング素子(3L)の何れか一方に対して第2駆動回路(22)を設ける方が、インバータ駆動装置(2)の構成を小規模にすることができて好適である。
【0058】
また、前記インバータ回路(10)が、前記アーム(3A)を少なくとも1本備える場合、前記第2駆動回路(22)が、全ての前記アーム(3A)の前記下段側スイッチング素子(3L)に対してのみ前記第3電位(−V3)の前記駆動信号(DS)を伝達すると好適である。
【0059】
第2駆動電圧生成回路(7)は、スイッチング素子(3)の負極側の端子の電位に対して負の電位である第3電位(−V3)を生成する。上段側スイッチング素子(3H)の負極側の端子の電位は、インバータ回路(10)の動作状態に応じて変動する。一方、下段側スイッチング素子(3L)の負極側の端子の電位は、インバータ回路(10)の動作状態に拘わらず、インバータ回路(10)の直流側の負極電位である。第2駆動電圧生成回路(7)は、安定した下段側スイッチング素子(3L)の負極側の端子の電位に対して負の電位である第3電位(−V3)を生成することで、良好に当該電位を生成することができる。従って、第2駆動回路(22)も下段側スイッチング素子(3L)に対して安定して第3電位(−V3)の駆動信号(DS)を伝達することができる。
【0060】
また、インバータ回路(10)が直流と複数相の交流との間で電力を変換する場合には、アーム(3A)も交流の相数に応じて複数構成されている。アーム(3A)が複数存在する場合でも、下段側スイッチング素子(3L)の負極側の端子の電位は一定であり、複数のアーム(3A)において共通である。従って、複数本のアーム(3A)に共通する1つの第2駆動電圧生成回路(7)が下段側スイッチング素子(3L)の負極側の端子の電位に対して負の電位である第3電位(−V3)を生成することができる。上段側スイッチング素子(3H)の負極側の端子の電位は、インバータ回路(10)の動作状態に応じて変動するから、インバータ回路(10)が複数本のアーム(3A)を有する場合には、その本数に応じた数の第2駆動電圧生成回路(7)が必要である。従って、インバータ回路(10)が複数本のアーム(3A)を備える場合には、下段側スイッチング素子(3L)に対してのみ第2駆動回路(22)が設けられる構成の方が、上段側スイッチング素子(3H)に対してのみ第2駆動回路(22)が設けられる構成に比べて小さい回路規模でインバータ駆動装置(2)を構成することができる。
【0061】
ここで、前記第3電位(−V3)は、前記第2電位(−V2)以下の電位であると好適である。スイッチング素子(3)をオフ状態にするために、第3電位(−V3)の駆動信号(DS)がスイッチング素子(3)に伝達されるので、確実にスイッチング素子(3)をオフ状態に制御できるように、第3電位(−V3)は、第2電位(−V2)以下の電位であることが好ましい。
【0062】
また、前記第1駆動回路(21)が、前記スイッチング素子(3)の制御端子に対して直列接続された制限抵抗(R24)を介して前記第1電位(+V1)又は前記第2電位(−V2)の前記駆動信号(DS)を当該制御端子に伝達する場合、前記第2駆動回路(22)は、当該制限抵抗(R24)を介すること無く、前記第3電位(−V3)の前記駆動信号(DS)を当該制御端子に伝達すると好適である。
【0063】
第1駆動回路(21)は、通常動作においてスイッチング素子(3)に駆動信号(DS)を伝達する。このため、第1駆動回路(21)は、駆動信号(DS)の変化点(波形の立ち上がりや立ち下がり)におけるノイズの発生の抑制や、スイッチング素子(3)に流れる電流の急激な変化の抑制のために、制限抵抗(R24)を介して駆動信号(DS)を伝達するように構成されている場合がある。但し、このような制限抵抗(R24)を設けると、当然ながら駆動信号(DS)の伝搬遅延時間は増加するから、スイッチング素子(3)がオン状態とオフ状態との間で状態遷移する時間も長くなる。第3電位(−V3)の駆動信号(DS)は、迅速にスイッチング素子(3)をオフ状態に制御するために第2駆動回路(22)からスイッチング素子(3)に伝達される。従って、駆動信号(DS)の伝搬遅延時間や、スイッチング素子(3)の状態遷移時間が短くなるように、第3電位(−V3)の駆動信号(DS)は、制限抵抗(R24)を介すること無く、スイッチング素子(3)に伝達されると好ましい。
【0064】
また、前記第2駆動回路(22)は、前記第2駆動電圧生成回路(7)により前記第3電位(−V3)が生成された場合にのみオン状態に遷移するスイッチ(22S)を備え、当該スイッチ(22S)は、オン状態において、前記第3電位(−V3)を生成する前記第2駆動電圧生成回路(7)の出力端に電気的に接続された前記第2駆動回路(22)の端子と、前記駆動信号(DS)を出力する前記第2駆動回路(22)の出力端子とを導通させると好適である。
【0065】
第3電位(−V3)が生成されていないとき、即ち、インバータ回路(10)を含むシステムに好ましくない事象(例えば、第1駆動回路(21)への電源供給の喪失など)が生じていないときには、第3電位(−V3)が、第1電位(+V1)及び第2電位(−V2)の駆動信号(DS)に影響を与えないことが好ましい。当該スイッチ(22S)を備えることによって、通常動作時における第3電位(−V3)の影響を抑制することができる。
【符号の説明】
【0066】
2 :駆動装置
3 :スイッチング素子
3A :アーム
3H :上段側スイッチング素子
3L :下段側スイッチング素子
4 :直流リンクコンデンサ(平滑コンデンサ)
5 :第1駆動電圧生成回路
7 :第2駆動電圧生成回路
10 :インバータ回路
11 :高圧バッテリ(第1直流電源)
15 :低圧バッテリ(第2直流電源)
20 :インバータ制御装置
21 :第1駆動回路
22 :第2駆動回路
22S :FET(スイッチ)
24 :制限抵抗
30 :電圧監視回路
DS :駆動信号
Lv :低圧系回路
R24 :制限抵抗
SW :スイッチング制御信号
図1
図2
図3
図4
図5