【実施例】
【0035】
以下には、本明細書で開示するアルカリ金属(Li,Na)の回収方法およびアルカリ金属フッ化物の分解方法を具体的に検討した例を実施例として説明する。
【0036】
[実施例1]
LiF(高純度化学製)と、導電材としてのカーボンブラック(東海カーボン製TB5500)と、結着材としてのポリテトラフルオロエチレン(PTFE,ダイキン工業製F−104)とを質量比で、 35:55:10の割合でメノウ乳鉢により乾式混合して電極合材を作製し、 その合材10.6mgをチタンメッシュ(ニラコ製,80メッシュ)に圧着したものを対極(分解極,正極)とした。 イオン伝導媒体は、支持塩としてのリチウムビストリフルオロメタンスルホニルアミド(LiTFSA,関東化学製)と非水系溶媒としてのプロピレンカーボネート(PC,キシダ化学製)とを含む0.15mol/Lの非水系電解液とし、電解液15mLに臭化沃素(アルドリッチ製)14mgを溶解したものを用いた。 本城金属の金属リチウムを回収極(対極,負極)として電気化学装置(
図2参照)を作製した。 北斗電工の充放電装置(HJ1001SM8A)を用いて25℃にて0.04mA(合材重量あたり10mA/g)の電流で4.8Vまで電圧を印加(充電)し、LiFを分解させた。
【0037】
[比較例1]
臭化沃素を含まない電解液を用いた以外は実施例1と同様の構成とした電気化学装置を比較例1とした。
【0038】
図5は、実施例1、比較例1のLiFの分解での電気容量と電圧との関係図である。電気容量−セル電圧の関係図では、電気容量の増加は、電流量の増加、即ちLiFの分解量が増加することを表す。また、実施例1では、含まれるLiFの量から計算される理論的な電気容量は、3.83mAhである。
図5に示すように、IBrのない比較例1では、LiFの分解はほとんどみられなかった。一方、IBrを加えた実施例1では、大きな電気容量を示し、フッ化リチウムの分解が確認された。なお、電気化学装置の内部を確認したところ、回収極の表面に凸部が生成しており、回収極上にLiが析出したことが確認された。このため、この電気化学装置の構成では、フッ化リチウムを溶解し、金属リチウムを回収することができると推察された。また、実施例1では、添加したすべてのIBrが反応に関与すると、LiF+0.5IBr→0.5LiI+0.5LiBr+F
-の式から、理論的なハロゲン間化合物の電気容量は、0.014/206.8×268000=1.81mAhと計算される。実施例1では、終了時の容量が0.76mAhであるので、ハロゲン間化合物を使い切る前に分解反応が終了したと推察された。この原因は、電解液とフッ化リチウムとの親和性が比較的低いからであると推察された。
【0039】
[実施例2]
電極合材を12.6mgとし、 臭化沃素の代わりに塩化沃素13mgを用いた以外は実施例1と同様の構成とした電気化学装置を実施例2とした。
【0040】
[比較例2]
塩化沃素を含まない電解液を用いた以外は実施例2と同様の構成とした電気化学装置を比較例2とした。
【0041】
図6は、実施例2、比較例2のLiFの分解での電気容量と電圧との関係図である。実施例2では、含まれるLiFの量から計算される理論的な電気容量は、4.55mAhである。
図6に示すように、IClのない比較例2では、LiFの分解はほとんどみられなかった。一方、IClを加えた実施例2では、大きな電気容量を示し、LiFの分解が確認された。このため、この電気化学装置の構成では、フッ化リチウムを溶解し、金属リチウムを回収することができると推察された。また、実施例2では、添加したすべてのIClが反応に関与すると、LiF+0.5ICl→0.5LiI+0.5LiCl+F
-の式から、理論的なハロゲン間化合物の電気容量は、0.013/162.35×268000=2.15mAhと計算される。実施例2では、終了時の容量が1.28mAhであるので、ハロゲン間化合物を使い切る前に分解反応が終了したと推察された。
【0042】
[実施例3]
電極合材を33.7mgとし、 臭化沃素を22.6mg、 電解液溶媒にエチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)との体積比1:1の混合溶媒を用いた以外は実施例1と同様の構成とした電気化学装置を実施例3とした。実施例3では、終止電圧を4.2Vとした。
図7は、実施例3のLiFの分解での電気容量と電圧との関係図である。実施例3では、含まれるLiFの量から計算される理論的な電気容量は、12.18mAhである。実施例3では、添加したすべてのIBrが反応に関与すると、理論的なハロゲン間化合物の電気容量は、0.0227/206.8×268000=2.94mAhと計算される。実施例3では、終了時の容量が11mAhであるので、ハロゲン間化合物を超える分解反応が行われており、
図1に示したサイクルが4回ほど繰り返されたものと推察された。
【0043】
[実施例4]
電極合材を22.6mgとし、 塩化沃素を14.0mg、 電解液溶媒にジメチルスルホキシド(DMSO)を用いた以外は実施例2と同様の構成とした電気化学装置を実施例4とした。実施例4では、終止電圧を4.1Vとした。
図8は、実施例4のLiFの分解での電気容量と電圧との関係図である。実施例4では、含まれるLiFの量から計算される理論的な電気容量は、8.17mAhである。実施例4では、添加したすべてのIClが反応に関与すると、理論的なハロゲン間化合物の電気容量は、0.014/162.35×268000=2.31mAhと計算される。実施例4では、終了時の容量が14.3mAhであるので、ハロゲン間化合物を超える分解反応が行われており、
図1に示したサイクルが複数回、繰り返されたものと推察された。
【0044】
[実施例5]
正極にカーボンペーパー(東レ製TGP−H−060)、電解液に0.15mol/LのLiTFSA/DMSOの15mLに塩化沃素22.8mgを溶解したものを用い、電解液中にLiF(高純度化学製)23.2mg懸濁させた構成(
図3参照)とした電気化学装置を実施例5とした。実施例5では、25℃、電流0.05mAで4.1Vまで充電した。
図9は、実施例5のLiFの分解での電気容量と電圧との関係図である。実施例5では、含まれるLiFの量から計算される理論的な電気容量は、23.9mAhである。実施例5では、添加したすべてのIClが反応に関与すると、理論的なハロゲン間化合物の電気容量は、0.0227/162.35×268000=3.75mAhと計算される。実施例5では、終了時の容量が14mAhであるのでハロゲン間化合物を超える分解反応が行われており、
図1に示したサイクルが複数回、繰り返されたものと推察された。
【0045】
[実施例6]
電極合材を24.6mgとし、 臭化沃素を16.8mg、 電解液溶媒にスルホラン(アルドリッチ製)を用いた以外は実施例1と同様の構成とした電気化学装置を実施例6とした。実施例6では、終止電圧を4.8Vとした。
図10は、実施例6のLiFの分解での電気容量と電圧との関係図である。実施例6では、含まれるLiFの量から計算される理論的な電気容量は、8.89mAhである。実施例6では、添加したすべてのIBrが反応に関与すると、理論的なハロゲン間化合物の電気容量は、0.0168/206.8×268000=2.18mAhと計算される。実施例6では、終了時の容量が11mAhであるので、ハロゲン間化合物を超える分解反応が行われており、
図1に示したサイクルが複数回、繰り返されたものと推察された。
【0046】
[実施例7]
正極にカーボンペーパー(東レ製TGP−H−060)、電解液に0.15mol/LのLiTFSA/スルホランの15mLに三塩化沃素23.5mgを溶解したものを用い、電解液中にLiFを25.2mg懸濁させた構成(
図3参照)とした電気化学装置を実施例7とした。実施例7では、25℃、電流0.05mAで4.9Vまで充電した。
図11は、実施例7のLiFの分解での電気容量と電圧との関係図である。実施例7では、含まれるLiFの量から計算される理論的な電気容量は、26.04mAhである。実施例7では、添加したすべてのICl
3が反応に関与すると、理論的なハロゲン間化合物の電気容量は、0.0235/466.5×268000=1.35mAhと計算される。実施例7では、終了時の容量が14mAhであるのでハロゲン間化合物を超える分解反応が行われており、
図1に示したサイクルが複数回、繰り返されたものと推察された。
【0047】
[比較例3]
沃素13mgを含む電解液を用いた以外は実施例7と同様の構成とした電気化学装置を比較例3とした。比較例3では、終止電圧を4.8Vとした。
図12は、比較例3のLiFの分解での電気容量と電圧との関係図である。比較例7では、含まれるLiFの量から計算される理論的な電気容量は、26.04mAhである。比較例3では、添加したすべてのl
2が反応に関与すると、理論的なハロゲン間化合物の電気容量は、0.013/254×268000=1.37mAhと計算される。比較例3では、終了時の容量が0.2mAhであり、ほとんどLiFを分解することができなかった。
【0048】
[実施例8]
LiF(高純度化学製)とカーボンブラック(東海カーホ゛ン製TB5500)とPTFE(ダイキン工業製F−104)とを質量比で35:55:10の割合でメノウ乳鉢により乾式混合して電極合材を作製し、 その合材22.7mgをチタンメッシュ(ニラコ製80メッシュ)に圧着したものを正極とした。 電解液はLiTFSA(関東化学)とスルホランを含む0.15mol/Lの電解液であり、電解液15mLに臭化沃素(アルドリッチ製)26.34mgを溶解したものを用いた。負極に以下のものを用いた。チタン酸リチウム(石原産業製)とカーボンブラック(東海カーボン製TB5500)とPTFE(ダイキン工業製F−104)とを質量比で77:20:3の割合でメノウ乳鉢により乾式混合して電極合材を作製した。その合材32.3mgを白金メッシュ(ニラコ製80メッシュ)に圧着して負極とした。25℃、電流0.05mAで2.7Vまで電圧を印加(充電)し、LiFを分解させた。この実施例8では、LiFを分解したLiイオンが負極のチタン酸リチウムに吸蔵される。
【0049】
図13は、実施例8のLiFの分解での電気容量と電圧との関係図である。実施例8では、含まれるLiFの量から計算される理論的な電気容量は、8.21mAhである。実施例8では、添加したすべてのIBrが反応に関与すると、理論的なハロゲン間化合物の電気容量は、0.02634/206.8×268000=3.41mAhと計算される。実施例8では、終了時の容量が2.3mAhであるのでハロゲン間化合物と同程度の分解反応が行われたものと推察された。
【0050】
[実施例9]
NaF(高純度化学製)とカーボンブラック(東海カーボン製TB5500)とPTFE(ダイキン工業製F−104)とを質量比で35:55:10の割合でメノウ乳鉢により乾式混合して電極合材を作製した。その合材10.5mgをチタンメッシュ(ニラコ製80メッシュ)に圧着したものを正極とした。電解液は、ナトリウムヘキサフルオロホスフェート(NaPF
6,キシダ化学製)とスルホランを含む0.3mol/Lの電解液であり、電解液15mLに臭化沃素(アルドリッチ製)30.3mgを溶解したものを用いた。実施例8と同様の負極を用いた。実施例9では、25℃、電流0.05mAで3.3Vまで電圧を印加(充電)し、NaFを分解させた。
【0051】
図14は、実施例9のNaFの分解での電気容量と電圧との関係図である。実施例9では、含まれるNaFの量から計算される理論的な電気容量は、2.35mAhである。実施例9では、添加したすべてのIBrが反応に関与すると、理論的なハロゲン間化合物の電気容量は、0.0303/206.8×268000=3.92mAhと計算される。実施例9では、終了時の容量が2.0mAhであるのでハロゲン間化合物の半分程度の分解反応が行われたものと推察された。
【0052】
[実施例10]
正極にカーボンペーパー(東レ製TGP−H−060)、電解液に0.15mol/LのLiTFSA/フッ素化リン酸エステル(東ソーエフテック製)15mLに三塩化沃素27.1mgを溶解したものを用い、電解液中にLiF(高純度化学製)25.0mgを懸濁させたものとした以外は、実施例9と同様の構成としたものを実施例10とした。実施例10では、60℃、電流0.05mAで2.7Vまで電圧を印加(充電)し、LiFを分解させた。
図15は、実施例10のLiFの分解での電気容量と電圧との関係図である。実施例10では、含まれるLiFの量から計算される理論的な電気容量は、25.8mAhである。実施例10では、添加したすべてのICl
3が反応に関与すると、理論的なハロゲン間化合物の電気容量は、0.0271/466.5×268000=1.56mAhと計算される。実施例10では、終了時の容量が1.7mAhであるので、ハロゲン間化合物と同程度の分解反応が行われたものと推察された。
【0053】
[実施例11]
正極にカーボンペーパー(東レ製TGP−H−060)、電解液に0.15mol/LのLiTFSA/イオン液体(関東化学製DEMETFSA)の15mLに塩化沃素19.1mgを溶解したものを用い、電解液中にLiF(高純度化学製)31.7mgを懸濁させた以外は、実施例8と同様の構成としたものを実験例11とした。実施例11では、60℃、電流0.05mAで2.0Vまで電圧を印加(充電)し、LiFを分解させた。
図16は、実施例11のLiFの分解での電気容量と電圧との関係図である。実施例11では、含まれるLiFの量から計算される理論的な電気容量は、32.7mAhである。実施例11では、添加したすべてのIClが反応に関与すると、理論的なハロゲン間化合物の電気容量は、0.0191/162.35×268000=3.15mAhと計算される。実施例11では、終了時の容量が0.95mAhであるので、ハロゲン間化合物を使い切る前に分解反応が終了したと推察された。
【0054】
[結果のまとめ]
実施例1〜11、比較例1〜3の電解液組成、分解対象、分解温度、理論容量などを表1にまとめた。また、以下にハロゲン間化合物によるLiF分解の検証をおこなった。ハロゲン間化合物を0.2mmol溶解したDMSO溶液5mLにLiF35mgを懸濁させ、60℃にて72h保持し、その後、その濾液を分析した。ハロゲン間化合物として、IBr、ICl、ICl
3を用い、比較例として、無添加及びI
2を添加したものを測定した。得られた濾液は、プラズマ発光分析(東レリサーチセンターにて実施)及び核磁気共鳴(NMR,日本電子社製JNM−ECA500)により評価した。
図17は、濾液に溶け出したリチウム量の検出結果である。
図18は、ICl−DMSO溶液を用いたときの濾液の
7Li−NMRスペクトルである。
図19は、ICl−DMSO溶液を用いたときの濾液の
19F−NMRスペクトルである。
図17に示すように、ハロゲン間化合物を用いた溶液では、LiFからLiが多く溶出することがわかった。また、NMRの結果より、濾液中にLiとFとが溶出していることが確認された。この理由は、例えば、電解液の非水溶媒とハロゲン間化合物とがハロゲン間化合物のハロゲン原子間に電荷の偏りが生じ、これによりLiFが分解できるようになるものと推察された。
【0055】
【表1】
【0056】
なお、本開示は上述した実施例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。