特許第6638743号(P6638743)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6638743
(24)【登録日】2020年1月7日
(45)【発行日】2020年1月29日
(54)【発明の名称】回収装置、分解装置、回収方法及び分解方法
(51)【国際特許分類】
   C25C 1/22 20060101AFI20200120BHJP
   C22B 26/10 20060101ALI20200120BHJP
   C25C 7/00 20060101ALI20200120BHJP
   C25C 7/02 20060101ALI20200120BHJP
   C25C 7/06 20060101ALI20200120BHJP
【FI】
   C25C1/22
   C22B26/10
   C25C7/00 301
   C25C7/02 306
   C25C7/06 301A
【請求項の数】13
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2018-8833(P2018-8833)
(22)【出願日】2018年1月23日
(65)【公開番号】特開2019-127614(P2019-127614A)
(43)【公開日】2019年8月1日
【審査請求日】2019年3月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】志賀 亨
(72)【発明者】
【氏名】長谷 陽子
【審査官】 ▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−157629(JP,A)
【文献】 特表2008−543002(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0088719(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0269834(US,A1)
【文献】 国際公開第2010/084701(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25C 1/00 − 7/08
C22B 26/00 − 26/22
H01M 10/00 − 10/0587
H01M 10/36 − 10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属フッ化物からアルカリ金属を得るアルカリ金属の回収装置であって、
アルカリ金属を回収する回収極と、
前記回収極に対向する対極と、
非水系溶媒を含み前記回収極と前記対極との間に介在しアルカリ金属イオンを伝導するイオン伝導媒体を収容する収容部と、を備え、
前記対極及び前記対極が接触している前記イオン伝導媒体のうち少なくとも一方にはアルカリ金属フッ化物を含み、
少なくとも前記対極が接触している前記イオン伝導媒体にはハロゲン間化合物(フッ素を含むものを除く)が含まれており、
前記回収極と前記対極との間に電圧を印加することにより前記アルカリ金属フッ化物を分解させ、前記回収極で前記アルカリ金属を回収する、回収装置。
【請求項2】
前記ハロゲン間化合物は、IBr、ICl及びICl3のうち1以上である、請求項1に記載の回収装置。
【請求項3】
前記イオン伝導媒体は、硫黄と酸素との二重結合を1以上有する含硫黄有機化合物、カーボネート系溶媒、フッ素化リン酸エステル及びイオン液体のうち1以上の前記非水系溶媒を含む、請求項1又は2に記載の回収装置。
【請求項4】
前記回収極は、金属アルカリ電極、炭素質材料電極及びチタン酸アルカリ電極のうち1以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の回収装置。
【請求項5】
前記アルカリ金属フッ化物は、LiF、NaF及びKFのうち1以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の回収装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のアルカリ金属の回収装置であって、
前記イオン伝導媒体を100℃以下の範囲で加熱する加熱部、を備えた回収装置。
【請求項7】
アルカリ金属フッ化物を分解するアルカリ金属フッ化物の分解装置であって、
アルカリ金属フッ化物の分解を担う分解極と、
前記分解極に対向する対極と、
非水系溶媒を含み前記分解極と前記対極との間に介在しアルカリ金属イオンを伝導するイオン伝導媒体を収容する収容部と、を備え、
前記分解極及び前記分解極が接触している前記イオン伝導媒体のうち少なくとも一方にはアルカリ金属フッ化物を含み、
少なくとも前記分解極が接触している前記イオン伝導媒体にはハロゲン間化合物(フッ素を含むものを除く)が含まれており、
前記分解極と前記対極との間に電圧を印加することにより前記分解極側で前記アルカリ金属フッ化物を分解させる、分解装置。
【請求項8】
アルカリ金属を回収する回収極と、前記回収極に対向する対極と、非水系溶媒を含み前記回収極と前記対極との間に介在しアルカリ金属イオンを伝導するイオン伝導媒体と、を利用し、アルカリ金属フッ化物からアルカリ金属を回収する回収方法であって、
前記対極及び前記対極が接触している前記イオン伝導媒体のうち少なくとも一方にはアルカリ金属フッ化物を含み、少なくとも前記対極が接触している前記イオン伝導媒体にはハロゲン間化合物(フッ素を含むものを除く)が含まれており、
前記回収極と前記対極との間に電圧を印加することにより前記対極側で前記アルカリ金属フッ化物を分解させ、前記回収極で前記アルカリ金属を回収する電圧印加工程、
を含む回収方法。
【請求項9】
前記電圧印加工程では、前記イオン伝導媒体を25℃以上100℃以下の範囲で加熱して電圧を印加する、請求項8に記載の回収方法。
【請求項10】
前記電圧印加工程では、前記ハロゲン間化合物としてIBr、ICl及びICl3のうち1以上を用いる、請求項8又は9に記載の回収方法。
【請求項11】
アルカリ金属フッ化物の分解を担う分解極と、前記分解極に対向する対極と、非水系溶媒を含み前記分解極と前記対極との間に介在しアルカリ金属イオンを伝導するイオン伝導媒体と、を利用し、アルカリ金属フッ化物を分解するアルカリ金属フッ化物の分解方法であって、
前記分解極及び前記分解極が接触している前記イオン伝導媒体のうち少なくとも一方にはアルカリ金属フッ化物が含まれ、少なくとも前記分解極が接触している前記イオン伝導媒体にはハロゲン間化合物(フッ素を含むものを除く)が含まれており、
前記分解極と前記対極との間に電圧を印加することにより前記分解極側で前記アルカリ金属フッ化物を分解させる電圧印加工程、
を含む分解方法。
【請求項12】
前記電圧印加工程では、前記イオン伝導媒体を25℃以上100℃以下の範囲で加熱して電圧を印加する、請求項11に記載の分解方法。
【請求項13】
前記電圧印加工程では、前記ハロゲン間化合物としてIBr、ICl及びICl3のうち1以上を用いる、請求項11又は12に記載の分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、回収装置、分解装置、回収方法及び分解方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
金属リチウムの製造には、古くから、安価な炭酸リチウムをリチウム源とした溶融塩電解法を利用する試みがなさられている。例えば、金属リチウムは、55%の塩化リチウムと45%の塩化カリウムの混合物を450℃で溶融塩として電解する溶融電解法によって生産される。また、無水塩化リチウムの製造では、炭酸リチウムと塩素ガスとを乾式法で接触反応させる工程がとられている。無水塩化リチウムを用いて溶融塩電解を行う場合に、炭酸リチウム及び炭素源として木炭等を同時に陽極室に添加し、2Li2CO3+2Cl2+C→4LiCl+3CO2の反応を起こし、陽極を消耗させない方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、リチウム源としては、フッ化リチウムなどのアルカリ金属フッ化物などが挙げられる。フッ化リチウムを溶解するものとして、例えば、ボロンエステルをフッ化リチウムに配位させてフッ化リチウムを溶解する報告がある(例えば、非特許文献1,2参照)。また、BF3やBF4錯体を用いてLiFを溶解する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭59−200731号公報
【特許文献2】特開2000−30740号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J. American Chemical Society, 2010,132,3055-3062
【非特許文献2】J. Power Sources, 2014,247,813-820
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、フッ化リチウムは、例えば、リチウム二次電池の充放電により副次的に生成することがあるが、化学的に安定であり、溶解すること自体も困難であり、電解することも困難であった。上述した特許文献1や非特許文献1,2では、ホウ素系の化合物を用いてフッ化リチウムを溶解することができるが、ホウ素系化合物とフッ化リチウムとは、1:1で反応するため、アルカリ金属フッ化物を効率よく処理することができなかった。
【0007】
本開示は、このような課題に鑑みなされたものであり、より容易にアルカリ金属フッ化物を分解し、アルカリ金属を回収することができる回収装置、分解装置、回収方法及び分解方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、フッ素以外を含むハロゲン間化合物を用いてアルカリ金属フッ化物に電圧を印加することによって、アルカリ金属フッ化物を分解すると共にアルカリ金属を回収することができることを見いだし、本明細書で開示する発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本明細書で開示する回収装置は、
アルカリ金属フッ化物からアルカリ金属を得るアルカリ金属の回収装置であって、
アルカリ金属を回収する回収極と、
前記回収極に対向する対極と、
非水系溶媒を含み前記回収極と前記対極との間に介在しアルカリ金属イオンを伝導するイオン伝導媒体を収容する収容部と、を備え、
前記対極及び前記対極が接触している前記イオン伝導媒体のうち少なくとも一方にはアルカリ金属フッ化物を含み、
少なくとも前記対極が接触している前記イオン伝導媒体にはハロゲン間化合物(フッ素を含むものを除く)が含まれており、
前記回収極と前記対極との間に電圧を印加することにより前記アルカリ金属フッ化物を分解させ、前記回収極で前記アルカリ金属を回収するものである。
【0010】
本明細書で開示する分解装置は、
アルカリ金属フッ化物を分解するアルカリ金属フッ化物の分解装置であって、
アルカリ金属フッ化物の分解を担う分解極と、
前記分解極に対向する対極と、
非水系溶媒を含み前記分解極と前記対極との間に介在しアルカリ金属イオンを伝導するイオン伝導媒体を収容する収容部と、を備え、
前記分解極及び前記分解極が接触している前記イオン伝導媒体のうち少なくとも一方にはアルカリ金属フッ化物を含み、
少なくとも前記分解極が接触している前記イオン伝導媒体にはハロゲン間化合物(フッ素を含むものを除く)が含まれており、
前記分解極と前記対極との間に電圧を印加することにより前記分解極側で前記アルカリ金属フッ化物を分解させるものである。
【0011】
本明細書で開示する回収方法は、
アルカリ金属を回収する回収極と、前記回収極に対向する対極と、非水系溶媒を含み前記回収極と前記対極との間に介在しアルカリ金属イオンを伝導するイオン伝導媒体と、を利用し、アルカリ金属フッ化物からアルカリ金属を回収する回収方法であって、
前記対極及び前記対極が接触している前記イオン伝導媒体のうち少なくとも一方にはアルカリ金属フッ化物を含み、少なくとも前記対極が接触している前記イオン伝導媒体にはハロゲン間化合物(フッ素を含むものを除く)が含まれており、
前記回収極と前記対極との間に電圧を印加することにより前記対極側で前記アルカリ金属フッ化物を分解させ、前記回収極で前記アルカリ金属を回収する電圧印加工程、を含むものである。
【0012】
本明細書で開示する分解方法は、
アルカリ金属フッ化物の分解を担う分解極と、前記分解極に対向する対極と、非水系溶媒を含み前記分解極と前記対極との間に介在しアルカリ金属イオンを伝導するイオン伝導媒体と、を利用し、アルカリ金属フッ化物を分解するアルカリ金属フッ化物の分解方法であって、
前記分解極及び前記分解極が接触している前記イオン伝導媒体のうち少なくとも一方にはアルカリ金属フッ化物が含まれ、少なくとも前記分解極が接触している前記イオン伝導媒体にはハロゲン間化合物(フッ素を含むものを除く)が含まれており、
前記分解極と前記対極との間に電圧を印加することにより前記分解極側で前記アルカリ金属フッ化物を分解させる電圧印加工程、を含むものである。
【発明の効果】
【0013】
本開示は、より容易にアルカリ金属フッ化物を分解し、アルカリ金属を回収することができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推測される。例えば、カーボンを含む対極と、アルカリ金属の回収極と、ハロゲン間化合物を含む非水系電解液を有するセルにおいて、非水電解液の溶媒とハロゲン間化合物とが錯体を形成し、ハロゲン間化合物のハロゲン原子の間に電荷の偏りが生じ、これによりアルカリ金属フッ化物が分解されるものと推察される。そして、アルカリ金属フッ化物とハロゲン間化合物とが電圧の印加によって触媒サイクルのように作用することにより、等モル量を超えた範囲でアルカリ金属フッ化物を分解し続けるものと推察される(図1参照)。図1は、アルカリ金属フッ化物の分解の一例を示すスキームである。このように、アルカリ金属フッ化物が対極やイオン伝導媒体に存在し、非水系溶媒及びハロゲン間化合物を含むイオン伝導媒体を用いたセルを充電することにより、室温近傍(例えば、20℃〜60℃)において正極側でアルカリ金属フッ化物を分解し、負極側でアルカリ金属を析出あるいは回収することができるものと推察される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】アルカリ金属フッ化物の分解の一例を示すスキーム。
図2】アルカリ金属回収装置20の一例を模式的に示す説明図。
図3】別のアルカリ金属回収装置20Bの一例を模式的に示す説明図。
図4】別のアルカリ金属回収装置20Cの一例を模式的に示す説明図。
図5】実施例1、比較例1のLiFの分解での電気容量と電圧との関係図。
図6】実施例2、比較例2のLiFの分解での電気容量と電圧との関係図。
図7】実施例3のLiFの分解での電気容量と電圧との関係図。
図8】実施例4のLiFの分解での電気容量と電圧との関係図。
図9】実施例5のLiFの分解での電気容量と電圧との関係図。
図10】実施例6のLiFの分解での電気容量と電圧との関係図。
図11】実施例7のLiFの分解での電気容量と電圧との関係図。
図12】比較例3のLiFの分解での電気容量と電圧との関係図。
図13】実施例8のLiFの分解での電気容量と電圧との関係図。
図14】実施例9のNaFの分解での電気容量と電圧との関係図。
図15】実施例10のLiFの分解での電気容量と電圧との関係図。
図16】実施例11のLiFの分解での電気容量と電圧との関係図。
図17】濾液に溶け出したリチウム量の検出結果。
図18】ICl−DMSO濾液の7Li−NMRスペクトル。
図19】ICl−DMSO濾液の19F−NMRスペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(アルカリ金属回収装置)
本実施形態で説明するアルカリ金属回収装置は、アルカリ金属フッ化物からアルカリ金属を得るアルカリ金属の回収装置である。この回収装置は、アルカリ金属元素の金属を回収するものとしてもよいし、アルカリ金属元素のイオンを回収するものとしてもよい。このアルカリ金属回収装置は、アルカリ金属フッ化物を分解させるアルカリ金属フッ化物の分解装置としても機能する。アルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムなどが挙げられる。本実施形態では、説明の便宜のため、リチウムを主として説明する。アルカリ金属回収装置は、収容部と、回収極と、対極と、イオン伝導媒体と、加熱部とを備える。このアルカリ金属回収装置は、回収極と対極との間に電圧を印加することによりアルカリ金属フッ化物を分解させ、回収極でアルカリ金属を回収する装置である。また、この回収装置は、アルカリ金属フッ化物を分解するアルカリ金属フッ化物の分解装置としてみた場合、対極(分解極)と回収極(対極)との間に電圧を印加することにより分解極側でアルカリ金属フッ化物を分解させる装置である。
【0016】
収容部は、回収極と対極とイオン伝導媒体とを収容する収容容器である。この収容部は、絶縁性を有し、アルカリ金属フッ化物の分解時の温度や電位などにおいて安定な材料、例えば樹脂やセラミックなどで形成されている。
【0017】
回収極は、アルカリ金属を回収する電極である。この回収極は、この装置を二次電池の構成でみたときに負極に相当する。回収極は、導電性を有しアルカリ金属に対して安定な部材であればよい。この回収極は、アルカリ金属元素の金属や合金で形成されているものとしてもよい。回収極としては、例えば、金属リチウムや金属ナトリウム、金属カリウム、銅、チタン、アルミニウムなどが挙げられる。金属の回収極では、アルカリ金属元素を金属として回収することができる。また、回収極は、例えば、負極活物質と集電体とを密着させて形成したものとしてもよいし、負極活物質と導電材と結着材とを混合した負極合材を、集電体の表面に密着させるか、適当な溶剤を加えてペースト状としたものを塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。負極活物質としては、アルカリ金属イオンを吸蔵・放出可能な炭素質材料、複数の元素を含む複合酸化物、導電性ポリマーなどが挙げられる。炭素質材料は、例えば、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。このうち、人造黒鉛、天然黒鉛などのグラファイト類が好ましい。複合酸化物としては、例えば、リチウムチタン複合酸化物などが挙げられる。
【0018】
導電材は、回収極の性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。回収極の材料を分散させる溶剤としては、例えばN−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの多糖類を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。
【0019】
集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、PtやAuなどの貴金属、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1〜500μmのものが用いられる。
【0020】
対極は、回収極に対向する電極である。この対極は、この装置を二次電池の構成でみたときに正極に相当する。また、この対極は、アルカリ金属フッ化物の分解を担う分解極としてもよい。対極は、炭素を含む炭素電極であるものとしてもよい。この対極には、分解対象であるアルカリ金属フッ化物が含まれているものとしてもよいし、含まれていないものとしてもよい。対極にアルカリ金属フッ化物が含まれていない場合は、アルカリ金属フッ化物は、対極側のイオン伝導媒体内に含まれているものとすればよい。また、アルカリ金属フッ化物が含まれていない対極は、例えば、導電材としての炭素材料と結着材とを混合して集電体上に塗布又は圧着して形成したものとしてもよい。また、この対極は、カーボンペーパーなどとしてもよい。アルカリ金属フッ化物を含む対極は、導電材としての炭素材料とアルカリ金属フッ化物と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の電極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成して用いてもよい。導電材や結着材などは、回収極で挙げたものと同様のものを用いることができる。また、集電体の材質及び形状についても上述した回収極と同様のものを用いることができる。
【0021】
イオン伝導媒体は、非水系溶媒を含み回収極と対極との間に介在しアルカリ金属イオンを伝導するものである。このイオン伝導媒体は、非水系溶媒と、ハロゲン間化合物(フッ素を含むものを除く)と、支持塩とを含む非水系電解液としてもよい。また、このイオン伝導媒体は、対極が接触しているところにアルカリ金属フッ化物とハロゲン間化合物とが少なくとも含まれるものとしてもよい。この非水系溶媒は、例えば、ハロゲン間化合物に含まれるハロゲンと分子錯体を形成するものとしてもよい。この分子錯体とは、同種又は2種以上の安定な分子が一定の割合で直接に結合してできる化合物をいい、分子化合物とも称することができる。なお、ハロゲンと分子錯体を形成するか否かは、ラマンスペクトルにおける、酸素とその他の原子との結合など所定の結合の伸縮に起因するピークが、ハロゲンを添加した際に移動するか否かにより判断するものとしてもよい。例えば、ハロゲンがヨウ素である場合には、低波数側に移動するか否かにより判断するものとしてもよい。
【0022】
非水系溶媒としては、例えば、硫黄と酸素との二重結合を1以上有する含硫黄有機化合物、カーボネート系溶媒、フッ素化リン酸エステル及びイオン液体のうち1以上が挙げられる。このうち、非水系溶媒としては、含硫黄有機化合物がより好ましい。アルカリ金属フッ化物を繰り返し分解することができるためである。含硫黄有機化合物としては、例えば、ジメチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド及びスルホランなどのうち1以上が挙げられる。また、カーボネート系溶媒としては、例えば、環状カーボネート類や、鎖状カーボネート類などが挙げられる。環状カーボネート類としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)やプロピレンカーボネート(PC)、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどが挙げられる。鎖状カーボネート類としては、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチル−n−ブチルカーボネート、メチル−t−ブチルカーボネート、ジ−i−プロピルカーボネート、t−ブチル−i−プロピルカーボネートなどが挙げられる。フッ素化リン酸エステルとしては、例えば、トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)ホスフェートなどが挙げられる。イオン液体としては、例えば、ジエチル−メチル−(2−メトキシエチル)アンモニウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、ジエチル−メチル−(2−メトキシエチル)アンモニウム−テトラフルオロボレート、N−メチル−N−プロピルピペリジニウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリメチル−プロピルアンモニウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、メチル−プロピルピロリジウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、ブチル−メチルピロリジウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、ブチルピリジニウム−テトラフルオロボレート、ブチルピリジニウム−トリフルオロメタンスルホナート、1−エチルピリジニウムヘキサフルオロボレート、1−メチル−1−プロピルピペリジニウムヘキサフルオロホスフェートなどが挙げられる。
【0023】
ハロゲン間化合物としては、例えば、IBr、ICl及びICl3のうち1以上が挙げられる。ハロゲン間化合物の添加量としては、例えば、非水電解液の容量に対し0.1g/L以上5g/L以下の範囲であることが好ましい。ハロゲン間化合物の添加量がこの範囲では、ハロゲン間化合物の触媒作用によってアルカリ金属フッ化物を分解しやすい。
【0024】
支持塩は、リチウム塩を例として挙げると、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23、LiSbF6、LiSiF6、LiAlF4、LiSCN、LiClO4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlCl4などが挙げられる。このうち、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4などの無機塩、及びLiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23などの有機塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の塩を組み合わせて用いるものとしてもよい。なお、NaFの分解の際には、上記塩のアニオンとのナトリウム塩とすればよいし、KFの分解の際には、上記塩のアニオンとのカリウム塩とすればよい。この支持塩は、非水電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。支持塩の濃度が0.1mol/L以上では、十分なイオン伝導を得ることができ、5mol/L以下では、イオン伝導媒体をより安定させることができる。
【0025】
加熱部は、イオン伝導媒体を100℃以下の範囲で加熱するものである。この加熱部は、収容部の外側に配設されたヒーターとしてもよい。この加熱部により、アルカリ金属フッ化物の分解温度を調整することができる。この加熱部により調整される分解温度は、40℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましく、60℃以上としてもよい。また、分解温度はできるだけ低い方が消費エネルギーの観点からは好ましく、例えば、90℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましい。なお、アルカリ金属フッ化物を常温などで分解するものとして、この加熱部を省略してもよい。
【0026】
このように構成されたアルカリ金属回収装置では、回収極と対極との間に電圧を印加することにより対極側でアルカリ金属フッ化物を分解させ、回収極でアルカリ金属を回収する。電圧の印加は、例えば、この装置を二次電池の構成でみたときに、対極を正極、回収極を負極とすると、充電するものとすればよい。印加する電圧は、アルカリ金属フッ化物の分解電位以上であればよく、例えば、フッ化リチウムの分解の場合、リチウム基準電位で、3.0V以上とすることが好ましく、4.0V以上とすることがより好ましく、4.2V以上とすることが更に好ましい。また、非水系溶媒の電気分解を抑制する観点から、この電圧は、5.5V以下が好ましく、5.0V以下がより好ましい。
【0027】
次に、アルカリ金属回収装置の具体例を図面を用いて説明する。図2は、本開示のアルカリ金属回収装置20の一例を模式的に示す説明図である。図3は、別のアルカリ金属回収装置20Bの一例を模式的に示す説明図である。図4は、別のアルカリ金属回収装置20Cの一例を模式的に示す説明図である。図2に示すように、アルカリ金属回収装置20は、収容部21と、回収極22と、対極24と、イオン伝導媒体26と、加熱部29とを備えている。なお、それぞれの構成は上述したいずれかを採用すればよい。対極24には、分解対象物であるアルカリ金属フッ化物25が含まれている。また、回収極22は、金属からなるものとしてもよく、この回収極22の表面には、アルカリ金属フッ化物25の分解に応じて生じたアルカリ金属23が析出している。イオン伝導媒体26には、非水系溶媒とハロゲン間化合物(フッ素を含むものを除く)と支持塩とが含まれている。あるいは、図3に示すように、イオン伝導媒体26にアルカリ金属フッ化物25を含むアルカリ金属回収装置20Bとしてもよい。このとき、対極24は、アルカリ金属フッ化物25を含んでいてもよいし、アルカリ金属フッ化物25を含まないものとしてもよい。また、図4に示すように、アルカリ金属を吸蔵放出する負極活物質を含む回収極22Cを備えたアルカリ金属回収装置20Cとしてもよい。このアルカリ金属回収装置20Cでは、アルカリ金属の回収極上への析出ではなく、アルカリ金属イオンの吸蔵によりアルカリ金属を回収する。
【0028】
(アルカリ金属の回収方法)
本実施形態で説明するアルカリ金属の回収方法は、上述したアルカリ金属回収装置を用いて行うものとしてもよい。このアルカリ金属の回収方法は、アルカリ金属を回収する回収極と、回収極に対向する対極と、非水系溶媒を含み回収極と対極との間に介在しアルカリ金属イオンを伝導するイオン伝導媒体と、を利用し、アルカリ金属フッ化物を分解しアルカリ金属を回収するものである。この回収方法において、対極及び対極が接触しているイオン伝導媒体のうち少なくとも一方にはアルカリ金属フッ化物を含み、少なくとも対極が接触しているイオン伝導媒体にはハロゲン間化合物が含まれているものとする。この回収方法は、回収極と対極との間に電圧を印加することにより対極側でアルカリ金属フッ化物を分解させ、回収極でアルカリ金属を回収する電圧印加工程を含む。
【0029】
電圧印加工程では、印加する電圧は、アルカリ金属フッ化物の分解電位以上であればよく、例えば、フッ化リチウムを分解する場合、リチウム基準電位で3.0V以上とすることが好ましく、4.0V以上とすることがより好ましく、4.2V以上とすることが更に好ましい。また、非水系溶媒の電気分解を抑制する観点から、この電圧は、5.5V以下が好ましく、5.0V以下がより好ましい。また、この工程では、イオン伝導媒体を25℃以上100℃以下の範囲で加熱して電圧を印加することが好ましい。この分解温度は、40℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましく、60℃以上としてもよい。また、分解温度はできるだけ低い方が消費エネルギーの観点からは好ましく、例えば、90℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましい。なお、アルカリ金属フッ化物を常温などで分解するものとして、この加熱処理を省略してもよい。
【0030】
この工程では、硫黄と酸素との二重結合を1以上有する含硫黄有機化合物、カーボネート系溶媒、フッ素化リン酸エステル及びイオン液体のうち1以上の非水系溶媒を含むイオン伝導媒体を用いることが好ましい。これらの非水系溶媒では、より高い電位でも安定であり好ましい。また、この工程では、少なくとも対極が接触しているイオン伝導媒体にハロゲン間化合物が0.1g/L以上5g/L以下の範囲で含まれているイオン伝導媒体を用いることが好ましい。ハロゲン間化合物がこの範囲で含まれていると、ハロゲン間化合物の触媒作用によりアルカリ金属フッ化物を分解しやすい。また、この工程では、対極が接触しているイオン伝導媒体に少なくともアルカリ金属フッ化物を含むイオン伝導媒体を用いることが好ましい。対極側でアルカリ金属フッ化物を分解するためである。
【0031】
(アルカリ金属フッ化物分解装置)
本実施形態で説明するアルカリ金属フッ化物の分解装置は、アルカリ金属フッ化物を分解させる装置である。この分解装置は、アルカリ金属フッ化物の分解を担う分解極と、分解極に対向する対極と、イオン伝導媒体を収容する収容部と、を備えている。イオン伝導媒体は、非水系溶媒を含み分解極と対極との間に介在しアルカリ金属イオンを伝導するものである。この装置では、分解極及び分解極が接触しているイオン伝導媒体のうち少なくとも一方にはアルカリ金属フッ化物を含み、少なくとも分解極が接触しているイオン伝導媒体にはハロゲン間化合物が含まれている。この装置では、分解極と対極との間に電圧を印加することにより分解極側でアルカリ金属フッ化物を分解させる。この分解装置は、上述したアルカリ金属の回収装置の対極が分解極であり、回収極が対極であるものとすれば、上述したものと同じ構成を採用することができる。この分解装置の対極では、アルカリ金属を回収するものとしてもよい。また、分解対象のアルカリ金属フッ化物は、分解極に含まれていてもよいし、イオン伝導媒体に含まれていてもよい。
【0032】
(アルカリ金属フッ化物の分解方法)
この分解方法は、アルカリ金属フッ化物の分解を担う分解極と、分解極に対向する対極と、非水系溶媒を含み分解極と対極との間に介在しアルカリ金属イオンを伝導するイオン伝導媒体と、を利用し、アルカリ金属フッ化物を分解させるものである。この分解方法において、分解極及び分解極が接触しているイオン伝導媒体のうち少なくとも一方にはアルカリ金属フッ化物を含み、少なくとも分解極が接触しているイオン伝導媒体にはハロゲン間化合物が含まれているものとする。そして、この分解方法は、分解極と対極との間に電圧を印加することにより分解極側でアルカリ金属フッ化物を分解させる電圧印加工程を含む。この電圧印加工程は、上述したアルカリ金属の回収方法と同様の内容を採用することができる。
【0033】
以上詳述したアルカリ金属の回収装置、アルカリ金属フッ化物の分解装置、アルカリ金属の回収方法及びアルカリ金属フッ化物の分解方法では、より容易により容易にアルカリ金属フッ化物を分解し、アルカリ金属を回収することができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推測される。例えば、カーボンを含む対極と、アルカリ金属の回収極と、ハロゲン間化合物を含む非水系電解液を有するセルにおいて、非水電解液の溶媒とハロゲン間化合物とが錯体を形成し、ハロゲン間化合物のハロゲン原子の間に電荷の偏りが生じ、これによりアルカリ金属フッ化物が分解されるものと推察される。そして、アルカリ金属フッ化物とハロゲン間化合物とが電圧の印加によって触媒サイクルのように作用することにより、等モル量を超えた範囲でアルカリ金属フッ化物を分解し続けるものと推察される(図1参照)。このように、アルカリ金属フッ化物が正極やイオン伝導媒体に存在し、非水系溶媒及びハロゲン間化合物を含むイオン伝導媒体を用いたセルを充電することにより、室温近傍(例えば、20℃〜60℃)において正極側でアルカリ金属フッ化物を分解し、負極側でアルカリ金属を析出あるいは回収することができるものと推察される。
【0034】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0035】
以下には、本明細書で開示するアルカリ金属(Li,Na)の回収方法およびアルカリ金属フッ化物の分解方法を具体的に検討した例を実施例として説明する。
【0036】
[実施例1]
LiF(高純度化学製)と、導電材としてのカーボンブラック(東海カーボン製TB5500)と、結着材としてのポリテトラフルオロエチレン(PTFE,ダイキン工業製F−104)とを質量比で、 35:55:10の割合でメノウ乳鉢により乾式混合して電極合材を作製し、 その合材10.6mgをチタンメッシュ(ニラコ製,80メッシュ)に圧着したものを対極(分解極,正極)とした。 イオン伝導媒体は、支持塩としてのリチウムビストリフルオロメタンスルホニルアミド(LiTFSA,関東化学製)と非水系溶媒としてのプロピレンカーボネート(PC,キシダ化学製)とを含む0.15mol/Lの非水系電解液とし、電解液15mLに臭化沃素(アルドリッチ製)14mgを溶解したものを用いた。 本城金属の金属リチウムを回収極(対極,負極)として電気化学装置(図2参照)を作製した。 北斗電工の充放電装置(HJ1001SM8A)を用いて25℃にて0.04mA(合材重量あたり10mA/g)の電流で4.8Vまで電圧を印加(充電)し、LiFを分解させた。
【0037】
[比較例1]
臭化沃素を含まない電解液を用いた以外は実施例1と同様の構成とした電気化学装置を比較例1とした。
【0038】
図5は、実施例1、比較例1のLiFの分解での電気容量と電圧との関係図である。電気容量−セル電圧の関係図では、電気容量の増加は、電流量の増加、即ちLiFの分解量が増加することを表す。また、実施例1では、含まれるLiFの量から計算される理論的な電気容量は、3.83mAhである。図5に示すように、IBrのない比較例1では、LiFの分解はほとんどみられなかった。一方、IBrを加えた実施例1では、大きな電気容量を示し、フッ化リチウムの分解が確認された。なお、電気化学装置の内部を確認したところ、回収極の表面に凸部が生成しており、回収極上にLiが析出したことが確認された。このため、この電気化学装置の構成では、フッ化リチウムを溶解し、金属リチウムを回収することができると推察された。また、実施例1では、添加したすべてのIBrが反応に関与すると、LiF+0.5IBr→0.5LiI+0.5LiBr+F-の式から、理論的なハロゲン間化合物の電気容量は、0.014/206.8×268000=1.81mAhと計算される。実施例1では、終了時の容量が0.76mAhであるので、ハロゲン間化合物を使い切る前に分解反応が終了したと推察された。この原因は、電解液とフッ化リチウムとの親和性が比較的低いからであると推察された。
【0039】
[実施例2]
電極合材を12.6mgとし、 臭化沃素の代わりに塩化沃素13mgを用いた以外は実施例1と同様の構成とした電気化学装置を実施例2とした。
【0040】
[比較例2]
塩化沃素を含まない電解液を用いた以外は実施例2と同様の構成とした電気化学装置を比較例2とした。
【0041】
図6は、実施例2、比較例2のLiFの分解での電気容量と電圧との関係図である。実施例2では、含まれるLiFの量から計算される理論的な電気容量は、4.55mAhである。図6に示すように、IClのない比較例2では、LiFの分解はほとんどみられなかった。一方、IClを加えた実施例2では、大きな電気容量を示し、LiFの分解が確認された。このため、この電気化学装置の構成では、フッ化リチウムを溶解し、金属リチウムを回収することができると推察された。また、実施例2では、添加したすべてのIClが反応に関与すると、LiF+0.5ICl→0.5LiI+0.5LiCl+F-の式から、理論的なハロゲン間化合物の電気容量は、0.013/162.35×268000=2.15mAhと計算される。実施例2では、終了時の容量が1.28mAhであるので、ハロゲン間化合物を使い切る前に分解反応が終了したと推察された。
【0042】
[実施例3]
電極合材を33.7mgとし、 臭化沃素を22.6mg、 電解液溶媒にエチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)との体積比1:1の混合溶媒を用いた以外は実施例1と同様の構成とした電気化学装置を実施例3とした。実施例3では、終止電圧を4.2Vとした。 図7は、実施例3のLiFの分解での電気容量と電圧との関係図である。実施例3では、含まれるLiFの量から計算される理論的な電気容量は、12.18mAhである。実施例3では、添加したすべてのIBrが反応に関与すると、理論的なハロゲン間化合物の電気容量は、0.0227/206.8×268000=2.94mAhと計算される。実施例3では、終了時の容量が11mAhであるので、ハロゲン間化合物を超える分解反応が行われており、図1に示したサイクルが4回ほど繰り返されたものと推察された。
【0043】
[実施例4]
電極合材を22.6mgとし、 塩化沃素を14.0mg、 電解液溶媒にジメチルスルホキシド(DMSO)を用いた以外は実施例2と同様の構成とした電気化学装置を実施例4とした。実施例4では、終止電圧を4.1Vとした。 図8は、実施例4のLiFの分解での電気容量と電圧との関係図である。実施例4では、含まれるLiFの量から計算される理論的な電気容量は、8.17mAhである。実施例4では、添加したすべてのIClが反応に関与すると、理論的なハロゲン間化合物の電気容量は、0.014/162.35×268000=2.31mAhと計算される。実施例4では、終了時の容量が14.3mAhであるので、ハロゲン間化合物を超える分解反応が行われており、図1に示したサイクルが複数回、繰り返されたものと推察された。
【0044】
[実施例5]
正極にカーボンペーパー(東レ製TGP−H−060)、電解液に0.15mol/LのLiTFSA/DMSOの15mLに塩化沃素22.8mgを溶解したものを用い、電解液中にLiF(高純度化学製)23.2mg懸濁させた構成(図3参照)とした電気化学装置を実施例5とした。実施例5では、25℃、電流0.05mAで4.1Vまで充電した。図9は、実施例5のLiFの分解での電気容量と電圧との関係図である。実施例5では、含まれるLiFの量から計算される理論的な電気容量は、23.9mAhである。実施例5では、添加したすべてのIClが反応に関与すると、理論的なハロゲン間化合物の電気容量は、0.0227/162.35×268000=3.75mAhと計算される。実施例5では、終了時の容量が14mAhであるのでハロゲン間化合物を超える分解反応が行われており、図1に示したサイクルが複数回、繰り返されたものと推察された。
【0045】
[実施例6]
電極合材を24.6mgとし、 臭化沃素を16.8mg、 電解液溶媒にスルホラン(アルドリッチ製)を用いた以外は実施例1と同様の構成とした電気化学装置を実施例6とした。実施例6では、終止電圧を4.8Vとした。 図10は、実施例6のLiFの分解での電気容量と電圧との関係図である。実施例6では、含まれるLiFの量から計算される理論的な電気容量は、8.89mAhである。実施例6では、添加したすべてのIBrが反応に関与すると、理論的なハロゲン間化合物の電気容量は、0.0168/206.8×268000=2.18mAhと計算される。実施例6では、終了時の容量が11mAhであるので、ハロゲン間化合物を超える分解反応が行われており、図1に示したサイクルが複数回、繰り返されたものと推察された。
【0046】
[実施例7]
正極にカーボンペーパー(東レ製TGP−H−060)、電解液に0.15mol/LのLiTFSA/スルホランの15mLに三塩化沃素23.5mgを溶解したものを用い、電解液中にLiFを25.2mg懸濁させた構成(図3参照)とした電気化学装置を実施例7とした。実施例7では、25℃、電流0.05mAで4.9Vまで充電した。図11は、実施例7のLiFの分解での電気容量と電圧との関係図である。実施例7では、含まれるLiFの量から計算される理論的な電気容量は、26.04mAhである。実施例7では、添加したすべてのICl3が反応に関与すると、理論的なハロゲン間化合物の電気容量は、0.0235/466.5×268000=1.35mAhと計算される。実施例7では、終了時の容量が14mAhであるのでハロゲン間化合物を超える分解反応が行われており、図1に示したサイクルが複数回、繰り返されたものと推察された。
【0047】
[比較例3]
沃素13mgを含む電解液を用いた以外は実施例7と同様の構成とした電気化学装置を比較例3とした。比較例3では、終止電圧を4.8Vとした。 図12は、比較例3のLiFの分解での電気容量と電圧との関係図である。比較例7では、含まれるLiFの量から計算される理論的な電気容量は、26.04mAhである。比較例3では、添加したすべてのl2が反応に関与すると、理論的なハロゲン間化合物の電気容量は、0.013/254×268000=1.37mAhと計算される。比較例3では、終了時の容量が0.2mAhであり、ほとんどLiFを分解することができなかった。
【0048】
[実施例8]
LiF(高純度化学製)とカーボンブラック(東海カーホ゛ン製TB5500)とPTFE(ダイキン工業製F−104)とを質量比で35:55:10の割合でメノウ乳鉢により乾式混合して電極合材を作製し、 その合材22.7mgをチタンメッシュ(ニラコ製80メッシュ)に圧着したものを正極とした。 電解液はLiTFSA(関東化学)とスルホランを含む0.15mol/Lの電解液であり、電解液15mLに臭化沃素(アルドリッチ製)26.34mgを溶解したものを用いた。負極に以下のものを用いた。チタン酸リチウム(石原産業製)とカーボンブラック(東海カーボン製TB5500)とPTFE(ダイキン工業製F−104)とを質量比で77:20:3の割合でメノウ乳鉢により乾式混合して電極合材を作製した。その合材32.3mgを白金メッシュ(ニラコ製80メッシュ)に圧着して負極とした。25℃、電流0.05mAで2.7Vまで電圧を印加(充電)し、LiFを分解させた。この実施例8では、LiFを分解したLiイオンが負極のチタン酸リチウムに吸蔵される。
【0049】
図13は、実施例8のLiFの分解での電気容量と電圧との関係図である。実施例8では、含まれるLiFの量から計算される理論的な電気容量は、8.21mAhである。実施例8では、添加したすべてのIBrが反応に関与すると、理論的なハロゲン間化合物の電気容量は、0.02634/206.8×268000=3.41mAhと計算される。実施例8では、終了時の容量が2.3mAhであるのでハロゲン間化合物と同程度の分解反応が行われたものと推察された。
【0050】
[実施例9]
NaF(高純度化学製)とカーボンブラック(東海カーボン製TB5500)とPTFE(ダイキン工業製F−104)とを質量比で35:55:10の割合でメノウ乳鉢により乾式混合して電極合材を作製した。その合材10.5mgをチタンメッシュ(ニラコ製80メッシュ)に圧着したものを正極とした。電解液は、ナトリウムヘキサフルオロホスフェート(NaPF6,キシダ化学製)とスルホランを含む0.3mol/Lの電解液であり、電解液15mLに臭化沃素(アルドリッチ製)30.3mgを溶解したものを用いた。実施例8と同様の負極を用いた。実施例9では、25℃、電流0.05mAで3.3Vまで電圧を印加(充電)し、NaFを分解させた。
【0051】
図14は、実施例9のNaFの分解での電気容量と電圧との関係図である。実施例9では、含まれるNaFの量から計算される理論的な電気容量は、2.35mAhである。実施例9では、添加したすべてのIBrが反応に関与すると、理論的なハロゲン間化合物の電気容量は、0.0303/206.8×268000=3.92mAhと計算される。実施例9では、終了時の容量が2.0mAhであるのでハロゲン間化合物の半分程度の分解反応が行われたものと推察された。
【0052】
[実施例10]
正極にカーボンペーパー(東レ製TGP−H−060)、電解液に0.15mol/LのLiTFSA/フッ素化リン酸エステル(東ソーエフテック製)15mLに三塩化沃素27.1mgを溶解したものを用い、電解液中にLiF(高純度化学製)25.0mgを懸濁させたものとした以外は、実施例9と同様の構成としたものを実施例10とした。実施例10では、60℃、電流0.05mAで2.7Vまで電圧を印加(充電)し、LiFを分解させた。図15は、実施例10のLiFの分解での電気容量と電圧との関係図である。実施例10では、含まれるLiFの量から計算される理論的な電気容量は、25.8mAhである。実施例10では、添加したすべてのICl3が反応に関与すると、理論的なハロゲン間化合物の電気容量は、0.0271/466.5×268000=1.56mAhと計算される。実施例10では、終了時の容量が1.7mAhであるので、ハロゲン間化合物と同程度の分解反応が行われたものと推察された。
【0053】
[実施例11]
正極にカーボンペーパー(東レ製TGP−H−060)、電解液に0.15mol/LのLiTFSA/イオン液体(関東化学製DEMETFSA)の15mLに塩化沃素19.1mgを溶解したものを用い、電解液中にLiF(高純度化学製)31.7mgを懸濁させた以外は、実施例8と同様の構成としたものを実験例11とした。実施例11では、60℃、電流0.05mAで2.0Vまで電圧を印加(充電)し、LiFを分解させた。図16は、実施例11のLiFの分解での電気容量と電圧との関係図である。実施例11では、含まれるLiFの量から計算される理論的な電気容量は、32.7mAhである。実施例11では、添加したすべてのIClが反応に関与すると、理論的なハロゲン間化合物の電気容量は、0.0191/162.35×268000=3.15mAhと計算される。実施例11では、終了時の容量が0.95mAhであるので、ハロゲン間化合物を使い切る前に分解反応が終了したと推察された。
【0054】
[結果のまとめ]
実施例1〜11、比較例1〜3の電解液組成、分解対象、分解温度、理論容量などを表1にまとめた。また、以下にハロゲン間化合物によるLiF分解の検証をおこなった。ハロゲン間化合物を0.2mmol溶解したDMSO溶液5mLにLiF35mgを懸濁させ、60℃にて72h保持し、その後、その濾液を分析した。ハロゲン間化合物として、IBr、ICl、ICl3を用い、比較例として、無添加及びI2を添加したものを測定した。得られた濾液は、プラズマ発光分析(東レリサーチセンターにて実施)及び核磁気共鳴(NMR,日本電子社製JNM−ECA500)により評価した。図17は、濾液に溶け出したリチウム量の検出結果である。図18は、ICl−DMSO溶液を用いたときの濾液の7Li−NMRスペクトルである。図19は、ICl−DMSO溶液を用いたときの濾液の19F−NMRスペクトルである。図17に示すように、ハロゲン間化合物を用いた溶液では、LiFからLiが多く溶出することがわかった。また、NMRの結果より、濾液中にLiとFとが溶出していることが確認された。この理由は、例えば、電解液の非水溶媒とハロゲン間化合物とがハロゲン間化合物のハロゲン原子間に電荷の偏りが生じ、これによりLiFが分解できるようになるものと推察された。
【0055】
【表1】
【0056】
なお、本開示は上述した実施例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本明細書で開示する回収装置、分解装置、回収方法及び分解方法は、アルカリ金属の再生、アルカリ金属元素の金属を製造する技術分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0058】
20,20B,20C アルカリ金属回収装置、21 収容部、22,22C 回収極、23 アルカリ金属、24 対極、25 アルカリ金属フッ化物、26 イオン伝導媒体、29 加熱部。
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