(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、上記従来の構造物補強用部材5、6においては、
図10、
図11に示すように、継手部材2、3が先端から基端側までの各部位で所定の肉厚を確保して形成されるとともに、凹凸部(主噛合部)2a、3aを挟んで先端側、基端側の重ね合わせ面2b、2c、3b、3c(先端係合部2d、3dと基端係合部2e、3eの重ね合わせ面2b、2c、3b、3c)が平面状に形成され、これら先端側、基端側の重ね合わせ面2b、2c、3b、3cが補強用鋼板1の厚さ方向中央を面内に含む基準面P上に配されるようにして、継手部材2、3が補強用鋼板1の端部に一体に取り付けられている。
【0008】
そして、この構造物補強用部材5、6においては、地震などによって構造物に外力が作用して、連結した補強用鋼板1同士を離間させる方向の非常に大きな引張力Rが一対の継手部材2、3(継手構造)に作用すると、
図12に示すように先端係合部2d、3dと基端係合部2e、3eが離れるように一対の継手部材2、3に反り変形Sが生じる。
【0009】
このとき、凹凸部2a、3aを挟んで先端側、基端側の重ね合わせ面2b、2c、3b、3cを補強用鋼板1の厚さ方向中央を面内に含む基準面P上に配されるように継手部材2、3を構成した上記従来の構造物補強用部材5、6においては、非常に大きな引張力Rが作用して継手部材2、3に反り変形Sが生じると、凹凸部2a、3aのみで引張力Rを受け止めることになり、先端係合部2d、3d、基端係合部2e、3eが継手構造の耐力(許容耐力や終局耐力)に寄与しない状態になってしまう。
【0010】
また、上記従来の構造物補強用部材5、6においては、先端係合部2d、3dと基端係合部2e、3eの重ね合わせ面2b、2c、3b、3cを平面状に形成し、これら先端係合部2d、3d、基端係合部2e、3eの重ね合わせ面2b、2c、3b、3cが基準面P上に配されるように継手部材2、3を形成、配置するため、継手部材2、3の加工精度(寸法精度)、補強用鋼板1への取付精度(設置精度)を高精度で確保することが難しい。
【0011】
すなわち、継手部材2、3を圧延加工によって製造する際に、先端係合部2d、3dと基端係合部2e、3eの間の凹凸部2a、3aに大きな圧延応力が作用し、凹凸部2a、3aと先端係合部2d、3d、基端係合部2e、3eとの間の圧延応力に大きな差が生じ、先端係合部2d、3dや基端係合部2e、3eに近い凸部や凹部、特に先端係合部2d、3dの側近の凸部や凹部の加工精度を確保することが難しい。
【0012】
また、先端係合部2d、3dと基端係合部2e、3eの重ね合わせ面2b、2c、3b、3cを平面状に形成し、これら重ね合わせ面2b、2c、3b、3cを基準面Pに合わせて継手部材2、3を取り付ける必要が生じることで、その取付精度を確保することが難しい。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑み、従来よりも耐力を高めることを可能にする構造物補強用部材
及び継手構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0015】
本発明の構造物補強用部材は、構造物の表面に隣接配置されるとともに前記構造物との間に充填材を充填し、前記構造物に一体に設置される構造物補強用部材であって、補強板と、前記補強板の端部に一体に設けられ、隣り合う前記構造物補強用部材の端部同士を連結するための継手部材とを備えて構成され、前記継手部材は、隣り合う前記構造物補強用部材の継手部材同士を重ね合わせた際に互いに噛み合って接合する主噛合部の凹凸部と、前記凹凸部を挟んで先端側、前記補強板側の基端側に設けられ、隣り合う前記構造物補強用部材の継手部材の前記凹凸部同士を係合させた状態で互いの重ね合わせ面同士を面接触させて係合する先端係合部及び基端係合部とを備え、且つ、前記先端係合部の重ね合わせ面を、前記補強板の厚さ方向中央を面内に含む基準面よりも外側に配し、前記基端係合部の重ね合わせ面を前記基準面よりも内側に配して形成されていることを特徴とする。
また、本発明の継手構造は、
補強板の端部同士を連結する継手構造であって、一対の継手部材を備えてなり、前記継手部材が、前記継手部材同士を重ね合わせた際に互いに噛み合って接合する主噛合部の凹凸部と、前記凹凸部を挟んで先端側、前記補強板側の基端側に設けられ、前記継手部材の前記凹凸部同士を係合させた状態で互いの重ね合わせ面同士を面接触させて係合する先端係合部及び基端係合部とを備え、且つ、前記先端係合部の重ね合わせ面を、前記補強板の厚さ方向中央を面内に含む基準面よりも外側に配し、前記基端係合部の重ね合わせ面を前記基準面よりも内側に配して形成されていることを特徴とする。
【0016】
これらの発明においては、継手部材の先端係合部の重ね合わせ面が補強板の厚さ方向中央を面内に含む基準面よりも外側に凸設されている。また、これに応じて基端係合部の重ね合わせ面が基準面よりも内側に凹設されている。これにより、非常に大きな引張力が作用して継手部材に反り変形が生じた場合であっても、一対の継手部材の互いに係合した先端係合部と基端係合部の係合状態を保持することができ、一対の継手部材の互いに噛合した主噛合部の凹凸部だけでなく、先端係合部と基端係合部によっても引張力を受け止めることが可能になる。
【0017】
よって、先端係合部と基端係合部を継手構造の耐力(許容耐力、終局耐力)に寄与させることが可能になり、従来のように継手部材の先端係合部と基端係合部の重ね合わせ面が基準面上に配された場合と比較し、構造物補強用部材としての耐力を向上させることが可能になる。すなわち、構造物をより好適に補強することが可能になる。
【0018】
また、本発明の構造物補強用部材において、前記継手部材は、鋼材を圧延加工して製造したものであり、圧延加工用のワークロールに設けられた押え用凸部で前記先端係合部と前記基端係合部の少なくとも一方となる部位を押圧保持しながら圧延加工することにより、前記先端係合部と前記基端係合部の少なくとも一方の重ね合わせ面に前記押え用凸部で押圧保持した形跡があることを特徴とする。
本発明の継手構造において、前記一対の継手部材はそれぞれ、鋼材を圧延加工して製造したものであり、圧延加工用のワークロールに設けられた押え用凸部で前記先端係合部と前記基端係合部の少なくとも一方となる部位を押圧保持しながら圧延加工することにより、前記先端係合部と前記基端係合部の少なくとも一方の重ね合わせ面に前記押え用凸部で押圧保持した形跡があることを特徴とする。
【0019】
これらの発明においては、継手部材を圧延加工によって製造する際に、圧延加工用のワークロールに押え用凸部を設け、この押え用凸部で押え付け、保持しながら先端係合部及び/又は基端係合部が圧延加工されるため、凹凸部(主噛合部)に大きな圧延応力が作用し、凹凸部と先端係合部、基端係合部との間の圧延応力に大きな差が生じた場合であっても、先端係合部や基端係合部に近い凸部や凹部の加工精度を十分に確保して継手部材を製造することが可能になる。また、このように製造した証拠として、押え用凸部で押圧保持した先端係合部、基端係合部の重ね合わせ面に押え用凸部の形跡が必然的に残ることになる。
【0020】
そして、先端係合部や基端係合部に近い凸部や凹部の加工精度を十分に確保して継手部材を製造できることによって、従来と比較し、構造物補強用部材としての耐力をさらに向上させることが可能になる。
【0021】
さらに、本発明の構造物補強用部材において、前記継手部材は、前記凹凸部の凹部及び凸部の接合面のうち、隣り合う前記構造物補強用部材を前記継手部材の基端・先端間方向に引っ張ったときに係合する各係合面と、前記基準面とのなす角度αが90゜>α≧45゜とされ、前記係合面と対向する各係合面と、前記基準面とのなす角度βがα≧βとされ、且つ、基端側から先端に向けてその厚さ寸法が漸次小となるように形成されていることを特徴とする。
本発明の継手構造において、前記一対の継手部材はそれぞれ、前記凹凸部の凹部及び凸部の接合面のうち、前記継手部材の基端・先端間方向に引っ張ったときに係合する各係合面と、前記基準面とのなす角度αが90゜>α≧45゜とされ、前記係合面と対向する各係合面と、前記基準面とのなす角度βがα≧βとされ、且つ、基端側から先端に向けてその厚さ寸法が漸次小となるように形成されていることを特徴とする。
【0022】
これらの発明においては、隣り合う構造物補強用部材を継手部材の基端・先端間方向に引っ張ったときに係合する各係合面と、基準面とのなす角度αを90゜>α≧45゜とし、かつ、前記係合面と対向する各係合面と、基準面とのなす角度βをα≧βとしたことにより、隣り合う構造物補強用部材の補強板を互いに引き離す方向に引張力が働く際の各継手部材の係合面同士の係合が強固となり、継手部材同士の接合強度が向上する。これにより、構造物をより好適に補強することが可能になる。
【0023】
また、本発明の構造物補強用部材において、前記継手部材は、前記補強板の端部と対向配置され、前記補強板に溶接して接続する部分に凸形状の鋼板溶接部を設けて形成されていることが望ましい。
本発明の継手構造において、前記継手部材は、
前記補強板の端部に溶接して接続する基端側に凸形状の鋼板溶接部を設けて形成されていることが望ましい。
【0024】
これらの発明においては、補強板の端部に継手部材を突合せ溶接などで溶接する際に、継手部材に凸形状の鋼板溶接部が設けられていることで、この鋼板溶接部が突出している分だけ溶接のど厚を大きく確保することができ、溶接の作業性、溶接の信頼性を高めることが可能になる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の構造物補強用部材
及び継手構造においては、従来と比較し、継手部材ひいては構造物補強用部材の耐力を高めることが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、
図1から
図7、
図12を参照し、本発明の一実施形態に係る構造物補強用部材
及び継手構造について説明する。
【0028】
本実施形態の構造物補強用部材A1、A2は、
図1に示すように、構造物10の補強対策としての鋼板巻き立て工法に適用される部材である。そして、本実施形態の構造物の補強構造Bは、例えば、断面コ字状に形成された一対の構造物補強用部材A1、A2を建物の柱、橋脚など、断面矩形状の鉄筋コンクリート製の柱などの構造物10を囲繞するように配置し、これら一対の構造物補強用部材A1、A2と構造物10との間隙にエポキシ樹脂やモルタル等の充填剤11を充填し、一対の構造物補強用部材A1、A2を構造物10に一体化して構成されている。
【0029】
また、本実施形態の構造物補強用部材A1、A2は、断面コ字状に形成された補強板1と、補強板1の両端部(両側端部)にそれぞれ溶接などして一体に設けられ、構造物10を囲繞するように配設されて隣り合う構造物補強用部材A1、A2の端部同士を連結するための2つの継手部材12、13
(継手構造)とを備えて構成されている。
【0030】
図1、
図2に示すように、継手部材12、13は、隣り合う一方の構造物補強用部材A1と他方の構造物補強用部材A2をそれぞれ、柱等の構造物10を囲繞するように配設した状態で、一方の構造物補強用部材A1の継手部材12と他方の構造物補強用部材A2の継手部材13同士が重ね合うように設けられている。
【0031】
また、
図2及び
図3に示すように、
本実施形態の継手構造を構成する一対の継手部材12、13はそれぞれ、継手部材12、13同士を重ね合わせた際に互いに噛み合って接合する主噛合部の凹凸部12a、13aと、凹凸部12a、13aを挟んで先端側と補強板1側の基端側とに設けられ、隣り合う構造物補強用部材A1、A2の継手部材12、13の凹凸部12a、13a同士を係合させた状態で互いの重ね合わせ面12b、12c、13b、13c同士を面接触させて係合する先端係合部12d、13d及び基端係合部12e、13eとを備えて形成されている。
【0032】
すなわち、一方の継手部材12の他方の継手部材13に係合させる凹凸部(主噛合部)12aの重ね合わせ面には、補強板1の隣接する方向への移動を拘束するための複数の凹部と複数の凸部が交互に並んで形成されている。また、他方の継手部材13の一方の継手部材12に係合させる凹凸部(主噛合部)13aの重ね合わせ面には、補強板1の隣接する方向への移動を拘束するための複数の凸部と複数の凹部が、一方の継手部材12の凸部に凹部、一方の継手部材12の凹部に凸部がそれぞれ係合するように交互に並んで形成されている。
【0033】
そして、各継手部材12、13は、これら複数の凸部と複数の凹部からなる凹凸部12a、13aを挟んで先端側に先端係合部12d、13d、補強板1の端部に接合する基端側に基端係合部12e、13eをそれぞれ備えて形成されている。また、本実施形態の継手部材12、13は、先端から基端側に向けてその厚さ寸法Hが漸次大となるように(基端側から先端に向けてその厚さ寸法Hが漸次小となるように)形成されている。なお、この厚さ寸法Hは継手部材12、13の背面12f、13fと、複数の凸部の先端同士を結ぶ仮想線との間の寸法を意味する。
【0034】
さらに、各継手部材12、13は、凹凸部12a、13aの凹部及び凸部の接合面のうち、隣り合う構造物補強用部材A1、A2を略継手部材12、13の基端・先端間方向に引っ張ったときに係合する各係合面14と、補強板1の厚さ方向中央を面内に含む基準面Pとのなす角度αが90゜>α≧45゜とされ、且つ、係合面14と対向する各係合面15と基準面Pとのなす角度βがα≧βとされている。
【0035】
また、本実施形態においては、各継手部材12、13が先端係合部12d、13dの重ね合わせ面12b、13bを、補強板1の厚さ方向中央を面内に含む基準面Pよりも外側に配し、基端係合部12e、13eの重ね合わせ面12c、13cを基準面Pよりも内側に配して形成されている。
【0036】
さらに、各継手部材12、13には、先端係合部12d、13dと基端係合部12e、13eにそれぞれ、ボルト挿通孔(不図示)が貫通形成されている。そして、一方の構造物補強用部材A1の継手部材12と他方の構造物補強用部材A2の継手部材13同士を重ね合わせた際に、一方の継手部材12の先端係合部12dのボルト挿通孔と他方の継手部材13の基端係合部13eのボルト挿通孔とが連通し、一方の継手部材12の基端係合部12eのボルト挿通孔と他方の継手部材13の先端係合部13dのボルト挿通孔とが連通する。これとともにボルト挿通孔に内表面側からボルトを挿入し、ボルト挿通孔から外表面側に突出したボルトにワッシャを介してナットを螺着して締結する。
【0037】
これにより、一対の継手部材12、13同士、ひいては一方の構造物補強用部材A1と他方の構造物補強用部材A2の端部同士が強固に連結固定される。
【0038】
ここで、本実施形態の継手部材12、13は、鋼材を圧延加工して製造したものである。
【0039】
具体的に、この継手部材12、13は、例えば
図4に示すように、回転軸線O1、O2を平行にしつつ所定の間隔をあけて配設した一対の圧延加工用のワークロール17、18を備える圧延加工装置19を使用して製造される。
【0040】
また、一方のワークロール17は、その加工部17aが回転軸線O1方向に一定の外径の円柱状に形成されている。
【0041】
他方のワークロール18は、その加工部18aが回転軸線O2へ向けて一方の側から他方の側へ漸次縮径する円錐台状に形成されている。また、他方のワークロール18は、加工部18aの表面に、回転軸線O2と直交して継手部材12、13の係合面を形成し、且つ係合面14、15を含む凹部及び凸部を形成するための複数の環状突部21と、複数の環状突部21を挟んで回転軸線O1方向の前方側と後方側にそれぞれ設けられ、継手部材12、13の先端係合部12d、13dと基端係合部12e、13eをそれぞれ形成するための先端係合部形成部22、基端係合部形成部23とを備えて形成されている。
【0042】
さらに、本実施形態では、他方のワークロール18の先端係合部形成部22の表面に、回転軸線O1と直交して突出し、周方向に延びて繋がる環状の押え用凸部24が設けられている。この押え用凸部24は、断面形状を例えば台形状、三角形状などの多角形状、突出方向先端側を凸曲面状にして形成されている。
なお、このような押え用凸部24は、製造する継手部材12、13の形状などに応じて先端係合部形成部22と基端係合部形成部23の両方、あるいは基端係合部形成部23に設けるようにしてもよい。
【0043】
そして、この圧延加工装置19では、一対のワークロール17、18間に鋼材(被加工物)20を送り込むと、他方のワークロール18の加工部18aの環状突部21、先端係合部形成部22、基端係合部形成部23が鋼材20の一方の面に押圧して食い込み、鋼材20が一対のワークロール17、18の間を通って圧延されるとともに、一方の面に凹部及び凸部からなる凹凸部12a、13a、先端係合部12d、13d、基端係合部12e、13eが形成される。
【0044】
また、本実施形態では、このとき、他方のワークロール18の先端係合部形成部22の表面に押え用凸部24が突設されているため、鋼材20の先端係合部12d、13dを形成する部位に押え用凸部24が押圧して食い込む。これにより、この押え用凸部24によって鋼材20の先端係合部12d、13dを形成する部位を押圧保持した状態で鋼材20の一方の面に凹凸部12a、13aが形成される。
【0045】
このように、継手部材12、13を圧延加工によって製造する際に、他方のワークロール18に設けた押え用凸部24で先端係合部12d、13dを押え付けて保持しながら凹凸部12a、13aが圧延加工される。このため、凹凸部12a、13aに大きな圧延応力が作用し、凹凸部12a、13aと先端係合部12d、13dとの間の圧延応力に大きな差が生じた場合であっても、先端係合部12d、13dに近い凸部や凹部が精度よく形成されることになる。
【0046】
また、
図2、
図3、
図4に示すように、押え用凸部24で先端係合部12d、13dを押圧保持しながら凹凸部12a、13aを圧延加工することによって、本実施形態の継手部材12、13においては、押え用凸部24で押圧保持した先端係合部12d、13dの重ね合わせ面12b、13bに押え用凸部24が食い込んだ溝状の形跡25が必然的に形成されて残ることになる。
【0047】
そして、上記のように圧延加工した鋼材20にボルト挿通孔を形成し、また、必要に応じて、外表面、内表面に切削加工を施したり、ボルトを点付け溶接などで予め取り付けるなどし、継手部材12、13の製造が完了する。
【0048】
次に、上記構成からなる本実施形態の構造物補強用部材A1、A2を備えた構造物の補強構造Bを施工する方法の一例について説明する。
【0049】
はじめに、
図5に示すように、例えば基礎部30上に立設された柱(構造物)10の根本部分に取付用治具31を組立固定する。この取付用治具31は、根本部分に固定される土台32と、土台32に基端が回転自在に取り付けられ、柱10を挟持する方向に回動する2つの梯子状の補強板載置部33とを備えている(取付用治具組立工程)。
【0050】
そして、取付用治具31の補強板載置部33を回動させて基礎部30上に倒し、これらの補強板載置部33上に構造物補強用部材A1、A2をそれぞれ内表面側を上にして載置する。
図5、
図6に示すように、補強板載置部33を柱10を挟持する方向(図中の矢印方向)に向かって回動させ、載置状態の構造物補強用部材A1、A2をそれぞれ立設させる。これにより、一対の構造物補強用部材A1、A2は互いに向かい合った状態で、且つ柱10との間に一定の間隙を設けた状態で、柱10を囲繞するように配設される(補強板立設工程)。
【0051】
また、このとき、連結された一対の構造物補強用部材A1、A2の上端部の内表面側に、柱10との一定の間隙を確保するためのスペーサー、後工程で注入するモルタルなどの充填剤11の漏出を防止するためのシール用部材などを取り付けておく。
【0052】
そして、上記のように一対の構造物補強用部材A1、A2を立設するとともに、一方の構造物補強用部材A1と他方の構造物補強用部材A2の継手部材12、13同士を重ね合わせ、互いの継手部材12、13の凹凸部12a、13a同士、先端係合部12d、13dと基端係合部12e、13e同士を係合させる。また、ボルト及びナットで継手部材12、13同士を固定連結する(補強板連結工程)。
【0053】
次に、
図7に示すように、組み付けた一対の構造物補強用部材A1、A2を柱10に沿って上方へとせり上げ、一対の構造物補強用部材A1の上端を柱10上の梁34の下部に当接させる。このとき、仮止め用ボルトを、構造物補強用部材A1、A2の下部に形成された仮止め用貫通孔に貫通させ、この仮止め用貫通孔に対応した位置に柱10に形成された仮止め用穴に挿入することにより、構造物補強用部材A1、A2がずれ落ちないように仮止めする。さらに、上記の補強板立設工程、補強板連結工程及び補強板せり上げ工程を繰り返し行い、柱10の周面全体に複数の構造物補強用部材A1、A2を仮止め状態で取り付ける(補強板せり上げ工程)。
【0054】
全ての構造物補強用部材A1、A2を仮止めした後、これらの構造物補強用部材A1、A2を本止め固定する。また、これら構造物補強用部材A1、A2の上端部をそれぞれシール用部材を用いてシールする。なお、上下に隣接する構造物補強用部材A1、A2は適宜溶接等して連結固定する(補強板固定工程)。
【0055】
次に、モルタルなどの充填剤11を構造物補強用部材A1、A2と柱10との間隙に注入して充填し、充填剤11が十分に固化するまで養生する(充填剤注入工程)。
最後に取付用治具31を解体し、本実施形態の構造物の補強構造Bの施工が完了する。
【0056】
そして、上記のように構成した本実施形態の構造物補強用部材A1、A2(構造物の補強構造B)においては、継手部材12、13の先端係合部12d、13dの重ね合わせ面12b、13bが補強板1の厚さ方向中央を面内に含む基準面Pよりも外側に凸設されている。また、これに応じて基端係合部12e、13eの重ね合わせ面12c、13cが基準面Pよりも内側に凹設されている。
【0057】
これにより、地震などによって構造物10に外力が作用し、連結した構造物補強用部材A1、A2同士を離間させる方向の非常に大きな引張力Rが一対の継手部材12、13に作用して継手部材12、13に反り変形が生じた場合であっても、継手部材12の先端係合部12d、13dの重ね合わせ面12b、13bが基準面Pよりも外側に凸設されて継手部材12、13の先端係合部12d、13d(先端側)の引っかかる部分が大きくなっているため、一対の継手部材12、13の互いに係合した先端係合部12d、13dと基端係合部12e、13eの係合状態が保持される。このため、一対の継手部材12、13の互いに噛合した凹凸部12a、13aだけでなく、先端係合部12d、13dと基端係合部12e、13eによっても引張力Rを受け止めることが可能になる。
【0058】
また、
図2に示すように、基端係合部12e、13eの重ね合わせ面12c、13cが基準面Pよりも内側に凹設されるため、本実施形態の継手部材12、13では、先端から基端側に向けてその厚さ寸法Hが漸次大となるように形成して、継手部材12、13の厚さを確保している。このため、
図2、
図12に示すように、継手部材12、13の基端側の背面12f、13f側が膨らむことになり、本実施形態の継手部材12、13においては、従来の継手部材2、3と比較し、基準面Pに対する背面12f、13fの傾斜角度θひいては継手部材12、13の中心軸の傾斜角度θが大きくなる(急になる)。そして、厚さHが同じで、反り変形Sの角度が同じであれば、従来の継手部材2、3よりも本実施形態の継手部材12、13の方が中心軸の傾斜角度θが大きい分だけ反り量(面外方向の変形量)Sが小さくなる。
【0059】
よって、この点からも一対の継手部材12、13の凹凸部12a、13a同士、先端係合部12d、13dと基端係合部12e、13e同士の係合が外れにくくなり、非常に大きな引張力Rが作用した際の継手部材12、13の変形抵抗性、ひいては耐力が大きくなる。
【0060】
すなわち、本実施形態の構造物補強用部材A1、A2においては、従来のように継手部材2、3の先端係合部2d、3dと基端係合部2e、3eの重ね合わせ面2b、2c、3b、3cが基準面P上に配された場合と比較し、先端係合部12d、13dと基端係合部12e、13eが継手構造の耐力(許容耐力、終局耐力)に寄与することになり、構造物補強用部材A1、A2としての耐力が向上する。よって、本実施形態の構造物補強用部材A1、A2、構造物の補強構造Bを設けることで、構造物10に好適に補強対策が施されることになる。
【0061】
したがって、本実施形態の構造物補強用部材A1、A2
及び継手構造においては、継手部材12、13の先端係合部12d、13dの重ね合わせ面12b、13bが基準面Pよりも外側に凸設され、基端係合部12e、13eの重ね合わせ面12c、13cが基準面Pよりも内側に凹設されていることにより、非常に大きな引張力Rが作用して継手部材12、13に反り変形Sが生じた場合であっても、一対の継手部材12、13の互いに係合した先端係合部12d、13dと基端係合部12e、13eの係合状態を保持することができ、一対の継手部材12、13の互いに噛合した凹凸部12a、13aだけでなく、先端係合部12d、13dと基端係合部12e、13eによっても引張力Rを受け止めることが可能になる。
【0062】
よって、先端係合部12d、13dと基端係合部12e、13eを継手構造の耐力に寄与させることが可能になり、従来と比較し、構造物補強用部材A1、A2としての耐力を向上させることが可能になる。すなわち、構造物10をより好適に補強することが可能になる。
【0063】
また、本実施形態の構造物補強用部材A1、A2
及び継手構造においては、継手部材12、13を圧延加工によって製造する際に、圧延加工用のワークロール18に押え用凸部24を設け、この押え用凸部24で押え付け、先端係合部12d、13dを保持しながら圧延加工する。このため、凹凸部12a、13aに大きな圧延応力が作用し、凹凸部12a、13aと先端係合部12d、13dとの間の圧延応力に大きな差が生じた場合であっても、先端係合部12d、13dに近い凸部や凹部の加工精度を十分に確保して継手部材12、13を製造することが可能になる。
【0064】
そして、先端係合部12d、13dに近い凸部や凹部の加工精度を十分に確保して継手部材12、13を製造できることによって、従来と比較し、構造物補強用部材A1、A2としての耐力をさらに向上させることが可能になる。
【0065】
なお、継手部材12、13が基端側から先端に向かってその厚さ寸法Hが漸次小となるように形成されている場合には、先端係合部12d、13dの側近の凹部や凸部の加工精度を確保しにくくなるため、本実施形態のように先端係合部12d、13d(先端係合部12d、13dが形成される部位)を押圧保持することが好ましい。すなわち、先端係合部12d、13dを押圧保持することに限定するのではなく、継手部材12、13の形状、凹部や凸部の数、長さなどに応じて、選択的に先端係合部12d、13dと基端係合部12e、13eのいずれか、もしくは双方を押圧保持し、精度よく凹凸部12a、13aを加工できるようにすればよい。
【0066】
さらに、本実施形態の構造物補強用部材A1、A2
及び継手構造においては、隣り合う構造物補強用部材A1、A2を継手部材12、13の基端・先端間方向に引っ張ったときに係合する各係合面14と、基準面Pとのなす角度αを90゜>α≧45゜とし、かつ、係合面14と対向する各係合面15と、基準面Pとのなす角度βをα≧βとしたことにより、隣り合う構造物補強用部材A1、A2の補強板1を互いに引き離す方向に引張力Rが働く際の各継手部材12、13の係合面14、15同士の係合が強固となり、継手部材12、13同士の接合強度が向上する。これにより、構造物10をより好適に補強することが可能になる。
【0067】
よって、本実施形態の構造物補強用部材A1、A2
及び継手構造によれば、従来と比較し、継手部材12、13ひいては構造物補強用部材A1、A2の耐力を高めることが可能になり、また、継手部材12、13の加工精度を高めることが可能になるとともに、これに伴いさらなる継手部材12、13ひいては構造物補強用部材A1、A2の耐力の向上を図ることが可能になる。
【0068】
以上、本発明に係る構造物補強用部材
及び継手構造の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0069】
例えば、本実施形態では、補強対象の構造物10が鉄筋コンクリート製の柱であるものとして説明を行ったが、鉄骨柱、鋼管柱、充填コンクリート鋼管柱など、鉄筋コンクリート柱以外の柱部材であってもよく、また、本発明に係る構造物はトラス梁等の水平部材、斜材等の梁部材等、柱部材以外であってもよい。さらに、柱や梁等の構造物は、断面形状を矩形(方形)に限定する必要もない。
【0070】
また、本実施形態では、本発明に係る構造物補強用部材が鋼板巻き立て工法に適用される部材であるものとし、補強板1が鋼板であるものとして説明を行ったが、本発明に係る補強板は、構造物10を囲繞するように設置して補強効果を得ることが可能であれば、鋼板以外に、例えばステンレススチール板、ジュラルミン板、アルミニウム板、ガラス繊維等の繊維材を補強材とした繊維強化プラスチック(FRP)等、他の素材で構成したものであってもよい。
【0071】
また、継手部材12、13を補強板1に溶接して一体に設けるように説明を行ったが、ボルト接合など、他の接合手段を用いて継手部材12、13を補強板1に取り付けても勿論構わない。
【0072】
ここで、
図8に示すように、従来、継手部材2、3を補強板(鋼板)1に溶接によって一体化する場合には、継手部材2、3の内側(凹凸部側、鋸刃面)を突き合せ溶接35で、外側(背面側)を隅肉溶接36で一体化している。また、突き合せ溶接35の補強板1側ののど厚t1は、補強板1の厚さと同等にし、誤差の許容値t2を0〜1mmとしている。一方、継手部材2、3側ののど厚t3は継手部材2、3の形状に応じ、補強板1側ののど厚t1よりも小さくしている。
【0073】
そして、このように継手部材2、3を補強板1に溶接するにあたり、継手部材2、3側ののど厚t3と、補強板1側ののど厚t1の高さ(厚さ)が違うことにより、溶接寸法精度を確保することが難しくなり、且つ溶接作業に多くの時間を要する等の不都合が生じていた。
【0074】
これに対し、本実施形態の構造物補強用部材A1、A2においては、
図9に示すように、継手部材12、13の基端部側で内側の鋼板溶接部37を従来よりも突出させて(凸形状にして)構成してもよい。また、凸形状の鋼板溶接部37はその勾配を緩くして形成することが望ましい。
【0075】
そして、このように凸形状の鋼板溶接部37を設けたり、鋼板溶接部37の勾配を緩くして形成すると、この鋼板溶接部37によって、継手部材2、3側ののど厚t3を確保することができ、また、好適な溶接空間を形成することができ、突き合せ溶接35で一体化しやすくなる。これにより、容易に溶接寸法の品質を確保することが可能になり、また、溶接作業時間を短縮することが可能になる。
さらに、凸形状の鋼板溶接部37とかみ合わせる側の継手の先端部の形状を合わせることにより、かみ合わせ時の位置合わせがより容易になるとともに略基準面方向のずれが抑制される。