特許第6638908号(P6638908)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6638908
(24)【登録日】2020年1月7日
(45)【発行日】2020年1月29日
(54)【発明の名称】介類浮遊幼生飼育水攪拌装置
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/50 20170101AFI20200120BHJP
   A01K 61/59 20170101ALI20200120BHJP
   A01K 61/30 20170101ALI20200120BHJP
【FI】
   A01K61/50
   A01K61/59
   A01K61/30
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-64705(P2016-64705)
(22)【出願日】2016年3月28日
(65)【公開番号】特開2017-175964(P2017-175964A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2018年12月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000214191
【氏名又は名称】長崎県
(74)【代理人】
【識別番号】100090088
【弁理士】
【氏名又は名称】原崎 正
(72)【発明者】
【氏名】大橋 智志
(72)【発明者】
【氏名】岩永 俊介
【審査官】 佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−206261(JP,A)
【文献】 特開2009−201408(JP,A)
【文献】 米国特許第04688519(US,A)
【文献】 特開2017−012121(JP,A)
【文献】 特開2010−057383(JP,A)
【文献】 特開2002−262702(JP,A)
【文献】 特開2000−232834(JP,A)
【文献】 特開2007−071679(JP,A)
【文献】 中国実用新案第203775956(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/00−61/65
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
介類浮遊幼生を飼育する飼育水槽内に、相対向する箇所に一対の導水口を有する水路と、該水路内部に単葉1枚からなる回転翼を有する攪拌器とを備えた撹拌装置を配置し、体長300μmを超える介類浮遊幼生を飼育水ごと無通気撹拌する際に、浮遊幼生に上記撹拌装置が与える物理的損傷を軽減することを特徴とする介類浮遊幼生飼育水撹拌装置。
【請求項2】
介類浮遊幼生を飼育する飼育水槽内に、相対向する箇所に一対の導水口を有する水路と、該水路内に単葉1枚からなる回転翼を有する攪拌器とを備えた撹拌装置を配置し、体長300μmを超える介類浮遊幼生を飼育水ごと無通気撹拌する際に、単葉1枚からなる回転翼を有する攪拌器を水路内で回転させることで、飼育水を撹拌する際に回転翼あるいは水流形成する水路壁面に浮遊幼生が物理的に衝突して生体に受ける傷害を回転翼を単翼とすることにより、複数の翼間で発生する翼への浮遊幼生の衝突を軽減する、あるいは複数の回転翼によって繰り返し水路壁面へ衝突する確率を減らし、気泡を用いずに撹拌水流を形成する際に浮遊幼生が受ける物理的傷害を軽減することを特徴とする介類浮遊幼生飼育水撹拌装置。
【請求項3】
介類浮遊幼生を飼育する飼育水槽内に、相対向する箇所に一対の導水口を有する水路と、該水路内に単葉1枚からなる回転翼を有する攪拌器とを備えた撹拌装置を配置し、体長300μmを超える介類浮遊幼生を飼育水ごと無通気撹拌する際に、単葉1枚からなる回転翼を有する上記攪拌器を水路内で回転させることで、水路の各導水口から排出される水流を水路の双方向に交互に発生させ、各導水口から交互に排水される水流が随時その方向が変わることを特徴とする介類浮遊幼生飼育水撹拌装置。
【請求項4】
介類浮遊幼生を飼育する飼育水槽内に、相対向する上下箇所に一対の導水口を有する水路と、該水路内に単葉1枚からなる回転翼を有する攪拌器とを備えた撹拌装置を配置し、体長300μmを超える介類浮遊幼生を飼育水ごと無通気撹拌する際に、単葉1枚からなる回転翼を有する上記攪拌器を水路内で上下回りに回転させることで、水路の各導水口から排出される水流を水路の双方向に交互に発生させ、単葉1枚の回転翼が下方向に向けて飼育水を押し出す場合は下方向に、上方向に向けて飼育水を押し出す場合は上方向にそれぞれ水流が生じ、各々上下の導水口から交互に排水される水流が随時その上下方向が変わることを特徴とする介類浮遊幼生飼育水撹拌装置。
【請求項5】
介類浮遊幼生を飼育する飼育水槽内に、相対向する水平箇所に一対の導水口を有する水路と、該水路内に単葉1枚からなる回転翼を有する攪拌器とを備えた撹拌装置を配置し、体長300μmを超える介類浮遊幼生を飼育水ごと無通気撹拌する際に、単葉1枚からなる回転翼を有する上記攪拌器を水路内で水平回りに回転させることで、水路の各導水口から排出される水流を水路の双方向に交互に発生させ、単葉1枚の回転翼が一方向の水平方向に向けて飼育水を押し出す場合は一方向の水平方向に、他方向の水平方向に向けて飼育水を押し出す場合は他方向の水平方向にそれぞれ水流が生じ、水平向きの各導水口から交互に排水される水流が随時その水平方向が変わることを特徴とする介類浮遊幼生飼育水撹拌装置。
【請求項6】
介類浮遊幼生を飼育する飼育水槽内に、相対向する傾斜箇所に一対の導水口を有する水路と、該水路内に単葉1枚からなる回転翼を有する攪拌器とを備えた撹拌装置を配置し、体長300μmを超える介類浮遊幼生を飼育水ごと無通気撹拌する際に、単葉1枚からなる回転翼を有する上記攪拌器を水路内で傾斜回りに回転させることで、水路の各導水口から排出される水流を水路の双方向に交互に発生させ、単葉1枚の回転翼が斜め下方向に向けて飼育水を押し出す場合は斜め下方向に、斜め上方向に向けて飼育水を押し出す場合は斜め上方向にそれぞれ水流が生じ、斜め上及び斜め下の各導水口から交互に排水される水流が随時その傾斜方向が変わることを特徴とする介類浮遊幼生飼育水撹拌装置。
【請求項7】
介類浮遊幼生を飼育する飼育水槽内に、相対向する箇所に一対の導水口を有する水路と、該水路内に単葉1枚からなる回転翼を有する攪拌器とを備えた撹拌装置を配置し、体長300μmを超える介類浮遊幼生を飼育水ごと無通気撹拌する際に、相対向する一対の導水口を除いて覆われた水路内で単葉1枚からなる回転翼を有する上記攪拌器を回転させることで、水路内に水流を形成して飼育水の撹拌に必要な水流圧を水路の双方向に交互に発生させ、一対の導水口を除いて覆われた水路を有することで水流をまとめ、飼育水全体が十分に撹拌されかつ不均等な水流の発生により方向が複雑に造成され、浮遊幼生全体が無作為に撹拌されて一定の水域に凝集するのを軽減することを特徴とする介類浮遊幼生飼育水撹拌装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二枚貝(タイラギ、カキ類、アサリ、ハマグリ、トリガイ、ウチムラサキ)、棘皮動物(ナマコ、アカウニ、ムラサキウニ)および甲殻類(クルマエビ、クマエビ、ウシエピ、コウライエビ、ガザミ、タイワンガザミ)などの飼育水中に無作為に浮遊・点在する状態で飼育する介類浮遊幼生の、飼育効率および生残率の向上ならびに斃死の軽減に効果を示す介類浮遊幼生飼育水攪拌装置に関する。
【背景技術】
【0002】
介類の浮遊幼生は、飼育水中に無作為に浮遊・点在する状態で飼育されるが、飼育効率を向上するためには飼育水中の密度を上げる必要がある。また、飼育水は常に撹拌されて浮遊幼生を適度に逸散させ、新鮮な飼育水および餌料に遭遇させる必要がある。このため、一般的には飼育水中に通気して微細な気泡を発生させ、気泡が上昇することによって飼育水を撹拌する。ところが、飼育生物によってはタイラギのように気泡の表面張力に捕捉されて凝集し、大量斃死するため気泡による撹拌が使用できない場合がある。このような場合は、通気を用いない撹拌方法(特許文献1)を利用するが、撹拌装置の構造によっては浮遊幼生が損傷を受けて斃死することがある。特に体長300μmを超える大型の浮遊幼生では顕著に発生し、タイラギやナマコ、ウニなどの大型浮遊幼生になる種類では、これまでの撹拌装置では良好な結果を得られなかった。発明者は不調の一因として、体長300μmを超える大型の浮遊幼生が、撹拌装置の送水部において撹拌機材から物理的傷害を受けることによると推察した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特願2015−063984
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
浮遊幼生に撹拌装置が与える物理的損傷を軽減するために、発明者は撹拌装置の送水装置である回転翼を単翼とすることにより、複数の翼間で発生する翼への浮遊幼生の衝突を軽減する、あるいは複数の回転翼によって繰り返し水路壁面へ衝突する確率を減らす方法で浮遊幼生が受ける物理的傷害を軽減することを検討した(図6参照)。
【0005】
本発明は、上記のような課題に鑑み、その課題を解決すべく創案されたものであって、その目的とするところは、体長300μmを超える介類浮遊幼生を飼育水ごと無通気撹拌する際に、浮遊幼生に撹拌装置が与える物理的損傷を軽減することのできる介類浮遊幼生飼育水攪拌装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を達成するために、請求項1の発明は、介類浮遊幼生を飼育する飼育水槽内に、相対向する箇所に一対の導水口を有する水路と、該水路内部に単葉1枚からなる回転翼を有する攪拌器とを備えた撹拌装置を配置し、体長300μmを超える介類浮遊幼生を飼育水ごと無通気撹拌する際に、浮遊幼生に上記撹拌装置が与える物理的損傷を軽減することを特徴とする。
【0007】
また、請求項2の発明は、介類浮遊幼生を飼育する飼育水槽内に、相対向する箇所に一対の導水口を有する水路と、該水路内に単葉1枚からなる回転翼を有する攪拌器とを備えた撹拌装置を配置し、体長300μmを超える介類浮遊幼生を飼育水ごと無通気撹拌する際に、単葉1枚からなる回転翼を有する攪拌器を水路内で回転させることで、飼育水を撹拌する際に回転翼あるいは水流形成する水路壁面に浮遊幼生が物理的に衝突して生体に受ける傷害を回転翼を単翼とすることにより、複数の翼間で発生する翼への浮遊幼生の衝突を軽減する、あるいは複数の回転翼によって繰り返し水路壁面へ衝突する確率を減らし、気泡を用いずに撹拌水流を形成する際に浮遊幼生が受ける物理的傷害を軽減することを特徴とする。
【0008】
また、請求項3の発明は、介類浮遊幼生を飼育する飼育水槽内に、相対向する箇所に一対の導水口を有する水路と、該水路内に単葉1枚からなる回転翼を有する攪拌器とを備えた撹拌装置を配置し、体長300μmを超える介類浮遊幼生を飼育水ごと無通気撹拌する際に、単葉1枚からなる回転翼を有する上記攪拌器を水路内で回転させることで、水路の各導水口から排出される水流を水路の双方向に交互に発生させ、各導水口から交互に排水される水流が随時その方向が変わることを特徴とする。
【0009】
また、請求項4の発明は、介類浮遊幼生を飼育する飼育水槽内に、相対向する上下箇所に一対の導水口を有する水路と、該水路内に単葉1枚からなる回転翼を有する攪拌器とを備えた撹拌装置を配置し、体長300μmを超える介類浮遊幼生を飼育水ごと無通気撹拌する際に、単葉1枚からなる回転翼を有する上記攪拌器を水路内で上下回りに回転させることで、水路の各導水口から排出される水流を水路の双方向に交互に発生させ、単葉1枚の回転翼が下方向に向けて飼育水を押し出す場合は下方向に、上方向に向けて飼育水を押し出す場合は上方向にそれぞれ水流が生じ、各々上下の導水口から交互に排水される水流が随時その上下方向が変わることを特徴とする。
【0010】
また、請求項5の発明は、介類浮遊幼生を飼育する飼育水槽内に、相対向する水平箇所に一対の導水口を有する水路と、該水路内に単葉1枚からなる回転翼を有する攪拌器とを備えた撹拌装置を配置し、体長300μmを超える介類浮遊幼生を飼育水ごと無通気撹拌する際に、単葉1枚からなる回転翼を有する上記攪拌器を水路内で水平回りに回転させることで、水路の各導水口から排出される水流を水路の双方向に交互に発生させ、単葉1枚の回転翼が一方向の水平方向に向けて飼育水を押し出す場合は一方向の水平方向に、他方向の水平方向に向けて飼育水を押し出す場合は他方向の水平方向にそれぞれ水流が生じ、水平向きの各導水口から交互に排水される水流が随時その水平方向が変わることを特徴とする。
【0011】
また、請求項6の発明は、介類浮遊幼生を飼育する飼育水槽内に、相対向する傾斜箇所に一対の導水口を有する水路と、該水路内に単葉1枚からなる回転翼を有する攪拌器とを備えた撹拌装置を配置し、体長300μmを超える介類浮遊幼生を飼育水ごと無通気撹拌する際に、単葉1枚からなる回転翼を有する上記攪拌器を水路内で傾斜回りに回転させることで、水路の各導水口から排出される水流を水路の双方向に交互に発生させ、単葉1枚の回転翼が斜め下方向に向けて飼育水を押し出す場合は斜め下方向に、斜め上方向に向けて飼育水を押し出す場合は斜め上方向にそれぞれ水流が生じ、斜め上及び斜め下の各導水口から交互に排水される水流が随時その傾斜方向が変わることを特徴とする。
【0012】
また、請求項7の発明は、介類浮遊幼生を飼育する飼育水槽内に、相対向する箇所に一対の導水口を有する水路と、該水路内に単葉1枚からなる回転翼を有する攪拌器とを備えた撹拌装置を配置し、体長300μmを超える介類浮遊幼生を飼育水ごと無通気撹拌する際に、相対向する一対の導水口を除いて覆われた水路内で単葉1枚からなる回転翼を有する上記攪拌器を回転させることで、水路内に水流を形成して飼育水の撹拌に必要な水流圧を水路の双方向に交互に発生させ、一対の導水口を除いて覆われた水路を有することで水流をまとめ、飼育水全体が十分に撹拌されかつ不均等な水流の発生により方向が複雑に造成され、浮遊幼生全体が無作為に撹拌されて一定の水域に凝集するのを軽減することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1〜7の発明に係る介類浮遊幼生飼育水撹拌装置を用いれば、介類浮遊幼生を飼育する飼育水槽内に、相対向する箇所に一対の導水口を有する水路と、該水路内に単葉1枚からなる回転翼を有する攪拌器とを備えた撹拌装置を配置し、体長300μmを超える介類浮遊幼生を飼育水ごと無通気撹拌する際に、単葉1枚からなる回転翼を有する攪拌器を水路内で回転させることで、飼育水を撹拌する際に回転翼あるいは水流形成する水路壁面に浮遊幼生が物理的に衝突して生体に受ける傷害を、回転翼を単翼とすることにより、複数の翼間で発生する翼への浮遊幼生の衝突を軽減する、あるいは複数の回転翼によって繰り返し水路壁面へ衝突する確率を減らし、気泡を用いずに撹拌水流を形成する際に浮遊幼生が受ける物理的傷害を軽減し、体調300μmを超える介類浮遊幼生の生残率、着底率を向上させ、種苗の安定生産を実現することができる。
また、相対向する一対の導水口を除いて覆われた水路内で単葉1枚からなる回転翼を有する上記攪拌器を回転させることで、水路内に水流を形成して飼育水の撹拌に必要な水流圧を水路の双方向に交互に発生させ、一対の導水口を除いて覆われた水路を有することで水流をまとめ、飼育水槽内の飼育水全体が十分に撹拌されかつ不均等な水流の発生により方向が複雑に造成され、浮遊幼生全体が無作為に撹拌されて一定の水域に凝集するのを軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】この発明を実施するための形態を示すもので、上下回りに回転する介類浮遊幼生飼育水攪拌装置を配置した飼育水槽内における浮遊幼生拡散状況の模式図である。
図2】(A)はこの発明を実施するための形態を示す介類浮遊幼生飼育水攪拌装置の下方向に向けて飼育水を押し出すときの概略側面図、(B)は同図(A)の概略正面図である。
図3】(A)はこの発明を実施するための形態を示す介類浮遊幼生飼育水攪拌装置の下方向に向けて飼育水を押し出すときの概略側面図、(B)は同図(A)の概略正面図である。
図4】この発明を実施するための形態を示すもので、水平回りに回転する介類浮遊幼生飼育水攪拌装置を配置した飼育水槽内における浮遊幼生拡散状況の模式図である。
図5】この発明を実施するための形態を示すもので、傾斜回りに回転する介類浮遊幼生飼育水攪拌装置を配置した飼育水槽内における浮遊幼生拡散状況の模式図である。
図6】(A)は本発明の介類浮遊幼生飼育水攪拌装置における浮遊幼生の衝突状況の模式図、(B)は従来型攪拌装置における浮遊幼生の衝突状況の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に記載の発明を実施するための形態に基づいて、この発明をより具体的に説明する。
図1図6において、介類浮遊幼生aを飼育する飼育水槽1内には、無通気攪拌する撹拌装置2が配置されている。撹拌装置2は、相対向する箇所に一対の導水口31を有する水路3と、該水路3内に単葉1枚からなる回転翼41を有する攪拌器4とを備えている。
【0016】
この撹拌装置2は、体長300μmを超える介類浮遊幼生aを飼育水1aごと無通気撹拌する際に、単葉1枚からなる回転翼41を有する攪拌器4を水路3内で回転させることで、飼育水1aを撹拌する際に回転翼41あるいは水流形成する水路壁面32などに介類浮遊幼生aが物理的に衝突して生体に受ける傷害を、回転翼41を単翼とすること(図6(A)参照)により、複数の翼間で発生する翼への介類浮遊幼生aの衝突を軽減する、あるいは複数の回転翼によって繰り返し水路壁面へ衝突する確率を減らし(図6(B)参照)、気泡を用いずに撹拌水流bを形成する際に介類浮遊幼生aが受ける物理的傷害を軽減する特徴を有している。
【0017】
撹拌装置2の一部を構成する水路3は、図1図3に図示するものにあっては、相対向する上下箇所となる上端と下端には導水口31が開口され、その側周面は覆われている。このため、水路3内の飼育水1aは周囲に漏れることはなく、水路3内には上下の導水口31により下向き又は上向きの水流bが生じる。
【0018】
上端及び下端にそれぞれ導水口31を有する水路3の内部には、上記した単葉1枚からなる回転翼41を有する攪拌器4が設けられている。攪拌器4はその回転翼41が単葉1枚から構成されている。図1図3に示す攪拌器4にあってはその回転翼41は上下回りに回転するように取り付けられている。
【0019】
このため、攪拌器4の回転翼41が上下回りに回転するとき、図2に示すように、回転翼41が下向きのときには、水路3内の飼育水1aを下部の導水口31に向けて下向きに押し出す。水路3内の飼育水1aが下向きに押し出されて排出されることにより、水路3の上部の導水口31から飼育水槽1内の飼育水1aが流入する。
【0020】
これに対して、図3に示すように、回転翼41が上向きのときには、水路3内の飼育水1aを上部の導水口31に向けて上向きに押し出す。水路3内の飼育水1aが上向きに押し出されて排出されることにより、水路3の下部の導水口31から飼育水槽1内の飼育水1aが流入する。
【0021】
このように、攪拌器4の回転翼41が単葉1枚であるため、水路3の上下の各導水口31から排出される飼育水1aの水流bの向きを交互に変えさせる。これにより、飼育水槽1内の飼育水1a全体が十分に撹拌されかつ不均等な水流の発生により方向が複雑に造成され、介類浮遊幼生aの全体が無作為に撹拌されて一定の水域に凝集するのを軽減する機能を果たす。
【0022】
単葉1枚の回転翼41を備えた攪拌器4は、水中に設けられたモーター42に連動連結されていて、このモーター42の駆動により回転する。モーター42は枠体43の内部に内装されている。モーター42を内装した枠体43は、上方側が飼育水槽1の上方に延びる吊持部材44の下端で連結されており、この吊持部材44により飼育水槽1内に吊持されている。
【0023】
撹拌装置2の一部を構成する水路3は、図4に図示するものにあっては、相対向する水平箇所に導水口31が開口され、上下側となるその側周面は覆われている。このため、水路3内の飼育水1aは周囲に漏れることはなく、水路3内には水平箇所の各導水口31により水平向きの水流bが生じる。図4に示す撹拌装置2にあっては、単葉1枚の回転翼41を備えた攪拌器4は水平回りに回転するように、吊持部材44の下端に連結されている。
【0024】
図4に図示する撹拌装置2にあっては、水平向きに取り付けられている。すなわち、撹拌装置2の一部を構成する水路3は、図4に図示するように、相対向する水平箇所に導水口31が開口され、上下側となるその側周面は覆われている。このため、水路3内の飼育水1aは周囲に漏れることはなく、水路3内には水平箇所の各導水口31により水平向きの水流bが生じる。図4に示す撹拌装置2にあっては、単葉1枚の回転翼41を備えた攪拌器4は水平回りに回転するように、吊持部材44の下端に連結されている。
【0025】
また、図5に図示する撹拌装置2にあっては、傾斜して取り付けられている。すなわち、撹拌装置2の一部を構成する水路3は、図5に図示するように、相対向する傾斜箇所に導水口31が開口され、傾斜側となるその側周面は覆われている。このため、水路3内の飼育水1aは周囲に漏れることはなく、水路3内には傾斜箇所の各導水口31により傾斜する向きの水流bが生じる。図5に示す撹拌装置2にあっては、単葉1枚の回転翼41を備えた攪拌器4は傾斜回りに回転するように、吊持部材44の下端に傾いた状態で連結されている。
【0026】
次に、上記発明を実施するための形態の構成に基づく介類浮遊幼生飼育水攪拌装置の使用について以下説明する。
介類浮遊幼生aの例えばタイラギ浮遊幼生が飼育されている飼育水槽1の飼育水1aの中に、吊持部材44の下端に連結された撹拌装置2を沈める。撹拌装置2は、例えば上下回りに、攪拌器4の回転翼41が回転するように取り付ける。また、撹拌装置2の一部を構成する水路3の上下端に導水口31がそれぞれ位置するように取り付ける。
【0027】
図示しない電源スイッチを入れて、撹拌装置2のモーター42を駆動させる。駆動するモーター42の駆動軸には攪拌器4の回転翼41が連結されており、モーター42の駆動により、単葉1枚の回転翼41は上下回りに、所定の回転速度で回転する。
【0028】
回転する回転翼41は単葉1枚であるため、複数の回転翼を有する場合に比べて、介類浮遊幼生aに翼が直に衝突したり、回転翼41によって介類浮遊幼生aが水路壁面32への衝突する確率を減らすことができる。
【0029】
上下回りに回転する攪拌器4の回転翼41が、図2に示すように、下向きに回転するときには、水路3内の飼育水1aを下部の導水口31に向けて下向きに押し出す。水路3内の飼育水1aが下向きに押し出されて排出されることにより、下向きの水流bが生じる。このとき、水路3の上部の導水口31から飼育水槽1内の飼育水1aが流入する。
【0030】
上下回りに回転する攪拌器4の回転翼41が、図3に示すように、上向きに回転するときには、水路3内の飼育水1aを上部の導水口31に向けて上向きに押し出す。水路3内の飼育水1aが上向きに押し出されて排出されることにより、上向きの水流bが生じる。このとき、水路3の下部の導水口31から飼育水槽1内の飼育水1aが流入する。
【0031】
このように、単葉1枚の回転翼41が上下回りに回転することにより、各々上下の導水口31から交互に排出される飼育水1aの水流bは随時その上下方向が変わることで、飼育水槽1内の飼育水1a全体が十分に撹拌されかつ不均等な水流の発生により方向が複雑に造成され、介類浮遊幼生aの全体が無作為に撹拌されて一定の水域に凝集するのが軽減されることになるのである。
【実施例】
【0032】
実施例1〜実施例2では、本願発明の介類浮遊幼生飼育水攪拌装置を用いた介類浮遊幼生としては、最も飼育が困難とされるタイラギ浮遊幼生について調べた。タイラギ浮遊幼生で実験したのは、最も飼育が困難とされるタイラギ浮遊幼生で飼育できる場合には、他の介類浮遊幼生に容易に適用可能なためである。
実施例1の表1及び実施例2の表2の結果から理解されるように、ほとんど飼育が不可能なタイラギ浮遊幼生の飼育において、体長が300μmを超えるものについては、本願発明の介類浮遊幼生飼育水攪拌装置は有効であると考えられる。
以下実施例1,2について具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0033】
〔実施例1〕
2015年5月20日に採卵したタイラギ受精卵から孵化した浮遊幼生を、本発明による無通気の介類浮遊幼生飼育水攪拌装置を用いた飼育群(以下試験区と称する)と従来型の無通気撹拌装置を用いた飼育群(以下対照区と称する)で飼育した。浮遊幼生密度は試験開始時には5個体/mlとし、餌料としてC.calcitrans、C.gracilis、P.lutheriを、それぞれ15,000〜60,000細胞/ml、15,000〜60,000細胞/mlおよび2,000〜8,000細胞/mlの密度で飼育水に添加した。また栄養強化剤を併用した。飼育水は無通気撹拌を行いながら、上部散水(1,500ml/分、5〜10分毎)、微量換水(0.5〜1回転/日)および概ね7日毎の全量換水を行いながら飼育した。
本発明及び従来型の無通気撹拌装置は、水中モーター(ニッソーNLD 送水7〜8リットル/分、揚程高100cm)で駆動し、連続運転とした。以上の条件で、2015年5月21日から6月22日まで、33日間飼育して比較を行った。飼育期間中の水温は24.7℃〜26.7℃であった。
【0034】
結果
試験区と対照区の試験終了時の最着底稚貝数、着底開始までの日齢を表1に示す。
対照区は着底に至らず、浮遊幼生の最大殻長295μm、日齢19で全滅したので6月8日に試験を中止した。試験区は日齢26で1,650μmの着底変態個体が確認され、それ以降、稚貝が得られた。得られた稚貝数は256個であった。
【0035】
【表1】
【0036】
〔実施例2〕
2015年5月23日に採卵したタイラギ受精卵から艀化した浮遊幼生を、本発明による無通気の介類浮遊幼生飼育水攪拌装置を用いた飼育群(以下試験区と称する)と従来型の無通気撹拌装置を用いた飼育群(以下対照区と称する)で飼育した。浮遊幼生密度は試験開始時には個体/mlとし、餌料としてC.calcitrans、C.gracilis、P.lutheriを、それぞれ15,000〜60,000細胞/ml,15,000〜60,000細胞/mlおよび2,000〜8,000細胞/mlの密度で飼育水に添加した。また栄養強化剤を併用した。飼育水は無通気撹拌を行いながら、上部散水(1,500ml/分、5〜10分毎)、微量換水(0.5〜1回転/日)および概ね7日毎の全量換水を行いながら飼育した。
本発明及び従来型の無通気撹拌装置は、水中モーター(ニッソーNLD 送水7〜8リットル/分、揚程高100cm)で駆動し、連続運転とした。以上の条件で、2015年5月24日から6月29日まで、36日間飼育して比較を行った。飼育期問中の水温は24.7℃〜26.7℃であった。
【0037】
結果
試験区と対照区の試験終了時の着底稚貝数、着底開始までの日齢を表2に示す。
対照区は着底に至らず、浮遊幼生の最大殻長300μm、日齢19で全滅したので6月11日に試験を中止した。試験区は日齢23で1,800μmの着底変態個体が確認され、それ以降、稚貝が得られた。得られた稚貝数は8,504個であった。
【0038】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の介類浮遊幼生飼育水撹拌装置は、体長300μmを超える介類浮遊幼生を飼育水ごと無通気撹拌する際に、浮遊幼生に撹拌装置が与える物理的損傷を軽減するため、タイラギ浮遊幼生のように体長が300μmを超え、生体が気泡によって相互に凝集する特徴を有する種類では有効な飼育手段となる。また、着底時の沈降現象が生産成績を左右するアサリ、ハマグリなどの埋在性二枚貝については、通気撹拌の効果が低い底面の撹拌に有効な手段となる。ナマコやウニなどの棘皮動物、エビ、カニ類などの甲殻類の浮遊幼生のように体長が300μmを超え、通気撹拌だけでは沈降しがちな種類において補完して撹拌する手段として有効と考えられ、タイラギ、カキ類、アサリ、ハマグリ、トリガイ、ウチムラサキ、ナマコ、アカウニ、ムラサキウニ、クルマエビ、クマエビ、ウシエビ、コウライエビ、ガザミ、タイワンガザミなどの飼育成績の向上に寄与すると考えられる。従ってこれらの安定生産を可能とし、水産業における増養殖分野(養殖業および栽培漁業)において貢献度が高い。
【符号の説明】
【0040】
1 飼育水槽
1a 飼育水
2 撹拌装置
3 水路
31 導水口
32 水路壁面
4 攪拌器
41 回転翼
42 モーター
43 枠体
44 吊持部材
a 浮遊幼生
b 水流
図1
図2
図3
図4
図5
図6