特許第6639009号(P6639009)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6639009
(24)【登録日】2020年1月7日
(45)【発行日】2020年2月5日
(54)【発明の名称】治具台
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/44 20060101AFI20200127BHJP
【FI】
   B29C70/44
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2019-553588(P2019-553588)
(86)(22)【出願日】2019年3月4日
(86)【国際出願番号】JP2019008400
【審査請求日】2019年9月27日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000232645
【氏名又は名称】日本飛行機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154405
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 大吾
(74)【代理人】
【識別番号】100079005
【弁理士】
【氏名又は名称】宇高 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100201341
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 順一
(72)【発明者】
【氏名】内尾 豊久
【審査官】 関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−159660(JP,A)
【文献】 特表2019−502573(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/00−70/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂を含む繊維シートを載置し、積層し、真空引きし、加温加圧し、脱型して繊維強化プラスチックを成形する治具台であって、
治具台表面にシリコン系接着フィルムを含む離型フィルムが前記シリコン系接着フィルムを介して接着されている
ことを特徴とする治具台。
【請求項2】
前記離型フィルムは、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体により構成されているフィルムを含む
ことを特徴とする請求項1記載の治具台。
【請求項3】
前記離型フィルムの厚さは、100μm以下である
ことを特徴とする請求項1または2記載の治具台。
【請求項5】
既設である
ことを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の治具台。
【請求項6】
自由曲面を有する
ことを特徴とする請求項1〜3,5いずれか記載の治具台。
【請求項7】
金属製である
ことを特徴とする請求項1〜3,5,6いずれか記載の治具台。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化プラスチックを成形する際に用いる治具台に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)(Carbon Fiber Reinforced Plastics)などの繊維強化プラスチックが注目されている。軽量・高強度という特徴を生かして、航空機や自動車などの材料として様々な産業分野に適用されている。なお、ガラス繊維や石英ガラス繊維やアラミド繊維を用いることもある。
【0003】
繊維強化プラスチック積層体の成形方法の一例について簡単に説明する。治具台上にプリプレグシート積層体を積層して製品形状に賦形する。プリプレグシートは、炭素繊維等の補強材に未硬化の熱硬化性樹脂を含浸させたものでありシート状に形成されている。
【0004】
熱硬化性樹脂として、不飽和ポリエステル、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等が用いられる。
【0005】
さらに、賦形された繊維強化プラスチック積層体を治具台とともに真空バッグによりバギングして真空引きし、オートクレーブ装置に搬送し、加熱加圧する。これにより樹脂が硬化し繊維強化プラスチック積層体(製品)が成形される。その後、製品を脱型する。
【0006】
なお、熱硬化性樹脂に代えてポリアミド樹脂やポリプロピレン樹脂等の熱可塑性樹脂を用いることもある。熱可塑性樹脂は加熱により軟化し、その後冷却により固化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−200510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記にて繊維強化プラスチック積層体の成形方法の概略について説明したが、実際には細々としたいくつかの工程が含まれる。工程が複雑化すると、製品コストに影響を与える。工程が複雑化することにより、不具合の発生リスクが高くなる。したがって、工程を少しでも減らすことが重要となる。
【0009】
上記細々としたいくつかの工程には、治具台の離型処理工程がある。
【0010】
プリプレグは未硬化の熱硬化性樹脂を含む。プリプレグを治具台上に積層し、真空引き、オートクレーブを用いた加熱加圧成形をする際に、熱硬化性樹脂の一部が治具台に付着するおそれがある。これにより、製品脱型時の不具合が発生する。
【0011】
このような不具合に対し、治具台表面に予めフッ素系樹脂やシリコン系樹脂などの離型剤を塗布(液体コーティング)し、離型膜を形成しておく。
【0012】
離型処理は、繊維強化プラスチック積層体の成形工程毎に、手作業で行われることが多い。その結果、作業時間が長くなり、塗布ムラが発生するおそれもある。塗布ムラは製品不具合にの遠因ともなる。
【0013】
本願発明者は、離型処理工程を省略することを検討した。
【0014】
本発明は上記課題を解決するものであり、離型処理工程を省略できる治具台を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決する本発明は、樹脂を含む繊維シートを載置し、積層し、真空引きし、加温加圧し、脱型して繊維強化プラスチックを成形する治具台である。治具台表面に離型フィルムが接着されている。
【0016】
これにより離型処理工程を省略できる。その結果、繊維強化プラスチック積層体の成形工程(製品製造全体工程)を簡略化できる。また、ムラの多い離型剤塗布と比べると、離型フィルムの厚さは均一である。
【0017】
好ましくは、前記離型フィルムは、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体により構成されているフィルムを含む。
【0018】
フッ素系フィルムの中でも、FEPフィルムは薄くできる。
【0019】
好ましくは、前記離型フィルムの厚さは、100μm以下である。
【0020】
薄い離型フィルムの伸張性により、皺発生を抑制しながら治具台表面に接着できる。薄い離型フィルムであれば製品形状精度に影響を与えない。
【0021】
好ましくは、前記離型フィルムはシリコン系接着フィルムを含む。
【0022】
シリコン系接着フィルムが介挿されることにより、FEPフィルムは治具台表面に接着可能となる。
【0023】
好ましくは、治具台は既設である。
【0024】
好ましくは、治具台は自由曲面を有する。
【0025】
好ましくは、金属製である。
【0026】
本願離型フィルムは、金属製治具台が既設である場合や、自由表面を有する場合の課題を解決するのに好適である。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る治具台を用いれば、離型処理工程を省略できる。その結果、繊維強化プラスチック積層体の成形工程(製品製造全体工程)を簡略化できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】従来工程と本願工程の比較
図2】製品製造工程の要部抜粋
図3】オートクレーブ装置における加熱加圧プロファイル
図4】離型フィルム概略構成
図5】自由曲面とフィルム厚の関係
【発明を実施するための形態】
【0029】
〜製品製造全体工程〜
【0030】
図1は、製品製造に係る従来工程概略と本願工程概略の比較図である。図2は、製品製造工程の要部を抜粋したものである。従来工程と本願工程とにおいて要部は共通する。
【0031】
まず、従来工程概略について説明する。
【0032】
図2上段は、製造開始前の治具台30を示す。最初に、治具台30の離型処理をおこなう。具体的には、治具台表面に予めフッ素系樹脂やシリコン系樹脂などの離型剤を塗布(液体コーティング)し、離型膜を形成する。
【0033】
治具台30上に、プリプレグシートを積層し、製品形状に賦形する(図2中段)。積層完了後、未硬化の積層体を治具台30とともに真空バッグによりバギングする(図2下段)。
【0034】
治具台30ごとオートクレーブ装置に搬送し、加熱加圧する。これにより樹脂が硬化し、繊維強化プラスチック積層体(製品)が成形される。
【0035】
図3は、オートクレーブ装置における加熱加圧プロファイル例である。横軸は時間である。ただし、一例であり本願はこれに限定されない。
【0036】
まず、真空バッグ内を−0.1MPaに減圧する。減圧状態で加熱を開始する。さらに、減圧を維持しつつ、加圧を開始する。加圧を増しながら減圧状態を徐々に大気圧に戻す。このときの温度を120℃(±10℃)程度とする(第1加熱段階)。また、0.3MPaまで加圧する。
【0037】
さらに、数十分〜数時間かけて、180℃(±20℃)程度とし、数時間維持する(第2加熱段階)。たとえばエポキシ樹脂の場合160℃超にて硬化が開始する。その後、また1時間程度かけて60℃以下まで冷却し、除圧を始める。
【0038】
治具台30とともにオートクレーブ装置から搬出し、製品を脱型する。
【0039】
脱型後、熱硬化性樹脂の一部がはみ出して硬化した部位などが治具台30表面に付着している場合もある。製品成形前に形成した離型膜が劣化している場合もある。したがって、治具台30表面を清掃し、更にもう一度離型処理をする。再離型処理により離型膜が堆積され、次回使用時の離型効果を期待できる。この状態で治具台を保管する。
【0040】
図1に戻り、本願工程概略について説明する。本願工程は従来工程とほぼ同様である。ところで、治具台30表面には、離型フィルム40が接着されている。これにより、本願工程は、成形前後の離型処理を省略できる。また、成形後の清掃処理も、エアブローを吹き付けるのみの簡単な作業であり、事実上省略できる。その結果、繊維強化プラスチック積層体の成形工程(製品製造全体工程)を簡略化できる。
【0041】
〜離型フィルム基本構成〜
図4は、離型フィルム概略構成図である。離型フィルム40は治具台30表面に接着されている。離型フィルム40は、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体により構成されている第1フィルム(FEPフィルム)41と、シリコン系接着フィルムである第2フィルム42とから形成されている。
【0042】
第1フィルム41裏面はプラズマ等により表面改質処理されており、第2フィルム42と接着している。すなわち、第1フィルム41は、第2フィルム42を介して、治具台30表面に接着されている。
【0043】
なお、本願発明者が、フッ素系離型フィルムの中でも、特にFEPフィルムを選択したのは、フィルム厚(薄さ)に着目したためである。離型フィルム40の厚さは100μm以下であることが好ましい。
【0044】
試作モデルでは、FEPフィルムとしてSOLVAY Cytec社の製品名「A5000 CLEAR NP NP
CEMENTABLE」を用いた。シリコン系接着フィルムとして太陽金網社の製品名「ポリシル」を用いた。
【0045】
試作モデルでは、FEPフィルム41の厚さは25μmであり、シリコン系接着フィルム42の厚さは50μmであり、離型フィルム40の厚さは75μm(<100μm)であった。
【0046】
なお、フッ素系離型フィルムの中で一般に用いられるPTFE樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、いわゆるテフロン(登録商標))フィルムは、FEPフィルムに比べて厚くなりやすい(例えば1mm以上)。
【0047】
一方、従来の離型剤塗布と比べると、離型フィルムの厚さは均一である。
【0048】
〜治具台詳細〜
本願は、治具台30が既存である場合や自由曲面を有する場合に限定されるものではない(新設や平面や単純曲面を含んでもよい)が、治具台30が既存である場合や自由曲面(図2上段参照)を有する場合には、本願離型フィルム40が好適である。
【0049】
自由曲面とは、空間に交点と曲率をいくつか設定し、高次方程式でそれぞれの交点を補間して表現される曲面である。球面や円柱面などのように単純な数式で表わすことのできる単純曲面とは異なる。
【0050】
なお、航空機や自動車など工業製品は自由曲面を有する。製品形状は治具台形状に追従する。したがって、治具台30は自由曲面を有する。例えば、図2上段に示す試作モデルに用いた治具台は、自由曲面を有する。
【0051】
なお、一般に治具台30は金属製である。
【0052】
〜自由曲面とフィルム厚の関係〜
図5は、自由曲面とフィルム厚の関係を示す説明図である。自由曲面を模式化した。下に凸の曲面(図示左側)と、上に凸の曲面(図示右側)が連続している。
【0053】
下に凸の曲面では、治具台表面の曲率L1に対し、フィルム表面の曲率L2は、大きくなる(曲げがきつい)。一方、上に凸の曲面では、治具台表面の曲率R1に対し、フィルム表面の曲率R2は、小さくなる(曲げが緩い)。
【0054】
フィルムが厚くなるほど、フィルム表面形状と治具台表面形状に誤差が発生しやすい。その結果、製品形状精度に影響する。
【0055】
新設治具台であれば、誤差を予め考慮して治具台表面形状を設計してもよいが、既設治具台では誤差を抑制するように、なるべくフィルムが薄いことが好ましい。
【0056】
さらに、フィルムが厚いと剛性を有し、自由曲面上に貼ると皺が発生する。これに対し、薄いフィルムは伸張性を有し、自由曲面に追従するため、皺が発生しない。
【0057】
〜備考1 本願に至る経緯〜
プレプレグシートの保護(ゴミ付着防止)として低密度/高密度ポリエチレンフィルムが用いられることが多いが、代替としてFEPフィルムとすることを検討した。その過程で、離型剤塗布による離型膜に代えて、FEPフィルムを含むフッ素樹脂系の離型フィルムを用いることを検討した。
【0058】
PTFEの融点が327℃であるのに対し、FEPの融点は260℃である。耐熱の観点からは、PTFEの方が好ましい材料とも思われる。ところで、オートクレーブでは180℃程度まで加熱する。発明者は、FEPフィルムでも、オートクレーブ成型時の加熱に対し充分な耐熱性があるのではと考え、実験によりこれを確認した。
【0059】
次いで、FEPフィルムを治具台表面に接着することを考えた。調査の結果、薄いシリコン系接着フィルムが市販されていることが分かった。シリコン系接着フィルムの接着力は充分であり、FEPフィルムを接着可能であることを実験により確認した。
【0060】
さらに、薄い離型フィルムが繰り返しの加熱加圧により、損傷するリスクについて検証した。ここで、オートクレーブ成型時に一度真空にするという特徴ある使用方法を経るため、酸素接触による劣化は生じないのではと、つまり、薄い離型フィルムでも損傷リスクは低いと、発明者は考えた。
【0061】
本願治具台を用いて100回以上製品成形を繰り返したが、離型フィルムは損傷しないことを確認した。
【0062】
以上の様に、いくつかの試行錯誤過程を経て、発明者は本願発明に想到した。
【0063】
〜備考2 接着容易性に係る補足〜
本願離型フィルム40は薄く伸張性を有するため、自由曲面に追従する。また、接着性もよい。したがって、容易に治具台30に接着できる。しかも、一度接着した後は、繰り返しの使用に耐えられる。
【0064】
したがって、離型フィルム接着作業は、全体工程に対しほとんど負担とならない。
【0065】
仮に、繰り返しの使用を経て損傷したとしても、容易に貼りかえることができる。
【0066】
〜まとめ〜
治具台30表面に離型フィルム40が接着されている。離型フィルム40はFEPフィルム41と、シリコン系接着フィルム42が接着されて形成される。離型フィルム40は薄い(100μm以下)方が好ましい。離型フィルム40は自由表面を有する治具台30に対して好適である。一般に既設治具台30は金属製である。
【0067】
薄い離型フィルム40は伸張性を有し、皺発生を抑制しながら治具台30自由表面に接着できる。薄い離型フィルム40であれば、製品形状精度に影響を与えない。従来の離型剤塗布と比べると、離型フィルム40の厚さは均一である。
【0068】
製品製造全体工程において、成形前後の離型処理や清掃処理省略できる。その結果、繊維強化プラスチック積層体の製品製造全体工程を簡略化できる。
【符号の説明】
【0069】
30 治具台
40 離型フィルム
41 第1フィルム(FEPフィルム)
42 第2フィルム(シリコン系接着フィルム)
【要約】
繊維強化プラスチック積層体の成形工程において、離型処理工程を省略できる治具台を提供する。
治具台30表面に離型フィルム40が接着されている。離型フィルム40はFEPフィルム41と、シリコン系接着フィルム42とが接着されて形成される。離型フィルム40は薄い(100μm以下)方が好ましい。離型フィルム40は自由表面を有する治具台30に対して好適である。一般に既設治具台30は金属製である。薄い離型フィルム40は伸張性を有し、皺発生を抑制しながら治具台30自由表面に接着できる。薄い離型フィルム40であれば、製品形状精度に影響を与えない。従来の離型剤塗布と比べると、離型フィルム40の厚さは均一である。製品製造全体工程において、成形前後の離型処理や清掃処理省略できる。その結果、繊維強化プラスチック積層体の製品製造全体工程を簡略化できる。
図1
図2
図3
図4
図5