【実施例】
【0033】
以下、実施例及び比較例によって本発明を更に具体的に説明するが、これらの内容は本発明を限定するものでない。
【0034】
(実施例1)レンコン抽出物のIL-9 mRNA発現抑制作用の評価(部位別の比較)
1. 試験方法
(1) レンコン抽出物の粉末の調製
徳島県で採取された備中種レンコンの可食部、節部、葉、種子各40gに蒸留水500mlを加え30分間100℃で煮た。この煮汁を50 ml遠心管に分注し、3000gで10分間遠心分離を行った。この遠心処理後の上清をろ過し、ろ液を凍結乾燥により粉末化してレンコン抽出物の粉末を調製し、これをIL-9 mRNA発現抑制作用試験に用いた。
【0035】
(2) IL-9 mRNA発現抑制作用試験(リアルタイムPCR法)
(2-1) RBL-2H3細胞の培養
ラット好塩基球性白血病細胞RBL-2H3細胞(公益財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 ヒューマンサイエンス研究資源バンクより購入)の培養には、MEM(アール塩含有、L-グルタミン含有、非必須アミノ酸含有、重炭酸ナトリウム不含)を用いた。MEM 500mlに対し、抗生物質(10,000 Units/ml ペニシリンGナトリウム, 10mg/mlストレプトマイシンを含む0.9% 生理食塩水)6 mlと56℃で30分インキュベートして非働化したウシ胎児血清(FBS)を最終濃度が10%となるように添加した。RBL-2H3細胞は6 wellプレートで培養し、(1)で調製したレンコン抽出物(10, 50, 100μg/ml)を添加して22時間インキュベートし、1μMのイオノマイシン(ionomycin)を加えて2時間刺激を行い、これを試験サンプルとした。なお、レンコン抽出物を添加しないでイオノマイシンを添加した試験区を陽性対照、レンコン抽出物もイオノマイシンも添加しない試験区を陰性対照とした。
【0036】
(2-2) RBL-2H3細胞からのtotal RNA抽出
試験サンプルをPBS(-)で2回洗浄した後、RNAiso Plus(Takara)を700μl加えてかきとった。クロロホルムを210μl加え、15秒間強く振盪し、二層に分離させた後、15,000 rpm、15分、4℃で遠心した。RNAを含む上層を採取し、上層と同量のイソプロパノールを加え、15秒間強く振盪し、15,000rpm、15分、4℃で遠心することで、ペレット状のRNAを得た。このペレットに75%エタノール(-20℃)を0.5 ml加え洗浄した。さらに、15,000 rpm、15分、4℃で遠心後、エタノールを除き、得られたペレットにジエチルピロカルボネート(DEPC)水を加え、RNA 溶液とした。分光光度計 (Thermo : Nanodorop ND-1000) により、波長260nm、280nmで吸光度を測定し、260nmの吸光度と2つの波長の比による検定で、各試験サンプルのtotal RNA濃度と純度を測定した。
【0037】
(2-3) cDNA合成
サンプルチューブにtotal RNA 1.0μg相当のRNA 溶液となるようにDEPC水を加え、全量を5μlとした。表1に示す組成の逆転写用反応液を調製し、PrimeScript
TM RT reagent Kit (Takara)を用いてサーマルサイクラー (Biometra:T3000 Thermocycler) で表2に示すプログラムにより逆転写反応を行った。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
(2-4) リアルタイムPCR
表3に示す組成のPCR反応液を調製し、Micro Amp Optical 96-well Reaction Plateの1 ウェル当たり18μlの試薬を調製した。
【0041】
【表3】
【0042】
PCR反応は、Sequence Detector(Gene Amp 7300 Sequence Detection System ; PE Applied Biosystems )にてPCR反応を行い(95℃で30分間保持した後、95℃で5分融解と60℃で31分アニール/伸長を40サイクル)、PCR産物の増幅曲線をリアルタイムで検出し、Sequence Detectionソフトウェアを用いて解析、定量化した。用いたラット IL-9のプライマー及びプローブを以下に示す。
【0043】
[ラット IL-9のプライマー及びプローブのセット]
フォワード:5’-GAC GAC CCA TCA TCA AAA TGC-3’(配列番号1)
リバース:5’-CTG TGA CAT TCC CTC CTG GAA-3’ (配列番号2)
プローブ : FAM-TTG TGC CTC CCC ATC CCA TCT GAT-TAMRA(配列番号3)
【0044】
定量的RT-PCRの主な変動の要因であるRNAの純度や逆転写効率の差を補正する内部標準 (internal control)として、細胞の活性化あるいは増殖といった環境条件に伴う発現の変動が理論上なく、常に一定レベルで発現していると考えられるハウスキーピング遺伝子のGAPDH (Glycelaldehyde-3-phosphate dehydrogenase) を用いた。なお、ラットGAPDHのプライマー及びプローブは市販の製品 (Applied Biosystems : TaqMan Rodent GAPDH control reagents) を用いた。また。定量法としてはmRNA発現量の相対値を求めるRelative Standard Curve Method (Separate Tubes) を用いた。
【0045】
(2-5) 統計処理
実験データは、平均±SEMで示した。また、GraphPad Prism software (GraphPad Software INC., La Jolla, CA, USA)を用いて、One-way ANOVA及びDunnet's multiple comparison testにより統計処理を行った。P<0.05を有意とした。
【0046】
2.試験結果
図1にレンコン各部位の抽出物のIL-9 mRNA発現抑制作用試験の結果を示す。
図1に示されるように、節部抽出物には明確にIL-9 mRNA発現抑制作用が認められたが、葉、種子、可食部には確認できなかった。
【0047】
(実施例2)レンコン抽出物のIL-9 mRNA発現抑制作用の評価(節部と可食部の比較)
徳島県で採取された備中種レンコンの節部と可食部について、実施例1と同様にして抽出を行い、抽出物のIL-9mRNA発現抑制活性を測定した。
図2Aに示すように、節と、節の近傍部分(節の端から1cmまでの部分)では有意にIL-9 mRNA発現抑制活性が認められた。また、IL-9 mRNA発現抑制活性が認められた節と、節の近傍部分(節の端から1cmまでの部分)の抽出物について濃度を変えて同様に試験を行ったところ、濃度依存的に抑制活性が増加したが、抑制活性が認められなかった節から1〜2cmの可食部では濃度を上げても抑制活性が認められなかった(
図2B)。
【0048】
(実施例3)レンコン抽出物の鼻過敏症症状の抑制作用の評価
1.試験方法
(1) レンコン抽出物の粉末の調製
徳島県で採取された備中種のレンコン節部(本実施例では節を使用)40gに蒸留水500 mlを加え30分間煮た。この煮汁を50 ml遠心管に分注し、3000gで10分間遠心分離を行った。この遠心処理後の上清をろ過し、ろ液を凍結乾燥により粉末化してレンコン抽出物の粉末を調製し、この一部について実施例1と同様にIL-9 mRNA発現抑制作用試験(50%発現阻害濃度の確認試験)に用いた。
【0049】
(2) TDI感作鼻過敏症モデルラット試験
(2-1) TDIによるラット感作
(1)で調製したレンコン節部抽出物の抗アレルギー作用についてTDI感作鼻過敏症モデルラットを用いて評価した。
6週齢Brown-Norway系雄性ラット(200 g、SLC, Hamamatsu, Japan)を使用した。動物は22±1℃の室温で12時間毎の昼夜サイクルで飼育した。TDI(トルエン2,4-ジイソシアン酸)によるラットの感作は、Kitamuraらの方法(Acta Otolaryngol. 2004, 124, 1053-1058)の変法を用いた。すなわち、Brown- Norway系雄性ラットの両側鼻前庭に極細耳鼻用綿棒を用い、10μlの10% TDI-酢酸エチル溶液を連日5日間×2回塗布した(TDI感作)。その後1週間無処置期間をおいた上で10% TDI溶液の鼻前庭塗布にて発作を誘発した。
図3にTDI感作鼻過敏症モデルラットの作成スケジュールを示す。
【0050】
また、症状の観察及び試験結果の比較のため、上記のTDIによる感作と発作誘発と同スケジュールで、TDIに代えて酢酸エチル溶液を塗布した試験区を陰性対照とした。また、上記のTDIによる感作と発作誘発を行うが、薬剤を投与しない試験区を陽性対照とした。TDI感作鼻過敏症モデルラットには、その作製過程の間に、薬剤として、エピナスチン(エピナスチン塩酸塩、シグマ社製)24 mg/kg、レンコン節部抽出物40 mg/kg、またはエピナスチン24 mg/kgとレンコン節部抽出物40 mg/kgを、1日1回、3週間連続で経口投与した。
【0051】
(2-2) 鼻過敏症のアレルギー症状評価方法
鼻過敏症のアレルギー症状として、「水溶性鼻漏」、「鼻の腫れ及び発赤」については下記表4に示す指標により評価しスコア化した。
【0052】
【表4】
【0053】
2.試験結果
図4にレンコン節部抽出物のIL-9 mRNA発現抑制作用試験の結果を示した。レンコン節部抽出物のIL-9 mRNA発現抑制作用の50%発現阻害濃度は27.4μg/mlであった。また、
図5に同レンコン節部抽出物の鼻過敏症のアレルギー症状の評価結果を示す。
図5に示されるように、レンコン節部抽出物は、抗アレルギー薬として使用されているエピナスチンと混合して併用投与すると、有意に鼻過敏症モデルラットの鼻症状(水溶性鼻漏、鼻の腫れ及び発赤)を抑制し、非常に強い相乗効果があることが確認された。