(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記配向多結晶焼結体および前記13族元素窒化物膜を還元雰囲気下に加熱することによって、前記13族元素窒化物膜の一部を昇華によって消失させ、前記バッファ層を設けるとともに前記バッファ層の間に前記配向多結晶焼結体の前記表面を露出させることを特徴とする、請求項2記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明を更に説明する。
最初に、配向多結晶焼結体上に育成される13族元素窒化物結晶層の状態について、典型例を説明する。
【0016】
図1(a)に模式的に示すように、配向多結晶焼結体1は、多数の単結晶粒子3からなっており、隣接する単結晶粒子3間には粒界5がある。配向多結晶焼結体においては、単結晶粒子3の結晶方位がランダムではなく、ある程度は特定方向に向かって揃っている。すなわち、
図1(a)に示すように、各単結晶粒子3の結晶方位Aはある程度揃っている。また、好ましくは、単結晶粒子3は、配向多結晶焼結体の第一の主面1aと第二の主面1bとの間に延びている。本例では第一の主面1aを結晶育成面としている。
【0017】
次いで、配向多結晶焼結体1の育成面1a上に13族元素窒化物結晶層2をエピタキシャル成長させる。すなわち、配向多結晶焼結体の結晶方位に概ね倣った結晶方位を有するように、13族元素窒化物結晶層2が育成される。2bは、結晶層2の成長開始面であり、2aは結晶層2の表面である。結晶層2は、多数の単結晶粒子4からなっており、隣接する単結晶粒子4間には粒界6がある。結晶層2においては、単結晶粒子4の結晶方位Bがランダムではなく、下地となる配向多結晶焼結体を構成する各単結晶粒子3の方位Aに概ね倣っている。
【0018】
ただし、
図1(a)に示す横断面では、13族元素窒化物結晶2を構成する各単結晶粒子4の結晶方位Bは揃っているが、単結晶粒子4の他の結晶方位については揃っている必要はない。すなわち、
図1(b)に示すように、各単結晶粒子4を平面的に(育成方向に向かって平行な方向から)見た場合には、結晶方位C、Dはランダムになっており特には配向性はない。ただし、平面的に見た場合に単結晶粒子4の結晶方位に配向性を付与することも可能である。
【0019】
ここで、配向多結晶アルミナ焼結体の平均傾斜角をある程度以上低くするためには、製造コストが上昇するおそれがある。また、配向多結晶焼結体の傾斜角には、製造条件によるバラツキも生ずる。例えば、
図2(a)に示す例では、配向多結晶焼結体11を構成する多数の単結晶粒子13、14の傾斜角にはバラツキがある。例えば、傾斜角の相対的に大きな単結晶粒子13と相対的に小さい単結晶粒子14とがともに配列されているものとする。矢印D、Eは、それぞれ、各単結晶粒子を構成する単結晶の結晶方位である。11bは底面である。
【0020】
こうした配向多結晶焼結体11上に種結晶層を育成し、その上に更に13族元素窒化物結晶を育成した場合には、13族元素窒化物結晶の傾斜角が下地の配向多結晶焼結体の傾斜角αを引き継ぐため、平均傾斜角を低くすることが難しく、また傾斜角にバラツキが生じやすかった。
【0021】
これに対して、本発明実施例においては、例えば
図3(b)に示すように、配向多結晶焼結体11上に、13族元素窒化物膜15、16を形成する。この際、各単結晶粒子13の表面13a、単結晶粒子14の表面14a上に13族元素窒化物膜が形成されるのであるが、単結晶粒子の傾斜角によって13族元素窒化物膜15、16の厚さが変化する。すなわち、傾斜角αの相対的に大きい単結晶粒子13上では13族元素窒化物膜15が薄くなり、傾斜角αの相対的に小さい単結晶粒子14上では、膜16が膜15よりも厚くなる。
【0022】
ここで、
図2(b)の積層体を、還元雰囲気下で加熱すると、13族元素窒化物膜15、16が各表面から順に昇華する。ここで、13族元素窒化物膜15が昇華によって消失するようにするとともに、13族元素窒化物膜16が残るようにする。すると、
図3(a)に示すように、単結晶粒子14上にはバッファ層16が残留し、単結晶粒子13の表面13aは、バッファ層16の間から露出する。
【0023】
この状態でバッファ層16上に種結晶層を成膜する。これによって、
図3(b)に示すように、膜16上に種結晶層17が成膜され、種結晶層17の間の凹部23には、単結晶粒子13の表面13aが露出する。
【0024】
次いで、
図4(a)に示すように、種結晶層17上に13族元素窒化物結晶19を育成する。この際、傾斜角の相対的に大きい単結晶粒子13の表面13aが露出していることから、単結晶粒子13上には13族元素窒化物結晶19が育成されず、空隙18が生成する。一方、種結晶層17上には13族元素窒化物が成長し、やがて水平方向に向かって成長して層状に連結され、13族元素窒化物結晶19を生成する。この13族元素窒化物結晶19は、多数の水平方向につながった単結晶粒子21からなる。20は粒界である。
【0025】
この際、種結晶層17の傾斜角は、単結晶粒子14の傾斜角を引き継ぐので、種結晶層17の傾斜角は単結晶粒子14の傾斜角に近くなる。そして、13族元素窒化物結晶の各単結晶粒子21の傾斜角も、種結晶層17の傾斜角を引き継ぐので、これらの傾斜角は互いに近くなる。この結果として、13族元素窒化物結晶の各単結晶粒子21の平均傾斜角は、配向多結晶焼結体11の単結晶粒子13、14のうち、傾斜角の小さい単結晶粒子14の傾斜角を引き継ぐことになる。すなわち、13族元素窒化物結晶19における単結晶粒子の方位Fは、配向多結晶焼結体11における単結晶粒子の方位Eを引き継ぐ。この結果として、13族元素窒化物結晶19を構成する各単結晶粒子21の平均傾斜角は、配向多結晶焼結体11の平均傾斜角に比べて低減することができる。
【0026】
次いで、
図4(b)に示すように、13族元素窒化物結晶19を配向多結晶焼結体11から分離することによって、13族元素窒化物結晶の自立基板を得ることが可能である。
【0027】
以下、本発明の各構成要素について更に述べる。
(配向多結晶焼結体)
下地基板として用いる配向多結晶焼結体は、育成面および底面を有している。そして、配向多結晶焼結体の表面の平均傾斜角は、ボイドを形成すると言う観点から、1°〜20°が好ましく、3°〜12°が更に好ましい。
【0028】
ただし、傾斜角とは、対象とする表面を電子線後方散乱回折法(EBSD法)によって測定した各単結晶粒子の結晶方位D、EおよびFの、特定結晶方位Lからの角度を意味する。これは、
図4(b)に示した結晶方位Dを有する単結晶粒子の場合ではαを指す。なお、特定結晶方位Lとは、通常、配向多結晶焼結体11の表面に対する法線である。また、平均傾斜角とは、対象とする表面をEBSD法によって測定した各単結晶粒子の結晶方位DおよびEの、特定結晶方位Lからの傾斜角の平均値や、各単結晶粒子の結晶方位Fの、特定結晶方位Lからの傾斜角の平均値を意味する。
【0029】
配向多結晶焼結体の厚さは、250μm以上、2mm以下とすることが好ましい。この厚さを250μm以上とすることによって、製造時の取り扱いが容易になる。また、この観点からは、配向多結晶焼結体の厚さを300μm以上とすることが更に好ましい。
【0030】
配向多結晶焼結体の材質は、特に限定されないが、配向多結晶アルミナ、配向多結晶酸化亜鉛、または配向多結晶窒化アルミニウムが好ましい。
【0031】
配向多結晶焼結体は、多数の単結晶粒子を含んで構成される焼結体からなり、多数の単結晶粒子が一定の方向にある程度又は高度に配向したものである。このように配向された多結晶焼結体を用いることで、略法線方向に概ね揃った結晶方位を有する13族元素窒化物結晶の自立基板を作製可能である。
【0032】
配向多結晶焼結体を得る製法としては、大気炉、窒素雰囲気炉、水素雰囲気炉等を用いた通常の常圧焼結法に加え、熱間等方圧加圧法(HIP)、ホットプレス法(HP)、放電プラズマ焼結(SPS)等の加圧焼結法、及びこれらを組み合わせた方法を用いることができる。
【0033】
配向多結晶焼結体を構成する単結晶粒子の焼結体表面における平均粒径は、0.3〜1000μmであるのが好ましく、より好ましくは3〜1000μm、さらに好ましくは10μm〜200μm、特に好ましくは14μm〜200μmである。
【0034】
なお、焼結体粒子の板面における平均粒子径は、EBSD法を用いて、解析ソフトにより測定される。解析ソフトには、OIM Data Analysisを用いた。
【0035】
配向多結晶焼結体の配向面は特に限定がなく、c面、a面、r面又はm面等であってもよい。
【0036】
配向多結晶焼結体の焼結助剤として、MgO、ZrO
2、Y
2O
3、CaO、SiO
2、TiO
2、Fe
2O
3、Mn
2O
3、La
2O
3等の酸化物、AlF
3、MgF
2、YbF
3等のフッ化物などから選ばれる少なくとも1種以上が挙げられる。透光性の観点では添加物の量は必要最小限に留めるべきであり、好ましくは5000ppm以下、より好ましくは1000ppm以下、さらに好ましくは700ppm以下である。
配向多結晶焼結体は、砥石で研削して表面を平坦にした後、ダイヤモンド砥粒を用いたラップ加工により表面を平滑化するのが好ましい。
【0037】
(種結晶層)
本発明では、13族元素窒化物からなり、結晶育成面を有する種結晶層を設けるとともに、結晶育成面から凹んだ凹部を設ける。この際、凹部から配向多結晶焼結体の表面が露出するようにする。例えば、
図3の例では、種結晶層17に結晶育成面17aが設けられており、種結晶層17の間に凹部23が設けられている。そして、凹部から配向多結晶焼結体11の表面11aが露出している。
【0038】
好適な実施形態においては、例えば
図2、
図3に示すように、配向多結晶焼結体11の表面11aに、13族元素窒化物膜15、16を設ける。次いで、配向多結晶焼結体11および膜15、16を還元雰囲気下に加熱することによって、13族元素窒化物膜の一部を昇華によって消失させ、13族元素窒化物からなるバッファ層16を設けるとともに、バッファ層16の間に配向多結晶焼結体11の表面11aが露出させる。次いで、バッファ層16上に種結晶層17を設ける。
【0039】
種結晶層および13族元素窒化物膜を構成する13族元素窒化物は、IUPACで規定する13族元素の窒化物である。具体的には、IUPACで規定する13族元素の一種または二種以上の窒化物である。この13族元素は、好ましくはガリウム、アルミニウム、インジウムである。また、13族元素窒化物結晶は、具体的には、GaN、AlN、InN、Ga
xAl
1−xN(1>x>0)、Ga
xIn
1−xN(1>x>0)、Ga
xAl
yInN
1―x−y(1>x>0、1>y>0)が好ましい。
【0040】
凹部と種結晶層との各平面的パターンは特に限定されない。還元性雰囲気下での加熱によって、13族元素窒化物膜の一部を昇華によって消失させる13族元素窒化物結晶においては、これらの平面的パターンは、配向多結晶焼結体の表面における単結晶粒子の傾斜角の分布に依存するので、比較的ランダムになる。
【0041】
配向多結晶焼結体上に13族元素窒化物膜をMOCVD法によって形成する場合、13族元素窒化物膜の材質としてGaN、AlN、GaAlNを用いる場合は、成膜温度を500〜600℃とすることが好ましく、InGaNを用いる場合には、500〜750℃とすることが好ましい。これによって、傾斜角が大きい単結晶粒子上では、傾斜角の小さい単結晶粒子上よりも、13族元素窒化物膜の膜厚が薄くなり易い。ゆえに、この後に還元性雰囲気下での加熱によって13族元素窒化物膜の一部(薄い部分)を昇華によって消失させることが容易になる。
【0042】
好適な実施形態においては、13族元素窒化物膜の材質としてInGaNを用いる。この場合には、傾斜角が大きい単結晶粒子上ほど、エピタキシャル成長時の13族元素窒化物膜中へのIn原子の取込み量が低下する特性がある。この結果、13族元素窒化物膜を構成する窒化物中での13族元素( Ga原子とIn原子) の総量が少なくなり、結果として13族元素窒化物膜の厚さが薄くかつIn組成が低いInGaN層の形成が促進される。
【0043】
13族元素窒化物膜の材質としてGaNを用いる場合、形成温度は500 ℃〜550 ℃とし、水素雰囲気で形成するのが特に好ましい。また、13族元素窒化物膜の厚さは、サファイア基板上に形成する際の厚さに換算して、4nm 〜8nm となるように設定することが望ましい。
なお、配向多結晶焼結体上の種結晶膜、13族元素窒化物膜の膜厚は、配向多結晶焼結体を構成する単結晶粒子ごとに膜厚が異なるため、サファイア基板上に同じ成膜条件にて作製したときの膜厚を「設計膜厚」としている。
【0044】
13族元素窒化物膜の材質としてAlNを用いる場合、形成温度は550 ℃〜650 ℃とし、水素雰囲気で形成するのが望ましい。また、13族元素窒化物膜の厚さは、サファイア基板上に形成する際の厚さに換算して、4nm 〜8nm となるように設定することが望ましい。
【0045】
13族元素窒化物膜の材質としてInGaNを用いる場合、形成温度は500 ℃〜750 ℃とし、窒素雰囲気で形成するのが望ましい。また、13族元素窒化物膜の厚さは、サファイア基板上に形成する際の厚さに換算して、8nm 〜20nmとなるように設定することが特に好ましい。
【0046】
配向多結晶焼結体のうち傾斜角の相対的に大きいアルミナ単結晶粒子上の13族元素窒化物膜を効率的に昇華させるためには、還元性雰囲気下で加熱することが好ましい。こうした還元性雰囲気は、水素含有雰囲気が好ましく、窒素ガスなどの不活性ガスも含有していて良い。
【0047】
好適な実施形態においては、13族元素の原料(トリメチルガリウム、トリメチルアルミニウム、トリメチルインジウムなど)とアンモニアガスを用いて13族元素窒化物膜を形成した後、13族元素原料の供給を停止するとともにアンモニアガス、窒素ガスの供給も停止し、いったん水素ガス雰囲気のみにする。次いで、温度を種結晶膜の成膜温度にまで上昇させた後、種結晶膜を成膜する前に、水素ガス雰囲気下で基板を保持して13族元素窒化物膜の一部を昇華させることが好ましい。この昇華時の温度は、材質によるが、
1000〜1200℃が好ましく、1050〜1150℃が更に好ましい。また、この昇華工程の時間は、5〜60分間が好ましい。
【0048】
種結晶層の作製方法は特に限定されないが、MOCVD(有機金属化学気相成長法)、MBE(分子線エピタキシー法)、HVPE(ハライド気相成長法)、スパッタリング等の気相法、Naフラックス法、アモノサーマル法、水熱法、ゾルゲル法等の液相法、粉末の固相成長を利用した粉末法、及びこれらの組み合わせが好ましく例示される。
【0049】
(13族元素窒化物結晶の育成)
次いで、種結晶層上に13族元素窒化物結晶層を形成する。この13族元素窒化物結晶層は、配向多結晶焼結体の結晶方位に概ね倣った結晶方位を有するように形成する。13族元素窒化物結晶層の形成方法は、配向多結晶焼結体の結晶方位に概ね倣った結晶方位を有する限り特に限定がなく、MOCVD、HVPE等の気相法、Naフラックス法、アモノサーマル法、水熱法、ゾルゲル法等の液相法、粉末の固相成長を利用した粉末法、及びこれらの組み合わせが好ましく例示されるが、Naフラックス法により行われるのが特に好ましい。
【0050】
Naフラックス法による13族元素窒化物結晶の形成は、種結晶基板を設置した坩堝に13族金属、金属Na及び所望によりドーパント(例えばゲルマニウム(Ge)、シリコン(Si)、酸素(O)等のn型ドーパント、又はベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)等のp型ドーパント)を含む融液組成物を充填し、窒素雰囲気中で830〜910℃、3.5〜4.5MPaまで昇温加圧した後、温度及び圧力を保持しつつ回転することにより行うのが好ましい。保持時間は目的の膜厚によって異なるが、10〜100時間程度としてもよい。
【0051】
また、こうしてNaフラックス法により得られたGaN多結晶を砥石で研削して表面を平坦にした後、ダイヤモンド砥粒を用いたラップ加工により表面を平滑化するのが好ましい。
【0052】
13族元素窒化物結晶を構成する窒化物は、IUPACで規定する13族元素の一種または二種以上の窒化物である。この13族元素は、好ましくはガリウム、アルミニウム、インジウムである。また、13族元素窒化物結晶は、具体的には、GaN、AlN、InN、Ga
xAl
1−xN(1>x>0)、Ga
xIn
1−xN(1>x>0)、Ga
xAl
yInN
1―x−y(1>x>0、1>y>0)が好ましい。
【0053】
13族元素窒化物結晶層は、ドーパントを含まないものであってもよい。あるいは、13族元素窒化物結晶層は、n型ドーパント又はp型ドーパントでドープされていてもよい。p型ドーパントの好ましい例としては、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、亜鉛(Zn)及びカドミウム(Cd)からなる群から選択される1種以上が挙げられる。n型ドーパントの好ましい例としては、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)及び酸素(O)からなる群から選択される1種以上が挙げられる。
【0054】
好適な実施形態においては、13族元素窒化物結晶の表面における平均傾斜角が、配向多結晶焼結体の表面における平均傾斜角よりも低減したものとなる。この平均傾斜角は、前述の配向多結晶焼結体の場合と同様にEBSD法により測定するものである。
【0055】
本発明によれば、配向多結晶焼結体上に、この配向多結晶焼結体の表面の平均傾斜角よりも平均傾斜角が低減した13族元素窒化物結晶を育成することが可能である。こうして得られた13族元素窒化物結晶は、配向多結晶焼結体と一体化された形で使用できる。しかし、好適な実施形態においては、13族元素窒化物結晶を配向多結晶焼結体から分離することによって、13族元素窒化物結晶を含む自立基板を得ることができる。
【0056】
(13族元素窒化物結晶の配向多結晶焼結体からの分離)
本発明方法では、13族元素窒化物結晶を育成した後の降温時に、熱膨張係数差による応力発生による自然剥離を生じさせることもでき、この場合にも界面における接合強度が低いことから13族元素窒化物結晶に破損が生じにくい。しかし、一般には自然剥離は生じにくいため、他の分離方法を採用することが好ましい。なぜなら、例えば特許文献2に記載の方法のような、単結晶サファイアや単結晶GaN との界面で作製される数μmサイズのボイドの場合と異なり、配向多結晶焼結体の単結晶粒子程度のサイズのボイドが形成されることから、界面での応力が緩和されるためと考えられる。
【0057】
さらに、特許文献2に記載の方法を、配向多結晶焼結体上に13族元素窒化物結晶を育成する場合に適用しても、平均傾斜角が低減する効果は得られない。
【0058】
この分離方法は特に限定されない。好適な実施形態においては、配向多結晶焼結体側からレーザー光を照射することによって配向多結晶焼結体と13族元素窒化物とを分離する。
【0059】
配向多結晶焼結体は、サファイア基板とは異なり、レーザー光を配向多結晶焼結体側から照射すると配向多結晶焼結体内部の粒界でレーザー光が散乱するため、配向多結晶焼結体と13族元素窒化物結晶との界面にレーザー光を集光できず、高密度にすることができない。このため、界面で13族元素窒化物結晶を均一に分解することが難しく、割れやクラックなどの破損を起こすという問題があった。
【0060】
一方、本発明では、13族元素窒化物結晶と配向多結晶焼結体との界面に空隙が生ずることから接合強度が低くなるため、レーザーリフトオフ法を適用した場合でも、13族元素窒化物結晶の剥離が容易になる。更に、界面での応力が低減できることから、剥離時の割れやクラックを低減することもできる。
【0061】
あるいは、13族元素窒化物結晶層を前記配向多結晶焼結体からケミカルエッチングによって分離することができる。本発明では、配向多結晶焼結体と13族元素窒化物結晶層との界面に空隙18が多数形成されているので、そのボイドを通して界面に沿ってエッチャントが含浸されやすく、ゆえに13族元素窒化物結晶層の分離を促進できる。
【0062】
ケミカルエッチングを行う際のエッチャントとしては、硫酸、塩酸等の強酸、もしくは水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等の強アルカリが好ましい。また、ケミカルエッチングを行う際の温度は、70℃以上が好ましい。
【0063】
(自立基板)
13族元素窒化物結晶を配向多結晶焼結体から分離することで、自立基板を得ることができる。本発明において「自立基板」とは、取り扱う際に自重で変形又は破損せず、固形物として取り扱うことのでき、多数の13族元素窒化物単結晶粒子で構成される基板を意味する。すなわち、自立基板は、水平面方向に二次元的に連結されてなる多数の単結晶粒子で構成されており、それ故、略法線方向には単結晶構造を有することになる。したがって、自立基板は、全体としては単結晶ではないものの、局所的なドメイン単位では単結晶構造を有するため、発光機能等のデバイス特性を確保するのに十分な高い結晶性を有することができる。そうでありながら、本発明の自立基板は単結晶基板ではない。
【0064】
好ましくは、自立基板を構成する多数の単結晶粒子は、略法線方向に概ね揃った結晶方位を有する。「略法線方向に概ね揃った結晶方位」とは、必ずしも法線方向に完全に揃った結晶方位とは限らず、自立基板を用いたデバイスが所望のデバイス特性を確保できるかぎり、法線ないしそれに類する方向にある程度揃った結晶方位であってよいことを意味する。製法由来の表現をすれば、13族元素窒化物単結晶粒子は、配向多結晶焼結体の結晶方位に概ね倣って成長した構造を有する。「配向多結晶焼結体の結晶方位に概ね倣って成長した構造」とは、配向多結晶焼結体の結晶方位の影響を受けた結晶成長によりもたらされた構造を意味し、必ずしも配向多結晶焼結体の結晶方位に完全に倣って成長した構造であるとは限らず、自立基板を用いた発光素子等のデバイスが所望のデバイス特性を確保できるかぎり、配向多結晶焼結体の結晶方位にある程度倣って成長した構造であってよい。すなわち、この構造は配向多結晶焼結体と異なる結晶方位に成長する構造も含む。その意味で、「結晶方位に概ね倣って成長した構造」との表現は「結晶方位に概ね由来して成長した構造」と言い換えることもでき、この言い換え及び上記意味は本明細書中の同種の表現に同様に当てはまる。したがって、そのような結晶成長はエピタキシャル成長によるものが好ましいが、これに限定されず、それに類する様々な結晶成長の形態であってもよい。いずれにしても、このように成長することで、自立基板は略法線方向に関しては結晶方位が概ね揃った構造とすることができる。
【0065】
したがって、本自立基板は、法線方向に見た場合に単結晶と観察され、水平面方向の切断面で見た場合に粒界が観察される柱状構造の単結晶粒子の集合体であると捉えることも可能である。ここで、「柱状構造」とは、典型的な縦長の柱形状のみを意味するのではなく、横長の形状、台形の形状、及び台形を逆さにしたような形状等、種々の形状を包含する意味として定義される。もっとも、上述のとおり、自立基板は法線ないしそれに類する方向にある程度揃った結晶方位を有する構造であればよく、必ずしも厳密な意味で柱状構造である必要はない。柱状構造となる原因は、前述のとおり、配向多結晶焼結体の結晶方位の影響を受けて多数の単結晶粒子が隣接する単結晶粒子と界面を形成しながら会合しつつ、それぞれ成長するためと考えられる。このため、柱状構造ともいえる単結晶単結晶粒子の断面の平均粒径(以下、断面平均径という)は成膜条件だけでなく、配向多結晶焼結体の表面の平均粒径にも依存するものと考えられる。
【0066】
自立基板を構成する多数の単結晶粒子は、略法線方向で特定結晶方位に配向している。特定結晶方位は、13族元素窒化物の有しうるいかなる結晶方位(例えばc面、a面等)であってもよい。例えば、多数の単結晶粒子が略法線方向でc軸に配向している場合、基板表面の各構成粒子はc軸を略法線方向に向けて(すなわちc面を基板表面に露出させて)配置されることとなる。そして、自立基板を構成する多数の単結晶粒子は略法線方向で特定結晶方位に配向しつつも、個々の構成粒子は様々な角度で若干傾斜している。つまり、基板表面は全体として略法線方向に所定の特定結晶方位への配向を呈するが、各単結晶粒子の結晶方位は特定結晶方位から様々な角度で傾斜して分布している。この各単結晶粒子の結晶方位は、前述のとおり、基板表面のEBSD法による測定によって評価することができる。すなわち、各単結晶粒子の結晶方位が特定結晶方位から様々な角度で傾斜して分布している状態をEBSD法により観察可能であり、その平均傾斜角は、0°〜5°であることが好ましい。
【0067】
好ましくは、自立基板の最表面における単結晶粒子の断面平均径は0.3μm以上であり、より好ましくは3μm以上、さらに好ましくは20μm以上、特に好ましくは50μm以上、最も好ましくは70μm以上である。また、自立基板の最表面における単結晶粒子の断面平均径の上限は特に限定されないが、1000μm以下が現実的であり、より現実的には500μm以下であり、さらに現実的には200μm以下である。
【0068】
自立基板は直径50.8mm(2インチ)以上の大きさを有するのが好ましく、より好ましくは直径100mm(4インチ)以上であり、さらに好ましくは直径200mm(8インチ)以上である。
【0069】
本発明の自立基板を用いた発光素子の構造やその作製方法は特に限定されるものではない。典型的には、発光素子は、自立基板に発光機能層を設けることにより作製され、この発光機能層の形成は、自立基板の結晶方位に概ね倣った結晶方位を有するように、略法線方向に単結晶構造を有する多数の半導体単結晶粒子で構成される層を一つ以上形成するのが好ましい。
【0070】
本発明の自立基板は、上述した発光素子のみならず、各種電子デバイス、パワーデバイス、受光素子、太陽電池等の種々の用途に好ましく利用することができる。
【実施例】
【0071】
( 実施例1)
図2〜4を参照しつつ説明した方法に従い、c軸方向に配向したGaNからなる自立基板(配向GaN自立基板)を得た。
(c軸に配向した配向アルミナ焼結体からなる基板の作製)
原料として、板状アルミナ粉末(キンセイマテック株式会社製、グレード00610)を用意した。板状アルミナ粒子100重量部に対し、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM−2、積水化学工業株式会社製)7重量部と、可塑剤(DOP:ジ(2−エチルヘキシル)フタレート、黒金化成株式会社製)3.5重量部と、分散剤(レオドールSP−O30、花王株式会社製)2重量部と、分散媒(2−エチルヘキサノール)を混合した。分散媒の量は、スラリー粘度が20000cPとなるように調整した。上記のようにして調製されたスラリーを、ドクターブレード法によって、PETフィルムの上に、乾燥後の厚さが20μmとなるように、シート状に成形した。得られたテープを直径50.8mm(2インチ)の円形に切断した後150枚積層し、厚さ10mmのAl板の上に載置した後、真空パックを行った。この真空パックを85℃の温水中で、100kgf/cm2の圧力にて静水圧プレスを行い、円盤状の成形体を得た。
【0072】
得られた成形体を脱脂炉中に配置し、600℃で10時間の条件で脱脂を行った。得られた脱脂体を黒鉛製の型を用い、ホットプレスにて窒素中1600℃で4時間、面圧200kgf/cm2の条件で焼成した。得られた焼結体を熱間当方圧加圧法(HIP)にてアルゴン中1700℃で2時間、ガス圧1500kgf/cm2の条件で再度焼成した。
【0073】
このようにして得た焼結体をセラミックスの定盤に固定し、砥石を用いて#2000まで研削して表面を平坦にした。次いで、ダイヤモンド砥粒を用いたラップ加工により、表面を平滑化し、直径50.8mm(2インチ)、厚さ400μmの配向アルミナ焼結体からなる基板1を得た。砥粒のサイズを3μmから0.5μmまで段階的に小さくしつつ、平坦性を高めた。加工後の表面粗さRaは0.5nmであった。
【0074】
(配向アルミナ焼結体からなる基板の評価)
配向アルミナ焼結体からなる基板をEBSD法により測定した。すなわち、電子線後方散乱回折(EBSD)装置(TSLソリューションズ製、OIM)を取り付けたSEM(日本電子製、JSM−7001F)にて配向アルミナ焼結体からなる基板の加工面を500μm×500μmの視野で観察した。このEBSD測定の諸条件は以下のとおりとした。
<EBSD測定条件>
・加速電圧:15kV
・試料傾斜角:70°
・ステップ幅:1.5μm
【0075】
EBSD法による測定結果から、表面構成粒子のc軸の傾斜角の頻度分布、平均傾斜角および平均粒径を計算した。なお、この計算には、解析ソフトOIM Data Analysisを用いた。
【0076】
配向アルミナ焼結体からなる基板を構成する各粒子は概ねc軸が基板の法線方向に配向していた。また、表面を構成する各粒子の傾斜角はガウス分布に近似した頻度分布であり、その平均傾斜角は6°であった。また、平均粒径は40μmが得られた。
【0077】
(13族元素窒化物膜の成膜と昇華)
この配向アルミナ焼結体からなる基板11をMOCVD炉内サセプタに載せ、水素雰囲気中で温度を1200℃まで上げて水素雰囲気中でクリーニング処理を行った後、500℃まで温度を低下させ、水素ガスをキャリアガスとして、TMG(トリメチルガリウム)とアンモニアとを原料とし、13族元素窒化物膜15、16としてGaN層を、設計膜厚8nm相当分形成した。その後、TMGとアンモニアガスの供給を停止し、水素をキャリアガスとして基板温度を1100℃まで上げ、5分間その状態で待機し、13族元素窒化物膜15を昇華によって消失させた。
【0078】
次いで、表面14a上に残留した13族元素窒化物膜16をバッファ層として用い、水素ガスと窒素ガスをキャリアガスとし、TMGとアンモニアとを原料とし、シランガスをドーパントとして、n型GaN層を設計膜厚2μmの厚さ相当形成し、
図3(b)に示す種結晶基板22を作製した。
【0079】
作製した種結晶基板をMOCVD炉から取出し、表面をレーザー顕微鏡で観察したところ、
図5のように平坦基板上に多数の粒子が形成されており、
図5中に示した矢印間にて断面形状を取得した結果、粒子の高さは、約3μm であった。また、種結晶基板の表面をEBSD法を用いて観察しGaNおよびアルミナの相マップを作成したところ、平坦部はGaNが形成されておらず、アルミナが露出したものであり、粒子は島状にGaN層17が形成されたものであることが確認された(
図6)。
【0080】
GaNおよびアルミナ上の各粒子について、EBSD法による測定により平均傾斜角を算出した結果、
図6におけるGaN粒子の平均傾斜角は3°であり、GaN層17の間から露出するアルミナ粒子の平均傾斜角は8°であった。GaN層の形成された箇所では、アルミナ粒子がGaN層に覆われていたため、アルミナ粒子の傾斜角を測定出来なかったが、配向アルミナ基板上にGaN層が成長するときはエピタキシャル成長であり、GaN層の傾斜角はアルミナ粒子の傾斜角とほぼ同じとなることから、平均傾斜角が3°程度のアルミナ粒子上に平均傾斜角3°程度のGaN層が形成されたものと考えられる。この一方、平均傾斜角8°のアルミナ粒子上に成膜された13族元素窒化物膜15は昇華によって消失したものと考えられる。
【0081】
(GaN結晶の育成)
島状のGaN層が設けられた種結晶基板22の上に、GaN結晶19をフラックス法により厚膜成長させた。アルミナ坩堝に20gの金属Gaと、40gの金属Naとを充填する。さらに、このアルミナ坩堝を耐熱金属製の育成容器に入れて密閉する。炉内温度を850℃とし、窒素ガスを導入して炉内圧力を4MPaとした。耐熱・耐圧の結晶育成炉内において、該育成容器を、水平回転させながら20時間保持することによって、種結晶基板22上にGaN結晶19を約500μmの厚みに成長させた。室温まで冷却した後、アルミナ坩堝内からGaN結晶が成長した基板を取り出した。
【0082】
取り出した厚膜GaN結晶の表面および裏面(剥離面)を、ダイヤモンド砥粒を用いて研磨することで平坦化し、300μmの厚みとなるようにし、レーザーリフトオフ法により配向アルミナ基板と厚膜GaN結晶を分離することにより、配向GaN自立基板を得た。自立基板にはクラックや割れは見られなかった。また、自立基板の表面をEBSD法により測定したところ、平均傾斜角は3°、断面平均径は80μmが得られた。
【0083】
( 実施例2)
実施例1におけるGaNからなる13族元素窒化物膜15、16の設計膜厚を4nmに変更した。これ以外は実施例1と同様にして種結晶基板22を作製した。
【0084】
得られた種結晶基板の表面をレーザー顕微鏡により観察したところ、
図7のように平坦基板上に多数の粒子が形成されており、
図7中に示した矢印間にて断面形状を取得した結果、粒子の高さは約6μm であった。また、種結晶基板の表面をEBSD法を用いて観察しGaNおよびアルミナの相マップを作成したところ、平坦部にはGaNが形成されておらずアルミナ粒子が露出しており、粒子は島状にGaN層17が形成されたものであることが確認された(
図8)。
【0085】
次いで、実施例1と同様の手法にて、フラックス法により、配向GaN自立基板を300μm厚に作製したところ、自立基板に割れやクラックは見られなかった。自立基板の表面をEBSD法により測定したところ、平均傾斜角は2°、断面平均径は120μmが得られた。
【0086】
( 実施例3)
実施例1における13族元素窒化物膜15、16をInGaNによって形成した。
配向アルミナ焼結体からなる基板には、直径2インチ、厚さ400μm、表面粗さRa0.5nm、平均傾斜角6°、平均粒径40μmの基板を用意した。
この配向アルミナ焼結体からなる基板をMOCVD炉内サセプタに載せ、水素雰囲気中で基板温度を1200℃まで上げて水素雰囲気中でクリーニング処理を行った後、700℃まで温度を低下させ、窒素ガスをキャリアガスとし、TMGとTMI(トリメチルインジウム)とアンモニアとを原料として、13族元素窒化物膜15、16としてInGaN層を設計膜厚で10nm形成した。その後、水素をキャリアガスとして基板温度を1100℃まで上げ、15分その状態で待機し、InGaNからなる13族元素窒化物膜15を昇華によって消失させた。次いで、表面14a上に残留したInGaN層を13族元素窒化物膜16として用い、TMGとアンモニアとを原料としシランガスをドーパントにしてn型GaN層を2 μmの厚さに成長させ、種結晶基板22を作製した。
【0087】
得られた種結晶基板22を用い、実施例1と同様の手法により配向GaN自立基板を作製した。その表面の平均傾斜角は2°であった。また、自立基板に割れやクラックは見られなかった。
【0088】
このように、本発明により、配向GaN自立基板の平均傾斜角を低減することが可能となり、その上にLED構造を形成したときに発光スペクトルの波長半値幅を低減することができる。