特許第6639324号(P6639324)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6639324ベルト効率最大点検出装置、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6639324
(24)【登録日】2020年1月7日
(45)【発行日】2020年2月5日
(54)【発明の名称】ベルト効率最大点検出装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   F16H 9/12 20060101AFI20200127BHJP
   F16H 59/42 20060101ALI20200127BHJP
   F16H 61/02 20060101ALI20200127BHJP
   F16H 61/662 20060101ALI20200127BHJP
【FI】
   F16H9/12 B
   F16H59/42
   F16H61/02
   F16H61/662
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-97962(P2016-97962)
(22)【出願日】2016年5月16日
(65)【公開番号】特開2017-207093(P2017-207093A)
(43)【公開日】2017年11月24日
【審査請求日】2018年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】山口 裕之
(72)【発明者】
【氏名】長沢 裕二
(72)【発明者】
【氏名】服部 治博
(72)【発明者】
【氏名】二宮 啓輔
(72)【発明者】
【氏名】播磨 和典
【審査官】 岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/104954(WO,A1)
【文献】 特開2009−243683(JP,A)
【文献】 特表2010−533269(JP,A)
【文献】 特開昭58−214054(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 9/12
F16H 59/42
F16H 61/02
F16H 61/662
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力側プーリと、出力側プーリと、前記入力側プーリ及び前記出力側プーリに掛けられたベルトとを有する無段変速機のベルト効率の最大点を検出するために前記ベルトの挟圧力を低減させるベルト効率最大点検出装置であって、
前記入力側プーリの回転速度である入力回転速度を検出する入力回転速度検出手段と、
予め求められた着目周波数に対応する周波数における、前記入力回転速度検出手段で検出された入力回転速度の振動成分の周波数シフトに応じて、前記ベルトのベルト摩擦係数μが飽和しているか否かを判定するベルトμ飽和判定手段と、
を含むベルト効率最大点検出装置。
【請求項2】
前記出力側プーリの回転速度である出力回転速度を検出する出力回転速度検出手段を更に含み、
前記ベルトμ飽和判定手段は、前記入力回転速度検出手段で検出された入力回転速度と前記出力回転速度検出手段で検出された出力回転速度とに基づいて減速比を算出し、前記算出した減速比に基づいて、ドライブシャフト捩じれ振動周波数を着目周波数として算出し、前記着目周波数に対応する周波数における、前記入力回転速度の振動成分の周波数シフトに応じて、前記ベルトのベルト摩擦係数μが飽和しているか否かを判定する請求項1に記載のベルト効率最大点検出装置。
【請求項3】
前記ベルトμ飽和判定手段は、前記着目周波数に対応する周波数において、前記入力回転速度検出手段で検出された入力回転速度の振動成分の振動周期を計測周期ごとに記録し、計測周期ごとに、前記記録された振動周期の統計値を算出し、前記算出された振動周期の統計値と、前記入力回転速度の振動成分の振動周期とを比較して、前記算出された振動周期の統計値に対して、前記入力回転速度の振動成分の振動周期が大きくなった場合に、前記ベルトのベルト摩擦係数μが飽和していると判定する請求項1又は請求項2に記載のベルト効率最大点検出装置。
【請求項4】
前記ベルトμ飽和判定手段は、前記着目周波数に対応する周波数において、前記入力回転速度の振動成分の振動周期と、前記出力回転速度の振動成分の振動周期とを計測して、前記出力回転速度の振動成分の振動周期より、前記入力回転速度の振動成分の振動周期が大きい場合に、前記ベルトのベルト摩擦係数μが飽和していると判定する請求項2に記載のベルト効率最大点検出装置。
【請求項5】
前記ベルトμ飽和判定手段は、前記入力回転速度検出手段で検出された入力回転速度の振動成分に対してフーリエ変換を行った結果に基づいて、前記着目周波数に対応する周波数における、前記入力回転速度の振動成分の周波数成分がピークとなる周波数を計測周期ごとに記録し、計測周期ごとに、前記記録された前記ピークとなる周波数の統計値を算出し、前記算出された前記ピークとなる周波数の統計値と、前記入力回転速度の振動成分の周波数成分がピークとなる周波数とを比較して、前記入力回転速度の振動成分の周波数成分がピークとなる周波数が、前記算出された前記ピークとなる周波数の統計値より低い場合に、前記ベルトのベルト摩擦係数μが飽和していると判定する請求項2に記載のベルト効率最大点検出装置。
【請求項6】
前記ベルトμ飽和判定手段は、前記入力回転速度検出手段で検出された入力回転速度の振動成分に対してフーリエ変換を行った結果と前記出力回転速度検出手段で検出された出力回転速度の振動成分に対してフーリエ変換を行った結果とに基づいて、前記着目周波数に対応する周波数における、前記入力回転速度の振動成分の周波数成分がピークとなる周波数と、前記出力回転速度の振動成分の周波数成分がピークとなる周波数とを比較して、前記入力回転速度の振動成分の周波数成分がピークとなる周波数が、前記出力回転速度の振動成分の周波数成分がピークとなる周波数より低い場合に、前記ベルトのベルト摩擦係数μが飽和していると判定する請求項2に記載のベルト効率最大点検出装置。
【請求項7】
前記ベルトの狭圧力を漸近的に低減させ、前記ベルトのベルト摩擦係数μが飽和していると判定された場合に、前記ベルトの狭圧力の低減を停止するように制御する狭圧力制御手段を更に含む、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のベルト効率最大点検出装置。
【請求項8】
入力側プーリと、出力側プーリと、前記入力側プーリ及び前記出力側プーリに掛けられたベルトとを有する無段変速機のベルト効率の最大点を検出するために前記ベルトの挟圧力を低減させるベルト効率最大点検出装置を制御するためのプログラムであって、
コンピュータを、前記入力側プーリの回転速度である入力回転速度を検出する入力回転速度検出手段、及び
予め求められた着目周波数に対応する周波数における、前記入力回転速度検出手段で検出された入力回転速度の振動成分の周波数シフトに応じて、前記ベルトのベルト摩擦係数μが飽和しているか否かを判定するベルトμ飽和判定手段、
として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト効率最大点検出装置に係り、特に、無段変速機(CVT)のベルト効率最大点を検出するためのベルト効率最大点検出装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ベルト−プーリ間のベルト滑り速度に対する摩擦係数μが飽和する点に着目し、滑り速度に対するベルト摩擦係数μ(以下ベルトμと記載する)の接線勾配(ベルトμ勾配)を検出し、そのμ勾配が0近傍となった時にベルト効率最大点を検出する技術が知られている。
【0003】
また、エンジン(以下EGと記載する)駆動トルクについて、入力軸要素が有する任意の変動成分(振動成分)に基づいてトルク比を算出することにより、μ勾配を検出する技術が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1には、駆動源の駆動力が入力される入力軸要素と、駆動力が変速して出力される出力軸要素と、入力軸要素が有する任意の振動成分の出力軸要素への伝達特性に基づきμ勾配の最大点を検出する装置が記載されている。特許文献1の装置における検出は変動成分の振幅差あるいは入出力回転速度振動の位相差に基づいて行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2011/104954号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の技術では、入出力回転速度振動の位相差に着目してμ勾配の最大点を検出しているものの、入回転速度振動及び出力回転振動の周波数がベルトμに対応して変化する点には着目していなかった。
【0007】
また特許文献1の技術では、EG駆動トルクにおける入力軸要素が有する任意の変動成分という上記記述より、EG爆発変動周波数を対象としていると推察される。EG爆発変動周波数は、例えば4気筒EG、Ne=1000rpmで33Hzとなる。この場合、同従来法を実現するためには、信号サンプリング周波数はナイキスト周波数で66Hz、十分な精度で波形再現性を考慮すると10倍の330Hzが必要となり、高サンプリング周期が要求される。この場合、サンプリング周期は3msとなり、1/330秒程度でサンプリングする必要が生じる。また、EG高回転時には、さらに高サンプリング周期が要求されることとなり現状の市販車では、サンプリングが実現困難であるという問題があった。
【0008】
本発明は、上記事情を鑑みて成されたものであり、ベルト摩擦係数μの飽和を精度よく判定して、ベルト効率を向上させることができるベルト効率最大点検出装置、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、第1の発明に係るベルト効率最大点検出装置は、入力側プーリと、出力側プーリと、前記入力側プーリ及び前記出力側プーリに掛けられたベルトとを有する無段変速機のベルト伝達効率を最大化するために前記ベルトの挟圧力を低減させるベルト効率最大点検出装置であって、前記入力側プーリの回転速度である入力回転速度を検出する入力回転速度検出手段と、予め求められた着目周波数に対応する周波数における、前記入力回転速度検出手段で検出された入力回転速度の振動成分の周波数シフトに応じて、前記ベルトのベルト摩擦係数μが飽和しているか否かを判定するベルトμ飽和判定手段と、を含んで構成されている。
【0010】
また、第1の発明に係るベルト効率最大点検出装置において、前記出力側プーリの回転速度である出力回転速度を検出する出力回転速度検出手段を更に含み、前記ベルトμ飽和判定手段は、前記入力回転速度検出手段で検出された入力回転速度と前記出力回転速度検出手段で検出された出力回転速度とに基づいて減速比を算出し、前記算出した減速比に基づいて、ドライブシャフト捩じれ振動周波数を着目周波数として算出し、前記着目周波数に対応する周波数における、前記入力回転速度の振動成分の周波数シフトに応じて、前記ベルトのベルト摩擦係数μが飽和しているか否かを判定するようにしてもよい。
【0011】
また、第1の発明に係るベルト効率最大点検出装置において、前記ベルトμ飽和判定手段は、前記着目周波数に対応する周波数において、前記入力回転速度検出手段で検出された入力回転速度の振動成分の振動周期を計測周期ごとに記録し、計測周期ごとに、前記記録された振動周期の統計値を算出し、前記算出された振動周期の統計値と、前記入力回転速度の振動成分の振動周期とを比較して、前記算出された振動周期の統計値に対して、前記入力回転速度の振動成分の振動周期が大きくなった場合に、前記ベルトのベルト摩擦係数μが飽和していると判定するようにしてもよい。
【0012】
また、第1の発明に係るベルト効率最大点検出装置において、前記ベルトμ飽和判定手段は、前記着目周波数に対応する周波数において、前記入力回転速度の振動成分の振動周期と、前記出力回転速度の振動成分の振動周期とを計測して、前記出力回転速度の振動成分の振動周期より、前記入力回転速度の振動成分の振動周期が大きい場合に、前記ベルトのベルト摩擦係数μが飽和していると判定するようにしてもよい。
【0013】
また、第1の発明に係るベルト効率最大点検出装置において、前記ベルトμ飽和判定手段は、前記入力回転速度検出手段で検出された入力回転速度の振動成分に対してフーリエ変換を行った結果に基づいて、前記着目周波数に対応する周波数における、前記入力回転速度の振動成分の周波数成分がピークとなる周波数を計測周期ごとに記録し、計測周期ごとに、前記記録された前記ピークとなる周波数の統計値を算出し、前記算出された前記ピークとなる周波数の統計値と、前記入力回転速度の振動成分の周波数成分がピークとなる周波数とを比較して、前記入力回転速度の振動成分の周波数成分がピークとなる周波数が、前記算出された前記ピークとなる周波数の統計値より低い場合に、前記ベルトのベルト摩擦係数μが飽和していると判定するようにしてもよい。
【0014】
また、第1の発明に係るベルト効率最大点検出装置において、前記ベルトμ飽和判定手段は、前記入力回転速度検出手段で検出された入力回転速度の振動成分に対してフーリエ変換を行った結果と前記出力回転速度検出手段で検出された出力回転速度の振動成分に対してフーリエ変換を行った結果とに基づいて、前記着目周波数に対応する周波数における、前記入力回転速度の振動成分の周波数成分がピークとなる周波数と、前記出力回転速度の振動成分の周波数成分がピークとなる周波数とを比較して、前記入力回転速度の振動成分の周波数成分がピークとなる周波数が、前記出力回転速度の振動成分の周波数成分がピークとなる周波数より低い場合に、前記ベルトのベルト摩擦係数μが飽和していると判定するようにしてもよい。
【0015】
また、第1の発明に係るベルト効率最大点検出装置において、前記ベルトの狭圧力を漸近的に低減させ、前記ベルトのベルト摩擦係数μが飽和していると判定された場合に、前記ベルトの狭圧力の低減を停止するように制御する狭圧力制御手段を更に含むようにしてもよい。
【0016】
また、第2の発明に係るプログラムは、入力側プーリと、出力側プーリと、前記入力側プーリ及び前記出力側プーリに掛けられたベルトとを有する無段変速機のベルト伝達効率を最大化するために前記ベルトの挟圧力を低減させるベルト効率最大点検出装置を制御するためのプログラムであって、コンピュータを、前記入力側プーリの回転速度である入力回転速度を検出する入力回転速度検出手段、及び予め求められた着目周波数に対応する周波数における、前記入力回転速度検出手段で検出された入力回転速度の振動成分の周波数シフトに応じて、前記ベルトのベルト摩擦係数μが飽和しているか否かを判定するベルトμ飽和判定手段、として機能させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0017】
本発明のベルト効率最大点検出装置によれば、入力側プーリの回転速度である入力回転速度を検出し、予め求められた着目周波数に対応する周波数における、入力回転速度の振動成分の周波数シフトに応じて、ベルトのベルト摩擦係数μが飽和しているか否かを判定することにより、ベルト摩擦係数μの飽和を精度よく判定して、ベルト効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】ベルトμ特性の一例を表す図である。
図2】ドライブライン系の動力の流れの一例を表す図である。
図3】ベルトμとベルト滑り速度との関係の一例を表す図である。
図4】本発明の第1の実施の形態に係るベルト効率最大点検出装置の構成を示すブロック図である。
図5】本発明の第1の実施の形態に係るベルト効率最大点検出装置におけるベルト効率最大化処理を示すフローチャートである。
図6】ベルトμ、μ勾配、及び回転速度振動の検出結果の一例を示す図である。
図7】本発明の第2の実施の形態に係るベルト効率最大点検出装置の構成を示すブロック図である。
図8】本発明の第2の実施の形態に係るベルト効率最大点検出装置におけるベルト効率最大化処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0020】
本発明の実施の形態に係るベルト効率最大点検出装置は、入力軸側のプライマリプーリ(以下「プライマリ」と省略する。)、出力軸側のセカンダリプーリ(以下「セカンダリ」と省略する。)、及びプライマリとセカンダリとの間に掛けられたベルトを備えた無段変速機(CVT)において、このベルトの滑りを制御することによりベルト効率を向上させるものである。なお、各プーリは、固定シーブと、この固定シーブに向けてシーブ圧に応じて付勢されている可動シーブで構成されている。
【0021】
<本発明の実施の形態に係る原理>
【0022】
最初に本発明の実施の形態に係る原理について説明し、次に第1及び第2の実施形態について説明する。
【0023】
1.ベルト摩擦係数μの特性
【0024】
まず、図1を参照して、CVTベルトの滑り率に対するベルト摩擦係数μ(ベルトμ)の特性を説明する。通常、CVTベルトは、図1の領域A(ベルトμ正勾配域)で使用されるが、伝達効率最大化のためには領域Bにおける使用が必要である。そのためにはベルト挟圧力を低減し、領域Bに収まるよう挟圧力を制御する必要がある。そこで、本発明の実施の形態では、狭圧力を漸近的に低減して領域Bのベルトμが飽和の近傍となったこと判定し、ベルトμが飽和に到達したと判定された時に挟圧力の低減を停止してベルト伝達効率最大点を維持するものである。
【0025】
2.ベルトμ飽和時の回転速度振動の周波数変化
【0026】
次に、ベルトμ飽和時の回転速度振動の周波数変化について説明する。図2は、ドライブライン系の動力の流れを表したものである。図2のドライブライン系に基づけば、ベルトμが飽和に達した前後の常体であるベルトμ飽和近傍においてプライマリ回転速度振動が、低周波数側へシフトする現象が発生する。このプライマリ回転速度振動の低周波数側へのシフトに関して、図3に示すベルトμ勾配の変化に基づいて説明する。図3は、縦軸をベルトμとし、横軸をベルト滑り速度としたグラフ図であり、ベルトμとベルト滑り速度との変化によって生じるベルトμ勾配を表している。ここで、ベルトμは、μ=μ・(V−ω・R)+μで計算され、ベルト滑り速度は、|ω・R−V|で表される。なお、ここでは、EGの駆動時の場合について説明するが、回生時も原理は同様に説明できる。
【0027】
まず、プライマリ側の回転に関する運動方程式を次の(1)式に示す。
【0028】
【数1】
【0029】
ここで、JINは入力側慣性(J+J+J)を表す。TはEGトルクであり、μはプライマリ側のベルト摩擦係数、Fはプライマリ側の挟圧力、Rはプライマリ側の掛かり径である。
【0030】
次に、セカンダリ側の回転に関する運動方程式を次の(2)式に示す。
【0031】
【数2】
【0032】
ここで、Joutは出力側慣性(J+Jdf/df)を表す。μはセカンダリ側のベルト摩擦係数、Fはセカンダリ側の挟圧力、Rはセカンダリ側の掛かり径である。また、θ/DF−θはドライブシャフト捩じれ角であり、DFはデフギヤ比を表す。kはドライブシャフト捩じりばねに係る定数である。
【0033】
プライマリ側、及びセカンダリ側のベルトμは、上記図3のμ勾配におけるμを用いて次の(3)〜(6)式により表現することができる。
【0034】
【数3】
【0035】
ただし、プライマリ回転角速度ω及びセカンダリ回転角速度ωは、
【数4】
である。また、Vはベルト速度である。
【0036】
次に、ベルトμ飽和近傍におけるプライマリ側、及びセカンダリ側の周波数変化を表すための伝達関数について説明する。
【0037】
(a)プライマリ側のμ飽和近傍における周波数変化
【0038】
まず、プライマリ側について、μ飽和近傍において生じる入力回転速度振動の周波数変化について説明する。上記(3)式を上記(1)式に代入し、上記(5)式を用いて表現すると、次の(7)式のように表すことができる。
【0039】
【数5】
【0040】
次に上記(7)式を変形し、ラプラス演算子sを用いて以下(8)式のように表す。
【0041】
【数6】
【0042】
上記(8)式を変形すると、次の(9)式のように1次遅れ系の伝達関数として表される。
【0043】
【数7】
【0044】
ただし、ゲインAは、
【数8】
である。また、時定数Tは、
【数9】
である。
【0045】
プライマリ側でμ飽和近傍に至った場合、μkp≒0となり、上記(9)式の1次遅れ系の伝達関数において、次の第1及び第2の性質をもつ。第1の性質は、上記(10)式においてゲインAが大きくなるという特性をもつことである。また、第2の性質は、上記(11)式において時定数Tが大きくなり、cut offが下がることである。すなわち強いローパス特性となる。
【0046】
上記の第1及び第2の性質によって、μ飽和近傍におけるプライマリ側の回転速度振動は低周波振動が強く表れることとなる。
【0047】
(b)セカンダリ側のμ飽和近傍における周波数変化
【0048】
次に、セカンダリ側について、μ飽和近傍において生じる出力回転速度振動の周波数変化について説明する。上記(4)式を上記(2)式に代入し、上記(6)式を用いて表現すると、次の(12)式のように表すことができる。
【0049】
【数10】
【0050】
ただし、セカンダリの回転角θは、
【数11】
である。
【0051】
次に上記(12)式を変形し、ラプラス演算子sを用いて以下(14)式のように表す。
【0052】
【数12】
【0053】
上記(14)式を変形し、分母項のラプラス演算子sを整理すると次の(15)式となる。
【0054】
【数13】
【0055】
そして、上記(15)式を変形し、以下(16)式の伝達関数を求める。
【0056】
【数14】
【0057】
セカンダリ側でμ飽和近傍に至った場合μkS≒0となり、上記(16)式は概ね次の(17)式のように表せる。
【0058】
【数15】
【0059】
ただし、セカンダリ回転角速度ωは、
【数16】
である。
【0060】
上記(17)式より、セカンダリ側の伝達関数は減衰のない2次系となり、μ飽和近傍でドライブシャフト振動周波数の出力回転速度振動が持続することとなる。このようにセカンダリ側の伝達関数が減衰のない2次系となることは、上記図2に示す、セカンダリとタイヤとを結ぶドライブシャフトばねが可とう性をもった素材であることに基づくものである。
【0061】
以上の原理により、次の(1)又は(2)のいずれかの手法によりベルトμ飽和の近傍が検出できる。
【0062】
(1)入力回転速度の振動周波数が、出力回転速度の振動周波数に対して低周波数側へシフトしたことを検出する。
(2)入力回転速度振動が低周波数側へシフトしたことを検出する。
【0063】
以上の原理に従って、本発明の実施の形態を構成する。
【0064】
以下、本発明の第1及び第2の実施の形態の構成について説明する。本発明の第1及び第2の実施の形態では、上記図2におけるCVT10のCVTベルト13(以下、ベルト13と記載する)のベルト効率を最大化するために、ベルト13の挟圧力を漸近的に低減させていく過程において、入出力回転速度振動の周波数の違いに着目したベルトμの飽和の検出を実用的な信号サンプリング周期で行う。そして、ベルトμの飽和の検出時は挟圧力の低減を停止する。
【0065】
<本発明の第1の実施の形態に係るベルト効率最大点検出装置の構成>
【0066】
図4は、本発明の第1の実施の形態に係るベルト効率最大点検出装置100の構成を示すブロック図である。
【0067】
ベルト効率最大点検出装置100は、回転速度検出回路21と、減速比算出回路22と、ドライブシャフト振動周期算出回路23と、回転速度振動抽出回路24と、回転速度振動周期計測回路25と、μ飽和判定回路26と、狭圧力制御回路27と、を備えている。
【0068】
回転速度検出回路21は、上記図2のプライマリプーリ11の回転速度である入力回転速度Nin、及び上記図2のセカンダリプーリ12の回転速度である出力回転速度Noutを検出する回路である。ここで、入力回転速度Ninは、Nin=60/(2Π)・ωで算出される。また、出力回転速度Noutは、Nout=60/(2Π)・ωで算出される。なお、回転速度検出回路21のNinを検出する回路が入力回転速度検出手段の一例である。回転速度検出回路21のNoutを検出する回路が出力回転速度検出手段の一例である。
【0069】
減速比算出回路22は、回転速度検出回路21で検出された入力回転速度Nin、及び出力回転速度Noutの各々の一定時間の計測値に基づき、Nin/Noutの平均値として減速比γを算出する回路である。
【0070】
ドライブシャフト振動周期算出回路23は、減速比算出回路22で算出された減速比γと、予め求められた動力伝達系の物理定数とに基づいて、以下(19)式に従って、ドライブシャフト捩じれ振動周波数fdsを算出し、回転速度振動抽出回路24へ出力する回路である。
【0071】
【数17】
【0072】
ただし上記(19)式において減速比γはγ=ω/ωである。
【0073】
回転速度振動抽出回路24は、回転速度検出回路21で検出された入力回転速度Nin、及び出力回転速度NoutのDC成分を除去し、入力回転速度振動ΔNin、及び出力回転速度振動ΔNoutを抽出する回路である。なお、回転速度振動が、回転速度の振動成分の一例である。
【0074】
回転速度振動抽出回路24では、入出力回転速度の各々の回転速度振動を抽出するため、数Hz〜数十Hz(例えば、2、3Hz〜20Hz程度)までのバンドパスフィルタ処理を施す。バンドパスフィルタ通過域の中心周波数は、本実施の形態では、ドライブシャフト捩じれ振動周波数fdsとするが、他の周波数(例えば、ドライブシャフト捩じれ振動周波数fdsに対応する近傍の周波数)としてもよい。なお、ドライブシャフト捩じれ振動周波数fdsが着目周波数の一例である。また、着目周波数はどのような周波数であってもよく、算出が可能な周波数であれば、ドライブシャフト捩じれ振動周波数fds以外の周波数を着目周波数としてもよい。
【0075】
回転速度振動周期計測回路25は、計測周期ごとに、回転速度振動抽出回路24で抽出された入力回転速度振動ΔNinの振動周期ΔNin、及び出力回転速度振動ΔNoutの振動周期ΔNoutを計測する回路である。回転速度振動周期計測回路25は、入力回転速度振動の振動周期ΔNinを計測する入力周期計測回路30と、出力回転速度振動の振動周期ΔNoutを計測する出力周期計測回路31とからなる。
【0076】
μ飽和判定回路26は、以下に説明するμ飽和判定回路26を構成する各回路によって、予め求めたドライブシャフト捩じれ振動周波数に対応する周波数における、回転速度振動周期計測回路25により計測された入力回転速度振動の振動周期ΔNinの周波数シフトに応じて、ベルト13のベルトμが飽和しているか否かを判定する回路である。μ飽和判定回路26は、振動周期記憶回路40と、記憶値比較回路41と、振動周期比較回路42とからなる。なお、μ飽和判定回路26が、μ飽和判定手段の一例である。
【0077】
振動周期記憶回路40は、計測周期ごとの入力回転速度振動の振動周期ΔNinを時系列順に記憶する回路である。本実施の形態では後述する記憶値比較回路41で平均値を算出するため、少なくとも2点以上の入力回転速度振動の振動周期ΔNinを記憶するものとする。
【0078】
記憶値比較回路41は、まず、振動周期記憶回路40に計測周期ごとに記憶された、入力回転速度振動の振動周期ΔNinの平均値を算出する。そして、算出された振動周期の平均値と、入力回転速度振動の振動周期ΔNinとを比較して、算出された振動周期ΔNinの平均値に対して、現時点の入力回転速度振動の振動周期ΔNinが、大きくなった場合に、ベルト13のベルトμが飽和していると判定する。なお、平均値が統計値の一例である。また、予め定めた閾値以上の振動周期で、現時点の入力回転速度振動の振動周期ΔNinが、算出された振動周期ΔNinの平均値よりも、低周波数側に所定値以上周波数シフトしている場合にベルト13のベルトμが飽和していると判定するようにしてもよい。
【0079】
振動周期比較回路42は、入力周期計測回路30で計測された入力回転速度振動の振動周期ΔNinと、出力周期計測回路31で計測された出力回転速度振動の振動周期ΔNoutとを計測して、出力回転速度振動の振動周期ΔNoutより、入力回転速度の振動成分の振動周期ΔNinが大きい場合に、ベルトのベルトμが飽和していると判定する。なお、入力回転速度の振動成分の振動周期ΔNinが、出力回転速度振動の振動周期ΔNoutよりも、予め定めた閾値以上の振動周期で、低周波数側に所定値以上周波数シフトしている場合に、ベルト13のベルトμが飽和していると判定するようにしてもよい。
【0080】
μ飽和判定回路26は、上記の記憶値比較回路41又は振動周期比較回路42のいずれかでベルトμが飽和していると判定された場合に、狭圧力制御回路27に対してベルト13の狭圧力の低減を停止する指令を出力する。
【0081】
狭圧力制御回路27は、ベルトμ飽和判定回路26によってベルトμが飽和していると判定されるまで、ベルト13の狭圧力を漸近的に低減させるように制御する。そして、ベルトμ飽和判定回路26で、ベルトμが飽和していると判定された場合に、ベルトμ飽和判定回路26からの指令を受け付け、ベルト13の狭圧力を低減させることを停止するように制御する。
【0082】
<第1の実施の形態に係るベルト効率最大点検出装置の作用>
【0083】
次に、第1の実施の形態に係るベルト効率最大点検出装置100の作用について説明する。CVT10の効率最大点検出を開始すると、ベルト効率最大点検出装置100は、図5に示すベルト効率最大化検出処理フローによってベルト伝達効率を最大化する。
【0084】
まず、ステップS100では、狭圧力制御回路27は、ベルト13の狭圧力を漸近的に低減させるように制御する。
【0085】
次に、ステップS102では、回転速度検出回路21により、プライマリプーリ11の回転速度である入力回転速度Nin、及びセカンダリプーリ12の回転速度である出力回転速度Noutを検出する。
【0086】
ステップS104では、減速比算出回路22は、ステップS102で検出した入力回転速度Nin、及び出力回転速度Noutの各々の一定時間の計測値に基づき、Nin/Noutの平均値として減速比γを算出する。
【0087】
ステップS106では、ドライブシャフト振動周期算出回路23は、上記ステップS104で算出した減速比γに基づいて、上記(19)式に従って、ドライブシャフト捩じれ振動周波数を算出し、回転速度振動抽出回路24のバンドパスフィルタ通過域を設定する。
【0088】
ステップS108では、回転速度振動抽出回路24は、ステップS102で回転速度検出回路21により検出された入力回転速度in、及び出力回転速度Noutに対して、ステップS106で設定されたバンドパスフィルタ通過域でバンドパス処理を行い、入力回転速度振動ΔNin、及び出力回転速度振動ΔNoutを抽出する。
【0089】
ステップS110では、回転速度振動周期計測回路25は、ステップS108で抽出された入力回転速度振動の振動周期ΔNin、及び出力回転速度振動の振動周期ΔNoutを計測する。
【0090】
ステップS112では、振動周期記憶回路40は、ステップS110で計測された入力回転速度振動の振動周期ΔNinを時系列順に記憶する。
【0091】
ステップS114では、記憶値比較回路41は、ステップS112で振動周期記憶回路40に記憶された入力回転速度振動の振動周期ΔNinの平均値を算出する。
【0092】
ステップS116では、記憶値比較回路41は、ステップS114で算出された振動周期の平均値と、入力回転速度振動の振動周期ΔNinとを比較して、算出された振動周期ΔNinの平均値に対して、現時点の入力回転速度振動の振動周期ΔNinが大きくなっているか否かを判定し、大きくなっていると判定された場合には、ベルトμが飽和しているとしてステップS120へ移行し、大きくなっていないと判定された場合にはステップS118へ移行する。
【0093】
ステップS118では、振動周期比較回路42は、ステップS110で計測された入力回転速度振動の振動周期ΔNinと、出力回転速度振動の振動周期ΔNoutとを計測して、出力回転速度振動の振動周期ΔNoutより、入力回転速度の振動成分の振動周期ΔNinが大きいか否かを判定し、大きいと判定された場合には、ベルトμが飽和しているとしてステップS120へ移行し、大きくないと判定された場合にはステップS102に戻って処理を繰り返す。
【0094】
ステップS120では、μ飽和判定回路26は、狭圧力制御回路27に対してベルト13の狭圧力の低減を停止する指令を出力する。
【0095】
ステップS122では、狭圧力制御回路27は、ステップS120において出力された指令により、ベルト13の狭圧力を低減させることを停止するように制御して、ベルト効率最大化処理ルーチンを終了する。
【0096】
図6に、ベルトμ、μ勾配、及び回転速度振動の検出結果の一例を示す。図6では、ベルト13の狭圧力を漸近的に低減させ、μ飽和検出を開始し、入力回転速度振動の振動周期が出力回転速度振動の振動周期よりもが大きくなると、μ飽和が検出され、ベルト13の狭圧力の低減が停止されている。なお、図6の回転速度振動は、ドライブシャフト捩じれ振動周波数を含むバンドパスフィルタ通過域におけるプライマリプーリ11及びセカンダリプーリ12の回転速度振動である。
【0097】
以上説明したように、本発明の第1の実施の形態に係るベルト効率最大点検出装置によれば、回転速度検出回路21が、プライマリプーリ11の回転速度である入力回転速度Ninを検出し、μ飽和判定回路26が、予め求められたドライブシャフト捩じれ振動周波数に対応する周波数における、入力回転速度振動の振動周期の周波数シフトに応じて、ベルト13のベルトμが飽和しているか否かを判定することで、ベルト効率を向上させることができる。
【0098】
<本発明の第2の実施の形態に係るベルト効率最大点検出装置の構成>
【0099】
図7は、本発明の第2の実施の形態に係るベルト効率最大点検出装置200の構成を示すブロック図である。なお、第1の実施の形態の構成と同様となる箇所については同一符号を付して説明を省略する。
【0100】
ベルト効率最大点検出装置200は、回転速度検出回路21と、減速比算出回路22と、ドライブシャフト振動周期算出回路23と、回転速度振動抽出回路24と、回転速度振動時系列記憶回路250と、FFT処理回路251と、μ飽和判定回路226と、狭圧力制御回路27と、を備えている。
【0101】
第2の実施の形態の回転速度振動抽出回路24では、入出力回転速度の各々の回転速度振動を抽出するため、数Hz〜数十Hz(例えば、0.5Hz〜20Hz程度)までのバンドパスフィルタ処理を施す。バンドパスフィルタ通過域の中心周波数は、第1の実施の形態と同様に、ドライブシャフト捩じれ振動周波数fdsとする。また、ドライブシャフト捩じれ振動周波数よりも低い低周波数も通過域とする。
【0102】
回転速度振動時系列記憶回路250は、回転速度振動抽出回路24で抽出された入力回転速度振動ΔNin、及び出力回転速度振動ΔNoutを、計測周期ごとに時系列順に記憶する回路である。回転速度振動時系列記憶回路250では、計測周期ごとの入出力回転速度振動の時系列データを、ドライブシャフト捩じれ振動周波数の振動周期Tの数倍以上の期間に渡り記憶する。また、回転速度振動時系列記憶回路250は、入力回転速度振動ΔNinを時系列順に記憶する入力時系列記憶回路260と、出力回転速度振動ΔNoutを時系列順に記憶する出力時系列記憶回路261とからなる。
【0103】
FFT処理回路251は、回転速度振動時系列記憶回路250に記憶された計測周期ごとの入力回転速度振動ΔNin、及び出力回転速度振動ΔNoutに基づいて、FFT(高速フーリエ変換)処理を行う回路である。FFT処理により各周波数における入出力回転速度振動ΔNin、ΔNoutの周波数成分としてスペクトル成分を得る。FFT処理回路251は、入力回転速度振動ΔNinをFFT処理する入力時系列FFT処理回路262と、出力回転速度振動ΔNoutをFFT処理する出力時系列FFT処理回路263とからなる。
【0104】
μ飽和判定回路226は、以下に説明するμ飽和判定回路226を構成する各回路によって、予め求めたドライブシャフト捩じれ振動周波数に対応する周波数において、FFT処理回路251により得られた入力回転速度振動ΔNinの周波数成分の振幅のスペクトルピークとなる周波数における周波数シフトに応じて、ベルトμが飽和しているか否かを判定する回路である。μ飽和判定回路226は、入力ピーク周波数記憶回路270と、入力ピーク周波数比較回路271と、入出力ピーク周波数比較回路272とからなる。なお、μ飽和判定回路226が、μ飽和判定手段の一例である。
【0105】
入力ピーク周波数記憶回路270は、FFT処理回路251によって得られた各周波数のうち、低周波数からドライブシャフト捩じれ振動周波数までの周波数帯域において、入力回転速度振動ΔNinについて、周波数成分の振幅がスペクトルピークとなる周波数(以下、スペクトルピーク周波数と記載する)を計測周期ごとに時系列順に記憶する回路である。
【0106】
入力ピーク周波数比較回路271では、まず、低周波数からドライブシャフト捩じれ振動周波数までの周波数帯域を着目周波数帯域として、入力ピーク周波数比較回路271は、着目周波数帯域において、入力ピーク周波数記憶回路270に計測周期ごとに記憶された入力回転速度振動ΔNinのスペクトルピーク周波数の平均値を算出する。そして、算出されたスペクトルピーク周波数の平均値と、現時点の入力回転速度振動ΔNinのスペクトルピーク周波数とを比較して、現時点の入力回転速度振動ΔNinのスペクトルピーク周波数が、算出されたスペクトルピーク周波数の平均値より低い場合に、ベルト13のベルトμが飽和していると判定する。なお、本実施の形態では、最大となる入力回転速度振動ΔNinのスペクトルピーク周波数の平均値を算出して比較したが、スペクトルピーク全体の平均値を算出して、算出したスペクトルピークの平均値と比較するようにしてもよい。
【0107】
入出力ピーク周波数比較回路272では、FFT処理回路251によって得られた各周波数のうち、低周波数からドライブシャフト捩じれ振動周波数までの周波数帯域を着目周波数帯域とする。そして、着目周波数帯域において、入力回転速度振動ΔNinのスペクトルピーク周波数と出力回転速度振動ΔNoutのスペクトルピーク周波数がある場合に、ベルトグリップ状態であると判定する。そして、ベルトグリップ状態であるときに、入力回転速度振動ΔNinのスペクトルピーク周波数と、出力回転速度振動ΔNoutのスペクトルピーク周波数とを比較して、入力回転速度振動ΔNinのスペクトルピーク周波数が、出力回転速度振動ΔNoutのスペクトルピーク周波数より低い場合に、ベルト13のベルトμが飽和していると判定する。
【0108】
μ飽和判定回路226は、上記の入力ピーク周波数比較回路271又は入出力ピーク周波数比較回路272のいずれかでベルトμが飽和していると判定された場合に、狭圧力制御回路27に対してベルト13の狭圧力の低減を停止する指令を出力する。
【0109】
なお、第2の実施の形態の他の構成については第1の実施の形態と同様となるため説明を省略する。
【0110】
<第2の実施の形態に係るベルト効率最大点検出装置の作用>
【0111】
次に、第2の実施の形態に係るベルト効率最大点検出装置200の作用について説明する。EGが駆動し、CVT10の効率最大点検出を開始すると、ベルト効率最大点検出装置200は、図8に示すベルト効率最大化処理フローによってベルト伝達効率を最大化する。なお、第1の実施の形態と同様の作用となる箇所は同一符号を付して説明を省略する。
【0112】
まず、ステップS200では、回転速度振動時系列記憶回路250は、ステップS108で抽出された入力回転速度振動ΔNin、及び出力回転速度振動ΔNoutを時系列順に記憶する。
【0113】
次に、ステップS202では、FFT処理回路251は、ステップS200で記憶された入力回転速度振動ΔNin、及び出力回転速度振動ΔNoutに基づいて、FFT処理を行い、各周波数における入出力回転速度振動ΔNin、ΔNoutの周波成分としてスペクトル成分を得る。
【0114】
ステップS204では、入力ピーク周波数記憶回路270は、FFT処理回路251によって得られた各周波数のスペクトル成分に基づいて、低周波数からドライブシャフト捩じれ振動周波数までの周波数帯域を着目周波数帯域として、入力回転速度振動ΔNinのスペクトルピーク周波数を記憶する。
【0115】
ステップS206では、入力ピーク周波数比較回路271は、ステップS204で記憶された入力回転速度振動ΔNinのスペクトルピーク周波数に基づいて、入力回転速度振動ΔNinのスペクトルピーク周波数の平均値を算出する。
【0116】
ステップS207では、入力ピーク周波数比較回路271は、ステップS206で算出されたスペクトルピーク周波数の平均値と、現時点の入力回転速度振動ΔNinのスペクトルピーク周波数とを比較して、現時点の入力回転速度振動ΔNinのスペクトルピーク周波数が、算出されたスペクトルピーク周波数の平均値より低いか否かを判定し、低いと判定された場合には、ベルトμが飽和しているとしてステップS120へ移行し、低くないと判定された場合には、ステップS208へ移行する。
【0117】
ステップS208では、入出力ピーク周波数比較回路272は、ステップS202で得られた各周波数のスペクトル成分に基づいて、着目周波数帯域において、入力回転速度振動ΔNinのスペクトルピーク周波数と出力回転速度振動ΔNoutのスペクトルピーク周波数があるか否かを判定し、スペクトルピーク周波数があると判定された場合には、ベルトグリップ状態であるとしてステップS210へ移行し、スペクトルピーク周波数がないと判定された場合には、ステップS102に戻って処理を繰り返す。
【0118】
ステップS210では、入出力ピーク周波数比較回路272は、入力回転速度振動ΔNinのスペクトルピーク周波数と、出力回転速度振動ΔNoutのスペクトルピーク周波数とを比較して、入力回転速度振動ΔNinのスペクトルピーク周波数が、出力回転速度振動ΔNoutのスペクトルピーク周波数より低いか否かを判定し、低いと判定された場合には、ベルトμが飽和しているとしてステップS120へ移行し、低くないと判定された場合には、ステップS102に戻って処理を繰り返す。
【0119】
なお、第2の実施の形態の他の作用については第1の実施の形態と同様となるため説明を省略する。
【0120】
以上説明したように、本発明の第2の実施の形態に係るベルト効率最大点検出装置によれば、回転速度検出回路21が、プライマリプーリ12の入力回転速度を検出し、FFT処理回路251が、入出力回転速度振動に基づいてFFT処理を行い、μ飽和判定回路226が、予め求められたドライブシャフト捩じれ振動周波数に対応する周波数において、入力回転速度振動の振幅のスペクトルピークとなる周波数における周波数シフトに応じて、ベルトのベルトμが飽和しているか否かを判定することで、ベルト効率を向上させることができる。
【0121】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【0122】
例えば、上記第1及び第2の実施の形態のベルト効率最大点検出装置では、回転速度検出回路、減速比算出回路、ドライブシャフト振動周期算出回路、回転速度振動抽出回路、回転速度振動周期計測回路(又は、回転速度振動時系列記憶回路及びFFT処理回路)、μ飽和判定回路における各回路、及び狭圧力制御回路からなる各回路によってベルト伝達効率を最大化することを実現していたが、これに限定されるものではなく、コンピュータを、上記各回路に対応する各処理部として機能させるためのプログラムによってベルト伝達効率を最大化することを実現してもよい。
【0123】
また、μ飽和判定回路に減速比算出回路、及びドライブシャフト振動周期算出回路を設け、減速比の算出、及びドライブシャフト振動周波数の算出を行うようにしてもよい。
【0124】
また、上述した第1の実施の形態では、記憶値比較回路41及び振動周期比較回路42の両方の回路の処理によってベルトμが飽和しているか否かを判定する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、記憶値比較回路41又は振動周期比較回路42のいずれか一方のみで、ベルトμが飽和しているか否かを判定するようにしてもよい。
【0125】
また、上述した第2の実施の形態では、入力ピーク周波数比較回路271及び入出力ピーク周波数比較回路272の両方の回路の処理によってベルトμが飽和しているか否かを判定する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、入力ピーク周波数比較回路271又は入出力ピーク周波数比較回路272のいずれか一方のみで、ベルトμが飽和しているか否かを判定するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0126】
21 回転速度検出回路
22 減速比算出回路
23 ドライブシャフト振動周期算出回路
24 回転速度振動抽出回路
25 回転速度振動周期計測回路
26、226 μ飽和判定回路
27 狭圧力制御回路
30 入力周期計測回路
31 出力周期計測回路
40 振動周期記憶回路
41 記憶値比較回路
42 振動周期比較回路
100、200 ベルト効率最大点検出装置
250 回転速度振動時系列記憶回路
251 FFT処理回路
260 入力時系列記憶回路
261 出力時系列記憶回路
262 入力時系列FFT処理回路
263 出力時系列FFT処理回路
270 入力ピーク周波数記憶回路
271 入力ピーク周波数比較回路
272 入出力ピーク周波数比較回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8