特許第6639556号(P6639556)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6639556
(24)【登録日】2020年1月7日
(45)【発行日】2020年2月5日
(54)【発明の名称】摺動部材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/10 20060101AFI20200127BHJP
   F16C 33/24 20060101ALI20200127BHJP
   C25D 15/02 20060101ALI20200127BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20200127BHJP
【FI】
   F16C33/10 D
   F16C33/24 Z
   C25D15/02 F
   C25D7/00 C
   C25D15/02 C
   C25D15/02 J
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-87567(P2018-87567)
(22)【出願日】2018年4月27日
(65)【公開番号】特開2019-190643(P2019-190643A)
(43)【公開日】2019年10月31日
【審査請求日】2019年9月6日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】蒲 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】日根野 実
(72)【発明者】
【氏名】植村 正明
【審査官】 渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−211727(JP,A)
【文献】 特開2016−191329(JP,A)
【文献】 特開2010−194669(JP,A)
【文献】 特開2008−202642(JP,A)
【文献】 特開平1−98764(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 17/00− 17/26
F16C 33/00− 33/28
C25D 7/00
C25D 15/02
C23C 26/00
B22F 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被摺動部材に対して相対的に摺動する摺動部材であって、
摺動部材基部と、
上記摺動部材基部の表面に散在して固定される摺接粒子と、を備え、
上記摺接粒子は、上記摺動部材基部の表面から突出しており、かつ、上記被摺動部材に摺接する粒子摺接面を有しており、
上記摺接粒子の原料粒子は、粒径範囲が当該原料粒子の平均粒子径の±20%以内であり、
上記摺接粒子は、上記粒子摺接面の面積と上記摺接粒子の投影部分の面積との比率が0.6以上0.95以下である、摺動部材。
【請求項2】
上記原料粒子の平均粒子径が、10μm以上250μm以下である、請求項1に記載の摺動部材。
【請求項3】
上記摺接粒子は、埋め込み率が50%以上である、請求項1または2に記載の摺動部材。
【請求項4】
上記摺接粒子が、ダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン、立方晶窒化ホウ素、ガラス状カーボン、アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化タングステン、窒化ケイ素、ケイ素化物、リン化物、および硫化物からなる群より選ばれる1種以上を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の摺動部材。
【請求項5】
摺動部材基部の外表面上へ摺接粒子の原料粒子を固定する工程と、
上記原料粒子の平均粒子径に対して20%以上30%以下の高さ分、当該原料粒子を加工して粒子摺接面を形成する工程とを含み、
上記原料粒子は、粒径範囲が当該原料粒子の平均粒子径の±20%以内である、摺動部材の製造方法。
【請求項6】
上記原料粒子の平均粒子径が、10μm以上250μm以下である、請求項5に記載の摺動部材の製造方法。
【請求項7】
上記摺接粒子が、ダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン、立方晶窒化ホウ素、ガラス状カーボン、アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化タングステン、窒化ケイ素、ケイ素化物、リン化物、および硫化物からなる群より選ばれる1種以上を含む、請求項5または6に記載の摺動部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動部材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
排水ポンプの一種として、先行待機運転ポンプが知られている。先行待機運転ポンプは、例えばゲリラ豪雨のような急激な水量の増加に対応すべく、予め無水状態で全速運転(先行待機運転)することや、気水混合状態での排水を行うことが可能となっている。このような先行待機運転ポンプに適用できる摺動部材が、例えば特許文献1に開示されている。
【0003】
特許文献1には、摺動部材基部および摺接粒子を備えたポンプ用軸・軸受構造が開示されている。当該摺接粒子は、摺動部材基部の表面に散在して固定されるとともに、摺動部材基部の表面から突出しており、被摺動部材に摺接することが記載されている。
【0004】
特許文献1に記載されるような、摺接粒子を摺動面とする摺動部材は、摺接粒子間に形成した空間により、摺動部材の熱膨張への対応や放熱性の面で優れた特徴を有する。また、当該摺動部材を、例えばポンプの軸・軸受構造に用いた場合、摺動部材の回転時に、粒子間領域から摺接粒子と被摺動部材との間に適度に水等の液体が供給され、潤滑剤として機能し、潤滑性が向上するという効果も有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016−211727号公報(2016年12月15日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述のような従来技術では、製造条件によっては、得られる摺動部材の性能がばらつく傾向があった。例えば、摺接面を構成する摺接粒子の耐剥離性は、摺動部材において重要な性能であるが、耐剥離性に優れる摺接粒子を備える摺動部材を確実に製造するための製造条件には、さらなる改善の余地があった。
【0007】
また、上述のような摺動部材は、摺接面が複数の摺接粒子で構成されているため、特有の課題を有する。すなわち、摺接粒子ごとの固定状態や被摺動部材との接触面積にばらつきがあると、摺接粒子の固定強度や摺接粒子にかかる圧力が摺接粒子によって異なるため、条件によっては摺接粒子の剥離や偏摩耗につながる要因の一つとなる、という課題がある。
【0008】
以上のことから、耐剥離性に優れる摺接粒子を備えるとともに、偏摩耗を抑制できる摺動部材をより簡便に製造できる製造条件が求められており、かつ、当該摺動部材の安定的な提供が求められていた。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであって、その目的は、耐剥離性に優れた摺接粒子を備えるとともに、偏摩耗を抑制できる摺動部材を簡便に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、原料粒子の粒径範囲および、摺接粒子の粒子摺接面の面積と投影面積との比率を所定の範囲内とすることによって、耐剥離性に優れた摺接粒子を備えるとともに、偏摩耗を抑制できる摺動部材を簡便に提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本願発明は、以下の発明を包含する。
〔1〕被摺動部材に対して相対的に摺動する摺動部材であって、
摺動部材基部と、
上記摺動部材基部の表面に散在して固定される摺接粒子と、を備え、
上記摺接粒子は、上記摺動部材基部の表面から突出しており、かつ、上記被摺動部材に摺接する粒子摺接面を有しており、
上記摺接粒子の原料粒子は、粒径範囲が当該原料粒子の平均粒子径の±20%以内であり、
上記摺接粒子は、上記粒子摺接面の面積と上記摺接粒子の投影部分の面積との比率が0.6以上0.95以下である、摺動部材。
〔2〕上記原料粒子の平均粒子径が、10μm以上250μm以下である、〔1〕に記載の摺動部材。
〔3〕上記摺接粒子は、埋め込み率が50%以上である、〔1〕または〔2〕に記載の摺動部材。
〔4〕上記摺接粒子が、ダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン、立方晶窒化ホウ素、ガラス状カーボン、アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化タングステン、窒化ケイ素、ケイ素化物、リン化物、および硫化物からなる群より選ばれる1種以上を含む、〔1〕から〔3〕のいずれかに記載の摺動部材。
〔5〕摺動部材基部の外表面上へ摺接粒子の原料粒子を固定する工程と、
上記原料粒子の平均粒子径に対して20%以上30%以下の高さ分、当該原料粒子を加工して粒子摺接面を形成する工程とを含み、
上記原料粒子は、粒径範囲が当該原料粒子の平均粒子径の±20%以内である、摺動部材の製造方法。
〔6〕上記原料粒子の平均粒子径が、10μm以上250μm以下である、〔5〕に記載の摺動部材の製造方法。
〔7〕上記摺接粒子が、ダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン、立方晶窒化ホウ素、ガラス状カーボン、アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化タングステン、窒化ケイ素、ケイ素化物、リン化物、および硫化物からなる群より選ばれる1種以上を含む、〔5〕または〔6〕に記載の摺動部材の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様の摺動部材によれば、耐剥離性に優れた摺接粒子を備えるとともに、偏摩耗を抑制できる摺動部材を提供することができる。
【0012】
本発明の一態様の製造方法によれば、摺接粒子を固定する条件を揃えると共に、摺接粒子にかかる圧力(面圧)を均一化することができる。そのため、耐剥離性に優れた摺接粒子を備え、かつ、一部の摺接粒子に過剰な負荷がかかることを低減できる摺動部材を提供することができる。それゆえ、偏摩耗を抑制できる摺動部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態における軸・軸受構造及び摺動部材としての軸部材の、軸方向に垂直な断面を示す断面概略図である。
図2図2の(a)は、粒径範囲が広い原料粒子を用いて製造された摺動部材の断面概略図である。図2の(b)は、粒径範囲が狭い原料粒子を用いて製造された摺動部材の断面概略図である。図2は、説明を容易にするため原料粒子を球状粒子と近似して記載している。
図3】本発明の一実施形態に係る摺動部材の、外面側からみた構成を示す上面図である。
図4】本発明の一実施形態に係るポンプの縦断面図である。
図5】本発明の一実施形態に係るポンプの滑り軸受装置の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献及び特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上B以下」を意図する。
【0015】
〔1.摺動部材〕
被摺動部材に対して相対的に摺動する摺動部材として、スラリー液を排出可能なポンプに用いられる回転機構における軸・軸受構造の軸部材について説明する。なお、本実施形態では、摺動部材としての軸部材について説明するが、本発明の摺動部材は必ずしもこれに限らない。例えば、軸部材に対して相対的に摺動する軸・軸受構造における軸受部材にも適用することができる。また、例えば、スラスト軸受のような、被摺動部材に対して相対的に平面で摺動する摺動部材にも適用することができる。
【0016】
軸・軸受構造1Aにおける、本実施形態の摺動部材としての軸部材10の構成について、図1に基づいて説明する。図1は、本発明の一実施形態における軸・軸受構造1Aの、軸方向に垂直な断面を示す断面概略図である。
【0017】
図1に示すように、軸・軸受構造1Aは、摺動部材としての軸部材10と、被摺動部材としての軸受部材11とからなっている。軸部材10は、円筒形状の軸スリーブである。尚、軸部材10は、軸スリーブに限定されるものではなく、軸であってもよい。一方、軸受部材11は、内部に軸部材10が収容される円筒形状を有しており、軸部材10を軸支する。
【0018】
軸受部材11は、例えば、硬質のセラミックスまたは超硬合金等からなり、珪砂の硬度と同等以上であるため、スラリー液に含まれる珪砂等に対する耐摩耗性に優れる。さらに、硬質のセラミックスである、共有結合性またはイオン結合性のセラミックスは、スラリー液中にまれに含まれる金属くず等の金属成分との親和性が小さいため、軸受部材11へのスラリー液に含まれる金属くず等の金属成分の付着を防ぎやすい。なお、軸受部材11の表面に、摩擦係数を低く、もしくは耐摩耗性を向上するための膜を形成するような加工がされていても良い。
【0019】
軸部材10は、図1に示すように、少なくとも、摺動部材基部10aと、上記摺動部材基部10aの表面に散在して固定される摺接粒子10bとを備える。上記摺接粒子10bは、上記摺動部材基部10aの表面から突出している。なお、図1においては、摺接粒子10bのうち、一部のみを図示している。摺接粒子10bは、摺接粒子の原料粒子(以下、「原料粒子」とも称する)が摺動部材基部に固定され、加工されることにより形成され、粒子摺接面12を有している。すなわち、「原料粒子」とは、摺動部材基部に固定する前の摺接粒子を意味する。また、粒子摺接面12によって、軸部材10の軸を中心とした円周面である部材間摺接面13が形成される。
【0020】
摺接粒子10bは、ダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン(Diamond-like Carbon、以下「DLC」と称する)、立方晶窒化ホウ素、ガラス状カーボン、アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化タングステン、窒化ケイ素、ケイ素化物、リン化物、硫化物からなる群より選ばれる1種以上を含むことが好ましい。これらは単結晶粒子であってもよく、多結晶粒子であってもよく、焼結体であってもよい。すなわち、上記ダイヤモンドには、ダイヤモンドの単結晶粒子、ダイヤモンドの合成多結晶粒子、ダイヤモンド焼結体を粉砕した粒子も含まれる。また、上記DLCには、バインダーを使用してDLC粉末を造粒したものや、DLC粉末の焼結体を粉砕した粒子も含まれる。また、セラミックスグリーンシートを裁断後焼成または焼成後裁断して作製した粒子や、アルミナ等のセラミックス粉末を固めた成形粒子も含まれる。なお、炭化タングステンとしては、WC、W2C、およびWCとW2Cとの複合材が挙げられる。
【0021】
摺接粒子10bの原料粒子の平均粒子径は、10μm以上250μm以下であることが好ましい。より好ましくは20μm以上200μm以下であり、さらに好ましくは30μm以上160μm以下であり、特に好ましくは50μm以上125μm未満である。平均粒子径は、レーザー回折式粒子径分布測定装置:株式会社島津製作所、SALD−2100により計測されるD50値である。
【0022】
本明細書中、原料粒子の「粒径範囲」とは、摺動部材基部の表面に散在して固定されるすべての原料粒子において最小径粒子と最大径粒子とで示される粒子径の範囲である。原料粒子の最小粒子径と最大粒子径とは、レーザー回折式粒子径分布測定装置:株式会社島津製作所、SALD−2100により計測される。摺接粒子10bの原料粒子の粒径範囲は、当該原料粒子の平均粒子径の±20%以内である。例えば、「原料粒子の粒径範囲が、当該原料粒子の平均粒子径の±20%以内である」とは、原料粒子の粒子径が、当該原料粒子の平均粒子径の0.8倍以上、当該原料粒子の平均粒子径の1.2倍以下であることを意味する。原料粒子の粒径範囲が上記範囲内であることが好ましい理由を、図2を用いて説明する。
【0023】
図2の(a)は、粒径範囲が広い原料粒子を用いて製造された摺動部材の断面概略図を示す。図2の(b)は、粒径範囲が狭い原料粒子を用いて、従来の方法で製造された摺動部材の断面概略図を示す。なお、図2では、原料粒子を球状粒子と近似して記載している。
【0024】
図2の(a)において、例えば、原料粒子が、平均粒子径が100μm、粒径範囲が上記平均粒子径の±50%である場合を考える。最大粒子径を有する原料粒子(以下、「最大径粒子」とも称する)10bは、粒子径が150μmであり、平均粒子径を有する原料粒子(以下、「平均径粒子」)10bは、粒子径が100μmであり、最小粒子径を有する原料粒子(以下、「最小径粒子」とも称する)10bは、粒子径が50μmである。平均粒子径の60%の高さが埋まるようにメッキを施す(すなわち、メッキ厚さを60μmとする)場合、最大径粒子10bは、その粒子径の40%の高さしかメッキによって埋め込まれていないため、耐剥離性に劣る。一方で、最小径粒子10bは、メッキに完全に埋まり、粒子摺接面を形成できない。このように、粒径範囲が広い原料粒子を用いると、摺接粒子ごとの摺接面積を所定の範囲に揃えることが困難である。
【0025】
一方、図2(b)において、例えば、原料粒子が、平均粒子径が100μm、粒径範囲が上記平均粒子径の±20%の場合を考える。最大径粒子10bは、粒子径が120μmであり、平均径粒子10bは、粒子径が100μmであり、最小径粒子10bは、粒子径が80μmである。平均粒子径の60%の高さが埋まるようにメッキを施す(すなわち、メッキ厚さを60μmとする)場合、最大径粒子10bは、その粒子径の50%の高さがメッキによって固定され、最小径粒子10bも、その粒子径の75%の高さがメッキによって固定される。このように、粒径範囲が狭い原料粒子を用いると、摺接粒子ごとの摺接面積を所定の範囲に揃えやすくなり、原料粒子を固定する際に当該粒子の固定状態(メッキであれば所定の埋め込み率)を確保することが容易となる。さらに、摺接粒子にかかる面圧を揃えることができるため、耐剥離性に優れた摺接粒子により粒子摺接面を形成することができる。
【0026】
摺接粒子ごとの摺接面積の大きさを揃え、粒子摺接面の面積(以下、摺接面積とも称する)と摺接粒子の投影部分の面積(以下、投影面積とも称する)との比率(摺接面積/投影面積)を、0.6以上0.95以下とすれば、摺動部材が被摺動部材と摺接するときの、被摺動部材に対する面圧を所定の範囲内とすることができる。これにより、摺動部材と被摺動部材とが摺接するときの摺接粒子の偏摩耗を抑えることができ、かつ、被摺動部材の摩耗を抑えることができる。また、被摺動部材の摩耗が著しい場合には、被摺動部材は偏摩耗となるが、上記構成であれば、当該偏摩耗も抑えることができる。
【0027】
摺接面積と投影面積との比率は、摺動部材基部10aの単位表面における、摺接面積と投影面積との比率の平均値を意図する。具体的には、2以上の摺動部材基部10aの単位表面において、摺接面積の和と投影面積の和との比率を計算し、それらに基づき算出された平均値である。以下、摺接面積および投影面積について、図3を用いて説明する。
【0028】
「粒子摺接面の面積(摺接面積)」とは、摺動部材基部10aの単位表面における、粒子摺接面12の外周によって囲まれる部分の面積の和を意図する。また、「摺接粒子の投影部分の面積(投影面積)」とは、摺動部材基部10aの単位表面における、投影部分31の面積の和を意図する。投影部分とは、摺動部材基部の表面の垂直方向から見たときの摺接粒子の外周で囲まれる部分である。例えば、摺接粒子が直方体である場合は、摺接面積と投影面積は同じ(すなわち、摺接面積/投影面積=1)である。摺接面積および投影面積は、摺動部材基部10aの単位表面をレーザー顕微鏡で観察することによって得た顕微鏡写真に基づいて測定する。なお、顕微鏡観察範囲において単位面積からはみ出ている摺接粒子は除外して測定すればよい。また、粒子摺接面12の外周と投影部分31の外周とは、一部が重なった状態であってもよい。
【0029】
摺動部材基部10aの単位表面における、摺接面積と投影面積との比率の平均値を得るときに選択される摺動部材基部10aの単位表面は、少なくとも2つ以上であり、10以上であることが好ましく、20以上であることがより好ましく、40以上であることがさらに好ましく、80以上であることが特に好ましい。また、粒子摺接面12の面積の和の平均値を得るときに選択される摺動部材基部10aの単位表面は、ランダムに、かつ、摺動部材基部10aの全体から偏りなく選択されることが好ましい。また、上記単位表面の大きさは、特に限定されず、摺動部材基部10aの大きさ等によって適宜設定される。
【0030】
例えば、摺動部材基部10aがφ85mm×100mmLの軸スリーブの場合には、粒子摺接面12の面積の和の平均値を得るときに選択される摺動部材基部10aの単位表面は、円周方向から10箇所、かつ軸方向から8箇所、合計80箇所(10×8)が選択され得る。また、このとき、摺動部材基部10aの単位表面は、1mm×1mmの大きさであり得る。
【0031】
摺動部材基部10aは、基体からなる構成としてもよい。基体は、SUS304等の一般的に用いられる材質によって形成されていてもよく、樹脂で形成されていてもよい。また、摺動部材基部10aの表面形状は、平坦であってもよく、凹凸構造を有していてもよく、曲面を有していてもよい。
【0032】
また、上記摺動部材基部10aは、基体と、上記基体の表面に形成された金属膜やロウ材とを備えていてもよい。後述するように、摺動部材基部10aの外表面上への摺接粒子10bの原料粒子の固定は、電着、ロウ付け、スパークプラズマ焼結(Spark Plasma Sintering)(以下、SPSという)を用いて行うことができ、金属膜やロウ材は、摺接粒子を形成するための固定部材として機能する。さらに、金属膜やロウ材は、基体が他の粒子と接触することにより摩耗する事態を防止することができる。
【0033】
摺動部材基部10aの表面から摺接粒子10bの先端までの平均高さ(以下、「突出高さ」と称する)は、0.8μm以上であることが好ましく、1.0μm以上であることがより好ましい。なお、突出高さにおける摺接粒子10bの先端とは、上述の加工を行った後の摺接粒子10bの先端、すなわち粒子摺接面12を意図する。
【0034】
また、突出高さは、摺接粒子10bの原料粒子の平均粒子径の40%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましい。すなわち、例えば、原料粒子の平均粒子径が150μmであれば、突出高さは、60μm以下であることが好ましく、45μm以下であることがより好ましい。突出高さが上記構成であれば、摺接粒子10bの固定強度が大きくなりやすい。
【0035】
摺接粒子10bの埋め込み率は、摺接粒子10bの原料粒子の粒子径の50%以上であることが好ましい。埋め込み率が上記構成であれば、摺接粒子10bの固定強度が大きくなりやすい。なお、埋め込み率とは、摺接粒子10bの高さのうち、摺動部材基部10aに埋め込まれている部分の高さが、摺接粒子10bの原料粒子の粒子径に対して占める割合を意図する。摺接粒子の原料粒子の粒子径とは、摺動部材基部に固定する前の個々の摺接粒子の長径を意図する。上記粒子径は、レーザー回折式粒子径分布測定装置:株式会社島津製作所、SALD−2100により計測される。摺動部材基部10aに埋め込まれている部分の高さは、例えば、図1において、摺接粒子10bの、摺動部材基部10aに埋め込まれている部分の最深部に、摺動部材基部10aの表面から垂線を下した場合に、当該垂線の長さを測定することによって求めることができる。なお、上記「摺動部材基部10aの表面」とは、図1において、摺動部材基部10aが有する面のうち、部材間摺接面13に平行であって、かつ対向している面をいう。
【0036】
摺接粒子を軸部材の外周面に固定する場合、粒子摺接面12、つまり、軸受部材11側の端部は、軸部材10の軸方向から見たときに、軸部材10の軸を中心とした同一円周上にある。すなわち、粒子摺接面12によって、図1に示すように、軸部材10の軸を中心とした円周面である部材間摺接面13が形成される。該部材間摺接面13は、軸部材10が回転するときに、被摺動部材である軸受部材11と摺接する面である。
【0037】
スラスト軸受において摺接粒子10bを固定する場合、各摺接粒子10bの先端、つまり、軸受部材11側の端部は、摺動部材基部10aの表面の垂直方向から見たときに、同一平面状にある。
【0038】
上記構成によれば、軸部材10が回転する際に、軸受部材11と摺接するのは摺接粒子10bのみとなる。したがって、軸部材10は、摩擦係数が低く、摩擦による熱の発生が抑えられたものとなるため、耐久性がより向上したものとなる。
【0039】
<被膜を有する摺接粒子>
本発明の一実施形態において、上記摺接粒子は、少なくとも一部が被膜にて覆われていてもよい。上記の構成によれば、摺接粒子の粒子摺接面及び/又は粒子摺接面周辺部の角部を被膜によって表面が円滑な面となるように覆うことができ、摺動部材の摺接面を円滑な面にすることができる。
【0040】
上記被膜は、少なくとも上記摺接粒子の摺接面周辺部の角部を覆い、ダイヤモンドライクカーボン膜又はガラス状カーボン膜からなる構成としてもよい。上記の構成によれば、軸部材の摺接面をさらに円滑な面にすることができる。
【0041】
上記被膜は、摺接面周辺部の周りを覆うダイヤモンドライクカーボン膜又はガラス状カーボン膜からなり、上記摺接面周辺部から側面に至る角部に対応する部分の上記被膜の外面が曲面になっている構成としてもよい。
【0042】
上記構成によれば、ダイヤモンドライクカーボン膜又はガラス状カーボン膜からなる被膜は、摺接粒子の摺接面周辺部の周りを覆い、かつ摺接粒子の摺接面周辺部から側面に至る角部に対応する部分の外面が曲面になっている。したがって、摺動部材の摺接面の円滑性をさらに向上し、角部による被摺動部材への攻撃性を緩和することができる。
【0043】
上記被膜の膜厚は、被膜の効果を十分に発揮させるために、5μm〜10μmとすることが好ましい。
【0044】
摺接粒子の少なくとも一部が被膜にて被覆されている場合であり、かつ、摺接粒子の先端、すなわち粒子摺接面の少なくとも一部が被膜にて被覆されている場合には、摺接粒子の突出高さは、固定層の表面から当該被膜の先端までの高さとなる。
【0045】
<被膜の形成方法>
摺接粒子の少なくとも一部がダイヤモンドライクカーボン膜(以下、DLC膜とも称する)にて被覆されている摺接粒子は、摺接粒子にDLC膜をコーティングすることにより調整することができる。DLC膜のコーティング方法としては、真空あるいは大気圧におけるプラズマを用いた蒸着技術による手法、および有機溶媒などの液中から炭素膜を電気的に析出させる手法などが知られている。現在は、真空装置を用いた蒸着法によるコーティング法が主流である。
【0046】
真空装置を用いた蒸着法によるDLC膜のコーティング方法は、炭素供給源として固体炭素を用いる手法と炭化水素系の原料を用いる手法とに大別される。固体炭素(グラファイト)を炭素供給源とする手法としては、アークイオンプレーティング、非平衡マグネトロンスパッタリングおよびフィルタードアークイオンプレーティングが知られている。また、炭化水素系ガス(CH、C、C等)を炭素供給源とする手法としては、高周波プラズマCVD、パルス方式直流プラズマCVD、イオン化蒸着およびプラズマイオン注入・成膜が知られている。
【0047】
摺接粒子の少なくとも一部がガラス状カーボン膜にて被覆されている摺接粒子は、摺接粒子に熱硬化性樹脂を主成分とするガラス状カーボン用樹脂組成物を塗布し、硬化した後、不活性雰囲気中または真空下で焼成炭化することにより調整することができる。
【0048】
〔2.摺動部材の製造方法〕
本発明の一実施形態に係る摺動部材の製造方法(以下、単に「製造方法」とも称する)は、摺動部材基部の外表面上へ摺接粒子の原料粒子を固定する工程と、上記原料粒子の平均粒子径に対して20%以上30%以下の高さ分、当該原料粒子を加工して粒子摺接面を形成する工程とを含み、上記原料粒子は、粒径範囲が当該原料粒子の平均粒子径の±20%以内である。上記構成によれば、原料粒子の粒子径が揃っているため、耐剥離性に優れた摺接粒子を備える摺動部材を提供することができる。また、摺接粒子ごとの摺接面積および埋め込み率を揃えることができるため、摺動部材が被摺動部材と摺接するときの、被摺動部材に対する面圧が所定の範囲内となる。これにより、摺動部材と被摺動部材とが摺接するときの摺接粒子の偏摩耗を抑えることができ、かつ、被摺動部材の摩耗を抑えることができる。
【0049】
<摺接粒子の原料粒子の固定方法>
本発明の一実施形態における、摺動部材基部10aの外表面上への摺接粒子10bの原料粒子の固定は、電着、ロウ付け、スパークプラズマ焼結(Spark Plasma Sintering)(以下、SPSという)を用いて行うことができる。各固定方法について、以下に説明する。
【0050】
(電着を用いた固定方法)
摺動部材基部10aの表面上への摺接粒子10bの原料粒子の固定は、周知の電着の方法で行うことができる。例えば、摺動部材基部10aの表面上に、摺接粒子10bの原料粒子を配置する。その後、所望の埋め込み率となるようにニッケルメッキ液を流し込み、ニッケルメッキ液中で通電する。摺動部材基部10aの表面にニッケルメッキが施され、それに伴って、摺接粒子10bの原料粒子がニッケルメッキ膜にある程度埋め込まれ、摺動部材基部10a上に固定される。
【0051】
または、例えば、外表面以外の面をマスキングした摺動部材基部10aを、摺接粒子10bの原料粒子を含むニッケルメッキ液の中に配置する。その後、電解法によりニッケルメッキ液中で通電することにより、摺動部材基部10aの外表面にニッケルメッキ膜が施されるとともに、ニッケルメッキ液中の摺接粒子10bの原料粒子がニッケルメッキ膜にある程度埋め込まれ、摺動部材基部10a上に固定される。尚、電着に用いるメッキ液としては、他の金属や合金によるメッキ液を用いてもよい。
【0052】
(ロウ付けによる固定方法)
摺動部材基部10aの表面上への摺接粒子10bの原料粒子の固定は、周知のロウ付けにより行うことができる。
【0053】
例えば、まず、摺動部材基部10aの表面上に、摺接粒子10bの原料粒子を配置する。次に、摺接粒子10bの原料粒子をニッケルメッキ等によって点付固定する。その後、Ni-Cr-B-SiまたはCu-Ag-In-Ti等からなるロウ材粉末のペーストを塗布し、ロウ材の融点以上に加熱する。これにより、摺接粒子10bの原料粒子がロウ材に埋め込まれ、摺動部材基部10a上に固定される。
【0054】
(SPSを用いた固定方法)
まず、摺動部材基部10a上に摺接粒子10bの原料粒子を配置し、その後SPS装置にて、例えば950℃、30MPaの条件下で加圧成形を行う。摺動部材基部10a上に保持されなかった他の摺接粒子10bの原料粒子は、除圧後に除去することによって摺接粒子10bを摺動部材基部10a上に固定することができる。
【0055】
<摺接粒子の原料粒子の加工方法>
本発明の一実施形態において、摺動部材基部10a上に固定された摺接粒子10bの原料粒子は、原料粒子の平均粒子径に対して20%以上30%以下の高さ分、加工され、粒子摺接面12が形成される。
【0056】
摺接粒子10bを軸部材の外周面に形成した場合、摺接粒子10bにおける粒子摺接面12が同一円周上となるように原料粒子が加工されることにより、部材間摺接面13が形成される。すなわち、摺動部材基部10aの回転中心軸から、最外にある粒子摺接面12までの距離を等しくして、摺接粒子10bの粒子摺接面12が同一円周上にあるようにする。
【0057】
スラスト軸受において摺接粒子10bを形成した場合、粒子摺接面12が、摺動部材基部10aの表面の垂直方向から見たときに、同一平面状となるように原料粒子が加工されることにより、部材間摺接面13が形成される。
【0058】
原料粒子をこのように加工する方法としては、ダイヤモンドや、炭化珪素等の砥石で研削する、放電加工により研削する、研磨材を用いて研磨するといった方法を用いることができる。本発明の一実施形態における摺接粒子10bの原料粒子のような高硬度な材料を加工する方法として、適当なものを選択すればよい。
【0059】
本発明の一実施形態に係る製造方法は、摺動部材基部の外表面上へ摺接粒子の原料粒子を固定する工程および上記原料粒子を加工して粒子摺接面を形成する工程以外の工程を含んでいてもよく、例えば、埋め込み率を調整するための追加のメッキを行う工程、埋め込み部を加工する工程及び表面処理する工程等が挙げられる。
【0060】
〔3.ポンプ〕
本発明の一実施形態に係るポンプは、本発明の一実施形態に係る摺動部材を備える。本発明の一実施形態に係る摺動部材は、耐剥離性に優れる摺接粒子を備えるため、本発明の一実施形態に係るポンプを長時間安定的に稼働させることができる。
【0061】
上記ポンプとしては、例えば、図4に示すようなスラリー液を排出可能な立軸斜流ポンプ装置が挙げられる。立軸斜流ポンプ装置81は、ケーシング82の下端に吸込口83を有する。ケーシング82内には回転自在な主軸84が挿通されており、主軸84の下端に羽根車85が設けられている。ケーシング82の上部には、主軸84を回転駆動させる駆動装置86(電動機)が設けられている。主軸84は滑り軸受装置87によって回転自在に支持されている。
【0062】
図4および図5に示すように、主軸84は軸本体84aと軸受箇所において軸本体84aに外嵌された円筒状のスリーブ84b(摺動部材の一例)とで構成され、滑り軸受装置87は、スリーブ84bの外周面に摺接する軸受88と、軸受88の周囲に設けられたハウジング89と、軸受88とハウジング89との間に設けられた円筒形状の緩衝用ゴム90とを有している。ハウジング89は、金属製の円筒形状の部材であり、ケーシング82内に設けられた固定部材91に固定されている。
【0063】
軸受88は、円筒状の軸受シェル93と軸受体94(被摺動部材の一例)とで構成されている。摺接粒子94の内周面とスリーブ84bの外周面とが摺接する。なお、スリーブ84bに、本発明の一実施形態における固定層および基材が備えられる。
【0064】
これによると、主軸84が所定の回転方向に回転すると、スリーブ84bの外周面が軸受体94の内周面に摺接する。この際、滑り軸受装置87は、回り止めされ、主軸84と共回りすることはない。
【0065】
上記立軸斜流ポンプ装置81は先行待機運転を行うものであり、揚水を行う揚水運転と、揚水を行わない待機運転とに切り替え可能である。本発明の一実施形態に係る摺動部材は、自揚水による潤滑作用が発揮されず、滑り軸受装置87に対する主軸84の摺動抵抗が増大するドライ状態での待機運転時に効果を発揮するものである。
【0066】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0067】
(耐剥離性試験)
後述の方法で製造された摺動部材から、50mm×50mm×5mmの電着ダイヤテストピースを切り出した。当該電着ダイヤテストピースとφ5mm×5mmL(摺動する先端はφ3mm)のハイス鋼製ピンとを用いて加圧力20kg/mm、周速0.1m/secの条件で回転試験を30分間実施し、摩擦試験後のテストピースの表面を確認した。電着して形成された複数の摺接粒子がテストピースの表面から脱落しない場合を「○」、電着して形成された複数の摺接粒子がテストピースの表面から脱落する場合を「×」と評価した。なお、摩擦摩耗試験機は、株式会社エー・アンド・デイ製の型式EFM−3−Hを用いた。
【0068】
(実施例1)
100mm×50mm×5mmtのSUS304基材の表面に、表1に記載のダイヤモンド粒子(1)をNi、Ni−P等で電着固定後、粒子の先端部分を平均粒子径の20%の高さ分研削した。加工後、埋め込み率および摺接面積と投影面積との比率(以下、「A値」とも称する)を、レーザー顕微鏡を使い測定した。
【0069】
「埋め込み率の評価」
後述するA値の算出と同様に8カ所単位表面を設定し、1mm×1mm角の視野で突出高さを測定し、8カ所で得られた測定値の平均値を算出した。そして、最大粒子径および最小粒子径と研削量の数値とを使い、埋め込み率の最小値と最大値とを算出した。
【0070】
「摺接面積と投影面積との比率の評価」
製造した摺動部材の100×50mmの面から均等に8カ所単位表面(1mm×1mm)を設定し、レーザー顕微鏡(製品名:VK-9700、キーエンス社製)を使い、各単位表面を観察し、顕微鏡写真を撮影した。当該写真に基づいて、それぞれA値を算出し、8カ所において算出されたA値の平均値を得た。
【0071】
(実施例2)
研削量を平均粒子径の30%にした以外は実施例1と同様にして摺動部材を製造した。
【0072】
(比較例1)
研削量を平均粒子径の40%にした以外は実施例1と同様にして摺動部材を製造した。
【0073】
(実施例3)
表1に記載のダイヤモンド粒子(4)を用いた以外は実施例1と同様にして摺動部材を製造した。
【0074】
(実施例4)
研削量を平均粒子径の30%にした以外は実施例3と同様にして摺動部材を製造した。
【0075】
(比較例2)
表1に記載のダイヤモンド粒子(2)を用いた以外は実施例1と同様にして摺動部材を製造した。
【0076】
(比較例3)
研削量を平均粒子径の30%にした以外は比較例2と同様にして摺動部材を製造した。
【0077】
(比較例4)
表1に記載のダイヤモンド粒子(3)を用いた以外は実施例1と同様にして摺動部材を製造した。
【0078】
(比較例5)
研削量を平均粒子径の30%にした以外は比較例4と同様にして摺動部材を製造した。
【0079】
摺動部材の製造条件、算出されたA値、および耐剥離性評価の結果を表2に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
表1に記載されている通り、粒子(1)および粒子(2)は、粒径範囲が原料粒子の平均粒子径の±20%以内であるが、粒子(3)および粒子(4)は、粒径範囲が原料粒子の平均粒子径の±20%を超える。表2に示すように、実施例1〜4からは、原料粒子の粒径範囲が原料粒子の平均粒子径の±20%以内であり、かつ、A値が0.6以上0.95以下である摺動部材は、耐剥離性に優れた摺接粒子を有していることがわかる。一方、比較例1からは、原料粒子の粒径範囲が原料粒子の平均粒子径の±20%以内であっても、A値が0.95を超える摺動部材は、耐剥離性が劣る摺接粒子を有していることがわかる。さらに、比較例2〜5からは、A値が0.6以上0.95以下であっても、原料粒子の粒径範囲が上記原料粒子の平均粒子径の±20%を超える摺動部材は、耐剥離性が劣る摺接粒子を有していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、ポンプ、例えば先行待機運転ポンプに好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0084】
1A 軸・軸受構造
10 軸部材
10a 摺動部材基部
10b 摺接粒子
11 軸受部材
12 粒子摺接面
13 部材間摺接面
31 投影部分
図1
図2
図3
図4
図5