特許第6640043号(P6640043)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6640043テトラフルオロプロペンをベースにした超臨界熱伝達流体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6640043
(24)【登録日】2020年1月7日
(45)【発行日】2020年2月5日
(54)【発明の名称】テトラフルオロプロペンをベースにした超臨界熱伝達流体
(51)【国際特許分類】
   F25B 1/00 20060101AFI20200127BHJP
   C09K 5/04 20060101ALI20200127BHJP
【FI】
   F25B1/00 396Z
   F25B1/00 396U
   C09K5/04 E
   C09K5/04 F
【請求項の数】17
【外国語出願】
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-131348(P2016-131348)
(22)【出願日】2016年7月1日
(62)【分割の表示】特願2014-527716(P2014-527716)の分割
【原出願日】2012年7月12日
(65)【公開番号】特開2016-217697(P2016-217697A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2016年7月26日
【審判番号】不服2018-9905(P2018-9905/J1)
【審判請求日】2018年7月19日
(31)【優先権主張番号】1157622
(32)【優先日】2011年8月30日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ラシェッド, ウィサム
【合議体】
【審判長】 山崎 勝司
【審判官】 紀本 孝
【審判官】 塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−126523(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/099058(WO,A1)
【文献】 特表2008−544072(JP,A)
【文献】 特表2014−504323(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/037073(WO,A1)
【文献】 特開2009−300023(JP,A)
【文献】 特開2011−38054(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/061084(WO,A1)
【文献】 米国特許第6065305(US,A)
【文献】 特開2011−126522(JP,A)
【文献】 特開2010−175164(JP,A)
【文献】 特表2013−504642(JP,A)
【文献】 Yukihiro Higashi、”THERMOPHYSICAL PROPERTIES OF HFO−1234yf AND HFO−1234ze(E)”、2010 International Symposium on Next−generation Air Conditioning and Refrigeration Technology、2010年2月17日、p.1−8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも50%の1,3,3,3−または2,3,3,3−テトラフルオロプロペンを含む熱伝達流体を収容した蒸気圧縮回路によって、流体または物体を加熱する方法であって、蒸気圧縮回路における最大圧力が25から85バールであり、熱伝達流体の蒸発と、熱伝達流体の圧縮と、熱伝達流体の冷却と、熱伝達流体の膨張とを順次かつ周期的に行うことを含み、熱伝達流体が、圧縮の終了時に超臨界状態にあり、加熱される流体または物体が、120℃以上の温度で加熱される、方法。
【請求項2】
加熱される流体または物体が、130℃以上の温度で加熱される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
冷却中に、熱伝達流体が、加熱される流体もしくは物体または熱交換流体と熱を交換し、熱交換中の加熱される流体もしくは物体または熱交換流体の温度の上昇は、10℃以上である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
熱伝達流体が、1,3,3,3−テトラフルオロプロペンからなる、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
熱伝達流体が、2,3,3,3−テトラフルオロプロペンからなる、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
熱伝達流体が、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、ジフルオロメタン、1,1−ジフルオロエタンおよび1,1,1,2,2−ペンタフルオロエタンから選択される、一または複数のハイドロフルオロカーボンも含む、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
熱伝達流体が、潤滑剤、安定剤、界面活性剤、トレーサ、蛍光剤、付臭剤、可溶化剤、およびそれらの混合物から選択される一または複数の添加剤と組み合わせられる、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
蒸発器と、圧縮機と、膨張弁と、冷却装置とを備える蒸気圧縮回路を具備し、蒸気圧縮回路内に少なくとも50%の1,3,3,3−または2,3,3,3−テトラフルオロプロペンを含む熱伝達流体も収容し、蒸気圧縮回路における最大圧力が25から85バールであり、熱伝達流体が、前記回路の少なくとも一部において超臨界状態にあり、流体または物体を、120℃以上の温度で加熱するのに好適な、ヒートポンプ装置。
【請求項9】
熱伝達流体が、1,3,3,3−テトラフルオロプロペンからなる、請求項8に記載のヒートポンプ装置。
【請求項10】
熱伝達流体が、2,3,3,3−テトラフルオロプロペンからなる、請求項8に記載のヒートポンプ装置。
【請求項11】
熱伝達流体が、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、ジフルオロメタン、1,1−ジフルオロエタンおよび1,1,1,2,2−ペンタフルオロエタンから選択される1つまたは複数のハイドロフルオロカーボンも含む、請求項8に記載のヒートポンプ装置。
【請求項12】
流体または物体を、130℃以上の温度で加熱するのに好適な、請求項8から11のいずれか一項に記載のヒートポンプ装置。
【請求項13】
流体または物体を加熱するための、少なくとも50%の1,3,3,3−または2,3,3,3−テトラフルオロプロペンを含む、超臨界状態にあるテトラフルオロプロペンの熱伝達流体としての使用であって、蒸気圧縮回路における最大圧力が25から85バールであり、流体または物体が、120℃以上の温度で加熱される、使用。
【請求項14】
流体または物体が、130℃以上の温度で加熱される、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
テトラフルオロプロペンが、1,3,3,3−テトラフルオロプロペンおよび/または2,3,3,3−テトラフルオロプロペンである、請求項13または14のいずれかに記載の使用。
【請求項16】
テトラフルオロプロペンが、別の熱伝達化合物と組み合わせられることなく使用される、請求項13から15のいずれか一項に記載の使用。
【請求項17】
テトラフルオロプロペンが、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、ジフルオロメタン、1,1−ジフルオロエタンおよび1,1,1,2,2−ペンタフルオロエタンから選択される一または複数の他のハイドロフルオロカーボン熱伝達化合物と組み合わせて使用される、請求項13から15のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートポンプ装置との関連での、超臨界状況におけるテトラフルオロプロペンをベースにした熱伝達流体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ化炭素化合物をベースとする流体は、蒸気圧縮熱伝達システム、特に、空気調節、ヒートポンプ、冷蔵または冷凍装置において広く使用されている。これらの装置の共通の特色は、低圧での流体の気化(流体が熱を吸収する);高圧まででの気化流体の圧縮;高圧での気化流体から液体への凝縮(流体が熱を放出する);およびサイクルを完了するための流体の膨張を含む、熱力学サイクルをベースとしていることである。
【0003】
熱伝達流体(純粋化合物であっても化合物の混合物であってもよい)の選択は、第一に流体の熱力学的特性によって、第二に付加的制約によって左右される。故に、特に重要な基準は、検討中の流体の環境影響のものである。特に、塩素付加化合物(クロロフルオロカーボンおよびハイドロクロロフルオロカーボン)は、オゾン層を損傷するという不利点を有する。したがって、現在は、ハイドロフルオロカーボン、フルオロエーテルおよびフルオロオレフィン等の非塩素付加化合物が概して好ましい。
【0004】
現在使用されている熱伝達流体よりも低い地球温暖化係数(GWP)を有し、同等のまたは改善された性能レベルを呈する他の熱伝達流体を開発することも依然として必要である。
【0005】
慣習的に、高温ヒートポンプに使用される熱伝達流体はCFC−114(1,2−ジクロロテトラフルオロエタン)であった。この用途において提案されているもう1つの塩素付加熱伝達流体は、HCFC−123(2,2−ジクロロ−1,1,1−トリフルオロエタン)であった。
【0006】
上記で想起した環境的制約を考慮して、高温ヒートポンプのためのCFC−114またはHCFC−123の代わりとして、種々のハイドロフルオロカーボンをベースとする熱伝達流体、例えばHFC−245fa(1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン)を他の化合物との混合物として含有する流体が提案されてきた。これに関しては、米国特許第6814884号明細書、国際公開第2010/081990号パンフレット、国際公開第2011/015737号パンフレットおよび国際公開第2011/033200号パンフレットを挙げることができる。
【0007】
しかしながら、より低いGWPを有し、より良好なエネルギー性能レベルを呈する流体で動作する高温ヒートポンプを提供することが必要である。
【0008】
その上、超臨界状況において熱伝達流体を使用することは、公知の慣習である。
【0009】
特に、COが超臨界状況において使用される自動車用空調システムについて記述している文献、国際公開第2008/034828号パンフレットを挙げることができる。
【0010】
他の文献では、電流を発生させるための超臨界状況(ランキンサイクル)において熱伝達流体を使用している。これは、使用される化合物が、CO、n−ペンタンおよびいくつかのハイドロフルオロカーボンである文献、国際公開第2007/131281号パンフレットにおいて当てはまる。また、使用される化合物がハイドロフルオロカーボンまたはアンモニアである文献、米国特許第6964168号明細書においても当てはまる。加えて、使用される化合物が、ハイドロフルオロカーボンもしくはアンモニアまたはその他のハイドロクロロフルオロカーボンでもある文献、国際公開第96/27739号パンフレットにおいても当てはまる。
【0011】
その上、ハイドロフルオロオレフィン、特にHFO−1234yf(2,3,3,3−テトラフルオロプロペン)およびHFO−1234ze(1,3,3,3−テトラフルオロプロペン)は、熱伝達用途等に使用され得る低GWPを持つ化合物であることも公知である。文献米国特許第2004/0256594号明細書、国際公開第2005/105947号パンフレットおよび国際公開第2007/002625号パンフレットは、清掃、生物学的物質の抽出、または触媒の堆積等、非常に特定の用途のための超臨界状況におけるハイドロフルオロオレフィンの使用に言及している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第6814884号明細書
【特許文献2】国際公開第2010/081990号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2011/015737号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2011/033200号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2008/034828号パンフレット
【特許文献6】国際公開第2007/131281号パンフレット
【特許文献7】米国特許第6964168号明細書
【特許文献8】国際公開第96/27739号パンフレット
【特許文献9】米国特許第2004/0256594号明細書
【特許文献10】国際公開第2005/105947号パンフレット
【特許文献11】国際公開第2007/002625号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、上記で強調した通り、より低いGWPを有し、より良好なエネルギー性能レベルを呈する流体で動作する高温ヒートポンプを提供することが依然として必要である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、第一に、テトラフルオロプロペンを含む熱伝達流体を収容した蒸気圧縮回路によって、流体または物体を加熱する方法であって、熱伝達流体の蒸発と、熱伝達流体の圧縮と、熱伝達流体の冷却と、熱伝達流体の膨張とを順次かつ周期的に行うことを含み、熱伝達流体は、圧縮の終了時に超臨界状態にある、方法に関する。
【0015】
一実施形態によれば、加熱される流体または物体は、100℃以上、好ましくは110℃以上、より詳細には120℃以上、特に好ましくは130℃以上の温度で加熱される。
【0016】
一実施形態によれば、冷却中に、熱伝達流体は、加熱される流体もしくは物体または熱交換流体と熱を交換し、好ましくは、熱交換中の加熱される流体もしくは物体または熱交換流体の温度の上昇は、10℃以上、好ましくは20℃以上、より詳細には30℃以上、特に好ましくは40℃以上である。
【0017】
一実施形態によれば、熱伝達流体は、1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを含む、または1,3,3,3−テトラフルオロプロペンからなる。
【0018】
一実施形態によれば、熱伝達流体は、2,3,3,3−テトラフルオロプロペンを含む、または2,3,3,3−テトラフルオロプロペンからなる。
【0019】
一実施形態によれば、熱伝達流体は、少なくとも50%のテトラフルオロプロペン、好ましくは少なくとも75%、より詳細には少なくとも90%のテトラフルオロプロペンを含む。
【0020】
一実施形態によれば、熱伝達流体は、好ましくは1,1,1,2−テトラフルオロエタン、ジフルオロメタン、1,1−ジフルオロエタンおよび1,1,1,2,2−ペンタフルオロエタンから選択される1つまたは複数のハイドロフルオロカーボンも含む。
【0021】
一実施形態によれば、熱伝達流体は、潤滑剤、安定剤、界面活性剤、トレーサ、蛍光剤、付臭剤、可溶化剤、およびそれらの混合物から選択される1つまたは複数の添加剤と組み合わせられる。
【0022】
その上、本発明は、蒸発器と、圧縮機と、膨張弁と、冷却装置とを備える蒸気圧縮回路を具備し、および蒸気圧縮回路内にテトラフルオロプロペンを含む熱伝達流体も収容し、熱伝達流体は、前記回路の少なくとも一部において超臨界状態にある、ヒートポンプ装置に関する。
【0023】
一実施形態によれば、熱伝達流体は、1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを含む、または1,3,3,3−テトラフルオロプロペンからなる。
【0024】
一実施形態によれば、熱伝達流体は、2,3,3,3−テトラフルオロプロペンを含む、または2,3,3,3−テトラフルオロプロペンからなる。
【0025】
一実施形態によれば、熱伝達流体は、少なくとも50%のテトラフルオロプロペン、好ましくは少なくとも75%、より詳細には少なくとも90%のテトラフルオロプロペンを含む。
【0026】
一実施形態によれば、熱伝達流体は、好ましくは1,1,1,2−テトラフルオロエタン、ジフルオロメタン、1,1−ジフルオロエタンおよび1,1,1,2,2−ペンタフルオロエタンから選択される1つまたは複数のハイドロフルオロカーボンも含む。
【0027】
一実施形態によれば、上述の装置は、流体または物体を、100℃以上、好ましくは110℃以上、より詳細には120℃以上、特に好ましくは130℃以上の温度で加熱するのに好適である。
【0028】
本発明は、流体または物体を加熱するための、超臨界状態でのテトラフルオロプロペンの使用にも関する。
【0029】
一実施形態によれば、流体または物体は、100℃以上、好ましくは110℃以上、より詳細には120℃以上、特に好ましくは130℃以上の温度で加熱される。
【0030】
一実施形態によれば、テトラフルオロプロペンは、1,3,3,3−テトラフルオロプロペンおよび/または2,3,3,3−テトラフルオロプロペンである。
【0031】
一実施形態によれば、テトラフルオロプロペンは、別の熱伝達化合物と組み合わせられることなく使用される。
【0032】
一実施形態によれば、テトラフルオロプロペンは、好ましくは1,1,1,2−テトラフルオロエタン、ジフルオロメタン、1,1−ジフルオロエタンおよび1,1,1,2,2−ペンタフルオロエタンから選択される1つまたは複数の他のハイドロフルオロカーボン熱伝達化合物と組み合わせて使用される。
【0033】
本発明は、先行技術において感じられていた必要性を満たすことを可能にする。本発明は、より詳細には、先行技術のものよりも低いGWPを有し、良好なエネルギー性能レベルを呈する流体で動作する高温ヒートポンプを提供する。
【0034】
本発明は、CFC−114、HCFC−123またはHFC−245faで動作する高温ヒートポンプの、特に有利な代替を提供する。
【0035】
本発明は、特に、先行技術の公知の類似用途よりも低いGWP、高い性能係数および高い容積を得ることを可能にする。
【0036】
CO等、熱伝達のための超臨界状況において慣習的に使用される流体と比較して、本発明は、はるかに低い圧力で動作することを可能にし、これは、装置に使用される材料への極めて低い応力を暗示している。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】亜臨界状況においてHCFC−123で動作するヒートポンプ(x軸に沿ってエンタルピーkJ/kg、y軸に沿って温度℃)の熱力学サイクルを表す。
図2】超臨界状況においてHFO−1234yfで動作する、本発明によるヒートポンプ(x軸に沿ってエンタルピーkJ/kg、y軸に沿って温度℃)の熱力学サイクルを表す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
ここで、次の記述において、本発明をさらに詳細にかつ非限定的な様式で記述する。
【0039】
別段の言及がない限り、本願全体を通して、指示されている化合物の割合は、重量百分率として記される。
【0040】
本特許出願によれば、地球温暖化係数(GWP)は、「The scientific assessment of ozone depletion,2002,a report of the World Meteorological Association’s Global Ozone Research and Monitoring Project」において指示されている方法に従って、二酸化炭素に対しておよび100年の期間に対して定義される。
【0041】
用語「熱伝達化合物」またはそれぞれ「熱伝達流体」(または冷却剤流体)は、蒸気圧縮回路において、低温および低圧で蒸発させることによって熱を吸収すること、ならびに高温および高圧で凝縮させることによって熱を放出することができる化合物またはそれぞれ流体を意味するように意図されている。概して、熱伝達流体は、1つのみ、2つ、3つまたは3つ超の熱伝達化合物を含んでもよい。
【0042】
用語「熱伝達組成物」は、熱伝達流体と、場合により意図されている用途のための熱伝達化合物ではない1つまたは複数の添加剤とを含む組成物を意味する。
【0043】
添加剤は、特に、潤滑剤、安定剤、界面活性剤、トレーサ、蛍光剤、付臭剤および可溶化剤から選択することができる。
【0044】
安定剤(複数可)は、存在する場合、好ましくは、熱伝達組成物中5質量%以下に相当する。安定剤の中でも、特に、ニトロメタン、アスコルビン酸、テレフタル酸、トルトリアゾールまたはベンゾトリアゾール等のアゾール、トコフェロール等のフェノール化合物、ハイドロキノン、t−ブチルハイドロキノン、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、n−ブチルグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテルまたはブチルフェニルグリシジルエーテル等のエポキシド(場合によりフッ素化もしくは過フッ素化アルキル、またはアルケニルもしくは芳香族)、亜リン酸塩、ホスホン酸塩、チオールおよびラクトンを挙げることができる。
【0045】
潤滑剤としては、特に、鉱物由来の油、シリコーン油、天然由来のパラフィン、ナフテン、合成パラフィン、アルキルベンゼン、ポリ−アルファ−オレフィン、ポリアルケングリコール、ポリオールエステルおよび/またはポリビニルエーテルを使用することができる。
【0046】
トレーサ(検出できるもの)としては、重水素化または非重水素化ハイドロフルオロカーボン、重水素化炭化水素、ペルフルオロカーボン、フルオロエーテル、ブロモ化合物、ヨード化合物、アルコール、アルデヒド、ケトン、亜酸化窒素およびそれらの組み合わせを挙げることができる。トレーサは、熱伝達流体を構成している熱伝達化合物(複数可)とは異なる。
【0047】
言及され得る可溶化剤の例は、炭化水素、ジメチルエーテル、ポリオキシアルキレンエーテル、アミド、ケトン、ニトリル、クロロカーボン、エステル、ラクトン、アリールエーテル、フルオロエーテルおよび1,1,1−トリフルオロアルカンを包含する。可溶化剤は、熱伝達流体を構成している熱伝達化合物(複数可)とは異なる。
【0048】
言及され得る蛍光剤は、ナフタルイミド、ペリレン、クマリン、アントラセン、フェナントラセン、キサンテン、チオキサンテン、ナフトキサンテンおよびフルオレセイン、ならびにそれらの誘導体および組み合わせを包含する。
【0049】
言及され得る付臭剤は、アクリル酸アルキル、アクリル酸アリル、アクリル酸、アクリル酸エステル、アルキルエーテル、アルキルエステル、アルキン、アルデヒド、チオール、チオエーテル、ジスルフィド、アリルイソチオシアネート、アルカン酸、アミン、ノルボルネン、ノルボルネン誘導体、シクロヘキセン、複素環式芳香族化合物、アスカリドールおよびo−メトキシ(メチル)フェノール、ならびにそれらの組み合わせを包含する。
【0050】
本発明による熱伝達方法は、上記で定義した通りの熱伝達組成物を含有する蒸気圧縮回路を備える装置の使用をベースとしている。
【0051】
蒸気圧縮回路は、少なくとも1つの蒸発器、圧縮機、凝縮器(超臨界状況における冷却装置としても公知である)および膨張弁、ならびに、これらの構成要素間で熱伝達流体を輸送するためのラインも備える。蒸発器および凝縮器(または冷却装置)は、熱伝達流体と別の流体または物体との間で熱を交換するための熱交換器を備える。
【0052】
本発明は、より具体的には、加熱方法に関する。故に、熱は、熱伝達流体から(直接的にまたは熱交換流体を介して間接的に)、後者の凝縮中に、加熱されている流体または物体へ産出され、これは、環境に対して比較的高い温度で起こる。故に、熱を伝導するための装置は、「ヒートポンプ」として公知である。
【0053】
圧縮機としては、特に、単段もしくは多段遠心圧縮機または遠心小型圧縮機を使用することができる。回転、ピストンまたはスクリュー圧縮機も使用することができる。圧縮機は、電気モーターによって、またはガスタービンによって、またはギアによって駆動することができる。
【0054】
本発明の文脈において、熱伝達流体は、蒸気圧縮回路内で超臨界状況において使用される、すなわち、超臨界状態を少なくとも1回、特に圧縮の終わり/圧縮機から出る際に経験する。超臨界状態は、流体がその臨界温度を上回る温度およびその臨界圧力を上回る圧力の場合に得られる。超臨界状態の流体は、気体状態と液体状態との間の中間の物理的特性を有する。
【0055】
図1を参照すると、ヒートポンプ用の蒸気圧縮回路における慣習的なサイクル(亜臨界、逆ヒルンサイクル(reverse Hirn cycle)と称される)は、比較的低い圧力における液相(または液体/蒸気二相系)から気相への熱伝達流体の状態の変化(蒸発)、続いて比較的高い圧力までの気相における流体の圧縮、比較的高い圧力における気相から液相への熱伝達流体の状態の変化(凝縮)、およびサイクルを再開するための圧力の低減(膨張)を含む。
【0056】
そのようなサイクルにおいて、熱伝達流体は、臨界温度を下回る温度および/または臨界圧力を下回る圧力のままである。故に、流体は、サイクル全体を通して液体状態および/または蒸気状態である。
【0057】
図2を参照すると、本発明の文脈において使用される超臨界サイクルは、圧縮の終わりにおいて熱伝達流体が超臨界(液体でも蒸気でもない)状態である点で異なる。該流体は、冷却装置として公知の熱交換器において、冷却ステップ中に液体状態に戻る。膨張の、および蒸発の終わりに、亜臨界サイクルの場合と同じく液体が(部分的に)気体状態に移行する。したがって、流体蒸発温度は、臨界温度を下回る。
【0058】
本発明による装置は、場合により、熱伝達流体回路と加熱される流体または物体との間に、熱を(状態変化を伴ってまたは伴わずに)伝送するために使用される少なくとも1つの熱交換流体回路も備えてもよい。
【0059】
装置は、場合により、同一のまたは異なる熱伝達流体を含有する2つ(以上)の蒸気圧縮回路も備えてもよい。例えば、蒸気圧縮回路を一緒に連結してもよい。
【0060】
本発明による熱伝達流体の実装のための任意の種類の熱交換器、特に、並流熱交換器または好ましくは向流熱交換器を使用することが可能である。
【0061】
本発明の文脈において使用される熱伝達流体は、テトラフルオロプロペンを含む組成物である。
【0062】
テトラフルオロプロペンは、HFO−1234yfもしくはHFO−1234zeまたはそれらの混合物であってもよい。HFO−1234zeに関しては、シスまたはトランス形態であってもよいし、これら2つの形態の混合物の形態であってもよい。
【0063】
HFO−1234yfは、34バールの臨界圧力で95℃の臨界温度を有する。HFO−1234zeは、36バールの臨界圧力で110℃の臨界温度を有する。したがって、これらの化合物は、高温ヒートポンプ内で超臨界状況において使用するのに非常に好適である。
【0064】
一実施形態によれば、本発明において使用される熱伝達流体は、1つまたは複数の補助熱伝達化合物を含んでもよい。
【0065】
これらの付加的な熱伝達化合物は、特に、炭化水素、ハイドロフルオロカーボン、エーテル、ハイドロフルオロエーテルおよびフルオロオレフィンから選択され得る。
【0066】
特定の実施形態によれば、本発明による熱伝達流体は、上記で定義した通りの熱伝達組成物を形成するために潤滑油と組み合わせた、三元組成物(3つの熱伝達化合物からなる)または四元組成物(4つの熱伝達化合物からなる)であってもよい。
【0067】
補助熱伝達化合物が存在する場合、上記の熱伝達流体中におけるそれらの合計割合は、50%、または45%、または40%、または35%、または30%、または25%、または20%、または15%、または10%、または5%、または2%以下であるのが好ましい。
【0068】
考えられる補助熱伝達化合物の例としては、HFC−134a(1,1,1,2−テトラフルオロエタン)、HFC−152a(1,1−ジフルオロエタン)、HFC−125(1,1,1,2,2−ペンタフルオロエタン)およびHFC−32(ジフルオロメタン)を挙げることができる。故に、熱伝達流体としては、HFO−1234yfおよびHFC−134aの;またはHFO−1234zeおよびHFC−134aの;またはHFO−1234yfおよびHFC−32の;またはHFO−1234zeおよびHFC−32の;またはHFO−1234yfおよびHFC−152aの;またはHFO−1234zeおよびHFC−152aの;またはHFO−1234yfおよびHFC−125の;またはHFO−1234zeおよびHFC−125の混合物を(好ましくは二元混合物で)使用することができる。
【0069】
概して、検討中の熱伝達流体の臨界温度は、検討中の流体または物体を加熱するための所望温度を下回るべきである。
【0070】
しかしながら、低すぎる熱伝達流体臨界温度は、高い加熱温度を実現するために非常に高い圧力で作業しなくてはならないことを意味し、これは実装を極めて複雑にする。例えば、31℃の臨界温度(COの臨界温度)において、物体または流体を100℃に加熱することは、極めて高い圧力を使用することを意味する。
【0071】
結果として、熱伝達流体の臨界温度は、好ましくは75から160℃まで、より特に好ましくは90から120℃まで、理想的には95から110℃までである。
【0072】
上記で言及した二元熱伝達流体の事例において、好ましい配合は、下記である:
− 50から65%までのHFO−1234yfおよび35から50%までのHFC−134a、好ましくは53から58%までのHFO−1234yfおよび42から47%までのHFC−134a(例えば、およそ56%のHFO−1234yfおよび44%のHFC−134a);
− 15から90%までのHFO−1234yfおよび10から85%までのHFC−32;
− 90から99%までのHFO−1234yfおよび1から10%までのHFC−152a、好ましくは93から97%までのHFO−1234yfおよび3から7%までのHFC−152a(例えば、およそ95%のHFO−1234yfおよびおよそ5%のHFC−152a);
− 90から99%までのHFO−1234yfおよび1から10%までのHFC−125、好ましくは93から97%までのHFO−1234yfおよび3から7%までのHFC−125(例えば、およそ95%のHFO−1234yfおよびおよそ5%のHFC−125);
− 65から85%までのHFO−1234zeおよび15から35%までのHFC−134a、好ましくは70から80%までのHFO−1234zeおよび20から30%までのHFC−134a(例えば、およそ75%のHFO−1234zeおよび25%のHFC−134a);
− 80から98%までのHFO−1234zeおよび2から20%までのHFC−32、好ましくは85から95%までのHFO−1234zeおよび5から15%までのHFC−32(例えば、およそ90%のHFO−1234zeおよび10%のHFC−32);
− 90から99%までのHFO−1234zeおよび1から10%までのHFC−152a、好ましくは93から97%までのHFO−1234zeおよび3から7%までのHFC−152a(例えば、およそ95%のHFO−1234zeおよびおよそ5%のHFC−152a);
− 90から99%までのHFO−1234zeおよび1から10%までのHFC−125、好ましくは93から97%までのHFO−1234zeおよび3から7%までのHFC−125(例えば、およそ95%のHFO−1234zeおよびおよそ5%のHFC−125)。
【0073】
別の実施形態によれば、熱伝達流体は、HFO−1234yfおよび/またはHFO−1234zeから本質的になる、あるいはさらにHFO−1234yfおよび/またはHFO−1234zeからなる。
【0074】
そのような熱伝達流体中には、不純物が、1%未満、好ましくは0.5%未満、好ましくは0.1%未満、好ましくは0.05%未満、好ましくは0.01%未満の割合で存在し得る。
【0075】
特定の実施形態によれば、熱伝達流体中におけるHFO−1234yfの割合は、0.1から5%まで;または5から10%まで;または10から15%まで;または15から20%まで;または20から25%まで;または25から30%まで;または30から35%まで;または35から40%まで;または40から45%まで;または45から50%まで;または50から55%まで;または55から60%まで;または60から65%まで;または65から70%まで;または70から75%まで;または75から80%まで;または80から85%まで;または85から90%まで;または90から95%まで;または95から99.9%までであってもよい。
【0076】
特定の実施形態によれば、熱伝達流体中におけるHFO−1234zeの割合は、0.1から5%まで;または5から10%まで;または10から15%まで;または15から20%まで;または20から25%まで;または25から30%まで;または30から35%まで;または35から40%まで;または40から45%まで;または45から50%まで;または50から55%まで;または55から60%まで;または60から65%まで;または65から70%まで;または70から75%まで;または75から80%まで;または80から85%まで;または85から90%まで;または90から95%まで;または95から99.9%までであってもよい。
【0077】
有利にも、本発明の文脈において使用される熱伝達流体は、ASHRAE34−2007規格の意義の範囲内で非可燃性であり、好ましくは100℃ではなく60℃の試験温度を用いる。
【0078】
本発明は、高温加熱方法、すなわち、好ましくは、加熱される流体または物体の温度が、100℃以上、例えば、110℃以上または120℃以上または130℃以上であり、かつ好ましくは160℃以下である該方法に適用される。
【0079】
好ましくは、蒸気圧縮回路における最大圧力は、25から85バールまで、好ましくは25から60バールまでである。
【0080】
本発明は、特に、下記の分野において適用され得る:
− 好ましくは130から150℃の温度における、食品、例えば牛乳の加熱および滅菌;
− 好ましくは105から135℃の温度における加熱を伴う、特に化学工業、製紙工業、都市加熱における、加圧下での水蒸気の生成;
− 低温放出熱回収、例えば、50から90℃の温度での放出熱の回収により、100から150℃の温度で加熱することによる、工業プロセスの文脈における熱の生成。
【0081】
一実施形態によれば、(冷却装置として公知の熱交換器における)熱伝達流体との熱の交換中に加熱される流体または物体の温度の上昇は、10℃以上、好ましくは20℃以上、より詳細には30℃以上、特に好ましくは40℃以上である。加熱される流体または物体が熱伝達流体と直接的には熱を交換せず、少なくとも1つの熱交換流体を介する場合、上記の好ましい温度の上昇は、(冷却装置として公知の熱交換器における)熱交換流体の温度の上昇であると理解されたい。この実施形態は、最大効率を得ることを可能にする。
【実施例】
【0082】
例は、本発明を限定することなく例証するものである。
【0083】
レフロップ(Refrop)ソフトウェアにおいて利用可能な熱伝達化合物についてのデータを使用して、エネルギー性能レベルの評価をそれぞれ行った:
(A)40℃における低温熱放出で、熱流体を70℃の初期温度から120℃の最終温度に加熱するための、亜臨界状況(図1による)においてCFC−114、HFC−245faまたはHCFC−123で動作するヒートポンプのもの;
(B)同じ熱流体を加熱するための、超臨界状況(図2による)においてHFO−1234yfまたはHFO−1234zeで動作するヒートポンプのもの。
【0084】
亜臨界サイクル(A)は、80℃の蒸発器内の温度、140℃の凝縮温度、10℃の過熱、50℃の過冷却および60%の等エントロピー効率で動作する。
【0085】
超臨界サイクル(B)は、80℃の蒸発器内の温度、90℃の冷却装置を出る際の温度(50℃の過冷却と同等)、10℃の過熱および60%の等エントロピー効率で動作する。
【0086】
得られた結果を下記の表に記す:

【0087】
この表において、CETは圧縮機出口温度を示し、EVEPは膨張弁入口圧力を示し、PEは蒸発器内の圧力を示し、CRは圧縮比を示し、COPは性能係数を示し、CAPは圧縮された単位質量当たりの加熱容量を示し、%CAPは容積対CFC−114の基準容積の比を示す。
図1
図2