(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含有する導電性複合体と、ポリビニルアルコールと、バインダ成分と、前記導電性複合体を分散させる分散媒とを含有する導電性高分子分散液をフィルム基材の少なくとも一方の面に塗工し、乾燥させて、導電性フィルムを得る導電性フィルム作製工程、
前記導電性フィルムを、凹部又は凸部が形成されるように成形する成形工程と、を有する、帯電防止性成形体の製造方法。
前記ポリエステル樹脂が、ジカルボン酸成分とジグリコール成分との重縮合物であり、前記ジカルボン酸成分は、スルホン酸アルカリ金属塩型の置換基を有するジカルボン酸を含み、前記ジグリコール成分は、ジエチレングリコールを含む、請求項2に記載の帯電防止性成形体の製造方法。
前記導電性フィルム作製工程における塗工の際には、押出成形により前記フィルム基材を連続作製しながら、そのフィルム基材に導電性高分子分散液を連続塗工する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の帯電防止性成形体の製造方法。
前記導電性フィルム作製工程における塗工の際には、前記フィルム基材の両面に前記導電性高分子分散液を同時に塗工する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の帯電防止性成形体の製造方法。
前記導電性フィルム作製工程における塗工の際には、前記フィルム基材の一方の面に前記導電性高分子分散液を塗工した後、巻き取ることなく、前記フィルム基材の他方の面に前記導電性高分子分散液を塗工する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の帯電防止性成形体の製造方法。
前記分散媒が水を含有し、前記分散媒における水の含有割合を分散媒の総質量に対して80質量%以上とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の帯電防止性成形体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<帯電防止性成形体>
本発明の一態様における帯電防止性成形体の製造方法により得られる帯電防止性成形体は、導電性フィルムに1つ以上の凹部が形成されたものである。凹部には、電子部品等の、静電気破壊が起こりやすい部品が好適に収容される。本態様の帯電防止性成形体は静電気が生じにくいから、電子部品の静電気破壊を防止でき、また、埃の付着も防止できる。
帯電防止性成形体に形成される凹部の寸法は、収容する部品に応じて決められる。
【0010】
帯電防止性成形体は、JIS K6911に従って測定した表面抵抗値は1×10
10Ω/□以下であることが好ましい。表面抵抗値が前記上限値以下であれば、帯電防止性を有しているといえる。帯電防止性成形体の表面抵抗値は1×10
9Ω/□以下であることがより好ましく、1×10
8Ω/□以下であることがさらに好ましい。
一方、容易に実用できる点からは、帯電防止成形体の表面抵抗値は1×10
2Ω/□以上であることが好ましい。
【0011】
本態様における帯電防止性成形体においては、帯電圧が100V以下であることが好ましく、50V以下であることがより好ましい。帯電圧が前記上限値以下であれば、充分な帯電防止性を有し、前記帯電防止性成形体を電子部品収納用トレイとした場合には、収納する電子部品等の故障や汚染を防止できる。
帯電圧は、表面電位測定器を用いて測定することができる。
【0012】
本態様における帯電防止性成形体は、透明なものでもよいし、不透明なものでもよく、用途に応じて適宜選択される。
透明なものである場合には、全光線透過率が65%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましい。全光線透過率が65%以上であれば、帯電防止性成形体を電子部品の収納に用いた場合、目視又はカメラによって電子部品の収納物の状態を検査できる。
全光線透過率は、JIS K 7136に準じて測定した値である。
【0013】
(導電性フィルム)
図1に示すように、帯電防止性成形体を構成する導電性フィルム10は、フィルム基材1と、フィルム基材の少なくとも一方の面に形成された導電層2とを備えるフィルムである。
【0014】
[フィルム基材]
フィルム基材としては、プラスチックフィルムを用いることができる。
プラスチックフィルムを構成する樹脂材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ゴム強化ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、非晶性ポリエチレンテレフタレート等のポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリアリレート、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリカーボネート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなどが挙げられる。これらの樹脂材料の中でも、成形性、強度及びコストの点から、非晶性ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン(ゴムを含まないポリスチレン)、ゴム強化ポリスチレン、ポリプロピレンのいずれかが好ましく、非晶性ポリエチレンテレフタレートがより好ましい。
プラスチックフィルムは未延伸のフィルムでもよいし、一軸延伸のフィルムでもよいし、二軸延伸のフィルムでもよい。機械的物性に優れる点では、プラスチックフィルムは二軸延伸のフィルムが好ましい。
また、プラスチックフィルムは、導電性高分子分散液から形成される導電層の密着性を向上させるために、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理等の表面処理が施されてもよい。
【0015】
導電性高分子分散液を塗工するフィルム基材の平均厚さとしては、10μm以上2000μm以下であることが好ましく、50μm以上1500μm以下であることがより好ましい。フィルム基材の平均厚みが前記下限値以上であれば、破断しにくくなり、前記上限値以下であれば、フィルムとして充分な可撓性を確保できる。
本明細書における平均厚さは、任意の10箇所について厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【0016】
[導電層]
導電層は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、ポリビニルアルコールと、バインダ樹脂とを含む。
導電層の平均厚さとしては、10nm以上5000nm以下であることが好ましく、20nm以上1000nm以下であることがより好ましく、30nm以上500nm以下であることがさらに好ましい。導電層の平均厚さが前記下限値以上であれば、充分に高い導電性を発揮でき、前記上限値以下であれば、導電層を容易に形成できる。
【0017】
π共役系導電性高分子としては、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であれば本発明の効果を有する限り特に制限されず、例えば、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリフェニレン系導電性高分子、ポリフェニレンビニレン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリアセン系導電性高分子、ポリチオフェンビニレン系導電性高分子、及びこれらの共重合体等が挙げられる。空気中での安定性の点からは、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン系導電性高分子及びポリアニリン系導電性高分子が好ましく、透明性の面から、ポリチオフェン系導電性高分子がより好ましい。
【0018】
ポリチオフェン系導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3−エチルチオフェン)、ポリ(3−プロピルチオフェン)、ポリ(3−ブチルチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルチオフェン)、ポリ(3−オクチルチオフェン)、ポリ(3−デシルチオフェン)、ポリ(3−ドデシルチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルチオフェン)、ポリ(3−ブロモチオフェン)、ポリ(3−クロロチオフェン)、ポリ(3−ヨードチオフェン)、ポリ(3−シアノチオフェン)、ポリ(3−フェニルチオフェン)、ポリ(3,4−ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4−ジブチルチオフェン)、ポリ(3−ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3−メトキシチオフェン)、ポリ(3−エトキシチオフェン)、ポリ(3−ブトキシチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3−デシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ブテンジオキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−メトキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−エトキシチオフェン)、ポリ(3−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルチオフェン)が挙げられる。
ポリピロール系導電性高分子としては、ポリピロール、ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(3−メチルピロール)、ポリ(3−エチルピロール)、ポリ(3−n−プロピルピロール)、ポリ(3−ブチルピロール)、ポリ(3−オクチルピロール)、ポリ(3−デシルピロール)、ポリ(3−ドデシルピロール)、ポリ(3,4−ジメチルピロール)、ポリ(3,4−ジブチルピロール)、ポリ(3−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルピロール)、ポリ(3−ヒドロキシピロール)、ポリ(3−メトキシピロール)、ポリ(3−エトキシピロール)、ポリ(3−ブトキシピロール)、ポリ(3−ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール)が挙げられる。
ポリアニリン系導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリ(2−メチルアニリン)、ポリ(3−イソブチルアニリン)、ポリ(2−アニリンスルホン酸)、ポリ(3−アニリンスルホン酸)が挙げられる。
上記π共役系導電性高分子の中でも、導電性、透明性、耐熱性の点から、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。
前記π共役系導電性高分子は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
[ポリアニオン]
ポリアニオンとは、アニオン基を有するモノマー単位を、分子内に2つ以上有する重合体である。このポリアニオンのアニオン基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能して、π共役系導電性高分子の導電性を向上させる。
ポリアニオンのアニオン基としては、スルホ基、またはカルボキシ基であることが好ましい。
このようなポリアニオンの具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリ(4−スルホブチルメタクリレート)、ポリメタクリルオキシベンゼンスルホン酸等のスルホン酸基を有する高分子や、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリルカルボン酸、ポリメタクリルカルボン酸、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸、ポリアクリル酸等のカルボン酸基を有する高分子が挙げられる。これらの単独重合体であってもよいし、2種以上の共重合体であってもよい。
これらポリアニオンのなかでも、帯電防止性をより高くできることから、スルホン酸基を有する高分子が好ましく、ポリスチレンスルホン酸がより好ましい。
前記ポリアニオンは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ポリアニオンの質量平均分子量は2万以上100万以下であることが好ましく、10万以上50万以下であることがより好ましい。
本明細書における質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィで測定し、標準物質をポリスチレンとして求めた値である。
【0020】
導電性複合体中の、ポリアニオンの含有割合は、π共役系導電性高分子100質量部に対して1質量部以上1000質量部以下の範囲であることが好ましく、10質量部以上700質量部以下であることがより好ましく、100質量部以上500質量部以下の範囲であることがさらに好ましい。ポリアニオンの含有割合が前記下限値未満であると、π共役系導電性高分子へのドーピング効果が弱くなる傾向にあり、導電性が不足することがあり、また、導電性高分子分散液における導電性複合体の分散性が低くなる。一方、ポリアニオンの含有量が前記上限値を超えると、π共役系導電性高分子の含有量が少なくなり、やはり充分な導電性が得られにくい。
【0021】
ポリアニオンが、π共役系導電性高分子に配位してドープすることによって導電性複合体を形成する。
ただし、本態様におけるポリアニオンにおいては、全てのアニオン基がπ共役系導電性高分子にドープすることはなく、ドープに寄与しない余剰のアニオン基を有するようになっている。
【0022】
(ポリビニルアルコール)
ポリビニルアルコールは、導電性複合体及び水分散性樹脂の分散剤として機能すると共に、後述する成形時の導電層の延伸性を向上させる機能も有する。
ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルのアセチル基をけん化することによって製造されるが、一部のアセチル基がけん化されないことがある。そのため、ポリビニルアルコールは、酢酸ビニル単位を含むことがある。本態様で用いるポリビニルアルコールのけん化度は、けん化する前のアセチル基の総モル数に対して70モル%以上100モル%以下であることが好ましい。ここで「けん化度」とは、アセチル基が水酸基にけん化された割合を意味する。ポリビニルアルコールのけん化度が前記下限値以上であれば、水に簡単に溶解させることができる。
ポリビニルアルコールの質量平均分子量は、1000以上100000以下であることが好ましく、1300以上60000以下であることがより好ましい。ポリビニルアルコールの質量平均分子量が前記下限値以上であれば、導電層の常温延伸性を充分に向上させることができ、前記上限値以下であれば、水への溶解性を向上させることができる。
ポリビニルアルコールの重合度は、100〜5000が好ましく、500〜3000がより好ましい。
【0023】
導電層におけるポリビニルアルコールの含有割合は、導電層の総質量100質量%に対して、0.1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。ポリビニルアルコールの含有割合が前記下限値以上であれば、導電層の延伸性をより高くなっており、前記上限値以下であれば、導電性の低下を抑制できる。
【0024】
(バインダ樹脂)
バインダ樹脂は、導電性複合体のバインダとして機能し、導電層の形成を容易にするものである。
バインダ樹脂の具体例としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、酢酸ビニル樹脂等が挙げられる。バインダ樹脂は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
バインダ樹脂のなかでも、帯電防止性成形体の製造が容易になることから、酸基のアルカリ金属塩を有するポリエステル樹脂(以下、「酸基含有ポリエステル樹脂」という。)とグリシジル基含有アクリル系樹脂とが架橋した樹脂が好ましい。
【0025】
前記酸基含有ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分とジグリコール成分との重縮合物であって、酸基(スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基等)のアルカリ金属塩を有するポリエステル樹脂である。この酸基含有ポリエステル樹脂は極性が大きいため、後述する導電性高分子分散液中での分散性に優れ、乳化剤や安定剤を使用しなくても水中に安定に分散できる。
【0026】
前記ジカルボン酸成分としては、フタル酸、テレフタル酸、テレフタル酸ジメチル、イソフタル酸、イソフタル酸ジメチル、2,5−ジメチルテレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、オールソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸及び、ドデカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、並びにシクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸等が挙げられる。ジカルボン酸は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記ジカルボン酸成分は、スルホン酸基がアルカリ金属によって中和されたスルホン酸アルカリ金属塩型の置換基(−SO
3−X
+、ただし、Xはアルカリ金属イオンである。)を有するジカルボン酸を含むことが好ましい。
【0027】
スルホン酸アルカリ金属塩型の置換基を有するジカルボン酸は、スルホン酸基を有するジカルボン酸におけるスルホン酸基がアルカリ金属塩にされた化合物である。
スルホン酸基を有するジカルボン酸としては、スルホテレフタル酸、5−スルホイソフタル酸、4−スルホイソフタル酸、4−スルホナフタレン酸−2,7−ジカルボン酸、またはそれらの誘導体等が挙げられる。アルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。
スルホン酸アルカリ金属塩型の置換基を有するジカルボン酸としては、5−スルホイソフタル酸のナトリウム塩及びその誘導体が好ましい。
【0028】
ジカルボン酸成分における、スルホン酸アルカリ金属塩型の置換基を有するジカルボン酸以外のジカルボン酸成分としては、芳香族ジカルボン酸が好ましく、テレフタル酸、イソフタル酸がより好ましい。芳香族ジカルボン酸の芳香核は、疎水性のプラスチックとの親和性が大きく、フィルム基材に対する密着性が高く、また、耐加水分解性に優れる。
【0029】
スルホン酸アルカリ金属塩型の置換基を有するジカルボン酸は、全ジカルボン酸成分の総質量に対し、6モル%以上20モル%以下含有することが好ましく、10モル%以上18モル%以下含有することがさらに好ましい。スルホン酸アルカリ金属塩型の置換基を有するジカルボン酸の含有割合が前記下限値以上であれば、酸基含有ポリエステル樹脂の、水に対する樹脂の分散時間を短くでき、前記上限値以下であれば、酸基含有ポリエステル樹脂の耐水性がより高くなる。
【0030】
酸基含有ポリエステル樹脂を形成するジグリコール成分としては、ジエチレングリコール、炭素数2以上8以下の脂肪族または炭素数6以上12以下の脂環族グリコール等が挙げられる。炭素数2以上8以下の脂肪族または炭素数6以上12以下の脂環族グリコールの具体例としては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,6−ヘキサンジオール、p−キシリレングリコール、トリエチレングリコールなどが挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ジグリコール成分は、耐水性をより向上させることから、ジエチレングリコールを含むことが好ましい。
【0031】
酸基含有ポリエステル樹脂は、数平均分子量が2,000以上30,000以下であることが好ましく、2,500以上25,000以下であることがより好ましい。数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィにより測定し、標準ポリスチレンを基に求めた値である。
酸基含有ポリエステル樹脂の数平均分子量が前記下限値以上であれば、酸基含有ポリエステル樹脂の耐水性がより高くなり、前記上限値以下であれば、酸基含有ポリエステル樹脂の水分散性がより高くなる。
【0032】
酸基含有ポリエステル樹脂の製造方法としては特に制限されず、例えば、ジカルボン酸成分とジグリコール成分とを130℃以上200℃以下でエステル化あるいはエステル交換反応させ、次に減圧条件下において200℃以上250℃以下で重縮合反応させる方法が挙げられる。前記酸基含有ポリエステル樹脂の製造方法において用いられる反応触媒としては、酢酸亜鉛、酢酸マンガン等の酢酸金属塩、酸化アンチモン、酸化ゲルマニウム等の金属酸化物、チタン化合物などが挙げられる。
得られた酸基含有ポリエステル樹脂は、水に添加して水分散体としてもよい。酸基含有ポリエステル樹脂の水分散体は、固形分濃度が高くなると、均一分散体が得られにくくなるため、ポリエステル固形分濃度は30質量%以下が好ましい。
【0033】
グリシジル基含有アクリル系樹脂は、グリシジル基を有するアクリル系樹脂である。グリシジル基含有アクリル系樹脂は、グリシジル基含有ラジカル重合性不飽和モノマーの単独重合体、あるいは、グリシジル基含有ラジカル重合性不飽和モノマーと前記モノマーと共重合可能な他のラジカル重合性不飽和モノマーとの共重合体である。
【0034】
グリシジル基含有ラジカル重合性不飽和モノマーとしては、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル類が挙げられる。グリシジル基含有ラジカル重合性不飽和モノマーは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
グリシジル基含有ラジカル重合性不飽和モノマーの含有割合は、全モノマーの総質量に対し10質量%以上100質量%以下であることが好ましく、20質量%以上100質量%以下であることがより好ましい。
グリシジル基含有アクリル系樹脂は、グリシジル基含有ラジカル重合性不飽和モノマー単位を有することによって、自己架橋を促進し、耐水性を向上させると考えられる。
【0035】
グリシジル基含有ラジカル重合性不飽和モノマーと共重合可能な他のラジカル重合性不飽和モノマーとしては、ビニルエステル、不飽和カルボン酸エステル、不飽和カルボン酸アミド、不飽和ニトリル、不飽和カルボン酸、アリル化合物、含窒素系ビニルモノマー、炭化水素ビニルモノマーまたはビニルシラン化合物が挙げられる。他のラジカル重合性不飽和モノマーは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
他のラジカル重合性不飽和モノマーとしては、グリシジル基との架橋によって耐水性の向上効果が一層発揮されることから、アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和カルボン酸モノマーを用いることが好ましい。
不飽和カルボン酸モノマーの含有割合は全モノマーの総質量に対し5質量%以上20質量%以下であることが好ましい。不飽和カルボン酸モノマーの含有割合が前記下限値以上であれば、不飽和カルボン酸モノマーを併用する効果が充分に発揮され、前記上限値以下であれば、経時的に液がゲル化して貯蔵安定性が低下することを抑制できる。
【0036】
グリシジル基含有アクリル系樹脂の製造方法としては特に限定なく、例えば、グリシジル基含有アクリル系樹脂を構成するモノマーを乳化重合することによってグリシジル基含有アクリル系樹脂を製造できる。
乳化重合によるグリシジル基含有アクリル系樹脂の製造では、例えば、反応槽にイオン交換水、重合開始剤、界面活性剤を仕込み、次に滴下槽にイオン交換水と界面活性剤を仕込み、モノマーを投入して乳化物を作製した後、前記乳化物を反応槽に滴下することによって乳化ラジカル重合させる。反応温度は60℃以上100℃以下とすることが好ましく、反応時間は4時間以上10時間以下とすることが好ましい。
乳化重合に使用する界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、ノニオン系反応性界面活性剤及び非反応性界面活性剤の1種もしくは2種以上を使用することができる。
乳化重合に使用する重合開始剤としては一般的なラジカル重合性開始剤、例えば過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等の水溶性過酸化物、又は過酸化ベンゾイルやt−ブチルハイドロパーオキサイド等の油溶性過酸化物、あるいはアゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物などが挙げられる。
【0037】
バインダ樹脂の含有割合は、導電性複合体の固形分100質量部に対して、100質量部以上10000質量部以下であることが好ましく、100質量部以上5000質量部以下であることがより好ましく、100質量部以上1000質量部以下であることがさらに好ましい。バインダ樹脂の含有割合が前記下限値以上であれば、製膜性と膜強度を向上させることができる。しかし、バインダ樹脂の含有割合が前記上限値を超えると、導電性複合体の含有割合が低下するため、導電性が低下することがある。
【0038】
導電層は、導電性をより向上させるために、導電性向上剤を含んでもよい。
具体的に、導電性向上剤は、窒素含有芳香族性環式化合物、2個以上のヒドロキシ基を有する化合物、2個以上のカルボキシ基を有する化合物、1個以上のヒドロキシ基および1個以上のカルボキシ基を有する化合物、アミド基を有する化合物、イミド基を有する化合物、ラクタム化合物、グリシジル基を有する化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である。
これら化合物の具体例は、例えば、特開2010−87401号公報に記載されている。ただし、導電性向上剤は、前記π共役系導電性高分子、前記ポリアニオン、前記ポリビニルアルコール、前記バインダ樹脂以外の化合物である。
導電性向上剤の中でも、導電性向上の効果が高く、成形時の導電層の延伸性低下を抑制できることから、ヒドロキシ基を2つ有する直鎖状化合物であるグリコールが好ましく、プロピレングリコールがより好ましい。
【0039】
導電性向上剤の含有割合は導電性複合体の合計質量に対して1倍量以上1000倍量以下であることが好ましく、2倍量以上100倍量以下であることがより好ましい。導電性向上剤の含有割合が前記下限値以上であれば、導電性向上剤添加による導電性向上効果が充分に発揮され、前記上限値以下であれば、π共役系導電性高分子濃度の低下に起因する導電性の低下を防止できる。
【0040】
(添加剤)
導電性高分子分散液には、公知の添加剤が含まれてもよい。
添加剤としては、本発明の効果を有する限り特に制限されず、例えば、界面活性剤、無機導電剤、消泡剤、カップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などを使用できる。ただし、添加剤は、前記ポリアニオン、前記ポリビニルアルコール、前記バインダ樹脂及び前記導電性向上剤以外の化合物からなる。
界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の界面活性剤が挙げられるが、保存安定性の面からノニオン系が好ましい。また、ポリビニルピロリドンなどのポリマー系界面活性剤を添加してもよい。
無機導電剤としては、金属イオン類、導電性カーボン等が挙げられる。なお、金属イオンは、金属塩を水に溶解させることにより生成させることができる。
消泡剤としては、シリコーン樹脂、ポリジメチルシロキサン、シリコーンオイル等が挙げられる。
カップリング剤としては、ビニル基、アミノ基、エポキシ基等を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、糖類、ビタミン類等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、オキサニリド系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0041】
<帯電防止性成形体の製造方法>
本発明の一態様における帯電防止性成形体の製造方法は、導電性フィルム作製工程と成形工程とを有する。
【0042】
(導電性フィルム作製工程)
本態様における導電性フィルム作製工程は、導電性高分子分散液をフィルム基材の少なくとも一方の面に塗工し、乾燥させて、導電性フィルムを得る工程である。
導電性高分子分散液を塗工するフィルム基材、すなわち成形前の平均厚みとしては、10μm以上2000μm以下であることが好ましく、50μm以上1500μm以下であることがより好ましい。フィルム基材の平均厚みが前記下限値以上であれば、破断しにくくなり、前記上限値以下であれば、フィルムとして充分な可撓性を確保できる。
【0043】
[導電性高分子分散液]
導電性高分子分散液は、導電性複合体と、ポリビニルアルコールと、バインダ成分と、前記導電性複合体を分散させる分散媒とを含有し、導電性高分子水分散液にポリビニルアルコール及びバインダ成分を添加することにより得られる。導電性高分子水分散液に、ポリビニルアルコール及びバインダ成分を添加した後には、攪拌して各成分を均一に分散させることが好ましい。また、導電性高分子分散液には、上記添加剤を添加してもよい。
ここで、導電性高分子水分散液は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含有する導電性複合体が水系分散媒に含まれる分散液のことであり、ポリアニオン水溶液中でπ共役系導電性高分子の前駆体モノマーを化学酸化重合により重合することにより得られる。
【0044】
導電性高分子水分散液に添加するバインダ成分は、樹脂であってもよいし、熱硬化性化合物又は活性エネルギー線硬化性化合物であってもよい。また、バインダ成分は、水分散性が高いことが好ましい。
本態様では、水分散性が高く、帯電防止性成形体の製造が容易になることから、バインダ成分として、酸基含有ポリエステル樹脂とグリシジル基含有アクリル系樹脂とを含むものが好ましい。
酸基含有ポリエステル樹脂とグリシジル基含有アクリル系樹脂とを含むバインダ成分は自己架橋性を有する。
バインダ成分が、酸基含有ポリエステル樹脂とグリシジル基含有アクリル系樹脂とを含む場合、酸基含有ポリエステル樹脂とグリシジル基含有アクリル系樹脂との固形分の合計を100質量%とした際、酸基含有ポリエステル樹脂の割合が10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることが好ましい。酸基含有ポリエステル樹脂の割合が10質量%以上、すなわちグリシジル基含有アクリル系樹脂が90質量%以下であると、フィルム基材への密着性、導電層の透明性が高くなり、酸基含有ポリエステル樹脂が80質量%以下、すなわちグリシジル基含有アクリル系樹脂が20質量以上であると、導電層の耐水性がより高くなる。
【0045】
本態様における分散媒は、水、又は、水と水溶性有機溶媒との混合物(以下、水系分散媒ともいう)が挙げられる。水系分散媒における水の含有割合は、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。一方、水系分散媒における水の含有割合は、95質量%以下であることが好ましい。すなわち、水系分散媒における水の含有割合は50質量%以上95質量%以下であることが好ましく、80質量%以上95質量%以下であることがより好ましい。
水溶性有機溶媒としては、溶解度パラメータが10以上の溶剤が挙げられ、例えば、1価アルコール溶媒、窒素原子含有極性溶媒、フェノール溶媒、多価脂肪族アルコール溶媒、カーボネート溶媒、エーテル溶媒、複素環化合物、ニトリル化合物等が挙げられる。
1価アルコール溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等が挙げられる。
窒素原子含有極性溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチレンホスホルトリアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド等が挙げられる。ニトリル化合物は窒素原子含有極性溶媒に含まれない。
フェノール溶媒としては、クレゾール、フェノール、キシレノール等が挙げられる。
多価脂肪族アルコール溶媒としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、イソプレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール等が挙げられる。
カーボネート溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等が挙げられる。
エーテル溶媒としては、ジオキサン、ジエチルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル等が挙げられる。
複素環化合物としては、3−メチル−2−オキサゾリジノン等が挙げられる。
ニトリル化合物としては、アセトニトリル、グルタロニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等が挙げられる。
これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよいし、2種類以上の混合物としてもよい。このうち、安定性の観点から、メタノール、エタノール、イソプロパノール、及びジメチルスルホキシドからなる群より選択される少なくとも1つが好ましい。
【0046】
導電性高分子分散液における分散媒の含有割合は、導電性高分子分散液の総質量100質量%に対して、50質量%以上90質量%以下であることが好ましく、70質量%以上90質量%以下であることがより好ましい。分散媒の含有割合が前記下限値以上であれば、各成分を容易に分散させて、塗工性を向上させることができ、前記上限値以下であれば、固形分濃度が高くなるため、1回の塗工で厚みを容易に確保できる。
【0047】
導電性高分子分散液におけるポリビニルアルコールの含有割合は、導電性高分子分散液の総質量100質量%に対して、0.01質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上5質量%以下であることがより好ましい。ポリビニルアルコールの含有割合が前記下限値以上であれば、得られる導電性フィルムの成形性をより高くでき、前記上限値以下であれば、導電性の低下を抑制できる。
バインダ成分の含有割合は、導電性複合体の固形分100質量部に対して、100質量部以上10000質量部以下であることが好ましく、100質量部以上5000質量部以下であることがより好ましく、100質量部以上1000質量部以下であることがさらに好ましい。バインダ成分の含有割合が前記下限値以上であれば、製膜性と膜強度を向上させることができる。しかし、バインダ成分の含有割合が前記上限値を超えると、導電性複合体の含有割合が低下するため、導電性が低下することがある。
導電性高分子分散液に上記添加剤を添加する場合、導電性高分子分散液における添加剤の添加量は、添加剤の種類に応じて適宜決められるが、通常、導電性複合体の固形分100質量部に対して、0.001質量部以上5質量部以下の範囲内である。
【0048】
導電性高分子分散液を塗工する方法としては、例えば、グラビアコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター、スピンコーター、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、ファウンテンコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、キャストコーター、スクリーンコーター等のコーターを用いた塗工方法、エアスプレー、エアレススプレー、ローターダンプニング等の噴霧器を用いた噴霧方法、ディップ等の浸漬方法等を適用することができる。
上記のうち、簡便に塗工できることから、バーコーターを用いることがある。バーコーターにおいては、種類によって塗工厚が異なり、市販のバーコーターでは、種類ごとに番号が付されており、その番号が大きい程、厚く塗工できるものとなっている。
前記混合液のフィルム基材への塗工量は特に制限されないが、固形分として、0.1g/m
2以上2.0g/m
2以下の範囲であることが好ましい。
【0049】
また、塗工の際には、フィルム基材の片面のみに導電性高分子分散液を塗工して導電層を形成してもよいし、フィルム基材の両面に導電性高分子分散液を塗工して導電層を形成してもよい。フィルム基材の両面に導電性高分子分散液を塗工する場合には、いわゆるワンパスで両面塗工してもよい。具体的には、フィルム基材の両面に導電性高分子分散液を同時に塗工してもよいし、フィルム基材の一方に導電性高分子分散液を塗工した後、巻き取ることなく、フィルム基材の他方の面に導電性高分子分散液を塗工してもよい。ワンパスでの両面塗工では、フィルム基材の両面に導電性高分子分散液を塗工するにもかかわらず生産性が高くなる。
【0050】
塗工は、いわゆるインライン塗工でもよい。すなわち、押出成形によりフィルム基材を連続作製しながら、そのフィルム基材に導電性高分子分散液を連続塗工してもよい。具体的には、フィルム基材を形成する樹脂を、Tダイを備えた押出成形機を用いて押出成形してフィルム基材を連続作製しながら、そのフィルム基材を巻き取ることなく、押出成形機の下流側に設けた塗工装置を用いて、作製されたフィルム基材に導電性高分子分散液を連続塗工してもよい。
【0051】
塗工した導電性高分子分散液を乾燥する方法としては、加熱乾燥、真空乾燥等が挙げられる。加熱乾燥としては、例えば、熱風加熱や、赤外線加熱などの通常の方法を採用できる。
乾燥工程における乾燥温度は、110℃以下であることが好ましく、40℃以上90℃以下であることが好ましく、50℃以上80℃以下であることがより好ましい。乾燥温度が110℃以下であれば、フィルム基材の軟化を防いでフィルム形状を維持できる。また、バインダ成分が酸基含有ポリエステル樹脂及びグリシジル基含有アクリル系樹脂を含む場合には、乾燥温度を110℃以下にすれば、架橋を抑制できる。
また、フィルム基材が非晶性ポリエステルからなる場合には、乾燥温度を110℃以下とすれば、ポリエステルの結晶化による白濁を抑制でき、成形体の透明性低下を防止できる。一方、乾燥温度が40℃以上であれば、フィルム送り速度が速くても充分に乾燥できる。
乾燥時間は10秒〜5分が好ましく、30秒〜2分がより好ましい。
また、乾燥後には、養生することが好ましい。養生しない場合には、乾燥直後の導電層は耐水性を充分に発揮しないことがある。
養生の条件は、乾燥後の導電性フィルムを20℃以上50℃以下の屋内で20時間以上放置することが好ましい。この条件で養生すれば、導電層の耐水性をより高くできる。
【0052】
(成形工程)
成形工程は、前記導電性フィルムを、凹部又は凸部が形成されるように成形する工程である。具体的には、真空成形、圧空成形、プレス成型等が挙げられるが、精度の高い成形体を作成できる点で、真空成形が好ましい。
【0053】
真空成形法では、導電性フィルムを凸型または凹型に密着させて凹部または凸部を形成する、いわゆる絞り成形をすることができる。帯電防止性成形体を、電子部品の収納に用いるトレイとする場合には、成形によって、電子部品の収納部となる凹部を形成する。
真空成形条件は、所望の凹部が容易に形成される条件に調整される。真空成形条件としては、成形温度、真空度等が挙げられる。
成形温度は、110℃超とすることが好ましく、120℃以上180℃以下とすることが好ましい。ここで、成形温度は、成形時の導電性フィルムの表面温度のことである。成形温度を110℃超とすれば、導電性フィルムを容易に成形できる。一方、成形温度を前記上限値以下とすれば、導電性フィルムの成形時の熱劣化を防ぐことができる。
真空度は、大気圧より低いことが好ましく、100kPa〜10
−5Paがより好ましい。
真空成形の際の延伸倍率には特に制限はなく、例えば、1倍以上10倍以下の範囲内で、目的の成形体の形状に応じて適宜選択される。
ここで延伸倍率は延伸前のフィルムの厚さ/延伸後のフィルムの厚さで算出できる。
【0054】
圧空成形法における成形温度は、110℃以上が好ましく、120〜180℃がより好ましい。
圧空成形法における圧力は、大気圧より高いことが好ましく、0.11〜1.0MPaがより好ましい。
【0055】
プレス成型法における成形温度は110℃以上が好ましく、120〜180℃がより好ましい。
【0056】
(作用効果)
本態様の帯電防止性成形体の製造方法では、成形に使用する導電性フィルムにおける導電層が、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体に加えてポリビニルアルコールを含有する。ポリビニルアルコールは、延伸性を向上させる効果を有するため、導電層にはπ共役系導電性高分子が含まれているにもかかわらず、導電性フィルムを成形する際、導電層を充分に延伸させることができる。そのため、延伸後の導電層は均一なものとなり、導電性の低下を防止でき、成形体の帯電防止性を高くすることができる。
したがって、本態様の帯電防止性成形体の製造方法によれば、π共役系導電性高分子を用いているにもかかわらず帯電防止性に優れた成形体を容易に製造できる。
【0057】
また、本態様の帯電防止性成形体の製造方法において、バインダ成分として酸基含有ポリエステル樹脂及びグリシジル基含有アクリル系樹脂を使用した場合、これらは、導電性高分子分散液の通常の乾燥温度(110℃以下)では、架橋しにくい。架橋された樹脂は延伸性が低いため、成形性を低下させるが、酸基含有ポリエステル樹脂及びグリシジル基含有アクリル系樹脂は乾燥後に架橋していないから、これらを含む導電層は成形性が高い。
また、成形においては、通常、110℃超の温度に加熱するため、乾燥時に架橋しなかった酸基含有ポリエステル樹脂とグリシジル基含有アクリル系樹脂を架橋させて硬化させることができる。したがって、膜強度及び耐水性が優れた導電層を容易に形成できる。
【実施例】
【0058】
(製造例1)
1000mlのイオン交換水に206gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃で攪拌しながら、予め10mlの水に溶解した1.14gの過硫酸アンモニウム酸化剤溶液を20分間滴下し、この溶液を12時間攪拌した。
得られたスチレンスルホン酸ナトリウム含有溶液に10質量%に希釈した硫酸を1000ml添加し、限外ろ過法によりポリスチレンスルホン酸含有溶液の約1000ml溶液を除去し、残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000ml溶液を除去した。上記の限外ろ過操作を3回繰り返した。さらに、得られたろ液に約2000mlのイオン交換水を添加し、限外ろ過法により約2000mlの溶液を除去した。
この限外ろ過操作を3回繰り返した。
得られた溶液中の水を減圧除去して、無色の固形状のポリスチレンスルホン酸を得た。
【0059】
(製造例2)
14.2gの3,4−エチレンジオキシチオフェンと、36.7gのポリスチレンスルホン酸を2000mlのイオン交換水に溶かした溶液とを20℃で混合させた。
これにより得られた混合溶液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64gの過硫酸アンモニウムと8.0gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とをゆっくり添加し、3時間攪拌して反応させた。
得られた反応液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000ml溶液を除去した。この操作を3回繰り返した。
そして、得られた溶液に200mlの10質量%に希釈した硫酸と2000mlのイオン交換水とを加え、限外ろ過法により約2000mlの溶液を除去し、これに2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000ml溶液を除去した。この操作を3回繰り返した。
さらに、得られた溶液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶液を除去した。この操作を5回繰り返し、1.2質量%のポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)水分散液(PEDOT−PSS水分散液)を得た。
【0060】
(実施例1)
PEDOT−PSS水分散液35gに水44.5gとプロピレングリコール5gとポリビニルアルコール(PVA210、クラレ社製、重合度1000)0.5gとバインダ成分(酸基のアルカリ金属塩を有する水分散ポリエステル樹脂とグリシジル基含有アクリル樹脂との混合物、ペスレジン645GH、高松油脂株式会社製、ガラス転移温度 55℃、固形分濃度30質量%)15gを混合して、導電性高分子分散液を得た。この導電性高分子分散液100質量%に対するPEDOT−PSS固形分濃度は0.42質量%、ポリビニルアルコールの固形分濃度は、0.50質量%であった。
前記導電性高分子分散液を、ゴム強化ポリスチレン(HIPS)フィルムの一方の面にNo.6のバーコーターを用いて塗布した後、70℃で30秒乾燥させて、導電層を形成することにより、導電性フィルムを得た。
次に、その導電性フィルムを、上型と凹部を備える下型を備える真空成形機を用いて真空成形した。具体的には、上型と下型とを開いた状態にて、導電性フィルムを上型と下型との間に配置し、上型のヒーターによって、フィルム表面温度を測定しながら加熱した。
フィルム表面温度が150℃に到達した後、下型を上型に向けて上昇させて導電性フィルムに押し当て、その状態のまま下型側から真空引きし、20秒間保持した。その後、40℃に冷却し、下型を下降させ、成形体を取り出した。
なお、成形体は、開口部の直径が100mmの円形で、深さが30mmの円筒状凹部を備えたものである。また、真空成形の際の成形倍率は3倍とした。
【0061】
(実施例2)
実施例1において水の量を44.75gに、PVA210の量を0.25g(ポリビニルアルコール固形分濃度0.25質量%)に変更したこと以外は実施例1と同様にして成形体を得た。
【0062】
(実施例3)
実施例1において水の量を44.25gに、PVA210の量を0.75g(ポリビニルアルコール固形分濃度0.75質量%)に変更したこと以外は実施例1と同様にして成形体を得た。
【0063】
(実施例4)
実施例1においてPVA210をPVA217(ポリビニルアルコール、株式会社クラレ製、重合度1700)に変更したこと以外は実施例1と同様にして成形体を得た。
【0064】
(実施例5)
実施例1においてPVA210をPVA224(ポリビニルアルコール、株式会社クラレ製、重合度2400)に変更したこと以外は実施例1と同様にして成形体を得た。
【0065】
(実施例6)
実施例1においてペスレジン645GHをプラスコートRZ−105(水分散ポリエステル、互応化学工業株式会社製、ガラス転移温度52℃、固形分濃度25質量%)に変更したこと以外は実施例1と同様にして成形体を得た。
【0066】
(実施例7)
実施例1においてPEDOT−PSS水分散液の量を70g(PEDOT−PSS固形分濃度0.84質量%)に、水の量を14.5gに変更したこと以外は実施例1と同様にして成形体を得た。
【0067】
(実施例8)
実施例1においてフィルム基材を、非晶性ポリエチレンテレフタレート(A−PET)フィルムに変更したこと以外は実施例1と同様にして成形体を得た。
【0068】
(実施例9)
実施例1においてフィルム基材を、ゴムを含まないポリスチレン(GPPS)フィルムに変更したこと以外は実施例1と同様にして成形体を得た。
【0069】
(実施例10)
実施例1においてフィルム基材をポリプロピレン(PP)フィルムに変更したこと以外は実施例1と同様にして成形体を得た。
【0070】
(実施例11)
実施例1においてプロピレングリコール(PPG)を添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして成形体を得た。
【0071】
(比較例1)
実施例1においてPVA210を添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして成形体を得た。
【0072】
(比較例2)
実施例11においてPVA210を添加しなかったこと以外は実施例11と同様にして成形体を得た。
【0073】
<評価>
各例における導電性フィルム及び成形体の表面抵抗値を、抵抗率計(三菱化学社製ローレスタもしくはハイレスタ)を用いて測定した。測定結果を表1に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
導電性複合体に加えてポリビニルアルコールを含む導電性高分子分散液を用いて作製した各実施例の成形体は、表面抵抗値が小さく、帯電防止性に優れていた。
導電性複合体を含むがポリビニルアルコールを含まない導電性高分子分散液を用いて作製した各比較例の成形体は、表面抵抗値が大きく、帯電防止性が低かった。各比較例では、導電性フィルムの状態では表面抵抗値が小さかったものの、成形後には、表面抵抗値が上昇した。これは、ポリビニルアルコールを含まない場合、導電性複合体を含む導電層の延伸性が低く、均一な層が形成されなかったためと推測される。