(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の木材の接合構造や木材の接合方法では、木材と金物の協働によって接合部位の強度が決定される。木材は、接合部に用いる金物と同様な強度を有しておらず、木材の繊維の異方性によって、木材の各部の強度に優劣が生じている。
そのため、特許文献1のように、ビスを用いて木材の割裂破壊や剪断破壊を防いだ場合、ビスで補強した部材に応力が集中し、めり込みや割裂が発生し、木材同士の接合強度、あるいは耐久強度を大きくすることは困難であった。
【0006】
そこで、本発明は、木材の接合強度や耐久強度を大きくすることができる木材の接合構造を提供することを目的とする。さらに、この木材接合構造を構築するための木材の接合方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の木材の接合構造は、木材同士を接合するものであって、木材に設けられる補強材と、補強材と木材との間に設けられる接着樹脂層と、木材に設けられる接続部材と、接続部材を木材に固定する固定部材とから構成され、前記補強材が固定部材から押圧されることで補強材に生じる応力が、接着樹脂層を介して木材に伝達されることを特徴とする。
【0008】
本発明の木材の接合構造は、補強材が木材ごとに備えられたことを特徴とする。
【0009】
本発明の木材の接合方法は、木材同士を接続部材と補強材によって接合する木材の接合方法であって、接着樹脂層によって、木材に補強材を固定する補強材固定工程と、この補強材固定工程後、固定部材で補強材を押しつけ、補強材に生じる応力を、接着樹脂層を介して木材に伝達させることで、接続部材を木材に固定する固定部材接合工程とを含むことを特徴とする。
【0010】
本発明の木材の接合方法では、固定部材は介在材を介して補強材を押し付けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の木材の接合構造は、固定部材から補強材に生じる応力を、接着樹脂層を介して木材に伝達できるため、木材に平面的に応力が加わる。そうすることで、接続部材の締め付け強度を大きくすることができることに加え、木材の欠点であるめり込み割裂を少なくすることができる。
したがって、木材同士の接合強度及び耐久強度を大きくすることができる。
【0012】
本発明の木材の接合方法は、木材同士を単純な接合とすることができ、他の補強部材や他の木製部材を使用しなくて済むため、複雑な構造とはならず、容易に木製の構造物を構築できる。そのため、この木材の接合方法は、現場での組み立て等の作業時間を短縮でき、コストをかけずに接合強度の大きい木材の接合構造を構築できる。
また、木材は自然材であるため力学特性は明確ではないが、本発明の木材の接合方法では、補強部材と接着樹脂層は工業製品であるため、力学特性を予め知ることができ、明確に応力伝達できる木材の接合構造を作製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[第一実施形態]
本実施形態に係る木材の接合構造を、
図1及び
図2を参照し、説明する。
この木材の接合構造は、木材同士を接合するものに使用でき、本実施形態では、木製の壁部材と壁部材とを接合する場合を例に、説明する。
本実施形態の木材の接合構造は、
図1に示すように、固定金具1を使用して、木製壁部材2の内部に構築されるものである。
この固定金具1は、
図2に示すように、2つの補強部材としての補強管6と、この補強管6の開口部にそれぞれ設けられる介在材としての座金9と、補強管6及び座金9の内部を貫通する接続部材としてのネジ棒8と、ネジ棒8を固定する固定部材としてのナット10を備えている。
固定金具1を正面視及び側面視した場合、この座金9は、一部が補強管6の縁を覆うように設けられる(
図2(a)、(b))。
【0015】
木材の接合構造は、
図1(a)に示すように、貫通孔3を有する木材としての第一木製壁部材4と第二木製壁部材5を接合し、貫通孔3に設けられる補強管6と、補強管6と貫通孔3との間に設けられる接着樹脂層7と、貫通孔3を介して木製壁部材2の内部に貫通して設けられるネジ棒8と、貫通孔3の外側に設けられ、ネジ棒8を木製壁部材2に固定する座金9とを備えている。
なお、木製壁部材2の幅方向を左右方向X、高さ方向を上下方向Y、奥行き方向を前後方向Zとする。
【0016】
木製壁部材2は、第一壁木製壁部材4と第二木製壁部材5とを備える。この第一木製壁部材4は、板材が複数積層されて、構成されたものである。この第一木製壁部材4の上下方向Yの略中間位置には、第一木製壁部材4の前後方向Zの表裏を貫通する孔が形成され、その孔の中間位置から、上下方向Yの下方向に向けて貫通孔3が形成されている。
なお、第二木製壁部材5は、第一木製壁部材4と同様な構成をとっている。
【0017】
補強管6は、中空円筒状であり、両端が開口している。補強管6には、例えば、ステンレス製や銅製のものを使用できる。
補強管6は、貫通孔3の内壁から所定の間隔空けて、設けられている。
補強管6の長さや内径は、貫通孔3の直径、所望の接続強度によって、適宜決定することができる。
【0018】
接着樹脂層7は、貫通孔3の内壁と補強管6との間に形成される隙間に充填され、この接着樹脂層7を介して、補強管6と第一木製壁部材4とが接着される(
図1(c))。
接着樹脂層7には、例えば、エポキシ系及びポリウレタン系の接着剤を使用することができる。この接着樹脂層7は、補強管6の周囲全体に設けられる。
【0019】
ネジ棒8は、金属製であり、第一木製壁部材4の貫通孔3の長さと第二木製壁部材5の貫通孔3長さとを足した長さよりも長く設計されている。ネジ棒8の直径は、補強管6の内径よりも小さく設計されている。
このネジ棒8の両端には、ナット10を取り付けるためのネジ溝が形成されている。
【0020】
座金9は、半円柱状の金属製の部材であり、平面部11と湾曲部12を有する(
図2(a))。この座金9には、平面部11から湾曲部12まで貫通された挿入孔が形成されている。座金9は半円柱状であるため、補強管6の一部に湾曲部12が当接される(
図2(a)、(b))。この湾曲部12の補強管6と当接する箇所は、平面状となっている。
座金9の挿入孔には、ネジ棒8が挿入され、このネジ棒8は平面部11側からナット10で締め付けられる。
【0021】
次に、本実施形態に係る木材の接合方法について、説明する。
本実施形態にかかる木材の接合方法は、接着樹脂層7によって、補強管6を第一木製壁部材4の貫通孔3及び第二木製壁部材5の貫通孔3に、それぞれ固定する補強管固定工程と、補強管固定工程後、補強管6を介して、ネジ棒8を第一木製壁部材4及び第二木製壁部材5に貫通させ、座金9を補強管6に向けて押し付けることで、ネジ棒8を木製壁部材2に固定する固定部材接合工程とを含む。
【0022】
[補強管固定工程]
補強管固定工程では、補強管6を、第一木製壁部材4の貫通孔3と第二木製壁部材5の貫通孔3の所定の位置に固定する。
まず、第一木製壁部材4及び第二木製壁部材5の貫通孔3に、それぞれ補強管6を設ける。この際、補強管6は、補強管6の先端が貫通孔3の開口面よりも僅かに内側となるように設けられる。
次に、貫通孔3の内壁と補強管6との間に形成された隙間に接着樹脂を充填する。接着樹脂を所定の硬化期間を経て、接着樹脂層7を形成させることにより、補強管6を貫通孔3にそれぞれ固定する。
その後、第一木製壁部材4の貫通孔3に固定された補強管6にネジ棒8を挿入し、座金9を介してナット10で仮固定する。
そして、第二木製壁部材5の貫通孔3にネジ棒8を挿入し、第二木製壁部材5と第一木製壁部材4を密着させる。
【0023】
[固定部材接合工程]
固定部材接合工程では、第一木製壁部材4と第二木製壁部材5をネジ棒8で接合する。
第一木製壁部材4と第二木製壁部材5を密着させた状態で、第二木製壁部材5の貫通孔3から突出しているネジ棒8に座金9を通し、ナット10で締め付け、ネジ棒8を固定する。ナット10を締め付けると、座金9の湾曲部12は、初めに第二木製壁部材5に押し付けられ、次に補強管6の縁に押し付けられる。この際、座金9の湾曲部12は、補強管6の一部を押し付ける。また、第一木製壁部材4側も同様に、座金9が補強管6の縁を押し付けるまで、ナット10で締め付ける。
【0024】
次に、本実施形態に係る木材の接合構造及び木材の接合方法の作用効果について説明する。
本実施形態に係る木材の接合構造では、座金9が補強管6に押し付けられ、補強管6に発生した応力は接着樹脂層7を介して、第一木製壁部材4(第二木製壁部材5)に伝達される。接着樹脂層7は、補強管6の周囲全体に設けられているため、第一木製管部材4(第二木製管部材5)の貫通孔3の内壁全体に応力が加わる。そうすると、ネジ棒8の締め付け強度を大きくすることができる。
そのため、第一木製壁部材4と第二木製壁部材5との接合強度を大きくすることができる。
また、本実施形態の木材の接合構造は、補強管6と接着樹脂層7の特性を予め知ることができるため、補強管6を使用せずにネジ棒8を、接着樹脂層7を介して直接固定した場合に比べ、明確に応力伝達できる。
【0025】
また、ネジ棒8の直径は補強管6の内径よりも小さいため、ネジ棒8と補強管6の間には隙間が形成される。そのため、ネジ棒8は、補強管6の周囲方向に自由に変位することができる。そうすると、例えば、地震によって、大きな揺れが生じた場合でも、ネジ棒8が補強管6の内部で自在に変位できるため、木製壁部材2の肉部が割裂破壊や剪断破壊を生じることを回避でき、木製壁部材2が破壊されることを回避でき、ネジ棒8にも2次的な応力が生じない。
さらに、木材の接合構造において、接着樹脂を適宜選択することにより、接着樹脂層7に柔軟性を持たせることができる。そうすると、座金9に押し付けられた補強管6は、接着樹脂層7の柔軟性により、変形を許容できるようになるため、エネルギーを吸収するクッション性を持つ接合部とすることが可能である。
【0026】
また、本実施形態に係る木材の接合構造では、補強管6が第一木製壁部材4と第二木製壁部材5にそれぞれ設けられている。そうすると、一体として形成されている補強管6を第一木製壁部材4及び第二木製壁部材5に設けた場合と比べ、第一木製壁部材4及び第二木製壁部材5の自由度が確保される。
また、本実施形態に係る木材の接合構造では、金属製部材である補強管6、ネジ棒8及び座金9は、木製壁部材2の内部に設けられている。そうすると、仮に火災に起きた場合でも、これらの金属製部材に熱が伝達されづらく、金属製部材が加熱され、強度が低下することを防止できる。したがって、この木材の接合構造によって、木製壁部材2に防火性を付与することができる。
【0027】
金属製部材が木製壁部材2の表面に露出していると、金属製部材が結露しやすくなり、結露した水分が木材にしみ込み、木製壁部材2が腐食しやすくなる。
本実施形態に係る木材の接合構造は、木製壁部材2の内部に金属製部材が設けられているため、金属部材が結露しにくい。そのため、本実施形態の木材の接合構造によって、木製壁部材2の金属製部材の結露による腐食を防止できる。
【0028】
本実施形態の木材の接合構造において、ネジ棒8は、座金9及びナット10によって、木製壁部材2に保持されている。そのため、第一木製壁部材4と第二木製壁部材5を解体(分解)する場合、第一木製壁部材4と第二木製壁部材5に締め付けられたナット10を取り外すことにより、容易に解体することができ、第一壁部材4及び第二壁部材5を再利用することができる。
【0029】
本実施形態の木材の接合方法は、第一木製壁部材4と第二木製壁部材5を、単純な接合とすることができる。他の補強部材や他の木製部材を使用しなくて済むため、複雑な構造とはならず、容易に木製の構造物を構築できる。したがって、本実施形態の接合方法は、現場での組み立て等の作業時間を短縮でき、コストをかけずに接合強度の大きい木材の接合構造を構築できる。
また、本実施形態の木材の接合方法において、補強管6と貫通孔3の内壁との間に接着樹脂を充填する(接着樹脂層7を作成する)作業は、木材壁部材2を接合する現場ではなく、予め工場等で行うことができる。そのため、現場で接着樹脂を充填及び硬化時間が短縮され、作業時間を短縮できる。
さらに、本実施形態の木材の接合方法は、補強管6と貫通孔3の内壁との間に接着樹脂層7が形成されているため、接着樹脂層7が損傷した場合、損傷箇所に接着樹脂層7と同じ接着樹脂を圧入することで、接着樹脂層7を容易に修復することができる。
【0030】
[第二実施形態]
本実施形態では、第一実施形態で使用した座金9の形状を変えた例について説明する。
本実施形態の接合構造は、座金9の形状以外は、第一実施形態のものと同様であり、接合方法も第一実施形態と同様に実施する。
座金9は、金属製の部材であり、
図3に示すように、半円球状を有し、平面部21と球面部(湾曲部)22を有する。固定金具1を正面視及び側面視した場合、この座金9の球面部22全体が補強管6の縁を覆うように設けられる(
図3(a)、(b))。
そのため、この座金9が補強管6へ押し付けられる際、湾曲部21全体が補強管6の縁全体を押し付ける。
【0031】
次に、本実施形態の接合構造の効果について説明する。
本実施形態の接合構造では、座金9の球面部22が補強管6の縁全体を押し付けることで、ネジ棒8が木製壁部材1に固定される。
球面部22全体が補強管6の縁全体を押し付けると、応力が補強管6全体に生じる。そのため、補強管6の周囲に設けられた接着樹脂層7全体から第一木製壁部材4、第二木製壁部材5に応力が伝達される。
そのため、半円球状の座金9を使用することによって、木製壁部材2の接合強度をさらに大きくすることができる。
【0032】
以上、本実施形態について説明したが、これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
本発明の木材の接合構造及び木材の接合方法は、木材に対し直接固定しない接続部材を補強部材に接触させ、固定することで、補強部材に生じる応力を、接着樹脂層を介して、木材に伝達する点に特徴を有する。そのため、補強部材は、接着樹脂層に応力を伝達できるものであれば、形状や材質は限定されず、例えば、陶器、ガラス、ゴム等を使用できる。
本実施形態では、補強部材に補強管6を使用した例を説明したが、補強部材は管状のものに限定されず、例えば平板を使用することができる。
【0033】
また、本実施形態では、接続部材としてネジ棒8を使用した例を示したが、平板を使用することもできる。また、本実施形態では、固定部材としてナット10を使用し、貫通孔3の外側から固定する方法について説明したが、接続部材はピンを使用して、補強部材に設けることもできる。
さらに、本実施形態では、第一壁部材4と第二壁部材5に取り付ける補強管6は、貫通孔3にそれぞれ設けられた例を示したが、補強管6を一体として形成することもできる。さらに、座金9の形状は、半円柱状や半円球状のものに限定されず、例えば、平板状のものを使用することもできる。