(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6640090
(24)【登録日】2020年1月7日
(45)【発行日】2020年2月5日
(54)【発明の名称】防食コーティングを具えた鋼部品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 2/06 20060101AFI20200127BHJP
C21D 1/18 20060101ALI20200127BHJP
C23C 2/12 20060101ALI20200127BHJP
C23C 2/02 20060101ALI20200127BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20200127BHJP
C22C 21/10 20060101ALI20200127BHJP
C22C 18/04 20060101ALI20200127BHJP
C22C 30/06 20060101ALI20200127BHJP
B21D 22/20 20060101ALI20200127BHJP
C23C 28/02 20060101ALI20200127BHJP
C22C 38/38 20060101ALN20200127BHJP
【FI】
C23C2/06
C21D1/18 C
C23C2/12
C23C2/02
C22C38/00 301T
C22C21/10
C22C18/04
C22C30/06
B21D22/20 G
B21D22/20 H
B21D22/20 Z
C23C28/02
!C22C38/38
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-541852(P2016-541852)
(86)(22)【出願日】2014年7月15日
(65)【公表番号】特表2016-539249(P2016-539249A)
(43)【公表日】2016年12月15日
(86)【国際出願番号】EP2014065141
(87)【国際公開番号】WO2015036151
(87)【国際公開日】20150319
【審査請求日】2017年7月7日
(31)【優先権主張番号】13184274.2
(32)【優先日】2013年9月13日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】514309479
【氏名又は名称】ティッセンクルップ スチール ヨーロッパ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】THYSSENKRUPP STEEL EUROPE AG
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ケイヤー,マリア
(72)【発明者】
【氏名】ズィコラ,ザシャ
(72)【発明者】
【氏名】ルツヘンベルグ,マニュエラ
(72)【発明者】
【氏名】バニク,ヤンコ
(72)【発明者】
【氏名】シュルツ,イェニフェル
【審査官】
神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−115247(JP,A)
【文献】
特開2002−129300(JP,A)
【文献】
特表2013−534971(JP,A)
【文献】
特表2010−501731(JP,A)
【文献】
特表2013−503254(JP,A)
【文献】
特表2011−511162(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/06
B21D 22/20
C21D 1/18
C22C 18/04
C22C 21/10
C22C 30/06
C22C 38/00
C23C 2/02
C23C 2/12
C23C 28/02
C22C 38/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腐食からの保護を提供する金属コーティングを具えた鋼部品の製造方法において、当該方法が、以下の作業工程であって:
a)150−1100MPaの降伏点と、300−1200MPaの引張強度とを有する鋼材から製作した平鋼製品を提供するステップと;
b)35−64重量%のアルミニウムと、35−60重量%の亜鉛と、0.1−10重量%のMgと、最大で10重量%のSiと、最大で5重量%のFeとを含むアルミニウム−亜鉛合金から構成された防食コーティングを、溶融めっきによって前記平鋼製品にコートするステップと;
c)コートした前記平鋼製品から構成された素材板を、830−905℃の範囲の素材板温度まで加熱するステップと;
d)前記素材板から成形型内で前記鋼部品を成形するステップと;
e)前記鋼部品を焼入れるステップであって、前記鋼部品が焼き戻した微細構造または硬化した微細構造の発達に適した状態にある温度から、焼き戻したまたは硬化した微細構造が発達するのに十分な冷却速度で冷却することにより焼入れるステップと;
を具え、
前記素材板の温度を830−905℃の範囲まで加熱するステップの前に、前記防食コーティングの全層厚が、5μmから50μmの範囲の厚さであり、
前記素材板を加熱するステップが、5容積%から25容積%の間の酸素を含む炉雰囲気内で行われ、
830−905℃の範囲で加熱処理を行った後に、前記防食コーティングが、前記平鋼製品の外側の方向から以下の層配列であって;
・ジンクリッチ相を有するアルミニウム−鉄相の外層と、
・アルミニウムリッチのアルミニウム−鉄化合物の中間層と、
・アルミニウムリッチの鉄固溶体の拡散層と、
を有することを特徴とする鋼部品の製造方法。
【請求項2】
腐食からの保護を提供する金属コーティングを具えた鋼部品の製造方法において、当該方法が、以下の作業工程であって:
a)150−1100MPaの降伏点と、300−1200MPaの引張強度とを有する鋼材から製作した平鋼製品を提供するステップと;
b)35−64重量%のアルミニウムと、35−60重量%の亜鉛と、0.1−10重量%のMgと、最大で10重量%のSiと、最大で5重量%のFeとを含むアルミニウム−亜鉛合金から構成された防食コーティングを、溶融めっきによって前記平鋼製品にコートするステップと;
c)前記平鋼製品から構成された素材板を、成形型内で前記鋼部品に成形するステップと;
d)前記鋼部品を830−905℃の範囲の部品温度まで加熱するステップと;
e)前記鋼部品を焼入れるステップであって、前記鋼部品が焼き戻した微細構造または硬化した微細構造の発達に適した状態にある温度から、焼き戻したまたは硬化した微細構造が発達するのに十分な冷却速度で冷却することにより焼入れるステップと;
を具え、
前記鋼部品の温度を830−905℃の範囲の部品温度まで加熱するステップの前に、前記防食コーティングの全層厚が、5μmから50μmの範囲の厚さであり、
前記鋼部品を加熱するステップが、5容積%から25容積%の間の酸素を含む炉雰囲気内で行われ、
830−905℃の範囲で加熱処理を行った後に、前記防食コーティングが、前記鋼部品の外側の方向から以下の層配列であって;
・ジンクリッチ相を有するアルミニウム−鉄相の外層と、
・アルミニウムリッチのアルミニウム−鉄化合物の中間層と、
・アルミニウムリッチの鉄固溶体の拡散層と、
を有することを特徴とする鋼部品の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法において、前記鋼部品に成形するステップ(作業工程c)が、予備的な成形として行われ、加熱するステップ(作業工程d)の後で、前記鋼部品を完成状態に成形することを特徴とする鋼部品の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の方法において、前記防食コーティングを構成するのに使用するアルミニウム−亜鉛合金が、カルシウム、ニッケル、マンガン、および/または他のアルカリ土類金属を含むグループから、最大15重量%の成分を含むことを特徴とする鋼部品の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の方法において、アルミニウム−亜鉛合金から構成された前記防食コーティングを前記平鋼製品にコートするステップ(作業工程b)の前に、ニッケル含有コーティングを最初に前記平鋼製品に塗布することを特徴とする鋼部品の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の方法において、アルミニウム−亜鉛合金から構成された前記防食コーティングを前記平鋼製品にコートした(作業工程bの)後で、前記素材板から前記鋼部品を成形する前に、前記平鋼製品または素材板を加熱処理にかけて、300℃から700℃の間の範囲の温度まで加熱して、前記防食コーティング内に鉄の堆積を生成することを特徴とする鋼部品の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の方法において、アルミニウム−亜鉛合金から構成された前記防食コーティングを前記平鋼製品にコートした(作業工程bの)後で、前記素材板から前記鋼部品を成形する前に、前記平鋼製品または素材板を加熱処理にかけて、50℃から300℃の範囲の温度まで加熱することを特徴とする鋼部品の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の方法において、前記素材板または部品の温度を少なくとも800℃まで加熱するステップの前に、前記防食コーティングの全層厚が、10μmから25μmの範囲の厚さであることを特徴とする鋼部品の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の方法において、前記素材板または前記鋼部品を加熱するステップが、乾燥空気を含む炉雰囲気内で行われることを特徴とする鋼部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐食からの保護を提供する金属コーティングを具える鋼部品の製造方法に関し、Mn鋼からなる平鋼製品の成形において、アルミニウム−亜鉛合金のコーティングを鋼部品の成形の前に本製品に設けることにより製造する。
【0002】
本明細書で言及する「平鋼製品」とは、鋼帯、鋼板、または素材板、およびこれらから得られるものを指す。
【0003】
現代の車体構造に必要な軽量性と、最大強度と、保護効果を組み合わせて提供するために、高強度鋼から熱間プレス成形された部品は、現在では、衝突の際にとくに高い荷重にさらされる車体の領域に使用されている。
【0004】
熱間プレス焼入れ(hot press hardening)、または熱間成形とも呼ばれる工程において、冷間圧延または熱間圧延された鋼帯から製作された鋼素材板は、一般的に各鋼のオーステナイト化温度よりも上に設定された成形温度まで加熱され、加熱された状態で成形プレスの鋳型の中に配置される。成形過程では、その次に、素材板またはこれから成形した部品を、冷却型(cool die)と接触させて急速冷却させる。ここでの冷却速度は、部品に硬化微細構造を形成するように設定される。
【0005】
熱間プレス焼入れに適した鋼の一典型例は、指定「22MnB5」で知られており、これは2004ドイツ鉄鋼規格(Stahlschlussel)に材料番号1.5528で見つけることができる。
【0006】
実際には、熱間プレス焼入れに特に適している既知のマンガン−ホウ素鋼の利点には、一般的にマンガン含有鋼は湿食に対して不安定であり不動態化しにくいという不利益があって、この利点と不利益が天秤にかけられる。この、高濃度の塩化物イオンにさらすと腐食しやすくなる傾向は、それほど高合金でない鋼と比べて強くなり、局地的に限定されるにも関わらず強烈であるため、高合金鋼板材料のグループに属する鋼をとくに車体構造に使用するのを困難にしている。さらに、マンガン含有鋼は表面が腐食する傾向があるため、同様にその使用範囲が制限される。
【0007】
焼き戻し可能なMn−B鋼を衝突に重要な車体の構造部品に組み込んだ場合、例えば導入する水素の増加や引張力を上昇させるものなどの悪条件の下では、これらの鋼の製造中やさらなる処理において、水素脆化のリスク、および/または水素が促進してひび割れが遅れて生じるリスクが潜在的に存在することが研究から分かっている。水素の導入は、アニール処理時にオーステナイト微細構造中の鋼基材の収容能力が比較的高い状態であるため促進される。
【0008】
従来技術においては、焼き戻しの工程でマンガン含有鋼の水素吸収を減らすこと、および/またはこの鋼に腐食から保護する金属コーティングを設けることを目的とする様々な提案が存在する。ここで、アクティブおよびパッシブの防食システムについて区別がなされる。
【0009】
アクティブな防食システムは、通常、亜鉛含有の防食コーティングを連続して塗布することによって生成される。対照的にパッシブな防食システムは、通常、腐食に対して有効な障壁効果を与えるアルミニウムベースのコーティングを塗布することで生成される。
【0010】
既知の金属や亜鉛含有の防食コーティングは、良い面と悪い面を併せ持つ。
【0011】
EP2290133A1において、金属の腐食保護が設けられた鋼製品を製造する既知の方法においては、亜鉛−ニッケルの合金コーティングを鋼帯上に電解堆積させる。この電解コーティング作業の結果、可能な鋼帯の速度は遅くなり、これにより生産コストが上昇する。しかしながら、挿入された亜鉛相の結果、熱間成形(熱間プレス焼入れ)の後のアクティブな防食処理が確実になされる。溶融めっきにより製造された亜鉛含有の防食コーティングと比較すると、SEP1245の標準パラメータに応じたスポット抵抗溶接のためのより大きな溶接範囲を有することになる。
【0012】
亜鉛系防食コーティングを有する鋼素材板は、少なくとも85重量%から最大で98重量%の範囲の高い亜鉛の割合を有しており、鋼帯に溶融めっきラインで塗布されるが、コートされる鋼帯は、費用のかかる間接的な熱間成形作業によってのみ処理することができる。この種の亜鉛系防食コーティングを有する鋼部品のケースで、熱間成形後に実現可能なスポット抵抗溶接のためのSEP1245の溶接範囲は、非常に低いレベルである。コーティング材を比較的低い溶融温度で低い浴温度で作業することにより、AlSiコーティングされるものと比べて亜鉛系コーティングの製造コストは安くなり、または比較的好ましいコストとなる。しかしながら、この種の亜鉛系コーティングを有するものは、融解温度が低いため、亜鉛が浸透したひび割れ(液体相の脆化)のリスクが高い。そのうえ、蒸発挙動に対してポジティブである酸化物相(一般には酸化アルミニウム)は、一般的にはプレス焼入れ後に意図的に表面から除去される。こうして、ほぼ純粋な亜鉛−鉄コーティングが、プレス硬化された部品上に存在することになる。
【0013】
同様に既知の合金化溶融亜鉛めっきの工程において、鋼帯上の亜鉛コーティングは、亜鉛−鉄合金層内への追加のアニール処理によって転化され、コーティング中の鉄分濃度を40重量%以上まで上昇させる。しかしながら、直接熱間成形で鉄で強化されたこの種の亜鉛コーティングは、熱間成形における短いプロセスウィンドウによってのみアクティブな防食を有する。長く加熱されすぎた部品は、もはやアクティブな防食を提供しない。処理時間が短すぎると、他の亜鉛系防食コーティングの場合のように、今度は亜鉛が浸透したひび割れが起こる可能性がある。さらに、合金化溶融亜鉛めっきの工程の場合と同じように、蒸発挙動に対してポジティブである酸化物相(一般には酸化アルミニウム)は、一般的にプレス焼入れ後に表面から除去される。こうして、ほぼ純粋な亜鉛−鉄コーティングが、プレス硬化された部品上に存在することになる。
【0014】
既存のアルミニウム系防食コーティングでも同様に、数多くの悪い面がある。例えば、コーティング材の融解温度が高いため、AlSiコーティングを製造する溶融めっきラインのエネルギー消費が比較的大きい。さらに、マンガン−ホウ素鋼においては、これらのコーティングは、ある程度までしか冷間成形できない。金属間のFe−Al−Siの硬い相のため、冷間圧延の作業は、コーティングが剥離してしまう例を伴う。その結果、成形の程度が制限されてしまう。そのため、一般にAlSiコーティングは直接熱間成形を必要とする。コーティングフィルムをAlSiコーティングの表面に良好に接着させることが可能なカチオン電着塗装と組み合わせることで、腐食に対する良好な障壁効果を得ることができる。さらに、コーティングの変形例では、作業条件が悪い場合に、プレス焼入れ工程用の連続炉内の露点調整に必要となる鋼材中への水素の導入を検討する必要がある。露点調整に伴うエネルギー消費は、部品製造において追加的なコストが生じることになる。
【0015】
これに基づいて、本発明の目的は、比較的低コストで複雑でない鋼部品の製造を可能とし、この鋼部品に腐食からの確実な保護を提供して良好に接着する金属コーティングを設けるための、実際に簡単に実施可能な方法を特定することである。また、これに応じて構成される鋼部品を特定することも意図している。
【0016】
方法については、本発明の第1の実施例により、請求項1で特定した方法の工程を実行して製造した鋼部品によって、この目的は達成される。
【0017】
同様に上記目的を達成する本発明の方法の第2の代替的な実施例を、請求項2で特定する。
【0018】
本発明の方法の第1の実施例は、「直接熱間成形」(直接的なプレス焼入れ)による鋼部品の成形に関しており、一方で第2の方法の実施例は、「間接的な方法」(間接的なプレス焼入れ)での鋼部品の成形に関しており、本発明によりコートされる鋼素材板は、まず冷間圧延され、次いでオーステナイト化温度まで加熱され、その後急速冷却によって、焼き戻しまたは焼入れされた微細構造の状態に転化される。
【0019】
本発明の方法の実施例の有利な改良例は、請求項1または2を引用する請求項に特定されており、これを下記に説明する。
【0020】
鋼部品については、上記の目的に対して本発明が提供する解決手段は、この部品が請求項13に特定した特徴を有することである。本発明の鋼部品の有利な変形例は、請求項13を引用する請求項に特定されており、これを下記に説明する。
【0021】
腐食からの保護を提供する金属コーティングを具えた鋼部品を製造する本発明の方法においては、まず最初に平鋼製品、つまり鋼帯または鋼板が、熱間成形作業での焼入れで硬化可能な鋼材から製造されて提供される。この材料は、150−1100MPaの降伏点と、300−1200MPaの引張強度とを有する。
【0022】
この鋼材は、典型例では、従来の組成での高強度マンガン−ホウ素鋼を含むことができる。したがって、鉄および不可避の不純物と同様に、本発明により処理された鋼は、(重量%で)0.2−05.%のCと、0.5−3.0%のMnと、0.002−0.004%のBと、および選択的に、次の量:0.1−0.3%のSi、0.1−0.5%のCr、0.02−0.05%のAl、0.025−0.04%のTiである「Si、Cr、Al、Ti」のグループの1以上の成分を含むことができる。
【0023】
本発明の方法は、従来からの熱間圧延されただけのホットストリップまたはホットシート、および従来からの冷間圧延された鋼帯または鋼板の両方から製作する鋼部品の製造に適している。
【0024】
これにより構成、提供される平鋼製品は、防食コーティングでコートされ、本発明によるコーティングは、35−70重量%のアルミニウムと、35−60重量%の亜鉛と、0.1−10重量%のSiと、最大で5重量%のFeとを含むアルミニウム−亜鉛合金から構成される。さらに、このアルミニウム−亜鉛合金は、例えばマグネシウム、カルシウム、ニッケルおよび/またはマンガンなどの酸素に親和性を有する他の成分を最大で15重量%含むことが好ましい。
【0025】
本発明により使用されるアルミニウム−亜鉛合金は、溶融めっき作業によって、若しくは電気分解で塗布し、または製造する平鋼製品への部品コーティング作業によって塗布することができる。しかしながら、アルミニウム−亜鉛合金を連続溶融めっき作業によって塗布することが好ましい。この金属コーティングは、熱間圧延および冷間圧延された両方の平鋼製品に塗布することができる。
【0026】
本発明により製造する平鋼製品、およびこれから熱間成形(プレス焼入れ)で製造する鋼部品の分析から、900℃での熱処理後の金属コーティング用に以下の層構成(層配列)を発見した。
1.ジンクリッチ相を有するアルミニウム−鉄相の外層、
2.アルミニウムリッチのアルミニウム−鉄化合物の中間層、
3.拡散層(アルミニウムリッチの鉄固溶体)
4.鋼基材(MnまたはMn−B鋼)
【0027】
本発明により用いるアルミニウム−亜鉛合金は、アクティブな腐食制御を付与する亜鉛画分と、パッシブな腐食制御を付与するアルミニウム画分とを同時に有する。
【0028】
マグネシウムおよび/またはカルシウムなどの成分の合金化を通じて、これらの成分を結合することによって水素含有量の減少を達成することができる。したがって、比較的高い炉雰囲気の湿度においても、遅れてひび割れするリスクなしに、信頼性のある製作、とくに成形を確実にすることができる。熱間成形用の既知のコーティング手法と比較して、水素吸収の面で特質がプラスに改変されるのに加え、本発明による方法を用いたもの、および本発明の鋼部品はそれぞれ、少なくとも上記合金成分の部分が鋼部品の防食コーティング内に保持される点で明らかに好ましい。
【0029】
本発明により製造したコーティングでは、マグネシウムが、亜鉛−マグネシウムリッチの相を形成し、これが亜鉛コーティングの場合のように陰極犠牲を通じて腐食制御を提供するが、ほぼ純粋な亜鉛コーティングの場合は腐食生成がより安定的となるため、不動態化が可能である。この点で、マグネシウムの電気化学的電位は純亜鉛よりも小さく、したがってマグネシウムの犠牲効果が亜鉛と比べて改善されることに留意すべきである。本発明により使用するアルミニウム−亜鉛合金のマグネシウム含有量は、0.1−10重量%の範囲であることが好ましい。
【0030】
本発明の方法における上記アルミニウム−亜鉛合金の使用を通して、ほぼ純亜鉛のコーティングまたは亜鉛溶融物と比較して、熱間成形作業中に亜鉛が浸透してひび割れるリスクは実質的に減少するが、実際にコーティング材の融解温度が上昇するので、金属溶融を維持するのに必要なエネルギー要求も増加する。本発明を実施する場合、ストリップ温度または溶融浴温度は、最小で85重量%の亜鉛画分を有する溶融亜鉛めっき用の温度と、溶融アルミニウムめっき(AlSiコーティング)用の温度との間に置かれる。本発明の方法を実施する際のストリップまたは溶融浴の温度は、550℃−650℃の範囲であることが好ましい。
【0031】
上述のアルミニウム−亜鉛合金の防食コーティングの製造によって、このようにコーティングされたマグネシウム−ホウ素の鋼帯または鋼板の冷間成形性は、AlSiコーティングがなされた鋼基材と比べて向上し、これによりひび割れることなく、より複雑な部品形状を実現することができる。
【0032】
ニッケルの効果は、コーティングの融解温度を上げることであり、したがって、こうしてコーティングされた平鋼製品を熱間成形する場合に、コーティングが柔らかくなりすぎず、または溶融もしない。ニッケルの他の効果は、コーティングの他の成分のように、コーティングの被覆性を向上させることである。本発明により使用されるアルミニウム−亜鉛合金のニッケル含有量は、0.2−10重量%の範囲であることが好ましい。
【0033】
平鋼製品および/またはウェッティングが困難な鋼材における被覆性を向上させるため、実際の溶融ディップ仕上げ(溶融めっき)の前にニッケルを塗布することも本発明の範囲内である。ニッケルの塗布は、電解コーティングによって実施することが好ましい。この手法により、平鋼製品上に非常に薄いニッケル層を堆積させることが可能となる。例えば、電気分解で塗布されたニッケル層の厚みは少なくとも2μmである。
【0034】
金属防食コーティングを形成するのにマンガンを添加することは、こうして被覆される平鋼製品の熱間成形において利益がある。さらに、マンガンによって鋼基材上のコーティングの湿潤性(wetability)が向上する。本発明により使用するアルミニウム−亜鉛合金のマンガン含有量は、0.1−10重量%の範囲であることが好ましい。
【0035】
シリコンは、本発明のアルミニウム−亜鉛合金の単なる選択的な成分である。これは拡散ブロッカーとして作用し、アルミニウム−亜鉛合金で構成されるコーティングを溶融めっきで塗布する場合に、溶融浴を穏やかにするために使用される。本発明により使用するアルミニウム−亜鉛合金のシリコン含有量は、0.1−10重量%の範囲とすることができる。
【0036】
本発明の防食コーティングの重要な利点は、このアルミニウム画分によって、形成される赤錆を非常に低いレベルに抑えることができることである。本発明のコーティングの上記合金成分を本発明により配合した場合、既存の金属防食コーティングと比べて生成される錆の部分が小さくなる。さらに、例えばマグネシウム、カルシウム、ニッケルおよび/またはマンガンなどのアルミニウム−亜鉛合金に含まれる他の選択的な成分は、腐食にさらされるとパッシブに作用し、上述のように、本発明によるコーティングまたはコートされた平鋼製品の特性をさらに向上させる。熱間成形後に本発明のコーティング内に存在する安定的なジンクリッチ相により、このコーティングはアクティブな腐食制御も付与する。上記のように、表面に薄い酸化アルミニウム膜を有することもある既存の亜鉛系防食コーティングと比較して、本発明のコーティングは、層の厚み全体にわたって高いアルミニウム画分を有している。その結果、前述の障壁効果が達成される。さらに、コーティング内には正の硬度プロファイルが存在する。
【0037】
追加の層の厚さを適合させることにより、本発明の方法を実施する際に腐食制御の調整が可能となる。熱間成形前の全層厚は、5μm−50μmの範囲内とすることができる。本発明のコーティングの全層厚を、10μm−25μmの範囲内とすることが好ましい。
【0038】
本発明の方法の一つのさらなる有利な改良例によると、平鋼製品を防食コーティングでコートした後で、鋼部品を成形する前に、平鋼製品または素材板を加熱処理にかけて、300℃から700℃の間、好ましくは350℃から600℃の間の温度まで加熱して、コーティング内に鉄の堆積を生成する。予備合金化(>300℃)と呼ばれるこの種の作業によって、高い鉄堆積の結果として、後続の熱間成形の作業時間が短縮される。この加熱処理(予備合金化作業)の後で、コーティング中のFe濃度は、好ましくは10重量%以上の量とすべきである。Fe濃度は最大で85重量%であり、これを越えるべきではない。
【0039】
本発明の方法のさらなる有利な改良例では、平鋼製品を防食コーティングでコートした後で、鋼部品を素材板から成形する前に、平鋼製品または素材板を加熱処理にかけて、50℃から300℃の範囲の温度まで加熱する。この手段によって、適切に熱間成形する前に、いわゆるエージング作業(人工時効)が実施される。例えばこの作業は、連続炉またはトップハット炉において、上記50℃から300℃の範囲内の温度まで加熱してもよい。その結果、コーティングの鉄含有量のわずかな増加を伴い、鋼基材および金属コーティングで形成されたシステム内で拡散プロセスが誘発される。この手段の利点は、例えば表面上の適切な酸化物層の発達や、コーティングの全体的な均質化にある。
【0040】
本発明の方法のさらなる有利な改良例では、素材板または鋼部品の加熱を、5容積%から25容積%の間の酸素を含む炉雰囲気内で実施する。本発明のさらなる改良例により、素材板または鋼部品の加熱が乾燥空気を含む炉雰囲気内で実施された場合に、水素吸収を低減させるためのさらなる最適化がもたらされる。その結果、炉雰囲気は人為的に低露点となる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
本発明を図面と例示を参照して以下にさらに開示する。
【0042】
【
図1】
図1は、本発明によりコートされた鋼基材(Mn−B鋼基材)のサンプルの研磨断面を示しており、このサンプルはコートされた鋼基材の初期状態に対応している。
【
図2】
図2は、本発明によりコートされた鋼基材のサンプルの研磨断面を示しており、700℃の温度まで加熱した後で、5分間横たえた後である。
【
図3】
図3は、本発明によりコートされた鋼基材のサンプルの研磨断面を示しており、800℃の温度まで加熱した後で、5分間横たえた後である。
【
図4】
図4は、本発明によりコートされた鋼基材のサンプルの研磨断面を示しており、900℃の温度まで加熱した後で、5分間横たえた後である。
【
図5】
図5は、本発明によりコートされた鋼基材のサンプルを示しており、900℃で熱間成形した後で5分間横たえた後の塩水噴霧試験において、48時間、120時間、192時間、および600時間後の赤錆の発達を示している。
【発明を実施するための形態】
【0043】
図4のコーティングの上部領域にできる「黒い孔」は、研磨部分の部分的なエッチングの結果生じるものである。このような部分的なエッチングがなければ、この部分は、
図5に示すようなジンクリッチ相を具えることになる。ジンクリッチ相は、稼働時間窓(作業時間窓)にわたってアクティブな腐食制御を確保にする。
【0044】
[例1]
0.3−3重量%のマンガンを含み、150−1100MPaの降伏点と300−1200MPaの引張強度とを有する焼入れした冷間ストリップを、アルカリスプレー脱脂および電解脱脂にかける。脱脂浴は約15g/lの濃度の商業用洗浄液を含み、これは25%以上の水酸化ナトリウムと、1−5%の脂肪アルコールエーテルと、5−10%のエトキシル化、プロポキシル化、およびメチル化のC12−18アルコールとを含む。浴温度は約65℃である。スプレー脱脂での滞留時間は5秒である。この後にブラシ洗浄が続く。さらなる工程において、ストリップを溶融めっきにかける。金属溶融体は、アルミニウム−亜鉛合金から構成され、これは35−70重量%のアルミニウムと、35−60重量%の亜鉛と、0.1−10重量%のマグネシウムと、0.1−10重量%までのSiと、最大で5重量%のFeとを含む。さらに、アルミニウム−亜鉛合金は、合計画分が最大で15重量%のマンガンおよび/またはニッケルを含むことが好ましく、マンガン画分を最大で0.02重量%とすることができる。アルミニウム−亜鉛合金から形成されるコーティングの全層厚は、ストリッピングノズルなどのストリッピング装置で設定され、例えば5−50μm、好ましくは10−25μmの範囲の厚さに設定する。こうしてコートされたストリップは、次いでコイルとなるように巻かれるか、所定の長さの素材板に分割され、任意の中間貯蔵のあとで、三次元に形成されてプレス焼入れされた鋼部品を製造する成形プレスに供給される。成形プレスの前にサイズ切断装置があり、これによって、製造する鋼部品の外形に適したサイズの素材板に、巻かれていないコイルまたは、通常は長方形のプレカットされた素材板からカットする。サイズにカットした後で、素材板を、鋼基材のオーステナイト化温度よりも上である成形温度まで加熱して、加熱した状態で成形プレスの鋳型の中に配置する。成形の工程で、素材板またはこれから成形した部品は、冷却型と接触することで急速冷却される。ここでの冷却速度は、部品に焼き戻したまたは硬化した微細構造を形成するように設定される。
【0045】
[例2]
グレード22MnB5(1.5528)の(浸した)ホットストリップを、アルカリスプレー脱脂および電解脱脂にかける。追加的に、アルカリスプレー脱脂の段階でストリップをブラシ洗浄にかける。脱脂浴は、約20g/lの濃度の商業用洗浄液を含み、これは5−10%の水酸化ナトリウムと、10−20%の水酸化カリウムとを含む。浴温度は約75℃である。さらなる工程において、ストリップを溶融めっきにかける。金属溶融体は、アルミニウム−亜鉛合金から構成され、これは35−70重量%のアルミニウムと、35−60重量%の亜鉛と、0.1−10重量%のマグネシウムと、0.1−10重量%までのSiと、最大で5重量%のFeとを含む。さらにアルミニウム−亜鉛合金は、最大で15重量%の合計画分のマンガンおよび/またはニッケルを含むことが好ましく、マンガン画分を最大で0.02重量%とすることができる。金属コーティングの全層厚は、例えば圧縮空気ノズルや不活性ガスノズルなどのストリッピング装置によって、5−50μm、好ましくは10−25μmの範囲の厚さに設定することができる。コートされたストリップは、次いでコイルに巻かれるか所定の長さの素材板に分割され、任意の中間貯蔵のあとで、プレス硬化した鋼部品を製造する成形プレスに供給される。成形プレスの前にサイズ切断装置があり、これによって、製造する鋼部品の外形に適したサイズの生地板に、巻かれていないコイル、または通常は長方形のプレカットされた素材板からカットする。サイズにカットした素材板を、次いで、製造する鋼部品の形状または予備成形物に室温で成形する(冷間成形)。次いで(予備成形した)部品を、鋼のオーステナイト化温度よりも上である部品温度まで加熱して、加熱した状態で成形プレスの冷却成形鋳型の中に配置する。冷却鋳型内で、選択的に、部品を完全に完成した状態に成形する。冷却鋳型と接っすることにより部品は急速冷却され、焼き戻したまたは硬化した微細構造を部品に形成する。
【0046】
[例3]
例1または2と類似するが、相違点としては、コーティングの後で成形(プレス焼入れ)の前に予備の合金化作業を実施する。この目的のために、平鋼製品または素材板を300℃から650℃の間で、好ましくは350℃から600℃の間の範囲の温度に加熱して、拡散プロセスの結果として防食コーティング内に鉄の堆積を生成する。
【0047】
[例4]
例1または2と類似するが、相違点としては、コーティングの後で成形(プレス焼入れ)の前にエージングと呼ばれる作業を実施する。この目的のために、平鋼製品または素材板を、50℃から300℃の範囲の温度で連続アニール炉またはトップハット炉において加熱する。
【0048】
[例5]
例1、2、3または4と類似するが、相違点としては、平鋼製品をアルミニウム−亜鉛合金で構成されたコーティングでコートする前に、ニッケル含有コーティングを平鋼製品にまず最初に塗布することである。ニッケル層は鋼基材の被覆性を向上させる。ニッケルコーティング(ベース層)は、電気分解で塗布されることが好ましい。ニッケルコーティングの層厚は、例えば1μmから3μmの範囲の厚さに設定される。
【0049】
上述した例において、素材板の温度または部品の温度を、従来のように940℃以上とするのではなく、より具体的には830−905℃とした場合に最適な作業結果が得られる。これは特に、加熱した素材板(「直接的」方法)または加熱した鋼部品(「間接的」方法)を次に使用する各成形型の中に配置して、一定の温度損失が受容できるように、鋼部品の成形を、素材板または部品の温度まで加熱した後の熱間成形作業として実施する場合である。各ケースで工程を締めくくる熱間成形は、素材板の温度または部品温度を850−880℃とした場合に、特に作業の確実性を伴って実施することができる。
【0050】
素材板または部品温度の加熱は、これ自体は既知の手法である連続炉内を通過させて行われる。この場合の通常のアニーリング時間は3−15分の範囲である。しかしながら代替的に、誘導的または導電的な加熱作業装置によって加熱を行うことも可能である。これにより、特定の指定温度まで急速加熱することが可能になる。
【0051】
加熱工程では、炉雰囲気は17%から23%の間の酸素を含むべきである。本発明によりコートした鋼基材で水素吸収を低減させるためのさらなる最適化は、乾燥空気を導入することで達成できる。これにより、炉雰囲気は人工的に低露点となる。