特許第6640145号(P6640145)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6640145含水油廃液の処理方法及び含水油廃液の処理設備
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6640145
(24)【登録日】2020年1月7日
(45)【発行日】2020年2月5日
(54)【発明の名称】含水油廃液の処理方法及び含水油廃液の処理設備
(51)【国際特許分類】
   B01D 17/00 20060101AFI20200127BHJP
   B01D 17/038 20060101ALI20200127BHJP
   B01D 17/04 20060101ALI20200127BHJP
   B01D 17/05 20060101ALI20200127BHJP
   B01D 17/12 20060101ALI20200127BHJP
   C02F 11/00 20060101ALI20200127BHJP
   C10G 31/10 20060101ALI20200127BHJP
【FI】
   B01D17/00 503Z
   B01D17/038ZAB
   B01D17/04 503Z
   B01D17/05 501K
   B01D17/12 Z
   C02F11/00 K
   C10G31/10
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-78517(P2017-78517)
(22)【出願日】2017年4月11日
(65)【公開番号】特開2018-176059(P2018-176059A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2019年3月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000234166
【氏名又は名称】伯東株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118706
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 陽
(72)【発明者】
【氏名】大西 則彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 新
(72)【発明者】
【氏名】小林 琢也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 祐喜
(72)【発明者】
【氏名】加納 一憲
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 利宏
【審査官】 菊地 寛
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭52−123403(JP,A)
【文献】 特開昭55−45708(JP,A)
【文献】 特開昭55−98292(JP,A)
【文献】 特開平1−275692(JP,A)
【文献】 特開昭55−58292(JP,A)
【文献】 特開昭55−58291(JP,A)
【文献】 特開昭59−115796(JP,A)
【文献】 特開平11−137906(JP,A)
【文献】 特開平3−288502(JP,A)
【文献】 特開平2−6804(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 17/00
C02F 11/00
C10G 31/10
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
含水油廃液を、エマルジョンブレーカーを添加することなく遠心分離することによって油相と水相と固形物とに三相分離する第1遠心分離工程と、
該第1遠心分離工程によって分離された油相にエマルジョンブレーカーを添加する添加工程と、
該エマルジョンブレーカーが添加された油相を遠心分離することにより油相と水相と固形物とに三相分離する第2遠心分離工程と、
を有することを特徴とする含水油廃液の処理方法。
【請求項2】
前記エマルジョンブレーカーにはアルキルフェノール縮合物が含まれていることを特徴とする請求項1に記載の含水油廃液の処理方法。
【請求項3】
含水油廃液を油相と水相と固形物とに三相分離するための第1遠心分離機と、
該第1遠心分離機によって分離された油相にエマルジョンブレーカーを添加するための薬剤添加設備と、
該エマルジョンブレーカーが添加された油相を、更に油相と水相と固形物とに三相分離する第2遠心分離機と、
を備えたことを特徴とする含水油廃液の処理設備。
【請求項4】
含水油廃液を油相と水相と固形物とに三相分離する遠心分離機と、
該遠心分離機で分離された油相にエマルジョンブレーカーを添加するための薬剤添加設備と、
該エマルジョンブレーカーが添加された油相を貯留する油分貯留設備と、を備え、
被処理対象となる含水油廃液を、エマルジョンブレーカーを添加することなく前記遠心分離機へ供給する第1の流路と、
前記油分貯留設備に貯留されているエマルジョンブレーカーが添加された油相を前記遠心分離機へ供給する第2の流路と、を有し、
該第1の流路と該第2の流路とを切り替えることが可能な流路切替手段が設けられていることを特徴とする含水油廃液の処理設備。
【請求項5】
被処理対象となる含水油廃液を加温する加温設備が設けられていることを特徴とする請求項3又は4に記載の含水油廃液の処理設備。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含水油廃液を油水分離して油を回収するための含水油廃液の処理方法及び含水油廃液の処理設備に関する。
【背景技術】
【0002】
国家石油備蓄基地、石油精製工業、石油化学工業、石炭化学工業、その他多くの産業において油貯留槽(いわゆる油タンク)が設置されている。これらの油貯留槽は定期的に点検する必要があり、その際には貯蔵されていた油が全量引抜かれ、タンク内が洗浄される。その洗浄廃液は、貯留されていた油の性状によって、さまざまな性状や形態を有する油と水の混合液となる。
【0003】
例えば、貯留油が原油の場合には、加温した原油でタンク内に蓄積したスラッジを洗い流す「Crude Oil Washing」が行われており、最後に温水洗浄を行うことでスラッジと水とが原油に混入した「温水洗浄SLOP」と呼ばれる洗浄廃液が排出される。温水洗浄SLOPには、原油タンクに蓄積したスラッジや、原油に含まれるワックスやアスファルテン等の高沸点の炭化水素類や、原油中の界面活性作用を持つ成分、浮遊物質等が含まれており、これらの含有物によって、温水洗浄SLOPに含まれる油と水がW/O型、あるいはO/W型のエマルジョンとなって、安定して存在する場合がある。
【0004】
資源の有効利用の観点から、温水洗浄SLOP中に含まれている原油を回収し、精製することが望ましい。また、原油精製工程は、本来、大量の水分を含んだ原油を処理することを想定しておらず、温水洗浄SLOPのような含水率が高い原油含有廃液を大量に処理しようとした場合、温水洗浄SLOPに含まれる水や塩類などの影響により、精製設備の腐食などの問題が生ずるおそれがある。このため、温水洗浄SLOPは少量ずつ処理されており、未処理の温水洗浄SLOPを長期間にわたって貯留タンクに保管しておかなければならないという問題があった。この問題は原油に限らず、原油以外の油貯留槽の洗浄廃液にも共通する問題である。
【0005】
このため、従来、洗浄廃液である含水油廃液から油を分離回収する様々な方法が開発されてきた。例えば、水と油の比重差を利用し、一定の滞留時間を持つ水槽に油含有廃液を供給し、油を浮上させるAPIや、傾斜板を利用したCPIと呼ばれる油水分離装置が実用化されている。
しかし、このような比重差を利用した油水分離装置では、分離のために装置内で長時間廃液を滞留させる必要があり、装置が大型化するとともに、処理時間が長いという問題があった。また、比重差を用いた分離方法では、エマルジョンとして安定化した状態の含水油廃液を、油と水に十分に分離することが困難である場合が多かった。
【0006】
この点、遠心分離機を用いれば、比較的短時間で油水分離を行うことが可能となる(例えば、特許文献1、2)。しかしながら、遠心分離による油水分離技術では、回収される油の含水率が高いことが問題であるという欠点が指摘されている(特許文献3)。
【0007】
一方、特許文献4では、コークス工場などのコークス炉ガスの精製過程で発生するタールデンカンターによるコールタール層及び滓層から分離された余剰安水(アンモニア水)を、安水ストリッパーに供給する前に、分離板型遠心分離機で分離するという、余剰安水の処理方法及び処理設備が開示されている。この方法では、タールデカンターで分離された余剰安水を遠心分離するための遠心分離器と、コールタールを遠心分離するための遠心分離器の2台を用いているが、それぞれの遠心分離機は処理する対象が異なっており、含水油廃液について直列に設置した2台の遠心分離機を用いて、油の回収効率を上げようとするものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−104233号公報
【特許文献2】特開2015−199848号公報
【特許文献3】特開2012−229403号公報
【特許文献4】特開昭59−112808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を行った結果、温水洗浄SLOPを加温し、次いで凝集剤とエマルジョンブレーカーを添加してから遠心分離機によって油水分離を行うことにより、含水率が1%程度の油を回収できることを見出し、既に特許出願を行っている(特願2016−43138号)。
【0010】
しかしながら、この方法において油溶性のエマルジョンブレーカーを用いた場合、添加したエマルジョンブレーカーが回収油側に選択的に移行するため、精製が困難となるおそれがあった。
【0011】
一方、水溶性のエマルジョンブレーカーを用いた場合においても、エマルジョンブレーカーが分離した水相側に選択的に移行するため、水相の化学的酸素要求量(COD)が高くなるという問題があった。また、こうして水相中に含まれる水溶性のエマルジョンブレーカーは、凝集剤や活性炭による除去が困難であるという問題があった。
【0012】
本発明は、上記従来の課題に鑑み成されたものであり、含水油廃液から含水率の低い油を効率よく回収でき、処理に要する薬剤量が少なく、且つ、環境に対するCOD負荷が小さい含水油廃液の処理方法及び含水油廃液の処理設備を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の含水油廃液の処理方法は、
含水油廃液をエマルジョンブレーカーを添加することなく遠心分離することによって油相と水相と固形物とに三相分離する第1遠心分離工程と、該第1遠心分離工程によって分離された油相にエマルジョンブレーカーを添加する添加工程と、該エマルジョンブレーカーが添加された油相を遠心分離することにより油相と水相と固形物とに三相分離する第2遠心分離工程と、を有することを特徴とする。
【0014】
本発明の含水油廃液の処理方法では、まず、第1遠心分離工程として、含水油廃液にエマルジョンブレーカーが添加されることなく遠心分離が行われ、油相と水相と固形物とに三相分離される。このため、第1遠心分離工程で分離された水相にはエマルジョンブレーカーが含まれておらず、これを廃棄したとしてもエマルジョンブレーカーによって環境に対するCOD負荷が高くなることはない。そして、さらに第2遠心分離工程として、第1遠心分離工程によって含水油廃液から分離された油相にエマルジョンブレーカーが添加され(添加工程)、これにより油相中にエマルジョン化されて含まれていた水分が分相されて水相となった状態で第2遠心分離工程が行われる。このため、第2遠心分離工程後の油相中の含水率は、第2遠心分離工程前の油相中の含水率よりも低減される。なお、添加されたエマルジョンブレーカーが水溶性の場合は、第2遠心分離工程によって得られる水相中に選択的に抽出され、油溶性の場合は、第2遠心分離工程によって得られる油相中に選択的に抽出されるが、エマルジョンブレーカーの添加は第1遠心分離工程後に分離された油相に対してのみ行われるため、含水油廃液に最初からエマルジョンブレーカーを添加して遠心分離する場合に比べて使用量を少なくすることができる。このため、第2遠心分離工程によって分離した各相中のエマルジョンブレーカーによるCOD負荷は低いものとなる。
したがって、本発明の含水油廃液の処理方法によれば、含水油廃液から含水率の低い油を効率よく回収でき、処理に要する薬剤量が少なく、且つ、環境に対するCOD負荷を小さくすることができる。
【0015】
第2遠心分離工程において添加されるエマルジョンブレーカーとしては、含水油廃液中のエマルジョンを破壊するものであれば特に限定はなく、カチオン性のエマルジョンブレーカーやアニオン性のエマルジョンブレーカーやノニオン性のエマルジョンブレーカー等が挙げられる。また、水溶性のエマルジョンブレーカー、油溶性のエマルジョンブレーカーのどちらも使用することができる。さらに、エマルジョンブレーカーを複数種類添加してもよい。特に好ましいエマルジョンブレーカーとしては、アルキルフェノール縮合物が挙げられる。
【0016】
また、本発明の第1の局面の含水油廃液の処理設備は、含水油廃液を油相と水相と固形物とに三相分離するための第1遠心分離機と、該第1遠心分離機によって分離された油相にエマルジョンブレーカーを添加するための薬剤添加設備と、該エマルジョンブレーカーが添加された油相を、更に油相と水相と固形物とに三相分離する第2遠心分離機と、を備えたことを特徴とする
【0017】
この含水油廃液の処理設備では、第1遠心分離機によって含水油廃液にエマルジョンブレーカーを添加することなく遠心分離することができる。そして、第1遠心分離機によって三相分離されて得た油相に薬剤添加設備を用いてエマルジョンブレーカーを添加することができる。さらに、こうしてエマルジョンブレーカーが添加された油相を第2遠心分離機によって油相と水相と固形物とに三相分離することができる。すなわち、本発明の含水油廃液の処理設備を用いて本発明の含水油廃液の処理方法を実施することができる。したがって、本発明の含水油廃液の処理設備によれば、含水油廃液から含水率の低い油を効率よく回収でき、処理に要する薬剤量が少なく、且つ、環境に対するCOD負荷を小さくすることができる。
【0018】
また、本発明の第2の局面の含水油廃液の処理設備は、含水油廃液を油相と水相と固形物とに三相分離する遠心分離機と、該遠心分離機で分離された油相にエマルジョンブレーカーを添加するための薬剤添加設備と、該エマルジョンブレーカーが添加された油相を貯留する油分貯留設備とを備え、
被処理対象となる含水油廃液をエマルジョンブレーカーを添加することなく前記遠心分離機へ供給する第1の流路と、前記油分貯留設備に貯留されているエマルジョンブレーカーが添加された油相を前記遠心分離機へ供給する第2の流路とを有し、
該第1の流路と該第2の流路とを切り替えることが可能な流路切替手段が設けられていることを特徴とする。
【0019】
本発明の第2の局面の含水油廃液の処理設備では、まず、流路切替手段によって第1の流路に切り替え、被処理対象となる含水油廃液を前記遠心分離機へ供給することにより、含水油廃液にエマルジョンブレーカーを添加することなく遠心分離することができる。こうして分離された、エマルジョンブレーカーが添加されていない油相に対し、薬剤添加設備を用いてエマルジョンブレーカーを添加し、油分貯留設備に貯留しておくことができる。そしてさらに、流路切替手段によって第2の流路に切り替え、エマルジョンブレーカーが添加された油相を遠心分離機によって油相と水相と固形物とに三相分離することができる。すなわち、流路切替手段による流路の切替によって、ただ一つの遠心分離機を用い、本発明の含水油廃液の処理方法を実施することができる。このため、2台の遠心分離機を用いる場合と比較して設備の小型化が可能であり、設備費を低減することもできる。
【0020】
本発明の含水油廃液の処理設備では、被処理対象となる含水油廃液を加温する加温設備が設けられていることが好ましい。
含水油廃液を加温することにより、含水油廃液に含まれるワックス類が融解して油相側に溶解するため、油滴が周りの水と直接接して界面が不安定化し、油滴同士が会合し粗大化することで三相分離が促進される。また、含水油廃液に含まれる浮遊物質は、ワックス類と共に油滴(または水滴)の周りを覆うことで、エマルジョンを安定化する役割を持つが、加温することで浮遊物質に付着したワックス類も油に溶解・除去されることでエマルジョンが不安定化する。さらには、含水油廃液を加温することにより浮遊物質からワックス類が除去されるため、分離された固形物中の油分が低下する。また、含水油廃液を加温することにより、含水油廃液の粘度が低下し、エマルジョンブレーカーが混合されやすくなり、エマルジョンの破壊効果を発揮し易くなる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、含水油廃液から、油水分離のために添加した薬剤の影響が少なく、かつ含水率の低い油を迅速に回収することができるため、従来、活用されていなかった含水油廃液中に含まれる油を回収し、精製して有効利用することが可能となる。また、エマルジョンブレーカーの使用量が少なくなるため、処理費用が低減されるのみならず、環境に対するCOD負荷を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施例1の原油含有廃液の処理設備の模式図である。
図2】実施例2の原油含有廃液の処理設備の模式図である。
図3】実施例3の原油含有廃液の処理設備の模式図である。
図4】実施例3の原油含有廃液の処理設備における第1の経路と第2の経路を示した模式図である。
図5】比較例1の原油含有廃液の処理設備の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明において使用されるエマルジョンブレーカーとしては、含水油廃液中のエマルジョンを破壊するものであれば特に限定はなく、カチオン性のエマルジョンブレーカーやアニオン性のエマルジョンブレーカーやノニオン性のエマルジョンブレーカー等が挙げられる。また、水溶性のエマルジョンブレーカー、油溶性のエマルジョンブレーカーのどちらも使用することができる。さらに、エマルジョンブレーカーを複数種類添加してもよい。
【0024】
アニオン性のエマルジョンブレーカーとしては、硫酸エステル型やスルホン酸型のエマルジョンブレーカー等が挙げられる。硫酸エステル型のエマルジョンブレーカーとしては、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩(さらに好ましくはポリオキシアルキレン鎖の平均付加モル数が1〜5のポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩)、アルキルエーテル硫酸エステル塩(さらに好ましくはアルキル基の炭素数が8〜22のアルキルエーテル硫酸エステル塩)等が挙げられる。また、スルホン酸型のエマルジョンブレーカーとしては、例えば、ジアルキルスルホサクシネート塩、石油スルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩(さらに好ましくはアルキル基が炭素数1〜5のアルキルナフタレンスルホン酸塩)等が挙げられる。
これらのエマルジョンブレーカーが塩の場合において、塩の種類としては、アンモニウム塩、アルカリ金属(カリウム、ナトリウム等)塩、アルカリ土類金属(カルシウム、バリウム等)塩、第3級アミン(例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等)等が挙げられる。ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸トリエタノールアミン及びポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウムが挙げられる。
【0025】
また、ノニオン性のエマルジョンブレーカーとしては、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、アルキルフェノールアルキレンオキシド付加物・ホルマリン縮合物、ポリアルキレングリコール共重合物、アルキルアミンのアルキレンオキシド付加物、ポリエーテルポリオール系ウレタン樹脂等が挙げられる。
【0026】
さらに、カチオン性のエマルジョンブレーカーとしては、ポリアミン化合物(例えば、N−ポリオキシエチレンポリアルキレンポリアミン等)が挙げられる。
【0027】
特に好ましいエマルジョンブレーカーは、アルキルフェノール縮合物である。本発明者らは、エマルジョンブレーカーとしてアルキルフェノール縮合物を用いることにより、遠心分離による油水分離がより効果的に行われることを確認した。アルキルフェノール縮合物としては、例えば、アルキルフェノール縮合物のアルキレンオキシド付加物等が挙げられる。伯東株式会社製のハクトールE−523(商品名)はノニオン型のアルキルフェノール縮合物を含んでいる。また、本発明者らは、伯東株式会社製のEW−01(商品名)のようなカチオン系ポリマーやEW−02(商品名)のようなアニオン系界面活性剤を含むものも、遠心分離による効果的な油水分離に適していることを確認した。
【0028】
ハクトールE−523は油溶性のため、エマルジョンに作用した後、主に分離した油側に移行し、水(重液)側への残留は少ないため、重液の処理が容易となるという利点がある。一方、EW−01やEW−02は水溶性であるため、エマルジョンに作用した後、主に分離した重液側に移行し、油側への残留は少なく、回収油の品質や精製工程への影響は小さいという利点がある。回収油の要求品質や重液の処理設備を考慮して、適切なタイプのエマルジョンブレーカーを適宜決定すればよい。また、エマルジョンブレーカーの添加量については、事前に小スケールで油水分離の試験を行い、最適な添加量を決定することが好ましい。
【0029】
エマルジョン化した含水油廃液を油水分離するためには、加温することも有効である。温水洗浄SLOP等の原油含有廃液では、ワックス類は上述したように油滴(または水滴)の周りを覆うことで、油滴が周りの水と直接接することを防ぎ、エマルジョンを安定化する。ところでワックス類は加温すると油側に溶解するため、含水油廃液を加温するとワックス類が溶解し、油滴が周りの水と直接接し、界面が不安定化するため、油滴同士が会合し粗大化することで油水分離が促進される。
【0030】
また、エマルジョン化した含水油廃液に含まれる浮遊物質は、ワックス類と共に油滴(または水滴)の周りを覆うことでエマルジョンを安定化する役割を有しているが、加温することにより、浮遊物質に付着したワックス類も油に溶解・除去されることでエマルジョンが不安定化し、油水分離が容易となる。また、浮遊物質は遠心分離工程でスラッジとして回収されるが、加温により浮遊物質からワックス類が除去されることで、スラッジ中の油分が低下する効果も期待できる。
【0031】
さらに、エマルジョン化した含水油廃液を加温することは、含水油廃液の粘度を低下させる効果を奏するため、添加薬剤が廃液と混合しやすくなり、その結果、薬剤添加によるエマルジョン破壊と油水分離を促進させる効果が期待できる。
【0032】
以上の理由から、含水油廃液の温度を45℃以上となるように加温することが好ましい。廃液の温度が45℃未満になると、廃液のエマルジョンを安定化しているワックス類が溶解しないおそれがあるため、ワックス類の溶解によるエマルジョンの破壊がし難くなり、油水分離が困難となるおそれがある。また、廃液の温度が45℃未満になると、廃液の粘度がそれほど低下しないため、添加薬剤が混合しやすくなる効果が発揮され難くなり、やはり油水分離が困難となるおそれがある。
【0033】
一方、含水油廃液の温度が上がると含水油廃液中の油成分の揮発が促進される。このため、廃液の温度は65℃以下とすることが好ましい。特に、廃液の温度が60℃を超えると一般に引火しにくいとされる重油の引火点をも超えるため、さらに好ましいのは、含水油廃液の加温を55℃以下とすることである。また、揮散した油成分が設備の周りに滞留しないよう、各設備を密閉し、可燃性ガスが漏えいしにくい構造とすることが望ましい。また、各設備から揮散したガスを吸引し、安全な場所で揮散させるような構造とすることが望ましい。
【0034】
以上の理由から、廃液の加温は45℃以上65℃以下の範囲が好ましく、さらに好ましいのは45℃以上55℃以下の範囲である。
【0035】
また、本発明の遠心分離工程から得られる水相(重液)の処理において、水中の粒子や油滴を凝集させるために凝集剤を用いることもできる。凝集剤としては、例えば、高分子凝集剤や無機塩類からなる凝集剤が挙げられる。高分子凝集剤としては、重液中の粒子の表面電荷等を考慮し、カチオン系高分子凝集剤、アニオン系高分子凝集剤、及びノニオン系高分子凝集剤のいずれか又は複数を適宜選択すればよい。また、無機塩類から成る凝集剤としては、硫酸アルミニウム(硫酸ばん土)やポリ塩化アルミニウム、塩化鉄、ポリ硫酸鉄などが適用可能である。
【0036】
カチオン系高分子凝集剤としては、例えば、ポリアミン系、ポリイミン系、ポリジアリルジアルキルアンモニウムクロライド、ポリアクリルアミドのマンニッヒ変性物等が挙げられる。特に好ましいのは、ポリアミン系凝集剤である。ポリアミン系凝集剤としては、例えば、ポリアミン系縮合物が挙げられる。
また、アニオン系高分子凝集剤としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸及びその塩等が挙げられる。
また、ノニオン系高分子凝集剤としては、例えば、ポリ(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【実施例】
【0037】
<含水油廃液の処理設備>
(実施例1)
実施例1の処理設備は原油含有廃液を処理するための設備であり、図1に示すように、原油含有廃液1を加熱蒸気2によって加温するための加温設備11を有しており、加温設備11によって温められた原油含有廃液1は第1遠心分離機12に送液されるようになっている。第1遠心分離機12は原油含有廃液1を油相からなる軽液4と、水相からなる重液6と、固形物からなるスラッジ8との三成分に分離可能な三相分離型の遠心分離機である。第1遠心分離機12は分離された軽液4を貯留する撹拌装置付の混合槽13に接続されている。混合槽13にはエマルジョンブレーカー3を供給するための薬剤添加設備13aが設けられており、混合槽13は第2遠心分離機14に接続されている。第2遠心分離機14も第1遠心分離機12と同様、三成分に分離可能な三相分離型の遠心分離機である。
【0038】
以上のように構成された実施例1の原油含有廃液処理設備では、まず原油含有廃水1が加温設備11に送液され、加熱用蒸気2によって加温される。加温された原油含有廃液1は第1遠心分離機12に供給され、油を主成分とする軽液4と、水を主成分とする重液6とが分離され、さらに、砂や鉄分などの無機物を主成分とするスラッジ8が第1遠心分離機12内の図示しないスクリューによって排出される。なお、第1遠心分離機12による遠心分離工程では、エマルジョンブレーカーは添加されないため、軽液4や重液6やスラッジ8にエマルジョンブレーカーが含有されることはない。第1遠心分離機12への原油含有廃液1の供給量は、排出された軽液4中の水分含有量や重液6の油分含有量を考慮し、充分な油水分離が行われるように適宜決定する。通常、軽液4中の水分含有量が10重量%以下、さらに望ましくは5重量%以下となるように原油含有廃液1の供給量を決定する。このような管理を行うことにより、原油含有廃液1中に含まれていた水の大部分は重液6として排出される。
【0039】
こうして第1遠心分離機12で分離された軽液4は、混合槽13でエマルジョンブレーカー3と混合された後、第2遠心分離機14に供給され、回収油5と、水を主成分とする重液7と、スラッジ9とに分離される。
【0040】
以上のように、実施例1の処理設備によれば、処理対象となる原油含有廃液1についてエマルジョンブレーカーを添加しない状態で、第1遠心分離機12で三相分離され、スラッジ8と重液6とが除かれる。そして、第1遠心分離機12から排出された軽液4についてのみエマルジョンブレーカー3が添加され、スラッジ9と重液7と回収油5に三相分離される。このため、エマルジョンブレーカー3が添加された原油含有廃液を単一の遠心分離機で三相分離する場合に比べて、エマルジョンブレーカー3の使用量を低減することができ、環境に対するCOD負荷が低くなる。また、第1遠心分離機12で分離された軽液4を、さらに第2遠心分離機14を用いて三相分離して回収油5を得るため、原油含有廃液1から含水率の低い回収油5を効率よく回収することができる。
【0041】
なお、この原油含有廃液処理設備では、第1遠心分離機12から分離された重液6に原油含有廃液1に含まれる油やスラッジの一部が残留する場合があるが、重液6にはエマルジョンブレーカーが含まれておらず、COD負荷は小さいことから、比較的簡便な処理方法を行うことのみで廃棄することができる。例えば、APIオイルセパレーターやCPIオイルセパレーターなど油と水の比重差を利用した分離方法、加圧浮上、凝集沈殿処理の適用等が考えられる。
【0042】
一方、第2遠心分離機14によって分離された重液7にはエマルジョンブレーカー3が含まれるため、重液6に比べてCOD値が高くなる。特に、エマルジョンブレーカー3として水溶性のものを使用した場合は、エマルジョンブレーカーは重液7に移行する割合が多くなるため、特にCOD値が高くなる。
しかしながら、原油含有排水1中に含まれる水の大部分は、第1遠心分離機12による分離により重液6中に移行しているため、軽液4中の含水量は少なく、第2遠心分離機で分離される重液7の発生量は極めて少なくなる。このため、COD値の大きな重液7を、COD値が小さく処理が容易な大量の重液6に混入することによって、全体のCOD負荷を小さくすることができ、廃棄するための処理方法も容易となる。また、重液7は発生量が少ないため、全量を産業廃棄物として処分することも可能となる。
【0043】
なお、実施例1の原油含有廃液処理設備として原油含有廃液1を処理対象として説明したが、油と水が混合した含水油廃液であれば同様な処理が可能である。例えば、各種の廃油と各種の洗浄廃水やスラッジが混合された、SLOPであっても処理することができる。SLOP中には廃油由来のワックス成分や界面活性を持つ成分が含まれるため、SLOPに含まれる水と油の界面にワックス成分や界面活性を持つ成分が集まり、水と油が直接接触しにくい状態を形成する。この状態では水中に微小な油滴が安定して存在するO/W型エマルジョンもしくは油中に微小な水滴が安定して存在するW/O型エマルジョンの状態となっている。
【0044】
(実施例1の変形例)
・混合槽13について
撹拌装置を設けた混合槽13に代えて、配管途中にラインミキサーを設置して混合する等の方法も適用可能である。また、混合槽13に撹拌装置を設けることは必須ではなく、エマルジョンブレーカー3と軽液4との混合状態に応じて設置するか否かを適宜判断すればよい。
・軽液4を加温する設備について
軽液4の温度は高いほど粘度が低下し、エマルジョンブレーカー3との混合が容易になることや、液温が高いほどエマルジョンが不安定化することから、軽液4を加温する設備を設けることが好ましい。また、第1遠心分離機12による分離工程において軽液4の温度が低下した場合、熱交換器などで軽液4を再度加温できる設備を必要に応じて設置することが望ましい。さらには、各設備や配管は断熱材等を用いた断熱構造とすることが望ましい。
【0045】
(実施例2)
実施例2の処理設備は、実施例1と同様、温水洗浄SLOP等の原油含有廃液を処理するための設備であり、実施例1における蒸気を直接吹き込む方式の加温設備11(図1参照)の代わりに、図2に示すように、原油含有廃液貯槽15及び熱交換器16が設けられており、原油含有廃液1を原油含有廃液貯槽15と熱交換器16の間で循環させながら原油含有廃液1を加温する構造とされている。
また、実施例1における混合槽13(図1参照)は設けられておらず、代わりに、図2に示すように、第1遠心分離機12から排出された軽液4を第2遠心分離機14に送液するための配管22に直接エマルジョンブレーカー3を供給する薬剤添加設備23が設けられており、図示しないラインミキサーによって混合されるようになっている。その他については実施例1と同様であり、同一の構成には同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0046】
以上のように構成された実施例2の処理設備では、熱交換器16で加温された原油含有廃液1が、エマルジョンブレーカーが添加されない状態で第1遠心分離機12に送られ、軽液4と重液6とスラッジ8とに三相分離される。そして、さらに軽液4に薬剤添加設備23からエマルジョンブレーカー3が添加された状態で第2遠心分離機14に送られ、回収油5と重液7とスラッジ9とに三相分離される。このため、実施例1の処理設備と同様、エマルジョンブレーカー3の使用量を低減することができ、環境に対するCOD負荷が低くなる。また、2段階の遠心分離工程をおこなうため、原油含有廃液から含水率の低い油を効率よく回収することができる。
【0047】
(実施例3)
実施例3の処理設備も温水洗浄SLOP等の原油含有廃液を処理するための設備であり、図3に示すように、原油含有廃液31を貯留する原油含有廃液貯槽32と熱交換器33とが設けられており、原油含有廃液貯槽32と熱交換器33の間で循環することによって原油含有廃液貯槽32に貯留された原油含有廃液31が加温される構造とされている。また、原油含有廃液貯槽32内の原油含有廃液31は三方電磁弁35を経て遠心分離機36に送液可能とされている。遠心分離機36は原油含有廃液31を油相からなる軽液37と、水相からなる重液38と、固形物からなるスラッジ39との三成分に分離可能な三相分離型の遠心分離機である。遠心分離機36によって分離された軽液37は、三方電磁弁41を介して油分貯留設備である軽液貯槽42に接続されており、軽液貯槽42はさらに三方電磁弁35に接続されている。また、軽液貯槽42にはエマルジョンブレーカー43を供給するための薬剤添加設備42aが設けられている。遠心分離機36で分離された重液38は三方電磁弁40を介して2つの排液管40a、40bのいずれか一方から排出されるようになっている。
【0048】
以上のように構成された実施例3の処理設備では、まず、三方電磁弁35、40、41を駆動させて、図4(a)に示す第1の流路に設定する。
すなわち、原油含有廃液貯槽32と熱交換器33の間で循環することによって原油含有廃液貯槽32に貯留された原油含有廃液31を加熱するとともに、三方電磁弁35を駆動させ、原油含有廃液31を遠心分離機36へ送液可能な流路とする。これにより、加温された原油含有廃液31が三方電磁弁35を経由して遠心分離機36に供給され、油相からなる軽液37と、水相からなる重液38と、固形物からなるスラッジ39との三成分に分離される。こうして遠心分離機36によって分離された軽液37は、三方電磁弁41による流路設定によって軽液貯槽42に送液され、さらに、薬剤添加設備42aによってエマルジョンブレーカー43が添加される。なお、軽液貯槽42から三方電磁弁35への流路は閉状態とされているため、軽液37は軽液貯槽42に貯留され続けられる。一方、遠心分離機36によって分離された重液38は三方電磁弁40による流路設定によって、排液管40aに送られる。
【0049】
以上のようにして、図4(a)に示す第1の流路の状態において軽液貯槽42にエマルジョンブレーカー43が添加された軽液37が充分に貯留された後、三方電磁弁35、40、41を駆動させて、図4(b)に示す第2の流路に設定する。
すなわち、三方電磁弁35を駆動させ、原油含有廃液貯槽32から遠心分離機36への流路を閉状態とし、軽液貯槽42から遠心分離機36への流路を開状態とする。これにより、軽液貯槽42に貯留された、エマルジョンブレーカー43が添加された軽液37が遠心分離機36に供給され、回収油44と、水相からなる重液38と、固形物からなるスラッジ39との三成分に分離される。こうして遠心分離機36によって分離された軽液37は、三方電磁弁41による流路設定によって軽液貯槽42に送られることなく回収油44として回収される。一方、遠心分離機36によって分離された重液38は三方電磁弁40による流路設定によって、排液管40bに送られる。
【0050】
実施例3の処理設備によれば、三方電磁弁35、40、41の切替による流路の操作によって、遠心分離器36によってエマルジョンブレーカーを添加しない状態で三相分離された軽液37について、エマルジョンブレーカー43が添加された状態で、再びスラッジ39と重液38と回収油44を得ることができる。このため、遠心分離機に供給される原油含有廃液に直接エマルジョンブレーカーを添加して1段階で油を回収する場合に比べ、エマルジョンブレーカーの使用量を低減することができ、環境に対するCOD負荷が低くなる。また、2段階の遠心分離工程をおこなうため、原油含有廃液から含水率の低い油を効率よく回収することができる。しかも、実施例3の処理設備では、ただ1台の遠心分離機36を用いているため、実施例1や実施例2の処理設備のように、2台の遠心分離器を用いる場合と比較して、設備の小型化が可能であり、設備費を低減することもできる。
【0051】
なお、実施例3の処理設備では、第1の流路と第2の流路との切り替えを行うために、連続処理ではなくバッチ処理となり、処理を一旦中断する必要がある。また、軽液37を遠心分離機36に供給する際には、遠心分離機36内に原油含有廃液31を遠心分離した際のスラッジなどが残留しているため、これらが回収油44に混入するおそれがある。このため、第1の流路から第2の流路に切り替える際には、必要に応じて遠心分離機36やこれに接続されている配管内を洗浄することが好ましい。
【0052】
(実施例3の変形例)
・流路切替手段について
実施例3の処理設備では、第1の流路と第2の流路の切替を3つの三方電磁弁を用いて行っているが、第1の流路と第2の流路とを切り替えることが可能であるならば、他の流路切替手段を用いてもよい。例えば、三方電磁弁の代わりに二方弁を2つ組み合わせる方法等が挙げられる。
・軽液37を加温する設備について
軽液37の温度は高いほど粘度が低下し、エマルジョンブレーカー43との混合が容易になることや、液温が高いほどエマルジョンが不安定化することから、軽液37を加温する設備を設けることが好ましい。軽液貯槽42において軽液37の温度が低下した場合、熱交換器などで軽液37を再度加温できる設備を必要に応じて設置することが望ましい。さらには、各設備や配管は断熱材等を用いた断熱構造とすることが望ましい。
【0053】
(比較例1)
比較例1の処理設備も温水洗浄SLOP等の原油含有廃液を処理するための設備であり、図5に示すように、原油含有廃液100を貯留するための原油含有廃液貯槽101及び熱交換器102が設けられており、原油含有廃液100を原油含有廃液貯槽101と熱交換器102の間で循環させながら原油含有廃液100を加温する構造とされている。原油含有廃液貯槽101は配管104を介して遠心分離機107に接続されている。配管104の途中にはエマルジョンブレーカー106を配管104内に送液する薬剤添加設備105が接続されている。遠心分離機107は、エマルジョンブレーカー106が添加された原油含有廃液100を、油相からなる回収油108と水相からなる重液109と固形物からなるスラッジ110との三成分に分離可能な三相分離型の遠心分離機である。
【0054】
以上のように構成された比較例1の原油含有廃液処理設備では、処理対象となる原油含有廃液100について、その全量にエマルジョンブレーカー106が添加された後、遠心分離機107で三相分離され、回収油108を得るとともに、スラッジ110と重液109とが除かれる。すなわち、遠心分離機107による1回のみの工程で回収油108を得るため、2段階で遠心分離工程を行う実施例1〜3の処理設備に比較して、回収油108に含まれる水分含有量が多くなる。また、原油含有廃液100の全量にエマルジョンブレーカー106が添加されてから遠心分離が行われるため、回収油108やスラッジ110や重液109に含まれるエマルジョンブレーカー106の含有量が多くなる。このため、環境に対するCOD負荷が高くなる。
【0055】
<含水油廃液の処理試験>
(実施例4)
実施例4では、上述した実施例2の原油含有廃液処理設備を使い、原油貯蔵タンクの温水洗浄SLOPの処理試験を行った。
【0056】
・第1遠心分離工程S1
試験に用いた温水洗浄SLOPの水分含有率は18.6%であった。温水洗浄SLOPは図2に示す実施例2の原油含有廃液貯槽15に供給され、最初に熱交換器16を含む循環ラインを用いて温水洗浄SLOPを約55℃に加温した。加温された温水洗浄SLOPは、次いで第1遠心分離機12に供給された。この時の遠心分離機12への原液供給量は1時間当たり500L、遠心力は2500Gに設定した。また、処理量は約150kgであった。第1遠心分離機12から排出された軽液4の含水率は約2.6%であり、発生量は121kgであった。一方、重液6は22kg発生し黒色の浮遊物質を含んでいた。またスラッジ8の発生量は6kgであった。
【0057】
・添加工程S2
第1遠心分離工程S1において回収された軽液4にエマルジョンブレーカー3としてアルキルフェノール縮合物を含むエマルジョンブレーカーのハクトールE−523(伯東株式会社製)を軽液1Lあたり10mgの割合で添加した。
【0058】
・第2遠心分離工程S3
こうしてE−523が添加された軽液4を第2遠心分離機14に供給した。第2遠心分離機14への軽液4の供給量は、第1遠心分離工程S1と同様、500L/hrに設定した。こうして第2遠心分離機14により回収油5と重液7が得られた。重液7はやや褐色を帯びた透明度のある様相であった。軽液4の含水率が約2.6%であったのに対して、回収油5の含水率は1.4%まで低下していた。
一方、排出された重液6の性状はCOD濃度が672mg/L、発生量は温水洗浄SLOP1000kg当たり約147Lであった。また、重液7のCOD濃度は151mg/L、発生量は温水洗浄SLOP1000kg当たり約10Lであった。
【0059】
実施例4で得られた重液6に凝集剤としてハクトロンB−733(伯東株式会社製)を200mg/L及びA−151(水ing株式会社製)6mg/Lの割合で添加し、凝集沈殿させたところ、得られた上澄液CODは153mg/Lであり、第1遠心分離後の重液処理には凝集沈殿処理が有効であることが分かった。一方、重液7は同様の処理ではCODがほとんど低減しなかったものの、発生量が少ないため産業廃棄物として燃焼などの処理が妥当であると考えられた。
【0060】
(実施例5)
実施例5も実施例4と同様、実施例2の原油含有廃液処理設備を用い、原油貯蔵タンクの温水洗浄SLOPの処理試験を行った。
【0061】
・第1遠心分離工程S1
試験に用いた温水洗浄SLOPの水分含有率は18.6%であった。
温水洗浄SLOPは原油含有廃液貯槽15に供給され、最初に熱交換器16を含む循環ラインを用いて温水洗浄SLOPを約55℃に加温した。加温された温水洗浄SLOPは、次いで第1遠心分離機12に供給された。この時の第1遠心分離機12への原液供給量は1時間当たり500L、遠心力は2500Gに設定した。また、処理量は約150kgであった。第1遠心分離機12から排出された軽液4の含水率は約2.6%であり、発生量は121kgであった。一方、重液6は22kg発生し、黒色の浮遊物質を含んでいた。またスラッジ8の発生量は6kgであった。
【0062】
・添加工程S2
回収された軽液4にエマルジョンブレーカー3を添加し、よく混合した。実施例5では実施例4とは異なるエマルジョンブレーカーとして、カチオン系ポリマーのEW−01(伯東株式会社製)及びアニオン系界面活性剤のEW−02(伯東株式会社製)を両方添加した。添加量は軽液1LあたりEW−01は300mg、EW−02は30mgとした。
【0063】
・第2遠心分離工程S3
エマルジョンブレーカー3を添加後、軽液4を第2遠心分離機14に供給した。第2遠心分離機14への軽液4の供給量は第1遠心分離機12への供給量と同じく500L/hrに設定した。第2遠心分離機14により回収油5と重液7が得られた。重液7はやや褐色を帯びた透明度のある様相であった。回収油5の含水率は0.8%であり、遠心分離前の軽液4の含水率2.6%に比較して1/3以下に低下しており、エマルジョンブレーカーを混合してから遠心分離することで低含水率の回収油を得られることが分かった。排出された重液6のCOD濃度は670mg/L、発生量は温水洗浄SLOP1000kg当たり約147Lであった。また、重液7のCOD濃度は12400mg/L、発生量は温水洗浄SLOP1000kg当たり約15Lであった。
【0064】
<実施例4と実施例5の比較>
実施例4と実施例5は全く同じ温水洗浄SLOPを用いて試験を行ったにもかかわらず、第2遠心分離機14から排出された実施例4の重液7のCODは実施例5と比較して極めて低かった。この原因としては、実施例4で使用したエマルジョンブレーカーが油溶性であるのに対し、実施例5で使用したエマルジョンブレーカーは水溶性であるため、実施例5で使用したエマルジョンブレーカーが主に分離後の重液7側に選択的に抽出されたことによるものと考えられた。
実施例5における重液7のCOD濃度は高くなったが、その発生量は温水洗浄SLOP1000kgあたり約15Lであり、第1遠心分離機12による遠心分離で得られたCODが低い重液6の発生量の約147Lと比較して少量であり、高濃度COD廃液を減容化できることが分かった。
【0065】
(実施例6)
実施例6では実施例2の原油含有廃液処理設備を用いて、石油精製工場のSLOPタンク底部の含油汚泥の処理試験を行った。石油精製工場では、工場内で発生した含油廃水、装置停止時のプロセス油等の油性廃液をSLOPタンクと呼ばれる貯槽に集め、下層から分離した水分を排水処理しているが、タンクの底部には油と汚泥、水分の混ざった含油汚泥からなるSLOPが発生する。このSLOPを試験に供した。SLOPの水分含有率は63.3%であった。
【0066】
・第1遠心分離工程S1
SLOPは原油含有廃液貯槽15に供給され、最初に熱交換器16を含む循環ラインを用いてSLOPを約55℃に加温した。加温されたSLOPは次いで第1遠心分離機12に供給された。この時の遠心分離機12へのSLOP供給量は1時間当たり500L、遠心力は2500Gに設定した。また、処理量は約250kgであった。第1遠心分離機12から排出された軽液4の含水率は約8%であり、発生量は77kgであった。一方、重液6は152kg発生し、黒色の浮遊物質を含んでいた。またスラッジ8の発生量は21kgであった。
【0067】
・添加工程S2
回収された軽液4にエマルジョンブレーカー3を添加し、よく混合した。実施例5と同様にエマルジョンブレーカーとしてカチオン系ポリマーのEW−01とアニオン系界面活性剤のEW−02を添加した。添加率は軽液1LあたりEW−01は300mg、EW−02は30mgとした。
【0068】
・第2遠心分離工程S3
エマルジョンブレーカー添加後、軽液4を第2遠心分離機14に供給した。第2遠心分離機14への軽液4の供給量は第1遠心分離機へのSLOPの供給量と同じく500L/hrに設定した。第2遠心分離機14による三相分離によって回収油5と重液7が得られた。重液7はやや褐色を帯びた透明度のある様相であった。回収油5の含水率は1.4%であり三相分離前の軽液4の含水率8%に比べて低下しており、エマルジョンブレーカーを混合してから遠心分離することで低含水率の回収油を得られことが分かった。
【0069】
(比較例2)
比較例2では、図5に示す比較例1の原油含有廃液処理設備を用いて、原油貯蔵タンクの温水洗浄SLOPの処理試験を行った。
【0070】
・添加工程S4
試験に用いた温水洗浄SLOPの水分含有率は18.6%であった。
温水洗浄SLOPを原油含有廃液貯槽101に供給し、最初に熱交換器102を含む循環ラインを用いて温水洗浄SLOPを55℃に加温した。次に、加温した温水洗浄SLOPにエマルジョンブレーカーEW−01とEW−02を添加した。EW−01の添加率は温水洗浄SLOP1L当たり300mg、EW−02添加率は30mgに設定した。
【0071】
・遠心分離工程S5
エマルジョンブレーカーを添加した後、温水洗浄SLOPを遠心分離機107に供給した。この時の遠心分離機107への原水供給量は1時間当たり500Lに設定した。こうして、回収油108が約118kg、重液109が約26kg、スラッジ110が約6kg回収された。
【0072】
重液109のCODは2000mg/L、発生量は温水洗浄SLOP1000kg当たり約175Lであり、実施例4や実施例5と比較して高CODの廃液の発生量が増加した。比較例2で得られた重液109について、実施例4と同様に凝集剤としてハクトロンB−733(伯東株式会社製)を200mg/L及びA−151(水ing株式会社製)6mg/Lの割合で添加したが、CODの低下が認められず、更に粉末活性炭を20000mg/Lの添加を併用したところ、得られた上澄液のCODが185mg/Lであり、実施例4と比較して薬品注入率が大幅に増加した。この結果より、比較例2で示した一段階のみの遠心分離では、処理が困難なエマルジョンブレーカーを含む重液の発生量が多くなってしまうことが分かった。これに対して、実施例4及び5ではエマルジョンブレーカーを含む重液の発生が第2遠心分離工程からの重液に限定されるため、その発生量は少なくなることが確認できた。
また、比較例2におけるエマルジョンブレーカーの使用量は、EW−01ではSLOP1kgあたり300mg、EW−02では30mgであり、その使用量は軽液に対してエマルジョンブレーカーを添加する実施例5よりも増加した。
【符号の説明】
【0073】
1,31、100…含水油廃液(原油含有廃液)
3,43、106…エマルジョンブレーカー
4,5,37,44、108…油相(4,37…軽液,5,44、108…回収油)
6,7,38,109…水相(重液)
8,9,39,110…固形物(スラッジ)
12…第1遠心分離機
14…第2遠心分離機
36、107…遠心分離機
13a,23,42a、105…薬剤添加設備
11,16,33、102…加温設備(11…加温設備,16,33、102…熱交換器)

図1
図2
図3
図4
図5