(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6640209
(24)【登録日】2020年1月7日
(45)【発行日】2020年2月5日
(54)【発明の名称】5−ブロモ−1,2,3−トリクロロベンゼンを調製するプロセス
(51)【国際特許分類】
C07C 17/35 20060101AFI20200127BHJP
C07C 25/02 20060101ALI20200127BHJP
B01J 27/128 20060101ALI20200127BHJP
B01J 27/10 20060101ALI20200127BHJP
C07C 17/12 20060101ALN20200127BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20200127BHJP
【FI】
C07C17/35
C07C25/02
B01J27/128 Z
B01J27/10 Z
!C07C17/12
!C07B61/00 300
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-519836(P2017-519836)
(86)(22)【出願日】2015年10月8日
(65)【公表番号】特表2017-537063(P2017-537063A)
(43)【公表日】2017年12月14日
(86)【国際出願番号】EP2015073219
(87)【国際公開番号】WO2016058897
(87)【国際公開日】20160421
【審査請求日】2018年10月3日
(31)【優先権主張番号】14188742.2
(32)【優先日】2014年10月14日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】300091441
【氏名又は名称】シンジェンタ パーティシペーションズ アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100136249
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 貴光
(72)【発明者】
【氏名】スミッツ ヘルマルス
【審査官】
前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】
特表平09−512540(JP,A)
【文献】
特開昭53−034733(JP,A)
【文献】
特開昭53−028126(JP,A)
【文献】
Journal of Organic Chemistry,2007年,72(15),p.5867-5869
【文献】
Journal of the American Chemical Society,1971年,93(5),p.1190-1198
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 17/00
C07C 25/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I
【化1】
の化合物を調製するプロセスであって、
a)式II
【化2】
の化合物と臭素化剤とを
、酸性触媒
又は鉄粉末の存在下で反応させて、式III
【化3】
の化合物を得るステップ、および
b)前記式IIIの化合物をテトラヒドロフランまたは2−メチル−テトラヒドロフラン中でカリウムtert−ブトキシドと反応させて、式Iの化合物を得るステップ
を含むプロセス。
【請求項2】
前記酸性触媒が、硫酸、塩酸、リン酸およびルイス酸からなる群から選択されるか、または臭素と鉄粉末とを混合することによりインサイチューで調製される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記ルイス酸が、臭化鉄(III)、臭化アルミニウム、三フッ化ホウ素エーテラートおよび四塩化チタンから選択される、請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記臭素化剤が、臭素およびN−ブロモスクシンイミドから選択される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
前記式IIIの化合物がテトラヒドロフラン中でカリウムtert−ブトキシドと反応させられて、式Iの化合物が得られる、請求項1に記載のプロセス。
【請求項6】
a)式II
【化4】
の化合物と、臭素およびN−ブロモスクシンイミドから選択される臭素化剤とを、硫酸、塩酸、リン酸およびルイス酸からなる群から選択されるか、または臭素と鉄粉末とを混合することによりインサイチューで調製される酸性触媒の存在下で反応させて、式III
【化5】
の化合物を形成するステップ、および
b)前記式IIIの化合物をテトラヒドロフラン中でカリウムtert−ブトキシドと反応させて、式Iの化合物を得るステップ
を含む、請求項1に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中間体として1−ブロモ−2,3,4−トリクロロベンゼンを用いる1,2,3−トリクロロ−5−ブロモ−ベンゼンの調製に関する。
【背景技術】
【0002】
1,2,3−トリクロロ−5−ブロモベンゼンは、例えば、国際公開第2012/120135号に記載されているように、薬学および農芸化学産業の両方における生物学的に有効な化合物の調製に重要な中間体である。
【0003】
Narander,N.;Srinivasu,P.;Kulkarni,S.J.;Raghavan,K.V.Synth.Comm.2000,30,3669およびSott,R.;Hawner,C.;Johansen,J.E.Tetrahedron 2008,64,4135によれば、5−ブロモ−1,2,3−トリクロロ−ベンゼンは、以下のスキーム1に従って調製することができる。
【化1】
【0004】
この公知のプロセスに係る顕著な不利益は、化学量論量の塩化銅を第2のステップで用いる必要があり、それにより、プロセスが大規模では環境的に好ましくないものとなることである。他の問題は、第2のステップで顕著な量の副産物、とりわけ1−ブロモ−3,5−ジクロロ−ベンゼンが形成されることである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
1,2,3−トリクロロ−5−ブロモ−ベンゼンは、中間体として1−ブロモ−2,3,4−トリクロロベンゼンを用いることにより有利に調製され得ることが見いだされた。従って、本発明の目的は、中間体として1−ブロモ−2,3,4−トリクロロベンゼンを用いて、1,2,3−トリクロロ−5−ブロモベンゼンを調製するプロセスを提供することである。このプロセスは、好適な環境プロファイル、高い収率および少量の副産物という特徴を示す。
【課題を解決するための手段】
【0006】
芳香族環における1つの位置から他の位置への塩基により誘起されるハロゲン原子の移動は、ハロゲンダンス反応と呼ばれ、環水素の酸性度に顕著な差異が存在することを条件として芳香族系および芳香族複素環系の両方で知られている(レビュー記事:Schnuerch,M.;Spina,M.;Khan,A.F.;Mihovilovic,M.D.;Stanetty,P.Chem.Soc.Rev.2007,36,1046)。しかしながら、単純な芳香族系の場合、この反応は、低い選択性およびベンザイン中間体の形成に起因して副産物が顕著に形成されることにより、合成的価値がほとんどない(例えば、Mach,M.H.;Bunnett,J.F.J.Org.Chem.1980,45,4660に記載されているとおり)。合成上有用な数少ない例では、例えば、Heiss,C.;Rausis,T.;Schlosser,M.Synthesis2005,4,617(スキーム2):
【化2】
に記載されているように、良好な収率を達成するには低温と超強塩基との組み合わせが必要であった。
【0007】
驚くべきことに、1−ブロモ−2,3,4−トリクロロ−ベンゼンは、触媒量のカリウムtert−ブトキシドをテトラヒドロフランまたは2−メチル−テトラヒドロフラン中において周囲温度で用いることにより、1,2,3−トリクロロ−5−ブロモ−ベンゼンに異性化され得ることが見出された。これらの条件下では、1,2,3−トリクロロ−5−ブロモ−ベンゼンと1−ブロモ−2,3,4−トリクロロ−ベンゼンとの間でおよそ80:20の平衡比が達成される。しかしながら、これは、出発材料を分離および再利用し得るため、材料の損失をもたらすものではない。
【0008】
従って、本発明によれば、式I
【化3】
の化合物を調製するプロセスであって、
a)式II
【化4】
の化合物と臭素化剤とを酸性触媒の存在下で反応させて、式III
【化5】
の化合物を得るステップ、および
b)式IIIの化合物をテトラヒドロフランまたは2−メチル−テトラヒドロフラン中でカリウムtert−ブトキシドと反応させて、式Iの化合物を得るステップ
を含むプロセスが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下のスキーム3は、本発明の反応をより詳細に説明する。
【化6】
【0010】
ステップa)
式IIIの化合物は、式IIの化合物と求電子性臭素化剤とを反応させることにより調製することができる。好適な試薬としては、これらに限定されないが、臭素およびN−ブロモスクシンイミドが挙げられる。
【0011】
典型的には、この反応は、好適な酸性触媒の存在下で行われる。好適な触媒としては、これらに限定されないが、硫酸、塩酸およびリン酸などの鉱酸、ならびに臭化鉄(III)、臭化アルミニウム、三フッ化ホウ素エーテラート(boron trifluoride etherate)および四塩化チタンなどのルイス酸が挙げられる。任意選択により、所望される触媒はまた、臭素と鉄粉末とを混合することによりインサイチューで形成することができる。
【0012】
式IIの化合物の式IIIの化合物への変換は、有機溶媒を伴うことなく実施することができる。あるいは、テトラクロロメタン、1,2−ジクロロエタンおよび二硫化炭素などの溶媒を利用することができる。
【0013】
この反応は、0℃〜150℃、好ましくは40℃〜120℃、最も好ましくは60℃〜100℃の温度で実施することができる。
【0014】
ステップb)
式Iの化合物は、式IIIの化合物からカリウムtert−ブトキシドによる処理で調製することができる。この塩基は、触媒量および化学量論量の両方で用いられ得る。好ましい量は0.1〜0.5モル当量である。
【0015】
この反応は、溶媒の存在下で実施されることが好ましい。好ましい溶媒は、テトラヒドロフランおよび2−メチル−テトラヒドロフラン、好ましくはテトラヒドロフランである。
【0016】
この反応は、−80℃〜100℃、好ましくは0℃〜50℃の温度、最も好ましくは周囲温度で実施され得る。
【0017】
本発明の好ましい実施形態は、式I
【化7】
の化合物を調製するプロセスであって、
a)式II
【化8】
の化合物と、臭素およびN−ブロモスクシンイミドから選択される臭素化剤とを、硫酸、塩酸、リン酸およびルイス酸からなる群から選択されるか、または臭素と鉄粉末とを混合することによりインサイチューで調製される酸性触媒の存在下で反応させて、式III
【化9】
の化合物を形成するステップ、および
b)式IIIの化合物をテトラヒドロフラン中でカリウムtert−ブトキシドと反応させるステップ
を含むプロセスを提供する。
【実施例】
【0018】
調製例:
実施例1:式IIIの1−ブロモ−2,3,4−トリクロロ−ベンゼンの調製
【化10】
1,2,3−トリクロロベンゼン(1.5g、8.3mmol)のテトラクロロメタン(21ml)中の溶液に鉄粉末(0.92g、17mmol)を添加した。この懸濁液に臭素(2.7g、17mmol)を添加し、得られた混合物を100℃で18時間にわたり加熱した。この反応を、飽和水性NaHCO
3および1M Na
2S
2O
3の混合物を添加することにより失活させた。得られた混合物を、セライトを通してろ過し、層を分離し、水性相をジクロロメタンで抽出した(2×)。組み合わせた有機層をNa
2SO
4で乾燥させ、減圧下で蒸発させた。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィ(純粋なヘプタンで溶離)により精製して、1−ブロモ−2,3,4−トリクロロ−ベンゼン(1.68g)を白色の粉末として得た。
1H NMR(400MHz,CDCl
3)δ7.50(d,J=8.8Hz,1H),7.27(d,J=8.8Hz,1H)。
【0019】
あるいは、式IIIの化合物は、以下の手順を行うことによっても入手し得る:1,2,3−トリクロロ−ベンゼンを60℃に加熱し、臭化鉄(III)(1.66g、5.5mmol)と、続いて臭素(1.77g、11mmol)とを添加した。反応混合物を60℃で3時間にわたり撹拌し、周囲温度に冷却し、ジクロロメタンで希釈し、飽和水性NaHCO
3および1M Na
2S
2O
3の混合物中に注ぎ入れることにより失活させた。得られた混合物を、セライトを通してろ過し、層を分離し、水性相をジクロロメタンで抽出した(2×)。組み合わせた有機層をNa
2SO
4で乾燥させ、減圧下で蒸発させて、純粋な1−ブロモ−2,3,4−トリクロロ−ベンゼン(2.81g)をベージュ色の粉末として得た。
【0020】
実施例2:式Iの5−ブロモ−1,2,3−トリクロロ−ベンゼンの調製
【化11】
1−ブロモ−2,3,4−トリクロロ−ベンゼン(50.0g、192mmol)の乾燥テトラヒドロフラン(25ml)中の溶液に、THF中の1.0M KOtBu(52g、58mmol)を添加し、得られた溶液を周囲温度で1時間にわたり撹拌した。この反応を水性HClで酸性化し、水性相をジクロロメタンで抽出した(2×)。組み合わせた有機層をNa
2SO
4で乾燥させ、減圧下で蒸発させた。得られた粗生成物(49.5g)は、5−ブロモ−1,2,3−トリクロロ−ベンゼンおよび1−ブロモ−2,3,4−トリクロロ−ベンゼンの比率5.1:1混合物を含有する。両方の物質を減圧下で蒸留により分離することができ、次いで、1−ブロモ−2,3,4−トリクロロ−ベンゼンを再利用することができる。
1H NMR(400MHz,CDCl
3)δ7.55(s,2H)。
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕式I
【化12】
の化合物を調製するプロセスであって、
a)式II
【化13】
の化合物と臭素化剤とを酸性触媒の存在下で反応させて、式III
【化14】
の化合物を得るステップ、および
b)前記式IIIの化合物をテトラヒドロフランまたは2−メチル−テトラヒドロフラン中でカリウムtert−ブトキシドと反応させて、式Iの化合物を得るステップ
を含むプロセス。
〔2〕前記酸性触媒が、硫酸、塩酸、リン酸およびルイス酸からなる群から選択されるか、または臭素と鉄粉末とを混合することによりインサイチューで調製される、前記〔1〕に記載のプロセス。
〔3〕前記ルイス酸が、臭化鉄(III)、臭化アルミニウム、三フッ化ホウ素エーテラートおよび四塩化チタンから選択される、前記〔2〕に記載のプロセス。
〔4〕前記臭素化剤が、臭素およびN−ブロモスクシンイミドから選択される、前記〔1〕に記載のプロセス。
〔5〕前記式IIIの化合物がテトラヒドロフラン中でカリウムtert−ブトキシドと反応させられて、式Iの化合物が得られる、前記〔1〕に記載のプロセス。
〔6〕a)式II
【化15】
の化合物と、臭素およびN−ブロモスクシンイミドから選択される臭素化剤とを、硫酸、塩酸、リン酸およびルイス酸からなる群から選択されるか、または臭素と鉄粉末とを混合することによりインサイチューで調製される酸性触媒の存在下で反応させて、式III
【化16】
の化合物を形成するステップ、および
b)前記式IIIの化合物をテトラヒドロフラン中でカリウムtert−ブトキシドと反応させて、式Iの化合物を得るステップ
を含む、前記〔1〕に記載のプロセス。