特許第6640210号(P6640210)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許66402101−(3,5−ジクロロ−4−フルオロ−フェニル)−2,2,2−トリフルオロ−エタノンを調製するプロセス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6640210
(24)【登録日】2020年1月7日
(45)【発行日】2020年2月5日
(54)【発明の名称】1−(3,5−ジクロロ−4−フルオロ−フェニル)−2,2,2−トリフルオロ−エタノンを調製するプロセス
(51)【国際特許分類】
   C07C 45/63 20060101AFI20200127BHJP
   C07C 49/80 20060101ALI20200127BHJP
   C07C 45/45 20060101ALI20200127BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20200127BHJP
【FI】
   C07C45/63
   C07C49/80
   C07C45/45
   !C07B61/00 300
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-519851(P2017-519851)
(86)(22)【出願日】2015年10月8日
(65)【公表番号】特表2017-531004(P2017-531004A)
(43)【公表日】2017年10月19日
(86)【国際出願番号】EP2015073218
(87)【国際公開番号】WO2016058896
(87)【国際公開日】20160421
【審査請求日】2018年10月3日
(31)【優先権主張番号】14188741.4
(32)【優先日】2014年10月14日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】300091441
【氏名又は名称】シンジェンタ パーティシペーションズ アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100136249
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 貴光
(72)【発明者】
【氏名】スミッツ ヘルマルス
【審査官】 前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】 特表2014−507459(JP,A)
【文献】 独国特許出願公開第102009049419(DE,A1)
【文献】 特表2011−519827(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/169622(WO,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第00211561(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 45/00
C07C 49/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I
【化1】
の化合物を調製するプロセスであって、
a)式II
【化2】
の化合物をマグネシウムまたは式III
1−M2X (III)
(式中、
1はC1〜C4アルキルであり、
2はリチウムまたはマグネシウムであり、および
Xはハロゲンであるか、または存在していない)
の有機金属試薬の存在下で式IV
CF3−C(O)−R2 (IV)
(式中、R2はハロゲン、ヒドロキシル、C1〜C4アルコキシ、(ジ−C1〜C4アルキル)アミノ、OC(O)CF3、フェノキシまたはOM1であり、ここで、M1はリチウム、マグネシウム、ナトリウムまたはカリウムである)
の化合物と反応させて、式V
【化3】
の化合物を得るステップ、および
b)前記式Vの化合物とアルカリ金属フッ化物とを触媒量の相間移動触媒の存在下において、極性溶媒の存在下で反応させて、前記式Iの化合物を得るステップ
を含むプロセス。
【請求項2】
a)式II
【化4】
の化合物を式III
1−M2X (III)
(式中、
1はC1〜C4アルキルであり、
2はリチウムまたはマグネシウムであり、および
Xはハロゲンであるか、または存在していない)
の有機金属試薬の存在下で反応させるステップを含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記有機金属試薬が、LiClと錯化したイソプロピルマグネシウムクロリドである、請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記アルカリ金属フッ化物が、KF、LiFおよびNaFから選択される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
前記相間移動触媒が、一般式(R34PXのホスホニウム塩および一般式(R34NXのアンモニウム塩(式中、R3はC1〜C4アルキルまたはフェニルであり、およびXはハロゲンである)からなる群から選択される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項6】
前記極性溶媒が、スルホラン、ジメチルホルムアミドおよびジメチルスルホキシドからなる群から選択される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項7】
a)式II
【化5】
の化合物を式III
1−M2X (III)
(式中、
1はC1〜C4アルキルであり、
2はリチウムまたはマグネシウムであり、および
Xはハロゲンであるか、または存在していない)
の有機金属試薬の存在下で式IV
CF3−C(O)−R2 (IV)
(式中、R2はハロゲン、ヒドロキシル、C1〜C4アルコキシ、(ジ−C1〜C4アルキル)アミノ、OC(O)CF3、フェノキシまたはOM1であり、ここで、M1はリチウム、マグネシウム、ナトリウムまたはカリウムである)
の化合物と反応させて、式V
【化6】
の化合物を得るステップ、および
b)前記式Vの化合物と、KF、LiFおよびNaFから選択されるアルカリ金属フッ化物とを、一般式(R34PXのホスホニウム塩および一般式(R34NXのアンモニウム塩(式中、R3はC1〜C4アルキルまたはフェニルであり、およびXはハロゲンである)からなる群から選択される触媒量の相間移動触媒の存在下において、スルホラン、ジメチルホルムアミドおよびジメチルスルホキシドからなる群から選択される極性溶媒の存在下で反応させて、前記式Iの化合物を得るステップ
を含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項8】
前記有機金属試薬がLiClと錯化したイソプロピルマグネシウムクロリドである、請求項7に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5−ブロモ−1,2,3−トリクロロ−ベンゼンを出発材料として用いる、1−(3,5−ジクロロ−4−フルオロ−フェニル)−2,2,2−トリフルオロ−エタノンの調製に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば欧州特許出願公開第1932836号明細書に開示されているように、1−(3,5−ジクロロ−4−フルオロ−フェニル)−2,2,2−トリフルオロ−エタノンは、有害生物の防除に活性なイソキサゾリン置換ベンズアミドの調製に係る重要な中間体である。
【0003】
1−(3,5−ジクロロ−4−フルオロ−フェニル)−2,2,2−トリフルオロ−エタノンは、5−ブロモ−1,2,3−トリクロロ−ベンゼンを出発材料として用いることにより有利に調製することができる。5−ブロモ−1,2,3−トリクロロ−ベンゼンは、Narander,N.;Srinivasu,P.;Kulkarni,S.J.;Raghavan,K.V.Synth.Comm.2000,30,3669およびSott,R.;Hawner,C.;Johansen,J.E.Tetrahedron 2008,64,4135に記載されているように調製することができる。3−トリフルオロメチルカルコンは、国際公開第2009/126668号に開示されている方法に従って調製することができる。
【0004】
トリフルオロ酢酸の誘導体をハロアレーンから誘導された有機金属試薬と反応させることによるアリールトリフルオロメチルケトンの合成は周知であり、例えば、2,2,2−トリフルオロ−1−(3,4,5−トリクロロフェニル)エタノンの調製について国際公開第2012/120135号に記載されている。1−(3,5−ジクロロ−4−フルオロ−フェニル)−2,2,2−トリフルオロ−エタノンの合成について、対応する出発材料は5−ブロモ−1,3−ジクロロ−2−フルオロ−ベンゼンである。しかしながら、この物質は、唯一の既述の合成がMiller,M.W.;Mylari,B.L.;Howes,H.L.;Figdor,S.K.;Lynch,M.J.;Lynch,J.E.;Koch,R.C.J.Med.Chem.1980,23,1083、中国特許第101177379号明細書、国際公開第2009/070485号および中国特許第103664511号明細書(スキーム1)に記載されている非効率的な多段式アプローチであるため、特に大規模での調製が困難である。
【化1】
【0005】
従って、1−(3,5−ジクロロ−4−フルオロ−フェニル)−2,2,2−トリフルオロ−エタノンを、より容易に入手可能である2,2,2−トリフルオロ−1−(3,4,5−トリクロロフェニル)エタノンから調製することがきわめて望ましい。驚くべきことに、2,2,2−トリフルオロ−1−(3,4,5−トリクロロフェニル)エタノンとフッ化カリウムとを相間移動触媒および極性溶媒の存在下で反応させることにより、所望の1−(3,5−ジクロロ−4−フルオロ−フェニル)−2,2,2−トリフルオロ−エタノンが得られることが見いだされた。このような求核性芳香族置換反応は、芳香族ニトロ化合物について周知である(例えば、国際公開第92/00270号に開示されているとおり)一方で、トリフルオロメチルケトンを伴う、相当する反応について記載のある従来技術は存在しておらず、これは、この基が一般的に十分に強い活性化基であると知られていないからである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、5−ブロモ−1,2,3−トリクロロ−ベンゼンを中間体として用いて、1−(3,5−ジクロロ−4−フルオロ−フェニル)−2,2,2−トリフルオロ−エタノンを調製するプロセスを提供することである。本発明に係るプロセスは、反応ステップの数が少なく、選択性および収率が高いことにより特徴付けられる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従って、本発明によれば、式I
【化2】
の化合物を調製するプロセスであって、
a)式II
【化3】
の化合物をマグネシウムまたは式III
1−M2X (III)
(式中、
1はC1〜C4アルキルであり、
2はリチウムまたはマグネシウムであり、および
Xはハロゲンであるか、または存在していない)
の有機金属試薬の存在下で式IV
CF3−C(O)−R2 (IV)
(式中、
2はハロゲン、ヒドロキシル、C1〜C4アルコキシ、(ジ−C1〜C4アルキル)アミノ、OC(O)CF3、フェノキシまたはOM1であり、ここで、M1はリチウム、マグネシウム、ナトリウムまたはカリウムである)
の化合物と反応させて、式V
【化4】
の化合物を得るステップ、および
b)式Vの化合物とアルカリ金属フッ化物とを触媒量の相間移動触媒の存在下において、極性溶媒の存在下で反応させて、式Iの化合物を得るステップ
を含むプロセスが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
置換基の定義中に記載のアルキル基は、直鎖または分岐であり得、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、イソブチルまたはtert−ブチルである。アルコキシは、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、i−プロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシおよびtert−ブトキシである。
【0009】
以下のスキームは、本発明の反応をより詳細に説明するものである。
【化5】
【0010】
ステップa)
式Vの化合物は、式IIの化合物をまずマグネシウムと、次いで式IV
CF3−C(O)R2 (IV)
(式中、R2はハロゲン、ヒドロキシル、C1〜C4アルコキシ、(ジ−C1〜C4アルキル)アミノ、OC(O)CF3、フェノキシまたはOM1であり、ここで、M1はリチウム、マグネシウム、ナトリウムまたはカリウムである)
の化合物と反応させることにより調製することができる。あるいは、式Vの化合物は、式IIの化合物を、まず式III
1−M2X (III)
(式中、
1はC1〜C4アルキルであり、
2はリチウムまたはマグネシウムであり、および
Xはハロゲンであるか、または存在していない)
の有機金属試薬と、次いで式IV
CF3−C(O)R2 (IV)
(式中、R2はハロゲン、ヒドロキシル、C1〜C4アルコキシ、(ジ−C1〜C4アルキル)アミノ、OC(O)CF3、フェノキシまたはOM1であり、ここで、M1はリチウム、マグネシウム、ナトリウムまたはカリウムである)
の化合物と反応させることにより調製することができる。式IIIの化合物は、LiClとの錯体の形態で用いることが好ましい。
【0011】
典型的には、この反応は非プロトン性有機溶媒中で行われる。好適な溶媒としては、これらに限定されないが、テトラヒドロフラン、2−メチル−テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテルなどの有機エーテル、ならびにトルエン、ベンゼン、ヘキサンおよびシクロヘキサンなどの炭化水素が挙げられる。この反応は、−80℃〜50℃、好ましくは−20℃〜25℃の温度で実施され得る。
【0012】
ステップb):
式Iの化合物は、式Vの化合物とアルカリ金属フッ化物との相間移動触媒の存在下における反応により調製することができる。好適な金属フッ化物としては、KF、LiFおよびNaFが挙げられる。好適な相間移動触媒としては、一般式(R34PXのホスホニウム塩および一般式(R34NXのアンモニウム塩が挙げられ、式中、R3はC1〜C4アルキルまたはフェニルであり、およびXはハロゲンである。ホスホニウム塩が好ましい。
【0013】
典型的には、この反応は有機溶媒またはその混合物中で実施される。好適な溶媒は性質が極性のものであり、これらに限定されないが、スルホラン、ジメチルホルムアミドおよびジメチルスルホキシドが挙げられる。
【0014】
この反応は、100℃〜250℃、好ましくは120℃〜160℃の温度で実施され得る。
【0015】
a)式II
【化6】
の化合物を式III
1−M2X (III)
(式中、
1はC1〜C4アルキルであり、
2はリチウムまたはマグネシウムであり、および
Xはハロゲンであるか、または存在していない)
の有機金属試薬の存在下で式IV
CF3−C(O)−R2 (IV)
(式中、R2はハロゲン、ヒドロキシル、C1〜C4アルコキシ、(ジ−C1〜C4アルキル)アミノ、OC(O)CF3、フェノキシまたはOM1であり、ここで、M1はリチウム、マグネシウム、ナトリウムまたはカリウムである)
の化合物と反応させて、式V
【化7】
の化合物を得るステップ、および
b)式Vの化合物と、KF、LiFおよびNaFから選択される金属フッ化物とを、一般式(R34PXのホスホニウム塩および一般式(R34NXのアンモニウム塩(式中、R3はC1〜C4アルキルまたはフェニルであり、およびXはハロゲンである)からなる群から選択される触媒量の相間移動触媒の存在下において、スルホラン、ジメチルホルムアミドおよびジメチルスルホキシドからなる群から選択される極性溶媒の存在下で反応させて、式Iの化合物を得るステップ
を含む、本発明のプロセスの好ましい実施形態である。本発明の前記好ましい実施形態において、有機金属試薬は、LiClと錯化したイソプロピルマグネシウムクロリドである。
【実施例】
【0016】
調製例:
実施例1:式Vの2,2,2−トリフルオロ−1−(3,4,5−トリクロロフェニル)エタノンの調製:
【化8】
5−ブロモ−1,2,3−トリクロロ−ベンゼン(220g、811mmol)のテトラヒドロフラン(1600ml)中の溶液に、THF中の1.3M iPrMgCl・LiCl(1250ml、1622mmol)を20℃でゆっくりと添加した。この反応混合物を2時間にわたり撹拌し、0℃に冷却した。メチル2,2,2−トリフルオロアセテート(314.8g、2434mmol)をゆっくりと添加し、反応混合物を周囲温度で1時間にわたり撹拌した。この反応混合物を0℃に冷却し、2.0M HCl(810ml、1622mmol)を30分間かけて滴下した。得られた混合物を酢酸エチルで希釈し、有機層を塩水で洗浄し、無水MgSO4で乾燥させ、減圧下で蒸発させた。粗生成物を最低限の量のシクロヘキサンに溶解し、溶液を−10℃に冷却した。形成した沈殿物をろ出して、2,2,2−トリフルオロ−1−(3,4,5−トリクロロフェニル)エタノン(122g)を黄色の固体として得た。ろ液をシクロヘキサンで希釈し、アセトニトリルで2回洗浄した。シクロヘキサン相を減圧下で蒸発させ、残渣を最低限の量のシクロヘキサンに溶解した。溶液を−10℃に冷却し、他の分量の2,2,2−トリフルオロ−1−(3,4,5−トリクロロフェニル)エタノン(35g)をろ出した。
1H NMR(400MHz,CDCl3)δ8.07−8.05(m,2H)。
【0017】
実施例2:式Iの1−(3,5−ジクロロ−4−フルオロ−フェニル)−2,2,2−トリフルオロ−エタノンの調製:
【化9】
2,2,2−トリフルオロ−1−(3,4,5−トリクロロフェニル)エタノン(1.0g、3.6mmol)のスルホラン(3ml)中の溶液に乾燥フッ化カリウム(0.35g、4.32mmol)およびテトラフェニルホスホニウムブロミド(0.015g、0.036mmol)を添加した。得られた反応混合物を160℃で5時間にわたり撹拌した。この反応混合物を減圧下で蒸留した。生成物を含有する画分をシリカゲルクロマトグラフィ(純粋なヘプタンで溶離)でさらに精製して、無色の油としての1−(3,5−ジクロロ−4−フルオロ−フェニル)−2,2,2−トリフルオロ−エタノン(0.571g)と、ケトンおよび水和物形態の混合物(約3:1)とを得た。
19F NMR(400MHz,CDCl3)δ−71.5,−84.7,−102.4,−112.9。