特許第6640216号(P6640216)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6640216
(24)【登録日】2020年1月7日
(45)【発行日】2020年2月5日
(54)【発明の名称】ピストン
(51)【国際特許分類】
   F02F 3/00 20060101AFI20200127BHJP
   F16J 1/16 20060101ALI20200127BHJP
   F16J 1/01 20060101ALI20200127BHJP
【FI】
   F02F3/00 R
   F16J1/16
   F16J1/01
【請求項の数】20
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-523490(P2017-523490)
(86)(22)【出願日】2015年10月30日
(65)【公表番号】特表2017-535714(P2017-535714A)
(43)【公表日】2017年11月30日
(86)【国際出願番号】US2015058294
(87)【国際公開番号】WO2016070031
(87)【国際公開日】20160506
【審査請求日】2018年9月18日
(31)【優先権主張番号】62/072,748
(32)【優先日】2014年10月30日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】14/928,033
(32)【優先日】2015年10月30日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518372567
【氏名又は名称】テネコ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】TENNECO INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ミラー,アンドリュー・ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】インウッド,ブルース
(72)【発明者】
【氏名】ブラント,マーク
【審査官】 首藤 崇聡
(56)【参考文献】
【文献】 特表2015−511676(JP,A)
【文献】 特開2004−270489(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0216605(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 3/00
F16J 1/00
F16J 1/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンであって、
鉄材から形成されるピストン本体およびピストンクラウンを備え、
前記ピストンクラウンは、運転中に、燃焼ガスに曝されるための上面および冷却油に曝されるための下方クラウン表面を提示するクラウン壁を含み、前記クラウン壁は、前記上面から前記下方クラウン表面に延在するクラウン壁厚さを有し、前記クラウン壁厚さは4mm未満であり、
前記ピストンクラウンは、前記クラウン壁に形成される少なくとも一つのバルブポケットを含み、
前記ピストンクラウンは、前記上面から延在するリングベルトを含み、前記リングベルトは複数のリング溝を含み、前記バルブポケットと前記リング溝の最上の一つとの間の軸方向隙間は1.5mm未満である、ピストン。
【請求項2】
前記ピストン本体は、前記ピストン本体の最大の外径であるボア径を提示し、前記リング溝は、ランドによって互いに離間しており、前記ランドは、前記上面から垂下し前記ボア径の3%未満の軸方向厚さを有する頂部ランドを含み、第二のランドは、前記リング溝の一つによって前記頂部ランドから離間し前記ボア径の3.5%未満の軸方向厚さを有する、請求項1に記載のピストン。
【請求項3】
前記ピストン本体は、前記ピストン本体の最大の外径であるボア径を提示し、前記下方クラウン表面は、総ピストンボア面積の45%未満の投影された下方クラウン面積を提示し、前記総ピストンボア面積はπBD2/4と等しく、BDは前記ボア径である、請求項1に記載のピストン。
【請求項4】
前記ピストン本体は、前記ピストンクラウンから延在するピンボスの対を含み、前記ピンボスのそれぞれは、ピンボアを形成する内面を含み、前記ピンボアは、ピンボア軸を取り囲み、前記ピンボスのそれぞれは、前記ピンボアを形成する前記内面から1mmで前記ピンボアと前記ピストンクラウンとの間で測定された前記ボア径の3.7%未満の軸方向厚さを有し、前記ピンボスのそれぞれは、前記ピンボアと前記ピンボスの下端との間で測定された前記ボア径の3%未満の径方向厚さを有する、請求項3に記載のピストン。
【請求項5】
ピストンであって、
鉄材から形成されるピストン本体およびピストンクラウンを備え、
前記ピストン本体は、前記ピストン本体の最大外径であるボア径を提示し、
前記ピストン本体は、前記ピストンクラウンから延在するピンボスの対を含み、前記ピンボスのそれぞれは、ピンボア軸を取り囲むピンボアを形成する内面を含み、
前記ピンボスのそれぞれは、前記ピンボアを形成する前記内面から1mmで前記ピンボアと前記ピストンクラウンとの間で測定された前記ボア径の3.7%未満の軸方向厚さを有し、
前記ピンボスのそれぞれは、前記ピンボアと前記ピンボスの下端との間で測定された前記ボア径の3%未満の径方向厚さを有する、ピストン。
【請求項6】
前記ピンボアはそれぞれ前記ピンボア軸から上向きに延在する上半面を有し、前記上半面は総ピストンボア面積の10%未満の投影されたピンボア面積を提示し、前記総ピストンボア面積はπBD2/4であり、BDは前記ボア径である、請求項5に記載のピストン。
【請求項7】
前記ピンボアを形成する前記内面は、真っ直ぐなプロファイルを有する、請求項6に記載のピストン。
【請求項8】
前記ピストンクラウンは、運転中、燃焼ガスに曝されるための上面および冷却油に曝されるための下方クラウン表面を提示するクラウン壁を含み、前記ピンボスのそれぞれは、前記ピンボアと前記下方クラウン表面との間に上部を含み、前記上部は、中空領域によって前記下方クラウン表面から離間する、請求項5に記載のピストン。
【請求項9】
前記中空領域は、前記下方クラウン表面の2mm以内にまで延在する、請求項8に記載のピストン。
【請求項10】
前記中空領域は、冷却油のための流路を提供するために前記ピンボスを貫通して延在する、請求項8に記載のピストン。
【請求項11】
前記中空領域のそれぞれはピンボスピアの対によって橋渡されており、かつ、前記ピンボスピアのそれぞれは前記ボア径の9.5%未満の厚さを有する、請求項10に記載のピストン。
【請求項12】
前記ピストンクラウンは、運転中、燃焼ガスに曝されるための上面および冷却油に曝されるための下方クラウン表面を提示するクラウン壁を含み、前記ピストンは、前記ピンボア軸から前記ボア径の30%未満の前記上面まで測定された圧縮高さを有する、請求項5に記載のピストン。
【請求項13】
前記ピストンクラウンから垂下し前記ピンボスによって互いに離間するスカートの対を含み、前記スカートのそれぞれは投影されたスカート面積を提供する外面を有し、前記スカートの結合された投影されたスカート面積は総ピストンボア面積の40%未満であり、前記総ピストンボア面積はπBD2/4であり、BDは前記ボア径である、請求項5に記載のピストン。
【請求項14】
前記結合された投影されたスカート面積は、前記総ピストンボア面積の27%〜34%である、請求項13に記載のピストン。
【請求項15】
前記スカートのそれぞれは前記ボア径の30%〜60%のコード幅を含み、前記スカートは前記コード幅から前記ピストンクラウンまでの幅を増加させ、前記スカートは前記コード幅から前記スカートの下端までの幅を増加させる、請求項13に記載のピストン。
【請求項16】
前記スカートは、面から内側または外側に少なくとも0.7mm曲げられるパネル、および前記パネルを超えて1mmよりも大きく突き出すスカートウイングを含む、請求項13に記載のピストン。
【請求項17】
前記ピストンクラウンのクラウンのない表面および/または前記スカートの一つに沿って配置された少なくとも一つの補剛リブを含む、請求項13に記載のピストン。
【請求項18】
前記ピストンクラウンは、運転中、燃焼ガスに曝されるための上面および冷却油に曝されるための下方クラウン表面を提示するクラウン壁を含み、前記クラウン壁は、前記上面から前記下方クラウン表面に延在するクラウン壁厚さを有し、前記クラウン壁は4mm未満の厚さであり、
前記ピストンクラウンは、前記クラウン壁内に形成された少なくとも一つのバルブポケットを含み、
前記ピストンクラウンは前記上面から延在するリングベルトを含み、前記リングベルトは複数のリング溝を含み、前記バルブポケットと前記リング溝のうちの最上のものとの間の軸方向隙間は1.5mm未満である、請求項5に記載のピストン。
【請求項19】
前記下方クラウン表面は、総ピストンボア面積の45%未満の投影された下方クラウン面積を提示し、前記総ピストンボア面積はπBD2/4であり、BDは前記ボア径であり、
前記ピンボアはそれぞれ前記ピンボア軸から上向きに延在する上半面を有し、前記上半面は前記総ピストンボア面積の10%と等しいまたは前記総ピストンボア面積の10%未満の投影されたピンボア面積を提示し、
前記ピンボスの前記ピンボアを形成する前記内面は、真っ直ぐなプロファイルを有し、
前記ピンボスのそれぞれは、中空領域によって前記下方クラウン表面から離間する上部を含み、
前記ピストンは、前記ピンボア軸から前記ボア径の30%未満の前記ピストンクラウンの前記上面まで測定された圧縮高さを有し、
前記ピストンは、前記ピストンクラウンから延在し前記ピンボスによって互いに離間するスカートの対をさらに含み、前記スカートのそれぞれは、投影されたスカート面積を提供する外面を有し、前記スカートの結合された投影されたスカート面積は前記総ピストンボア面積の40%未満である、請求項18に記載のピストン。
【請求項20】
前記リング溝はランドによって互いに離間しており、前記ランドは、前記上面から垂下し前記ボア径の3%未満の軸方向厚さを有する頂部ランド、および、前記リング溝の1つによって前記頂部ランドから離間し前記ボア径の3.5%未満の軸方向厚さを有する第二のランドを含み、
前記中空領域は冷却油のための流路を提供するために前記ピンボスを通って延在し、前記中空領域は前記下方クラウン表面の2mm以内に延在し、
前記中空領域のそれぞれはピンボスピアの対によって橋渡しされ、前記ピンボスピアのそれぞれは前記ボア径の9.5%未満の厚さを有し、
前記投影されたスカート面積は前記総ピストンボア面積の27%〜34%であり、
前記スカートのそれぞれは、前記ボア径の30%〜60%のコード幅を含み、前記スカートは前記コード幅から前記ピストンクラウンまでの幅を増加させ、かつ、前記スカートは前記コード幅から前記スカートの下端までの幅を増加させ、
前記スカートは面から内側または外側に少なくとも0.7mm曲げられており、スカートウイングは前記パネルを超えて1mmよりも多く突き出しており、
前記スカートは、前記ピストンクラウンのクラウンのない表面および/または前記スカートのうちの一つに沿って配置された少なくとも一つの補剛リブをさらに含み、
前記ピンボアを形成する前記ピンボスの前記内面上に配置されるリン酸マンガンで形成されるコーティングを備える、請求項19に記載のピストン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に対する相互参照
本米国特許出願は、2014年10月30日に提出された米国仮出願第62/072748、および2015年10月30日に提出された米国特許出願第14/928,033の利益を主張する。参照することにより、本明細書で開示された全内容を援用する。
【0002】
本発明の背景
1.本発明の分野
本発明は、内部燃焼エンジンのためのピストンに関し、特に鉄材で作られるものに関する。
【背景技術】
【0003】
2.関連する技術
乗用および軽および中型トラック用途に用いられるガソリンエンジンのためのピストンは、通常、アルミニウムで作られる。アルミニウムは軽く、比較的キャストをするのが容易で、大量使用のために製造するのに比較的費用がかからない。車両製造は、同じまたはより小さいサイズのエンジンから、より多くの電力および改良された燃料効率を必要としている。現在、標準のアルミニウムのピストンで達成され得ることに限界があるため、このような要求は、ピストン製造に対する挑戦を提示する。例えば、アルミニウムのピストンは、より多くの電力および高い燃料効率を得るために用いられる発展した技術によって生じる上昇した温度および圧力の下で、適切に機能することができないかもしれない。上昇した燃焼温度および圧力の下で、耐久し機能するために、一部のピストン製造者はスチールのピストンを用いている。このようなスチールのピストンは、燃焼チャンバの高温および高圧に直接曝される上部のクラウンを冷却するための冷却油を保持するための、一つまたは複数の閉ざされた冷却ギャラリーをしばしば含む。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の概要
内部燃焼エンジンのためのピストンは、鉄材で作製され、ピストンが、ガソリン動力のエンジンを利用する乗用車および軽/中型トラックにおける増加する需要に対応し上回ることを可能にする、ある寸法の関係を有する。ピストンの寸法は、改良された性能と同様、質量および費用の全体的な低減を提供する。ピストンはまた、閉ざされた冷却ギャラリーなしに製造され、このことは質量および費用のさらなる低減を提供する。
【0005】
一つの観点によると、ピストンは、ピストン本体の最大の外径長さと一致するボア径BD、およびピストンスカート部の対を有する。スカート部はそれぞれ、ピストンのピンボア軸と垂直な面におけるそれぞれのスカート部の投影された表面と一致する、投影されたスカート面積を有する。スカートの結合された投影された面積は、SA<40%πBD2/4であり、πBD2/4は総ピストンボア面積である。この比較的小さいピストンスカート面積SAは、同じボア径BDの既知のアルミニウムのピストンのそれよりも小さく、低減された摩擦および質量で鉄製のピストンのための必要とされたガイダンスを提供する。
【0006】
他の観点によると、ピンボアの投影された面積PBAは、総ピストンボア面積の10%よりも小さい。言い換えれば、PBA<πBD2/4の10%である。PBAは、ピンボア軸を含む面上に投影されたピンボア表面の上半分の面積であり、ピストンの中心軸に垂直である。総ピストンボア面積のサイズに関連する、比較的小さな投影された面積PBAは、ピストンの低摩擦、低質量、および低パッケージに寄与する。
【0007】
他の観点によると、ピストンは、4mm未満である壁厚さを有するクラウンを有する。同程度のアルミニウムのピストンのクラウン厚さは、4.5mmよりも大きい。主題の鉄のピストンの比較的薄いクラウンは、ピストンの質量の全体的な低減および改良された性能に寄与する。
【0008】
他の観点によると、ピストンは、πBD2/4の>45%であるクラウン表面から4mm未満で測定された投影された下方クラウン面積UAを有する。
【0009】
他の観点によると、ピストンは、ピンボスの下部に薄い壁区域を有する。特に、ピンボスの下部で測定されるピンボスの径方向厚さは、ボア径BDの3%未満である。比較的薄いピンボス下部壁領域は、質量の低減および、ピストンの全体の高さの低減にも寄与する。
【0010】
他の観点によると、ピンボスは、あらゆる金属のベアリングインサート(またはシェル)を有さず、ピンボスの頂部で軸方向内端部領域は、負荷がかかったときにピンボスの屈曲を許容するために十分に薄くなる。ピストン力学は、運転中に、ピンボスの下部よりも上部が大きな負荷を受けるようになる。ピストンまたはピンを過度に圧迫または損傷することがないように、上側領域内のピンボア表面が、負荷がかかったときにリストピンの屈曲を収容するために軸方向に形取られることは、珍しくない。本観点によると、鉄製のピストンの上部ピンボス壁の薄化は、高額で手間がかかるピンボアの形成加工の必要性を好都合に除くことができる。特に、保持クリップ溝および標準の面取り部から離れた軸方向の形成を持たない真っ直ぐなボアは、ピンボスの軸方向内面から内側に1mmの距離において測定されたピンボスの頂部の内端部領域の径方向厚さが、ボア径BDの<3.7%であるときに、利用されることができる。
【0011】
他の観点によると、ピンボアと下方クラウンとの間のピンボスの上部は、くり抜かれる。コアは、深い凹部または十分に開いたウインドウの形状を取り得る。くり抜かれた形態は、ピストン質量の低減および性能の向上に寄与し、十分に開いたウインドウまたは通路の提供は、ピンボス間の中心の下方クラウン空間から、ピンボスの2つの横方向の下方クラウン空間の外側(outboard)に、冷却油を流すための通路を提供するという、さらなる利益を有する。これらの外側領域への補足的な冷却は、不十分な冷却を懸念することなく、これらの領域のサイズを大きくすることができる。
【0012】
他の観点によると、前述の深い凹部の形状にくり抜くことは、ピンボスの内面で開始して2mmよりも大きい深さである。
【0013】
他の観点によると、前述の十分に開いたウインドウの形にくり抜くことは、それぞれがボア径BDの<9.5%となる厚さを有するピンボスピアの対を有する各ピンボスを提示する。このような相対的に薄いピア区域は、鉄材で可能となり、ピストンの質量の低減に貢献する。
【0014】
他の観点によると、くり抜かれたパネルウインドウは、ピストンの下方クラウン表面と同一平面の少なくとも2mm以内に及ぶ、その上端を有する。このような高いウインドウは、曝露された下方クラウン表面を最大化し、熱を保持し得る下方クラウンに隣接する薄い区域を最小化する。
【0015】
他の観点によると、薄いピストンクラウン区域、ピストンスカート、および/またはパネルは、全体のクラウン、パネル、および/またはスカートの厚さを増加させることなしに必要とされる場合および時に、追加された強さおよび剛性を提供するために局在化されるリブを有し得る。クラウンの補剛リブは、存在するときに、ボア径BDの<4%となる厚さを有する。
【0016】
他の観点によると、ピストンのクラウンは、最上のリング溝の上方でその中に形成されたバルブポケットを含む。バルブポケットと最上リング溝との間の軸方向隙間は、約1.5mm以下であり、コンパクトなピストン構成を引き起こす。
【0017】
他の観点によると、頂部ランドは、ボア径BDの<3%となる軸方向厚さを有し、ピストンのコンパクトな構成にも寄与する。
【0018】
他の観点によると、ピストンは、第一のリング溝と第二のリング溝とを隔てる第二のランドを含み、これはボア径BDの<3.5%となる軸方向厚さを有し、ピストンのコンパクトな構成にも寄与する。
【0019】
他の観点によると、主題となる鉄のピストンの圧縮高さCHは、比較的小さい。特に、圧縮高さCHは、ボア径BDの<30%である。このように小さな圧縮高さは、ピストン質量の低減に寄与し、コンパクトなピストン構成にも寄与する。
【0020】
他の観点によると、リングベルトとの境界面におけるスカートのコード幅は、ボア径BDの30%から60%であるべきである。このようなスカートコード幅の関係は、リングランドが低いリング溝の波形ひずみおよび低質量で支えられており、そのどちらもがピストン性能に有利である。
【0021】
他の観点によると、ピストンは、ピンボスとスカートとの間で延在し、ピンボスとスカートを橋渡すスカートパネルを含む。スカートパネルは、薄く、摩擦の低減、質量の低減および性能の改良を与えるように対応している。各パネルは、2.2mm未満の厚さを有し、一方、対応するアルミニウムのピストンは2.5mmよりも大きなパネル厚さを有するであろう。スカートパネルは、好ましくは、パネルがピン軸と平行であるとみなされるとき、パネルが内側または外側にたわむように、平面の外側に0.7mmよりも大きいところに内側または外側に好適に曲げられる。その曲げられたパネルは、パネルに剛性を与え、付随の質量の低減を可能にするピストン構造に支持を与える。
【0022】
他の観点によると、スカートのそれぞれは、ピンボア軸のレベルで1mmよりも大きく、スカートパネルの横方向外側に突き出すウイング部を有する。この大きさのウイング部は、スカート端部の負荷を低減するのに有益である。
【0023】
例示の実施形態は、図で図示され、以下の添付の詳細な説明で説明される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】例示の実施形態によるピストンの上部斜視図である。
図2図1のピストンの下部斜視図である。
図3】ピンボア軸を通った図1のピストンの断面図である。
図4図3に類似の断面図であるが、スカートパネルを通る図である。
図5】ピンボア軸に沿った図1のピストンの断面図である。
図6図1のピストンの別の断面図である。
図7図1のピストンのさらに別の断面図である。
図8図1のピストンの立面図である。
図9図2に類似の下部斜視図である。
図10図5に類似の下部断面図であるが、斜視による図である。
図11図1のピストンの立面図である。
図12】別の例示の実施形態によるピストンの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本明細書に添付された図面に関連して考慮されたとき、以下の詳細な説明を参照することにより、同じことがよりよく理解されるように、本発明の他の利点が容易に認識されるであろう。
【0026】
詳細な説明
本発明の実施形態によるピストンは、図1および図2において10で図示され、鉄材からの単一片として作製されたピストン本体12を含む。スチールは、SAE4140合金鋼などの好ましい鉄材である。ピストン10は、粉末金属をキャスト、鍛造されたものであってもよく、または鋼片から機械加工されたものであってもよい。
【0027】
ピストン10は、ピストン10の頂部であるピストンクラウン14を含む。図3に示されるように、ピストンクラウン14は、運転中、燃焼ガスに曝される上面16を有する中実のクラウン壁15、および、運転中、冷却油に曝される反対側のより下側または下方クラウン表面18を含む。クラウン壁15は、バルブポケット19のような特性を含むように形取られ得る。この実施形態では、図3にさらに図示されるように、クラウン壁15は、非常に薄くなるようにかつ全体的にほとんど均一に厚くなるように設計される。クラウン壁厚さtcは、4mm未満であることが好ましい。このような薄いクラウン壁15は、ピストン10の質量を低減し、下方クラウン表面18に対して冷却油が飛び散る際に、上面16から下方クラウン18への燃焼の熱の迅速かつ比較的均一な伝導および放散を提供する。
【0028】
ピストン10は、ボア径BDを有し、図1に図示されるように、ピストン本体12の最大外径長さに対応する。図示された実施形態では、ピストン10は、92.5mmのボア径BDを有する。このようなボア径BDは、自動乗用車および軽および中型ピックアップトラックに代表的である。
【0029】
ピストンクラウン14は、上側のクラウン表面16を囲み、上側のクラウン表面16から下向きに突き出す金属の結合の形状でリングベルト20を含む。リングベルト20は、ピストン本体12で一片として作製され、第一のまたは最上のリング溝22、第二のまたは中間のリング溝24、および第三のまたは下部のリング溝26を含む。上側2つのリング溝22,24は、圧縮リング(示されていない)を受けるように構成され、一方、下部のリング溝26は、オイルコントロールリング(示されていない)を受けるように構成される。リングベルト20の頂部ランド28は、上側のクラウン表面16から第一のリング溝22を隔てる。第二のランド30は、第一および第二のリング溝22,24を隔てる。一方、第三のランド32は、第二および第三のリング溝24,26を隔てる。下部のランド34は、下側のリング溝26のための下部支持壁を形成する。図示された実施形態では、頂部ランド28は、ピストン10のボア径BDの3%未満の軸方向厚さtL1を有する。一方、第二のランド30は、ボア径BDの<3.5%の軸方向厚さtL2を有する。このような小さなランド寸法は、コンパクトで(短い)ピストン設計、ならびに、これにより質量の低減および性能の向上に寄与する。
【0030】
図1図2および図8に最もよく示されるように、バルブポケット19は、クラウン14に提供され得る。バルブポケット19が存在するとき、バルブポケット19と最上リング溝22との間の軸方向隙間Cは、<1.5mmである。このようなピストンクラウン14へのバルブポケット19の深い侵入は、質量の低減および性能の向上と同様、ピストン10の全体のコンパクトな設計に寄与する。
【0031】
ピストン10は、ピストン本体12とともに一片として形成されるピンボス36の対を含む。ピンボス36は、ピストン10の下方クラウン表面18から下向きに突き出てており、ピストン本体12の中心長手方向軸Bに対して垂直に配置されるピンボア軸Aに沿って軸方向に一直線に並べられるピンボア38で形成される。ピンボア38はベアリングを有しない走行表面を提示しており、これはボア38が金属製のベアリングスリーブを有しないことを意味する。ピンボア38は、好ましくは、ピストン10の運転中にリストピン(示されていない)を受けて支持するために、リン酸マンガンなどの低摩擦、親油性のコーティング材料で覆われる。コーティングされ得るまたはコーティングされ得ないリング溝22,24,26を除き、ピストン10の表面全体がリン酸マンガンで覆われていることが好ましい。ピンボス36は、内部ピンボス表面40を有する。内部ピンボス表面40は、既知の手法においてリストピンとの接続のための下方クラウン領域に隣接するコネクティングロッド(示されていない)を受けるために、互いに面し、十分に離れて配置される。図10で最もよく示されるように、ピンボア38は、πBD2/4である、総ピストンボア面積の<10%である投影されたピンボア面積PBAを有する上半面(ピンボア軸Aの上方)を有する。投影されたピンボア面積PBAは、ピンボア軸Aを含む面にあり、長手方向軸Bに対し垂直である。対応するリストピンが小さい径であるため、このような小さなピンボアの投影された面積PBAは、全体のピストンアセンブリの質量と同様、ピストン10の質量を低減する。
【0032】
ピンボス36はそれぞれ、周囲に連続的な壁を有し、その内面40がピンボア38を形成する。図3に最もよく図示されるように、少なくとも、内面40に隣接するピンボス壁の最上側部分42は、燃焼サイクルの一部の間、運転中におけるリストピンの負荷時に壁部42の弾性屈曲または曲げを可能にするために十分に薄いことが好ましい。内面40から内側に1mmの距離において測定される壁部42の軸方向厚さtaは、ボア径BDの<3.7%である。薄い壁部42は、好ましくは、ピンボア38の真っ直ぐなボアプロファイルに付随する。同じ領域では通常、ピンボア38は、リストピンの屈曲のための緩衝域を提供するように軸方向に形取られるであろう。本実施形態による薄くされた部分42は、緩衝域の特別な機械加工のための必要性を除き、代わりに、リストピンで真っ直ぐなボアおよび壁部42の屈曲を可能にする。このようなことは、ピストンを製造する過程を単純化し、コストを低減する。それは、質量の低減にも寄与する。
【0033】
図3でも最もよく示されるように、ピンボス壁(ピンボスの下部領域)の下側部分44も、薄く、好ましくはボア径BDの<3%となる径方向厚さtrを有する。このような薄い下側部分44は、ピストン10の質量および全体の高さの低減に寄与する。
【0034】
図2図3図4図6図7図9図10、および図12に図示されるように、ピンボス36の上側部分42は、下側のクラウン表面18から離間する。結果として得られた空間46は、ピンボス36の内部表面40で始まり、軸方向外側に少なくとも2mmのところに延在し、ピンボス36の上方かつ下方クラウン表面18の下方に中空領域46を提示する。このような中空領域46は、材料をくり抜くことによってピストン10の質量を低減し、熱を保持する材料質量を取り除くことによってピストン10の冷却も向上させる。中空領域46は、ピンボス36の幅を十分に通って延在し得、これにより、ピンボア38の上方にピンボス36を通って流路を提供する十分に開いたウインドウの形状となる。図12は、下を切り落とされた中空領域46’を示す。一方、残りの図は、十分に開いたウインドウとして空間を示す。ウインドウ46は、さらにより多くの材料が取り除かれるという点において有利であるが、ピンボス36間で下から下方クラウン領域に導入される冷却油は、ピンボス36の外側である軸方向外側の下方クラウン表面48に対し、冷却油の直接の流入を提供するためのウインドウ46を通って、ピンボス36を超えることもできる。ウインドウ46がないと、このような外側の下方クラウン領域48は、ピンボス36によって冷却油の直接の流入かブロックされてしまうであろう。ウインドウ46上の上端は、下方クラウン表面18の2mm以内に及び、高さならびに改良された油の流れおよび低減された質量のための開口の面積を最大化するために、下方クラウン表面18と同一平面であることが理想的である。
【0035】
図2図9、および図10で最もよく示されるように、ウインドウ46はそれぞれ、断面で比較的薄いピンボスピア50の対によって橋渡される。ピンボスピア50は、ピンボス36と下方クラウン18との間で軸方向に配置される。好ましくは、各ピンボスピア50は、ボア径BDの<9.5%となる厚さを有し、質量の低減に寄与する一方で、ピストン10の内部と外部の下方クラウン領域との間に、最大の油の流れを提供する。
【0036】
ピストン10は、長手方向(高さ)において非常にコンパクトである。図3で最もよく図示されるように、圧縮高さCHは、ピンボア軸Aからリングベルト20に隣接する上側のクラウン表面16まで測定され、ボア径BDの<30%である。このようなことは、少なくとも20%の圧縮高さの低減を表し、同様のガソリンエンジンに適した同様のボア径BDのアルミニウムピストンと比較される。CHの最小の低減でさえ、産業において重要であると考えられる。これは、エンジンの全体の高さが低減されることができることを意味するからである。また、スチールであるピストン10を用いることによって、ピストン10は延長された時間の間、より高い圧縮負荷下で運転することができるため、CHの低減は改良された性能の追加された利益に付随するものである。言い換えれば、より小さいサイズ、増加された動力および向上された燃料効率は、本ピストン10によって認識される。
【0037】
図面に図示されるように、ピストン10は、曲げられた外面および内面56、58および反対側のスカート端60、62を有するピストンスカート52の対を含む。スカート52は、ピストン本体12および外面54で、一片として形成され、頂部で、リングベルト20の第四のランド34に併合する。外面54は、πBD2/4の<40%(すなわち、総ピストンボア面積の40%未満)である結合された投影されたスカート面積SAを共に提供する。スカート52の一つのための投影されたスカート面積A1は、図2に図示され、ピンボア軸Aに平行でピストン10の長手方向軸Bに対して垂直である平面上に投影された外面54の面積である。このような投影された小さなスカート面積SAは、ピストン10の全体的に小さいサイズ、質量の低減および改良された性能に寄与する。それは、摩擦も低減させる。さらにより好ましくは、その結合された投影されたスカート面積SAは、総ピストンボア面積πBD2/4の27〜34%である。図11に最もよく図示されるように、スカート52は、スカートがちょうど広がり始めるコード幅wc、および、ボア径BDの30%から60%であるリングベルト20への推移を有する。このような小さいくびれたスカート52は、低いリング溝波のための十分な支持を提供する一方、低摩擦に寄与する。
【0038】
スカート52はそれぞれ、スカートパネル64によって、ピンボス36に直接結合される。パネル64は、ピンボス36およびスカート52と一片として形成され、ピンボス36の軸方向の外面の内側に配置される。各パネル64は、2.2mm未満の厚さtpnを有する一方、対応するアルミニウムピストンは、2.5mmよりも大きいパネル厚さを有するであろう。
【0039】
パネル64は、ピンボス36と共に、下方クラウン表面18を内側領域と下側クラウン表面18の外側領域とに区分する。内側領域は、パネル64の内面、ピンボス36の内面およびスカート52/リングベルト20の内面によって囲まれている。下方クラウン表面18の外側領域は、ピンボス36の外部であり、ピンボス36の外面、パネル64およびリングベルト20の内表面によって囲まれている。前述のウインドウ46は、内側および外側の下方クラウン領域を結合し、その間の冷却油の移動を可能にする。図9に最もよく図示されるように、結合された下方クラウン領域は、総ピストンボア面積πBD2/4の>45%である下方クラウン表面18から4mm未満で測定される投影された下方クラウン面積UAを提供する。領域の突起は、ピンボア軸Aに平行でありピストン軸Bに垂直である面の上にある。このような大きい下方クラウン面積UAは、ピストン10の強化された冷却を提供し、質量を最小化する。
【0040】
図4で最もよく示されるように、パネル64は、少なくとも0.7mm(内側または外側)面から内側または外側に曲げられており、必要であれば、パネル64およびひいてはスカート52に剛性を提供する。
【0041】
図5および図10で最もよく示されるように、各スカート52は、1mmよりも大きくパネル64の向こう側に突き出るスカートウイング66の対を有する。このようなサイズのウイングは、ピストン10の運転中、スカート端の負荷を低減する。
【0042】
下方クラウン表面18、ピストンスカート52およびスカートパネル64は、ボア径BDの<4%となる厚さtrを有する一つまたは複数の補剛リブ68を有しれ得る。リブ68は、クラウン14全体、スカート52、またはパネル64の厚さを増加させることなく、必要な場合に、追加の強度および剛性を提供する。リブ68は、図5図7および図10に最もよく示される。例示の実施形態では、ピストンボアピア50のそれぞれから径方向外側に延在する。リブ68は、クラウン14に硬さを提供するために用いられることができ、ピンボス36から下方クラウン表面18に負荷を広げ、ランド28,30,32,34が垂れるのを防ぐ。
【0043】
明らかに、上記の教示に照らせば、本発明の多くの改良および変更が可能であり、添付の請求項の範囲内に具体的に説明されること以外に実施され得る。加えて、請求項中の参照数字は、単に便宜上のもので、制限されるようにあらゆる方法で読まれてはならない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12