(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6640246
(24)【登録日】2020年1月7日
(45)【発行日】2020年2月5日
(54)【発明の名称】鉄道車両用ブレーキライニングおよびそれを備えたディスクブレーキ
(51)【国際特許分類】
F16D 65/092 20060101AFI20200127BHJP
F16D 65/097 20060101ALI20200127BHJP
B61H 5/00 20060101ALI20200127BHJP
【FI】
F16D65/092 D
F16D65/097 D
B61H5/00
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-558190(P2017-558190)
(86)(22)【出願日】2016年12月21日
(86)【国際出願番号】JP2016088092
(87)【国際公開番号】WO2017110873
(87)【国際公開日】20170629
【審査請求日】2018年6月20日
(31)【優先権主張番号】特願2015-255435(P2015-255435)
(32)【優先日】2015年12月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000220435
【氏名又は名称】株式会社ファインシンター
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】藤本 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】阪山 由衣子
(72)【発明者】
【氏名】坂口 篤司
(72)【発明者】
【氏名】阿佐部 和孝
(72)【発明者】
【氏名】中野 武
(72)【発明者】
【氏名】池田 誠
(72)【発明者】
【氏名】島添 功
(72)【発明者】
【氏名】狩野 泰
(72)【発明者】
【氏名】高見 創
【審査官】
羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−041583(JP,A)
【文献】
特表2004−522086(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62L 1/00−5/20
F16D 49/00−71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の車輪または車軸に固定されたブレーキディスクの摺動面に押し付けられるブレーキライニングであって、
各々の表面がブレーキディスクの摺動面と対向し、各々が互いに隙間を隔てて配列された複数の摩擦部材と、
各摩擦部材の裏面に固着された裏板と、
各摩擦部材を、各摩擦部材の中心部を含む領域において支持するとともに、各摩擦部材の裏面側の前記裏板との間にばね部材が介装された基板と、を備え、
互いに隣接する2個の前記摩擦部材を一組とし、この一組の摩擦部材に固着された前記裏板が一体であり、
各摩擦部材は、締結部材により前記基板に締結されており、
前記締結部材は、平面視で前記摩擦部材の外縁の内方の領域以外の領域には設けられておらず、
前記一組の摩擦部材における前記摩擦部材同士の隙間での前記裏板の幅が、前記摩擦部材の幅より大きい、鉄道車両用ブレーキライニング。
【請求項2】
請求項1に記載のブレーキライニングであって、
前記摩擦部材の幅に対する前記裏板の前記幅の比が、2以下である、ブレーキライニング。
【請求項3】
請求項1または2に記載のブレーキライニングであって、
前記摩擦部材の幅に対する前記裏板の前記幅の比が、1.1以上である、ブレーキライニング。
【請求項4】
鉄道車両の車輪または車軸に固定されたブレーキディスクと、
前記ブレーキディスクの摺動面に押し付けられる、請求項1〜3のいずれかに記載のブレーキライニングと、を備えた、ディスクブレーキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の制動装置として用いられるディスクブレーキに関し、特に、車輪または車軸に固定されたブレーキディスクの摺動面に押し付けられる鉄道車両用ブレーキライニング、およびそれを備えた鉄道車両用ディスクブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、鉄道車両、自動車、自動二輪車などの陸上輸送車両の制動装置としては、車両の高速化および大型化に伴い、ディスクブレーキが用いられることが多くなっている。ディスクブレーキは、ブレーキディスクとブレーキライニングとの摺動による摩擦により制動力を得る装置である。
【0003】
鉄道車両用のディスクブレーキの場合、ドーナツ形円盤状のブレーキディスクを車輪または車軸に取り付けて固定し、このブレーキディスクの摺動面に、ブレーキキャリパによってブレーキライニングを押し付けることで制動力を発生させる。これにより、車輪または車軸の回転を制動して、動いている車両を減速する。
【0004】
ディスクブレーキでは、制動時にブレーキディスクが振動して「ブレーキ鳴き」と呼ばれる騒音が発生する。ブレーキ鳴きは、ブレーキユニット全体が「自励振動」と呼ばれる不安定な振動を生じるために発生すると考えられている。このような振動は、制動時にブレーキライニングをブレーキディスクに押付けたときの摩擦力により生じる。自励振動とは、外部からの定常的なエネルギを系の内部で加振エネルギに変え、自身を加振することで振幅が増大する振動である。ブレーキ鳴きを低減するには、制動時の摩擦力により発生する自励振動を抑制する必要がある。
【0005】
特許文献1には、ブレーキディスクに、ピストンを介してパッドを押付けるように構成されたディスクブレーキが開示されている。このディスクブレーキでは、パッドが、ブレーキディスクに押圧されるときの摩擦力により、ブレーキディスクの回転方向下流側であるトレーリング側(接触終了側)に移動する。これにより、ピストンのパッドへの接触面積が、トレーリング側で、ブレーキディスクの回転方向上流側であるリーディング側より大きくなる。これにより、自励振動を抑制して、ブレーキ鳴きを抑制できるとされている。
【0006】
図1は、特許文献2に開示されたブレーキライニングの平面図である。ブレーキライニング11は、基板13と、ブレーキディスクの周方向および半径方向に分割配置された複数の摩擦部材12とを備えている。各摩擦部材12は、弾性部材(図示せず)を介して基板13に取り付けられている。弾性部材の支持剛性は、基板13上の摩擦部材12の位置によって異なるようにされている。このような構成により、ブレーキ鳴きを抑制できるとされている。
【0007】
特許文献3には、特許文献2に開示されたものと同様の構造を有し、隣接する2つの摩擦部材が、板状の部材で連結されたブレーキライニングが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−340056号公報
【特許文献2】特開2011−214629号公報
【特許文献3】特開2012−251597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1に開示された技術を、既存の車両に適用するには,ブレーキライニングだけではなく、これに押付力を付与するブレーキキャリパまで取り替える必要があり、ディスクブレーキ全体の設計に影響が及ぶ。このため、この技術を既存の車両へ適用することは、非常に困難である。
【0010】
また、特許文献2のブレーキライニングの構成では、弾性部材の支持剛性を、裏板上の位置により変更する必要があるため、その製造管理が煩雑となる。
【0011】
特許文献3のブレーキライニングで2つの摩擦部材が板状の部材により連結されているのは、各摩擦部材の回転、および個々の摩擦部材の摩擦係数の変動を抑えることが目的である。特許文献3では、ブレーキ鳴きを低減するための検討は、なされていない。
【0012】
そこで、この発明の目的は、ブレーキ鳴きを低減することができるブレーキライニングであって、既存の車両に適用することが容易であり、製造管理が容易であるブレーキライニング、およびそのようなブレーキライニングを備えたディスクブレーキを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本実施形態によるブレーキライニングは、鉄道車両の車輪または車軸に固定されたブレーキディスクの摺動面に押し付けられるブレーキライニングであって、
各々の表面がブレーキディスクの摺動面と対向し、各々が互いに隙間を隔てて配列された複数の摩擦部材と、
各摩擦部材の裏面に固着された裏板と、
各摩擦部材を、各摩擦部材の中心部を含む領域において支持するとともに、各摩擦部材の裏面側の前記裏板との間にばね部材が介装された基板と、を備え、
互いに隣接する2個の前記摩擦部材を一組とし、この一組の摩擦部材に固着された前記裏板が一体であり、
前記一組の摩擦部材における前記摩擦部材同士の隙間での前記裏板の幅が、前記摩擦部材の幅より大きい、鉄道車両用ブレーキライニングである。
【0014】
本実施形態によるディスクブレーキは、鉄道車両の車輪または車軸に固定されたブレーキディスクと、
前記ブレーキディスクの摺動面に押し付けられる、上記ブレーキライニングと、を備えた、ディスクブレーキである。
【発明の効果】
【0015】
本発明のブレーキライニングおよびディスクブレーキは、ブレーキ鳴きを低減することができ、既存の車両に適用することが容易であり、製造管理が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、従来のブレーキライニングの平面図である。
【
図2A】
図2Aは、本発明の一実施形態に係るブレーキライニングの平面図である。
【
図2B】
図2Bは、本発明の一実施形態に係るブレーキライニングに備えられた一組の摩擦部材および裏板の平面図である。
【
図2D】
図2Dは、本発明の他の実施形態に係るブレーキライニングに備えられた一組の摩擦部材および裏板の平面図である。
【
図2E】
図2Eは、本発明のさらに他の実施形態に係るブレーキライニングに備えられた一組の摩擦部材および裏板の平面図である。
【
図3A】
図3Aは、本発明の実施例(W/D=1.32)のブレーキライニングに備えられた一組の摩擦部材および裏板の平面図である。
【
図3B】
図3Bは、比較例(W/D=0.40)のブレーキライニングに備えられた一組の摩擦部材および裏板の平面図である。
【
図3C】
図3Cは、比較例(W/D=0.55)のブレーキライニングに備えられた一組の摩擦部材および裏板の平面図である。
【
図3D】
図3Dは、比較例(W/D=0.67)のブレーキライニングに備えられた一組の摩擦部材および裏板の平面図である。
【
図3E】
図3Eは、比較例(W/D=1)のブレーキライニングに備えられた一組の摩擦部材および裏板の平面図である。
【
図4A】
図4Aは、W/Dと鳴き指標との関係を示す図である。
【
図4B】
図4Bは、曲げ剛性と鳴き指標との関係を示す図である。
【
図5A】
図5Aは、本発明の実施例のブレーキライニングについて制動時の振幅の分布を示す斜視図である。
【
図5B】
図5Bは、W/D=0.55の比較例のブレーキライニングについて制動時の振幅の分布を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の鉄道車両用ブレーキライニングおよびディスクブレーキについて、その実施形態を詳述する。
【0018】
図2A〜
図2Cは、本発明の鉄道車両用ディスクブレーキの一例を示す図である。
図2Aに、ブレーキライニングの平面図を、
図2Bに、一組の摩擦部材の平面図を、
図2Cに、
図2AのB−B断面図を、それぞれ示す。
図2Aおよび
図2Bは、それぞれ、ブレーキライニング、一組の摩擦部材を、表面側となるブレーキディスク側から見た状態を示している。
【0019】
本発明のディスクブレーキは、
図2Cに示すように、ブレーキディスク1と、ブレーキライニング2と、を備えている。ブレーキライニング2は、図示しないブレーキキャリパに取り付けられている。ブレーキディスク1はドーナツ形円盤状であり、図示しない車輪または車軸にボルトなどによって取り付けられ、強固に固定されている。ブレーキキャリパは、制動時に作動し、ブレーキライニング2をブレーキディスク1の摺動面1aに押し付ける。これにより、ブレーキディスク1とブレーキライニング2との間に摺動による摩擦が生じ、制動力が発生する。こうして、ディスクブレーキは、車輪または車軸の回転を制動し、動いている車両を減速する。
【0020】
図2A〜
図2Cに示すブレーキライニング2は、複数の摩擦部材3と、裏板4と、ばね部材5と、これらの全てを保持する基板6と、を含む。摩擦部材3は、各々の表面がブレーキディスク1の摺動面1aと対向し、各々が互いに隙間を隔てて配列されている。摩擦部材3の具体的な配列、および個数は特に限定されない。
【0021】
摩擦部材3は、銅焼結材、樹脂系材料などからなる。摩擦部材3は、
図2Aおよび
図2Bに示すように、平面形状が円形であり、その中心部に小孔3aが形成されている。この小孔3aには、リベット7が挿入されて、このリベット7により、摩擦部材3は基板6に取り付けられている。摩擦部材3の平面形状は、円形に限らず、たとえば、四角形、六角形などの多角形でもよい。
【0022】
各摩擦部材3の裏面には、その強度および剛性を維持するため、鋼などの薄い金属板からなる裏板4が固着されている。互いに隣接する2個の摩擦部材3を一組とし、この一組の摩擦部材3に対して、1つの裏板4が設けられている。裏板4は、この一組の摩擦部材3の両者にわたって一体のものである。これにより、一組の摩擦部材3は、裏板4で連結された状態になっている。
【0023】
裏板4は、この実施形態では、楕円形である。一組の摩擦部材3の各々において、両摩擦部材3の対向部とは反対側の部分では、裏板4は、摩擦部材3とほぼ同じ曲率半径を有し、摩擦部材3の縁部と裏板4の縁部とは、ほぼ重なる。裏板4で連結する一組の摩擦部材3の配列方向は、特に限定されず、ブレーキディスク1の径方向に配列するものであっても、周方向に配列するものであっても、それら以外の方向に配列するものであってもよい。
【0024】
各摩擦部材3は、裏板4とともに、個々の摩擦部材3の中心部の小孔3aを挿通するリベット7によって基板6に取り付けられている。すなわち、各摩擦部材3は、各摩擦部材3の中心部を含む領域において、リベット7により、基板6に支持されている。各摩擦部材3の裏面側の裏板4と基板6との間には、ばね部材5が介装されている。これにより、複数の摩擦部材3は、個々に弾性的に支持された状態になっている。なお、ばね部材5としては、
図2Cでは、皿ばねを例示しているが、板ばねやコイルばねを採用してもよい。
【0025】
このような構成のブレーキライニング2を備えたディスクブレーキによれば、各摩擦部材3は、個々に可動する。このため、制動中のブレーキライニング2とブレーキディスク1の接触面圧を均一化することができる。
【0026】
また、一組の摩擦部材3が一体の裏板4で連結された状態となっていることにより、裏板で連結されていない場合に比して、その動きが拘束されるようになる。このため、制動開始時点の走行速度によらず、ブレーキディスク1とブレーキライニング2との間の摩擦係数を安定化することができる。
【0027】
しかも、一組の摩擦部材3は、締結部材として2本のリベット7で基板6に締結されているので、制動中にその場で回転することはなく、基板6との締結部に緩みが生じるのを防止できる。仮に、それらの締結部に緩みが生じた場合であっても、2箇所の締結部が同時に破損しない限り、摩擦部材3が即座に落失することはない。したがって、ディスクブレーキの十分な耐久性および信頼性を確保することができる。
【0028】
もっとも、各摩擦部材3は、その中心部直下のリベット7の位置を支点にして弾性支持されているので、制動中にブレーキディスク1と接触し可動しても大きく傾くことはなく、その接触面が全域にわたって均一に摩耗し、偏摩耗が発生することはない。
【0029】
このような本発明のブレーキライニング2において、
図2Aおよび
図2Bに示すように、裏板4は、これに固着された一組の摩擦部材3同士の隙間に相当する部分(すなわち、摩擦部材3同士の連結部分)4aの幅(以下、「連結部幅」という。)Wは、摩擦部材3の幅Dより大きい。すなわち、1<W/Dである。この実施形態では、摩擦部材3の幅Dは、摩擦部材3の直径に等しい。ここで、「幅」とは、一組の摩擦部材3の配列方向に垂直な方向の長さをいう。
【0030】
1<W/Dとすることにより、裏板4の曲げ剛性は高くなり、一組の摩擦部材3は個々に独立して動きにくくなる。その結果、ブレーキライニングの自励振動は抑制され、ブレーキ鳴きが低減する。このような効果を十分に奏するためには、1.1≦W/Dであることが好ましく、1.2≦W/Dであることがより好ましい。また、個々の摩擦部材3が、その中心部を含む領域において支持されていることにより、たとえば、一組の摩擦部材がその中間部のみで裏板を介して支持されている場合に比して、ブレーキライニングの自励振動は抑制され、ブレーキ鳴きが低減する。
【0031】
このブレーキライニングの構成を既存の車両に適用する場合は、たとえば、裏板(裏金)のみを変更すれば足り、ブレーキキャリパ等を変更する必要はない。また、このブレーキライニングでは、ばね部材5の支持剛性は、基板6上の位置によって変更する必要はない。したがって、このブレーキライニング2は、既存の車両に適用することが容易であるとともに、製造管理が容易である。
【0032】
摩擦部材3の幅Dに比して、裏板4の連結部幅Wが大きすぎると、隣接する組の摩擦部材3の各々に取り付けられた裏板4の干渉を避けるために、基板6を大きくする必要が生じる。このため、摩擦部材3の幅Dに対する裏板4の連結部幅Wの比は、2以下(1<W/D≦2)であることが好ましく、1.5以下(1<W/D≦1.5)であることが、より好ましい。
【0033】
裏板の縁部は、滑らかに連続することが好ましい。ここで、「滑らかに連続する」とは、接線方向が急激に変化しないことをいう。たとえば、裏板の縁部に、切り欠き等、滑らかに連続しない部分があると、剛性が低くなり、また、切り欠き等の部分に応力が集中するので、好ましくない。裏板縁部の形状は、曲線のみからなっていてもよく、部分的に直線状であってもよい。
【0034】
図2Dおよび
図2Eは、本発明の他の実施形態およびさらに他の実施形態に係るブレーキライニングに備えられた一組の摩擦部材および裏板の平面図である。
図2Dおよび
図2Eの実施形態では、それぞれ、
図2Bに示す裏板4の代わりに、裏板4Aおよび裏板4Bが備えられている。
【0035】
裏板4Aおよび4Bの形状は、大略的には、
図2Bに示す裏板4と同様に楕円形である。しかし、
図2Dに示す裏板4Aでは、幅方向の端部付近は、直線状に延びている。これにより、裏板4Aは
図2Bに示す裏板4に比して側方への突出量が抑えられており、隣接する裏板4A同士の干渉を避けやすくなっている。また、
図2Eに示す裏板4Bでは、側部のうち長手方向中間部付近と長手方向の端部付近との間の部分は、直線状に延びている。この実施形態でも、輪郭が直線状の部分で、
図2Bに示す裏板4に比して突出量が抑えられており、隣接する裏板4A同士の干渉を避けやすくなっている。
【実施例】
【0036】
摩擦部材の幅Dを一定とし、裏板の連結部幅Wを変化させたときのブレーキライニングの鳴き指標を、FEM(有限要素法)による解析によって求めた。「鳴き指標」とは、FEM複素固有値解析で求めたダンピングのうち、負の値のもの、すなわち、不安定なものを、1/3オクターブバンドの周波数幅で合計し、その絶対値を求め、各バンドの値から抽出した最大のものである。鳴き指標の値が小さいほど、ブレーキ鳴きの音が小さいことを意味する。
【0037】
図3A〜
図3Eは、解析の対象とした各ブレーキライニングに備えられた一組の摩擦部材および裏板の平面図である。
図3A〜
図3Eのそれぞれにおいて、摩擦部材の幅Dを細線の両矢印で示しており、裏板の連結部幅Wを太線の両矢印で示している。
【0038】
図3Aに、本発明の実施例であるブレーキライニングに備えられた一組の摩擦部材および裏板を示す。このブレーキライニングでは、1<W/D(W/D=1.32)であり、裏板は、摩擦部材同士の連結部分において、側方へ突出している。
図3Aに示す形状の裏板以外にも、W/Dが1.1、1.2、および1.5の楕円形の裏板が備えられたブレーキライニングも、本発明の実施例として用意した。
【0039】
図3B〜
図3Eに、比較例であるブレーキライニングに備えられた一組の摩擦部材および裏板を示す。
図3B〜
図3Dのブレーキライニングでは、W/D<1であり、裏板は、摩擦部材同士の連結部分において、くびれている。
図3Eのブレーキライニングでは、W/D=1であり、裏板の縁部は、摩擦部材同士の連結部分において、直線状である。
【0040】
図4Aに、W/Dと鳴き指標との関係を示す。
図4Bに、裏板の曲げ剛性と鳴き指標との関係を示す。
図4Aおよび
図4Bにおいて、黒塗りの丸は、本発明の実施例のデータを示し、白抜きの四角は、比較例のデータを示す。
【0041】
図4Aから、概ねW/Dが大きくなるほど鳴き指標の値が小さくなることがわかる。W/D=1のブレーキライニング(
図3E参照)の鳴き指標は、W/D=0.67のブレーキライニング(
図3D参照)の鳴き指標と同等である。より低減された鳴き指標を得るには、1<W/D(
図3A参照)とする必要がある。換言すれば、一組の摩擦部材における摩擦部材同士の隙間で裏板がくびれている場合に比して、鳴き指標を低減するためには、裏板のくびれをなくして裏板の側部を直線状にするだけでは足りず、裏板が側方に突出している必要がある。
【0042】
図4Bから、概ね曲げ剛性が大きくなるほど鳴き指標の値が小さくなることがわかる。曲げ剛性と鳴き指標との関係は、W/Dと鳴き指標との関係と同様の傾向を示す。このことから、W/Dを大きくすると鳴き指標が低減されるのは、W/Dを大きくすることにより曲げ剛性が高くなるためであると考えられる。
【0043】
図5Aおよび
図5Bに、制動時のブレーキライニングに生じる振幅の分布を示す。
図5Aは、本発明の上記実施例のうちW/D=1.32のものについてのものであり、
図5Bは、W/D=0.55の比較例(
図3C参照)についてのものである。
図5Aおよび
図5Bのいずれにおいても、黒に近い(濃い)部分ほど、振幅が大きい。実施例のブレーキライニングでは、W/D=0.55の比較例に比して、振幅が大きい領域が著しく少なくなっている。
【0044】
図3A〜
図3Eのブレーキライニングの各々について、FEMによる解析によって、等圧性能(ブレーキディスクに対する摩擦部材の当接面内の圧力の均一性)を求めた。その結果、W/Dの違いによっては、等圧性能はほとんど変化しないことが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の鉄道車両用ブレーキライニングおよびディスクブレーキは、あらゆる鉄道車両に有効に利用することができ、なかでも、走行速度が低速から高速まで広範となる高速鉄道車両に有用である。
【符号の説明】
【0046】
1:ブレーキディスク、 1a:摺動面、 2:ブレーキライニング、 3:摩擦部材、 4、4A、4B:裏板、 4a:連結部分、 5:ばね部材、 6:基板、 7:リベット