(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記遮断層は、前記ガスケットの長さ方向に垂直な方向に設けられるか、傾斜を有するように設けられることを特徴とする、請求項1に記載の溶融炭酸塩燃料電池用ガスケット。
【背景技術】
【0003】
外部マニホールド型溶融炭酸塩燃料電池(MCFC)においては、燃料及び空気を供給する金属材質のマニホールドとスタックとの間でガスシールと絶縁を維持させるマニホールドシール部が必要である。マニホールドシール部は、スタックと直接接触してガスのシール機能を提供するガスケットと、ガスケットと金属材質のマニホールドとの間で機械的に支持し、絶縁機能を提供する誘電体(dielectric)と、で構成される。
【0004】
上記ガスケットは、スタックとマニホールドとの間のガスシールを形成する構成要素であって、酸化物フェルトを基本素材として用い、ガスシール、絶縁、及びスタックとマニホールドの間における緩衝の役割を果たす。しかしながら、ガスケットは構造的に多孔性であるため、MCFCの作動中に液体電解質の移動通路となる。
【0005】
MCFCスタックは、数百の端電池が直結に連結されているため、作動中に正極端(positive electrode END)と負極端(negative electrode END)との間に数百ボルトの直流電圧が印加される。上記電圧が駆動力となり、多孔性のガスケット素材に溶融炭酸塩電解質のカチオン成分であるLi
+、K
+、Na
+などのカチオンが正極端から負極端に移動し、CO
32−イオンは正極端の方向に移動する。
【0006】
上記電解質の移動量は、ガスケットの素材及び微細構造の制御方法によって大きく変わるが、長時間の運転後には、上記「電解質移動現象」により、正極端のセルでは電解質不足によって性能低下及びガス漏れが発生し、負極端のセルでは電解質過剰状態となって性能が急激に低下する。したがって、ガスケットは、基本的にシール性能を有しなければならず、ガスケットを介して電解質が移動する量を最小化すべきである。
【0007】
初期のMCFC製品にはZrO
2系フェルトが用いられていたが、ガスケットを介した電解質の移動量が多くて、スタックの寿命低下の原因となった。かかる問題を改善するために、CeO
2フェルトが代替品として用いられ、ジルコニア系に比べて電解質の移動量が著しく減少したが、MCFCの収益性を確保するためのスタックの寿命として10年、またはグリッドパリティ(grid parity)の達成水準であるスタックの寿命として20年を達成することは、依然として困難である状況である。
【0008】
現在、このような現象を緩和するために、電解質が枯渇する正極側には、溶融炭酸塩の担持量が大きいハイフィル(High Fill)セルを用い、負極側には、溶融炭酸塩の担持量が小さく、正極から移動した電解質を担持できる容量が増加されたローフィル(Low Fill)セルを別に製作し、「電解質移動」現象によるスタックの寿命短縮に対応している。しかし、これによりスタックの構造が複雑となっており、標準規格以外の別のセルを生産、管理しなければならないといった非効率性などの問題が発生する。また、通常、発電事業者から要求されている20年水準のシステム寿命を保証するのに必要なスタックの交替コストを低減することで価格競争力を確保するためには8〜10万時間のスタックの寿命が要求され、これを考慮すると、さらに根本的な対処が必要である状況である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の一目的は、マトリックスに含浸された溶融炭酸塩電解質がガスケットを介して正極端から負極端に移動することを防止することができるガスケット、及びその製造方法を提供することにある。
【0010】
また、本発明の他の目的は、上記ガスケットを備えるマニホールドシール部及びその製造方法を提供することにある。
【0011】
また、本発明のさらに他の目的は、溶融炭酸塩燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、一例として、外部マニホールド型溶融炭酸塩燃料電池スタックのマニホールドシール部で上記スタックのマトリックスと直接接触する溶融炭酸塩燃料電池(MCFC)用ガスケットを提供し、上記ガスケットは、スタックの積層方向に分離された2つ以上の部分ガスケットが連結されており、上記部分ガスケットの間に、溶融炭酸塩電解質の移動を物理的に遮断する遮断層(blocking layer)が形成された構造を有する。上記遮断層は緻密質の酸化物素材である。上記遮断層は、上記部分ガスケットと同一の素材で構成されることができる。
【0013】
上記遮断層は、上記スタックの積層面に対して平行に設けられるか、傾いて傾斜を有するように設けられることができる。そのために、部分ガスケットの製造過程で原料である酸化物フェルト接合体を切断する場合、ガスケットの長さ方向に垂直方向に切断することが可能であるだけでなく、角度を付与して切断することも可能である(
図4参照)。
【0014】
上記遮断層は、スタックの積層方向にできるだけ多数が設けられることが好ましく、上記部分ガスケットは2〜5cmの長さを有することができる。また、上記遮断層は、厚さが0.1〜0.3mmであることができる。
【0015】
上記遮断層を形成するためのガスケットの製造段階は、原料である酸化物素材のフェルトを接着して積層することで酸化物フェルト接合体を製造する段階と、酸化物フェルト接合体を適当なサイズに切断することで部分酸化物フェルト接合体を製作する段階と、上記部分酸化物フェルト接合体の切断面に酸化物粉末層を形成する段階と、上記酸化物粉末層が形成された部分酸化物フェルト接合体を連結する段階と、連結された部分酸化物フェルト接合体に荷重を印加しながら同時焼結することでガスケットを製造する段階と、を含み、上記遮断層の材料は、酸化物粉末のペーストまたは酸化物粉末のグリーンシートであることができる。
【0016】
図5は、多孔性の部分ガスケット(CeO
2フェルト焼結体)上に同時焼結により形成された緻密な酸化物(CeO
2)層が遮断層として形成された例を示す。
【0017】
本発明は、他の一例として、上記遮断層が形成されたMCFC用ガスケットを所定の幅と長さを有するように製造し、上記ガスケットを、それを支持する誘電体に付着してなるマニホールドシール部を提供する。
【0018】
本発明はさらに他の一例として、マニホールドシール部の形成方法を提供し、上記方法は、上記製造されたMCFC用ガスケットを誘電体に付着することでマニホールドシール部を形成することができる。
【0019】
上記誘電体は、99.5%以上の純度を有するアルミナ材質の絶縁体からなることができる。
【0020】
本発明は、さらに他の一例として、上記マニホールドシール部が外部マニホールドとスタックとの間に配置された溶融炭酸塩燃料電池を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の一実施形態によると、MCFC用燃料電池において、ガスケットをスタックの積層方向に複数の段に分け、上記それぞれの段と段との間に、電解質の移動を阻止することができる遮断層を形成することで、溶融炭酸塩電解質が正極端板から負極端板の方へ移動することを物理的に遮断することができる。
【0022】
特に、従来技術では、遮断層の形成をスタックの積層過程で行っていたため、ガスケットの設置作業が複雑となり、遮断層の配列や位置に誤りが発生すると、スタックでその効果を得難くなり得るという不便さがあった。しかし、本発明では、ガスケットの焼結段階で内部に遮断層が形成されているようにするため、現在の商用スタックの製造に適用されている、遮断層のない従来の一体型ガスケットと同一の作業を行うことができ、工程及び経済面において非常に効果的に適用することができる。
【0023】
また、従来の技術では、絶縁コーティングされた金属素材などの、溶融炭酸塩との化学反応の可能性が高い素材が遮断層として提案されていたのに対し、本発明では、ガスケットの素材に用いられ、MCFCの使用温度で電解質である溶融炭酸塩との化学反応生成物を形成することなく、安定性が確認された酸化物素材を遮断層として用いることで、遮断層の効果を長期的に維持できるようにした。上記酸化物素材の代表的な例としてはCeO
2が挙げられ、その他にも、溶融炭酸塩と反応しない他の酸化物素材及びその混合物を含んでもよい。
【0024】
MCFCスタックの電解質の移動量を著しく減少させ、スタックの長期寿命の向上を図ることができるとともに、スタック及びセルの設計の単純化を実現することができて、MCFCシステムの価格競争力を著しく向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、一例として、外部マニホールド型溶融炭酸塩燃料電池スタックのマニホールドシール部で上記スタックのマトリックスと直接接触する溶融炭酸塩燃料電池(MCFC)用ガスケットを提供し、上記ガスケットは、スタックの積層方向に分離された2つ以上の部分ガスケットが連結されており、上記部分ガスケットの間に、電解質である溶融炭酸塩の移動を物理的に遮断する遮断層(blocking layer)が形成された構造を有する。
【0027】
以下、添付図面を参照して本発明の好ましい実施形態を説明する。しかし、本発明の実施形態は様々な他の形態に変形可能であり、本発明の範囲は以下で説明する実施形態に限定されない。
【0028】
本実施形態を説明するにあたり、同一の構成に対しては同一の名称が用いられ、これによって重複される付加的な説明は以下で省略される。以下で参照される図面では、縮尺比が適用されない。
【0029】
本発明の一実施形態は、溶融炭酸塩燃料電池において、スタックの繰り返し構成要素(Repeating Component)であるマトリックス、ウエットシール(wet seal)部、バイポーラプレートの改質ユニットなどの側面と直接接触する接触部に用いられるガスケットの構造を改善することで、電解質の移動を抑制する。
【0030】
図1は、ガスケットを含む燃料電池積層体(スタック)を含む外部マニホールド型MCFCの一般的な構造を概略的に示す図である。
図1に示したように、外部マニホールド型MCFCのスタックは、多数の燃料電池セルが積層されて構成される。上記スタックは、その側面にガスケット及び外部マニホールドがサンドイッチ状に配置されており、上記スタックの上下には端板(end plate)が積層されている構造を有する。
【0031】
このような外部マニホールド型MCFCは、燃料及び空気を供給する金属材質のマニホールドとスタックとの間でガスシールと絶縁を維持させるマニホールドシール部を含む。上記マニホールドシール部は、スタックと直接接触するガスケットと、ガスケットを機械的に支持し、絶縁性を付与する誘電体(dielectric)と、で構成される。
【0032】
本発明のガスケット、上記ガスケットを含むシール部、及びそれらの製造方法について説明する。
【0033】
上記マニホールドシール部は、金属マニホールドとスタックとの間に誘電体を配置して電気的絶縁性を確保する。また、ガスケットを配置し、一定の面圧を印加するとガスケットが変形され、スタックとマニホールドとの間の隙間を埋めてガスシールを形成する役割を果たす。マニホールドと絶縁体は面加工により平坦性が確保可能であるが、これらと接触する部分は、マトリックスとセパレーターなどの互いに異なる構成要素が数百層積層された状態であるスタックの角部分であって、スタックの製作及び積層段階で全ての繰り返し構成要素の端部を一致させて完璧な平坦面を形成することは不可能である。さらに、スタックを長時間運転すると金属セパレーターの成長が起こるが、その程度がスタックの位置毎に異なるため、スタックの角部分は完璧な平坦面を成すことができない。
【0034】
したがって、絶縁体とスタックとの間をシールするガスケットの素材としては、スタックの角部分とガスケットとの間の隙間を埋めることができる変形力を有する材質であるとともに、600〜700℃以上の空気及び燃料ガス下で安定し、電気伝導度が極めて低い素材を用いることが好ましい。上記物性を満たす代表的な素材としては、酸化物フェルトやテキスタイルが挙げられ、例えば、ジルコニアフェルト、セリア(CeO
2)フェルトなどが用いられてきた。
【0035】
これらの素材は、相対密度が20%以下であり、繊維状構造を有するため、圧力を印加すると変形してスタックの角部位と絶縁体との間の隙間を埋めることができる。これにより、隙間を介して空気極及び燃料極のガスが漏れることを抑えることができる。
【0036】
通常、高さが3m以上である商用のMCFCスタックの全長を一枚で担うことができる酸化物ガスケット素材や酸化物フェルト素材を商業的に入手することは難しいため、数十cmの長さのガスケットを垂直方向に連結し、スタックの積層方向に正極端及び負極端までの全長を担うようにする。
【0037】
例えば、ガスケットの原料として用いられるセリアフェルト(Ceria Felt)の場合、現在、商業的に購入可能なフェルトは、米国Zircar Zirconia Inc.社製の厚さ0.01inch、縦横12inchx12inchの製品である。したがって、ガスケットは、通常30cm内外に製作され、スタックの積層時に適当な幅と長さに切断して用いる。この際、ガスケットの間の連結部は、斜めに切断してから重なるように配置することで、継ぎ目を介したガス漏れの発生を抑えるように構成される。したがって、実際にスタックは、垂直方向にガスケットが正極端から負極端まで連続して連結されている構造を有する。
【0038】
上記ガスケットはセパレーター及びマトリックスなどのスタックの構成要素と接触する。この際、マトリックスは、スタックのコンディショニング中に電解質である炭酸塩が溶融して気孔を満たしながら緻密なガスシール部を形成するが、これをウエットシール(wet sealing)という。上記ウエットシールが形成されると、マトリックスを満たしている溶融炭酸塩電解質がガスケットの接触部を介して多孔性のガスケットに接触するようとなり、スタックのコンディショニングが終わって運転が開始されると、正極端と負極端との間にかかる数百ボルトの電位差により、正極端のマトリックスの溶融炭酸塩電解質がガスケットを介して負極端の方に移動する「移動(migration)」現象が発生する。このような電解質移動現象が長時間持続すると、正極端のマトリックスでは、電解質不足現象が発生して燃料と空気のクロスオーバー(cross over)、すなわち、燃料及び空気の漏れが発生することとなり、負極端のマトリックスでは、電解質過剰現象によってセル性能が著しく低下する。
【0039】
従来の技術では、ガスケットを製造するにあたり、例えば、厚さ0.1inchの多数枚(4〜6枚)のCeF−100フェルト(米国Zircar zirconia社)を厚さ方向に積層した後、1600〜1700℃の範囲で焼結することでフェルトとフェルトとの間を接合するとともに、高温熱処理によって原料セリアフェルト(ceria felt)の微細組織を制御することで、溶融炭酸塩の吸収量を減らし、MCFCガスケットに用いるのに適した機械的特性を付与する方法を用いていた。
【0040】
本発明を詳細に説明する前に、
図3及び
図4を用いて、本発明のガスケットの製造方法についての詳細説明に用いられる用語の名称を図式的にまとめた。先ず、多数枚の酸化物フェルトを有機物接着剤で接合したものを「酸化物フェルト接合体」と表現した。上記酸化物フェルト接合体をガスケットの長さに垂直な方向、すなわち、スタックの積層方向に平行に切断したものを「部分酸化物フェルト接合体」と表現した。上記「部分酸化物フェルト接合体」の切断面に形成する、溶融炭酸塩電解質の移動を抑える緻密層を「遮断層」と表現した。
【0041】
そして、多数の上記遮断層が形成された「部分酸化物フェルト接合体」を連結して焼結することで一体化すると、上記多数の「部分酸化物フェルト接合体」が多数の「部分ガスケット」となり、上記多数の「部分ガスケット」と遮断層の長さ方向に一体化した完成品を「ガスケット」と表現した。
【0042】
図4には、上記「ガスケット」の製造工程を図式的に示した。
【0043】
本発明では、正極端の電位差による電解質の移動を阻止する遮断層を形成するために、酸化物フェルトを厚さ方向に積層する際に、それぞれのフェルトとフェルトとを有機系接着剤を用いて接合させ、上記酸化物フェルト接合体をスタックの積層方向に(酸化物フェルト接合体にとっては長さ方向に)沿って切断することで所定長さの部分酸化物フェルト接合体を製作し、その切断面に酸化物粉末層を形成してから上記部分酸化物フェルト接合体を連結し、これを焼結することで、一体化された酸化物ガスケットを完成する。この際、酸化物ガスケットを構成する部分酸化物フェルト接合体の切断面には、上記焼成過程で緻密な酸化物焼結体を形成することで、溶融炭酸塩の移動を遮断することができる酸化物粉末層で構成された遮断層を形成する。
【0044】
同時焼結によって上記部分酸化物フェルト接合体は部分ガスケットとなり、遮断層が緻密化されながら部分ガスケットと部分ガスケットとが接合されることで、一体化された酸化物ガスケットが完成される。
【0045】
また、同時焼結過程で上記部分酸化物フェルト接合体の切断面に形成された酸化物層が緻密化され、電解質の移動を中間で物理的に阻止することができる「電解質移動遮断層」の機能を果たす。これにより、ガスケットの長さ方向への電解質の移動を抑えることができる。
【0046】
上記遮断層は、正極端から負極端の方に向かう電解質の移動方向に垂直な方向に形成され、電解質の移動を物理的に遮断する機能を有する。所定の長さに切断した部分酸化物フェルト接合体は、その長さが短いほどより多くの遮断層を形成することができるため、長さが短いほど、ガスケットの性能が向上する。
【0047】
但し、ただ1つの遮断層が形成されても、遮断層のない既存の連続した多孔構造のガスケットに比べて電解質移動現象を抑えることができるため、製造工程上許容可能な短い長さに切断するほど、すなわち、同時焼結後に完成されたガスケットの単位長さ当たりの部分ガスケットの数が多いほど、つまり、遮断層の数が多いほど、電解質移動の遮断効果が極大化される。したがって、単位長さ当たりに製造工程上許容可能な多数の遮断層を形成することができるように最適化することが必要である。例えば、同時焼結されたガスケットの2〜5cm当たりに1つの遮断層を有するように製造することができるが、遮断層間の距離の最適化が本発明の本質的な要素であるわけではない。
【0048】
上記酸化物部分ガスケットの間に形成される遮断層は、多孔性構造のガスケットを介して電解質が移動することを物理的に遮断できる緻密な構造を有することが要求される。したがって、溶融炭酸塩電解質が通過可能な水準の貫通気孔の分率が最小化されるべきである。より好ましくは、溶融炭酸塩電解質が通過可能な、連結された気孔若しくは亀裂が全くないか、極めて一部存在するとしてもその分率が極めて低く、連結性が不良であって電場による溶融炭酸塩の移動に対する抵抗が非常に大きいことが好ましい。
【0049】
上記遮断層は、約500〜700℃の温度範囲で酸化/還元雰囲気及び燃料ガスと水蒸気、二酸化炭素と接触する。また、MCFCのウエットシール部と接触するため、溶融炭酸塩との化学反応で安定性が確保された物質ではなければならない。さらに、上記遮断層の素材としては、500〜700℃の範囲で熱的に安定し、且つ電気的絶縁特性を有するか、溶融炭酸塩燃料電池の単位電池に比べて非常に高いインピーダンスを有する素材が要求される。したがって、高分子及び金属素材を用いることは好ましくなく、既存にガスケット素材を構成していた酸化物素材が最も好ましい。
【0050】
酸化物素材の中でも、アルミナ、LiAlO
2、イットリア−ドープされたジルコニア(Y
2O
3−doped ZrO
2)、CeO
2などの素材が適用可能である。より好ましくは、既存にMCFC用マニホールドガスケットの原料として用いられていたイットリア−ドープされたジルコニア(Y
2O
3−doped ZrO
2)系とCeO
2系素材が好ましい素材である。また、電解質である溶融炭酸塩との反応性がない酸化物であるCeO
2素材がより好ましい。
【0051】
遮断層のない従来のガスケットの場合、CeO
2フェルトを原料とし、それを積層及び焼結して製造したCeO
2ガスケットが、イットリア−ドープされたジルコニア(Y
2O
3−doped ZrO
2)系に比べて優れる。
【0052】
図6は、多孔性の部分ガスケットに、同時焼結により酸化物(CeO
2)遮断層が結合された例の微細組織写真である。
【0053】
また、上記酸化物素材は、その組成を選択するにあたり、酸化物フェルト接合体を構成する酸化物と同一の組成の酸化物であることが好ましい。例えば、原料である酸化物フェルトがイットリア−ドープされたジルコニア(Y
2O
3−doped ZrO
2)素材である場合には同一のイットリア−ドープされたジルコニア(Y
2O
3−doped ZrO
2)を遮断層として用い、原料である酸化物フェルトがCeO
2素材である場合にはCeO
2を遮断層として用いることが好ましい。
【0054】
これは、同時焼結過程における異種物質間の化学反応などによる問題から自由になることができ、部分ガスケットと遮断層が同一素材であることが、部分ガスケット−遮断層−部分ガスケット接合部の構造的安定性を考慮した時に有利であるためである。
【0055】
本発明の思想を実現するための重要な項目は、同時焼結によって製造される一体化されたガスケットを構成する部分ガスケットと遮断層とが強固に接合されており、できるだけ緻密な遮断層を形成し、遮断層の内部の貫通気孔及び貫通亀裂を介した溶融炭酸塩の移動を最小化することで、遮断層を貫通する溶融炭酸塩の移動の抑制効果を極大化すべきであるということである。
【0056】
そのためには、先ず、酸化物素材の選定が重要であるが、酸化物素材の中でもCeO
2素材が最も好ましい。これは、CeO
2は、溶融炭酸塩との反応または溶解反応が起こらず、遮断層のない従来のガスケットの中で電解質移動量が最も小さいためである。本発明の思想はCeO
2素材に限定されるものではなく、その他にも、イットリア−ドープされたジルコニア(Y
2O
3−doped ZrO
2)、LiAlO
2などの種々の酸化物素材にも適用可能であることはいうまでもない。
【0057】
次に、同時焼結(遮断層と部分酸化物フェルト接合体の同時焼結)温度の選定が重要である。ガスケットの同時焼結温度は、遮断層を除いた部分ガスケットの微細構造を決定する要素となるため、1600〜1700℃の範囲、より好ましくは1600〜1650℃の範囲が好適である。この際、焼結は大気中で行うことが好ましい。
【0058】
また、本発明の目的を果たすための非常に重要な思想は、酸化物フェルトを積層した後、焼結により接合してガスケットを製造してから遮断層を形成する従来の技術とは異なって、酸化物フェルトを焼結する前に有機接着剤を用いて接合して「酸化物フェルト接合体」を製作し、さらにそれを切断して「部分酸化物フェルト接合体」を製作し、その切断面に、厚膜層若しくはグリーンシートのような遮断層の構成粉末を一定の厚さに形成するという点にある。
【0059】
上記過程で、例えば、CeF−100フェルト(米国Zircar Zirconia社)は、1600〜1650℃で焼結すると、厚さ方向に約36〜38%、幅方向に約12〜15%の水準の線収縮をする。遮断層の構成粉末が同時焼結温度で十分に緻密化されるためには、上記収縮率を用いて、同時焼結過程で酸化物粉末で構成された遮断層の十分な焼結収縮がなされるようにしなければならない。
【0060】
従来の技術によって酸化物フェルトを1600〜1650℃の範囲で焼結完了したガスケットには同一の組成の遮断層を形成しても、上記完成されたガスケットがそれ以上焼結収縮せず、遮断層の緻密化を妨害する。そのため、上記同時焼結の最適温度である1600〜1650℃での大気圧焼結方式によっては、連続気孔や亀裂のない緻密な焼結体を形成することが不可能である。
【0061】
したがって、本発明において非常に重要な因子は、部分酸化物フェルト接合体と遮断層の同時焼結時に十分な収縮率を有することができるとともに、各層、すなわち、部分酸化物フェルト接合体と遮断層の焼結収縮の温度プロファイルが類似すべきである。そのためには、遮断層を構成するCeO
2粉末の選定が重要である。
【0062】
遮断層の構成粉末において、一例として、CeO
2の平均粒径が大きすぎると、同時焼結の最適温度である1600〜1650℃の範囲での緻密化が困難である。この場合、同時焼結された遮断層に多数の貫通気孔と亀裂が発生することとなる。その反面、遮断層の構成粉末の平均粒径が小さすぎると、部分酸化物フェルト接合体を構成するCeO
2フェルト(例えば、米国Zircar社のCEF−100)より低温で焼結収縮が発生し、より低温で焼結収縮が完了されるため、部分ガスケットと遮断層との界面が分離され得る。本発明においてCeO
2粒子の適切なサイズは、平均粒径を基準として0.5μm以上3μm以下であることが好ましい。
【0063】
また、同時焼結時に、多数の部分酸化物フェルト接合体とその間に形成若しくは配置される(付着される)酸化物粉末層(後で焼結されて遮断層になる)を配置し、界面接合がより円滑に行われるように加圧することが好ましい。上記加圧は、同時焼結時にその厚さ方向に収縮量を増加させるため、緻密な遮断層を形成するという点で好ましい方法である。同時焼結後に完成される全体ガスケットの最終厚さを制御するために、所望の厚さのストッパー(stopper)を設け、最終的なガスケットの厚さを制御することが好ましい。
【0064】
上記ガスケットを製造するためには、先ず、多数枚の酸化物フェルトを所望の幅のガスケットが形成されるように切断した後、同時焼結過程で熱分解及び酸化により除去可能な接着剤などのような有機物接着剤を用いて接着することにより、酸化物フェルト接合体を製作する。
【0065】
そして、上記酸化物フェルト接合体をガスケットの長さ方向に切断(スタックに装着時にスタックの高さ方向に切断)、すなわち、切断面が溶融炭酸塩の移動方向に垂直な方向となるように切断、つまり、スタックの積層方向に平行な方向に切断する。本発明では、便宜上、上記酸化物フェルト接合体と区分して、これを部分酸化物フェルト接合体と称する。この際、部分酸化物フェルト接合体の長さは、全体ガスケットに形成しようとする遮断層の数に応じてその長さを調節する。換言すると、部分酸化物フェルト接合体の1つの長さが短くなるほど、全体ガスケットに形成される遮断層の数が増加する。
【0066】
次の段階として、上記部分酸化物フェルト接合体の切断面に、酸化物フェルトと同一の組成と結晶構造を有する酸化物系遮断層を形成若しくは配置(=付着)する方法について説明する。製作した部分酸化物フェルト接合体の切断面に、上記酸化物フェルトと同一の組成と結晶構造を有する酸化物粉末の懸濁液を製造して塗布または噴霧することで、遮断層を形成することができる。他の方法としては、上記酸化物粉末を用いて一定の粘度を有するペーストを製造し、それを上記部分酸化物フェルト接合体の切断面に塗布する方法がある。さらに他の方法としては、テープキャスト若しくは押出などの方法により上記酸化物粉末のグリーンシートを適当な厚さに積層することで酸化物粉末グリーンシート積層体を製作し、上記部分酸化物フェルト接合体の切断面のサイズに合わせて裁断したグリーンシート積層体を、部分酸化物フェルト接合体と酸化物フェルト接合体との間に配置若しくは付着する方法を適用することができる。
【0067】
上記遮断層の形状、遮断層を部分酸化物フェルト接合体の間に配置する形態などは特に限定されない。
【0068】
図2に、部分ガスケットの間に遮断層が挿入されたガスケットの構造を概略的に示した。
図2に示したように、上記遮断層は、スタックの積層面に平行に配置されてもよく、または所定の傾斜を有してもよいが、これに限定されず、酸化物フェルト接合体の切断方法によって様々な形状を有することができる。
【0069】
特に、本発明では、部分酸化物フェルト接合体と遮断層が同時焼結過程で強固に接合されるように荷重を印加するが、この際、上記荷重が接合面にさらに効果的に伝達されるように、酸化物フェルト接合体を切断して部分酸化物フェルト接合体を製造する過程で、ガスケットの長さ方向に垂直ではなく傾斜を有するように切断することで、つまり、スタックの積層方向に正確に平行に切断するのではなく傾斜を有するように切断することで部分酸化物フェルト接合体を製造することが好ましい。
【0070】
遮断層の間隔は、多孔性のガスケットを介した溶融炭酸塩電解質の移動による正極端セルの電解質不足及び負極端セルの電解質過剰による性能低下を防止しようとする機能を考慮すると、1つの部分ガスケット、すなわち、1つの遮断層とそれに接する遮断層によって分離された部分ガスケットが接触する領域内のスタック(部分スタック)内で、正極端セルの電解質不足及び負極端セルの電解質過剰による問題を引き起こさない範囲内で適宜調節することができる。
【0071】
したがって、上記ガスケットの分離及びそれによる部分ガスケットと部分ガスケットとの間に挿入される遮断層の数は特に限定されないが、例えば、単位セル毎に別の1つの遮断層を備えてもよく、2、3、5、7、10などの多様な数の単位セル当たり1つの遮断層を備えてもよい。
【0072】
他の形態として、電解質移動を抑制する効果は、部分ガスケットの長さが短いほど、すなわち、遮断層の挿入が多いほど増大するため、遮断層の間隔は狭いほど有利であるが、ガスケットの製造過程における便宜性を考慮して最適化することが好ましい。このような点から、部分ガスケットの長さを2〜5cmとすることが好ましい。しかし、遮断層が全くない従来のガスケットに比べて、遮断層が一層でも存在すると電解質の移動量が減少する効果があるため、遮断層の数と間隔は特に限定されない。
【0073】
上記のような方法により製造された遮断層を有するガスケットを誘電体材料に付着し、上記ガスケット及び誘電体を外部マニホールドとスタックとの間に配置し、面圧を印加すると、ガスケットが変形してスタックと絶縁体との間に密着されながら外部マニホールド型MCFCのマニホールドシール部を得ることができる。
【0074】
上記誘電体としては、一般に用いられる材質であれば本発明でも好適に使用可能であり、例えば、アルミナ材質の誘電体を用いることができる。
【0075】
本発明による電解質移動遮断層を有するガスケットを含むシール部が適用されたMCFCマニホールドのシールの概念を
図5に示した。本発明の遮断層を含むガスケットが適用されたシール部を含むことで、マトリックスに含浸された溶融炭酸塩電解質がガスケットを介して空気極から燃料極の方に移動することが上記遮断層によって抑制され、これにより、燃料電池の正極端セルにおける電解質不足及び負極端セルにおける電解質過剰によって燃料電池の性能が低減し、ガス漏れの発生を防止することができる。
【0076】
本発明による電解質移動遮断層の効果を試験するために、下記のような実験を行った。
【0077】
先ず、遮断層とガスケットを同時焼結して一体化するためには、母材であるCeO
2の最終焼成収縮率及び各温度毎の収縮挙動を把握しなければならない。そのために、米国のZircar Zirconia Inc社のCeO
2フェルトであるCEF−100の幅及び厚さ方向の焼結収縮率を評価し、
図7に示されたような結果を得た。
【0078】
1650℃、2時間の熱処理時における最終収縮率は、幅方向に15%、厚さ方向に38%であるため、上記酸化物フェルト積層体上に形成されたCeO
2層は、十分に同時焼結によってCeO
2ガスケットと一体化が可能であると判断された。
【0079】
(実施例1)
CeO
2ガスケットを製造するために、CeO
2フェルトであるCEF−100(Zircar Zirconia Inc(米)製)を幅60mm、長さ300mmに切断した後、表面にスプレー接着剤を塗布し、それを5枚重ねる方法によりCeO
2フェルト接合体を製造した。上記積層体を長さ方向に20mm間隔で45度の斜め方向に切断した後、切断面にCeO
2粉末のペーストを塗布し、上記部分CeO
2フェルト接合体の斜めの(45度)切断面を連結することで酸化物フェルト接合体を形成した。上記酸化物フェルト接合体に約5g/cm
2の荷重を印加しながら1650℃で2時間熱処理することで、CeO
2ガスケットを製造した。最終製造されるガスケットの厚さを、6mmのアルミナストッパー(stopper)を用いて調整した。
【0080】
(比較例1)
CeO
2フェルトであるCEF−100(Zircar Zirconia Inc(米)製)5枚を重ねた後、約5g/cm
2の荷重を印加し1650℃で2時間熱処理することで、CeO
2ガスケットを製造した。製造されるガスケットの最終厚さを、6mmのアルミナストッパを用いて調整した。
【0081】
(電解質移動度の比較)
図8に示されたような試験方法を構成し、実施例1と比較例1のガスケットの電解質移動度を比較評価した。比較方法としては、実施例1及び比較例1のガスケットに同一比率の溶融炭酸塩を含浸させた後、0.5V/cmの電位差を印加し、標準抵抗を介して流れる電流密度を相対比較した。上記温度特性電流(shunt current)は、電位差によって移動する電解質移動量に比例するため、実施例による電解質移動量の減少効果を相対比較することが可能である。
【0082】
上記試験結果を示した
図9を参照すると、実施例1によるCeO
2遮断層を含むガスケットは、既存のCeO
2ガスケットに比べて電解質移動量が33%程度減少することが確認できる。
【0083】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の権利範囲がこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で様々な修正及び変形が可能であるということは、当技術分野の通常の知識を有する者には自明であろう。