特許第6640372号(P6640372)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6640372
(24)【登録日】2020年1月7日
(45)【発行日】2020年2月5日
(54)【発明の名称】内燃機関用点火装置
(51)【国際特許分類】
   F02P 3/00 20060101AFI20200127BHJP
【FI】
   F02P3/00 B
【請求項の数】18
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2018-548304(P2018-548304)
(86)(22)【出願日】2016年11月1日
(86)【国際出願番号】JP2016004782
(87)【国際公開番号】WO2018083719
(87)【国際公開日】20180511
【審査請求日】2019年4月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000174426
【氏名又は名称】日立オートモティブシステムズ阪神株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095337
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100174425
【弁理士】
【氏名又は名称】水崎 慎
(74)【代理人】
【識別番号】100203932
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 克宗
(72)【発明者】
【氏名】内勢 義文
【審査官】 小林 勝広
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/157541(WO,A1)
【文献】 特開昭61−145361(JP,A)
【文献】 特開2007−211631(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02P 1/00−3/12、7/00−17/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電により順方向の磁束が増加し、電流を遮断することにより順方向の磁束が減ぜられる主一次コイルと、
予め定めた第1方向への通電により順方向の磁束が生じ、逆の第2方向への通電により順方向とは反対の逆方向の磁束が生じる副一次コイルと、
一端側が点火プラグと接続され、前記主一次コイルおよび副一次コイルに生じた磁束が作用して放電エネルギが発生する二次コイルと、
を有する点火コイルと、
バッテリから前記主一次コイルへの通電・遮断を切り替える主スイッチ手段と、
前記副一次コイルへ第1方向の通電を行える順方向磁束発生状態と、前記副一次コイルへ第2方向の通電を行える逆方向磁束発生状態と、を相互に切り替え可能で、前記順方向磁束発生状態への切替制御に用いる第1副スイッチ手段を備える副一次コイル磁束発生状態切替手段と、
前記主スイッチ手段および前記副一次コイル磁束発生状態切替手段を制御して、燃焼サイクルの所定のタイミングで点火プラグに放電火花を発生させる点火制御手段と、
を備え、
前記点火制御手段は、
前記主一次コイルへの通電・遮断制御により二次コイルに放電エネルギを発生させる主通常放電制御が可能であると共に、
前記副一次コイル磁束発生状態切替手段を順方向磁束発生状態に切り替えて主一次点火コイルおよび副一次点火コイルへ同時に通電する点火タイミング前重畳放電制御、および/または、点火タイミング以降に副一次コイル磁束発生状態切替手段を逆方向磁束発生状態に切り替えて副一次点火コイルへの通電・遮断を行う点火タイミング後重畳放電制御、を可能としたことを特徴とする内燃機関用点火装置。
【請求項2】
前記副一次コイル磁束発生状態切替手段は、
前記第1副スイッチ手段を、前記副一次コイルへ第1方向の通電を行えるように副一次コイルの第1端側を接地へ切り替えるスイッチとして用いると共に、
前記副一次コイルへ第1方向の通電を行えるように、副一次コイルの第2端側へ第1給電手段から電源供給可能にする第2副スイッチ手段と、
前記副一次コイルへ第2方向の通電を行えるように、副一次コイルの第2端側を接地へ切り替える第3副スイッチ手段と、
前記副一次コイルへ第2方向の通電を行えるように、副一次コイルの第1端側へ第2給電手段から電源供給可能にする第4副スイッチ手段と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用点火装置。
【請求項3】
前記点火制御手段は、主スイッチ手段、第1副スイッチ手段および第2副スイッチ手段のON・OFF制御を同期させて行う事により、主一次点火コイルおよび副一次点火コイルへ同時に通電する点火タイミング前重畳放電制御を行うようにしたことを特徴とする請求項2に記載の内燃機関用点火装置。
【請求項4】
前記点火制御手段は、主一次コイルへの通電・遮断制御を行った点火タイミング以降に、第3副スイッチ手段および第4副スイッチ手段のON・OFF制御を行う事により、二次コイルに発生する放電エネルギを重畳的に増加させる点火タイミング後重畳放電制御を行うようにしたことを特徴とする請求項2に記載の内燃機関用点火装置。
【請求項5】
前記点火制御手段は、
主スイッチ手段、第1副スイッチ手段および第2副スイッチ手段のON・OFF制御を同期させて行う事により、主一次点火コイルおよび副一次点火コイルへ同時に通電する点火タイミング前重畳放電制御と、
前記点火タイミング前重畳放電制御を行った点火タイミング以降に、第3副スイッチ手段および第4副スイッチ手段のON・OFF制御を行う事により、二次コイルに発生する放電エネルギを重畳的に増加させる点火タイミング後重畳放電制御と、
を同じ燃焼サイクル内で行うようにしたことを特徴とする請求項2に記載の内燃機関用点火装置。
【請求項6】
前記点火制御手段より出力される点火信号が、主スイッチ手段と第1副スイッチ手段へ同時に入力されることで、主スイッチ手段と第1副スイッチ手段のON・OFF動作が同期するようにしたことを特徴とする請求項3〜請求項5の何れか1項に記載の内燃機関用点火装置。
【請求項7】
前記副一次コイル磁束発生状態切替手段のうち、少なくとも、第2副スイッチ手段、第3副スイッチ手段および第4副スイッチ手段を1つのケースに収納して、ユニット化するようにしたことを特徴とする請求項2〜請求項6の何れか1項に記載の内燃機関用点火装置。
【請求項8】
前記主スイッチ手段および第1副スイッチ手段は、点火コイルのケース内に収納したことを特徴とする請求項1〜請求項7の何れか1項に記載の内燃機関用点火装置。
【請求項9】
前記主スイッチ手段および第1副スイッチ手段のON・OFFを制御する制御端子を点火コイルのケース内で接続し、前記点火制御手段と接続される外部接続端子を共有するようにしたことを特徴とする請求項8に記載の内燃機関用点火装置。
【請求項10】
前記点火制御手段は、副一次コイル磁束発生状態切替手段を順方向磁束発生状態に切り替え、前記主放電制御に代えて、副一次コイルへの通電・遮断制御により二次コイルに放電エネルギを発生させる副通常放電制御が可能であることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用点火装置。
【請求項11】
前記点火制御手段は、第1副スイッチ手段および第2副スイッチ手段のON・OFF制御を同期させて行う事により順方向磁束発生状態に切り替え、前記主放電制御に代えて、副一次コイルへの通電・遮断制御により二次コイルに放電エネルギを発生させる副通常放電制御を行うようにしたことを特徴とする請求項2に記載の内燃機関用点火装置。
【請求項12】
前記点火制御手段は、主スイッチ手段、第1副スイッチ手段および第2副スイッチ手段のON・OFF制御を同期させて行う事により、主一次点火コイルおよび副一次点火コイルへ同時に通電する点火タイミング前重畳放電制御を行うようにしたことを特徴とする請求項11に記載の内燃機関用点火装置。
【請求項13】
前記点火制御手段は、主通常放電制御または副通常放電制御を行った点火タイミング以降に、第3副スイッチ手段および第4副スイッチ手段のON・OFF制御を行う事により、二次コイルに発生する放電エネルギを重畳的に増加させる点火タイミング後重畳放電制御を行うようにしたことを特徴とする請求項11に記載の内燃機関用点火装置。
【請求項14】
前記点火制御手段は、
主スイッチ手段、第1副スイッチ手段および第2副スイッチ手段のON・OFF制御を同期させて行う事により、主一次点火コイルおよび副一次点火コイルへ同時に通電する点火タイミング前重畳放電制御と、
前記点火タイミング前重畳放電制御を行った点火タイミング以降に、第3副スイッチ手段および第4副スイッチ手段のON・OFF制御を行う事により、二次コイルに発生する放電エネルギを重畳的に増加させる点火タイミング後重畳放電制御と、
を同じ燃焼サイクル内で行うようにしたことを特徴とする請求項11に記載の内燃機関用点火装置。
【請求項15】
前記点火制御手段は、主点火信号を主スイッチ手段へ、副点火信号を第1副スイッチ手段へそれぞれ出力することで、主スイッチ手段と第1副スイッチ手段のON・OFF動作を同期させるようにしたことを特徴とする請求項11〜請求項14の何れか1項に記載の内燃機関用点火装置。
【請求項16】
前記第1給電手段には、前記主一次コイルへの給電に用いるバッテリを共用するようにしたことを特徴とする請求項2〜請求項7、請求項11〜請求項15の何れか1項に記載の内燃機関用点火装置。
【請求項17】
前記点火制御手段は、前記副一次コイル磁束発生状態切替手段の第4スイッチ手段をPWM制御することで、第2給電手段から副一次コイルへの供給電力を調整できるようにしたことを特徴とする請求項2〜請求項7、請求項11〜請求項16の何れか1項に記載の内燃機関用点火装置。
【請求項18】
少なくとも、前記副一次コイル磁束発生状態切替手段は、1つのケースに収納して、ユニット化するようにしたことを特徴とする請求項1〜請求項6、請求項10〜請求項17の何れか1項に記載の内燃機関用点火装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車両に搭載される内燃機関用の点火装置に関し、点火コイルの二次側に発生させる放電エネルギを重畳的に増大させて、良好な放電特性を得るものである。
【背景技術】
【0002】
車両搭載の内燃機関として、燃費改善のために直噴エンジンや高EGRエンジンが採用されているが、これらのエンジンは着火性があまり良くないため、点火装置には高エネルギ型のものが必要になる。そこで、古典的な電流遮断原理により発生する点火コイル二次側出力に、さらにもう一つの点火コイルの出力を加算的に重畳する位相放電型の点火装置が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
この特許文献1に記載の点火装置によれば、主一次点火コイルの一次電流を遮断することでその二次側に発生する数kVの高電圧により、点火プラグの放電間隙に絶縁破壊を起こして点火コイルの二次側から放電電流を流し始めた後に、主点火コイルと並列に接続された副点火コイルの一次電流を遮断し、その二次側に発生する数kVの直流電圧を加算的に重畳することで、比較的長い時間に亙って点火プラグに大きな放電エネルギを与えることができるため、燃料への着火性が向上し、延いては燃費も向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−140924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された点火装置のような方式では、点火プラグの放電電流が各コイルから出力される三角形の電流の組み合わせで決まるため、高電流期間を長くするためには、2つの点火コイルの点火位相を大きくしたうえで、2つの点火コイルに十分なエネルギを蓄積する時間を長くする必要がある。このように、2つの点火コイルを用いることに加えて一次コイルへの通電時間を長くすると、コイル本体の大型化及び一次コイルへの通電制御を行うスイッチング素子の発熱が高くなるという問題が生ずる。
【0006】
また、一次コイルへの通電時間を長くすることなく、一次コイルに蓄積するエネルギを高める方法としては、コイルの体格を大きくして蓄積エネルギを増やす方法、複数の点火コイルを用いる方法が考えられる。しかしながら、大型の点火コイルを用いたり、複数の点火コイルを用いたりすれば、搭載スペースの確保が問題となってしまう。
【0007】
さらに、点火コイルの外部あるいは内部で電源電圧を昇圧してコイルの二次側に直接的に高電圧を印加することで、一次コイルへの通電時間を長くすることなく、二次側の放電エネルギを高める方法も考えられる。しかしながら、このような方法では、電源電圧を数kV程度に昇圧させなければならないので、搭載する昇圧回路の高耐圧化および高電圧での接続耐性が必要となり、相当なコストアップとなってしまう。
【0008】
そこで、本発明は、主一次コイルへの通電時間を長くすることなく安定した高電流期間を確保し、燃焼を維持することができ、しかも、点火コイルの大型化および大幅なコスト増を抑制できる内燃機関用点火装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、通電により順方向の磁束が増加し、電流を遮断することにより順方向の磁束が減ぜられる主一次コイルと、予め定めた第1方向への通電により順方向の磁束が生じ、逆の第2方向への通電により順方向とは反対の逆方向の磁束が生じる副一次コイルと、一端側が点火プラグと接続され、前記主一次コイルおよび副一次コイルに生じた磁束が作用して放電エネルギが発生する二次コイルと、を有する点火コイルと、バッテリから前記主一次コイルへの通電・遮断を切り替える主スイッチ手段と、前記副一次コイルへ第1方向の通電を行える順方向磁束発生状態と、前記副一次コイルへ第2方向の通電を行える逆方向磁束発生状態と、を相互に切り替え可能で、前記順方向磁束発生状態への切替制御に用いる第1副スイッチ手段を備える副一次コイル磁束発生状態切替手段と、前記主スイッチ手段および前記副一次コイル磁束発生状態切替手段を制御して、燃焼サイクルの所定のタイミングで点火プラグに放電火花を発生させる点火制御手段と、を備え、前記点火制御手段は、前記主一次コイルへの通電・遮断制御により二次コイルに放電エネルギを発生させる主通常放電制御が可能であると共に、前記副一次コイル磁束発生状態切替手段を順方向磁束発生状態に切り替えて主一次点火コイルおよび副一次点火コイルへ同時に通電する点火タイミング前重畳放電制御、および/または、点火タイミング以降に副一次コイル磁束発生状態切替手段を逆方向磁束発生状態に切り替えて副一次点火コイルへの通電・遮断を行う点火タイミング後重畳放電制御、を可能としたことを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に係る発明は、前記請求項1に記載の内燃機関用点火装置において、前記副一次コイル磁束発生状態切替手段は、前記第1副スイッチ手段を、前記副一次コイルへ第1方向の通電を行えるように副一次コイルの第1端側を接地へ切り替えるスイッチとして用いると共に、前記副一次コイルへ第1方向の通電を行えるように、副一次コイルの第2端側へ第1給電手段から電源供給可能にする第2副スイッチ手段と、前記副一次コイルへ第2方向の通電を行えるように、副一次コイルの第2端側を接地へ切り替える第3副スイッチ手段と、前記副一次コイルへ第2方向の通電を行えるように、副一次コイルの第1端側へ第2給電手段から電源供給可能にする第4副スイッチ手段と、を備えることを特徴とする。
【0011】
また、請求項3に係る発明は、前記請求項2に記載の内燃機関用点火装置において、前記点火制御手段は、主スイッチ手段、第1副スイッチ手段および第2副スイッチ手段のON・OFF制御を同期させて行う事により、主一次点火コイルおよび副一次点火コイルへ同時に通電する点火タイミング前重畳放電制御を行うようにしたことを特徴とする。
【0012】
また、請求項4に係る発明は、前記請求項2に記載の内燃機関用点火装置において、前記点火制御手段は、主一次コイルへの通電・遮断制御を行った点火タイミング以降に、第3副スイッチ手段および第4副スイッチ手段のON・OFF制御を行う事により、二次コイルに発生する放電エネルギを重畳的に増加させる点火タイミング後重畳放電制御を行うようにしたことを特徴とする。
【0013】
また、請求項5に係る発明は、前記請求項2に記載の内燃機関用点火装置において、前記点火制御手段は、主スイッチ手段、第1副スイッチ手段および第2副スイッチ手段のON・OFF制御を同期させて行う事により、主一次点火コイルおよび副一次点火コイルへ同時に通電する点火タイミング前重畳放電制御と、前記点火タイミング前重畳放電制御を行った点火タイミング以降に、第3副スイッチ手段および第4副スイッチ手段のON・OFF制御を行う事により、二次コイルに発生する放電エネルギを重畳的に増加させる点火タイミング後重畳放電制御と、を同じ燃焼サイクル内で行うようにしたことを特徴とする。
【0014】
また、請求項6に係る発明は、前記請求項3〜請求項5の何れか1項に記載の内燃機関用点火装置において、前記点火制御手段より出力される点火信号が、主スイッチ手段と第1副スイッチ手段へ同時に入力されることで、主スイッチ手段と第1副スイッチ手段のON・OFF動作が同期するようにしたことを特徴とする。
【0015】
また、請求項7に係る発明は、前記請求項2〜請求項6の何れか1項に記載の内燃機関用点火装置において、前記副一次コイル磁束発生状態切替手段のうち、少なくとも、第2副スイッチ手段、第3副スイッチ手段および第4副スイッチ手段を1つのケースに収納して、ユニット化するようにしたことを特徴とする。
【0016】
また、請求項8に係る発明は、前記請求項1〜請求項7の何れか1項に記載の内燃機関用点火装置において、前記主スイッチ手段および第1副スイッチ手段は、点火コイルのケース内に収納したことを特徴とする。
【0017】
また、請求項9に係る発明は、前記請求項8に記載の内燃機関用点火装置において、前記主スイッチ手段および第1副スイッチ手段のON・OFFを制御する制御端子を点火コイルのケース内で接続し、前記点火制御手段と接続される外部接続端子を共有するようにしたことを特徴とする。
【0018】
また、請求項10に係る発明は、前記請求項1に記載の内燃機関用点火装置において、前記点火制御手段は、副一次コイル磁束発生状態切替手段を順方向磁束発生状態に切り替え、前記主放電制御に代えて、副一次コイルへの通電・遮断制御により二次コイルに放電エネルギを発生させる副通常放電制御が可能であることを特徴とする。
【0019】
また、請求項11に係る発明は、前記請求項2に記載の内燃機関用点火装置において、前記点火制御手段は、第1副スイッチ手段および第2副スイッチ手段のON・OFF制御を同期させて行う事により順方向磁束発生状態に切り替え、前記主放電制御に代えて、副一次コイルへの通電・遮断制御により二次コイルに放電エネルギを発生させる副通常放電制御を行うようにしたことを特徴とする。
【0020】
また、請求項12に係る発明は、前記請求項11に記載の内燃機関用点火装置において、前記点火制御手段は、主スイッチ手段、第1副スイッチ手段および第2副スイッチ手段のON・OFF制御を同期させて行う事により、主一次点火コイルおよび副一次点火コイルへ同時に通電する点火タイミング前重畳放電制御を行うようにしたことを特徴とする。
【0021】
また、請求項13に係る発明は、前記請求項11に記載の内燃機関用点火装置において、前記点火制御手段は、主通常放電制御または副通常放電制御を行った点火タイミング以降に、第3副スイッチ手段および第4副スイッチ手段のON・OFF制御を行う事により、二次コイルに発生する放電エネルギを重畳的に増加させる点火タイミング後重畳放電制御を行うようにしたことを特徴とする。
【0022】
また、請求項14に係る発明は、前記請求項11に記載の内燃機関用点火装置において、前記点火制御手段は、主スイッチ手段、第1副スイッチ手段および第2副スイッチ手段のON・OFF制御を同期させて行う事により、主一次点火コイルおよび副一次点火コイルへ同時に通電する点火タイミング前重畳放電制御と、前記点火タイミング前重畳放電制御を行った点火タイミング以降に、第3副スイッチ手段および第4副スイッチ手段のON・OFF制御を行う事により、二次コイルに発生する放電エネルギを重畳的に増加させる点火タイミング後重畳放電制御と、を同じ燃焼サイクル内で行うようにしたことを特徴とする。
【0023】
また、請求項15に係る発明は、前記請求項11〜請求項14の何れか1項に記載の内燃機関用点火装置において、前記点火制御手段は、主点火信号を主スイッチ手段へ、副点火信号を第1副スイッチ手段へそれぞれ出力することで、主スイッチ手段と第1副スイッチ手段のON・OFF動作を同期させるようにしたことを特徴とする。
【0024】
また、請求項16に係る発明は、前記請求項2〜請求項7、請求項11〜請求項15の何れか1項に記載の内燃機関用点火装置において、前記第1給電手段には、前記主一次コイルへの給電に用いるバッテリを共用するようにしたことを特徴とする。
【0025】
また、請求項17に係る発明は、前記請求項2〜請求項7、請求項11〜請求項16の何れか1項に記載の内燃機関用点火装置において、前記点火制御手段は、前記副一次コイル磁束発生状態切替手段の第4スイッチ手段をPWM制御することで、第2給電手段から副一次コイルへの供給電力を調整できるようにしたことを特徴とする。
【0026】
また、請求項18に係る発明は、前記請求項1〜請求項6、請求項10〜請求項17の何れか1項に記載の内燃機関用点火装置において、少なくとも、前記副一次コイル磁束発生状態切替手段は、1つのケースに収納して、ユニット化するようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る内燃機関用点火装置によれば、副一次コイル磁束発生状態切替手段を備えることで、点火タイミング前重畳放電制御や点火タイミング後重畳放電制御を行うことができるので、運転条件に応じた必要十分な放電エネルギを副一次コイルから二次コイルへ重畳して、主一次コイルへの通電時間を長くすることなく安定した高電流期間を確保し、好適な燃焼を実現する。しかも、点火タイミング前重畳放電制御や点火タイミング後重畳放電制御を運転条件に応じて使い分けることで、高い燃費改善効果を期待できる。加えて、複数のコイルや昇圧回路を必要としないので、点火コイルの大型化および大幅なコスト増を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明に係る内燃機関用点火装置の第1実施形態を示す概略構成図である。
図2】第1実施形態に係る内燃機関用点火装置により主通常放電制御を行うときの燃焼サイクルにおける各部波形を模式的に示した波形図である。
図3】第1実施形態に係る内燃機関用点火装置により点火タイミング前重畳放電制御を行うときの燃焼サイクルにおける各部波形を模式的に示した波形図である。
図4】第1実施形態に係る内燃機関用点火装置により点火タイミング後重畳放電制御を行うときの燃焼サイクルにおける各部波形を模式的に示した波形図である。
図5】第1実施形態に係る内燃機関用点火装置により点火タイミング前重畳放電制御および点火タイミング後重畳放電制御を行うときの燃焼サイクルにおける各部波形を模式的に示した波形図である。
図6】本発明に係る内燃機関用点火装置の第2実施形態を示す概略構成図である。
図7】本発明に係る内燃機関用点火装置の第3実施形態を示す概略構成図である。
図8】第3実施形態に係る内燃機関用点火装置により副通常放電制御を行うときの燃焼サイクルにおける各部波形を模式的に示した波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、本発明に係る内燃機関用点火装置の実施形態を、添付図面に基づいて詳細に説明する。
【0030】
図1に示すのは、本発明の第1実施形態に係る内燃機関用点火装置1であり、内燃機関の気筒毎に設けられる1つの点火プラグ2に放電火花を発生させる点火コイルユニット10と、この点火コイルユニット10の動作タイミングを指示する点火信号Si等を適宜なタイミングで出力する点火制御手段31を備えた内燃機関駆動制御装置3、車両バッテリ等の直流電源4、副一次コイル磁束発生状態切替ユニット5等で構成される。
【0031】
なお、本実施形態に示す内燃機関用点火装置1においては、点火制御手段31が、自動車の内燃機関を統括的に制御する内燃機関駆動制御装置3に含まれるものとしたが、これに限定されるものではない。例えば、通常の内燃機関駆動制御装置3が有している点火信号生成機能によって生成された点火信号を受けて、適宜な制御信号を点火コイルユニット10および副一次コイル磁束発生状態切替ユニット5へ出力する点火制御手段を別途設けるようにしても構わない。
【0032】
上記点火コイルユニット10は、例えば、点火コイル11、主スイッチ素子12、主スイッチ素子12と並列に設けるバイパス線路13、このバイパス線路13に設ける整流手段14等を所要形状のケース15に収納して一体構造としたユニットである。このケース15の適所には、高圧端子151とコネクタ152を設けてあり、高圧端子151を介して点火プラグ2を接続すると共に、コネクタ152(例えば、第1接続端子152a〜第6接続端子152fを備えるコネクタ)を介して内燃機関駆動制御装置3、車両バッテリ等の直流電源4、副一次コイル磁束発生状態切替ユニット5、接地点GNDと接続する。
【0033】
上記点火コイル11は、主一次コイル111a(例えば、90ターン)と副一次コイル111b(例えば、60ターン)と二次コイル112(例えば、9000ターン)を備える。なお、点火コイル11は、主一次コイル111aと副一次コイル111bに生ずる磁束を二次コイル112に作用させるもので、例えば、センターコア1113を取り巻くように主一次コイル111aおよび副一次コイル111bを配置し、更にその外側に二次コイル112を配置する。
【0034】
主一次コイル111aの一方端は、例えば第2接続端子152bを介して直流電源4と接続され、電源電圧VB+(例えば、12V)が印加される。主一次コイル111aの他方端は、主スイッチ素子12および第5接続端子152eを介して接地点GNDに接続される。
【0035】
上記主スイッチ素子12は、主一次コイル111aへの通電・遮断を行うための主スイッチ手段であり、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)を用いて構成する。すなわち、点火コイルユニット10は、イグニッションコイルとイグナイタをケース15内に封止したユニット構造である。なお、主スイッチ素子12の制御端子であるゲートGは、例えば第4接続端子152dを介して内燃機関駆動制御装置3に接続され、点火制御手段31が生成する点火信号SiによってON・OFF制御される。
【0036】
上記のように、点火信号Siによって主スイッチ素子12がONになり、主一次コイル111aに通電されると、主一次電流I1aが流れることで順方向の磁束が増加し、主スイッチ素子12がOFFになって主一次電流I1aが遮断されると、順方向の磁束が急激に減ぜられ、この磁束変化を妨げる向きの磁界を生じさせるように、二次コイル112側に高電圧が発生し、点火プラグ2の放電ギャップ間に放電火花が生じ、二次電流I2が流れる。このように、主一次コイル111aに対する通電・遮断制御によって点火プラグ2を放電させる制御を、以下では、主通常放電制御という。
【0037】
上記二次コイル112は、一方端が高圧端子151を介して点火プラグ2に接続され、他方端は第6接続端子152fを介して接地点GNDに接続される。なお、第6接続端子152fと接地点GNDとの間には電流検出抵抗61を設けて、二次電流検出信号Di2が内燃機関駆動制御装置3へ供給されるようにする。
【0038】
内燃機関駆動制御装置3では、この二次電流I2を監視することで、エンジンの運転状況を知ることができ、エンジンの回転数等の他情報と併せて、当該気筒における放電エネルギの過不足を判断し、二次コイル112へ与える放電エネルギが足りない場合には放電エネルギを増やし、逆に二次コイル112へ与える放電エネルギが過剰である場合には放電エネルギを適宜減らすような制御を行えば、高い燃費改善効果を期待できる。かくするために、内燃機関駆動制御装置3の点火制御手段31は、適切なタイミングで副一次コイル111bから適切な磁束が生じるように、副一次コイル磁束発生状態切替ユニット5の動作制御を行うのである。
【0039】
ここで、副一次コイル磁束発生状態切替ユニット5によって、通電の向きや通電・遮断タイミングが制御される副一次コイル111bについて説明する。
【0040】
副一次コイル111bは、予め定めた第1方向(例えば、副一次コイル111bの一方端である第1端111b1から他方端である第2端111b2へ至る向き)への通電により順方向の磁束が生じ、逆の第2方向(例えば、第2端111b2から第1端111b1へ至る向き)への通電により順方向とは反対の逆方向の磁束(主通常放電制御により二次側に発生する磁界と同じ向きの磁束)が生じる。
【0041】
そして、副一次コイル111bの第1端111b1は、例えば第3接続端子152cを介して副一次コイル磁束発生状態切替ユニット5に接続され、副一次コイル111bの第2端111b2は、例えば第1接続端子152aを介して副一次コイル磁束発生状態切替ユニット5に接続される。したがって、副一次コイル磁束発生状態切替ユニット5が、副一次コイル111bの第1端111b1を給電側に、第2端111b2を接地側にすると、副一次コイル11bは第1方向に通電されることとなる。逆に、副一次コイル磁束発生状態切替ユニット5が、副一次コイル111bの第2端111b2を給電側に、第1端111b1を接地側にすると、副一次コイル11bは第2方向に通電されることとなる。
【0042】
なお、副一次コイル111bにおける第1方向および第2方向は、主一次コイル111aとの配置状態によって定まる。例えば、副一次コイル111bの巻回方向と主一次コイル111bの巻回方向が同じになるよう配置されているときは、主一次コイル111bへの通電方向と同じ方向を第1方向として通電すれば、副一次コイル111bに順方向の磁束が生じる。逆に、副一次コイル111bの巻回方向と主一次コイル111bの巻回方向が逆向きになるよう配置されているときは、主一次コイル111bへの通電と逆方向を第1方向として通電すれば、順方向の磁束が生じる。
【0043】
上記のように構成した副一次コイル111bに対し、前述した主一次コイル111aによる主通常放電制御と同じタイミングで、第1方向へ通電を行うと、主一次コイル11aと同じ順方向の磁束が生じ、その後、主通常放電制御と同じタイミングで副一次コイル111bへの通電遮断を行うと、主一次コイル111aと副一次コイル111bの順方向磁束が同時に急減するので、二次側に与える放電エネルギを高めることができる。すなわち、点火タイミングの前(主一次コイル111aへの通電遮断タイミングの前)に副一次コイル111bによって順方向磁束を発生させておき、主一次コイル111aと同時に副一次コイル111bへの通電遮断を行えば、副一次コイル111bによって放電エネルギを重畳して二次コイル112に与えることができる。
【0044】
また、点火タイミング以降(主一次コイル111aへの通電遮断タイミング以降)の適宜なタイミングで、副一次コイル111bに対し、第2方向への通電を行うと、逆方向の磁束(二次側に高電圧を発生させた磁界と同じ向きの磁束)が生じ、二次側の磁界が減衰して二次側起電力が低下してゆくことを抑制できるので、副一次コイル111bへの通電遮断を行うまで二次電流I2を高く維持できる。すなわち、点火タイミングの後に副一次コイル111bによって逆方向の磁束を発生させて二次コイル112に作用させれば、副一次コイル111bによって放電エネルギを重畳して二次コイル112に与えることができる。
【0045】
なお、副一次コイル111bに対する第2方向への通電を遮断するタイミングは、二次電流I2を気筒内での好適な燃焼に必要な高電流に維持するために必要十分な時間が経過したときであり、それ以上の長時間に亘って副一次コイル111bへの第2方向通電を続けると、却って燃費を悪くしてしまう。このような副一次コイル111bに対する望ましい通電・遮断のタイミングは、一定の値に定まるものではなく、内燃機関の構造や点火コイルの特性、運転状況等によって様々に変化するので、内燃機関用点火装置1に適した設定値あるいは設定情報(設定値を求める演算式や対照表など)を内燃機関駆動制御装置3の点火制御手段31に予め記憶させておけば良い。
【0046】
また、副一次コイル111bへの第2方向通電を遮断したとき、その逆起電力が主一次コイル111aに作用するため、通常の一次電流I1とは逆向きの電流を流そうとする逆方向の電圧が主スイッチ素子12のコレクタ−エミッタ間に印加されることとなり、主スイッチ素子12が故障したり、主スイッチ素子12の劣化を早めたりする危険性がある。そこで、主スイッチ素子12と並列にバイパス線路13を設けると共に、このバイパス線路13の接地点GND側から点火コイル11側に向かって順方向となる整流手段14(例えば、主スイッチ素子12のコレクタ側にカソードを、主スイッチ素子12のエミッタ側にアノードをそれぞれ接続したダイオード)を設けてある。
【0047】
次に、副一次コイル111bへ第1方向の通電を行える順方向磁束発生状態と、副一次コイル111bへ第2方向の通電を行える逆方向磁束発生状態と、を相互に切り替え可能な副一次コイル磁束発生状態切替手段である副一次コイル磁束発生状態切替ユニット5の一構成例について説明する。副一次コイル磁束発生状態切替ユニット5は、第1副スイッチ素子51、第2副スイッチ素子52、第3副スイッチ素子53、第4副スイッチ素子54を備える。
【0048】
第1副スイッチ素子51は、副一次コイル111bへ第1方向の通電を行えるように、副一次コイル111bの第1端111b1側を接地点GNDへ切り替える第1副スイッチ手段として機能する。例えば、第1副スイッチ素子51は、電力制御用の絶縁ゲートバイポーラトランジスタで構成し、第1副スイッチ素子51のコレクタCが副一次コイル111bの第2端111b2側に、第1副スイッチ素子51のエミッタEが接地点GND側に接続され、第1副スイッチ素子51のゲートGには点火信号Siが入力される。したがって、点火信号SiがON(例えば、信号レベルがH)になると、第1副スイッチ素子51がONになり、副一次コイル111bの第2端111b2が接地点GNDに接続されることとなる。
【0049】
第2副スイッチ素子52は、副一次コイル111bへ第1方向の通電を行えるように、副一次コイル111bの第2端111b2側へ第1給電手段(例えば、直流電源4)から電源供給可能にする第2副スイッチ手段として機能する。例えば、第2副スイッチ素子52は、高速スイッチング特性を備えるパワーMOS−FETを用いて構成し、第2副スイッチ素子52のドレインDが直流電源4側に、第2副スイッチ素子52のソースSが副一次コイル111bの第1端111b1側に接続され、第2副スイッチ素子52のゲートGには点火制御手段31からの第1方向通電指示信号S1dが入力される。したがって、第1方向通電指示信号S1dがON(例えば、信号レベルがH)になると、第2副スイッチ素子52がONになり、副一次コイル111bの第1端111b1に直流電源4から電源電圧VB+が印加されることとなる。
【0050】
第3副スイッチ素子53は、副一次コイル111bへ第2方向の通電を行えるように、副一次コイル111bの第2端111b2側を接地点GNDへ切り替える第3副スイッチ手段として機能する。例えば、第3副スイッチ素子53は、高速スイッチング特性を備えるパワーMOS−FETを用いて構成し、第3副スイッチ素子53のドレインDが副一次コイル111bの第1端111b1側に、第3副スイッチ素子53のソースSが接地点GND側に接続され、第3副スイッチ素子53のゲートGには点火制御手段31からの第2方向通電許可信号S2pが入力される。したがって、第2方向通電許可信号S2pがON(例えば、信号レベルがH)になると、第3副スイッチ素子53がONになり、副一次コイル111bの第1端111b1が接地点GNDに接続されることとなる。なお、第3副スイッチ素子53と接地点GNDとの間には、電流検出抵抗62を設け、第2方向の副一次電流検出信号Di1sが内燃機関駆動制御装置3へ入力される。
【0051】
第4副スイッチ素子54は、副一次コイル111bへ第2方向の通電を行えるように、副一次コイル111bの第1端111b1側へ第2給電手段(例えば、直流電源4)から電源供給可能にする第4副スイッチ手段として機能する。例えば、第4副スイッチ素子54は、高速スイッチング特性を備えるパワーMOS−FETを用いて構成し、第4副スイッチ素子54のドレインDが直流電源4側に、第4副スイッチ素子54のソースSが副一次コイル111bの第2端111b2側に接続され、第4副スイッチ素子54のゲートGには点火制御手段31からの第2方向通電指示信号S2dが入力される。したがって、第2方向通電指示信号S2dがON(例えば、信号レベルがH)になると、第4副スイッチ素子54がONになり、副一次コイル111bの第2端111b1に直流電源4から電源電圧VB+が印加されることとなる。なお、副一次コイル111bへ印加する電圧を高くするために、第1電源や第2電源にはVB+の直流電源4を用いずに、より高圧の直流電源を用いるようにしても良い。或いは、昇圧回路7(図1中、二点鎖線で示す)を設けて、副一次コイル111bへの印加電圧を高めるようにしても良い。
【0052】
ここで、上述した構造の副一次コイル磁束発生状態切替ユニット5に対する点火制御手段31の制御例を、図2図5に基づいて説明する。
【0053】
図2は、主通常放電制御を示すもので、1回の燃焼サイクル中に主一次コイル111aのみを使って放電エネルギを二次コイル112に与える基本的な制御である。
【0054】
まず、燃焼サイクル中の所定タイミングで点火信号SiがONになると、主スイッチ素子12がONとなって、主一次電流I1aが流れる。なお、点火信号SiがONになることで、副一次コイル磁束発生状態切替ユニット5の第1副スイッチ素子51もONになり、副一次コイル111bの第2端111b2側が接地点GNDに接続されるが、第1方向通電指示信号S1dはOFFのままであるため、副一次コイル111bに第1方向の通電が行われることはない。
【0055】
主一次コイル111aへの通電から時間経過に伴って、主一次電流I1aは飽和電流に達するまで増加してゆき、主一次コイル111aにエネルギが蓄積される。そして、点火タイミングで点火信号SiがOFFになると(信号レベルがHからLになると)、主一次コイル111aに蓄積されたエネルギに応じた起電力が二次側に生じて、二次電流I2が流れると共に点火プラグ2の電極間に絶縁破壊を起こして、気筒内に放電火花を生じさせる(容量放電)。その後も、二次コイル112に与えられた磁気エネルギの放出による放電(誘導放電)が0.5〜2.5ms程度続くが、二次コイル112に生じた起電力は次第に弱まり、二次電流I2も減衰してゆくため、必ずしも気筒内の好適な燃焼維持に十分な放電火花を得られない場合がある。
【0056】
上述した主通常放電制御においては、主一次コイル111aに印加されるのは、直流電源4の電源電圧VB+で一定のため、主一次コイル111aから二次コイル112に与えられる放電エネルギはほぼ一定である。よって、エンジンの回転数が低い場合など、安定した燃焼状態を維持するために、より長時間に亘って高い放電電流を点火プラグ2に流す必要がある場合、主一次コイル111aから二次コイル112に与える放電エネルギを高める必要があり、それには、点火信号SiのON時間を長くして、より高い放電エネルギを主一次コイル111aに蓄積する必要がある。しかしながら、点火信号SiのON時間を長くすると、主一次コイル111aへの通電制御を行う主スイッチ素子12の発熱が問題となって、主スイッチ素子12に誤動作が生じたり、スイッチ素子12の寿命を縮めてしまったりする危険性がある。しかして、本実施形態に係る内燃機関用点火装置1においては、副一次コイル111bを用いることで、点火信号SiのON時間を長くすることなく、点火タイミングで二次コイル112に与える放電エネルギを増大させ、高電流期間を長くすることが可能である。
【0057】
図3は、副一次コイル磁束発生状態切替ユニット5を順方向磁束発生状態に切り替えて、主一次コイル111aおよび副一次コイル111bへ同時に通電する点火タイミング前重畳放電制御を示すものであり、1回の燃焼サイクル中に、主一次コイル111aと副一次コイル111bの両方で蓄えたエネルギを一気に二次コイル112に与える制御である。
【0058】
まず、燃焼サイクル中の所定タイミングで、点火信号Siと第1方向通電指示信号S1dが同時にONになると共に、第2方向通電許可信号S2pおよび第2方向通電指示信号S2dがOFFを維持していると、主スイッチ素子12と副一次コイル磁束発生状態切替ユニット5の第1副スイッチ素子51および第2副スイッチ素子52が同時にONとなって、主一次電流I1aに加えて第1方向の副一次電流I1b1が流れる。このとき、副一次コイル111bに第1方向の電流I1b1が流れることで、副一次コイル111bには、主一次コイル111aに生じた磁束と同じ向きの順方向磁束が生じる。
【0059】
主一次コイル111aおよび副一次コイル111bへの通電から時間経過に伴って、主一次電流I1aおよび副一次電流I1bは飽和電流に達するまで増加してゆき、主一次コイル111aおよび副一次コイル111bにエネルギが蓄積されてゆく。そして、点火タイミングで点火信号Siおよび第1方向通電指示信号S1dが同時にOFFになると、主一次コイル111aと副一次コイル111bに蓄積されたエネルギに応じた起電力が二次側に生じて、二次電流I2が流れると共に点火プラグ2の電極間に絶縁破壊を起こし、気筒内に放電火花を生じさせる。
【0060】
ここで、主一次電流I1aおよび副一次電流I1bを同時に遮断することにより、二次コイル112に与えられる放電エネルギは、上述した主通常放電制御で主一次コイル111aのみから二次コイル112に与えられる放電エネルギよりも大きなもの(図3の二次電流波形に、網掛けで示す部分)となるため、その分だけ容量放電を引き起こす印加電圧が高くなり、大きな二次電流I2が流れる。したがって、点火制御手段31が点火タイミング前重畳放電制御を行えば、点火信号SiのON時間を長くすることなく、二次側に与える放電エネルギを増大させ、より長時間に亘って高い放電電流を点火プラグ2に流すことができる。
【0061】
なお、点火タイミング前重畳放電制御とは、一次側の電流遮断により二次側に放電エネルギを発生させる点火タイミングよりも前に、副一次コイル111bを用いて一次側に蓄積するエネルギを重畳しておき、一次側の電流遮断により二次側に生じた放電エネルギで点火プラグ2に放電火花を発生させる制御を意味する。
【0062】
この点火タイミング前重畳放電制御は、必ずしも二次側に与える放電エネルギを高めるためだけに適用できるものではない。たとえは、主一次コイル111aおよび主スイッチ素子12が熱によるダメージを受けそうな場合、副一次コイル111bを用いた点火タイミング前重畳放電制御を行う事で、主一次コイル111aおよび主スイッチ素子12の負担を減らす事ができる。
【0063】
具体的には、主通常放電制御にて必要とされる点火信号SiのON時間よりも適宜短いON時間となるように、点火制御手段3が時短点火信号Si′と時短第1方向通電指示信号S1d′を出力することで、主一次コイル111aと副一次コイル111bにそれぞれ主一次電流I1aと第1方向の副一次電流I1b1が流れる時間を短くし、主一次コイル111aと副一次コイル111bにそれぞれ蓄積されるエネルギを少なくする。かくすれば、主一次電流I1aと第1方向の副一次電流I1b1を遮断して二次側に与える放電エネルギを、ちょうど主通常放電制御により二次側に与える放電エネルギと同程度にすることができ、点火プラグ2の放電に支障が生じることはない。しかも、時短点火信号Si′で駆動させることにより、主スイッチ素子12と主一次コイル111aの発熱量を減らすことができる。無論、二次側へより多くの放電エネルギを与える必要が生じた場合でも、主一次コイル111aと副一次コイル111bの負担割合を適宜に調整することで、主スイッチ素子12と主一次コイル111aに過度な発熱が生ずることを抑制しつつ、必要十分な高電流期間を確保できるという利点がある。
【0064】
上述した点火タイミング前重畳放電制御においては、一次側の電流遮断によって二次側に生ずる起電力を高めることで、二次側に高電流が一気に流れて容量放電が生じるものの、その後の誘導放電で高い二次電流を維持できる期間は飛躍的に長くならないので、より長時間に亘って高い放電電流を点火プラグ2に流すための制御としては、必ずしも燃費効率が良いとは言えない。しかして、本実施形態に係る内燃機関用点火装置1においては、副一次コイル111bを用いることで、点火信号SiのON時間を長くすることなく、二次側の高電流期間を長くすることが可能である。
【0065】
図4は、主一次コイル111aへの通電・遮断による点火タイミング以降に、副一次コイル磁束発生状態切替ユニット5を逆方向磁束発生状態に切り替えて、副一次コイル111bへ通電開始する点火タイミング後重畳放電制御を示すもので、1回の燃焼サイクル中に、一次側への通電・遮断制御により二次側に放電エネルギを与える点火タイミング以降に、副一次コイル111bから誘導放電を維持するために必要十分なエネルギを二次側に与える制御である。
【0066】
まず、燃焼サイクル中の所定タイミングで点火信号SiがONになると、主スイッチ素子12がONとなって、主一次電流I1aが流れる。なお、点火信号SiがONになることで、副一次コイル磁束発生状態切替ユニット5の第1副スイッチ素子51もONになり、副一次コイル111bの第2端111b2側が接地点GNDに接続されるが、第1方向通電指示信号S1dはOFFのままであるため、副一次コイル111bに第1方向の通電が行われることはない。
【0067】
主一次コイル111aへの通電から時間経過に伴って、主一次電流I1aは飽和電流に達するまで増加してゆき、主一次コイル111aにエネルギが蓄積される。そして、点火タイミングで点火信号SiがOFFになると(信号レベルがHからLになると)、主一次コイル111aに蓄積されたエネルギに応じた起電力が二次側に生じて、二次電流I2が流れると共に点火プラグ2の電極間に絶縁破壊が起き、気筒内に放電火花が生じる(容量放電)。
【0068】
上記のようにして点火プラグ2に容量放電が生じ、放電電流が流れ始めた後、例えば、容量放電から誘導放電へ移行するタイミングで、点火制御手段31が第2方向通電許可信号S2pをON(例えば、信号レベルをLからH)にすると共に、第2方向通電指示信号S2dをONにする。なお、図4に示す例では、第2方向通電指示信号S2dのデューティー比を変えるPWM制御を行うことで、副一次コイル111bへの供給電力を調整するものとした。
【0069】
そして、副一次コイル111bを流れる第2方向の副一次電流I1b2は、飽和電流に達するまで徐々に増加してゆき、逆方向の磁束(点火タイミング後に二次コイル112に生じた磁界と同じ向きの磁束)も増加してゆく(図4の副一次コイル電流波形中、網掛けで示す)。したがって、二次コイル112の電磁エネルギ放出による二次電流I2の低下を補うように、副一次コイル111bに生じた逆方向の磁束が二次コイル112に作用することとなり、二次電流I2が高電流のまま保持され(図4の二次電流波形中、網掛けで示す)、気筒内燃焼に好適な高電流期間を効率良く長期化できる。
【0070】
その後、好適な気筒内燃焼に必要十分な高電流の維持期間(高電流期間)が経過すると、そのタイミングで点火制御手段31が第2方向通電許可信号S2pおよび第2方向通電指示信号S2dをOFFにする。これにより、副一次コイル111bによる逆方向の磁束が二次コイル112に作用しなくなるので、以降は二次コイル112の電磁エネルギ放出のみによる低い二次電流I2が流れることとなり、やがて二次電流I2が帰零する。
【0071】
上述したように、点火制御手段31が点火タイミング後重畳放電制御を行えば、点火信号SiのON時間を長くすることなく、二次コイル112に与える放電エネルギを増大させ、点火プラグ2の電極間を流れる放電電流を高電流に維持できる期間を長期化できる。しかも、副一次コイル111bから二次コイル112に作用させる逆方向の磁束は、気筒内燃焼を好適に維持するために必要十分な高電流を発生・維持できる程度で良いことから、副一次コイル111bへの通電に要するエネルギは低く抑えることができ、燃費効率の向上に有効である。加えて、本実施形態の内燃機関用点火装置1においては、点火制御手段31が副一次コイル磁束発生状態切替ユニット5の第4スイッチ素子54をPWM制御可能であるから、点火タイミング後重畳放電制御において副一次コイル111bに流す第2方向の副一次電流I1b2を適宜に増減させることで、過不足の無い適切な放電エネルギを二次側に与えることができ、更なる燃費効率向上を期待できる。
【0072】
なお、点火タイミング後重畳放電制御とは、一次側の電流遮断により二次側に放電エネルギを発生させる点火タイミング以降に、副一次コイル111bを用いて二次側に与えるエネルギを重畳してゆき、点火プラグ2に生じた放電を必要十分な期間に亘って維持させる制御を意味する。
【0073】
また、副一次コイル111bへ第2方向の副一次電流I1b2を流し始めるタイミングは、点火タイミング以降であれば良く、特に限定されない。例えば、主一次コイル111aへの電流遮断と同時に行っても良いし、一次側の電流遮断から予め定めた所定時間経過後に副一次電流I1b2を流すようにしても良いし、二次側に流れる二次電流I2が所定の判定値(例えば、点火プラグ2を流れる放電電流が気筒内燃焼に好適な放電火花形成を維持できる高電流値を下回る高いと考えられる二次電流の値)に達した時点で副一次電流I1b2を流すようにしても良い。
【0074】
上述した点火タイミング前重畳放電制御と点火タイミング後重畳放電制御は、同じ副一次コイル111bを使って放電エネルギを二次側に重畳するものであるが、その制御は、点火タイミング前と点火タイミング後に分かれているので、1回の燃焼サイクル中に両方の制御を行う事が可能である。
【0075】
図5は、点火タイミング前重畳放電制御を行った後に点火タイミング後重畳放電制御を行う場合を示すもので、1回の燃焼サイクル中に、主一次コイル111aと副一次コイル111bの両方で蓄えたエネルギを一気に二次コイル112に与えた後、更に、副一次コイル111bから誘導放電を維持するために必要十分なエネルギを二次側に与える制御である。
【0076】
すなわち、主一次電流I1aおよび副一次電流I1bを同時に遮断することで、二次側に与えられる放電エネルギは、副一次コイル111bが加わった分(図5の副一次コイル波形中、薄い網掛けで示す)だけ大きくなり、その分だけ二次側で容量放電を引き起こす印加電圧が高くなり(図5の二次電流波形中、薄い網掛けで示す)、更に、副一次コイル111bに第2方向の副一次電流I1b2流した分(図5の副一次コイル波形中、濃い網掛けで示す)だけ二次コイル112に作用することとなり、二次電流I2が高電流のまま保持される(図5の二次電流波形中、濃い網掛けで示す)。
【0077】
このように、点火タイミング前重畳放電制御と点火タイミング後重畳放電制御を1回の燃焼サイクル中に行えば、それぞれの制御を単独で行った場合よりも大きな放電エネルギを二次側に与えることができ、過酷な運転状況でも良好で安定した気筒内燃焼を実現することができる。
【0078】
上述した第1実施形態に係る内燃機関用点火装置1によれば、内燃機関の運転状況に応じて、最適となるように、主通常放電制御、点火タイミング前重畳放電制御、点火タイミング後重畳放電制御、点火タイミング前重畳放電制御+点火タイミング後重畳放電制御を適宜に使い分けることが可能なので、点火のための消費電力を適切化して、高い燃費改善効果を期待できる。
【0079】
加えて、内燃機関用点火装置1で用いる点火コイル11は、主一次コイル111aと副一次コイル111bを備えるが、既存の点火コイルと同程度の体格に構成できる。したがって、二次側へ与える放電エネルギを高めるために複数のコイルや昇圧回路を必要とせず、既存の点火コイルと同程度の体格の点火コイル11で良いことから、点火コイルの大型化および大幅なコスト増を抑制できる。
【0080】
なお、第1実施形態に係る内燃機関用点火装置1は、副一次コイル111bの通電方向および通電・遮断を制御するための機能、すなわち第1〜第4副スイッチ素子51〜54を副一次コイル磁束発生状態切替ユニット5としてユニット化したが、これに限定されるものではない。例えば、副一次コイル磁束発生状態切替ユニット5の第1副スイッチ素子51は、点火信号Siによって、主スイッチ素子12と同期してON・OFFするものであるから、点火信号Siの信号経路を簡単にするため、主スイッチ素子12と第1副スイッチ素子51を近接配置することが考えられる。
【0081】
そこで、図6に示す第2実施形態に係る内燃機関用点火装置1′では、点火コイルユニット10′のケース15内に、第1副スイッチ素子51を収納した。主スイッチ素子12の制御端子であるゲートGと第1副スイッチ素子51の制御端子であるゲートGを第4接続端子152dに接続し、この第4接続端子152dを介して内燃機関駆動制御装置3からの点火信号が入力されるようにする。かくすれば、点火信号Siの信号経路を簡略化できる。なお、主スイッチ素子12と第1副スイッチ素子51は、耐熱性および耐ノイズ性の高いディスクリート部品を用いることで、点火コイル11と一体に封止しても、安定動作を期せる。また、副一次コイル磁束発生状態切替ユニット5′は、第2副スイッチ素子52、第3副スイッチ素子53および第4副スイッチ素子54を1つのケースに収納してユニット化する。
【0082】
この第2実施形態に係る内燃機関用点火装置1′においても、点火制御装置31が、点火信号Si、第1方向通電指示信号S1d、第2方向通電許可信号S2p、第2方向通電指示信号S2dを適宜なタイミングで点火コイルユニット10あるいは副一次コイル磁束発生状態切替ユニット5′へ出力することで、第1実施形態の内燃機関用点火装置1と同様の主通常放電制御、点火タイミング前重畳放電制御、点火タイミング後重畳放電制御、点火タイミング前重畳放電制御+点火タイミング後重畳放電制御を行う事ができる。
【0083】
上述した第1,第2実施形態に係る内燃機関用点火装置1,1′では、主スイッチ素子12と第1副スイッチ素子51を共に点火信号Siによって制御するものであったが、主スイッチ素子12と第1副スイッチ素子51をそれぞれ別の信号にてON・OFF制御するようにしても良い。
【0084】
図7に示す第3実施形態の内燃機関用点火装置1″は、内燃機関駆動制御装置3″の点火制御手段31″によって主点火信号Siaと副点火信号Sibを生成し、主点火信号Siaによって主スイッチ素子12をON・OFF制御し、副点火信号Sibによって副一次コイル磁束発生状態切替ユニット5の第1副スイッチ素子51をON・OFF制御する。かくすれば、主一次コイル111aに主一次電流I1aを流すことなく、副一次コイル111bに第1方向の副一次電流I1b1を流すことが可能となる。
【0085】
上記のように構成した第3実施形態の内燃機関用点火装置1″によって行う副通常放電制御を図8に示す。副通常放電制御は、1回の燃焼サイクル中に副一次コイル111bのみを使って放電エネルギを二次側に与える制御であり、例えば、主通常放電制御を行うための主一次コイル111aや主スイッチ素子12が発熱によるダメージを受けているときに有効である。
【0086】
まず、燃焼サイクル中の所定タイミングで副点火信号Sibおよび第1方向通電指示信号S1pがONになると、第1副スイッチ素子51を第2副スイッチ素子52が同時にONとなって、第1方向の副一次電流I1b1が流れる。なお、副点火信号Sibは、この信号単独で副一次電流I1bを流す制御を行えるのではなく、副一次コイル111bの第2端111b2を接地点GND側に接続して第1端111b1からの給電を可能にするものであるから、第1方向通電許可信号S1pに相当する。
【0087】
副一次コイル111bへの通電から時間経過に伴って、第1方向の副一次電流I1b1は飽和電流に達するまで増加してゆき、副一次コイル111bにエネルギが蓄積される。そして、点火タイミングで点火信号SiがOFFになると(信号レベルがHからLになると)、副一次コイル111bに蓄積されたエネルギに応じた起電力が二次側に生じ、二次電流I2が流れると共に点火プラグ2の電極間に絶縁破壊を起こして、気筒内に放電火花を生じさせる。
【0088】
以上のように、副通常放電制御を行えば、主一次コイル111aを使わず、副一次コイル111bのみで二次側に通常の普電エネルギを与え、点火プラグ2に通常の放電を生じさせる事が可能となる。そして、第3実施形態に係る内燃機関用点火装置1″においては、二次側に与えるエネルギを蓄積するためのコイルとして、主一次コイル111aと副一次コイル111bを選択的に使用できるので、主一次コイル111aのみに過度な負担をかけずにすみ、点火コイル11の不慮の故障を効果的に回避できる。また、何らかの要因により、点火コイルユニット10内の主一次コイル111a、主スイッチ素子12または副一次コイル111bの何れかが故障して、主通常放電制御もしくは副通常放電制御が不能になった場合でも、正常に機能する方の一次コイルによって、主通常放電制御もしくは副通常放電制御を行えるので、点火コイル2の放電を確保することができ、当該気筒が点火不能となる最悪の事態を回避できるというメリットもある。
【0089】
さらに、第3実施形態に係る内燃機関用点火装置1″においては、主点火信号Siaと副点火信号Sibを独自に制御できるので、副点火信号Sibによる副一次コイル111bへの通電開始タイミングを主点火信号Siaによる主一次コイル111aへの通電開始タイミングよりも遅らせるように点火制御手段31が制御することによって、副一次コイル111bに蓄積されるエネルギを調整できる。たとえば、主点火信号SiaのON時間では主一次コイル111aに蓄積されるエネルギが若干足りないような場合、主点火信号SiaのON時間を長くせずに、エネルギの不足分を副一次コイル111bで補える程度にON時間を設定した副点火信号Sib(および第1方向通電指示信号S1d)を出力することで、必要十分なエネルギが主一次コイル111aと副一次コイル111bに蓄積され、安定した点火制御を実現できる。しかも、主点火信号SiaのON時間を長くする必要が無いので、主一次コイル111aおよび主スイッチ素子12の発熱を低減できる点でも有用である。
【0090】
なお、内燃機関用点火装置1″のように、主一次コイル111aと副一次コイル111bに電源供給するための直流電源として直流電源4を用いる場合には、主一次コイル111aと副一次コイル111bの巻回数を同じにしておくことで、主通常放電制御により二次側に与える放電エネルギと副通常放電制御により二次側に与える放電エネルギをほぼ等しくすることができる。しかしながら、主一次コイル111aの巻回数よりも副一次コイル111bの巻回数を少なくした場合には、副一次コイル111bへ電源供給する第1給電手段として、直流電源4よりも高電圧の電源を用いたり、昇圧回路を使って副一次コイル111bへの印加電圧を上げるようにしたりして、副通常放電制御によっても、主通常放電制御と同等の放電エネルギを二次側に与えられるように調整しておくことが望ましい。
【0091】
上述した第1〜第3実施形態に係る内燃機関用点火装置1,1′,1″は、何れも一つの気筒のみ示したが、複数の気筒で構成される内燃機関の場合、気筒毎に副一次コイル磁束発生状態切替ユニット5を設けても良いし、各気筒に対応した第1〜第4副スイッチ素子51〜54全てを単一ケースに収納した統括ユニットとし、この統括ユニットと各気筒の点火コイルユニット10とを接続するようにしても良い。
【0092】
以上、本発明に係る内燃機関用点火装置のいくつかの実施形態を添付図面に基づいて説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の構成を変更しない範囲で、公知既存の等価な技術手段を転用することにより実施しても構わない。
【符号の説明】
【0093】
1 内燃機関用点火装置
10 点火コイルユニット
11 点火コイル
111a 主一次コイル
111b 副一次コイル
112 二次コイル
113 センターコア
12 主スイッチ素子
15 ケース
2 点火プラグ
3 内燃機関駆動制御装置
31 点火制御手段
4 直流電源
5 副一次コイル磁束発生状態切替ユニット
51 第1副スイッチ素子
52 第2副スイッチ素子
53 第3副スイッチ素子
54 第4副スイッチ素子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8