(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第一の有機系接着剤からなる下地調整層を形成する工程、前記下地調整層の表面にモルタル含有材を接着する工程、及び、前記モルタル含有材の上に仕上げ材を接着する工程を8時間以内の作業として行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の仕上げ材接着方法。
【背景技術】
【0002】
建物の壁の美観及び耐久性を向上することから外装タイル張りが盛んに行われている。建物の壁や床を構成するコンクリートとタイルとを接着する接着剤として、従来から張付けモルタルが使用されている(
図5参照)。また、近年においては、コンクリート下地11に対するタイル14の接着強度を高めるために、従来の張付けモルタル12に替えて有機系接着剤15を使用する工法が普及しつつある(
図6参照)。
【0003】
通常、コンクリート下地11の表面に凹凸Zがある場合には不陸調整が必要となる。
図6に示すように、不陸調整材として機能し得る有機系材料13も開発されているが(例えば特許文献1参照)、材料単価が高いうえに、凹凸Zを埋めるために塗布量が増加し易く、工法全体のコストが高くなる問題がある。
【0004】
この問題を回避するために、不陸調整材として張付けモルタル12が使用される場合がある(
図7参照)。この場合、コンクリート下地11と不陸調整材である張付けモルタル12との界面剥離が起きると、強力な有機系接着剤15を使用して接着したタイル14が、張付けモルタル12と共に剥離してしまう懸念がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、有機系材料の使用量を低減しながらも優れた接着強度を得ることが可能な、コンクリート表面に対する仕上げ材接着方法及び仕上げ材接着構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]コンクリート表面に第一の有機系接着剤からなる下地調整層を形成する工程と、前記下地調整層の表面にモルタル含有材を接着する工程と、前記モルタル含有材の上に仕上げ材を接着する工程と、を有することを特徴とする仕上げ材接着方法。
[2]前記モルタル含有材の未硬化組成物を前記下地調整層の表面に塗工して、未硬化モルタル含有材を形成し、前記未硬化モルタル含有材が硬化する前に、前記仕上げ材を前記未硬化モルタル含有材の表面に設置し、その後、前記未硬化モルタル含有材を硬化させて前記モルタル含有材を形成することによって、前記モルタル含有材を前記下地調整層に接着するとともに、前記仕上げ材を前記モルタル含有材の表面に接着することを特徴とする前記[1]に記載の仕上げ材接着方法。
[3]前記モルタル含有材の未硬化組成物を前記下地調整層の表面に塗工して、未硬化モルタル含有材を形成し、前記未硬化モルタル含有材の表面を平坦化した後、前記未硬化モルタル含有材を硬化させて、平坦化された表面を有する前記モルタル含有材を形成し、前記モルタル含有材の前記平坦化された表面に、第二の有機系接着剤を介して、前記仕上げ材を接着することを特徴とする前記[1]に記載の仕上げ材接着方法。
[4]前記下地調整層及び前記モルタル含有材のうち少なくとも一方によって、前記コンクリート表面の凹凸を埋めて平坦化することを特徴とする前記[1]〜[3]の何れか一項に記載の仕上げ材接着方法。
[5]前記第一の有機系接着剤が、変成シリコーン系接着剤又はエポキシ系接着剤であることを特徴とする前記[1]〜[4]の何れか一項に記載の仕上げ材接着方法。
[6]前記モルタル含有材を前記下地調整層に接着する前に、前記下地調整層を構成する前記第一の有機系接着剤の乾燥時間を3時間以上挟むことを特徴とする前記[1]〜[5]の何れか一項に記載の仕上げ材接着方法。
[7]前記第一の有機系接着剤からなる下地調整層を形成する工程、前記下地調整層の表面にモルタル含有材を接着する工程、及び、前記モルタル含有材の上に仕上げ材を接着する工程を8時間以内の作業として行うことを特徴とする前記[1]〜[6]の何れか一項に記載の仕上げ材接着方法。
[8]コンクリート表面に形成された第一の有機系接着剤からなる下地調整層と、前記下地調整層の表面に接着されたモルタル含有材と、前記モルタル含有材の上に接着された仕上げ材と、を有することを特徴とする仕上げ材接着構造。
[9]前記モルタル含有材の表面に前記仕上げ材が直に接着されていることを特徴とする前記[8]に記載の仕上げ材接着構造。
[10]前記モルタル含有材の表面に形成された第二の有機系接着剤からなる接着層を介して、前記仕上げ材が前記モルタル含有材の上に接着されていることを特徴とする前記[8]に記載の仕上げ材接着構造。
[11]前記コンクリート表面の凹凸が前記下地調整層及び前記モルタル含有材のうち少なくとも一方によって平坦化されていることを特徴とする前記[8]〜[10]の何れか一項に記載の仕上げ材接着構造。
[12]前記下地調整層が、シリコーン系接着剤又はエポキシ系接着剤を含有していることを特徴とする前記[8]〜[11]の何れか一項に記載の仕上げ材接着構造。
[13]前記仕上げ材の接着面に凹凸が形成されていることを特徴とする前記[8]〜[12]の何れか一項に記載の仕上げ材接着構造。
【発明の効果】
【0008】
本発明の仕上げ材接着方法によれば、有機系材料の下地調整層だけで不陸調整する必要が無く、コンクリート表面と仕上げ材の間で不陸調整に必要な厚みを主にモルタル含有材によって賄うことができるため、有機系材料の使用量を低減し、コスト増加を抑えることができる。また、コンクリート表面とモルタル含有材とを、第一の有機系接着剤を介して十分に接着することができるため、コンクリート表面にモルタル含有材が直に接着した場合と比べて、モルタル含有材及び仕上げ材がコンクリート表面から剥離する懸念が少ない。
【0009】
本発明の仕上げ材接着構造によれば、コンクリート表面とモルタル含有材とが直に接着していないため、コンクリート表面とモルタル含有材との剥離が起きる懸念が無い。また、コンクリート表面と仕上げ材の間に、第一の有機系接着剤からなる下地調整層が介在しているため、第一の有機系接着剤が有する強力な接着力によってモルタル含有材及び仕上げ材がコンクリート表面に十分に接着されている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
《仕上げ材接着方法:第一態様》
本発明の第一実施形態の仕上げ材接着方法は、コンクリート表面に第一の有機系接着剤からなる下地調整層を形成する工程と、下地調整層の表面にモルタル含有材を接着する工程と、モルタル含有材の上に仕上げ材を接着する工程と、を有する。その他の任意の処理を施す工程を有していてもよい。
図1に、第一実施形態の仕上げ材接着方法によって作製した仕上げ材接着構造の断面図を示す。
【0012】
以下、仕上げ材としてタイルを使用した場合を説明する。しかし、本実施形態の仕上げ材はタイルに限定されず、タイルと同様にコンクリート表面に接着され、コンクリート表面を仕上げる公知の部材、例えば、石、ガラス、鏡等が仕上げ材として適宜使用される。
【0013】
まず、常法により打設して養生したコンクリート下地1の表面1aに、第一の有機系接着剤を塗布する。コンクリート下地の養生期間は特に限定されず、例えば数日〜数十日の期間で充分に養生することが好ましい。コンクリート下地の表面1aはなるべく平滑であることが好ましい。平滑にする方法は特に限定されず、例えば、壁や床を構成するコンクリート表面を平滑にする公知の表面仕上げ処理が挙げられる。
【0014】
コンクリート下地1を構成するコンクリートの種類は特に限定されず、例えば、公知のセメント、骨材、水、混和剤を混合して得られる従来の種々のコンクリートに本実施形態の仕上げ材接着方法を適用することができる。
【0015】
第一の有機系接着剤の種類は、コンクリート下地1の上に当該接着剤からなる下地調整層2を形成し、且つ、下地調整層2の上に設置されるモルタル含有材3を接着可能な有機材料を主剤とするものであれば特に限定されず、公知の有機系接着剤を使用することができる。例えば、変成シリコーン樹脂を主成分又は副成分として含む変成シリコーン系接着剤、エポキシ樹脂を主成分として含むエポキシ樹脂系接着剤等が好適である。特に、変成シリコーン系接着剤は、オープンタイム(塗り置き時間)を長くした場合にも接着力が低下し難く、現場における施工スケジュールを柔軟に組むことができるためより好ましい。
【0016】
第一の有機系接着剤の塗布量は特に限定されず、接着剤の種類、粘度等を考慮して、例えば5mm以内の厚みで塗布することが好ましい。5mmを超える厚みで塗布した場合、硬化に支障をきたす場合がある。なお、厚みの下限値は特に限定されず、接着剤の種類により適宜設定可能であり、一例としては1mm程度の厚みであれば目的を果たすことができる。塗布した接着剤に含まれる有機溶媒が乾燥して形成される下地調整層2の厚みも特に限定されず、コンクリート表面1aに対する充分な接着力が得られ、コンクリート表面1aが露出しないように、例えば5mm以内程度の範囲で適宜調整すればよい。
【0017】
第一の有機系接着剤からなる下地調整層2によってコンクリート表面1aの凹凸を均して不陸調整を完了してもよいが、形成した下地調整層2の表面2aにコンクリート表面1aの凹凸が反映した凹凸が依然として残っていても構わない。後段で形成するモルタル含有材3によって不陸調整を行うことができるからである。
【0018】
第一の有機系接着剤を塗布する領域は、コンクリート表面1aにおいて、後段でモルタル含有材3を接着する領域の全面であることが好ましいが、全面のうちの一部であってもよい。コンクリート表面1aの全面に第一の有機系接着剤を塗布することにより、接着強度をより高めることができる。また、例えば、コンクリート表面1aの全面に対して格子状に第一の有機系接着剤を塗布することにより、接着強度をなるべく維持することを考慮しつつ、第一の有機系接着剤の使用量を低減してもよい。
【0019】
第一の有機系接着剤をコンクリート表面1aに塗布する方法は特に限定されず、例えば、刷毛塗り、コテ塗り、ローラー塗り、スプレーガンによる吹き付け等の従来方法を適用することができる。
【0020】
コンクリート表面1aに第一の有機系接着剤を塗布し、乾燥することによって下地調整層2が形成される。接着剤の塗布後、下地調整層の表面2aにモルタル含有材3を接着するまでの接着剤の乾燥時間、すなわちオープンタイム(塗り置き時間)は、使用する接着剤の種類、塗布した厚み、温度、湿度等によって適宜決定される。
【0021】
コンクリート表面1aと下地調整層2の接着強度、及び下地調整層2とモルタル含有材3の接着強度を高める観点から、下地調整層2が完全硬化する時間(養生を完了するために要する時間)よりもオープンタイムを短く設定することが好ましい。すなわち、下地調整層2が半硬化した状態から完全硬化する以前の状態において、下地調整層の表面2aにモルタル含有材3を接着することが好ましい。
【0022】
エポキシ樹脂系接着剤などの、硬化剤を添加する2液混合反応形である等の理由で硬化速度が比較的速く、下地調整層の養生が短時間で終了する接着剤を使用する場合、例えば、オープンタイムを1分〜3時間程度、1分〜30分程度、又は1分〜10分程度に設定することができる。
【0023】
シリコーン系接着剤などの、吸湿性がある等の理由で硬化速度が比較的遅く、下地調整層の養生が比較的長く継続する接着剤を使用する場合、例えば、オープンタイムを15分〜24時間程度、30分〜12時間程度、又は1時間〜6時間程度に設定することができる。
【0024】
下地調整層2を形成するコンクリート表面1aの面積が広い場合には、第一の有機系接着剤の塗布作業が完了する前に、先に塗布した領域の適切なオープンタイムが経過してしまう可能性がある。この可能性を考慮して、オープンタイムを例えば3時間以上に設定すると、現場における施工スケジュールを柔軟に調整し、1回の塗布作業で下地調整層を形成する領域を広く設定することができるため、好ましい。
【0025】
オープンタイムの経過後に下地調整層の表面2aにモルタル含有材3を接着する。
ここで、「モルタル含有材」とは、接着時又は塗工時においてモルタルを少なくとも10質量%以上の割合で含有する部材又は材料である。モルタルは、セメント、水及び細骨材等の公知材料からなる。
【0026】
下地調整層の表面2aにモルタル含有材3を接着する方法としては、モルタル含有材3の材料を下地調整層の表面2aに塗工する方法が好ましい。
前記材料としては、例えばモルタル含有材の未硬化組成物が挙げられる。この未硬化組成物としては、例えばモルタルを含むペースト状材料が挙げられる。前記未硬化組成物を下地調整層の表面2aに適当な厚みで塗工することによって、表面2aに未硬化モルタル含有材を形成する。この際、未硬化モルタル含有材によって、コンクリート表面1aの凹凸Zが反映された下地調整層の表面2aの凹凸を埋めて、不陸調整することが好ましい(
図2参照)。
【0027】
モルタル含有材の未硬化組成物の種類は特に限定されず、従来の建築材料として使用されるモルタル含有材料が適用可能であり、例えば、いわゆる「張付けモルタル」と呼ばれる接着性に優れたモルタル含有ペースト材料が好ましい。
【0028】
モルタル含有材3の材料を下地調整層の表面2aに塗工する方法は特に限定されず、例えば、コテで塗り付ける常法を採用すると、その塗工と同時に前記不陸調整を行い、モルタル含有材3の表面3aを容易に平坦化することができる。
【0029】
モルタル含有材3の前記材料にはシリコーン樹脂、ゴム等の高分子材料が含有されていてもよい。副成分として高分子材料を添加したモルタル含有ペースト材料は、塗工性に優れるため不陸調整が容易であり、接着強度、耐久性等が向上し得るため好ましい。
【0030】
下地調整層の表面2aにモルタル含有材3の未硬化組成物を塗工し、この塗工物(未硬化モルタル含有材)を硬化させることによって、下地調整層2に十分に接着したモルタル含有材3が得られる。また、モルタル含有材3の未硬化組成物自体が接着性を有するため、下地調整層2が完全硬化した後に前記未硬化組成物を塗工した場合においても、モルタル含有材3は下地調整層2に接着し得る。しかし、より十分な接着強度を得る観点からすると、下地調整層2が完全硬化する前に前記未硬化組成物を塗工することによって、下地調整層2の完全硬化の過程と未硬化モルタル含有材の硬化過程とを同時進行させて、下地調整層2とモルタル含有材3の界面における接着強度をより一層向上させることが好ましい。
【0031】
下地調整層2の上に塗工した未硬化モルタル含有材の表面は接着性を有するため、タイル4を未硬化モルタル含有材の表面に押圧して設置し、その後、未硬化モルタル含有材を硬化させて硬化状態のモルタル含有材3を形成することによって、モルタル含有材3を下地調整層2に接着するとともに、設置したタイル4をモルタル含有材3の表面3aに接着することができる。この方法であると、タイル4の接着に要する工程の工期を大幅に短縮することができる。
【0032】
未硬化モルタル含有材の表面に設置するタイルの接着面4a(裏足)に任意形状の凹凸、例えば格子状の溝及び突起を予め設けておくと、その凹凸の少なくとも一部を未硬化モルタル含有材の内部に食い込ませて、タイル4とモルタル含有材3の接着強度を一層高めることができる。
【0033】
また、モルタル含有材の上にタイルを接着する方法として、
図2に示す様に、モルタル含有材3の表面に、第二の有機系接着剤からなる接着層5を介してタイル4を接着する方法が挙げられる。第二の有機系接着剤を塗布する前に、モルタル含有材3の形成時に予めその表面3aを平坦化しておくことが好ましい。平坦な表面3aであると、タイル4を接着する際に使用する第二の有機系接着剤の量を減らして、材料コストを低減することができる。
【0034】
モルタル含有材の表面3aを平坦化する方法は特に限定されず、未硬化モルタル含有材の塗工後にその表面3aをコテやヘラ等で均して平坦化することにより、硬化後のモルタル含有材3の表面3aを平坦化することができる。また、硬化後のモルタル含有材3の表面をグラインダー等で研磨して物理的に平坦化してもよい。
【0035】
第二の有機系接着剤を塗布するモルタル含有材3は硬化状態であってもよいし、未硬化状態であってもよい。何れの硬化状態であっても、第二の有機系接着剤が乾燥してタイルの接着が完了する時点においては、モルタル含有材は硬化状態であることが好ましい。この方法においても、タイルの接着面4aに任意形状の凹凸を予め設けておくことにより、タイル4とモルタル含有材3の接着強度を一層高めることができる。
【0036】
第二の有機系接着剤の種類は特に限定されず、モルタル含有材とタイルを十分に接着できるものであればよく、従来のタイル用の接着剤が適用可能である。第二の有機系接着剤をモルタル含有材の表面に塗布する方法は特に限定されず、例えば、刷毛塗り、コテ塗り、ローラー塗り、スプレーガンによる吹き付け等の従来方法を適用することができる。第二の有機系接着剤を塗布する厚みは特に限定されず、タイルの接着面の形状及びモルタル含有材の表面状態に応じて適宜設定すればよく、例えば1mm〜10mm程度の厚みが挙げられる。モルタル含有材とタイルを介在する第二の有機系接着剤からなる接着層5を充分に乾燥することにより、充分な接着強度が得られる。乾燥時間は特に限定されず、使用する接着剤の種類、塗布した厚み、温度、湿度等によって適宜決定される。
【0037】
以上で説明した下地調整層2を形成する工程、下地調整層2の表面にモルタル含有材3を接着する工程、及び、モルタル含有材3の上に仕上げ材4を接着する工程を8時間以内の作業(一日分の作業工程)として行うことができる。
上記3つの工程を8時間で完了することにより、工期の大幅短縮が図れる。このように短時間で3つの工程を完了できる理由は、本実施態様においては乾燥速度がモルタル含有材3よりも一般に速い有機系接着剤からなる下地調整層2を形成しているからである。
図5の従来例のようにモルタル含有材3が厚くならず、モルタル含有材3の乾燥及び硬化熟成が律速にならないので、迅速に上記3つの工程を完了することができる。
【0038】
《仕上げ材接着構造:第二態様》
本発明の第二実施形態の仕上げ材接着構造は、前述した第一態様の接着方法によって得られる。一例として、
図1及び
図2に示すタイル接着構造10,20が挙げられる。これらのタイル接着構造は、コンクリート表面1aに形成された第一の有機系接着剤からなる下地調整層2と、下地調整層の表面2aに接着されたモルタル含有材3と、モルタル含有材3の上に接着されたタイル4と、を有する。
【0039】
タイル接着構造10,20において、コンクリート表面1aとモルタル含有材3が下地調整層2を介して十分に接着されているため、コンクリート表面1aとモルタル含有材3が直に接着されている場合に比べて、モルタル含有材3及びタイル4がコンクリート表面1aから剥離する恐れが低減されている。さらに、モルタル含有材3によって、タイル4と下地調整層2の間の空隙を埋めているため、下地調整層2の形成および下地調整層2による不陸調整に必要な第一の有機系接着剤の使用量が低減されている。この結果、比較的高価な接着剤のコストを削減した分、製造コストが低減されている。
【0040】
本実施形態のタイル接着構造10に示す様に、モルタル含有材3の表面にタイル4が直に接着されている構成であると、モルタルの接着力を利用してタイルを接着しているため、タイルの材料とモルタルの相性が良い場合には特に強力な接着強度が得られる。また、簡便な構造であるため、製造コストの高騰も抑えられる。
【0041】
本実施形態のタイル接着構造20に示す様に、モルタル含有材3の表面に形成された第二の有機系接着剤からなる接着層5を介して、タイル4がモルタル含有材3の上に接着されている構成であると、第二の有機系接着剤の種類をタイルの材料及び形状に合わせて適宜選定することができるため、強力な接着強度を得られ易い。また、モルタル含有材料に比べて、優れた接着性、軽量性、耐久性が得られ易い。
【0042】
本実施形態のタイル接着構造20に示す様に、コンクリート表面1aの凹凸Zが下地調整層2及びモルタル含有材3のうち少なくとも一方によって平坦化されていることが好ましい。タイル4を平坦な表面に接着することができるため、より十分な接着強度が得られる。
【0043】
本実施形態のタイル接着構造においては、下地調整層2を構成する第一の接着剤として、シリコーン系接着剤又はエポキシ系接着剤を含有していることが好ましい。これらの接着剤はコンクリート表面1a及びモルタル含有材3に対して十分に接着し得るので、モルタル含有材3及びタイル4の剥離の懸念を一層低減することができる。
【0044】
本実施形態のタイル接着構造10,20に示す様に、タイルの接着面4aに任意形状の凹凸が形成されていることが好ましい。タイルの接着面4a(裏足)に形成された凹凸に、モルタル含有材3又は接着層5が入り込んだ形態であるため、接着面積を拡大し、より十分な接着強度を得ることができる。
【0045】
以上、本発明による仕上げ材接着方法及び仕上げ材接着構造の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であり、また上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【実施例】
【0046】
コンクリート平板(300×300×50mm)を準備し、その表面に第一の有機系接着剤として、変成シリコーン樹脂系接着剤又はエポキシ樹脂系接着剤を厚さ約3mmで塗布し、下地調整層を形成した。
上記接着剤を塗布した後、5分以内又は5〜6時間のオープンタイム(塗り置き時間)を経て、張付けモルタル材のペーストを厚さ約8mmで下地調整層の上に塗工した。その後、張付けモルタル材の表面にモザイクタイル(45×95×10mm)を圧着した。
得られた試験体におけるタイル接着構造の模式図を
図3及び
図4に示す。
図3は正面図であり、(a)領域と(b)領域の2つの領域について、オープンタイムをそれぞれ5分、5時間とした。
図4はタイル接着構造の断面図である。
【0047】
使用した変成シリコーン樹脂系接着剤は、主成分として変成シリコーン樹脂及びエポキシ樹脂を含む市販品であり、本実施例では商品名:フレックスマルチ(1液反応形)、株式会社タイルメント製を使用した。
使用したエポキシ樹脂系接着剤は、主剤としてエポキシ樹脂を含む市販品であり、本実施例では商品名:EPS−20ソフトタイプ(2液反応形)、株式会社タイルメント製を使用した。
使用した張付けモルタルは、ポリマーが3.5質量%で混入された市販品であり、本実施例では商品名:KSベース プラスワン(1材形)、菊水化学工業株式会社製を使用した。
【0048】
作製した試験体を20℃、90%RH以上の初期養生室において1日間の湿潤養生を行った後、20℃、60%RHの恒温恒湿室において約1ヶ月間の養生を行った。
上記の養生を経た試験体の強度試験を精密万能試験機(オートグラフAG-B、島津製作所社製)にて行った。具体的には、接着したタイルの上面をコンクリート表面に対して垂直方向に引っ張り上げて引き剥がし、その引張接着強度と破壊状態を確認した。試験体の作製時の接着剤の種類およびオープンタイムが異なる4種類のタイル接着構造について、それぞれ5個の試験体を作製して試験した。
引張接着強度の結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
図4に示す様に、試験体は4層の積層体であるため、理論的には7種類の破壊が起こり得る。すなわち、コンクリート下地の内部(C)、コンクリート表面と接着剤の界面(CA)、接着剤からなる下地調整層の内部(A)、下地調整層とモルタル材の界面(MA)、モルタル材の内部(M)、モルタル材とタイルの界面(MT)、タイルの内部(T)、の7箇所で破壊が起こり得る。
【0051】
引張試験機によってタイルを力学的に剥がした際に現れるタイル側の破壊面に、何が付着しているかを観察し、さらにその破壊面の面積全体における付着物の占める面積を観察することによって、上記7箇所のうちどの箇所における破壊が支配的であるかを確認した。その結果を表2に示す。表に示す破壊状態は、アルファベットが上記の破壊箇所の括弧書きに対応し、数字が破壊面の全体における占有率(面積率)を表す。例えば、破壊状態「MT35」の表記は、モルタル材とタイルの界面(MT)で剥離した面積が約35%であることを表す。
【0052】
【表2】
【0053】
変成シリコーン系接着剤を用いた場合の引張接着強度は、オープンタイムが5分で1.15 N/mm
2、5時間で1.08 N/mm
2となった。オープンタイムの長短による影響は少なく、良好な接着強度が実現されている。
変成シリコーン系接着剤を用いた場合の破壊状態に着目すると、コンクリートと接着剤層の界面(CA)、および接着剤層とモルタル材の界面(MA)における破壊は観察されず、モルタル材とタイルの界面(MT)(タイル裏足近傍)における破壊が支配的であった。
【0054】
エポキシ樹脂系接着剤を用いた場合の引張接着強度は、オープンタイムが5分で1.16 N/mm
2、5時間で0.47 N/mm
2となった。
エポキシ樹脂系接着剤を用いた場合の破壊状態に着目すると、オープンタイムが5分の場合には、コンクリートと接着剤層の界面(CA)、および接着剤層とモルタル材の界面(MA)における破壊は観察されず、モルタル材とタイルの界面(MT)(タイル裏足近傍)における破壊が支配的であった。
一方、オープンタイムが5時間の場合には、接着剤層とモルタル材の界面(MA)における破壊が100%であった。つまり、剥離後のタイル側の破壊面にはモルタルの平滑な表面のみが観察され、この時のコンクリート側の破壊面には接着剤層のみが観察された。
したがって、良好な接着強度を得るためには、オープンタイムを短くし、エポキシ樹脂が完全に硬化する前にモルタル材を設置することが好ましい。
【0055】
以上の結果から、接着剤からなる下地調整層は、モルタル含有材をコンクリート表面に対して十分に接着することに大きく寄与していることが明らかである。
【0056】
以上で説明した各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。