特許第6640478号(P6640478)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6640478
(24)【登録日】2020年1月7日
(45)【発行日】2020年2月5日
(54)【発明の名称】エアゾール容器用噴射装置
(51)【国際特許分類】
   B65D 83/20 20060101AFI20200127BHJP
   B65D 83/14 20060101ALI20200127BHJP
   B05B 9/04 20060101ALI20200127BHJP
【FI】
   B65D83/20
   B65D83/14
   B05B9/04
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-130533(P2015-130533)
(22)【出願日】2015年6月30日
(65)【公開番号】特開2017-13810(P2017-13810A)
(43)【公開日】2017年1月19日
【審査請求日】2018年5月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000208455
【氏名又は名称】大和製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【弁理士】
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】森田 博也
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 大亮
【審査官】 蓮井 雅之
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭50−55613(JP,U)
【文献】 実開昭60−104264(JP,U)
【文献】 特開2016−5965(JP,A)
【文献】 特開平10−17040(JP,A)
【文献】 仏国特許出願公開第2768703(FR,A1)
【文献】 特開2009−143612(JP,A)
【文献】 特開2010−42860(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 83/20
B05B 9/04
B65D 83/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアゾール容器に取り付けられるカバー体と、前記カバー体の中央部に前記カバー体の軸線方向に沿って上下動可能に取り付けられる押ボタン部とを備え、前記軸線方向で前記カバー体の下端部であってかつ前記カバー体の半径方向で前記カバー体の内側に前記エアゾール容器の上端部が嵌め込まれる嵌合部が形成され、前記半径方向で前記嵌合部より内側に、前記押ボタン部の上下動を案内するガイド部が形成され、前記軸線方向で前記ガイド部の下端部に、前記半径方向で内側に突出する突部が形成され、前記押ボタン部の外周面であってかつ前記軸線方向での下端部に、前記半径方向で外側に突出する爪部が形成され、前記爪部と前記突部とが噛み合い可能に構成されているエアゾール容器用噴射装置において
前記半径方向で前記嵌合部と前記ガイド部との間に、前記嵌合部と前記ガイド部の前記下端部とを前記半径方向に連結しておりかつ前記ガイド部の長さ方向に延びる連結部が設けられており、
前記嵌合部に前記上端部を嵌め込まない場合には、前記爪部が前記突部を乗り越えて前記軸線方向で前記カバー体の下側に移動しないように、前記爪部と前記突部とが噛み合っており、
前記連結部は、前記嵌合部に前記上端部を嵌め込む場合に前記嵌合部の外径を拡大させるように作用する力を前記ガイド部に伝達して前記ガイド部の内径を拡大させて前記爪部に対する前記突部の噛み合い幅を減少させることによって、前記爪部が前記突部を乗り越えて前記軸線方向で前記カバー体の下側に移動して前記エアゾール容器のステムに前記押ボタン部が嵌合される
とを特徴とするエアゾール容器用噴射装置。
【請求項2】
前記噛み合い幅は、前記嵌合部に前記上端部を嵌め込む場合における前記ガイド部の内径の変化幅より短いことを特徴とする請求項1に記載のエアゾール容器用噴射装置。
【請求項3】
前記嵌合部における前記連結部の両側にスリットがそれぞれ形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のエアゾール容器用噴射装置。
【請求項4】
前記爪部は、前記軸線方向に対して直交する係合面と、前記軸線方向で前記係合面の上側に設けられたテーパー状の傾斜面とを備え、
前記突部は、前記係合面に対して前記軸線方向に係合する受け面と、前記軸線方向で前記受け面の下側に設けられていて前記受け面に対して傾斜しかつ前記傾斜面と当接可能に形成された他の傾斜面とを備え、
前記カバー体の下側から前記押ボタン部を組み付けるときには、前記傾斜面と前記他の傾斜面とを当接することによって前記半径方向で外側に前記突部を移動させる分力を生じさせ、前記分力によって前記半径方向で外側に前記突部を移動させることによって前記爪部が前記突部を乗り越えて前記カバー体に前記押ボタン部が組み付けられ、
前記嵌合部に前記上端部を嵌め込まない場合であってかつ前記軸線方向で前記受け面の下方に前記押ボタン部が移動した場合には、前記受け面と前記係合面とが係合するように構成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載のエアゾール容器用噴射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エアゾール容器に装着されて、その内容物をガスとともに噴射させる装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の装置の一例として、噴霧器本体に取り付けられる噴霧器用蓋が特許文献1に記載されている。その噴霧器用蓋は、蓋体と、この蓋体に上下動可能に取り付けられる噴射ボタンとを備えている。蓋体の中央部に摺動筒が形成されていて、この摺動筒に上下動可能に噴射ボタンが挿入されている。摺動筒の内面の上側に離脱防止上突条が設けられ、摺動筒の内面の下端に離脱防止下突条が設けられている。噴射ボタンの外面の下端に離脱防止縁が形成されている。摺動筒に該摺動筒の下側から噴射ボタンを圧入すると、摺動筒の内面の下端が拡張し、また、離脱防止縁が離脱防止下突条を乗り越えて摺動筒内に進入する。そして、離脱防止縁が離脱防止上突条に当接して噴射ボタンの移動が阻止される。この噴射ボタンには噴射筒孔が形成されており、その噴射筒孔に噴霧器本体の上部に取り付けられた噴射筒が挿入される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公昭51−38012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の特許文献1に記載された構成では、離脱防止上突条と離脱防止下突条との間で離脱防止縁が上下動するように、摺動筒に噴射ボタンが保持されている。そのため、噴霧器本体に装着した噴霧器用蓋の噴射ボタンを摺動筒の上側から下側に向けて押し込んだ際に、離脱防止下突条に噴射ボタンの離脱防止縁が当接して噴射ボタンの移動が阻止される。このように、噴射ボタンの押し下げ力を離脱防止縁で受けることになるから、その押し下げ力が大きい場合や押し下げ力が繰り返し作用することによる疲労などによって離脱防止縁もしくは離脱防止下突条が破損してしまう可能性がある。
【0005】
この発明は、上記の技術的課題に着目してなされたものであって、押ボタン部を押圧した際に、カバー体に押ボタン部を保持している突部と爪部とが当接すること、あるいは当接することによる破損を抑制できるエアゾール容器用噴射装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、この発明は、エアゾール容器に取り付けられるカバー体と、前記カバー体の中央部に前記カバー体の軸線方向に沿って上下動可能に取り付けられる押ボタン部とを備え、前記軸線方向で前記カバー体の下端部であってかつ前記カバー体の半径方向で前記カバー体の内側に前記エアゾール容器の上端部が嵌め込まれる嵌合部が形成され、前記半径方向で前記嵌合部より内側に、前記押ボタン部の上下動を案内するガイド部が形成され、前記軸線方向で前記ガイド部の下端部に、前記半径方向で内側に突出する突部が形成され、前記押ボタン部の外周面であってかつ前記軸線方向での下端部に、前記半径方向で外側に突出する爪部が形成され、前記爪部と前記突部とが噛み合い可能に構成されているエアゾール容器用噴射装置において、前記半径方向で前記嵌合部と前記ガイド部との間に、前記嵌合部と前記ガイド部の前記下端部とを前記半径方向に連結しておりかつ前記ガイド部の長さ方向に延びる連結部が設けられており、前記嵌合部に前記上端部を嵌め込まない場合には、前記爪部が前記突部を乗り越えて前記軸線方向で前記カバー体の下側に移動しないように、前記爪部と前記突部とが噛み合っており、前記連結部は、前記嵌合部に前記上端部を嵌め込む場合に前記嵌合部の外径を拡大させるように作用する力を前記ガイド部に伝達して前記ガイド部の内径を拡大させて前記爪部に対する前記突部の噛み合い幅を減少させることによって、前記爪部が前記突部を乗り越えて前記軸線方向で前記カバー体の下側に移動して前記エアゾール容器のステムに前記押ボタン部が嵌合されることを特徴とするものである。
【0007】
また、この発明における前記噛み合い幅は、前記嵌合部に前記上端部を嵌め込む場合における前記ガイド部の内径の変化幅より短くてよい。
【0008】
さらに、この発明は、前記嵌合部における前記連結部の両側にスリットがそれぞれ形成されていてよい
前記爪部は、前記軸線方向に対して直交する係合面と、前記軸線方向で前記係合面の上側に設けられたテーパー状の傾斜面とを備え、前記突部は、前記係合面に対して前記軸線方向に係合する受け面と、前記軸線方向で前記受け面の下側に設けられていて前記受け面に対して傾斜しかつ前記傾斜面と当接可能に形成された他の傾斜面とを備え、前記カバー体の下側から前記押ボタン部を組み付けるときには、前記傾斜面と前記他の傾斜面とを当接することによって前記半径方向で外側に前記突部を移動させる分力を生じさせ、前記分力によって前記半径方向で外側に前記突部を移動させることによって前記爪部が前記突部を乗り越えて前記カバー体に前記押ボタン部が組み付けられ、前記嵌合部に前記上端部を嵌め込まない場合であってかつ前記軸線方向で前記受け面の下方に前記押ボタン部が移動した場合には、前記受け面と前記係合面とが係合するように構成されていてよい。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、カバー体の嵌合部にエアゾール容器の上端部を嵌め込むと、上端部によって嵌合部が押し広げられる。カバー体の嵌合部にエアゾール容器の上端部を嵌め込む場合に嵌合部の外径を拡大させるように作用する力は、連結部を介してガイド部に伝達される。そのため、上記のようにして嵌合部の外径が拡大することに伴ってガイド部の内径も拡大される。その結果、押ボタン部における爪部と、ガイド部における突部との噛み合い幅が減少する。したがって、エアゾール容器に装着した噴射装置の押ボタン部を押し下げた際に、前記爪部と前記突部との当接が抑制され、あるいは、これら爪部と突部とが当接して破損することを抑制できる。これにより破損に伴う異物の発生を抑制して信頼性を向上させたエアゾール容器用噴射装置とすることができる。
【0010】
また、この発明によれば、上述した噛み合い幅は、ガイド部の内径の変化幅より短く設定されているため、上記のようにしてガイド部の内径が拡大すると、突部と爪部とが当接しなくなり、もしくは、当接しにくくなる。
【0011】
さらに、この発明によれば、嵌合部における連結部の両側にスリットがそれぞれ形成されているため、カバー体の嵌合部にエアゾール容器の上端部を嵌め込んだ際に、嵌合部が変形しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】この発明に係るエアゾール容器用噴射装置の一例を示す図であって、図1の(a)は、押ボタン部を押し込む前の状態を示す断面図であり、図1の(b)は、押ボタン部を押し込んだ後の状態を示す断面図である。
図2】この発明に係るエアゾール容器用噴射装置の一例を装着したエアゾール容器の斜視図である。
図3】この発明に係るエアゾール容器用噴射装置の一例を装着したエアゾール容器の断面図である。
図4】巻締め部と嵌合部との拡大断面図である。
図5】この発明に係る噴射装置の他の例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図2は、この発明に係るエアゾール容器用噴射装置の一例を装着したエアゾール容器の斜視図であり、図3は、この発明に係るエアゾール容器用噴射装置の一例を装着したエアゾール容器の断面図である。そのエアゾール容器用噴射装置(以下、単に噴射装置と記す。)1は、図2に示すように、エアゾール容器2の上端部に取り付けられて、エアゾール容器2内に充填された主剤を噴射剤とともに噴射するように構成されている。そのエアゾール容器2は、図3に示すように、蓋体2aを胴部2bの上端部に巻締めて固定した公知の構成のものであって、その蓋体2aを胴部2bの上端部に巻締めて固定した箇所が巻締め部3となっている。この巻締め部3が、噴射装置1の一部を構成しているカバー体5の内側に嵌め込まれる。カバー体5の構成は後述する。蓋体2aの中央部に、開閉弁として機能するステム4が取り付けられている。このステム4は、従来、エアゾール容器に広く採用されている公知の構成のものであってよい。なお、上記の巻締め部3が、この発明におけるエアゾール容器の上端部に相当している。
【0014】
噴射装置1は、エアゾール容器2に取り付けられるカバー体5と、そのカバー体5の中央部に挿入される押ボタン部6とを主要な構成要素として備えている。それらカバー体5と押ボタン部6とは合成樹脂によって形成されている。先ず、カバー体5の構成について説明する。押ボタン部6の構成は後述する。図3に示す例におけるカバー体5は、外径の異なる2つの円筒状の壁部7,8を備えている。すなわち、大径の外壁部7と、外壁部7より小径の内壁部8とを有し、これら外壁部7と内壁部8とがそれらの一方の端部を揃えた状態で同心円上に配置されている。また、外壁部7の他方の端部は、内壁部8の他方の端部よりエアゾール容器2側に延びている。
【0015】
外壁部7の外径は、エアゾール容器2の外径とほぼ同じに形成されている。また、内壁部8の内径d1は巻締め部3の外径d2より僅かに小さく形成され、内壁部8と巻締め部3とは予め定めた長さΔd1だけ、重なるように構成されている。この互いに重なり合っている長さを以下の説明ではオーバーラップ幅Δd1と記す。図3での上下方向で内壁部8の下端部に巻締め部3を嵌め込むと、上記のオーバーラップ幅Δd1に応じて巻締め部3によって内壁部8が半径方向で外側に向かって弾性変形させられる。つまり内壁部8が押し広げられてその外径が拡大される。このように巻締め部3が嵌まり込む内壁部8の下端部が、嵌合部9となっている。また、この嵌合部9に、図4に一例を示すように、内壁部8の半径方向で内側に突出する鉤部9aを形成し、嵌合部9に巻締め部3を嵌め込んだ際に、巻締め部3の下側に鉤部9aが引っ掛かるようにしてもよい。このように構成すれば、鉤部9aがない場合に比較して、嵌合部9に嵌め込んだ巻締め部3を嵌合部9から外れにくくすることができる。
【0016】
カバー体5の半径方向で内壁部8より内側に、図1の(a)および(b)に一例を示すように、押ボタン部6が配置される。押ボタン部6の外周面に沿わせてガイド部10が配置されている。このガイド部10は、図1での上下方向への押ボタン部6の移動を案内するとともに水平方向への移動を規制する。ここに示す例では、軸線方向に延びかつ押ボタン部6の外周面に沿って湾曲した幅の狭い長板状に形成されている。軸線方向に測ったガイド部10の長さは押ボタン部6の高さより短く形成されている。
【0017】
このガイド部10の下端部に鉤状の突部11が形成されている。この突部11は、ガイド部10に対して直交する平坦な受け面11aと、この受け面11aとのなす角度が小さい傾斜面11bとを有している。上記の受け面11aに後述する押ボタン部6の爪部21の係合面21aが係合し、傾斜面11bに爪部21の傾斜面21bが当接する。
【0018】
また、このガイド部10における内壁部8側の側面の少なくとも一部と内壁部8とが連結部12を介して連結されている。この連結部12は、嵌合部9に巻締め部3を嵌め込む場合に嵌合部9の外径を拡大させるように作用する力をガイド部10に伝達するものである。ここに示す例では、ガイド部10における内壁部8側の側面の少なくとも一部と内壁部8との間に、半径方向に延びる平板状の壁部が形成されており、これが連結部12となっている。嵌合部9に前記力が生じると、その力は連結部12を介してガイド部10に伝達され、ガイド部10は半径方向で外側に変形させられる。このようにガイド部10の内径が拡大すると、爪部21の係合面21aに対して受け面11aが噛み合う幅が短くなる。すなわち噛み合い量が減少する。なお、連結部12は、要は、ガイド部10と内壁部8との間で前記力を伝達するように構成されていればよく、上述した平板状の壁部に替えて半径方向に延びる棒状に構成されていてもよく、あるいは、別部材によってガイド部10と内壁部8とを連結してもよい。これらガイド部10、突部11、爪部21や連結部12などによってカバー体5に押ボタン部6を保持する保持部13が構成されている。
【0019】
外壁部7および内壁部8のそれぞれにおける一方の端部に平板状の天面部14が連続して形成されている。この天面部14の中央部に貫通孔15が形成されており、この貫通孔15から押ボタン部6の上端部が露出するようになっている。また、カバー体5の上部に、溝状の凹部16が形成されている。この凹部16に、押ボタン部6を押圧する際に、図示しないアクチュエータが取り付けられたり、指がかけられたりする。外壁部7と内壁部8との同じ位置に、それら壁部7,8を板厚方向に貫通して噴射孔17が形成されている。この噴射孔17に対して押ボタン部6のノズル孔23が位置決めされて、カバー体5に押ボタン部6が取り付けられる。
【0020】
次いで、押ボタン部6の構成について説明する。押ボタン部6は、図1の(a)および(b)に示すように、円筒部18と、その円筒部18の一方の端部に連続して形成された平板状の天板部19とを有している。天板部19の中央に前記ステム4と後述するノズル孔23とを連通する導管20が取り付けられている。上記の円筒部18の外径は前記突部11の内径と同じ、もしくは、突部11の内径より小さく形成されている。上記の円筒部18の外周面における下端部であってかつ前記突部11に対応する位置に、爪部21が形成されている。この爪部21は、円筒部18に対して直交する平坦な係合面21aと、この係合面21aとのなす角度が小さい傾斜面21bとを有しており、係合面21aと突部11の受け面11aとが係合する。すなわち、この爪部21の外径d3は、一例として、前記突部11の内径d4より大きく形成されており、爪部21と突部11とは予め定めた長さΔd2、噛み合うように構成されている。この爪部21と突部11とが噛み合う長さを以下の説明では噛み合い幅Δd2と記す。なお、この噛み合い幅Δd2が、この発明における噛み合い幅に相当している。
【0021】
上記の噛み合い幅Δd2は、一例として、前述した内壁部8の外径の拡大に伴うガイド部10の内径の変化幅より短く設計されている。なお、ガイド部10の内径の変化幅は、オーバーラップ幅Δd1や内壁部8の剛性などに応じたものとなっている。これらオーバーラップ幅Δd1および噛み合い幅Δd2は、前述したように嵌合部9を半径方向で外側に向けて拡大させた場合に、前記嵌合部9の外径の拡大に伴って爪部21と突部11との噛み合い幅が減少するように、実験により予め定め設定することができる。また、円筒部18の一部に、貫通孔15の内径より大きい外径の大径部22が形成されている。保持部13内に挿入した押ボタン部6が保持部13内で上方に移動した際に、貫通孔15に大径部22が引っ掛かって保持部13の上側から押ボタン部6が抜け出ないようになっている。さらに、円筒部18に、図3に示すように、円筒部18の板厚方向に貫通してノズル孔23が形成されている。前記噴射孔17に対してノズル孔23を位置決めした状態で保持部13に押ボタン部6が取り付けられる。導管20は上記のステム4とノズル孔23とを連通するものであって、その一端部にステム4の先端部が嵌め込まれる嵌合孔24が形成されている。導管20の他端部がノズル孔23に接続されている。
【0022】
上述したこの発明に係る噴射装置1の作用について説明する。カバー体5に押ボタン部6を組み付ける場合には、カバー体5の噴射孔17に対して押ボタン部6のノズル孔23を位置決めした状態で、保持部13の下側から押ボタン部6を圧入する。この場合、ガイド部10に形成された突部11の傾斜面11bと、押ボタン部6に形成された爪部21の傾斜面21bとが接触する。これら傾斜面11b,21b同士が接触することにより、傾斜面11bには半径方向で外側に向けた分力が生じ、この分力によってガイド部10が半径方向で外側に向けて弾性変形する。その結果、押ボタン部6の爪部21が突部11を乗り越えて保持部13内に押ボタン部6が挿入される。そして、貫通孔15に大径部22が引っ掛かって押ボタン部6の移動が阻止される。一方、保持部13内に挿入された押ボタン部6が保持部13内で下方に移動した場合には、突部11の受け面11aと爪部21の係合面21aとが噛み合う。そのため、保持部13の下側から押ボタン部6が抜け出ない、もしくは、抜け出にくくなっている。
【0023】
上述したように組み立てた噴射装置1をエアゾール容器2に装着した場合について説明する。図1の(a)に示すように、嵌合部9にエアゾール容器2の巻締め部3を嵌め込むと共に、押ボタン部6の嵌合孔24にステム4の先端部を嵌め込む。嵌合部9に巻締め部3を嵌め込むと、巻締め部3によって嵌合部9を構成している内壁部8が半径方向で外側に向かって押し広げられる。このようにして変形させられた内壁部8の外径と前記変形前の内壁部8の外径との差すなわち内壁部8の変化幅は前記オーバーラップ幅Δd1に応じたものとなっている。
【0024】
上記のようにして内壁部8が半径方向で外側に向かって押し広げられると、連結部12を介して連結されたガイド部10も半径方向で外側に移動する。そして、突部11と爪部21との噛み合い幅Δd2が短くなり、もしくは、突部11と爪部21とが噛み合わなくなる。つまり突部11と爪部21との噛み合い状態が解除される。そのため、押ボタン部6を押し下げた場合には、押ボタン部6の爪部21と突部11との当接が抑制され、もしくは、爪部21と突部11とが当接しない。そして押ボタン部6は保持部13の下側に抜け出ることが可能になる。図1の(b)は、押ボタン部6が保持部13の下側に抜け出た状態を示している。上述した構成では、押ボタン部6を押し下げると、図1の(b)に示すように、押ボタン部6の嵌合孔24にステム4が深く嵌合する。押ボタン部6を更に押圧すると、ステム4が開弁してエアゾール容器2の内部に充填された主剤が噴射剤とともにステム4および導管20を介してノズル孔23および噴射孔17から噴射される。
【0025】
したがって、上述した構成の噴射装置1では、エアゾール容器2に装着する前においては、カバー体5に押ボタン部6を組み付けた状態を維持できるので、例えば輸送時やエアゾール容器2に噴射装置1を装着する際における噴射装置1の取り扱い性が良好になる。エアゾール容器2に装着した後においては、突部11と爪部21との噛み合い状態を解除できるので、押ボタン部6を押圧した際に突部11と爪部21とが当接してこれら突部11や爪部21が破損することを抑制できる。それらの結果、輸送時や前記装着時における取り扱いが容易になるとともに、エアゾール容器2に装着する際や使用時においては、噴射装置1の構成部材の破損を抑制して信頼性を向上させることができる。なお、オーバーラップ幅Δd1を大きくすれば、嵌合部9に巻締め部3を嵌め込んだ場合における前記内壁部8やガイド部10の内径の変化幅を大きくできるとともに、嵌合部9に巻締め部3が強く嵌合してエアゾール容器2に装着した噴射装置1を外れにくくすることができる。また、噛み合い幅Δd2を大きくすれば、上述した輸送時に振動が生じたとしても突部11と爪部21との噛み合い状態を維持することができる。なお、突部11をガイド部10の下端部に設け、爪部21を押ボタン部6の下端部に設ける例について説明したが、いずれも下端部に限らず、任意の位置に設けることができる。
【0026】
図5は、この発明に係る噴射装置1の他の例を示す斜視図である。ここに示す例は、内壁部8における突部11の両側にスリット25をそれぞれ形成した例である。これらのスリット25は内壁部8の他方の端部から一方の端部側に延びている。図5に示す例では、内壁部8にスリット25が形成されているため、嵌合部9に巻締め部3を嵌め込んだ際に、内壁部8は半径方向で外側に変形しやすくなるとともにその外径の変化幅が大きくなる。連結部12を介して内壁部8に連結されたガイド部10の内径も同様に拡大する。その結果、図5に示す構成であっても、図1に示す構成と同様の作用・効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0027】
1…エアゾール容器用噴射装置、 2…エアゾール容器、 3…巻締め部(上端部)、 5…カバー体、 6…押ボタン部、 9…嵌合部、 10…ガイド部、 11…突部、 12…連結部、 21…爪部、 Δd1…オーバーラップ幅(変化幅)、 Δd2…噛み合い幅。
図1
図2
図3
図4
図5