特許第6640561号(P6640561)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6640561
(24)【登録日】2020年1月7日
(45)【発行日】2020年2月5日
(54)【発明の名称】コーティングを備えた基材を得る方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/58 20060101AFI20200127BHJP
   C03B 32/00 20060101ALI20200127BHJP
   C03C 17/245 20060101ALI20200127BHJP
   C23C 16/56 20060101ALI20200127BHJP
【FI】
   C23C14/58 A
   C03B32/00
   C03C17/245 A
   C03C17/245 Z
   C23C16/56
【請求項の数】14
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-553149(P2015-553149)
(86)(22)【出願日】2014年1月17日
(65)【公表番号】特表2016-510297(P2016-510297A)
(43)【公表日】2016年4月7日
(86)【国際出願番号】FR2014050090
(87)【国際公開番号】WO2014111664
(87)【国際公開日】20140724
【審査請求日】2016年12月19日
【審判番号】不服2018-16607(P2018-16607/J1)
【審判請求日】2018年12月12日
(31)【優先権主張番号】1350453
(32)【優先日】2013年1月18日
(33)【優先権主張国】FR
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500374146
【氏名又は名称】サン−ゴバン グラス フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(72)【発明者】
【氏名】ブリス デュボ
(72)【発明者】
【氏名】エマニュエル ミムン
(72)【発明者】
【氏名】マチュー ビレーヌ
【合議体】
【審判長】 服部 智
【審判官】 宮澤 尚之
【審判官】 小川 進
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−017222(JP,A)
【文献】 特開2012−212847(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C2/00-30/00
C25D5/00-7/12
H01L21/26-21/268
C03B23/00-35/26
C03C15/00-23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
面のうち少なくとも一つの上にコーティングを備えた、ガラス製、ガラスセラミック製、又は高分子有機材料製である基材(1)を得る方法であり、
前記コーティングを、前記基材(1)の上に被着し、次いで、前記コーティングを、走行する前記基材(1)の向かい側にある少なくとも一つの加熱手段(2a)を用いて熱処理する方法であって、
前記熱処理の前に、前記コーティングの少なくとも一つの特性の少なくとも一つの測定を、走行している前記基材(1)について行い、かつ前記熱処理の条件を、前もって得た測定値に応じて適合させるようにする、
コーティングを備えた基材(1)を得る方法。
【請求項2】
前記コーティングをそれぞれ独立に制御可能でありかつ走行する前記基材(1)の向かい側にある少なくとも二つの加熱手段(2a,2b)を用いて熱処理し、各加熱手段(2a,2b)は前記コーティングの異なる領域を処理し、さらに、前記熱処理の前に各前記領域に対して、前記コーティングの少なくとも一つの特性の少なくとも一つの測定を走行している前記基材(1)について行い、かつ前もって得た測定値に応じて各領域の前記熱処理の条件を当該領域に対して適合させるようにする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記加熱手段(2a,2b)を、レーザー、プラズマトーチ、マイクロ波源、バーナー、及びインダクターから選択する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記レーザー(2a,2b)が線状に並んでいる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記熱処理の前に測定する前記コーティングの少なくとも一つの特性を、光学的、電気的、又は寸法的な特性から選択する、請求項1〜4のうちの一つに記載の方法。
【請求項6】
前記光学的な特性を、吸収率、反射率、透過率、及び色から選択する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記電気的な特性を、抵抗率、導電率、及びシート抵抗から選択する、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記熱処理の条件の適合を自動的に行う、請求項1〜7のうちの一つに記載の方法。
【請求項9】
前記熱処理の条件を、前記加熱手段(2a)から供給されるパワーを変更することによって適合させる、請求項1〜8のうちの一つに記載の方法。
【請求項10】
前記コーティングが、金属、酸化物、窒化物、炭化物、酸窒化物、又はそれらのいずれかの混合物の少なくとも一つの薄層を含む、請求項1〜のうちの一つに記載の方法。
【請求項11】
前記コーティングが銀ベースの層を少なくとも一つ含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記熱処理工程がコーティングの溶融を、さらには部分的溶融さえも伴わない、請求項1〜1のうちの一つに記載の方法。
【請求項13】
基材(1)の上に被着したコーティングの熱処理用装置であって、
走行している前記基材の上に被着している前記コーティングの熱処理を行うための、少なくとも一つの加熱手段(2a)と、
前記加熱手段(2a)の上流に配置され、走行している前記基材の上に被着している前記コーティングの少なくとも一つの特性を測定するための、少なくとも一つの測定手段(3a)と、
前もって前記測定手段で得た測定値に応じて前記加熱手段による熱処理条件を適合させるための手段とを含み、かつ
前記基材(1)が、ガラス製、ガラスセラミック製、又は高分子有機材料製であり、かつ前記加熱手段(2a)に向き合って走行し得る、
コーティングの熱処理用装置。
【請求項14】
それぞれ独立に制御可能でありかつそれに向き合って前記基材(1)が走行し得る少なくとも二つの加熱手段(2a,2b)であって、おのおのが前記コーティングの異なる領域を処理することのできる加熱手段(2a,2b)と、前記加熱手段(2a,2b)の上流に配置され領域のそれぞれにおける前記コーティングの少なくとも一つの特性を局所的に測定するための手段(3a,3b)と、前もって得た測定値に応じて各領域の熱処理条件を当該領域に対して適合させるための手段とを含む、請求項1に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティングを備えた基材の熱処理に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の加熱手段、例えば、バーナー、プラズマトーチ、あるいはレーザー等を用いた、コーティングの急速熱処理の方法は、国際公開第2008/096089号から知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、このタイプの方法をより順応性あるものにし、かつ産業状況により良く適応させることによって、それを改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この目的のために、本発明の一主題は、面のうち少なくとも一つの上にコーティングを備えた基材を得る方法であり、前記コーティングを前記基材の上に被着し、次いで、前記コーティングを走行する基材の向かい側にある少なくとも一つの加熱手段を用いて熱処理する方法であって、この方法では、前記熱処理の前に、前記コーティングの少なくとも一つの特性の少なくとも一つの測定を走行している基材について行い、かつ熱処理の条件を前もって得た測定値に応じて適合させるようにする。
【0005】
好ましくは、コーティングをそれぞれ独立に制御可能でありかつ走行する基材の向かい側にある少なくとも二つの加熱手段を用いて熱処理し、各加熱手段は前記コーティングの異なる領域を処理し、この方法ではさらに、熱処理の前に前記領域に対して、前記コーティングの少なくとも一つの特性の少なくとも一つの測定を走行している基材について行い、かつ前もって得た測定値に応じて各領域の前記熱処理の条件を当該領域に対して適合させるようにする。
【0006】
本発明の別の主題は、基材がそれに向き合って走行し得る少なくとも一つの加熱手段と、加熱手段の上流に配置され前記コーティングの少なくとも一つの特性を測定するための少なくとも一つの手段と、前もって得た測定値に応じて熱処理条件を適合させるための手段とを含む、基材の上に被着させたコーティングの熱処理用装置である。
【0007】
好ましくは、装置は、互いに独立に制御可能でありかつそれに向き合って基材が走行し得る少なくとも二つの加熱手段であって、おのおのが前記コーティングの異なる領域を処理することのできる加熱手段と、加熱手段の上流に配置され前記領域のそれぞれにおける前記コーティングの少なくとも一つの特性を局所的に測定するための手段と、前もって得た測定値に応じて各領域の熱処理条件を当該領域に対して適合させるための手段とを含む。
【0008】
走行する基材に行う測定及び熱処理工程は、本発明の装置の範囲内で直列に、すなわち同一の工業ラインで行うことが有利である。
【0009】
層の特徴に応じた熱処理の制御が可能になることは、方法をより順応性のあるものにすること、及び/又は処理後のコーティングの均一性を高めることを可能にする。
【0010】
さらに、コーティングの部分をそれぞれが処理するいくつかの加熱手段を使用すること、及び処理するコーティングの部分の局所的な特性に応じて個別にそれらの制御が可能になることは、多くの利点を有する。
【0011】
特に、大型の基材用、例えば6×3.3mのガラスパネル用などに、ただ一つよりむしろいくつかの加熱手段を使用することは、加熱手段及び関連する装置(下記でより詳細に記載するが、加熱手段がレーザーやマイクロ波源である場合には例えば合焦装置など)の設計、製造、調節、及び保守を容易にすることを可能にする。互いに独立であるいくつかの手段を使用することは、異なるサイズの基材、又は異なるサイズの処理する領域に対して、例えば後者の場合においてオリジナルの基材のある部分のみを利用せねばならずその後で切断するときに、処理を適合させることも可能にする。
【0012】
層の局所的な特性に応じて熱処理条件を適合させるために、独立の手段を選択してそれらの制御を可能にすることは、とりわけ大型の基材、例えばガラス産業で使用する6×3mの基材などの場合に、よくある均一性が完璧でないコーティングに適応することを可能にする。かかる広い表面上に完璧に均一なコーティングを得ることは、実際には困難である。例えばマグネトロンスパッタリング法によってコーティングを被着する場合には、カソードが不均一に摩耗することがある。被着の不均一性は、特にその結果吸収の不均一性を生じる場合には、熱処理によって、特にレーザーによって増幅されることがある。
【0013】
加熱手段は、レーザー、プラズマトーチ、マイクロ波源、バーナー、及びインダクタから選択するのが有利である。
【0014】
レーザーは一般的に、一又は複数のレーザー源を含むとともに、整列させ方向を変更させる光学素子も含むモジュールからなる。レーザーは、下記で「レーザーライン」としても言及される、線状に並んでいるのが好ましい。
【0015】
レーザー源は、典型的には半導体レーザー、又はファイバー若しくはディスクレーザーである。半導体レーザーは、小さな空間的要件に対して、電力供給の割には高いパワー密度を効率よく達成することができる。コストがより高くなるが、ファイバーレーザーの空間的要件をさらにいっそう小さくして、かつ得られる線形パワー密度をさらにいっそう高くしてもよい。
【0016】
レーザー源から生じる放射は、連続又はパルスでよく、好ましくは連続でよい。放射がパルスである場合には、繰り返し周波数は、用いる速い走行速度に対応するために、10kHz以上、特に15kHz以上、さらに20kHz以上であるのが有利である。
【0017】
レーザーラインの放射の波長は、800〜1100nm、特に800〜1000nmの範囲内であるのが好ましい。808nm、880nm、915nm、940nm、又は980nmから選択される波長で放射する高出力の半導体レーザーが、特に好適であることが判明している。
【0018】
整列させ方向を変更させる光学素子は、好ましくはレンズ及びミラーを含み、放射の位置合わせ、均一化、及び焦点合わせの手段として使用される。
【0019】
位置合わせ手段の目的は、必要に応じてレーザー源より放出された放射線をラインに沿って整えることである。それらはミラーを含むのが好ましい。均一化手段の目的は、ラインの全体に沿って均等な線形パワー密度を得るために、レーザー源の空間プロファイルを重ね合わせることである。均一化手段は、入射光線を二次光線に分離し、前記二次光線を均一にラインに再度組み合わせることを可能にするレンズを含むのが好ましい。放射線の合焦手段は、処理するコーティングに対して、所望の長さ及び幅のラインの形の放射線を集中することを可能にする。合焦手段は、収束レンズを含むのが好ましい。
【0020】
ラインは、長さ及び幅を有する。ラインについての用語「長さ」は、コーティングの表面で測定される、ラインの最も大きな寸法を意味すると理解される。ラインについての用語「幅」は、最も大きな寸法の方向に対して横の方向の寸法を意味すると理解される。レーザーの分野の慣習として、ラインの幅wは、光線の軸(放射の強度が最大となるところ)と放射の強度が最大強度の1/e倍に等しくなるポイントの間の(この横方向に沿った)距離に対応する。レーザーラインの縦軸をxとして見なすと、この軸に沿ってw(x)として見なされる幅分布を決定することが可能になる。
【0021】
各レーザーラインの平均幅は、35μm以上、特に40〜100μm又は40〜70μmの範囲内であるのが好ましい。本明細書をとおして、用語「平均」は、算術平均を意味すると理解される。ラインの全長にわたって、幅分布は、処理のあらゆる不均一さを避けるために狭い。したがって、最も大きい幅と最も小さい幅の間の差は、平均幅の値の10%以下であるのが好ましい。この値は、5%以下、さらには3%以下であるのが好ましい。
【0022】
レーザーラインの長さは、10cm以上又は20cm以上、特に30〜100cm、格別に30〜75cm、あるいは30〜60cmの範囲内であるのが好ましい。例えば、幅3.3mの基材に対して、30cmの長さを有する11のラインを使用することができる。
【0023】
整列させかつ方向を変更させる光学素子、特に位置合わせ手段は、手動で、又はそれらの位置合わせを遠隔で調節することを可能にするアクチュエーターの補助で調節することができる。これらのアクチュエーター(典型的には圧電モーター又はブロック)を、手動で制御し、かつ/又は自動で調節することができる。後者の場合には、アクチュエーターを検出器に接続し、さらにフィードバックループにも接続するのが好ましいであろう。
【0024】
レーザーモジュールのうち少なくとも一部あるいはそれらの全部は、それらの熱的安定性を確保するために冷却されるのが有利であり、特に換気される、漏れを防止するボックス内に配置するのが好ましい。
【0025】
レーザーモジュールは、金属の構成要素に基づく「ブリッジ」、典型的にはアルミニウム製の「ブリッジ」としても言及される剛性構造体に取り付けるのが好ましい。この構造体は、大理石の板を含まないのが好ましい。ブリッジは、レーザーラインの焦点面が処理する基材の表面に対して平行なままであるように、搬送手段に対して平行に配置するのが好ましい。ブリッジは、あらゆる環境で平行に配置することを確実にするために、高さを個々に調節することができる四つ以上の脚を含むのが好ましい。調節は、距離センサーに接続され各脚に設置したモーターによって、手動又は自動のいずれでも、行うことができる。ブリッジの高さは、処理する基材の厚さを考慮し、これによって基材の面がレーザーラインの焦点面と一致することを確実にするために、(手動又は自動で)合わせることができる。
【0026】
レーザー源のデューティサイクルの平方根によって除した線形パワー密度は、300W/cm以上、有利には350W/cm以上若しくは400W/cm以上、特に450W/cm以上、500W/cm以上、さらには550W/cm以上であるのが好ましい。デューティサイクルの平方根によって除した線形パワー密度は、600W/cm以上、特に800W/cm以上、さらには1000W/cm以上であるのがさらに有利である。レーザー放射が連続である場合には、デューティサイクルは1に等しく、したがってこの数値は線形パワー密度に相当する。線形パワー密度は、レーザーラインをコーティング対して焦点合わせした箇所で測定される。それを、パワー検出器、例えば熱量パワーメーター、例えば特にCoherent社製のビームファインダーパワーメーターなどをラインに沿って配置することによって、測定してもよい。パワーを、ラインの全長にわたって均一に分散させるのが有利である。最大パワーと最小パワーの間の差を、平均パワーの10%未満に等しくするのが好ましい。
【0027】
デューティサイクルの平方根によって除した、コーティングに対して与えられるエネルギー密度は、20J/cm以上、あるいは30J/cm以上であるのが好ましい。ここでも、デューティサイクルは、レーザー放射が連続である場合には1に等しい。
【0028】
処理の有効性を向上させるために、基材を透過し、かつ/又はコーティングによって反射された(主)レーザー放射線の少なくとも一部分の向きを、主レーザー放射線と同じ位置で基材に、有利には同じ焦点深度及び同じプロファイルで影響を及ぼすのが好ましい、少なくとも一つの二次レーザー放射線を形成するために、前記基材の方向に変えさせるのが好ましい。二次レーザー放射線の形成は、ミラー、プリズム、及びレンズから選択される光学要素のみを含む光学アセンブリ、特に二つのミラー及びレンズ、又はプリズム及びレンズからなる光学アセンブリを用いるのが有利である。主放射線の損失の少なくとも一部分を回復することによって、かつ基材の方へその方向を変更することによって、熱処理がかなり改善される。基材を透過した主放射線の一部分(透過型)若しくはコーティングによって反射した主放射線の一部分(反射型)の使用、又は任意選択的な両方の使用の選択は、コーティングの特性及びレーザー放射の波長によって決まる。
【0029】
各加熱手段がレーザーである場合には、レーザーの波長に対するコーティングの吸収率は、5%以上、特に10%以上であるのが好ましい。それは、90%以下、特に80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、あるいは40%以下、さらには30%以下であるのが有利である。
【0030】
また、加熱手段はバーナーでもよい。バーナーは、燃料及び酸化剤の混合をバーナーの先端又は後者の延長上で行うという意味で外燃式バーナーでもよい。この場合には、基材は火炎の作用を受ける。また、バーナーは、燃料及び酸化剤をバーナーの内部で混合するという意味で内燃式バーナーでもよい。この場合、基材は高温ガスの作用を受ける。もちろん、燃焼の一部のみをバーナーの内部で行って残りの部分を外部で行うという意味で、あらゆる中間の状態が可能である。特定のバーナー、特に空気式バーナー、すなわち酸化剤として空気を用いるバーナーは、燃焼の全部又は一部が行われる予混合チャンバーを有している。この場合には、基材は火炎及び/又は高温ガスの作用を受けることができる。酸素燃料燃焼バーナー、すなわち純正の酸素を用いたバーナーは、一般的には予混合チャンバーを含まない。火炎処理で用いるガスは、酸化剤ガス、特に空気、酸素、又はそれらの混合物から選択される酸化剤ガスと、燃料ガス、特に天然ガス、プロパン、ブタン、あるいはアセチレン若しくは水素、又はそれらの混合物から選択される燃料ガスとの混合物でよい。一方では、より高い温度を達成し、これによって処理を短縮して基材が加熱されることを抑制することが可能となるため、他方では、窒素酸化物NOxの生成を抑制するため、酸化剤ガスとして酸素が好ましく、これを特に天然ガス(メタン)又はプロパンと組み合わせるのが好ましい。薄層で所望の温度を達成するために、コーティングされた基材を、一般的には可視炎内、特に火炎の最も熱い領域に配置する。これによって可視炎の一部分が処理される領域の周りに広がる。
【0031】
また、加熱手段はプラズマトーチでもよい。プラズマは、「プラズマガス」と呼ばれるものを励起させることによって、例えば高いDC又はAC電界(例えば電気アーク)などを受けさせることによって一般的に得られるイオン化されたガスである。この励起の作用の下で、電子をガスの原子から引き離し、これによって生成した電荷が逆の電荷の電極に移動する。したがって、これらの電荷は、衝突によってガスの他の原子を励起し、アヴァランシェ効果によって均一すなわち細い筋状の放電あるいはアークが作り出される。プラズマは、「高温」プラズマ(この場合には、ガスが全体的にイオン化し、プラズマ温度が10℃程度である)、又は「熱」プラズマ(例えば電気アークの場合には、ガスがほとんど全体的にイオン化し、プラズマ温度が10℃程度である)でもよい。プラズマは、物質と相互作用することができる多くの活性種、すなわちイオン、電子、又はフリーラジカルを始めとする種を含有する。プラズマトーチの場合には、ガスを電気アークに注入し、形成された熱プラズマを処理する基材に吹き付ける。プラズマトーチは、粉状の前駆体をプラズマに添加することによって種々の基材の上に薄い膜を被着するのに一般的に採用される。注入するガスは、体積含有率で水素を5%と50%の間、特に15%と30%の間で有利に含む窒素、空気、又はアルゴンであるのが好ましい。
【0032】
また、加熱手段はマイクロ波源でもよい。マイクロ波は、その波長が1mmと1mの間であって誘電体コーティングの熱処理に好適である電磁波である。マイクロ波源(マグネトロン)を、放射導波管又は空洞共振器(単一モード若しくは複数モード)と組み合わせるのが好ましい。例として、基材を、トンネル内に配置された放射導波管の下で走行させてもよい。水冷式吸収性フィルターによって形成されたウェーブトラップを、外部への波のあらゆる損失を防止するためにマイクロ波源の上流及び下流に配置するのが好ましい。
【0033】
コーティングが導電性層を含む場合(例えば銀の場合)には、熱処理を誘導によって行ってもよい。この場合には、加熱手段はインダクタである。
【0034】
金属部品の誘導加熱は、導電性固体部品内で急速かつ制御式に高温を達成するための周知の方法である(鋼の強化、シリコンのゾーンメルティングなど)。主な用途は、農業食品分野(容器の加熱、金属ベルト上での平らな製品の調理、押出加工調理)、及び金属製造の分野(溶融、成形前の再加熱、バルクの熱処理、表面の熱処理、コーティングの処理、溶接、ろう付け)に関する。
【0035】
コイル(ソレノイド又はターンとも呼ばれる)を流れるAC電流は、その内部に、同じ周波数で周期的に振動する磁界を生じる。導電性部品がコイル(すなわちソレノイド)内に置かれている場合には、磁界によって誘起される電流がその中に生じ、ジュール効果によって部品を加熱する。
【0036】
電流は、加熱される部品の表面上に出現する。一次近似で電流層の厚さを与え、表皮厚さとして知られている特有の厚さを定義することができる。電流の表皮厚さは、加熱される金属の性質に左右され、電流の周波数が増加すると減少する。
【0037】
導電層で被覆された絶縁性基材を加熱する場合には、金属の表面部分にインダクタの作用を集中させるために高周波の分極を用いることが好ましい。周波数は、500kHzと5MHzの間、特に1MHzと3MHzの間であるのが好ましい。特に平坦な表面の処理で採用されるインダクタを使用するのが好ましい。
【0038】
熱処理の際にコーティングが受ける温度は、300℃以上、特に350℃以上、あるいは400℃以上であるのが好ましい。
【0039】
コーティングした面とは反対の面の基材の温度は、熱処理の際には、100℃以下、特に50℃以下、あるいは30℃以下であるのが好ましい。
【0040】
本発明によれば、いくつかの加熱手段(特にレーザーライン)を使用するのが好ましい。加熱手段(特にレーザーライン)の数は、処理される基材の幅に応じて3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上、又は11以上であるのが好ましい。加熱手段の数は、3と11の間(境界値を含む)、特に5と10の間(境界値を含む)であるのが好ましい。
【0041】
加熱手段は、多層積層体の表面全体を処理できるように配置するのが好ましい。いくつかの配置を、加熱手段のサイズ及び形状に応じて想定することができる。好ましい一実施形態によれば、加熱手段は線形配列であり、それらは、例えば線形バーナーライン、インダクタライン、あるいはレーザーラインでよい。
【0042】
加熱手段がかかる線形配列である場合、特にそれらがレーザーラインである場合には、各手段を基材が走行する方向に対して垂直に配置し、又は斜めに配置するのが好ましい。加熱手段は、一般的には互いに平行である。種々の手段で同時に、又は遅延式で基材を処理してもよい。例として、加熱手段(特にレーザーライン)を、V形状、互い違いの列、あるいは任意の角度で配置することができる。
【0043】
加熱手段を、基材が走行する方向に対して垂直な列で配置してもよい。列の数は、例えば2以上あるいは3以上である。列の数は、熱処理領域の床面積の範囲内に収めるために3以下であるのが有利である。
【0044】
基材全体に処理による作用を及ぼすことを確実なものとするために、重複部分があるように、すなわち所定の領域(小さなサイズ、典型的には10cm未満、又は1cm未満)が少なくとも2回処理されるように、加熱手段を配置するのが好ましい。
【0045】
基材が走行する方向において、隣り合う領域を処理する二つの加熱手段の間の距離は、コーティングにダメージを与えることを回避するために、重複領域が周囲温度に近い温度に戻る時間を有しているような距離であるのが好ましい。典型的には、加熱手段がレーザーラインである場合には、隣り合う領域を処理する二つの加熱手段の間の距離は、層のうちの一点がレーザーラインの下を移動する距離の3倍以上であるのが有利である。
【0046】
代わりに、加熱手段を全く同一の線上に配置してもよい(換言すれば、列の数は1である)。この場合、及び加熱手段がレーザーラインである場合には、コーティングのところで連続かつ均一なラインを得ることを可能にするプロファイルを選択するのが好ましい。
【0047】
熱処理の前に測定されるコーティングの少なくとも一つの特性は、光学的、電気的、又は寸法的特性から選択するのが好ましい。
【0048】
光学的特性は、吸収率、反射率、透過率、及び色から選択するのが有利である。これらの特性を、例えば、少なくとも一つのコヒーレント又は非コヒーレント光源と、任意選択的なフィルター、プリズム、又はアレイとに連結されている少なくとも一つのCCDカメラ又はフォトダイオードを用いて測定してもよい。これらの特性を、分光光度計を用いて測定してもよい。
【0049】
電気的特性は、抵抗率、導電率、及びシート抵抗から選択するのが有利である。例えば、これらの特性を、少なくとも一つの非接触式誘導又は容量センサーの手段、例えばNagy Messsysteme社から販売されているシート抵抗を測定する手段によって測定してもよい。
【0050】
寸法的特性は、位置及び厚さから選択するのが有利である。
【0051】
これらの特性を、好ましくは基材及び/又はコーティングに接触することなく、走行している基材について測定する。したがって、基材は、最初に特性を局所的に(必要に応じてコーティングの種々の領域で)測定する測定手段に向かい合って、次に加熱手段に向かい合って、全く同一の線に沿って連続して走行する。
【0052】
測定手段は、それらの空間的要件に応じて、一又は複数のライン(好ましくは一つのライン)にわたって分布させるのが有利である。ラインは、典型的には、基材が走行する方向に対して垂直に又は任意選択的に斜めに配置する。
【0053】
各領域に対して、一又は複数の測定、例えば、二つ、三つ、あるいは四つの測定を行うことができる。
【0054】
熱処理(必要に応じて各領域の)の条件の調節は、自動的に行うのが好ましい。例えば、測定した値を、適用される補正値を算出するアルゴリズムによって処理することができる。走行速度、及び測定手段と対応する加熱手段とを隔てる距離に応じて算出される、適切な時間差を、測定と補正との間に適用する。例として、上記のアルゴリズムを、電子回路、コンピュータープログラム、あるいはエキスパートシステムによって実行してもよい。
【0055】
また、調節を手動で行ってもよい。自動及び手動の両方で処理の条件を調節できることが有益なこともある。例えば、作動したままの熱源に対して自動的な調節を継続することを除き、オペレーターが、より幅の狭い基材に対する処理を調節するために加熱手段を手動で停止してもよい。
【0056】
熱処理の条件の調節は、種々の方法で行うことができる。
【0057】
熱処理の条件は、加熱手段により供給されるパワーを変更することによって調節するのが有利である。各領域の熱処理の条件を、前記領域を処理する加熱手段により供給されるパワーを変更することによって合わせるのが好ましい。例えば、一又は複数のレーザー源のうち一つのパワー(強度)を、上流で測定される特性について得られた測定値に応じて、変更してもよい。バーナーの場合には、バーナーのパワーを、ガスの流量を増加することによって増大してもよい。
【0058】
熱処理の条件について他の調節が可能である。例えば、合焦手段(レーザーライン、マイクロ波源など)と組み合わせた加熱手段の場合には、調節は、焦点面の変位を可能にする合焦手段の変位からなってもよい。また、調節は、コーティングのところでの強度を変更するためにレーザーラインの少なくとも一つの寸法を変更すること、又はレーザーの波長を変更(調節可能なレーザーである場合)することを含んでもよい。また、熱処理の調節は、基材の走行速度を変更すること、又はパルス状のレーザー源である場合にはデューティサイクルを変更することを含んでもよい。
【0059】
熱処理の条件の調節は、加熱手段のうちの一つ、あるいは全ての加熱手段の停止を含んでもよい。例えば、測定手段が所定の領域におけるコーティングの欠陥(特に基材のサイズの差異によるもの)を検出した場合には、コーティングの欠陥がある領域の向かい側の加熱手段(例えばレーザーライン)を停止してもよい。コーティングを被着する間に問題が生じた場合(例えばカソードの逆転が、少なくとも局所的に被着されている非常に高い反射率のコーティングを生じる場合)には、そのダメージを回避するために関与する一又は複数のレーザー源を停止(自動又は手動で)してもよい。
【0060】
もちろん、測定される特性(又は測定手段)と加熱手段とのあらゆる可能な組み合わせが、簡潔さを理由としてそれらの全てを本明細書で詳細に全て開示しているわけではないが、可能である。
【0061】
特に好ましい一実施形態によれば、コーティングの光学的特性(特に吸収率)を、光学センサーを用いて局所的に測定し、かつレーザーラインのパワーを、得られた測定値(吸収率)に応じて調節する。この実施形態は、レーザーラインによって処理される吸収層の場合に特に好適であり、本発明の処理は、レーザー源のパワーに作用することによって層の組成、厚さ、又は化学量論の不均一性を補償することを可能にする。吸収率が所定の領域で局所的により高い場合には、この領域を処理するレーザー源のパワーを減じ、この逆もまた然りである。他方で、基材の全幅を処理する単一のレーザーラインの使用、又は同様にいくつかのラインの使用は、コーティングの不均一性を増大させる可能性がある。この実施形態では、吸収率をセンサーで直接的に測定することが必ずしも必要なのではなく、例えば透過率又は反射率の測定を用いて算出してもよいことが明確に理解される。
【0062】
基材を、任意の機械式の搬送手段を用いて、例えば並進的に移動するベルト、ローラー、又はトレイを用いて移動させてもよい。当該搬送装置は、走行速度を制御しかつ統制することを可能にする。搬送手段は、剛性のシャーシ及び複数のローラーを含むのが好ましい。ローラーのピッチは、50〜300mmの範囲内であるのが有利である。ローラーは、プラスチック包装で被着された金属リング、典型的には鋼製の金属リングを含むのが好ましい。ローラーは、典型的にはベアリング一つあたりローラー三つの割合で、クリアランスを低減するベアリングに取り付けるのが好ましい。搬送する面の完璧な平坦性を確保するために、それぞれのローラーの配置を調節できるのが有利である。ローラーを、少なくとも一つのモーターで駆動するピニオン又はチェーン、好ましくはタンジェンシャルチェーンを用いて動かすのが好ましい。
【0063】
基材が柔軟な高分子有機材料から作られている場合には、それを、ひと続きのローラーの形態のフィルム巻き上げ機構を用いて移動させてもよい。この場合には、基材の厚さ(ひいてはその柔軟性)と見込まれるたるみの発生に熱処理が与える影響とを考慮して、ローラー間の距離を適切に選択することによって平坦性を確保してもよい。
【0064】
基材の走行速度は、4m/min以上、特に5m/min以上、6m/min以上、7m/min以上、あるいは8m/min以上、9m/min以上、又は10m/min以上であるのが有利である。一部の実施形態によれば、基材の走行速度は、12m/min以上、15m/min以上、特に20m/min以上、さらには25m/min以上、又は30m/min以上である。可能な限り均一な処理を確保するために、基材の走行速度は、処理の間に、その公称値に対して相対的にみれば10%以下、特に2%以下、あるいは1%以下で変化する。
【0065】
もちろん、基材の表面に好適に放射線を当てることができるという条件で、基材及び加熱手段のあらゆる相対的な配置が可能である。より一般的には、基材を水平に又は実質的に水平に配置するが、垂直に、又はあらゆる可能な傾斜で配置してもよい。基材を水平に配置する場合には、加熱手段を、一般的には基材の上面を処理するように配置する。また、加熱手段で基材の底面を処理してもよい。この場合には、基材搬送装置には処理される領域に熱が届くのを可能にすることが必要とされる。これは、例えば搬送ローラーを用いる場合である。ローラーは、隔てられた物体であるため、連続する二つのローラーの間に位置する領域に加熱手段を配置することが可能である。
【0066】
基材の両面を処理する場合には、基材の両面に位置する多数の加熱手段を採用することが可能であり、後者は、水平配置か、垂直配置か、又は任意の傾斜配置かのいずれかである。これらの加熱手段は、同一ないし異なっていてもよく、特に複数のレーザーの場合にはそれらの波長を異ならせてもよく、とりわけ処理されるそれぞれのコーティングに合わせてもよい。例として、基材の第一の面に位置する第一のコーティング(例えば低放射率コーティング)を、例えば可視又は近赤外で放出する第一のレーザー放射によって処理してもよく、さらに前記基材の第二の面に位置する第二のコーティング(例えば光触媒コーティング)を、例えば赤外で放射する第二のレーザー放射によって処理してもよい。
【0067】
本発明の熱処理装置は、層被着ライン、例えばマグネトロンスパッタリング被着ライン(マグネトロン工程)又は化学気相成長(CVD)ライン、特に、真空下でのプラズマ化学気相成長(PECVD)ライン又は大気圧下でのプラズマ化学気相成長ライン(AP−PECVD)に組み込んでもよい。一般的に、ラインは、基材処理装置、被着ユニット、光学制御装置、及びスタッキング装置を含む。例えば、基材は、各装置又は各ユニットを相次いで通過するコンベヤーローラー上を走行する。
【0068】
本発明の熱処理装置は、コーティング被着ユニットの直後に、例えば被着ユニットの出口に位置するのが好ましい。したがって、コーティングを被着した後でコーティングされた基材を、被着ユニットの出口で、かつ光学制御装置の前のラインで、又は光学制御装置の後かつ基材スタッキング装置の前のラインで処理するのがよい。
【0069】
また、熱処理装置を、所定の場合において、被着ユニットに組み込んでもよい。例えば、レーザー源を、スパッタリング被着ユニットのチャンバーのうち一つに、特に大気が希薄な、とりわけ10−6mbarと10−2mbarの間の圧力のチャンバーに導入してもよい。また、熱処理装置を被着ユニットの外部に配置してもよいが、前記ユニットの内部に位置する基材を処理するようにする。例えば、レーザーを使用する場合には、この目的のために、用いる放射線の波長を透過する窓であって、レーザー放射線が通過して層を処理する窓を設けることができる。この場合には、層(例えば銀の層)を処理してから、続いて同一ユニットにおいて別の層を被着することができる。
【0070】
熱処理装置が、被着ユニットの外部にあろうと、その内部に組み込まれていようと、これらの「インライン」工程は、被着段階と熱処理の合間にガラス基材を積層することが必要なオフライン作業を伴う方法にとって好ましい。
【0071】
しかしながら、オフライン作業を伴う方法は、本発明の熱処理を被着を行う場所とは異なる場所、例えばガラスの転化を行う場所で実行する場合に、有利であろう。したがって、熱処理装置を、層被着ライン以外のラインに組み込んでもよい。例えば、これを、多重グレージング(特に二重又は三重グレージング)の製造ラインに、又は積層グレージングの製造ライン、湾曲及び/若しくは強化グレージングの製造ラインに組み込んでもよい。積層、湾曲、又は強化グレージングは、建造物のグレージングや自動車のグレージングの両方として用いることができる。これらの種々の場合において、本発明の熱処理は、多重グレージング又は積層グレージングを製造する前に行うのが好ましい。しかしながら、熱処理を、二重グレージング又は積層グレージングを製造した後に行ってもよい。
【0072】
加熱手段がレーザー源である場合には、熱処理装置は、レーザー放射線に対するあらゆる接触を防止することによって人を保護し、かつあらゆる汚染、特に基材、光学素子、又は処理領域の汚染を防止することを可能にする密閉チャンバーに配置するのが好ましい。
【0073】
コーティングは、任意のタイプの方法、特に大部分が非晶質又はナノ結晶質である層を生成する方法、例えばスパッタリング法、とりわけマグネトロンスパッタリング法、プラズマ化学気相成長(PECVD)法、真空蒸着法、又はゾル―ゲル法によって、基材に被着してもよい。
【0074】
コーティングは、スパッタリング、とりわけマグネトロンスパッタリング(マグネトロン法)によって被着するのが好ましい。
【0075】
より簡素化するためには、コーティングの熱処理を空気中で及び/又は大気圧下で行うのが好ましい。しかしながら、多層積層体の熱処理を実際の真空被着チャンバー内で、例えばその後で被着を行う以前に、行うことが可能である。
【0076】
基材は、ガラス製、ガラスセラミック製、又は高分子有機材料製であるのが好ましい。これは、透明、無着色(この場合にはクリア、又は超クリアガラスである)、又は着色、例えば青色、灰色、緑色、若しくは青銅色の着色であるのが好ましい。ガラスはソーダ−石灰−シリカタイプのが好ましいが、また、ホウケイ酸塩又はアルミノホウケイ酸塩タイプのガラスでもよい。好ましい高分子有機材料は、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、あるいはフルオロポリマー類、例えばエチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)などである。基材は、1m超かこれに等しく、2m超かこれに等しく、又は3m超かこれに等しい少なくとも一つの寸法を有するのが有利である。基材の厚さは、一般的には0.5mmと19mmの間、好ましくは0.7mmと9mmの間、特に2mmと8mmの間、又は4mmと6mmの間で様々である。基材は、平坦であるか、湾曲し、あるいは柔軟であってよい。
【0077】
ガラス基材は、フロートガラスタイプ、すなわち溶融ガラスを溶融スズの浴(「フロート」浴)に注ぐものである方法によって得ることができるフロートガラスタイプであるのが好ましい。この場合には、処理されるコーティングは、基材の「スズ」側と同様に「大気」側にも被着することができる。「大気」側及び「スズ」側という用語は、それぞれフロート浴を覆う大気と接触する基材の側、及び溶融スズと接触する基材の側を意味すると理解される。スズ側は、ガラスの構造中に拡散したスズをその表面付近に少量含有している。また、ガラス基材を、二つのロールの間での圧延、特にガラスの表面にパターンを刻み込むことを可能にする技術である圧延によって得てもよい。
【0078】
熱処理は、特に結晶のサイズ及び/又は結晶相の量の増大によって、コーティングの結晶化を向上することを意図するものが好ましい。また、熱処理は、任意選択的に特定の結晶相の成長を促進することによって、金属の層、又は酸素が不足当量である金属酸化物の層を酸化することを意図するものでもよい。
【0079】
熱処理工程は、コーティングの溶融、さらには部分的な溶融を行うものでないのが好ましい。処理がコーティングの結晶化を向上することを意図するものである場合には、熱処理は、固相を維持したまま、コーティング中に既に存在している核の周囲での結晶成長の物理化学的な機構によってコーティングの結晶化を促進するのに十分なエネルギーを提供することを可能にする。一方で非常に高い温度が要求されるため、かつ他方で例えばコーティングの光学的外観を変更することによって、その厚さ又は屈折率を変更し、ひいてはその特性を変更しかねないため、この処理は、溶融材料から出発する冷却による結晶化の機構を用いない。
【0080】
コーティングは、金属、酸化物、窒化物、炭化物、酸窒化物、又はそれらのいずれかの混合物の少なくとも一つの薄層を含むのが好ましい。それは、金属層(特に銀若しくはモリブデン金属層をベースとする、又は銀若しくはモリブデンからなる金属層)、酸化チタン層、及び透明導電性層から選択される薄層を含むのが好ましい。
【0081】
透明導電性層は、典型的には混合インジウムスズ酸化物(「ITO」と称される)をベースとし、混合インジウムスズ酸化物(「IZO」と称される)をベースとし、ガリウムドープ型若しくはアルミニウムドープ型酸化亜鉛をベースとし、ニオブドープ型酸化チタンをベースとし、スズ酸カドミウム若しくはスズ酸亜鉛をベースとし、又はフッ素及び/若しくはアンチモンがドープされた酸化スズをベースとする。これらの種々の層は、透明にもかかわらず導電性又は半導電性であり、かつこれらの二つの特性が必要な多くのシステム、液晶ディスプレー(LCD)、ソーラー若しくは光起電性コレクター、エレクトロクロミック若しくはエレクトロルミネセント装置(特にLED、OLED)などで用いられる層になる顕著な特徴を有している。一般的には所望のシート抵抗によって決定されるこれらの厚さは、典型的には境界値を含めて50nmと1000nmの間である。
【0082】
薄い金属層、例えば金属銀に基づくのみならず金属モリブデン又は金属ニオブにも基づく薄い金属層は、電気伝導の特性及び赤外放射線の反射の特性を有し、ひいては太陽光制御グレージング、特にソーラープロテクショングレージング(入ってくる太陽エネルギーの量を減じるため)、又は低放射率グレージング(建造物又は自動車の外部に消散されるエネルギーの量を減じるため)で用いられる。それらの物理的厚さは、典型的には4nmと20nmの間である(境界値を含む)。低放射性多層積層体は、多くの場合いくつかの銀層、典型的には、二つ又は三つの銀層を含むことがある。銀層は、一般的には摩耗からそれを保護し、かつコーティングの反射性の発現を調節することを可能にする誘電体層によって囲まれている。モリブデンは、CuInGa1−xSe(この式中のxは0〜1である)をベースとする光電池用の電極材料として用いられることがよくある。本発明の処理は、その抵抗率を低減することを可能にする。他の材料、例えばチタン、特にそれを酸化して光触媒酸化チタン層を得るためのチタンなどを、本発明にしたがって処理してもよい。
【0083】
処理されるコーティングが低放射率多層積層体である場合には、それは、基材から始めて、少なくとも第一の誘電体層、少なくとも銀層、任意選択的にオーバーブロッカー層を含む第一のコーティングと、少なくとも第二の誘電体層を含む第二のコーティングとを含むのが好ましい。
【0084】
銀層の物理的厚さは、6nmと20nmの間であるのが好ましい。
【0085】
オーバーブロッカー層は、後続の層を被着(例えば後者を酸化雰囲気又は窒化雰囲気で被着する場合)している間、及び強化型又は湾曲型の任意選択的な熱処理の際に、銀層を保護することを意図している。
【0086】
また、銀層を、アンダーブロッカー層の上にそれと接触させて被着してもよい。したがって、多層積層体は、銀層に隣接しているオーバーブロッカー層及び/又はアンダーブロッカー層を含んでもよい。
【0087】
ブロッカー(アンダーブロッカー及び/又はオーバーブロッカー)層は、一般的にはニッケル、クロム、チタン、ニオブ、又はそれら種々の金属の合金から選択される金属をベースとする。特にニッケル−チタン合金(とりわけ各金属を重量で約50%ずつ含有しているもの)で製造されたもの、及びニッケル−クロム合金(とりわけニッケルを重量で80%、及びクロムを重量で20%含有しているもの)で製造されたものを挙げることができる。また、オーバーロッカー層は、いくつか重ね合わせた層、例えば基材から遠ざかるにつれて、チタン層、及びその次のニッケル合金(とりわけニッケル−クロム合金)層から構成されていてもよく、又はこの逆もまた然りである。また、前述の種々の金属又は合金を、部分的に酸化してもよく、かつとりわけ酸素について不足当量(例えばTiO又はNiCrO)にしてもよい。
【0088】
これらのブロッカー(アンダーブロッカー及び/又はオーバーブロッカー)層は、非常に薄く、通常、多層積層体の光の透過率に影響を及ぼさないようにするために1nm未満の厚さを有し、かつ本発明の熱処理の際に部分的に酸化されていてもよい。一般的には、ブロッカー層は、大気又は基材から来る酸素を捕捉することができ、したがって銀層が酸化されることを防止することができる犠牲層である。
【0089】
第一及び/又は第二の誘電体層(特に第二誘電体層の場合には、基材から一番遠いもの)は、典型的には酸化物(とりわけスズ酸化物)、あるいは好ましくは窒化物、とりわけ窒化ケイ素である。一般的に窒化ケイ素には、スパッタリング技術によってそれを被着することをより容易にするために、例えばアルミニウム又はホウ素がドープされていてもよい。ドープの程度(ケイ素の量に対する原子%相当)は、一般的には2%以下である。これらの誘電体層の機能は、化学的又は機械的攻撃から銀層を保護することであり、また、これらは、干渉現象を介して多層積層体の光学的特性、とりわけ反射率に影響を及ぼす。
【0090】
第一のコーティングは、一つの誘電体層又は多数の、典型的には二つ〜四つの誘電体層を含んでもよい。第二のコーティングは、一つの誘電体層又は多数の、典型的には二つ〜三つの誘電体層を含んでもよい。これらの誘電体層は、窒化ケイ素、酸化チタン、酸化スズ、及び酸化亜鉛、又はそれらのいずれかの混合物若しくは固溶体、例えば酸化スズ亜鉛、又は酸化チタン亜鉛から選択される材料で製造されているのが好ましい。第一のコーティングであれ第二のコーティングであれ、誘電体層の物理的厚さ、又は全ての誘電体層の合計物理的厚さは、15nmと60nmの間、とりわけ20nmと50nmの間であるのが好ましい。
【0091】
第一のコーティングは、銀層の直下又は任意選択的なアンダーブロッカー層の直下に、湿潤層を含むのが好ましい。この湿潤層の機能は、銀層の湿潤性及び結合性を増大することである。酸化亜鉛は、とりわけアルミニウムをドープした場合には、この点について特に有利になることが判明している。
【0092】
また、第一のコーティングは、湿潤層の直下に平滑層を含んでもよい。この平滑層は、部分的又は完璧に非晶質混合酸化物であり(ひいては非常に小さい粗さを有するものである)、この平滑層の機能は、湿潤層の優先結晶方位の成長を促進し、それによりエピタキシャル現象による銀の結晶化を促進することである。平滑層は、Sn、Zn、In、Ga,及びSbから選択される少なくとも二種の金属の混合酸化物からなるのが好ましい。好ましい酸化物は、アンチモンドープ型のインジウムスズ酸化物である。
【0093】
第一のコーティングにおいて、湿潤層又は任意選択的な平滑層は、第一の誘電体層上に直接被着するのが好ましい。第一の誘電体層は、基材上に直接被着するのが好ましい。多層積層体の光学的特性(とりわけ反射性の発現)を最も有利に適合させるために、第一の誘電体層を、代案として、別の酸化物層又は窒化物層、例えば酸化チタン層の上に被着してもよい。
【0094】
第二のコーティング内において、第二の誘電体層を、多層積層体の光学的特性を適合させることを意図して、銀層上に、好ましくはオーバーブロッカー上に、あるいは他の酸化物層若しくは窒化物層上に直接被着してもよい。例えば、酸化亜鉛層、とりわけアルミニウムがドープされたもの、又は酸化スズ層を、オーバーブロッカーと好ましくは窒化ケイ素製の第二の誘電体層の間に配置してもよい。酸化亜鉛、とりわけアルミニウムドープ型酸化亜鉛は、銀層とその上方の層の間の密着性を向上させるのを可能にする。
【0095】
したがって、本発明にしたがって処理される多層積層体は、少なくとも一つのZnO/Ag/ZnOの連続体を含むのが好ましい。酸化亜鉛には、アルミニウムがドープされていてもよい。アンダーブロッカー層が、銀層とその下方の層の間に配置されていてもよい。代替案として又は併合的に、オーバーブロッカー層を銀層とその上方の層の間に配置してもよい。
【0096】
最後に、第二のコーティングの上には、当該技術分野においてオーバーコートと称されることもある上層が配置されていてもよい。多層積層体のこの最終層、したがって周囲空気と接触するこの最終層は、あらゆる機械的な攻撃(引っかき傷など)又は化学的な攻撃から多層積層体を保護することを意図している。このオーバーコートは、多層積層体の反射性の発現を妨げることのないように一般的には非常に薄い(その厚さは典型的には1nmと5nmの間である)。それは、不足当量の形で被着されている、酸化チタン又は混合スズ亜鉛酸化物、とりわけアンチモンがドープされているものに基づくのが好ましい。
【0097】
多層積層体は、一又は複数の銀層、とりわけ二つ又は三つの銀層を含んでもよい。いくつかの銀層が存在する場合には、上述の一般的な構造を繰り返してもよい。この場合には、所定の銀層に対する第二のコーティング(したがって銀層の上に位置する)は、一般的には次の銀層に対する第一のコーティングと同一である。
【0098】
酸化チタンをベースとする薄層は、紫外放射線の作用の下で有機化合物の分解を促進し、かつ水の流れの作用の下で無機質の汚染(ほこり)の除去を促進することによって、自浄性であるという顕著な特徴を有している。これらの物理的厚さは、境界値を含めて2nmと50nmの間、特に5nmと20nmの間であるのが好ましい。
【0099】
上述した種々の層は、それらが少なくとも部分的に結晶化された状態にある場合に向上したそれらいくつかの特性から分かる、共通した顕著な特徴を有している。一般的に、これらの層の結晶化の度合(重量による、又は体積による結晶化した材料の割合)、及び結晶粒のサイズ(又はX線回折法によって測定されるコヒーレント回折ドメインのサイズ)を最大化し、あるいは、所定の場合において特定の結晶学的形態に有利に働くようにすることが求められている。
【0100】
酸化チタンの場合には、アナターゼ型で結晶化した酸化チタンは、非晶質酸化チタン又はルチル型若しくはブルカイト型で結晶化した酸化チタンより、有機化合物の分解に関してはるかに効率的であることが知られている。
【0101】
また、結晶化の度合が高く、結果として非晶質銀の残留含有量が低い銀層は、大部分が非晶質である銀層より、より低い放射率とより低い抵抗率を有することも知られている。したがって、これらの層の電気伝導性及び低放射率の特性は向上する。
【0102】
同様に、前記透明導電性層、とりわけドープ型酸化亜鉛、フッ素ドープ型酸化スズ若しくはスズドープ型酸化インジウムをベースとするものは、その結晶化の度合が高い場合には、よりいっそう高い電気伝導性を有する。
【0103】
コーティングが導電性である場合には、そのシート抵抗を、熱処理によって10%以上、15%以上、あるいは20%以上低減するのが好ましい。ここでは、これは処理前のシート抵抗の値に関する相対的減少について言及している。
【0104】
他のコーティングを本発明にしたがって処理してもよい。とりわけ、制限されることなく、CdTe又は黄銅鉱、例えばCuInGa1−xSeタイプの黄銅鉱(この式のxは0〜1である)をベースとする(又はそれで構成されている)コーティングを挙げることができる。また、エナメルタイプ(例えばスクリーン印刷により被着)、又は塗料若しくはラッカータイプ(典型的には有機樹脂及び顔料を含む)のコーティングを挙げることもできる。
【0105】
本発明にしたがって得られるコーティングされた基材は、単一、多重、又は積層グレージング、ミラー、及びガラス壁装材で用いることができる。コーティングが低放射率多層積層体であり、かつガスが充填されたキャビティによって分離されている少なくとも二つのガラスシートを含む多重グレージングの場合には、多層積層体を、前記ガスが充填されたキャビティに接する面の上、とりわけ外部に対する面2の上(すなわち、建築物の外側に接する基材の外部に向けられる面に対して反対側の面の上)、又は面3の上(すなわち、建築物の外側から出発して二番目の基材の外部に向けられる面の上)に配置するのが好ましい。コーティングが光触媒層である場合、面1の上、したがって建築物の外側に接する面の上に配置するのが好ましい。
【0106】
また、本発明にしたがって得られるコーティングされた基材を、光電池、グレージング、ソーラーパネルで用いてもよく、本発明にしたがって処理されるコーティングは、例えば黄銅鉱(特にCIGS−CuInGa1−xSeタイプの黄銅鉱(式中のxは0〜1である))をベースとし、又は非晶質及び/若しくは多結晶シリコンをベースとし、又はCdTeをベースとする多層積層体におけるZnO:Al又はZnO:Gaをベースとする電極にしてもよい。
【0107】
また、本発明にしたがって得られるコーティングされた基材を、LCD(液晶ディスプレー)タイプ、OLED(有機発光ダイオード)タイプ、又はFED(電界放出ディスプレー)タイプのディスプレースクリーンで用いてもよく、本発明にしたがって処理されるコーティングを、例えばITOの電気伝導性層にしてもよい。また、それらをエレクトロクロミックグレージングで用いてもよく、本発明にしたがって処理される薄層を、例えばフランス国特許出願公開等2833107号明細書で教示されているような透明導電性層にしてもよい。
【0108】
以下の非限定的な図及び代表的な実施形態を用いて本発明を例示する。
【図面の簡単な説明】
【0109】
図1】本発明の第一の実施形態の概略上面図である。
図2】本発明の第二の実施形態の概略上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0110】
コーティング(図示しない)を備えた基材1は、熱処理装置の中を矢印で示す方向に走行している。この装置は、基材1が走行する方向に対して垂直なラインに沿って配置され、局所的に特性を測定するための手段3a〜3gと、線形配列を有し、ここでは数が7つの加熱手段2a〜2g、典型的にはレーザーラインである加熱手段2a〜2gとを含んでいる。図1の場合、加熱手段2a〜2gは、基材1が走行する方向に対して垂直な二つの列に沿って互い違いの列で配置されている。図2の場合には、加熱手段2a〜2gは、単一のラインを形成するように一列で配置されている。
【0111】
また、装置は、熱処理を調節する手段、例えばレーザーライン2a〜2gのパワーを調節することを可能にする手段を含む。測定手段3a〜3gは、例えば、コーティングの局所的な吸収率を測定することを可能にする光学センサーである。
【0112】
基材の各点が、最初に、1つの領域あたり一つの測定を可能にする局所的な測定手段3a〜3gに向かい合って走行し、ここでは7つの測定がなされる。これらの領域のそれぞれが対応する加熱手段2a〜2gに向かい合うときに、加熱処理を当該領域で行った測定に応じて調節する。例えばセンサー3cが所定の領域における吸収率の低下を観測するのを可能にする場合、当該領域がレーザー2cの向かい側に到着したときにこのレーザーのパワーを増加させる。
【0113】
本発明の一例において、6×3.2mの寸法及び4mmの厚さを有し、多層積層体のスパッタリング法によってコーティングした、製品名SGG Planiluxとしてサン−ゴバン・グラス・フランス社から販売されているソーダ石灰シリカフロートガラスの基材を処理した。この多層積層体は銀の薄層を含む低放射率タイプのものであり、熱処理の目的は、層をより良く結晶化して、多層積層体の放射率を低減することであった。コーティングの平均吸収率(熱処理前)は、用いたレーザーの波長で8%であった。
【0114】
この吸収率は、特にカソードの摩耗の差が原因となり、基材の全幅にわたって同一ではなかった。したがって、この代表的な実施形態で処理した基材の事例では、吸収率は、一端で9%であり、その反対の端から始まって幅の三分の一のところでは7.5%であった。
【0115】
熱処理装置は、各30cmの長さを有する11のレーザーラインを使用したことを除き、図1と同じタイプのものであった。レーザーラインの二つの列の間の距離(基材が走行する方向で測定)は、1mmであった。これらのレーザーラインは非常にわずかに重複し、したがってコーティングの特定の箇所は、二つの隣接するラインによって連続的に処理された。しかしながら、レーザーラインの列の間の距離を考慮して、重複する領域は、第二の列のレーザーによって処理を受ける前に周囲温度に冷却される時間があった。
【0116】
レーザーラインの幅は40μmであり、その線形パワー密度は450W/cmであった。レーザー源は、980nmの波長で連続放射するInGaAs半導体レーザーであった。これらの条件の下で、10m/分の走行速度に対して、コーティングの温度の上昇は450℃であった。
【0117】
コーティングの局所的な吸収率を測定することを可能にする11のセンサーを、レーザーラインから約50cm上流にあるラインに沿って配置した。Optoplex社から販売されているこれらのセンサーは、ランプ及びフォトダイオードを含んでいた。図1の場合のように、それぞれのセンサーがレーザーラインにより後で処理される領域の吸収率を測定するのを可能にする。
【0118】
ここでは、処理の調節は、上流で測定した吸収率に応じてレーザーのパワーを補正するものであった。補正は比例式であり、半導体レーザーに送る電流によってレーザーのパワーを吸収率の増加に比例して減少させ、この逆もまた然りであった。測定と補正の間には遅延があって、この遅延の時間は、センサーとレーザーラインの間の距離を移動するのに必要な時間に相当した。
【0119】
吸収率の1%の低下をレーザーのパワーの1%の増加によって補償したという意味で、補正は線形であった。したがって、複数のセンサーのうちの一つによって局所的に測定された吸収率がたったの7%である場合には、対応するレーザーラインの線形パワー密度を約500W/cmに増加させる。逆に言えば、吸収率が9%である端部では、線形パワー密度を、400W/cmに低減させる。
本発明の態様は、以下のとおりである:
〈態様1〉
面のうち少なくとも一つの上にコーティングを備えた基材(1)を得る方法であり、前記コーティングを前記基材(1)の上に被着し、次いで、前記コーティングを走行する前記基材(1)の向かい側にある少なくとも一つの加熱手段(2a)を用いて熱処理する方法であって、前記熱処理の前に、前記コーティングの少なくとも一つの特性の少なくとも一つの測定を走行している前記基材(1)について行い、かつ前記熱処理の条件を前もって得た測定値に応じて適合させるようにする、コーティングを備えた基材(1)を得る方法。
〈態様2〉
前記コーティングをそれぞれ独立に制御可能でありかつ走行する前記基材(1)の向かい側にある少なくとも二つの加熱手段(2a,2b)を用いて熱処理し、各加熱手段(2a,2b)は前記コーティングの異なる領域を処理し、さらに、前記熱処理の前に各前記領域に対して、前記コーティングの少なくとも一つの特性の少なくとも一つの測定を走行している前記基材(1)について行い、かつ前もって得た測定値に応じて各領域の前記熱処理の条件を当該領域に対して適合させるようにする、請求項1に記載の方法。
〈態様3〉
前記加熱手段(2a,2b)を、レーザー、プラズマトーチ、マイクロ波源、バーナー、及びインダクターから選択する、請求項1又は2に記載の方法。
〈態様4〉
前記レーザー(2a,2b)が線状に並んでいる、請求項3に記載の方法。
〈態様5〉
前記熱処理の前に測定する前記コーティングの少なくとも一つの特性を、光学的、電気的、又は寸法的な特性から選択する、請求項1〜4のうちの一つに記載の方法。
〈態様6〉
前記光学的な特性を、吸収率、反射率、透過率、及び色から選択する、請求項5に記載の方法。
〈態様7〉
前記電気的な特性を、抵抗率、導電率、及びシート抵抗から選択する、請求項5に記載の方法。
〈態様8〉
前記熱処理の条件の適合を自動的に行う、請求項1〜7のうちの一つに記載の方法。
〈態様9〉
前記熱処理の条件を、前記加熱手段(2a)から供給されるパワーを変更することによって適合させる、請求項1〜8のうちの一つに記載の方法。
〈態様10〉
前記基材(1)が、ガラス製、ガラスセラミック製、又は高分子有機材料製である、請求項1〜9のうちの一つに記載の方法。
〈態様11〉
前記コーティングが、金属、酸化物、窒化物、炭化物、酸窒化物、又はそれらのいずれかの混合物の少なくとも一つの薄層を含む、請求項1〜10のうちの一つに記載の方法。
〈態様12〉
前記コーティングが銀ベースの層を少なくとも一つ含む、請求項11に記載の方法。
〈態様13〉
前記熱処理工程がコーティングの溶融を、さらには部分的溶融さえも伴わない、請求項1〜12のうちの一つに記載の方法。
〈態様14〉
基材(1)の上に被着したコーティングの熱処理用装置であって、前記基材(1)がそれに向き合って走行し得る少なくとも一つの加熱手段(2a)と、前記加熱手段(2a)の上流に配置され前記コーティングの少なくとも一つの特性を測定するための少なくとも一つの測定手段(3a)と、前もって得た測定値に応じて熱処理条件を適合させるための手段とを含む、コーティングの熱処理用装置。
〈態様15〉
それぞれ独立に制御可能でありかつそれに向き合って前記基材(1)が走行し得る少なくとも二つの加熱手段(2a,2b)であって、おのおのが前記コーティングの異なる領域を処理することのできる加熱手段(2a,2b)と、前記加熱手段(2a,2b)の上流に配置され領域のそれぞれにおける前記コーティングの少なくとも一つの特性を局所的に測定するための手段(3a,3b)と、前もって得た測定値に応じて各領域の熱処理条件を当該領域に対して適合させるための手段とを含む、請求項14に記載の装置。
図1
図2