(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記第1基準ガス室における、上記流れ方向の上流側端部を構成する内壁には、曲面状の角部(355)が形成されている、請求項1〜5のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1等に示される構造を有するガスセンサにおいては、発明者らの鋭意研究の結果、内燃機関の空燃比が理論空燃比よりもリッチ側にある場合のリッチガスが測定ガスとして導入される際に、センサセルが設けられた第1固体電解質体に隣接する基準ガス室の容積と、センサセルが設けられていない第2固体電解質体に隣接する基準ガス室の容積との違いが、センサセルによるセンサ出力に影響を与えることが見出された。この理由としては、リッチガスがガスセンサに導入される際に、センサセルが設けられた第1固体電解質体における酸素イオンの移動量と、センサセルが設けられていない第2固体電解質体における酸素イオンの移動量とに差が生じることが起因していると考えられる。
【0006】
特許文献1のガスセンサにおいては、センサセルが設けられた第1固体電解質体に隣接する基準ガス室の容積と、センサセルが設けられていない第2固体電解質体に隣接する基準ガス室の容積とが同等である。発明者らによれば、2つの基準ガス室の容積に何ら工夫がされていないと、リッチガスが導入される際に、センサセルによるセンサ出力の変動を小さく抑えることが難しくなることが見出された。
【0007】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、センサセルによるセンサ出力の変動を小さく抑えることができるガスセンサを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、酸素を含む測定ガス(G)中の特定ガス成分の濃度を測定するためのセンサ素子(1)を備えるガスセンサ(10)であって、
上記センサ素子は、
上記測定ガスが導入される測定ガス室(3)と、
基準ガス(A)が導入される第1基準ガス室(31)及び第2基準ガス室(32)と、
酸素イオン伝導性を有し、上記第1基準ガス室と上記測定ガス室の間に配置され、上記第1基準ガス室に面する第1主面(21)、及び上記測定ガス室に面する第2主面(22)を有する板状の第1固体電解質体(2A)と、
酸素イオン伝導性を有し、上記測定ガス室を介して上記第1固体電解質体と対向して配置され、上記測定ガス室に面する第1主面(23)、及び上記第2基準ガス室に面する第2主面(24)を有する第2固体電解質体(2B)と、
上記第1固体電解質体の上記第1主面に形成された第1基準電極(42A)、上記第1固体電解質体の上記第2主面に形成された第1ポンプ電極(41A)、及び上記第1基準電極と上記第1ポンプ電極との間に挟まれた上記第1固体電解質体の一部(201A)によって構成され、上記第1基準電極と上記第1ポンプ電極との間への通電によって上記測定ガス室内の酸素濃度を調整する第1ポンプセル(4A)と、
上記第2固体電解質体の上記第1主面に形成された第2ポンプ電極(41B)、上記第2固体電解質体の上記第2主面に形成された第2基準電極(42B)、及び上記第2ポンプ電極と上記第2基準電極との間に挟まれた上記第2固体電解質体の一部(201B)によって構成され、上記第2基準電極と上記第2ポンプ電極との間への通電によって上記測定ガス室内の酸素濃度を調整する第2ポンプセル(4B)と、
上記第1固体電解質体の上記第1主面に形成された第3基準電極(52)、上記第1固体電解質体の上記第2主面における、上記第1ポンプセルよりも上記測定ガスの流れ方向(F)の下流側に形成されたセンサ電極(51)、及び上記第3基準電極と上記センサ電極との間に挟まれた上記第1固体電解質体の一部(202A)によって構成され、上記第3基準電極と上記センサ電極との間に流れる電流に基づいて、上記各ポンプセルによって酸素濃度が調整された後の測定ガスにおける特定ガス成分を測定するためのセンサセル(5)と、
上記第1固体電解質体の上記第1主面又は上記第2固体電解質体の上記第2主面に対向して配置されたヒータ(6)と、を備え、
上記第1基準ガス室の上記流れ方向に直交する第1断面積(S1)を、上記第1基準ガス室の上記流れ方向の第1長さ(L1)によって除した値(S1/L1)は、上記第2基準ガス室の上記流れ方向に直交する第2断面積(S2)を、上記第2基準ガス室の上記流れ方向の第2長さ(L2)によって除した値(S2/L2)よりも、上記第1基準ガス室及び上記第2基準ガス室の上記流れ方向の全長に亘って大きい、ガスセンサにある。
本発明の他の態様は、酸素を含む測定ガス(G)中の特定ガス成分の濃度を測定するためのセンサ素子(1)を備えるガスセンサ(10)であって、
上記センサ素子は、
上記測定ガスが導入される測定ガス室(3)と、
基準ガス(A)が導入される第1基準ガス室(31)及び第2基準ガス室(32)と、
酸素イオン伝導性を有し、上記第1基準ガス室と上記測定ガス室の間に配置され、上記第1基準ガス室に面する第1主面(21)、及び上記測定ガス室に面する第2主面(22)を有する板状の第1固体電解質体(2A)と、
酸素イオン伝導性を有し、上記測定ガス室を介して上記第1固体電解質体と対向して配置され、上記測定ガス室に面する第1主面(23)、及び上記第2基準ガス室に面する第2主面(24)を有する第2固体電解質体(2B)と、
上記第1固体電解質体の上記第1主面に形成された第1基準電極(42A)、上記第1固体電解質体の上記第2主面に形成された第1ポンプ電極(41A)、及び上記第1基準電極と上記第1ポンプ電極との間に挟まれた上記第1固体電解質体の一部(201A)によって構成され、上記第1基準電極と上記第1ポンプ電極との間への通電によって上記測定ガス室内の酸素濃度を調整する第1ポンプセル(4A)と、
上記第2固体電解質体の上記第1主面に形成された第2ポンプ電極(41B)、上記第2固体電解質体の上記第2主面に形成された第2基準電極(42B)、及び上記第2ポンプ電極と上記第2基準電極との間に挟まれた上記第2固体電解質体の一部(201B)によって構成され、上記第2基準電極と上記第2ポンプ電極との間への通電によって上記測定ガス室内の酸素濃度を調整する第2ポンプセル(4B)と、
上記第1固体電解質体の上記第1主面に形成された第3基準電極(52)、上記第1固体電解質体の上記第2主面における、上記第1ポンプセルよりも上記測定ガスの流れ方向(F)の下流側に形成されたセンサ電極(51)、及び上記第3基準電極と上記センサ電極との間に挟まれた上記第1固体電解質体の一部(202A)によって構成され、上記第3基準電極と上記センサ電極との間に流れる電流に基づいて、上記各ポンプセルによって酸素濃度が調整された後の測定ガスにおける特定ガス成分を測定するためのセンサセル(5)と、
上記第1固体電解質体の上記第1主面又は上記第2固体電解質体の上記第2主面に対向して配置されたヒータ(6)と、を備え、
上記第1基準ガス室の上記流れ方向に直交する第1平均断面積(S1)を、上記第1基準ガス室の上記流れ方向の第1長さ(L1)によって除した値(S1/L1)は、上記第2基準ガス室の上記流れ方向に直交する第2平均断面積(S2)を、上記第2基準ガス室の上記流れ方向の第2長さ(L2)によって除した値(S2/L2)よりも大きく、
かつ、上記第1基準ガス室の、上記流れ方向の全長における、上記第1固体電解質体
及び上記第2固体電解質体
の積層方向の厚みは、第2基準ガス室の、上記流れ方向の全長における上記積層方向の厚みよりも大きい、ガスセンサにある。
【発明の効果】
【0009】
上記ガスセンサのセンサ素子においては、2つの固体電解質体を用いて2つのポンプセルを形成する場合において、センサセルによるセンサ出力を安定化させる工夫をしている。
具体的には、センサセルが設けられた第1固体電解質体の第1主面に面する第1基準ガス室における値(S1/L1)は、センサセルが設けられていない第2固体電解質体の第2主面に面する第2基準ガス室における値(S2/L2)よりも大きい。ここで、各値(S1/L1、S2/L2)は、各基準ガス室への基準ガスの導入のしやすさを示す尺度である。各値(S1/L1、S2/L2)は、各基準ガス室の平均断面積が大きいほど大きくなり、各基準ガス室の長さが長いほど小さくなる。そして、各値(S1/L1、S2/L2)が大きいほど、各基準ガス室へ基準ガスを導入しやすいことを示す。
【0010】
上記センサ素子の構成により、いわゆるリッチガスが測定ガスとして測定ガス室に導入される場合に、センサセルが設けられた第1固体電解質体の第1主面に面する第1基準ガス室内の酸素濃度の低下を抑制することができる。その結果、ガスセンサに導入される測定ガスがリッチガスとリーンガスとの間で変動する場合においても、センサセルによって特定ガス成分の濃度を測定する際のセンサ出力に生じる変動を小さく抑えることが可能になる。
【0011】
上記センサ素子の構成により、センサ出力の変動を小さく抑えることが可能になる理由は、必ずしも明確ではないが、次のように考えられる。測定ガス室にCO、HC、H
2等を含むリッチガスが導入される場合には、リッチガス中のCO及びHCをCO
2及びH
2Oに変換するために、測定ガス室には、第1ポンプセル及び第2ポンプセルによって、第1基準ガス室及び第2基準ガス室から酸素が供給される。そして、第1基準ガス室内及び第2基準ガス室内の酸素濃度が低下しようとする。このとき、第1基準ガス室内の酸素濃度が低下すると、第3基準電極の電位が変動し、センサ出力が変動することになる。
【0012】
また、センサセルにおいては、NOxの分解反応が行われると共に、H
2Oの電気分解も行われることがある。この場合、第1固体電解質体においては、測定ガス室から第1基準ガス室へは、NOx分解時の酸素イオンとH
2O分解時の酸素イオンとが伝導する。このとき、第1基準ガス室内の酸素濃度が低下していると、H
2Oの電気分解が促進されると考えられる。そのため、上記センサ素子においては、第1基準ガス室における値(S1/L1)を、第2基準ガス室における値(S2/L2)よりも大きくすることにより、第1基準ガス室内の酸素濃度の低下を抑制する。この構成により、第3基準電極の電位の変動が抑えられると共にセンサセルにおけるH
2Oの電気分解が抑えられ、センサセルによるセンサ出力の変動が小さく抑えられると考えられる。
【0013】
以上のように、上記ガスセンサによれば、センサセルによるセンサ出力の変動を小さく抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(実施形態1)
以下に、上述したガスセンサの実施形態につき、
図1〜
図9を参照して説明する。
本実施形態のガスセンサ10は、酸素を含む測定ガスG中の特定ガス成分の濃度を測定するためのセンサ素子1を備える。センサ素子1は、
図1に示すように、酸素イオン伝導性を有する第1固体電解質体2A及び第2固体電解質体2Bと、測定ガスGが導入される測定ガス室3と、基準ガスAが導入される第1基準ガス室31及び第2基準ガス室32と、第1固体電解質体2Aに設けられた第1ポンプセル4Aと、第2固体電解質体2Bに設けられた第2ポンプセル4Bと、第1固体電解質体2Aに設けられたセンサセル5と、第1固体電解質体2A及び第2固体電解質体2Bを加熱するヒータ6とを備える。
【0016】
第1固体電解質体2Aは、第1基準ガス室31と測定ガス室3との間に配置されている。第1固体電解質体2Aは、第1基準ガス室31に面する第1主面21と、測定ガス室3に面する第2主面22とを有する。第2固体電解質体2Bは、測定ガス室3を介して第1固体電解質体2Aと対向して配置されている。第2固体電解質体2Bは、測定ガス室3に面する第1主面23と、第2基準ガス室32に面する第2主面24とを有する。
【0017】
図1に示すように、第1ポンプセル4Aは、第1固体電解質体2Aの第1主面21に形成された第1基準電極42Aと、第1固体電解質体2Aの第2主面22に形成された第1ポンプ電極41Aと、第1基準電極42Aと第1ポンプ電極41Aとの間に挟まれた第1固体電解質体の一部201Aとによって構成されている。第1ポンプセル4Aは、第1基準電極42Aと第1ポンプ電極41Aとの間への通電によって、測定ガス室3内の酸素濃度を調整するために用いられる。
【0018】
第2ポンプセル4Bは、第2固体電解質体2Bの第1主面23における、第1ポンプ電極41Aと対向する位置に形成された第2ポンプ電極41Bと、第2固体電解質体2Bの第2主面24に形成された第2基準電極42Bと、第2ポンプ電極41Bと第2基準電極42Bとの間に挟まれた第2固体電解質体の一部201Bとによって構成されている。第2ポンプセル4Bは、第2基準電極42Bと第2ポンプ電極41Bとの間への通電によって、測定ガス室3内の酸素濃度を調整するために用いられる。
【0019】
図1、
図2に示すように、センサセル5は、第1固体電解質体2Aの第1主面21に形成された第3基準電極52と、第1固体電解質体2Aの第2主面22における、第1ポンプセル4Aよりも測定ガスGの流れ方向Fの下流側に形成されたセンサ電極51と、第3基準電極52とセンサ電極51との間に挟まれた第1固体電解質体2Aの一部202Aとによって構成されている。センサセル5は、第3基準電極52とセンサ電極51との間に流れる電流に基づいて、各ポンプセル4A、4Bによって酸素濃度が調整された後の測定ガスGにおける特定ガス成分の濃度を測定するために用いられる。ヒータ6は、第2固体電解質体2Bの第2主面24に対向して配置されている。
【0020】
図2、
図3に示すように、第1基準ガス室31の流れ方向Fに直交する第1平均断面積S1を、第1基準ガス室31の流れ方向Fの第1長さL1によって除した値を、S1/L1とする。また、第2基準ガス室32の流れ方向Fに直交する第2平均断面積S2を、第2基準ガス室32の流れ方向Fの第2長さL2によって除した値を、S2/L2とする。このとき、S1/L1は、S2/L2よりも大きい。
【0021】
次に、本形態のガスセンサ10につき、さらに詳説する。
図5に示すように、ガスセンサ10は、車両における内燃機関の排気通路に配置されて用いられ、排気通路を流れる排ガスを測定ガスGとするとともに、酸素濃度が一定である大気を基準ガスAとして、排ガス中に含まれる特定ガスとしてのNOx(窒素酸化物)の濃度を測定するものである。
【0022】
ガスセンサ10は、センサ素子1、ハウジング11、絶縁碍子12、13、接点端子14、リード線15、カバー16、ブッシュ17、二重のカバー18A、18B等を備える。
センサ素子1は絶縁碍子12に保持されており、絶縁碍子12はハウジング11に保持されている。ガスセンサ10は、ハウジング11によって排気通路に取り付けられ、センサ素子1の先端部は、排気通路内に配置される。また、ハウジング11には、センサ素子1の先端部を覆う二重のカバー18A、18Bが取り付けられている。
【0023】
絶縁碍子12の基端側には、接点端子14を保持する別の絶縁碍子13が配置されている。各電極41A、41B、42A、42B、51、52のリード部及びヒータ6の発熱体61のリード部は、センサ素子1の基端部に引き出され、接点端子14に接続されている。接点端子14に接続されたリード線15は、ハウジング11の基端側に取り付けられたカバー16内において、ブッシュ17によって保持されている。
【0024】
図1、
図4に示すように、固体電解質体2A、2Bは、板形状のイットリア安定化ジルコニアによって形成されている。測定ガス室3は、第1固体電解質体2Aの第2主面22と第2固体電解質体2Bの第1主面23との間に挟まれて形成されており、ポンプ電極41A、41B及びセンサ電極51は測定ガス室3に配置されている。測定ガス室3は、測定ガスGを所定の拡散速度で通過させる拡散抵抗層33及びアルミナ等のセラミックスからなる絶縁体34によって囲まれて形成されている。拡散抵抗層33は、多孔質のセラミックスによって形成されている。測定ガスGは、拡散抵抗層33を通過して測定ガス室3に導入される。絶縁体34には、測定ガス室3を形成するための切欠きが形成されている。
【0025】
センサ素子1は、長尺形状に形成されており、拡散抵抗層33は、長尺形状のセンサ素子1の先端部に設けられている。測定ガスGは、センサ素子1の先端部における拡散抵抗層33から測定ガス室3に導入され、測定ガス室3において、長尺形状のセンサ素子1の長尺方向Lに沿って流れる。そして、流れ方向Fは、長尺形状のセンサ素子1の長尺方向Lに沿った先端側から基端側への方向となる。
【0026】
第1固体電解質体2Aの第1主面21には、基準ガスAが導入される第1基準ガス室31が隣接して形成されており、第1基準電極42A及び第3基準電極52は、第1基準ガス室31に配置されている。第1基準ガス室31は、アルミナ等のセラミックスからなる絶縁体351、352によって囲まれて形成されている。絶縁体351には、第1基準ガス室31を形成するための切欠きが形成されている。第2固体電解質体2Bの第2主面24には、基準ガスAが導入される第2基準ガス室32が隣接して形成されており、第2基準電極42Bは、第2基準ガス室32に配置されている。第2基準ガス室32は、ヒータ6及びアルミナ等のセラミックスからなる絶縁体36によって囲まれて形成されている。絶縁体36には、第2基準ガス室32を形成するための切欠きが形成されている。
【0027】
図1に示すように、第1ポンプセル4A及び第2ポンプセル4Bには、第1ポンプ電極41Aと第1基準電極42Aとの間及び第2ポンプ電極41Bと第2基準電極42Bとの間に電圧を印加する電圧印加回路43が接続されている。電圧印加回路43は、ガスセンサ10の制御装置(SCU)に設けられている。SCUは、内燃機関の制御装置(ECU)からの指令を受け動作する。電圧印加回路43によって、ポンプ電極41A、41Bと基準電極42A、42Bとの間に電圧が印加されるときに、ポンプ電極41A、41Bに接触する測定ガスG中の酸素が分解されて、固体電解質体2A、2Bを介して基準電極42A、42Bへ酸素イオンが透過し、測定ガス室3における測定ガスG中の酸素が除去される。
【0028】
本形態において、第1ポンプ電極41Aと第2ポンプ電極41Bとは、同じ大きさに形成されて流れ方向Fの同じ位置に配置されている。これ以外にも、例えば、
図6に示すように、第1ポンプ電極41Aの流れ方向Fの位置と第2ポンプ電極41Bの流れ方向Fの位置とは互いに異なっていてもよい。また、例えば、
図7に示すように、第1ポンプ電極41Aの大きさと第2ポンプ電極41Bの大きさとは互いに異なっていてもよい。
【0029】
図1、
図2に示すように、センサセル5には、センサ電極51と第3基準電極52との間に所定の電圧を印加した状態で、これらの電極51、52の間に流れる電流を検出する電流検出回路53が接続されている。センサ電極51に接触する、測定ガスG中の特定ガス成分が分解されるときには、センサ電極51から第1固体電解質体2Aを介して第3基準電極52へ酸素イオンが透過し、この酸素イオンによる電流が、電流検出回路53によって検出される。
【0030】
本形態の第3基準電極52は、第1ポンプセル4Aの第1基準電極42Aと一体的に形成されている。なお、第3基準電極52は、
図8に示すように、第1固体電解質体2Aを介してセンサ電極51と対向する位置に、第1基準電極42Aとは別体として形成してもよい。
【0031】
ヒータ6は、
図1、
図4に示すように、通電によって発熱する発熱体61と、発熱体61を埋設するセラミック基板62とによって構成されている。ヒータ6の発熱体61に電圧が印加されると、発熱体61が発熱し、センサ素子1が加熱される。ガスセンサ10の始動時には、ヒータ6の加熱によって固体電解質体2A、2B、ポンプセル4A、4B及びセンサセル5が活性化される。ガスセンサ10の使用時には、ヒータ6によって、センサ素子1の温度制御が行われる。そして、ヒータ6の発熱体61への印加電圧は、センサ素子1の温度を所定の目標温度に保つよう調整される。
【0032】
図3、
図4に示すように、本形態の第1基準ガス室31は、測定ガスGの流れ方向Fの上流側の端部が絶縁体351によって閉塞され、流れ方向Fの下流側の端部が開口される状態で形成されている。第2基準ガス室32は、測定ガスGの流れ方向Fの上流側の端部が絶縁体36によって閉塞され、流れ方向Fの下流側の端部が開口される状態で形成されている。
【0033】
本形態の第1基準ガス室31の第1長さL1は、絶縁体351に形成された切欠きの流れ方向Fの長さとなり、言い換えれば、絶縁体351における長尺方向Lの内側の端面から絶縁体351(又はセンサ素子1)の基端までの長さとなる。また、本形態の第2基準ガス室32の第2長さL2は、絶縁体36に形成された切欠きの流れ方向Fの長さとなり、言い換えれば、絶縁体36における長手方向Lの内側の端面から絶縁体36(又はセンサ素子1)の基端までの長さとなる。本形態の第1基準ガス室31及び第2基準ガス室32は、長尺方向Lに沿って直線状に形成されており、第1長さL1と第2長さL2とは同じである。
【0034】
第1基準ガス室31及び第2基準ガス室32の少なくとも一方の基端部は、例えば、センサ素子1の基端まで形成せず、センサ素子1の長尺方向Lの中間部位において側方に開口する状態にすることもできる。この場合、第1長さL1又は第2長さL2の一方が他方に比べて短くなることがある。
【0035】
第1平均断面積S1を第1長さL1で割り、第2平均断面積S2を第2長さL2で割る理由は、各長さL1、L2が長くなると、基準ガスAが各基準ガス室31、32へ流入するための抵抗(又は損失)が大きくなるためである。従って、第1平均断面積S1と第2平均断面積S2とを直接比較するのではなく、第1長さL1と第2長さL2とが異なる場合も考慮して、第1平均断面積S1を第1長さL1で割った値S1/L1と、第2平均断面積S2を第2長さL2で割った値S2/L2とを比較する。
【0036】
図2に示すように、第1基準ガス室31の第1平均断面積S1は、第1基準電極42Aの厚みは考慮せず、固体電解質体2Aの第1主面21と絶縁体352の内側面との間の積層方向Dの距離と、絶縁体351における切欠きの幅方向Wの距離との積によって求められる値の平均値となる。また、第2基準ガス室32の第2平均断面積S2は、第2基準電極42Bの厚みは考慮せず、固体電解質体2Bの第2主面24とセラミック基板62の内側面との間の積層方向Dの距離と、絶縁体36における切欠きの幅方向Wの距離との積によって求められる値の平均値となる。
【0037】
ここで、積層方向Dとは、各固体電解質体2A、2B及び各絶縁体34、351、352、36が積層された方向のことをいう。幅方向Wとは、長尺方向L(又は測定ガスGの流れ方向F)及び積層方向Dに直交する方向のことをいう。
【0038】
固体電解質体2Aの第1主面21と絶縁体352の内側面との間の積層方向Dの距離、及び絶縁体351における切欠きの幅方向Wの距離は、それぞれ一定になるようにしている。固体電解質体2Bの第2主面24とセラミック基板62の内側面との間の積層方向Dの距離、及び絶縁体36における切欠きの幅方向Wの距離は、それぞれ一定になるようにしている。
【0039】
第1基準ガス室31及び第2基準ガス室32の、流れ方向Fに直交する断面積は、一定にすることが好ましいが、センサ素子1の製造の仕方によっては、必ずしも一定にならない。例えば、
図1における二点鎖線で示すように、第1基準ガス室31における、流れ方向Fの上流側端部を構成する内壁には、曲面状の角部355が形成されていてもよい。この曲面状の角部355は、絶縁体351と絶縁体352とが一体となったセラミックシートを用いる場合に、第1基準ガス室31に相当する部分を工具等によって除去加工するときに形成された部分とすることができる。
【0040】
本形態のセンサ素子1において、第1基準ガス室31における値S1/L1は、第2基準ガス室32における値S2/L2に比べて2.6倍以上70倍以下である。また、S1/L1とS2/L2との合計は、0.006mm以上である。
また、第1基準ガス室31の第1長さL1及び第2基準ガス室32の第2長さL2は、各基準電極42A、42B、52への基準ガスAの供給をより促すために、80mm以下とすることが好ましい。
【0041】
次に、本実施形態の作用効果につき説明する。
本形態のガスセンサ10のセンサ素子1においては、センサセル5が設けられた第1固体電解質体2Aの第1主面21に面する第1基準ガス室31における値S1/L1は、第2固体電解質体2Bの第2主面24に面する第2基準ガス室32における値S2/L2よりも大きい。ここで、各値S1/L1、S2/L2は、各基準ガス室31、32への基準ガスAの導入のしやすさを示す尺度である。各値S1/L1、S2/L2は、各基準ガス室31、32の平均断面積S1、S2が大きいほど大きくなり、各基準ガス室31、32の長さL1、L2が長いほど小さくなる。そして、各値S1/L1、S2/L2が大きいほど、各基準ガス室31、32へ基準ガスAを導入しやすいことを示す。
【0042】
センサ素子1の構成により、いわゆるリッチガスが測定ガスGとして測定ガス室3に導入される場合に、センサセル5が設けられた第1固体電解質体2Aの第1主面21に面する第1基準ガス室31内の酸素濃度の低下を抑制することができる。その結果、ガスセンサ10に導入される測定ガスGがリッチガスとリーンガスとの間で変動する場合においても、センサセル5によって特定ガス成分の濃度を測定する際のセンサ出力に生じる変動を小さく抑えることが可能になる。
【0043】
ここで、リッチガスとは、内燃機関における、燃料に対する空気の質量比である空燃比(A/F)が、燃料を完全燃焼させる場合の空気の比率を示す理論空燃比よりもリッチ側(燃料の割合が多い側)にある場合の排ガスのことをいう。一方、リーンガスとは、内燃機関における空燃比が、理論空燃比よりもリーン側(空気の割合が多い側)にある場合の排ガスのことをいう。ガスセンサ10には、リッチガス又はリーンガスによって燃焼が行われた後の排ガスが測定ガスGとして導入される。
【0044】
センサ素子1の構成により、センサ出力の変動を小さく抑えることが可能になる理由は、必ずしも明確ではないが、次のように考えられる。
図9に示すように、測定ガス室3にCO、HC、H
2等を含むリッチガスG1が導入される場合には、リッチガスG1中のCO及びHCをCO
2及びH
2Oに変換するために、測定ガス室3には、
図9における矢印T1、T2に示すように、第1ポンプセル4A及び第2ポンプセル4Bによって、第1基準ガス室31及び第2基準ガス室32から酸素が供給される。そして、第1基準ガス室31内及び第2基準ガス室32内の酸素濃度が低下しようとする。このとき、第1基準ガス室31内の酸素濃度が低下すると、第3基準電極52の電位が変動し、センサ出力が変動することになる。
【0045】
また、センサセル5においては、NOxの分解反応が行われると共に、H
2Oの電気分解も行われることがある。この場合、第1固体電解質体2Aにおいては、
図9における矢印T3に示すように、測定ガス室3から第1基準ガス室31へは、NOx分解時の酸素イオンとH
2O分解時の酸素イオンとが伝導する。このとき、第1基準ガス室31内の酸素濃度が低下していると、H
2Oの電気分解が促進されると考えられる。そのため、本形態のガスセンサ10においては、第1基準ガス室31における値S1/L1を、第2基準ガス室32における値S2/L2よりも大きくすることにより、第1基準ガス室31内の酸素濃度の低下を抑制する。この構成により、第3基準電極52の電位が安定すると共にセンサセル5におけるH
2Oの電気分解が抑えられ、センサセル5によるセンサ出力の変動が小さく抑えられると考えられる。
【0046】
また、ポンプセル4A、4Bを第1ポンプセル4Aと第2ポンプセル4Bとに分けることにより、流れ方向Fにおけるポンプセル4A、4Bの形成長さが短くなる。これにより、各ポンプセル4A、4Bの各ポンプ電極41A、41Bによって酸素濃度が調整された測定ガスGがセンサセル5のセンサ電極51に到達するまでの時間が短くなり、測定ガスGにおける特定ガス濃度の測定の応答性を高く維持することができる。
【0047】
以上のように、上記ガスセンサ10によれば、測定の応答性を高く維持したまま、センサセル5によるセンサ出力の変動を小さく抑えることができる。
【0048】
(実施形態2)
本形態においては、ヒータ6の他の態様を示す。本形態においては、ヒータ6の配置位置が実施形態1の場合と異なる。
図10に示すように、ヒータ6は、第1固体電解質体2Aの第1主面21に対向して配置されている。
その他の構成は、実施形態1と同様である。なお、実施形態2以降において用いた符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0049】
本形態のガスセンサ10におけるヒータ6は、センサセル5が形成された第1固体電解質体2Aの第1主面21に対向して配置されている。そのため、センサセル5が形成されていない第2固体電解質体2Bの第2主面24に対向してヒータ6が配置される実施形態1の場合に比べて、センサセル5の配置位置をヒータ6の配置位置に近づけることができ、ガスセンサ10の始動時及び使用時において、ヒータ6が動作した際に発生する熱をセンサセル5に素早く伝達することができる。これにより、ガスセンサ10の周辺温度が過渡的に変動した場合においても、センサセル5の温度を目標とする温度範囲内に保つことが容易になる。この結果、センサセル5の温度変動が抑制され、センサセル5による測定ガスGにおける特定ガス濃度の測定精度を向上させることができる。
その他、実施形態1と同様の効果を得ることができる。
【0050】
(確認試験1)
本確認試験においては、実施形態1のガスセンサ10の各サンプルを準備し、各サンプルについての第2基準ガス室32における値S2/L2(mm)に対する第1基準ガス室31における値S1/L1(mm)の比(S1/L1)/(S2/L2)を変化させた、センサ出力のズレ量を測定した。センサ出力のズレ量とは、測定ガスG中の特定ガス成分を測定した場合における、各サンプルによるセンサ出力と、理論上のセンサ出力とのズレ量のことをいう。センサ出力のズレ量は、0.1μA以内に収めることにより、ガスセンサ10のセンサ出力の変動を小さく抑えることができる。なお、本確認試験においては、センサ出力のズレ量を絶対値として表す。
【0051】
各サンプルにおける第1基準ガス室31における値S1/L1と第2基準ガス室32における値S2/L2との合計S1/L1+S2/L2は、0.008mmとした。第1基準ガス室31の第1平均断面積S1と第2基準ガス室32の第2平均断面積S2との合計S1+S2は、0.36mm
2とし、第1基準ガス室31の第1長さL1及び第2基準ガス室32の第2長さL2は、45mmとした。
【0052】
本確認試験においては、まず、各サンプルのヒータ6により、各サンプルのセンサセル5の温度が750℃になるまで加熱した。各サンプルのセンサセル5の温度が安定した後、0〜600秒の経過時間の間、各サンプルの測定ガス室3へ、酸素の濃度が21%、一酸化窒素の濃度が400ppm、残部が窒素の測定ガスGを供給した。次いで、600〜1200秒の経過時間の間、各サンプルの測定ガス室3へ、酸素の濃度が0%、一酸化窒素の濃度が400ppm、一酸化炭素の濃度が1.5%、水素の濃度が4%、プロパンの濃度が2%の測定ガスGを供給した。その後、再び、各サンプルの測定ガス室3へ、酸素の濃度が21%、一酸化窒素の濃度が400ppm、残部が窒素の測定ガスGを供給した。こうして、測定ガスGをリーンガス、リッチガス、リーンガスと変化させたときの各サンプルのセンサ出力のズレ量を
図11に示す。
【0053】
同図に示されるように、各サンプルのセンサ出力のズレ量は、(S1/L1)/(S2/L2)が2.6倍以上70倍以下になる場合には、判断基準である0.1μA以内となった。一方、各サンプルのセンサ出力のズレ量は、(S1/L1)/(S2/L2)が2.6倍未満になる場合には、判断基準である0.1μAを著しく超えた。この理由としては、第1基準ガス室31における値S1/L1が第2基準ガス室32における値S2/L2よりも十分に大きくないことにより、第1基準ガス室31内の酸素濃度が低下し、センサセル5においてH
2Oの電気分解が生じたためと考えられる。
【0054】
一方、各サンプルのセンサ出力のズレ量は、(S1/L1)/(S2/L2)が70倍超過になる場合にも、判断基準である0.1μAを超えた。この理由としては、基準電極42Bへの基準ガスAの供給量が不足し、ポンプセル4BにおいてCOがCO
2へ十分に変換されず、センサセル5に一部のCOが到達し、センサセル5におけるセンサ電極51においてCOとNOの反応が生じたためと考えられる。このことより、ガスセンサ10のセンサ出力の変動を小さく抑えるためには、(S1/L1)/(S2/L2)は2.6倍以上70倍以下とすることが好ましいことが分かった。
【0055】
(確認試験2)
本確認試験においては、第1基準ガス室31における値S1/L1と第2基準ガス室32における値S2/L2との合計を変化させた実施形態1のガスセンサ10の各サンプルを準備し、各サンプルについてのセンサ出力のズレ量を測定した。(S1/L1)/(S2/L2)は、2.6倍とし、第1基準ガス室31の第1長さL1及び第2基準ガス室32の第2長さL2は、60mmとした。本確認試験においては、測定ガス室3への測定ガスGの供給は確認試験1の場合と同様にして、リーンガス、リッチガス、リーンガスと順次変化させた。このときの各サンプルのセンサ出力のズレ量を
図12に示す。
【0056】
同図に示されるように、各サンプルのセンサ出力のズレ量は、S1/L1+S2/L2が0.006mm以上になる場合には、判断基準である0.1μA以内となった。一方、各サンプルのセンサ出力のズレ量は、S1/L1+S2/L2が0.006mm未満になる場合には、判断基準である0.1μAを著しく超えた。この理由としては、リッチガスにおけるCOをCO
2に変換するための第1基準ガス室31及び第2基準ガス室32における酸素量が不足し、センサセル5のセンサ電極51において、COとNOとの反応が生じたためと考えられる。このことより、ガスセンサ10のセンサ出力の変動を小さく抑えるためには、S1/L1+S2/L2は0.006mm以上とすることが好ましいことが分かった。
【0057】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態を構成することが可能である。