特許第6640785号(P6640785)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6640785同位体によりコード化されたレポーターによる多重検出
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6640785
(24)【登録日】2020年1月7日
(45)【発行日】2020年2月5日
(54)【発明の名称】同位体によりコード化されたレポーターによる多重検出
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20060101AFI20200127BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20200127BHJP
   C07K 1/13 20060101ALN20200127BHJP
   C07K 2/00 20060101ALN20200127BHJP
【FI】
   G01N27/62 VZNA
   G01N27/62 X
   G01N33/68
   !C07K1/13
   !C07K2/00
【請求項の数】12
【外国語出願】
【全頁数】61
(21)【出願番号】特願2017-100986(P2017-100986)
(22)【出願日】2017年5月22日
(62)【分割の表示】特願2013-558167(P2013-558167)の分割
【原出願日】2012年3月15日
(65)【公開番号】特開2017-194473(P2017-194473A)
(43)【公開日】2017年10月26日
【審査請求日】2017年6月21日
(31)【優先権主張番号】61/452,908
(32)【優先日】2011年3月15日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】596060697
【氏名又は名称】マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】クウォン,ガブリエル,エー.
(72)【発明者】
【氏名】ブハティア,サンギータ,エヌ.
【審査官】 藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】 特表2004−506900(JP,A)
【文献】 特表2009−524688(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/072676(WO,A1)
【文献】 特開2007−024631(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0240050(US,A1)
【文献】 特表2009−538430(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0026480(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62
G01N 33/68
C07K 1/13
C07K 2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同位体によりコード化されたレポーター分子(iCORE)のセットであって、
複数の異なるiCOREを含み、ここで、各々のiCOREは、ユニークな同位体シグネチャーを含み、このシグネチャーに従って質量分析(MS)アッセイにおいて同定することができ、
ここで、各々のiCOREは、ポリペプチドであり
ここで、iCOREのセットが、少なくとも以下の配列番号8〜配列番号17:
e+3G+6VndneeGFfsAr-X-K(FAM)GGPQGIWGQ(配列番号8)
e+2G+6Vndnee+1GFfsAr-X-K(FAM)GGLVPRGSG(配列番号9)
e+1G+6Vndnee+2GFfsAr-X-K(FAM)GGPVGLIG(配列番号10)
eG+6Vndnee+2GFfs+1Ar-X-K(FAM)GGPWGIWGQG(配列番号11)
eG+5VndneeGFfs+4Ar-X-K(FAM)GGPVPLSLVM(配列番号12)
e+3G+1Vndnee+1GFfs+4Ar-X-K(FAM)GGPLGLRSW(配列番号13)
e+3GVndneeG+6FfsAr-X-K(FAM)GGPLGVRGK(配列番号14)
e+2GVndneeG+6Ffs+1Ar-X-K(FAM)GGf(Pip)RSGGG(配列番号15)
e+1GVndnee+2G+6FfsAr-X-K(FAM)GGfPRSGGG(配列番号16)
eGVndnee+3G+6FfsAr-X-K(FAM)GGf(Pip)KSGGG(配列番号17)
ここで、
Xは3−アミノ−3−(2−ニトロフェニル)プロピオン酸を表し、
FAMはカルボキシフルオロセインを表し、
Pipはピペコリン酸を表し、
小文字はd-アミノ酸を表す、
を含む、iCOREのセット。
【請求項2】
キャリアドメインをさらに含み、ここでキャリアドメインは粒子であり、かつ5nm超のサイズであり;ここで、iCOREは、酵素切断可能なリンカーを介してキャリアドメインに抱合されている、請求項1に記載のiCOREのセット。
【請求項3】
酵素切断可能なリンカーが、アミノ酸配列:PQGIWGQ(配列番号18)、LVPRGSG(配列番号19)、PVGLIG(配列番号20)、PWGIWGQG(配列番号21)、PVPLSLVM(配列番号22)、PLGLRSW(配列番号23)、PLGVRGK(配列番号24)、GGPLANvaDpaARG(配列番号35)、dFPipRSGGG(配列番号25)、dFPRSGGG(配列番号26)またはdFPipKSGGG(配列番号27)を含むペプチドリンカーである、請求項に記載のiCOREのセット。
【請求項4】
複数の異なるiCOREが、分析物のセットに特異的に結合する結合剤のセット、または分析物と反応する化学的に活性な部分に抱合されており、ここで結合剤は、それに抱合されているiCOREによって同定される、請求項1に記載のiCOREのセット。
【請求項5】
結合剤が、抗体、抗体フラグメント、アプタマーもしくはアドネクチン、またはそれらの組み合わせである、請求項に記載のiCOREのセット。
【請求項6】
結合剤が、光切断可能なリンカーを介してiCOREに抱合されている、請求項に記載のiCOREのセット。
【請求項7】
化学的に活性な部分が、分析物と共有結合を形成する、請求項に記載のiCOREのセット。
【請求項8】
iCOREが、光切断可能なリンカーを介して化学的に活性な部分と抱合されている、請求項に記載のiCOREのセット。
【請求項9】
iCOREが、ペプチド質量タグであり、5−100個のアミノ酸残基を含む、請求項1に記載のiCOREのセット。
【請求項10】
iCOREが、約5−10個、約5−15個、約10−15個、約5−20個、約10−20個、約15−20個、約10−30個、約15−30個、約20−30個、約20−40個、約5−50個、約10−50個、約20−50個、約30−50個、約40−60個、約50−70個、約50−80個、約50−90個、約10−100個、約20−100個、約30−100個、約40−100個または約50−100個のアミノ酸残基を含む、請求項に記載のiCOREのセット。
【請求項11】
iCOREが、同じアミノ酸配列を含む、請求項または10に記載のiCOREのセット。
【請求項12】
以下の配列番号8〜配列番号17:
e+3G+6VndneeGFfsAr-X-K(FAM)GGPQGIWGQ(配列番号8)
e+2G+6Vndnee+1GFfsAr-X-K(FAM)GGLVPRGSG(配列番号9)
e+1G+6Vndnee+2GFfsAr-X-K(FAM)GGPVGLIG(配列番号10)
eG+6Vndnee+2GFfs+1Ar-X-K(FAM)GGPWGIWGQG(配列番号11)
eG+5VndneeGFfs+4Ar-X-K(FAM)GGPVPLSLVM(配列番号12)
e+3G+1Vndnee+1GFfs+4Ar-X-K(FAM)GGPLGLRSW(配列番号13)
e+3GVndneeG+6FfsAr-X-K(FAM)GGPLGVRGK(配列番号14)
e+2GVndneeG+6Ffs+1Ar-X-K(FAM)GGf(Pip)RSGGG(配列番号15)
e+1GVndnee+2G+6FfsAr-X-K(FAM)GGfPRSGGG(配列番号16)
eGVndnee+3G+6FfsAr-X-K(FAM)GGf(Pip)KSGGG(配列番号17)
ここで、
Xは3−アミノ−3−(2−ニトロフェニル)プロピオン酸を表し、
FAMはカルボキシフルオロセインを表し、
Pipはピペコリン酸を表し、
NWはナノワームを表し、
小文字はd-アミノ酸を表す、
からなる群から選択される配列を含む、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2011年3月15日に出願された米国仮出願第US 61/452,908号、表題「Multiplexed detection of analytes with isotope-coded reporters」の35 U.S.C.§119(e)に基づく利益を主張し、該仮出願の開示は、その全体において本明細書において参照により組み込まれる。
政府の支援
本発明は、国立衛生学研究所により獲得された助成金R01-CA124427に基づく政府の支援によりなされた。米国政府は、本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
質量分析(MS)は、定量的および定性的な方法の両方において分析物を検出するために有用な分析技術である。MSのプロセスの間に、質量タグと称される検出可能な分子がイオン化して荷電した分子または分子フラグメントを生成し、その後、これらの分子の質量対電荷の比を測定する。
MSは、多用性が高い技術であり、分析物の検出の多様なシナリオにおいて、例えば生物医学的診断および環境学的分析において、用いることができる。例えば、MSは、試料(例えば生物学的試料)中の分析物(例えばタンパク質、核酸、生体分子または低分子化合物)の存在または不在を検出するために、および/または、試料中の分析物を定量するために用いることができる。
【0003】
従来のMSアッセイは、複数の分析物(例えばペプチド)を同時に検出することができるが、例えば異なる個体または時点からの複数の試料の定量的分析は、現在のところ、4重、6重および8重のフォーマットに限定されている。さらに、異なる分析物は、しばしば、広範に変化する生理化学的特性、したがってMS特性を有し、これは、MSに基づく異なる分析物の検出の感度、特異性および精度において、同様に広範な可変性をもたらす。この異なる分析物の生理化学的特性における可変性は、多重MSアッセイにおけるかかる異なる分析物の正確な同時定量を限定する。その構造がしばしば広範に変化する複数の天然に存在するまたは内因性の分析物の検出はまた、1回のMSアッセイにおいて広い質量ウィンドウをモニタリングすることを必要とし、これは非常に時間集約的であり得る。さらに、生物学的試料(例えば血液、血清または組織生検)などの複雑な試料標的分析物の検出は、しばしば、MSアッセイに先立つ大規模な前準備および処理なしでは困難であり、難しい。
【発明の概要】
【0004】
発明の要旨
本発明の幾つかの側面は、MSの方法論を用いての、試料、例えば複雑な生物学的試料(例えば対象から得られた血液または組織試料)中の、実質的に無限の数の分析物の同時検出のための、新規の試薬および方法を提供することにより、従来のMS技術の弱点に取り組む。
幾つかの態様において、本発明は、本明細書においてiCOREとして言及される、同位体によりコード化されたレポーター分子を提供し、これは、多重MSに基づく分析物の検出において質量タグとして有用である。幾つかの態様において、試料中の実質的に無限の数の分析物の多重検出において有用なiCOREのセットまたはライブラリーが提供される。幾つかの態様において、かかるセットまたはライブラリー中のiCOREは、同重体(isobaric)であり、かかるセットまたはライブラリー内の異なるiCOREは、それらのユニークな断片化イオンシグネチャー(fragmentation ion signature)により区別される。幾つかの態様において、異なる断片化シグネチャーは、差次的な同位体標識により、異なるiCOREに付与される。例えば、幾つかの態様において、本発明は、本明細書において提供される多重MSに基づく分析物の検出法において有用な、iCOREのセットまたはライブラリー、例えば、同重体の同位体標識ペプチド質量タグのセットを提供する。iCOREおよびiCOREのセットまたはライブラリーの使用のための方法もまた、本明細書において提供される。
【0005】
本発明の幾つかの側面は、パラメーター、例えば試料中の標的分析物の存在、試料中の標的活性の存在、または試料、細胞もしくは組織のアイデンティティーの、MS検出のためのiCOREへの翻訳のために有用な、試薬および方法を提供し、これは、当該パラメーターの生化学的コード化を可能にする。例えば、幾つかの態様において、本発明は、複雑な試料(例えば対象から得られた血液または組織試料)中の複数の分析物(例えば多様な化学構造の分析物)の、複数のiCORE(例えば複数の同重体同位体標識ペプチド質量タグ)への、各々の分析物が特徴的な断片化シグネチャーを有する異なるiCOREにより表わされるような、同時翻訳または生化学的コード化のための、試薬および方法を提供する。したがって、各々の分析物は、例えばMS/MSアッセイにおいて、分析物をコード化する特異的なiCOREに関連する断片化シグネチャーを検出することにより同定することができる。別の例として、幾つかの態様において、本発明は、複雑な試料(例えば、対象から得られた血液または組織試料)中の、複数の生物学的活性、例えば酵素活性(例えばプロテアーゼ、キナーゼまたはホスファターゼ活性)の、複数のiCORE(例えば複数の同重体の同位体標識ペプチド質量タグ)への、各々の分析物が特徴的な断片化シグネチャーを有する異なるiCOREにより表わされるような、同時翻訳または生化学的コード化のための試薬および方法を提供する。したがって、各々の活性は、例えばMS/MSアッセイにおいて、活性をコード化する特異的なiCOREに関連する断片化シグネチャーを検出することにより同定することができる。
【0006】
本発明の態様の各々は、本明細書において行われる多様な記述を包含し得る。したがって、任意の1要素または要素の組み合わせを含む本発明の各々の記述は、任意に、本発明の各々の側面において含まれ得ることが予測される。同様に、本発明の各々の側面もしくは態様は、本発明の任意の他の側面もしくは態様、または側面もしくは態様の任意の組み合わせから、除外することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】多重翻訳的な分析物の検出のための例示的方法の模式図。示される方法は、任意の濃縮工程を含む。
図2】glu-fib MS/MSスペクトルからの正準ピーク(canonical peak)のレポーターとしての利用。glu-fibの断片化スペクトルおよび例示的なコード化戦略を示す。EGVNDNEEGFFSARは、配列番号1に対応する。
図3】10重iCOREライブラリー実験からのMSおよびMS/MSのデータ。EGVNDNEEGFFSARは配列番号1に対応する。
【0008】
図4】ライブラリー中のiCOREの多重定量的検出。
図5】多重iCOREアッセイの動態学的範囲の評価。
図6】光切断および光切断の効率。EGVNDNEEGFFSARは配列番号1に対応する。KGGPVGLIGCは配列番号2に対応する。
【0009】
図7】PEGハイドロゲル包埋iCOREタグの作製の例示的化学。
図8】尿診断のためのiCOREアプローチの模式図。
図9】長期循環酸化鉄ナノワームシャペロン。
【0010】
図10】NWに媒介された(NW-chaperoned)尿輸送のためのプロテアーゼ感受性基質を選択する。
図11】肝線維症の尿中バイオマーカーおよびDDC処置マウスにおける回復
図12】肝臓切片の免疫蛍光法。
【0011】
図13】LC MS/MSによるプロテアーゼ活性の多重プロファイリングのための光ケージ化(photo-caged)iCOREライブラリー。EGVNDNEEGFFSARは配列番号1に対応する。KGGPWGIWGQGGCは配列番号3に対応する。
図14】同重体によりコード化されたレポーター(Isobaric COded REporter:iCORE)の質量コード化。EGVNDNEEGFFSARは配列番号1に対応する。
【0012】
図15】10重iCOREライブラリーのMS/MSスペクトル。y−型イオン上に中心を置くiCOREのピークのクラスター。y6領域は、赤いボックスにより輪郭づけられ、図13eとして表わされる。
図16】ペプチド断片化のための単位収集ウィンドウは、天然に存在する同位体から生じるピークの重複を最少化する。(a)同位体によりコード化されたGlu-fib ペプチドの典型的なMSスペクトル。親前駆体ペプチドを、単位質量ウィンドウを介して断片化のために収集し(灰色)、天然に存在する同位体のピークを除外した。(b)生じるMS/MSスペクトル。同位体のピークは最少化され、元のピーク強度の〜5%を含む。EGVNDNEEGFFSARは配列番号1に対応する。GFFSARは配列番号4に対応する。
【0013】
図17】iCORE LC MS/MS分析は定量的である。
図18】プロテアーゼ特異的iCORE質量シグネチャー。(a)組換えプロテアーゼMMP2、MMP12およびトロンビンのiCORE MS/MSプロフィール。(b)プロテアーゼ間のピアソン相関係数の図解。
図19】対照動物のiCOREプロフィール。個々のiCOREピーク強度の箱髭プロット(反復測定ANOVA、n=5)。
【0014】
図20】線維化バイオマーカーのROC曲線。
図21】回復バイオマーカーのROC曲線。
図22】LS 174Tヒト大腸がん細胞によるin vitroでのCEA分泌。ELISAによる、第1日および第2日における培地からのCEAの定量。
【0015】
図23】合成バイオマーカーは、初期のがん検出について血清CEAより優れる。
図24】腫瘍組織におけるNW蓄積。(a)VivoTag-680標識されたNWまたは食塩水溶液を、LS 174T異種移植動物に注射した。切除の後で、腫瘍を、NWの蓄積についてスキャンした。(b)腫瘍切片の血管(赤)およびNW(緑)についての免疫蛍光分析。スケールバー=50μm。
図25】腫瘍バイオマーカーのROC曲線。
【発明を実施するための形態】
【0016】
定義
用語、活性とは、本明細書において記載される場合、生物学的活性を指す。当該用語は、幾つかの態様において、酵素活性、例えば、ヒドラーゼ、トランスフェラーゼ、リアーゼ、イソメラーゼ、リガーゼまたはオキシドレダクターゼ活性を含む。幾つかの態様において、活性は、プロテアーゼ活性である。幾つかの態様において、活性は、ホスファターゼ活性である。幾つかの態様において、活性は、キナーゼ活性である。酵素活性は、例えば本明細書において記載される方法により、例えば、iCORE中に含まれるものとして標的酵素の基質を提供し、iCOREを、酵素を含む試料に暴露し、酵素により改変される基質を測定することにより、iCOREにおいてコード化されていてもよい。典型的には、酵素活性をコード化するためのiCOREは、その酵素の標的基質(例えばプロテアーゼ認識部位またはリン酸化部位など)を含み、酵素による標的部位の改変(例えば切断、リン酸化または脱リン酸化)は、例えば本明細書において記載される方法により、検出することができる。
【0017】
用語、分析物とは、本明細書において記載される場合、その存在もしくは不在または量が、分析の対象である分子を指す。典型的には、分析物は、その検出または定量が、例えば研究または診断を目的として研究者または医師にとって重要である目的の分子、例えば、タンパク質またはペプチド、核酸分子、炭水化物、脂質、代謝物、小さい有機分子、薬物、または約物誘導体(例えば薬物の代謝物)、細胞表面マーカーまたは分泌分子である。標的分析物は、試料(例えば生物学的、実験または環境試料)中の存在、不在または量が分析の対象である、分析物である。分析物は、試料中のその存在、不在または量が、試料、または当該試料が得られた元の対象、実験もしくは環境の特定の状態を示す、バイオマーカーであってもよい。幾つかの態様において、分析物は、疾患または状態を有すると診断されるか、またはこれを有することが疑われる対象から得られた試料中の、生物医学的バイオマーカー、例えばタンパク質、ペプチド、多糖、低分子または代謝物であり、ここで、試料中のバイオマーカーの存在、不在または量は、対象における疾患または状態の存在、不在または状態の指標である。例えば、幾つかの態様において、本明細書において提供される診断的アッセイは、対象から得られた血液または血清試料中のその存在、不在または量が、対象におけるがんまたは複数のがんの存在、不在または状態の指標である、タンパク質および代謝物バイオマーカーのパネルの検出を含む。かかるアッセイにおいて検討されるタンパク質および代謝物バイオマーカーは、そのアッセイの標的分析物である。
【0018】
用語、抗体とは、本明細書において記載される場合、免疫グロブリンを指し、これは、天然であっても、全体的にまたは部分的に合成により生成されてもよい。特異的な結合能力を維持する抗体誘導体、例えばFab、Fab’もしくはF(ab’)2フラグメントなどの抗原結合性抗体フラグメント、またはscFvなどの操作された抗体もまた、用語、抗体により言及されるものとして含まれる。当該用語はまた、免疫グロブリン結合ドメインに相同であるかおおよそ相同である結合ドメインを有する、任意のタンパク質を指す。これらのタンパク質は、天然のソースに由来しても、部分的にまたは全体的に合成により生成されてもよい。抗体は、モノクローナルであってもポリクローナルであってもよい。抗体は、任意の免疫グロブリンのクラスのメンバーであってよく、ヒトのクラス:IgG、IgM、IgA、IgDおよびIgEの内のいずれかを含むがこれに限定されない。
【0019】
用語、抗体フラグメントとは、本明細書において記載される場合、全長より短い抗体の任意の誘導体を指す。好ましくは、抗体フラグメントは、全長抗体の特異的結合能力の少なくとも重要な部分を保持する。抗体フラグメントの例として、限定されないが、Fab、Fab’、F(ab’)2、scFv、Fv、dsFv、二重特異性抗体、単一可変ドメインおよびFdフラグメントが挙げられる。抗体フラグメントは、任意の手段により製造することができる。例えば、抗体フラグメントは、酵素によりまたは化学的に、完全な抗体の断片化により製造しても、または、部分的な抗体配列をコードする遺伝子から組換えにより産生させてもよい。あるいは、抗体フラグメントは、完全にまたは部分的に合成により製造してもよい。抗体フラグメントは、任意に、一本鎖抗体フラグメントであってもよい。あるいは、フラグメントは、例えばジスルフィド結合により互いに結合した複数の鎖を含んでもよい。フラグメントはまた、任意に、複数の分子の複合体であってもよい。機能的な抗体フラグメントは、典型的には、約50アミノ酸を含み、より典型的には少なくとも約200アミノ酸を含む。一本鎖Fv(scFv)は、ポリペプチドリンカーにより互いに共有結合した可変軽鎖(VL)および可変重鎖(VH)のみからなる組換え抗体フラグメントである。VLまたはVHのいずれがNH2末端ドメインであってもよい。ポリペプチドリンカーは、2つの可変ドメインが重篤な立体的干渉を受けることなく架橋されている限り、多様な長さおよび組成のものであってよい。典型的には、リンカーは、主にグリシンおよびセリン残基の伸長物からなり、可溶性のために幾らかのグルタミン酸およびリジン残基を分散して含む。二重特異性抗体は二量体scFvである。二重特異性抗体の成分は、典型的には、殆どのscFvより短いペプチドリンカーを有し、二量体としての会合への優先性を示す。Fvフラグメントは、非共有結合的相互作用により一緒に保持される1つのVHおよび1つのVLドメインからなる抗体フラグメントである。用語dsFvは、本明細書において用いられる場合、VH−VLペアを安定化するように操作された分子間ジスルフィド結合を有するFvを指す。F(ab’)2フラグメントは、pH4.0−4.5における酵素ペプシンによる消化により免疫グロブリン(典型的にはIgG)から得られるものと本質的に等価の抗体フラグメントである。フラグメントは、組換えにより製造してもよい。Fab’フラグメントは、F(ab’)2フラグメントにおける2つの重鎖を連結するジスルフィド架橋の還元により得られるものと本質的に等価の抗体フラグメントである。Fab’フラグメントは、組換えにより製造してもよい。Fabフラグメントは、免疫グロブリン(典型的にはIgG)の酵素パパインによる消化により得られるものと本質的に等価の抗体フラグメントである。Fabフラグメントの重鎖セグメントは、Fd片(Fd piece)である。
【0020】
用語、結合剤とは、本明細書において記載される場合、別の分子に対して高いアフィニティーにより結合する分子を指す。幾つかの態様において、結合は、非共有結合的相互作用を通すものである。幾つかの態様において、結合は特異的であり、これは、結合剤が、1つのみの特定の型の分子、または限られたクラスの高度に類似する分子に、高いアフィニティーにより結合することを意味する。結合剤の非限定的な例は、抗体、抗体フラグメント、アプタマーおよびアドネクチン(adnectin)である。
用語、体液とは、本明細書において記載される場合、限定することなく、血清、血漿、リンパ液、滑液、卵胞液、精液(seminal fluid)、羊水、ミルド、全血、汗(sweat)、尿、脳脊髄液、唾液、精液(semen)、痰、涙、汗(perspiration)、粘液、組織培養培地、組織抽出物および細胞抽出物を含む任意の体液を指す。これはまた、体液の画分および希釈物にも適用することができる。体液のソースは、ヒトの身体、動物の身体、実験動物、植物または他の生物であってよい。
【0021】
用語、抱合とは、本明細書において記載される場合、2つの実体の間、例えばiCOREと結合剤との間の比較的安定な会合の状態を指す。幾つかの態様において、抱合した実体は、直接的または間接的な共有結合または非共有結合的な相互作用により結合している。好ましくは、会合は、共有結合を介するものである。幾つかの態様において、2つのペプチドは、タンパク質融合を介して抱合し、例えば、本明細書において提供されるようなペプチドiCOREは、ペプチド性結合剤、例えば抗体または抗体フラグメントと、例えばiCORE−結合剤融合タンパク質の発現によりiCOREを結合剤に融合することにより、抱合していてもよい。抱合をもたらす非共有結合的相互作用として、限定されないが、水素結合、ファン・デル・ワールス相互作用、疎水性相互作用、磁性相互作用および静電気的相互作用が挙げられる。典型的には、2つの抱合した実体は、iCORE実験の間に典型的に遭遇する状態を耐容するために十分に安定な様式において、互いに会合する。例えば、結合剤と抱合したiCOREは、2つの間の結合が、例えば2つの実体が意図的に(例えばiCOREを結合剤に連結しているリンカーを切断することにより)分離されるよりも前に、それらが用いられる方法において典型的に含まれる結合および洗浄の工程に耐えるために十分な様式において、結合剤と会合する。
【0022】
用語、濃縮とは、本明細書において記載される場合、試料または組成物であって、目的の材料と少なくとも1つのさらなる材料との両方を含む材料の混合物中の目的の材料の割合が、試料中の元の割合と比較して増大しているものを指す。かかる増大は、物理的分離、化学的相互作用または反応の方法、および当御者に周知または本明細書において提供される他の方法により、達成することができる。例えば、分析物に結合したiCOREを固体の支持体上に固定して、未結合のiCOREの全てまたは殆どを洗い流すことにより、異なる結合剤に抱合している異なるiCOREの集団を含む元の試料を、その特異的な標的分析物に結合する結合剤に抱合しているiCOREを優先的に含むように濃縮してもよい。単離または精製は、当該用語の範囲内であるが、かかる工程は、化合物、例えば所望のiCOREを濃縮するために必要とされない。
【0023】
用語、断片化シグネチャーまたは断片化イオンシグネチャーは、本明細書において記載される場合、例えばMSアッセイ、例えばMS/MSアッセイの間に、iCOREが断片化することができるイオンのパターンを指す。幾つかの態様において、同じ塩基配列の、例えばペプチドiCOREの場合は同じアミノ酸配列のiCOREの差次的(differential)な同位体標識を用いて、異なる同重体のiCOREのセットを生成し、当該セットの各々が、MSアッセイ、例えばMS/MSアッセイにおいて、当該セットのうちの他のiCOREにより生成される同じ型の他のイオン(例えばyイオン)から区別し得る少なくとも1つのイオン(例えばyイオン)を生成する。例えば、図3において記載される10個の例示的なiCORE G1−G10は、各々がユニークな断片化シグネチャーを示し、各々が、MS/MSアッセイにおいて、iCOREのyフラグメントを表わす異なる質量ピークを生じる。ユニークな断片化シグネチャーは、ユニークな断片化イオン(ユニークなy断片化イオン)をもたらす所与のポリマー分子のシグネチャーであり、これは、明確に同定することができるか、または、任意の他の断片化イオン(例えばiCOREのライブラリーにより生成される任意の他のyイオン)から区別することができる。幾つかの態様において、異なる断片化シグネチャーは、差次的な同位体標識により異なるiCOREに付与される。例えば、幾つかの態様において、各々の異なるiCOREは異なる質量のレポーター断片化イオン(例えば、yイオン)を生成するが、全iCOREの配列全体(例えば、レポーターとその残りとを含むペプチド配列)が同じ質量となるように、iCORE分子全体(例えばペプチドiCOREのアミノ酸残基全体)に重同位体を分布することにより、同重体のiCOREライブラリーを作製する。
【0024】
用語、iCOREは、本明細書において記載される場合、MSアッセイ、例えばMS/MSアッセイにおいて、質量タグとして用いることができる、同位体によりコード化されたレポーター分子を指す。典型的には、iCOREは、同位体標識されたポリマー(例えば、ポリペプチド、ポリヌクレオチドまたは多糖)であって、少なくとも5個の単量体残基(例えばアミノ酸、ヌクレオチドまたは単糖残基)を含むものである。幾つかの態様において、iCOREは、5個より多い単量体残基を含む。幾つかの好ましい態様において、iCOREの構造は、例えば単量体残基または単量体残基の組み合わせの差次的な同位体標識により、異なる断片化シグネチャーの生成を可能にする。幾つかの態様において、iCOREのポリマー構造(例えばアミノ酸、ヌクレオチドまたは単糖配列)は、MSアッセイ(例えばMS/MSアッセイ)において区別することができる、異なる断片化シグネチャーを有する少なくとも約10種のiCORE分子(例えば同重体iCORE分子)の生成を可能にする。幾つかの態様において、ポリマー構造は、異なる断片化シグネチャーを有する10個より多くの異なるiCOREの生成を可能にする。
【0025】
用語、同重体とは、本明細書において記載される場合、同じ分子量を有する分子の群を指す。例えば、幾つかの態様において、同重体のペプチドiCOREのセットは、全てが同じ重量を有するが異なる断片化シグネチャーを有するペプチドのセットであってよい。
用語、パラメーターとは、本明細書においてiCOREのコード化の文脈において用いられる場合、試料における、例えば生物学的試料における、特徴、特色または測定可能な要素を指す。幾つかの態様において、当該用語は、分析物の存在、不在または量を含む。幾つかの態様において、当該用語は、生物学的活性、例えば酵素活性または結合活性の、存在、不在または量を含む。
用語、複数とは、本明細書において記載される場合、認定される要素の2または3以上を指す。
【0026】
用語、ポリヌクレオチドは、本明細書において、用語、オリゴヌクレオチドおよび核酸分子と交換可能に用いられ、ヌクレオチドのポリマーを指す。ポリマーは、天然のヌクレオシド(すなわち、アデノシン、チミジン、グアノシン、シチジン、ウリジン、デオキシアデノシン、デオキシチミジン、デオキシグアノシンおよびデオキシシチジン)、ヌクレオシドアナログ(例えば、2−アミノアデノシン、2−チオチミジン、イノシン、ピロロ−ピリミジン、3−メチルアデノシン、5−メチルシチジン、C5−ブロモウリジン、C5−フルオロウリジン、C5−ヨードウリジン、C5−プロピニル−ウリジン、C5−プロピニル−シチジン、C5−メチルシチジン、7−デアザアデノシン、7−デアザグアノシン、8−オキソアデノシン、8−オキソグアノシン、O(6)−メチルグアニン、4−アセチルシチジン、5−(カルボキシヒドロキシメチル)ウリジン、ジヒドロウリジン、メチルプソイドウリジン、1−メチルアデノシン、1−メチルグアノシン、N6−メチルアデノシンおよび2−チオシチジン)、化学修飾された塩基、生物学的に修飾された塩基(例えば、メチル化塩基)、インターカレートされた塩基、修飾糖(例えば、2’−フルオロリボース、リボース、2’−デオキシリボース、2´−O−メチルシチジン、アラビノースおよびヘキソース)、または修飾されたリン酸基(例えば、ホスホロチオエートおよび5’−N−ホスホラミダイト架橋)を含んでもよい。
【0027】
用語、ポリペプチドは、本明細書において、用語、ペプチド、オリゴペプチドおよびタンパク質と交換可能に用いられ、ペプチド結合により一緒に架橋されたアミノ酸残基のポリマーを指す。当該用語は、本明細書において記載される場合、任意のサイズ、構造および機能の、タンパク質、ポリペプチドおよびペプチドを指す。典型的には、ポリペプチドは、少なくとも3アミノ酸長である。幾つかの態様において、ポリペプチド、例えばペプチドiCOREは、天然に存在するアミノ酸を含むが、天然に存在しないアミノ酸(例えば、天然には存在しないが、当該分野において公知であるようなポリペプチド鎖および/またはアミノ酸アナログ中に組み込むことができる化合物)を代替的に用いてもよい。また、本発明のポリペプチド中のアミノ酸の1または2以上は、例えば、炭水化物基、ヒドロキシル基、リン酸基、ファルネシル基、イソファルネシル基、脂肪酸基、抱合のためのリンカー、官能化または他のなどにより、修飾されていてもよい。ペプチドは、同位体標識されていてもよい。ペプチドは、d−アミノ酸、l−アミノ酸、またはd−アミノ酸とl−アミノ酸との混合物を含んでもよい。幾つかの態様において、ポリペプチド中のd−アミノ酸または複数のd−アミノ酸は、対応するポリペプチドに、同じ配列であるがl−アミノ酸からなるポリペプチドと比較して増大したプロテアーゼ耐性を付与する。ポリペプチドはまた、単一の分子であっても、複数の分子の複合体であってもよい。ポリペプチドは、天然に存在するタンパク質またはペプチドのフラグメントであってもよい。ポリペプチドは、天然に存在するものであっても、組換えまたは合成であっても、これらの任意の組み合わせであってもよい。
【0028】
用語、多糖とは、本明細書において記載される場合、糖のポリマーを指す。典型的には、多糖は、少なくとも2個の糖を含む。ポリマーは、天然の糖(例えばブドウ糖、ショ糖、ガラクトース、マンノース、アラビノース、リボースおよびキシロース)、ならびに/または修飾糖(例えば、2´−フルオロリボース、2´−デオキシリボースおよびヘキソース)を含んでもよい。
用語、試料とは、本明細書において記載される場合、生物学的、臨床的または実験的環境を代表する材料の組成物を指す。例えば、生物学的試料は、体液試料、または細胞もしくは組織試料などの対象から得られる試料であってもよい。あるいは、低分子化合物を含む組成物、細胞培養上清、工学的操作(engeneer)された器官を含む組成物などの、実験環境から得られる試料であってもよい。複雑な試料は、複数の異なる分析物、および/または分析物に加えて分析物ではない分子を含む試料である。複雑な試料の非限定的な例は、血清試料、血液試料、尿試料および組織試料である。幾つかの態様において、複雑な試料は、MS/MSアッセイによる単一の標的分析物(例えばペプチドまたは代謝物)の検出が、例えば類似のMSシグネチャーを有する他の分子の干渉の所為で、容易に達成できないほどに多数の分子(例えば、分析物または分析物ではない分子)を含む資料である。幾つかの態様において、複雑な試料は、従来のMSアッセイにおいて標的分析物の検出を可能にするためには、大規模な前準備の処理(例えば標的分析物の濃縮)を必要とする場合がある。
【0029】
用語、低分子は、本明細書において、用語、低分子化合物および薬物と交換可能に用いられ、研究室において合成されるか、または天然において見出される化合物を指し、これは典型的には、幾つかの炭素−炭素結合を含み、1500未満の分子量を有することにおいて特徴づけられるが、この特徴づけは、本発明の目的のために限定的であることを意図されない。天然に存在する低分子の例として、限定されないが、タキソール、ジネミシン(dynemicin)およびラパマイシンが挙げられる。研究室で合成される低分子の例として、限定されないが、Tanら(「Stereoselective Synthesis of over Two Million Compounds Having Structural Features Both Reminiscent of Natural Products and Compatible with Miniaturized Cell-Based Assays」、J. Am. Chem. Soc. 1998, 120, 8565)、および米国特許第7,109,377号、表題「Synthesis of Combinatorial Libraries of Compounds Reminiscent of Natural Products」(その全内容は、本明細書において参照により組み込まれる)において記載される化合物が挙げられる。特定の他の好ましい態様において、天然産物に類似する低分子が利用される。
【0030】
用語、対象とは、本明細書において記載される場合、ヒト、非ヒト霊長類、非ヒト哺乳動物(例えば、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコまたはげっ歯類)、脊椎動物、節足動物、脊索動物、環形動物、軟体動物、線形動物、棘皮動物を指す。幾つかの態様において、対象は、実験動物、例えば、マウス、ラット、ネコ、イヌ、ブタ、ウシ、ハムスター、スナネズミ、カエル、魚類、虫(worm)(例えばC. elegans)またはハエ(例えばショウジョウバエ、D. melanogaster)である。幾つかの態様において、対象は、微生物、例えば、酵母、細菌または真菌である。幾つかの態様において、例えば、本発明の一側面の臨床的適用を含む幾つかの態様において、対象は、疾患または状態を有すると診断されるか、またはこれを有することが疑われる。
【0031】
発明の詳細な説明
本発明の幾つかの側面は、複数の生物学的パラメーター、例えば、分析物、もしくは試料中の酵素活性の存在または不在を、iCOREと称される質量によりコード化されたレポーター中にコード化するための、方法および試薬を提供する。このことは、例えば、複雑な生物学的試料中の分析物または酵素活性の多重検出を可能にする。外因性レポーターは、単一のアッセイ(例えばMS/MSアッセイ)において分析することができ、したがって、内因性レポーターを用いて生物学的試料中の異なる分析物または酵素活性を評価する場合にしばしば必要とされるような、異なる型の複数のアッセイの必要性を回避することができる。
【0032】
生物学的試料において疾患を示すための内因性レポーターへの依存性は、診断的アプローチに対する主要な限定要因である。本明細書において、疾患の「合成バイオマーカー」としての、外因性の質量によりコード化されたレポーターであるiCOREの開発が記載される。幾つかの態様において、本明細書において記載されるiCOREは、in vivoでの診断のために用いられる。幾つかの態様において、iCOREは、in vivoで(対象への投与により)3つの機能を発揮するように設計される:疾患の標的部位、プロテアーゼ活性が調節不全となった試料、および、質量分析による多重検出のために、質量によりコード化されたレポーターを宿主の尿中へ排出すること。この技術の例示的な用途を示すために、それを、生検に基づくモニタリングに対する非侵襲的な代替法である肝線維症の生体異物モデルに適用し、肝疾患の活発に線維化する段階および回復する段階の両方において現れる、高感度かつ特異的な合成バイオマーカーを同定した。異なるiCOREのパネルはまた、大腸がんのマウスモデルにおける血液バイオマーカーと比較して、早期のがん検出についての閾値を著しく低下させたことが同定された。内因性のバイオマーカーとは別に、疾患の正確な多重のモニタリングのための合成バイオマーカーとして、iCOREを迅速に設計し、スクリーニングし、および同定する能力は、別々の病態生理学的プロセスに対して広範に受け入れられ、生物学、薬物開発およびポイントオブケア(point-of-care)診断のシステムにおいてさらなる用途を有する。
【0033】
バイオマーカーの発見は、リスク評価、早期検出、治療に対する患者の応答の予測、および再発疾患の監視のための疾患の信頼し得る指標を同定する望みにより動機づけられる1、2。今日まで、代謝物、ペプチド、タンパク質2、5、細胞フリーの核酸、エキソソーム、および循環する腫瘍細胞などの広範な別々の生物学的種が、異なる程度の性能を有するバイオマーカーへと開発されてきた。しかし、ネイティブな成分が疾患を示すことについての信頼性は、基本的な技術的および生物学的困難により限定されている。なぜなら、バイオマーカーは、しばしば、循環中に低レベルにおいて見出され8、9、複雑な生体液中に溶解することが困難であり、in vivoおよびex vivoの両方において迅速に分解され得るからである4、11
【0034】
内因性バイオマーカーの一代替物は、本明細書において記載されるような生物学的状態を調べる外因性レポーター剤の全身投与である。これらのアプローチは、疾患の代替的な指標として、宿主の生理学を利用するか、疾患特異的分子プロセスに干渉する剤を仕立てる可能性を提供する。例として、糸球体濾過速度を評価するための多糖イヌリン、ブドウ糖代謝が増大する領域を解明するFDG-PET、およびin vivoで生物学的活性をイメージングするための一連の分子および活性に基づくプローブが挙げられる12−14。これらの剤は、in vitroで、および臨床前モデルにおいて、設計して試験することができるので、これらは、反復して最適化することができ、生物学的背景よりも著しく高い濃度において投与することができる。これらのアプローチに関する限定要因として、限定された多重化能力に起因して、大きなファミリーのプローブを同時にモニタリングすることができないこと、および、患者が現地に存在すること(例えば、PET、MRI)を要求するin vivo分析のための実質的な基盤が、遠隔データまたは試料の収集を妨げることが挙げられる。
【0035】
本開示の幾つかの側面は、宿主の循環から、器官特異的または疾患特異的な血管開窓(例えば、それぞれ、肝臓類洞内皮または血管新生性腫瘍血管)15、16を介して疾患組織において受動的に蓄積する、ナノスケールの、同重体の、質量によりコード化されたレポーター剤のための枠組みを提供する。一例示的態様において、腫瘍微小環境においてプロテアーゼ活性を調査するために設計されたiCOREが提供される。疾患微小環境に到達すると、iCORE剤は、異常に活性なプロテアーゼに干渉し、質量分析(MS)による疾患の合成バイオマーカーとしての検出のための、表面に抱合された質量によりコード化されたペプチド基質の分解および宿主の尿中への放出を指揮する。調節不全となったプロテアーゼ活性は、がん、線維症、アテローム性動脈硬化、炎症、アルツハイマー病および他多数を含む広範なヒト疾患において関連付けられているので17、異常なプロテアーゼ活性の高度に多重化されたモニタリングは、コンビナトリアル分析を通して多様な疾患の状態を区別するための可能性を有する。本明細書において提供される方法および試薬は、多様な疾患に適用可能であるが、本明細書において記載されるのは、2つの未だ対処されていない臨床的挑戦:肝線維症をモニタリングするための生検に基づくモニタリングに対する非侵襲的代替物18、および現在臨床において利用されている血液バイオマーカーが早期段階のがんを確実に検出できないこと19に取り組むための、この技術の例示的な適用である。
【0036】
iCORE技術によりコード化および測定することができる他の例示的なパラメーターは、分析物である。分析物の検出のための現在のツールとして、ゲル電気泳動、ウェスタンブロット、ELISA、PCR、免疫蛍光法、マイクロアレイ、ならびにMALDIおよびLC MS/MSなどの液体クロマトグラフィー−MS技術などのMSベースのプラットフォームが挙げられる。LC MSは、液体クロマトグラフィー(例えば高速LC、HPLC)の物理学的分析能力を質量分析(mass spectrometry)の質量分析能力と組み合わせる、分析化学技術である。LC-MSは、非常に高度な感受性および選択性を有し、したがって、多様な分析物に、例えば、他の化学物質の存在下における(例えば複雑な生物学的、実験的または環境の)分析物の特異的検出および/または同定に、広く適用可能である。MS/MS(またはタンデムMS)は、2または3以上のMSの工程と、当該ステージの間において起こる何らかの形態の断片化とを含む。MS/MSは、配列情報、例えば個々のペプチドの配列情報を同定するために、一般的に用いられる技術である。詳細なクロマトグラフィーによる分取とインライン化された現代的な質量分析計は、単一の試料からの数百種の分析物を検出および評価することができる。MSは、しかし、限定要因がないわけではない。質量分析による分析に関連する現在の困難は、2つの主な要因に単純化することができる。
【0037】
第1に、目的の分析物を含むか、または含むことが疑われる多くの試料、例えば多くの生物学的試料(例えば、血液、血清、組織(例えば、腫瘍)生検、細胞ライセート、尿、脳脊髄液)、実験的試料(例えば、コンビナトリアル薬物スクリーニングにおける目的の試料)および環境的試料(例えば土または水の試料)は、非常に複雑であり、異なる型の分析物、例えば、生体分子(例えば、タンパク質、核酸、脂質、炭水化物、代謝物)、低分子、薬物および薬物代謝物、無機および有機物、細胞または細胞デブリを含み、これらは、何桁にも広がる濃度(例えば、血液中pg/ml〜mg/ml)において存在する。かかる複雑な試料内の標的分析物を発見および検出する課題は、高いバックグラウンドシグナル、およびより重要なことには、質量分析による分析のための不可欠のプロセスである標的分析物のイオン化がバイスタンダー分子(例えば脂質)により抑制されることの所為で、困難である。
【0038】
第2に、多くの分析物は、それ自体が、その最適以下の生理化学的特性(例えば、質量、電荷、親水性)の所為で、MSに基づく方法、または幾つかの分析物についてはその問題についての任意の従来の方法により、容易かつ強力に検出することが困難である。分析物の間の生理化学的特性における可変性は、低い実験再現性をもたらし、アッセイ間に高い変動性をもたらす。このことは、タンパク質の定量について特に当てはまる。しばしば、タンパク質含有試料は、MS分析の前にプロテアーゼ(例えばトリプシン)により消化され、典型的には、トリプシン消化物から生成されるペプチドの大部分は、MS分析のために最適な配列を含まない。かかるペプチドは、典型的なMS実験において、検出されないか、またはほんの僅かに検出され、現在のMSアッセイの総体的なサンプリング不足および全体的な感受性の低下をもたらす。
【0039】
これらの困難に取り組むために、技術および方法論は、シグナル強度を増大させるためのMSに先立つ標的分析物のアフィニティー濃縮、バックグラウンドを低減するための高度に豊富な生体分子の選択的な枯渇、およびプロテオームの一部(sub-proteome)を単離するための標的化化学に着目してきた(例えば、Anderson, N.L., Anderson, N.G., Haines, L.R., Hardie, D.B., Olafson, R.W., Pearson, T.W., 2004. Mass spectrometric quantitation of peptides and proteins using Stable Isotope Standards and Capture by Anti-Peptide Antibodies (SISCAPA). J. Proteome Res. 3, 235.; Whiteaker, J.R., Zhao, L., Zhang, H.Y., Feng, L.C., Piening, B.D., Anderson, L., Paulovich, A.G., 2007b. Antibody-based enrichment of peptides on magnetic beads for mass-spectrometry-based quantification of serum biomarkers. Anal. Biochem. 362, 44; Kuhn, E.,Addona, T., Keshishian, H., Burgess,M.,Mani, D.R., Lee, R.T., Sabatine,M.S., Gerszten, R.E., Carr, S.A., 2009. Developing multiplexed assays for Troponin I and Interleukin-33 in plasma by peptide immunoaffinity enrichment and targeted mass spectrometry. Clin. Chem. 55, 1108; Wollscheid B, Bausch-Fluck D, Henderson C, O'Brien R, Bibel M, Schiess R, Aebersold R, Watts JD., Mass-spectrometric identification and relative quantification of N-linked cell surface glycoproteins. Nat Biotechnol. 2009 Apr;27(4):378-86.; Hui Zhang, Xiao-jun Li, Daniel B Martin, Ruedi Aebersold, Identification and quantification of N-linked glycoproteins using hydrazide chemistry, stable isotope labeling and mass spectrometry. Nature Biotechnology 21, 660-666 (2003)を参照:これらの全内容は、本明細書において参照により組み込まれる)。また、所与のタンパク質から応答性が高いペプチドを予測するため、および、強力なプロテオミクスアッセイを開発するために必要とされる資源を低減するための、コンピューターアルゴリズムを開発することについても努力が払われた(例えば、Mallick, P., Schirle, M., Chen, S.S., Flory, M.R., Lee, H., Martin, D., Ranish, J., Raught, B., Schmitt, R., Werner, T., Kuster, B., Aebersold, R., Computational prediction of proteotypic peptides for quantitative proteomics. Nat. Biotechnol. 25: 125-131, 2007; Fusaro, V.A., Mani, D.R., Mesirov, J.P., Carr, S.A., Prediction of high-responding peptides for targeted protein assays by mass spectrometry. Nat. Biotechnol. 27: 190-198, 2009を参照)。
【0040】
一般に、現在のMS技術の弱点に取り組む従来のアプローチは、定量的質量分析を改善するための新規の化学および技術を開発することに着目し、根底にある、特定の生物学的化合物は、イオン化およびそれらの化学構造に基づいて検出することがより困難であるという条件を受容する。
【0041】
本発明の幾つかの側面は、対照的に、標的分析物を、高いイオン化効率を有し、したがってMSに基づく検出および定量化のために最適化された生化学的部分へ翻訳するための、分子、組成物および方法を提供する。幾つかの態様において、この分析物のアイデンティティーおよび量の、MSのために最適化された生化学的構造への翻訳は、複数の分析物、例えば生理化学的特性が異なりしたがってMSに基づくアッセイにおける検出能が異なる分析物の、同時評価を可能にする。幾つかの態様において、生理化学的特性が異なる複数の分析物を、MSに基づく(例えばMS/MSアッセイにおける)検出のために最適化された同重体の質量レポーター(例えば同重体のペプチド質量タグ)のセットへ翻訳する。幾つかの態様において、翻訳は、LC MS/MSによる複数の標的分析物の定性的および/または定量的な分析を可能にする。幾つかの態様において、生理化学的特性が異なる分析物の、本明細書において提供されるような同重体の質量タグへの生化学的コード化は、MS分析を、同重体の質量タグの特異的な質量ウィンドウに対して集中することを可能にし、これは、分析の感度および正確性を増大させ、関連する質量ウィンドウをモニタリングするために必要とされる時間を減少させる。幾つかの態様において、翻訳は、標的分析物(例えば複雑な生物学的試料中の標的分析物)を濃縮する工程を含む。
【0042】
本発明の幾つかの側面は、質量タグとして用いることができる同位体によりコード化されたレポーター(iCORE)を提供する。幾つかの態様において、iCOREは、例えば光に対して不安定なリンカーを介して、結合剤(例えば抗体または抗体フラグメント)に結合されて提供される。幾つかの態様において、iCOREは、MSアッセイによる、例えばLC MS/MSによる、標的分析物の定性的または定量的な検出のために用いられる。幾つかの態様において、iCOREは、活性の、例えば標的酵素活性(例えば、プロテアーゼ、キナーゼまたはホスファターゼ活性)の、MSアッセイによる、例えばLC MS/MSによる、定性的または定量的な検出のために用いられる。
【0043】
幾つかの態様において、標的分析物を含む複雑な試料、例えば生物学的または臨床的試料は、第1に、磁性ミクロスフェア上にコートした捕捉抗体により、選択的に濃縮される(例えば図1を参照)。固定化された分析物を、次いで、iCORE標識結合剤と接触させる。結合、および未結合の試薬の除去の後で、個々のiCOREを結合剤からUV照射を通して切断し、これらの「レスキュー」されたiCOREのプールを、MSアッセイにより、例えばLC MS/MSにより分析する。幾つかの態様において、各iCOREから得られるシグナルの存在および/または強度により決定される、個々のiCOREの存在および/または不在を、標的分析物または活性の存在または不在および/または豊富さ(例えば濃度)を決定するために用いる。
【0044】
幾つかの態様において、1または2以上のiCOREを、対象に投与する。例えば、幾つかの態様において、iCOREを、本明細書において記載される方法、またはその全内容が本明細書において参照により組み込まれる2010年3月2日に出願されたPCT出願PCT/US2010/000633、表題「Methods And Products For In Vivo Enzyme Profiling」において記載される方法に従って、処方し、対象に投与し、収集することができる。例えば、疾患を有することが疑われる対象における分析物または酵素活性を調査するために設計されたiCOREを、当該対象に投与して、分析物によりまたは酵素活性により改変されたiCOREを、iCOREが対象において分析物または酵素活性暴露されるために十分な時間において、収集してもよい。幾つかの態様において、試料(例えば、尿、血液、血清または血漿試料)を対象から収集し、「レスキュー」されたiCOREを、例えば本明細書においてまたはPCT出願PCT/US2010/000633において記載されるように、尿試料内で検出する。幾つかの態様において、各iCOREから得られるシグナルの存在および/または強度により決定される、個々のiCOREの存在および/または不在を、標的分析物または活性の存在または不在および/または豊富さ(例えば濃度)を決定するために用いる。
【0045】
本発明の幾つかの側面はまた、単一の試料中の複数の分析物が同時に検出され、および/または定量される、多重化された実験を可能にするための、単一のペプチドに基づくレポーターからの質量コードのセットまたはライブラリーを生成するための方法を提供する。幾つかの態様において、有利なMS特性を有するiCOREを選択する。好適なiCOREの幾つかの非限定的な例は、本明細書において記載され、本発明の幾つかの側面により有用なさらなるiCOREは、これらの開示に基づいて、当業者には明らかであろう。例えば、幾つかの態様において、glu-fibペプチド(EGVNDNEEGFFSAR、配列番号1)を、親iCOREとして用いる。この親配列から開始して、同位体アナログのセット(例えば、ユニークな断片化シグネチャーを有するglu-fib iCORE)を設計し、したがって、質量が同一であるが区別し得る断片化レポーターイオン(例えば異なる質量のy−イオン)を有する多数のiCORE(同重体iCORE)を含むiCOREライブラリーを作製する。かかる同重体iCOREは、MS分析の間は区別することができないが、例えば衝突誘起解離(CID)、赤外線多光子解離(IRMPD)または当業者に公知の任意の他の好適な断片化方法によるペプチド断片化の後で、当該セットの各々のメンバーは、そのユニークな断片化レポーターイオンにより、タンデムMS(MS/MS)アッセイにおいて、区別することができる(図2)。ユニークな、区別し得る断片化シグネチャーの生成は、幾つかの態様において、親ペプチド配列中の安定な同位体が豊富なアミノ酸の戦略的な置換により達成される。幾つかの態様において、結合剤のセットを、ユニークな区別し得る断片化シグネチャーのセットを有するiCOREのセット、例えば、MS/MSにより同定することができる断片化イオンを生じる同位体で個別に標識されたiCOREのセットに、各々のユニークな同位体標識パターンおよび関連する断片化イオンシグネチャーが、1つの分析物に特異的に結合している結合剤にのみ関連するように、抱合させる。かかる態様において、各々の結合剤の同族特異性(cognate specificity)は、同位体標識パターン、および関連するiCOREの関連する断片化シグネチャーによりコード化される。幾つかの態様において、かかる結合剤に抱合したiCOREのセットを、本明細書において提供される方法に従って、試料、例えば生物学的もしくは臨床的試料中の、またはin vivoでの、分析物または活性の多重検出および/または定量のために用いる。
【0046】
本明細書において提供される試薬および方法に関して、従来のMSに基づく分析物の検出方法と比較して、幾つかの利点が存在する。例えば、幾つかの態様において、標的分析物を、結合剤により、例えば目的の分析物に特異的に結合する捕捉抗体により、濃縮し、固体の基質、例えば磁性ビーズまたはミクロスフェアまたは膜または樹脂上に固定する。幾つかの態様において、この濃縮により、より高感度および/もしくは特異的な分析物の検出が可能になり、ならびに/あるいは、バックグラウンドシグナルが、特に体液(例えば血液または血清)、組織もしくは細胞の試料などの複雑な試料において、低減される。
【0047】
さらに、幾つかの態様において、標的分析物を、MS/MSによる容易な検出および/または定量のために予め設計される代用(surrogate)同位体によりコード化されたレポーター(iCORE)に翻訳する。幾つかの態様において、この分析物(例えばMSアッセイにより検出することが困難な分析物)の、検出が容易であるMSタグへの翻訳または生化学的コード化により、内因性の化学構造物またはペプチドを直接的に検出することの困難の回避が可能になる。このことは、構造が異なる複数の分析物がアッセイされる多重アッセイの文脈において、特に有利である。1回の多重MSアッセイにおける異なる構造物の直接検出は、典型的には、大きな質量ウィンドウのスクリーニングを必要とし、一部の分析物がMSにより容易に検出される一方で、多くの分析物は、大規模な前処理なしでは検出することが困難または不可能であるか、複雑な試料を分析する場合には明確に同定することができない。
【0048】
幾つかの態様において、単一の分析物分子が複数のiCORE分子に翻訳され、このことが、例えば約3−20倍のシグナルの増幅により分析物の検出のより高度な感受性をもたらす。例えば、幾つかの態様において、標的分析物の単一のまたは2つの分子に特異的に結合する結合剤、例えば抗体またはそのフラグメントを、複数のiCORE分子、例えば約3、約5、約10または約20個のiCORE分子に抱合させ、これは、それぞれ、標的分析物の直接的なMS検出と比較して、MSのために利用可能な分子の数の約3、約5、約10または約20倍の増幅をもたらす。より多くのiCORE分子を結合剤分子に結合させることにより、より高い増幅率を達成することができることが、当業者により理解されるであろう。iCOREの結合剤への結合のための方法および試薬は、本明細書において提供され、さらなる方法は、当業者には明らかであろう。
【0049】
例えば結合剤(例えば抗体または抗体フラグメント)に結合しているiCOREが用いられる態様における、翻訳プロセスの間の光不安定性リンカーの使用は、紫外光により誘発される結合剤からのiCOREの放出を可能にする。この光化学プロセスの高い効率は、酵素消化によるタンパク質からのペプチドの誘導(従来のLC MS/MSアッセイにおける多重タンパク質検出のために必要である)と著しい対照をなす。後者は、用いられる酵素の生物物理学的特性(例えばKD、kcat、基質特異性)および酵素活性のために最適な試料の状態(例えばpH、塩濃度)により限定される。これらの制約の両方が、より多くの試料処理の必要性および/または検出効率の低下をもたらす。
【0050】
さらに、既知の質量を有する予め決定された質量タグ(例えば同重体iCORE)の使用は、データの収集および分析を著しく簡略化する。なぜならば、多様な分子量の分析物について、大きな質量ウィンドウ(例えば、50−2000m/z)を検索する必要がないからである。むしろ、同重体コードにより、シグナルを効率的に収集するために、親質量の中心に狭い質量ウィンドウを設置する(例えば±0.5m/z)ことができる。幾つかの態様において、翻訳の間の分析物シグナルの増幅と組み合わされたこの標的化されたアプローチは、検出感度を〜30−300倍増大させる。さらに、幾つかの態様において、データ収集の簡略化およびその結果である質量分析計の操作時間の減少は、全体的コストを約10倍削減する。
【0051】
さらに、同重体iCORE質量タグライブラリー(例えば同重体iCOREペプチドライブラリー)を作製する方法は、達成することができる大規模なコード化が現在の限界を遥かに超えた多重化能力へと翻訳されるため、現在の技術に対する改善である。同重体によるMSの多重化における現在の最先端技術は、iTRAQ質量タグである(Ross PL, Huang YN, Marchese JN, Williamson B, Parker K, Hattan S, Khainovski N, Pillai S, Dey S, Daniels S, Purkayastha S, Juhasz P, Martin S, Bartlet-Jones M, He F, Jacobson A, Pappin DJ., Multiplexed protein quantitation in Saccharomyces cerevisiae using amine-reactive isobaric tagging reagents, Mol Cell Proteomics. 2004 Dec;3(12):1154-69)。ITRAQ標識試薬は、4個または最大8個のユニークな質量コードを提供するアミン反応性低分子である。大きなライブラリーは、低分子中の同位体置換のために利用可能な原子の数により妨げられる。本発明の幾つかの側面により提供されるようなiCORE(例えばペプチドiCORE)を用いれば、しかし、同位体置換のために利用可能な原子の数は、モノマー、例えば重同位体により標識することができるアミノ酸の数により、増加する。したがって、例えば、〜15アミノ酸の平均ペプチド長から、少なくとも〜30−40個のユニークなコードを構築することが可能である。ライブラリーのサイズ、およびしたがってユニークなコードタグの数は、より長いペプチドを用いることにより、および/または、〜100−1000個またはそれより多くの要素を提供する別の同重体iCOREペプチドのセットを組み合わせることにより、さらに増加する。
【0052】
本発明の幾つかの側面は、同位体によりコード化されたレポーター分子(iCORE)およびその使用の方法を提供する。幾つかの態様において、iCOREは、MSアッセイにおいて、例えば多重LC MS/MSアッセイにおいて、質量タグとして有用であり、このことは本明細書において他の場所でより詳細に記載される。幾つかの態様において、iCOREは、試料(例えば複雑な生物学的試料)中の数十、数百、数千の分析物の、同時の定性的および/もしくは定量的検出において、または、MS読み出し情報を用いての数十、数百、数千の細胞、組織もしくは試料の同時追跡において、有用である。
【0053】
幾つかの態様において、多重MSアッセイにおいて、例えば多重LC MS/MSアッセイにおいて有用である異なるiCOREのセット、複数のiCORE、またはiCOREのライブラリーが提供される。幾つかの態様において、iCOREのセット、複数のiCORE、またはiCOREのライブラリーのうちのiCOREは、同重体である。例えば、幾つかの態様において、全てのiCOREが、ポリマー、例えば同じアミノ酸配列のペプチド(例えば、glu-fibペプチド(EGVNDNEEGFFSAR、配列番号1))であり、したがってMS分析に関連する同じ生理化学的特性を有する、同重体iCOREのセット、複数の同重体iCORE、または同重体iCOREのライブラリーが提供される。したがって、かかるセット、複数のものまたはライブラリーの全てのiCOREは、LC MS/MSアッセイにおいて、実質的に同じ特性、感度および正確性により検出される。幾つかの態様において、かかる同重体iCOREのセット、複数の同重体iCORE、または同重体iCOREのライブラリー中の異なるiCOREは、MS/MSアッセイにおいて容易に区別することができる異なる断片化シグネチャーを有し、このことは、本明細書において他の場所でより詳細に記載される。短いポリマー、例えば短いポリペプチドですら、MS/MSアッセイにおいて区別することができる同重体iCOREのセット、複数の同重体iCORE、または同重体iCOREのライブラリーにおける多数のユニークな断片化シグネチャーの生成が可能であるため、例えばiCOREの差次的な同位体標識により、この技術は、iTRAQ(4重もしくは最大で8重)またはタンデム質量タグ(TMT、最大6重)技術などの現在の多重MS技術の限界を遥かに超えた、多重の定性的または定量的なMS分析のために用いることができる。
【0054】
アミノ酸配列EGVNDNEEGFFSAR(配列番号1)の10個の同重体のペプチドiCOREの非限定的な例示的なセットを、図3において記載する。異なるiCORE G1−G10は、異なる同位体パターンを有し、したがって異なる断片化シグネチャーを有する。例えば、G1は同位体パターンE+3G+6VNDNEEGFFSAR(配列番号1)を有し、G2は同位体パターンE+2G+6VNDNEE+1GFFSAR(配列番号1)を有し、G3は同位体パターンE+1G+6VNDNEE+2GFFSAR(配列番号1)を有する、など。MSの第1のラウンドにおいて、単一のピークのみが観察され、このことは、iCORE G1−10の同重体の性質を反映している(図3I)。断片化の後で、しかし、G1−10のユニークな断片化シグネチャーは、10個の別々のピークとして、フラグメントの溶解をもたらす(図3II)。図の下のパネルは、y7イオン(EGFFSAR、配列番号6、yイオン命名法については図2を参照)から得られたピークの詳細を示し、これは、セットのうちの各々のユニークなiCOREの定性的(存在/不在)ならびに定量的な分析を可能にする、当業者は、glu-fib ペプチド配列が、差次的な同位体標識を介して、例えば配列内の残りのアミノ酸をさらにコード化することにより、10個より多くのユニークな断片化シグネチャーを生み出すことを可能にすること、ならびに10種のiCOREの例示的なセットがこの意味において限定的ではないことを理解するであろう。iCORE技術の多重化能力は、iCOREにおいて作りだすことができるユニークな断片化パターンの数によってのみ限定される。図3において例示されるglu-fibペプチド配列のような小さなペプチド配列ですら、市販の同位体標識されたアミノ酸が用いられる場合において、少なくとも30−40個のユニークな同位体シグネチャーを生み出すことが可能であり、かかるアミノ酸をカスタム合成する場合はことさらである。
【0055】
多重のglu-fibに基づくiCOREライブラリーを作製するための3つの非限定的な例示的な差次的同位体標識戦略を、以下に提供する。これらの例において、iCOREは、示したアミノ酸において1または2以上の重同位体による1または2以上の原子の置換により同位体標識されており、これは、標識されたアミノ酸の質量の変化をもたらす。結果として生じる各々のライブラリー中のiCOREは、異なる断片化シグネチャーを有する(例えばyイオンに関して)異なるiCOREによる同重体である。例は、説明のためにのみ意図され、本発明のこの側面を限定するものではない。さらなる有用な差次的な同位体標識の戦略およびスキームは、当業者には明らかであろう。
【0056】
【数1】
【0057】
【数2】
【0058】
【数3】
【0059】
幾つかの態様において、同位体標識されたアミノ酸は、D−アミノ酸である。幾つかの態様において、同位体標識されたアミノ酸は、L−アミノ酸である。幾つかの態様において、同位体標識されたアミノ酸は、D−およびL−アミノ酸の混合物である。
当業者は、より長いポリマー、例えばより長いポリペプチド、多糖またはポリヌクレオチドが、差次的な同位体標識により、さらによりユニークな断片化シグネチャーが生成されることを可能にし、したがってiCORE技術の多重化能力をさらに拡大することを理解するであろう。
【0060】
幾つかの態様において、少なくとも2、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも11、少なくとも12、少なくとも13、少なくとも14、少なくとも15、少なくとも16、少なくとも17、少なくとも18、少なくとも19、少なくとも20、少なくとも25、少なくとも30、少なくとも40、少なくとも50、少なくとも60、少なくとも70、少なくとも80、少なくとも90、少なくとも100、少なくとも125、少なくとも150、少なくとも200、少なくとも250、少なくとも500、少なくとも1000、または1000種より多くの異なるiCORE、例えば、MSアッセイ、例えばMS/MSアッセイにより区別し得るユニークな断片化シグネチャーを有するiCOREを含む、iCOREのセット、複数のiCOREまたはiCOREのライブラリー(例えば、ポリペプチド、ポリヌクレオチドまたは多糖iCORE)が提供される。幾つかの態様において、セット、複数またはライブラリーの中のiCOREは、同重体のiCORE、例えば、同重体のポリペプチド、ポリヌクレオチドまたは多糖iCOREである。幾つかの態様において、iCOREのセット(例えば同重体iCOREのセット)中の各々のユニークな断片化シグネチャーは、特定の分析物またはパラメーターと関連するか、またはこれを表わす。例えば、分析物および細胞、組織、試料の検出、ならびに液体の追跡における、iCOREの使用のための方法もまた提供される。
【0061】
用語、iCOREとは、同位体によりコード化されたレポーター分子を指す。幾つかの態様において、iCOREは、MS技術により容易に検出可能である分子である。幾つかの態様において、iCOREは、ペプチド、例えば、MS技術により容易に検出可能であることが知られているペプチドである。他の態様において、iCOREは、ポリヌクレオチドまたは多糖である。典型的には、iCOREは、例えばMS/MSなどの検出アッセイにおいて区別し得るユニークな断片化シグネチャーの作製のための、差次的な同位体標識を可能にする分子である。このことは、MS検出の目的のための同じ生理化学的特性を共有し(例えば同じアミノ酸配列を有するペプチドiCORE)、例えばLC MS/MSアッセイにおいてそれらのユニークな断片化シグネチャーにより容易に区別し得る、同重体のiCOREのライブラリーの作製を可能にする。典型的には、iCOREは、異なるMSシグネチャーを示すモノマーからなり、したがってモノマーの配列を含む、ポリマーである。かかるポリマーは、当業者に周知であり、限定されないが、アミノ酸、ヌクレオチドおよび単糖のポリマー、例えばそれぞれポリペプチド、ポリヌクレオチドおよび多糖を含む。
【0062】
iCOREの長さは、典型的には、MSアッセイにおいて有用な質量シグネチャー、例えばMS/MSアッセイにおいて容易に検出することができる質量シグネチャーを生み出すように選択される。例えば、幾つかの態様において、iCOREは、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも11、少なくとも12、少なくとも13、少なくとも14、少なくとも15、少なくとも16、少なくとも17、少なくとも18、少なくとも19、少なくとも20、少なくとも25、少なくとも30、少なくとも40、少なくとも50、少なくとも60、少なくとも70、少なくとも80、少なくとも90または少なくとも100個のモノマー残基、例えばアミノ酸、ヌクレオチドまたは単糖残基を含む、ポリマー分子(例えばポリペプチド、ポリヌクレオチドまたは多糖)である。幾つかの態様において、iCOREは、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、50、51−60、61−70、71−80、81−90または91−100個のモノマー、例えばアミノ酸またはヌクレオチド残基を含む、ポリマー分子、例えばポリペプチド、ポリヌクレオチドまたは多糖である。幾つかの態様において、iCOREは、100個より多くのモノマー、例えば100個より多いアミノ酸、ヌクレオチドまたは単糖残基を含む、ポリマーである。
【0063】
iCOREの作製のために有用なポリマー分子の非限定的な例は、ポリペプチドglu-fib(EGVNDNEEGFFSAR(配列番号1))、ブラジキニン(PPGFSPFR(配列番号30))、アンジオテンシンI(DRVYIHPFHL(配列番号31))、ACTH1-17(SYSMEHFRWGKPVGKKR(配列番号32))、ACTH18-39(RPVKVYPNGAEDESAEAFPLEF(配列番号33))およびACTH7-38(FRWGKPVGKKRRPVKVYPNGAEDESAEAFPLE(配列番号34))である。iCOREの作製のために用いることができるさらなるポリマー分子および配列は、当業者には容易に理解され、本発明は、この点において限定されない。
【0064】
未標識のポリマー分子、例えばポリペプチド、ポリヌクレオチドまたは多糖からiCOREを作製するために、ポリマー分子を同位体標識する。ポリマー分子の同位体標識のための方法および試薬は、当業者に周知である。幾つかの態様において、かかる方法として、同位体標識されたポリマー分子を得るための、少なくともその一部が同位体標識されているモノマー(例えばアミノ酸)からのポリマー分子(例えばペプチド)の生成が挙げられる。幾つかの態様において、同位体標識は、重同位体の導入により行われる。放射活性同位体による、または安定な同位体による同位体標識が可能である。幾つかの態様において、安定な同位体による標識が好ましい。
【0065】
例えば、未標識のモノマー(例えば未標識のアミノ酸、ヌクレオチドまたは単糖)は、主にC12、O16、N14およびS32原子を含むが、一方、同位体標識されたモノマー(例えば同位体標識されたアミノ酸)は、1または2以上の重同位体、例えば、C13、N15、O17、O18、H、S33、S34またはS36同位体を含む。重同位体を含むモノマーは、未標識のアミノ酸とは異なる質量を有し、モノマー中に含まれる単一の同位体ですら、MSアッセイにおいて容易に測定することができる。この質量の差異は、かかる同位体標識されたモノマーを含む任意のポリマーに付与される。例えば、アミノ酸のC12原子のC13同位体による置換から生じた質量の差異は、かかる同位体標識されたアミノ酸を含むペプチドにおいて測定することができる。
【0066】
モノマー同位体標識の非限定的な例として、未標識のフェニルアラニン(F)のフェニル環は、典型的には6個のC12原子を含む。幾つかの態様において、同位体標識されたフェニルアラニン残基は、5個のC12原子および1個のC13同位体を含むフェニル環を含み、1個の中性子(+1F)の質量により標識されたアミノ酸の質量を増大させる。幾つかの態様において、同位体標識されたフェニルアラニン残基は、4個のC12原子および2個のC13同位体を含むフェニル環を含み、2個の中性子(+2F)の質量により標識されたアミノ酸の質量を増大させる。幾つかの態様において、同位体標識されたフェニルアラニン残基は、3個のC12原子および3個のC13同位体(+3F)、2個のC12原子および4個のC13同位体(+4F)、1個のC12原子および5個のC13同位体(+5F)、または6個のC13同位体(+6F)を含むフェニル環を含む。未標識のフェニルアラニンの残りの3個のC12原子、ならびにアミノ基のN14原子もまた、同位体により置換することができ、+7F、+8F、+9Fおよび+10Fを生じる。任意の同位体置換の組み合わせが可能であること、ならびに、例えばアミノ基のN14の置換、カルボキシ基のC12の置換、およびフェニル環の2個のC12の置換、同様に、3個のフェニル環C12のC13による置換およびN14のN15による置換、またはフェニル環の4個のC12の4個のC13による置換が、+4Fを生じるであろうことは、当業者により理解されるであろう。幾つかの態様において、同位体標識されたフェニルアラニンは、同位体標識されたペプチドを生成するために用いられる。幾つかの態様において、このことは、in vivoでのペプチド合成、例えば、細胞を、同位体標識されたフェニルアラニンの存在下においてインキュベートし、標識されたアミノ酸をそれらが合成する任意のペプチド中に組み込むことを含む。幾つかの態様において、同位体標識されたペプチドは、in vitroで、例えば同位体標識されたアミノ酸を構成要素として用いるfmoc合成を介して、合成される。
【0067】
フェニルアラニン以外のアミノ酸を、同様の戦略ならびに当業者に公知の方法および試薬を用いて同位体標識してもよいことが、当業者により理解され、本発明はこの点において限定されない。アミノ酸以外のモノマー。例えばヌクレオチドおよび単糖を同位体標識してもよいことが、さらに理解されるであろう。さらに、iCOREとして有用である同位体標識されたポリマーの生成のための他の方法、例えばポリマーを直接的に標識する方法もまた、当業者には公知であり、本発明はこの点において限定されない。
【0068】
ポリマー分子の差次的な同位体標識により、例えば、異なる量の重同位体を同じ単量体残基に添加することにより、または、ポリマー分子内で標識された単量体残基の異なる組み合わせを生み出すことにより、異なる断片化シグネチャーを作製することができる。差次的な同位体標識により作製される異なるiCORE断片化シグネチャーの例については、図3において記載されるiCORE G1−G10を参照。ポリペプチド、ポリヌクレオチドまたは多糖の、特定の残基、例えば特定のアミノ酸、ヌクレオチドまたは単糖残基における同位体標識は、MSアッセイを介して、例えばMS/MSアッセイを介して、容易に同定することができ、異なる残基において標識された同じモノマー配列の他のポリペプチド、ポリヌクレオチドまたは多糖と区別することができる、特異的な同位体標識シグネチャーをもたらす。これにより、同じモノマー配列を含むが異なる残基において同位体標識されている複数のiCORE(例えば同じアミノ酸配列を含む複数のポリヌクレオチドiCORE)の作製が可能となる。かかる差次的に標識された同重体iCOREは、MSアッセイの目的のためには同一の生理化学的特性を示し、したがって、MSアッセイにおいて同等のレベルの感度、特異性および正確性において検出可能であるが、例えばLC MS/MSアッセイにおいて、本明細書において記載されるように、なおそれらのユニークな断片化シグネチャーにより区別することができる。
【0069】
幾つかの態様において、iCOREはポリペプチドである。典型的には、ポリペプチドiCOREは、本明細書において提供されるiCORE配列により例示されるような、MSアッセイにおける容易な検出のために最適化された配列を含む。幾つかの態様において、全てのiCOREが同じアミノ酸配列を含むが、異なるiCOREは異なる同位体標識シグネチャーを含む、同重体iCOREのライブラリーが提供される。短い(例えば長さが約5−20個のアミノ酸の)ポリペプチドですら、数十または数百個のユニークな同位体標識シグネチャーの作製を可能にし、これは、かかる長さの同重体iCOREを用いる多重MSアッセイにおいて数十または数百種の分析物を検出および分析する可能性へと翻訳される。幾つかの態様において、異なるアミノ酸配列のiCOREを含むペプチドiCOREのライブラリーが提供され、これは、ユニークな同位体標識シグネチャーの数をさらに増加させ、したがって1回の多重MSにおいてアッセイすることができる分析物の数を増加させる。かかる異種iCOREライブラリーは、例えば、同重体の個別に標識されたiCOREを含む第1のiCOREライブラリーを、同重体の個別に標識されたiCOREを含むさらなるライブラリーと組み合わせることにより、作製することができる。例えば、かかるライブラリーは、glu-fibベースのiCOREのライブラリーを、ブラジキニンベースのiCOREのライブラリーおよびアンジオテンシンIベースのiCOREのライブラリーと組み合わせ、それによりより大きなコンビナトリアルiCOREライブラリーを作出することにより、作製することができる。
【0070】
本発明の幾つかの側面は、MSアッセイにおいて有用である相対的に少数の相対的に短いポリペプチドタグですら、実質的に無限の多重化能力を提供するという認識に関する。なぜならば、ポリペプチドはアミノ酸残基からなり、iCOREのための構成要素として有用な20種の天然に存在するアミノ酸と多数の人工アミノ酸とが存在するからである。例えば、同重体の個別に標識されたglu-fib(EGVNDNEEGFFSAR(配列番号1))iCOREに基づくiCOREライブラリーは、多重MSアッセイにおいて約10−100種の分析物の検出を可能にし、一方、同重体の個別に標識されたACTH7-38(FRWGKPVGKKRRPVKVYPNGAEDESAEAFPLE(配列番号34))iCOREに基づくiCOREライブラリーは、多重MSアッセイにおいて約10−400種の分析物の検出を可能にする。コンビナトリアルiCOREライブラリーは、したがって、数千の分析物の同時の評価を可能にする。
【0071】
本発明の幾つかの側面は、iCOREのセットまたはライブラリーを提供する。幾つかの態様において、iCOREは、別の分子と反応する反応性部分を含むか、またはこれに抱合している。例えば、幾つかの態様において、iCOREは、目的の分子に対して(例えば分析物または分析物のセットに対して)共有結合を形成する反応性部分を含む。幾つかの態様において、目的の分子は、ペプチドもしくはタンパク質、炭水化物、核酸、または脂質である。幾つかの態様において、iCOREが抱合することが目的とされる目的の分子は、結合剤、例えば、抗体、抗体フラグメント、アプタマー、リガンド、受容体またはアドネクチンである。例えば、幾つかの態様において、タンパク質と接触した場合にタンパク質に対して共有結合を形成する反応性の化学部分に抱合しているiCOREのセットが提供される。反応性の化学部分は、当業者に周知である。1つの例示的な態様を、この点を説明するために図7において示す。ここでは、iCOREは、UV光下においてPEGモノマーと重合してPEGハイドロゲルを形成する化学部分に共有結合したglu-fibペプチドである。ポリエチレングリコール(PEG)、別名ポリ(オキシエチレン)グリコールは、一般化学式HO(CHCHO)[n]Hを有するエチレンオキシドと水との縮合ポリマーである。かかるハイドロゲルは、例えば工学的操作された組織の生成において有用であり、かかるハイドロゲルに対するiCOREの抱合により、かかるタグ化ハイドロゲル上で培養された組織をin vitroまたはin vivoでの実験において追跡することが可能になり、これは、本明細書において他の場所においてより詳細に記載される。他の反応性の化学部分、およびかかる部分の本明細書において提供されるiCOREへの抱合のための方法は、当業者には周知であり、本発明はこの点において限定されない。反応性の化学部分の型は、iCOREが抱合することが目的とされる目的の分子中に含まれる部分と反応性であるように選択することができることは、当業者には明らかであろう。幾つかの態様において、共有結合を介して反応性の化学部分に抱合したiCOREが提供される。幾つかの態様において、切断可能なリンカー、例えば光切断可能なリンカーを介して反応性の化学部分に抱合したiCOREが提供される。
【0072】
iCOREを反応性の化学部分に抱合させることにより、エンドユーザーによる、例えば科学者による分子のカスタム標識が可能になり、したがって、iCORE技術の多用途性をカスタムメイド実験設計へと拡大する。例えば、幾つかの態様において、ペプチドと共有結合を形成する反応性部分に抱合しているiCOREを、ITRAQタグが一般的に用いられるものとほぼ同じように、生物学的試料から得られたタンパク質またはペプチドを、異なる試料から得られたタンパク質またはペプチドと比較するために標識するために用いることができる。ITRAQ技術と対象的に、所与のiCOREセット(例えば本明細書において記載されるような同重体のペプチドiCOREのセット)について利用可能な実質的に無限の数の異なる断片化シグネチャーは、実質的に無限の数の分析物の同時評価、例えば実質的に無限の数のタンパク質またはペプチド試料の同時の評価および比較を可能にする。
【0073】
iCORE技術の拡張性は、用いられる特異的結合剤(特異的結合剤に抱合したiCOREが用いられるか、または提供される態様については)、および、ユニークな区別し得る断片化シグネチャーを有する特異的な区別し得る質量レポーター(例えばiCORE)に依存する。特異的結合剤に関して、iCOREは、限定されないが、抗体、抗体フラグメント、アプタマー、リガンド結合タンパク質またはタンパク質ドメインおよびアドネクチンを含む、実質的に全ての市販の結合剤に、当業者に周知の方法により抱合することができる。ユニークな断片化シグネチャーを有するiCOREの数は、天然に存在するアミノ酸のみを含むペプチドiCOREについては、20(ここでn=ペプチドの長さ)として計測されるペプチドのスペースに対応する。したがって、非常に短いペプチドiCOREですら、多数の可能なユニークな断片化シグネチャーを提供する一方、より長いペプチドは、実質的に無限のユニークなシグネチャーを提供する。幾つかの態様において、MSにより容易に検出されるペプチドiCOREが好ましいが、例示的な容易に検出可能なペプチドiCOREですら、単独で、数百または数千のユニークな断片化シグネチャーを可能にする。iCOREの生成のために好適な幾つかのペプチド配列は、本明細書において提供され、さらなる好適なペプチド配列は、これらの開示に基づいて、当業者には明らかであろう
【0074】
幾つかの態様において、結合剤に抱合したiCOREが提供される。結合剤は、分子、例えば分析物に特異的に結合する剤である。幾つかの態様において、結合剤は、抗体または抗体フラグメントである。幾つかの態様において、結合剤は、ペプチドまたはタンパク質である。幾つかの態様において、結合剤は、アプタマーまたはアドネクチンである。幾つかの態様において、結合剤は、リガンドまたは受容体であるか、またはリガンド結合ドメインを含む。
【0075】
したがって、幾つかの態様において、分析物に特異的に結合するiCORE−結合剤抱合体が提供される。幾つかの態様において、iCOREと結合剤との抱合は、共有結合を介するものであり、例えば、iCORE−結合剤融合タンパク質においては共有ペプチド結合を介するものである。幾つかの態様において、iCOREと結合剤との抱合は、切断可能なリンカー、例えばプロテアーゼ切断可能なリンカーまたは光切断可能なリンカーを介するものである。幾つかの態様において、リンカーは、プロテアーゼ切断部位を含むペプチドリンカーである。幾つかの例示的な光切断可能なリンカーおよびプロテアーゼ切断部位は、本明細書において記載され、さらなるリンカーおよび切断部位は、当業者には明らかであり、本発明はこの点において限定されない。例えば、幾つかの態様において、本明細書において記載されるように、光切断可能なリンカーを介して結合剤(例えば抗体)に抱合したiCOREが提供される。幾つかの態様において、結合剤のセット、例えば、抗体もしくは抗体フラグメントまたはペプチドおよびタンパク質に結合するリガンドまたはアプタマーまたはアドネクチンまたはかかる剤の任意の組み合わせのセットに抱合した、iCOREのセットが提供される。典型的には、かかるセット中のiCOREは、iCOREのアイデンティティーを決定することにより、特定の結合剤、したがって結合剤により結合された分析物の同定が可能となる様式において、結合剤に抱合している。
【0076】
例えば、次いで分析物のセット(A1−A10)に特異的に結合する10種の異なる結合剤のセット(B1−B10)に抱合している10個の異なるiCOREのセット(例えば図2におけるiCORE G1−G10)において、iCOREは、ユニークな断片化シグネチャーの各々のiCOREが、特定の結合剤に対して抱合するように(例えばG1がB1に対して、G2がB2に対して、G3がB3に対してなど)、結合剤に抱合している。各々のiCOREのユニークな断片化シグネチャーは、MSアッセイ(例えば図3において示すMS/MSアッセイ)において同定することができ、ライブラリー中の他のiCOREの断片化シグネチャーから区別することができる。したがって、試料中の特定の結合剤の存在または不在は、その特定の結合剤に関連するiCOREのユニークな断片化シグネチャーの存在または不在から推測することができる。幾つかの態様において、試料を、結合剤に抱合したiCOREのセットと、結合剤がその対応する分析物に結合するために好適な条件下において接触させることにより、試料を分析物のセットの存在または不在についてアッセイする。その後、その対応する分析物に特異的に結合したiCORE抱合型結合剤を、濃縮または単離する。幾つかの態様において、次いで、iCOREを結合剤に連結しているリンカーを切断することにより、iCOREが放出される。幾つかの態様において、iCOREは、次いでMS分析に供され(例えばMS/MSアッセイにおいて)、各iCOREの存在または不在および/または量を決定する。幾つかの態様において、MSアッセイの結果から、各分析物の存在または不在および/または量を決定する。例えば、幾つかの態様において、iCOREのMSアッセイが、iCORE G1、G3、G5−7およびG10の検出をもたらした場合、分析物A1、A3、A5−7およびA10の存在、ならびに/または分析物A2、A4−6およびA8−9の不在を決定することができる。幾つかの態様において、MSアッセイにおいて所与のiCOREについて得られたシグナルの比較を、試料中の対応する分析物の量を決定するために、および/または、MSシグナル比較を介して試料中の対応する分析物のレベルを試料中の異なる分析物のレベルと比較するために、用いることができる。例えば、10種の分析物に特異的に結合する10種の結合剤と抱合した10種のiCOREと接触させた試料から得られたMSの結果が、図3において示すMSの結果を表わす場合、iCORE G1−10全てのユニークな断片化シグネチャーの存在は、試料中に分析物A1−10全てが存在することを示すであろう。幾つかの態様において、iCORE G1−10全てのユニークな断片化シグネチャーの類似のシグナルレベルは、さらに、結合剤−分析物間相互作用が、分析物全体にわたり実質的に類似する場合、分析物A1−10が試料中に類似のレベルにおいて存在することを示す。
【0077】
幾つかの態様において、iCOREが同じ配列を含む、同重体のiCOREのライブラリー、例えば、それぞれ同じアミノ酸またはヌクレオチド配列を含むが、異なるiCOREが異なる位置において、例えば当該アミノ酸またはヌクレオチド配列中の異なるアミノ酸またはヌクレオチド残基において、同位体標識されている、ペプチドまたは核酸iCOREのセットが提供される。
【0078】
iCORE技術の幾つかの側面は、実績ある既存の技術、例えば、ビーズに基づく免疫濃縮、光不安定性バイオコンジュゲーション(bioconjugation)化学、分析物の直接的な(例えば反応性の化学部分の抱合によるタンパク質の)標識、ならびに定性的および/または定量的な質量分析(例えばLC MS/MSアッセイ)に依存するか、またはこれを用いる。これらの技術は、当業者に周知であり、本明細書において記載される例示的な態様の多数のバリエーションおよび均等物は、本開示に基づいて、当業者には明らかであろう。iCORE技術は、多数の異なる分析物の検出シナリオ、例えば診断シナリオならびに多数の異なる追跡シナリオに適用することができることが、理解されるであろう。本発明はこの点において限定されない。
【0079】
例えば、本明細書において記載されるようなiCORE技術の幾つかの態様は、分子診断アッセイ(例えばバイオマーカー検出、ワクチンのモニタリングおよびHLAスクリーニング)、ならびに基礎科学研究のための定性的および定量的なアッセイ(例えばタンパク質発現プロファイリング、細胞プロファイリング、組織プロファイリングおよび代謝プロファイリング)を提供する。例えば、特定の態様は、対象から得られた体液または組織試料を分析することにより生物学的プロセス(例えば腫瘍の発達、薬物投与後の宿主の応答または薬物代謝)をモニタリングするために用いることができる血清バイオマーカー(例えば組織および/または疾患特異的マーカー)のパネルに対して標的化された、iCOREで標識された結合剤(例えば抗体または抗体フラグメント)のライブラリーを提供する。iCORE技術の幾つかの態様は、かかるマルチパラメーター研究のために、特に疾患または状態の診断において、特に好適である。なぜならば、iCORE技術は、多重化を通して検出の感度および分解能の増大を可能にし、これらが次いで、マルチパラメーター診断シグネチャーの効率的な検出を可能にするからである。
【0080】
幾つかの態様は、化学的に活性なiCORE、例えば、ユーザーにより規定される実験をコード化するためにエンドユーザーにより利用され得る反応性の化学部分に抱合した、同重体ペプチドiCOREのライブラリーを提供する。例えば、症例対照比較プロテオミクス研究において、各々のユニークな条件、実験または対象からのタンパク質を、特定のiCORE断片化シグネチャーによりコード化(例えば標識)することができる。全ての試料を、次いで組み合わせて、LC MS/MSにより同時に分析し、当該実験条件の相対的効果を決定することができる。iCORE技術の使用により、現在の技術および方法によっては不可能な規模における比較研究が可能になる。
【0081】
本明細書において記載されるようなiCORE技術の使用は、分析物の検出、コード化および翻訳に限定されないことは、当業者により理解されるであろう。iCOREは、多用途であり、先に知られていたMSタグに対して複数の利点を有する新規のMSタグであるため、iCORE技術は、多様なMSタグの検出技術および診断戦略に対する適応に受け入れられる。例えば、iCORE技術は、2010年10月9日にWO/2010/101628(その全内容は本明細書において参照により組み込まれる)として公開されたPCT出願PCT/US2010/000633において記載されるように、MS/MS戦略を用いる多重化された酵素(例えば、プロテアーゼ)活性プロファイリングの文脈において用いてもよい。
【0082】
例えば、iCOREは、キャリア、例えばナノ粒子(例えば、ナノワーム(NW))に、目的の酵素により(例えば疾患に関連するプロテアーゼにより)切断されるアミノ酸配列を含むリンカーを介して抱合していてもよい。しばしば診断促進試薬(pro-diagnostic reagent)としても言及されるかかるiCORE NWは、次いで、対象における酵素の活性を調査するために、対象に投与することができる。幾つかの態様において、各々のプロテアーゼの活性が1つの特異的iCOREタグを放出するように、異なる酵素(例えば異なるプロテアーゼ)により標的化された異なるリンカーを介してキャリアに結合したiCOREのセットが提供される。この様式において使用される場合、iCORE技術は、複数の疾患関連酵素(例えば疾患関連プロテアーゼ)の活性を1回の多重MSアッセイにおいて平行して調査するために用いることができる。幾つかの態様において、多数のプロテアーゼの活性レベルを1回の多重アッセイにおいて探査するために、診断促進iCORE試薬のセットを、1または2以上の酵素(例えば1または2以上のプロテアーゼ)の異常な(例えば病原性の)レベルの活性を示すことが疑われる対象に投与する。診断促進試薬のキャリアは、典型的には、対象の尿中には分泌されないが、プロテアーゼ活性に暴露された場合に、対応するiCOREはNWから切断されて対象の尿中に放出される。診断促進試薬の対象への投与後、対象が、対象において試薬が酵素活性に暴露されるために十分な時間を与えられた後で、尿試料を収集する。尿試料を、次いで、本明細書において他の場所でまたはWO/2010/101628として公開されたPCT/US2010/000633においてより詳細に記載されるようなMS/MSアッセイに供し、切断されたiCOREを検出して、対象が異常なプロテアーゼ活性のシグネチャーを示すか否かを決定する。
【0083】
疾患に関連するプロテアーゼ活性は、当業者に周知である(例えば、疾患関連酵素活性の幾つかの非限定的な例については、本明細書においてその全体において参照により組み込まれるWO/2010/101628として公開されるPCT/US2010/000633の表1を参照)。キャリアに対するiCOREのためのリンカー配列として有用であるプロテアーゼ標的配列もまた、当業者に周知である。幾つかの例示的なiCORE、プロテアーゼにより切断可能なリンカー、および対象における疾患の診断のための方法は、本明細書において詳細に記載される。さらなるiCORE、リンカーおよび方法は、本開示に基づいて当業者には明らかであり、本開示はこれらの側面において限定されない。当業者には明らかであろうが、多重プロテアーゼ活性アッセイの文脈におけるiCORE技術の使用は、先に記載される方法と比較して、検出の複合化能力の改善および容易性の増大を可能にする。
【0084】
幾つかの態様は、本明細書において記載される試薬のキットを提供する。例えば、幾つかの態様は、iCORE(例えば、異なる断片化シグネチャーを有するiCOREを含む同重体ペプチドiCORE)のセットを含むキットを提供する。幾つかの態様において、iCOREは、反応性化学部分、例えば、ペプチドに対してかかるペプチドと接触した場合に共有結合を形成するペプチド反応性部分に抱合している。幾つかの態様において、そのように提供されるiCOREのセット中の異なるiCOREを分離し、それにより、エンドユーザーが特定の試料(例えばタンパク質試料)を特異的なiCOREにより、異なる試料を異なるiCOREにより、標識することが可能となり、これにより、その後の混合、および試料がMSアッセイ(例えばLC MS/MSアッセイ)におけるものである場合、同時分析が可能となる。
【0085】
幾つかの態様において、本明細書において記載されるようなiCOREに抱合した結合剤のセットまたはライブラリーを含むキットが提供される。幾つかの態様において、特定の分析物に結合する各々の結合剤は、iCOREの断片化シグネチャーにより結合剤により結合された分析物を同定することができるように、特定の断片化シグネチャーのiCOREに抱合している。
【0086】
本発明の幾つかの側面は、パラメーターの(例えば分析物の)質量タグ(例えばiCORE)への生化学的コード化に関する。幾つかの態様において、分析物パラメーター(例えば試料中の分析物の存在または試料中の分析物の量)の生化学的コード化は、試料を、分析物と特異的に結合する、結合される特定の分析物に対する断片化シグネチャーが割り当てられたiCOREに結合している結合剤(例えば抗体または抗体フラグメント)と、接触させること、分析物に結合した結合剤分子を単離または濃縮すること、任意に、単離または濃縮された結合剤分子からiCOREを放出させること、およびiCORE(放出させたものまたは放出させていないもの)をMSアッセイに供することを含む。他の態様において、生化学的コード化は、例えば、iCOREを試料に添加することにより、またはiCOREを細胞もしくは組織に(例えば切断可能なリンカーを介して共有結合的に)結合させることにより、試料、細胞もしくは組織をユニークなiCOREでタグ化することにより、パラメーター(例えば試料中の分析物の存在または細胞もしくは組織のアイデンティティー)を、iCOREシグネチャーに翻訳することにより、達成される。幾つかの態様において、生化学的コード化は、例えば、複数の分析物を含むか、またはこれを含むことが疑われる複雑な試料(例えば、血液または組織試料)を、複数の結合剤に結合した複数のiCOREと接触させることにより、複数のパラメーターについて平行して行われる。ここで、各々の結合剤は、特定の標的分析物に特異的に結合しユニークな断片化シグネチャーを有する、特定のiCOREに抱合している。分析物に結合した結合剤の単離または濃縮、および単離または濃縮された結合剤からの抱合したiCOREのレスキュー(rescue)の後で、標的分析物の存在または不在ならびに相対または絶対量を、MSアッセイ、例えば本明細書において他の場所でより詳細に記載されるようなLC MS/MSアッセイにより、決定することができる。
【0087】
試料中の複数の分析物の存在がiCOREに翻訳される例示的な生化学的コード化戦略の模式図を、図1において記載する。幾つかの態様において、iCOREへのパラメーターの翻訳は、デコンボリューション(deconvolution)の工程、例えば複雑な生物学的試料からの分析物の濃縮の工程を含む。デコンボリューションにより、アッセイの感度、特異性および/または正確性を増大させることができる。幾つかの態様において、評価されるべき試料を、分析物に特異的にまたは非特異的に結合して例えば結合した分析物の未結合の材料からの物理的分離による分析物の濃縮を可能にするアフィニティー剤と接触させることにより、分析物について濃縮する。アフィニティー剤は、非特異的相互作用、例えば分析物の表面電荷に基づく非特異的相互作用に基づいて、分析物に非特異的に結合する剤であってよい。かかる非特異的結合は、典型的には、分析物に特異的に結合するアフィニティー剤の使用よりも低いレベルの試料のデコンボリューションをもたらすであろう。なぜならば、非特異的結合は、一般的に、特定の分析物に限定されず、生理化学的特性が類似の他の分子にまで広がるからである。あるいは、アフィニティー剤はまた、分析物に特異的に結合する剤であってもよい。例えば、アフィニティー剤は、ビーズまたは膜表面などの固体支持体上に固定された結合剤、例えば抗体または抗体フラグメントであってもよい。生物学的試料からその表面に結合した材料を分離するために有用な固体支持体は、当業者に周知であり、限定されないが、膜、樹脂、ビーズ、ならびにプレート、ディッシュおよびチューブの表面が挙げられる。
【0088】
幾つかの態様において、複雑な試料を、デコンボリューションのために、アフィニティー剤が分析物に結合するために好適な条件下において、アフィニティー剤と接触させる。典型的には、試料は、アフィニティー剤と接触させられる液相を含む。幾つかの態様において、アフィニティー剤およびそれに結合した任意の分析物は、例えば物理的分離または液体上清の吸引により、実質的に試料から取り除かれる。幾つかの態様において、アフィニティー剤は、分離の後で、さらなるデコンボリューションのためにアフィニティー剤上の生物学的試料の残渣を取り除くために洗浄される。
【0089】
分析物の生化学的コード化の幾つかの態様において、試料を、アフィニティー剤が対応する分析物に結合するために、および分析物がアフィニティー剤上に固定されるために好適な条件下において、目的の分析物のセットと結合するアフィニティー剤またはアフィニティー剤のセットと接触させる。幾つかの態様において、試料を、次いで、例えば任意の未結合の材料を洗い流すことにより、デコンボリュートする。幾つかの態様において、デコンボリュートされたか、またはされていない試料を、次いで、分析物のセットに特異的に結合する結合剤に抱合したiCOREのセットに、結合剤がその対応する分析物に結合するために好適な条件下において、接触させる。幾つかの態様において、実際に分析物に結合した結合剤に抱合しているiCOREを、その後、例えば任意の未結合のiCOREおよび結合剤を試料から除去することにより、単離または濃縮する。この「レスキュー」されたiCOREのセットは、試料中に存在する分析物の生化学的コード化を表わす。幾つかの態様において、iCOREは、切断可能なリンカーを介して結合剤に抱合しており、試料中の分析物の生化学的コード化のプロセスは、リンカーを切断する工程、およびiCOREを結合剤から放出させる工程を含む。幾つかの態様において、レスキューされたiCOREを、MSアッセイ、例えば本明細書において記載されるようなMS/MSアッセイに供し、それらのアイデンティティーおよび/または量を決定し、それにより、対応する試料中の分析物のアイデンティティーおよび/または量を決定する。
【0090】
生化学的コード化のための翻訳は、分析物に限定されず、他のパラメーターにもまた適用することができることが理解されるであろう。例えば、iCORE技術は、試料、細胞、組織、試薬または分子を追跡する可能性を提供する。追跡を目的とする生化学的コード化の一例として、iCORE技術は、例えば低分子スクリーニングの文脈において、低分子化合物のアイデンティティーをコード化するために用いることができる。低分子化合物のアイデンティティーの生化学的コード化は、大規模コンビナトリアル低分子スクリーニングの文脈において特に有用であり、ここでは、数千、数万または数十万個の低分子の組み合わせを、かかるスクリーニングにより通常課せられるロジスティックな問題なしに、追跡することができる。幾つかの態様において、例えば、単純にiCOREを低分子に添加し、それによりiCOREおよび低分子を含む組成物を生み出すことにより、かかるスクリーニングにおける各々の低分子は、ユニークな断片化シグネチャーを有するiCOREに関連している。幾つかの態様において、組成物は、低分子において、iCOREを、特定の、既知の比において含む。幾つかの態様において、組成物は、次いで、コンビナトリアル化学スクリーニングアッセイにおいて、例えば、複数の希釈比における複数の低分子化合物の複数の組み合わせが所望の効果について試験されるアッセイにおいて、用いられる。所望の効果は、低分子ライブラリーが現在それについてスクリーニングされている任意の効果であってよく、限定されないが、がん細胞株における細胞死の誘導、異常な細胞増殖の阻害、特定の遺伝子の発現の誘導もしくは抑制、またはエピジェネティックな再プログラム化の誘導などの生物学的効果が挙げられる。低分子化合物ライブラリーをスクリーニングすることができる多くの他の所望の効果は、当業者には明らかであり、本発明はこの点において限定されない。
【0091】
ユニークなiCOREによる各々の低分子の生化学的コード化により、低分子化合物の混合物または連続希釈物中の各々の低分子化合物の、混合物または希釈物をMSアッセイに供することによる同定および/または定量が可能になる。MSアッセイにおいて検出される任意の特定のiCOREを、次いで、それがコード化する特定の低分子化合物へと追跡することができる。例えば、スクリーニングにおいて用いられる元のiCORE/低分子化合物混合物を、2つの成分の特定の比を含むように作製することにより、低分子化合物の濃度もまたコード化されている場合、特定のiCOREについて検出されるシグナルの強度を、目的の混合物または希釈物中の低分子化合物の濃度を決定するために用いることができる。
【0092】
例えば、単純なコンビナトリアル低分子スクリーニングアッセイは、10種の異なる希釈率(D1−10)における10種の低分子化合物(SMC1−10)の、コンビナトリアルな連続希釈物スクリーニングを含んでもよく、ここでは、10種の化合物のいずれか、または全ての、当該化合物の任意の可能な希釈比における、全ての可能な混合物が試験される。例えば、10種の潜在的に相乗的ながん薬物の候補を、それらががん細胞を殺傷する効率について、この方法により試験して、これらの候補のいずれの比におけるいずれの組み合わせが最大の相乗効果または最大の生物学的効果を発揮するかを調査することができる。かかる単純なスクリーニングですら、数千個の試料の内容および薬物濃度をマップ化する必要の観点から、著しいロジスティックな問題を提起する。10種のiCORE(例えばそれぞれCD1−10に割り当てられたiCORE G1−10)のみによる薬物候補の生化学的コード化は、このロジスティックな試みに関連する問題を回避する。例えば、各々の薬物候補に、iCOREのうちの1つを、薬物候補とiCOREとの特定の既知の比において、実験の開始時に添加することができる。連続希釈物および薬物候補混合物の作製を、次いで、通常のごとく行うが、ただし、全てのピペッティングの工程および結果として生じる試料の内容物を記録する必要はない。スクリーニングの読み出しの後で、例えば、所望の生物学的効果を示す試料の検出の後で、試料の上清を入手し、MSアッセイに供する。MSアッセイは、単に薬物候補の各々の存在または不在を同定するだけではなく、実験の開始時における元の添加混合物中の既知のiCORE/薬物候補の比に基づいて、試料中に存在する薬物候補の比を決定するためにも用いることができる。
【0093】
例えば、上記の仮説的スクリーニングにおいて、MSアッセイが、目的の試料中に1−10:2の比においてiCORE 1、4および7の存在を検出する場合、薬物候補1、4および7の存在が推測される。さらに、薬物候補1が、連続希釈物の最も低い濃度(例えば、D10)において、薬物候補4が最も高い濃度(例えば、D1)において、および薬物候補7が2番目に低い濃度において(例えば、D9)存在したことを、推測することができる。実験の開始時における元の添加試料においてiCOREと薬物候補とのモル濃度比が知られている場合、各々の薬物候補の濃度の決定は、MSデータから直接的に可能であり得、希釈物を追跡する必要はない。
【0094】
数千回のピペッティングの工程を追跡する必要を回避することの他に、コンビナトリアルスクリーニングの間のiCOREによる生化学的コード化による薬物候補の追跡は、目的の試料中の実際の条件の評価を可能にする。これは、例えば、ピペッティングの誤りにより引き起こされる誤った結果を回避する。生化学的コード化および薬物スクリーニングのために用いられる特定のiCOREは、探索されているプロセスを妨害しないように選択されるべきである。ペプチドは殆どの生化学的プロセスに対して不活性であるので、ペプチドiCOREは、薬物スクリーニングの間の多様な生化学的コード化の用途のために好適である。薬物スクリーニングのプロセスの間にiCOREが遭遇する長さおよび条件に依存して、有用なiCOREは、遭遇する条件に耐えるために十分な安定性を示す必要があることは、当業者には明らかであろう。幾つかの態様において、加水分解不可能な結合を含む天然に存在しないアミノ酸残基および/またはペプチドを用いることにより、安定性が改善されたペプチドiCOREを作製する。より高い安定性を示すペプチド、例えば加水分解不可能な結合を含むペプチドは、当業者に周知であり、当業者は、生成のための方法および試薬を容易に確認することができるであろう。
【0095】
幾つかの態様において、iCOREを介した生化学的コード化により細胞、細胞集団、組織または化合物を追跡するための方法が提供される。幾つかのかかる態様において、方法は、例えば、細胞、細胞の集団または組織を、iCOREが細胞、細胞の集団または組織に結合するために好適な条件下において、iCOREと接触させることにより、ユニークなiCOREを、細胞、細胞の集団または組織に抱合させることを含む。幾つかの態様において、この抱合を達成するために、結合剤に共有結合したiCOREを用いる。例えば、幾つかの態様において、iCOREは、細胞、細胞の集団または組織の表面マーカー、例えば、表面タンパク質または多糖マーカーに特異的に結合する結合剤、例えば抗体または抗体フラグメントに結合している。他の態様において、細胞、細胞集団、組織または化合物を、反応性の化学部分を含むか、またはこれと抱合しているiCOREと、反応性の化学部分が、細胞、細胞集団、組織の表面マーカーと、または化合物と、共有結合を形成するために好適な条件下において、接触させる。幾つかの態様において、化合物は、ハイドロゲル、例えば図7において記載されるようなPEGハイドロゲルの精製において用いられるか、またはこれの中に包埋することができる化合物である。幾つかの態様において、ハイドロゲルは、ビーズの作製において、または組織工学のための足場(scaffold)の製造において、例えば、人工の、工学的操作された組織、例えば微小肝臓(micro-liver)などの工学的操作された器官の増殖のための基質として、用いられる。このアプローチは、結果として、iCOREによりタグ化されたビーズまたは足場の製造をもたらし、かかる足場が操作された器官の作製のために用いられる場合は、iCOREによりタグ化された器官を生じる。幾つかの態様において、複数の異なるiCOREによりタグ化されたビーズまたは操作された器官を、異なる実験条件、例えば、異なる増殖因子および/もしくは低分子化合物または異なる希釈率における増殖因子および/もしくは低分子化合物の組み合わせに対する暴露に供し、実験の終了時に所望の表現型またはパラメーターを示すビーズまたは工学的操作された器官を、所望のビーズまたは器官からiCOREタグをレスキューしてMSアッセイ(例えばLC MS/MSアッセイ)に供することにより、同定する。
【0096】
幾つかの態様において、ペプチドと共有結合を形成することができる反応性化学基を含むか、またはこれに抱合しているiCOREのセットまたはライブラリーが提供される。かかる反応性化学基は、当業者に公知であり、限定されないが、iTRAQアッセイにおいて用いられる質量タグに抱合しているか、またはこれに含まれている反応性化学基を含む。幾つかの態様において、かかるペプチド結合iCOREの使用のための、例えば由来が異なる試料(例えば異なる対象からの対象血液または組織試料)中のタンパク質の同時分析のための、方法が提供される。幾つかの態様において、異なる対象から、例えば異なる実験マウスから、または異なる腫瘍生検から得られたタンパク質試料を、各々ユニークなiCOREに抱合させる。幾つかの態様において、複数のかかるiCORE標識された試料を、次いでプールして、MSアッセイ(例えばLC MS/MSアッセイ)において同時に分析する。幾つかの態様において、かかる同時のプロテオミクス実験から得られるデータを、多数の試料にわたる、少なくとも10、少なくとも15、少なくとも20、少なくとも25、少なくとも30、少なくとも40、少なくとも50、少なくとも60、少なくとも70、少なくとも80、少なくとも90、少なくとも100、少なくとも150、少なくとも200、少なくとも250、少なくとも500、少なくとも750、少なくとも1000または1000個より多い試料にわたるタンパク質発現レベルを比較するために用いる。単一のiCORE塩基配列から、例えばglu-fibアミノ酸配列から得ることができる多数の可能なユニークな断片化シグネチャーは、かかる試料数のユニークな標識およびその後の同時分析を可能にし、これは、現在利用可能な技術、例えばiTRAQの多重化能力を遥かに超える。
【0097】
本発明の幾つかの側面は、iCORE技術を用いる多重化された診断アッセイを提供する。現在、対象における疾患または状態と相関し、したがってその指標である多くの分子バイオマーカーが知られている。例えば、がん、感染性疾患、心血管疾患、腎疾患、自己免疫疾患、中毒症状、および薬物の特定の副作用の検出についての多数の分子バイオマーカーが報告されている。現在の診断アッセイは、典型的には、特定の疾患または状態を検出するために1つまたは数個のみのバイオマーカーに注目している。例えば、前立腺および卵巣がんなどの一部のがんは、かかるがんを有すると診断される化合物またはこれを有することが疑われる対象の血液中の単一のバイオマーカーの使用により、モニタリングされる。かかる診断技術は、例えば、特定の疾患状態において活性化される分子マーカーの蛍光検出を用いて、達成される。分子をモニタリングするための他の診断技術として、ユニークなシグネチャーを介して乳がん患者を層別化するための遺伝子アレイの使用(Sotiriou C., Piccart, M.J., Taking gene-expression profiling to the clinic: when will molecular signatures become relevant to patient care?, Nat. Rev. Cancer, 7, 534-553, 2007)、および、EGFRキナーゼ阻害剤に対する神経膠芽腫の応答を予測する分子の損傷を解明するための標的遺伝子変異のシークエンシング(Mellinghoff, I. et al., Molecular Determinants of the response of glioblastomas to EGFR Kinase Inhibitors, NEJM, 353, 16, 2005)が挙げられる。前述の参考文献の両方は、その診断バイオマーカーの開示について、本明細書においてその全体において参照により組み込まれる。
【0098】
複雑な試料中、例えば対象から得られた体液または組織試料中の複数の分析物の検出および定量のための試薬および方法の一部は、複数のバイオマーカーを同時に高感度かつ正確に評価することを可能にし、それにより、かかる試料からの、単一の疾患もしくは状態または複数の疾患または状態の、臨床的意義のあるマルチパラメーターバイオマーカープロフィールの作製のための手段を提供する。
【0099】
幾つかの態様において、本明細書において記載されるようなiCORE技術は、複数のバイオマーカー、例えば、体液(例えば、血液、血清、尿、脳脊髄液もしくはリンパ液)または組織(例えば、腫瘍、悪性のもの、新生物、過形成、肝臓、腎臓、肺、筋肉、リンパ節もしくは脳組織)などの、対象から得られた生物学的試料中の分析物の存在または不在または量を評価するために用いられる。幾つかの態様において、複数のバイオマーカーは、特定の疾患または状態に関連することが知られているバイオマーカーのパネルを含む。
【0100】
幾つかの態様において、診断的なiCOREの方法が提供される。幾つかの態様において、方法は、対象から試料を得ることを含む。幾つかの態様において、対象は、ヒト対象である。幾つかの態様において、対象は、非ヒト哺乳動物である。幾つかの態様において、方法は、デコンボリューションの工程を含み、ここで、標的分析物は、例えば本明細書において他の場所で記載されるデコンボリューション方法により、単離または濃縮される。幾つかの態様において、方法は、デコンボリュートされているまたはされていない試料を、本明細書において記載されるように、標的分析物に特異的に結合する結合剤のセットに抱合しているiCOREのセットまたはライブラリーと、iCORE抱合結合剤がその対応する標的 リガンドに結合するために好適な条件下において、接触させることを含む。幾つかの態様において、方法は、例えば未結合の結合剤を洗い流すことにより、結合したiCORE抱合結合剤を単離または濃縮する工程を含む。幾つかの態様において、方法は、例えば、本明細書において他の場所で記載するように、iCOREを結合剤に連結するリンカーを切断することにより、分析物に結合する結合剤に抱合したiCOREをレスキューすることを含む。幾つかの態様において、方法は、レスキューされたiCOREを、MS/MSアッセイ、例えば本明細書において記載されるMS/MSアッセイに供することを含む。幾つかの態様において、方法は、さらに、試料中の各々の特定のiCOREから得られるシグナルを、MS/MSアッセイの結果に基づいて、決定することを含む。幾つかの態様において、方法は、特定のiCOREにより表わされる化合物または同定される分析物の存在または不在を、MS/MSアッセイにおいて特定のiCOREを同定するシグナルが得られたか否かに基づいて、決定することを含む。幾つかの態様において、方法は、MS/MSアッセイにおいて特定のiCOREから得られるシグナルを定量することにより、試料中の分析物の量もしくは濃度、または試料中の他の分析物の量もしくは濃度に対して相対的な、または異なる試料(例えば参照試料または対照試料)中の同じ分析物の量もしくは濃度に対して相対的な試料中の分析物の量もしくは濃度を定量することを含む。
【0101】
幾つかの態様において、単一の診断アッセイにおける複数のバイオマーカーの評価は、バイオマーカーの評価および/またはアッセイから推測される診断の、特異性、感度および/または正確性を増大する。幾つかの態様において、iCORE MS/MSアッセイはまた、対照マーカー(例えば、健康状態と疾患状態との間で、または個体間で実質的に一定であることが知られている分析物または分析物のセット)の評価を含む。血液中には、iCORE MS/MS分析による評価のために有用な多くのタンパク質バイオマーカーが存在する。例えば、卵巣がんについての特定の態様において、5−20個のタンパク質またはペプチドバイオマーカーをモニタリングすることができる(例えば、Petricoin, E.ら、Use of proteomic patterns in serum to identify ovarian cancer, Lancet, 359, 572, 2002を参照:卵巣がんバイオマーカーの開示について、その全体において参照により組み込まれる)。限定されないがIL-1、Il-2、Il-4、Il-5、Il-6、Il-10、Il-12、Il-13、Il-17、Il-21、Il-23、MCP-1、TGF−ベータ、TNF−ベータ、TWEAK、GM-CSFおよびグランザイムBを含む、IFN−ガンマおよびTNF−アルファが通常分類される血清サイトカインは、がんに関与する炎症プロセス、ならびにワクチンおよび感染性疾患に対する宿主の応答をモニタリングするために有用である。本明細書において記載されるバイオマーカーは、単に説明を目的とするものであり、本発明をこの点において限定することを意図しないことは、当業者には明らかであろう。任意のバイオマーカー、および特に任意のペプチドまたはタンパク質バイオマーカーを、本明細書において提供されるiCORE MS/MSアッセイにより評価することができ、本発明はこの点において限定されない。
【0102】
幾つかの態様において、iCORE技術は、オーダーメイド医療の文脈において用いられる。例えば、幾つかの態様において、本明細書において記載される方法により、バイオマーカーのセットについて評価された対象から得られた試料(例えば血液もしくは組織試料)に対して行われたiCOREアッセイの結果に基づいて、または、in vivo iCOREアッセイからもたらされた分析物もしくは酵素活性のシグネチャーに基づいて、臨床的介入、例えば、薬物、処置スケジュールまたは外科的介入を、かかる介入の群から選択する。
【0103】
幾つかの態様において、iCORE技術は、処置に対する対象の応答をモニタリングするために用いられる。例えば、幾つかの態様において、疾患を有する対象の処置の間、例えば評価したバイオマーカーが所望の値(例えば典型的に健康状態に関連する値)に近づいているか否かを決定するために、iCOREアッセイを繰り返し行う。幾つかの態様において、例えば、処置の効力を増大させるため、または、望ましくない副作用を回避するために、用いられる薬物の投与量を最少有効用量まで低下させるために、処置の経過の間に行われたiCOREアッセイの結果に基づいて、処置レジメンを調整してもよい。
【0104】
幾つかの態様において、iCORE技術は、新規の薬物および薬物候補の臨床治験において用いられる。多重iCORE技術により、臨床治験の間の、対象における、多様な疾患関連バイオマーカーの評価、および、幾つかの態様においてはまた、複数の基礎パラメーター(例えば血中コレステロール、血中トリアシルグリセリド、ケトン体など)のモニタリングが可能になる。このことにより、臨床治験の間の複数の代謝経路の網羅的なモニタリング、および、治験の間の非症候性であり得る副作用の検出が可能となる。
【0105】
質量分析(MS)アッセイは、当業者に周知である。本明細書において記載されるiCORE技術および生化学的コード化の幾つかの態様において、特に有用であるのは、タンデム質量分析(MS/MS)アッセイである。
タンデム質量分析(MS/MS)は、質量分析計内で特定の試料イオンを断片化し、生じるフラグメントイオンを同定することにより、化合物についての構造情報をもたらすために用いられる。タンデム質量分析により、iCOREの複雑な混合物中の、例えば、複雑なiCOREのセットまたはライブラリー中の、特定のiCOREを、特異的かつ特徴的な断片化パターンをもたらすそのユニークな断片化シグネチャーに基づいて、同定することが可能となる。
【0106】
MS/MSアッセイは、典型的には、2または3以上のMSの工程、および当該工程の間に行われるなんらかの形態の断片化を含む。タンデム質量分析計は、典型的には、1つより多くのアナライザ、例えば2つのアナライザを含む。幾つかの態様において、アナライザは衝突セルにより分離され、衝突セル中に不活性ガス(例えば、アルゴン、キセノン)が収容されて、選択された試料イオンと衝突し、その断片化を引き起こす。しかし、幾つかのMS/MSアッセイはまた、イオントラップおよび飛行時間型の機器などの特定の単一アナライザの質量分析計においても、例えば、試料イオンの断片化をもたらすためにポストソース分解実験を用いて、行うことができる。
【0107】
幾つかの態様においては、親ペプチドと、個々のiCOREのレポーターイオンの質量との両方が既知であるので、複雑な試料中のiCOREの検出および定量は、選択的反応モニタリング(selected reaction monitoring:SRM)、別名複数反応モニタリング(multiple reaction monitoring:MRM)(例えば、Lange, V., Picotti, P., Domon, B., Aebersold, R., Selected reaction monitoring for quantitative proteomics: a tutorial, Molecular Systems Biology 4:222, 2008を参照:その全内容は、本明細書において参照により組み込まれる)により、達成することができる。典型的なSRM実験は、三連四重極(triple quadrupole:QQQ)MSの定量的分析についてのユニークな能力により可能となる。ここで、第1および第2の四重極が、ペプチドイオンおよび当該ペプチドの特定のフラグメントイオンに対応する既定のm/z値を特異的に選択するためのフィルターとして作用する。
【0108】
例えば、10重のglu-fib iCOREライブラリー(G10)に基づくiCOREについての幾つかの態様において、第1の四重極は、親Glu-fibペプチド(例えば、789.85m/z、2倍荷電されている)を、第2の四重極はフラグメントを収集するために役立ち、一方、第3の四重極は、個々のレポーターイオン(例えば、683.3m/z)をフィルタリングするよう作用する(図14)。幾つかの態様において、かかる前駆体/フラグメントイオンの「遷移」(例えば、789.85〜683.3m/z)は経時的にモニタリングされ、このことにより、共溶出するバックグラウンドイオンがこのアプローチにより効果的に取り除かれるので、高い選択性および感度がもたらされる。
【0109】
幾つかのQQQの態様において、他のMS技術(例えばQ-TOF)とは異なり、完全な質量スペクトルは記録されず、QQQ分析の非走査的性質は、完全な走査技術に対して1−2桁の感度の増大へと翻訳される。iCOREによりコード化されたユニークなフラグメントイオンを生成するために、ユーザーにより、同位体アミノ酸が選択的に組み込まれ得るので、複数のユニークな前駆体/フラグメントイオン遷移を、iCOREのファミリーへと設計することができる。例えば、図2および3において、遷移は、前駆体ペプチドから、y7ファミリーのフラグメントイオンへと定義され、図13c、d、eおよび図14においては、遷移は、前駆体ペプチドから、y6ファミリーのフラグメントイオンへと定義される。
【0110】
幾つかの態様において、第1のアナライザは、特定のiCOREから生じるユーザーにより特定される試料イオンを選択するために用いられる。これらの選択されたiCOREイオン、例えば本明細書において記載されるglu-fib iCOREのイオンは、衝突セル中へと通過し、気体分子により衝撃され、これが、フラグメントイオンの形成を引き起こし、これらのフラグメントイオンは、次いで、その質量対電荷比に従って第2のアナライザにより分離される。フラグメントイオンは、親iCOREイオンから直接的に生じ、したがって、調査されている化合物に対して特異的なフィンガープリントパターンをもたらす(glu-fib iCOREのライブラリーからのMSの第1のラウンドにおいて得られたデータについては図3Iを;同じライブラリーからの第2のラウンド(断片化後)において得られたデータについては図3IIを参照)。
【0111】
幾つかの態様において、第1のアナライザは、全てのiCOREイオンの透過を可能にし、一方、第2のアナライザは、衝突セル中での試料イオンと衝突ガスとの衝撃により生成される、特異的なiCOREフラグメントイオン(例えば、図2および3において記載するように、glu-fib iCOREのyイオン)をモニタリングするようにセットされる。この戦略は、フラグメントが別々であるが類似するフラグメントイオンを生成する同重体iCOREのセットが用いられる態様において、特に有用である。この戦略を用いることにより、iCOREイオンの特定の質量にまたがるスペクトルの一部(例えば、図3において記載されるようなiCORE G1−G10を用いる例においては、約812から約822Daまでのスペクトル)のみをモニタリングすることが可能となる。このことにより今度は、スペクトルの残りは無視されるため、走査時間の劇的な減少が可能となる。
【0112】
幾つかの態様において、両方のアナライザは、固定的(static)であり、特定の親イオンのみが第1のアナライザを透過し、これらの親イオンから生じる特定のフラグメントのみが第2のアナライザにより測定される。本明細書において提供される任意のiCOREの親イオンの特性は、当業者に周知の方法に従って計算することができる。さらに、任意のiCOREを、その特異的なイオン化および断片化シグネチャーについて、MS/MSの試験走行において、試験することができる。各々のiCOREの構造およびMS/MS挙動は、既知であるか、または容易に計算もしくは確立することができるので、この型のMS/MSアッセイは、本発明の側面により提供されるような多重iCOREアッセイにおいて、フラグメントイオンのマトリックス、例えば複雑な同重体iCOREのライブラリーに由来するフラグメントイオンのマトリックス中の、特定のiCOREイオンの存在または不在を決定するために用いることができる。
【0113】
幾つかの態様において、ペプチドiCORE、ペプチドiCOREのセットまたはライブラリー、およびペプチドiCOREの使用のための方法が提供される。ペプチドは、MS/MSアッセイにおいてほぼ十分に立証された様式において断片化することが、当業者に知られている(例えば、P. Roepstorrf, J. Fohlmann, Biomed. Mass Spectrom., 1984, 11, 601;およびR. S. Johnson, K. Biemann, Biomed. Environ. Mass Spectrom., 1989, 18, 945を参照;その全内容は、本明細書において参照により組み込まれる)。幾つかの態様において、ペプチドは、ペプチド骨格に沿って断片化する(例えば、A. E. Ashcroft, P. J. Derrick著、「Mass Spectrometry of Peptides」、D. M. Desiderio編、CRC Press, Florida, 1990を参照;その全内容は、本明細書において参照により組み込まれる)。
【0114】
アミノ酸骨格に沿って断片化することができる、3種の異なる型の結合:NH−CH、CH−COおよびCO−NH結合が存在する。各々の結合の切断は、2個の種を生じる。一方は中性であり、他の一方は荷電されており、荷電された種のみが、質量分析計によりモニタリングされる。電荷は、2個の種の化学および相対的な陽子アフィニティーに依存して、2個のフラグメントのいずれかに留まることができる。各アミノ酸について6個の可能なフラグメントイオンが存在し、それらはa、bおよびcイオン、ならびにx、yおよびzイオンとしてラベルされるので、a、bおよびcイオンは、N末端フラグメント上に保持された電荷を有し、x、yおよびzイオンは、C末端フラグメント上に保持された電荷を有する。最も一般的な断片化は、ペプチド骨格のCO−NH結合において起こり、これは、bおよび/またはyイオンを生じる。図2は、親glu-fib iCORE配列に由来する13個のy−イオンの例示的な命名法を示す。隣接するフラグメントイオンの質量の差異は、より短いイオンにおいて失われている対応するアミノ酸残基の質量に相関するので、例えば、yおよびy10イオンの質量の差異は、y10イオンにおいては存在するがyイオンにおいては存在しないD残基の質量であり、各々のyイオンを表わすピークは同定することができる。図2において示す例示的なMS/MS 実験において、yイオンy−y11は、明確に同定することができた。
【0115】
10種の同重体iCOREのセットから得られたMS/MSスペクトルの一例を、図3において示す。MSの第1のラウンドは、単一のピークをもたらし、これは、iCOREの同重体的特徴と一致する(図3I)。iCOREイオンは断片化し、第2のアナライザにより分析されてMS/MSスペクトルをもたらすフラグメントのサイズを図3IIにおいて示す。iCOREは主にCO−NH結合において断片化し、yイオンy−y11を、明確に同定することができた。可能なyイオンの質量にまたがる領域の詳細により、10個全てのiCOREが、高度に類似するシグナル強度により検出されたことを示し、このことは、全てのフラグメントイオンがほぼ同じ濃度において存在したことを示している。このことは、断片化シグネチャーが異なるiCOREにおいて断片化の偏りが存在しないことを示し、このことにより、iCORE技術を高感度の分析物の定量MS/MSアッセイにおいて用いることが可能となる。
【0116】
幾つかの態様において、iCOREは、ポリヌクレオチドまたは多糖である。オリゴヌクレオチドおよびオリゴ糖フラグメントの同定のためのMS/MSに基づくアッセイは、当業者に周知であり、ペプチドMS/MSアッセイにおいて用いられるものと同様である。本明細書において提供されるiCOREの(例えばペプチド、オリゴヌクレオチドおよび/またはオリゴ糖iCOREの)検出および/または定量のために有用なMS/MSアッセイの一般的な概要については、例えば以下を参照:S. Pomerantz, J. A. Kowalak, J. A. McClosky, J. Amer. Soc. Mass Spectrom., 1993, 4, 204;「An Introduction to Biological Mass Spectrometry」、C. Dass, Wiley, USA, 2002;「The Expanding Role of Mass Spectrometry in Biotechnology」、G. Siuzdak, MCC Press, San Diego, 2004;「Ionization Methods in Organic Mass Spectrometry」、A.E. Ashcroft, Analytical Monograph, Royal Society of Chemistry, UK, 1997;www.astbury.leeds.ac.uk(A.E. AshcroftのMSウェブページおよびチュートリアル);Juergen H. Gross著「Mass Spectrometry: A Textbook」、第9章、415−452頁、Springer、第2版(2011年3月1日)、ISBN-10: 9783642107092;米国特許第5,885,775号;米国特許第7,412,332号;米国特許第6,597,996号;ならびに「Mass Spectrometry: Clinical and Biomedical Applications Volume 1 (Modern Analytical Chemistry)” by Dominic M. Desiderio, Springer著;第1版(1993年1月31日)、ISBN-13: 978-3642107092;これらの全ての全内容は、本明細書において参照により組み込まれる。
【0117】
本発明の幾つかの側面は、iCOREに基づくMSアッセイを行うために有用な試薬のキットを提供する。典型的には、キットは、本明細書において記載されるようなiCORE試薬またはかかる試薬のセットもしくはライブラリーを収容する容器を含む。幾つかの態様において、キットはまた、iCORE試薬の使用を説明する説明書またはラベルを含む。
【0118】
幾つかの態様において、本明細書において記載されるiCORE試薬、例えば、反応性化学部分に抱合しているiCORE、または標的リガンドに特異的に結合する結合剤に抱合しているiCORE、またはかかるiCORE試薬のセットもしくはライブラリーは、臨床的および/または研究用途のために、キットに組み立てられる。キットは、医師および/または研究者による本明細書において記載される方法の使用を容易にするように設計してもよく、多くの形態をとることができる。キット中に含まれるiCORE試薬の各々は、適用可能である場合は、液体の形態において(例えば溶液において)、または固体の形態において(例えば乾燥粉末において)、提供することができる。キットは、ブリスターパウチ、シュリンク包装されたパウチ、真空密封可能なパウチ、密封可能な熱成形トレイ、または類似のパウチもしくはトレイの形態などの、多様な形態を有することができ、パウチ中に緩やかにパックされた付属品、1または2以上のチューブ、容器、箱またはバッグを含んでもよい。幾つかの態様において、本明細書において提供されるようなiCORE試薬を含むキットは、さらに、本明細書において提供されるiCOREに基づくアッセイを行う上で有用であるさらなる成分を含む。かかるさらなる成分として、限定されないが、デコンボリューション試薬(例えば、キット中に含まれるiCORE試薬により標的とされる分析物のセットに特異的に結合する結合剤であって、例えば、ビーズ(例えば磁性ビーズ)、膜、スライドガラス、樹脂またはプラスチック容器の表面などの固体支持体上に固定されたもの)、バッファー(例えば洗浄バッファー、結合バッファー)、および酵素(例えば、iCOREを結合試薬に連結する切断可能なリンカーを切断するプロテアーゼ)を挙げることができる。
【0119】

例1:材料および方法
ペプチドおよびAb−ペプチドの合成。全てのペプチドを、Swanson Biotechnology Center(MIT)におけるバイオポリマー施設によりインハウスでFmoc化学により合成した。同位体標識されたアミノ酸は、Cambridge Isotopesから購入した。感光性リンカー(3−Nα−Fmoc−アミノ−3−(2−ニトロフェニル)プロピオン酸)は、Advanced Chemtechから購入した。ヒトIFN−ガンマおよびTNF−アルファに対する検出抗体(eBioscience、クローン4S.B3およびMab11)は、初めにSIA(Pierce)と50:1のモル比において反応させた。過剰なSIAの除去の後で、ペプチドをAbと共に20:1のモル比においてインキュベートした。サイズ濾過スピンフィルター(30k mwco、Amicon)により、過剰なペプチドを除去した。
【0120】
Ab−ビーズの合成。トシル活性化磁性ビーズ(Myone, Invitrogen)を、抗ヒトIFN−ガンマおよび抗ヒトTNF−アルファ(eBioscience, clones NIB42 and Mab1 respectively)と、製造者の説明書に従って、接触させる。簡単に述べると、1mgのいずれかの抗体を、ホウ酸バッファー(0.1Mホウ酸ナトリウム,pH9.0)にバッファー交換し、その後コンジュゲーションバッファー(0.1Mホウ酸、1M硫酸アンモニウム、pH9.0)中でビーズと共にインキュベートした。一晩の37℃でのインキュベーションの後で、1Mトリス中でのビーズとのインキュベーションにより残りのトシル基を飽和させた。Ab標識されたビーズを、実験前はPBS中で保存した。
【0121】
血清アッセイ。組換えヒトIFN−ガンマ(eBioscience)を、PBS中10%のウシ血清に添加した。この溶液を、次いで、抗IFN−ガンマ-ビーズと共に1時間37℃でインキュベートした。ビーズを、次いで、PBSで2回洗浄し、その後、iCOREで標識されたIFN-gおよびTNF-aの等モルの溶液と共にもう1時間37℃でインキュベートした。0.1%BSAを添加したPBSと共に洗浄することにより過剰な抗体を除去した後、結合した抗原と抗体とを5%酢酸中で溶出した。溶液を、次いで、UV光(365nm)に30分間暴露し(CL-1000、UVP)、光ケージされたiCOREコードを溶液中に遊離させた。試料を、次いで、LC MS/MSにより分析した。
【0122】
ナノ材料合成。先に公開されたプロトコル25に従って、ナノワームを合成した。MIT(Swanson Biotechnology Center)においてペプチドを合成した:同位体標識されたFmocアミノ酸をCambridge Isotopesから、3−Nα−Fmoc−アミノ−3−(2−ニトロフェニル)プロピオン酸をAdvanced Chemtechから購入した。アミン末端化したNWを、in vivoイメージングを可能にするために第1にVivotag 680(Perkin Elmer)と反応させ、その後、SIA(Pierce)と反応させて、スルフヒドリル反応性の柄(handle)を導入した。システイン−ペプチドおよびPEG-SHを、NWと、一晩室温で混合し一晩室温で(それぞれ95:20:1のモル比)、過剰なペプチドをサイズ濾過により除去した。ペプチド−NWストック溶液は、PBS中4℃で保存した。
【0123】
in vitroプロテアーゼアッセイ。基質のスクリーニングのために、Fl−ペプチド−NW(ペプチドにより2.5μM)を、組換えMMP-2/8/9(R&D Systems)、MMP-7/14(AnaSpec, Inc.)、トロンビン、組織因子、Xa因子またはカテプシンB(Haematologic Technologies, Inc.)と、96ウェルプレート中で37℃において活性バッファー中で、製造者の説明書に従って混合し、マイプロプレートリーダーでモニタリングした(SpectroMax Gemini EM)。MS分析のために、等モルのiCOREでコード化されたNW(表)を、2.5時間、37℃で、プロテアーゼと共にインキュベートした。切断フラグメントを、サイズ濾過によりNWから精製し、その後、UV処理した(365nm、CL-1000 UV crosslinker、UVP)。レポーターを、次いで、高速真空遠心分離により乾燥させ、4℃で保存した。
【0124】
in vivoイメージング。全ての動物研究は、動物取扱に関する委員会(MIT, protocol #0408-038-11)により承認された。FVB/NJマウス(Jackson Labs)に、0.1%w/wのDDC(Sigma)げっ歯類用固形飼料を3週間与えた(Research Diets)。線維症および年齢の対照動物に、VivoTag-680標識試薬を動脈内注入し、IVISイメージング(Xenogen)により可視化した。腫瘍異種移植のために、LS 174Tがん細胞株を、10%FBS EMEM中で維持し、NU/NUマウス(Charles River)に皮下注射により接種し(5x10/フラスコ)、その後イメージングした。
【0125】
モデルの特徴づけ。in situ酵素電気泳動のために、線維症の切片を、10μlのDQ−ゼラチン(1mg/ml、Invitrogen)およびHoechst色素を含むMMP活性化バッファー(50mMのTris、150 NaCl、5mMのCaCl、0.025%のBrij 35、pH 7.5)中、0.5%w/vの低融点アガロース(Sigma)の90μlの溶液で、37℃で被覆した。スライドグラスを、4℃で固化し、次いで室温で一晩インキュベートして、組織プロテアーゼによるゼラチンのタンパク質分解を促進した。肝臓コラーゲンを定量するため、右葉および左葉(250−300mg)を、5mlの6NのHCl中で、110°Cで16時間加水分解し、その後、先に記載されるように43、ヒドロキシプロリンを定量した。CEAを定量するために、腫瘍動物から血液をCapijectマイクロチューブ(Terumo)中に収集して、血清を単離し、その後ELISA分析(Calbiotech)に供した。免疫蛍光分析のために、等モルのNWカクテル(5μM/ペプチド)を、線維症のFVB/NJまたは腫瘍を有するヌードマウスに投与した。灌流の後、肝臓または腫瘍を、4%PFA中で固定して、切片作製のために凍結し、F4/80(AbD Serotec)、MMP-9(R&D Biosystems)、CD31(Santa Cruz Biotechnologies)および/またはFITC(Genetex)について染色し、その後、蛍光顕微鏡(Nikon Eclipse Ti)により分析した。
【0126】
尿中ペプチドの収集。マウスに、等モルのNWカクテル(5μM/ペプチド)およびEDTAフリーのプロテアーゼ阻害剤タブレット(Roche)(MMP活性を単離しておくため)を含む200μlのPBSを静脈内注入した。尿の収集のために、マウスを、円筒形のスリーブで囲んだ96ウェルプレート上に置いた。さらなるレポーターの分解を防ぐため、排泄された試料に、収集の後速やかにEDTA+コンプリートプロテアーゼ阻害剤(Roche)を添加した。尿中蛍光を定量するために、2μLの各試料を、α−FITC抗体(Genetex)in 50μlの結合バッファー(100nMのNHOAc、0.01%のCHAPS)で被覆した磁性ビーズ(Dynal)と共に、1時間37℃でインキュベートし、100mMのNHOAcで2回洗浄し、15μlの5%酢酸で2回溶出させた。試料を、2MのTrisで中和し、マイクロプレート蛍光定量法により定量した。iCORE分析のために、試料に30分間UVを照射し、その後TCA沈澱(20%最終濃度)してタンパク質を除去した。可溶性画分をC18逆相カラム(Nest Group)に適用し、0.1%ギ酸20%のACNインクリメントの段階的勾配を介して溶出させた。Glu-fib ペプチドを含む60%のACN画分を収集して、真空遠心分離により乾燥させた。
【0127】
LC MS/MS分析。ペプチド試料を、5%のACNおよび0.1%のギ酸中で再構成し、MITまたはTaplin MS施設(Harvard Medical School)において分析した。MITにおいて、ペプチドを捕捉して、C18ナノフローHPLCカラム(内径75μmのMagic C18 AQ、Michrom BioResources, Inc.)から、300nL/分の流速で、0.1%のギ酸を含む水−アセトニトリル溶媒系を用いて、溶出させた。QSTAR Elite QTOF質量分析計(AB Sciex)においてESI質量分析を行った。Harvardにおいて、試料を、2.5%のACNおよび0.1%のギ酸中で再構成した。試料を、Famosオートサンプラー(LC Packings)を用いて、Agilent 1100 HPLC HPLC中に注入し、その後、LTQ-Orbitrap(Thermo Electron)において質量分析した。尿の容積および濃度の差異を説明するために、個々のレポーターのピーク強度を、その対応する合計iCOREイオン電流に対して相対的に拡大縮小(scale)し、その後、技術的および年齢に関連したバリエーションを説明するために、対照試料に対して正規化した。
【0128】
統計学的分析。異なるプロテアーゼプロフィール間のピアソン相関係数を、MatLABで計算した。ANOVA分析を、GraphPad 5.0(Prism)で計算した。ROC分析のために、リスクスコア関数を、初めに、個々のバイオマーカーについてのロジスティック回帰により概算し、その後、単一のまたはバイオマーカーの組み合わせのROC曲線を分析した(SigmaPlot)。
【0129】
例2:液体試料中のTNF−アルファおよびIFN−ガンマの検出
複雑な生物学的試料を刺激するために10%ウシ血清に添加した組換えヒトIFN−ガンマを含む液体試料を作製した。図1aにおいて示すように、試料を、初めに、試料を、ビーズの表面に抱合した抗体と接触させることによりデコンボリュートした。ビーズの表面に結合した抗ヒトTNF−アルファおよび抗ヒトIFN−ガンマ抗体への特異的結合は、標的分析物であるIFN−ガンマのビーズ表面上への固定をもたらす。ビーズを、次いで、磁石により液体試料から分離して、液相を除去し、ビーズを洗浄バッファーで洗浄することにより、ビーズ状に残った任意の試料残渣中の任意の未結合の材料をビーズから洗い流した。固定された、ビーズ表面上の結合剤に結合した分析物を、次いで、光切断可能なリンカー(それぞれ、dE-+3G-+6V-dN-dD-dN-dE-dE-G-F-F-dS-A-dR-(ANP)-K(FAM)-G-G-C(配列番号37)、dE-+2G-+6V-dN-dD-dN-dE-dE-G-F-F-dS-+1A-dR-(ANP)-K(FAM)-G-G-C(配列番号37))を介してiCOREのセットに抱合したTNF-aおよびIFN-gに対する抗体の別のセットと接触させた。
【0130】
この実験において、セットは、一方はIFN−ガンマに特異的に結合し、他方はTNF−アルファに特異的に結合する2種の抗体を含んだ。両方の抗体は、同重体のiCOREに抱合しており、IFN−ガンマに結合する抗体に結合しているiCORE は、TNF−アルファに結合する抗体に結合しているiCOREとは異なる断片化シグネチャーを有する。次いで、ビーズを洗浄バッファーで洗浄することにより、任意の未結合の抗体をビーズから除去した。ビーズを、次いで、剥離溶液(stripping solution)中でインキュベートし、結合した材料を溶出させ、磁石によりビーズを除去した後で、生じた溶液を収集した。光切断可能なリンカーを、次いで、UV光への暴露により切断した。この様式によりレスキューされたiCOREを、次いでLC MS/MSアッセイに供した。図1bは、第2のラウンドのMS(断片化後)の結果のピークを示す。標的分析物であるIFN−ガンマは、試料において検出されたが、一方、TNF−アルファの内因性レベル、または非特異的結合は、第1のピークの原因であった。iCOREは同重体であるため、各々のiCOREのシグナル強度は、標的分析物の相対的豊富さに直接翻訳することができる。したがって、IFN−ガンマは、分析された試料において、TNF−アルファよりもはるかに豊富であり、約10のノイズに対して、強力なシグナルを表わした。
【0131】
例3:Glu-Fib MS/MSスペクトルからの正準ピークのレポーターとしての利用
Glu-fibを、同重体のiCOREライブラリーの作製のための塩基配列としてのその有用性について評価した。Glu-fibは、配列EGVNDNEEGFFSAR(配列番号1)の13アミノ酸のペプチドである。衝突により誘導される電離から生じる断片化スペクトルは、y型イオンの生成をもたらす。図2は、生じたy型イオン(y1−y13)およびその相対的強度を示す典型的なスペクトルである。
【0132】
glu-fibが特定のペプチド結合に沿って断片化する傾向を利用して、重いアミノ酸を有する短縮型配列を濃縮して各々が1Daずつ異なるバリアントを生成することにより、y「レポーター」イオンを中心とする(EGFFSAR(配列番号6))10種の質量コードを構築した。この導入された質量のシフトを、次いで、「残り」のフラグメント(EGVNDNE(配列番号7))内での同位体濃縮により補正した。結果として、各々のペプチドは、同一の整数質量(nominal mass)および区別し得るyフラグメントイオンにより特徴づけられる。したがって、このiCOREセットは、同重体であり、1579,68Daの親質量を共有する。各々の残りについて、bフラグメント(残り)の質量をMb7(i)=(Mb7+n)−iとして、各々のy−フラグメントをMy7(i)=(My7+i)として計算し、Mb7=767.3およびMy7=812.38であった。セットの内の4個のiCOREの計算された質量を、図2の右下の表中に示す。同重体のiCOREのセットを、次いで、MS/MSアッセイに供した。得られたデータを、図3中のMS/MSグラフにおいて示す。
【0133】
例4:同重体iCOREライブラリーからのMS/MSデータ
glu-fib iCOREの10重のライブラリーを、MS/MSアッセイに供した。結果を図3において示す。図の上のパネルは、セット中のiCORE(iCORE G1、G2、G3、G4、G5、G6、G7、G8、G9およびG10)の配列および断片化シグネチャーを提供する。上のパネルはまた、MSの第1ラウンドの後で10重のiCOREライブラリー(G1−G10)から得られた、抽出されたイオンクロマトグラフを示す。1つのみのピークが観察された(m/z=789.7−790.0)。したがって、各々のiCOREは、多重化されたセットから質量により区別し得るものであり、クロマトグラフィー(これは幾つかの態様においてにおいては定量のために有益である)によっては区別することができない。このことは、例3における計算と一致する。図3の中央のパネルは、上のパネルにおいて観察されたピークの断片化の後で生じるMS/MSを示す。結果は、例3の観察とも一致し、yイオンy−y11を同定することができたことを示した。重要なことに、生じたy断片化イオンの予測されるm/z値の周囲のm/zウィンドウの拡大は、個々のiCORE断片化シグネチャーに対応する個々の区別し得るピークを解明した(下のパネル)。G1−G10について得られたシグナルの相対的手利用は、元の試料中のiCOREの相対的な代表物(各々のiCOREの等量)が、得られたピークパターンに緊密に類似していた。このことは、方法が、定性的検出(分析物の不在/存在)のために適合するのみならず、定量的および比較定量的研究のためにも適合することを示す。
【0134】
例5:定量的iCORE MS/MSアッセイ
試料中のiCOREの豊富さの相対的定量が、かかるライブラリーが供されるMS/MSアッセイにおいて正確に反映されているか否かを調査するために、例4において記載されるような、10重のiCOREライブラリー(G1−G10)を含み異なるiCOREが規定の比において異なる相対的豊富さにおいて含まれる試料を作製した。元の試料は以下のiCORE化学量論を含んだ:G1:G2:G3:G4:G5:G6:G7:G8:G9:G10は、1:2:3:4:5:10:10:5:3:2:1の比で存在した。試料を、MS/MS分析に供し、結果を図4において示した。棒グラフは、元の化学量論と測定されたiCOREの豊富さとの間の良好な相関を示す。各々のiCOREの予測された(理論的な)および観察された(抽出された)豊富さのさらなる分析は、MS/MSの結果が、試料中の実際の豊富さと緊密に類似することを示す。観察されたデータセットと予測されたデータセットとの間の相関係数は、R=0.99であるものと計算された。これらの結果は、多重iCOREアッセイが定量的分析のために好適であること、および、MS/MSアッセイの後で、iCOREの豊富さが維持され、正確に反映されることを示す。
【0135】
例6:iCORE MS/MSアッセイの線形動態学的範囲
iCOREを容易に検出および定量することができた動態学的範囲を調査するために、例4において記載されるような10重のiCOREライブラリーの連続希釈物を作製した。ライブラリーは、各々のiCORE(G1−G10)を同じ豊富さにおいて含む。それぞれ10−7M(100nM)、10−8M(10nM)、10−9M(1nM)、10−10M(100pM)および10−11M(10pM)、の濃度を有する5つの希釈試料を、次いで、MS/MSアッセイに供した。各濃度における各iCOREについて観察された強度を、希釈試料中のiCOREの濃度に相対的にプロットした。図5は、全てのiCOREが全ての濃度において正確に検出されたことを示し、このことは、iCORE MS/MSアッセイの感度、および、試料中の実際のiCOREの豊富さが観察されたシグナル強度において正確に反映される線形動態学的の範囲が少なくとも5桁にわたることを示している。これらの結果は、多重MS/MSアッセイにおけるiCOREの正確な検出が、高い感度において可能であり、ピコモル濃度レベルのiCOREが定量的分析を可能にする正確さにおいて検出可能であることを示す。
【0136】
例7:光切断を介した共有結合した基質からのiCORE放出の効率
基質(例えば標的分析物に特異的に結合する結合剤)に共有結合しているiCOREの放出の効率を評価するために、glu-fibに基づくiCOREを作製して、共有結合を介して基質に抱合させた。iCOREを、基質、別のペプチドに、光切断可能なリンカーを介して連結して、それにより、光ケージされた、または光切断可能なiCORE−基質タンデムペプチドを作製した。光ケージされたタンデムペプチドを、約350nmの波長のUV光に、リンカーの光切断のために十分な時間(30分間)暴露する。これは、図6の上のパネルにおいて示すように、タンデムペプチドからのiCOREの放出をもたらす。光切断のプロセスを、LC MCによりモニタリングした(下のパネル)。得られたデータは、光ケージされたタンデムペプチド(I,m/z=881.7)が定量的に切断され、放出されたiCOREのうちの理論的に回収可能な量の100%近く(II,m/z=785.4)がレスキューされたことを示す。これらの結果は、他の分子、例えば結合剤またはハイドロゲル形成分子などの他のペプチドに光切断可能なリンカーを介して共有結合したiCOREの光切断は、UVへの暴露により効率的に放出させることができ、LC MSアッセイにおいて定量的にレスキューして正確に定量することができることを示す。
【0137】
例8:反応性部分への抱合によるiCOREによる分子の標識
iCOREを他の分子を共有的に標識するために用いることができるか否かを調査するために、glu-fib iCOREを、特定の条件下において適合性の化学部分に対して共有結合を形成することができる反応性化学基に抱合させた。このために、glu-fib iCOREを、PEGモノマーの存在下においてUV光に暴露された場合にPEGモノマーに対して共有結合を形成することができる反応性の化学部分に結合させた。図7において示すように、暴露は、glu-fib iCOREで標識されたPEGポリマー、この場合はPEGの足場がiCOREにより共有結合されているハイドロゲルの形成をもたらす。
この原理証明実験により、基質をiCOREで共有的に標識することができること、および、例えば組織工学のための足場として有用なiCORE標識されたハイドロゲルを容易にもたらすことができることを示す。
【0138】
例9:多重化された疾患の尿モニタリングのための、質量によりコード化された合成バイオマーカー
疾患の検出のための多重化された合成バイオマーカーを含むプロテアーゼ感受性プラットフォームを開発した。図8は、このアプローチの模式図を示す。図8aは、ナノワームナノ粒子状に抱合した質量によりコード化された基質ペプチドライブラリーからなる、合成バイオマーカーのライブラリーを示す。動物全体におけるNWカクテルの投与は、疾患組織における蓄積をもたらす(b)。局所的なプロテアーゼは、ペプチドフラグメントを切断し、これは次いで尿中に濾過される。UV光への暴露により光ケージされた質量レポーターが放出され、液体クロマトグラフィータンデム質量分析により定量される(c)。
【0139】
プロテアーゼ感受性プラットフォームを確立するために、肝線維症およびがんに関連する細胞外プロテアーゼによる切断に対して感受性であるであろうペプチド基質を同定した。約50個の候補ペプチド配列20−24のフルオレセイン標識された誘導体を合成し、PEGで被覆された長期循環型酸化鉄ナノワーム25(NW)ナノ粒子(図9a、b、c)と抱合させ、これらの疾患において共通して過剰発現する組換えプロテアーゼ(例えば、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)、カテプシン)、ならびに血液中で通常存在するプロテアーゼ(FXa、組織因子(TF)、トロンビン)と共にインキュベートし、プロテアーゼに対す表面抱合型ペプチドのる基質特異性および到達性(accessibility)を評価した。図9は、長期循環型酸化鉄ナノワームシャペロンを示す。デキストランで被覆された酸化鉄ナノワームの動態的光分散により決定されるNWのサイズ分布を、(a)において示す。遊離のNW(赤)およびフルオレセインで標識されたペプチドに抱合したNW(約500nm)およびAlexa 647(青)の吸収スペクトルを、(b)において示す。基質ペプチドに抱合したPEGで被覆された(青)およびPEGフリー(赤)のNWのin vivoでのクリアランス動力学を(c)において示す。ペグ化されたNWは、循環半減期を約4時間延長した。
【0140】
このアッセイを用いて、隣接するフルオロフォア間のホモクエンチングの解消から生じる、繋ぎ止められた蛍光ペプチドのタンパク質分解切断による、試料の蛍光の増大を観察した。各々のプロテアーゼ−基質の組み合わせについて初期反応速度を抽出し、比較分析のためにコンパイルした(図10a、b)。図10は、NWに媒介された尿追跡のためのプロテアーゼ感受性基質を選択することを説明する。蛍光定量法によりモニタリングされるペプチド−NW切断の動力学を(a)において示す。特定のプロテアーゼ−基質の組み合わせは、迅速な活性化をもたらした。図10bは、活性および特異性に従ってグループ化された異なる基質−プロテアーゼの組み合わせについての初期切断速度のヒートマップ比較を示す。VivoTag-680標識Glu-fibペプチド、(d)ペプチドフリーNW、または(e)ペプチド抱合型NWの静脈内注射の後の、DDC処置動物および対照動物のIVIS in vivoイメージング。
このセットから、強力なプロテアーゼ感受性を有する10種のペプチドを選択して、ペプチド−NWライブラリーとして使用した(表1)。
【0141】
表1.iCOREによりコード化されたペプチドバイオマーカーライブラリー。LC MS/MSによる定量のために光ケージされた同重体の質量コードによりコード化されている個々のプローブ基質。
【表1】
【0142】
G1−G10の配列は、上から下へ、それぞれ配列番号8−配列番号17に対応する。基質の配列は、上から下へ、それぞれ配列番号18−配列番号27に対応する。同重体質量コードは配列番号28に対応し、y6レポーターは配列番号29に対応する。
【0143】
疾患の微小環境を探索するシステムを設計するために、各々のシステムの成分(すなわち、ペプチドおよびナノ粒子)の生体内分布を、疾患モデルにおいてin vivoで調査した。ここでは、肝線維症のマウスモデルを選択し、ここで、3,5−ジエトキシカルボニル−1,4−ジヒドロコリジン(DDC)を食餌として与えられたFVB/NJマウスは、慢性胆管傷害の結果として進行性の肝臓疾患を発症し26図11a、b、c)、これは線維化およびタンパク質分解的に活性な肝臓をもたらす(図12b、c、d)。
【0144】
図11は、DDC処置マウスにおける肝線維症および消散の尿中バイオマーカーを説明する。図11aは、肝線維症の誘導およびNW投与のスケジュールを示す。図11bは、ヒドロキシプロリン分析による肝臓コラーゲンの定量を示す。DDC処置は、第3週までの肝臓コラーゲンの約3倍の増大(***P<0.001)、および第7週と11週との間の約30%の低下(*P<0.05)をもたらし、これは、処置前の値よりも高くを維持した(*P<0.05)(One-way ANOVA、Tukey事後試験、n=3、s.e.m.)。肝臓切片のシリウスレッド組織化学(スケールバー=50μm)は、第3週において門脈三分岐炎から発生した線維化伸長物の存在を示し、これは第7週まで持続し、第11週において消散している(c)IVIS in vivoイメージングにより、DDC処置された動物におけるアンサンブルレポーターライブラリーの尿中の蓄積が示された(d)。α−FITCの免疫沈降により定量された尿中の蓄積の動力学(第3週の時点、*P<0.05、Two-way ANOVA、Tukey事後試験;エラーバー=s.e.m.)を、(e)において示す。図11fは、第0、3、7および11週においてDDC対対照としてプロットされた個々のiCOREピーク強度の箱髭プロットを示す(*P<0.05、**P<0.01;反復測定ANOVA、Tukey事後試験;n=10)。図11gは、単一、2重および3重の線維化バイオマーカーの組み合わせのROC曲線を、付随する曲線下面積(area under curves:AUC)と共に示す。
【0145】
図12は、肝臓切片の免疫蛍光を示す。図12aは、線維化帯域中へ浸潤するマクロファージ(赤)およびNW(緑)の門脈周囲画像を示す。矢印は、強力剤の領域を強調する。図12bは、MMP9(赤)およびNW(緑)の門脈周囲画像を示す。MMP9の発現は、健康な肝臓においては見出されなかった(c)。図12dは、ゼラチンin situ 酵素電気泳動後の門脈周囲帯域の蛍光画像を示す。スケールバー=100μm。
【0146】
ペプチド追跡を評価するために、ペプチド、グルタミン酸フィブリノ(glutamatefibrino)ペプチドB(Glu-fib, EGVNDNEEGFFSAR、配列番号1)を、プロトタイプ尿マーカーとして選択した。なぜならば、その内因性誘導体(フィブリノペプチドB)は生物学的に不活性であり、通常、血液凝固の間に放出された場合、尿中に自由に濾過されるからである27。静脈内で(i.v.)投与されたフルオロフォア標識Glu-fibは、線維症および健康な動物の両方において、効率的に尿中に濾過され、肝臓ホーミングは検出不可能である(図10c)。対照的に、より大きなペプチドフリーのNW(水力学的直径約40nm、図9a)は、肝臓にホーミングし(図10d)、このことは、ナノ材料のサイズ依存的な追跡、および無機ナノ粒子についての約5nmの腎臓クリアランス閾値と一致する28。重要なことに、NWに抱合したフルオロフォア標識ペプチドで処置された動物において、線維症および健康な肝臓の両方においてNWにより媒介されるペプチドのホーミングが観察され、これは、疾患動物において切断されたペプチドフラグメントの腎濾過から生じる尿中蛍光の強力な増大をもたらした(図10e)。
【0147】
質量分析によるプロテアーゼ活性のプロファイリング
質量によるコード化の多重の利点にもかかわらず、MSによりプロテアーゼ活性を検出することの一つの問題は、複雑なタンパク質分解環境におけるペプチド基質は、乱雑なプロテアーゼにより複数の部位において切断され、エキソプロテアーゼにより短縮化されて、質量分析を混乱させる殆ど規定されないフラグメントの多様なプールを生じ得ること4、29である。ここでは、基質ライブラリーをコード化するためのよく規定された質量レポーターを設計した。Glu-fibの有利な腎クリアランス特性を考慮して、Glu-fibのd−異性体リッチな誘導体を、プロテアーゼ耐性質量レポーターとして役立つように、および基質の切断およびNWからの放出による腎濾過を促進するために、各々のプロテアーゼ基質のN末端に付属させた(表1)。光分解によりin vivoタンパク質分解の後の複雑な尿中切断フラグメントから規定のGlufibペプチドを回収することを可能にするために、これらのタンデムペプチドを、内部の光に対して不安定な残基30でさらに修飾した。このコンストラクトを試験するために、モデルの光ケージされたタンデムペプチドを合成した(化合物I、図13a)。先に公開されたニトロフェニル基に関する報告と一致して、化合物I(3重に荷電、881.7m/z;図13b、上のパネル)のUV光への暴露は、ペプチド切断を引き起こし、2重に荷電されたアセタミド末端化されたGlu-fib(785.4m/z;図13b、下のパネル)をもたらした。
【0148】
図13は、LC MS/MSによるプロテアーゼ活性の多重プロファイリングのための光ケージiCOREライブラリーを示す。図13aは、内部のUV感受性リンカーを含むタンデムペプチド(化合物I)の構造を示す。ここで示されるのは、光分解(〜350nm)後に生成される遊離のGlu-fib(化合物II)の構造である。図13bは、UV光への暴露の前(上、3重に荷電、m/z:881.7)および後(下、2重に荷電、m/z:785.4)の化合物IのLC MSスペクトルを示す。図13cは、Glu-fibから誘導された10重の同重体ペプチドライブラリーを示す。図13dは、等モルの10重のiCORE混合物の抽出イオンクロマトグラム(789.80−789.90m/z)を示す。多重化されたセット全体は、クロマトグラフィーにより区別することはできなかった。図13eは、衝突誘起解離の後のiCOREのMS/MSスペクトルを示す。個々のレポーターは、各々が単一の質量単位により区別し得るユニークなy6レポーターイオン(683.3−692.3m/z)を介して同定された。図13fは、10重のiCOREによりコードされたペプチド−NWカクテルの組換えMMP9と共にインキュベートした後の、iCOREのMS/MSスペクトルを示す。
【0149】
図14は、同重体によりコード化されたレポーター(Isobaric COded REporter:iCORE)の質量コード化を説明する。図14aは、Glu-fibの衝突誘起解離の後のMS/MSスペクトルを示す。ピークは、c末端のy型ペプチドフラグメントに対応する。図14bは、10種の同位体アナログ、および同重体によるコード化を介して生じる対応する質量を列記する。各配列は、一定の全質量を維持しつつ、ユニークなy6レポーターイオンを生じる「重い」アミノ酸により残りまたはレポーター領域を選択的に濃縮することにより構築した。
【0150】
プロテアーゼ基質のライブラリーのために拡大可能なコード化戦略を設計するために、同重体の質量コード化31、32が尿中レポーターGlu-fibなどのペプチド骨格へと拡大されて質量レポーターのファミリーをもたらす能力を調査した。同重体によるコード化戦略の特徴的な特色は、レポーターのファミリーの個々のメンバーが、MSによる効率的なペプチド収集を容易にする親質量を共有するが、その後に断片化によりユニークなMS/MSイオンを介して同定することができることである。まず、Glu-fibがC末端y型イオンへ断片化することを決定し(図10a)、重いアミノ酸を含む6量体を濃縮して各々が1Daずつ異なるバリアントを生成することにより、y6イオンを中心として10種の質量コード(GFFSAR、配列番号4)を構築した(図10b)。この導入された質量シフトを、次いで、ペプチドの残り(EGVNDNEE、配列番号5)中での同位体濃縮により釣り合わせた。結果として、各々のペプチドは、同一の整数質量および別々のにy6フラグメントイオンより特徴づけられた。このコード化方法を「同重体コード化レポーター(isobar COded REporters)」(iCORE)と名付けた。このアプローチを評価するために、等モルの10種のiCORE混合物(図13c)をLC MS/MSにより分析し、ペプチドライブラリー全体が、初期には単一の分離されないピーク(抽出イオンのクロマトグラム、789.95±0.5m/z、図13d)として現れるが、断片化の後では10個のピークスペクトルに分離され、断片化の偏りがない(683.4−692.4m/z、図15図13e)ことが見出された。天然に存在する同位体(例えば13C)から生じる交絡するピークのオーバーラップを取り除くため、iCOREペプチドを、前駆体イオンを中心とする単位質量ウィンドウを介して選択的に断片化し(図16a)、天然に存在する同位体からのシグナルを、親ピークの約5%まで最少化した(図16b)。このようにして、レポーターを規定の比(1:2:3:5:10:10:5:3:2:1)において添加された試料において、未改変の分析およびピークを差分した分析の両方において、ピーク強度と化学量論との間に直線的相関が観察された(n=3、それぞれR2=0.99およびR2=0.99、図17a、b、c)。図17は、iCORE LC MS/MS分析が定量的であることを示す。図17aは、1:2:3:5:10:10:5:3:2:1の比において組み合わされた10種のiCOREレポーターの混合物のMS/MSスペクトルを示す。抽出されたピーク強度は、入力レポーター化学量論と高度に相関した(r2=0.99;n=3;エラーバー=s.e.m.)(b)。天然に存在する同位体(図16)を説明するために、個々のレポーター強度を、前のレポーター強度の5%を差分することにより改変した(c)。補正されたレポーター比はまた、レポーター比と強力に相関した(r2=0.99;n=3;エラーバー=s.e.m.)。全てのその後の試料を、天然に存在する同位体の寄与を反映させるために、ピーク調整した。
【0151】
iCOREの多重化の能力を評価するために、および同時に多くのプロテアーゼ−基質の組み合わせの活性について報告するために、10種の等モルのiCOREによりコード化されたペプチド−NWのカクテルを、組換えMMP9で処置した(表1)。インキュベーションの後で、切断生成物を、サイズ濾過により単離し、UV光に暴露し、その後MS/MS分析に供した。重要なことに、集合的な基質の活性は、著しく異なるy6レポーター強度により特徴づけられる別々のiCOREランドスケープへと翻訳された(図13F)。このライブラリーを、幾つかの他の組換えプロテアーゼに適用し(図18a)、異なるiCOREプロテアーゼプロフィール(すなわち、MMP2、MMP9、MMP12およびトロンビン)の間にピアソン相関分析により決定される強い相関は見出されず(図18b)、このことは、iCOREにコード化されるNWが、多くのプロテアーゼおよびプロテアーゼ−基質の組み合わせをユニークにモニタリングする能力を示す。
【0152】
例10:肝臓の線維形成および消散のモニタリング
肝臓線維症は、慢性肝臓傷害の治癒応答であり、瘢痕組織の発達をもたらし、これは硬変、肝不全およびがんをもたらし得る18。コラーゲンなどの細胞外マトリックスの蓄積の動力学は、主に、線維形成性肝臓星細胞および筋線維芽細胞、ならびにMMPなどのマトリックスリモデリングプロテアーゼおよびそれらの阻害剤により駆動される。モニタリングのための現在の最良の標準は、針生検とその後の組織学的分析である。しかし、この技術は侵襲的であり、サンプリングの不均一性により交絡を生じ、合併症の有限の危険性を有し、必要(例えば抗線維症治療のモニタリング)に応じて頻繁に行うことができない33。超音波イメージング、エラストグラフィーおよび血清バイオマーカーを含む非侵襲的なアッセイは、それらの低い正確性および限定された予後の有用性により限定される34。したがって、生検に基づくモニタリング、新規の抗線維症剤の同定および評価、ならびに臨床的決定の支援の代わりとなる非侵襲的バイオマーカーについての緊急の必要性が未だ存在している35。ここで、肝線維症をモニタリングする能力を有する合成バイオマーカーを同定すること、およびDDC誘導型モデルを線維症と消散しつつある疾患との両方を含むように拡大することを探究した(図11a、b、c)。
【0153】
線維症の進行の間の、in vivoでの追跡、およびiCOREでコード化された合成バイオマーカーがアンサンブル尿シグナルを生じる能力を決定した。フルオロフォア標識された10種のペプチド−NWカクテルの静脈内投与は、DDCで3週間処置された動物における尿中蛍光の2倍の増大をもたらした(*P<0.05、Twoway ANOVA;図11d、e)。肝臓切片の免疫蛍光イメージングにより、殆どのNWが常在性マクロファージによる隔離(sequestration)を逃れて(図12a、矢印)、柔組織中に、および活発に線維化する(点状のMMP9発現により特徴づけられる)門脈周囲帯域中に、自由に浸潤していることが明らかとなった(図12b、c)。同様のパターンは、活性なコラーゲン分解プロテアーゼのin situでの可視化を可能にするDQ−ゼラチン基質により処置された切片においても現れた(図12d)。
【0154】
まとめると、これらの結果は、NWが、活性なプロテアーゼを含む線維化する肝臓微小環境にホーミングすることを示す。感受性かつ特異的な合成バイオマーカーを同定するために個々のレポーターの挙動を決定するために、線維症のプロセスおよび消散を、iCORE質量分析により探査した。一過性にDDCで3週間処置し、その後DDCフリーの固形飼料で回復させたマウスは、特徴的な線維化および消散のウィンドウを示し(それぞれ0−3および7−11週間、図11a)、これは、肝臓切片のシリウスレッドコラーゲン染色により(図11c)、および合計組織コラーゲンを定量するヒドロキシプロリン分析により(図11b)、巨視的に検証される。この処置レジメンにより、肝臓のコラーゲンは、3週間DDCを与えた後で、処置前レベルと比較して、約3倍増加し、これはDDCの初めての除去の後、第3週から7週まで持続し、持続的なDDCの中止の後、第7週から11週の間に著しく減少した(*P<0.05、***P<0.005、n=3)。
【0155】
したがって、線維化と疾患の消散との間の遷移をモニタリングするために、NWを、第0、3、7および11週において、DDC処置された動物および月齢が一致する対照動物に投与し、その後iCORE MS/MS分析を行った。結果の個々のバイオマーカーの活性は、著しく多様な動力学を示した(図11f)。バイオマーカーG3およびG4はいずれも、処置前の基底値と比較して強力に増大し、それぞれ第7週および第3週においてねじれたにもかかわらず、第11週までにプラトーに達した。G5およびG6は、反対の動力学を示し、第3週において著しく減少し、その後、次第に処置前強度まで戻るか(G5)または第11週まで持続した(G6)。興味深いことに、G7は、DDC処置の動力学を追跡し、第3週において急激に上昇し、その後、第7週において迅速に逆転した。残るバイオマーカー(G1、G2、G8、G9およびG10)は全て、初期の処置前活性から変わらなかった(G1−G10;*P<0.05、**P<0.01、反復測定ANOVA、Tukey事後試験、n=10)。重要なことに、対照動物における全てのバイオマーカーもまた、基底値から有意には離れなかった(図19)。
【0156】
これらのバイオマーカーの診断性能を、個体について、ならびにバイオマーカーの組み合わせについて、受信者動作特性(ROC)分析を行うことにより、決定した。ROC曲線は、性能の計量値として曲線下面積(AUC)を返すことにより、バイオマーカーの感度および特異度を識別閾値の関数として特徴づけ、0.5の基底AUCは、無作為バイオマーカー分類指標を表わす(破線、図11g、h)。第0−3週の線維化ウィンドウ内で、G5は、10種のバイオマーカーの間で最も高いAUCを示し(0.96、図20)、これは、G7を2重バイオマーカーの組み合わせにおいて(0.98)、または、G6およびG7を3重の組み合わせにおいて(1.00)含めることにより、さらに改善され、このモデルにおける線維症疾患についての完全な合成バイオマーカー分類指標をもたらした(図11g)。第7−11週の消散時間枠内において、G1は、AUC=0.73でリードし(図21)、これは、G1+G9の2重の組み合わせ(AUC=0.9)、および最終的には3重の組み合わせG1+G7+G9(AUC=0.91)(図11h)を介して、著しく改善された。
【0157】
まとめると、これらの実験は、肝線維症および消散が、合成バイオマーカーの別々の集合により明らかとなること、および多重の組み合わせにより、最高の診断性能が可能になることを実証し、このプラットフォームが、他の方法では近づき難い肝臓の疾患の発生の側面を非侵襲的に解明する能力を示す。
【0158】
例11:大腸がんの早期検出
全身転移の前に診断された場合、多くの原発腫瘍は、従来の臨床的介入により効果的に処置することができる36。しかし、殆どの臨床において利用されるバイオマーカーは、小さい腫瘍を判別する診断正確性および感度を欠き、脱落したがん組織または処理されたがん組織の副産物を標的とする現在の内因性の血液バイオマーカー戦略を、早期検出のために十分に改善することができるか否かについては不明のままである19。さらに、個々の血清バイオマーカー(例えば、卵巣がんについてはCA-125、前立腺がんについてはPSA)が、早期検出に必要とされる必要な感度および特異度を備えていないこと、ならびにバイオマーカーのパネルが必要とされる可能性が極めて高いことが、明らかとなってきている37
【0159】
ここで、例えば、ナノ粒子は、有窓の血管新生性の腫瘍血管を通して、受動的に腫瘍を標的とし、プロテアーゼをサンプリングするので16、合成尿バイオマーカーのパネルを、単一の臨床の血液バイオマーカーと比較して、より早期の、およびより正確ながんの検出を可能にするために容易に適応させることができるか否かを調査した。この概念を探索するために、血液バイオマーカーがん胎児抗原(CEA)を分泌するヒト大腸がん(CRC)細胞株38であるLS174T異種移植腫瘍を有する、胸腺欠損ヌードマウスをモデルシステムとして用いた(図22)。図23aは、ヌードマウスにおけるLS 174T大腸がん細胞の接種およびNW投与のスケジュールを示す。図23bは、腫瘍増殖の巨視的な定量を説明し(n=5、s.d.)、図23cは、腫瘍および対照動物における、腫瘍移植後3日毎にELISAにより分析された、CEAの循環レベルを示す(**P<0.01、Two-way ANOVA、Tukey事後試験)。IVIS in vivoイメージングは、腫瘍を有する動物におけるアンサンブルレポーターライブラリーの尿中の蓄積を示す(d)。図23eは、FITC免疫沈降による尿中蛍光の定量を示す(*P<0.05、Two-way ANOVA、Tukey事後試験;n=5、s.d.)。図23fは、単一、2重または3重のバイオマーカーの組み合わせのROC曲線を、付随するAUCと共に示し(n=16;8対照、8腫瘍)、図23gは、第10日における3重のバイオマーカーの組み合わせ(G1+G2+G3)と血清CEAとの間のROCの比較を示す。移植の後で、3日毎に血清をサンプリングして、ELISAによりCEAについて分析することにより、腫瘍の生着をモニタリングした(図23b、c)。第10日において、CEAレベルは、腫瘍を対照動物から区別するためには不十分に上昇しており、これは、約130mmの平均腫瘍負荷に対応した(球直径d=約6.3mm)。さらに増殖させた腫瘍は、CEA分析において容易に検出され(第13日および16日)、これは、約330mmの検出限界(d=約8.6mm)を表わした(**P<0.01、Two way ANOVA、n=5)。合成尿バイオマーカーが血清CEAより優れているか否かを決定するために、本明細書において記載されるフルオロフォア標識された10重のペプチド−NWライブラリーを、第0日および10日において投与した。切除した腫瘍のex vivoイメージングおよび対応する切片の免疫蛍光分析により、NWは、静脈内投与の後で、血管外環境に容易にホーミングすることが示された(図24)。CEAは第10日におけるがんの存在を示すことができなかったが、アンサンブルペプチドの切断は、尿蛍光の強力な2倍の上昇をもたらし(図23d、e)、尿中蛍光のみにより、CEAよりも約2.5倍小さい(130対330mm)腫瘍の検出を可能にした。多重分析の完全な診断能力を決定するために、iCORE MS/MSにより個々のバイオマーカーを定量した。本明細書において記載される肝臓の研究と同様に、最も高い性能を示す単一のバイオマーカーバイオマーカー(G1、AUC=0.78、図25)の分類力は、2重(G1+G2、AUC=0.88)および3重のバイオマーカーの組み合わせ(G1+G2+G3、AUC=0.89)において着実に改善された(n=16、図23f)。この3重の組み合わせは、第10日においてAUC=0.61により不十分に疾患を検出した血清CEAよりも、著しく優れていた(図23g)。
【0160】
考察
疾患の多くの新たな特色が、包括的なプロファイリングアプローチにより急速に発見されているという事実にもかかわらず、この知識の次世代バイオマーカーへの発展は、内因性の標的に固有の多くの技術的および生物学的問題により、根本的に限定されたままである。理想的には、候補バイオマーカーは、ネイティブのバックグラウンドに対して高いレベルで分泌され、循環において検出まで安定であり続けるか、または残留し続け、組成的に単純な宿主の体液から容易に到達可能であり、高い感度および特異度で疾患を識別することができる。現実には、かかるパラメーターは改善または制御することが困難であり、多くの有望なバイオマーカーが、臨床的翻訳についての厳密な評価の間に失敗する。
【0161】
ここで、以下の能力を有する合成バイオマーカーのシステムを考案した:(i)異常なプロテアーゼ活性を標的とすることにより、基質のターンオーバーを通してバイオマーカーレベルを増幅する、(ii)宿主分子を含まない、狭い質量ウィンドウ内で検出されるように設計された、安定なd−異性体が濃縮された質量レポーターを放出する、(iii)マトリックスの複雑性を低減するために、および抽出を容易にするために、血液から尿中へのレポーターのクリアランスを引き起こす、ならびに(iv)高感度かつ特異的な診断のための多重の組み合わせを同定するために、候補合成バイオマーカーのライブラリーをin vivoで同時にプロファイリングする。本明細書において記載される研究により、疾患組織を調べる外因性の剤を操作することにより、組み込みの前に重要な生物学的および輸送的問題に別々に取り組むことができ、異なる疾患について迅速に設計して試験および同定することができる合成バイオマーカーをもたらすことができることが示される。
【0162】
本明細書において記載される肝臓の研究は、肝線維症および消散の両方をモニタリングするためのこの技術の潜在能力を実証する。肝臓の小さい部分のみがサンプリングされるために生検の結果はしばしば変動的であり、不正確な診断または繰り返しの生検をもたらし得るという事実にもかかわらず、現在、針生検が最良の標準であり続けている。さらに、消散の間に起こるプロテアーゼ活性の変化と比較して、より長期的な時間尺度において肉眼的な構築上の変化がしばしば生じ、組織学的分析に基づいて患者の軌跡を予測することを困難にしている。重要なことに、本研究は、ナノスケールの剤が、肝臓全体に浸透し、線維化および消散のバイオマーカーのパネル(それぞれ第0−3週および第7−11週)を表わし、しかも、第3週と7週との間に、消散に先立って(この時間ウィンドウ内での肝臓切片は、臨床において利用される組織学的またはマトリックス定量アッセイによっては区別し得なかったので)潜在的に予測的シグネチャーを表わし得るバイオマーカー(例えば、G3、G7)を明らかにしたことを示した。線維症消散の初期の予測的バイオマーカーは、潜在的応答者を、同一の組織学を有する非応答者から迅速に識別することにより、新規の抗線維症薬が臨床前および臨床研究において同定される速度を加速させるであろう。
【0163】
現在、腫瘍のサイズを循環バイオマーカーレベルに相関させる臨床データは殆ど存在せず、小さい腫瘍(<1cm)を容易に検出することができるか否かは不明なままである。最近、Gambhirら19は、数学的モデルを介して、固形腫瘍が、10−12年間検出不能であり続ける可能性があり、血液バイオマーカーが疾患を示すことができるまでに、球直径が>2.5cmに達することを概算した。早期検出のために有用であるためには、内因性の種に依存した現在のアプローチは、大幅に改善される必要があるであろう。対照的に、本研究は、多重の合成バイオマーカーのパネルが、CRC腫瘍を、血清CEAよりも早期により正確に検出することができ、〜2.5倍小さな腫瘍負荷の検出を可能にすることを示した。さらに、肝臓の外の相対的に小さな疾患部位(〜130mm)が、調査のために到達可能であり、近赤外イメージング(例えば、深く播かれた腫瘍)または他のイメージング様式(例えば、肝臓転移などのMRIまたはCTコントラストが低い疾患組織)により探査することが現在困難な部位における疾患の検出の可能性を開く39
【0164】
本明細書において記載される技術は、さらなる疾患および代替的用途を包含するために容易に拡大することができる。承認されたおよび実験的なナノ粒子の処方物の豊富な蓄積を前提として、本明細書において記載される研究は、ペプチドカーゴを異なる器官、脈管構造、および組織深度へと標的化または輸送することができる他のナノ材料および足場へと移転可能である40、41。さらに、本明細書において開示されるiCOREの質量によるコード化のスキームは、さらなる同位体が濃縮されたアミノ酸を組み込むことにより、および別の親ペプチドを利用することにより、数百個の直交性コードを作出するために拡大することができる。より大きなコード化ライブラリーは、数百個の合成バイオマーカーの同時のモニタリングを可能にするのみならず、さらに、乱雑なプロテアーゼについて特異的な基質を設計する困難を克服するために、数学的デコンボリューションにより調節不全となったプロテアーゼのアイデンティティーを明らかにすることを可能にする42。多様な送達戦略、より広い多重化能力、および正確な数学的アルゴリズムの集合は、疾患のシステムレベルのモニタリングのための豊富な機会を提供し、複雑なプロテアーゼのネットワークが健康および疾患において果たす役割を明確に解明するであろう。
【0165】
参考文献
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】
【0166】
上に列記される参考文献[1]−[43]、本明細書において上で記載される任意の参考文献、および以下に記載される任意の参考文献を含む本明細書において記載され列記される全ての参考文献の全内容は、全ての個々の参考文献が本明細書において参照により組み込まれるものとして、本明細書において参照により組み込まれる。本明細書において組み込まれる任意の参考文献の教示と本明細書との間に矛盾がある場合、明細書が統制するべきである。
【0167】
前述の明細書は、当業者が本発明を実施するために十分であるものと考えられる。本発明は、提供される例により限定されない。なぜならば、例は本発明の多様な側面の説明を目的とするものであることを意図され、他の機能的に等価な態様は、本発明の範囲内であるからである。前述の明細書から、本明細書において示され記載されるものに加えて、本発明の多様な改変が当業者には明らかとなり、添付の請求の範囲の範囲内に該当する。本発明の利点および目的は、本発明の各々の態様により必ずしも包含されない。
【0168】
本明細書および添付の請求の範囲において用いられる場合、単数形の形態「a」、「an」および「the」は、文脈が他に明確に示さない限り、複数形の言及を含む。したがって、例えば「細胞」についての言及は、複数のかかる細胞を含み、「抗体」についての言及は、1または2以上の抗体および当業者に公知のその等価物についての言及である、など。
範囲が示される場合、終点が含まれる。各々の範囲について、記載されるパラメーターが範囲または当該範囲内の部分範囲内の単一の値とみなされる態様が含まれる。
【0169】
全ての態様が記載されるわけではなく、本明細書において記載される任意の態様の特色または複数の特色と、本明細書において記載される任意の他の態様のの特色または複数の特色との組み合わせが企図される。同様に、添付の請求の範囲における任意の限定は、他の請求項のうちのいずれかにおける任意の限定、またはかかる限定の組み合わせと、組み合わせることができる。かかる組み合わせた態様は、スペースを節約するために明確には記載されていないが、本発明の範囲内にあることが明示的に企図される。同様に、本明細書において記載される任意の態様の任意の特色は、添付の請求の範囲の範囲から除外することができる。
本願において列記される全ての参考文献、特許および特許刊行物は、その全体において本明細書において参考として援用される。
図1a
図1b
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8a-b】
図8c-9】
図10a
図10b
図10c-e】
図11a-e11g-h】
図11f
図12a-b】
図12c-d-13a】
図13b-c】
図13d-e】
図13f
図14a
図14b
図15-16】
図17
図18
図19-20】
図20A
図20B-21】
図21A
図21B
図22-23】
図24-25】
図25A
図25B
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]