【実施例】
【0052】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0053】
[実施例1]乳酸菌株の調製
<実験方法>
本発明の実施例で用いた乳酸菌(ラクトバチラス・パラカゼイ(
Lactobacillus paracasei)KW3110)は日本乳業技術協会から入手した。乳酸菌をM.R.S.(de Man, Rogosa, Sharpe) 培地(OXOID)を用いて37℃で48時間培養した。集菌後、滅菌水で3回洗浄し、100℃、30分オートクレーブすることにより殺菌した。その後、菌体を凍結乾燥し、1mg/mLになるようにPBS(TAKARA BIO社製)で濃度を調整した。
【0054】
[実施例2]ヒト網膜色素上皮細胞に対するKW3110刺激によるヒトmDC(myeloid dendritic cell: ミエロイド樹状細胞)の培養上清のブルーライト照射に対する細胞死抑制効果の評価
ラクトバチラス・パラカゼイKW3110株で刺激したヒトmDCの培養上清がブルーライト照射によるヒト網膜色素上皮細胞の細胞死を抑制出来るか検証した。
【0055】
<実験方法>
(1)mDC培養上清の調製
ヒト末梢血単核細胞(PromoCell社製)からMonocyte isolation kit(Milteny社製)を用いてCD14
+細胞を分離し、10%FBS(Moregatebiotech社製)+1%P/S(Invitrogen社製)+ 50μM 2-mercaptoethanol (Invitrogen社製)含有RPMI1640(SIGMA社製)にrecombinant human-GM-CSF(R&D systems社製)を50ng/mL、recombinant human-IL-4(R&D systems社製)を100ng/mLの濃度で添加し、1.0×10
6細胞/mLで6ウェル平底プレート(Iwaki社製)に2mLずつ蒔き、6日間37℃、5%CO
2条件下で培養し、ヒトミエロイド樹状細胞(mDC)を誘導した。その後、その細胞を回収し、0.6×10
5細胞/mLで48ウェルプレートに500μLずつ蒔いた。その際、KW3110株を10μg/mL、でmDC培養系に添加し、24時間培養し、培養上清を回収した。
【0056】
(2)ヒト網膜上皮細胞の調製
ヒト網膜色素上皮細胞(ARPE19:ATCCより購入)を、3.0×10
3細胞/ウェルで96ウェルプレートに蒔いて10%FBS(Moregatebiotech社製)+1%P/S(Invitrogen社製)含有DMEM/F12(thermofisher社製)培地条件下で37℃、5%CO
2条件下で72時間培養した。培養後、培地を1%FBS(Moregatebiotech社製)+1%P/S(Invitrogen社製)含有DMEM/F12(thermofisher社製)に交換しさらに24時間培養した。
【0057】
(3)ブルーライト照射試験
上記(1)で回収したKW3110株で刺激したヒトmDC培養上清を1/100濃度になるように添加後、6時間培養した。培養物に照射される照度が2000luxとしたブルーライト(波長470 nm、オプトコード社製)を30分間照射した。コントロールとして、ブルーライトを照射せずにかつKW3110刺激をしないヒトmDC培養上清を用いる条件及びブルーライトを照射するがKW3110刺激をしないヒトmDC培養上清を用いる条件を設けた。いずれも3連で行い、照射24時間後、Cell counting kit-8(同仁化学研究所社製)を用いて細胞生存度(代謝活性による細胞生存率)を測定した。
【0058】
(4)KW3110株培養上清の影響の評価
上記(1)〜(3)の系におけるKW3110株そのものによって網膜上皮細胞の細胞死が抑制された可能性について検討した。すなわち、(2)で調製したヒト網膜上皮細胞にPBSに懸濁したKW3110株を添加し、(3)と同じ条件でブルーライトを照射したもの(light KW)、(2)で調製したヒト網膜上皮細胞にそのままブルーライトを照射したもの(light)について細胞生存度(代謝活性による細胞生存率)を測定した。
【0059】
<結果>
細胞生存度(細胞生存率)を評価した測定結果を
図1Aに示す。「no light」はブルーライトを照射せずにかつKW3110株で刺激をしないヒトmDC培養上清を用いた条件の結果を、「light_mDC」はブルーライトを照射したがKW3110株で刺激をしなかった条件の結果を、「light_KW_mDC」はブルーライトを照射しかつKW3110株での刺激をしたヒトmDC培養上清を用いる条件の結果を示す。ブルーライトを照射することによってヒト網膜色素上皮細胞の細胞死が誘導されること、及びKW3110株での刺激をしたヒトmDC培養上清存在下においてはブルーライト照射条件においても細胞生存率の低下が認められなかった。
【0060】
KW3110株の直接の影響を確認した結果を
図1Bに示す。「light_KW」は網膜上皮細胞にKW3110株懸濁液を添加してからブルーライトを照射した条件の結果を、「light」はKW3110株懸濁液を添加せずに網膜上皮細胞にブルーライトを照射した条件の結果を示す。両群に有意な差は認められなかった。
【0061】
以上から、KW3110株で刺激したヒトmDC培養上清にはブルーライト照射による網膜色素上皮細胞の細胞死を抑制する効果があることが明らかになった。
【0062】
[実施例3]ヒト網膜色素上皮細胞に対するKW3110刺激によるヒトM2マクロファージ細胞(macrophage cell)の培養上清のブルーライト照射に対する細胞死抑制効果の評価
<実験方法>
(1)ヒトM2マクロファージ培養上清の調製
ヒト末梢血単核細胞(PromoCell社製)からMonocyte isolation kit(Milteny社製)を用いてCD14
+細胞を分離した。分離した細胞をHuman M2 macrophage Differentiation Kit(R&D社製)を用いて2×10
5細胞/mLで48ウェルプレート(Iwaki社製)に500μLずつ播き、37℃5%CO
2条件下で培養3日に1回培地交換を行い、6日間培養し、ヒトM2マクロファージを誘導した。その後、KW3110株を10μg/mLでM2マクロファージ培養系に添加し、24時間培養し、培養上清を回収した。
【0063】
(2)培養上清の影響の評価
代謝活性による評価
実施例2と同様に、ブルーライト照射後30分後において、Cell counting kit-8(同仁化学研究所社製)を用いて細胞生存度(代謝活性による細胞生存率)を算出して評価した。
【0064】
死細胞染色による評価
ブルーライト照射時間を50分とし、ブルーライト照射試験における細胞生存度(細胞生存率)の評価方法を死細胞染色による方法(Cellstrain-Hoechst 33342 solution(同仁化学社製)により全細胞を染色し、Cellstrain-PI solution(同仁化学研究所社製)により死細胞を染色し、それぞれの細胞数から細胞生存率を算出した。)とした以外は、実施例2に記載した方法と同じ方法を用いた。
【0065】
<結果>
細胞生存度(代謝活性による細胞生存率)を評価した結果を
図2Aに、細胞生存度(死細胞染色による評価方法)を評価した測定結果を
図2Bに示した。ブルーライトを照射することによってヒト網膜色素上皮細胞の細胞死が誘導されること、及びKW3110株での刺激をしたヒトM2マクロファージ培養上清存在下においてはブルーライト照射条件においても細胞生存率の低下が認められないことがわかった。以上から、KW3110株で刺激したヒトM2マクロファージ培養上清にはブルーライト照射による網膜色素上皮細胞の細胞死を抑制する効果があることが明らかになった。
【0066】
[実施例4]ヒト網膜色素上皮細胞に対するKW3110以外の乳酸菌刺激によるヒトM2マクロファージ細胞(macrophage cell)の培養上清のブルーライト照射に対する細胞死抑制効果の評価
ラクトバチラス・パラカゼイに属する4株(JCM1161, JCM1172, ATCC25302, ATCC25303)で刺激したヒトmDCの培養上清がブルーライト照射によるヒト網膜色素上皮細胞の細胞死を抑制出来るか検証した。
【0067】
<実験方法>
代謝活性による評価方法(ブルーライト照射時間30分、Cell counting kit-8(上記に同じ)、及び死細胞染色による評価方法(ブルーライト照射時間50分、Cellstain- Hoechst 33342 solution、Cellstain- PI solution:上記に同じ)により細胞生存度(細胞生存率)を測定した。
【0068】
<結果>
細胞生存度を評価した測定結果を
図3A(代謝活性による細胞生存率)及び
図3B(死細胞染色による細胞生存率評価方法)に示す。ラクトバチラス・パラカゼイに属する4株の培養上清においても細胞死抑制効果が確認された。
【0069】
<結論>
実施例2、3及び4より、ラクトバチラス・パラカゼイに属する5株で刺激したヒト免疫細胞(mDC、もしくはマクロファージ細胞)の培養上清にはブルーライト照射による網膜色素上皮細胞の細胞死を抑制する効果があることが明らかになった。このことから、ラクトバチラス・パラカゼイに属する株はいずれも当該効果を有する可能性が示された。
【0070】
[実施例5]ブルーライト照射動物モデルにおけるKW3110株摂取の効果
本発明で規定される乳酸菌は健常人はもとより、特にパソコンやスマートフォンなどのモニター作業を長時間行う人での摂取が想定されるため、ブルーライト照射動物モデルでのKW3110株の摂取効果を検討した。
【0071】
<実験方法>
BALB/cマウス(5週齢・雄、日本チャールスリバー株式会社から購入)を、1群6匹で、ブルーライト非照射の標準食群(AIN93G:オリエンタル酵母工業社製)(no light CTL)、ブルーライト非照射のKW3110株混餌(標準食飼料1 kg中に乾燥重量として250 mgのKW3110株(実施例1で調製したもの)を含む)摂取群(no light KW)、ブルーライト照射の標準食群(AIN93G:オリエンタル酵母工業社製)(light CTL)、ブルーライト照射のKW3110株混餌摂取群(light KW)の4群に分け、所定の飼料を自由摂食させた。各群の処置は表1に示すとおりである。表1中の矢印はその日に処置を行ったことを示す。
【0072】
KW3110株摂取期間は2週間で1日当たりのKW3110株摂取量は約1mgであった。KW3110株投与開始時をday-14とし、day0、1、2にブルーライト(470 nm、3000 lux、3時間)を照射した。なお、ブルーライト照射は、光源を飼育ケージの相対する横壁2か所に設置し、床中央部での照度測定値が3000luxとなるように調整して行っている。
【0073】
Day3に解剖を行い、網膜切片を作製しヘマトキシリン・エオジン染色後、網膜外顆粒層の厚さを測定した。網膜外顆粒層を視神経乳頭からの距離を指標に領域を分割し、各領域において7箇所の異なる位置の長さを測定し、平均値を当該領域における外顆粒層の厚さとした。各個体の同領域における厚さを用いて群間評価を行った。なお、検定はt検定で行い、
図4中の**は危険率P<0.01である。
【0074】
【表1】
【0075】
<結果>
図4にブルーライト照射モデルを用いて測定した網膜外顆粒層の厚さ(網膜厚)を示す。ブルーライト非照射条件においては、標準食群(no light CTL)とKW3110株摂取群(no light KW)間で網膜厚に差は認められなかった。ブルーライト照射の標準食群(light CTL)においては、ブルーライト非照射の標準食群(no light CTL)と比較して有意な網膜厚の減少が認められた。ブルーライト照射によって網膜の細胞死が引き起こされた結果と考えられた。一方興味深いことに、ブルーライト照射のKW3110株摂取群(light KW)においては、ブルーライト照射の標準食群(light CTL)と比較して有意に網膜厚が厚く維持された。この結果から、KW3110株は摂取することにより、パソコンやスマートフォンから発せられるブルーライトによる網膜細胞死に対して拮抗的に働き、過度のパソコンなどVDT(Visual Display Terminal)作業に伴って起こる網膜損傷予防に大きく寄与することが示唆された。
【0076】
[実施例6]通常可視光下飼育動物モデルにおけるKW3110株摂取の効果
本発明で規定される乳酸菌は通常可視光下での視機能保護効果も期待できるため検討した。
【0077】
<実験方法>
BALB/cマウス(5週齢・雄、日本チャールスリバー株式会社から購入)を、1群4匹で、標準食群(AIN93G:オリエンタル酵母工業社製)(CTL)、KW3110株混餌(標準食飼料1 kg中に乾燥重量として250 mgのKW3110株(実施例1で調製したもの)を含む)摂取群(KW)の2群に分け、可視光を含む通常光の下で、所定の飼料を自由摂食させた。
【0078】
KW3110株摂取期間は3週間で1日当たりのKW3110株摂取量は約1mgであった。摂取開始から20日後からの1日は暗順応条件で飼育し、暗順応後に3段階の光強度においてERG(網膜電図)を測定した。なお、群間差の検定はt検定で行い、
図5中の*は危険率P<0.05である。
【0079】
<結果>
図5にphotonic b-waveの測定結果を示す。興味深いことに、標準食群(CTL)と比較して、KW3110株摂取群(KW)においては、photonic b-waveの測定値が有意に高値であった。この結果から、KW3110株は摂取することにより、日常の光刺激による視機能低下の予防に寄与することが示唆された。
【0080】
[実施例7]ブルーライト暴露時のヒトにおけるKW3110の視機能改善効果及び眼精疲労改善効果
<試験方法>
本試験は社外倫理委員会で検討承認のうえ、第三者機関において実施した。試験は、プラセボを対照とした無作為化二重盲検並行群間比較試験とした。具体的には、VDT作業を1日6時間以上、かつ1年以上実施しており、眼精疲労を自覚している35歳以上45歳未満の健康で慢性疾患のない男女に被験食品(KW3110含有カプセル)又は対照食品(KW3110非含有カプセル)を摂取させ、KW3110の視機能改善効果及び眼精疲労改善についての効果を確認した。
【0081】
(1)被験者
事前検査において医師から健常と判断された者を、両群の男女の人数が同じになるように被験食品群(A群)と対照食品群(P群)に無作為に割付けた。
被験者には試験期間前と同様の生活を継続させた。すなわち、基本的には1日6時間以上のVDT作業を継続的に実施させた。
【0082】
(2)介入
摂取期間中、被験者には割付けられた試験食品(カプセル)を1日1回水又はぬるま湯とともに毎日摂取させた。試験食品の摂取期間は8週間とした。
試験食品は以下のとおりである。
(A) 被験食品:KW3110含有カプセル(カプセル1個にKW3110加熱死菌体50 mg、約5×10
10個を含む)。なお、KW3110加熱死菌体は常法に従い製造した。
(B) 対照食品:KW3110非含有カプセル(KW3110加熱死菌体50 mgに代えてコーンスターチ50mgを含む)
【0083】
(3)測定
(A) 測定項目
(i) 眼精疲労度(フリッカーテスト)
(ii) 眼精疲労アンケート
(iii) 目の症状と日常生活についての質問票
(B) 測定時期
(i)(ii)は、試験食品摂取開始前、摂取開始後4週時、8週時の来院時にVDT負荷試験を行い、その前後に各1回(合計2回)測定した(表2)。また、(iii)は、試験食品摂取開始前、摂取開始後4週時、8週時のVDT負荷試験前に各1回測定した。
【0084】
【表2】
【0085】
VDT作業負荷は次のように実施した。すなわち、VDT作業は、iPad mini(登録商標、Apple Inc.)上でゲームアプリ(ウォーリーハリウッドへいく)を使ったゲームの実施であり、本作業は画面を眼から45cm以内の位置に固定できるようiPad miniに紐輪をつけ、紐輪を被験者の首にかけた状態で行わせた。
【0086】
(C) 測定方法
(i)フリッカーテスト
ハンディフリッカーHFII(登録商標、株式会社ナイツ)を用い両眼・上昇法で3回ずつ測定しその平均値を測定値とした。
【0087】
(ii)眼精疲労アンケート
眼精疲労アンケートはVAS法により測定した。すなわち、被験者の眼等の状態についての質問に対しの回答時点での状態の程度を、左端を「全く感じない」、右端を「今まで経験したか、又は想像しうる最悪の状態」とした100 mmスケール直線のどのあたりに当たるか、被験者自身にマークさせた。マーク位置について100mmスケール直線左端からの距離を測定し、測定値とした(VAS法)。質問は以下のとおりである。
【0088】
眼精疲労アンケートの質問
「眼がかすむ」、「肩・腰がこる」、「眼が疲れる」「頭が重い」
【0089】
(iii)目の症状と日常生活についての質問票(Dry Eye related Quality of life Score (DEQS)Y. Sakane et al., JAMA, Ophthalmol. 2013, 131(10), 1331-1338)
各質問に対し回答時までの過去1週間の目の症状、日常生活への影響に関する16問の質問への回答点数を被験者自身に選択・記入させ、スコアから目の症状スコア(問1〜6)、日常生活への影響スコア(問7〜15)、総合的なQOLスコア(問1〜15)を算出し、また、サマリースコアとして問16を求めた。質問は以下のとおりである。
【0090】
目の症状と日常生活についての質問票の質問
「1)目がゴロゴロする(異物感)」、「2)目が乾く」、「3)目が痛い」、「4)目が疲れる」、「5)まぶたが重たい」、「6)目が赤くなる」、「7)目を開けているのがつらい」、「8)目を使っていると物がかすんで見える」、「9)光をまぶしく感じる」、「10)新聞、雑誌、本などを読んでいる時、目の症状が悪くなる」、「11)テレビを見ている時、パソコン・ケータイを使っている時に目の症状が悪くなる」、「12)目の症状のため集中力が低下する」、「13)目の症状のため仕事・家事・勉強に差し障りがある」、「14)目の症状のため外出を控えがち」、「15)目の症状のため気分が晴れない」「16)目の症状やそれに伴う日常生活の困りごとを含めた全般的な状態」
【0091】
(4)評価、解析
解析対象者全員を対象とした解析(全体解析)と、眼の疲労度の比較的大きい者のみを対象とした解析(層別解析)を行った。
【0092】
(A) 数値の評価方法
(i)フリッカーテスト、眼精疲労アンケート
各測定時点におけるVDT作業負荷前の測定値、VDT作業負荷後の測定値及びVDT作業負荷前後の測定値の差(作業負荷後の測定値から作業負荷後の測定値を減じた値)をそれぞれ「VDT作業負荷前の実測値」、「VDT作業負荷後の実測値」及び「VDT作業負荷前後の差の実測値」として得、摂取開始後各時点の実測値から、対応する摂取開始前の実測値を減じた値をそれぞれ摂取開始後各時点における「VDT作業負荷前の変化量」、「VDT作業負荷後の変化量」及び「VDT作業負荷前後の差の変化量」とした。両群の実測値及び変化量についてはHolmの方法で時点の多重性を考慮したうえで2標本t検定を用いて評価した。また、各群について、摂取開始後各時点の「VDT作業負荷前の実測値」、「VDT作業負荷後の実測値」及び「VDT作業負荷前後の差の実測値」を摂取開始前の値に対する1標本t検定を用いて評価した。
【0093】
(ii)目の症状と日常生活についての質問票
目の症状と日常生活についての質問票(DEQS)から得たスコアについて、摂取開始後各測定時点におけるVDT作業負荷前測定値である「実測値」を求め、その値から摂取開始前のVDT作業負荷前測定値である「実測値」を減じた「変化量」を求めた。「実測値」と「変化量」はそれぞれHolmの方法で測定時点の多重性を考慮したうえでMann-WhitneyのU検定を用いて両群を比較した。また、各群について、摂取開始後各時点の実測値を1標本Wilcoxon検定を用いて評価した。
【0094】
(B) 層別解析の方法
(i)眼精疲労アンケート「眼が疲れる」のVDT作業前実測値が被験者平均以上であった者(試験食品摂取開始前のVDT作業負荷前の実測値が被験者平均30.5 mm以上であった者25名)の層別解析
【0095】
本試験は、VDT作業による眼の疲れを被験食品が改善しうることの確認を目的に眼の疲れの自覚のある者を対象としている。そこで、被験者の中で比較的眼の疲れを強く自覚している被験者として眼精疲労アンケート「眼が疲れる」において試験食品摂取開始前におけるVDT作業負荷前の実測値が解析対象者59名の平均以上であった者25名を抽出して層別解析を行った。
【0096】
i)VDT作業負荷による即時疲労軽減効果(疲労防止効果)の評価
フリッカー値は眼の疲労や視機能の評価に用いられ数値の低下が疲労や視機能低下を反映するとされ、VDT作業により低下することが知られている(岩崎常人,眼科(2009)51(4),387-395)。VDT作業負荷による即時疲労軽減効果(疲労防止効果)として、フリッカー値についてVDT作業負荷前後の差の実測値及び試験食品摂取開始前からの変化量を検討した。
【0097】
ii)試験期間中の肩・腰症状の評価
肩や腰のこりはVDT作業による眼精疲労の主な症状として知られていることから(産業医学 (1986) 28, 87-95)、試験期間中の肩・腰症状の軽減効果(VDT作業による影響の軽減又は防止効果)を見るために、眼精疲労アンケート「肩・腰がこる」についてVDT作業負荷前の実測値及び試験食品摂取開始前からの変化量を検討した。
【0098】
(ii)眼精疲労アンケート「眼が疲れる」のVDT作業後実測値が被験者平均以上であった者(試験食品摂取開始前のVDT作業負荷後の実測値が被験者平均55.3 mm以上であった者32名)の層別解析
VDT作業後の眼の疲れを比較的強く自覚している被験者として眼精疲労アンケート「眼が疲れる」において試験食品摂取開始前におけるVDT作業負荷後の実測値が解析対象者59名の平均以上であった者32名を抽出して層別解析を行った。
【0099】
(iii)眼精疲労アンケート「肩・腰がこる」のVDT作業前実測値が被験者平均以上であった者(試験食品摂取開始前のVDT作業負荷前の実測値が被験者平均36.1 mm以上であった者29名)の層別解析
被験者の中で比較的眼の疲れを強く自覚している被験者として眼精疲労アンケート「肩・腰がこる」において試験食品摂取開始前におけるVDT作業負荷前の実測値が解析対象者59名の平均以上であった者29名を抽出して層別解析を行った。
【0100】
<結果>
(1)被験者
A群、P群とも31名が割付けられ、そのうち解析対象者はA群が28名、P群が31名であり、解析対象者の年齢はそれぞれ40.3±2.7歳、40.6±2.8歳(平均値±標準偏差)であった。被験者内訳を表3に示す。
【0101】
【表3】
【0102】
(2)測定結果
(A) 全体解析
(i)フリッカーテスト
結果を表4に示す。A群とP群でフリッカー値に有意差は認められなかった。しかし、A群において試験食品摂取開始前におけるVDT作業負荷前後の差の実測値(VDT作業負荷後の測定値から作業負荷前の測定値を減じた値)よりも、試験食品摂取開始後のそれの方が大きく、試験食品摂取開始4週後時点においてその差は有意であった(p=0.013vs試験食品摂取開始前)。このことから被験食品の摂取によりVDT作業による眼の疲労が軽減される可能性が示された。
【0103】
【表4】
【0104】
(ii)眼精疲労アンケート
眼精疲労アンケートの結果を表5に示す。A群とP群で有意差は認められなかった。しかし、「眼がかすむ」について、両群においてVDT作業負荷前、後、前後の差の実測値は、試験食品摂取開始前の実測値に比して低下する傾向が認められ、その傾向はA群の方が大きく、VDT作業負荷前においてA群の低下傾向は有意なものであった(試験開始8週後、p=0.044vs試験食品摂取開始前)。
【0105】
また、「肩・腰がこる」について、VDT作業負荷前、後の実測値は、試験食品摂取開始前の実測値に比して低下する傾向が認められ、その傾向はA群の方が大きく、VDT作業負荷前、後においてA群の低下傾向は有意なものであった(試験開始4週後及び8週後vs試験食品摂取開始前)。
【0106】
さらに、「眼が疲れる」、「頭が重い」についてもVDT作業負荷前、後の実測値は、試験食品摂取開始前の実測値に比して低下する傾向が認められた。
【0107】
以上より、被験食品の摂取によりVDT作業による眼等の症状が緩和される可能性が示唆された。
【表5】
【0108】
(iii)目の症状と日常生活についての質問票
目の症状と日常生活についての質問票の結果を表6に示す。実測値は、両群において試験食品摂取開始前の実測値に比して低下する傾向が認められ、その傾向はA群の方が大きかった。日常生活への影響スコアは、試験食品摂取開始後8週時の変化量(8週後時点の実測値から試験食品摂取開始前の実測値を減じたもの)について両群で差が見られた(p=0.027;但し、多重性検定により有意な差とは評価されず)。したがって、被験食品の摂取は、VDT作業負荷による日常生活への影響を緩和する可能性が示された。
【0109】
【表6】
【0110】
(B) 層別解析
(i)眼精疲労アンケート「眼が疲れる」のVDT作業前実測値が被験者平均以上であった者(試験食品摂取開始前のVDT作業負荷前の実測値が被験者平均30.5 mm以上であった者25名。A群13名、P群12名)の層別解析
VDT作業負荷による即時疲労軽減効果(疲労防止効果)の結果と試験期間中の肩・腰症状の結果を表7に示す。試験食品の摂取期間中、A群において、フリッカー値の作業負荷前後の差の実測値(VDT作業負荷後の測定値から作業負荷前の測定値を減じた値)は、摂取開始前のそれよりも大きく、同時点のP群のそれよりも大きかった。そして、変化量について摂取開始4週後時点での両群の差は有意であった。このことから、被験食品の摂取期間においてはVDT作業負荷による即時的な眼の疲労が軽減される(防止される)可能性が示された。
【0111】
試験食品の摂取期間中、A群のVDT作業前の肩・腰のこりの自覚症状の実測値は、摂取開始前のそれよりも小さく、同時点のP群のそれよりも小さかった。そして、変化量について摂取開始8週後時点で両群の差は有意なものであった。このことから、被験食品摂取期間ではVDT作業負荷に起因する肩・腰のこりが軽減されている(防止されている)可能性が示された。
【0112】
【表7】
【0113】
(ii)眼精疲労アンケート「眼が疲れる」のVDT作業後実測値が被験者平均以上であった者(試験食品摂取開始前のVDT作業負荷後の実測値が被験者平均55.3 mm以上であった者32名。A群15名、P群17名)の層別解析
VDT作業負荷による即時疲労軽減効果(疲労防止効果)の結果と試験期間中の肩・腰症状の結果を表8に示す。試験食品の摂取期間中、A群において、フリッカー値の作業負荷前後の差の実測値(VDT作業負荷後の測定値から作業負荷前の測定値を減じた値)は、摂取開始前のそれよりも大きく、同時点のP群のそれよりも大きかった。そして、変化量について摂取開始4週後時点での両群の差は有意であった。このことから、被験食品の摂取期間においてはVDT作業負荷による即時的な眼の疲労が軽減される(防止される)可能性が示された。
【0114】
試験食品の摂取期間中、A群のVDT作業前の肩・腰のこりの自覚症状の実測値は、摂取開始前のそれよりも小さかった。変化量もA群の方がP群と比べて大きかった。このことから、作業負荷後に眼の疲れを比較的強く感じる者にはとくに、被験食品摂取期間ではVDT作業負荷に起因する肩・腰のこりが軽減されている(防止されている)可能性が示された。
【0115】
【表8】
【0116】
(iii)眼精疲労アンケート「肩・腰がこる」のVDT作業前実測値が被験者平均以上であった者(試験食品摂取開始前のVDT作業負荷前の実測値が被験者平均36.1 mm以上であった者29名)
試験期間中のフリッカー値の結果を表9に示す。試験食品の摂取期間中、A群において、フリッカー値の作業負荷前後の差の実測値(VDT作業負荷後の測定値から作業負荷前の測定値を減じた値)は、摂取開始前のそれよりも大きく、同時点のP群のそれよりも大きかった。そして、変化量について摂取開始4週後時点での両群の差は有意であった。このことから、被験食品の摂取期間においてはVDT作業負荷による即時的な眼の疲労が軽減される(防止される)可能性が示された。
【0117】
【表9】
【0118】
<結論>
被験食品を摂取することにより、被験者の中で比較的眼の疲れを強く自覚している者(特に、VDT作業に伴う眼の疲れを比較的強く自覚している者)で、負荷前後のフリッカー値の低下抑制、負荷前の肩・腰のこりの自覚症状が改善したことから、被験食品摂取は眼精疲労に対する効果を有することが示された。