特許第6640803号(P6640803)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6640803
(24)【登録日】2020年1月7日
(45)【発行日】2020年2月5日
(54)【発明の名称】眼疲労の抑制又は改善用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/747 20150101AFI20200127BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20200127BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20200127BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20200127BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20200127BHJP
【FI】
   A61K35/747
   A61K35/74 A
   A61P27/02
   A23L33/135
   C12N1/20 E
【請求項の数】16
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2017-172620(P2017-172620)
(22)【出願日】2017年9月8日
(65)【公開番号】特開2018-43986(P2018-43986A)
(43)【公開日】2018年3月22日
【審査請求日】2019年7月16日
(31)【優先権主張番号】特願2016-177039(P2016-177039)
(32)【優先日】2016年9月9日
(33)【優先権主張国】JP
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-08634
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】594197388
【氏名又は名称】小岩井乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100155631
【弁理士】
【氏名又は名称】榎 保孝
(74)【代理人】
【識別番号】100137497
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 未知子
(72)【発明者】
【氏名】栗原 俊英
(72)【発明者】
【氏名】森田 悠治
(72)【発明者】
【氏名】城内 健太
(72)【発明者】
【氏名】藤原 大介
【審査官】 佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/132982(WO,A1)
【文献】 国際公開第2004/096246(WO,A1)
【文献】 眼の疲れ 〜眼が疲れていませんか?〜, すずらん食通信, 平成24年7月号, No.189,[retrieved on 2017.09.28], retrieved from the internet,URL,URL:http://horon-suzuran.co.jp/wp-content/themes/horon-suzuran/old/docs/NO.189.pdf
【文献】 治らない目の疲れ・・「眼精疲労」とは, 眼精疲労の症状と原因, ヘルスケア大学,2014.07.01, [retrieved on 2017.09.28], retrieved from the internet,URL,URL:http://www.skincare-univ.com/article/004789/
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00−35/768
C12N 1/00− 7/08
A23L 33/00−33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
日経テレコン
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチラス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)を有効成分として含んでなる、眼疲労の抑制又は改善に用いるための組成物。
【請求項2】
前記眼疲労が、眼精疲労である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記眼疲労が、光刺激により誘発されるものである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
ラクトバチラス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)を有効成分として含んでなる、光障害による網膜炎症に起因する状態の抑制又は改善に用いるための組成物。
【請求項5】
前記光障害による網膜炎症に起因する状態が、網膜厚の減少である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記光障害による網膜炎症に起因する状態が、眼の不快な状態である、請求項4に記載の組成物。
【請求項7】
前記眼の不快な状態が、客観的若しくは自覚的に目が疲れた状態、又は目が乾くという状態である、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記光障害による網膜炎症に起因する状態が、肩又は腰のこり、或いは頭重感である、請求項6に記載の組成物。
【請求項9】
ラクトバチラス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)を有効成分として含んでなる、網膜色素上皮細胞の細胞死若しくは網膜厚の減少の抑制又は可視光における視機能の保護に用いるための組成物。
【請求項10】
前記網膜色素上皮細胞の細胞死又は網膜厚の減少が光刺激により誘発されるものである、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記光刺激及び光障害の光が、波長380nm〜530nmの光である、請求項3〜8及び10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記ラクトバチラス・パラカゼイが、ラクトバチラス・パラカゼイKW3110株(FERM BP-08634)である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
食品の形態である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
サプリメントの形態である、請求項1〜13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
眼の疲れを自覚している者に摂取させるための、請求項13または14に記載の組成物。
【請求項16】
眼の疲れの自覚が、VAS法を使用して回答を評価する眼精疲労アンケートにより評価するものであり、
(ア)前記眼精疲労アンケートが、眼等の状態についての質問に対する被験者の回答時点での状態の程度を、左端を「全く感じない」、右端を「今まで経験したか、又は想像しうる最悪の状態」とした100mmのスケール直線のどのあたりに当たるかを、被験者自身にマークさせて評価するVAS法を使用して評価するものであり、
(イ)前記眼精疲労アンケートの質問が「眼が疲れる」を含むものであり、かつ、
(ウ)「眼が疲れる」の回答をスケールの左端から30.5mm以上の位置にマークする者を眼の疲れを自覚している者と評価する、
請求項15に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼疲労の抑制又は改善用組成物に関する。本発明はまた、光障害による網膜損傷や網膜障害を抑制するための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
LEDライトやパソコン、スマートフォンの普及に伴ってVDT(Visual Display Terminal)作業は日常生活において必要不可欠になっているが、VDT作業時の眼の酷使、及びブルーライトによる眼の障害の可能性が指摘されている(非特許文献1、2)。すなわち視機能の維持、改善は、若年層から老年層まで幅広い世代で求められている。
【0003】
ブルーライトなどの光障害による網膜障害の要因の1つとして酸化ストレスが報告されており、視機能を維持する物質として抗酸化物質の探索、開発が行われている。例えば視機能の1つであるコントラスト改善に効果がある抗酸化物質としてルテインなどが報告されているが(特許文献1)、これらは溶解性等の課題によって飲食品への応用が限定されており、日常的に簡単に摂取出来る物質が求められている。
【0004】
また一方で、光障害による網膜障害は広義の炎症であることも認知されてきている(非特許文献3)。炎症を調節することが出来れば網膜障害に起因する視機能低下を抑制出来る可能性があるが、これまでに当該作用による視機能低下抑制の報告例は少ない。
【0005】
乳酸菌などのプロバイオティクスが例えば抗炎症作用、抗アレルギー作用、抗感染症作用、免疫賦活作用などの免疫調節作用を有することが報告されている(例えば、非特許文献4)。例えば、アレルギーの治療等に有用な乳酸菌として、Lactobacillus paracasei KW3110株が報告されていた(特許文献2等)。一方で、近年社会問題となっているブルーライトによる網膜障害や視機能低下の改善に寄与する乳酸菌の報告は存在しない。
【0006】
視機能を維持、改善する成分を、日常的に摂取し得る食品中に特定することができれば、幅広い世代において有用なものとなる。特に広く摂取されている乳酸菌の中で視機能を維持、改善する菌を特定することが出来れば、当該乳酸菌を飲食品として利用することにより、若年層から老年層まで幅広い層で利用可能な製品を開発することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2013−501706号公報
【特許文献2】特開2005−137357号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】坪田一男(2013)眼科、第55巻第7号、761-762頁
【非特許文献2】坪田一男(2013)眼科、第55巻第7号、763-767頁
【非特許文献3】鈴木三保子(2013)眼科、第55巻第7号、769-772頁
【非特許文献4】Yan, F., Curr. Opin. Gastroenterol, 27, 496-501, (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、いわゆるブルーライト等の光の暴露に起因する視機能の障害を防止する組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、乳酸菌の視機能への効果について検討を行った。ヒトミエロイド樹状細胞(mDC)を乳酸菌ラクトバチラス・パラカゼイKW3110株の存在下で培養したところ、mDCの培養上清がブルーライト照射後の網膜色素上皮細胞の細胞死を抑制することを見出した。さらに、マウスにブルーライトを照射した場合、光障害により網膜外顆粒層の厚さが低下するが、マウスに乳酸菌ラクトバチラス・パラカゼイKW3110株を摂取させた場合は、ブルーライトを照射しても網膜外顆粒層の厚さが維持されることを見出した。これらの結果より、乳酸菌を含む組成物を経口摂取することにより視機能低下を抑制することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]乳酸菌を有効成分として含んでなる、眼疲労の抑制又は改善に用いるための組成物及び眼疲労の抑制又は改善剤。
[2]前記眼疲労が、眼精疲労である、上記[1]に記載の組成物及び用剤。
[3]前記眼疲労が、光刺激により誘発されるものである、上記[1]又は[2]に記載の組成物及び用剤。
[4]乳酸菌を有効成分として含んでなる、光障害による網膜炎症に起因する状態の抑制又は改善に用いるための組成物及び光障害による網膜炎症に起因する状態の抑制又は改善剤。
[5]前記光障害による網膜炎症に起因する状態が、網膜厚の減少である、上記[4]に記載の組成物及び用剤。
[6]前記光障害による網膜炎症に起因する状態が、眼の不快な状態である、上記[4]に記載の組成物及び用剤。
[7]前記眼の不快な状態が、客観的若しくは自覚的に目が疲れた状態、又は目が乾くという状態である、上記[6]に記載の組成物及び用剤。
[8]前記光障害による網膜炎症に起因する状態が、肩又は腰のこり、或いは頭重感である、上記[6]に記載の組成物及び用剤。
[9]乳酸菌を有効成分として含んでなる、網膜色素上皮細胞の細胞死若しくは網膜厚の減少の抑制又は可視光における視機能の保護に用いるための組成物並びに網膜色素上皮細胞の細胞死若しくは網膜厚の減少の抑制剤及び可視光における視機能の保護剤。
[10]前記網膜色素上皮細胞の細胞死又は網膜厚の減少が光刺激により誘発されるものである、上記[9]に記載の組成物及び用剤。
[11]前記光刺激及び光障害の光が、波長380nm〜530nmの光である、上記[3]〜[8]及び10のいずれかに記載の組成物及び用剤。
[12]前記乳酸菌が、ラクトバチラス属に属するものである、上記[1]〜[11]のいずれかに記載の組成物及び用剤。
[13]前記乳酸菌が、ラクトバチラス・パラカゼイである、上記[1]〜[12]のいずれかに記載の組成物及び用剤。
[14]前記乳酸菌が、ラクトバチラス・パラカゼイKW3110株である、上記[1]〜[13]のいずれかに記載の組成物及び用剤。
[15]食品の形態である、上記[1]〜[14]のいずれかに記載の組成物及び用剤。
[16]サプリメントの形態である、上記[1]〜[15]のいずれかに記載の組成物及び用剤。
[17]有効量の乳酸菌を、ヒトを含む哺乳動物に摂取させるか、或いは投与することを含んでなる、眼疲労の抑制又は改善方法、光障害による網膜炎症に起因する状態の抑制又は改善方法、網膜色素上皮細胞の細胞死又は網膜厚の減少の抑制方法、及び可視光における視機能の保護方法。
[18]眼疲労の抑制又は改善剤の製造のための、光障害による網膜炎症に起因する状態の抑制又は改善剤の製造のための、或いは、網膜色素上皮細胞の細胞死又は網膜厚の減少の抑制剤或いは可視光における視機能の保護剤の製造のための、乳酸菌の使用。
[19]眼疲労の抑制又は改善剤としての、光障害による網膜炎症に起因する状態の抑制又は改善剤としての、或いは、網膜色素上皮細胞の細胞死又は網膜厚の減少の抑制剤或いは可視光における視機能の保護剤としての、乳酸菌の使用。
[20]眼疲労の抑制又は改善に用いるための、光障害による網膜炎症に起因する状態の抑制又は改善に用いるための、網膜色素上皮細胞の細胞死又は網膜厚の減少の抑制に用いるための、或いは、可視光における視機能の保護に用いるための乳酸菌。
【0012】
本明細書において、上記[1]、[4]及び[9]の組成物を「本発明の組成物」ということがある。また、本明細書において、上記[1]、[4]及び[9]の用剤を「本発明の用剤」ということがある。
【0013】
本発明の組成物及び用剤は、ブルーライト等の光の暴露に起因する視機能の障害を防止することができ、光障害による網膜炎症に起因する状態を抑制又は改善することができる。一方で、乳酸菌は古くからヨーグルトなどとともに安全に食されてきたから、本発明の組成物及び用剤は、安全であり、長期間摂取しても弊害が起こりにくい。従って、乳幼児、老齢者、病弱者、病後の人等も日常的にかつ継続的に摂取しうる飲食品として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1A】ヒト網膜色素上皮細胞に対するラクトバチラス・パラカゼイKW3110刺激によるヒトmDC(ミエロイド樹状細胞)の培養上清のブルーライト照射に対する細胞死抑制効果(代謝活性による評価)を示す図である。
図1B】ヒト網膜色素上皮細胞に対しブルーライトを照射したときのラクトバチラス・パラカゼイの直接の影響(代謝活性による評価)を確認する図である。
図2A】ヒト網膜色素上皮細胞に対するラクトバチラス・パラカゼイKW3110刺激によるヒトM2(マクロファージ細胞)の培養上清のブルーライト照射に対する細胞死抑制効果(代謝活性による評価)を示す図である。
図2B】ヒト網膜色素上皮細胞に対するラクトバチラス・パラカゼイKW3110刺激によるヒトM2マクロファージ細胞の培養上清のブルーライト照射に対する細胞死抑制効果(死細胞染色による評価)を示す図である。
図3A】ヒト網膜色素上皮細胞に対するラクトバチラス・パラカゼイに属する4株(JCM1161, JCM1172, ATCC25302, ATCC25303)で刺激によるヒトM2マクロファージ細胞の培養上清のブルーライト照射に対する細胞死抑制効果(代謝活性による評価)を示す図である。
図3B】ヒト網膜色素上皮細胞に対するラクトバチラス・パラカゼイに属する4株(JCM1161, JCM1172, ATCC25302, ATCC25303)で刺激によるヒトM2マクロファージ細胞の培養上清のブルーライト照射に対する細胞死抑制効果(死細胞染色による評価)を示す図である。
図4】ブルーライト照射動物モデルを用いて測定した網膜外顆粒層の厚さ(網膜厚)を示す図である。
図5】通常可視光下において飼育動物モデルを用いて測定した明順応下網膜電図b波(photonic b-wave)の振幅値を示す図である。3通りの可視光強度(luminous intensity)についての試験結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の第一の面によれば、乳酸菌を有効成分として含んでなる、光障害による網膜炎症に起因する状態の抑制又は改善に用いるための組成物及び用剤が提供される。
【0016】
本発明において「光障害による網膜炎症」とは、光を浴びることにより生じた障害に起因する網膜の炎症をいうが、特に、特定の波長の光を網膜に浴びることに起因する網膜の炎症をいう。特定の波長の光とは、波長が10〜830nmの光をいい、特には、いわゆるブルーライトをいう。ブルーライトは、波長が380〜530nmである光、特には波長が380〜495nmである光であって、主にパソコンやスマートフォンなどのIT機器などから発せられる光をいう。
【0017】
本発明において「光障害による網膜炎症に起因する状態」は、種々の疾患に罹患した状態、あるいは疾患とは言えないが眼(目)の不快な状態を含む。本発明において「眼」と「目」は同義語であり、本発明において「眼」という語の代りに「目」という語を用いることができる。
【0018】
ここで、「眼の不快な状態」には、客観的又は自覚的に目が疲れた状態や目が乾くという状態が含まれる。さらに具体的に言えば、これらの状態は、客観的に時として屈折力、視力、フリッカー値(疲労)、調節力(ピント)、涙量、コントラスト感度などの数値として現れる場合がある。また自覚的には、目が疲れた状態では、眼についての感覚のみならず眼以外の部位についての感覚を伴うことがあり、例えば、眼が痛む、眼がかすむ、涙が出る、肩・腰がこる、眼が疲れる、ものがちらついて見える、ものが二重に見える、いらいらする、頭が重い(頭重感)、頭が痛い、目がゴロゴロする(異物感)、まぶたが重い、目が赤くなる、目を開けているのがつらい、目を使っていると物がかすんで見える、光をまぶしく感じる、新聞・雑誌・本などを読んでいる時に目の症状が悪くなる、目の症状のため集中力が低下する、目の症状のため仕事・家事・勉強に差し障りがある、目の症状のため外出を控えがち、目の症状のため気分がすぐれないなどの感覚を伴うことがある。目が乾く状態では、眼についての感覚のみならず眼以外の部位についての感覚を伴うことがあり、例えば、目がゴロゴロする(異物感)、目が乾く、目が痛い、目が疲れる、まぶたが重い、目が赤くなる、目を開けているのがつらい、目を使っていると物がかすんで見える、光をまぶしく感じる、新聞・雑誌・本などを読んでいる時に目の症状が悪くなる、目の症状のため集中力が低下する、目の症状のため仕事・家事・勉強に差し障りがある、目の症状のため外出を控えがち、目の症状のため気分がすぐれないなどの感覚を伴うことがある。
【0019】
光障害による網膜炎症に起因する定量可能な状態として、網膜の色素上皮細胞の死及び網膜の外顆粒層の厚さの減少が挙げられる。
【0020】
本発明において「光障害による網膜炎症に起因する状態の抑制」は、該状態の悪化や該状態の発現を抑制することを意味し、該状態の防止や予防を含む意味で用いられる。本発明において「光障害による網膜炎症に起因する状態の改善」は、該状態の緩和や該状態からの回復を含む意味で用いられる。
【0021】
本発明の第二の面によれば、乳酸菌を有効成分として含んでなる、眼疲労の抑制又は改善に用いるための組成物及び用剤が提供される。
【0022】
本発明において「眼疲労」は、外来からの刺激により誘発される眼疲労を意味する。眼疲労の状態としては、例えば、前述したような眼の不快な状態として例示された状態(特に、眼の疲れ、眼のかすみ、肩又は腰のこり、頭重感)が挙げられる。また、「眼疲労」の典型例としては、VDT作業による眼疲労が挙げられる。「眼疲労」は、単純な眼の疲労感である生理的眼疲労と、不快な疲労感として自覚され、休息によっても十分な回復が得られない病的眼疲労とが含まれる。なお、病的眼疲労を臨床的に眼精疲労とすることがあるが、一般的には眼疲労は眼精疲労と同義に用いられている(南山堂医学大辞典(株式会社南山堂)参照)。従って、本発明においては「眼疲労」は「眼精疲労」を含む意味で用いられるものとする。
【0023】
眼疲労を誘発する外来からの刺激としては、光刺激が挙げられ、前述したような網膜炎症を引き起こす光障害も含まれる。眼疲労を誘発する光刺激及び光障害の光としては、波長が10〜830nmの光が挙げられ、眼疲労を特に誘発する光としては、波長が380〜530nm(より具体的には380〜495nm)である光(ブルーライト)が挙げられる。
【0024】
本発明において「眼疲労の抑制」とは、眼疲労の状態の悪化や眼疲労の状態の発現を抑制することを意味し、眼疲労の防止や眼疲労の予防を含む意味で用いられる。本発明において「眼疲労の改善」とは、眼疲労の状態を改善することを意味し、眼疲労の緩和や眼疲労からの回復を含む意味で用いられる。
【0025】
本発明の第三の面によれば、乳酸菌を有効成分として含んでなる、網膜色素上皮細胞の細胞死若しくは網膜厚の減少の抑制又は可視光における視機能の保護に用いるための組成物及び用剤が提供される。
【0026】
網膜色素上皮細胞の細胞死及び網膜厚の減少は、光刺激又は光障害により誘発されうるものであり、本発明の組成物及び用剤はこのような網膜色素上皮細胞の細胞死や網膜厚の減少を抑制することができる。光刺激及び光障害の光は、前述と同様のものを意味する。
【0027】
本発明において有効成分として用いられる乳酸菌として、以下の属、種又は株に分類されるものが挙げられる。なお、乳酸菌とは乳酸を産生する細菌を意味し乳酸桿菌や乳酸球菌を含む。具体的には当業者に知られた方法で分離・同定することができる(たとえば、乳酸菌研究集談会編「乳酸菌の科学と技術」参照)。
【0028】
・ラクトバチラス属(Lactobacillus):L.delbrueckii(ラクトバチラス・デルブルエッキ)、L.acidophilus(ラクトバチラス・アシドフィラス)、L.casei(ラクトバチラス・カゼイ)、L.fructivorans(ラクトバチラス・フルクティヴォランス)、L.hilgardii(ラクトバチラス・ヒルガルディー)、L.paracasei(ラクトバチラス・パラカゼイ)、L.rhamnosus(ラクトバチラス・ラムノサス)、L.plantarum(ラクトバチラス・プランタラム)
・ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium):B.bifidum(ビフィドバクテリウム・ビフィドゥム)、B.adolescentis(ビフィドバクテリウム・アドレスセンティス)
・エンテロコッカス属(Enterococcus):E.faecalis(エンテロコッカス・フェカリス)、E.faecium(エンテロコッカス・フェシウム)
・ラクトコッカス属(Lactococcus):L.lactis(ラクトコッカス・ラクティス)、L.cremoris(ラクトコッカス・クレモリス)
・ペディオコッカス属(Pediococcus):P.damnosus(ペディオコッカス・ダムノサス)
・ストレプトコッカス属(Streptococcus):S.salivarius(ストレプトコッカス・ザリバリウス)
・リューコノストック属(Leuconostoc):L.mesenteroides(リューコノストック・メセンテロイデス)
【0029】
この中でも特に、ラクトバチラス属に分類されるものが好ましく、特にラクトバチラス・パラカゼイが好ましい。ラクトバチラス・パラカゼイの株として、具体的にはラクトバチラス・パラカゼイKW3110株が挙げられる。
【0030】
ラクトバチラス・パラカゼイKW3110株は、L.casei L14株として、日本乳業技術協会から入手することができる。なお、日本乳業技術協会の記載によれば、L14株はL.caseiとの記載があるが、本発明者らがQUALICON社製リボプリンターを用いたRFLP(Restriction Flagment Length Polymorphism)及びAFLP(Amplified Flagment Length Polymorphism)を用いて解析したところ、当該株はL.paracaseiと判断されたため、本発明においてはラクトバチラス・パラカゼイと記載した。ラクトバチラス・パラカゼイKW3110は、上記のとおり日本乳業技術協会から入手することができるが、さらに、特許微生物の寄託のためのブダペスト条約に基づく国際寄託当局である、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(〒305-8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)(現在は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター 特許生物寄託センター(NITE-IPOD)(〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室))に、FERM BP-08634として寄託されている(寄託日:2004年2月20日)。また、ラクトバチラス・パラカゼイKW3110の派生株は、FERM BP-08635として同特許生物寄託センターに寄託されている。
【0031】
さらに、本発明において有効成分として用いられる乳酸菌として、経口摂取した場合にも、生体に対して光障害による網膜炎症に起因する状態を抑制又は改善する作用を有する乳酸菌が好ましい。本発明において有効成分として用いられる乳酸菌は、たとえば、生菌又は死菌もしくはその成分(たとえば細胞膜、細胞膜構成成分、核、核構成成分となる核酸など)が腸管に存在する免疫細胞に作用できる程度に原形をとどめて腸管に到達できる乳酸菌である。
【0032】
本発明においてはさらに、上記菌株と同等の菌株を用いることができる。ここで、同等の菌株とは、上記の菌株から由来(派生)している菌株又は上記の菌株が由来する菌株若しくはその菌株の子孫菌株をいう。
【0033】
本発明において有効成分として用いられる乳酸菌は、乳酸菌の培養物を含む。培養物とは、生菌体、死菌体、生菌体又は死菌体の破砕物、生菌体又は死菌体の凍結乾燥物、該凍結乾燥物の破砕物、生菌体又は死菌体の酵素処理物、培養液、培養液抽出物等を含み、乳酸菌の一部や乳酸菌の処理物も含む。死菌体は、例えば、加熱処理、抗生物質などの薬物による処理、ホルマリンなどの化学物質による処理、紫外線による処理、γ線などの放射線による処理により得ることができる。さらに、上記乳酸菌のDNA又はRNAも乳酸菌の培養物に含まれる。処理物は、例えば、加熱菌体(死菌体)、その凍結乾燥物、これらを含む培養物を含む。さらに、超音波等による細菌の破砕液、細菌の酵素処理液を含む。また、前記処理物は、細胞壁を酵素若しくは機械的手段により除去した処理物等も含む。さらに、細菌を界面活性剤等によって溶解した後、エタノール等によって沈殿させて得られる核酸含有画分も含まれる。さらに、細菌菌体には死菌体も含まれていてよい。
【0034】
乳酸菌の培養は、公知の培地を用いた公知の方法で行うことができる。培地としては、M.R.S.培地、GAM培地、LM17培地を用いることができ、適宜無機塩類、ビタミン、アミノ酸、抗生物質、血清等を添加して用いればよい。培養は、25〜40℃で数時間〜数日行えばよい。
【0035】
培養後、乳酸菌菌体を遠心分離やろ過により集菌する。死菌として用いる場合、オートクレーブ等により殺菌不活化して用いてもよい。
【0036】
本発明において有効成分として用いられる乳酸菌は、以下の方法でスクリーニングすることができる。すなわち、候補菌株を培養し、その培養物の存在下で、免疫細胞を培養し、免疫細胞の培養上清を採取する。採取した免疫細胞の培養上清の存在下で網膜色素上皮細胞を培養する。この際、光(好ましくはブルーライト)照射下又は未照射下で培養を行う。網膜色素上皮細胞は光(好ましくはブルーライト)照射下で培養すると細胞死が誘導されるが、光障害による網膜炎症に起因する状態を抑制又は改善し得る乳酸菌と一緒に培養した免疫細胞の培養上清存在下で培養した網膜色素上皮細胞の細胞死は抑制される。従って、候補菌株と一緒に培養した免疫細胞の培養上清により、光(好ましくはブルーライト)による網膜色素上皮細胞の細胞死が抑制できるか否かを指標にして、本発明において有効成分として用いられる乳酸菌(特に、光障害による網膜炎症に起因する状態を抑制又は改善し得る乳酸菌)を選択することができる。すなわち、本発明によれば、乳酸菌候補菌株の培養物の存在下で免疫細胞を培養し、得られた培養物の培養上清の存在下、光照射下で網膜色素上皮細胞を培養する工程を含んでなる、光障害による網膜炎症に起因する状態を抑制又は改善し得る乳酸菌株のスクリーニング方法が提供される。スクリーニングに用いられる免疫細胞としては、樹状細胞、単球及びマクロファージが好ましく、より好ましくはミエロイド樹状細胞及びマクロファージであり、特に好ましくはミエロイド樹状細胞である。
【0037】
本発明の組成物及び用剤は、ヒト等の動物(好ましくはヒトを含む哺乳動物)に投与し、あるいは摂取させることにより、その効果を発揮させることができる。例えば、本発明の光障害による網膜炎症に起因する状態の抑制又は改善に用いるための組成物及び用剤の投与又は摂取により、光障害による網膜色素上皮細胞の細胞死を抑制することができる。また、本発明の光障害による網膜炎症に起因する状態の抑制又は改善に用いるための組成物及び用剤の投与又は摂取により、光障害による網膜外顆粒層の厚さの減少を抑制し、網膜外顆粒層の厚さを維持することができる。
【0038】
本発明の光障害による網膜炎症に起因する状態の抑制又は改善に用いるための組成物及び用剤は、例えば、ミエロイド樹状細胞(mDC)に作用し、mDCを介して光障害による網膜色素上皮細胞の細胞死を抑制することができる。
【0039】
本発明の組成物及び用剤は、ヒトのみならず、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ等の家畜、さらに、イヌ、ネコ等の愛玩動物等に対しても効果を発揮する。
【0040】
本発明の組成物及び用剤は、医薬品、医薬部外品、食品、飼料(ペットフードを含む)などの形態で提供することができる。すなわち、本発明の組成物及び用剤は医薬組成物を含む。本発明の組成物及び用剤は経口投与することができ、経口投与に適した剤形としては、顆粒剤、散剤、錠剤(糖衣錠を含む)、丸剤、カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤が挙げられる。これらの製剤は、当分野で通常行われている手法により、薬学上許容される担体を用いて製剤化することができる。薬学上許容される担体としては、賦形剤、結合剤、希釈剤、添加剤、香料、緩衝剤、増粘剤、着色剤、安定剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤等が挙げられる。
【0041】
さらに、本発明の組成物及び用剤は、食品組成物、すなわち飲食品を含む。該食品組成物は、眼(目)の不快な状態の防止、抑制又は改善に用いることができる。対象となる飲食品の種類は、本発明の組成物及び用剤の有効成分の効果(特に、光障害による網膜炎症に起因する状態の抑制又は改善効果)が阻害されないものであれば特に限定されない。例えば、ヨーグルト、加工乳、チーズ、乳入りデザートなどの乳製品;清涼飲料、ノンアルコール飲料、スポーツ用飲料、エナジードリンク類などの飲料類;チョコレート、ビスケットなどの菓子類;パン、ドレッシング類、パスタソースなどの食品ソース類等が挙げられる。また、食品組成物にはサプリメント(ダイエタリー・サプリメント:dietary supplement)が含まれ、サプリメントの剤形は限定されず、ドラッグデリバリーシステム様の剤形を採用してもよいことはいうまでもない。また、これら食品組成物は、他の機能性成分も含んでいてもよい。
【0042】
本発明の飲食品は、機能性表示食品、健康飲食品、特定保健用飲食品、栄養機能飲食品、健康補助飲食品、病者用食品等を含む。ここで、特定保健用飲食品とは、食生活において特定の保健の目的で摂取をし、その摂取により当該保健の目的が期待できる旨の表示をする飲食品をいう。また、機能性表示食品とは、事業者の責任で、科学的根拠を基に商品パッケージに機能性を表示するものとして、消費者庁に届け出られた食品をいう。
【0043】
これらの飲食品の表示例として以下のようなものが挙げられるが、これに限定されない。
本発明の飲食品は本発明の組成物及び用剤の一態様であることから、本発明の組成物及び用剤の使用目的に関する表示を付すことができる。この場合、消費者に理解しやすい表示とするため本発明の飲食品には以下の一部又は全部の表示が付されてもよい。
・「パソコンなどによる眼の疲労感を軽減する」
・「眼の疲労感を軽減する」
・「ブルーライトなど光の刺激から眼を保護する」
・「光の刺激を受けた目を保護し、目の調子を整える」
・「ブルーライトなどの光刺激から視機能を維持する、改善させる、サポートする、正常に保つ、視機能の維持に役立つ、眼の機能低下を低減させる」
・「ブルーライトなどの光刺激から眼の疲労感を和らげる、低減させる、防ぐ」
・「ブルーライトなどの光刺激による疲れ目を和らげる、緩和する、眼をつかれにくくさせる、眼をかすみにくくさせる」
・「ブルーライトなどの光刺激による眼の疲れからくる肩・腰のこりや痛みを和らげる、低減させる、防ぐ」
・「ブルーライトなどの光刺激から眼の潤いを維持する、改善させる、サポートする、維持する、正常に保つ」
・「ブルーライトなどの光刺激から眼の乾燥を和らげる、低減させる、防ぐ」
・「ブルーライトなどの光刺激から目の渇きを和らげる、眼の機能を維持する、改善させる、サポートする、正常に保つ」
・「ブルーライトなどの光刺激により低下するピント調節能を維持する、改善させる、サポートする、正常に保つ」
・「ブルーライトなどの光刺激により低下するコントラスト感度を維持する、改善させる、サポートする、正常に保つ」
・「スマホ老眼を防ぐ」
・「スマホ老眼と戦う」
・「ブルーライトなどによる光刺激により低下する眼の調子を整える」
【0044】
本発明の食品組成物の摂取量は、通常、乳酸菌乾燥菌体質量として1人1日あたり1〜1000mg、好ましくは10〜500mg、より好ましくは25〜100mgであり、適宜増減できる。摂取期間は、通常1日以上、好ましくは3日以上、より好ましくは1週間以上である。
【0045】
本発明の食品組成物は、摂取開始時から測定時までの期間における自覚的又は客観的な眼の不快な状態を防止、抑制又は改善することができるとともに、眼疲労を抑制又は改善することができる。
【0046】
また、摂取期間開始後の任意の時点において、ブルーライト等の光刺激を一定時間与えた場合に生じうる不快な状態の発生を防止することができるとともに、ブルーライト等の光刺激を一定時間与えた場合に誘発されうる眼疲労を抑制又は改善することができる。さらにこの場合において、光刺激前から光障害による不快な状態や光刺激による眼疲労があったときでも、光刺激前と比較した光刺激後の眼の不快な状態の増悪や、眼疲労の増悪を防止、抑制又は改善することができる。
【0047】
本発明の別の面によれば、有効量の乳酸菌を、ヒトを含む哺乳動物に摂取させるか、或いは投与することを含んでなる、眼疲労の抑制又は改善方法が提供される。本発明によればまた、有効量の乳酸菌を、ヒトを含む哺乳動物に摂取させるか、或いは投与することを含んでなる、光障害による網膜炎症に起因する状態の抑制又は改善方法が提供される。本発明によればさらに、有効量の乳酸菌を、ヒトを含む哺乳動物に摂取させるか、或いは投与することを含んでなる、網膜色素上皮細胞の細胞死又は網膜厚の減少の抑制方法及び可視光における視機能の保護方法が提供される。本発明の方法は、本発明の組成物及び用剤に関する記載に従って実施することができる。
【0048】
本発明の方法はヒトを含む哺乳動物における使用であってもよく、治療的使用と非治療的使用のいずれもが意図される。本明細書において、「非治療的」とはヒトを手術、治療又は診断する行為(すなわち、ヒトに対する医療行為)を含まないことを意味し、具体的には、医師又は医師の指示を受けた者がヒトに対して手術、治療又は診断を行う方法を含まないことを意味する。
【0049】
本発明のさらに別の面によれば、眼疲労の抑制又は改善剤の製造のための、乳酸菌の使用と、眼疲労の抑制又は改善剤としての、乳酸菌の使用が提供される。本発明によればまた、光障害による網膜炎症に起因する状態の抑制又は改善剤の製造のための、乳酸菌の使用と、光障害による網膜炎症に起因する状態の抑制又は改善剤としての、乳酸菌の使用が提供される。本発明によればさらに、網膜色素上皮細胞の細胞死又は網膜厚の減少の抑制剤或いは可視光における視機能の保護剤の製造のための、乳酸菌の使用と、網膜色素上皮細胞の細胞死又は網膜厚の減少の抑制剤或いは可視光における視機能の保護剤としての、乳酸菌の使用が提供される。本発明の使用は、本発明の組成物及び用剤に関する記載に従って実施することができる。
【0050】
本発明のさらにまた別の面によれば、眼疲労の抑制又は改善に用いるための乳酸菌と、光障害による網膜炎症に起因する状態の抑制又は改善に用いるための乳酸菌と、網膜色素上皮細胞の細胞死又は網膜厚の減少の抑制に用いるための乳酸菌と、可視光における視機能の保護に用いるための乳酸菌が提供される。上記乳酸菌は、本発明の組成物及び用剤に関する記載に従って実施することができる。
【0051】
本発明によればまた、下記発明が提供される。
[101]乳酸菌を含有する、光障害による網膜炎症に起因する状態を防止又は改善するための食品組成物。
[102]前記光が、波長380nm〜530nmの光である、上記[101]の食品組成物。
[103]前記乳酸菌が、ラクトバチラス属に属するものである、上記[101]又は[102]の食品組成物。
[104]前記乳酸菌が、ラクトバチラス・パラカゼイである、上記[101]〜[103]のいずれかの食品組成物。
[105]前記乳酸菌が、ラクトバチラス・パラカゼイKW3110株である、上記[101]〜[104]のいずれかの組成物。
[106]前記光障害による網膜炎症に起因する状態が、眼の不快な状態である、上記[101]〜[105]のいずれかの食品組成物。
[107]前記目の不快な状態が、客観的若しくは自覚的に目が疲れた状態、又は目が乾くという状態である、上記[106]の食品組成物。
[108]前記食品組成物が、サプリメントである、上記[101]〜[107]のいずれかの食品組成物。
【実施例】
【0052】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0053】
[実施例1]乳酸菌株の調製
<実験方法>
本発明の実施例で用いた乳酸菌(ラクトバチラス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)KW3110)は日本乳業技術協会から入手した。乳酸菌をM.R.S.(de Man, Rogosa, Sharpe) 培地(OXOID)を用いて37℃で48時間培養した。集菌後、滅菌水で3回洗浄し、100℃、30分オートクレーブすることにより殺菌した。その後、菌体を凍結乾燥し、1mg/mLになるようにPBS(TAKARA BIO社製)で濃度を調整した。
【0054】
[実施例2]ヒト網膜色素上皮細胞に対するKW3110刺激によるヒトmDC(myeloid dendritic cell: ミエロイド樹状細胞)の培養上清のブルーライト照射に対する細胞死抑制効果の評価
ラクトバチラス・パラカゼイKW3110株で刺激したヒトmDCの培養上清がブルーライト照射によるヒト網膜色素上皮細胞の細胞死を抑制出来るか検証した。
【0055】
<実験方法>
(1)mDC培養上清の調製
ヒト末梢血単核細胞(PromoCell社製)からMonocyte isolation kit(Milteny社製)を用いてCD14+細胞を分離し、10%FBS(Moregatebiotech社製)+1%P/S(Invitrogen社製)+ 50μM 2-mercaptoethanol (Invitrogen社製)含有RPMI1640(SIGMA社製)にrecombinant human-GM-CSF(R&D systems社製)を50ng/mL、recombinant human-IL-4(R&D systems社製)を100ng/mLの濃度で添加し、1.0×106細胞/mLで6ウェル平底プレート(Iwaki社製)に2mLずつ蒔き、6日間37℃、5%CO2条件下で培養し、ヒトミエロイド樹状細胞(mDC)を誘導した。その後、その細胞を回収し、0.6×105細胞/mLで48ウェルプレートに500μLずつ蒔いた。その際、KW3110株を10μg/mL、でmDC培養系に添加し、24時間培養し、培養上清を回収した。
【0056】
(2)ヒト網膜上皮細胞の調製
ヒト網膜色素上皮細胞(ARPE19:ATCCより購入)を、3.0×103細胞/ウェルで96ウェルプレートに蒔いて10%FBS(Moregatebiotech社製)+1%P/S(Invitrogen社製)含有DMEM/F12(thermofisher社製)培地条件下で37℃、5%CO2条件下で72時間培養した。培養後、培地を1%FBS(Moregatebiotech社製)+1%P/S(Invitrogen社製)含有DMEM/F12(thermofisher社製)に交換しさらに24時間培養した。
【0057】
(3)ブルーライト照射試験
上記(1)で回収したKW3110株で刺激したヒトmDC培養上清を1/100濃度になるように添加後、6時間培養した。培養物に照射される照度が2000luxとしたブルーライト(波長470 nm、オプトコード社製)を30分間照射した。コントロールとして、ブルーライトを照射せずにかつKW3110刺激をしないヒトmDC培養上清を用いる条件及びブルーライトを照射するがKW3110刺激をしないヒトmDC培養上清を用いる条件を設けた。いずれも3連で行い、照射24時間後、Cell counting kit-8(同仁化学研究所社製)を用いて細胞生存度(代謝活性による細胞生存率)を測定した。
【0058】
(4)KW3110株培養上清の影響の評価
上記(1)〜(3)の系におけるKW3110株そのものによって網膜上皮細胞の細胞死が抑制された可能性について検討した。すなわち、(2)で調製したヒト網膜上皮細胞にPBSに懸濁したKW3110株を添加し、(3)と同じ条件でブルーライトを照射したもの(light KW)、(2)で調製したヒト網膜上皮細胞にそのままブルーライトを照射したもの(light)について細胞生存度(代謝活性による細胞生存率)を測定した。
【0059】
<結果>
細胞生存度(細胞生存率)を評価した測定結果を図1Aに示す。「no light」はブルーライトを照射せずにかつKW3110株で刺激をしないヒトmDC培養上清を用いた条件の結果を、「light_mDC」はブルーライトを照射したがKW3110株で刺激をしなかった条件の結果を、「light_KW_mDC」はブルーライトを照射しかつKW3110株での刺激をしたヒトmDC培養上清を用いる条件の結果を示す。ブルーライトを照射することによってヒト網膜色素上皮細胞の細胞死が誘導されること、及びKW3110株での刺激をしたヒトmDC培養上清存在下においてはブルーライト照射条件においても細胞生存率の低下が認められなかった。
【0060】
KW3110株の直接の影響を確認した結果を図1Bに示す。「light_KW」は網膜上皮細胞にKW3110株懸濁液を添加してからブルーライトを照射した条件の結果を、「light」はKW3110株懸濁液を添加せずに網膜上皮細胞にブルーライトを照射した条件の結果を示す。両群に有意な差は認められなかった。
【0061】
以上から、KW3110株で刺激したヒトmDC培養上清にはブルーライト照射による網膜色素上皮細胞の細胞死を抑制する効果があることが明らかになった。
【0062】
[実施例3]ヒト網膜色素上皮細胞に対するKW3110刺激によるヒトM2マクロファージ細胞(macrophage cell)の培養上清のブルーライト照射に対する細胞死抑制効果の評価
<実験方法>
(1)ヒトM2マクロファージ培養上清の調製
ヒト末梢血単核細胞(PromoCell社製)からMonocyte isolation kit(Milteny社製)を用いてCD14+細胞を分離した。分離した細胞をHuman M2 macrophage Differentiation Kit(R&D社製)を用いて2×105細胞/mLで48ウェルプレート(Iwaki社製)に500μLずつ播き、37℃5%CO2条件下で培養3日に1回培地交換を行い、6日間培養し、ヒトM2マクロファージを誘導した。その後、KW3110株を10μg/mLでM2マクロファージ培養系に添加し、24時間培養し、培養上清を回収した。
【0063】
(2)培養上清の影響の評価
代謝活性による評価
実施例2と同様に、ブルーライト照射後30分後において、Cell counting kit-8(同仁化学研究所社製)を用いて細胞生存度(代謝活性による細胞生存率)を算出して評価した。
【0064】
死細胞染色による評価
ブルーライト照射時間を50分とし、ブルーライト照射試験における細胞生存度(細胞生存率)の評価方法を死細胞染色による方法(Cellstrain-Hoechst 33342 solution(同仁化学社製)により全細胞を染色し、Cellstrain-PI solution(同仁化学研究所社製)により死細胞を染色し、それぞれの細胞数から細胞生存率を算出した。)とした以外は、実施例2に記載した方法と同じ方法を用いた。
【0065】
<結果>
細胞生存度(代謝活性による細胞生存率)を評価した結果を図2Aに、細胞生存度(死細胞染色による評価方法)を評価した測定結果を図2Bに示した。ブルーライトを照射することによってヒト網膜色素上皮細胞の細胞死が誘導されること、及びKW3110株での刺激をしたヒトM2マクロファージ培養上清存在下においてはブルーライト照射条件においても細胞生存率の低下が認められないことがわかった。以上から、KW3110株で刺激したヒトM2マクロファージ培養上清にはブルーライト照射による網膜色素上皮細胞の細胞死を抑制する効果があることが明らかになった。
【0066】
[実施例4]ヒト網膜色素上皮細胞に対するKW3110以外の乳酸菌刺激によるヒトM2マクロファージ細胞(macrophage cell)の培養上清のブルーライト照射に対する細胞死抑制効果の評価
ラクトバチラス・パラカゼイに属する4株(JCM1161, JCM1172, ATCC25302, ATCC25303)で刺激したヒトmDCの培養上清がブルーライト照射によるヒト網膜色素上皮細胞の細胞死を抑制出来るか検証した。
【0067】
<実験方法>
代謝活性による評価方法(ブルーライト照射時間30分、Cell counting kit-8(上記に同じ)、及び死細胞染色による評価方法(ブルーライト照射時間50分、Cellstain- Hoechst 33342 solution、Cellstain- PI solution:上記に同じ)により細胞生存度(細胞生存率)を測定した。
【0068】
<結果>
細胞生存度を評価した測定結果を図3A(代謝活性による細胞生存率)及び図3B(死細胞染色による細胞生存率評価方法)に示す。ラクトバチラス・パラカゼイに属する4株の培養上清においても細胞死抑制効果が確認された。
【0069】
<結論>
実施例2、3及び4より、ラクトバチラス・パラカゼイに属する5株で刺激したヒト免疫細胞(mDC、もしくはマクロファージ細胞)の培養上清にはブルーライト照射による網膜色素上皮細胞の細胞死を抑制する効果があることが明らかになった。このことから、ラクトバチラス・パラカゼイに属する株はいずれも当該効果を有する可能性が示された。
【0070】
[実施例5]ブルーライト照射動物モデルにおけるKW3110株摂取の効果
本発明で規定される乳酸菌は健常人はもとより、特にパソコンやスマートフォンなどのモニター作業を長時間行う人での摂取が想定されるため、ブルーライト照射動物モデルでのKW3110株の摂取効果を検討した。
【0071】
<実験方法>
BALB/cマウス(5週齢・雄、日本チャールスリバー株式会社から購入)を、1群6匹で、ブルーライト非照射の標準食群(AIN93G:オリエンタル酵母工業社製)(no light CTL)、ブルーライト非照射のKW3110株混餌(標準食飼料1 kg中に乾燥重量として250 mgのKW3110株(実施例1で調製したもの)を含む)摂取群(no light KW)、ブルーライト照射の標準食群(AIN93G:オリエンタル酵母工業社製)(light CTL)、ブルーライト照射のKW3110株混餌摂取群(light KW)の4群に分け、所定の飼料を自由摂食させた。各群の処置は表1に示すとおりである。表1中の矢印はその日に処置を行ったことを示す。
【0072】
KW3110株摂取期間は2週間で1日当たりのKW3110株摂取量は約1mgであった。KW3110株投与開始時をday-14とし、day0、1、2にブルーライト(470 nm、3000 lux、3時間)を照射した。なお、ブルーライト照射は、光源を飼育ケージの相対する横壁2か所に設置し、床中央部での照度測定値が3000luxとなるように調整して行っている。
【0073】
Day3に解剖を行い、網膜切片を作製しヘマトキシリン・エオジン染色後、網膜外顆粒層の厚さを測定した。網膜外顆粒層を視神経乳頭からの距離を指標に領域を分割し、各領域において7箇所の異なる位置の長さを測定し、平均値を当該領域における外顆粒層の厚さとした。各個体の同領域における厚さを用いて群間評価を行った。なお、検定はt検定で行い、図4中の**は危険率P<0.01である。
【0074】
【表1】
【0075】
<結果>
図4にブルーライト照射モデルを用いて測定した網膜外顆粒層の厚さ(網膜厚)を示す。ブルーライト非照射条件においては、標準食群(no light CTL)とKW3110株摂取群(no light KW)間で網膜厚に差は認められなかった。ブルーライト照射の標準食群(light CTL)においては、ブルーライト非照射の標準食群(no light CTL)と比較して有意な網膜厚の減少が認められた。ブルーライト照射によって網膜の細胞死が引き起こされた結果と考えられた。一方興味深いことに、ブルーライト照射のKW3110株摂取群(light KW)においては、ブルーライト照射の標準食群(light CTL)と比較して有意に網膜厚が厚く維持された。この結果から、KW3110株は摂取することにより、パソコンやスマートフォンから発せられるブルーライトによる網膜細胞死に対して拮抗的に働き、過度のパソコンなどVDT(Visual Display Terminal)作業に伴って起こる網膜損傷予防に大きく寄与することが示唆された。
【0076】
[実施例6]通常可視光下飼育動物モデルにおけるKW3110株摂取の効果
本発明で規定される乳酸菌は通常可視光下での視機能保護効果も期待できるため検討した。
【0077】
<実験方法>
BALB/cマウス(5週齢・雄、日本チャールスリバー株式会社から購入)を、1群4匹で、標準食群(AIN93G:オリエンタル酵母工業社製)(CTL)、KW3110株混餌(標準食飼料1 kg中に乾燥重量として250 mgのKW3110株(実施例1で調製したもの)を含む)摂取群(KW)の2群に分け、可視光を含む通常光の下で、所定の飼料を自由摂食させた。
【0078】
KW3110株摂取期間は3週間で1日当たりのKW3110株摂取量は約1mgであった。摂取開始から20日後からの1日は暗順応条件で飼育し、暗順応後に3段階の光強度においてERG(網膜電図)を測定した。なお、群間差の検定はt検定で行い、図5中の*は危険率P<0.05である。
【0079】
<結果>
図5にphotonic b-waveの測定結果を示す。興味深いことに、標準食群(CTL)と比較して、KW3110株摂取群(KW)においては、photonic b-waveの測定値が有意に高値であった。この結果から、KW3110株は摂取することにより、日常の光刺激による視機能低下の予防に寄与することが示唆された。
【0080】
[実施例7]ブルーライト暴露時のヒトにおけるKW3110の視機能改善効果及び眼精疲労改善効果
<試験方法>
本試験は社外倫理委員会で検討承認のうえ、第三者機関において実施した。試験は、プラセボを対照とした無作為化二重盲検並行群間比較試験とした。具体的には、VDT作業を1日6時間以上、かつ1年以上実施しており、眼精疲労を自覚している35歳以上45歳未満の健康で慢性疾患のない男女に被験食品(KW3110含有カプセル)又は対照食品(KW3110非含有カプセル)を摂取させ、KW3110の視機能改善効果及び眼精疲労改善についての効果を確認した。
【0081】
(1)被験者
事前検査において医師から健常と判断された者を、両群の男女の人数が同じになるように被験食品群(A群)と対照食品群(P群)に無作為に割付けた。
被験者には試験期間前と同様の生活を継続させた。すなわち、基本的には1日6時間以上のVDT作業を継続的に実施させた。
【0082】
(2)介入
摂取期間中、被験者には割付けられた試験食品(カプセル)を1日1回水又はぬるま湯とともに毎日摂取させた。試験食品の摂取期間は8週間とした。
試験食品は以下のとおりである。
(A) 被験食品:KW3110含有カプセル(カプセル1個にKW3110加熱死菌体50 mg、約5×1010個を含む)。なお、KW3110加熱死菌体は常法に従い製造した。
(B) 対照食品:KW3110非含有カプセル(KW3110加熱死菌体50 mgに代えてコーンスターチ50mgを含む)
【0083】
(3)測定
(A) 測定項目
(i) 眼精疲労度(フリッカーテスト)
(ii) 眼精疲労アンケート
(iii) 目の症状と日常生活についての質問票
(B) 測定時期
(i)(ii)は、試験食品摂取開始前、摂取開始後4週時、8週時の来院時にVDT負荷試験を行い、その前後に各1回(合計2回)測定した(表2)。また、(iii)は、試験食品摂取開始前、摂取開始後4週時、8週時のVDT負荷試験前に各1回測定した。
【0084】
【表2】
【0085】
VDT作業負荷は次のように実施した。すなわち、VDT作業は、iPad mini(登録商標、Apple Inc.)上でゲームアプリ(ウォーリーハリウッドへいく)を使ったゲームの実施であり、本作業は画面を眼から45cm以内の位置に固定できるようiPad miniに紐輪をつけ、紐輪を被験者の首にかけた状態で行わせた。
【0086】
(C) 測定方法
(i)フリッカーテスト
ハンディフリッカーHFII(登録商標、株式会社ナイツ)を用い両眼・上昇法で3回ずつ測定しその平均値を測定値とした。
【0087】
(ii)眼精疲労アンケート
眼精疲労アンケートはVAS法により測定した。すなわち、被験者の眼等の状態についての質問に対しの回答時点での状態の程度を、左端を「全く感じない」、右端を「今まで経験したか、又は想像しうる最悪の状態」とした100 mmスケール直線のどのあたりに当たるか、被験者自身にマークさせた。マーク位置について100mmスケール直線左端からの距離を測定し、測定値とした(VAS法)。質問は以下のとおりである。
【0088】
眼精疲労アンケートの質問
「眼がかすむ」、「肩・腰がこる」、「眼が疲れる」「頭が重い」
【0089】
(iii)目の症状と日常生活についての質問票(Dry Eye related Quality of life Score (DEQS)Y. Sakane et al., JAMA, Ophthalmol. 2013, 131(10), 1331-1338)
各質問に対し回答時までの過去1週間の目の症状、日常生活への影響に関する16問の質問への回答点数を被験者自身に選択・記入させ、スコアから目の症状スコア(問1〜6)、日常生活への影響スコア(問7〜15)、総合的なQOLスコア(問1〜15)を算出し、また、サマリースコアとして問16を求めた。質問は以下のとおりである。
【0090】
目の症状と日常生活についての質問票の質問
「1)目がゴロゴロする(異物感)」、「2)目が乾く」、「3)目が痛い」、「4)目が疲れる」、「5)まぶたが重たい」、「6)目が赤くなる」、「7)目を開けているのがつらい」、「8)目を使っていると物がかすんで見える」、「9)光をまぶしく感じる」、「10)新聞、雑誌、本などを読んでいる時、目の症状が悪くなる」、「11)テレビを見ている時、パソコン・ケータイを使っている時に目の症状が悪くなる」、「12)目の症状のため集中力が低下する」、「13)目の症状のため仕事・家事・勉強に差し障りがある」、「14)目の症状のため外出を控えがち」、「15)目の症状のため気分が晴れない」「16)目の症状やそれに伴う日常生活の困りごとを含めた全般的な状態」
【0091】
(4)評価、解析
解析対象者全員を対象とした解析(全体解析)と、眼の疲労度の比較的大きい者のみを対象とした解析(層別解析)を行った。
【0092】
(A) 数値の評価方法
(i)フリッカーテスト、眼精疲労アンケート
各測定時点におけるVDT作業負荷前の測定値、VDT作業負荷後の測定値及びVDT作業負荷前後の測定値の差(作業負荷後の測定値から作業負荷後の測定値を減じた値)をそれぞれ「VDT作業負荷前の実測値」、「VDT作業負荷後の実測値」及び「VDT作業負荷前後の差の実測値」として得、摂取開始後各時点の実測値から、対応する摂取開始前の実測値を減じた値をそれぞれ摂取開始後各時点における「VDT作業負荷前の変化量」、「VDT作業負荷後の変化量」及び「VDT作業負荷前後の差の変化量」とした。両群の実測値及び変化量についてはHolmの方法で時点の多重性を考慮したうえで2標本t検定を用いて評価した。また、各群について、摂取開始後各時点の「VDT作業負荷前の実測値」、「VDT作業負荷後の実測値」及び「VDT作業負荷前後の差の実測値」を摂取開始前の値に対する1標本t検定を用いて評価した。
【0093】
(ii)目の症状と日常生活についての質問票
目の症状と日常生活についての質問票(DEQS)から得たスコアについて、摂取開始後各測定時点におけるVDT作業負荷前測定値である「実測値」を求め、その値から摂取開始前のVDT作業負荷前測定値である「実測値」を減じた「変化量」を求めた。「実測値」と「変化量」はそれぞれHolmの方法で測定時点の多重性を考慮したうえでMann-WhitneyのU検定を用いて両群を比較した。また、各群について、摂取開始後各時点の実測値を1標本Wilcoxon検定を用いて評価した。
【0094】
(B) 層別解析の方法
(i)眼精疲労アンケート「眼が疲れる」のVDT作業前実測値が被験者平均以上であった者(試験食品摂取開始前のVDT作業負荷前の実測値が被験者平均30.5 mm以上であった者25名)の層別解析
【0095】
本試験は、VDT作業による眼の疲れを被験食品が改善しうることの確認を目的に眼の疲れの自覚のある者を対象としている。そこで、被験者の中で比較的眼の疲れを強く自覚している被験者として眼精疲労アンケート「眼が疲れる」において試験食品摂取開始前におけるVDT作業負荷前の実測値が解析対象者59名の平均以上であった者25名を抽出して層別解析を行った。
【0096】
i)VDT作業負荷による即時疲労軽減効果(疲労防止効果)の評価
フリッカー値は眼の疲労や視機能の評価に用いられ数値の低下が疲労や視機能低下を反映するとされ、VDT作業により低下することが知られている(岩崎常人,眼科(2009)51(4),387-395)。VDT作業負荷による即時疲労軽減効果(疲労防止効果)として、フリッカー値についてVDT作業負荷前後の差の実測値及び試験食品摂取開始前からの変化量を検討した。
【0097】
ii)試験期間中の肩・腰症状の評価
肩や腰のこりはVDT作業による眼精疲労の主な症状として知られていることから(産業医学 (1986) 28, 87-95)、試験期間中の肩・腰症状の軽減効果(VDT作業による影響の軽減又は防止効果)を見るために、眼精疲労アンケート「肩・腰がこる」についてVDT作業負荷前の実測値及び試験食品摂取開始前からの変化量を検討した。
【0098】
(ii)眼精疲労アンケート「眼が疲れる」のVDT作業後実測値が被験者平均以上であった者(試験食品摂取開始前のVDT作業負荷後の実測値が被験者平均55.3 mm以上であった者32名)の層別解析
VDT作業後の眼の疲れを比較的強く自覚している被験者として眼精疲労アンケート「眼が疲れる」において試験食品摂取開始前におけるVDT作業負荷後の実測値が解析対象者59名の平均以上であった者32名を抽出して層別解析を行った。
【0099】
(iii)眼精疲労アンケート「肩・腰がこる」のVDT作業前実測値が被験者平均以上であった者(試験食品摂取開始前のVDT作業負荷前の実測値が被験者平均36.1 mm以上であった者29名)の層別解析
被験者の中で比較的眼の疲れを強く自覚している被験者として眼精疲労アンケート「肩・腰がこる」において試験食品摂取開始前におけるVDT作業負荷前の実測値が解析対象者59名の平均以上であった者29名を抽出して層別解析を行った。
【0100】
<結果>
(1)被験者
A群、P群とも31名が割付けられ、そのうち解析対象者はA群が28名、P群が31名であり、解析対象者の年齢はそれぞれ40.3±2.7歳、40.6±2.8歳(平均値±標準偏差)であった。被験者内訳を表3に示す。
【0101】
【表3】
【0102】
(2)測定結果
(A) 全体解析
(i)フリッカーテスト
結果を表4に示す。A群とP群でフリッカー値に有意差は認められなかった。しかし、A群において試験食品摂取開始前におけるVDT作業負荷前後の差の実測値(VDT作業負荷後の測定値から作業負荷前の測定値を減じた値)よりも、試験食品摂取開始後のそれの方が大きく、試験食品摂取開始4週後時点においてその差は有意であった(p=0.013vs試験食品摂取開始前)。このことから被験食品の摂取によりVDT作業による眼の疲労が軽減される可能性が示された。
【0103】
【表4】
【0104】
(ii)眼精疲労アンケート
眼精疲労アンケートの結果を表5に示す。A群とP群で有意差は認められなかった。しかし、「眼がかすむ」について、両群においてVDT作業負荷前、後、前後の差の実測値は、試験食品摂取開始前の実測値に比して低下する傾向が認められ、その傾向はA群の方が大きく、VDT作業負荷前においてA群の低下傾向は有意なものであった(試験開始8週後、p=0.044vs試験食品摂取開始前)。
【0105】
また、「肩・腰がこる」について、VDT作業負荷前、後の実測値は、試験食品摂取開始前の実測値に比して低下する傾向が認められ、その傾向はA群の方が大きく、VDT作業負荷前、後においてA群の低下傾向は有意なものであった(試験開始4週後及び8週後vs試験食品摂取開始前)。
【0106】
さらに、「眼が疲れる」、「頭が重い」についてもVDT作業負荷前、後の実測値は、試験食品摂取開始前の実測値に比して低下する傾向が認められた。
【0107】
以上より、被験食品の摂取によりVDT作業による眼等の症状が緩和される可能性が示唆された。
【表5】
【0108】
(iii)目の症状と日常生活についての質問票
目の症状と日常生活についての質問票の結果を表6に示す。実測値は、両群において試験食品摂取開始前の実測値に比して低下する傾向が認められ、その傾向はA群の方が大きかった。日常生活への影響スコアは、試験食品摂取開始後8週時の変化量(8週後時点の実測値から試験食品摂取開始前の実測値を減じたもの)について両群で差が見られた(p=0.027;但し、多重性検定により有意な差とは評価されず)。したがって、被験食品の摂取は、VDT作業負荷による日常生活への影響を緩和する可能性が示された。
【0109】
【表6】
【0110】
(B) 層別解析
(i)眼精疲労アンケート「眼が疲れる」のVDT作業前実測値が被験者平均以上であった者(試験食品摂取開始前のVDT作業負荷前の実測値が被験者平均30.5 mm以上であった者25名。A群13名、P群12名)の層別解析
VDT作業負荷による即時疲労軽減効果(疲労防止効果)の結果と試験期間中の肩・腰症状の結果を表7に示す。試験食品の摂取期間中、A群において、フリッカー値の作業負荷前後の差の実測値(VDT作業負荷後の測定値から作業負荷前の測定値を減じた値)は、摂取開始前のそれよりも大きく、同時点のP群のそれよりも大きかった。そして、変化量について摂取開始4週後時点での両群の差は有意であった。このことから、被験食品の摂取期間においてはVDT作業負荷による即時的な眼の疲労が軽減される(防止される)可能性が示された。
【0111】
試験食品の摂取期間中、A群のVDT作業前の肩・腰のこりの自覚症状の実測値は、摂取開始前のそれよりも小さく、同時点のP群のそれよりも小さかった。そして、変化量について摂取開始8週後時点で両群の差は有意なものであった。このことから、被験食品摂取期間ではVDT作業負荷に起因する肩・腰のこりが軽減されている(防止されている)可能性が示された。
【0112】
【表7】
【0113】
(ii)眼精疲労アンケート「眼が疲れる」のVDT作業後実測値が被験者平均以上であった者(試験食品摂取開始前のVDT作業負荷後の実測値が被験者平均55.3 mm以上であった者32名。A群15名、P群17名)の層別解析
VDT作業負荷による即時疲労軽減効果(疲労防止効果)の結果と試験期間中の肩・腰症状の結果を表8に示す。試験食品の摂取期間中、A群において、フリッカー値の作業負荷前後の差の実測値(VDT作業負荷後の測定値から作業負荷前の測定値を減じた値)は、摂取開始前のそれよりも大きく、同時点のP群のそれよりも大きかった。そして、変化量について摂取開始4週後時点での両群の差は有意であった。このことから、被験食品の摂取期間においてはVDT作業負荷による即時的な眼の疲労が軽減される(防止される)可能性が示された。
【0114】
試験食品の摂取期間中、A群のVDT作業前の肩・腰のこりの自覚症状の実測値は、摂取開始前のそれよりも小さかった。変化量もA群の方がP群と比べて大きかった。このことから、作業負荷後に眼の疲れを比較的強く感じる者にはとくに、被験食品摂取期間ではVDT作業負荷に起因する肩・腰のこりが軽減されている(防止されている)可能性が示された。
【0115】
【表8】
【0116】
(iii)眼精疲労アンケート「肩・腰がこる」のVDT作業前実測値が被験者平均以上であった者(試験食品摂取開始前のVDT作業負荷前の実測値が被験者平均36.1 mm以上であった者29名)
試験期間中のフリッカー値の結果を表9に示す。試験食品の摂取期間中、A群において、フリッカー値の作業負荷前後の差の実測値(VDT作業負荷後の測定値から作業負荷前の測定値を減じた値)は、摂取開始前のそれよりも大きく、同時点のP群のそれよりも大きかった。そして、変化量について摂取開始4週後時点での両群の差は有意であった。このことから、被験食品の摂取期間においてはVDT作業負荷による即時的な眼の疲労が軽減される(防止される)可能性が示された。
【0117】
【表9】
【0118】
<結論>
被験食品を摂取することにより、被験者の中で比較的眼の疲れを強く自覚している者(特に、VDT作業に伴う眼の疲れを比較的強く自覚している者)で、負荷前後のフリッカー値の低下抑制、負荷前の肩・腰のこりの自覚症状が改善したことから、被験食品摂取は眼精疲労に対する効果を有することが示された。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5