特許第6640932号(P6640932)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6640932疲労センサ、疲労測定方法、及び疲労センサの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6640932
(24)【登録日】2020年1月7日
(45)【発行日】2020年2月5日
(54)【発明の名称】疲労センサ、疲労測定方法、及び疲労センサの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/32 20060101AFI20200127BHJP
【FI】
   G01N3/32 H
【請求項の数】10
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2018-132567(P2018-132567)
(22)【出願日】2018年7月12日
(65)【公開番号】特開2020-8529(P2020-8529A)
(43)【公開日】2020年1月16日
【審査請求日】2018年7月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】301072650
【氏名又は名称】NECスペーステクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109313
【弁理士】
【氏名又は名称】机 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100124154
【弁理士】
【氏名又は名称】下坂 直樹
(72)【発明者】
【氏名】小川 文輔
【審査官】 伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−307478(JP,A)
【文献】 特開2007−198783(JP,A)
【文献】 特開2013−002960(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/00 − 3/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物に設置された状態において繰返し応力が印加されることにより破断することにより前記構造物の疲労を検出する疲労検出部と、
前記疲労検出部に引張力を付与する引張力付与部と、
前記疲労検出部に付与される前記引張力を所望の引張力値に調節する引張力調節部と、
前記疲労検出部における破断を検出する破断検出部と
を備えた疲労センサ。
【請求項2】
前記疲労検出部は、第1の方向について、前記繰返し応力が印加されることにより破断する部材であって、
前記引張力付与部は、前記第1の方向について、
一端において前記疲労検出部の一端に接続され、
他端において前記疲労検出部の他端に接続され、
中間において、前記疲労検出部を引張する向きに付勢する付勢部を有する
請求項1に記載の疲労センサ。
【請求項3】
前記付勢部は、バネであり、
前記引張力調節部は、前記付勢部の形状を制約する
請求項2に記載の疲労センサ。
【請求項4】
前記引張力付与部は、前記第1の方向に平行な断面における形状が略半円形に屈曲した板バネである前記付勢部が中間に形成された薄板である
請求項2又は3に記載の疲労センサ。
【請求項5】
前記引張力調節部は、
前記付勢部に係止された状態で押圧されることによって前記付勢部の形状を変化させるカバーと、
前記カバーと前記引張力付与部との間隙に充填されることによって、前記カバーが前記付勢部に係止するように押圧された状態を保持する充填材と
を含む請求項3乃至4の何れか1項に記載の疲労センサ。
【請求項6】
前記カバーは、透明又は半透明であり、
前記充填材は、透明又は半透明である
請求項5に記載の疲労センサ。
【請求項7】
前記破断検出部は、導電体によって形成され、破断時に電流が遮断される前記疲労検出部を含む
請求項1乃至6の何れか1項に記載の疲労センサ。
【請求項8】
前記疲労検出部における前記第1の方向に関する線膨張係数は、前記構造物における前記第1の方向に関する線膨張係数と値が異なる
請求項2乃至7の何れか1項に記載の疲労センサ。
【請求項9】
構造物に設置された状態において繰返し応力が印加されることにより破断することにより前記構造物の疲労を検出する疲労検出部と、
前記疲労検出部に引張力を付与する引張力付与部と、
前記疲労検出部に付与される前記引張力を所望の引張力値に調節する引張力調節部と、
前記疲労検出部における破断を検出する破断検出部と
を備えた疲労センサを用いた前記構造物の疲労測定方法であって、
前記疲労検出部における内部応力値が互いに異なる複数の前記疲労センサを前記構造物に設置し、
各前記疲労センサによって検出された前記破断の有無に基づいて、前記構造物における疲労の進行を測定する
疲労測定方法。
【請求項10】
構造物に設置された状態において繰返し応力が印加されることにより破断することにより前記構造物の疲労を検出する疲労検出部と、
前記疲労検出部に引張力を付与する引張力付与部と、
前記疲労検出部に付与される前記引張力を所望の引張力値に調節する引張力調節部と、
前記疲労検出部における破断を検出する破断検出部と
を備えた疲労センサの製造方法であって、
前記疲労検出部における内部応力を所定の内部応力値に調節する内部応力調節ステップと、
前記疲労検出部、前記引張力付与部、前記引張力調節部、及び前記破断検出部から疲労センサを組み立てる組み立てステップと、
前記引張力調節部を調節することによって前記疲労検出部に付与される前記引張力を所望の引張力値に調節する引張力調節ステップと
を備えた、疲労センサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疲労センサ、疲労測定方法、及び疲労センサの製造方法に関し、特に、構造物の疲労センサに関する。
【背景技術】
【0002】
金属、樹脂、ガラス、セラミックス、コンクリート等の材料で形成された物体(構造物、構造体)では、繰返し又は継続的に、応力が負荷されることによって、機械的強度が低下(疲労)し、最終的に破壊(疲労破壊、破断、永久変形)が生じることがある。例えば、熱によって膨張及び収縮を繰返す構造物において、自由な変形(膨張及び収縮)が制限されたことによる応力(熱応力)によって、構造物の破壊が生じることがある。
【0003】
構造物の疲労特性は、S−N曲線(ストレス−ナンバー曲線、ヴェーラー曲線)によって表現されることが多い。S−N曲線は、構造物の疲労試験において、一定の大きさ(振幅等)で繰返し負荷される応力(繰返し応力)の大きさ(繰返し応力値)と、構造物が破断に到るまでの負荷の繰返し数(破断繰返し数)との関係を示した曲線である。通常、S−N曲線のグラフでは、繰返し応力値が縦軸(通常目盛又は対数目盛)で、破断繰返し数が横軸(対数目盛)で表される。ある種の材料(例えば低炭素鋼)では、ある繰返し数(例えば10乃至10程度)以上において、S−N曲線が水平になる。即ち、ある大きさ以下の繰返し応力値では何回負荷を繰返しても破断が生じない繰返し応力値の上限値(疲労限度)が存在する。
【0004】
そこで、構造物の設計時には、構造物において発生が予測される繰返し応力値が、マージン(安全率)を考慮した上で、疲労限度以下になるように、材料や構造等が選定されることがある。材料が明確な疲労限度を持たない場合には、実用上十分な破断繰返し数に対応する繰返し応力値を、疲労限度に相当する目安として、材料や構造等が選定されることがある。
【0005】
構造物の疲労特性は、構造物に加えられた平均応力や、構造物における残留応力等、応力の影響を受ける。一般的に、引張の応力は構造物の強度(破断繰返し数)を低下させる。圧縮の応力は構造物の強度を向上させることが多い。
【0006】
例えば、木製の合板を用いた床パネルに残留応力を与える、床パネルの一般的な製造方法が、特許文献1に開示されている。特許文献1の床パネルでは、合板製の主面材が、弓形に湾曲された状態において、合板製の筐体内に嵌合される。上記構成の結果、特許文献1の床パネルは、変形し難い。
【0007】
又、例えば、熱形成金型を用いて摩擦材に残留応力を与えた(ディスクブレーキ)パッドの一般的な製造方法が、特許文献2に開示されている。特許文献2の製造方法では、パッドの裏板と摩擦材とを、熱成形金型において加熱及び加圧して成形接着する。ここで、熱成形金型のインサートは凹部を有する。凹部は、摩擦材による成形圧によって裏板に反りを与える。上記構成の結果、特許文献2の製造方法では、裏板は反りを戻す内部応力(残留応力)を摩擦材に生じさせる。
【0008】
構造物の設計における繰返し応力を決定する際に、構造物における繰返し応力が実測されていないことが多い。そのため、実環境において発生した繰返し応力が設計において予測された繰返し応力を超えていると、実環境において構造物の破壊が生じることがある。
【0009】
又、構造物の設計において材料や構造の疲労特性を決定する際に、材料や構造の疲労特性が実測されていないことが多い。そのため、材料に欠陥が存在したり、外力等により構造物に切欠きが生じたりすると、構造物の疲労限度が低下することがある。その結果、設計において予測されていた繰返し応力においても、構造物の破壊が生じることがある。
【0010】
構造物の検査においても設計における問題と同様な問題が存在する。構造物の疲労破壊を回避するために、定期的な構造物の検査(目視点検、打音検査等)が行われることがある。ところが、構造物の疲労度(例えば、マイナー則における疲労損傷度)が測定されていないと、検査間隔(点検スパン)が過大なのか過小なのかが分からないことがある。
【0011】
そこで、構造物の疲労度を測定するための疲労センサが必要である。
【0012】
疲労センサに関する技術の一例が特許文献3に開示されている。特許文献3の疲労センサは、箔状の基板と、長手方向両端部間の中央部に、長手方向に垂直な幅方向一側部から幅方向他側部に向かって延びるスリットが形成された箔状の破断片とを含む。破断片は、第2電鋳部のそれぞれの長手方向両端面と、基板の一表面との間にそれぞれ形成される交差部が溶接されることによって、基板の一表面上に接合されている。疲労センサは、基板の他表面において被検出部材に固定される。破断片の中間部には、スリットの先端から幅方向他側部に亘るき裂進展領域に、き裂進展長を電気的に検出するき裂進展長検出部材が形成されている。中間部の厚みT3は、第2電鋳部の厚みT4より薄い。き裂進展検出部材は、き裂の進展方向、即ち横方向に直角な長手方向に沿って延びる複数の電気抵抗線を有する。各電気抵抗線は、幅方向に等間隔をあけて平行に配置され、両端部が電気的に並列的に接続され、き裂進展領域に接着剤等によって接着される。スリットの先端からき裂が進展すると、電気抵抗線が順次的に破断し、このような破断による抵抗値の経時的変化を計測装置によって計測する。上記構成の結果、特許文献3の計測装置は、疲労センサの抵抗値の計測結果に応じて、被検出部材の疲労損傷度を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2005−180145号公報
【特許文献2】特開2002−295555号公報
【特許文献3】特開2005−164247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献3の計測装置は、被検出部材の疲労損傷度を検出するためには、疲労センサの抵抗値と被検出部材の疲労損傷度との関係が分かっている必要がある。この関係は、例えば、疲労センサと同一仕様の疲労センサ(複製)が設置された、被検出部材と同一仕様の構造物(複製)に対する疲労試験において、疲労センサの抵抗値を計測することによって、見積もることができる。
【0015】
上述した疲労試験において、一般的には、所定の繰返し応力に対する疲労センサの疲労損傷度(疲労特性)と、同一の所定の繰返し応力に対する構造物の疲労損傷度(疲労特性)とは一致しない。疲労センサの疲労特性が構造物の疲労特性より大きい場合には、疲労センサの疲労損傷度が1になれば(疲労センサの疲労検出部材が破断すれば)、それ以降における構造物の疲労損傷度を算出できない。疲労センサの疲労特性が構造物の疲労特性より小さい場合には、疲労センサの疲労損傷度に基づいて、構造物の疲労損傷度を算出できる。但し、疲労センサの疲労特性が構造物の疲労特性に対して過小である場合には、疲労センサの疲労損傷度に基づく、構造物の疲労損傷度の算出精度が低下する。つまり、疲労センサの感度(疲労特性)は、構造物の疲労特性に適合していなければならない。そのため、構造物の疲労特性に応じて、適切な感度の疲労センサを容易に製造できることが望ましい。
【0016】
しかしながら、特許文献3の疲労センサの感度は、主に、中間部の厚みT3と第2電鋳部の厚みT4との比に基づいて決定される。そして、中間部と第2電鋳部とは、電気鋳造法により形成される。この製造方法では、疲労検出部材の製造後に、疲労センサの感度にバリエーションを設けることが考慮されていない。従って、特許文献3の疲労センサには、疲労センサに所望の感度を設定することが困難であるという問題がある。
【0017】
特許文献1及び2の製造方法は、疲労センサの製造方法に関しない。
【0018】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたもので、容易に所望の感度に設定できる疲労センサを提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の一態様において、疲労センサは、構造物に設置された状態において繰返し応力が印加されることにより破断する疲労検出部と、疲労検出部に引張力を付与する引張力付与部と、疲労検出部に付与される引張力を所望の引張力値に調節する引張力調節部と、疲労検出部における破断を検出する破断検出部とを備える。
【0020】
本発明の一態様において、疲労測定方法は、構造物に設置された状態において繰返し応力が印加されることにより破断する疲労検出部と、疲労検出部に引張力を付与する引張力付与部と、疲労検出部に付与される引張力を所望の引張力値に調節する引張力調節部と、疲労検出部における破断を検出する破断検出部とを備えた疲労センサを用いた構造物の疲労測定方法であって、疲労検出部における内部応力値が互いに異なる複数の疲労センサを構造物に設置し、各疲労センサによって検出された破断の有無に基づいて、構造物における疲労の進行を測定する。
【0021】
本発明の一態様において、疲労センサの製造方法は、構造物に設置された状態において繰返し応力が印加されることにより破断する疲労検出部と、疲労検出部に引張力を付与する引張力付与部と、疲労検出部に付与される引張力を所望の引張力値に調節する引張力調節部と、疲労検出部における破断を検出する破断検出部とを備えた疲労センサの製造方法であって、疲労検出部における内部応力を所定の内部応力値に調節する内部応力調節ステップと、疲労検出部、引張力付与部、引張力調節部、及び破断検出部から疲労センサを組み立てる組み立てステップと、引張力調節部を調節することによって疲労検出部に付与される引張力を所望の引張力値に調節する引張力調節ステップとを備える。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、容易に所望の感度に設定できる疲労センサを提供することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第1の実施形態における疲労センサの構成の一例を示す3面図である。
図2】本発明の第1の実施形態における疲労センサの変形例を示す2面図である。
図3】本発明の第1の実施形態における疲労センサの製造方法を示すフローチャートである。
図4】本発明の第2の実施形態における疲労センサの構成の一例を示す3面図である。
図5】本発明の第2の実施形態における疲労センサの製造方法を示すフローチャートである。
図6】本発明の第2の実施形態における疲労センサの製造方法を説明する側面図である。
図7】本発明の第2の実施形態における疲労センサの動作を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。尚、全ての図面において、同等の構成要素には同じ符号を付し、適宜説明を省略する。
(第1の実施形態)
本発明の各実施形態の基本である、本発明の第1の実施形態について説明する。
【0025】
本実施形態における構成について説明する。
【0026】
図1は、本発明の第1の実施形態における疲労センサの構成の一例を示す3面図である。図1以降の図及び以降の説明において、疲労センサが設置される向きは一例であり、実際に疲労センサが設置される向きは、疲労センサが設置される構造物の向きに応じた任意の向きであってよい。図1以降の図及び以降の説明において、ある方向から見て、疲労センサの、幅方向を「Y」で示し、奥行き方向を「X」で示し、高さ(厚み)方向を「Z」で示すこととする。即ち、X方向、Y方向、Z方向は互いに直交する方向である。Y方向、X方向、Z方向それぞれにおいて、右方向、手前方向、上方向を「正側」と称し、左方向、奥方向、下方向を「負側」と称することとする。又、以降の説明において、X方向における正側を「X+」側と、X方向における負側を「X−」側と、Y方向における正側を「Y+」側と、Y方向における負側を「Y−」側と、Z方向における正側を「Z+」側と、Z方向における負側を「Z−」側とも称することとする。図1(A)は側面図(X−Z平面図)、図1(B)及び(D)は正面図(Y−Z平面図)、図1(C)は上面図(X−Y平面図)である。
【0027】
疲労センサ100は、構造物800に設置される。ここで、設置とは、構造物800における応力の発生に応じて、疲労センサ100においてX方向について応力が発生するように、疲労センサ100が構造物800に固定されることとする。疲労センサ100は、例えば、接着剤によって構造物800に固定される。接着剤は、例えば、シリコーン系接着剤、又はエポキシ系接着剤である。
【0028】
疲労センサ100は、疲労センサ100の疲労検出部110(後述)における破断(疲労破壊)の発生に基づいて、疲労検出部110における疲労度が、予め決定された所定の値を超えたことを検出する。ここで、疲労は、疲労検出部110において、X方向について付与された繰返し応力によって進行することとする。疲労度は、例えば、マイナー則における疲労損傷度である。この場合には、疲労検出部110が破断に至る疲労度は1である。或いは、例えば、疲労検出部110における繰返し応力の大きさ(以下、「繰返し応力値」と称す;繰返し応力値は、例えば、繰返し応力の振幅)が一定であると見做せる場合には、疲労度は、疲労検出部110において繰返し応力が発生した回数(以下、「繰返し数」と称す)の、疲労検出部110が破断に至る繰返し数(以下、「破断繰返し数」と称す)に対する比率である。この場合にも、疲労検出部110が破断に至る疲労度は1である。
【0029】
構造物800における疲労度と、構造物800に設置された疲労センサ100における疲労度との関係が予め分かっていることとする。ここで、構造物800における疲労度は、疲労センサ100における疲労度と同様に定義されることとする。例えば、構造物800における疲労度が疲労センサ100における疲労度の50パーセントであるという関係が分かっていればよい。このような関係は、例えば、構造物800に設置された疲労センサ100、及び構造物800に対する疲労試験(S−N曲線を測定する試験)によって測定できる。例えば、構造物800に設置された疲労センサ100、及び構造物800における繰返し応力値が、それぞれ一定であると見做せる場合には、それぞれの繰返し応力値において破断繰返し数が測定される。
【0030】
つまり、疲労センサ100における疲労度が予め決定された所定の値を超えた際に、構造物800における疲労度を推定することが可能である。例えば、構造物800における疲労度が疲労センサ100における疲労度の50パーセントである場合には、疲労センサ100において破断が検出された際の、構造物800における疲労度は50パーセントである。疲労センサ100は、疲労検出部110と、引張力付与部120と、引張力調節部150と、破断検出部170とを含む。
【0031】
疲労検出部110は、疲労センサ100が構造物800に設置された状態において繰返し応力が発生することにより破断する。疲労検出部110は、X方向に垂直な断面における断面積が一定な、棒状の部材(棒材)(図1(A)乃至(C))である。疲労検出部110は、X方向に垂直な断面における断面積が一定な、板状の部材(板材)(図1(D))であってもよい。疲労検出部110は、例えば、単一金属製又は合金製である。疲労検出部110は、X方向に平行な辺にノッチ(切り込み、窪み、又は溝)が形成されていてもよい。ノッチは、例えば、辺に形成された半円形の窪みである。ノッチの形成により、疲労検出部110の破断繰返し数が減少する。又、疲労検出部110は、焼鈍されていてもよい。焼鈍により、疲労検出部110における残留応力がほぼ零になるので、疲労検出部110の破断繰返し数が増加する。
【0032】
引張力付与部120は、X方向について疲労検出部110に引張力を付与する。引張力付与部120は、図1では、例えば、付勢部121と、台座130と、台座140と、調節軸151と、ガイド160とを含む。
【0033】
付勢部121は、疲労検出部110をX方向について引張する向きに付勢する。付勢部121は、図1では、例えば、X方向に伸縮する巻きバネである。
【0034】
台座130は、図1では、例えば、X方向を厚み方向とする絶縁体製の板材である。台座130は、下底面(Z−側)に設けられた凹部133のZ+側の面において疲労検出部110の一端に接続(接着等)されている。台座130は、下底面において構造物800に接続(接着等)される。台座130には、X方向に、貫通孔131と、貫通孔132とが形成されている。
【0035】
台座140は、図1では、例えば、X方向を厚み方向とする絶縁体製の板材である。台座140は、下底面(Z−側)に設けられた凹部(不図示)のZ+側の面において疲労検出部110の他端に接続(接着等)されている。台座140は、下底面において構造物800に接続(接着等)される。台座140には、X方向に、ネジ穴141と、ネジ穴142とが形成されている。
【0036】
調節軸151は、付勢部121により付勢された力を台座140に伝達すると共に、引張力付与部120が疲労検出部110に引張力を付与する方向をX方向に制限する。調節軸151には、図1では、例えば、ネジ部152と、仕切板153とが形成されている。調節軸151は、ネジ部152(X−側の端部)においてネジ穴141に螺進可能に係合し、付勢部121(巻きバネ)を貫通した後にX+側の端部において貫通孔131に摺動可能に係合する。ここで、ネジ部152は、ネジ穴141に対するX方向における各位置において、ネジ部152とネジ穴141との間の摩擦力によって保持される。仕切板153は、付勢部121(巻きバネ)のX−側の端部を係止する。付勢部121(巻きバネ)のX+側の端部は、台座130によって係止される。
【0037】
ガイド160は、調節軸151と共に、引張力付与部120が疲労検出部110に引張力を付与する方向をX方向に制限する。ガイド160は、図1では、例えば、X−側の端部においてネジ穴142にネジ止めされ、X+側の端部において貫通孔132に摺動可能に係合する。
【0038】
引張力調節部150は、引張力付与部120(図1では付勢部121)の形状を制約することによって、疲労検出部110に付与される引張力を所望の引張力値に調節する。引張力調節部150は、図1では、例えば、引張力付与部120における、調節軸151の仕切板153と、調節軸151のネジ部152とによって実現される。即ち、引張力調節部150は、仕切板153が調節軸151の回りに回転させられることによって、ネジ部152を台座140に対してX方向について移動させる。
【0039】
破断検出部170は、疲労検出部110における破断を検出する。破断検出部170は、図1では、例えば、導電体によって形成され、破断時に電流が遮断される疲労検出部110を含む。破断検出部170は、外部の検出用回路(不図示)によって疲労検出部110における電流の導通を監視されることによって、疲労検出部110における破断を検出可能である。破断検出部170は、疲労検出部110における電流の導通を監視するために、疲労検出部110の両端に形成(例えば、はんだ付け)された、配線材181と配線材182とを含んでもよい。配線材181、182の疲労検出部110と接続されていない端には、外部の検出用回路が接続される。
【0040】
本実施形態における変形例について説明する。
【0041】
図2は、本発明の第1の実施形態における疲労センサの変形例を示す2面図である。図2(A)は側面図(X−Z平面図)、図1(B)は正面図(Y−Z平面図)である。但し、図2(A)では、破断検出部171及び疲労検出部110の一部(点線で囲んだ箇所)を透視して図示している。
【0042】
本変形例における疲労センサ101では、破断検出部171は、張力センサ190を含む(図2(A)及び(B))。張力センサ190は、凹部133のZ+側の面に設置(接着等)されている。張力センサ190は、X+側の一端に配線材183を含む。疲労検出部110のX+側の端部は、張力センサ190のZ−側の面に接続(接着等)される。疲労検出部110には、X方向について十分な引張力が予め付加されていることとする。そして、疲労検出部110の破断時には、張力センサ190の出力が特定の値(例えば零)に変化することとする。破断検出部171は、外部の検出用回路(不図示)によって張力センサ190における出力を監視されることによって、疲労検出部110における破断を検出可能である。張力センサ190は、例えば、金属歪ゲージ、又は半導体歪ゲージである。尚、張力センサ190については当業者に広く知られているので、ここでは詳述しない。本変形例では、台座130又は台座140は、伝導体製であってもよい。
【0043】
本実施形態における動作について説明する。
【0044】
図3は、本発明の第1の実施形態における疲労センサの製造方法を示すフローチャートである。尚、図3に示すフローチャート及び以下の説明は一例であり、適宜求める処理に応じて、処理順等を入れ替えたり、処理を戻したり、又は処理を繰り返したりしてもよい。
【0045】
図3を参照して、本実施形態における疲労センサ100の製造方法について説明する。
【0046】
まず、疲労検出部110の内部応力を、所定の内部応力値に調節する(ステップS110)。疲労検出部110は、例えば、冷間圧延によって形成される。疲労センサ100の感度について、より広範なバリエーションが必要な場合には、形成後の疲労検出部110に対する、ノッチ形成の有無、焼鈍の有無等の後処理の違いにより、疲労検出部110のバリエーションが用意されてもよい。ここで、疲労検出部110のサンプルに対して疲労試験が行われることによって、疲労検出部110の疲労特性(S−N曲線の一部)が既知であることとする。疲労検出部110に複数のバリエーションがある場合には、あるバリエーションに関する既知の疲労特性と、別のバリエーションに対する内部応力の測定結果等とに基づいて、別のバリエーションに関する疲労特性が推定されてもよい。
【0047】
次に、疲労検出部110、引張力付与部120、引張力調節部150、及び破断検出部170から、疲労センサ100を組み立てる(ステップS120)。
【0048】
続いて、引張力調節部150を調節することによって疲労検出部110に付与される引張力を所望の引張力値に調節する(ステップS130)。ここで、疲労センサ105の感度についてバリエーションが必要な場合には、引張力付与部120(図1では付勢部121)の形状を変化させる力を調節して各バリエーションを製造する。例えば、疲労検出部110に付与される引張力と、疲労センサ100のバリエーションを製造する際のパラメータとの関係は、疲労センサ100のサンプルに対する疲労試験等によって既知であることとする。そして、疲労センサ100のサンプルを製造する際に、例えば、引張力付与部120の形状(図1では付勢部121の長さ)や、引張力付与部120に与える外力等の製造パラメータを記録しておくこととする。そうすると、疲労センサ100のバリエーションを製造する際に、記録した製造パラメータを再現すれば、サンプルと同じ疲労特性を有する疲労センサ100のバリエーションを製造できる。あるいは、cosα法(後述)等を用いて、製造された疲労センサ100における残留応力を測定して、個々の疲労センサ100の感度を決定してもよい。
【0049】
以上の動作により、疲労センサ100を製造することができる。ここで、例えば、疲労検出部110の冷間圧延後における焼鈍の有無、及びノッチ形成の有無を変化させることにより、疲労検出部110の疲労特性にバリエーションを持たせることができる。又、引張力付与部120(付勢部121)の形状を変化させる力を調節して、疲労検出部110に対する引張力(残留応力)を変化させることによって、疲労検出部110の疲労特性にバリエーションを持たせることができる。その結果、疲労検出部110の疲労特性が異なる疲労センサ100を容易に製造することができる。
【0050】
一般的に、材料の、材質、形状、又は状態等が異なると、材料の破断繰返し数が異なる。疲労検出部110に対する、焼鈍の省略、ノッチ形成、及び引張力の上昇等は、疲労検出部110における破断繰返し数を低下させる。疲労センサ100は、疲労検出部110の破断により疲労が所定の値に達したことを検出する。つまり、疲労検出部110に対する、焼鈍の省略、ノッチ形成、及び引張力の上昇は、疲労センサ100の感度を高める(但し、感度の値は減少する)。
【0051】
図1を再び参照して、本実施形態における疲労センサ100が疲労を検出する動作について説明する。
【0052】
以下の説明では、簡単のために、構造物800において何らかの頻度で所定の繰返し応力値を有する繰返し応力が発生することとする。そして、当該繰返し応力が発生した繰返し数が構造物800の破断繰返し数に達すると、構造物800において破断が発生することとする。又、構造物800に設置された疲労センサ100において、構造物800において発生した繰返し応力に対応して、構造物800における頻度と同じ頻度で、別の所定の繰返し応力値を有する繰返し応力が発生することとする。そして、繰返し数が疲労検出部110の破断繰返し数に達すると、疲労センサ100の疲労検出部110において破断が発生することとする。
【0053】
●まず、疲労センサ100を構造物800に設置する。疲労センサ100は、例えば、シリコーン系接着剤によって構造物800に固定される。その結果、疲労センサ100において、構造物800において発生する繰返し応力に対応して、繰返し応力が発生する。
【0054】
●疲労センサ100では、製造時に決定された感度(所定の繰返し応力値が発生した際の破断繰返し数)に応じて、疲労検出部110が破断される。ここで、構造物800の疲労特性に応じて、構造物800には感度が異なる複数の疲労センサ100が設置されてもよい。例えば、構造物800の破断繰返し数の、50パーセントの感度を有する疲労センサ100と、70パーセントの感度を有する疲労センサ100とが構造物800に設置されてもよい。
【0055】
●疲労センサ100では、破断検出部170に流された微小電流を検出することによって、疲労検出部110における破断が検出される。
【0056】
このように、構造物800の疲労特性に応じた感度の疲労センサ100を設置することによって、構造物800の疲労を監視することができる。例えば、感度の異なる複数の疲労センサ100を構造物に設置することによって、構造物800における疲労の進行を監視(測定)することができる。そして、構造物800の保守者は、例えば、構造物800における破断繰返し数の50パーセントの繰返し数が検出された以降に検査間隔を短くし、構造物800における破断繰返し数の70パーセントの繰返し数が検出された際に構造物800の交換、または改修を行う。
【0057】
図2の変形例の疲労センサ101の動作は、疲労センサ100の動作と同様である。
【0058】
以上説明したように、本実施形態における疲労センサ100は、疲労検出部110と、引張力付与部120と、引張力調節部150と、破断検出部170とを含む。引張力付与部120は、疲労検出部110に引張力を付与する。引張力調節部150は、引張力付与部120の形状を制約することによって、疲労検出部110に付与される引張力を所望の引張力値に調節する。つまり、疲労センサ100では、同じ疲労特性を有する疲労検出部110を用いた場合であっても、疲労検出部110に付与される引張力を調節することにより、疲労センサ100の感度に関するバリエーションを増やすことが可能である。従って、本実施形態における疲労センサ100には、容易に所望の感度に設定できる疲労センサ100を提供することができるという効果がある。本効果は、疲労センサ101においても同じである。
【0059】
又、本実施形態における疲労センサ100では、疲労検出部110を製造する際に、焼鈍の有無やノッチ形成の有無等により、疲労センサ100の感度を変化させることができる。従って、本実施形態における疲労センサ100には、疲労センサ100の感度に関するバリエーションを更に増やすことが容易であるという効果がある。本効果は、疲労センサ101においても同じである。
【0060】
又、本実施形態における疲労センサ100では、破断検出部170が、導電体によって形成され、破断時に電流が遮断される疲労検出部110を含む場合には、部品点数が少なくて済む。従って、疲労センサ100の製造コストを更に低減できるという効果がある。
【0061】
本実施形態における疲労センサ100又は101は、疲労のうち、特に、熱疲労を検出するために用いられてもよい。熱疲労は、熱応力に起因する疲労である。一般的に、構造物800は、温度変化に伴い変形(熱歪:熱膨張又は熱収縮)を起こす。熱応力は、構造物800の自由な変形が拘束された際に、熱歪に対応して構造物800の内部に発生する応力である。但し、構造物800が、複数の素材から成る場合、不均一な素材から成る場合、又は温度が不均一である場合には、構造物800の自由な変形が外部から拘束されていなくても、構造物800の内部に熱応力が発生し得る。即ち、構造物800は、温度変化に伴い、X方向について伸縮してもよい。
(第2の実施形態)
次に、本発明の第1の実施形態を基本とする、本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態における疲労センサでは、付勢部は板バネである。又、本実施形態では、疲労センサの製造方法についてより詳細に説明する。
【0062】
本実施形態における構成について説明する。
【0063】
図4は、本発明の第2の実施形態における疲労センサの構成の一例を示す3面図である。図4(A)は側面図(X−Z平面図)、図4(B)は正面図(Y−Z平面図)、図4(C)は上面図(X−Y平面図)である。但し、図4(B)及び図4(C)は、引張力調節部155を取り除いた状態を示す。
【0064】
本実施形態における疲労センサ105は、構造物800に設置される。疲労センサ105は、熱疲労、又は熱疲労以外の疲労を検出する。以下の説明では、疲労センサ105が熱疲労を検出する場合には、構造物800は、温度変化に伴い、X方向について伸縮することとする。即ち、疲労センサ105は、疲労を検出する際に(疲労は熱疲労であってもよい)、構造物800の伸縮に応じて疲労センサ100がX方向について伸縮することとする。疲労センサ105は、疲労検出部1と、引張力付与部125と、引張力調節部155と、破断検出部175とを含む。
【0065】
疲労検出部1は、疲労センサ105が構造物800に設置された状態において、X方向について繰返し応力が印加されることにより破断する。疲労検出部1は、X方向に垂直な断面における断面積が一定な、伝導体製の板材(箔を含む)である。疲労検出部1の厚みは、例えば、20乃至30マイクロメートルである。疲労検出部1は、例えば、銀製、無酸素銅製、又は合金製である。疲労検出部1は、X方向に平行な辺にノッチが形成されていてもよい。
【0066】
疲労センサ105が熱疲労を検出する場合には、X方向について、疲労センサ105を構成する各部の線膨張係数、特に疲労検出部1の線膨張係数は、構造物800の線膨張係数と異なっている必要があり、例えば、零に十分近いことが望ましい。
【0067】
引張力付与部125は、X方向について疲労検出部1に引張力を付与する。引張力付与部125は、付勢部23と、薄板2と、薄板3と、薄板4とを含む。
【0068】
付勢部23は、疲労検出部1をX方向について引張する向きに付勢する。付勢部23は、X方向に平行な断面における形状が略半円形に屈曲した板バネである。付勢部23の断面形状は、略半円形に限定されないが、応力が均一に分散される略半円形が好適である。付勢部23(略半円形部分)のZ方向における高さは、薄板2の厚み等にもよるが、例えば、200マイクロメートル以下である。付勢部23は、例えば、銀製、無酸素銅製、又は合金製である。
【0069】
薄板2は、平板部21と、平板部22と、X方向について平板部21と平板部22との中間に形成された付勢部23とを含む。薄板2の平板部21及び平板部22における厚みは、疲労検出部1の厚み等にもよるが、例えば、20乃至30マイクロメートルである。薄板2は、例えば、銀製、無酸素銅製、又は合金製である。
【0070】
薄板3は、X方向について薄板2よりも短い絶縁体製の板材である。薄板3の厚みは、疲労検出部1の厚み等にもよるが、例えば、200マイクロメートル程度である。薄板3は、例えば、セラミックス製である。薄板3は、溶接点32において平板部21に平行に重ね合わせられた状態で溶接されている。薄板3は、溶接点31において疲労検出部1の一端に平行に重ね合わせられた状態で溶接されている。溶接点32及び溶接点31は、スパッタリング又は真空蒸着等により薄板3に溶接可能に形成された金属層である。
【0071】
薄板4は、X方向について薄板2よりも短い絶縁体製の板材である。薄板4の厚みは、薄板3の厚みと同じである。X方向について、薄板3と薄板4とを合わせた長さは、薄板2の長さよりも短い。即ち、動作時に薄板3と薄板4とが衝突しないように、薄板3と薄板4との間には、間隙が存在する。薄板4は、例えば、セラミックス製である。薄板4は、溶接点42において平板部22に平行に重ね合わせられた状態で溶接されている。薄板4は、溶接点41において疲労検出部1の他端に平行に重ね合わせられた状態で溶接されている。溶接点42及び溶接点41は、スパッタリング又は真空蒸着等により薄板4に溶接可能に形成された金属層である。
【0072】
引張力調節部155は、付勢部23の形状を制約することによって、疲労検出部1に付与される引張力を所望の引張力値に調節する。引張力調節部155は、カバー5と、充填材6とを含む。本発明における第1の実施形態と同様に、疲労検出部1に付与される引張力と、疲労センサ105のバリエーションを製造する際のパラメータとの関係は、疲労センサ105のサンプルに対する疲労試験等によって既知であることとする。そして、疲労センサ105のサンプルを製造する際に、例えば、引張力付与部125の形状(図4では、付勢部23のX方向における長さ若しくはZ方向における高さ、又は薄板3と薄板4との間のX方向における距離)や、引張力付与部125に与える外力(例えば、錘の重さ)等の製造パラメータを記録しておくこととする。そうすると、疲労センサ105のバリエーションを製造する際に、記録した製造パラメータを再現すれば、サンプルと同じ疲労特性を有する疲労センサ105のバリエーションを製造できる。あるいは、cosα法(後述)等を用いて、製造された疲労センサ105における残留応力を測定して、個々の疲労センサ105の感度を決定してもよい。
【0073】
カバー5は、付勢部23に係止された状態においてZ−方向へ押圧されることによって付勢部23の形状を変化させる(押し広げる)。カバー5が付勢部23を押圧する強さに応じて、疲労検出部1に付与される引張力(プリストレス、残留応力)が決まる。カバー5の厚みは、薄板2の厚み等にもよるが、例えば、100マイクロメートル程度である。カバー5は、例えば、ガラス製である。カバー5は、透明又は半透明であることが望ましい。
【0074】
充填材6は、カバー5と引張力付与部125との間隙に充填されることによって、カバー5が付勢部23に係止するように押圧された状態を保持する。充填材6は、例えば、シリコーン系接着剤(樹脂)である。充填材6が樹脂である場合には、充填材6は付勢部23及び薄板2の酸化等を防止することができる。充填材6は、透明又は半透明であることが望ましい。充填材6とカバー5とが共に透明又は半透明であれば、疲労センサ105の製造時に、付勢部23の状態を目視又はカメラ等により確認可能なので、疲労センサ105の不良を判別することが容易である。
【0075】
破断検出部175は、疲労検出部1における破断を検出する。破断検出部175は、導電体によって形成され、破断時に電流が遮断される疲労検出部1を含む。破断検出部175は、外部の検出用回路(不図示)によって疲労検出部1における電流の導通を監視されることによって、疲労検出部1における破断を検出可能である。破断検出部175は、疲労検出部1における電流の導通を監視するために、例えば、疲労検出部1の両端に形成(例えば、はんだ付け)された、配線材181と配線材182とを含んでもよい。配線材181、182の疲労検出部1と接続されていない端には、外部の検出用回路が接続される。
【0076】
本実施形態における他の構成は、第1の実施形態における構成と同じである。
【0077】
本実施形態における動作について説明する。
【0078】
図5は、本発明の第2の実施形態における疲労センサの製造方法を示すフローチャートである。但し、図5は、図3に示した、本発明の第1の実施形態における疲労センサの製造方法を示すフローチャートにおけるステップS130の詳細を示す。尚、図5に示すフローチャート及び以下の説明は一例であり、適宜求める処理に応じて、処理順等を入れ替えたり、処理を戻したり、又は処理を繰り返したりしてもよい。
【0079】
図6は、本発明の第2の実施形態における疲労センサの製造方法を説明する側面図(X−Z平面図)である。ここで、図6(A)、(B)、(C)の順に、付勢部23を押し広げる力が大きくなっている。
【0080】
図3図5、及び図6を参照して、本実施形態における疲労センサ105の製造方法について説明する。
【0081】
まず、疲労検出部1の内部応力を、所定の内部応力値に調節する(ステップS110)。
【0082】
次に、疲労検出部1、引張力付与部125、引張力調節部155、及び破断検出部175から、疲労センサ105を組み立てる(ステップS120)。詳細は、例えば、以下の通りである。
【0083】
●疲労検出部1を、薄板3及び薄板4に溶接する。
【0084】
●薄板2を、疲労検出部1が溶接された面の反対の面において、薄板3及び薄板4に溶接する。
【0085】
●配線材181及び配線材182をそれぞれ、疲労検出部1の両端の何れかにはんだ付けする。
【0086】
●カバー5を、薄板2に重ね合わせた状態において、付勢部23を押し広げるように押圧する。
【0087】
続いて、引張力調節部155を調節することによって疲労検出部1に付与される引張力を所望の引張力値に調節する(ステップS130)。ここで、疲労センサ105の感度についてバリエーションが必要な場合には、付勢部23を押し広げる力を調節して各バリエーションを製造する(図6)。詳細は、例えば、以下の通りである。
【0088】
●所定の押圧力でカバー5に対するZ+側から押圧を開始する(図5におけるステップS210)。ここで、例えば、カバー5のZ+側に錘を載せることによって、所定の押圧力で付勢部23を押し広げ、その結果、疲労検出部1を所定の引張力値で引張する。
【0089】
●充填材6をカバー5と引張力付与部125との間に注入する(図5におけるステップS220)。この操作により、疲労検出部1に対する引張力の固定を開始する。
【0090】
●充填材6の硬化を待つ(図5におけるステップS230)。その結果、疲労検出部1に対する引張力が固定される。
【0091】
●カバー5に対するZ+側から押圧を終了する(図5におけるステップS240)。その結果、疲労検出部1に、所望の引張力が付与される。
【0092】
以上の動作により、疲労センサ105を製造することができる。ここで、疲労検出部1の冷間圧延後における焼鈍の有無、及びノッチ形成の有無等を変化させることにより、疲労検出部1の疲労特性にバリエーションを持たせることができる。又、カバー5に対する押圧力を調節して、疲労検出部1に対する引張力(残留応力)を変化させることによって、疲労検出部1の疲労特性にバリエーションを持たせることができる。その結果、疲労検出部1の疲労特性が異なる疲労センサ105を容易に製造することができる。
【0093】
次に、本実施形態における疲労センサ105が疲労を検出する動作について説明する。
【0094】
図7は、本発明の第2の実施形態における疲労センサの動作を示す側面図(X−Z平面図)である。ここで、図7(A)は疲労センサ105が収縮した状態を示し、図7(B)は疲労センサ105が伸張した状態を示す。
【0095】
以下の説明では、簡単のために、構造物800において何らかの頻度で所定の繰返し応力値を有する繰返し応力が発生することとする。そして、当該繰返し応力が発生した繰返し数が構造物800の破断繰返し数に達すると、構造物800において破断が発生することとする。又、構造物800に設置された疲労センサ105において、構造物800において発生した繰返し応力に対応して、構造物800における頻度と同じ頻度で、別の所定の繰返し応力値を有する繰返し応力が印加されることとする。そして、繰返し数が疲労検出部1の破断繰返し数に達すると、疲労センサ105の疲労検出部1において破断が発生することとする。
【0096】
●まず、疲労センサ105を構造物に設置する。疲労センサ105は、例えば、構造物800にシリコーン系接着剤によって構造物800に固定される。その結果、疲労センサ105において、構造物800において発生する繰返し応力に対応して、繰返し応力が発生する(図7)。
【0097】
●疲労センサ105では、製造時に決定された感度(所定の繰返し応力値が発生した際の破断繰返し数)に応じて、疲労検出部1が破断される。ここで、構造物800の疲労特性に応じて、構造物800には感度が異なる複数の疲労センサ105が設置されてもよい。例えば、構造物800の破断繰返し数の、50パーセントの感度を有する疲労センサ105と、70パーセントの感度を有する疲労センサ105とが構造物800に設置されてもよい。
【0098】
●疲労センサ105では、破断検出部175に流された微小電流を検出することによって、疲労検出部1における破断が検出される。
【0099】
このように、構造物800の疲労特性に応じた感度の疲労センサ105を設置することによって、構造物800の疲労を監視することができる。例えば、感度の異なる複数の疲労センサ105を構造物800に設置することによって、構造物800における疲労の進行を監視することができる。
【0100】
上述した疲労検出部1における内部応力値の調節(図3におけるステップS110)について説明を補足する。例えば、焼鈍等により残留応力がない疲労検出部1のS−N曲線が試験等により予め分かっていることとする。例えば、冷間圧延後に焼鈍することにより、残留応力を除去することができる。このS−N曲線と、同じ材質の別の疲労検出部1における(例えば、冷間圧延回数に応じた)残留応力とに基づいて、この別の疲労検出部1におけるS−N曲線を推定する(残留応力の大きさだけS−N曲線をグラフにおける下方へ移動する)ことが可能である。即ち、残留応力の異なる疲労検出部1は、疲労検出部1の疲労特性にバリエーションを持たせるために利用できる。又、疲労検出部1のX方向に平行な辺にノッチを形成することにより、同一な残留応力を持つ疲労検出部1に比べて感度を高める(S−N曲線をグラフにおける下方へ移動する)こと(応力集中効果)が可能である。又、疲労検出部1の材質が銀や無酸素銅のような単一金属である場合には、cosα法を用いた表面残留応力の測定が可能である。このような技術を用いることにより、残留応力や形状等の疲労特性が異なる疲労検出部1に関するS−N曲線を推定又は計測することによって、所望の感度を有する疲労検出部1のバリエーションを準備することができる。又、上述した疲労検出部1のバリエーションを元に、付勢部23の形状を変化させることによって、疲労センサ105のバリエーションを更に増やすことができる。
【0101】
本実施形態における他の動作は、第1の実施形態における動作と同じである。
【0102】
以上説明したように、本実施形態における疲労センサ105は、疲労検出部1と、引張力付与部125と、引張力調節部155と、破断検出部175とを含む。引張力付与部125は、疲労検出部1に引張力を付与する。引張力調節部155は、引張力付与部125の形状を制約することによって、疲労検出部1に付与される引張力を所望の引張力値に調節する。つまり、疲労センサ105では、同じ疲労特性を有する疲労検出部1を用いた場合であっても、疲労検出部1に付与される引張力を調節することにより、疲労センサ105の感度のバリエーションを増やすことが可能である。従って、本実施形態における疲労センサ105には、容易に所望の感度に設定できる疲労センサ105を提供することができるという効果がある。
【0103】
又、本実施形態における疲労センサ105には、第1の実施形態における疲労センサ100と同じ効果がある。
【0104】
又、本実施形態における疲労センサ105では、引張力調節部155は、カバー5と、充填材6とを含む。つまり、引張力調節部155は、安価な材料を用いて実現可能である。従って、本実施形態における疲労センサ105には、疲労センサ105の製造コストを低減できるという効果がある。
【0105】
又、本実施形態における疲労センサ105では、引張力付与部125は、平板部21と、平板部22と、X方向について平板部21と平板部22との間に形成された付勢部23とを含む。付勢部23は、X方向に平行な断面における形状が略半円形に屈曲した板バネである。つまり、引張力付与部125は、単純な形状を有するので、製造が容易である。従って、本実施形態における疲労センサ105には、疲労センサ105の製造コストを更に低減できるという効果がある。
【0106】
又、本実施形態における疲労センサ105では、カバー5及び充填材6が共に透明又は半透明である場合には、疲労センサ105の製造時に、付勢部23の状態を目視又はカメラ等により確認可能なので、疲労センサ105の不良を判別することが容易である。つまり、引張力付与部125は、製造時における検査が容易である。従って、本実施形態における疲労センサ105には、カバー5及び充填材6が共に透明又は半透明である場合には、疲労センサ105の製造コストを更に低減できるという効果がある。
【0107】
上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
(付記1)
構造物に設置された状態において繰返し応力が印加されることにより破断する疲労検出部と、
前記疲労検出部に引張力を付与する引張力付与部と、
前記疲労検出部に付与される前記引張力を所望の引張力値に調節する引張力調節部と、
前記疲労検出部における破断を検出する破断検出部と
を備えた疲労センサ。
(付記2)
前記疲労検出部は、第1の方向について、前記繰返し応力が印加されることにより破断する部材であって、
前記引張力付与部は、前記第1の方向について、
一端において前記疲労検出部の一端に接続され、
他端において前記疲労検出部の他端に接続され、
中間において、前記疲労検出部を引張する向きに付勢する付勢部を有する
付記1に記載の疲労センサ。
(付記3)
前記付勢部は、バネであり、
前記引張力調節部は、前記付勢部の形状を制約する
付記2に記載の疲労センサ。
(付記4)
前記引張力付与部は、前記第1の方向に平行な断面における形状が略半円形に屈曲した板バネである前記付勢部が中間に形成された薄板である
付記2又は3に記載の疲労センサ。
(付記5)
前記引張力調節部は、
前記付勢部に係止された状態で押圧されることによって前記付勢部の形状を変化させるカバーと、
前記カバーと前記引張力付与部との間隙に充填されることによって、前記カバーが前記付勢部に係止するように押圧された状態を保持する充填材と
を含む付記3乃至4の何れか1項に記載の疲労センサ。
(付記6)
前記カバーは、透明又は半透明であり、
前記充填材は、透明又は半透明である
付記5に記載の疲労センサ。
(付記7)
前記破断検出部は、導電体によって形成され、破断時に電流が遮断される前記疲労検出部を含む
付記1乃至6の何れか1項に記載の疲労センサ。
(付記8)
前記疲労検出部における前記第1の方向に関する線膨張係数は、前記構造物における前記第1の方向に関する線膨張係数と値が異なる
付記2乃至7の何れか1項に記載の疲労センサ。
(付記9)
前記疲労検出部は、前記第1の方向に平行な辺にノッチが形成されている
付記2乃至8の何れか1項に記載の疲労センサ。
(付記10)
前記疲労検出部は、前記第1の方向に垂直な断面における断面積が一定である、板材又は棒材である
付記2乃至9の何れか1項に記載の疲労センサ。
(付記11)
構造物に設置された状態において繰返し応力が印加されることにより破断する疲労検出部と、
前記疲労検出部に引張力を付与する引張力付与部と、
前記疲労検出部に付与される前記引張力を所望の引張力値に調節する引張力調節部と、
前記疲労検出部における破断を検出する破断検出部と
を備えた疲労センサを用いた疲労測定方法であって、
前記疲労検出部における内部応力値が互いに異なる複数の前記疲労センサを前記構造物に設置し、
各前記疲労センサによって検出された前記破断の有無に基づいて、前記構造物における疲労の進行を監視する
疲労測定方法。
(付記12)
構造物に設置された状態において繰返し応力が印加されることにより破断する疲労検出部と、
前記疲労検出部に引張力を付与する引張力付与部と、
前記疲労検出部に付与される前記引張力を所望の引張力値に調節する引張力調節部と、
前記疲労検出部における破断を検出する破断検出部と
を備えた疲労センサの製造方法であって、
前記疲労検出部における内部応力を所定の内部応力値に調節する内部応力調節ステップと、
前記疲労検出部、前記引張力付与部、前記引張力調節部、及び前記破断検出部から疲労センサを組み立てる組み立てステップと、
前記引張力調節部を調節することによって前記疲労検出部に付与される前記引張力を所望の引張力値に調節する引張力調節ステップと
を備えた、疲労センサの製造方法。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明は、所定の繰返し応力値において破断に至る繰返し数の異なる複数の疲労センサを構造物(橋梁、航空機の機体等)に貼りつけることにより、疲労(例えば、熱疲労)における応力(例えば、熱応力)の繰返し数を測定し、測定結果に応じた適切な間隔で保守を実行する用途において利用できる。
【符号の説明】
【0109】
100、101 疲労センサ
110 疲労検出部
120 引張力付与部
121 付勢部
130、140 台座
133 凹部
131、132 貫通孔
141、142 ネジ穴
150 引張力調節部
151 調節軸
152 ネジ部
153 仕切板
160 ガイド
170、171 破断検出部
800 構造物
105 疲労センサ
1 疲労検出部
125 引張力付与部
2 薄板
21、22 平板部
23 付勢部
3 薄板
31、32 溶接点
4 薄板
41、42 溶接点
155 引張力調節部
5 カバー
6 充填材
175 破断検出部
181 配線材
182 配線材
190 張力センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7