特許第6640939号(P6640939)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6640939
(24)【登録日】2020年1月7日
(45)【発行日】2020年2月5日
(54)【発明の名称】心電解析システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/0452 20060101AFI20200127BHJP
   A61B 5/0402 20060101ALI20200127BHJP
   A61N 1/39 20060101ALI20200127BHJP
【FI】
   A61B5/04 312A
   A61B5/04 310M
   A61N1/39
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-147943(P2018-147943)
(22)【出願日】2018年8月6日
【審査請求日】2018年8月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】518280608
【氏名又は名称】畑中 哲生
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】特許業務法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】畑中 哲生
【審査官】 磯野 光司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−339533(JP,A)
【文献】 特開2014−124345(JP,A)
【文献】 特開2003−204947(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0197380(US,A1)
【文献】 特開平08−322952(JP,A)
【文献】 Yong Xia et al.,Detecting atrial fibrillation by deep convolutional neural networks,Computers in Biology and Medicine,2018年 2月 1日,Vol.93,pp.84-92,DOI:10.1016/j.compbiomed.2017.12.007
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/04−5/0496
A61N 1/00−1/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
医中誌WEB
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
胸骨圧迫中の患者に対する電気ショックの必要性を判別する心電解析システムであって、
前記患者から体表心電図信号を取得する心電図信号取得手段と、
前記体表心電図信号をデジタルサンプリングして、心電図離散データに変換する心電図信号サンプリング手段と、
前記心電図離散データを心電図スペクトログラムに変換するスペクトログラム変換手段と、
入力された前記心電図スペクトログラムに対する電気ショックの必要性についての判別結果を出力する畳み込みニューラルネットワークと、
前記判別結果に応じて、前記患者への電気ショックの必要性に関する報知を行う電気ショック適応報知手段を備え、
前記畳み込みニューラルネットワークは、胸骨圧迫中の多数の被検者から取得したサンプル体表心電図信号を前記心電図信号サンプリング手段及び前記スペクトログラム変換手段と同じ条件で変換して得られたサンプル心電図スペクトログラムと、それぞれのサンプル心電図スペクトログラムに対する電気ショックの必要性についてのサンプル回答データからなるサンプルデータが予め与えられ、自己学習させることによって最適化されており、
前記スペクトログラム変換手段が、所定時間の心電図離散データを、一定の時間差で、それぞれ特定時間の微小区間に分割して短時間フーリエ変換を施し、
前記サンプル心電図スペクトログラムは、時間軸に沿って前記一定の時間差毎に得られる複数行及び周波数軸に沿って得られる複数列のマトリクスデータである
ことを特徴とする心電解析システム。
【請求項2】
前記心電図信号サンプリング手段が、前記体表心電図信号を120〜360Hzのサンプリング周波数でサンプリングする手段と、40〜80Hzのサンプリング周波数でダウンサンプリングする手段からなる
ことを特徴とする請求項1に記載の心電解析システム。
【請求項3】
前記所定時間が4〜20秒間であり
前記一定の時間差が100〜200msの時間差であり
前記特定時間が1〜3秒間である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の心電解析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、胸骨圧迫を含む心肺蘇生中の患者において、自動体外式除細動器(AED: automated external defibrillator)、除細動器あるいは心電計で取得される体表心電図から得られる情報を処理し、心肺蘇生中の患者に対する電気ショックの必要性を、胸骨圧迫の有無に関わらず、事実上、連続的に判別する心電解析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
心停止患者においては、人工的血液循環を作り出すための胸骨圧迫をいかに絶え間なく行うかが生存のための重要な要素であると同時に、およそ2分おきに患者の心電図診断を行い、電気ショックが必要である場合には、できるだけ早急に電気ショックを与えることが重要である。
電気ショックの必要性を見極めるための心電図診断は、医師が心肺蘇生を行う場合には医師による心電図の目視によって行う一方、医師以外の者(看護師・救急隊員や善意の一般市民を含む)が心肺蘇生を行う場合には、AEDの内部に組み込まれた心電図自動診断機能による指示に従って行っている。
そして、体表心電図に心室細動(VF:ventricular fibrillation)及び心拍数が150bmp(場合によっては180bmp)以上の心室頻拍(VT:ventricular tachycardia)が存在していることをもって、電気ショックが必要と判別するのが一般的である。
しかし、医師が診断する場合及び自動診断機能により判別する場合のいずれにおいても、胸骨圧迫中には圧迫に伴う胸郭の変形等に伴って心電図上に大きなノイズが出現するため、一時的に胸骨圧迫を中断し心電図上にノイズが混入しない状況を作り出す必要がある。
このような胸骨圧迫の中断時間は、心肺蘇生に熟練した医師が目視で心電図診断を行う場合でも数秒以上必要であり、心肺蘇生に熟練した医師以外の者がAEDの自動診断に委ねて行う場合には10数秒以上が必要とされているが、複数の研究報告によれば、心電図診断に伴う胸骨圧迫の中断時間が1秒延長するごとに、当該患者の生存率は2.5〜3%ずつ低下するとされている。
【0003】
そのため、心電図診断のために必要な胸骨圧迫の中断時間を短縮することを目的として、様々な波形判別方法が複数の研究機関やAED製造企業から提案されている。
このような提案の代表的なものとしてノイズ・フィルタリングがある。これは心電図上から、胸骨圧迫に伴うノイズであると思われる部分をデジタル・フィルター(多くは高速フーリエ変換を用いた周波数解析を基本とする)によって取り除き、ノイズに汚染されていない生波形を再現しようとするものである。
そして、特許文献1(特表2017−525410号公報)には、この種の発明として心電図信号(ECG信号)において心臓の活動に由来する本来の心電図(特許文献1においては、「心イベント」と記載)をノイズと区別するための方法(請求項28参照)が記載されている。
また、特許文献2(特表2018−500092号公報)には、胸骨圧迫に由来するノイズ(特許文献2においては、「CPR関連信号ノイズアーチファクト」と記載)の存在下で、電気ショックの必要性の有無(特許文献2においては、「ショック適応心律動」と記載)を判断するように動作可能な心電図解析器を備える心肺機能蘇生(CPR)中に使用するAEDの発明(請求項1参照)が記載されている。
しかし、特許文献2に記載された発明の心電図解析器は、約70%を超える感度及び約95%を超える特異度(判別精度)で、ショック適応心律動を判断するように動作可能であるとされ(請求項1)、また、一定のルールの下で場合によっては、感度が95%を超えることができ、特異度が98%を超えることができるとされるが(段落0042)、現実的には95〜98%程度の判別精度しかない心電図解析器がAEDに搭載されることはなく、さらなる判別精度の向上が求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2017−525410号公報
【特許文献2】特表2018−500092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、上記の現状に鑑み、心肺蘇生中の患者に対する電気ショックの必要性を、その患者に対する胸骨圧迫実施の有無に関わりなく99%以上の精度で、事実上、連続的に判別できる心電解析システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するための請求項1に係る発明は、
胸骨圧迫中の患者に対する電気ショックの必要性を判別する心電解析システムであって、
前記患者から体表心電図信号を取得する心電図信号取得手段と、
前記体表心電図信号をデジタルサンプリングして、心電図離散データに変換する心電図信号サンプリング手段と、
前記心電図離散データを心電図スペクトログラムに変換するスペクトログラム変換手段と、
入力された前記心電図スペクトログラムに対する電気ショックの必要性についての判別結果を出力する畳み込みニューラルネットワークと、
前記判別結果に応じて、前記患者への電気ショックの必要性に関する報知を行う電気ショック適応報知手段を備え、
前記畳み込みニューラルネットワークは、胸骨圧迫中の多数の被検者から取得したサンプル体表心電図信号を前記心電図信号サンプリング手段及び前記スペクトログラム変換手段と同じ条件で変換して得られたサンプル心電図スペクトログラムと、それぞれのサンプル心電図スペクトログラムに対する電気ショックの必要性についてのサンプル回答データからなるサンプルデータが予め与えられ、自己学習させることによって最適化されており、
前記スペクトログラム変換手段が、所定時間の心電図離散データを、一定の時間差で、それぞれ特定時間の微小区間に分割して短時間フーリエ変換を施し、
前記サンプル心電図スペクトログラムは、時間軸に沿って前記一定の時間差毎に得られる複数行及び周波数軸に沿って得られる複数列のマトリクスデータであることを特徴とする。
【0007】
上記の課題を解決するための請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明の心電解析システムにおいて、前記心電図信号サンプリング手段が、前記体表心電図信号を120〜360Hzのサンプリング周波数でサンプリングする手段と、40〜80Hzのサンプリング周波数でダウンサンプリングする手段からなることを特徴とする。
【0008】
上記の課題を解決するための請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係る発明の心電解析システムにおいて、前記所定時間が4〜20秒間であり前記一定の時間差が100〜200ミリ秒(以下、「ms」と記載する。)の時間差であり前記特定時間が1〜3秒間であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る発明の心電解析システムは、患者から取得した体表心電図信号をデジタルサンプリングして心電図離散データに変換し、さらに心電図スペクトログラムに変換するとともに、
入力された心電図スペクトログラムに対する電気ショックの必要性についての判別結果を出力する畳み込みニューラルネットワークと、その判別結果に応じて、患者への電気ショックの必要性に関する報知を行う電気ショック適応報知手段を備え、
畳み込みニューラルネットワークは、胸骨圧迫中の多数の被検者から取得したサンプル体表心電図信号を心電図信号サンプリング手段及びスペクトログラム変換手段と同じ条件で変換して得られたサンプル心電図スペクトログラムと、それぞれのサンプル心電図スペクトログラムに対する電気ショックの必要性についてのサンプル回答データからなるサンプルデータが予め与えられ、自己学習させることによって最適化されており、
スペクトログラム変換手段が、所定時間の心電図離散データを、一定の時間差で、それぞれ特定時間の微小区間に分割して短時間フーリエ変換を施し、
サンプル心電図スペクトログラムは、時間軸に沿って一定の時間差毎に得られる複数行及び周波数軸に沿って得られる複数列のマトリクスデータであるので、心肺蘇生中の患者に対する電気ショックの必要性を、その患者に対する胸骨圧迫実施の有無に関わりなく体表心電図信号を取得することにより、99%以上の精度で判別することができる。
【0010】
請求項2に係る発明の心電解析システムは、請求項1に係る発明が奏する上記の効果に加え、心電図信号サンプリング手段が、体表心電図信号を120〜360Hzのサンプリング周波数でサンプリングする手段と、40〜80Hzのサンプリング周波数でダウンサンプリングする手段からなっているので、心電図波形に含まれる情報を損なうことなく、計算処理に必要な時間を短縮することができる。
【0011】
請求項3に係る発明の心電解析システムは、請求項1又は2に係る発明の心電解析システムが奏する上記の効果に加え、所定時間が4〜20秒間であり一定の時間差が100〜200msの時間差であり特定時間が1〜3秒間であって、畳み込みニューラルネットワークによる心電図の判別を行う。
そして、このような判別に必要な一連の処理は一般的なコンピュータを使う場合、約100msごとに繰り返し行うことができるので、心肺蘇生のための胸骨圧迫を受けている患者に対する電気ショックの必要性を、胸骨圧迫実施の有無に関わりなく、事実上、連続的・リアルタイムに精度よく判別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例の心電解析システムのブロック図。
図2】心電図離散データの処理方法についての説明図。
図3】心電図スペクトログラムの例を示す図。
図4】心電解析システムのアルゴリズムを示すフロー図。
図5】判別対象区間の更新についての説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施例によって、本発明の実施の形態を説明する。
【実施例】
【0014】
図1は実施例に係る心電解析システムのブロック図である。
図1に示すように、実施例に係る心電解析システムは、心肺蘇生中の患者Pに装着されたAED、除細動器あるいは心電計等が有する心電図信号取得手段1と、心電図信号取得手段1で取得された体表心電図信号をデジタルサンプリングして、心電図離散データに変換する心電図信号サンプリング手段2と、心電図信号サンプリング手段2から受信した心電図離散データを心電図スペクトログラムに変換するスペクトログラム変換手段3と、畳み込みニューラルネットワーク(CNN:convolutional neural network)4と、畳み込みニューラルネットワーク4から出力される判別結果に基づいて患者Pへの電気ショックの必要性に関する報知を行う電気ショック適応報知手段5からなっている。
【0015】
心電図信号取得手段1で取得される体表心電図信号は、患者Pの体表面に貼付した2つの電極間の電位差として記録されるアナログ信号であるが、心電図信号サンプリング手段2は、心電図判別の対象とする約12秒間のアナログ信号を120〜360Hzのサンプリング周波数でサンプリングし、離散的データに変換する。
ここで、判別対象とするアナログ信号には、胸骨圧迫に伴うノイズ(アーチファクト)が一部又は全体にわたって含まれていてもよいし、全く含まれてなくてもよい。
なお、体表心電図信号を、このような離散的データに変換して出力する機能は市販のAEDに備わっている機能である。
本実施例の心電図信号サンプリング手段2は、体表心電図信号を120〜360Hzのサンプリング周波数でサンプリングして得られた離散的データを、さらに60Hz程度のサンプリング周波数でダウンサンプリングして心電図離散データに変換する。
このようなダウンサンプリングを行う理由は、体表心電図信号には30Hz以上の周波数成分がほとんど含まれていないこと、及び一般的なAEDでは低周波通過フィルターによって30Hz以上の周波数成分が取り除かれていることが多いからである。
そのため、ダウンサンプリングを施した心電図離散データを用いても体表心電図信号に含まれる情報が損なわれることはなく、また、ダウンサンプリングによってデータ量を小さくすることができるので、その後の計算処理に必要な時間を短縮することができる。
【0016】
スペクトログラム変換手段3は、心電図信号サンプリング手段2から心電図離散データを受信すると、短時間フーリエ変換(STFT:short-time Fourier transform)によってスペクトログラムに変換し、心電図スペクトログラムを出力する。
本実施例では、図2に示すように、受信した心電図離散データから約12秒間にわたる範囲を抽出して判別対象区間とする。その判別対象区間から128msの時間差で、約2秒間ずつの微小区間データを分割抽出(重複を許す)し、それぞれの微小区間データに対して短時間フーリエ変換を施すことによって判別対象区間の心電図離散データをスペクトログラムに変換した。
判別対象区間のデータ長、データ抽出の時間差、微小区間のデータ長を上述の通りとした場合、生成されるスペクトログラムは、図3に示すような時間軸に沿って80行、周波数軸に沿って64列のマトリクスデータとなる。
なお、周波数軸に沿った列成分については、そのすべてを用いてもよいし、一部の低周波成分および高周波成分を除いてもよい。
また、判別対象区間を長くした場合、あるいはデータ抽出の時間差を短くした場合には、時間軸方向に沿った行数が増え、微小区間を長くした場合には周波数軸に沿った列数が増える。
【0017】
CNN4は、入力層4I、出力層4O、サンプルデータ蓄積手段4L、サンプルデータ蓄積手段4Lに多数のサンプルデータを入力するサンプルデータ入力手段4T並びに図示しない複数の畳み込み層、プーリング層、BN層(Batch-normalization層)、ドロップアウト層(drop-out層)、全結合層、その他で構築される。
一般には2〜3層の畳み込み層と1層のプーリング層を組み合わせたものを1単位とし、この数単位を直列させたものに、さらに2〜4層の全結合層を組み合わせることが多い。
なお、サンプルデータは、胸骨圧迫中の被検者から取得したサンプル心電図スペクトログラム及びそれぞれのサンプル心電図スペクトログラムに対する電気ショックの必要性についてのサンプル回答データからなるものである。
そして、本発明では多数のサンプルデータを蓄積する必要があるが、現状では胸骨圧迫を中断して電気ショックの必要性を判別する時だけでなく、胸骨圧迫中も被検者から体表心電図信号を取得しているので、両方の状態における体表心電図信号に基づけば、被検者に対するサンプル心電図スペクトログラム及びサンプル回答データは容易に入手できる。
また、BN層及びドロップアウト層は必ずしも必要ないが、ニューラルネットワーク中に挿入することにより、ニューラルネットワーク全体のパフォーマンス向上が期待できる。
【0018】
入力層4Iには、上述の80行、64列のマトリクスデータが与えられる。
また、スペクトログラムとしては、一般的な信号強度(パワーまたはマグニチュード)の二次元配列だけでなく、フーリエ級数の係数として得られる複素数の実数部と虚数部、それぞれの係数を独立した情報として取り扱う目的で、これらを2層の二次元配列とみなして用いることもできる(複素型スペクトログラム)。この場合には信号強度だけでなく、実数部と虚数部の間の位相差に関する情報が保持されるため、判別精度が若干向上するが、判別のための計算に要する時間が延長する。あるいは同様の目的で、複素数型スペクトログラムから得られる信号強度と位相角を、それぞれ独立した情報として2層の二次元配列として用いてもよい(信号強度・位相角スペクトログラム)。
出力層4Oからは、電気ショック適応の判別結果を表すベクトル(1次元行列)データが出力され、その要素数は体表心電図信号を分類する区分数となる。
例えば、体表心電図信号を「電気ショックの適応あり」又は「電気ショックの適応なし」の2つに分類する場合は要素数2、体表心電図信号を「電気ショックの適応あり」、「心静止」又は「無脈性電気活動」の3つに分類する場合は要素数3である。
【0019】
CNN4は、サンプルデータ蓄積手段4Lに蓄えられる多数のサンプルデータ(通常は数万人〜数百万人の被検者から取得したデータ)を自己学習させることによって最適化される。そして、十分な数(通常は数10万以上)のサンプルデータによって最適化されたパラメータを用いることにより99%以上の判別精度を得ることができる。
また、サンプルデータの蓄積数は多いほど判別精度が向上するため、本実施例では、心肺蘇生中の患者に対して電気ショックを施し、蘇生した場合の心電図スペクトログラム及び電気ショック適応データ(適応あり)をサンプルデータとしてサンプルデータ蓄積手段4Lに蓄積できるようになっている。
【0020】
電気ショック適応報知手段5は、CNN4の出力が「電気ショックの適応あり」を示す場合には、患者Pへの電気ショックが必要である旨の報知を行い、同出力が「電気ショックの適応なし」(要素数2)又は「心静止」若しくは「無脈性電気活動」(要素数3)である場合には、患者Pへの電気ショックが必要ない旨の報知を行う。
例えば、画面上に心電図を表示する場合、「電気ショックの適応あり」では心電図を赤色で表示し、「電気ショックの適応なし」等では心電図を緑色で表示する方法、画面上に必要性の有無を表示する場合、「電気ショックの適応あり」では「必要有り」を表示し、「電気ショックの適応なし」等では「必要無し」を表示する方法、音声で知らせる場合「電気ショックの適応あり」では「必要です」と発音させ、「電気ショックの適応なし」等では「必要なし」と発音させる方法などが挙げられる。
【0021】
図4は、上述の手法(アルゴリズム)を示すフロー図であり、以下の手順で電気ショックが必要であるか否か判別し報知する。
(1)体表心電図信号(アナログ信号)を取得する。
(2)判別対象区間(約12秒間)のアナログ信号をデジタルサンプリングする。
120〜360Hzのサンプリング周波数でサンプリングした後、さらに60Hz程度のサンプリング周波数でダウンサンプリングして心電図離散データに変換する。
(3)心電図離散データを、短時間フーリエ変換(STFT)によってスペクトログラムに変換し、心電図スペクトログラムを出力する。
(4)心電図スペクトログラムを畳み込みニューラルネットワークに送る。
(5)畳み込みニューラルネットワークが電気ショックの適応を判別する。
(6)判別結果に基づいた報知(電気ショックが必要又は必要ない旨の報知)を行う。
(7)以後、100〜200msの時間間隔(判別を行うコンピュータの性能によって異なる)で、図5に示すように新たな判別対象区間(約12秒間)について、(2)〜(6)の手順を繰り返すことにより、事実上、連続的・リアルタイムの判別及び報知を行う。
【0022】
実施例の変形例を列記する。
(1)実施例においては、体表心電図信号を120〜360Hzのサンプリング周波数でデジタルサンプリングされたデータを60Hz程度のサンプリング周波数でダウンサンプリングして心電図離散データに変換しているが、ダウンサンプリングしなくても良い。
また、体表心電図信号を直接60Hz程度のサンプリング周波数でサンプリングして心電図離散データに変換しても良い。
さらに、ダウンサンプリングにおけるサンプリング周波数は60Hzに限らず、40〜80Hzの範囲で選択できる。
【0023】
(2)実施例においては、約12秒間の心電図離散データを判別対象とし、そのデータから約2秒間の微小区間データを、それぞれ128msの時間差で抽出した上で、短時間フーリエ変換を施して心電図スペクトログラムに変換したが、微小区間抽出の時間差については128msに代えて32〜256msの範囲で選択でき、微小区間データについては2秒間に代えて0.3〜4秒間の範囲で選択できる。
なお、微小区間のデータ長を長くすると、スペクトログラムの時間分解能は下がるが、フーリエ変換に利用できるデータ数が増えるので、周波数分解能は向上する。逆に微小区間のデータ長を短くすると、スペクトログラムの時間分解能は上がるが、周波数分解能が低下する。
また、判別対象区間を長くすると、判別精度は向上するが、畳み込みニューラルネットワークの計算量が増加するため、計算処理時間が延長するほか、心電図が変化した場合、その変化が検出されるまでの時間が延長する(時間応答性の低下)。例えば、判別対象区間を12秒とした場合、心電図が除細動適応波形から非適応波形に変化した場合、それが判別結果に反映されるまでに(理論上は)約6秒を要する。ただし、本発明は事実上連続的な判別を可能としているため、このような時間遅れが実用上の問題となることはない。逆に判別対象区間を短くすると、時間応答性は向上するが、判別精度は低下する。
そして、判別対象区間のデータ長、微小区間のデータ長、微小区間抽出の際の時間差については、それぞれ4〜20秒、1〜3秒、100〜200msの範囲から選択するのが好ましく、さらに、それぞれ8〜15秒、1.5〜2.5秒、100〜150msの範囲から選択するのがより好ましい。
(3)実施例においては、心電図離散データを、短時間フーリエ変換(STFT)によってスペクトログラムに変換し、心電図スペクトログラムを出力しているが、心電図離散データからスペクトル強度を求める変換手法であればどのような手法を用いても良い。
【符号の説明】
【0024】
1 心電図信号取得手段 2 心電図信号サンプリング手段
3 スペクトログラム変換手段 4 畳み込みニューラルネットワーク
4I 入力層 4L サンプルデータ蓄積手段 4O 出力層
4T サンプルデータ入力手段 5 電気ショック適応報知手段
P 心肺蘇生中の患者
【要約】
【課題】心肺蘇生中の患者に対する電気ショックの必要性を、胸骨圧迫の有無に関わりなく、99%以上の精度で、事実上、連続的に判別できる心電解析システムを提供すること。
【解決手段】心電図信号取得手段1と、心電図信号サンプリング手段2と、スペクトログラム変換手段3と、入力層4I、出力層4O、サンプルデータ蓄積手段4L及びサンプルデータ入力手段4T等を有する畳み込みニューラルネットワーク4と、電気ショック適応報知手段5を備え、畳み込みニューラルネットワークには、多数の被検者について得られたサンプル心電図スペクトログラム及び電気ショックの必要性についてのサンプル回答データからなるサンプルデータが予め与えられ、自己学習させることによって最適化されている心電解析システム。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4
図5