(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
顔料、アルカリ可溶性樹脂、ポリオレフィン樹脂エマルジョン、塩基性化合物、水性媒体、及び、界面活性剤を含有する水性インクジェット用インク組成物であって、前記アルカリ可溶性樹脂のガラス転移温度が70〜95℃であり、前記ポリオレフィン樹脂エマルジョンの平均粒子径が5〜300nmであり、前記ポリオレフィン樹脂エマルジョンの固形分の含有量が、水性インクジェット用インク組成物中0.5〜5.0質量%であり、前記界面活性剤が少なくともアセチレンジオール系界面活性剤を含む水性インクジェット用インク組成物。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷・記録方式は、非常に微細なノズルからインク液滴を印刷・記録用基材に直接吐出し、付着させて文字や画像を得る印刷・記録方式である。
水性インクジェット印刷方式は、かつて、印刷ヘッドが走査型であるために印刷に時間がかかる、水性媒体の乾燥が遅いなどの問題から、多量の印刷物の製造に適さないとされていた。
しかし、一方で、通常の印刷方式の様な製版工程を必要とせず、また、電子写真方式を含めても、非常に簡単な装置の構成で印刷が可能であるなどの利点があるため、個人で利用されることがほとんどであった。
【0003】
そのため、上記の印刷や乾燥工程にかかる時間などの問題を解決できれば、オフィスや商業印刷等の産業用途においても、他の印刷方式と競合してなお利用する価値は十分にあると考えられる。このような理由から、インクジェット印刷方式を産業用途で利用するために、最近は印刷装置とインクの両面から、積極的に印刷の高速化と低価格の印刷用紙を適用する技術が検討されている。
【0004】
また、産業用途では、安価な普通紙や通常のオフセット紙の様な未コート紙だけでなく、コート紙やポリ塩化ビニルシート等の非吸収性メディアの利用も、印刷用基材として検討されている。このようなメディアに対して水性インクは濡れ広がりにくく、また乾燥しにくく、そのため多色印刷時にインクが混ざり合って滲みが発生したり、均一な濃度のベタ画像部分でドットが寄り集まってまだら状の模様が発生する。また、メディアへのインクの浸透が起こりづらいために印刷物の耐性に乏しく、耐擦過性が不足する。これらの不具合は印刷物の価値を損なうため、対策が求められている。加えて、本来のインクジェット記録方式で要求されるインク性能である、保存安定性、ノズル詰りを起こさずに安定して吐出できる吐出安定性、液滴の飛翔性なども備えていなければならない。
【0005】
非吸収性メディアに対して画像形成させる水性インクとして、特定構造を有する水溶性樹脂を用いることにより、ポリ塩化ビニルシート上で優れた塗膜耐性、高い光沢を有する優れた画像品質が得られることが特許文献1、2に挙げられている。しかしながら、これらのインクを使用しても、ポリ塩化ビニルシート上における乾燥性が乏しく、また、インクの吐出が不安定になり印字の乱れが発生しやすいという問題があった。また、水溶性樹脂の成膜性が十分ではなく、強い摩擦に耐え得るインク塗膜の形成が困難であった。
【0006】
特許文献3においては、特定のpHを有するカーボンブラックと、酸価を有する顔料分散剤と、アミンにより中和された酸性基を有する水性樹脂と、特定の水溶性溶剤とを有する水性ブラックインクを用いる事によって、各種非吸収性メディアに対する印刷品質の向上及び耐擦過性の向上が認められている。しかし、この方法においては、メディアを裏面から加温する必要があり、温度の触れによって印刷品質が変化する懸念や、装置構成が複雑になるという問題がある。
【0007】
特許文献4においては、特定のガラス転移温度を有するアルカリ可溶性樹脂を用いる事によって、乾燥性、耐擦過性、吐出安定性、保存安定性の向上が認められている。しかし、この方法においては、高ギャップ時(インク吐出ノズルと印刷メディアの距離が通常より長い印刷形態)の吐出安定性や、印刷物の防汚性が不十分であった。
【0008】
以上のように、水性インクジェット印刷方式で、印刷メディアとしてのコート紙やポリ塩化ビニルシートなど非吸収性メディアの利用が検討される中、乾燥性に優れ、かつ印刷物の耐擦過性に優れ、さらに接着性、吐出安定性、保存安定性、高ギャップ時の吐出安定性、防汚性、接着性が良好な水性インクジェット用インク組成物を得ることは困難というのが現状である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者等は、特にガラス転移温度が40〜100℃のアルカリ可溶性樹脂を含有させ、平均粒子径5〜300nmのポリオレフィン樹脂エマルジョンを特定量含有させ、かつ、アセチレンジオール系界面活性剤を含有させることにより、新規の水性インクジェット用インク組成物を開発した。
このインクジェット用インク組成物を使用することにより、特に上記のガラス転移温度を有するアルカリ可溶性樹脂であれば、高ギャップ時の吐出安定性、防汚性、及び接着性を向上できる。
【0014】
また、このインクジェット用インク組成物を使用することにより、特に上記の平均粒子径を有するポリオレフィン樹脂エマルジョンであれば、まず、インクジェット印刷方式でインクが微細な径のノズルから吐出される際にも、良好な吐出安定性が維持できる。
【0015】
そのため、インクジェット用インク組成物がメディアの表面に着弾後、アセチレンジオール系界面活性剤はインクの表面張力を下げ、メディア表面への濡れを促進し、インク液膜の表面積を増大させる。その結果、インクが乾燥しやすくなる。さらに、疎水性のポリオレフィン樹脂エマルジョンは、その粒子径の大きさも相まってインク液膜の上層に移動し、高い耐擦過性を発揮させることができる。
これにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0016】
以下、本発明の水性インクジェット用インク組成物について、その成分毎に具体的に説明する。
(顔料)
上記顔料としては、一般にインクジェット記録液で使用される各種の無機顔料や有機顔料を挙げることができる。具体的には、上記無機顔料としては、酸化チタン、ベンガラ、アンチモンレッド、カドミウムイエロー、コバルトブルー、群青、紺青、カーボンブラック、黒鉛等の有色顔料(白色、黒色等の無彩色の着色顔料も含める)、及び、炭酸カルシウム、カオリン、クレー、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、タルク等の体質顔料を挙げることができる。上記有機顔料としては、溶性アゾ顔料、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、銅フタロシアニン顔料、縮合多環顔料等を挙げることができる。
これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、上記顔料としては、特に、鮮明な色相の表現を可能とする点から、具体的には、C.I.Pigment Red 5、7、12、57:1、122、146、202、282等の赤色系顔料;C.I.Pigment Blue 1、2、15:3、15:4、16、17、60等の青色系顔料;C.I.Pigment Violet 19、C.I.Pigment Yellow 12、13、14、17、74、83、93、128、139、151、154、155、180、185、213等の黄色系顔料、C.I.Black 7(カーボンブラック)等が好ましい。
【0017】
なお、本発明においては、顔料として、顔料粒子の表面に極性官能基を化学反応で導入した自己分散顔料、顔料をポリマー粒子で被覆した被覆型顔料粒子も使用可能である。尚、上記自己分散顔料、被覆型顔料粒子以外の顔料を使用する場合は、後述するアルカリ可溶性樹脂及び塩基性化合物を使用して顔料分散用樹脂とし、水性媒体中に顔料を分散させるとよい。
本発明の水性インクジェット用インク組成物中の上記顔料の含有量は、1.0〜10質量%であることが好ましく、2.0〜6.0質量%であることがより好ましい。
【0018】
(アルカリ可溶性樹脂)
本発明にて使用される上記アルカリ可溶性樹脂としては、通常のインクや塗料の顔料分散用として使用されている、塩基性化合物の存在下で水性媒体に可溶の共重合体樹脂が利用できる。
このようなアルカリ可溶性樹脂としては、例えば、カルボキシル基を有する単量体、好ましくは、顔料との吸着性を向上させるための疎水性基を含有する単量体との共重合体、あるいはこれらの単量体と必要に応じて他の重合可能な単量体と共に反応させて得られる共重合体を利用できる。
上記カルボキシル基を有する単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、2−カルボキシエチル(メタ)アクリレート、2−カルボキシプロピル(メタ)アクリレート、無水マレイン酸、マレイン酸モノアルキルエステル、シトラコン酸、無水シトラコン酸、シトラコン酸モノアルキルエステル等が挙げられる。
【0019】
また、上記顔料との吸着性を向上させるための疎水性基含有単量体としては、例えば、長鎖アルキル基を有する単量体として、(メタ)アクリル酸等のラジカル重合性不飽和カルボン酸の炭素数が8以上のアルキルエステル類(例えば、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシステアリル(メタ)アクリレート等)、炭素数が8以上のアルキルビニルエーテル類(例えば、ドデシルビニルエーテルなど)、炭素数が8以上の脂肪酸のビニルエステル類(例えば、ビニル2−エチルヘキサノエート、ビニルラウレート、ビニルステアレートなど)、脂環族炭化水素基を有する単量体として、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等、芳香族炭化水素基を有する単量体として、ベンジル(メタ)アクリレート、スチレン、α−スチレン、ビニルトルエン等のスチレン系単量体等が挙げられる。
【0020】
また、上記必要に応じて使用する他の重合可能な単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシルなどの(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド等が挙げられる。
上記の単量体を共重合して得られるアルカリ可溶性樹脂において、水性媒体中への樹脂の溶解性向上及び印刷物の耐水性の低下防止を考慮する場合には、好ましくは酸価100〜300mgKOH/g、さらに好ましくは酸価150〜250mgKOH/gである。また、好ましくは重量平均分子量が10,000〜50,000、さらに好ましくは重量平均分子量が20,000〜40,000である。アルカリ可溶性樹脂の酸価が100mgKOH/g未満の場合は水性媒体中への樹脂の溶解性が低下する傾向があり、一方300mgKOH/gを超えると得られる印刷物の耐水性が低下する傾向がある。
【0021】
また、高ギャップ時の吐出安定性、防汚性、及び接着性の観点から、アルカリ可溶性樹脂のガラス転移温度は40〜100℃であり、45〜95℃であることが好ましい。アルカリ可溶性樹脂のガラス転移温度が40℃未満の場合は高ギャップ時の吐出安定性及び防汚性が低下する傾向があり、一方100℃を超えると接着性が低下する傾向がある。
【0022】
さらに、印刷物の耐擦過性をさらに向上させ、かつ顔料の分散性の向上を図る場合には、アルカリ可溶性樹脂の重量平均分子量を10,000〜50,000とすることが好ましく、20,000〜30,000とすることがさらに好ましい。
アルカリ可溶性樹脂の重量平均分子量が10,000未満の場合には顔料の分散安定性や得られる印刷物の耐擦過性が低下する傾向があり、一方50,000を超えると、粘度が高くなるため好ましくない。
上記アルカリ可溶性樹脂の含有量は、水性インクジェット用インク組成物に含まれる顔料100質量部に対して10〜60質量部であることが好ましく、15〜50質量部であることがさらに好ましい。アルカリ可溶性樹脂の含有量が上記の範囲より少ない場合は、水性媒体への顔料の分散性が低下する傾向がある。一方、上記の範囲を超える場合は、粘度が高くなるため好ましくない。
【0023】
ここで、上記したアルカリ可溶性樹脂のガラス転移温度、酸価、及び、重量平均分子量は、以下の方法により求めることができる。
<ガラス転移温度>
ガラス転移温度は、下記のwoodの式により求めた理論上のガラス転移温度である。
Woodの式:1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+W3/Tg3+・・・・・+Wx/Tgx
(式中、Tg1〜Tgxはアルカリ可溶性樹脂を構成する単量体1、2、3・・・xのそれぞれの単独重合体のガラス転移温度、W1〜Wxは単量体1、2、3・・・xのそれぞれの重合分率、Tgは理論ガラス転移温度を表す。ただし、Woodの式におけるガラス転移温度は絶対温度である。)
【0024】
<酸価>
酸価は、アルカリ可溶性樹脂を合成するために用いる単量体の組成に基づいて、アルカリ可溶性樹脂1gを中和するのに理論上要する水酸化カリウムのmg数を算術的に求めた理論酸価である。
【0025】
<重量平均分子量>
重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法によって測定することができる。一例として、GPC装置としてWater 2690(ウォーターズ社製)、カラムとしてPLgel 5μ MIXED−D(ポリマーラボラトリー社製)を使用してクロマトグラフィーを行ない、ポリスチレン換算の重量平均分子量として求めることができる。
【0026】
(ポリオレフィン樹脂エマルジョン)
本発明にて使用される上記ポリオレフィン樹脂エマルジョンとしては、平均粒子径5〜300nmであり、好ましくは30〜250nmである。
ポリオレフィン樹脂エマルジョンの平均粒子径が5nm未満では、耐擦過性が低下し、一方300nmを超える場合は、水性インクジェット用インク組成物の吐出安定性が低下するため好ましくない。
【0027】
このようなポリオレフィン樹脂エマルジョンの具体例としては、AQUACER515(平均粒子径40nm、ビックケミー・ジャパン社製)、AQUACER531(平均粒子径160nm、ビックケミー・ジャパン社製)、AQUACER539(平均粒子径50nm、ビックケミー・ジャパン社製)、HORDAMER PE03(平均粒子径240nm、ビックケミー・ジャパン社製)を挙げることができる。
上記したポリオレフィン樹脂エマルジョンの平均粒子径は、日機装社製マイクロトラックUPA粒度分布計を用い、動的光散乱法で測定した値を示す。
本発明の水性インクジェット用インク組成物において、ポリオレフィン樹脂エマルジョンの含有量は、インクジェット用インク組成物中、固形分として0.1〜10.0質量%であることが好ましく、0.5〜5.0質量%である事がさらに好ましく、1.0〜3.0質量%である事がより好ましい。
ポリオレフィン樹脂エマルジョンの含有量が固形分として0.1質量%未満の場合は耐擦過性が低下する傾向にあり、一方10質量%を超える場合は水性インクジェット用インク組成物の吐出安定性が低下するので好ましくない。
【0028】
(塩基性化合物)
本発明にて使用される上記塩基性化合物の具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、メチルアミン、エチルアミン、モノエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジブチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等の有機塩基性化合物を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
(水性媒体)
本発明の水性インクジェット用インク組成物で使用する水性媒体としては、水及び水溶性有機溶剤から構成される水性媒体を挙げることができる。
上記水としては、金属イオン等を除去したイオン交換水ないし蒸留水が好ましい。
また水溶性有機溶剤を含有させることにより、保存安定性、吐出安定性、インクの飛翔性等で、より優れたインクジェット印刷適性を付与することができる場合がある。このような水溶性有機溶剤としては、例えば、モノアルコール類、多価アルコール類、多価アルコールの低級アルキルエーテル類、ケトン類、エーテル類、エステル類、窒素含有化合物類等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
上記モノアルコール類の具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、n−ペンタノール、n−ヘキサノール、n−ヘプタノール、n−オクタノール、n−ノニルアルコール、n−デカノール、またはこれらの異性体、シクロペンタノール、シクロヘキサノール等が挙げられ、好ましくはアルキル基の炭素数が1〜6のアルコールである。
【0031】
上記多価アルコールの具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、チオジグリコール等が挙げられる。
【0032】
上記多価アルコールの低級アルキルエーテル類の具体例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールイソブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル等である。
【0033】
上記ケトン類の具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソプロピルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等が挙げられる。
上記エーテル類の具体例としては、イソプロピルエーテル、n−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4−ジオキサン等である。
上記エステル類としては、プロピレンカルボネート、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸アミル、乳酸エチル、酪酸エチル、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、及び、ε−カプロラクトン、ε−カプロラクタム等の環状エステル等がある。
上記窒素含有化合物としては、尿素、ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、オクチルピロリドン等が挙げられる。
上記水溶性有機溶剤の含有量は、特に限定されないが、水性インクジェット用インク組成物中、15〜50質量%が好ましい。
【0034】
(界面活性剤)
本発明にて使用される界面活性剤は、アセチレンジオール骨格を有する化合物である。このような界面活性剤の例としては、エアープロダクツ社製のサーフィノール104シリーズが挙げられる。より具体的には、サーフィノール104E、サーフィノール104H、サーフィノール104A、サーフィノール104BC、サーフィノール104DPM、サーフィノール104PA、サーフィノール104PG−50、サーフィノール420、サーフィノール440、日信化学工業社製のオルフィンE1004、オルフィンE1010、オルフィンE1020、オルフィンPD−001、オルフィンPD−002W、オルフィンPD−004、オルフィンPD−005、オルフィンEXP.4001、オルフィンEXP.4200、オルフィンEXP.4123、オルフィンEXP.4300などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記界面活性剤の含有量は、水性インクジェット用インク組成物中0.1〜10質量%であることが好ましく、0.1〜5.0質量%であることがさらに好ましい。
【0035】
(添加剤)
さらに、本発明の水性インクジェット用インク組成物には、目的に応じて公知の顔料分散剤、防黴剤、防錆剤、増粘剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、保存性向上剤、消泡剤、pH調整剤等の添加剤も添加することもできる。
【0036】
(水性インクジェット用インク組成物の製造方法)
以上の構成成分を用いて本発明の水性インクジェット用インク組成物を製造する方法としては、
(1)顔料、塩基性化合物の存在下にアルカリ可溶性樹脂を水中に溶解した水性樹脂ワニス、必要に応じて顔料分散剤等を混合した後、各種分散機、例えばボールミル、アトライター、ロールミル、サンドミル、アジテーターミル等を利用して顔料を分散し、さらに残りの材料を添加して、水性インクジェット用インク組成物を調製する方法(以下、製造方法1と記載する)、
(2)上記の方法で顔料を分散した後、酸析法や再公表特許WO2005/116147号公報に記載のイオン交換手段等により、顔料表面にアルカリ可溶性樹脂を析出させた樹脂被覆顔料を得、次いで得られた樹脂被覆顔料を塩基性化合物で中和し、各種分散機(高速攪拌装置等)を用いて水に再分散し、さらに残りの材料を添加して、水性インクジェット用インク組成物を調製する方法(以下、製造方法2と記載する)等を挙げることができる。
なかでも、水性インクジェット用インク組成物の保存安定性が更に良好になることから製造方法2が好ましい。
このようにして得られた本発明の水性インクジェット用インク組成物は製造後の初期粘度が2.0〜10.0mPa・s、好ましくは3.0〜7.0mPa・sの範囲とする。
【0037】
(印刷方法)
次に、本発明の水性インクジェット用インク組成物を用いた印刷方法について説明する。
本発明の水性インクジェット用インク組成物の印刷用メディアとしては、アート紙、インクジェット専用紙、インクジェット光沢紙等のコート紙、ポリ塩化ビニルシートのようなプラスチック系基材等の他、普通紙やオフセット紙等の未コート紙も利用できる。
そして、例えば、本発明の上記水性インクジェット用インク組成物を、インクカートリッジに収容し、該インクカートリッジをシングルパス方式等のインクジェット記録装置に装着して、ノズルから上記印刷用基材へ噴射することによりインクジェット印刷をすることができる。
【実施例】
【0038】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものである。
【0039】
<水性樹脂ワニス1〜5>
ガラス転移温度70℃、重量平均分子量30,000、酸価185mgKOH/gの、アクリル酸/ラウリルアクリレート/スチレン共重合体20質量部を水酸化カリウム2.5質量部と水77.5質量部との混合溶液に溶解させて、固形分20%の水性樹脂ワニス1を得た。
ガラス転移温度45℃、重量平均分子量30,000、酸価185mgKOH/gの、アクリル酸/ラウリルアクリレート/スチレン共重合体20質量部を水酸化カリウム2.5質量部と水77.5質量部との混合溶液に溶解させて、固形分20%の水性樹脂ワニス2を得た。
ガラス転移温度95℃、重量平均分子量30,000、酸価185mgKOH/gの、アクリル酸/ラウリルアクリレート/スチレン共重合体20質量部を水酸化カリウム2.5質量部と水77.5質量部との混合溶液に溶解させて、固形分20%の水性樹脂ワニス3を得た。
ガラス転移温度30℃、重量平均分子量30,000、酸価185mgKOH/gの、アクリル酸/ラウリルアクリレート/スチレン共重合体20質量部を水酸化カリウム2.5質量部と水77.5質量部との混合溶液に溶解させて、固形分20%の水性樹脂ワニス4を得た。
ガラス転移温度110℃、重量平均分子量30,000、酸価185mgKOH/gの、メタクリル酸/ラウリルアクリレート/スチレン共重合体20質量部を水酸化カリウム2.5質量部と水77.5質量部との混合溶液に溶解させて、固形分20%の水性樹脂ワニス5を得た。
【0040】
<水性ブラックインクベース1〜5の調製>
上記水性樹脂ワニス1〜5の23.7質量部に水64.3質量部を加え混合し、顔料分散用樹脂ワニスを調製した。このワニスに、更にカーボンブラック(商品名プリンテックス90、デグサ社製)の12質量部を加え、攪拌混合後、湿式サーキュレーションミルで練肉を行い、水性ブラックインクベース1〜5を調製した。
【0041】
<水性イエローインクベースの調製>
上記水性樹脂ワニス2の23.7質量部に水64.3質量部を加え混合し、顔料分散用樹脂ワニスを調製した。このワニスに、更にイエロー顔料(商品名ノバパームイエロー4G01、クラリアント社製)の12質量部を加え、攪拌混合後、湿式サーキュレーションミルで練肉を行い、水性イエローインクベースを調製した。
【0042】
<水性マゼンタインクベースの調製>
上記水性樹脂ワニス2の23.7質量部に水64.3質量部を加え混合し、顔料分散用樹脂ワニスを調製した。このワニスに、更にマゼンタ顔料(商品名インクジェットマゼンタE5B02、クラリアント社製)の12質量部を加え、攪拌混合後、湿式サーキュレーションミルで練肉を行い、水性マゼンタインクベースを調製した。
【0043】
<水性シアンインクベースの調製>
上記水性樹脂ワニス2の23.7質量部に水64.3質量部を加え混合し、顔料分散用樹脂ワニスを調製した。このワニスに、更にシアン顔料(商品名ヘリオゲンブルーL7101F、BASF社製)の12質量部を加え、攪拌混合後、湿式サーキュレーションミルで練肉を行い、水性シアンインクベースを調製した。
【0044】
<水性ホワイトインクベースの調製>
上記水性樹脂ワニス2の20.0質量部に水40.0質量部を加え混合し、顔料分散用樹脂ワニスを調製した。このワニスに、更に酸化チタン顔料(商品名CR-50、石原産業社製)の40質量部を加え、攪拌混合後、湿式サーキュレーションミルで練肉を行い、水性ホワイトインクベースを調製した。
【0045】
<ポリオレフィン樹脂エマルジョン>
AQUACER531(固形分45%、ポリエチレン樹脂エマルジョン、平均粒子径160nm、ビックケミー・ジャパン社製)
AQUACER515(固形分35%、ポリエチレン樹脂エマルジョン、平均粒子径40nm、ビックケミー・ジャパン社製)
HORDAMER PE03(固形分35%、ポリエチレン樹脂エマルジョン、平均粒子径240nm、ビックケミー・ジャパン社製)
ケミパールS300(固形分35%、ポリエチレン系アイオノマー樹脂エマルジョン、平均粒子径500nm、三井化学社製)
ケミパールWP100(固形分40%、ポリプロピレン樹脂エマルジョン、平均粒子径1000nm、三井化学社製)
【0046】
<界面活性剤>
サーフィノール104PG50(固形分50%、アセチレンジオール型界面活性剤、日信化学工業社製)
オルフィンE1004(固形分100%、アセチレンジオール型界面活性剤のエチレンオキサイド付加物、日信化学工業社製)
BYK−347(固形分100%、ポリエーテル変性シロキサン型界面活性剤、ビックケミー・ジャパン社製)
【0047】
<実施例1〜15、比較例1〜6の水性インクジェット用インク組成物>
表1の質量割合となるように、上記水性各色インクベース、上記ポリオレフィン樹脂エマルジョン、上記界面活性剤、プロピレングリコール、及び、水を攪拌混合して、実施例1〜15、比較例1〜6の水性インクジェット用インク組成物を得た。
【0048】
<水性インクジェット用インク組成物の印刷評価>
以下の評価方法により評価し、それらの結果を表1に示す。
(吐出安定性)
実施例1〜15、比較例1〜6の水性インクジェット用インク組成物を、エプソン社製ヘッドを搭載した評価用プリンターのカートリッジに詰めて、インク吐出ノズルと印刷メディアの距離を1mm及び3mmに調整し、OKトップコート紙(王子製紙社製)に印字を行い、吐出安定性を評価した。
評価基準
○:印字の乱れがなく、安定して吐出できるもの
△:多少印字の乱れがあるものの、吐出できるもの
×:印字の乱れがあり、安定して吐出できないもの
【0049】
(乾燥性)
実施例1〜15、比較例1〜6の水性インクジェット用インク組成物を、エプソン社製ヘッドを搭載した評価用プリンターのカートリッジに詰めて、インク吐出ノズルと印刷メディアの距離を1mmに調整し、OKトップコート紙(王子製紙社製)に印字を行い、印刷物を80℃で1分放置しインクを乾燥させ、印字部を綿棒でこすって乾燥性を評価した。
評価基準
○:綿棒にインクが全く付着しないもの
△:綿棒にインクが少量付着するもの
×:綿棒にインクが多量に付着するもの
【0050】
(耐擦過性)
実施例1〜15、比較例1〜6の水性インクジェット用インク組成物を、エプソン社製ヘッドを搭載した評価用プリンターのカートリッジに詰めて、インク吐出ノズルと印刷メディアの距離を1mmに調整し、OKトップコート紙(王子製紙社製)に印字を行い、各印刷物を2.5cm×25cmに切断し、学振型耐擦過性試験機を使用して、当て紙を印刷に用いたものと同じ紙とし、200gの荷重で50回ずつ擦過したときの、擦った部分のサンプルピース表面の紙剥け及び当て紙の汚れにより評価した。
評価基準
○:擦った部分のサンプルピース表面に紙剥けなく、当て紙にも汚れがないもの
△:擦った部分のサンプルピース表面に紙剥けはないが、当て紙が若干汚れるもの
×:擦った部分のサンプルピース表面に紙剥けが見られ、当て紙が汚れるもの
【0051】
(水性インクジェット用インク組成物の保存安定性)
実施例1〜15、比較例1〜6の水性インクジェット用インク組成物について、それぞれガラス瓶にとり、25℃の粘度を粘度計(東機産業社製 RE100L型)を用い測定した。その後、密栓し60℃、1ヵ月保存し、保存後の粘度(25℃)を粘度計により測定した。経時安定性は、粘度変化率(60℃、1ヵ月後の粘度−保存前の粘度/保存前の粘度)で評価した。
評価基準
○:粘度変化率が5%未満のもの
△:粘度変化率が5%以上、10%未満のもの
×:粘度変化率が10%以上、30%未満のもの
【0052】
(防汚性)
実施例1〜15、比較例1〜6の水性インクジェット用インク組成物を、エプソン社製ヘッドを搭載した評価用プリンターのカートリッジに詰めて、インク吐出ノズルと印刷メディアの距離を1mmに調整し、OKトップコート紙(王子製紙社製)に印字を行い、乾燥させた印刷物の印字面を上にして1ヵ月間放置した。その後、塵やほこりを不織布ワイパーにて一度ふき取った印字面を観察し、防汚性を評価した。
評価基準
○:塵やほこりが全く付着していない
△:塵やほこりが少量残っている
×:塵やほこりが大量残っている
【0053】
(接着性)
実施例1〜15、比較例1〜6の水性インクジェット用インク組成物を、エプソン社製ヘッドを搭載した評価用プリンターのカートリッジに詰めて、インク吐出ノズルと印刷メディアの距離を1mmに調整し、OKトップコート紙(王子製紙社製)に印字を行い、印刷面にセロファンテープを貼り付けて、剥がしたときにインキ被膜が被着体から剥がれる面積の比率から、接着性を評価した。
○:全く剥がれない
△:剥がれる面積が20%未満である
×:剥がれる面積が20%以上である
【0054】
【表1】
【0055】
実施例1〜15によると、本発明のインク組成物は初期粘度が低く、表面張力が適切であり、かつ保存安定性、吐出安定性、乾燥性、耐擦過性、高ギャップ時の吐出安定性、防汚性、及び接着性にも優れることが分かる。
これらの性質に関して、実施例1及び4〜7の結果によると顔料の種類に影響されず、実施例1及び8、9の結果によると、アセチレンジオール系界面活性剤の種類及び含有量、その他添加剤を変更しても、安定した性質を有することが分かる。
また、実施例1及び10、11の結果によると、水性媒体の組成が変化しても、安定した性質を有することが分かる。
さらに、実施例1、12〜15の結果によると、本発明の水性インクジェット用インク組成物は、ポリオレフィン樹脂エマルジョンの平均粒子径や含有量が所定の範囲内にて変化する場合には、各性質が良好であり、この成分の濃度に影響されず安定した性質を有することが分かる。
これに対して、比較例1の結果によると、ポリオレフィン樹脂エマルジョンの含有量を過剰にした場合には、保存安定性及び吐出安定性が悪化することが分かる。
また、比較例2、3にて示すように、粒子径が所定の範囲より大きいポリオレフィン樹脂エマルジョンを使用すると、吐出安定性が悪化することが分かる。
上記比較例1〜3は吐出安定性が悪化したために印刷物が得られず、乾燥性、耐擦過性、防汚性、及び接着性の評価が行えなかった。
比較例4の結果によれば、アセチレンジオール系の界面活性剤を含まない場合、高ギャップ時の吐出安定性が悪化することが分かる。
比較例5の結果によれば、ガラス転移温度が40℃を下回るアルカリ可溶性樹脂を使用すると、高ギャップ時の吐出安定性及び防汚性が悪化することが分かる。
比較例6の結果によれば、ガラス転移温度が100℃を上回るアルカリ可溶性樹脂を使用すると、接着性が悪化することが分かる。
【課題】非吸収性メディアに印刷しても、高ギャップ時の吐出安定性、防汚性、接着性、乾燥性、耐擦過性、吐出安定性、及び、保存安定性に優れる水性インクジェット用インク組成物を提供すること。
【解決手段】顔料、アルカリ可溶性樹脂、ポリオレフィン樹脂エマルジョン、塩基性化合物、水性媒体、及び、界面活性剤を含有する水性インクジェット用インク組成物であって、前記アルカリ可溶性樹脂のガラス転移温度が40〜100℃であり、前記ポリオレフィン樹脂エマルジョンの平均粒子径が5〜300nmであり、前記ポリオレフィン樹脂エマルジョンの固形分の含有量が、水性インクジェット用インク組成物中0.5〜5.0質量%であり、前記界面活性剤が少なくともアセチレンジオール系界面活性剤を含む水性インクジェット用インク組成物。