【実施例】
【0050】
以下の実施例は、本発明の範囲を非限定的に説明するものである。
【0051】
実施例1:窒素下での粘度の測定
PEKKをベースとするいくつかの組成物を調製した。安定化剤を含まない、PEKKの対照組成物C
Tを、重縮合反応による従来の合成方法によって調製した。
【0052】
PEKKをベースとする第2の組成物(参照番号C1)を、湿式含浸によって調製し、下記の式(1)のPEP−Q(テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)[1,1’−ビフェニル]−4,4’−ジイルビスホスホナイト)を1000ppmの量で組み込んだ。このホスホナイトは、PEKK組成物の安定化についての比較例として使用される。
【0053】
PEKKをベースとする第3の組成物(参照番号C2)を、水性含浸によって調製し、下記の式(2)の無水リン酸一ナトリウム(NaH
2PO
4)(リン酸二水素ナトリウムとも呼ばれる)を1000ppmの量で組み込んだ。
【0054】
PEKKをベースとする第4の組成物(参照番号C3)を、第2及び第3の組成物と同じ方法で、水性含浸によって調製し、下記の式(3)のトリメタン酸ナトリウム(Na
3P
3O
9)(無水リン酸三ナトリウムとも呼ばれる)を1000ppmの量で組み込んだ。
【0055】
PEKKをベースとする第5の組成物(参照番号C4)を、上記組成物と同じ方法で、アセトン含浸によって調製し、下記の式(4)の有機リン酸塩、より具体的にはリン酸トリフェニル
を1000ppmの量で組み込んだ。
【0056】
その後、これらの組成物C
T〜C4の溶融粘度を、380℃、窒素下、振動数(応力とも呼ばれる)1Hz、ひずみ振幅0.5%で、振動レオメーターを用いて時間の関数として測定した。
【0057】
図1の曲線は、このようにして測定されたPEKKの対照組成物C
Tの粘度を表す。初期粘度及び30分後の粘度から、経時的なポリマーの安定性を算出し、380℃での粘度の変化率(EV%)として表す。ポリマーの安定性は、以下の式によって算出される。
EV%=(30分時点の粘度−初期粘度)/初期粘度×100
【0058】
図1の曲線から、窒素下、1Hzの応力での、PEKKベースのポリマーに基づく対照組成物C
Tの粘度EVの変化率として表される安定性が160%に等しいことがわかる。
【0059】
以下の表Iは、安定化剤の有無にかかわらず、湿式含浸によって得られた異なる組成物C
T〜C4の窒素下での安定性(EV%)に関するデータをまとめたものである。
【0060】
表Iに示す結果から、PEKKをベースとする組成物中にリン酸塩が存在すると、対照組成物C
Tとは異なり、経時的により安定な粘度を有する溶融状態の組成物を得ることが可能であり、その粘度は時間と共に急速に増加し、鎖延長を示し、ゆえにポリマーの特徴の有意な変化を示していることがわかる。
【0061】
有機リン酸塩(組成物C4中)はリン酸塩に比べて効果が低いが、PEKKの対照組成物C
Tよりも安定な粘度を有する溶融状態の組成物を得ることも可能にする。
【0062】
実施例2:窒素下及び空気下での粘度の測定
PEKKをベースとするいくつかの化合物をコンパウンディング技術により調製した。押出機を用い、PEKKをベースとしたくいくつかの組成物から異なる化合物を製造する。380℃、窒素下及び空気下での、異なる組成物の挙動を比較した。
【0063】
粒状で、かつ、いかなる安定化剤も含まない、PEKKの第1の対照組成物C
Tを調製した。
【0064】
PEKKをベースとする第2の組成物(参照番号C5)を、コンパウンディング技術によって調製し、上記の式(1)のリン酸一ナトリウム(NaH
2PO
4)を1000ppmの量で組み込んだ。
【0065】
PEKKをベースとする第3の組成物(参照番号C6)を、コンパウンディング技術によって調製し、上記の式(3)の無水リン酸三ナトリウム(Na
3P
3O
9)を1000ppmの量で組み込んだ。
【0066】
PEKKをベースとする第4の組成物(参照番号C7)を、コンパウンディング技術によって調製し、下記の式(5)のADK STAB NA−11UH PEP−Q(リン酸2,2’−メチレン−ビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ナトリウム)を1000ppmの量で組み込んだ。
【0067】
その後、これらの組成物C
T’、C5、C6及びC7の溶融粘度を、380℃、窒素下、その後空気下でそれぞれ1Hzと0.1Hzの振動数(応力とも呼ばれる)、ひずみ振幅0.5%で、振動レオメーターを用いて時間の関数として測定した。
【0068】
以下の表IIは、安定化剤の有無にかかわらず、コンパウンディングによって得られた異なる組成物の窒素下及び空気下での安定性(EV%)に関するデータをまとめたものである。
【0069】
表IIの結果から、リン酸塩はPEKKの優れた安定化剤であり、窒素下でも空気下でも同等であることがわかる。安定化の最も驚くべき現象は、空気中でさえ、溶融状態で測定された粘度が比較的安定したままであるという事実にある。したがって、リン酸塩は、空気の存在下であっても、熱酸化の現象に対して非常に有効な安定化剤である。
【0070】
実施例3:組み込まれたリン酸塩の比率の影響
PEKKをベースとするいくつかの組成物を調製した。安定化剤を含まない、PEKKの対照組成物C
Tを、重縮合反応による従来の合成方法によって調製した。他の組成物はPEKKをベースとし、それぞれが異なる含有量で無水リン酸三ナトリウムを含む。
【0071】
比較組成物は、水性含浸によって調製される。
【0072】
以下の表III中の参照番号C8の組成物は500ppmの無水リン酸三ナトリウムを含むのに対し、参照番号C9の組成物は、それを1000ppm含み、参照番号C10の組成物は、それを3000ppm含む。
【0073】
その後、これらの組成物C
T、C8、C9及びC10の溶融粘度を、380℃、窒素下、応力1Hz、ひずみ振幅0.5%で、振動レオメーターを用いて時間の関数として測定した。
【0074】
以下の表IIIは、これらの異なる組成物の窒素下の安定性(EV%)に関するデータをまとめたものである。
【0075】
この表3から、溶融状態での組成物の粘度の経時的な安定性は、リン酸塩の含有量と共に増加することがわかる。
【0076】
実施例4:カチオンの影響
PEKKをベースとするいくつかの組成物を調製した。安定化剤を含まない、PEKKの対照組成物C
Tを、重縮合反応による従来の合成方法によって調製した。他の組成物はPEKKをベースとし、それぞれが異なる対アニオンを有するリン酸二水素塩を含む。
【0077】
以下の表IV中の参照番号C11の組成物は、1000ppmの(上記式(1)の)無水リン酸二水素ナトリウムを含み、一方、参照番号C12の組成物は、1000ppmのリン酸二水素アンモニウムを含む。
【0078】
その後、これらの組成物C
T、C11、及びC12の溶融粘度を、380℃、窒素下、応力1Hz、ひずみ振幅0.5%で、振動レオメーターを用いて時間の関数として測定した。
【0079】
以下の表IVは、これらの異なる組成物の窒素下の安定性(EV%)に関するデータをまとめたものである。
【0080】
この表IVから、PEKKをベースとする組成物中にリン酸二水素アンモニウム又は無水リン酸二水素ナトリウムが存在すると、対照組成物C
Tとは異なり、経時的により安定な粘度を有する溶融状態の組成物を得ることが可能であり、その粘度は時間と共に急速に増加し、鎖延長を示し、ゆえにポリマーの特徴の有意な変化を示していることがわかる。
【0081】
実施例4:熱安定性
さらに、PAEKをベースとする組成物に組み込まれるリン酸塩は、熱的に非常に安定である。実際、リン酸塩については、測定された重量損失は、水の損失に相当する。例えばリン酸一ナトリウムを用いると、その後に起こる現象は、以下の式(A)の通り、脱水及び二量体化である。
【0082】
一方、PEP−Qも、200℃程度の温度で分解して有機化合物を放出し始める。
【0083】
図2のグラフに示される温度T(℃)の関数としての熱重量(TG)曲線により、水の損失によるリン酸塩の重量損失が説明され得る一方、ホスホナイトPEP−Qは、200℃から急速に分解し、揮発性有機化合物を放出する。
【0084】
したがって、リン酸塩は、熱酸化現象に対する高い安定性も兼ね備えた高い熱安定性を有する。
【0085】
実施例5:リン酸塩の追加の核形成効果
【0086】
結晶化の試験を、以下の表Vに列挙した、異なる組成の異なる試料(参照番号E1〜E4)で実施した。
【0087】
DSCと記される示差走査熱量測定により結晶化の試験を実施する。DSCは、分析する試料と参照試料との間の熱交換の差異を測定することを可能にする熱分析技術である。
【0088】
この結晶化試験を実施するために、TA Instrumentsの装置Q2000を使用した。この試験は、非等温及び等温結晶化で実施した。
【0089】
試験試料は、粒状である。参照番号E1のPEKKをベースとする対照試料を、PEKKとリン酸塩を同じ比率でベースとしている試料E2及びE3と比較する。異なる試料が、より詳細に以下の表Vに記載されている。
【0090】
[非等温結晶化]
異なる試料E1〜E3による、非等温条件でのDSCに関するプロトコールは第一に、温度を20℃で安定させることにある。その後、温度を、毎分20℃の勾配で380℃まで徐々に上げ、その後毎分20℃の逆勾配によって徐々に下げて再び20℃にする。
【0091】
結晶化は、冷却工程中に試験する。熱流量を温度関数として測定し、各試験試料について、温度の関数としての熱流量の変化を表す曲線を得る。その後、Tcと記され、摂氏で表わされる結晶化温度は、対応する曲線の最大値を横軸に投影することにより、各試料について決定される。この決定は、使用するDSC装置で直接実施される。E1〜E3の各試料について測定された結晶化温度Tcを、以下の表Vに示す。
【0092】
[等温結晶化]
半結晶化時間を測定するために、試料E1〜E3について等温条件下でもDSC分析を実施した。この目的のために、等温DSCのプロトコールは、次の3つの工程を含む。すなわち第1の工程は、まず温度を20℃で安定させることにあり、続いて第2の工程は、その温度を毎分20℃の勾配で380℃まで徐々に上げることにある。最後に、その温度を毎分20℃の勾配により380℃から315℃まで下げ、その後温度を315℃で1時間安定させる。
【0093】
表Vの得られた結果から、半結晶化時間は対照PEKK顆粒の試料E1の場合、約3.1分であることがわかる。ポリマーの半結晶化時間は、当該ポリマーの50%の結晶化に必要な時間である。
【0094】
結晶化温度が上昇する間、組成がリン酸塩を含む試料E2及びE3の半結晶化時間が短縮される。この現象は、リン酸塩の核形成効果に起因する。したがって、このような組成により得られる大きな棒について、核形成効果は、大きな結晶領域の出現を回避し、良好な機械的特性を得ることを可能にする。
【0095】
射出成形又は押出での使用を目的とした顆粒に関しては、加速された結晶化により、結晶形態、特に球晶の大きさを制御することが可能になり、それによって特定の機械的特性及び球晶の大きさの一貫性が保証される。
【0096】
水性含浸経路での使用を目的とした顆粒に関しては、水和リン酸塩(hydrated phosphate salt)を組成物中に使用することができる。しかし、組成物のその後の処理中に水が放出され、組成物の物理的特性に悪影響を及ぼす可能性があるため、無水リン酸塩が好ましい。
【0097】
したがってリン酸塩は、PAEKの、より具体的には、限定的ではないがPEKKの良好な安定化剤である。これらのリン酸塩はまた、いくつかの非常に有利な効果も併せ持つ。実際、リン酸塩は、空気の有無にかかわらず温度安定性を提供し、かつ、ホスファイト又はPEP−Qのようなホスホナイトなどの他のリン系安定化剤とは異なり、加水分解に対しても安定であり、揮発性有機化合物は生成せず、単に水蒸気を生じるのみである。リン酸塩はまた、変形に対する安定化剤の全ての優れた効果を併せ持つ。すなわち、変形中の色の変化を制限することを可能にし、溶融状態の構造の安定性を向上させ、ポリマー鎖の変化を有意に減少させ、それによって材料の結晶性及び機械的特性を保持することが可能になる。最後に、リン酸塩は、核形成剤及び残留酸の調節剤(緩衝剤効果)として作用し、その結果、装置を腐食から保護するのにも役立つ可能性がある。
【0098】
リン酸塩はまた、水溶液への含浸又はドライブレンドのいずれかによって、あるいはコンパウンディングによって、PAEKポリマーに容易に組み込むことができる。
【0099】
リン酸塩は、例えば他の安定化剤及び/又は核形成剤などの他の添加剤と、連続又は分散フィラー及びの存在下で、及び可塑剤の存在下で相乗的に使用することができる。